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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20241112BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241112BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0562
H01M4/38 Z
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021123559
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2022085829
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020197154
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】松山 拓矢
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-204281(JP,A)
【文献】特開2020-068104(JP,A)
【文献】特開2020-092100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池であって、正極と固体電解質層と負極とを有し、
前記正極が、正極活物質を含み、
前記正極活物質が、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含
前記正極活物質が、Li Mn Ni Co (ここで、0<x<1、0<a<1、0<b<1、0≦c<1であり、a+b+cは0.8以上1.2以下である)で示される化学組成を有する、
全固体電池。
【請求項2】
前記正極活物質が、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni、Co及びOを含む、
請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記固体電解質層が、硫化物固体電解質を含む、
請求項1又は2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記負極が、負極活物質としてのSi単体と、負極活物質としてのLi-Si合金と、を含み、
前記Si単体と前記Li-Si合金との合計に占める前記Li-Si合金の質量割合が、11.8質量%以上88.2質量%未満である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
拘束部材を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は全固体電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、全固体電池の正極活物質として、O2型構造を有するLiCoOが開示されている。特許文献2~4には、電解液電池の正極活物質として、O2型構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物が開示されている。特許文献5には、全固体電池の負極活物質として、Li-Si合金とSi単体とを含有し、且つ、特定のXRDスペクトルを有するものが開示されている。特許文献6には、全固体電池の負極活物質として、Li-Si合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-169365号公報
【文献】特開2014-186937号公報
【文献】特開2010-092824号公報
【文献】特開2012-204281号公報
【文献】特開2020-068104号公報
【文献】特開2012-243408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電池はサイクル特性に関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
全固体電池であって、正極と固体電解質層と負極とを有し、
前記正極が、正極活物質を含み、
前記正極活物質が、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む、
全固体電池
を開示する。
【0006】
本開示の全固体電池においては、前記正極活物質が、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni、Co及びOを含んでいてもよい。
【0007】
本開示の全固体電池においては、前記固体電解質層が、硫化物固体電解質を含んでいてもよい。
【0008】
本開示の全固体電池においては、前記負極が、負極活物質としてのSi単体と、負極活物質としてのLi-Si合金と、を含んでいてもよく、
前記Si単体と前記Li-Si合金との合計に占める前記Li-Si合金の質量割合が、11.8質量%以上88.2質量%未満であってもよい。
【0009】
本開示の全固体電池は、拘束部材を有していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の全固体電池はサイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】全固体電池の構成の一例を概略的に示している。
図2】正極活物質のX線回折パターンを示している。
図3】サイクル特性の評価結果を示している。
図4】サイクル特性の評価結果を示している。
図5】放電容量を比較した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示されるように、一実施形態に係る全固体電池100は、正極10と固体電解質層20と負極30とを有する。前記正極10は、正極活物質を含む。前記正極活物質は、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む。
【0013】
1.正極
正極10には、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質が含まれる。図1に示されるように、正極10は正極活物質層11と正極集電体12とを有していてよく、この場合、正極活物質層11が上記の正極活物質を含み得る。
【0014】
1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、少なくとも正極活物質を含み、さらに任意に、固体電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。正極活物質層11における正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層11であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0015】
1.1.1 正極活物質
正極活物質は、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む。このように、O2型構造を有する正極活物質において、構成元素として複数種類の遷移金属が含まれることで、全固体電池のサイクル特性が向上し易い。特に、正極活物質が、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni、Co及びOを含む場合に、全固体電池のサイクル特性が一層向上し易い。
【0016】
正極活物質は、LiMnNiCoで示される化学組成を有するものであってもよい。x、a、b及びcは、O2型構造を維持できる限り、特に限定されるものではない。例えば、xは0<x<1を満たす。xは、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってもよく、0.9以下又は0.8以下であってもよい。また、a、b、cは、各々、0<a<1、0<b<1、0≦c<1を満たす。aは、0.1以上、0.2以上、0.3以上又は0.4以上であってもよく、0.9以下、0.8以下、0.7以下又は0.6以下であってもよい。bは、0.1以上であってもよく、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.3以下であってもよい。cは、0以上、0.1以上又は0.2以上であってもよく、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下又は0.4以下であってもよい。a+b+cは、0.8以上又は0.9以上であってもよく、1.2以下又は1.1以下であってもよい。
【0017】
正極活物質層11は、正極活物質として、上記の正極活物質のみを含むものであってよい。或いは、正極活物質層11は、上記の正極活物質に加えて、それとは異なる種類の正極活物質(その他の正極活物質)を含んでいてもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質層11におけるその他の正極活物質の含有量は少量であってよい。例えば、O2型構造を有し、且つ、構成元素としてLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質が、正極活物質層11に含まれる全正極活物質の80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上を占めていてよい。
【0018】
正極活物質の表面は、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層によって構成されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と固体電解質との反応等が抑制され易くなる。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWOが挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0019】
正極活物質の形状は、電池の活物質として一般的な形状であればよい。例えば、正極活物質は粒子状であってもよい。正極活物質粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。正極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0020】
1.1.2 固体電解質
固体電解質は、全固体電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、有機ポリマー電解質と比較して、イオン伝導度が高い。また、有機ポリマー電解質と比較して、耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等の硫化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でもLiS-Pを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0021】
1.1.3 導電助剤
導電助剤の具体例としては、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料、又は全固体電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料等が挙げられるが、これらに限定されない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0022】
1.1.4 バインダー
バインダーの具体例としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等が挙げられるが、これらに限定されない。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0023】
1.2 正極集電体
正極集電体12は、電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。正極において正極集電体及び負極集電体を兼ねるバイポーラ集電体が設けられていてもよい。例えば、集電体の一面側に正極活物質層が設けられ他面側に負極活物質層が設けられてもよい。正極集電体12は、金属箔や金属メッシュ等により構成されればよい。取扱い性等に優れる観点からは、正極集電体12が金属箔であってもよい。正極集電体12は複数枚の金属箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材等に上記の金属をめっき又は蒸着したものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0024】
2.固体電解質層
図1に示されるように、固体電解質層20は、正極10と負極30との間に配置される。固体電解質層20は、固体電解質を含み、さらに任意に、バインダー等を含んでいてもよい。固体電解質は、上述した酸化物固体電解質や硫化物固体電解質であってよい。特に、固体電解質層20が硫化物固体電解質を含む場合、中でもLiS-Pを含む硫化物固体電解質を含む場合、全固体電池100の性能が一層高くなり易い。バインダーは活物質層に用いられるバインダーとして例示されたものの中から適宜選択して用いることができる。固体電解質層における各成分の含有量は従来と同様とすればよい。固体電解質層の形状も従来と同様とすればよく、例えば、略平坦面を有するシート状の固体電解質層であってもよい。固体電解質層の厚みは、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0025】
3.負極
負極30には負極活物質が含まれる。図1に示されるように、負極30は負極活物質層31と負極集電体32とを有していてよく、この場合、負極活物質層31が負極活物質を含み得る。
【0026】
3.1 負極活物質層
負極活物質層31は、少なくとも負極活物質を含み、さらに任意に、固体電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。負極活物質層31における負極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0027】
3.1.1 負極活物質
負極活物質は、全固体電池の負極活物質として公知のものをいずれも採用可能であり、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0028】
本発明者の知見によれば、負極30が、負極活物質としてのSi単体及びLi-Si合金を含む場合に、全固体電池100において高い放電容量が確保され易い。具体的には、負極30がSi単体とLi-Si合金との双方を負極活物質として含む場合、Si単体のみを含む場合よりも、放電時に上記のO2型構造を有する正極活物質へと挿入されるLi量が多くなる。すなわち、正極活物質が初期(充放電前)に有していたLi量を超える量のLiが正極活物質へと挿入され得る。一方で、負極がLi-Si合金のみを負極活物質として含む場合、負極においてLiを吸蔵できなくなる虞があり、結果として電池の短絡が生じる虞がある。
【0029】
Li-Si合金の組成は特に限定されるものではない。例えば、Li-Si合金は、LiαSiβ(0<α/β≦4.4)で示される組成を有していてもよい。α/βは0.1以上であってもよく、0.5以上であってもよく、1.5以上であってもよい。Li-Si合金の具体例としては、Li0.54Si、Li0.87Si、Li1.2Si、Li2.2Si、Li3.75Si、Li4.4Si等が挙げられる。
【0030】
全固体電池100においては、負極30に含まれるSi単体とLi-Si合金との合計に占めるLi-Si合金の質量割合が11.8質量%以上88.2質量%未満であってもよい。本発明者の知見によると、Si単体とLi-Si合金との質量比を上記の範囲に調整することで、O2型構造を有する正極活物質を用いつつも、全固体電池100の放電容量が一層顕著に向上する。Si単体とLi-Si合金との合計に占めるLi-Si合金の質量割合は、20.0質量%以上、30.0質量%以上、40.0質量%以上又は50.0質量%以上であってもよく、85.0質量%以下、80.0質量%以下又は74.0質量%以下であってもよい。特に、当該質量割合が50.0質量%以上74.0質量%以下の場合に、全固体電池100の放電容量がより一層顕著に向上し得る。
【0031】
負極活物質層31は、負極活物質として、Si単体及びLi-Si合金のみを含むものであってよい。或いは、負極活物質層31は、Si単体及びLi-Si合金に加えて、それ以外の活物質を含んでいてもよい。或いは、負極活物質層31は、Si単体及びLi-Si合金を含まず、これら以外の負極活物質を含んでいてもよい。放電容量を一層高める観点からは、負極活物質層におけるSi単体及びLi-Si合金以外の活物質の含有量は少量であってよい。例えば、Si単体とLi-Si合金との合計が、負極活物質層31に含まれる全負極活物質の80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上を占めていてよい。
【0032】
負極活物質の形状は、電池の活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0033】
3.1.2 固体電解質、導電助剤及びバインダー
負極活物質層31に含まれ得る固体電解質としては、上述の酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等が挙げられる。特に、硫化物固体電解質、中でもLiS-Pを含む硫化物固体電解質の性能が高い。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料(ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等)が挙げられる。負極活物質層に含まれ得るバインダーとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等が挙げられる。
【0034】
3.2 負極集電体
負極集電体32は、電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。負極30において正極集電体及び負極集電体を兼ねるバイポーラ集電体が設けられていてもよい。負極集電体32は、金属箔や金属メッシュ等により構成されればよい。或いは、カーボンシートによって構成されてもよい。取扱い性等に優れる観点からは、負極集電体32が金属箔であってもよい。負極集電体32は複数枚の金属箔又はシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材等に上記の金属をめっき又は蒸着したものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔又はシートからなる場合、当該複数枚の金属箔又はシート間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0035】
4.その他の構成
上述の通り、全固体電池100が負極活物質としてのSi単体及びLi-Si合金を含む場合、全固体電池100の放電容量を増大させることができる。全固体電池100において、初期(電池の製造直後、1回目充放電前)の正極10の容量及び負極30の容量は、目的とする電池の性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、初期における正極10の容量Cと負極30の容量Cとの比C/Cが、0.1以上又は0.2以上であってもよく、1.0以下又は0.9以下であってもよい。
【0036】
全固体電池100は、上記した構成に加えて、何らかの部材を備えていてもよい。例えば、全固体電池100は拘束部材(不図示)を備えていてもよい。拘束部材による拘束圧の方向は、正極10、固体電解質層20及び負極30の積層方向と一致させてもよい。拘束圧力は特に限定されるものではなく、例えば1MPa以上20MPa以下であってもよい。これにより、電池において充放電に伴う膨張及び収縮が大きな材料を用いる場合にも、各層における界面抵抗を低減することができ、サイクル特性に一層優れる全固体電池が得られる。また、全固体電池100は、必要な端子や電池ケース等を備えていてよい。
【0037】
5.全固体電池の製造方法
全固体電池100は、上記の正極10を備えること以外は、公知の方法で製造することができる。すなわち、全固体電池100の製造方法は、
O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質を準備すること、
前記正極活物質を含む正極合材を得ること、
前記正極合材を用いて正極を得ること、及び
前記正極と、固体電解質層と、負極とを積層すること、
を含んでいてよい。
【0038】
正極合材は上記の正極活物質層11を構成し得る。すなわち、正極合材は、正極活物質に加えて、固体電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。正極合材を用いて正極を得る方法は特に限定されるものではなく、例えば、正極集電体とともに正極合材を乾式又は湿式で成形することで、正極が得られる。固体電解質層や負極についても、上記の材料を乾式又は湿式で成形することによって得られたものであってよい。
【0039】
6.補足
6.1 正極について
O2型構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、P2型構造を有するナトリウム遷移金属酸化物を合成した後、当該ナトリウム遷移金属酸化物のNaをLiに置換することで得ることができる。例えば、特許文献1に開示されているようなO2型構造を有するコバルト酸リチウムは、P2型構造を有するコバルト酸ナトリウムのNaをLiに置換することで得ることができる。しかしながら、本発明者の知見によると、P2型のコバルト酸ナトリウムにおいては、その結晶構造中にNaが安定して存在しており、Liへの置換が進み難い。そのため、Li置換後のO2型のコバルト酸リチウムにおいて、Naが除去されずに残存することとなる。ここで、正極活物質に残存したNaは、Liの伝導を阻害するものと考えられる。すなわち、正極活物質からのLiの放出や、正極活物質中へのLiの吸蔵が、Naによって阻害されるものとも考えられる。また、Liを無理やり動かそうとすると、結晶構造が崩れて、活物質としての性能が劣化する虞もある。さらに、Naが残存することでO2型構造の結晶性も低下し易い。このように、全固体電池の正極活物質として、特許文献1に開示されているようなO2型構造を有するコバルト酸リチウムを採用した場合、正極活物質に残存するNaが原因で、全固体電池のサイクル特性が低下し易い。
【0040】
一方で、本開示の全固体電池においては、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質が用いられる。本発明者の知見によると、構成元素として少なくともMn及びNiを含むP2型のナトリウム遷移金属酸化物は、P2型のコバルト酸ナトリウムと比較して、結晶構造におけるNaが不安定であり、Naが抜け易い。すなわち、ナトリウム遷移金属酸化物のNaをLiに容易に置換することができ、O2型の正極活物質においてNaが残存し難い。その結果、上記したようなNaが残存することによる悪影響が低減され、全固体電池のサイクル特性を向上させることができるものと考えられる。
【0041】
また、本発明者の知見によると、O2型構造を有する正極活物質を用いた全固体電池は、同様の正極活物質を用いた電解液電池よりも、サイクル特性に優れる。これは、全固体電池では、正極活物質の周囲が固体で固められているため、正極活物質が膨張・収縮しても導電助剤が動き難く、正極活物質と導電助剤との接触状態が変化しやすい電解液電池に比べて、導電パスが維持され易いためと推定される。また、全固体電池において拘束部材によって拘束圧が付与されることで、この効果が一層高まるものと考えられる。
【0042】
6.2 負極について
O3型の正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)等は、Oに対するLi量(組成比)が1であり、Li欠損を有しない。すなわち、負極側からLiを供給せずとも、十分な容量を有し得る。一方、本発明者の知見によると、上述したようなO2型の正極活物質は、Oに対するLi量が1未満であり、Li欠損を有することから、負極側からLiを供給することで正極容量が顕著に向上する。すなわち、全固体電池において、Li欠損型の正極活物質を用いる場合、負極活物質として、負極から正極へとLiを供給できるLi金属やLi合金を使用することが有効と考えられる。一方で、本発明者の知見によると、負極活物質としてLi金属やLi合金を使用しただけでは、正極側から引き抜いたLiが負極側で吸蔵できない場合があり、電池の短絡が生じる虞がある。この点、全固体電池においては、負極活物質としてLi-Si合金とともにSi単体を用いることで、正極側から引き抜いたLiが負極側に吸蔵され易くなる。特に、Si単体とLi-Si合金との合計に占めるLi-Si合金の質量割合が11.8質量%以上88.2質量%未満である場合に、負極におけるLi吸蔵能力を確保しつつ、電池全体として顕著に高い放電容量を確保することができる。
【実施例
【0043】
1.全固体電池同士の比較
以下に示されるように、正極活物質としてO2型構造を有するコバルト酸リチウム(Li0.7CoO)を用いた全固体電池と、正極活物質としてO2型を有し、且つ、構成元素としてLi、Mn、Ni及びOを含むものや、Li、Mn、Ni、Co及びOを含むものを用いた全固体電池とを作製し、各々のサイクル特性を評価した。
【0044】
1.1 実施例1
1.1.1 正極活物質の作製
Mn(NO・6HOを43.06gと、Ni(NO・6HOを17.97gと、Co(NO・6HOを26.98gと、を純水250gに溶解させて溶液1を得た。NaCOを31.8gと、アンモニア水を10.1mLと、を純水250gに溶解させて溶液2を得た。溶液1と溶液2とを、純水100mLが入ったビーカーに同時に滴下して混合溶液を得た。得られた混合溶液を50℃で一晩撹拌した。撹拌後、混合溶液を純水で洗浄し、その後、120℃で48時間以上乾燥させることで、中間物質1((Mn0.5Ni0.2Co0.3)CO)を得た。
【0045】
中間物質1を13.5gと、NaCOを4.28gと、を乳鉢で混合し、静水圧プレスで押し固めた後、600℃で6時間保持し、その後、900℃で24時間保持して焼成を行うことで、中間物質2(Na0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3)を得た。
【0046】
中間物質2を3.5gと、LiClを4.77gと、LiNOを7.75gと、を混合し、280℃で1時間保持することで溶解させた。その後、純水で洗浄し、濾過及び乾燥させることで、正極活物質としてのLi0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3を得た。図2(A)に当該正極活物質のX線回折パターンを示す。図2(A)に示されるように、当該正極活物質は、O2型構造を有することが確認された。また、当該正極活物質においてNaは実質的に残存していなかった。
【0047】
Li0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3を0.2gと、Nb溶液(LiイオンとNbペルオキソ錯体とを含む)及び水を各々0.11747gと、を秤量し、メノウ乳鉢で混合して粉末と溶液との混合物を得た。混合物を均一に混合後、80℃に設定したホットプレート上で、メノウ乳鉢を加熱しながら混合物を混合して溶液を蒸発させて、粉末を得た。得られた粉末を200℃で5時間、真空熱乾燥させることで、保護層を有する正極活物質(NbコートLi0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3)を得た。
【0048】
1.1.2 固体電解質の作製
LiS(フルウチ化学社製)を0.550gと、P(アルドリッチ社製)を0.887gと、LiI(日宝化学社製)を0.285gと、LiBr(高純度化学社製)を0.277gと、をメノウ乳鉢で混合して混合物を得た。得られた混合物にn-ヘプタンを4g加え、遊星型ボールミルを用い40時間メカニカルミリングすることにより、固体電解質(LiS-LiBr-LiI-P)を得た。
【0049】
1.1.3 正極合材の作製
正極活物質を1.5gと、導電助剤としてのVGCFを0.023gと、固体電解質を0.239gと、酪酸ブチルを0.8gと、を超音波ホモジナイザー(SMT社製、UH-50)により混合し、正極合材を得た。
【0050】
1.1.4 負極活物質の作製
金属Liを0.44gと、Si単体を0.375gと、をメノウ乳鉢によって混合することで、Li-Si合金(Li15Si)を得た。得られたLi-Si合金と、Si単体とを、質量比で、50:50となるように混合して、負極活物質を得た。
【0051】
1.1.5 負極合材の作製
負極活物質を1.0gと、導電助剤としてのVGCFを0.04gと、固体電解質を0.776gと、n-ヘプタンを1.7gと、を超音波ホモジナイザー(SMT社製、UH-50)により混合し、負極合材を得た。
【0052】
1.1.6 固体電解質層の作製
セラミックス製の型(断面積:1cm)に上記の固体電解質を0.065g加え、1ton/cmでプレスすることにより、固体電解質層を形成した。
【0053】
1.1.7 全固体電池の作製
固体電解質層の一方面に対し、上記正極合材0.018gを積層し、1ton/cmでプレスすることにより正極活物質層を形成した。固体電解質層の他方面に上記負極合材0.0054gを積層し、4ton/cmでプレスすることにより負極活物質層を形成した。正極活物質層側に正極集電体(アルミニウム箔)を、負極活物質層側に負極集電体(銅箔)を、それぞれ配置することにより、評価用の全固体電池を作製した。
【0054】
1.2 実施例2
正極活物質として、以下のLi0.7Mn0.7Ni0.2Co0.1を得たこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0055】
Mn(NO・6HOを60.278gと、Ni(NO・6HOを17.971gと、Co(NO・6HOを8.993gと、を純水250gに溶解させて溶液1Aを得た。NaCOを31.8gと、アンモニア水を10.1mLと、を純水250gに溶解させて溶液2Aを得た。溶液1Aと溶液2Aとを、純水100mLが入ったビーカーに同時に滴下して混合溶液を得た。得られた混合溶液を50℃で一晩撹拌した。撹拌後、混合溶液を純水で洗浄し、その後、120℃で48時間以上乾燥させることで、中間物質1A((Mn0.7Ni0.2Co0.1)CO)を得た。
【0056】
中間物質1Aを13.5gと、NaCOを4.3136gと、を乳鉢で混合し、静水圧プレスで押し固めた後、600℃で6時間保持し、その後、900℃で24時間保持して焼成を行うことで、中間物質2A(Na0.7Mn0.7Ni0.2Co0.1)を得た。
【0057】
中間物質2Aを3.5gと、LiClを4.803gと、LiNOを7.811gと、を混合し、280℃で1時間保持することで溶解させた。その後、純水で洗浄し、濾過及び乾燥させることで、正極活物質としてのLi0.7Mn0.7Ni0.2Co0.1を得た。当該正極活物質は、X線回折パターンから、O2型構造を有することが確認された。また、当該正極活物質においてNaは実質的に残存していなかった。
【0058】
1.3 実施例3
正極活物質として、以下のLi0.7Mn2/3Ni1/3を得たこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0059】
Mn(NO・6HOを5.770gと、Ni(NO・6HOを2.965gと、を純水250gに溶解させて溶液1Bを得た。NaCOを31.8gと、アンモニア水を10.1mLと、を純水250gに溶解させて溶液2Bを得た。溶液1Bと溶液2Bとを、純水100mLが入ったビーカーに同時に滴下して混合溶液を得た。得られた混合溶液を50℃で一晩撹拌した。撹拌後、混合溶液を純水で洗浄し、その後、120℃で48時間以上乾燥させることで、中間物質1B((Mn2/3Ni1/3)CO)を得た。
【0060】
中間物質1Bを13.5gと、NaCOを4.3098gと、を乳鉢で混合し、静水圧プレスで押し固めた後、600℃で6時間保持し、その後、900℃で24時間保持して焼成を行うことで、中間物質2B(Na0.7Mn2/3Ni1/3)を得た。
【0061】
中間物質2Bを3.5gと、LiClを4.798gと、LiNOを7.804gと、を混合し、280℃で1時間保持することで溶解させた。その後、純水で洗浄し、濾過及び乾燥させることで、正極活物質としてのLi0.7Mn2/3Ni1/3を得た。当該正極活物質は、X線回折パターンから、O2型構造を有することが確認された。また、当該正極活物質においてNaは実質的に残存していなかった。
【0062】
1.4 比較例1
正極活物質として、以下のLi0.7CoOを得たこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0063】
44.964gのCo(NO)・6HOを純水250gに溶解させて溶液1Cを得た。NaCOを31.8gと、アンモニア水を10.1mLと、を純水250gに溶解させて溶液2Cを得た。溶液1Cと溶液2Cとを、純水100mLが入ったビーカーに同時に滴下して混合溶液を得た。得られた混合溶液を50℃で一晩撹拌した。撹拌後、混合溶液を純水で洗浄し、その後、120℃で48時間以上乾燥させることで、中間物質1C(CoCO)を得た。
【0064】
中間物質1Cを13.5gと、NaCOを5.202gと、を乳鉢で混合し、静水圧プレスで押し固めた後、600℃で6時間保持し、その後、900℃で24時間保持して焼成を行うことで、中間物質2C(Na0.7CoO)を得た。
【0065】
中間物質2Cを3.5gと、LiClを4.884gと、LiNOを7.943gと、を混合し、280℃で1時間保持することで溶解させた。その後、純水で洗浄し、濾過及び乾燥させることで、正極活物質としてのLi0.7CoOを得た。図2(B)に当該正極活物質のX線回折パターンを示す。図2(B)に示されるように、当該正極活物質は、O2型構造を有することが確認された。また、当該正極活物質においてNaの残存が確認された。具体的には、1モルのCoに対して0.01モル程度のNaが含まれるものであった。
【0066】
1.5 サイクル特性の評価
実施例1~3及び比較例1に係る各々の全固体電池について、25℃の恒温槽内で、放電終止電位2.0V(vs.Li/Li+)、充電終止電位4.8V(vs.Li/Li+)、電流密度0.1Cにて、CC充放電を繰り返した。1回目の放電容量を基準(100%)として、100サイクル後の放電容量の維持率(%)を求めた。結果を図3に示す。
【0067】
図3に示される結果から明らかなように、実施例1~3に係る全固体電池は、比較例1に係る全固体電池よりもサイクル特性に優れるものであった。これは以下のメカニズムによるものと推定される。
【0068】
比較例1においては、中間物質2CにおいてNaをLiに置換しようとしても、Naを十分に除去することができない。そのため、正極活物質に残存したNaが、Liの伝導を阻害したものと考えられる。すなわち、正極活物質からのLiの放出や、正極活物質中へのLiの吸蔵がNaによって阻害されたものとも考えられる。また、Liを無理やり動かしたことで、結晶構造が崩れた可能性もある。さらに、Naが残存することでO2型構造の結晶性も低下したものと考えられる。このように、全固体電池の正極活物質として、O2型構造を有するコバルト酸リチウムを採用した場合、正極活物質に残存するNaが原因で、全固体電池のサイクル特性が低下したものと考えられる。
【0069】
これに対し、実施例1~3においては、正極活物質中にNaは実質的に残存していなかった。中間物質における結晶構造中のNaが不安定であり、Liに容易に置換されたものと考えられる。その結果、上記したようなNaが残存することによる悪影響が低減され、比較例1に比べて全固体電池のサイクル特性が向上したものと考えられる。
【0070】
2.全固体電池と電解液電池との比較
以下に示されるように、O2型構造を有する正極活物質を用いた全固体電池と、同様の正極活物質を用いた電解液電池とを作製し、各々のサイクル特性を評価した。
【0071】
2.1 実施例1及び比較例1
上記の実施例1及び比較例1と同様にして、全固体電池を作製した。
【0072】
2.2 比較例2
2.2.1 正極の作製
実施例1と同様にして、正極活物質としてのLi0.7Mn0.5Ni0.2Co0.3を得た。当該正極活物質と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比で、85:10:5となるように混合し、N-メチル-2-ピロリドンを用いてスラリー化した後、当該スラリーをAl集電体上に塗布した。その後、120℃で真空乾燥し、成形して、正極を得た。
【0073】
2.2.2 負極及び電解液の準備
負極として、所定の大きさにカットした金属リチウム箔を用いた。また、電解液として、ダイキン社製の非水電解液(1.0M LiPF/TW5(TFPC)+F3(TFEMC)30:70vol% + TL16(LiDFOB 0.98wt%))を用いた。
【0074】
2.2.3 コインセルの作製
不活性雰囲気において、上記の正極、負極及び電解液を用いて、電解液電池としてのコインセルを作製した。
【0075】
2.3 サイクル特性の評価
実施例1及び比較例1に係る各々の全固体電池と、比較例2に係る電解液電池とについて、25℃の恒温槽内で、放電終止電位2.0V(vs.Li/Li+)、充電終止電位4.8V(vs.Li/Li+)、電流密度0.1Cにて、CC充放電を繰り返した。図4に、各々の電池について、1~20サイクル目までの容量維持率の変化を示す。
【0076】
図4に示される結果から明らかなように、実施例1及び比較例1に係る全固体電池は、比較例2に係る電解液電池よりもサイクル特性に優れるものであった。これは以下のメカニズムによるものと推定される。
【0077】
比較例2の電解液電池においてサイクル特性が低下したのは、充放電に伴って正極活物質が膨張・収縮した場合に、正極活物質と導電材との接触状態が変化し易いためと推定される。一方、実施例1及び比較例1の全固体電池においては、正極活物質の周囲が固体で固められているため、正極活物質が膨張・収縮しても導電材が動き難く、導電パスが維持され易いものと考えられる。結果として、実施例1及び比較例1の全固体電池において、比較例2の電解液電池よりも優れたサイクル特性が確保されたものと考えられる。
【0078】
3.負極の比較
下記表1に示されるように負極活物質に含まれるLi-Si合金の割合を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0079】
各々の全固体電池について、0.105mAで4.8Vまで定電流定電圧充電(CC/CV充電)を行った(初回充電)。次に、0.105mAで2.0Vまで定電流定電圧放電(CC/CV放電)を行い(初回放電)、正極の放電容量を測定した。評価結果を下記表1及び図5に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1及び図5に示される結果から以下のことが分かる。
【0082】
参考例1Aの結果から明らかなように、全固体電池の正極においてO2型の正極活物質を用い、負極において負極活物質としてSi単体のみを用いた場合、放電容量が低下し易い。負極から正極へと供給されるLiが不足したためと考えられる。また、参考例2Aの結果から明らかなように、全固体電池の正極においてO2型の正極活物質を用い、負極において負極活物質としてLi-Si合金を過剰に含ませた場合、放電容量が得られない場合がある。充電時に負極においてLiが吸蔵されなかったためと考えられる。
【0083】
一方、実施例1A~5Aの結果から明らかなように、全固体電池の正極においてO2型の正極活物質を用い、負極において負極活物質としてSi単体とLi-Si合金とを所定の質量比にて用いた場合、参考例1A、2Aと比べて顕著に高い放電容量が得られる。
【0084】
4.補足
尚、O2型の正極活物質を用いた全固体電池について、そのサイクル特性を向上させる観点からは、負極に含まれる負極活物質の種類に特に制限はない。上記したSi単体とLi-Si合金との混合物に替えて、これ以外の種々の負極活物質が採用され得る。上記の実施例1~3及び比較例1の結果から明らかなように、O2型の正極活物質を用いた全固体電池について、そのサイクル特性を向上させるためには、少なくとも以下の要件(1)が満たされればよいものといえる。特に、以下の要件(2)が満たされる場合に、サイクル特性が一層向上し易い。
【0085】
(1)全固体電池において、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni及びOを含む正極活物質が含まれる。
(2)全固体電池において、O2型構造を有し、且つ、構成元素として少なくともLi、Mn、Ni、Co及びOを含む正極活物質が含まれる。
【符号の説明】
【0086】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 固体電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5