(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車載駆動用電池の内部抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20241112BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20241112BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20241112BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20241112BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20241112BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241112BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20241112BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241112BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241112BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241112BHJP
B60L 50/75 20190101ALI20241112BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20241112BHJP
B60L 58/40 20190101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/04492
H01M8/04858
H01M8/04 Z
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
B60L3/00 S ZHV
B60L50/16
B60L50/60
B60L50/75
B60L58/12
B60L58/40
(21)【出願番号】P 2021083200
(22)【出願日】2021-05-17
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】山浦 潔
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-123110(JP,A)
【文献】特開2015-102443(JP,A)
【文献】特開2002-142379(JP,A)
【文献】特開平4-123771(JP,A)
【文献】特開2021-72682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
H01M 10/44,10/48
B60L 3/00- 3/12
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、前記燃料電池によって充電されうる二次電池とを有する電気自動車に用いる、
前記燃料電池の湿度に応じて前記燃料電池の発電プロファイルを電圧制御と電流制御とのいずれかに切り替えて、その発電プロファイルに従って燃料電池を発電させて前記二次電池へのパルス充電を行い、前記二次電池の内部抵抗を測定する内部抵抗測定装置。
【請求項2】
前記燃料電池が所定の湿度以上である高湿度の条件では前記電流制御した発電にて前記パルス充電を行い、前記燃料電池が所定の湿度未満である低湿度の条件では前記電圧制御した発電にて前記パルス充電を行う請求項1に記載の内部抵抗測定装置。
【請求項3】
前記二次電池の満容量に対する残容量の値であるSOCが所定の値以上であるとき、前記の電流制御した発電でのパルス充電又は前記の電圧制御した発電でのパルス充電を、短周期のパルス充電で行い、
前記SOCが所定の値未満であるとき、前記の電流制御した発電でのパルス充電又は前記の電圧制御した発電でのパルス充電を、長周期のパルス充電で行う、
請求項2に記載の内部抵抗測定装置。
【請求項4】
前記SOCが予め定めた所定の値以上であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、長周期のパルス充電で行い、前記SOCが予め定めた所定の値以下であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、短周期のパルス充電で行う、請求項3に記載の内部抵抗測定装置。
【請求項5】
前記電気自動車がプラグインハイブリッドカーであり、前記二次電池から外部への給電機能を有し、
給電中又は給電の合間に前記内部抵抗の測定を行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の内部抵抗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池を搭載する自動車の、駆動用二次電池のメンテナンスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の電力供給源として燃料電池を搭載したものが普及しつつある。燃料電池により発生する電力をそのまま駆動源に用いようとすると、燃料電池の発電状況を細かく変更しなければならず、発電効率が悪く、燃料電池も傷みやすくなる。このため、燃料電池で発電した電力を一旦二次電池に蓄え、この二次電池をモーター駆動用の電源として用いる構成が採用されることが多い。これにより、燃料電池の劣化を抑えつつ、運転の際に必要な電流を柔軟に取り出すことができる。
【0003】
ただし、このような電気自動車の二次電池には充電と放電とが複雑に繰り返されるため、経年劣化は避けられない。二次電池が劣化してくるのに対して、充電や放電の仕方を新品と同様に行っていると、その状況に適した充放電の電圧よりも高い負荷が掛かるようになってしまい、充電損失が大きくなるだけでなく、劣化を速めることにもなりかねない。
【0004】
そこで、電気自動車の二次電池の劣化を電気的に測定して電池寿命等を把握し、その劣化の状況に適した充放電を行うようにすることで、充電損失を抑え、電池寿命を長引かせることが検討されている。二次電池の劣化を知るためには、その二次電池の内部抵抗を測定してその変化を調べることが一般に行われている。例えば長距離の移動を行っている間に、その運行における二次電池の内部抵抗を適宜測定して、劣化している場合は速やかに察知して、最適な充放電の運用を行うことで、二次電池の劣化を抑制するといったリアルタイムでの活用も可能である。
【0005】
二次電池の内部抵抗Rは、二次電池の充放電における電圧降下の挙動から求めることができる(非特許文献1)。
【0006】
特許文献1には、二次電池の自己放電に対して一定電流で補充電を行い、補充電の開始時と終了時に内部抵抗を測定し、内部抵抗の経時変化に基づいて二次電池の寿命を判定する蓄電システムの寿命判定方法が記載されている。
【0007】
ただし、電気のみで駆動する電気自動車では、自動車自体には発電装置が車載されていないため、外部の充電装置に接続した際に内部抵抗を測定するしかなく、運転中や運転の合間に内部抵抗を測定するということはできない。
【0008】
プラグインハイブリッド車ではエンジンが発電機となるため走行中や走行の合間に内部抵抗を測定できる。ただし、内部抵抗を測定する際に適した充電電流はおおむね0.2C以下に抑えた電流となるため、これに合わせて発電しようとするとエンジンの回転数を低下させることになり、発電効率は低下する。一方で、大電流で充電しようとすると、発電効率の点では優れているが、電圧降下が大きくなりすぎてしまい内部抵抗の測定には向かなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】村山正樹,濱口 聡,富村哲也,丸林良嗣著,「リチウム二次電池の充放電における電圧降下に関する考察」三重県工業研究所,三重県工業研究所研究報告 (34), 23-29, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
燃料電池によって二次電池を充電する電気自動車においては、内部抵抗を測定するために充電する際の扱いを誤ると、二次電池だけでなく燃料電池も劣化させてしまうおそれがある。そこでこの発明では、燃料電池と二次電池とを有する電気自動車において、燃料電池の劣化を避けつつ二次電池の内部抵抗を測定できるようにして、燃料電池と二次電池との両方の劣化を抑えながら、二次電池の状態を測定して劣化の度合いを確認し、電気自動車を好適に運用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記の課題を解決するために、燃料電池と、前記燃料電池によって充電されうる二次電池とを有する電気自動車において、
前記燃料電池の湿度に応じて前記燃料電池の発電プロファイルを電圧制御と電流制御とのいずれかに切り替えて、その発電プロファイルに従って燃料電池を発電させて前記二次電池へのパルス充電を行い、前記二次電池の内部抵抗を測定する内部抵抗測定装置を採用した。
【0013】
燃料電池の発電は燃料電池内部の湿度に応じて大きく変化するので、燃料電池の湿度に応じて、電圧制御で燃料電池を発電させるか、電流制御で燃料電池を発電させるかを切り替えることで、燃料電池への負荷を抑えることができる。
【0014】
具体的な選択としては、前記燃料電池が所定の湿度以上である高湿度の条件では電流制御した発電にてパルス充電を行い、前記燃料電池が所定の湿度未満である低湿度の条件では電圧制御した発電にてパルス充電を行う構成を採用できる。燃料電池の湿度が低下していると、燃料電池が不安定になり、電圧が下がりやすい。燃料電池は設定された下限電圧未満になると傷みやすいため、電圧の過度の低下は避けることが望ましい。このため、低湿度の場合は電圧を維持して電流量を調整するように発電することで、下限電圧を制御した出力にする。一方で、高湿度の状態であれば電圧が低下する恐れは少なく燃料電池を傷める可能性が少ないため電流制御で定電流を取り出し、効率のよい定電流での二次電池の充電を行うようにする。
【0015】
また、前記二次電池の満容量に対する残容量の値であるSOCが所定の値以上であるとき、前記の電流制御した発電でのパルス充電又は電圧制御した発電でのパルス充電を、短周期のパルス充電で行い、
前記SOCが所定の値未満であるとき、前記の電流制御した発電でのパルス充電又は前記の電圧制御した発電でのパルス充電を、長周期のパルス充電で行う構成を採用できる。前記二次電池の残容量が不足していないときは、二次電池の容量を回復させることを優先せず、短周期のパルスで測定することで内部抵抗を速やかに得られるようにする。一方で前記二次電池の残容量が不足しているときは、急いで内部抵抗を求めるよりも、多少時間をかけてでも前記二次電池の容量を回復できるように、長周期のパルスで十分な電力量の充電を行いながら前記二次電池の内部抵抗を測定するのが多くの場合に都合がよい。
【0016】
ただし、前記SOCが所定の値以上であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、長周期のパルス充電で行う構成を採用することもできる。ユーザによる判断で、内部抵抗の測定を急がない場合には、短周期のパルス充電に限る必要はなく、任意で変更できるようにすることが好ましい。一方で、前記SOCが予め定めた所定の値以下であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、短周期のパルス充電で行う構成を採用することもできる。こちらも場合によって任意に設定できると好ましい。
【0017】
前記電気自動車がプラグインハイブリッドカーで、二次電池から外部への電力供給機能を有する場合、この発明にかかる内部抵抗測定装置における内部抵抗の測定は、走行時だけでなく、外部への給電を行っている際に行ってもよい。前記二次電池に充電された電力を使用するという点では走行も外部への給電も同様であり、同様に内部抵抗を適宜測定して前記二次電池の状態変化を確認しながら運用することで、前記二次電池の寿命や給電効率が高い運用を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明にかかる内部抵抗測定装置を用いることで、燃料電池への負荷を抑えながら、二次電池の内部抵抗を適宜必要に応じて測定できる。これにより、電気自動車を使用するユーザが任意に、または電気自動車が標準の機能として定期的に、二次電池の内部抵抗を測定して、その劣化の度合いに応じた好適な運用で電気自動車を運用でき、電気自動車の電池寿命を長引かせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一の実施形態例を示す内部抵抗測定装置を備えた電気自動車の模式図
【
図2】充電時におけるIRドロップで示される内部抵抗の算出例図
【
図3】電流制御で内部抵抗を測定する際の電圧及び電流の変遷例図
【
図4】電圧制御で内部抵抗を測定する際の電圧及び電流の変遷例図
【
図5】この発明にかかる内部抵抗測定装置が測定の際に用いる充電プロファイルの選択フロー図
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1はこの発明にかかる内部抵抗測定装置として実行される電気自動車の燃料電池システム1の機能ブロック図である。この電気自動車の燃料電池システムは、モータ2と、二次電池5と、燃料電池6とを有し、これらとそれに付属するそれぞれの部品からの信号を受信し、制御する制御部20を有する。この制御部20が各部を制御して得られた信号の値を解析する内部抵抗測定装置として動作する。
【0021】
制御部20は燃料電池6で発電させた電力をDC/DCコンバータ4で電圧変換して二次電池5に充電させる。二次電池5に充電された電力はインバータ3を介してモータ2を駆動させる。モータ2は、二次電池5から受け取った電力により駆動し、駆動軸(図示せず)を介して車輪(図示せず)を回転させて電気自動車を走行させる走行出力を生み出す。また、制御部20は回生エネルギーを利用する際には、モータ2で発電した電力をインバータ3を介して二次電池5へ供給し、充電させる。
【0022】
二次電池5としては例えばリチウムイオン電池が挙げられるが、特にこれに限定されない。図ではまとめて図示しているが、複数のセルからなる電池モジュールを複数まとめて構成されていてよい。本発明ではこの二次電池5の全体の内部抵抗を測定するものでもよいし、個々のセルを構成する電池モジュールごとに内部抵抗を測定するものでもよい。二次電池5には電流を測定する電流計42及び電圧を測定する電圧計43が取り付けられている。これらは個々の電池モジュールごとに取り付けられていることが望ましい。制御部20は電池モジュールの電圧などから充電率(=残容量/満容量、State Of Charge、以下、SOC)を算出できる。また、制御部20は電流及び電圧から後述する手順により二次電池5の内部抵抗を算出できる。なお、電流計42及び電圧計43はこの図の例では制御部20に繋がっており、二次電池5は制御部20と直接電気的に繋がっているが、制御部20に繋がる二次電池5を制御する専用の制御部と電気的に繋がっていてもよい。
【0023】
燃料電池6は、二次電池5に電力を供給する。この実施形態における燃料電池6には、燃料となる水素ガスと酸素源となる空気とが供給され、水素と酸素とによって発電する。図ではまとめているが、複数のセルを直列、並列、またはそれらの両方にまとめて接続したものであってよい。複数のセルをまとめた電池モジュールを直列、並列、またはそれらの両方にまとめて接続したものであってもよい。
【0024】
水素は高圧で圧縮されて水素タンク34に貯蔵されており、水素タンク34から連通路35を介して、燃料電池6の水素極12側へと供給される。連通路35には、連通路35を開閉する元弁36と、供給される高圧水素を減圧する減圧弁37とが設けられており、制御部20によって適宜開閉される。減圧されて供給された水素は水素極12で消費されるが、一部は残存し排気される。その排気される水素の一部は水素再循環ポンプ22を経由して再び水素極12へ供給される。水素再循環ポンプ22では供給されるガスの湿度も調整しており、水素極12に導入されるガスの湿度は高加湿度(80~100%RH)で調整される。この水素極12に導入される導入部には水素極入力温度センサ52が設けられており、導入される入力ガスの温度を測定する。測定された入力ガスの温度は制御部20に送られ、湿度の算出及び弁やポンプの制御の判断などに用いられる。また、水素再循環ポンプ22は制御部20により制御される。水素極12にはラジエータ21が取り付けられて制御部20により制御され、水素極12の内部温度を調整される。個々の電池モジュールや個々のセルの水素極12の内部には内部のガス温度を測定する水素極内部温度センサ47が設けられており、個々の電池モジュールの水素極12の内部温度を測定する。測定された内部温度は制御部20に送られ、湿度の算出及び弁やポンプの制御の判断などに用いられる。
【0025】
空気は電気自動車の外部の空気を取り込んで空気圧縮機31により圧縮される。さらに圧縮された空気を加湿器32で加湿して湿度を高加湿度(80~100%RH)で調整して、燃料電池6の空気極11側へと供給される。供給された空気中の酸素は空気極11で消費されるが、反応しなかった空気は系外へと排出される。空気極11に導入される導入部には空気極入力温度センサ51が設けられており、導入される圧縮空気の温度を測定する。測定された圧縮空気の温度は制御部20に送られ、湿度の算出や空気圧縮機31及び加湿器32の制御の判断などに用いられる。また、個々の電池モジュールの空気極11の内部には内部の空気温度を測定する空気極内部温度センサ46が設けられており、個々の電池モジュールや個々のセルの空気極11の内部温度を測定する。測定された内部温度は制御部20に送られ、湿度の算出及び弁やポンプの制御の判断などに用いられる。
【0026】
さらに、燃料電池6には、空気極11と水素極12との間の電位差である燃料電池電圧を測定する電圧計44と、燃料電池6から供給される電流量を測定する電流計45とが設けられている。いずれの値も制御部20に送られ、後述する二次電池5の内部抵抗算出や、燃料電池6自体の制御、電気自動車の制御のための判断などに用いられる。
【0027】
このような電気自動車において、制御部20は、燃料電池6で発電して二次電池5を充電しながら、電圧計43の値を取得して二次電池5の内部抵抗を算出する内部抵抗測定装置として動作する。この発明にかかる内部抵抗測定装置は、燃料電池6の湿度に応じて、内部抵抗を算出するための充電をするための燃料電池6の発電プロファイルを切り替える。発電プロファイルを切り替えるとは、燃料電池6の電圧を一定にしながら発電する電圧制御と、燃料電池6の電流を一定にしながら発電する電流制御とのいずれかを切り替えることをいう。
【0028】
制御部20は専用の演算装置であってもよいし、汎用の演算装置が内部抵抗測定装置として動作するためのソフトウェアを実行するものでもよい。
【0029】
この発明にかかる内部抵抗測定装置は、燃料電池6の湿度が所定の値以上である高湿度の条件では電流制御で発電して二次電池5のパルス充電を行い、燃料電池6が所定の湿度未満である低湿度の条件では電圧制御で発電して二次電池5のパルス充電を行うと好ましい。燃料電池6は高湿度であるほど出力が安定し、低湿度であるほど出力が安定しないという性質を有する。低湿度の場合、燃料電池6が安定的に動作できる下限電圧を下回るおそれがあるため、電圧を下限電圧以上に制御し続ける電圧制御で発電させる。一方、高湿度の場合はそのおそれがないため、安定的な充電が可能であるように、一定電流となる電流制御で発電させる。
【0030】
燃料電池6の湿度は、空気極11側の湿度と、水素極12側の湿度との値があり、どちらの値を使用してもよいが、空気極11と水素極12との平均値を用いると、運用上偏りにくく好ましい。
【0031】
空気極11及び水素極12におけるそれぞれの湿度は、それぞれの導入部の温度と内部温度とから求めることができる。導入部における温度は空気極入力温度センサ51又は水素極入力温度センサ52から制御部20が取得する。空気極11又は水素極12内部の温度は空気極内部温度センサ46又は水素極内部温度センサ47から制御部20が取得する。導入部の段階で水素ガスと空気はどちらも湿度が高加湿度(80~100%RH)で調整されているため、この導入部の温度における飽和水蒸気量が、導入される水素ガス又は空気に含まれる水蒸気量となる。このことから、内部における湿度は下記式で求めることができる。このため、制御部20は別途設けた記憶部(図示せず)に、温度ごとの飽和水蒸気量を記録したテーブルを有し、適宜参照可能としておく。
湿度=水蒸気量/(電極内部の温度における飽和水蒸気量)×100(%)=(導入部の温度における飽和水蒸気量)/(電極内部の温度における飽和水蒸気量)×100(%)
【0032】
上記の高湿度と低湿度とを切り替える閾値となる所定の値は、燃料電池6の特性次第で任意に設定されるとよい。具体的には前記閾値は湿度50%以上であると好ましい。50%未満では燃料電池6の出力が安定しにくく、その状態を高湿度として処理してしまうと下限電圧を下回るおそれがある。一方で、前記閾値は70%以下であると好ましい。70%を超えると燃料電池6の出力は安定するが、低湿度として制御される頻度が高くなりすぎるおそれがある。
【0033】
上記のパルス充電とは、所定の時間t1の間充電を行い、その後所定の時間t2の間充電を休止することをいう。ただし、パルス充電は複数回繰り返してもよい。複数回行うことで、そのたびに内部抵抗を測定でき、平均値を求めることで測定される内部抵抗の値の信頼性を高めることができる。
【0034】
この発明にかかる内部抵抗測定装置となる制御部20が内部抵抗Rを算出するにあたっては、例えば電流休止法により算出できる。具体的には、
図2の例にしめす次のような手順で算出できる。時間t1の間燃料電池6を電流制御で発電させて1Aの一定電流を取り出し、二次電池5への充電を行う。充電の進行とともに二次電池5の電圧は内部抵抗RによるIRドロップの影響で上昇していく。
図2では最大4.00Vまで上昇している。時間t1が経過した後、時間t2に亘って充電を休止すると、二次電池5の分極が徐々に解消されて電圧は低下していく。最終的には分極が解消され、内部抵抗RによるIRドロップが無い状態の電圧になる。
図2では3.95Vにまで低下して一定電圧となっている。この電圧の最大値4.00Vと3.95Vとの差であるΔV=0.05Vが内部抵抗RによるIRドロップとなる。ここでは電流が1Aであるので、内部抵抗Rは0.05V/1A=0.05Ωと算出される。
【0035】
上記の燃料電池6を電流制御で発電して二次電池5をパルス充電して内部抵抗Rを算出する際の電圧と電流の変遷を
図3に示す。燃料電池6が一定の値の電流で発電している間、この電流によりパルス充電される二次電池5の電圧は徐々に上昇する。このとき、燃料電池6の電圧は発電を開始した時点で一旦降下し、発電している間に徐々に上昇する。燃料電池6の湿度が低い場合、この電圧降下の際に下限電圧を下回ってしまうおそれがある。時間t1が経過したら燃料電池6の発電を休止する。休止する直前の二次電池5の電圧を、ΔV算出のための最大値として一旦記録する。発電が終わると燃料電池6の電圧は定常状態に戻る。時間t2が経過していく間に二次電池5の電圧は分極が解消されて低下していく。時間t2が経過して次に充電を開始する直前の二次電池5の電圧を、ΔV算出のための最低値として記録する。制御部20は、この最大値と最小値との差としてΔVを算出し、電流制御された二次電池5に供給されるパルス充電の電流値IでΔVを除した値として内部抵抗Rを算出する。時間t2が経過して再び燃料電池6が発電を開始してパルス充電が開始されると、燃料電池6の電圧は一旦降下し、発電していく間に徐々に上昇する。以下、これを所定の回数繰り返す。
【0036】
一方、燃料電池6を電圧制御で発電して二次電池5をパルス充電して内部抵抗Rを算出する際の電圧と電流の変遷を
図4に示す。燃料電池6が一定の値の電圧で発電している間に、この電流によりパルス充電される二次電池5の電圧は徐々に上昇する。このとき、燃料電池6で発電される電流量は徐々に増加していく。燃料電池6の電圧は一定に制御しているので、その値を適切に設定していれば、燃料電池6の下限電圧を下回ることはない。時間t1が経過したら燃料電池6の発電を休止する。休止する直前の二次電池5の電圧を、ΔV算出のための最大値として一旦記録する。また、発電を休止する直前の燃料電池6の電流値をIRドロップ算出の際のパルス充電の電流値Iの値として記録する。発電が終わると燃料電池6の電圧は定常状態に戻る。時間t2が経過していく間に二次電池5の電圧は分極が解消されて低下していく。時間t2が経過して次に充電を開始する直前の二次電池5の電圧を、ΔV算出のための最低値として記録する。制御部20は、この最大値と最小値との差としてΔVを算出し、発電を休止する直前の燃料電池6の電流値IでΔVを除した値として内部抵抗Rを算出する。時間t2が経過して再び燃料電池6が発電を開始してパルス充電が開始されると、燃料電池6の電圧は一旦降下し、発電していく間に徐々に上昇する。以下、これを所定の回数繰り返す。
【0037】
いずれの場合も、所定の回数繰り返して得られた内部抵抗Rの値の平均値を求めると、値の信頼性が高まるため好ましい。
【0038】
また、この発明にかかる内部抵抗測定装置は、二次電池5の前記SOCが所定の値以上であるとき、前記の電圧制御した発電でのパルス充電又は電流制御した発電でパルス充電を短周期のパルス充電で行い、二次電池5の前記SOCが所定の値未満であるとき、前記の電圧制御した発電でのパルス充電又は電流制御した発電でのパルス充電を長周期のパルス充電で行うと好ましい。前記SOCは残りの走行可能距離に繋がるため、不十分な場合は充電を優先すべきであるし、十分ある場合は充電を急ぐ必要はない。ここで所定の値は、二次電池5の容量や前記電気自動車のユーザがどのような利用をするかによって変動するが、例えば20~40%程度の値を設定できる。
【0039】
ここで上記の短周期であるとは、上記の充電する時間t1が休止する時間t2よりも短いことをいう。時間t1としては特に制限されないが、1秒以上であると好ましい。短すぎると十分にIRドロップが高精度で測定できるほど分極が進まず、値の正確性が確保しにくくなる。一方、時間t1としては、10秒以下であると好ましい。長すぎるとその分時間が長くなり、内部抵抗が得られるまでの時間が余分にかかってしまう。一方、t2は分極した二次電池5の電圧がほぼ一定になるまでの時間を確保するとよい。ただし、t1とt2との合計時間Tが長すぎると短周期としては時間がかかりすぎるので、二次電池5の電圧の低下が誤差程度になったら休止を終えて次のサイクルを始めるとよい。
【0040】
また、上記の長周期であるとは、上記の充電する時間t1が休止する時間t2よりも長いことをいう。時間t1としては特に制限されないが、50秒以上100秒以下程度であると好ましい。長周期のパルス充電を行う場合は単に内部抵抗を測定するだけでなく、充電自体も進めてSOCを回復させておきたい場合が多い。このため、休止時間よりも十分な充電時間を確保することが望ましくなる。なお、時間t2としては1~10秒程度でよい。この場合もt2は分極した二次電池5の電圧がほぼ一定になるまでの時間を確保するとよいが、充電時間を確保するため、時間t1より短いことが求められる。
【0041】
なお、前記SOCが所定の値以上であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、長周期のパルス充電で行うように制御部20が制御してもよい。運転時に安心して運用できるSOCの値はユーザの利用形態ごとに異なり、デフォルトの値よりSOCが高くても、充電を優先して進めたい場合は、ユーザの設定に従って長周期のパルス充電で内部抵抗を測定するとよい。また、前記SOCが所定の値以下であっても、前記電気自動車のユーザによる設定に応じて、短周期のパルス充電で行うように制御部20が制御してもよい。充電を待つことなく速やかに内部抵抗を測定できる。
【0042】
内部抵抗Rを測定するタイミングは、ユーザが任意のタイミングで制御部20に指示を出してもよいし、制御部20が定期的に、又は何等かの条件が満たされたタイミングで習慣的に実行するものでもよい。ユーザが任意のタイミングで行う場合とは例えば、長時間の走行を行っている際に、二次電池5が劣化しているか否かを確認するために、ドライバーであるユーザが走行中、あるいは走行停止中に内部抵抗Rを測定することが考えられる。具体的な操作としては例えば、制御部20に繋がるタッチパネルなどのユーザインターフェースを操作して、内部抵抗Rの測定を開始するコマンドを送る。但し、走行中で測定する場合、測定中は燃料電池6の発電出力で一時的に駆動することになるため、二次電池5への充電入力を所定のパルス充電でON/OFF制御して内部抵抗Rを測定する。また、タイミングは走行中に限定されない。
【0043】
また、電気自動車がプラグインハイブリッドカーであり、なおかつ外部への給電機能を有するものである場合には、外部への給電を継続的に行う状況が考えられる。この外部への給電は、二次電池5にとっては走行時と同様に電力を供給する状況であり、走行時と同様に劣化の度合いを測定することでより適切な運用が可能となる。そこで、この発明にかかる内部抵抗測定装置は、その給電中や給電の合間に任意のタイミングで、又は何らかの条件が満たされたタイミングで内部抵抗Rを測定してもよい。なお、給電の合間とは、外部への給電が電気的に停止している時間が一時的に続いているタイミングだけでなく、給電プラグの物理的接続が切断されて給電が一旦終了されたタイミングも含む。
【実施例】
【0044】
この発明にかかる内部抵抗測定装置が、内部抵抗Rをどの方式で測定するのかについて、具体的に場合分けする実施例のフローを
図5にまとめる。まず(S01)、二次電池5のSOCが高いか低いかによって分けるSOC判定を行う(S02)。SOCが30%未満の低SOCの場合(S02→S03)、十分な充電を省略して内部抵抗の測定のみを優先するか(→S04)、または充電を進めながら内部抵抗の測定も行うか(→S05)、ユーザの設定次第で判断する。なお、ユーザの設定変更がない場合のデフォルトは、充電を進めながら内部抵抗の測定も行うS05としておく。
【0045】
一方、SOCが30%以上と高かったり(S02→高)、低SOCでも充電を省略する場合(S03→測定のみ)、短周期パルス充電を行うが、電流制御か電圧制御かを選択するために燃料電池6の湿度判定(S04)を行う。燃料電池6の湿度が60%以上の高湿度と判定される場合は、発電プロファイルとしてP01の「電流制御短周期パルス充電」を選択して二次電池5の内部抵抗を測定する。すなわち、燃料電池6からの発電を一定電流となるように制御して、t1<t2の発電時間が休止時間よりも短くなるようにして短時間の充電で内部抵抗を測定する。一方、燃料電池6の湿度が60%未満の低湿度と判定される場合は、発電プロファイルとしてP02の「電圧制御短周期パルス充電」を選択して二次電池5の内部抵抗を測定する。すなわち、燃料電池6の電圧が一定となるように制御して、t1<t2の発電時間が休止時間よりも短くなるようにして短時間の充電で内部抵抗を測定する。
【0046】
一方、低SOCで充電を進めながら内部抵抗の測定も行う場合(S03→測定+充電)、長周期パルス充電を行うが、電流制御か電圧制御かを選択するために燃料電池6の湿度判定(S05)を行う。燃料電池6の湿度が60%以上の高湿度と判定される場合は、発電プロファイルとしてP03の「電流制御長周期パルス充電」を選択して二次電池5の内部抵抗を測定する。すなわち、燃料電池6からの発電を一定電流となるように制御して、t1>t2の充電時間が休止時間よりも長くなるようにして充電を進めながら内部抵抗を測定する。一方、燃料電池6の湿度が60%未満の低湿度と判定される場合は、発電プロファイルとしてP04の「電圧制御長周期パルス充電」を選択して二次電池5の内部抵抗を測定する。すなわち、燃料電池6の電圧が一定となるように制御して、t1>t2の発電時間が休止時間よりも長くなるようにして充電を進めながら内部抵抗を測定する。
【符号の説明】
【0047】
1 燃料電池システム
2 モータ
3 インバータ
4 DC/DCコンバータ
5 二次電池
6 燃料電池
11 空気極
12 水素極
20 制御部
21 ラジエータ
22 水素再循環ポンプ
31 空気圧縮機
32 加湿器
34 水素タンク
35 連通路
36 元弁
37 減圧弁
41 出力計
42 電流計
43 電圧計
44 電圧計
45 電流計
46 空気極内部温度センサ
47 水素極内部温度センサ
51 空気極入力温度センサ
52 水素極入力温度センサ