(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】燃圧センサの異常診断装置
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F02M55/02 360K
F02M55/02 360G
(21)【出願番号】P 2021118141
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】城 佑輔
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180185(JP,A)
【文献】特開2013-068127(JP,A)
【文献】特開2019-060249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0331053(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 55/00 ~ 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから供給される燃料を加圧する加圧室を有した高圧ポンプと、
前記加圧室から吐出された燃料を蓄える蓄圧容器と、
前記蓄圧容器内の燃料を内燃機関の気筒内に直接噴射する燃料噴射弁と、
前記高圧ポンプの前記加圧室よりも下流側に設けられ、前記蓄圧容器側からの燃圧が所定の開弁圧よりも高い場合に付勢部材の付勢力に抗して弁体が弁座から離間することにより開弁して燃料を前記加圧室に戻し、前記蓄圧容器側からの燃圧が前記開弁圧よりも低下すると前記付勢部材の付勢力に従って前記弁体が前記弁座に着座することにより閉弁するリリーフ弁と、
前記蓄圧容器内での燃圧を検出する燃圧センサと、
を含む燃料供給システムに適用され、前記リリーフ弁が開弁した際の前記燃圧センサによる検出燃圧が正常範囲内にあるか否かに基づいて前記燃圧センサの異常の有無を診断する燃圧センサの異常診断装置において、
前記内燃機関の回転数、負荷、冷却水温、及び油温がそれぞれ所定範囲内であり、前回の前記燃圧センサの異常の有無の診断の実行から所定時間以上経過している場合に、前記燃圧センサの診断開始条件が成立し、
前記燃圧センサの診断開始条件が成立した場合に、前記蓄圧容器内での燃圧が前記開弁圧よりも低い所定圧力未満の場合に前記高圧ポンプへの指示吐出量を第1吐出量に制御する第1制御部と、
前記蓄圧容器内での燃圧が前記所定圧力以上から前記開弁圧まで、前記指示吐出量を前記第1吐出量よりも少ない第2吐出量に制御する第2制御部と、を備えた燃圧センサの異常診断装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、前記蓄圧容器内での燃料が所定の目標昇圧速度で昇圧するように前記第2吐出量をフィードバック制御する、請求項1の燃圧センサの異常診断装置。
【請求項3】
前記指示吐出量が前記第1吐出量に制御されている場合での前記蓄圧容器内での燃料の実際の昇圧速度である実昇圧速度に基づいて、前記目標昇圧速度に対応した前記第2吐出量の初期値を算出する算出部を備え、
前記第2制御部は、前記蓄圧容器内での燃圧が前記所定圧力以上となった場合に前記指示吐出量を前記第2吐出量の初期値に制御する、請求項2の燃圧センサの異常診断装置。
【請求項4】
前記第1吐出量は、前記高圧ポンプへ指示可能な前記指示吐出量の最大値である、請求項1乃至3の何れかの燃圧センサの異常診断装置。
【請求項5】
前記燃料供給システムは、前記燃料タンクから前記加圧室に燃料を加圧して供給する低圧ポンプを含み、
前記所定圧力は、前記低圧ポンプにより加圧された燃料の圧力と、前記開弁圧との間の中間値以上である、請求項1乃至4の何れかの燃圧センサの異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃圧センサの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクから供給される燃料を加圧する加圧室を有した高圧ポンプと、加圧室から吐出された燃料を蓄える蓄圧容器と、蓄圧容器内の燃料を内燃機関の気筒内に直接噴射する燃料噴射弁と、高圧ポンプの加圧室よりも下流側に設けられ蓄圧容器側からの燃圧が所定の開弁圧になると開弁して燃料を加圧室に戻すリリーフ弁と、蓄圧容器内での燃圧を検出する燃圧センサと、を備えた燃料供給システムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄圧容器内の燃料をリリーフ弁の開弁圧にまで昇圧させて、その際の燃圧センサの出力値が正常範囲内にあるか否かに基づいて燃圧センサの異常の有無を診断する場合がある。この場合、リリーフ弁の弁体が付勢部材に抗して弁座から離間することによりリリーフ弁が開弁し、その後に付勢部材の付勢力に従って弁体が弁座に着座することによりリリーフ弁が閉弁する。
【0005】
ここで、診断時間を短縮するために、蓄圧容器内の燃料を開弁圧にまで短時間で昇圧させることが考えられる。しかしながらこの場合、短時間で昇圧した燃料により弁体が弁座から大きく離間し、これにより付勢部材の付勢力が増大し、その後に付勢部材の付勢力に従って弁体が弁座に衝突して異音が発生するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、診断時間を短縮しつつ異音が抑制された燃圧センサの異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、燃料タンクから供給される燃料を加圧する加圧室を有した高圧ポンプと、前記加圧室から吐出された燃料を蓄える蓄圧容器と、前記蓄圧容器内の燃料を内燃機関の気筒内に直接噴射する燃料噴射弁と、前記高圧ポンプの前記加圧室よりも下流側に設けられ、前記蓄圧容器側からの燃圧が所定の開弁圧よりも高い場合に付勢部材の付勢力に抗して弁体が弁座から離間することにより開弁して燃料を前記加圧室に戻し、前記蓄圧容器側からの燃圧が前記開弁圧よりも低下すると前記付勢部材の付勢力に従って前記弁体が前記弁座に着座することにより閉弁するリリーフ弁と、前記蓄圧容器内での燃圧を検出する燃圧センサと、を含む燃料供給システムに適用され、前記リリーフ弁が開弁した際の前記燃圧センサによる検出燃圧が正常範囲内にあるか否かに基づいて前記燃圧センサの異常の有無を診断する燃圧センサの異常診断装置において、前記内燃機関の回転数、負荷、冷却水温、及び油温がそれぞれ所定範囲内であり、前回の前記燃圧センサの異常の有無の診断の実行から所定時間以上経過している場合に、前記燃圧センサの診断開始条件が成立し、前記燃圧センサの診断開始条件が成立した場合に、前記蓄圧容器内での燃圧が前記開弁圧よりも低い所定圧力未満の場合に前記高圧ポンプへの指示吐出量を第1吐出量に制御する第1制御部と、前記蓄圧容器内での燃圧が前記所定圧力以上から前記開弁圧まで、前記指示吐出量を前記第1吐出量よりも少ない第2吐出量に制御する第2制御部と、を備えた燃圧センサの異常診断装置により達成できる。
【0009】
前記指示吐出量が前記第1吐出量に制御されている場合での前記蓄圧容器内での燃料の実際の昇圧速度である実昇圧速度に基づいて、前記目標昇圧速度に対応した前記第2吐出量の初期値を算出する算出部を備え、前記第2制御部は、前記蓄圧容器内での燃圧が前記所定圧力以上となった場合に前記指示吐出量を前記第2吐出量の初期値に制御してもよい。
【0010】
前記第1吐出量は、前記高圧ポンプへ指示可能な前記指示吐出量の最大値であってもよい。
【0011】
前記燃料供給システムは、前記燃料タンクから前記加圧室に燃料を加圧して供給する低圧ポンプを含み、前記所定圧力は、前記低圧ポンプにより加圧された燃料の圧力と、前記開弁圧との間の中間値以上であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、診断時間を短縮しつつ異音が抑制された燃圧センサの異常診断装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、燃料供給システムの概略構成図である。
【
図2】
図2Aは、リリーフ弁の概略構成図であり、
図2B及び
図2Cは、リリーフ弁の開弁時での力の作用の説明図である。
【
図3】
図3は、燃圧センサの異常診断制御実行中での高圧デリバリパイプ内の燃圧の推移を示したタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、ECUが実行する燃圧センサの異常診断制御の一例を示したフローチャートである。
【
図5】
図5は、吐出量の初期値の算出方法の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[燃料供給システムの概略構成]
図1は、燃料供給システム1の概略構成図である。燃料供給システム1は、エンジン10、燃料タンク21、低圧ポンプ22、低圧管25、低圧デリバリパイプ26、高圧デリバリパイプ36、燃圧センサ28及び38、燃温センサ39、高圧ポンプ40、及びECU(Electronic Control Unit)5等を備える。燃料供給システム1は、例えばエンジン10を走行動力源とする車両に搭載されるが、これに限定されない。
【0015】
エンジン10は、各気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁37、及び各吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁27を備えた火花点火式の4気筒ガソリンエンジンである。また、エンジン10は、複数のピストンに連動したクランク軸に連動し吸気弁又は排気弁を駆動するカム軸15を備えている。
【0016】
燃料タンク21には、燃料であるガソリンが貯留されている。低圧ポンプ22は、燃料を加圧して低圧管25に吐出する。低圧管25内に吐出された燃料は、低圧デリバリパイプ26を介してポート噴射弁27に供給され、また低圧管25から分岐した分岐管25aを介して高圧ポンプ40にも供給される。
【0017】
高圧ポンプ40は、分岐管25aから供給された燃料を加圧して、高圧デリバリパイプ36に吐出する。高圧ポンプ40により加圧された燃料は、高圧デリバリパイプ36を介して筒内噴射弁37に供給される。高圧デリバリパイプ36は、蓄圧容器の一例である。
【0018】
燃圧センサ28及び38は、それぞれ低圧デリバリパイプ26及び高圧デリバリパイプ36内の燃圧を検出する。燃温センサ39は、高圧デリバリパイプ36内の燃料の温度を検出する。ECU5は、燃圧センサ28及び38、及び燃温センサ39の検出値を取得する。
【0019】
ECU5は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び書き換え可能な不揮発性メモリを備えており、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、後述する燃圧センサ38の異常診断制御を実行する。燃圧センサ38の異常診断制御は、CPU、ROM、RAM、及び不揮発性メモリにより機能的に実現される第1制御部、第2制御部、及び算出部により実行される。詳しくは後述する。
【0020】
また、ECU5は、エンジン10の運転領域に応じて、総燃料噴射量に対する筒内噴射弁37から噴射する燃料噴射量の割合である筒内噴射率を変更する。例えばエンジン10の運転領域が低負荷領域では筒内噴射比率は0%であり、高負荷領域では100%であり、中負荷領域ではその中間の値に設定される。
【0021】
[高圧ポンプの概略構成]
高圧ポンプ40について説明する。高圧ポンプ40には、シリンダ41、プランジャ42、加圧室43、吸入通路45、吐出通路47、リリーフ通路49、吸入弁50、吐出弁60、及びリリーフ弁70が設けられている。
【0022】
プランジャ42は、エンジン10の駆動に連動してシリンダ41内を往復する。詳細には、プランジャ42は、カム軸15と共に回転するカムCP側にバネにより付勢され、カムCPの回転によりシリンダ41内を往復する。
【0023】
加圧室43は、シリンダ41及びプランジャ42により画定され、プランジャ42の上昇により加圧室43の容積は減少し、プランジャ42の下降により加圧室43の容積は増大する。
【0024】
吸入通路45は、低圧管25から分岐した分岐管25aと加圧室43とを連通している。吸入通路45には、燃圧脈動を抑制するパルセーションダンパ44が設けられている。リリーフ通路49は、加圧室43と高圧デリバリパイプ36とを連通している。吐出通路47は、吐出弁60よりも加圧室43側のリリーフ通路49と吐出弁60よりも高圧デリバリパイプ36側のリリーフ通路49とを連通している。即ち、吐出通路47は、リリーフ弁70をバイパスしている。
【0025】
吸入弁50は、加圧室43の燃料導入口側に設けられ、吸入通路45及び加圧室43の連通状態を切り替える電磁駆動式の開閉弁である。吸入弁50は、弁体51と、弁体51を駆動するコイル55と、弁体51を常に開方向に付勢するバネ53とを有している。コイル55の通電は、ECU5により制御される。コイル55が通電されると、弁体51は、バネ53の付勢力に抗して吸入通路45と加圧室43とを遮断する。コイル55が非通電の状態では、弁体51は、バネ53の付勢力により開状態が維持される。
【0026】
吐出弁60は、吐出通路47上に設けられ、加圧室43側から高圧デリバリパイプ36側への燃料の流通は許容するが逆方向の流通は規制する逆止弁である。具体的には、吐出弁60は、加圧室43の燃圧が高圧デリバリパイプ36内の燃圧より所定の分だけ高くなったときに開弁する。
【0027】
高圧ポンプ40の吸入行程では、吸入弁50が開きプランジャ42が下降して、燃料が分岐管25aから吸入通路45を介して加圧室43に充填される。加圧行程では、吸入弁50が閉じプランジャ42の上昇に伴い加圧室43の容積が減少し、加圧室43内の燃料が加圧される。吐出行程では、加圧室43側から吐出弁60に作用する燃圧の力が、高圧デリバリパイプ36側から吐出弁60に作用する燃圧の力と吐出弁60のばねの付勢力とにより大きくなったときに吐出弁60が開き、加圧された燃料が高圧デリバリパイプ36へ供給される。
【0028】
リリーフ弁70は、リリーフ通路49上に設けられ、高圧デリバリパイプ36側から加圧室43側への燃料の流通は許容するが逆方向の流通は規制する逆止弁である。リリーフ弁70は、高圧デリバリパイプ36や筒内噴射弁37に異常が発生し得るほどに高圧デリバリパイプ36内の燃圧が過度に上昇した場合に開弁することにより、これらに異常が発生することを抑制する。
【0029】
[リリーフ弁の概略構成]
図2Aは、リリーフ弁70の概略構成図である。リリーフ弁70は、弁体71、弁座73、及びバネ75を含む。弁体71は球状である。弁座73には、孔73aが形成され弁体71よりも高圧デリバリパイプ36側に位置している。バネ75は、弁体71が弁座73に着座して孔73aを閉鎖するように、弁体71を付勢する付勢部材の一例である。尚、吐出弁60もリリーフ弁70と同様の構造である。
【0030】
図2B及び
図2Cは、リリーフ弁70の開弁時での力の作用の説明図である。
図2Bには、弁体71に作用する力F1~F3を示している。力F1及びF2は、弁体71が弁座73に向う方向、即ちリリーフ弁70の閉弁方向に作用する力である。力F3は、弁体71が弁座73から離れる方向、即ちリリーフ弁70の開弁方向に作用する力である。力F1は、弁体71がバネ75から受ける付勢力である。力F2は、リリーフ弁70よりも加圧室43側のリリーフ通路49内の燃圧から弁体71が受ける力である。力F3は、高圧デリバリパイプ36側のリリーフ通路49内の燃圧から弁体71が受ける力である。力F2は、低圧ポンプ22の回転数が大きいほど増大する。力F3は、高圧ポンプ40の行程に応じて、最大値及び最小値間で増減を繰り返す。リリーフ弁70よりも加圧室43側のリリーフ通路49内の燃料は、吸入行程では加圧室43に吸引され、加圧行程及び吐出行程ではリリーフ弁70側に吐出されるからである。
【0031】
高圧デリバリパイプ36内の燃圧が上述したように過度に上昇していない場合には、
図2Bに示すように弁体71には力F1~F3が作用し、(F1+F2)>F3の関係が成立してリリーフ弁70は閉弁状態が維持される。
【0032】
高圧デリバリパイプ36内での燃圧が増大し、
図2C示すように(F1+F2)<F3となると、弁体71はバネ75の付勢力である力F1に抗して弁座73から離間し、リリーフ通路49内の燃料が、孔73aを介して高圧デリバリパイプ36側から加圧室43側に流入する。これにより、F2=F3となって、弁体71は力F1に従って再び弁座73に着座してリリーフ弁70は閉弁する。
【0033】
ここで、力F1はバネ75の付勢力であるため、バネ75の圧縮量が大きいほど力F1も増大する。従って、弁体71が弁座73に着座した状態から離間する瞬間での、力F3の力F2に対する大きさが大きいほど、弁体71が弁座73から離間した後のバネ75の圧縮量は大きくなり力F1も増大する。このため、バネ75の圧縮量が大きく力F1が大きいと、その後に弁体71が弁座73に着座することにより衝突音が発生するおそれがある。
【0034】
上述の状況は、燃圧センサ38の異常診断制御の実行中に生じるおそれがある。燃圧センサ38の異常診断制御は、診断条件成立時に、高圧デリバリパイプ36内の燃料をリリーフ弁70が開弁する開弁圧まで昇圧させて、その際の燃圧センサ38による検出燃圧が正常範囲内に含まれているか否かに基づいて、燃圧センサ38は正常であるか又は異常であるのかが診断される。ここで、高圧デリバリパイプ36内の燃料を開弁圧にまで昇圧に要する時間を短縮して診断を短時間で終了するために、高圧デリバリパイプ36内の燃料の昇圧速度をできる限り速くすることが考えられる。高圧デリバリパイプ36内の燃料の昇圧速度が速いと、上述したように、リリーフ弁70が開弁して再び閉弁する際での弁体71が弁座73に衝突する際の衝突音が増大する。例えば燃料供給システム1が車両に搭載されている場合には、車両がアイドル運転状態の際に、この衝突音が異音として運転者に認識されるそれがある。
【0035】
[燃圧センサの異常診断制御]
そこでECU5は、以下のように燃圧センサ38の異常診断制御を実行する。
図3は、燃圧センサ38の異常診断制御実行中での高圧デリバリパイプ36内の燃圧の推移を示したタイミングチャートである。時刻t1から異常診断制御が開始されると、燃料が圧力P1になるまで昇圧速度V1で昇圧する。圧力P1は、所定圧力の一例である。時刻t2で燃料が圧力P1にまで昇圧すると、燃料は圧力P2まで昇圧速度V1よりも遅い昇圧速度V2で緩やかに昇圧する。圧力P2は、リリーフ弁70の開弁圧である。時刻t3で燃料が圧力P2にまで昇圧すると、リリーフ弁70が開閉を繰り返すことにより、燃圧は圧力P2付近で昇降を繰り返し、その状態で燃圧センサ38による検出燃圧が正常範囲内にあるか否かが診断される。このように、燃料は圧力P1まで速い昇圧速度V1で昇圧するため診断時間を短縮することができ、燃料は圧力P1から圧力P2まで遅い昇圧速度V2で昇圧するためリリーフ弁70の開閉時の異音を抑制できる。
【0036】
尚、診断時間を短縮する観点から、昇圧速度V2はリリーフ弁70の開閉時の異音を抑制できる範囲内でできる限り速いことが好ましい。また、診断時間を短縮の観点からは、圧力P1は圧力P2に近い方が好ましい。例えば圧力P1は、低圧ポンプ22が加圧する燃圧と圧力P2との間の中間の圧力以上であることが好ましい。但し、圧力P1が圧力P2に近すぎると燃圧が圧力P1に到達した際に昇圧速度が昇圧速度V1から昇圧速度V2にまで低下する前に圧力P2に到達して、リリーフ弁70の開閉時の異音を抑制することができないおそれがある。そのため、昇圧速度が昇圧速度V1から昇圧速度V2に低下させることができる程度に圧力P1は圧力P2から離れていることが好ましい。また、異音を抑制する観点からは、昇圧速度V2は遅い方が好ましいが、上述した異音は、必ずしも異音を完全に抑制する必要はない。例えば燃料供給システム1が車両に搭載されている場合には、エンジン10の駆動音により、ある程度までの異音は運転者に認識されないため、運転者に認識されない程度の異音に抑制できる範囲であれば、昇圧速度V2は速くてもよい。
【0037】
次に、ECU5が実行する燃圧センサ38の異常診断制御の一例について説明する。
図4は、ECU5が実行する燃圧センサ38の異常診断制御の一例を示したフローチャートである。ECU5は、イグニッションオンの間は本制御を所定時間毎に繰り返し実行する。
【0038】
ECU5は、燃圧センサ38の診断開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。診断開始条件は、例えばエンジン回転数やエンジン負荷、エンジン冷却水温、エンジン油温が所定範囲内であり、前回の燃圧センサ38の異常診断制御の実行から所定時間以上経過していること等である。ステップS1でNoの場合には本制御を終了する。
【0039】
ステップS1でYesの場合、ECU5は筒内噴射率を0%に設定し、高圧デリバリパイプ36内の目標燃圧を、リリーフ弁70の開弁圧である圧力P2に設定する(ステップS2)。ECU5は、高圧ポンプ40への指示吐出量を吐出量E1に設定する(ステップS3)。吐出量E1は、必ずしもこれに限定されないが、固定値であり、高圧ポンプ40への指示可能な吐出量の最大値が好ましい。次にECU5は、燃圧センサ38による検出燃圧が圧力P1以上を示すか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4でNoの場合には、ステップS3の処理が継続される。即ち、検出燃圧が圧力P1未満である間は、高圧ポンプ40への指示吐出量は最大値である吐出量E1に設定されるため、高圧デリバリパイプ36内の燃料を上述した昇圧速度V1で短時間で昇圧することができる。ステップS3は、第1制御部が実行する処理の一例である。
【0040】
ステップS4でYesの場合には、高圧ポンプ40の吐出量を吐出量E1よりも小さい吐出量E2に設定し、吐出量E2をフィードバック制御する(ステップS5)。高圧ポンプ40への指示吐出量は吐出量E1よりも小さい吐出量E2に設定されるので、高圧デリバリパイプ36内の燃料を上述した昇圧速度V2で緩やかに昇圧することができ、リリーフ弁70の開閉に伴う異音を抑制できる。吐出量E2のフィードバック制御は、詳しくは後述するが、高圧ポンプ40の一回の燃料の吐出による燃圧センサ38内の燃圧の上昇量である昇圧幅U2が所定の目標値に収束するように、吐出量E2を可変設定される。ステップS5は、第2制御部が実行する処理の一例である。
【0041】
次にECU5は、リリーフ弁70が開閉したか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、高圧ポンプ40からの燃料の吐出に同期して燃圧センサ38の検出値が増減を繰り返す場合には、リリーフ弁70が開閉しているものと判定し、燃圧センサ38の検出値が一定の場合や、一定の増大率で増大している場合等は、リリーフ弁70は閉弁したままであると判定する。
【0042】
ステップS6でNoの場合には、ECU5は、ステップS6でNoと判定されてから所定時間経過したか否かを判定する(ステップS7)。所定時間とは例えば数秒である。ステップS7でNoの場合、即ち、ステップS6でNoと判定されてから所定時間が経過するまでは、ステップS5の処理が継続される。
【0043】
ステップS6でYesの場合、又はステップS7でYesの場合には、ECU5は上述したように検出燃圧が正常範囲内にあるか否か、具体的には、検出燃圧が下側閾値α以下であって且つ上側閾値β(>α)以下であるか否かに基づいて燃圧センサ38の異常診断を行う(ステップS8)。下側閾値αは、リリーフ弁70の開弁圧である圧力P2から所定のマージン分だけ小さい値である。上側閾値βは、圧力P2よりも所定のマージン分だけ大きい値である。
【0044】
ステップS8でYesの場合、ECU5は燃圧センサ38は正常であると診断する(ステップS9)。ステップS8でNoの場合、ECU5は燃圧センサ38は異常であると診断する(ステップS10)。
【0045】
次に吐出量E2の初期値e2の算出方法について説明する。
図5は、吐出量E2の初期値e2の算出方法の一例を示したフローチャートである。ECU5は、異常診断制御による燃料の昇圧が開始されたか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11でNoの場合には本制御は終了する。ステップS11でYesの場合には、ECU5は、昇圧のための高圧ポンプ40の吐出開始タイミングを算出する(ステップS12)。具体的には、カム軸15のカムCPの位相と吐出量E1とに基づいて、吸入弁50の開閉状態の切り替わりのタイミングが算出され、このタイミングに基づいて高圧ポンプ40の吐出開始タイミングが算出される。高圧ポンプ40の吐出開始タイミングとは、詳細には高圧ポンプ40の加圧室43から燃料が吐出されるタイミングである。
【0046】
次に、ECU5は高圧ポンプ40の加圧室43から、吐出通路47及び高圧デリバリパイプ36を介して燃圧センサ38にまで燃圧が到達する燃圧伝播到達タイミングを算出する(ステップS13)。ここで、加圧室43から、吐出通路47及び高圧デリバリパイプ36を介して燃圧センサ38にまで燃圧が到達するのに要する伝播時間Tは、以下に示す関係式(式1)を用いて算出することができる。
T=L/(G/ρ)1/2…(1)
「L」は、加圧室43から、吐出通路47及び高圧デリバリパイプ36を介した、燃圧センサ38までの配管の長さ[cm]である。「G」は、燃料の体積弾性率[dyn/cm2]である。「ρ」は、燃料の密度[g/cm3]である。体積弾性率は、燃圧及び燃温に基づいて算出される。燃料の密度は、燃温に基づいて算出される。燃圧及び燃温はそれぞれ燃圧センサ38及び燃温センサ39に基づいて検出される。
【0047】
このようにして算出された伝播時間Tに基づいて、燃料伝播到達タイミングが算出される。具体的には、ステップS12で算出された吐出開始タイミングに伝播時間Tを加算することにより、燃料伝播到達タイミングを算出することができる。
【0048】
ECU5は、ステップS13で算出された燃圧伝播到達タイミングでの燃圧センサ38により検出された、燃料の昇圧幅U1を算出する(ステップS14)。具体的には、燃圧伝播到達タイミング前後での燃圧センサ38により検出された燃圧の上昇量を、昇圧幅U1として算出される。昇圧幅U1は、吐出量E1に対応している。即ち昇圧幅U1は、指示吐出量が吐出量E1に設定されて加圧室43から燃料が吐出された場合に、その吐出された燃料に起因して燃圧が燃圧センサ38にまで伝播した際の燃圧センサ38での燃圧の上昇量に相当する。このように、燃圧伝播到達タイミングでの燃圧センサ38により検出された、燃料の上昇量を昇圧幅U1として算出することにより、ノイズなどを除去した、吐出量E1に対応した昇圧幅U1を精度よく算出することができる。
【0049】
次にECU5は、上記のように算出した昇圧幅U1を、加圧室43から燃料が吐出されるたびに算出して、それらの値の平均値AU1を算出する(ステップS15)。平均値AU1を算出することにより、より精度よく吐出量E1に対応した昇圧幅を算出することができる。
【0050】
次にECU5は、燃圧センサ38による検出燃圧が圧力P1以上であるか否かを判定する(ステップS16)。ステップS16でNoの場合には、ステップS12以降の処理が継続される。
【0051】
ステップS16でYesの場合には、吐出量E2の初期値e2を算出する(ステップS17)。具体的には、指示吐出量と昇圧幅との関係を示す以下の比の式(2)から算出される式(3)に基づいて、初期値e2が算出される。
e2:TU2=E1:AU1…(2)
e2=(E1×TU2)/AU1…(3)
「TU2」は、吐出量E2に対応した昇圧幅の目標値であり、予めリリーフ弁70の開閉に伴う異音の発生が抑制できる程度に定められている。尚、目標昇圧幅TU2は、これに限定されないが、異音の発生を抑制できる範囲でできる限り大きいことが好ましい。診断時間を更に短縮することができるからである。ステップS17は、算出部が実行する処理の一例である。
【0052】
高圧ポンプ40への指示吐出量を、このようにして算出された初期値e2に設定し、ECU5は燃圧センサ38で検出される昇圧幅U2が目標昇圧幅TU2に維持されるように、吐出量E2をフィードバック制御する。尚、指示吐出量が初期値e2又は吐出量E2に設定された場合にも、上述したステップS12及びS13と同様の方法により、吐出量E2に対応する昇圧幅U2を算出し、吐出量E2をフィードバック制御する。このように、実際の昇圧幅が目標昇圧幅TU2となるように吐出量E2をフィードバック制御することに、リリーフ弁70の開閉に伴う異音の発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 燃料供給システム
5 ECU(燃圧センサの異常診断装置、第1制御部、第2制御部)
10 エンジン(内燃機関)
15 カム軸
21 燃料タンク
22 低圧ポンプ
25 低圧管
25a 分岐管
26 低圧デリバリパイプ
27 ポート噴射弁
28、38 燃圧センサ
39 燃温センサ
36 高圧デリバリパイプ(蓄圧容器)
37 筒内噴射弁
40 高圧ポンプ
41 シリンダ
42 プランジャ
43 加圧室
47 吐出通路
49 リリーフ通路
50 吸入弁
60 吐出弁
70 リリーフ弁
71 弁体
73 弁座
73a 孔
75 バネ(付勢部材)
CP カム