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7586025走行制御装置、走行制御方法、および走行制御用コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】走行制御装置、走行制御方法、および走行制御用コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20241112BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20241112BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241112BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W50/14
B60W60/00
G08G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021128511
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023023209
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100122116
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】北川 栄来
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/117132(WO,A1)
【文献】特開2019-139586(JP,A)
【文献】特開2018-030479(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094316(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0009910(US,A1)
【文献】特開2020-129155(JP,A)
【文献】国際公開第2020/035897(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/106146(WO,A1)
【文献】特開2021-138246(JP,A)
【文献】特開2020-125029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00- 60/00
G08G 1/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車線から前記走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう前記運転者に要求する要求部と、
前記要求後、前記運転者が前記車線変更前動作を行うまで、前記車両の速度を第1の加速度で変更することにより、前記車線変更を実行するために前記車両と前記他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御し、前記運転者が前記車線変更前動作を行った後、前記車両の速度を前記第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御する速度制御部と、を備え
前記速度制御部は、前記運転者が前記車線変更前動作を行っておらず、かつ、前記車両の現在位置から前記車線変更位置に到達するまでに必要と予測される時間が時間閾値よりも長い場合、前記車両の速度を、前記第1の加速度の絶対値よりも大きく、かつ、前記第2の加速度の絶対値よりも小さい絶対値を有する第3の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭めるように制御する、走行制御装置。
【請求項2】
前記運転者が前記車線変更前動作を行い、かつ、前記車両が前記車線変更位置に到達した場合、前記車両が前記走行中の車線から前記他の車線に移動するように操舵する操舵制御部をさらに備える、請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
走行中の車線から前記走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう前記運転者に要求し、
前記要求後、前記運転者が前記車線変更前動作を行うまで、前記車両の速度を第1の加速度で変更することにより、前記車線変更を実行するために前記車両と前記他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御し、前記運転者が前記車線変更前動作を行った後、前記車両の速度を前記第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭め、前記運転者が前記車線変更前動作を行っておらず、かつ、前記車両の現在位置から前記車線変更位置に到達するまでに必要と予測される時間が時間閾値よりも長い場合、前記車両の速度を、前記第1の加速度の絶対値よりも大きく、かつ、前記第2の加速度の絶対値よりも小さい絶対値を有する第3の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御する、
ことを含む、走行制御方法。
【請求項4】
走行中の車線から前記走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう前記運転者に要求することと、
前記要求後、前記運転者が前記車線変更前動作を行うまで、前記車両の速度を第1の加速度で変更することにより、前記車線変更を実行するために前記車両と前記他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御し、前記運転者が前記車線変更前動作を行った後、前記車両の速度を前記第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭め、前記運転者が前記車線変更前動作を行っておらず、かつ、前記車両の現在位置から前記車線変更位置に到達するまでに必要と予測される時間が時間閾値よりも長い場合、前記車両の速度を、前記第1の加速度の絶対値よりも大きく、かつ、前記第2の加速度の絶対値よりも小さい絶対値を有する第3の加速度で変更することにより、前記車線変更位置までの間隔を狭めるように前記車両の速度を制御することと、
を前記車両に搭載されたプロセッサに実行させる走行制御用コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の走行を制御する走行制御装置、走行制御方法、および走行制御用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカメラなどのセンサの出力する車両の周辺状況を表す情報を用いて、走行中の車線から他の車線への車線変更を行う走行制御装置が知られている。走行制御装置は、目的地に至る経路に向かう車線への移動、前方を走行する低速車両の追い越しのための追越車線への移動といった目的のために、車線変更を行う。
【0003】
特許文献1には、車両の周辺状況に基づいて車両の加減速および操舵を制御する走行制御装置が記載されている。特許文献1に記載の走行制御装置は、車線変更の種別に応じて、車線変更する際のターゲット位置後方の探索範囲または設定範囲を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-217825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走行制御装置により計画された車線変更の実行には、ステアリングホイールの保持といった運転者の所定の行動が条件とされることがある。走行制御装置は、このような車線変更を計画する場合、車線変更を運転者に提案し、所定の行動を運転者に要求する。車線変更の提案後に運転者が所定の行動をとらない場合、自車両が車線変更を実行可能な位置まで移動したとしても、このような車線変更は実行されない。このときの自車両の挙動は、他車両の運転者に不自然な印象を与えることがある。また、不自然な印象を受けた他車両の運転者は他車両の挙動を変更し、周辺状況が自車両の車線変更が可能な状況から車線変更不能な状況に変化することもあり得る。
【0006】
本開示は、車線変更を適切に実行することができる走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる走行制御装置は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう運転者に要求する要求部と、要求後、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両の速度を第1の加速度で変更することにより、車線変更を実行するために車両と他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御し、運転者が車線変更前動作を行った後、車両の速度を第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御する速度制御部と、を備える。
【0008】
本開示にかかる走行制御装置において、速度制御部は、運転者が車線変更前動作を行っておらず、かつ、車両の現在位置から車線変更位置に到達するまでに必要と予測される時間が時間閾値よりも長い場合、車両の速度を、第1の加速度の絶対値よりも大きく、かつ、第2の加速度の絶対値よりも小さい絶対値を有する第3の加速度で変更することにより、車両が車線変更位置に近づくように制御することが好ましい。
【0009】
本開示にかかる走行制御装置は、運転者が車線変更前動作を行い、かつ、車両が車線変更位置の到達した場合、車両が走行中の車線から他の車線に移動するように操舵する操舵制御部をさらに備えることが好ましい。
【0010】
本開示にかかる走行制御方法は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう運転者に要求し、要求後、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両の速度を第1の加速度で変更することにより、車線変更を実行するために車両と他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御し、運転者が車線変更前動作を行った後、車両の速度を第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御する、ことを含む。
【0011】
本開示にかかる走行制御用コンピュータプログラムは、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう運転者に要求することと、要求後、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両の速度を第1の加速度で変更することにより、車線変更を実行するために車両と他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御し、運転者が車線変更前動作を行った後、車両の速度を第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御することと、を車両に搭載されたプロセッサに実行させる。
【0012】
本開示にかかる走行制御装置によれば、車線変更を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】走行制御装置が実装される車両の概略構成図である。
図2】ECUのハードウェア模式図である。
図3】ECUが有するプロセッサの機能ブロック図である。
図4】(a)は走行制御の第1の例における第1の状態を説明する図であり、(b)は走行制御の第1の例における第2の状態を説明する図であり、(c)は走行制御の第1の例における第3の状態を説明する図である。
図5】(a)は走行制御の第2の例における第1の状態を説明する図であり、(b)は走行制御の第2の例における第2の状態を説明する図であり、(c)は走行制御の第2の例における第3の状態を説明する図である。
図6】走行制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、車線変更を適切に実行することができる走行制御装置について詳細に説明する。走行制御装置は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更を実行する前に、車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう運転者に要求する。走行制御装置は、要求後、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両の速度を第1の加速度で変更することにより、車線変更位置までの間隔を狭めるように車両の速度を制御する。車線変更位置は、車線変更を実行するために車両と他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる位置である。また、走行制御装置は、運転者が車線変更前動作を行った後、車両の速度を第2の加速度で変更することにより車両が車線変更位置に近づくように制御する。第2の加速度は、第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する加速度である。
【0015】
図1は、走行制御装置が実装される車両の概略構成図である。
【0016】
車両1は、周辺カメラ2と、ドライバモニタカメラ3と、メーターディスプレイ4と、ステアリングホイール5と、GNSS受信機6と、ストレージ装置7と、ECU8(Electronic Control Unit)とを有する。ECU8は、走行制御装置の一例である。周辺カメラ2、メーターディスプレイ4、ステアリングホイール5、GNSS受信機6、およびストレージ装置7とECU8とは、コントローラエリアネットワークといった規格に準拠した車内ネットワークを介して通信可能に接続される。
【0017】
周辺カメラ2は、車両1の周辺状況に応じた周辺データを生成するための周辺センサの一例である。周辺カメラ2は、CCDあるいはC-MOSなど、可視光に感度を有する光電変換素子のアレイで構成された2次元検出器と、その2次元検出器上の撮影対象となる領域の像を結像する結像光学系とを有する。周辺カメラ2は、前方周辺カメラ2-1および後方周辺カメラ2-2を有する。前方周辺カメラ2-1は、例えば車室内の前方上部に、前方を向けて配置され、後方周辺カメラ2-2は、例えば車室内の後方上部に、後方を向けて配置される。周辺カメラ2は、所定の撮影周期(例えば1/30秒~1/10秒)ごとにフロントガラスまたはリヤガラスを介して車両1の周辺の状況を撮影し、周辺の状況が表された周辺画像を周辺データとして出力する。
【0018】
ドライバモニタカメラ3は、車両の運転者の顔領域を表す顔画像を生成するための運転者撮影部の一例である。ドライバモニタカメラ3は、CCDあるいはC-MOSなど、赤外光に感度を有する光電変換素子のアレイで構成された2次元検出器と、その2次元検出器上の撮影対象となる領域の像を結像する結像光学系とを有する。また、ドライバモニタカメラ3は、赤外光を発する光源を有する。ドライバモニタカメラ3は、例えば車室内の前方に、運転者シートに着座する運転者の顔に向けて取り付けられる。ドライバモニタカメラ3は、所定の撮影周期(例えば1/30秒~1/10秒)ごとに運転者に赤外光を照射し、運転者の顔が写った画像を時系列に出力する。
【0019】
メーターディスプレイ4は、出力装置の一例であり、例えば液晶ディスプレイを有する。メーターディスプレイ4は、車内ネットワークを介してECU8から受け取った信号に従って、車線変更の実行のために運転者に要求される車線変更前動作に関する情報を、運転者に視認可能に表示する。
【0020】
ステアリングホイール5は、操作受付部の一例であり、車両1を操舵するステアリング機構の動作を要求する運転者の操作を受け付ける。ステアリング機構の動作を要求する操作は、例えば、ステアリングホイール5を右回りまたは左回りに回転させる操作である。ステアリングホイール5は、ステアリングホイール5への運転者の保持を検出するタッチセンサー5aを有する。タッチセンサー5aは、ステアリングホイール5への運転者の保持の有無に応じた信号を出力する。
【0021】
GNSS受信機6は、所定の周期ごとにGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星からのGNSS信号を受信し、受信したGNSS信号に基づいて車両1の自己位置を測位する。GNSS受信機6は、所定の周期ごとに、GNSS信号に基づく車両1の自己位置の測位結果を表す測位信号を、車内ネットワークを介してECU8へ出力する。
【0022】
ストレージ装置7は、記憶部の一例であり、例えば、ハードディスク装置、または不揮発性の半導体メモリを有する。ストレージ装置7は、位置に対応づけて車線区画線などの地物に関する情報を含む地図データを記憶する。
【0023】
ECU8は、周辺カメラ2が生成する周辺画像に表された車両1の周辺を走行する他車両の位置および速度に基づいて車線変更を計画する。ECU8は、計画された車線変更の実行のために要求される車線変更前動作を行うよう車両1の運転者に要求し、運転者が車線変更前動作を実行することを条件として車線変更を実行する。
【0024】
図2は、ECU8のハードウェア模式図である。ECU8は、通信インタフェース81と、メモリ82と、プロセッサ83とを備える。
【0025】
通信インタフェース81は、通信部の一例であり、ECU8を車内ネットワークへ接続するための通信インタフェース回路を有する。通信インタフェース81は、受信したデータをプロセッサ83に供給する。また、通信インタフェース81は、プロセッサ83から供給されたデータを外部に出力する。
【0026】
メモリ82は、揮発性の半導体メモリおよび不揮発性の半導体メモリを有する。メモリ82は、プロセッサ83による処理に用いられる各種データ、例えば車線変更前動作の要求として表示される動作要求画像、車線変更前動作の要求として再生される動作要求音声、車線変更前動作が行われたか否かを判定するための動作判定基準、運転者が車線変更動作を行ったか否かに応じて車両の速度を変更するための第1の加速度および第2の加速度等を保存する。また、メモリ82は、各種アプリケーションプログラム、例えば走行制御処理を実行する走行制御プログラム等を保存する。
【0027】
プロセッサ83は、制御部の一例であり、1以上のプロセッサおよびその周辺回路を有する。プロセッサ83は、論理演算ユニット、数値演算ユニット、またはグラフィック処理ユニットといった他の演算回路をさらに有していてもよい。
【0028】
図3は、ECU8が有するプロセッサ83の機能ブロック図である。
【0029】
ECU8のプロセッサ83は、機能ブロックとして、計画部831と、要求部832と、速度制御部833と、操舵制御部834とを有する。プロセッサ83が有するこれらの各部は、メモリ82に記憶されプロセッサ83上で実行されるプコンピュータログラムによって実装される機能モジュールである。プロセッサ83の各部の機能を実現するコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な可搬性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。あるいは、プロセッサ83が有するこれらの各部は、独立した集積回路、マイクロプロセッサ、またはファームウェアとしてECU8に実装されてもよい。
【0030】
計画部831は、周辺カメラ2が生成する周辺画像に表された、車両1が走行中の車線に連接する他の車線を走行する他車両の位置および速度に基づいて車線変更を計画する。他車両は、移動物体の一例である。
【0031】
図4(a)は走行制御の第1の例における第1の状態を説明する図であり、図4(b)は走行制御の第1の例における第2の状態を説明する図であり、図4(c)は走行制御の第1の例における第3の状態を説明する図である。
【0032】
図4(a)は、走行制御の第1の例において、車両1が車線L11を速度V10で走行している第1の状態を示している。計画部831は、後方周辺カメラ2-2により出力された周辺画像を、他車両および車線区画線を検出するよう学習された識別器に入力することにより、車線L11に隣接する車線L12における車両1の後方を走行する他車両11、12を検出する。
【0033】
識別器は、例えば、入力側から出力側に向けて直列に接続された複数の畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)とすることができる。他車両および車線区画線を含む画像を教師データとして用いて、誤差逆伝播法といった所定の学習手法に従って予めCNNを学習することにより、CNNは他車両および車線区画線の位置を特定する識別器として動作する。
【0034】
計画部831は、異なる時刻に出力された複数の周辺画像からそれぞれ他車両として検出された物体を追跡し、周辺画像において他車両11、12に対応する領域を特定する。そして、例えば所定の時刻に出力された周辺画像における他車両の高さ、標準的な車両の高さ、および周辺画像を出力した周辺カメラ2の光学系の焦点距離を用いて、他車両までの距離を推定する。また、計画部831は、推定された他車両までの距離と、周辺カメラ2の撮影方向と、GNSS受信機6から取得する測位信号を用いて特定される自車位置とを用いて、他車両11、12の位置を推定する。
【0035】
計画部831は、異なる時刻における他車両11、12の位置の間隔および当該時刻の間隔を用いて、他車両11、12の速度を推定する。走行制御の第1の例では、他車両11、12は、速度V10よりも速い同一の速度で走行している。
【0036】
計画部831は、他車両11と他車両12との間隔が所定の割込閾値よりも長い場合、車両1と他車両11、12との位置関係に応じて、他車両11と他車両12との間に車線変更スペースLCS1を設定する。車線変更スペースLCS1は、他車両11と他車両12との間の、後方を走行する他車両11の前端から前方間隔DFだけ離れた位置から、前方を走行する他車両12の後端から後方間隔DRだけ離れた位置までのスペースである。
【0037】
なお、他車両11、12が車線L12を同一の速度で走行していない場合、時間の経過とともに車線変更スペースLCS1の長さは変動する。例えば、後方を走行する他車両11の方が前方を走行する他車両12よりも速い速度で走行している場合、時間の経過とともに車線変更スペースLCS1の長さは短くなる。所定時間経過後の車線変更スペースLCS1の長さが割込閾値よりも短くなることが予測される場合、計画部831は、他車両11と他車両12との間に車線変更スペースLCS1を設定しない。
【0038】
また、車線L12における車両1の後方に、速度V10よりも速い速度で走行する他車両が3台以上検出された場合、計画部831は、他車両同士の間隔を複数検出する。この場合、計画部831は、検出時および所定時間経過後のそれぞれにおける長さが割込閾値よりも長い間隔のうち、車両1に最も近い間隔に車線変更スペースLCS1を設定する。
【0039】
また、車線L12における車両1の後方に、速度V10よりも速い速度で走行する他車両が1台検出された場合、計画部831は、車両1と他車両との速度差および他車両までの間隔に応じて、他車両の前方または後方に車線変更スペースLCS1を設定する。例えば、計画部831は、車両1と他車両との速度差が大きく、かつ、他車両までの間隔が小さい場合、他車両の後方に車線変更スペースLCS1を設定する。
【0040】
計画部831は、車線変更スペースLCS1のうち車両1から最も近い位置に車線変更位置LCP1を設定し、車線変更位置LCP1での車線変更を計画する。他車両11、12が速度V10よりも速い速度で走行しているため、車両1から見た車線変更位置LCP1は、車両1の走行に伴って後方から前方に移動する。
【0041】
要求部832は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう車両1の運転者に要求する。車線変更前動作は、ステアリングホイール5の保持である。また、車線変更前動作は、車線変更先の車線の方向へ顔を向けること、所定のボタン操作などであってもよい。
【0042】
要求部832は、例えばメモリ82に記憶された動作要求画像をメーターディスプレイ4に表示させることにより、車線変更前動作を行うよう車両1の運転者に要求する。動作要求画像には、「ステアリングホイールを保持してください」といったテキスト、または、ステアリングホイールを保持する様子を表す画像が含まれる。また、車両1は出力装置としてスピーカ(不図示)を有し、要求部832は、メモリ82に記憶された動作要求音声をスピーカに再生させることにより、車線変更前動作を行うよう車両1の運転者に要求してもよい。
【0043】
速度制御部833は、要求後、運転者が車線変更動作を行ったか否かを判定する。
【0044】
速度制御部833は、ステアリングホイール5のタッチセンサー5aから受信した信号に基づいてステアリングホイール5の保持を検出した場合、運転者が車線変更前動作を行ったと判定する。
【0045】
車線変更前動作が車線変更先の車線の方向へ顔を向けることである場合、速度制御部833は、ドライバモニタカメラ3により出力された顔画像に基づいて、運転者の視線方向を検出する。速度制御部833は、例えば瞳孔および光源の角膜反射像が表されたテンプレートと顔画像との間でテンプレートマッチングを行うことで瞳孔および光源の角膜反射像を特徴点として検出し、それらの位置関係に基づいて視線方向を算出する。そして、検出された視線方向が自車位置から車線変更先の車線L12に向かう所定の範囲に含まれる場合、運転者が車線変更前動作を行ったと判定する。
【0046】
車線変更前動作が所定のボタン操作である場合、速度制御部833は、車内ネットワークを介して当該操作に応じた信号を受信したか否かに応じて運転者が車線変更前動作を行ったか否かを判定する。
【0047】
速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両1の速度を第1の加速度で変更することにより、車両1から車線変更位置LCP1までの距離が狭まるように制御する。また、速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行った後、車両1の速度を第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、車両1から車線変更位置LCP1までの距離が狭まるように制御する。
【0048】
図4(b)は、走行制御の第1の例において、車線変更前動作が要求され、運転者が車線変更前動作を行うことなく車両1が車線L11を走行している第2の状態を示している。速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行うまでの車両1の速度を、速度V10から第1の加速度で速度V11に減速する。この例では、第1の加速度は-0.1Gであり、速度V11は速度V10よりも遅い。すなわち、車両1の変更された速度V11は他車両11、12の速度よりも遅いため、車両1から見た車線変更位置LCP1は、図4(a)に示す第1の状態における位置よりも相対的に前方に移動する。
【0049】
図4(c)は、走行制御の第1の例において、車線変更前動作が要求され、運転者が車線変更前動作を行った後、車両1が車線L11を走行している第3の状態を示している。速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行った後の車両1の速度を、速度V10から第2の加速度で速度V12に減速する。この例では、第2の加速度は-0.5Gであり、第2の加速度の絶対値は、第1の加速度の絶対値よりも大きい。速度V12は速度V11よりもさらに遅いため、車両1から見た車線変更位置LCP1は、図4(b)に示す第2の状態における位置よりもさらに相対的に前方に移動する。
【0050】
操舵制御部834は、運転者が車線変更前動作を行い、かつ、車両1が車線変更位置LCP1に到達した場合、車両1が走行中の車線から他の車線に移動するように操舵する。
【0051】
図4(c)に示す、走行制御の第1の例における第3の状態では、運転者はすでに車線変更動作を行っている。操舵制御部834は、車両1の位置が後方周辺カメラ2-2により出力された周辺画像から検出された他車両11、12の位置に応じて設定される車線変更位置LCP1に到達したか否かを判定する。車両1が車線変更位置LCP1に到達したと判定された場合、操舵制御部834は、車内ネットワークを介して車両1を操舵するステアリング機構に対し、車両1が走行中の車線から他の車線に移動するようにステアリング機構を動作させるための操舵信号を送信する。
【0052】
操舵制御部834は、車両1の車線変更位置LCP1への到達に加え、車両1の周辺の状況が周辺条件を満たしたことを条件として操舵信号を送信してもよい。周辺条件は、例えば地形(急カーブ区間でないこと、急勾配区間でないこと等)により定められる。操舵制御部834は、GNSS受信機6により取得される車両1の位置の周辺の地形を、ストレージ装置7に記憶される地図情報から取得することができる。また、地形は、周辺カメラ2により生成された周辺画像から検出されてもよい。
【0053】
なお、図4(a)-図4(c)に示す走行制御の第1の例における第1の状態において、車両1および他車両11、12がそれぞれ等速で走行するものと仮定する。この場合、車両1の現在位置から車線変更位置LCP1までの距離を車両1の速度V10と他車両11、12の速度との差で除することにより、車両1の現在位置から車線変更位置LCP1に到達するまでに必要と予測される到達所要時間を算出することができる。
【0054】
車両1の速度V10と他車両11、12の速度との差が小さいほど、到達所要時間は長くなる。車両1の速度V10と他車両11、12の速度とに基づいて算出される到達所要時間が所定の時間閾値よりも長い場合、速度制御部833は、車両1の速度を第3の加速度で減速することにより、車両1と車線変更位置LCP1との間隔を狭めるように制御してもよい。第3の加速度の絶対値は、第1の加速度の絶対値よりも大きく、かつ、第2の加速度の絶対値よりも小さい。第3の加速度は、例えば-0.35Gといったブレーキランプが点灯しない程度の加速度とすることが好ましい。
【0055】
第1の加速度、第2の加速度、および第3の加速度は、それぞれ同一の符号を有していることが好ましい。また、第1の加速度はゼロであってもよく、この場合、第2の加速度と第3の加速度とが同一の符号を有していることが好ましい。
【0056】
図5(a)は走行制御の第2の例における第1の状態を説明する図であり、図5(b)は走行制御の第2の例における第2の状態を説明する図であり、図5(c)は走行制御の第2の例における第3の状態を説明する図である。
【0057】
図5(a)は、走行制御の第2の例において、車両1が車線L22を速度V20で走行している第1の状態を示している。計画部831は、前方周辺カメラ2-1により出力された周辺画像を、他車両および車線区画線を検出するよう学習された識別器に入力することにより、車線L22に隣接する車線L21における車両1の前方を走行する他車両21、22を検出する。他車両21、22は、速度V20よりも遅い速度で走行している。
【0058】
計画部831は、他車両21と他車両22との間隔が所定の割込閾値よりも長い場合、車両1と他車両21、22との位置関係に応じて、他車両21と他車両22との間に車線変更スペースLCS2を設定する。車線変更スペースLCS2は、他車両21と他車両22との間の、後方を走行する他車両21の前端から前方間隔DFだけ離れた位置から、前方を走行する他車両22の後端から後方間隔DRだけ離れた位置までのスペースである。そして、計画部831は、車線変更スペースLCS2のうち車両1から最も近い位置に車線変更位置LCP2を設定し、車線変更位置LCP2での車線変更を計画する。他車両21、22が速度V20よりも遅い速度で走行しているため、車両1から見た車線変更位置LCP2は、車両1の走行に伴って前方から相対的に後方に移動する。
【0059】
要求部832は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう車両1の運転者に要求する。
【0060】
速度制御部833は、要求後、運転者が車線変更動作を行ったか否かを判定する。
【0061】
速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行うまで、車両1の速度を第1の加速度で変更することにより、車両1から車線変更位置LCP2までの距離が狭まるように制御する。また、速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行った後、車両1の速度を絶対値が第1の加速度の絶対値よりも大きい第2の加速度で変更することにより、車両1から車線変更位置LCP2までの距離が狭まるように制御する。
【0062】
図5(b)は、走行制御の第2の例において、車線変更前動作が要求され、運転者が車線変更前動作を行うことなく車両1が車線L22を走行している第2の状態を示している。速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行うまでの車両1の速度を、速度V20から第1の加速度で速度V21に変更する。この例では、第1の加速度は0Gであり、速度V21は速度V20と等しい。すなわち、車両1の変更された速度V21は他車両21、22の速度よりも速いため、車両1から見た車線変更位置LCP1は、図5(a)に示す第1の状態における位置よりも相対的に後方に移動する。
【0063】
図5(c)は、走行制御の第2の例において、車線変更前動作が要求され、運転者が車線変更前動作を行った後、車両1が車線L22を走行している第3の状態を示している。速度制御部833は、運転者が車線変更前動作を行った後の車両1の速度を、速度V20から第2の加速度で速度V22に加速する。この例では、第2の加速度は0.5Gであり、第2の加速度の絶対値は、第1の加速度の絶対値よりも大きい。速度V22は速度V21よりも遅いため、車両1から見た車線変更位置LCP1は、図5(b)に示す第2の状態における位置よりもさらに後方に移動する。
【0064】
操舵制御部834は、運転者が車線変更前動作を行い、かつ、車両1が車線変更位置LCP2に到達した場合、車両1が走行中の車線L22から他の車線L21に移動するように操舵する。
【0065】
図6は、走行制御処理のフローチャートである。ECU8は、計画部831により車線変更が計画されるたびに、走行制御処理を実行する。
【0066】
まず、ECU8のプロセッサ83の要求部832は、走行中の車線から走行中の車線に隣接する他の車線への車線変更の実行のため車両の運転者に要求される車線変更前動作を行うよう運転者に要求する(ステップS1)。
【0067】
ECU8のプロセッサ83の速度制御部833は、要求後、運転者が車線変更前動作を行ったか否かを判定する(ステップS2)。
【0068】
運転者が車線変更前動作を行っていないと判定された場合(ステップS2:N)、速度制御部833は、車両1の速度を第1の加速度で変更することにより、車線変更を実行するために車両と他の車線における移動物体との位置関係に応じて定められる車線変更位置までの間隔を狭めるように車両1の速度を制御する(ステップS3)。そして、ECU8のプロセッサ83の処理はステップS1に戻り、要求部832による運転者への車線変更前動作の要求を継続する。
【0069】
運転者が車線変更前動作を行ったと判定された場合(ステップS2:Y)、速度制御部833は、車両1の速度を第1の加速度の絶対値よりも大きい絶対値を有する第2の加速度で変更することにより、車線変更位置までの間隔を狭めるように車両1の速度を制御する(ステップS4)。
【0070】
次に、ECU8のプロセッサ83の操舵制御部834は、車両1が車線変更位置に到達したか否かを判定する(ステップS5)。
【0071】
車両1が車線変更位置に到達していないと判定された場合(ステップS5:N)、ECU8のプロセッサ83の処理はステップS4に戻り、車両1が車線変更位置に近づく制御を継続する。
【0072】
車両1が車線変更位置に到達したと判定された場合(ステップS5:N)、ECU8のプロセッサ83の操舵制御部834は、車両1が走行中の車線から他の車線に移動するように操舵し(ステップS6)、走行制御処理を終了する。
【0073】
このように走行制御処理を実行することにより、ECU8は、車線変更を適切に実行することができる。
【0074】
車両1は、周辺センサとしてLiDAR(Light Detection and Ranging)センサ、または、RADAR(Radio Detection and Ranging)センサを有していてもよい。LIDARセンサまたはRADARセンサは、車両1の周辺状況に基づいて、各画素が当該画素に表わされた物体までの距離に応じた値を持つ距離画像を、周辺データとして出力する。
【0075】
当業者は、本発明の精神および範囲から外れることなく、種々の変更、置換および修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
8 ECU
832 要求部
833 速度制御部
834 操舵制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6