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特許7585998信号伝送用ケーブル及びケーブルアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】信号伝送用ケーブル及びケーブルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/18 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H01B11/18 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021109033
(22)【出願日】2021-06-30
(65)【公開番号】P2023006438
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
(72)【発明者】
【氏名】中出 良樹
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲金▼偉龍
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-045244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の周囲を覆う絶縁体と、
前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、
前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、
前記シールド層は、複数の金属素線を前記絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド部と、前記横巻きシールド部の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部と、を有し、
前記一括めっき部は、ケーブル長手方向に垂直な断面において、円形の外周を有し、
前記シースは、ケーブル長手方向に垂直な断面において、円形の内周を有し、
前記金属素線の直径をdとし、前記金属素線の外表面のうち最もケーブル径方向における外方の位置からのケーブル径方向に沿った前記一括めっき部の厚さをtとしたとき、ケーブル全周にわたって下式
0<t<0.5d
を満たし、
曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、前記一括めっき部に割れが生じない、
信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、特性インピーダンスの変化量が16Ω/ns以下である、
請求項1に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記シールド層は、周方向に隣り合う前記金属素線同士が離間している離間部分において、周方向に隣り合う前記金属素線同士が前記一括めっき部により連結されている連結部を有し、
前記連結部は、前記金属素線の外表面のうち最もケーブル径方向における外方の位置よりも外側の部分を有する、
請求項1または2に記載の信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブルと、
前記信号伝送用ケーブルの少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材と、を備えた、
ケーブルアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送用ケーブル及びケーブルアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転等に用いられる撮像装置や、スマートフォン、タブレット端末等電子機器の内部配線、あるいは、産業用ロボット等の工作機械で配線として用いられる高周波信号伝送用のケーブルとして、同軸ケーブルが用いられている。
【0003】
従来の同軸ケーブルとして、樹脂層上に銅箔を設けた銅テープ等のテープ部材を、絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けてシールド層を構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-285747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の同軸ケーブルでは、所定の周波数帯域(例えば、1.25GHz等の数GHzの帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまうという課題がある。
【0006】
これに対して、例えば、絶縁体の外表面にめっきを施してシールド層を構成することで、サックアウトの発生を抑制することが可能である。しかし、同軸ケーブルを繰り返し曲げたときに、めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生することがある。めっきからなるシールド層に亀裂や絶縁体外面からのはく離が発生すると、シールド効果が低下してしまう。すなわち、同軸ケーブルに生じるノイズをシールド層よって遮蔽する効果が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい信号伝送用ケーブル及びケーブルアセンブリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲を覆う絶縁体と、前記絶縁体の周囲を覆うシールド層と、前記シールド層の周囲を覆うシースと、を備え、前記シールド層は、複数の金属素線を前記絶縁体の周囲に螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド部と、前記横巻きシールド部の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部と、を有し、前記金属素線の直径をdとし、前記金属素線の外表面からの前記一括めっき部の厚さをtとしたとき、ケーブル全周にわたって下式
t<0.5d
を満たし、曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、前記一括めっき部に割れが生じない、信号伝送用ケーブルを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記信号伝送用ケーブルと、前記信号伝送用ケーブルの少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材と、を備えた、ケーブルアセンブリを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰が生じにくい信号伝送用ケーブル及びケーブルアセンブリを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る信号伝送用ケーブルである同軸ケーブルを示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
図2】一括めっき部の形成を説明する図である。
図3】曲げ試験における実施例1の結果を示す図であり、(a)は特性インピーダンスの測定結果を示すグラフ図、(b)は(a)より求めた特性インピーダンスの変化量を示すグラフ図である。
図4】曲げ試験における実施例2の結果を示す図であり、(a)は特性インピーダンスの測定結果を示すグラフ図、(b)は(a)より求めた特性インピーダンスの変化量を示すグラフ図である。
図5】曲げ試験における比較例の結果を示す図であり、(a)は特性インピーダンスの測定結果を示すグラフ図、(b)は(a)より求めた特性インピーダンスの変化量を示すグラフ図である。
図6】曲げ試験後にシールド層4の外観を観察した写真であり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例を示す。
図7】本発明の一実施の形態に係るケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(同軸ケーブル1の全体構成)
図1は、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブルである同軸ケーブル1を示す図であり、(a)は長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)はその要部拡大図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、信号伝送用ケーブルとしての同軸ケーブル1は、導体2と、導体2の周囲を覆うように設けられている絶縁体3と、絶縁体3の周囲を覆うように設けられているシールド層4と、シールド層4の周囲を覆うように設けられているシース5と、を備えている。
【0015】
導体2は、複数本の金属素線21を撚り合わせた撚線導体からなる。本実施の形態では、導体2として、金属素線21を撚り合わせた後、ケーブル長手方向に垂直な断面形状が円形状となるように圧縮加工された圧縮撚線導体を用いた。導体2として圧縮撚線導体を用いることで、導電率が向上し良好な伝送特性が得られると共に、曲げやすさも維持できる。金属素線21としては、例えば、外径0.023mmの軟銅線を用いることができる。また、金属素線21としては、導電率や機械的強度を向上させる観点から、錫(Sn)、銀(Ag)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等を含む銅合金線を用いてもよい。
【0016】
絶縁体3は、例えば、PFAやFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる。絶縁体3は、発泡樹脂であってもよく、耐熱性を向上すべく架橋された樹脂で構成されてもよい。また、絶縁体3は、さらに多層構造となっていてもよい。例えば、導体2の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第1非発泡層を設け、第1非発泡層の周囲に発泡ポリエチレンからなる発泡層を設け、発泡層の周囲に非発泡のポリエチレンからなる第2非発泡層を設けた3層構成とすることもできる。本実施の形態では、導体2の周囲に、PFAからなる絶縁体3をチューブ押出しにより形成した。絶縁体3をチューブ押出しにより形成することで、端末加工時に導体2から絶縁体3を剥がし易くなり、端末加工性が向上する。
【0017】
シース5は、例えば、PFAやFEP等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、架橋ポリオレフィン等からなる。本実施の形態では、フッ素樹脂からなるシース5をチューブ押出しにより形成した。
【0018】
(シールド層4)
本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、シールド層4は、絶縁体3の周囲に複数の金属素線411を螺旋状に巻き付けた横巻きシールド部41と、横巻きシールド部41の周囲全体を一括して覆うように設けられた導電性の一括めっき部42と、を有する。
【0019】
本実施の形態では、一括めっき部42によって金属素線411が固定されることになるため、同軸ケーブル1の曲げやすさを確保するために、金属素線411としては、塑性変形しやすい低耐力な材質からなるものを用いる必要がある。より具体的には、金属素線411としては、引張強さが200MPa以上380Pa以下であり、かつ伸びが7%以上20%以下であるものを用いるとよい。
【0020】
本実施の形態では、金属素線411として、軟銅線からなる金属線411aの周囲に銀からなるめっき層411bを有する銀めっき軟銅線を用いた。なお、金属線411aとしては、軟銅線に限らず、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、あるいは純銅に微量の金属元素(例えば、チタン、マグネシウム等)を添加した低軟化温度の線材等を用いることができる。また、めっき層411bを構成する金属は銀に限らず、例えば錫や金であってもよい。ただし、同軸ケーブル1の電気特性を良好とするために、めっき層411bは導電率が高いことが望ましく、少なくとも一括めっき部42よりも導電率が高い材質からなるものを用いることが望ましい。すなわち、導電率が高い銀からなるめっき層411bを用いることがより好ましいといえる。また、金属素線411としては、直径(外径)dが0.02mm以上0.10mm以下のものを用いるとよい。ここでは、直径0.025mmの銀めっき軟銅線からなる金属素線411を22本用いることで、横巻きシールド部41を形成した。
【0021】
また、本実施の形態では、溶融めっきからなる一括めっき部42として、錫からなるものを用いた。ただし、これに限らず、一括めっき部42として、例えば銀、金、銅、亜鉛等からなるものを用いることができる。ただし、製造の容易さの観点から、錫からなる一括めっき部42を用いることがより好ましいといえる。
【0022】
図2は、一括めっき部42の形成を説明する図である。まず、一括めっき部42の形成に先立ち、絶縁体3の周囲に複数本の金属素線411を撚り合わせて横巻きシールド部41を形成する。絶縁体3の周囲に横巻きシールド部41を形成したものをケーブル基体101と呼称する。一括めっき部42を形成する際は、まず、送り出し装置102にケーブル基体101を巻き付けたドラム102aをセットし、送り出し装置102からケーブル基体101を送り出す。送り出し装置102から送り出されたケーブル基体101は、フラックス槽103に導入され、ケーブル基体101の周囲(すなわち横巻きシールド部41の周囲)に、フラックスが塗布される。フラックスは、横巻きシールド部41の周囲全体に溶融した錫が一括して付着しやすくするためのものであり、塩素と亜鉛を主成分としている。フラックスとしては、例えば、ロジン系のフラックス等を用いることができる。
【0023】
フラックス槽103を通過したケーブル基体101は、250℃以上300℃未満の温度に溶融した錫を貯留しためっき槽104に導入され、ダイス105を通過する。ダイス105の通過後に残った錫が冷却されることで、一括めっき部42が形成される。すなわち、一括めっき部42は、溶融めっきによって形成された溶融めっき層である。その後、一括めっき部42を形成したケーブル基体101を、巻き取り機106で巻き取る。なお、横巻きシールド部41が形成されたケーブル基体101をめっき槽104に通すときの線速度は、例えば、40m/min以上80m/min以下であり、より好ましくは、50m/min以上70m/min以下である。
【0024】
一括めっき部42を形成する際、溶融した錫(すなわち、溶融めっき)に接触する部分のめっき層411bを構成する銀はめっき槽104内の錫に拡散し、金属素線411と一括めっき部42との間(すなわち、金属線411aと一括めっき部42との間であって、当該金属線411aの表面と接する部分)に銅と錫を含む金属間化合物411cが形成される。本発明者らがSEM(走査型電子顕微鏡)を用いたEDX分析(エネルギー分散型X線分光法による分析)を行ったところ、金属素線411の表面(金属素線411と一括めっき部42との間)に、銅と錫とからなる金属間化合物411cが層状に存在することが確認できた。すなわち、金属間化合物411cは、溶融めっきからなる一括めっき部42を構成する金属元素(錫等)と金属素線411の主成分を構成する金属元素(銅等)とが金属的に拡散反応して金属素線411の表面に化合物層が形成されたものである。金属間化合物411cの層の厚さは、例えば0.2μm~1.5μm程度である。なお、金属間化合物411cには、めっき層411bを構成する銀が含まれていると考えられるが、金属間化合物411cにおける銀の含有量は、EDX分析で検出が難しい程度のごく微量である。
【0025】
シールド層4は、金属素線411と一括めっき部42との間に金属間化合物411cが形成されることにより、同軸ケーブル1を繰り返し曲げたときや捩ったときに、金属素線411の表面から一括めっき部42が剥がれにくく、金属素線411と一括めっき部42との間に隙間が生じにくくなる。これにより、同軸ケーブル1では、曲げや捩りが加わった場合にも、横巻きシールド部41の外側から一括めっき部42によって横巻きシールド部41を固定した状態を保つことができ、シールド層4と導体2との距離が変化しにくくなる。そのため、同軸ケーブル1では、曲げや捩りによってシールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域で急激な減衰も生じにくくすることができる。金属間化合物411cの層の厚さは、例えば、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、同軸ケーブル1の横断面(同軸ケーブル1の長手方向に垂直な断面)を観察することにより求められる。
【0026】
一括めっき部42と接触しない部分の金属素線411(めっき時に溶融した錫と接触しない部分の金属素線411)には、銀からなるめっき層411bが残存する。すなわち、ケーブル径方向において内側(絶縁体3側)の部分の金属素線411には、銀からなるめっき層411bが残存する。すなわち、本実施の形態に係る同軸ケーブル1におけるシールド層4は、複数の金属素線411が一括めっき部42によって覆われる外周部分4aよりも、複数の金属素線411が一括めっき部42で覆われておらずめっき層411bが露出した内周部分4bの導電率が高くなっている。高周波信号の伝送においては、電流はシールド層4における絶縁体3側に集中するため、銀等の高い導電率を有するめっき層411bがシールド層4の内周部分4bに存在することにより、シールド層4の導電性の低下を抑制し、良好な減衰特性を維持することが可能になる。一括めっき部42を構成する錫めっきの導電率は15%IACSであり、めっき層411bを構成する銀めっきの導電率は108%IACSである。
【0027】
なお、ここでいう外周部分4aとは、金属素線411が溶融めっき時に溶融しためっき(錫等)に接触する部分(すなわち金属間化合物411cが形成された部分)である。また、内周部分4bとは、銀めっき等からなるめっき層411bが残存している部分である。
【0028】
シールド層4は、周方向に隣り合う金属素線同士が離間している離間部分45を有している。なお、全ての金属素線411が離間している必要はなく、周方向に隣り合う一部の金属素線411同士が接触している接触部分が存在してもよい。なお、接触部分では、横巻きシールド部41の外周において、周方向に隣り合う金属素線411同士の間が一括めっき部42によって充填された充填部を有する。
【0029】
そして、シールド層4は、周方向に隣り合う金属素線411同士が一括めっき部42により連結されている連結部43を有している。一括めっき部42は、周方向および軸方向において横巻きシールド部41の周囲全体を一括して覆い、複数の金属素線411を機械的及び電気的に接続するように設けられることが望ましい。本実施の形態に係る同軸ケーブル1のシールド層4では、隣り合う内周部分4bの間に連結部43が設けられている。内周部分4bの周囲は一括めっき部42により覆われていないため、隣り合う金属素線411の内周部分4b同士の間で、かつ、絶縁体3の外面と一括めっき部42(連結部43)の内面との間には、空気層44が存在する。この空気層44に関し、絶縁体3の外面と対向する連結部43の内面は、連結部43の内部側へ凹むように湾曲した形状を有している。このような湾曲した形状を有することにより、絶縁体3の外面と連結部43の内面との間に所定の大きさの空気層44を設けることができるため、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域(例えば、26GHzまでの周波数帯域)で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル1とすることができる。
【0030】
例えば、シールド層4を横巻きシールド部41のみで構成すると、金属素線411間に隙間が発生してノイズ特性が低下してしまう。さらに、金属素線411の間に生じる隙間の影響により、所定の周波数帯域(例えば、10GHz~25GHzの帯域)で急激な減衰が生じるサックアウトと呼ばれる現象が発生してしまう。本実施の形態のように、横巻きシールド部41の周囲全体を覆うように溶融めっきからなる一括めっき部42を設けることで、一括めっき部42により金属素線411間の隙間を塞ぐことができ、シールド効果を向上できる。これにより、信号伝送の損失が生じにくくなる。さらに、金属素線411間の隙間がなくなることにより、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。
【0031】
さらに、横巻きシールド部41の周囲を覆うように一括めっき部42を設けることで、端末加工時にケーブル端末部においてシース5を除去しシールド層4を露出させた際に、金属素線411が解けにくくなり、端末加工を容易に行うことが可能になる。さらにまた、横巻きシールド部41の周囲を覆うように一括めっき部42を設けることで、ケーブル長手方向においてインピーダンスを安定して一定に維持することも可能になる。
【0032】
(一括めっき部42の厚さ)
本実施の形態に係る同軸ケーブル1は、横巻きシールド部41の金属素線411の直径をdとし、金属素線411の外表面からの一括めっき部42の厚さをtとしたとき、ケーブル全周にわたって下式(1)
t<0.5d ・・・(1)
を満たしている。これにより、一括めっき部42の厚さtがケーブル周方向やケーブル長手方向で不均一となることが抑制され(すなわち、厚さtのばらつきが0.5d未満の範囲で抑えられ)、同軸ケーブル1を屈曲した際に横巻きシールド部41に負荷されるひずみが不均一となることが抑制される。その結果、同軸ケーブル1を可とう性のばらつきや屈曲特性のばらつき(曲げる方向ごとのばらつき、及び、ケーブル長手方向でのばらつき)を抑制することが可能になる。
【0033】
また、一括めっき部42の厚さtを0.5d未満とすることで、シールド層4の表面に負荷される歪εsが小さくなるため、可とう性を向上させることができると共に、同軸ケーブル1に対して繰り返し曲げを行ったときに屈曲寿命を長くすることができる(すなわち、繰り返し曲げによってシールド層4が破壊されにくくなる)。なお、シールド層4の表面に負荷される歪εsは、下式(2)
εs=(t+d)/(2・R) ・・・(2)
但し、d:金属素線411の直径(横巻きシールド部41の厚さ)
R:曲げ半径
で表される。
【0034】
さらにまた、一括めっき部42の厚さtを0.5d未満と薄くすることによって、同軸ケーブル1を小さい曲げ半径で曲げた際に、一括めっき部42に割れが生じにくくなる。なお、一括めっき部42の厚さtとは、横巻きシールド部41(金属素線411)よりも径方向外方に位置する一括めっき部42の厚さを意味しており、金属素線411の外表面のうち最もケーブル径方向における外方の位置(ケーブル中心から最も離れた位置)からの、ケーブル径方向に沿った厚さを意味している。すなわち、一括めっき部42の厚さtは、金属素線411の周囲で最も薄くなっている部分の一括めっき部42の厚さを示している。
【0035】
なお、金属素線411が一括めっき部42に覆われていないと、伝送特性に悪影響が生じるおそれがあるため、一括めっき部42の厚さtは0よりは大きいことが望ましく、ケーブル全周にわたって下式(3)
0<t<0.5d ・・・(3)
を満たすことがより望ましい。
【0036】
本発明者らは、図1の同軸ケーブル1を作製し、作製した同軸ケーブル1をU字状に屈曲させた際のケーブル長手方向に沿った特性インピーダンスの変化を測定する試験(以下、曲げ試験という)を行った。ここでは、ケーブル外径Dが0.575mmである36AWG(American wire gauge)の同軸ケーブル1(実施例1)と、ケーブル外径Dが0.400mmである38AWGの同軸ケーブル1(実施例2)を作製した。実施例1,2のいずれの同軸ケーブル1においても、横巻きシールド部41には、直径dが0.05mmの金属素線411を用い、シース5の厚さTは0.05mmとした。作製した実施例1,2の同軸ケーブル1の断面を観察したところ、実施例1,2のいずれの同軸ケーブル1においても、一括めっき部42の厚さtは、約0.005mm(5μm)であり、t<0.5d(=0.025)の条件を満たした。
【0037】
同様にして、比較例として、ケーブル外径Dが1.08mmである30AWGの同軸ケーブルを作製し、実施例1,2と同様に曲げ試験を行った。比較例の同軸ケーブルでは、横巻きシールド部41には、実施例1,2と同様に、直径dが0.05mmの金属素線411を用い、シース5の厚さTは0.05mmとした。また、作製した比較例の同軸ケーブルの断面を観察したところ、一括めっき部42の厚さtは、約0.040mm(40μm)であり、tは0.5d(=0.025)より大きく、t<0.5dの条件を満たしていなかった。
【0038】
曲げ試験では、同軸ケーブル1を屈曲させる際の曲げ半径Rを変化させて、特性インピーダンスの測定を行った。実施例1の測定結果を図3(a),(b)に、実施例2の測定結果を図4(a),(b)に、比較例の測定結果を図5(a),(b)にそれぞれ示す。
【0039】
また、同軸ケーブルを曲げた際の曲げ歪εは、下式(4)
ε={(D/2)/(R+(D/2)+T)} ・・・(4)
但し、D:ケーブル外径
R:曲げ半径
T:シース5の厚さ
により演算することができる。実施例1,2及び比較例における曲げ半径毎の曲げ歪を、まとめて表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
図3(a),(b)及び図4(a),(b)に示すように、実施例1,2の同軸ケーブル1では、曲げにより大きくインピーダンスが変化することはなかった。また曲げ試験後にシールド層4の外観を目視により確認したところ、実施例1,2では一括めっき部42の割れは確認できなかった。
【0042】
より詳細には、表1、図3(b)、及び図4(b)より、本実施の形態に係る同軸ケーブル1では、曲げ歪が35%以下の範囲(より好ましくは34.3%以下の範囲)でU字状に曲げた際に、特性インピーダンスの変化量が16Ω/ns以下と小さくなっており、一括めっき部42に割れが生じないことが確認できた。なお、実施例1,2において曲げ半径Rを0.5mmとした場合について、曲げ試験後にシールド層4の外観を観察した写真を図6(a),(b)に示す。図6(a),(b)に示すように、曲げ試験後にシールド層4の外観を目視により確認したところ、一括めっき部42に座屈が発生していないことが確認できた。
【0043】
これに対して、図5(a),(b)に示すように、比較例の同軸ケーブルでは、曲げ半径Rを5mm以下とした際に、特性インピーダンスの変化量が16Ω/nsより大きくなっていることがわかる。これは、一括めっき部42に割れが生じたためであると考えられる。また、曲げ半径Rを1mm(曲げ歪ε=34.0)とした場合において、曲げ試験後にシールド層4の外観を観察した写真を図6(c)に示す。図6(c)に示すように、曲げ試験後にシールド層4の外観を目視により確認したところ、一括めっき部42に座屈が発生していることが確認できた。このように、t<0.5dの条件を満たさない比較例においては、少なくとも曲げ半径Rを5mm以下とした場合(曲げ歪を9.7以上とした場合)に、一括めっき部42に割れが発生してしまうことが確認できた。
【0044】
(ケーブルアセンブリ)
次に、同軸ケーブル1を用いたケーブルアセンブリについて説明する。図7は、本実施の形態に係るケーブルアセンブリの端末部を示す断面図である。
【0045】
図7に示すように、ケーブルアセンブリ10は、本実施の形態に係る同軸ケーブル1と、同軸ケーブル1の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材11と、を備えている。
【0046】
端末部材11は、例えば、コネクタ、センサ、コネクタやセンサ内に搭載される基板、あるいは電子機器内の基板等である。図7では、端末部材11が基板11aである場合を示している。基板11aには、導体2が接続される信号電極12、及び、シールド層4が接続されるグランド電極13が形成されている。基板11aは、樹脂からなる基材16に信号電極12及びグランド電極13を含む導体パターンが印刷されたプリント基板からなる。
【0047】
同軸ケーブル1の端末部においては、端末から所定長さの部分のシース5が除去されシールド層4が露出されており、さらに露出されたシールド層4及び絶縁体3の端末部が除去され導体2が露出されている。露出された導体2が半田等の接続材14によって信号電極12に固定され、導体2が信号電極12に電気的に接続されている。また、露出されたシールド層4が半田等の接続材15によってグランド電極13に固定され、シールド層4がグランド電極13に電気的に接続されている。なお、導体2やシールド層4の接続は半田等の接続材14,15を用いずともよく、例えば、固定用の金具に導体2やシールド層4を加締め等により固定することで、導体2やシールド層4を接続してもよい。また、端末部材11がコネクタやセンサである場合、導体2やシールド層4を直接電極や素子に接続する構成としてもよい。
【0048】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る信号伝送用ケーブルとしての同軸ケーブル1では、シールド層4は、複数の金属素線411を絶縁体3の周囲に螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド部41と、横巻きシールド部41の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部42と、を有し、金属素線411の直径をdとし、金属素線411の外表面からの一括めっき部42の厚さをtとしたとき、ケーブル全周にわたって下式(1)
t<0.5d ・・・(1)
を満たし、曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、一括めっき部42に割れが生じない。
【0049】
このように構成することで、シールド層4が一括めっき部42を介して略全周で繋がることになり、横巻きシールド部41の金属素線411間の隙間を一括めっき部42で塞ぐことが可能になり、ノイズ特性を向上し、サックアウトの発生を抑制することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、シールド効果の低下が生じにくく、所定の周波数帯域(例えば、26GHzまでの周波数帯域)で急激な減衰が生じにくい同軸ケーブル1を実現できる。
【0050】
さらに、一括めっき部42の厚さtを0.5d未満とすることで、同軸ケーブル1を小さい曲げ半径で曲げた際に、一括めっき部42に割れが生じにくくなると共に、一括めっき部42の厚さtが不均一となって可とう性や屈曲特性のばらつきが生じることを抑制可能になる。また、可とう性と繰り返し曲げ特性を向上させ、屈曲寿命を長くすることが可能になる。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]導体(2)と、前記導体(2)の周囲を覆う絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)の周囲を覆うシールド層(4)と、前記シールド層(4)の周囲を覆うシース(5)と、を備え、前記シールド層(4)は、複数の金属素線(411)を前記絶縁体(3)の周囲に螺旋状に巻き付けて構成された横巻きシールド部(41)と、前記横巻きシールド部(41)の周囲を覆う溶融めっきからなる一括めっき部(42)と、を有し、前記金属素線(411)の直径をdとし、前記金属素線(411)の外表面からの前記一括めっき部(42)の厚さをtとしたとき、ケーブル全周にわたって下式
t<0.5d
を満たし、曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、前記一括めっき部(42)に割れが生じない、信号伝送用ケーブル(1)。
【0053】
[2]曲げ歪が35%以下の範囲でU字状に曲げた際に、特性インピーダンスの変化量が16Ω/ns以下である、[1]に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0054】
[3]ケーブル全周にわたって下式
0<t<0.5d
を満たす、[1]または[2]に記載の信号伝送用ケーブル(1)。
【0055】
[4][1]乃至[3]の何れか1項に記載の信号伝送用ケーブル(1)と、前記信号伝送用ケーブル(1)の少なくとも一方の端部に一体に設けられた端末部材(11)と、を備えた、ケーブルアセンブリ(10)。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…同軸ケーブル(信号伝送用ケーブル)
2…導体
3…絶縁体
4…シールド層
5…シース
10…ケーブルアセンブリ
11…端末部材
41…横巻きシールド部
411…金属素線
42…一括めっき部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7