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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】真空成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/10 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B29C51/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021121359
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017243
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】中倉 俊典
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-071377(JP,A)
【文献】特開2021-102278(JP,A)
【文献】特開2014-226886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を用いてシート状の材料を真空成形する真空成形方法であって、
前記材料の縁部を把持装置により把持する把持工程と、
前記材料が前記成形型の表面に形成されている成形部の形状に沿って配置されるように、前記把持装置を前記成形部に沿って移動させる移動工程と、
前記移動工程により前記材料が前記成形部の形状に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記成形部に密着させる密着工程と、
を備え
前記成形部は、第1成形部と、前記第1成形部に連続すると共に前記第1成形部の表面と交差する表面を有する第2成形部とを含み、
前記第1成形部を前記材料により覆う被覆工程をさらに備え、
前記移動工程では、前記第1成形部が前記材料により覆われた状態で、前記把持装置を前記第2成形部に沿って移動させ、
前記密着工程では、前記材料が前記第2成形部に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記第1成形部および前記第2成形部に密着させ、
前記第2成形部は、アンダーカットを形成する突出したアンダーカット成形部を含み、
前記移動工程は、前記アンダーカット成形部の形状に沿って前記把持装置を前記第1成形部の表面と交差する交差方向に移動させる工程を含み、移動後の前記把持装置は、前記交差方向に見たときに前記アンダーカット成形部と重複する位置にある、真空成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、軟化状態にあるシート状の材料を、真空吸引により、所望の凹凸形状を有する成形型に密着させて所望の形状に成形する真空成形方法が知られている。こうした真空成形方法は、具体的には以下のような手順で行われていた。まず、軟化状態の材料が水平に扁平状になるように材料の外周縁部をクランプ部によって把持し、クランプ部の位置を固定したまま、成形型を鉛直方向に移動させることで材料を成形型の表面(以下、「成形部」という)に沿わせ、その後、真空吸引により材料を成形部へ密着させる。こうして、材料は、成形部の凹凸に沿うように、伸ばされながら成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-301018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した真空成形方法の手順では、クランプ部の位置が固定されているため、成形型の形状によっては、成形中や成形後のクランプ部の位置が成形型から大きく離れることが起こり得る。この場合、材料の伸びが大きくなってしまい、その結果、成形品としての板厚が予定値よりも小さくなり強度が低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]成形型を用いてシート状の材料を真空成形する真空成形方法であって、前記材料の縁部を把持装置により把持する把持工程と、前記材料が前記成形型の表面に形成されている成形部の形状に沿って配置されるように、前記把持装置を前記成形部に沿って移動させる移動工程と、前記移動工程により前記材料が前記成形部の形状に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記成形部に密着させる密着工程と、を備え、前記成形部は、第1成形部と、前記第1成形部に連続すると共に前記第1成形部の表面と交差する表面を有する第2成形部とを含み、前記第1成形部を前記材料により覆う被覆工程をさらに備え、前記移動工程では、前記第1成形部が前記材料により覆われた状態で、前記把持装置を前記第2成形部に沿って移動させ、前記密着工程では、前記材料が前記第2成形部に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記第1成形部および前記第2成形部に密着させ、前記第2成形部は、アンダーカットを形成する突出したアンダーカット成形部を含み、前記移動工程は、前記アンダーカット成形部の形状に沿って前記把持装置を前記第1成形部の表面と交差する交差方向に移動させる工程を含み、移動後の前記把持装置は、前記交差方向に見たときに前記アンダーカット成形部と重複する位置にある、真空成形方法。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、真空成形方法が提供される。この真空成形方法は、成形型を用いてシート状の材料を真空成形する真空成形方法であって、前記材料の縁部を把持装置により把持する把持工程と、前記材料が前記成形型の表面に形成されている成形部の形状に沿って配置されるように、前記把持装置を前記成形部に沿って移動させる移動工程と、前記移動工程により前記材料が前記成形部の形状に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記成形部に密着させる密着工程と、を備える。
この形態によれば、移動工程において、材料の縁部を把持した把持装置が成形部の形状に沿って移動することで、材料を成形部の凹凸に大まかに沿って配置させることができる。そして、材料が成形部の形状に沿って配置された状態で、成形部と材料との間が減圧されて材料が成形部に密着する。つまり、成形中や成形後の把持装置の位置が成形型に沿うため、例えば、把持装置が固定されたまま、成形型が移動することで材料を形成面の形状に沿わせる形態と比較して、成形中や成形後の把持装置の位置が成形型から大きく離れることがなく、材料の伸びを小さくできる。すなわち、材料の伸張率を抑えられることで、成形品としての板厚を確保でき、強度低下を抑制することができる。
(2)上記形態において、前記成形部は、第1成形部と、前記第1成形部に連続すると共に前記第1成形部の表面と交差する表面を有する第2成形部とを含み、前記第1成形部を前記材料により覆う被覆工程をさらに備え、前記移動工程では、前記第1成形部が前記材料により覆われた状態で、前記把持装置を前記第2成形部に沿って移動させ、前記密着工程では、前記材料が前記第2成形部に沿って配置された状態で、前記成形部と前記材料との間を減圧して前記材料を前記第1成形部および前記第2成形部に密着させてもよい。
この形態によれば、被覆工程において、第1成形部が材料により覆われる。そして、移動工程において、把持装置が、第1成形部に連続すると共に第1成形部と交差する第2成形部に沿って移動されるため、第2成形部に材料を沿わせることができる。よって、第1成形部と第2成形部とを有する成形型を用いた真空成形方法において、材料の伸張率を抑えることができる。
(3)上記形態において、前記第2成形部は、アンダーカットを形成する突出したアンダーカット成形部を含み、前記移動工程は、前記アンダーカット成形部の形状に沿って前記把持装置を前記第1成形部の表面と交差する交差方向に移動させる工程を含み、移動後の前記把持装置は、前記交差方向に見たときに前記アンダーカット成形部と重複する位置にあってもよい。この形態によれば、材料の伸張率が大きくなりやすいアンダーカット成形部を有する真空成形方法においても、材料の伸張率を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の第1実施形態としての真空成形方法を示す工程図である。
図2】本開示の第1実施形態における真空成形装置の概略構成を示す斜視図である。
図3】本開示の第1実施形態における真空成形装置の概略構成を示す斜視図である。
図4】真空成形装置の断面図であり、把持工程を示す図である。
図5】真空成形装置の断面図であり、移動工程を示す図である。
図6】真空成形装置の断面図であり、移動工程を示す図である。
図7】他の実施形態における真空成形装置の側面図であり、移動工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A1.真空成形方法の概略および真空成型装置の構成:
本開示の第1実施形態の真空成形方法について、図1図6を参照しつつ説明する。第1実施形態の真空成形方法では、真空成形装置100を用いて、真空成形用樹脂シート(以下、単に「材料W」ともいう)を使用して、自動車用のルーフパネルおよびサイドアウターパネルの上部を一体的に成形するものである。シート状の材料Wとしての樹脂シートは、例えば熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂として、具体的には、例えばポリカーボネート(PC)樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、PC/PET樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂等を用いることができるが、これに限定されず、所望の成形品によって適宜選択可能である。樹脂シートの厚さは、例えば1MM程度のものを用いることができる。
【0009】
図1は、本開示の第1実施形態としての真空成形方法を示す工程図である。図1に示すように、第1実施形態の真空成形方法は、被覆工程P10と、把持工程P20と、移動工程P30と、密着工程P40と、を備え、この順序で実行される。まず、各工程P10,P20,P30,P40を実行するために用いる真空成形装置100の概略構成について説明する。その後、各工程P10,P20,P30,P40について順に説明する。
【0010】
図2図3は、真空成形方法を実施する真空成形装置100の概略構成を示す斜視図である。図2は、成形前であって、材料Wを把持する前の状態を示しているため、後述するクランプ部材50は図示されていない。また、図2は、後述する把持装置2が上昇端位置にある状態を示している。図3は、成形後の状態であって、把持装置2が下降端位置にある状態を示している。
【0011】
図2図3において、XYZ座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。XYZは互いに直交する。X軸およびY軸は水平面に沿った軸であり、すなわちXY平面が水平面である。Z軸は、鉛直線に沿った軸である。+Z軸方向が鉛直方向の上向きであり、-Z軸方向が鉛直方向の下向きである。以下、+Z軸方向を「上」ともいい、-Z軸方向を「下」ともいう。また、+X軸方向を「左」ともいい、-X軸方向を「右」ともいう。また、+Y軸方向を「後」ともいい、-Y軸方向を「前」ともいう。
【0012】
図2図3に示すように、真空成形装置100は、成形型1と、把持装置2(外枠部材30および、クランプ部材50(図3参照))と、ガイドプレート11,12,13,14と、を備えている。真空成形装置100は、装置全体においてY軸方向に伸びる中心線Cを中心として、各部材が、略左右対称に構成されている。成形型1は、上方に突出する凸形状をなし、前後端の部位が中央付近の部位よりなだらかに低くなっている。成形型1は、平面視において前後に長く、概ね矩形状をなしている。
【0013】
成形型1の表面には、第1成形部15および第2成形部16が形成されている。第1成形部15は、成形型1の上面に形成されている。第2成形部16は、成形型1の側面に形成されている。第2成形部16は、第1成形部15に連続すると共に第1成形部15の表面と交差する表面を有する。本実施形態では、第2成形部16は、第1成形部15と略直交する。本実施形態において「表面が交差する」とは、2つの表面の端部同士が接し、且つ、各表面を延長させて得られる仮想的な面同士が交わることを意味する。各成形部15,16は、賦形すべき成形品の形状に対応しており、第1成形部15はルーフパネルの形状に対応し、第2成形部16はサイドアウターパネルの上部の形状に対応している。なお、第2成形部16は、第1成形部15をX軸方向に挟むように、左右に一つずつ配置されている。図2、3では、左側の第2成形部16のみ表れている。
【0014】
図4は、真空成形装置100の断面図であり、把持工程P20を示す図である。図4は、装置100のY軸方向(前後方向)の中心近傍におけるXZ平面と平行をなす垂直面における断面図であって、図2に示すIV-IV線矢視図に対応している。なお、図2ではクランプ部材50および材料Wは図示していないが、図4では、クランプ部材50および材料Wを図示している。第2成形部16は、図4に示すように、外側に張り出した張り出し部17と、張り出し部17の先端から連続して内側に凹んだアンダーカット成形部18とを有している。アンダーカット成形部は、製品が有するアンダーカットを形成する部位である。アンダーカット成形部18の下端から下の部分は、略まっすぐに下降している。なお、成形型1には、図示しない多数の吸引穴が成形部15,16を貫通して形成されており、これらの吸引穴を介して成形部15,16の近傍の空気が成形型1の内部側へ吸引可能となっている。
【0015】
再び、図2図3を参照する。把持装置2は、材料Wの外周端部を把持するための装置である。把持装置2は、外枠部材30と、クランプ部材50とで構成されている。外枠部材30と、クランプ部材50との間に材料Wが把持される。外枠部材30は、成形型1の外縁の四辺を囲むように設けられている。外枠部材30は、それぞれ略板状をなす前枠31、後枠32、左枠33、右枠34を有して構成されている。前枠31は、X軸方向に沿うように、かつ、成形型1の前端面に沿って配置されている。後枠32は、X軸方向に沿うように、かつ、成形型1の後端面に沿って配置されている。左枠33は、Y軸方向に沿うように、かつ、成形型1の左端面に沿って配置されている。右枠34は、Y軸方向に沿うように、かつ、成形型1の右端面に沿って配置されている。前枠31および後枠32の上面は、概ね平坦である。左枠33および右枠34は、下部がそれぞれ成形型1から遠ざかる外側方に突出しており、図4に示すように、垂直方向の断面がL字形状をなしている。
【0016】
左枠33および右枠34の上面は、Y軸方向における中央部位のZ軸座標値が最も高くなっている。より具体的には、左枠33および右枠34の上面は、前後方向における中央部位が最も高く、前後端の部位が、中央部位からなだらかに低くなっている。左枠33および右枠34の下部における前端には、2本のガイド棒35,36が前方へ突出して設けられている。同様に、左枠33および右枠34の下部における後端には、それぞれ2本のガイド棒35,36が後方へ突出して設けられている。各ガイド棒35,36の突出先端は、後述するガイドプレート11,12,13,14のガイド溝37,38に係合している。2本のガイド棒35,36のうち、成形型1に近い内側のガイド棒35の方が、外側のガイド棒36よりも高い位置に設けられている。
【0017】
また、図2図4に示すように成形前の初期位置において、外枠部材30の上面は、成形型1の上面よりも高い位置にある。また、成形前の初期位置において、左枠33の右側面部と、成形型1の左側面部(第2成形部16)との間には隙間が形成されている。同様に、成形前の初期位置において、右枠34の左側面部と、成形型1の右側面部との間には隙間が形成されている。なお、成形後には、右左の枠33,34が内側に移動して、図6に示すようにこの隙間はなくなる。詳細については成形方法において後述する。なお、前枠31と成形型1の前面との間、および、後枠32と成形型1の後面との間には、隙間は形成されていない。
【0018】
図3に示すように、クランプ部材50は、材料Wを把持するときに、外枠部材30の上方に設けられる部材であり、各枠31,32,33,34にそれぞれ対応したクランプ51,52,53,54により構成されている。クランプ部材50は、前クランプ51、後クランプ52、左クランプ53、右クランプ54を有して構成されている。外枠部材30と、対応するクランプ部材50と、により把持装置2が構成される。すなわち、前枠31と前クランプ51とで、前把持部21が構成される。後枠32と後クランプ52とで、後把持部22が構成される。左枠33と左クランプ53とで、左把持部23が構成される。右枠34と右クランプ54とで、右把持部24が構成される。
【0019】
以下、各把持部21,22,23,24を区別しないときは、単に「把持装置2」と総称していうものとする。また、各枠31,32,33,34を区別しないときは、単に「外枠部材30」と総称していうものとする。また、各クランプ51,52,53,54を区別しないときは、単に「クランプ部材50」と総称していうものとする。
【0020】
各クランプ51,52,53,54は、それぞれブロック状をなしている。外枠部材30の上面の形状と、対応するクランプ部材50の下面の形状とは対応している。このため、外枠部材30の上面に材料Wを介在させた状態で、クランプ部材50を材料Wの上方から外枠部材30の上面に沿うように載置可能となっている。材料把持時には、外枠部材30の上面と、クランプ部材50の下面とで材料Wを挟み込み、外枠部材30とクランプ部材50とを図示しないボルト等により固定することで材料Wが把持される。
【0021】
ガイドプレート11,12,13,14は、移動工程P30において、右左の把持部23,24を案内し、予め定めた軌道に沿って移動させるためのものである。ガイドプレート11,12,13,14,15は、左枠33および右枠34の前後端に設けられている。第1ガイドプレート11は、左枠33の前端に設けられている。第2ガイドプレート12は、左枠33の後端に設けられている。第3ガイドプレート13は、右枠34の前端に設けられている。第4ガイドプレート14は、右枠34の後端に設けられている。
【0022】
各ガイドプレート11,12,13,14は、同様の構成であるため、図4を参照して、第2ガイドプレート12を例に説明する。第2ガイドプレート12には、2本のガイド溝37,38が並列して形成されている。ガイド溝37,38は、-Y軸方向から見て略J字形状をなしており、上端から略鉛直に下降した後、成形型1に近づく内側方向に曲がり、そのまま水平内側方向に延びた形状をなしている。2本のガイド溝37,38のうち、成形型1に近い内側のガイド溝37の方が、外側のガイド溝38よりも高い位置に設けられている。ガイド溝37,38には、ガイド棒35,36の先端が係合可能である。
【0023】
なお、成形型1および各ガイドプレート11,12,13,14は定位置に固定されており、把持部21,22,23,24(外枠部材30およびクランプ部材50)は、材料Wを把持した状態で、成形型1およびガイドプレート11,12,13,14に対して相対移動可能となっている。動作についての詳細は後述する。
【0024】
真空成形装置100は、さらに、図示しない加熱装置や、真空ポンプを有している。加熱装置は、材料Wを軟化させるためのもので、例えば、中赤外線ヒータや遠赤外線ヒータ等を用いることができる。なお、成形型1および外枠部材30の内部には、保温用のヒータが埋め込まれている。また、真空ポンプの作動により、上記した図示しない吸引穴を介して材料Wを成形部の凹凸に密着させることができる。なお、真空成形装置100には、前把持部21と後把持部22におけるZ軸方向の移動をガイドする図示しないシリンダが設けられている。
【0025】
A2.真空成形方法の詳細:
次に、上記の真空成形装置100を用いた真空成形方法について説明する。まず、被覆工程P10(図1参照)において、成形型1および外枠部材30を含む全体を被覆するように、上方から材料Wを成形型1および外枠部材30の上に載せる。
【0026】
次に、把持工程P20において、外枠部材30上に配置された材料Wの外周縁部を、外枠部材30の上面と、クランプ部材50の下面とで挟み、図示しないボルト等の固定部材で締め付けて材料Wを固定する。このとき、図4に示すように、把持部21,22,23,24は上昇端位置にあり、材料Wは把持部21,22,23,24に固定された状態である。また、ガイド棒35,36は、係合するガイド溝37,38の上端に位置している。
【0027】
次に、移動工程P30において、材料Wが第2成形部16の形状に沿って配置されるように、把持装置2を第2成形部16の形状に沿って移動させる。なお、材料Wが第2成形部16の形状に「沿って配置される」とは、第2成形部16の形状と一定の距離を保って沿って配置される構成に限らず、第2成形部16と材料Wとの距離が一定ではないものの、材料Wの外形が、おおよそ第2成形部16の外形と相似或いは類似するように配置される構成も含む広い意味を有する。
【0028】
なお、移動工程P30に際して、図示しない可動型の加熱装置を作動させて、材料Wを加熱し軟化状態にしておく。材料Wが軟化状態となったら、加熱装置をオフしておく。なお、加熱装置は、移動工程P30の間作動させ続けてもよい。図5図6は、真空成形装置100の断面図であり、移動工程P30を示す図である。図5は、移動途中の状態を示し、図6は、図5に示す状態からさらに移動が進み、把持装置2が下降端にある状態を示している。また、図6は、図3に示すVI-VI線矢視図に対応している。
【0029】
本実施形態では、例えば複数人の作業者によって手動により4つの把持部21,22,23,24を同時に下降させる。このとき、上昇端位置を初期位置とすると、左把持部23は、図4に示す初期位置から、図5図6に示すように、ガイド棒35,36がガイド溝37,38に沿って下降することにより、-Z軸方向に移動しながら、徐々に-X軸方向に移動する。左把持部23と対称に動作する右把持部24は、同様にガイド棒35,36がガイド溝37,38に沿って下降することにより、-Z軸方向に移動しながら、徐々に+X軸方向に移動する。なお、このとき、左右の把持部23,24の下降と同時に、前後の把持部21,22を、左右の把持部23,24の下降速度と同じ速度で下降させる。前後の把持部21,22は、図示しないシリンダに沿って-Z軸方向にまっすぐに下降するようにガイドされる。
【0030】
すなわち、左右の把持部23,24は、それぞれ徐々に成形型1に近づく内側方向へと移動しつつ下降する。この際、左右の把持部23,24は、ガイド溝37,38によってガイドされるため、その軌道は、ガイド溝の形状と一致する。作業者は、ガイド棒35,36を持って下降させるように操作することのみで、左右の把持部23,24は自動的にX軸方向へも移動される。このように、左右の把持部23,24は、XZ平面において成形型1の第2成形部16の形状に沿った2次元的な動きをする。2次元的な動きとは、Y軸方向から見たXZ平面内において、一直線上にZ軸方向に下降するだけでなく、X軸方向での位置を変化させる軌道を意味する。
【0031】
なお、2本のガイド棒35,36を設けていることにより、ガイド棒35,36がガイド溝内37,38を移動する際に、把持装置2の水平状態が保たれるようになっている。前後の把持部21,22は、-Z軸方向への1次元的な動きをする。
【0032】
図6に示すように、左右の把持部23,24が下降端位置にきたとき、つまり、移動工程P30を経た後は、左右の把持部23,24と第2成形部16との隙間はほぼなくなる。移動工程P30完了後の把持部23,24の位置は、Z軸方向に見たとき、張り出し部17およびアンダーカット成形部18と重複した位置にある。すなわち、上記移動工程P30は、アンダーカット成形部18の形状に沿って把持装置2を第1成形部15の表面と交差する交差方向に移動させる工程を含み、移動後の把持装置2は、交差方向に見たときにアンダーカット成形部18と重複する位置にある。「交差方向」は、本実施形態においてZ軸方向と一致する。さらに、換言すると、移動工程P30完了後の把持部23,24の位置は、張り出し部17とアンダーカット成形部18との境界部分である突出先端よりも、成形型1に近い内側位置にある。
【0033】
また、外枠部材30と対向する成形型1の第2成形部16には、図示しないシール部材が設けられており、成形型1と、移動後の外枠部材30との間に隙間ができない構造になっている。
【0034】
次に、密着工程P40において、材料Wが第2成形部16に沿って配置された状態で、図示しない真空ポンプの作動により、図示しない吸引穴を介して吸引(真空引き)を行うことによって、成形部15,16と材料Wとの間の空間を減圧する。これにより、材料Wは、第1成形部15および第2成形部16に吸着されてアンダーカット成形部18にも引き込まれつつ密着し、所定の製品形状に賦形される。
【0035】
上記第1実施形態の真空成形方法によれば、移動工程P30において、材料Wの外周縁部を把持した把持装置2(把持部21,22,23,24)が移動することで、材料Wを第2成形部16の凹凸形状に大まかに沿わせることができる。そして、密着工程P40において、材料Wが第2成形部16の形状に沿って配置された状態で真空引きされる。つまり、成形中や成形後の把持装置2の位置が第2成形部16に沿うため、例えば、把持装置2が固定されたまま、成形型1が移動することで材料Wを第2成形部16の表面形状に沿わせる形態と比較して、元の材料Wの長さと成形後の材料Wの長さとの差分を少なくできる。すなわち、材料Wの伸張率を抑えられることで、成形品としての板厚を確保でき、強度低下を抑制することができる。
【0036】
また、板厚が小さくなると、製品としての要求性能が満たされなかったり、事前に材料Wに施された塗装が割れて製品の品質が確保できなかったりして、歩留まりが低下することが懸念される。その点、上記第1実施形態では、伸張率が抑えられることで板厚が均一化されるため、品質が向上し、歩留まりを向上させることができる。
【0037】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、移動工程P30において、左右の把持部23,24を移動させることで、材料Wが成形型1の第2成形部16に沿うように左右の把持部23,24を移動させたが、この動作は種々変更可能である。例えば、左右の把持部23,24を第2成形部16に沿うように移動できれば、ガイド棒35,36とガイド溝37,38はなくてもよい。
【0038】
(B2)また、他の構成としてガイド部材とガイドワイヤを用いてもよい。図7は、他の実施形態における真空成形装置101の側面図であり、移動工程P30を示す図である。なお、図7は、左右の把持部23,24の軌道をガイドする構成について説明する模式図であり、成形型1は省略している。例えば、図7に示すように、ガイドプレート11,12,13,14を設けずに、プレート状のガイド部材61を成形型1の前後に設け、ガイド部材61と把持部23とをガイドワイヤ62で接続するようにしてもよい。ガイド部材61の側面63は、成形部の形状に大まかに対応している。
【0039】
そして、移動工程P30では、ガイドワイヤ62が張った状態から、把持部23を矢印A1に示すような軌道で下降させることで、ガイド部材61の側面63にガイドワイヤ62を追従させて、把持部23をガイド部材61の形状に沿って下降させる。この形態のように、把持部23が、材料Wが伸びる+X軸方向への動きをしないように、ガイドワイヤ62により規制してもよい。
【0040】
(B3)また、把持装置2を動かす仕組みは、上記のような機械的かつ手動的な機構のみならず、コンピュータ制御によって、モータ等を用いて把持部21,22,23,24の軌道を自動制御する方法を採用してもよい。
【0041】
(B4)また、移動行程P30において、成形型1をZ軸方向に移動させ、把持装置2をX軸方向に移動させることで、材料Wが成形型1に沿って配置されるようにしてもよい。すなわち、成形型1のZ軸方向の移動と把持装置2のX軸方向の移動とが組み合わされることで、結果的に左右の把持部23,24がXZ平面において成形型1の第2成形部16の形状に沿った2次元的な動きをするようにしてもよい。
【0042】
(B5)また、移動工程P30における左右の把持部23,24の軌道についても、種々変更可能である。例えば、左の把持部23を一旦下降させたのち、別途設けた補助金型に沿って再度上昇させたり、-X軸方向に移動させたのち、再度+X軸方向に移動させたりして、所望の製品形状に賦形するようにしてもよい。移動工程P30の終了後に、外枠部材30と成形型1との間をシールするシール構造を有していれば、その後の密着工程P40を上記第1実施形態と同様に実施できる。
【0043】
(B6)上記第1実施形態における外枠部材30およびクランプ部材50の形状は一例であり、材料Wの縁近傍を把持できればよく、種々の形状が可能である。したがって、上記第1実施形態における左枠33および右枠34の形状は、単なる直方体形状でもよいし、扁平な板状部材でもよい。
【0044】
(B7)上記第1実施形態では、左右の把持部23,24を移動させたが、賦形すべき製品形状によっては、右左のどちらか一方の把持部だけ移動させるようにしてもよい。
【0045】
(B8)また、成形型1の第2成形部16に、アンダーカット成形部18が形成されるものとしたが、賦形すべき製品形状によっては、アンダーカット成形部18が形成されていなくてもよい。
【0046】
(B9)上記第1実施形態では、外枠部材30は成形型1に固定されているものとしたが、外枠部材30を成形型1に固定せずに、成形型1とは別体としてもよい。この場合、例えば、成形型1とは別体の外枠部材30とクランプ部材50とにより材料Wを把持した後、第1成形部15を被覆するように配置してもよい。その後、移動工程P30において、第2成形部16に沿うように把持装置2を移動させてもよい。すなわち、製品に対応した成形装置100の構成によって、被覆工程P10と把持工程P20の順序は適宜入れ替え可能である。
【0047】
(B10)上記第1実施形態では、成形部は、第1成形部15と第2成形部16とで構成されるものとした。すなわち、交差する複数の面に成形部が形成されているものとしたが、賦形すべき製品形状によっては、一つの面のみに成形部が形成されていてもよい。かかる構成においては、被覆工程P10は省略され得る。すなわち、該当面から外れた位置において材料Wの一端と他端とを一対の把持部で挟み、次いで一方の把持部の位置を該当面から外れた位置に固定したまま他方の把持部を該当面に沿って移動させ、その後、材料Wと該当面との間の真空引きしてもよい。この構成では、把持工程P20の前に被覆工程P10は省略されている。
【0048】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…成形型、2…把持装置、11…第1ガイドプレート、12…第2ガイドプレート、13…第3ガイドプレート、14…第4ガイドプレート、15…第1成形部、16…第2成形部、18…アンダーカット成形部、21…前把持部、22…後把持部、23…左把持部、24…右把持部、30…外枠部材、31…前枠、32…後枠、33…左枠、34…右枠、35…ガイド棒、36…ガイド棒、37…ガイド溝、38…ガイド溝、50…クランプ部材、51…前クランプ、52…後クランプ、53…左クランプ、54…右クランプ、61…ガイド部材、62…ガイドワイヤ、63…側面、100…真空成形装置、101…真空成形装置、C…中心線、P10…被覆工程、P20…把持工程、P30…移動工程、P40…密着工程、W…材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7