(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20241112BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20241112BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01S5/026
H01S5/22 610
H01S5/343
(21)【出願番号】P 2021115747
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】奥村 忠嗣
(72)【発明者】
【氏名】深井 春紀
(72)【発明者】
【氏名】須田 昇
(72)【発明者】
【氏名】坂井 繁太
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-368335(JP,A)
【文献】特開平07-312462(JP,A)
【文献】特開平08-078386(JP,A)
【文献】特開2003-158344(JP,A)
【文献】特開平01-239984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0151804(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型クラッド層と、
前記第1導電型クラッド層を区画する絶縁層と、
前記絶縁層にて区画された前記第1導電型クラッド層上にそれぞれ積層され、互いに異なる波長のレーザ光を放射するm(mは2以上の整数)個の発光層と、
前記m個の発光層上にそれぞれ積層されたm個の第2導電型クラッド層と、
前記絶縁層上に積層された多結晶半導体層とを備えることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記多結晶半導体層は、前記第2導電型クラッド層の構成元素を主成分として含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記発光層は、(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0≦x<1、0<y<1)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2導電型クラッド層は、(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0<x≦1、0<y<1)から構成されることを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記m個の第2導電型クラッド層にそれぞれ用いられる(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP間のAl組成xの差は、前記m個の発光層にそれぞれ用いられる(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP間のAl組成xの差よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記絶縁層によって区画された前記第1導電型クラッド層上の前記m個の発光層の幅は互いに異なることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記絶縁層は、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、BおよびTiの少なくともいずれか1つの酸化物、窒化物またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項8】
第1導電型クラッド層を化合物半導体基板上に形成する工程と、
開口幅が異なるm(mは2以上の整数)個の開口部を有するマスクを前記第1導電型クラッド層上に形成する工程と、
前記開口部に位置する前記第1導電型クラッド層上に発光層を選択成長する工程と、
前記マスク上に多結晶半導体層を堆積させつつ、前記発光層上に第2導電型クラッド層を積層する工程とを備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記開口部に位置する前記第1導電型クラッド層をエッチングまたはクリーニングする工程をさらに備え、
前記第1導電型クラッド層のエッチング面上またはクリーニング面上に前記発光層を選択成長することを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記開口部に前記第1導電型クラッド層を再成長する工程をさらに備え、
前記第1導電型クラッド層の再成長面上に前記発光層を選択成長することを特徴とする請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザを用いたプロジェクタなどのディスプレイ装置の市場が拡大している。半導体レーザをディスプレイ装置に用いる場合、解像度およびフレームレートなどの画質を向上させるため、狭ピッチでマルチ発光層(複数の発光層)を独立駆動するモノリシック構造の横シングルモード半導体レーザが求められる。
【0003】
特許文献1には、同一素子内で複数の波長のレーザを発振可能な多波長半導体レーザが開示されている。特許文献1の技術では、AlGaAs系の量子井戸レーザにおいて、第1と第2の量子井戸活性層の井戸幅(物理的膜厚)を異ならせることで、多波長化が図られている。具体的には、半導体基板上に絶縁膜を形成後、素子形成領域の絶縁膜をエッチングで除去し、その後絶縁膜を含めた半導体基板全体にエピタキシャル成長を実施する。この時、絶縁膜上にはエピタキシャル成長は行われず、絶縁層をエッチング除去した部分に選択的にエピタキシャル成長が行われる。また、絶縁層の幅や、エッチング除去された領域の幅に応じてエピタキシャル成長により形成される素子の膜厚等を調整することができる。このような技術が知られており、同技術を選択成長法と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、赤色領域の発振波長を実現するために、例えば、AlGaInP系の材料を用いると、選択成長時の組成ずれによって格子不整合が増大し、レーザの発光効率および寿命などが低下する恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、選択成長法を用いた場合の格子不整合を抑制しつつ、波長が互いに異なるレーザ光を放射可能なモノリシック構造の半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、第1導電型クラッド層と、前記第1導電型クラッド層を区画する絶縁層と、前記絶縁層にて区画された前記第1導電型クラッド層上にそれぞれ積層され、互いに異なる波長のレーザ光を放射するm(mは2以上の整数)個の発光層と、前記m個の発光層上にそれぞれ積層されたm個の第2導電型クラッド層と、前記絶縁層上に積層された多結晶半導体層とを備える。
【0008】
これにより、発光層の成膜時に絶縁層が設けられていない部分への選択成長法における選択性を低下させることなく素子形成が出来る。更に、絶縁層上にも積層出来る材料組成に調整する等により絶縁層上に多結晶状態の半導体層を形成すると共に、第2導電型クラッド層の成膜時の選択成長法における選択性を低下させることができ、m個の発光層上にそれぞれ積層される第2導電型クラッド層の組成の均一化を図ることができる。このため、m個の発光層の発振波長を異ならせることを可能としつつ、GaAs等から成る化合物半導体基板と第2導電型クラッド層との間の格子不整合を抑制することができ、独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現しつつ、発光効率および寿命の低下を抑制することができる。
【0009】
また、第1導電型クラッド層を区画する絶縁層上に多結晶半導体層を堆積しつつ、m個の発光層上に第2導電型クラッド層を積層することにより、化合物半導体基板と第2導電型クラッド層との間の格子不整合を抑制するために、絶縁層を除去する必要がなくなる。このため、発光層を大気暴露することなく、m個の発光層上に第2導電型クラッド層を連続して形成することができ、第2導電型クラッド層の結晶品質の低下を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記多結晶半導体層は、前記第2導電型クラッド層の構成元素を主成分として含む。
【0011】
これにより、第2導電型クラッド層の成膜時に多結晶半導体層を絶縁層上に同時に成膜することができる。このため、m個の発光層上にそれぞれ積層される第2導電型クラッド層の組成の均一化を図ることができ、化合物半導体基板と第2導電型クラッド層との間の格子不整合を抑制することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記発光層は、(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)を含む。
【0013】
これにより、m個の発光層の発振波長を赤色域に設定することが可能となるとともに、Al組成xを低下させることで発光層形成時の選択成長法における選択性を増大させることが可能となる。このため、半導体レーザをディスプレイ装置の光源として用いることが可能となるとともに、独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現することが可能となり、横シングルモードレーザの干渉性を低下させ、ディスプレイ装置の画質を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記第2導電型クラッド層は、(AlxGa1-x)1-yInyP(0<x≦1、0<y<1)から構成される。
【0015】
これにより、第2導電型クラッド層の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることができる。このため、第2導電型クラッド層の成膜時に多結晶半導体層を絶縁層上に同時に成膜することができ、m個の発光層上にそれぞれ積層される第2導電型クラッド層の組成の均一化を図ることができる。また、各発光層上の第2導電型クラッド層の膜厚を均一化することができ、電極を配置したサブマウント上にモノリシック多波長半導体レーザをジャンクションダウンボンディング実装することができる。このため、モノリシック多波長半導体レーザの放熱性を向上させることができ、モノリシック多波長半導体レーザの信頼性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記m個の第2導電型クラッド層にそれぞれ用いられる(AlxGa1-x)1-yInyP間のAl組成xの差は、前記m個の発光層にそれぞれ用いられる(AlxGa1-x)1-yInyP間のAl組成xの差よりも小さい。
【0017】
これにより、発光層の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることなく、第2導電型クラッド層の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることができる。このため、m個の発光層の発振波長を異ならせることを可能としつつ、化合物半導体基板と第2導電型クラッド層との間の格子不整合を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記絶縁層によって区画された前記第1導電型クラッド層上の前記m個の発光層の幅は互いに異なる。
【0019】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成することで、第1導電型クラッド層上に形成されるm個の発光層の量子井戸幅をそれぞれ異ならせることができる。このため、発振波長の異なるm個の発光層を第1導電型クラッド層上に一括形成することができ、発振波長の異なるm個の発光層を形成するために、発光層の形成を繰り返す必要がなくなる。この結果、工程数の増大を抑制しつつ、独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記m個の発光層の量子井戸幅はそれぞれ異なる。
【0021】
これにより、m個の発光層の発振波長を異ならせることができ、独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現することができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記絶縁層は、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、BおよびTiの少なくともいずれか1つの酸化物、窒化物またはこれらの混合物を含む。
【0023】
これにより、発光層が絶縁層上に形成されるのを防止することが可能となるとともに、発光層および第2導電型クラッド層の成膜時に絶縁層によるコンタミネーションを防止することができ、結晶品質の低下を防止することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記絶縁層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置と、前記発光層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置は互いに等しい。
【0025】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成した後、前記開口部に露出した第1導電型クラッド層上に発光層を形成することにより、その後形成される各層上面の高さを前記絶縁層部分と同等にでき平坦性を確保できる。また、絶縁層をそのまま残すことで工程数の増大を抑制することもできる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記絶縁層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置は、前記発光層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置より高くすることもできる。
【0027】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成した後、開口部を介して露出された第1導電型クラッド層の表面の汚染物質または欠陥などを除去してから、第1導電型クラッド層上に発光層を形成することができ、発光層の結晶品質を向上させることができる。
【0028】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子によれば、前記絶縁層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置は、前記発光層と前記第1導電型クラッド層との界面の高さ方向の位置より低くすることもできる。
【0029】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成した後、開口部を介して露出された第1導電型クラッド層上に第1導電型クラッド層を再成長してから第1導電型クラッド層上に発光層を形成することができる。このため発光層形成前の工程で大気暴露した場合でも、大気暴露により汚染された第1導電型クラッド層の表面に発光層が直接接するのを防止することができ、発光層の結晶品質を向上させることができる。
【0030】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子の製造方法によれば、第1導電型クラッド層を化合物半導体基板上に形成する工程と、開口幅が異なるm(mは2以上の整数)個の開口部を有するマスクを前記第1導電型クラッド層上に形成する工程と、前記開口部の前記第1導電型クラッド層上に発光層を選択成長する工程と、前記マスク上に多結晶半導体層を堆積させつつ、前記発光層上に第2導電型クラッド層を積層する工程と備える。
【0031】
これにより、発光層の成膜を繰り返すことなく、m個の発光層の発振波長を異ならせることが可能となるとともに、発光層を大気暴露することなく、化合物半導体基板と第2導電型クラッド層との間の格子不整合を抑制することができる。このため、工程数の増大を抑制しつつ、m個の独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現することが可能となるとともに、発光効率および寿命の低下を抑制することができる。
【0032】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子の製造方法によれば、前記開口部の領域の前記第1導電型クラッド層をエッチングまたはクリーニングする工程をさらに備え、前記第1導電型クラッド層のエッチング面上またはクリーニング面上に前記発光層を選択成長する工程を有する。
【0033】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成した後、開口部を介して露出された第1導電型クラッド層の表面の汚染物質または欠陥などが除去されたエッチング面上またはクリーニング面上に発光層を形成することができ、発光層の結晶品質を向上させることができる。
【0034】
また、本発明の一態様に係る半導体発光素子の製造方法によれば、前記開口部に前記第1導電型クラッド層を再成長する工程をさらに備え、前記第1導電型クラッド層の再成長面上に前記発光層を選択成長する工程を有する。
【0035】
これにより、第1導電型クラッド層上の絶縁層に開口幅が異なる開口部を形成した後、前記開口部の領域に露出された第1導電型クラッド層の再成長面上に発光層を連続して形成することができ、発光層の結晶品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の一態様においては、格子不整合を抑制しつつ、波長が互いに異なるレーザ光を放射可能なモノリシック構造の半導体発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】第1実施形態に係る半導体発光素子の概略構成を示す斜視図である。
【
図2A】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2B】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2C】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2D】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2E】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図2F】第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3A】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3B】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3C】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3D】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3E】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3F】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図3G】第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4A】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4B】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4C】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4D】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4E】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4F】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図4G】第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0039】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体発光素子の概略構成を示す斜視図である。なお、以下の説明では、互いに異なる波長のレーザ光を放射する3個の発光層が設けられたモノリシック多波長半導体レーザを例にとるが、互いに異なる波長のレーザ光を放射するm(mは2以上の整数)個の発光層が設けられたモノリシック多波長半導体レーザであってもよい。また、以下の説明では、赤色域において多波長化された半導体レーザを例にとるが、本発明は、必ずしも赤色域において多波長化された半導体レーザに限定されるものではない。また、
図1の例では、簡単化のため、モノリシック多波長半導体レーザが形成される化合物半導体基板および発光層に電流を注入する電極は省略した。
【0040】
図1において、半導体レーザZ0は、n型クラッド層N、発光層A1~A3およびp型クラッド層B1~B3を備える。
図1には記載しないが、n型クラッド層Nは化合物半導体基板上に形成されており、本実施形態ではGaAs基板を用いている。このとき、各発光層A1~A3は、n型クラッド層Nと各p型クラッド層B1~B3との間でダブルヘテロ接合を形成することができる。各発光層A1~A3は、互いに異なる波長のレーザ光L1~L3を放射する。ここで、各レーザ光L1~L3の波長を赤色域に設定するために、各発光層A1~A3は、(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yP(0≦x<1、0<y<1)を含むことができる。
【0041】
n型クラッド層Nは、絶縁層Mにて区画領域E1~E3に区画されている。各区画領域E1~E3は、各発光層A1~A3の光導波方向に沿って設けられる。このとき、各発光層A1~A3は絶縁層Mにて分離される。絶縁層Mは、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、BおよびTiの少なくともいずれか1つの酸化物、窒化物またはこれらの混合物を含むことができる。このような材料を用いることにより、各発光層A1~A3を形成時に絶縁層M上に材料が積層されるのを防止することが可能となる。また、各発光層A1~A3形成後に絶縁層Mを除去することなくp型クラッド層B1~B3を成膜するため、絶縁層Mによるコンタミネーションを防止することができ、結晶品質の低下を防止することができる。
【0042】
各発光層A1~A3の幅W1~W3は互いに異なる。このとき、各区画領域E1~E3の幅は、各発光層A1~A3の幅W1~W3と等しくすることができる。例えば、各発光層A1~A3の幅W1~W3は、W1<W2<W3とすることができる。
【0043】
各発光層A1~A3は、活性層A1B~A3Bを備える。各活性層A1B~A3Bは、バリア層と井戸層が交互に積層された多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造を用いることができる。各発光層A1~A3は、各活性層A1B~A3B下にガイド層A1A~A3A、各活性層A1B~A3B上にガイド層A1C~A3Cを備えてもよい。各ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cは、各活性層A1B~A3Bを導波するレーザ光をガイドすることができる。このとき、各ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cの厚みは、各活性層A1B~A3Bのバリア層の厚みより厚くすることができる。各ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cは、SCH(Separate Confinement Heterostructure)層または閉じ込め層と呼ばれることもあり、n型クラッド層Nおよびp型クラッド層B1~B3層よりも屈折率が高く、各活性層A1B~A3Bよりも屈折率が低い。
【0044】
ここで、各発光層A1~A3の幅W1~W3を互いに異ならせることで、各活性層A1B~A3Bの量子井戸幅を互いに異ならせることができ、各レーザ光L1~L3の波長を互いに異ならせることができる。ここで、各レーザ光L1~L3の波長を数nm程度異ならせることにより、横シングルモードレーザの干渉性を低下させることができ、半導体レーザZ0をディスプレイ装置の光源として用いたときの画質を向上させることができる。
【0045】
各発光層A1~A3上には、p型クラッド層B1~B3が積層されている。各p型クラッド層B1~B3には、各発光層A1~A3の光導波方向に沿ってリッジG1~G3が形成されている。ここで、各p型クラッド層B1~B3は、エッチストップ層B1B~B3Bを間にして上下に分離したp型クラッド層B1A~B3A、B1C~B3Cで構成されてもよい。エッチストップ層B1B~B3Bは、リッジG1~G3を形成するためのp型クラッド層B1~B3の厚さ方向のエッチングの停止位置を規定することができる。このとき、リッジG1~G3は、p型クラッド層B1C~B3Cで構成することができる。p型クラッド層B1C~B3C上には、キャップ層C1~C3が設けられる。キャップ層C1~C3は、各発光層A1~A3に電流を注入する電極との間でオーミックコンタクトをとることができる。
【0046】
ここで、p型クラッド層B1~B3は、化合物半導体基板との格子不整合を低減するため、(AlxGa1-x)1-yInyP(0<x≦1、0<y<1)から構成することができる。また、各p型クラッド層B1~B3に用いられる(AlxGa1-x)1-yInyP間のAl組成xの差は、各発光層A1~A3に用いられる(AlxGa1-x)1-yInyP間のAl組成xの差よりも小さくすることができる。なお、エッチストップ層B1B~B3Bは、p型クラッド層B1A~B3A、B1C~B3Cに対してエッチングレートを低下させるため、p型クラッド層B1A~B3A、B1C~B3CよりもAl組成xを低下させることができる。
【0047】
絶縁層M上には、多結晶半導体層Pが堆積されている。多結晶半導体層Pは、p型クラッド層B1~B3の多結晶構造を含む。このとき、多結晶半導体層Pは、p型クラッド層B1~B3の構成元素を主成分として含むことができる。この場合、各発光層A1~A3上へのp型クラッド層B1~B3の成膜と、絶縁層M上への多結晶半導体層Pの堆積は、同時に行うことができる。なお、多結晶半導体層Pは、エッチストップ層B1B~B3Bの多結晶構造とキャップ層C1~C3の多結晶晶構造を含んでもよい。
【0048】
ここで、p型クラッド層B1~B3を(AlxGa1-x)1-yInyPで構成したときのAl組成xを増大させることにより、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることができる。このため、各発光層A1~A3上へのp型クラッド層B1~B3の成膜時に、多結晶半導体層Pを絶縁層M上に堆積させることができる。なお、Al組成xが低いエッチストップ層B1B~B3Bがp型クラッド層B1~B3内にある場合においても、多結晶半導体層Pを絶縁層M上に堆積することができる。
【0049】
このとき、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させ、各発光層A1~A3上へのp型クラッド層B1~B3の成膜と、絶縁層M上への多結晶半導体層Pの堆積を同時に行うことにより、p型クラッド層B1~B3の組成の均一化を図ることができる。このため、化合物半導体基板とp型クラッド層B1~B3との間の格子不整合を抑制することができ、半導体レーザZ0の発光効率および寿命の低下を抑制することができる。
【0050】
また、各発光層A1~A3を(AlxGa1-x)1-yInyP(0≦x<1、0<y<1)で構成し、各発光層A1~A3のAl組成xをp型クラッド層B1~B3のAl組成xより低くすることにより、各発光層A1~A3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることなく、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることができる。このため、各発光層A1~A3の発振波長を異ならせることができ、独立駆動可能なモノリシック多波長半導体レーザを実現することができる。
【0051】
また、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることにより、p型クラッド層B1~Bの膜厚を均一化することができ、電極を配置したサブマウント上に半導体レーザZ0をジャンクションダウンボンディング実装する場合にも、リッジごとで段差を生じることが無く、サブマウントに密着することができる。このため、半導体レーザZ0の放熱性を向上させることができ、半導体レーザZ0の信頼性を向上させることができる。
【0052】
また、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることにより、n型クラッド層N上に絶縁層Mが存在している場合においても、化合物半導体基板とp型クラッド層B1~B3との間の格子不整合を抑制しつつ、各発光層A1~A3上にp型クラッド層B1~B3を同一チャンバ内で連続して形成することができる。このため、化合物半導体基板とp型クラッド層B1~B3との間の格子不整合を抑制するために、絶縁層Mを除去する必要がなくなり、各発光層A1~A3を大気暴露することなくp型クラッド層B1~B3を成膜することが可能となる。結果として、p型クラッド層B1~B3の結晶品質の低下を抑制することができる。
【0053】
(第2実施形態)
図2Aから
図2Fは、第2実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。なお、
図2Aから
図2Fは、実施例1として
図1に示した半導体レーザZ0におけるDA-DA線に沿って切断した断面に相当する図を示す。
【0054】
図2Aにおいて、エピタキシャル成長にてn型クラッド層Nを化合物半導体基板S上に成膜する。エピタキシャル成長は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)であってもよいし、MBE(Molecular Beam Epitaxy)であってもよいし、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)であってもよい。化合物半導体基板Sは、例えば、GaAs基板である。n型クラッド層Nの膜厚は、例えば、約2μmに設定することができる。
【0055】
n型クラッド層Nの組成は、例えば、(AlxGa1-x)1-yInyPにおいて、GaAs基板と格子整合させるため、例えば、In組成yを0.5に調整することができる。また、n型クラッド層Nの屈折率を各発光層A1~A3の屈折率より小さくするため、AlとGaの組成比x:1-xは、Al組成xの方を大きくし、x:1-x=1:0に調整することができる。
【0056】
次に、プラズマCVD(Chemical Vaper Deposition)またはスパッタなどの方法にて、n型クラッド層N上に絶縁層Mを形成する。なお、絶縁層Mは、例えば、SiO2でもよいし、SiNでもよいし、Al2O3でもよい。絶縁層Mの膜厚は、発光層A1の膜厚と同程度に設定することができ、例えば、100nmに設定することができる。絶縁層Mの膜応力を緩和するため、絶縁層Mの膜厚を数nm程度まで薄くしてもよい。
【0057】
次に、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いることにより、絶縁層Mをパターニングし、開口幅が異なる開口部V1~V3を絶縁層Mに形成する。なお、このエッチングは、例えば、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチングを用いることができる。あるいはウェットエッチングによってパターニングしてもよい。開口部V1~V3は、各発光層A1~A3の光導波方向に沿ってストライプ状に形成することができる。この開口部V1~V3によって絶縁層Mが分離されたマスクM1~M4をn型クラッド層N上に形成することができる。マスクM1~M4上では、各発光層A1~A3の結晶性成長が阻害される。ここで、マスクM1~M4は、各発光層A1~A3が形成される区画領域E1~E3を規定することができる。このとき、開口部V1~V3の開口幅は、区画領域E1~E3の幅を規定することができる。各マスクM1~M4のマスク幅は、例えば、5μm、50μm、30μm、15μmに設定することができる。
【0058】
次に、
図2Bに示すように、エピタキシャル成長を用いることにより、開口部V1~V3の領域で露出されたn型クラッド層N上に発光層A1~A3を選択的に成膜する。このとき、各発光層A1~A3として、
図1のガイド層A1A~A3A、活性層A1B~A3Bおよびガイド層A1C~A3Cを順次成膜することができる。ここで、各発光層A1~A3に用いられる(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yPのAl組成xを低下させることにより、各発光層A1~A3の成膜時に選択成長法における選択性を高め、各マスクM1~M4上に各発光層A1~A3が成膜されないようにすることができる。
【0059】
このとき、Al組成比xは、n型クラッド層Nが最も高く、ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cあるいはバリア層、量子井戸層の順に低くなるように、エピタキシャル成長の原料の供給量を調整する。例えば、ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cおよびバリア層の組成はx=0.7、y=0.5とし、量子井戸層は、それよりもAl組成比xを小さくすることができる。また、量子井戸層はAl組成比x=0とし、GaInPで構成することができる。ガイド層A1A~A3A、A1C~A3Cおよび活性層A1B~A3Bは、光導波路としてはコア層として機能する。このコア層の膜厚は、発振波長および各層の屈折率にも依存するが、赤色レーザでは、おおよそ50nm~500nmであり、例えば、約100nmに設定することができる。
【0060】
ここで、絶縁層Mとn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置と、各発光層A1~A3とn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置を互いに等しくすることができる。このため、n型クラッド層N上の絶縁層Mに開口幅が異なる開口部V1~V3を形成した後、n型クラッド層N上に発光層A1~A3を形成することができる。
【0061】
次に、
図2Cに示すように、エピタキシャル成長を用いることにより、各発光層A1~A3上にp型クラッド層B1~B3および不図示のキャップ層を順次成膜する。ここで、p型クラッド層B1~B3を(Al
xGa
1-x)
1-yIn
yPで構成したときのAl組成xを増大させることにより、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることができる。このため、p型クラッド層B1~B3の膜厚を均一化することが可能となる。更には、多結晶半導体層Pを絶縁層M上に堆積させ、p型クラッド層B1~B3の組成の均一化を図ることができる。例えば、Al組成x=0.95に設定することができる。Alは、GaおよびInに比べてマスクM1~M4上に堆積しやすい。また、一旦マスクM1~M4上に多結晶半導体の堆積が生じると、Al以外のGaやInの堆積も促進されるため、開口部V1~V3の開口幅およびマスクM1~M4のマスク幅などのパターンによるp型クラッド層B1~B3の膜厚および組成の差が生じにくい。また、多結晶半導体層Pは、p型クラッド層B1~B3よりも抵抗が高く、p型クラッド層B1~B3を電気的に分離するための溝を省略することができる。
【0062】
次に、
図2Dに示すように、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いることにより、p型クラッド層B1~B3をパターニングし、各p型クラッド層B1~B3にリッジG1~G3を形成する。なお、各p型クラッド層B1~B3にリッジG1~G3を形成する際に各p型クラッド層B1~B3にバンクT1~T3を形成してもよい。各バンクT1~T3は、各リッジG1~G3の両側に設けることができる。各バンクT1~T3は、各リッジG1~G3に加わる衝撃から各リッジG1~G3を保護することができる。ここで、
図1のエッチストップ層B1B~B3Bをp型クラッド層B1~B3内に設けることにより、リッジG1~G3およびバンクT1~T3の形成時のp型クラッド層B1~B3の深さ方向のエッチングをエッチストップ層B1B~B3Bの位置でストップさせることができる。
【0063】
次に、
図2Eに示すように、プラズマCVDなどの方法により、SiO
2膜などからなる絶縁膜YをリッジG1~G3、バンクT1~T3および多結晶半導体層Pの表面に形成する。
次に、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を用いることにより絶縁膜Yをパターニングし、各リッジG1~G3の上面を露出させる開口部K1~K3を絶縁膜Yに形成する。
【0064】
次に、
図2Fに示すように、スパッタまたは蒸着などの方法を用いることにより、Auなどの金属からなる電極材料を絶縁膜Y上に形成する。
次に、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を用いることにより絶縁膜Y上の電極材料をパターニングし、各開口部K1~K3を介して各リッジG1~G3に接続された電極D1~D3を形成する。各リッジG1~G3に接続された部分以外の電極D1~D3は、前記の絶縁層5上に形成される。この際、各電極D1~D3をリッジG1~G3上部に加えて、少なくとも一方のバンク上にも形成することで、実装時にリッジG1~G3に加わる衝撃を弱め、保護することができる。さらに、電極D1~D3まで形成した化合物半導体基板Sをバー状に劈開する。そして、スパッタなどの方法により、各発光層A1~A3の端面となる劈開面に端面保護膜を成膜し、劈開面に端面保護膜が形成されたバーを個片化することにより、半導体レーザZ1を形成する。
【0065】
なお、上述した実施形態では、n型クラッド層Nの形成後にマスクM1~M4をn型クラッド層N上に形成する方法について説明したが、n型クラッド層Nおよび活性層下のガイド層を形成後にマスクM1~M4を活性層下のガイド層上に形成してもよい。
【0066】
ここで、赤色レーザでは、AlGaInP活性層およびAlGaInP混晶クラッド層がGaAs基板上に形成され、これらの結晶の格子定数はIII族元素であるAl、GaおよびInの組成比に大きく依存する。このため、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性が高い場合、各発光層A1~A3上のp型クラッド層B1~B3に対して格子整合条件を成立させることは困難である。
【0067】
このとき、
図1の活性層A1B、A2B、A3B付近では選択成長法における選択性の高い結晶成長により活性層A1B、A2B、A3B間で組成を変化させつつ、p型クラッド層B1~B3の成膜時にはAlの供給量を増やし選択成長法における選択性を低下させることにより、p型クラッド層B1~B3のサイズに関わらず組成を均一化することができる、この結果、各発光層A1~A3上のp型クラッド層B1~B3に対してGaAs基板との格子不整合を抑制し、転位の少ない結晶を成膜させることができる。また、p型クラッド層B1~B3の成膜時に選択成長法における選択性を低下させることにより、p型クラッド層B1~B3と同じ構成元素からなる多結晶半導体層PをマスクM1~M4上に堆積させることができる。多結晶半導体層PにてマスクM1~M4表面が覆われると、エピタキシャル成長の原料の組成によらず選択成長が阻害され、レーザチップが切り出されるウェハ上の全面に原料が付着する。
【0068】
そのため、p型クラッド層B1~B3よりも後に成膜されるGaAsキャップ層なども選択成長が阻害され、ウェハ上の全面に成膜される。ただし、マスク領域では、下地が半導体結晶ではなく、SiO2またはSiNなどの誘電体であり、導電性も低いため、隣接エミッタ間を電気的に分離する効果を多結晶半導体層Pに持たせることができる。
【0069】
なお、波長が1~1.6μmの通信波長帯では、発光層材料としてAlGaInAsまたはGaInAsP、クラッド層材料としてInPがInP基板上に成膜される。この材料系では、クラッド層が混晶ではなく、単結晶のInPであるため、発光層とクラッド層の格子整合条件を満たしつつ、厚膜の結晶成長が可能である。
【0070】
また、波長が約850nm~1000nmの赤外波長帯では、発光層材料としてInGaAs、GaAsまたはAl組成の低いAlGaAs、クラッド層材料として比較的Al組成の高いAlGaAsがGaAs基板上に成膜される。クラッド層のAlGaAsの格子定数は、AlとGaの組成比にほとんど左右されないため、選択成長によって組成比が異なっても格子不整合は小さく、転位の少ない厚膜の結晶成長が可能である。
【0071】
(第3実施形態)
図3Aから
図3Gは、第3実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。なお、
図3Aから
図3Gは、実施例1として
図1に示した半導体レーザZ0におけるDA-DA線に沿って切断した断面に相当する図を示す。
【0072】
この第3実施形態の製造方法は、第2実施形態の製造方法に
図3Bの工程が追加されている点以外は、第2実施形態の製造方法と同様である。
図3Bの工程では、n型クラッド層N上の絶縁層Mに形成された開口部V1~V3を介してn型クラッド層Nをエッチングすることにより、各区画領域E1~E3に位置する凹部H1~H3をn型クラッド層Nに形成する。この凹部H1~H3の深さは、発光層A1の膜厚と同程度に設定することができ、例えば、100nmに設定することができる。エッチングダメージを緩和するため、凹部H1~H3の深さを数nm程度まで浅くしてもよい。
図3Bの工程後、
図2B~
図2Fの工程と同様に
図3C~
図3Gの工程を実施することにより、半導体レーザZ2を形成する。なお、
図1に示したガイド層A1A~A3A、量子井層戸とバリア層およびガイド層1C~A3Cの一部あるいはすべてが、実施例3におけるマスクM1~M4よりも下方に位置してもよい。
【0073】
このとき、各発光層A1~A3をn型クラッド層Nのエッチング面上に形成することができ、絶縁層Mとn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置は、各発光層A1~A3とn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置より高くすることができる。このため、開口部V1~V3に露出されたn型クラッド層Nの表面の汚染物質または欠陥などを除去してから、n型クラッド層N上に発光層A1~A3を形成することができ、発光層A1~A3の結晶品質を向上させることができる。
【0074】
なお、発光層A1~A3の形成前に開口部V1~V3に露出されたn型クラッド層Nの表面の清浄性を向上させるため、紫外線照射などでn型クラッド層Nの表面をクリーニングし、このクリーニング面上に発光層A1~A3を形成してもよい。
【0075】
(第4実施形態)
図4Aから
図4Gは、第4実施形態に係る半導体発光素子の製造方法の一例を示す断面図である。なお、
図4Aから
図4Gは、実施例1として
図1に示した半導体レーザZ0におけるDA-DA線に沿って切断した断面に相当する図を示す。
【0076】
この第4実施形態の製造方法は、第2実施形態の製造方法に
図4Bの工程が追加されている点以外は、第2実施形態の製造方法と同様である。
図4Bの工程では、n型クラッド層N上の絶縁層Mに形成された開口部V1~V3上にn型クラッド層Nを再成長し、各区画領域E1~E3の位置のn型クラッド層Nをかさ上げする。このかさ上げの高さは、発光層A1の膜厚と同程度に設定することができ、例えば、100nmに設定することができる。かさ上げ時の組成のばらつきを抑制するため、かさ上げの高さを数nm程度まで低くしてもよい。
図4Bの工程後、
図2B~
図2Fの工程と同様に
図4C~
図4Gの工程を実施することにより、半導体レーザZ3を形成する。なお、
図1に示したガイド層A1A~A3A、量子井層戸とバリア層およびガイド層1C~A3Cの一部あるいはすべてが、実施例4におけるマスクM1~M4よりも上方に位置してもよい。
【0077】
このとき、各発光層A1~A3をn型クラッド層Nの再成長面U1~U3上に形成することができる。絶縁層Mとn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置は、各発光層A1~A3とn型クラッド層Nとの界面の高さ方向の位置より低くすることができる。この高さの差に相当する厚み分、大気暴露による汚染等の影響を受けた開口部V1~V3上にn型クラッド層を追加的に積層(再成長面U1~U3)している。これにより、汚染等されたn型クラッド層Nの表面に発光層A1~A3が当接するのを防止することができ、追加的に積層され汚染等の影響を受けていない清浄な面(再成長面U1~U3)上に発光層A1~A3を形成できるので、発光層の結晶品質を向上させることができる。
【0078】
なお、上述した実施形態では、第1導電型クラッド層としてn型クラッド層、第2導電型クラッド層としてp型クラッド層を用いた例を示したが、第1導電型クラッド層としてp型クラッド層、第2導電型クラッド層としてn型クラッド層を用いてもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
Z0、Z1、Z2、Z3 半導体レーザ
E1~E3 区画領域
N n型クラッド層
A1~A3 発光層
B1~B3 p型クラッド層
G1~G3 リッジ
M 絶縁層
P 多結晶半導体層