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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】進路推定装置および進路推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/12 20200101AFI20241112BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20241112BHJP
   B60W 40/12 20120101ALI20241112BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20241112BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W30/12
B60W40/02
B60W40/12
B60W40/114
G08G1/16 C
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021118232
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013806
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智啓
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】中澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 康平
(72)【発明者】
【氏名】貴田 明宏
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-341739(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00
B60W 40/00
B62D 6/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)であって、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記継続時間が前記所定時間以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定装置。
【請求項2】
前記特性設定部は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項1に記載の進路推定装置。
【請求項3】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)であって、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定装置。
【請求項4】
前記特性設定部は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項1~3のいずれか1つに記載の進路推定装置。
【請求項5】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)であって、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定装置。
【請求項6】
前記特性設定部は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項1~5のいずれか1つに記載の進路推定装置。
【請求項7】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)であって、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定装置。
【請求項8】
前記特性設定部は、前記自車両の車速が第一車速である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性よりも、前記車速が前記第一車速よりも高い第二車速である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性の方が、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項1~7のいずれか1つに記載の進路推定装置。
【請求項9】
前記推定状態量に対し、操舵角に応じたガード値を設ける、
請求項1~8のいずれか1つに記載の進路推定装置。
【請求項10】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、進路推定プログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記継続時間が前記所定時間以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定プログラム。
【請求項11】
前記特性設定処理は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項10に記載の進路推定プログラム。
【請求項12】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、進路推定プログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定プログラム。
【請求項13】
前記特性設定処理は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項10~12のいずれか1つに記載の進路推定プログラム。
【請求項14】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、進路推定プログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定プログラム。
【請求項15】
前記特性設定処理は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項10~14のいずれか1つに記載の進路推定プログラム。
【請求項16】
自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、進路推定プログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
進路推定プログラム。
【請求項17】
前記特性設定処理は、前記自車両の車速が第一車速である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性よりも、前記車速が前記第一車速よりも高い第二車速である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性の方が、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する、
請求項10~16のいずれか1つに記載の進路推定プログラム。
【請求項18】
前記推定状態量に対し、操舵角に応じたガード値を設ける、
請求項10~17のいずれか1つに記載の進路推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の進路を推定する、進路推定装置および進路推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーレートや舵角に基づいて自車両の進路を予測する装置として、特許文献1に記載された装置が知られている。この装置は、ローパスフィルタ処理を施した、ヨーレートあるいは舵角の測定結果と、車速の測定結果とに基づき、自車両の進路を予測する。
【0003】
ところで、ヨーレート等に基づく進路予測において、ハンドルのふらつきやノイズ等により、ヨーレート等が瞬間的に大きく変動する場合がある。このような変動を直接的に進路予測に反映させると、進路予測の精度が低下し、適切な運転支援ができなくなる。
【0004】
このため、特許文献1に記載された装置は、ヨーレート等の測定値に対してローパスフィルタ処理を施すように構成されており、これにより、ヨーレート等の急激な変動の影響を抑え、ハンドルのふらつき等が生じた場合であっても精度よく進路を予測できるようになる。また、この装置は、自車両前方の走行予定道路がカーブである場合には、ローパスフィルタ処理の時定数を低くすることで進路予測の精度を向上させる。一方、この装置は、走行予定道路が直進道路である場合には、時定数を高くし、ハンドルのふらつき等によるヨーレート等の変動の影響で進路予測の精度が低下するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-191596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自車両の走行予定道路における曲率等の、走行環境に応じてローパスフィルタ処理の時定数を変化させる、特許文献1に記載された装置においても、まだまだ改善の余地がある。具体的には、例えば、ドライバが操舵行動をとり始めている状況、特に、ドライバが急操舵する可能性のある状況(例えば駐車場内等)等において、走行環境の正確な判断が難しい場合があり得る。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、自車両の進路推定の精度を、従来よりも高精度化することが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の進路推定装置(4)は、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成されている。
この進路推定装置は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記継続時間が前記所定時間以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項3に記載の進路推定装置(4)は、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成されている。
この進路推定装置は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項5に記載の進路推定装置(4)は、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成されている。
この進路推定装置は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項7に記載の進路推定装置(4)は、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成されている。
この進路推定装置は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得部(402)と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対してローパスフィルタ処理を施す、フィルタ(403)と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記フィルタにおける応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定部(404)と、
前記フィルタの出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出部(405)と、
を備え、
前記特性設定部は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項10に記載の進路推定プログラムは、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶可能なプログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記継続時間が前記所定時間以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項12に記載の進路推定プログラムは、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶可能なプログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、前記第二の場合よりも前記変化量または前記変化速度が小さい前記第一の場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記第二の場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項14に記載の進路推定プログラムは、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶可能なプログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量が所定値未満である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記測定状態量が前記所定値以上である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、小さな時定数に相当する高応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
請求項16に記載の進路推定プログラムは、自車両(C)に搭載されることで当該自車両の進路を推定するように構成された、進路推定装置(4)により実行される、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶可能なプログラムであって、
前記進路推定装置が実行する処理は、
前記自車両の横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
前記状態量の周期的な前記測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
前記測定状態量または当該測定状態量の変化状態に応じて、前記ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
前記ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、前記自車両の推定進路を算出する、推定進路算出処理と、
を含み、
前記特性設定処理は、前記測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合の前記フィルタ特性である第一フィルタ特性が、前記極性と前記変化方向とが同一である場合の前記フィルタ特性である第二フィルタ特性よりも、大きな時定数に相当する低応答側となるように、前記フィルタ特性を設定する。
【0008】
なお、出願書類の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、かかる参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を、単に示すものにすぎない。よって、本発明は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る進路推定装置に相当する電子制御装置を含む車載システムを搭載した自車両の概略構成を示す平面図である。
図2図1に示された車載システムの概略構成を示すブロック図である。
図3図2に示された電子制御装置にて実現される概略的な機能構成を示すブロック図である。
図4図2に示された電子制御装置の動作概要を示すタイムチャートである。
図5図2に示された電子制御装置の動作概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、実施形態の説明の後にまとめて記載する。
【0011】
(車載システム構成)
図1を参照すると、車載システム1は、移動体としての車両Cに搭載されている。車両Cは、いわゆる四輪自動車であって、平面視にて略矩形状に形成された箱状の車体C1を備えている。「平面視」における車両Cの各部分の形状は、車両Cを走行可能に水平面に安定的に載置した状態で当該部分を重力作用方向と同一方向の視線で見た場合の形状を指すものである。本実施形態に係る車載システム1を搭載する車両Cを、以下「自車両C」と称する。
【0012】
以下、平面視にて、自車両Cの車幅方向における中心を通り、且つ自車両Cにおける車両全長方向と平行な仮想直線を、車幅中心線CLと称する。なお、車幅中心線CLは、車両中心線とも称され得る。車両全長方向は、車幅方向と直交し且つ車高方向と直交する方向である。車高方向は、自車両Cの車高を規定する方向であって、自車両Cを走行可能に水平面に安定的に載置した場合の重力作用方向と平行な方向である。また、「前」「後」「左」「右」「上」を、図1中にて矢印で示された通りに定義する。すなわち、車両全長方向は、前後方向と同義である。また、車幅方向は、左右方向と同義である。
【0013】
車載システム1は、自車両Cの周囲の障害物Dを検知するとともに、検知した障害物Dとの衝突可能性がある場合に操舵制御および/または制動制御により衝突回避する、運転支援システムとしての構成を有している。具体的には、車載システム1は、自車両Cの推定進路Pを算出するとともに、この推定進路Pと、障害物Dの検知結果とに基づいて、衝突回避のための自車両Cの運動制御を実行するように構成されている。
【0014】
図2を参照すると、車載システム1は、車両状態センサ2と、走行環境センサ3と、電子制御装置4と、報知器5と、車両制御部6とを備えている。
【0015】
車両状態センサ2は、自車両Cの運転状態に関連する諸量に対応する出力を発生するように設けられている。「運転状態に関連する諸量」は、例えば、アクセル操作量、ブレーキ操作量、シフトポジション、操舵角、等の、ドライバまたは運転自動化システムによる運転操作状態に関連する諸量を含む。また、「運転状態に関連する諸量」は、例えば、車速、角速度、前後方向加速度、左右方向加速度、等の、自車両Cの挙動に関連する物理量を含む。すなわち、車両状態センサ2は、アクセル開度センサ、操舵角センサ、車輪速センサ、角速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、等の、車両運転制御に必要な周知のセンサ類を、図示および説明の簡略化のために総称したものである。車両状態センサ2は、車載通信回線を介して、電子制御装置4に検出出力を提供可能に設けられている。
【0016】
走行環境センサ3は、自車両Cの走行環境のうち、天候(すなわち外気温や照度等)以外のものを検知するように設けられている。具体的には、走行環境センサ3は、自車両Cの周辺の所定の検知範囲における、移動物体および静止物体を検知可能に構成されている。「移動物体」は、歩行者、サイクリスト、動物、および運転中の他車両を含む。「静止物体」は、路上落下物、ガードレール、縁石、駐停車車両、道路標識、道路標示、道路脇の構造物(例えば、壁、建物、等。)、等を含む。走行環境センサ3は「ADASセンサ」とも称され得る。ADASはAdvanced Driver-Assistance Systemsの略である。具体的には、走行環境センサ3は、カメラ、レーダセンサ、ソナー、等の周知の物体検知センサのうちの少なくとも1つを含む。
【0017】
電子制御装置4は、車体C1の内部に収容されている。電子制御装置4は、自車両CのADAS動作を制御する、「ADAS ECU」としての構成を有している。ECUはElectronic Control UnitあるいはElectric Control Unitの略である。
【0018】
具体的には、電子制御装置4は、プロセッサ41とメモリ42とを備えた、車載コンピュータとしての構成を有している。プロセッサ41は、CPUやMPUにより構成されている。メモリ42は、ROM、RAM、不揮発性リライタブルメモリ、等の各種の非遷移的実体的記憶媒体のうち、少なくともROMおよびRAMを備えている。不揮発性リライタブルメモリは、電源投入中は情報を書き換え可能である一方で電源遮断中は情報を書き換え不能に保持する記憶装置であって、例えばフラッシュROM等である。電子制御装置4は、ROMまたは不揮発性リライタブルメモリに格納された制御プログラムを読み出して実行することで、車載システム1の動作の全体を制御するように構成されている。
【0019】
報知器5は、運転支援のための各種警告を行うための、表示装置、スピーカ、等によって構成されている。車両制御部6は、電子制御装置4により算出された推定進路P等に基づいて、自車両Cの縦方向および/または横方向の運動制御を実行するように構成されている。
【0020】
(進路推定装置)
本発明の進路推定装置としての電子制御装置4は、自車両Cに搭載されることで、当該自車両Cの進路を推定するように構成されている。図3を参照すると、電子制御装置4は、自車両Cの推定進路Pの算出に関連して車載マイクロコンピュータ上に実現される機能構成として、車速取得部401と、測定結果取得部402と、フィルタ403と、特性設定部404と、推定進路算出部405とを有している。以下、図1図3を参照しつつ、本発明の進路推定装置としての電子制御装置4の構成の詳細について説明する。
【0021】
車速取得部401は、自車両Cの車速の検出結果を取得するようになっている。具体的には、車速取得部401は、車両状態センサ2から取得した信号あるいは情報に基づいて、自車両Cの車速を取得するようになっている。すなわち、プロセッサ41は、車両状態センサ2から取得した、車速取得のための信号あるいは情報を、RAMに格納するようになっている。
【0022】
測定結果取得部402は、自車両Cの横方向状態量の測定結果である測定状態量を取得するようになっている。「横方向状態量」は、自車両Cの横方向運動に対応する状態量であって、例えば、操舵角またはヨー角である。具体的には、測定結果取得部402は、自車両Cの横方向状態量の周期的な測定結果を、車両状態センサ2から取得した信号あるいは情報に基づいて取得するようになっている。すなわち、プロセッサ41は、車両状態センサ2から取得した、自車両Cの横方向状態量に対応する信号あるいは情報を、RAMまたは不揮発性リライタブルメモリに格納するようになっている。
【0023】
フィルタ403は、自車両Cの横方向状態量の周期的な測定結果に対してローパスフィルタ処理を施すようになっている。具体的には、フィルタ403は、測定結果取得部402にて取得した測定状態量を測定結果取得部402から受領してローパスフィルタ処理を施すとともに、処理結果であるフィルタ出力を推定進路算出部405に受け渡すようになっている。
【0024】
特性設定部404は、測定結果取得部402にて取得した測定状態量、または、当該測定状態量の変化状態に応じて、フィルタ403における応答特性であるフィルタ特性を設定するようになっている。フィルタ特性の設定の詳細については後述する。推定進路算出部405は、フィルタ出力である推定状態量に基づいて、自車両Cの推定進路Pを算出するようになっている。
【0025】
(動作概要)
以下、本実施形態に係る電子制御装置4の動作概要について、各図面を参照しつつ説明する。
【0026】
上記の通り、自車両Cの横方向状態量の測定結果に基づく自車両Cの推定進路Pの算出において、ハンドルのふらつきやノイズ等による状態量の変動による推定誤差を抑えるために、状態量にローパスフィルタ処理が施される。ここで、例えば、ドライバが操舵行動をとり始めている状況、特に、ドライバが急操舵する可能性のある状況(例えば駐車場内等)等において、特許文献1等に記載された従来技術には、まだまだ改善の余地があった。
【0027】
この点、自車両Cの横方向状態量の測定結果の履歴からドライバの操舵意思の有無を推定し、かかる推定結果を用いることで、より適切な進路推定が可能である。そこで、特性設定部404は、測定結果取得部402にて取得した測定状態量、または、当該測定状態量の変化状態に応じて、フィルタ403における応答特性であるフィルタ特性を設定する。
【0028】
フィルタ特性は、例えば、フィルタ時間(すなわち時定数)である。あるいは、フィルタ特性は、例えば、以下の式(1)における推定時間Teである。以下の式(1)において、Ymは測定状態量であり、Yeは推定状態量である。推定状態量Yeは、測定状態量Ymに対するフィルタ処理結果であり、すなわち、自車両Cの横方向状態量の推定結果である。Vyは、測定状態量Ymの変化速度、すなわち、測定状態量Ymの微分値である。Ayは、測定状態量Ymの変化加速度、すなわち、変化速度Vyの微分値である。
Ye=Ym+Te・(2・Vy+Te・Ay)/2…(1)
【0029】
図4は、時間経過に伴う、横方向状態量の測定結果、および、フィルタ処理による推定結果の変化の様子を示す。図中、破線は測定状態量を示し、実線は推定状態量を示す。
【0030】
例えば、図4における領域A1のように、測定状態量の同一方向(例えば右操舵方向)の変化継続が所定時間未満である場合、かかる測定状態量はノイズである可能性がある。このため、かかる測定状態量を進路推定に反映させると過剰推定が生じる懸念がある。そこで、特性設定部404は、測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合、フィルタ特性を、大きな時定数に相当する低応答側に設定する。すなわち、特性設定部404は、測定状態量における同一方向の変化の継続時間が所定時間未満である場合のフィルタ特性である第一フィルタ特性が、継続時間が所定時間以上である場合のフィルタ特性である第二フィルタ特性よりも低応答側となるように、フィルタ特性を設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を長くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを短くする。
【0031】
例えば、図4における領域A2のように、測定状態量が所定値以下の場合、ハンドルの慣性によって操舵開始時の変化が小さくなる。そこで、この場合、特性設定部404は、フィルタ特性を、小さな時定数に相当する高応答側に設定する。すなわち、特性設定部404は、測定状態量が所定値未満である場合のフィルタ特性である第一フィルタ特性が、測定状態量が所定値以上である場合のフィルタ特性である第二フィルタ特性よりも高応答側となるように、フィルタ特性を設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を短くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを長くする。
【0032】
例えば、図4における領域A3のように、測定状態量の変化が小さい場合、ドライバが操舵行動をとり始めている状況であって将来的に操舵変化が大きくなる可能性がある。そこで、この場合、特性設定部404は、フィルタ特性を、小さな時定数に相当する高応答側に設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を短くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを長くする。
【0033】
一方、図4における領域A4のように、測定状態量の変化が大きい場合、ドライバが操舵状態を変化させている途中である可能性がある。仮にドライバが変化方向の障害物に気づいている場合に過剰推定が生じる懸念がある。そこで、測定状態量の変化が大きい場合、特性設定部404は、大きな時定数に相当する低応答側に設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を長くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを短くする。
【0034】
このように、特性設定部404は、フィルタ特性を、測定状態量の変化が小さい場合には高応答側に設定し、測定状態量の変化が大きい場合には低応答側に設定する。すなわち、特性設定部404は、測定状態量の変化量または変化速度が異なる第一の場合と第二の場合とで、第二の場合よりも変化量または変化速度が小さい第一の場合のフィルタ特性である第一フィルタ特性が、第二の場合のフィルタ特性である第二フィルタ特性よりも高応答側となるように、フィルタ特性を設定する。
【0035】
例えば、図4における領域A5のように、測定状態量の変化方向が測定状態量の極性(すなわち右操舵側か左操舵側か)と逆である場合(例えばハンドルの切り戻し時)、操舵変化が大きくなり過剰推定が生じる懸念がある。そこで、この場合、特性設定部404は、大きな時定数に相当する低応答側に設定する。すなわち、特性設定部404は、測定状態量の極性と当該測定状態量の変化方向とが逆である場合のフィルタ特性である第一フィルタ特性が、極性と変化方向とが同一である場合のフィルタ特性である第二フィルタ特性よりも低応答側となるように、フィルタ特性を設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を長くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを短くする。
【0036】
このように、本実施形態によれば、自車両Cの横方向運動に対応する状態量の測定結果に基づく進路推定において、測定結果の履歴からドライバの操舵意思の有無を推定して、かかる推定結果に応じたフィルタ特性を設定する。これにより、自車両Cの進路推定の精度を、従来よりも高精度化することが可能となる。具体的には、例えば、ノイズや過剰推定の可能性が高いシーンにおいては、フィルタ応答性を低くして推定状態量を算出することで、ノイズの影響や過剰推定の発生を可及的に抑制することが可能となる。一方、ノイズや過剰推定の可能性が低いシーンにおいては、フィルタ応答性を高くして推定状態量を算出することで、ドライバの意図を先行取得した、より将来の推定を精度よく行うことが可能となる。本実施形態は、特に、ドライバが操舵行動をとり始めている状況において有効である。
【0037】
ここで、車速が高い場合は、操舵変化が大きくなるケースが多く、過剰推定の懸念がある。このため、この場合、特性設定部404は、大きな時定数に相当する低応答側に設定する。具体的には、特性設定部404は、フィルタ時間を長くする。あるいは、特性設定部404は、式(1)における推定時間Teを短くする。すなわち、特性設定部404は、自車両Cの車速が第一車速である場合のフィルタ特性である第一フィルタ特性よりも、車速が第一車速よりも高い第二車速である場合のフィルタ特性である第二フィルタ特性の方が低応答側となるように、フィルタ特性を設定する。
【0038】
過剰推定を回避するためには、推定結果は、舵角の最大値を超えない範囲とすることが好適である。そこで、本実施形態は、推定状態量に対し、操舵角に応じたガード値を設ける。ガード値の設定は、例えば、フィルタ403または推定進路算出部405によって実行され得る。
【0039】
(動作例)
以下、本実施形態に係る電子制御装置4の動作例について、図1図4に加えて図5に示されているフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図5において、「S」は「ステップ」の略である。
【0040】
プロセッサ41は、メモリ42から図5に示されているルーチンに対応するプログラムを読み出して、所定時間間隔で繰り返し起動する。かかるプログラムが起動されると、まず、ステップ501にて、プロセッサ41は、横方向状態量の測定結果すなわち測定状態量を取得する。次に、ステップ502にて、プロセッサ41は、自車両Cの車速を取得する。
【0041】
続いて、ステップ503にて、プロセッサ41は、ステップ501にて取得した測定状態量あるいはその変化状態と、ステップ502にて取得した車速とに基づいて、フィルタ特性を設定する。その後、ステップ504にて、プロセッサ41は、ステップ503にて設定したフィルタ特性を用いて、ローパスフィルタ処理を実行する。そして、ステップ505にて、プロセッサ41は、フィルタ出力である推定状態量を用いて推定進路Pを算出し、本ルーチンを一旦終了する。
【0042】
このように、プロセッサ41とメモリ42とを備えた電子制御装置4により実行されるプログラムは、電子制御装置4すなわちプロセッサ41が実行する処理として、
自車両Cの横方向運動に対応する状態量の測定結果である測定状態量を取得する、測定結果取得処理と、
測定状態量の周期的な測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
測定状態量またはその変化状態に応じて、ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、推定進路Pを算出する、推定進路算出処理と、
を含む。
また、電子制御装置4は、プロセッサ41とメモリ42とを備え、
プロセッサ41は、
測定状態量の周期的な測定結果に対するローパスフィルタ処理と、
測定状態量またはその変化状態に応じて、ローパスフィルタ処理における応答特性であるフィルタ特性を設定する、特性設定処理と、
ローパスフィルタ処理の出力である推定状態量に基づいて、推定進路Pを算出する、推定進路算出処理と、
を実行するように構成される。
【0043】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一の符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0044】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な装置構成に限定されるものではない。例えば、電子制御装置4の全部または一部は、上記のような動作を可能に構成されたデジタル回路、例えばASICあるいはFPGAを備えた構成であってもよい。ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略である。FPGAはField Programmable Gate Arrayの略である。すなわち、電子制御装置4において、車載マイクロコンピュータ部分とデジタル回路部分とは併存し得る。
【0045】
上記実施形態にて説明した、各種の動作、手順、あるいは処理を実行可能とする、本発明に係るプログラムは、V2X通信を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。V2XはVehicle to Xの略である。あるいは、かかるプログラムは、車両Cの製造工場、整備工場、販売店、等に設けられた端末機器を介して、ダウンロードあるいはアップグレードされ得る。かかるプログラムの格納先は、メモリーカード、光学ディスク、磁気ディスク、等であってもよい。
【0046】
このように、上記の各機能構成および処理は、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、上記の各機能構成および処理は、これを実現するための手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。
【0047】
したがって、図3に示された車速取得部401等は、あくまで、本発明の内容の理解に資するために便宜的に設定した機能構成ブロックである。したがって、これらの機能構成ブロックが実際にサブルーチンあるいはハードウェアとして電子制御装置4の内部に実現されていなくても、本発明所定の機能あるいは処理が実現されていれば、本発明の要件は充足され得る。
【0048】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な動作態様に限定されない。すなわち、例えば、進路推定の結果によっては、過剰推定のケースも考えられる。このため、例えば、測定状態量に基づく進路推定と推定状態量に基づく進路推定とを行い、測定状態量に基づく進路推定結果による衝突判定はドライバへの通知および車両制動に用い、推定状態量に基づく進路推定結果による衝突判定は報知器5によるドライバへの通知のみに用いてもよい。
【0049】
上記の式(1)における変化速度Vyを含む項と変化加速度Ayを含む項との一方は、省略され得る。あるいは、上記の式(1)における2つの推定時間Teのうちの一方のみを、測定状態量またはその変化状態に応じて調整してもよい。あるいは、横方向状態量の範囲のうちの一部に対してのみフィルタ処理をかける等も、実施例としてはあり得る。
【0050】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0051】
変形例も、上記の例示に限定されない。また、複数の変形例が、互いに組み合わされ得る。更に、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、互いに組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0052】
1 車載システム
2 車両状態センサ
3 走行環境センサ
4 電子制御装置(進路推定装置)
401 車速取得部
402 測定結果取得部
403 フィルタ
404 特性設定部
405 推定進路算出部
C 自車両
図1
図2
図3
図4
図5