(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60K 17/28 20060101AFI20241112BHJP
A01D 34/64 20060101ALI20241112BHJP
A01B 71/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60K17/28 C
A01D34/64 H
A01B71/02 H
(21)【出願番号】P 2021108500
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003834
【氏名又は名称】弁理士法人新大阪国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真佑
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-132816(JP,A)
【文献】特開平07-047854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/28
A01D 34/64
A01B 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTO軸(41)への動力伝達経路に油圧クラッチ(42)を設ける作業車両において、油圧クラッチ(42)への圧油供給状態と油圧クラッチ(42)からの圧油をタンク還流状態に切り替わるPTOバルブ(55)を設け、このPTOバルブ(55)から油圧クラッチ(42)への供給油路(56)を分岐する分岐油路(58)にリリーフバルブ(57)を設け、分岐油路(58)の途中に該分岐油路(58)をリリーフバルブ(57)に連通し又は遮断する2位置切替バルブ(59)を配置し、2位置切替バルブ(59)とリリーフバルブ(57)の間に第1絞り(60)を備え、第1絞り(60)前後の圧力差が所定以上になると分岐油路(58)を遮断側に切替る構成としたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記2位置切替バルブ(59)が分岐油路(58)を遮断側に切り替わるとき、このバルブ(59)の圧油はタンクポートから還流油路(63)を経てタンクに還流するよう構成し、この還流油路(63)に第2絞り(64)を設けてなる請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記第2絞り(64)の下流は大気圧のタンクに通じる構成とした請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記2位置切替バルブ(59)とリリーフバルブ(57)の間の第1絞り(60)の上流側に設けられ前記2位置切替バルブ(59)を分岐油路(58)遮断側に切替え得るパイロット経路(62)に、前記還流
油路(63)の第2絞り(64)上流側に接続されたパイロット経路(65)を接続し、第2絞り(64)上流側の圧力で2位置切替バルブ(59)による分岐油路(58)遮断側の保持を行うよう構成すると共に、第1絞り(60)の上流側に接続されたパイロット経路(62)を連通するか第2絞り(64)上流側に接続されたパイロット経路(65)のいずれが高い方のパイロット圧を2位置切替バルブ(59)に作用させるシャトルバルブ(66)を設けてなる請求項2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用トラクタや芝刈機等の作業車両に関し、特にPTOの作動と非作動を切り替える油圧クラッチを備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用芝刈機のPTO駆動系としてブロア・モーア駆動系がある。例えばブロアの入切用のブロア駆動用油圧クラッチとモーア駆動用油圧クラッチを配置し、ブロア駆動用油圧クラッチとモーア駆動用油圧クラッチをそれぞれソレノイドバルブとコントローラを用いる油圧制御装置で入切する構成とした構成が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1においては、ブロア駆動用やモーア駆動用の油圧クラッチを急に接続すると各動力軸に負荷が過剰にかかったり、ショックが発生するなどの課題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑み、PTO用油圧クラッチの接続時に段階的にクラッチ圧を上昇できる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
【0007】
請求項1に記載の発明は、PTO軸41への動力伝達経路に油圧クラッチ42を設ける作業車両において、油圧クラッチ42への圧油供給状態と油圧クラッチ42からの圧油をタンク還流状態に切り替わるPTOバルブ55を設け、このPTOバルブ55から油圧クラッチ42への供給油路56を分岐する分岐油路58にリリーフバルブ57を設け、分岐油路58の途中に該分岐油路58をリリーフバルブ57に連通し又は遮断する2位置切替バルブ59を配置し、2位置切替バルブ59とリリーフバルブ57の間に第1絞り60を備え、第1絞り前後の圧力差が所定以上になると分岐油路58を遮断側に切替る構成とした。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記2位置切替バルブ59が分岐油路58を遮断側に切り替わるとき、このバルブ59の圧油はタンクポートから還流油路63を経てタンクに還流するよう構成し、この還流油路63に第2絞り64を設ける。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記第2絞り64の下流は大気圧のタンクに通じる構成とした。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記2位置切替バルブ59
とリリーフバルブ57の間の第1絞り60の上流側に設けられ前記2位置切替バルブ59
を分岐油路58遮断側に切替え得るパイロット経路62に、前記還流油路63の第2絞り
64上流側に接続されたパイロット経路65を接続し、第2絞り64上流側の圧力で2位
置切替バルブ59による分岐油路58遮断側の保持を行うよう構成すると共に、第1絞り
60の上流側に接続されたパイロット経路62を連通するか第2絞り64上流側に接続さ
れたパイロット経路65のいずれが高い方のパイロット圧を2位置切替バルブ59に作用
させるシャトルバルブ66を設ける。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によると、圧油を油圧クラッチ42への供給状態とした場合、油圧クラッチ42においてピストンストローク中は第1絞り60前後の圧力差が大きくならないためリリーフバルブ57により制御された圧力でピストン部材42cを動かすことができる。ストロークエンドに到達すると第1絞り60上流の圧力が上昇して2位置切替バルブ59が切り替わり、リリーフバルブ57の作用がなくなり高い圧力に切り替えて油圧クラッチ42に圧油を供給でき円滑にクラッチ接続できる。
【0012】
請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載の効果に加え、2位置切替バルブ59は、分岐油路58から還流油路63に至る経路が高圧に維持されるため、分岐油路58を遮断側に切り替えた状態を保持できる。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、請求項2に記載の効果に加え、還流する圧油の油温上昇等に起因する内圧上昇を抑制し誤作動を防止できる。
【0014】
請求項4に記載の発明によると、請求項2に記載の効果に加え、2位置切替バルブ59による分岐油路58遮断側への切替え又は該切替えの保持のいずれの状態にあってもパイロット圧の漏れを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態にかかる乗用芝刈機の側面図である。
【
図3】
図2のPTO油圧クラッチに関する油圧回路図である。
【
図4】本発明の実施形態にかかる作業車両のPTO油圧クラッチに関する油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
【0018】
走行車体1の前部と後部にそれぞれ前輪2,2と後輪3,3を備え、車体1の前部の下方であって前輪2,2の前方には刈刃4を有する芝草刈り取り用のモーア5が設けられ、所謂フロントモーアを構成している。前記車体1の前部上方のフロア6部にはステアリングコラム7を立設し、該コラム7の上部には操舵用のハンドル8が設けられている。また該ハンドル8の後方には操縦席9を設ける。
【0019】
前記車体1のフレーム構成について詳述すると、前方側より前記フロア6や操縦席9等を支持するフロアフレーム10、エンジン11の動力を受けて走行用変速装置(例えばHST)やモーア5を駆動する伝動系を収容する伝動ケース12、該伝動ケース12の上部に固定された安全ガード用フレーム13、伝動ケース12の下端部に連結され前記エンジン11等を支持する左右一対のサイドフレーム14L,14R等からなる。
【0020】
フロアフレーム10は前側を平面視U状に形成され、前部には前記コラム7を支持し、後部には前記操縦席9や各種レバー等の操作ボックスを支持すべく設けられ、左右の後端を前記安全ガード用フレーム13の左右側面13L,13Rに重合状態で連結する構成である。安全ガード用フレーム13の前記左右側面13L,13Rに、安全ガード15の左右支柱部15L、15Rを連結する構成とし、これら左右支柱部15L,15Rの上端を頭部フレーム15Hで連結している。安全ガード用フレーム13の左右各下部側にL型のケース連結部13aL,13aRを設け、それぞれを前記伝動ケース12の上面及び後面に固定連結することによって強固な剛体構造を得るよう構成している。
【0021】
前記伝動ケース12は、前記のように車体1のフレーム構造を構成する一部となっており、この伝動ケース12の左右各端部に前輪2,2への伝動無端帯やギア類を内装する走行伝動ケース12aL,12aRを伝動可能に装着する。
【0022】
前記エンジン11の高さよりもやや高い位置に、上部フレーム17を構成するが、該上部フレーム17は平面視U型に成形され、湾曲部を後方とし左右の前端部を近傍のフレームに連結する。
【0023】
図1に示すように、前記安全ガード15の後方で、前記上部フレーム17の上方に、昇降機構を介して刈り取った芝草(刈草)を収容するコレクタ32を設けている。昇降機構は、平行リンクの昇降アーム33と、昇降シリンダ機構34とを備え、一端側は前記安全ガード15を支持する安全ガード用フレーム13L,13Rに、他端はコレクタ32を載置できるコレクタフレーム35に連結している。なお、前記モーア5による刈草は、図外ブロアの送風作用を受けて蛇腹ホース36を経由してコレクタ32に収容される構成としている。
【0024】
次いで、前記伝動ケース12内の伝動機構について、HST40を備え無段変速された動力が前後輪2,3に伝動されるよう構成している。また、この伝動ケース12内の伝動機構を分岐してモーア5を駆動するPTOを構成し、PTO軸41には油圧クラッチ42を備えて動力を入り切りできる構成としている。
【0025】
図2において、エンジン11の回転動力はHST回路43のポンプ44を駆動し、斜板制御によってモータ45の回転が制御され変速出力される公知の構成を有する。
【0026】
一方、
図3に示すように、前記PTO軸41への動力伝達経路に設けられる油圧クラッチ42は、軸方向に摺動自在とした駆動側多板プレート42aと被動側多板プレート42bを交互に配置し、ピストン部材42cが背圧上昇によって駆動側プレート42aを押圧しつつ軸方向に沿い前進すると駆動側多板プレート42aと被動側多板プレート42bとを所定に圧接させて伝動可能とする周知の構成としている。油圧ポンプ46からの圧油を減圧バルブ47を経由してPTO制御バルブ48に導入し、このPTO制御バルブ48の切替作動によって油圧クラッチ42に圧油を供給しまたは排出作動させ、動力入り切りに切替えできる構成としている。
【0027】
図3の詳細図に示すように、PTO制御バルブ48は3位置切替バルブの形態とされ両側にソレノイド48a,48bを備える。最初にソレノイド48aが励磁され、減圧バルブ47からの供給圧油はポートBから供給油路49を経由して油圧クラッチ42に供給される。そしてクラッチストローク到達後ソレノイド48bの励磁に切り替わり、ポートAからの供給圧油は合流する供給油路49から油圧クラッチ42に供給される。なお、ソレノイド48aが励磁され圧油がポートBから供給されるときは、タンクポートTへの還流経路に絞り50を設けることでストロークエンド到達までは減圧制御可能に設けられ、一方、ソレノイド48bが励磁され圧油がポートAから供給されるときは、タンクポートTへの還流経路が遮断されるため全量全圧が油圧クラッチ42に供給される。したがって、クラッチ接続時に急激に動力接続する恐れが少ない。
【0028】
ところが、前記
図2、
図3におけるPTO制御バルブ48の場合は、ピストンストローク中の圧油による出力圧及び流量のばらつきが大きく、またピストンストロークのストロークエンド到達後から全圧をかけるまでにタイムラグが生じる。このような事情に鑑みて、
図4のように改良を加えることとした。
【0029】
すなわち、
図4において、ソレノイド55aを備え油圧クラッチ42への圧油供給状態と油圧クラッチ42からの圧油をタンク還流状態に切り替わる2位置切替PTOバルブ55を設ける。このPTOバルブ55から油圧クラッチ42への供給油路56を分岐してリリーフバルブ57を設けるが、分岐油路58の途中には、油路をリリーフバルブ57に連通し又は遮断する2位置切替バルブ59を配置している。またリリーフバルブ57の上流側、すなわち2位置切替バルブ59とリリーフバルブ57の間に第1絞り60を備え、この第1絞り60の前後のうち下流側には当該下流側の圧力にて2位置切替バルブ59を分岐油路58接続側に付勢するパイロット回路61を、上流側には当該上流側の圧力を受けて2位置切替バルブ59を分岐油路58遮断側に切替え得るパイロット経路62を構成し、第1絞り60前後の圧力差が所定以上になると分岐油路58を遮断側に切替る構成としている。
【0030】
したがって、PTOバルブ55のソレノイド55aを励磁し圧油を油圧クラッチ42への供給状態とした場合、油圧クラッチ42においてピストンストローク中は第1絞り60前後の圧力差が大きくならないためリリーフバルブ57により制御された圧力でピストン部材42cを動かすことができる。ストロークエンドに到達すると第1絞り60上流の圧力が上昇して2位置切替バルブ59が切り替わり、リリーフバルブ57の作用がなくなり高い圧力に切り替えて油圧クラッチ42に圧油を供給でき円滑にクラッチ接続できる。
【0031】
前記2位置切替バルブ59が分岐油路58を遮断側に切り替わるとき、このバルブ59の圧油はタンクポートから還流油路63を経てタンクに還流するが、この還流油路63に第2絞り64を設ける。このように構成すると、2位置切替バルブ59は、分岐油路58から還流油路63に至る経路が高圧に維持されるため、分岐油路58を遮断側に切り替えた状態を保持できる。なお、前記第2絞り64の下流は大気圧のタンクに通じる構成としており、還流する圧油の油温上昇等に起因する内圧上昇を抑制し誤作動を防止できる。
【0032】
また、前記2位置切替バルブ59とリリーフバルブ57の間の第1絞り60の上流側に設けられ前記2位置切替バルブ59を分岐油路58遮断側に切替え得るパイロット経路62に、前記還流通路63の第2絞り64上流側に接続されたパイロット経路65を接続し、第2絞り64上流側の圧力で2位置切替バルブ59による分岐油路58遮断側の保持を行うよう構成すると共に、第1絞り60の上流側に接続されたパイロット経路62を連通するか第2絞り64上流側に接続されたパイロット経路65のいずれが高い方のパイロット圧を2位置切替バルブ59に作用させるシャトルバルブ66を設けている。これによって、2位置切替バルブ59による分岐油路58遮断側への切替え又は該切替えの保持のいずれの状態にあってもパイロット圧の漏れを低減できる。
【0033】
なお、前記実施例では芝刈機のPTO油圧クラッチについて説明したが、農業用トラクタ、産業車両等のPTO油圧クラッチに応用できる。
【0034】
なお、
図2の油圧回路において、前記減圧バルブ47への圧油の一部は操舵連動油圧回路70に導入される。操舵連動油圧回路70は前記操舵ハンドル8の旋回操舵に連動してステアリングシリンダ71を作動し前輪操舵に寄与する。
【0035】
さらに操舵連動油圧回路70を迂回した圧油は昇降油圧回路72に導入される。昇降油圧回路72の切替作動によって前記昇降シリンダ機構34を伸縮作動する構成としている。
【符号の説明】
【0036】
41 PTO軸
42 油圧クラッチ
55 PTOバルブ
57 リリーフバルブ
58 分岐油路
59 2位置切替バルブ
60 第1絞り
62 パイロット経路
63 還流油路
64 第2絞り
65 パイロット経路
66 シャトルバルブ