(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F04D19/04 D
(21)【出願番号】P 2021138855
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕章
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-062880(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024261(WO,A1)
【文献】米国特許第06312234(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
前記ステータの内周側に配置されて回転駆動されることにより、排気対象気体を排気空間から真空ポンプの外部に導くロータと、
前記ロータの内周側のロータ内壁面と対向して配置されるベースと、を備え、
前記ベースと前記ロータ内壁面との間には内部空間が形成され、前記内部空間内の気体は、前記排気空間を経由して前記真空ポンプの外部に排出され、
前記内部空間から前記排気空間に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分を生じさせる気体流調整部をさらに備
え、
前記気体流調整部は、
前記内部空間に近い側において前記第1気体流成分を発生させる第1部分と、
前記排気空間に近い側において前記排気空間に向かう方向の第2気体流成分を発生させる第2部分と、を有し、
前記第1部分には、前記ロータの回転により前記第1気体流成分を生じさせる第1溝が形成され、
前記第2部分には、前記ロータの回転により前記第2気体流成分を生じさせる第2溝が形成され、
前記第1溝と前記第2溝は、前記第1部分と前記第2部分の境界部分で対向しない状態で配置される、
真空ポンプ。
【請求項2】
前記第1溝と前記第2溝は、前記第1部分と前記第2部分の境界部分で互いに隙間を空けて配置される、請求項
1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記気体流調整部は、前記ロータの前記排気空間に近い側の下流側端面、又は、前記下流側端面に対向する位置に配置される、請求項
1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記気体流調整部は、前記ロータ内壁面と対向する前記ベースの側壁面に配置される、請求項1から
3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ロータ及び前記ベースには、高い輻射率を有する層が形成される、請求項1から
4のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ロータ及び前記ベースには、大きい表面積を有する層が形成される、請求項1から
5のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記内部空間にパージガスを導入するパージガス供給装置をさらに備える、請求項1から
6のいずれかに記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプには、回転駆動されるロータと、ロータと協働して気体を排気するステータと、備えるものがある。また、ロータの内周側から気体の排気空間へ気体を排気する溝排気部を設けて、気体がロータの内周側に流入することを抑制できるものがある(例えば、特許文献1を参照)。この真空ポンプは、例えば、ドライエッチング、又は、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)などのプロセスを実行するプロセスチャンバ内を高真空とする手段として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上記の真空ポンプを用いて大流量の気体を排気したいとのニーズがある。しかしながら、大流量の気体を排気するに際して、ロータの加熱が問題となる。なぜなら、排気する気体の流量が大きくなると気体とロータとの間の摩擦が大きくなり、また、モータの負荷が増大してモータからの発熱量が大きくなるからである。その結果、大流量の気体を排気する場合には、加熱が促進されてロータが高温となるからである。ロータが高温になると、ロータが膨張し他の部品と接触しやすくなり、真空ポンプの寿命が短くなる。本発明の目的は、上記の真空ポンプにおいて、ロータの温度上昇を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る真空ポンプは、ステータと、ロータと、ベースと、を備える。ロータは、ステータの内周側に配置されて回転駆動されることにより、排気対象気体を排気空間から真空ポンプの外側に導く。ベースは、ロータの内周側のロータ内壁面と対向して配置される。この真空ポンプにおいて、ベースとロータ内壁面との間には内部空間が形成され、内部空間内の気体は、排気空間を経由して真空ポンプの外部に排出される。この真空ポンプは、内部空間から排気空間に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分を生じさせる気体流調整部をさらに備える。
【発明の効果】
【0006】
上述した本発明の一態様に係る真空ポンプでは、気体流調整部が、ロータの内壁面とベースとの間に形成される内部空間から、排気対象気体が導かれる排気空間に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分を生じさせている。これにより、内部空間から排気空間への方向のコンダクタンスが減少し、内部空間の圧力が大きくなる。内部空間の圧力が大きいことは、内部空間に、熱伝導の媒体となる気体が多く存在することを意味する。すなわち、内部空間の圧力が大きくなることで内部空間の熱伝導がよくなる。この結果、内部空間を介したロータからベースへの熱伝導効率が向上し、ロータの熱がベースに効率よく伝達され、ロータの温度上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】気体流調整部の溝形状の構成を示す図である。
【
図4】気体流調整部の溝形状の他の例を示す図である。
【
図5】気体流調整部の溝形状のさらに他の例を示す図である。
【
図6】気体流調整部の配置位置の他の例を示す図である。
【
図8】第1気体流成分のみを生じさせる気体流調整部の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して一実施形態に係る真空ポンプについて説明する。
図1は、実施形態に係る真空ポンプ1の断面図である。
図1に示すように、真空ポンプ1は、ハウジング2と、ベース3と、ロータ4と、ステータ5と、を含む。
【0009】
ハウジング2は、第1端部11と、第2端部12と、第1内部空間S1とを含む。第1端部11には吸気口13が設けられている。第1端部11は、排気対象装置(図示せず)に取り付けられる。排気対象装置は、例えば、半導体製造装置のプロセスチャンバである。第1内部空間S1は、吸気口13に連通している。第2端部12は、ロータ4の軸線方向(以下、単に「軸線方向A1」と呼ぶ)において、第1端部11の反対に位置している。第2端部12は、ベース3に接続される。ベース3は、ベース端部14を含む。ベース端部14は、ハウジング2の第2端部12に接続される。
【0010】
ロータ4は、シャフト21を含む。シャフト21は、軸線方向A1に延びている。シャフト21は、ベース3に回転可能に収納されている。シャフト21とベース3との間には第1ギャップG1が形成されている。また、ロータの内周側のロータ内壁面とベース3の表面とは所定の間隔を空けて対向している。ロータ内壁面とベース3との間には第2内部空間S2が形成されている。
【0011】
ロータ4は、複数段のロータ翼22と、ロータ円筒部23と、を含む。複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21に接続されている。複数のロータ翼22は、軸線方向A1に互いに間隔をおいて配置されている。図示を省略するが、複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のロータ翼22の1つのみに符号が付されており、他のロータ翼22の符号は省略されている。ロータ円筒部23は、複数段のロータ翼22の下方に配置されている。ロータ円筒部23は、軸線方向A1に延びている。
【0012】
ステータ5は、ロータ4の外周側に配置されている。ステータ5は、複数段のステータ翼31と、ステータ円筒部32と、を含む。複数段のステータ翼31は、ハウジング2の内面に接続されている。複数段のステータ翼31は、軸線方向A1において、互いに間隔をおいて配置されている。複数段のステータ翼31は、それぞれ複数段のロータ翼22の間に配置されている。図示を省略するが、複数段のステータ翼31は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のステータ翼31の2つのみに符号が付されており、他のステータ翼31の符号は省略されている。ステータ円筒部32は、ベース3に熱的に接触した状態で固定されている。ステータ円筒部32は、ロータ円筒部23の径方向において、わずかな隙間を空けてロータ円筒部23の外周面と向かい合って配置されている。ロータ円筒部23と向かい合うステータ円筒部32の内周面には、らせん状溝が設けられている。
【0013】
図1に示すように、ロータ円筒部23とステータ円筒部32の排気下流側の端部のさらに下流側には、排気空間S3が形成されている。排気空間S3には、排気対象装置から排気された排気対象気体が導かれる。排気空間S3は、排気口15に連通している。排気口15は、ベース3に設けられる。排気口15には、他の真空ポンプ(図示せず)が接続される。なお、排気下流側とは、軸線方向A1において、排気空間S3により近い側をいう。また、排気下流方向とは、排気空間S3に向かう方向をいう。
【0014】
真空ポンプ1は、複数の軸受41A-41Dと、モータ42と、を含む。複数の軸受41A-41Dは、ベース3のシャフト21を収納した位置に取り付けられている。複数の軸受41A-41Dは、ロータ4を回転可能に支持する。軸受41Aは、例えば、ボールベアリングである。一方、他の軸受41B-41Dは、例えば、磁気軸受である。ただし、複数の軸受41B-41Dは、ボールベアリングなどの他の種類の軸受であってもよい。
【0015】
モータ42は、ロータ4を回転駆動する。モータ42は、モータロータ42Aとモータステータ42Bとを含む。モータロータ42Aは、シャフト21に取り付けられている。モータステータ42Bは、ベース3に取り付けられている。モータステータ42Bは、モータロータ42Aと向かい合って配置されている。
【0016】
真空ポンプ1では、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とは、ターボ分子ポンプ部を構成する。また、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とは、ネジ溝ポンプ部を構成する。真空ポンプ1では、モータ42によってロータ4が回転することで、吸気口13から第1内部空間S1へ排気対象気体が流入する。第1内部空間S1の排気対象気体は、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部を通過して、排気空間S3に導かれる。排気空間S3の排気対象気体は、排気口15から排気される。この結果、吸気口13に取り付けられた排気対象装置の内部が、高真空状態となる。
【0017】
真空ポンプ1は、パージガス供給装置6を含む。パージガス供給装置6は、パージポート61と、ガス流路62と、を含む。パージポート61は、パージガスの供給源(図示せず)に接続される。パージポート61は、ガス流路62に接続される。ガス流路62は、ベース3とシャフト21との間の第1ギャップG1と連通する。第1ギャップG1は、第2内部空間S2と連通する。パージガスは、例えば、窒素ガスなどの不活性ガスである。
【0018】
パージガスの供給源からパージポート61に導入されたパージガスは、ガス流路62と第1ギャップG1を通り、第2内部空間S2に導入される。第2内部空間S2に導入されたパージガスは、ロータ4(ロータ円筒部23)の排気下流側の端部とベース3との隙間から排気空間S3へと流れる。排気空間S3のパージガスは、排気口15から外部に排気される。つまり、第2内部空間S2内のパージガスは、排気空間S3を経由して、真空ポンプ1の外部に排出される。
【0019】
パージガスが、第2内部空間S2に導入されることにより、第2内部空間S2に排気対象気体が流入することを防止できる。これにより、ロータ内壁面及びベース3の表面に、排気対象気体から生成される反応生成物が堆積することを防止できる。また、第2内部空間S2に導入されたパージガスは、ロータ4の熱をベース3に伝達する媒体として機能する。また、パージガスが熱伝導の媒体となってロータ4の熱をベース3に伝達して逃すことで、ロータ4の加熱を抑制できる。
【0020】
上記の構成を有する真空ポンプ1においては、ロータ4を回転駆動するモータ42からの発熱、高速回転するロータ4と排気対象気体との間の摩擦熱などにより、ロータ4が加熱される。例えば、排気対象装置がCVD装置などの半導体製造装置である場合、排気対象装置に大流量のプロセスガス(排気対象気体の一例)を導入したいとのニーズがある。その一方で、真空ポンプ1にて大流量の排気対象気体を排気すると、モータ42の負荷の増大によりモータ42からの発熱量が増大し、ロータ4と排気対象気体との間の摩擦熱が増大する。その結果、ロータ4がより加熱されやすくなる。
【0021】
そこで、本実施形態に係る真空ポンプ1では、ロータ4が加熱されても、ロータ4の熱をベース3に効率よく逃がすことで、ロータ4の温度上昇を抑制するようにした。具体的には、ロータ内壁面からベース3への熱伝導効率を向上させるべく、第2内部空間S2に熱伝導の媒体となるパージガスをできうる限り滞留させるようにする。つまり、第2内部空間S2にできうる限りパージガスを滞留させて、第2内部空間S2の圧力をできうる限り大きくするようにする。
【0022】
具体的には、
図1及び
図2に示すように、第2内部空間S2と排気空間S3との連結部分、すなわち、ロータ円筒部23の排気下流側の端面(下流側端面と呼ぶ)とベース3との隙間部分に、気体流調整部7を設ける。
図2は、ロータ4の排気下流側の拡大図である。
【0023】
図2及び
図3に示すように、気体流調整部7は、第1部分7aと、第2部分7bと、を有する。第1部分7aは、気体流調整部7のうち第2内部空間S2に近い部分である。第2部分7bは、排気空間S3に近い部分である。
図3は、気体流調整部7の構成を示す図である。
【0024】
気体流調整部7は、第2内部空間S2に近い第1部分7aにおいて、パージガスの排気方向、すなわち、第2内部空間S2から排気空間S3に向かう方向(
図2の破線矢印にて示す方向)とは逆方向の第1気体流成分ST1を生じさせる。
【0025】
なお、気体流調整部7は、ロータ円筒部23の下流側端面の円周に対応するリング形状を有している。これにより、ロータ円筒部23の下流側端面側の円周全体にわたって、第1気体流成分ST1を発生できる。
【0026】
図1及び
図2に示す例では、気体流調整部7は、ロータ円筒部23の下流側端面と対向するベース3の表面に配置されている。これに限られず、気体流調整部7をベース3側に配置する代わりに、ベース3と対向するロータ円筒部23の下流側端面に気体流調整部7を配置してもよい。
【0027】
第2内部空間S2に導入されたパージガスは、排気口15から排気されるために、排気空間S3に導かれる。第1気体流成分ST1は、このパージガスの流れとは逆方向の気体流であるので、第2内部空間S2から排気空間S3に向かうパージガスの流れに対しては、コンダクタンスを低下させる働きをする。
【0028】
第2内部空間S2から排気空間S3に向かうパージガスの流れに対するコンダクタンスが低下することにより、パージガスが第2内部空間S2から排気されにくくなるので、第2内部空間S2の圧力が増大する。第2内部空間S2の圧力が大きくなることは、第2内部空間S2により多くのパージガスが存在すること、すなわち、ロータ4からベース3への熱伝導の媒体が第2内部空間S2に多く存在することを意味する。ロータ4からベース3への熱伝導の媒体となるパージガスが第2内部空間S2に多く存在することで、ロータ4からベース3への熱伝導効率が向上する。この結果、ロータ4の熱がベース3に効率よく伝達されてロータ4の温度上昇を抑制できる。ロータ4の温度上昇を抑制できれば、真空ポンプ1を用いて、排気対象装置から大流量の排気対象気体を排気できる。
【0029】
また、気体流調整部7は、上記の第1気体流成分ST1に加えて、排気空間S3に近い第2部分7bにおいて、第2内部空間S2から排気空間S3に向かう方向の第2気体流成分ST2を生じさせる。気体流調整部7の第2部分7bにおいて第2気体流成分ST2を生じさせることにより、排気空間S3から第2内部空間S2への排気対象気体の流入を抑制できる。排気対象気体が反応生成物を生成するプロセスガスである場合には、排気空間S3から第2内部空間S2への排気対象気体の流入を抑制できれば、ロータ4のロータ内壁面及びベース3の表面に反応生成物が堆積することを抑制できる。
【0030】
本実施形態において、気体流調整部7は、シーグバーンポンプの原理を用いて、第1気体流成分ST1と第2気体流成分ST2とを生じさせる。具体的には、気体流調整部7は、ロータ円筒部23の下流側端面(気体流調整部7がベース3に設けられる場合)、又は、ベース3の表面(気体流調整部7がロータ円筒部23の下流側端面に設けられる場合)に対向する面に、
図3に示すような溝(凹凸)を有している。なお、
図3においては、簡略化ために、気体流調整部7を直線として表している。また、以下の説明では、気体流調整部7の第2内部空間S2に近い側を第1部分7a、排気空間S3に近い側を第2部分7bとする。さらに、
図3に示す溝形状は、ロータ4の回転方向が紙面の右側から左側に向かう方向の場合における溝形状である。
【0031】
気体流調整部7の第1部分7aには、第1凸部71aと第1溝73aとが設けられる。第1凸部71aは、第1溝73aに対して突出した部分である。第1凸部71aは、第1部分7aと第2部分7bとの境界(
図3においては破線で示した境界)から第2内部空間S2に向けて、ロータ4の回転方向と同じ方向に傾斜して延びる辺を有する平行四辺形を有する。第1凸部71aは、気体流調整部7の全周にわたり、所定の間隔を空けて複数設けられる。第1溝73aは、2つの第1凸部71aにより挟まれた部分に形成される。第1溝73aは、第1凸部71aと同様、第1部分7aと第2部分7bとの境界から第2内部空間S2に向けて、ロータ4の回転方向と同じ方向に傾斜して伸びる辺を有する。
【0032】
一方、気体流調整部7の第2部分7bには、第2凸部71bと第2溝73bとが設けられる。第2凸部71bは、第2溝73bに対して突出している。第2凸部71bは、第1部分7aと第2部分7bとの境界から排気空間S3に向けて、ロータ4の回転方向と同じ方向に傾斜して伸びる辺を有する平行四辺形を有する。第2凸部71bは、気体流調整部7の全周にわたり、所定の間隔を空けて複数設けられる。第2溝73bは、2つの第2凸部71bにより挟まれた部分に形成される。第2溝73bは、第2凸部71bと同様、第1部分7aと第2部分7bとの境界から排気空間S3に向けて、ロータ4の回転方向と同じ方向に傾斜して伸びる辺を有する。
【0033】
上記の構成を有する気体流調整部7においては、ロータ4が
図3の紙面の右側から左側の方向に回転すると、第2内部空間S2に近い側の第1部分7aに形成された第1溝73aにて、第1部分7aと第2部分7bとの境界から第2内部空間S2に向かう第1気体流成分ST1が生じる。一方、排気空間S3に近い側の第2部分7bに形成された第2溝73bにて、第1部分7aと第2部分7bとの境界から排気空間S3に向かう第2気体流成分ST2が生じる。
【0034】
気体流調整部7に上記の第1溝73aを設けることにより、ロータ4の回転により、気体流調整部7の第2内部空間S2に近い側で、第2内部空間S2から排気空間S3に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分ST1を効率よく発生できる。この結果、第2内部空間S2の圧力をより大きくできる。
【0035】
また、気体流調整部7に上記の第2溝73bを設けることにより、ロータ4の回転により、気体流調整部7の排気空間S3に近い側で、第2内部空間S2から排気空間S3に向かう第2気体流成分ST2を効率よく発生できる。この結果、排気空間S3の排気対象気体が第2内部空間S2に流入しにくくなる。
【0036】
図3に示す例においては、第1溝73aの第2内部空間S2に向かう辺は、第1部分7aと第2部分7bの境界部分からではなく、当該境界部分から離れた位置から始まっている。また、第2溝73bの排気空間S3に向かう辺は、第1部分7aと第2部分7bの境界部分からではなく、当該境界部分から離れた位置から始まっている。つまり、第1溝73aと第2溝73bは、第1部分7aと第2部分7bの境界部分において、互いに隙間を空けて配置されている。第1凸部71a及び第2凸部71bを基準としてこれを言い換えると、第1凸部71aと第2凸部71bは、第1部分7aと第2部分7bの境界部分において繋がっていない。第1凸部71aと第2凸部71bを境界部分において繋がっていない形状とすることで、気体流調整部7に凸部及び溝を形成する加工が容易となる。
【0037】
また、
図3に示す例においては、第1溝73aと第2溝73bが、気体流調整部7の周方向に沿って、互い違いに千鳥状配置されている。第1溝73aと第2溝73bを千鳥状配置とすることで、第1溝73aと第2溝73bは、第1部分7aと第2部分7bの境界部分で互いに対向しない状態で配置される。これにより、第1部分7aと第2部分7bの境界部分において、第1溝73aと第2溝73bとが直接連結されなくなるので、第2溝73bに流入した排気対象気体が第1溝73aに流入することを抑制できる。この結果、排気対象気体が第2内部空間S2により流入しにくくなる。
【0038】
なお、
図3に示す気体流調整部7の溝形状は一例であり、第1部分7aにおいて第2内部空間S2に向かう方向の第1気体流成分ST1が生じ、第2部分7bにおいて排気空間S3に向かう方向の第2気体流成分ST2が生じる形状であれば、気体流調整部7に形成する凸部及び溝は任意の形状とできる。
【0039】
例えば、
図4に示すように、第1凸部71aと第2凸部71bとが、第1部分7aと第2部分7bとの境界部分で連結され、第1溝73aと第2溝73bとが当該境界部分で対向し且つ連結されていてもよい。また、
図5に示すように、第1凸部71aと第2凸部71bとが、第1部分7aと第2部分7bとの境界部分で連結されておらず、第1溝73aと第2溝73bとが当該境界部分で対向するが連結されていなくてもよい。
図4及び
図5は、気体流調整部7の溝形状の他の例を示す図である。
【0040】
また、気体流調整部7の配置位置は、第2内部空間S2と排気空間S3との連結部分、すなわち、ロータ円筒部23の下流側端面、又は、ベース3のロータ円筒部23の下流側端面と対向する位置に限られない。例えば、
図6に示すように、気体流調整部7を、第2内部空間S2と排気空間S3との連結部分よりも第2内部空間S2側に設けてもよい。具体的には、気体流調整部7を、ロータ内壁面と対向するベース3の側壁面に配置してもよい。
図6は、気体流調整部7の配置位置の他の例を示す図である。
【0041】
具体的には、
図7に示すようなリング状の気体流調整部7を、第1凸部71a、第1溝73a、第2凸部71b、第2溝73bが設けられた側を排気下流側に向けて、ロータ内壁面と対向するベース3の側壁面に取り付けてもよい。
図7は、気体流調整部7の他の例を示す図である。なお、
図6に示す気体流調整部7は、ロータ4の回転方向が時計回りである場合に用いられる部材である。
【0042】
図7に示すような気体流調整部7をベース3の側壁面に設けることで、ロータ内壁面とベース3の側壁面との間において、ホルベックポンプの原理を用いて、気体流調整部7の第2内部空間S2に近い側において第2内部空間S2に向かう第1気体流成分ST1を生じさせることができる。また、気体流調整部7の排気空間S3に近い側において、排気空間S3に向かう第2気体流成分ST2を生じさせることができる。
【0043】
本実施形態に係る真空ポンプ1においては、上記の気体流調整部7を設けることに加えて、真空ポンプ1を構成する部品に所定の表面層を形成して、真空ポンプ1の加熱を抑制している。具体的には、少なくとも、ロータ4のロータ内壁面と、ロータ内壁面に対向するベース3の表面に、高い輻射率を有する高輻射率層が形成される。高輻射率層は、例えば、黒ニッケルメッキ処理、アルマイト処理などの表面処理により形成できる。ロータ内壁面、ベース3の表面に高輻射率層を形成することで、ロータ内壁面からの熱放射を促進させる一方、ベース3の表面の熱吸収を促進させて、ロータ4の温度上昇を抑制できる。
【0044】
なお、高輻射率層を設ける箇所は、ロータ内壁面とベース3の表面のみに限られず、真空ポンプ1において熱の輻射を向上させたい部分にも高輻射率層を形成してもよい。例えば、気体流調整部7の表面に高輻射率層を形成できる。
【0045】
また、少なくとも、ロータ4のロータ内壁面と、ロータ内壁面に対向するベース3の表面には、表面積を大きくする大表面積層が形成されている。大表面積層は、例えば、アルマイト処理などの表面を粗くする処理を施すことにより形成できる。ロータ内壁面、ベース3の表面に大表面積層を形成することで、第2内部空間S2と触れるロータ内壁面の表面積、及び、第2内部空間S2と触れるベース3の表面積が大きくなるので、ロータ4から第2内部空間S2への熱の伝動量、及び、第2内部空間S2からベース3への熱の伝導量が増加する。その結果、ロータ4の温度上昇を抑制できる。
【0046】
なお、大表面積層を設ける箇所は、ロータ内壁面とベース3の表面のみに限られず、真空ポンプ1の他の箇所に大表面積層を形成してもよい。例えば、気体流調整部7の表面に大表面積層を形成することができる。
【0047】
また、
図6に示すように、真空ポンプ1の排気空間S3にカバー部材8が設けられてもよい。カバー部材8は、排気空間S3を形成するベース3の壁面を覆う部材である。カバー部材8を設けることにより、ベース3に反応生成物が堆積することを防止できる。また、排気空間S3に存在する気体が、ロータ円筒部23とベース3との間の第2内部空間S2へ入り込むことを抑制できる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
上記の実施形態では、気体流調整部7は、第1気体流成分ST1と第2気体流成分ST2とを両方生じさせていた。しかし、これに限られず、気体流調整部7は、第1気体流成分ST1のみを生じさせてもよい。この場合の気体流調整部7は、
図8に示すように、排気空間S3側から第2内部空間S2側に向けて、ロータ4の回転方向に傾斜して延びる辺を有する平行四辺形を有する複数の第3凸部71cと、2つの第3凸部71cの間に形成される第3溝73cと、により構成される。
図8は、第1気体流成分のみを生じさせる気体流調整部7の例を示す図である。
【0050】
図8に示すような気体流調整部7によっても、第2内部空間S2から排気空間S3に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分ST1を生じさせて、第2内部空間S2の圧力を大きくできる。その結果、ロータ4からベース3への熱伝導効率が向上し、ロータ4の熱がベース3に効率よく伝達されて、ロータ4の温度上昇を抑制できる。
【0051】
上記の実施形態では、気体流調整部7をベース3及びロータ4とは別体の部材としていた。しかし、これに限られず、例えば、ベース3のロータ円筒部23の下流側端面と対向する位置、ロータ円筒部23の下流側端面、ベース3のロータ内壁面と対向する位置、又は、ロータ内壁面に
図3~
図5に示すような凸部と溝とを設けて気体流調整部7としてもよい。
【0052】
上記の実施形態に係る真空ポンプ1は、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とにより構成されるターボ分子ポンプと、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とにより構成されるネジ溝ポンプとが一体化されたポンプである。しかし、ネジ溝ポンプは省略されてもよい。すなわち、真空ポンプ1は、ターボ分子ポンプであってもよい。或いは、ターボ分子ポンプは省略されてもよい。すなわち、真空ポンプ1は、ネジ溝ポンプであってもよい。
【0053】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1態様)真空ポンプは、ステータと、ロータと、ベースと、を備える。ロータは、ステータの内周側に配置されて回転駆動されることにより、排気対象気体を排気空間から真空ポンプの外部に導く。ベースは、ロータの内周側のロータ内壁面と対向して配置される。この真空ポンプにおいて、ベースとロータ内壁面との間には内部空間が形成され、内部空間内の気体は、排気空間を経由して真空ポンプの外部に排出される。この真空ポンプは、内部空間から排気空間に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分を生じさせる気体流調整部をさらに備える。
【0055】
第1態様に係る真空ポンプでは、気体流調整部が、ロータの内壁面とベースとの間に形成される内部空間から、排気対象気体が導かれる排気空間に向かう方向とは逆方向の第1気体流成分を生じさせている。これにより、内部空間から排気空間への方向のコンダクタンスが減少し、内部空間の圧力が大きくなる。内部空間の圧力が大きいことは、内部空間に、熱伝導の媒体となる気体が多く存在することを意味する。すなわち、内部空間の圧力が大きくなることで、内部空間の熱伝導がよくなる。この結果、内部空間を介したロータからベースへの熱伝導効率が向上し、ロータの熱がベースに効率よく伝達され、ロータの温度上昇を抑制できる。
【0056】
(第2態様)第1態様に係る真空ポンプにおいて、気体流調整部は、ロータの回転により第1気体流成分を生じさせる溝を有してもよい。第2態様に係る真空ポンプでは、気体流調整部により内部空間から排気空間への方向とは逆方向の第1気体流成分を効率よく発生できるので、内部空間の圧力をより大きくできる。
【0057】
(第3態様)第1態様に係る真空ポンプにおいて、気体流調整部は、内部空間に近い側において第1気体流成分を発生させる第1部分と、排気空間に近い側において排気空間に向かう方向の第2気体流成分を発生させる第2部分と、を有してもよい。第3態様に係る真空ポンプでは、内部空間の圧力を大きくしつつ、内部空間に排気空間内の気体が流入することを防止できる。
【0058】
(第4態様)第3態様に係る真空ポンプにおいて、第1部分には、ロータの回転により第1気体流成分を生じさせる第1溝が形成され、第2部分には、ロータの回転により第2気体流成分を生じさせる第2溝が形成されてもよい。第4態様に係る真空ポンプでは、気体流調整部の第1部分(内部空間に近い側)において第1気体流成分を効率よく発生できるので、内部空間の圧力をより大きくできる。これとともに、気体流調整部の第2部分(排気空間に近い側)において第2気体流成分を効率よく発生できるので、内部空間に排気空間内の気体をより流入しにくくできる。つまり、第4態様に係る真空ポンプでは、内部空間の圧力をより大きくできるとともに、内部空間に排気空間内の気体をより流入しにくくできる。
【0059】
(第5態様)第4態様に係る真空ポンプでは、第1溝と第2溝は、第1部分と第2部分の境界部分で互いに隙間を空けて配置されてもよい。第5態様に係る真空ポンプでは、気体流調整部に第1溝と第2溝とを形成する加工が容易になる。
【0060】
(第6態様)第4態様又は第5態様の真空ポンプにおいて、第1溝と第2溝は、第1部分と第2部分の境界部分で対向しない状態で配置される、第6態様に係る真空ポンプでは、第1部分と第2部分の境界部分において、第1溝と第2溝とが直接連結されなくなるので、第2溝に流入した気体が第1溝に流入することをさらに抑制できる。
【0061】
(第7態様)第1態様~第6態様のいずれかに係る真空ポンプにおいて、気体流調整部は、ロータの排気空間に近い側の下流側端面、又は、当該下流側端面に対向する位置に配置されてもよい。第7態様に係る真空ポンプでは、内部空間と排気空間との連結部分において、第1気体流成分、第2気体流成分を発生できる。
【0062】
(第8態様)第1態様~第6態様のいずれかに係る真空ポンプにおいて、気体流調整部は、ロータ内壁面と対向するベースの側壁面に配置されてもよい。第7態様に係る真空ポンプでは、内部空間と排気空間との連結部分よりも内部空間側において、第1気体流成分、第2気体流成分を発生できる。
【0063】
(第9態様)第1態様~第8態様のいずれかに係る真空ポンプにおいて、ロータ及びベースには、高い輻射率を有する層が形成されてもよい。第9態様に係る真空ポンプでは、ロータからの熱放射を促進させる一方、ベースの熱吸収を促進させて、ロータの温度上昇を抑制できる。
【0064】
(第10態様)第1態様~第9態様のいずれかに係る真空ポンプにおいて、ロータ及びベースには、大きい表面積を有する層が形成されてもよい。第10態様に係る真空ポンプでは、内部空間と触れるロータ内壁面の表面積、及び、内部空間と触れるベースの表面積が大きくなるので、ロータから内部空間への熱の伝動量、及び、内部空間からベースへの熱の伝導量が増加する。その結果、ロータの温度上昇を抑制できる。
【0065】
(第11態様)第1態様~第10態様のいずれかに係る真空ポンプは、内部空間にパージガスを導入するパージガス供給装置をさらに備えてもよい。第11態様に係る真空ポンプでは、内部空間に排気空間内のガスが流入することを防止できる。また、パージガスが熱伝導の媒体となって、ロータの熱をベースに伝達することで、ロータの温度上昇を抑制できる
【符号の説明】
【0066】
1 真空ポンプ
2 ハウジング
3 ベース
4 ロータ
5 ステータ
6 パージガス供給装置
7 気体流調整部
7a 第1部分
7b 第2部分
8 カバー部材
11 第1端部
12 第2端部
13 吸気口
14 ベース端部
15 排気口
21 シャフト
22 ロータ翼
23 ロータ円筒部
31 ステータ翼
32 ステータ円筒部
41A~41D 軸受
42 モータ
42A モータロータ
42B モータステータ
61 パージポート
62 ガス流路
71a 第1凸部
71b 第2凸部
71c 第3凸部
73a 第1溝
73b 第2溝
73c 第3溝
A1 軸線方向
G1 第1ギャップ
S1 第1内部空間
S2 第2内部空間
S3 排気空間
ST1 第1気体流成分
ST2 第2気体流成分