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特許7585964音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/02 20060101AFI20241112BHJP
   G10L 21/003 20130101ALI20241112BHJP
   H03G 5/02 20060101ALI20241112BHJP
   H04R 3/04 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
H04R3/02
G10L21/003
H03G5/02 025
H04R3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021087381
(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公開番号】P2022180730
(43)【公開日】2022-12-07
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】大西 正剛
(72)【発明者】
【氏名】鴫原 顕英
(72)【発明者】
【氏名】内山 利充
(72)【発明者】
【氏名】村田 渉
(72)【発明者】
【氏名】丸山 清文
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-083191(JP,A)
【文献】特開2012-124826(JP,A)
【文献】特開平6-245292(JP,A)
【文献】特開平2-168798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/02
G10L 21/003
H03G 5/02
H04R 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させ、前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させるピーク移動フィルタを備える音声処理装置。
【請求項2】
前記ピーク移動フィルタは、
前記第1の中心周波数よりも低周波数側の第2の中心周波数を第2のピークとして音圧を低下させ、前記第1の中心周波数よりも高周波数側の第3の中心周波数を第3のピークとして音圧を低下させ、
前記第1~第3の中心周波数を、互いの関係を維持した状態で移動させる
請求項1に記載の音声処理装置。
【請求項3】
前記音声信号を、前記音声信号における第4の中心周波数で位相を反転させ、前記第4の中心周波数を前記第1の中心周波数の移動と同期して移動させる位相反転フィルタをさらに備える請求項1または2に記載の音声処理装置。
【請求項4】
入力された音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させ、
前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させる
音声処理方法。
【請求項5】
コンピュータに、
入力されたデジタル音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させる処理と、
前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させる処理と、
を実行させる音声処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
暗騒音が存在する環境において、拡声対象の音声を聞き取りやすくするため音声を明瞭化ことが望まれる。特許文献1には、フォルマントを強調することによって音声を明瞭化することが記載されている。マイクロホンが収音した音声を拡声装置で拡声してスピーカから発すると、マイクロホンによるスピーカから発せられた音声の収音と、マイクロホンが収音して拡声された音声のスピーカからの出力とが繰り返されて、ハウリングが発生することがある。特許文献2には、ハウリングを防止する技術の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6772889号公報
【文献】特開平3-263999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
拡声装置またはその他の任意の音声処理装置において、処理対象の音声を明瞭化し、かつハウリングを抑制することが求められている。本発明は、処理対象の音声を明瞭化し、かつハウリングを抑制することができる音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、入力された音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させ、前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させるピーク移動フィルタを備える音声処理装置を提供する。
【0006】
本発明は、入力された音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させ、前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させる音声処理方法を提供する。
【0007】
本発明は、コンピュータに、入力されたデジタル音声信号における第1の中心周波数を第1のピークとして音圧を増大させる処理と、前記第1の中心周波数を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させる処理とを実行させる音声処理プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラムによれば、処理対象の音声を明瞭化し、かつハウリングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1及び第2実施形態の音声処理装置を示すブロック図である。
図2】第1実施形態の音声処理装置が備えるピーク移動フィルタによって音声信号を補正する特性を示す特性図である。
図3】第1実施形態の音声処理装置が備えるピーク移動フィルタによって音圧を増大させる中心周波数を移動させることを示す特性図である。
図4】第2実施形態の音声処理装置が備えるピーク移動フィルタによって音声信号を補正する特性を示す特性図である。
図5】第2実施形態の音声処理装置が備えるピーク移動フィルタによって音圧を増大させる中心周波数及び音圧を低下させる中心周波数を移動させることを示す特性図である。
図6】第3及び第4実施形態の音声処理装置を示すブロック図である。
図7】第3及び第4実施形態の音声処理装置が備える位相反転フィルタによって音声信号の位相を反転させる特性を示す特性図である。
図8】第4実施形態の音声処理装置が、ピーク移動フィルタによって音圧を増大させる中心周波数、音圧を低下させる中心周波数、及び位相反転フィルタによって位相を反転させる中心周波数を互いに同期させるための構成を示すブロック図である。
図9】第4実施形態の音声処理装置が、ピーク移動フィルタによって音圧を増大させる中心周波数、音圧を低下させる中心周波数、及び位相反転フィルタによって位相を反転させる中心周波数を互いに同期させるための他の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各実施形態の音声処理装置、音声処理方法、及び音声処理プログラムについて、添付図面を参照して説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の音声処理装置101を示す。音声処理装置101は、拡声装置の一部として構成されていてもよいし、デジタルミキサの一部として構成されていてもよい。音声処理装置101は、第1実施形態の音声処理方法を実行する。
【0012】
図1において、アナログ音声信号の入力端子1は例えばいわゆるフォーンジャックであり、図示していないマイクロホンのフォーンプラグが挿入される。マイクロホンから入力端子1に入力されるアナログ音声信号は、処理対象の音声信号の一例である。入力端子1から入力されたアナログ音声信号の同相入力信号と逆相入力信号は減衰器2によって減衰されて、オペアンプ3に供給される。同相入力信号と逆相入力信号とは同じ信号であって位相が互いに逆のバランス信号である。
【0013】
オペアンプ3は、同相入力信号と逆相入力信号との差分を演算してアンバランス信号としてA/D変換器4に供給する。オペアンプ3には、ゲイン可変用の可変抵抗3Rが接続されている。このように、オペアンプ3は、入力されたバランス信号をアンバランス信号に変換したアナログ音声信号をA/D変換器4に供給する。
【0014】
A/D変換器4は、入力されたアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換して、デジタル・シグナル・プロセッサ(以下、DSP)5に供給する。DSP5は、イコライザ51、スイッチ52、54、及び56、ハウリング抑制器53、ピーク移動フィルタ55、ボリューム調整器7を有する。
【0015】
図1に示す音声処理装置101において、A/D変換器4より出力されたデジタル音声信号は時間領域の信号であり、DSP5は時間領域の信号に対して後述する各種の処理を施す。デジタル音声信号が入力されるDSP5は、デジタル音声信号を離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)することにより周波数領域の信号に変換した上で後述する各種の処理を施してもよい。典型的には、DFTとして、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)が用いられる。この場合、DSP5内の後述するイコライザ51の前段には、離散フーリエ変換器が設けられる。
【0016】
イコライザ51には、時間領域のデジタル音声信号、または離散フーリエ変換された周波数領域のデジタル音声信号が入力される。図1は、イコライザ51に時間領域のデジタル音声信号が入力される場合を例として示す。
【0017】
イコライザ51は、入力されたデジタル音声信号における所定の1または複数の周波数の箇所における音圧を増大したり低下したりすることによって、デジタル音声信号の音質を補正する。ハウリング抑制器53は、ハウリングを抑制するための複数のフィルタを備え、ハウリングを抑制するよう、入力されたデジタル音声信号に複数のフィルタによるフィルタリング処理を施す。ハウリング抑制器53は、ハウリングによって音圧が増大する特定の周波数における音圧を低下させればよい。
【0018】
イコライザ51及びハウリング抑制器53は、既存の構成でよい。ユーザは、操作部6を操作してスイッチ52を端子Taから端子Tbへと切り替えることにより、イコライザ51による音質補正の機能をオフすることができる。ユーザは、操作部6を操作してスイッチ54を端子Taから端子Tbへと切り替えることにより、ハウリング抑制器53によるハウリング抑制の機能をオフすることができる。
【0019】
第1実施形態の音声処理装置101において新たに設けられているピーク移動フィルタ55は、図2に示すように、所定の中心周波数f0(第1の中心周波数)をピークPk1(第1のピーク)として音圧を増大させるよう、デジタル音声信号を補正する。中心周波数f0は、音声処理装置101が処理する音声信号を明瞭化するのに適した周波数とするのがよい。
【0020】
図2においては、中心周波数f0は、子音の周波数に相当する2kHzに設定されている。中心周波数f0における音圧の増大量は例えば最大15dBであり、Q値(Quality Factor)は例えば0.5~10.0の範囲で適宜の値に設定される。ユーザが操作部6を操作して、中心周波数f0、音圧の増大量、音圧を増大させるときのQ値を選択できるように構成されていてもよい。
【0021】
ピーク移動フィルタ55は、ピークPk1の周波数を決める中心周波数f0を、所定の周波数の範囲で移動させるように構成されている。中心周波数f0を移動させていない状態の基準とする中心周波数(ここでは2kHz)を基準中心周波数f0r(図3参照)と称することとする。中心周波数f0を移動させるときの最低周波数は例えばf0r/1.4であり、最高周波数は例えば1.4×f0rである。即ち、基準中心周波数f0rが2kHzであるとき、ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0を、予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間の周波数の範囲の一例として、約1.43kHz~2.8kHzの範囲で移動させる。
【0022】
中心周波数f0を移動させるときの最低周波数をf0r/2とし、最高周波数を2×f0rとしてもよい。この場合、ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0を、周波数の範囲の他の例として、1kHz~4kHzの範囲で移動させる。ユーザが操作部6を操作して、中心周波数f0を移動させる周波数の範囲を選択できるように構成されていてもよい。
【0023】
図3は、ピーク移動フィルタ55が、中心周波数f0を1kHz~4kHzの範囲で移動させる状態を示している。ピーク移動フィルタ55は、デジタル音声信号の音圧を図2に示すように山状に増大させる特性を決定するパラメータを変化させることによって、中心周波数f0を図3に示すように移動させることができる。
【0024】
ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0を、最低周波数から最高周波数まで所定の第1の時間をかけて移動させ、最高周波数から最低周波数まで所定の第2の時間をかけて移動させる。第1及び第2の時間としては、例えば、10ms、50ms、125ms、250ms、500ms、1s等の任意の時間が設定され、第1の時間と第2の時間とが異なっていてもよい。ユーザが操作部6を操作して、第1及び第2の時間を選択できるように構成されていてもよい。
【0025】
このように、ピーク移動フィルタ55が中心周波数f0を所定の周波数の範囲で移動させると、音声の明瞭性を向上させ、かつ、ハウリングを抑制することができる。上記のように、ハウリングは、マイクロホンによるスピーカから発せられた音声の収音と、マイクロホンが収音して拡声された音声のスピーカからの出力とが繰り返されることによって発生するから、ハウリングは時間の進行に伴って増大する。中心周波数f0を移動させるとハウリングが増大していくことが妨げられるので、結果として、ハウリングを抑制することができる。
【0026】
図1に示す音声処理装置101においては、ハウリング抑制器53によるハウリングの抑制効果と、ピーク移動フィルタ55によるハウリングの抑制効果との相乗効果を得ることができる。なお、ユーザは、操作部6を操作してスイッチ56を端子Taから端子Tbへと切り替えることにより、ピーク移動フィルタ55による音声の明瞭性の向上とハウリングの抑制の機能をオフすることができる。
【0027】
スイッチ56より出力されたデジタル音声信号は、ボリューム調整器7に供給される。ボリューム調整器7は、入力されたデジタル音声信号のボリュームを調整してD/A変換器8に供給する。ユーザは、操作部6を操作してボリューム調整器7によるデジタル音声信号のボリュームを調整することができる。D/A変換器8は、入力されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換して、図示していない出力端子またはスピーカ等に供給する。
【0028】
ピーク移動フィルタ55において、音圧を増大させる周波数は1か所に限らず、複数か所で音圧を増大させてもよい。具体的には、ピーク移動フィルタ55は、子音の周波数に相当する2kHz付近の他に、母音の第1フォルマントの周波数に相当する450Hz付近と、第2フォルマントの周波数に相当する800Hz付近をそれぞれ基準中心周波数f0rとして、音圧を増大させてもよい。ピーク移動フィルタ55は、3つの周波数を基準中心周波数f0rに設定する場合も、中心周波数f0を所定の周波数の範囲で移動させる。
【0029】
<第2実施形態>
図1は、第2実施形態の音声処理装置102を示す。音声処理装置102は、第2実施形態の音声処理方法を実行する。音声処理装置102は、音声処理装置101と同様の構成であり、ピーク移動フィルタ55に設定されているフィルタの構成が音声処理装置101のピーク移動フィルタ55に設定されているフィルタとは異なる。
【0030】
第2実施形態の音声処理装置102において設けられているピーク移動フィルタ55を説明する。第2実施形態におけるピーク移動フィルタ55における第1実施形態におけるピーク移動フィルタ55と共通の事項については説明を省略することがある。
【0031】
音声処理装置102において、ピーク移動フィルタ55は、図4に示すように、所定の中心周波数f0(第1の中心周波数)を正のピークPk1(第1のピーク)として音圧を増大させる。さらに、ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0よりも低周波数側の所定の中心周波数f(-1)(第2の中心周波数)を負のピークPk2(第2のピーク)とし、周波数f0よりも高周波数側の所定の中心周波数f(+1)(第3の中心周波数)を負のピークPk3(第3のピーク)として音圧を低下させる。
【0032】
図4に示す例では、中心周波数f0は2kHz、中心周波数f(-1)は1kHz、中心周波数f(+1)は4kHzに設定されている。中心周波数f0における音圧の増大量は例えば最大15dBであり、中心周波数f(-1)及びf(+1)における音圧の低下量は例えば最大15dBである。図4では、中心周波数f(-1)及びf(+1)における音圧の低下量を中心周波数f0における音圧の増大量よりも格段に少量としている。ユーザが操作部6を操作して、中心周波数f0、f(-1)、f(+1)、音圧の増大量及び低下量、音圧を増大または低下させるときのQ値を選択できるように構成されていてもよい。
【0033】
ピーク移動フィルタ55は、ピークPk1~Pk3それぞれの周波数を決める中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を、互いの関係を維持した状態で所定の周波数の範囲で移動させるように構成されている。中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を移動させていない状態の基準とする中心周波数をそれぞれ基準中心周波数f0r、f(-1)r、及びf(+1)r(図5参照)と称することとする。
【0034】
中心周波数f0を移動させるときの予め設定した最低周波数及び最高周波数は、第1実施形態におけるそれらと同様でよい。ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0を移動させるのに合わせて、中心周波数f(-1)及びf(+1)も同様に移動させる。中心周波数f0を、最低周波数から最高周波数まで移動させる第1の時間、最高周波数から最低周波数まで移動させる第2の時間も、第1実施形態におけるそれらと同様でよい。
【0035】
図5は、ピーク移動フィルタ55が、中心周波数f0を1kHz~4kHzの範囲で移動させる状態を示している。ピーク移動フィルタ55は、デジタル音声信号の音圧を、図4に示すように中心周波数f0において山状に増大させ、かつ中心周波数f0を挟む中心周波数f(-1)及びf(+1)において谷状に低下させる特性を決定するパラメータを変化させる。これによって、図5に示すように、ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を互いの関係を維持した状態で移動させることができる。
【0036】
第2実施形態によれば、第1実施形態で抑制することができないハウリングを抑制することができる。即ち、第2実施形態は、ハウリングの抑制効果が第1実施形態よりも優れている。第1実施形態で抑制することができないハウリングとは、例えば、ハウリングが発生する周波数が中心周波数f0と異なり、ピーク移動フィルタ55によって音圧を増大してもなお発生するハウリング、または、ピーク移動フィルタ55が中心周波数f0を移動させる速度よりも速く発生するハウリングである。第2実施形態においては、ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f(-1)及びf(+1)において音圧を谷状に低下させるので、これらのハウリングを抑制することができる。
【0037】
ピーク移動フィルタ55は、中心周波数f(-1)及びf(+1)において谷状に低下させる周波数の範囲が、ハウリングが発生する周波数と重なるように、中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を移動させるのがよい。
【0038】
第2実施形態においても、ピーク移動フィルタ55は、子音の周波数に相当する2kHz付近と、母音の第1フォルマントの周波数に相当する450Hz付近と、第2フォルマントの周波数に相当する800Hz付近とをそれぞれ基準中心周波数f0rとして、3つの中心周波数f0を移動させながら、音圧を増大させてもよい。ピーク移動フィルタ55は、各中心周波数f0を挟むように、中心周波数f(-1)及びf(+1)において谷状に音圧を低下させる。
【0039】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態の音声処理装置103を示す。音声処理装置103は、第3実施形態の音声処理方法を実行する。図6においては、入力端子1~A/D変換器4、D/A変換器8の図示を省略している。図6に示す音声処理装置103におけるDSP5の内部構成において、図1に示す音声処理装置101におけるDSP5の内部構成と同一部分には同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0040】
図6において、ピーク移動フィルタ55は、図3と同様に、中心周波数f0を移動させながら、デジタル音声信号の音圧を山状に増大させるように補正する。スイッチ56より出力されたデジタル音声信号は、位相反転フィルタ57に供給される。位相反転フィルタ57は、オールパスフィルタである。
【0041】
図7に示すように、位相反転フィルタ57は、例えば周波数2kHzである中心周波数fc(第4の中心周波数)において、入力されたデジタル音声信号の位相を反転させる。加えて、位相反転フィルタ57は、ピーク移動フィルタ55が中心周波数f0を最低周波数と最高周波数との間で移動させるのに同期させて、中心周波数fcを移動させる。ユーザが操作部6を操作して、中心周波数fcを選択できるように構成されていてもよい。
【0042】
位相反転フィルタ57の中心周波数fcは、ピーク移動フィルタ55の中心周波数f0が基準中心周波数f0rより低周波数側に移動すれば低周波数側に移動し、基準中心周波数f0rより高周波数側に移動すれば高周波数側に移動する。図7に示す例では、位相反転フィルタ57の中心周波数fcを、ピーク移動フィルタ55における中心周波数f0と一致させている。中心周波数fcと中心周波数f0とを一致させることが好ましいが、両者がずれていてもよい。
【0043】
第3実施形態によれば、ピーク移動フィルタ55と位相反転フィルタ57とを設けているので、ピーク移動フィルタ55によってハウリングを完全には抑制できない場合であっても、位相反転フィルタ57によって反転させた音声が互いにハウリングを打ち消し合い、第1実施形態で抑制することができないハウリングを抑制することができる。なお、中心周波数fcと中心周波数f0とを一致させると両者をずらすよりもより高いハウリングの抑制効果を得ることができる。
【0044】
なお、ユーザは、操作部6を操作してスイッチ58を端子Taから端子Tbへと切り替えることにより、位相反転フィルタ57による位相反転の機能をオフすることができる。
【0045】
<第4実施形態>
図6は、第4実施形態の音声処理装置104を示す。音声処理装置104は、第4実施形態の音声処理方法を実行する。図6において、ピーク移動フィルタ55は、図5と同様に、中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を移動させながら、デジタル音声信号の音圧を、中心周波数f0において山状に増大させ、中心周波数f(-1)及びf(+1)において谷状に低下させるように補正する。
【0046】
図7に示すように、位相反転フィルタ57は、入力されたデジタル音声信号の位相を中心周波数fcで反転させる。位相反転フィルタ57は、ピーク移動フィルタ55が中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)を移動させるのに同期させて、位相を反転させる中心周波数fcを移動させる。
【0047】
第4実施形態によれば、ピーク移動フィルタ55によってハウリングを完全には抑制できない場合であっても、位相反転フィルタ57によって反転させた音声が互いにハウリングを打ち消し合うので、第2実施形態で抑制することができないハウリングを抑制することができる。
【0048】
図8は、第3及び第4実施形態において、ピーク移動フィルタ55における中心周波数f0、f(-1)、及びf(+1)と、位相反転フィルタ57における中心周波数fcとを同期させるための構成例を示している。
【0049】
図8において、基準クロック発生器501は、基準クロックを発生して分周器502及び503に供給する。分周器502は、中心周波数f0を、最低周波数から最高周波数まで移動させるのに要する第1の時間を決定するための第1のクロックを生成するよう、基準クロックを分周する。分周器503は、中心周波数f0を、最高周波数から最低周波数まで移動させるのに要する第2の時間を決定するための第2のクロックを生成するよう、基準クロックを分周する。基準クロック発生器501、分周器502及び503は、DSP5の内部に設けられていてもよいし、外部に設けられていてもよい。
【0050】
第1のピーク設定演算器551は、ピーク移動フィルタ55にピークPk1の中心周波数f0を設定するための演算器である。第2のピーク設定演算器552は、ピーク移動フィルタ55にピークPk2の中心周波数f(-1)を設定するための演算器である。第3のピーク設定演算器553は、ピーク移動フィルタ55にピークPk3の中心周波数f(+1)を設定するための演算器である。反転位相演算器570は、位相反転フィルタ57にデジタル音声信号の位相を反転させる中心周波数fcを設定するための演算器である。
【0051】
第1のピーク設定演算器551、第2のピーク設定演算器552、第3のピーク設定演算器553、及び反転位相演算器570には、分周器502及び503によって生成された第1及び第2のクロックが共通に供給される。よって、第1のピーク設定演算器551、第2のピーク設定演算器552、第3のピーク設定演算器553、及び反転位相演算器570は、共通の第1及び第2のクロックによって動作するから、常に互いに同期して動作する。
【0052】
上記のように、ハウリングはアナログ音声信号が入力されて即座に大きく発生するのではなく、時間の進行に伴って増大する。よって、位相反転フィルタ57による位相の反転を所定の時間だけ遅延させて、ハウリングがある程度増大した後に位相反転フィルタ57によるハウリングの抑制の機能を働かせた方がよい場合がある。
【0053】
そこで、図9に示すように、遅延器504によって分周器502及び503より出力された第1及び第2のクロックを所定の時間だけ遅延させて、反転位相演算器570に供給してもよい。
【0054】
<音声処理プログラム>
DSP5が備える図1に示すイコライザ51~ボリューム調整器7、または図6に示すイコライザ51~ボリューム調整器7に相当する構成を、コンピュータプログラムである音声処理プログラムによって実行される処理として構成することができる。
【0055】
第1実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータ(DSP5を含む)に、入力されたデジタル音声信号における中心周波数f0をピークPk1として音圧を増大させる処理を実行させる。加えて、第1実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータに、中心周波数f0を予め設定した最低周波数と予め設定した最高周波数との間で移動させる処理を実行させる。
【0056】
第2実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータに、中心周波数f0よりも低周波数側の中心周波数f(-1)をピークPk2として音圧を低下させ、中心周波数f0よりも高周波数側の中心周波数f(+1)をピークPk3として音圧を低下させる処理を実行させる。加えて、第2実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータに、中心周波数f0、f(-1)、f(+1)を、互いの関係を維持した状態で移動させる処理を実行させる。
【0057】
第3実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータに、デジタル音声信号を、デジタル音声信号における中心周波数fcで位相を反転させ、中心周波数fcを中心周波数f0の移動と同期して移動させる処理を実行させる。第4実施形態の音声処理プログラムは、コンピュータに、中心周波数f0、f(-1)、f(+1)を、互いの関係を維持した状態で移動させる処理と、デジタル音声信号における中心周波数fcで位相を反転させ、中心周波数fcを中心周波数f0の移動と同期して移動させる処理とを実行させる。
【0058】
ところで、図1または図6のDSP5に、マイクロホンが収音した音声信号ではなく合成音声信号のようなハウリングを発生させることがない音声信号が入力されることがある。この場合には、ユーザは、操作部6を操作してスイッチ54、56、58を端子Taから端子Tbへと切り替えることにより、ハウリング抑制器53、ピーク移動フィルタ55、位相反転フィルタ57の機能をオフにすればよい。
【0059】
本発明は以上説明した第1~第4実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。第1~第4実施形態においては、DSP5によってデジタル音声信号を処理しているが、DSP以外の例えば音声信号処理回路を用いてアナログ音声信号を処理することによってハウリングを抑制することも可能である。
【0060】
本開示は、SDGsの「住み続けられるまちづくりを」の実現に貢献し、公共施設の安心・安全に寄与する事項を含む。
【符号の説明】
【0061】
1 入力端子
2 減衰器
3 オペアンプ
4 A/D変換器
5 デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)
6 操作部
7 ボリューム調整器
8 D/A変換器
51 イコライザ
52,54,56,58 スイッチ
53 ハウリング抑制器
55 ピーク移動フィルタ
57 位相反転フィルタ
101~104 音声処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9