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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20241112BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20241112BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20241112BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L21/52 B
H01L23/36 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021087610
(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公開番号】P2022180875
(43)【公開日】2022-12-07
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田添 忠徳
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0168523(US,A1)
【文献】特開2009-218603(JP,A)
【文献】特開昭61-140140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0173169(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0350231(US,A1)
【文献】特表2008-527737(JP,A)
【文献】特開2005-268351(JP,A)
【文献】特開2004-146819(JP,A)
【文献】特開2012-227484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 21/58
H01L 23/29、23/34-23/473
H01L 25/00-25/18
H10B 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(4a)および裏面(4b)を有する半導体素子(4)と、
前記裏面と向き合うと共に、前記半導体素子の外郭よりも大きい外郭の凹部(31)と、前記凹部の底面に設けられる窪みであるエアートラップ(32)とを有する導体(3)と、
前記半導体素子と前記凹部との隙間に配置され、少なくとも前記半導体素子の駆動時に液状であると共に、導電性を有する導電放熱材(5)と、
前記半導体素子のうち少なくとも前記表面および前記表面と前記裏面とを繋ぐ側面(4c)の一方と、前記導体とを繋ぐ配置とされ、前記半導体素子を前記導体に固定する固定部材(6)と、
柔軟性を有し、前記固定部材と前記導体との間に配置され、前記導電放熱材に接触すると共に、前記半導体素子の駆動時の熱により膨張する膨張部材(7)と、を備え、
前記半導体素子は、前記凹部の外郭内側に配置され、前記導電放熱材を介して前記導体と熱的に接続されている、半導体装置。
【請求項2】
前記導電放熱材は、液体金属である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記エアートラップは、前記凹部の前記底面のうち前記半導体素子の外郭上または外郭よりも外側の位置に配置されている、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記膨張部材は、前記エアートラップの上に配置されている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体素子は、四角形板状であり、
前記凹部は、少なくとも前記半導体素子の外郭に沿った四辺を有する外郭形状であり、
前記膨張部材は、前記凹部の外郭のなす四辺のうち少なくとも隣接する二辺に沿って配置されている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記膨張部材は、前記凹部の外郭のなす四辺のうち少なくとも一辺には配置されていない、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記凹部は、独立した4つ以上の前記エアートラップを有し、
前記エアートラップは、少なくとも前記凹部の外郭のなす四辺それぞれに沿って延設されている、請求項5または6に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の熱が液状の導電放熱材を介して外部に放出される構造の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)などのパワー半導体素子がはんだを介して絶縁基板上の金属膜に接合されてなる半導体装置が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の半導体装置は、絶縁基板のうちパワー半導体素子とは反対側の面に金属製のモジュール基板が溶接され、パワー半導体素子の駆動により生じる熱がはんだを介してモジュール基板側に伝搬し、外部に放出される構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-8395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、この種の半導体装置においては、パワー半導体素子の薄型化が進められている。しかし、パワー半導体素子の薄型化に伴い、駆動時の発熱に起因するパワー半導体素子の変形量が大きくなってしまう。本発明者らの検討によれば、薄型のパワー半導体素子がはんだを介して線膨張係数の異なる他の部材に接合された構造の半導体装置では、パワー半導体素子にかかる応力が大きく、パワー半導体素子が応力破損することが判明した。
【0005】
一方、パワー半導体素子と他の部材との接合面積が小さくなると、線膨張係数差に起因するパワー半導体素子への応力を抑制することができるものの、パワー半導体素子の駆動により生じる熱がこもってしまい、放熱性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、薄型化されたパワー半導体素子を用いた場合であっても、パワー半導体素子の応力破損を抑制しつつも、放熱性を確保可能な構造の半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置は、表面(4a)および裏面(4b)を有する半導体素子(4)と、裏面と向き合うと共に、半導体素子の外郭よりも大きい外郭の凹部(31)と、凹部の底面に設けられる窪みであるエアートラップ(32)とを有する導体(3)と、半導体素子と凹部との隙間に配置され、少なくとも半導体素子の駆動時に液状であると共に、導電性を有する導電放熱材(5)と、半導体素子のうち少なくとも表面および表面と裏面とを繋ぐ側面(4c)の一方と、導体とを繋ぐ配置とされ、半導体素子を導体に固定する固定部材(6)と、柔軟性を有し、固定部材と導体との間に配置され、導電放熱材に接触すると共に、半導体素子の駆動時の熱により膨張する膨張部材(7)と、を備え、半導体素子は、凹部の外郭内側に配置され、導電放熱材を介して導体と熱的に接続されている。
【0008】
これによれば、半導体素子と、凹部を有する導体とを備え、半導体素子が導体の凹部の外郭内側に配置されつつ、半導体素子が裏面以外の部分において固定部材により導体に接続固定された半導体装置となる。そのため、半導体素子と導体との接続面積が小さくなり、半導体素子にかかる応力が緩和され、半導体素子が薄型化されていても、応力に起因する破損を抑制することができる。また、半導体素子が、導電性を有し、かつ駆動時に液状となる導電放熱材を介して導体と熱的に接続されているため、半導体素子と導体との導電性を確保しつつ、半導体素子の放熱性が向上する。
【0009】
さらに、凹部の底面にエアートラップが配置されているため、相転移等の何らかの要因で導電放熱材中に気泡が生じた場合であっても、気泡がエアートラップに捕捉され、半導体素子のうち導体と向き合う一面と導体との隙間に気泡が介在することが抑制される。加えて、凹部と固定部材との間に半導体素子の駆動時の熱により膨張する膨張部材が配置されているため、半導体素子の駆動時に膨張部材が膨張することで、液状の導電放熱材を上記の隙間に押し出す構造となっている。これらの作用により、半導体素子の駆動時に、半導体素子の一面と凹部との隙間に気泡が介在し、熱抵抗が大きくなることが抑制され、より放熱性を確保できる効果が得られる半導体装置となる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図2】導体、半導体素子および固定部材の配置関係の一例を示す平面図である。
図3図1のIII領域を拡大したものであって、エアートラップにおける気泡の捕捉の様子を示す拡大断面図である。
図4A】第1実施形態の半導体装置の製造方法のうち部材の用意工程を示す図である。
図4B図4Aに続く製造工程を示す図である。
図4C図4Bに続く製造工程を示す図である。
図4D図4Cに続く製造工程を示す図である。
図4E図4Dに続く製造工程を示す図である。
図4F図4Eに続く製造工程を示す図である。
図4G図4Fに続く製造工程を示す図である。
図5】膨張部材による導電放熱材の押し込みおよびこれによる導電放熱材の流れを説明するための説明図である。
図6】膨張部材の他の配置例およびこれによる導電放熱材の流れを示す平面図である。
図7】膨張部材の別の配置例およびこれによる導電放熱材の流れを示す平面図である。
図8】膨張部材のさらに別の配置例およびこれによる導電放熱材の流れを示す平面図である。
図9】第2実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図10図9のX領域を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について、図1図3を参照して説明する。本実施形態の半導体装置1は、例えば、自動車等の車両に搭載される車載用途であって、パワーカード等に適用されると好適であるが、勿論、他の用途にも適用されうる。
【0014】
図1では、図2に示すI-Iの断面に相当する位置における断面構成を示すと共に、見易くするため、後述する配線8の一部を省略している。図2では、後述する導体3、半導体素子4および固定部材6の配置関係を分かり易くするため、半導体素子4が配置される領域の外郭を破線で示し、固定部材6が配置される領域の外郭を二点鎖線で示している。
【0015】
〔基本構成〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば図1に示すように、絶縁基板2と、導体3と、半導体素子4と、導電放熱材5と、固定部材6と、膨張部材7と、配線8とを有してなる。半導体装置1は、導体3が凹部31を有し、半導体素子4が凹部31の外郭内側に配置されると共に、凹部31とは異なる位置に配置された固定部材6により導体3に固定されている。半導体装置1は、凹部31の底面にエアートラップ32が形成されている。半導体装置1は、半導体素子4のうち導体3とは反対面を表面4aとし、その反対面を裏面4bとして、凹部31と半導体素子4との間に、導電性を有し、半導体素子4の駆動時に液状となる導電放熱材5が配置されている。半導体装置1は、裏面4bが鉛直方向とは反対側の方向(以下「上方向」という)に向けられた状態で使用され、半導体素子4と凹部31との隙間で生じる気泡がエアートラップ32に入り込む構造となっている。
【0016】
絶縁基板2は、例えば、窒化アルミニウム等の任意の絶縁性材料により構成される板状部材である。絶縁基板2は、例えば、導体3が形成されるか、あるいは別体の導体3が図示しないロウ材などにより取り付けられている。
【0017】
導体3は、例えば、Cu(銅)やAl(アルミニウム)等の導電性を有し、熱伝導率が高い金属材料またはその合金などにより構成される部材である。導体3は、例えば、絶縁基板2に形成される電極、あるいは絶縁基板2とは別体のバスバーやリードフレームなどの別部材である。導体3は、必要に応じて、その最表面を覆う図示しないめっき層が形成されていてもよい。例えば、導体3がAlで構成され、後述する導電放熱材5がGa(ガリウム)を主材料として構成される場合、導体3は、導電放熱材5による腐食を抑制するために、Gaに対する耐食性を有する図示しないめっき層が成膜される。このような場合、導体3は、少なくとも導電放熱材5と接触する領域の全域にめっき層が成膜された構成となる。導体3は、半導体素子4の外郭よりも大きい平面サイズであって半導体素子4の裏面4bと向き合う凹部31と、エアートラップ32とを有してなる。
【0018】
凹部31は、導電放熱材5が配置される領域であり、その底面には設けられた窪みであるエアートラップ32を有している。
【0019】
エアートラップ32は、例えば、図2に示すように凹部31の外郭のなす辺に沿って複数延設されている溝である。複数のエアートラップ32は、例えば、互いに独立しており、図3に示すように半導体素子4と凹部31との隙間に気泡や導電放熱材5の切れ目が生じた場合に、導電放熱材5の流動により運ばれた気泡やエアーを捕捉し、これらを逃さないために設けられる。エアートラップ32は、例えば、凹部31の底面のうち半導体素子4の外郭上あるいは外郭外側に位置する領域に配置される。
【0020】
これにより、エアートラップ32に気泡が捕捉されたとき、半導体素子4の裏面4bと凹部31の底面との間に当該気泡が介在することによる熱抵抗の増大が抑制され、放熱性が向上する。また、半導体素子4の駆動時にエアートラップ32内にエアーが留まる構造であることで、後述する膨張部材7による導電放熱材5の押し込みをエアーを介して行うこととなり、導体3と半導体素子4との隙間に過度な圧力がかかることを抑制する効果も生じる。
【0021】
なお、複数のエアートラップ32は、例えば凹部31の外郭が四角形状とされる場合には、その外郭のなす四辺それぞれに沿って4つ以上、かつ外郭の角部とは異なる領域に配置されるが、これに限定されるものではない。例えば、凹部31の外郭形状やサイズ等については半導体素子4の外郭形状に応じて適宜変更されうるため、複数のエアートラップ32の数、サイズや配置等は、凹部31の外郭形状等に応じて適宜変更されてもよい。
【0022】
半導体素子4は、例えば、表面4aおよび裏面4bを有する四角形板状とされ、Si(シリコン)やSiC(炭化珪素)等の半導体材料により構成される。半導体素子4は、例えば、縦型のパワーMOSFET等のパワー素子であり、公知の半導体プロセスにより製造される。半導体素子4は、例えば、表面4aと裏面4bとを繋ぐ厚み方向の寸法が200μm以下の薄型化されたパワー素子である。半導体素子4は、表面4aおよび裏面4bに図示しない電極膜が形成されており、表面4aにはワイヤ等によりなる配線8が接続され、外部との電気的なやり取りが可能となっている。
【0023】
半導体素子4は、導体3のうち凹部31の外郭内側の領域に配置されつつ、導体3とは距離を隔てて配置されると共に、その外周部分が固定部材6により導体3に固定されている。言い換えると、半導体素子4は、固定部材6を介して導体3に接続固定される一方で、導体3とは直接接触していない状態となっている。
【0024】
導電放熱材5は、凹部31内に配置され、導電性および所定以上の熱伝導率を有し、少なくとも半導体素子4が発熱時には液状となる部材である。導電放熱材5は、例えば、融点が約29.7℃のGa(ガリウム)やその合金などによりなる液体金属で構成される。導電放熱材5は、半導体素子4の裏面4bに形成された図示しない電極と導体3との導通を確保しつつ、半導体素子4の発熱時に当該熱を導体3に伝導させ、放熱性を向上させる役割を果たす。また、導電放熱材5は、流動性を有することで、凹部31内において気泡が発生した場合であっても、当該気泡をエアートラップ32に運び、気泡がエアートラップ32に捕捉されやすくする作用も生じる。
【0025】
なお、導電放熱材5は、導電性を有し、かつ、少なくとも半導体素子4の発熱時に液状となり、流動性が生じる材料で構成されていればよく、上記した材料に限定されない。例えば、導電放熱材5は、Hg(水銀)、Cs(セシウム)、Rb(ルビジウム)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)、In(インジウム)あるいはこれらの少なくとも一種を含む合金などであってもよいし、他の公知の材料であってもよい。また、導電放熱材5は、半導体素子4が駆動していない状態や常温においてはゲル状やペースト状などの液状以外の状態であってもよい。さらに、凹部31内における気泡やエアーの発生としては、例えば、導電放熱材5が固体から液体に相転移する際の体積減少や導体3の凹部31に図示しないめっき層が設けられた場合の当該めっき層からのアウトガスの発生などが挙げられる。
【0026】
固定部材6は、例えば、導体3のうち凹部31の外側に位置する部分と、半導体素子4のうち表面4aもしくは表面4aと裏面4bとを繋ぐ側面、あるいはその両方とを繋ぐように配置され、半導体素子4を導体3に接続固定する部材である。固定部材6は、例えば、エポキシ樹脂等の任意の硬化性樹脂材料により構成され、ディスペンサー等による塗布により配置される。
【0027】
膨張部材7は、柔軟性を有し、固定部材6の構成材料よりも熱膨張率が大きい樹脂材料により構成され、半導体素子4の発熱時に膨張する部材である。膨張部材7は、例えば、内部に複数の独立した気泡を内包する発泡シリコンで構成されている。膨張部材7は、固定部材6と導体3との間であって、少なくとも一部がエアートラップ32の上に配置され、導電放熱材5に接触している。膨張部材7は、半導体素子4の発熱時に膨張し、エアートラップ32における圧力を上昇させることで、液状の導電放熱材5を半導体素子4と凹部31との隙間に押し込む役割を果たす。これにより、半導体素子4と凹部31との隙間に導電放熱材5が存在しない部分が生じること(すなわち液切れ)を抑制でき、半導体素子4と導体3との間における熱抵抗の増大を防ぐことで、半導体素子4の放熱性を高める効果が生じる。
【0028】
配線8は、例えば、AlやCuなどによりなる金属ワイヤであり、ワイヤボンディングにより半導体素子4の表面4aの図示しない電極に接続される。配線8は、例えば、半導体素子4側の一端とは反対側の他端が図示しない他の回路基板等に接続され、図示しない外部電源による半導体素子4への電圧印加を可能としている。
【0029】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。
【0030】
〔製造方法〕
次に、本実施形態の半導体装置1の製造方法について、図4A図4Gを参照して説明する。
【0031】
まず、図4Aに示すように、絶縁基板2と、凹部31およびエアートラップ32を有する導体3とを用意する。絶縁基板2および導体3は、これらの2つの部材を接合した構成であってもよいし、絶縁基板2に電極として導体3が形成された構成であってもよい。凹部31およびエアートラップ32は、例えば、エッチングや切削等の任意の方法によって形成される。
【0032】
なお、半導体装置1の製造は、各部材が使用する状態とは反対方向を向く状態、例えば導体3については凹部31が上方向に面する状態で行われる。また、エアートラップ32は、例えば、フッ素樹脂などによる表面処理がなされ、導電放熱材5の濡れ性が凹部31よりも悪い構成とされることが好ましい。これにより、液状の導電放熱材5は、エアートラップ32に留まりにくくなり、半導体素子4と凹部31との隙間に押し込まれやすくなる。また、エアートラップ32における導電放熱材5の濡れ性を低くすることで、エアートラップ32の面積を小さく抑えることができる効果も期待される。
【0033】
続いて、例えば図4Bに示すように、凹部31に半導体素子4および導電放熱材5を配置する際の位置決め用の治具Jを用意し、治具Jを導体3の上に配置する。治具Jは、例えば、平面サイズが凹部31の外郭よりも小さく、かつ半導体素子4の外郭よりも大きい開口部J1を有した板状のカーボン部材とされる。なお、治具Jは、液状の導電放熱材5が濡れ広がらない材質で構成されるか、あるいは表面処理がなされていればよく、適宜、材料や構成が変更されてもよい。そして、治具Jにより位置決めをしつつ、導体3の凹部31に導電放熱材5、半導体素子4の順番で配置する。このとき、例えば、環境温度が導電放熱材5の融点未満となっており、導電放熱材5は、板状の状態となっている。
【0034】
次いで、例えば図4Cに示すように、導体3の凹部31に半導体素子4および導電放熱材5が配置されたワークを、図示しない加熱ステージにより加熱し、導電放熱材5を溶融させる。このとき、半導体素子4と導体3との間に意図しない気泡が残ることを防ぐ観点から、加熱されたワークが置かれた環境の減圧をしつつ、ワークを揺動させ、脱泡処理を施すことが好ましい。また、導電放熱材5からのアウトガス低減の観点から、ワークの加熱温度を半導体素子4の発熱時における最高温度以上(限定するものではないが、発熱温度が140℃である場合、150℃とするなど)に設定するとより好ましい。なお、ワークの加熱温度は、例えば半導体素子4がSiCを主として構成され、より高温での動作をする場合などには、その最高温度に合わせて、適宜調整されうる。導電放熱材5を溶融させ、エアートラップ32を充填した後に、例えば、冷却により導電放熱材5を固化させ、半導体素子4を固定した状態とし、治具Jを取り外す。
【0035】
そして、例えば図4Dに示すように、ディスペンサー等により発泡シリコンを塗布し、半導体素子4の側面4cおよび導電放熱材5の一部を覆う膨張部材7を形成する。このとき、膨張部材7は、半導体素子4の外郭をなす四辺すべて(すなわち側面4cの全周)を覆うように配置されてもよいが、導電放熱材5の流動性の観点から、四辺のうち一部の辺に配置されることが好ましい。この点については、後述する。
【0036】
その後、例えば図4Eに示すように、ディスペンサー等によりエポキシ樹脂を塗布した後に硬化させ、半導体素子4の表面4aもしくは側面4cまたはその両方と導体3のうち凹部31の外側に位置する部分とを繋ぐ固定部材6を形成する。固定部材6は、導電放熱材5を凹部31内に封止する観点から、半導体素子4の外郭をなす四辺すべてを覆うように配置されることが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、固定部材6は、膨張部材7と異なる部分にのみ配置され、膨張部材7と共に導電放熱材5を封止してよいし、後述する封止材9で半導体素子4および凹部31の全域を覆う場合には、他の配置であってもよい。
【0037】
続いて、例えば図4Fに示すように、金属ワイヤをワイヤボンディング等により半導体素子4の表面4aに接続し、半導体素子4と外部とを電気的に繋ぐ配線8を形成する。
【0038】
なお、必要に応じて、例えば図4Gに示すように、配線8の形成後に、導体3の凹部31および半導体素子4の全域を覆う封止材9をポッティング剤等により形成してもよい。
【0039】
以上のような工程により、本実施形態の半導体装置1を製造することができる。なお、この半導体装置1は、はんだを用いないため、半導体素子4がはんだを溶融させるほどの高温に晒されず、はんだを有する従来の構成の半導体装置に比べて、信頼性や歩留まりが向上する効果も得られる。
【0040】
〔膨張部材〕
次に、膨張部材7による効果と配置例について、図5図8を参照して説明する。
【0041】
図5図8では、凹部31の内側の構成のみを示すと共に、見易くするため、半導体素子4の外郭を破線で示すと共に、導電放熱材5および固定部材6を省略し、断面を示すものではないが、膨張部材7にハッチングを施している。また、図5図8では、説明の便宜上、膨張部材7の膨張による導電放熱材5を押し込む方向を白抜き矢印で示し、凹部31内における導電放熱材5の流れを太線矢印で示している。
【0042】
また、以下の膨張部材7の説明においては、便宜上、「左」、「右」、「上」、「下」と称するものは、それぞれ図5図8において矢印で示す各方向に対応したものである。
【0043】
まず、膨張部材7の配置の一例について、図5を参照して説明する。
【0044】
膨張部材7は、例えば図5に示すように、複数のエアートラップ32のうち対向する2つのエアートラップ32の上に配置される。膨張部材7は、半導体素子4の発熱時に膨張し、エアートラップ32内の導電放熱材5および捕捉されたエアーを押圧し、膨張部材7が配置されたエアートラップ32の圧力を大きくする。この場合、図5の紙面左右に位置する辺に沿って配置されたエアートラップ32の圧力が上昇し、白抜き矢印で示すように、左右から凹部31の中心に向かって導電放熱材5を押し込む力が生じる。
【0045】
これにより、図5に示すように、凹部31の中心から上、下にそれぞれ向かう導電放熱材5の流れが生じ、導電放熱材5を凹部31のうち導体3と半導体素子4との隙間に押し込みつつ、その一部が上および下に位置するエアートラップ32に向けて移動する。その結果、導体3と半導体素子4との間に空隙が生じることを抑制しつつ、導電放熱材5に気泡が生じた場合にその気泡をエアートラップ32に移動させ、捕捉させ、導体3と半導体素子4との間に気泡が残存することを防ぐことができる。
【0046】
また、例えば図6に示すように、膨張部材7は、下および右の2つのエアートラップ32の上に配置されてもよい。この場合、下および右から凹部31の中心に向かう2つの導電放熱材5を押し込む力が生じ、導電放熱材5は、右および下から導体3と半導体素子4との隙間に押し込まれつつ、一部が上および左のエアートラップ32に流れる。このように、膨張部材7は、4つのエアートラップ32のうち隣接する2つのエアートラップ32にのみ配置された場合であっても、導電放熱材5を流動させることができる。
【0047】
また、例えば図7に示すように、膨張部材7は、左、右、下の3つのエアートラップ32の上に配置されてもよい。この場合、左、右、下から凹部31の中心に向かう3つの導電放熱材5を押し込む力が生じ、導電放熱材5は、左、右、下の三方向から導体3と半導体素子4との隙間に押し込まれつつ、一部が上のエアートラップ32に流れる。
【0048】
上記のように凹部31の外郭が四角形をなす形状である場合、膨張部材7は、当該外郭のなす四辺のうち隣接または対向する二辺に沿ったエアートラップ32、あるいは四辺のうち三辺に沿ったエアートラップ32に配置されうる。言い換えると、膨張部材7は、凹部31の外郭のなす四辺のうち少なくとも一辺に沿ったエアートラップ32に配置されない状態とされうる。
【0049】
さらに、例えば図8に示すように、膨張部材7は、すべてのエアートラップ32の上に配置されてもよい。この場合、例えば、構成材料や厚み等を変更し、半導体素子4の発熱時における膨張量が異なる複数の種類の膨張部材7とし、左、右、上、下から凹部31の中心に向かう4つの導電放熱材5を押し込む力に差が生じる状態とされる。これにより、当該押し込む力が不均等になり、凹部31内において、導電放熱材5を導体3と半導体素子4との隙間に押し込みつつ、一部を所定のエアートラップ32に向かって移動させる流れが生じる。
【0050】
このように、膨張部材7は、導電放熱材5を凹部31内で流動させる観点から、導電放熱材5を押し込む力が不均等になるような配置や構成とされることが好ましい。これは、膨張部材7が導電放熱材5を押し込む力が均等である場合には、導電放熱材5に気泡が生じたとき、導電放熱材5を気泡ごと導体3と半導体素子4との隙間に押し込んでしまい、気泡をエアートラップ32に捕捉させにくくなるためである。
【0051】
なお、膨張部材7は、複数のエアートラップ32のうち一部のエアートラップ32の上にのみ配置されつつ、その膨張量が異なる構成であってもよく、その配置や構成等については適宜変更されてもよい。
【0052】
本実施形態によれば、半導体素子4が導体3の凹部31の外郭内側に配置され、半導体素子4の表面4aもしくは側面4cまたはその両方が固定部材6により導体3に接続固定されつつ、半導体素子4の裏面4bが固定されていない半導体装置となる。そのため、半導体素子4と導体3との接続面積が小さくなり、半導体素子4にかかる応力が緩和され、半導体素子4が薄型化されていても、応力に起因する破損が抑制される。また、半導体素子4が、導電性を有し、かつ駆動時に液状となる導電放熱材5を介して導体3と熱的に接続されているため、半導体素子4と導体3との導電性を確保しつつ、半導体素子4の放熱性が向上する。
【0053】
さらに、凹部31の底面にエアートラップ32が配置されているため、相転移等の何らかの要因で導電放熱材5中に気泡が生じた場合であっても、気泡がエアートラップ32に捕捉される。その結果、半導体素子4の裏面4bと導体3との隙間に気泡が介在することが抑制される。加えて、半導体装置1は、凹部31と固定部材6との間に半導体素子4の発熱時に膨張する膨張部材7が配置されているため、半導体素子4の駆動時に膨張部材7が膨張することで、液状の導電放熱材5を上記の隙間に押し出す構造である。これらの作用により、半導体装置1は、半導体素子4の駆動時に、半導体素子4の裏面4bと導体3との隙間に気泡や空隙が介在して熱抵抗が大きくなることが抑制され、より放熱性を確保できる効果が得られる。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について、図9図10を参照して説明する。
【0055】
本実施形態の半導体装置1は、例えば図9に示すように、膨張部材7がエアートラップ32に配置されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0056】
膨張部材7は、本実施形態では、例えば図10に示すように、固定部材6に固定されておらず、エアートラップ32の直下に位置する領域に配置されている。膨張部材7は、エアートラップ32に沿って配置可能であって、半導体素子4の駆動時の熱で膨張する構成であればよく、例えば、気密された空気を内包するカプセル、あるいは空気を内包しない筒状のチューブなどとされる。また、膨張部材7は、上記第1実施形態と同様に、例えば発泡シリコンなどのような独立した複数の気泡を内包する発泡部材であってもよい。
【0057】
膨張部材7は、本実施形態では、半導体素子4の発熱時にエアートラップ32直下の領域において膨張し、エアートラップ32内の圧力を上げることで、液状の導電放熱材5を半導体素子4と凹部31との隙間に押し込む役割を果たす。
【0058】
本実施形態の半導体装置1は、膨張部材7の配置工程を除き、基本的には、上記第1実施形態と同様の製造工程により製造される。半導体装置1は、例えば、板状の導電放熱材5を凹部31に配置する前に、膨張部材7をエアートラップ32に配置しておき、導電放熱材5をその上に置く工程を経て製造される。
【0059】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、本実施形態では、膨張部材7の配置工程が簡略化され、半導体装置1の製造コストを低減できると共に、膨張部材7が固定部材6に固定されていないため、固定部材6に対する膨張部材7の膨張影響が緩和され、信頼性がより向上する効果が得られる。
【0060】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0061】
例えば、上記各実施形態では、固定部材6がほとんど膨張しない構成である場合を代表例として説明したが、固定部材6は、半導体素子4の発熱時において、膨張部材7よりも熱膨張量の小さい膨張量となる構成であってもよい。この場合、固定部材6も膨張部材7として機能し、半導体装置1は、実質的には、膨張部材7により半導体素子4が導体3に固定された構成となる。
【符号の説明】
【0062】
3 導体
31 凹部
32 エアートラップ
4 半導体素子
4a 表面
4b 裏面
4c 側面
5 導電放熱材
6 固定部材
7 膨張部材
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5
図6
図7
図8
図9
図10