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7586033車両用衝突回避支援装置及び車両用衝突回避支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両用衝突回避支援装置及び車両用衝突回避支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20241112BHJP
   B60T 7/20 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60T7/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021141616
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023035031
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 雄佑
(72)【発明者】
【氏名】金重 裕三
(72)【発明者】
【氏名】守谷 隆司
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0322273(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017003148(DE,A1)
【文献】特開2019-171971(JP,A)
【文献】特開2021-079904(JP,A)
【文献】特開2000-043705(JP,A)
【文献】特開平10-236289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0229701(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方の障害物を検出する障害物検出装置と、前記障害物検出装置により障害物が検出されており且つ前記車両が前記障害物に衝突する虞があると判定したときには、前記車両に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御を行うよう構成された制御装置と、を含む、車両用衝突回避支援装置において、
前記制御装置は、前記車両がトレーラを牽引しておらず且つ前記車両の旋回の度合を示す旋回指標値が第一の基準値以上であると判定したときに、前記自動ブレーキ制御を禁止し、前記車両がトレーラを牽引しており且つ前記旋回指標値が前記第一の基準値よりも小さい第二の基準値以上であると判定したときに、前記自動ブレーキ制御を禁止するよう構成された、車両用衝突回避支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記制御装置は、前記旋回指標値が前記第二の基準値よりも小さい第三の基準値よりも大きい値から前記第三の基準値以下になったと判定した時点から所定の時間が経過するまで、前記自動ブレーキ制御の禁止を継続し、前記時点から所定の時間が経過した後に、前記自動ブレーキ制御の禁止を解除するよう構成された、車両用衝突回避支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記制御装置は、車速が高いほど前記所定の時間が短くなるよう、車速に応じて前記所定の時間を可変設定するよう構成された、車両用衝突回避支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記旋回指標値は操舵角である、車両用衝突回避支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記旋回指標値は前記車両のヨーレートである、車両用衝突回避支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記旋回指標値は前記車両のヨーレートと車速との積である、車両用衝突回避支援装置。
【請求項7】
請求項2に記載の車両用衝突回避支援装置において、前記旋回指標値は操舵角であり、前記制御装置は、前記操舵角の絶対値が前記第二の基準値よりも小さい第三の基準値以下であり且つ前記操舵角の時間微分値の絶対値が時間微分値の基準値以下である条件が成立したと判定した時点から所定の時間が経過するまで、前記自動ブレーキ制御の禁止を継続し、前記時点から所定の時間が経過した後に、前記自動ブレーキ制御の禁止を解除するよう構成された、車両用衝突回避支援装置。
【請求項8】
障害物検出装置により車両の前方の障害物を検出するステップと、前記障害物検出装置により障害物が検出されており且つ前記車両が前記障害物に衝突する虞があると判定されたときには、前記車両に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御を行うステップと、を前記車両に搭載された制御装置に実行させる車両用衝突回避支援プログラムにおいて、
前記車両がトレーラを牽引しているか否かを判定するステップと、前記車両がトレーラを牽引しておらず且つ前記車両の旋回の度合を示す旋回指標値が第一の基準値以上であると判定したときに、前記自動ブレーキ制御を禁止するステップと、前記車両がトレーラを牽引しており且つ前記旋回指標値が前記第一の基準値よりも小さい第二の基準値以上であると判定したときに、前記自動ブレーキ制御を禁止するステップと、を含む、車両用衝突回避支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の衝突回避支援装置及び衝突回避支援プログラムに係る。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の運転支援装置の一つとして、衝突回避支援装置が知られている。衝突回避支援装置は、自車両の前方に衝突の可能性がある障害物が検出されると、ドライバーに対し警報を行い、衝突の可能性が更に高くなると、自動ブレーキ制御によって自車両が障害物に衝突することを回避する衝突回避支援制御を実行する。
【0003】
衝突回避支援装置が搭載された車両においても、ドライバーが障害物との衝突を回避するための操舵操作を行うことがあり、その場合にはドライバーの運転が優先されるよう、自動ブレーキ制御が制限される必要がある。例えば、下記の特許文献1には、操舵角又は操舵角速度がそれぞれ対応する閾値以上であるときには、ステアオーバライドとして、自動ブレーキが禁止される衝突回避支援制御が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-079904号公報
【発明の概要】
【0005】
〔発明が解決しようとする課題〕
自動車などの車両がトレーラを牽引することがあり、車両がトレーラを牽引する状況においても、自車両の前方に衝突の可能性がある障害物が存在する場合には、自車両が障害物に衝突することを回避し得るよう、衝突回避支援制御を実行することが考えられる。
【0006】
しかし、車両がトレーラを牽引する状況において、衝突回避支援制御による自動ブレーキ制御によって車両が急激に減速されると、車両がトレーラによって後方から押され、車両及びトレーラの長手方向の中心線の交差角が過大になるジャックナイフ現象が生じることがある。
【0007】
ジャックナイフ現象は、操舵角及び操舵角速度がそれぞれ対応するステアオーバライドの閾値よりも小さい段階においても生じる。よって、車両がトレーラを牽引する状況において衝突回避支援制御が行なわれる場合には、操舵角又は操舵角速度がそれぞれ対応するステアオーバライドの閾値以上であるときに自動ブレーキを禁止しても、ジャックナイフ現象を防止することができない。
【0008】
本発明の主要な課題は、車両がトレーラを牽引する状況において、衝突回避支援制御による自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じないよう改良された衝突回避支援装置及び衝突回避支援プログラムを提供することである。
【0009】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、車両(12)の前方の障害物を検出する障害物検出装置(60)と、障害物検出装置により障害物が検出されており且つ車両が障害物に衝突する虞があると判定したときには(S10~S70)、車両に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御を行う(S100)よう構成された制御装置(20)と、を含む、車両用衝突回避支援装置(10)が提供される。
【0010】
制御装置は、車両(12)がトレーラ(102)を牽引しておらず且つ車両の旋回の度合を示す旋回指標値(θ、Yr、Gyh)が第一の基準値(θc、Yrc、Gyhc)以上であると判定したときに(S260、S260B、S260C)、自動ブレーキ制御を禁止し(S300)、車両がトレーラを牽引しており且つ旋回指標値が第一の基準値よりも小さい第二の基準値(θtc、Yrtc、Gyhtc)以上であると判定したときに(S310、S310B、S310C)、自動ブレーキ制御を禁止する(S350)よう構成される。
【0011】
また、本発明によれば、障害物検出装置(60)により車両(12)の前方の障害物を検出するステップ(S10)と、障害物検出装置により障害物が検出されており且つ車両が障害物に衝突する虞があると判定されたときには(S10~S70)、車両に自動的に制動力を付与する自動ブレーキ制御を行うステップ(S100)と、を車両に搭載された制御装置(20)に実行させる車両用衝突回避支援プログラムが提供される。
【0012】
車両用衝突回避支援プログラムは、更に、車両(12)がトレーラ(102)を牽引しているか否かを判定するステップ(S250)と、車両がトレーラを牽引しておらず且つ車両の旋回の度合を示す旋回指標値(θ、Yr、Gyh)が第一の基準値(θc、Yrc、Gyhc)以上であると判定したときに(S260、S260B、S260C)、自動ブレーキ制御を禁止するステップ(S300)と、車両がトレーラを牽引しており且つ旋回指標値が第一の基準値よりも小さい第二の基準値(θtc、Yrtc、Gyhtc)以上であると判定したときに(S310、S310B、S310C)、自動ブレーキ制御を禁止するステップ(S350)と、を含む。
【0013】
車両がトレーラを牽引している場合には、旋回指標値が大きいほど、ヒッチ角、即ち上方から見た車両及びトレーラの長手方向の中心線の交差角が大きくなり、ヒッチ角が大きいほど、衝突回避支援制御による自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じ易くなる。よって、ジャックナイフ現象の発生を効果的に防止するためには、ヒッチ角が小さい段階で、換言すれば旋回指標値が小さい段階で自動ブレーキ制御が禁止されることが好ましい。
【0014】
上記の衝突回避支援装置及び衝突回避支援プログラムによれば、車両がトレーラを牽引していない場合には、車両の旋回の度合を示す旋回指標値が第一の基準値以上であると判定されたときに、自動ブレーキ制御が禁止される。これに対し、車両がトレーラを牽引している場合には、旋回指標値が第二の基準値以上であると判定されたときに、自動ブレーキ制御が禁止され、第二の基準値は第一の基準値よりも小さい。よって、車両がトレーラを牽引している場合にも、旋回指標値が第一の基準値以上であると判定されたときに、自動ブレーキ制御が禁止される場合に比して、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じることを効果的に防止することができる。
【0015】
〔発明の態様〕
本発明の一つの態様においては、制御装置(20)は、旋回指標値が第二の基準値よりも小さい第三の基準値(θte、Yrte、Gyhte)よりも大きい値から第三の基準値以下になったと判定した時点から所定の時間(Ttnc)が経過するまで、自動ブレーキ制御の禁止を継続し(S380)、上記時点から所定の時間が経過した後に、自動ブレーキ制御の禁止を解除する(S390)よう構成される。
【0016】
車両がトレーラを牽引して旋回する場合には、車両が旋回を終了しても、暫くの間はトレーラが旋回状態になり、ヒッチ角が0にならない。旋回指標値が小さくなっても暫くの間は自動ブレーキ制御の禁止が継続されることが好ましい。
【0017】
上記態様によれば、旋回指標値が第二の基準値よりも小さい第三の基準値よりも大きい値から第三の基準値以下になったと判定された時点から所定の時間が経過するまで、自動ブレーキ制御の禁止が継続され、上記時点から所定の時間が経過した後に、自動ブレーキ制御の禁止が解除される。よって、車両が旋回を終了しているがトレーラが旋回状態にある状況において、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じることを防止することができる。
【0018】
本発明の他の一つの態様においては、制御装置(20)は、車速(V)が高いほど所定の時間(Ttnc)が短くなるよう、車速に応じて所定の時間を可変設定するよう構成される。
【0019】
車両が旋回を終了してもトレーラが旋回状態を継続する時間は、車速が高いほど短い。よって、上記所定の時間は車速が高いほど短くなるよう、車速に応じて可変設定されることが好ましい。
【0020】
上記態様によれば、所定の時間は、車速が高いほど短くなるよう、車速に応じて可変設定される。よって、車速が低い場合に、トレーラが旋回状態にあるにも拘らず自動ブレーキ制御が再開されることを防止しつつ、車速が高い場合に、自動ブレーキ制御の禁止が不必要に長く継続されることを防止することができる。
【0021】
更に、本発明の他の一つの態様においては、旋回指標値は操舵角(θ)である。
【0022】
上記態様によれば、旋回指標値は操舵角であるので、ドライバーの操舵操作量として検出される操舵角に基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0023】
更に、本発明の他の一つの態様においては、旋回指標値は車両のヨーレート(Yr)である。
【0024】
上記態様によれば、車両の旋回状態量の一つとして検出される車両のヨーレートに基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0025】
更に、本発明の他の一つの態様においては、旋回指標値は車両のヨーレート(Yr)と車速(V)との積(Yr・V)である。
【0026】
上記態様によれば、車両の旋回状態量の一つとして検出される車両のヨーレートと車速との積、即ち車両の推定横加速度(Gyh)に基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0027】
更に、本発明の他の一つの態様においては、旋回指標値は操舵角であり、制御装置は、操舵角の絶対値が第二の基準値よりも小さい第三の基準値以下であり且つ操舵角の時間微分値の絶対値が時間微分値の基準値以下である条件が成立したと判定した時点から所定の時間が経過するまで、自動ブレーキ制御の禁止を継続し、時点から所定の時間が経過した後に、自動ブレーキ制御の禁止を解除するよう構成される。
【0028】
上記態様によれば、上記条件が成立したと判定された時点から所定の時間が経過するまで、自動ブレーキ制御の禁止が継続され、時点から所定の時間が経過した後に、自動ブレーキ制御の禁止が解除される。
【0029】
操舵角の時間微分値の絶対値は、一般に、操舵角の絶対値が第三の基準値以下になった後に時間微分値の基準値以下になる。よって、上記態様によれば、操舵角の時間微分値が考慮されない場合に比して、自動ブレーキの禁止を長く継続し、トレーラが直進状態になる前に自動ブレーキの禁止が解除される虞を低減することができる
【0030】
また、上記態様によれば、車両の旋回が終了する場合だけでなく、車両が車線変更し、車線変更の途中において操舵角の絶対値が第三の基準値以下になる場合にも自動ブレーキの禁止を継続することができる。よって、車両が車線変更する場合に、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じる虞を低減することができる。
【0031】
なお、本願において、「車両の旋回の度合」は、車両の旋回半径が小さいほど高く、車速が高いほど高いと判定される度合である。車両の旋回半径は、操舵角の大きさが大きいほど小さく、車両のヨーレートの大きさが大きいほど小さい。
【0032】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いられる名称及び/又は符号が括弧書きで添えられている。しかし、本発明の各構成要素は、括弧書きで添えられた名称及び/又は符号に対応する実施形態の構成要素に限定されるものではない。本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明による車両用衝突回避支援装置の実施形態を示す概略構成図である。
図2】車両がトレーラを牽引して直進している状況を示す図である。
図3】車両がトレーラを牽引して旋回している状況を示す図である。
図4】車両がトレーラを牽引して旋回を終了する状況を示す図である。
図5】実施形態におけるPCS制御ルーチンを示すフローチャートである。
図6】実施形態におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
図7】第一の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
図8】第二の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
図9】第三の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
図10】車速Vに基づいて基準値Ttncを演算するためのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付の図を参照して、本発明の実施形態に係る車両の衝突回避支援装置及び衝突回避支援プログラムについて詳細に説明する。
【0035】
[構成]
本発明の実施形態に係る衝突回避支援装置10は、車両12(他の車両と区別するために、必要に応じて「自車両」と呼ぶ)に適用されている。図1に示されているように、衝突回避支援装置10は、衝突回避支援ECU20及びブレーキECU30を備えており、車両12は、エンジンECU40及びメータECU50を備えている。
【0036】
これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、図示されていないCAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送受信可能に接続されている。図1には示されていないが、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリおよびインターフェースI/Fなどを含んでいる。各CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実施することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
【0037】
衝突回避支援ECU20は、自車両の前方に障害物が検出された場合に、ドライバーに対し警報を行い、衝突の可能性が更に高くなった場合に、自動ブレーキ制御によって自車両が障害物に衝突することを回避する衝突回避支援制御を実行する。衝突回避支援制御は、一般に、PCS制御(プリクラッシュセーフティ制御)と呼ばれているので、衝突回避支援制御をPCS制御と呼ぶ。
【0038】
衝突回避支援ECU20には、障害物検出装置60、走行状態センサ70、操作状態センサ80、警報装置90及び牽引センサ92が接続されている。実施形態においては、障害物検出装置60などは衝突回避支援ECU20に接続されているが、これらの少なくとも一つがCANに接続されていてもよい。警報装置90は、警報ランプのような視覚警報を発する警報装置、警報ブザーのような聴覚警報を発する警報装置、シートの振動のような体感警報を発する警報装置の何れであってもよく、それらの任意の組合せであってもよい。
【0039】
本実施形態においては、障害物検出装置60は、カメラセンサ62及びレーダセンサ64を含んでいる。カメラセンサ62は、車室内のフロントウインドの上部に配設され、車両12の前方の風景を撮影する。カメラセンサ62は、撮影した画像に基づいて、道路の白線及び車両12の前方に存在する立体物を認識し、それらの情報(白線情報、立体物情報)を所定の周期で衝突回避支援ECU20に供給する。白線情報は、白線の形状及び車両12と白線との相対的な位置関係などを表す情報である。立体物情報は、車両12の前方に検出された立体物の種類、立体物の大きさ及び車両に対する立体物の相対的な位置関係などを表す情報である。なお、立体物の種類の認識については、例えば、パターンマッチングなどの機械学習によって実現される。
【0040】
レーダセンサ64は、車体のフロント中央部に設けられ、車両12の前方領域に存在する立体物を検出する。レーダセンサ64は、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する)を放射し、放射範囲内に存在する立体物(例えば、他車両、歩行者、自転車、建造物など)によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。レーダセンサ64は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間などに基づいて、車両12と立体物との間の距離、立体物に対する車両の相対速度、車両に対する立体物の相対位置(方向)等を演算し、それらの演算結果を表す情報(立体物情報)を所定の周期で衝突回避支援ECU20に供給する。
【0041】
衝突回避支援ECU20は、カメラセンサ62から供給される立体物情報とレーダセンサ64から供給される立体物情報とを合成して、精度の高い立体物情報を取得する。よって、カメラセンサ62及びレーダセンサ64は、車両12の前方の障害物を検出する障害物検出装置60として機能する。
【0042】
走行状態センサ70は、例えば、車両12の各車輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ、車両の横方加速度を検出する横加速度センサ及び車両のヨーレートYrを検出するヨーレートセンサなどである。なお、ヨーレートYrは、車両12の左旋回時に正の値になる。
【0043】
操作状態センサ80は、ドライバーが行う操作を検出するセンサ及びスイッチである。操作状態センサ80は、図1には示されていないが、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセル操作量センサ、ブレーキペダルに対する踏力又はマスタシリンダ圧力を検出するブレーキ操作量センサを含んでいる。更に、操作状態センサ80は、操舵操作量に対応する操舵角θを検出する操舵角センサ、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、ウインカーの作動状態を検出するウインカースイッチ及び変速機のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサなどを含んでいる。なお、操舵角θは、車両12の左旋回時に正の値になる。
【0044】
図2乃至図4に示されているように、車両12の後端ブラケット12Bには、ジョイント100によってトレーラ102の前端ブラケット102Bが連結され得るようになっている。よって、車両12は必要に応じてトレーラ102を牽引するトラクタとして機能する。なお、図2乃至図4においては、ヒッチ角φ、即ち上方から見た車両12及びトレーラ102の長手方向中心線12A及び102Aの交差角が図示されている。ヒッチ角φは、車両12の左旋回時に正の値になる。
【0045】
図2に示されているように、車両12及びトレーラ102が直進状態にあるときには、車両12の長手方向中心線12A及びトレーラ102の長手方向中心線102Aは互いに整合し、ジョイント100の中心は、これらの長手方向中心線上に位置する。また、図3に示されているように、車両12及びトレーラ102が旋回状態にあるときには、車両12の長手方向中心線12A及びトレーラ102の長手方向中心線102Aは互いに交差し、ジョイント100の中心は、これらの長手方向中心線の交点上に位置する。
【0046】
トレーラ102には、ブレーキECU104が搭載されており、ブレーキECU104は、図1に示されているように、コネクタ106及びCAN(図示せず)を介して衝突回避支援ECU20と電気的に接続されるようになっている。牽引センサ92は、衝突回避支援ECU20及びブレーキECU104がコネクタ106により電気的に接続されるとオンになるスイッチであってよい。
【0047】
走行状態センサ70、操作状態センサ80及び牽引センサ92によって検出された情報(センサ情報と呼ぶ)は、図示されていないCANを介して所定の周期で衝突回避支援ECU20に供給される。
【0048】
ブレーキECU30には、ブレーキアクチュエータ32が接続されている。ブレーキアクチュエータ32は、ブレーキペダ(図示せず)ルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダ(図示せず)と、左右前輪14FL、14FR及び左右後輪14RL、14RRに設けられた摩擦ブレーキ機構34との間の油圧回路に設けられている。摩擦ブレーキ機構34は、対応する車輪と共に回転するブレーキディスク34aと、車体(図示せず)により支持されたブレーキキャリパ34bとを備えている。ブレーキアクチュエータ32は、ブレーキECU30からの指示に応じてブレーキキャリパ34bに内蔵されたホイールシリンダに供給される油圧を調整し、その油圧によってブレーキパッド(図示せず)をブレーキディスク34aに押し付けることにより摩擦制動力を発生させる。
【0049】
ブレーキECU30は、ブレーキ操作量センサによって検出された踏力又はマスタシリンダ圧力に基づいてドライバー要求減速度を演算し、車両12がドライバー要求減速度にて減速するようにブレーキアクチュエータ32の作動を制御する。また、ブレーキECU30は、衝突回避支援ECU20からPCSブレーキ指令を受信したときには、PCSブレーキ指令に含まれる情報であるPCS要求減速度にて車両12が減速するようにブレーキアクチュエータ32の作動を制御する。
【0050】
なお、ブレーキECU30は、PCSブレーキ指令を受信している状況においてドライバーによりブレーキペダルが操作された場合には、ドライバー要求減速度及びPCS要求減速度のうち、より絶対値が大きい方の要求減速度を最終的な要求減速度として採用する。ブレーキECU30は、車両12が最終的な要求減速度にて減速するようにブレーキアクチュエータ32の作動を制御する。即ち、ブレーキECU30は、ブレーキオーバーライド制御を実行する。
【0051】
ブレーキECU30は、当技術分野において公知の要領にてアンチスキッド制御(以下「ABS制御」という)を行う。即ち、ブレーキECU30は、走行状態センサ70の車輪速度センサにより検出される左右前輪14FL、14FR及び左右後輪14RL、14RRの車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl及びrr)に基づいて、各車輪の制動スリップ率を演算する。更に、ブレーキECU30は、何れかの車輪の制動スリップ率が制御開始基準値を越えると、予め設定された制御終了条件が成立するまで、当該車輪の制動スリップ率が所定の範囲内の値になるよう制動力を制御する。
【0052】
ブレーキECU104には、ブレーキアクチュエータ108が接続されている。ブレーキアクチュエータ108は、高圧の作動油を供給する油圧源(図示せず)と、左輪110L及び右輪110Rに設けられた摩擦ブレーキ機構112との間の油圧回路に設けられている。摩擦ブレーキ機構112は、摩擦ブレーキ機構34と同様に構成され、ドライバー要求減速度又はPCS要求減速度に対応する摩擦制動力が発生するよう、ブレーキECU104により制御される。
【0053】
エンジンECU40には、エンジンアクチュエータ42が接続されている。エンジンアクチュエータ42は、エンジン44(内燃機関)の運転状態を変更するためのアクチュエータであり、例えばスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含んでいる。エンジンECU40は、アクセル操作量センサによって検出されたアクセルペダルの踏込み量に基づいてドライバー要求駆動力を演算し、車両12の駆動力(実駆動力)がドライバー要求駆動力に近づくようにエンジンアクチュエータ42の作動を制御する。
【0054】
エンジンECU40は、衝突回避支援ECU20から駆動力制限指令を受信したときには、エンジン44が発生する出力トルク(車両12の駆動力)を抑制するようにエンジンアクチュエータ42の作動を制御する。なお、車両が電気自動車の場合には、エンジンアクチュエータ42は電動モータの駆動装置であり、車両がハイブリッド車両である場合には、エンジンアクチュエータ42は上記エンジンアクチュエータ及び電動モータの駆動装置である。
【0055】
メータECU50には、表示器52及びブレーキランプ54が接続されている。メータECU50は、衝突回避支援ECU20からの表示指令に従って、衝突回避支援に係る情報を表示器52に表示する。表示器52は、例えばヘッドアップディスプレイ或いはメータ類及び各種の情報が表示されるマルチインフォーメーションディスプレイである。
<PCS制御>
【0056】
次に、PCS制御について説明する。衝突回避支援ECU20は、障害物検出装置60から供給される前方の立体物に関する情報と、走行状態センサ70によって検出される車両状態とに基づいて、自車両12が前方の立体物に衝突する可能性を判定する。例えば、衝突回避支援ECU20は、立体物が現状の移動状態(立体物が静止物の場合は停止状態)を維持し、かつ、自車両が現状の走行状態を維持した場合に、自車両が立体物に衝突する可能性があるか否かを判定する。衝突回避支援ECU20は、自車両が立体物に衝突する可能性があると判定した場合には、その立体物を障害物であると認定する。
【0057】
衝突回避支援ECU20は、障害物を検出した場合には、自車両12が障害物に衝突するまでの予測時間である衝突予測時間TTCを演算する。衝突予測時間TTCは、障害物と自車両との間の距離Drと、障害物に対する自車両の相対速度Vrとに基づいて、次式(1)によって演算される。衝突予測時間TTCは、自車両が障害物に衝突する可能性の高さを表す指標であり、その値が小さいほど、自車両が障害物に衝突する可能性(危険性)が高くなる。
TTC=Dr/Vr ・・・(1)
【0058】
本実施形態のPCS制御においては、衝突予測時間TTCに基づいて、自車両12が障害物に衝突する可能性のレベルが2段階に分けられる。衝突回避支援ECU20は、衝突予測時間TTCが警報用閾値TTCw(正の定数)以下にまで低下したときに、自車両が障害物に衝突する可能性のレベルが第1段階に到達したと判定して、表示器52及び警報装置90を使ってドライバーへの警報を行う。
【0059】
衝突回避支援ECU20は、衝突予測時間TTCが更に低下して作動用閾値TTCa(TTCwよりも小さい正の定数)以下になると、自車両12が障害物に衝突する可能性のレベルが第2段階に到達したと判定して、自動ブレーキ制御を開始する。この場合、衝突回避支援ECU20は、ブレーキECU30に対してPCSブレーキ指令を送信する。このPCSブレーキ指令は、PCS要求減速度Gpcsを表す情報を含んでいる。
【0060】
PCS要求減速度Gpcsは、以下のように演算される。例えば、障害物が停止している場合を例に挙げれば、現時点における、自車両の速度(=相対速度)をVとし、自車両の減速度をGb(<0)とし、車両停止までの時間をtとすれば、自車両が停止するまでの走行距離Xは、次式(2)にて表すことができる。
X=V・t-(1/2)・Gb・t ・・・(2)
【0061】
また、車両が停止するまでの時間tは、次式(3)にて表すことができる。
t=-V/Gb ・・・(3)
【0062】
従って、式(2)の時間tに式(3)により計算される時間tを代入することにより、自車両が停止するまでの走行距離Xは、次式(4)にて表すことができる。
X=-V/(2Gb) ・・・(4)
【0063】
障害物に対して距離βだけ手前で車両を停止させるためには、この走行距離Xを、障害物検出装置60によって検出されている距離Dsから距離β(>0)だけ引いた距離(Ds-β)に設定して、減速度Gbを計算すればよい。なお、障害物が走行している場合には、走行距離Xを障害物との相対速度、相対減速度を用いて計算すればよい。
【0064】
PCS要求減速度Gpcsは、このように計算される減速度Gbの符号反転値に設定される。なお、PCS要求減速度Gpcsには、上限値Gmax(>0)が設定されており、演算されたPCS要求減速度Gpcsの大きさ(絶対値)が上限値Gmaxを越える場合には、PCS要求減速度Gpcsの大きさは、上限値Gmaxに設定される。
【0065】
ブレーキECU30は、PCSブレーキ指令を受信すると、車両12の減速度がPCS要求減速度Gpcsになるようにブレーキアクチュエータ32を制御する。これにより、ドライバーによるブレーキペダル操作を要することなく、左右前後輪に摩擦制動力が発生して、強制的に自車両を減速させることができる。このように、PCSブレーキ指令によって左右前後輪に摩擦制動力を発生させて自車両を減速させる制御が自動ブレーキ制御である。
【0066】
衝突回避支援ECU20は、自動ブレーキ制御によって衝突予測時間TTCが終了閾値TTCb(TTCwよりも大きい正の定数)よりも大きくなったか否かを判定する。この終了閾値TTCbは、TTCwよりも大きいので、作動用閾値TTCaよりも大きい値である。従って、衝突回避支援ECU20は、自車両12と障害物との衝突の可能性が低くなったか否か(衝突を回避できたか否か)を監視する。衝突回避支援ECU20は、自車両と障害物との衝突の可能性が低くなったと判定すると、PCSブレーキ指令の送信を終了する。これにより、自動ブレーキ制御が終了し、PCS制御が終了する。また、衝突回避支援ECU20は、自動ブレーキ制御によって自車両が停止した場合、PCSブレーキ指令の送信を終了する。これにより、自動ブレーキ制御が終了する。
【0067】
衝突回避支援ECU20は、自動ブレーキ制御が終了した後、停止保持指令をブレーキECU30に送信する。ブレーキECU30は、停止保持指令を受信している間、ブレーキアクチュエータ32を制御して、停止保持用に設定された油圧を、左右前後輪の摩擦ブレーキ機構34のホイールシリンダに供給する。これにより、自車両が前進も後進もしないように自車両の停止状態が保持される(停止保持制御)。衝突回避支援ECU20は、停止保持制御の解除条件が成立した場合に、停止保持指令の送信を停止する。これにより、ホイールシリンダへの上記油圧の供給が終了して、自車両の停止保持状態が解除される。
【0068】
停止保持制御の解除条件は、例えば、自車両の停止状態が保持されている継続時間が設定時間に到達すること(解除条件1)、又はブレーキペダルの踏込み操作が検出されること(解除条件2)の何れか一方が成立したときに成立する。
【0069】
衝突回避支援ECU20は、自動ブレーキ制御の実行中、及び自車両を停止状態に保持している間は、エンジンECU40に対して、エンジン出力トルクを制限する(例えば、エンジン出力トルクをゼロにする)ための駆動力制限指令を送信する。従って、自動ブレーキ制御の実行中にドライバーがアクセルペダル操作を行っても、ドライバー要求駆動力は無視されるので、自車両は、アクセルペダル操作に応じた加速運動をしない。以下、自車両を停止状態に保持する制御を停止保持制御と呼ぶ。
【0070】
<PCS制御ルーチン>
次に、図5に示されたフローチャートを参照して実施形態におけるPCS制御ルーチンについて説明する。図5に示されたフローチャートによる制御は、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンであるときに、所定の時間毎に繰返し衝突回避支援ECU20のCPUによって実行される。
【0071】
まず、ステップS10においては、CPUは、障害物検出装置60が車両12の前方に障害物を検出しているか否かを判別する。CPUは、否定判別をしたときには、PCS制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS20において、前述の要領にて衝突予測時間TTCを演算する。
【0072】
ステップS30においては、CPUは、フラグFpcsが1であるか否かの判別、即ちPCS制御による自動ブレーキの実行中であるか否かの判別をする。CPUは、肯定判別をしたときには、PCS制御をステップS110へ進め、否定判別をしたときには、PCS制御をステップS40へ進める。なお、フラグFpcsは、図2に示されたフローチャートによる制御の開始時にステップS10に先立って0に初期化される。
【0073】
ステップS40においては、CPUは、衝突予測時間TTCが警報用閾値TTCw以下であるか否かの判別、即ち警報を発生させる必要があるか否かの判別をする。CPUは、否定判別をしたときには、PCS制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS50において、警報装置90を作動させることにより車両が障害物に衝突する虞がある旨の警報を発生する。
【0074】
ステップS60においては、CPUは、フラグFnpが1であるか否かの判別、即ち車両12がトレーラを牽引していない状況においてPCS制御による自動ブレーキの実行が禁止されているか否かの判別をする。CPUは、肯定判別をしたときにはPCS制御を一旦終了し、否定判別をしたときには、PCS制御をステップS65へ進める。なお、このステップ又は後述のステップS65において肯定判別が行われたときには、後述のステップS100は実行されないので、PCS制御による自動ブレーキ制御が既に実行されている場合には、自動ブレーキ制御が終了する。
【0075】
ステップS65においては、CPUは、フラグFtnpが1であるか否かの判別、即ち車両12がトレーラを牽引している状況においてPCS制御による自動ブレーキの実行が禁止されているか否かの判別をする。CPUは、肯定判別をしたときにはPCS制御を一旦終了し、否定判別をしたときには、PCS制御をステップS70へ進める。
【0076】
ステップS70においては、CPUは、衝突予測時間TTCが作動用閾値TTCa以下であるか否かの判別、即ち自動ブレーキの必要があるか否かの判別をする。CPUは、否定判別をしたときには、PCS制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS80において、フラグFpcsを1にセットする。
【0077】
ステップS90においては、CPUは、前述の要領にてPCS要求減速度Gpcsを演算し、ステップS100においては、CPUは、車両12の減速度をPCS要求減速度GpcsにするPCSブレーキ指令をブレーキECU30へ出力する。よって、車両12の減速度がPCS要求減速度GpcsになるようにブレーキECU30によってブレーキアクチュエータ32が制御される。また、CPUは、自動ブレーキが実行されていることを表示器52に表示する。
【0078】
ステップS110においては、CPUは、衝突予測時間TTCが終了閾値TTCbよりも大きいか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには、PCS制御をステップS90へ進め、肯定判別をしたときには、PCS制御をステップS120へ進める。
【0079】
ステップS120においては、CPUは、自動ブレーキを解除すると共に、自動ブレーキが解除されたことを表示器52に表示し、ステップS130においては、CPUは、前述の要領にて停止保持制御を実行する。なお、自動ブレーキが既に解除されているときには、ステップS120はスキップされる。
【0080】
ステップS140においては、CPUは、前述の停止保持制御の解除条件1又は2が成立したか否かの判別をする。CPUは、否定判別をしたときにはPCS制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS150において、フラグFpcsを0にリセットし、ステップS160において、警報及び停止保持制御を解除すると共に、停止保持制御が解除されたことを表示器52に表示する。
【0081】
<自動ブレーキの非実行制御ルーチン>
次に、図6に示されたフローチャートを参照して実施形態におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンについて説明する。図6に示されたフローチャートによる制御は、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンであるときに、所定の時間毎に繰返し衝突回避支援ECU20のCPUによって実行される。下記の説明においては、図6に示されたフローチャートによる自動ブレーキの非実行制御を単に「非実行制御」と指称する。なお、フラグFnp、Ftnp及びタイマのカウント値Tp、Ttp、Ttnは、図6に示されたフローチャートによる制御の開始時に0に初期化される。
【0082】
まず、ステップS210においては、CPUは、フラグFnpが1であるか否か、即ち車両12がトレーラ102を牽引していない状況にてPCS制御による自動ブレーキ制御が既に禁止されているか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには、非実行制御をステップS240へ進め、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS220へ進める。
【0083】
ステップS220においては、CPUは、操舵角センサにより検出された操舵角θの絶対値が基準値θe(正の定数)以下であるか否かを判定する。なお、この実施形態においては、操舵角θは車両12の旋回指標値であり、操舵角θの絶対値が大きいほど車両の旋回度合が高くなる。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS230において、フラグFnpを0にリセットすると共に、タイマのカウント値Tpを0にリセットする。
【0084】
ステップS240においては、CPUは、フラグFtnpが1であるか否か、即ち車両12がトレーラ102を牽引している状況にてPCS制御による自動ブレーキ制御が既に禁止されているか否かを判定する。CPUは、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS360へ進め、否定判別をしたときには、非実行制御をステップS250へ進める。
【0085】
ステップS250においては、CPUは、牽引センサ92の検出結果に基づいて車両12がトレーラを牽引しているか否かを判定する。CPUは、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS310へ進め、否定判別をしたときには、非実行制御をステップS260へ進める。
【0086】
ステップS260においては、CPUは、操舵角θの絶対値が第一の基準値である基準値θc(θeよりも大きい正の定数)以上であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには、ステップS270においてタイマのカウント値Tpを0にリセットした後、非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS280へ進める。
【0087】
ステップS280においては、CPUは、Tpfをタイマのカウント値Tpの前回値とし、ΔTを図3に示されたフローチャートのサイクルタイムとして、タイマのカウント値TpをTpf+ΔTに更新する。
【0088】
ステップS290においては、CPUは、タイマのカウント値Tpが基準値Tpc(0.5秒程度の正の定数)以上であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS300において、フラグFnpを1にセットする。
【0089】
ステップS310においては、CPUは、操舵角θの絶対値が第二の基準値である基準値θtc(θcよりも小さい正の定数)以上であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには、ステップS320においてタイマのカウント値Ttpを0にリセットした後、非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS330へ進める。
【0090】
ステップS330においては、CPUは、Ttpfをタイマのカウント値Ttpの前回値として、タイマのカウント値TtpをTtpf+ΔTに更新する。
【0091】
ステップS340においては、CPUは、タイマのカウント値Ttpが基準値Ttpc(0.5秒程度の正の定数)以上であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS350において、フラグFtnpを1にセットする。
【0092】
ステップS360においては、CPUは、操舵角θの絶対値が第三の基準値である基準値θte(θe及びθtcよりも小さい正の定数)以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS370へ進める。
【0093】
ステップS370においては、CPUは、Ttnfをタイマのカウント値Ttnの前回値として、タイマのカウント値TtnをTtnf+ΔTに更新する。
【0094】
ステップS380においては、CPUは、タイマのカウント値Ttnが基準値Ttnc(3秒程度の正の定数)以上であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、ステップS390において、フラグFtnpを0にリセットすると共に、タイマのカウント値Ttm及びTtnを0にリセットする。
【0095】
[第一の変形例]
図7は、第一の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。なお、図7において、図6に示されたステップと同一のステップには、図6において付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。このことは後述の図8及び図9についても同様である。
【0096】
第一の変形例においては、実施形態におけるステップS360に代えてステップS365が実行される。この変形例の他の点は、実施形態と同一である。
【0097】
ステップS365においては、CPUは、操舵角θの絶対値が基準値θte以下であり且つ操舵角θの時間微分値(操舵角速度)θdの絶対値が基準値θdte(正の定数)以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判別をしたときには非実行制御を一旦終了し、肯定判別をしたときには、非実行制御をステップS370へ進める。
【0098】
よって、第一の変形例においては、操舵角θの絶対値が基準値θte以下であり且つ操舵角θの時間微分値θdの絶対値が基準値θdte以下である条件が成立した時点から所定の時間Ttncが経過したときに、フラグFtnpが0にリセットされ、自動ブレーキの禁止が解除される。
【0099】
[第二の変形例]
図8は、第二の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0100】
第二の変形例においては、車両12の旋回指標値は車両のヨーレートYrである。よって、ステップS220Bにおいては、CPUは、ヨーレートセンサにより検出された車両のヨーレートYrの絶対値が基準値Yre(正の定数)以下であるか否かを判定する。ステップS260Bにおいては、CPUは、車両のヨーレートYrの絶対値が第一の基準値である基準値Yrc(Yreよりも大きい正の定数)以上であるか否かを判定する。
【0101】
ステップS310Bにおいては、CPUは、車両のヨーレートYrの絶対値が第二の基準値である基準値Yrtc(Yrcよりも小さい正の定数)以上であるか否かを判定する。ステップS360Bにおいては、CPUは、車両のヨーレートYrの絶対値が第三の基準値である基準値Yrte(Yre及びYrtcよりも小さい正の定数)以下であるか否かを判定する。
【0102】
[第三の変形例]
図9は、第三の変形例におけるPCS制御による自動ブレーキの非実行制御ルーチンを示すフローチャートである。
【0103】
第三の変形例においては、車両12の旋回指標値は車両のヨーレートYrと車速Vとの積Yr・V、即ち車両の推定横加速度Gyhである。よって、ステップS220Cにおいては、CPUは、車両の推定横加速度Gyhの絶対値が基準値Gyhe(正の定数)以下であるか否かを判定する。ステップS260Cにおいては、CPUは、車両の推定横加速度Gyhの絶対値が第一の基準値である基準値Gyhc(Gyheよりも大きい正の定数)以上であるか否かを判定する。
【0104】
ステップS310Cにおいては、CPUは、車両の推定横加速度Gyhの絶対値が第二の基準値である基準値Gyhtc(Gyhcよりも小さい正の定数)以上であるか否かを判定する。ステップS360Cにおいては、CPUは、車両の推定横加速度Gyhの絶対値が第三の基準値である基準値Gyhte(Gyhe及びGyhtcよりも小さい正の定数)以下であるか否かを判定する。
【0105】
以上の説明から解るように、実施形態及び第一乃至第三の変形例によれば、障害物検出装置60により車両12の前方に障害物が検出されたときには(ステップS10)、必要に応じてPCS制御による警報が実行される。即ち、衝突予測時間TTCが演算され(ステップS20)、衝突予測時間TTCが警報用閾値TTCw以下であるときには(ステップS40)、警報装置94が作動されることにより車両が障害物に衝突する虞がある旨の警報が発生される(ステップS50)。警報は車両12がトレーラを牽引している場合にも発生されるので、車両が障害物に衝突する虞がある旨の注意を喚起することができ、ドライバーは必要に応じて衝突回避操舵を行うことができる。
【0106】
前述のように、フラグFnp及びFtnpが0であるときには(ステップS60及びS65)、必要に応じてPCS制御による自動ブレーキ制御(ステップS70乃至S100)が実行される。即ち、衝突予測時間TTCが作動用閾値TTCa以下であるときには(ステップS70)、車両12が障害物に衝突することを回避するための要求減速度Gpcsが演算され(ステップS90)、車両12の減速度がPCS要求減速度Gpcsになるように自動ブレーキ制御が実行される(ステップS100)。よって、車両12がトレーラを牽引している場合にも、自動ブレーキ制御により車両が障害物に衝突することを回避することができる。
【0107】
また、フラグFtnpが1であるときには(ステップS65)、PCS制御による自動ブレーキ制御(ステップS70乃至S100)は実行されない。よって、車両12がトレーラを牽引しており、ジャックナイフ現象が生じる虞があるときには、自動ブレーキ制御が実行さないので、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じることを防止することができる。
【0108】
また、実施形態及び第一乃至第三の変形例によれば、車両12がトレーラ102を牽引していない場合には、車両の旋回指標値が第一の基準値以上であると判定されたときに、自動ブレーキ制御が禁止される。また、車両がトレーラを牽引している場合には、車両の旋回指標値が第二の基準値以上であると判定されたときに、自動ブレーキ制御が禁止される。第二の基準値は第一の基準値よりも小さい。
【0109】
よって、車両がトレーラを牽引している場合には、車両がトレーラを牽引していない場合に比して、車両の旋回指標値が小さい段階から自動ブレーキ制御が禁止される。従って、車両の旋回時には、車両の旋回指標値が小さい段階から、自動ブレーキ制御による車両の減速に起因してジャックナイフ現象が生じることを回避することができる。
【0110】
また、実施形態及び第二及び第三の変形例によれば、旋回指標値が第二の基準値よりも小さい第三の基準値以上から第三の基準値未満になったと判定された時点から所定の時間Ttncが経過するまで、自動ブレーキ制御の禁止が継続され、上記時点から所定の時間が経過した後に、自動ブレーキ制御の禁止が解除される。よって、車両が旋回を終了しているがトレーラが旋回状態にある状況において、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じることを防止することができる。
【0111】
特に、第一の変形例によれば、操舵角θの絶対値が基準値θte以下であり且つ操舵角θの時間微分値(操舵角速度)θdの絶対値が基準値θdte以下である条件下成立した時点から所定の時間Ttncが経過したときに、自動ブレーキの禁止が解除される。操舵角θの時間微分値θdの絶対値は、一般に、操舵角θの絶対値が基準値θte以下になった後に基準値θdte以下になる。よって、第一の変形例によれば、実施形態の場合に比して、自動ブレーキの禁止を長く継続し、トレーラ102が直進状態になる前に自動ブレーキの禁止が解除される虞を低減することができる
また、第一の変形例によれば、車両12の旋回が終了する場合だけでなく、車両12が車線変更し、車線変更の途中において操舵角θの絶対値が基準値θte以下になる場合にも自動ブレーキの禁止を継続することができる。よって、車両12が車線変更する場合に、自動ブレーキ制御に起因してジャックナイフ現象が生じる虞を低減することができる。
【0112】
また、実施形態及び第一の変形例によれば、旋回指標値は操舵角θであるので、ドライバーの操舵操作量として検出される操舵角に基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0113】
また、第二の変形例によれば、車両の旋回状態量の一つとして検出される車両のヨーレートYrに基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0114】
更に、第三の変形例によれば、車両の旋回状態量の一つとして検出される車両のヨーレートYrと車速Vとの積Yr・V、即ち車両の推定横加速度Gyhに基づいて自動ブレーキ制御の禁止を制御することができる。
【0115】
以上においては、本発明を特定の実施形態及び第一乃至第三の変形例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態及び第一乃至第三の変形例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0116】
例えば、上述の実施形態及び第一乃至第三の変形例においては、ステップS380の判定に使用される基準値Ttncは正の定数である。しかし、車両が旋回を終了してもトレーラが旋回状態を継続する時間は、車速Vが高いほど短い。よって、旋回指標値が第二の基準値よりも小さい第三の基準値以上から第三の基準値未満になったと判定された時点から自動ブレーキ制御の禁止が継続される所定の時間は、車速が高いほど短くなるよう、車速に応じて可変設定されることが好ましい。従って、基準値Ttncは、図10に示されているように、車速Vが高いほど短くなるよう、車速に応じて可変設定されることが好ましい。
【0117】
この態様によれば、所定の時間Ttncは、車速Vが高いほど短くなるよう、車速に応じて可変設定される。よって、車速が低い場合に、トレーラが旋回状態にあるに拘らず自動ブレーキ制御が再開されることを防止しつつ、車速が高い場合に、自動ブレーキ制御の禁止が不必要に長く継続されることを防止することができる。
【0118】
また、上述の実施形態及び第一乃至第三の変形例においては、車両12は牽引センサ92を有し、ステップS210において、牽引センサ92の検出結果に基づいて車両12がトレーラを牽引しているか否かが判定される。しかし、車両がトレーラを牽引しているか否かの判定は、バックカメラが撮影する車両後方の情報に基づいて判定されてもよく、車両の制動力と減速度との関係に基づいて車両の重量が推定され、推定された重量が車両単独の重量よりも大きいか否かにより判定されてもよい。更に、これらの判定が組み合わされてもよい。
【0119】
更に、上述の実施形態及び第一乃至第三の変形例においては、トレーラ102はブレーキECU104、ブレーキアクチュエータ108及び摩擦ブレーキ機構112を備えている。しかし、本発明の衝突回避支援装置及び衝突回避支援プログラムは、ブレーキECUなどを備えていないトレーラを牽引する車両に適用されてもよい。
【0120】
更に、上述の実施形態及び第一乃至第三の変形例においては、衝突回避支援制御において停止保持制御が行なわれるようになっている。しかし、ステップS110において肯定判定が行われたときには、ステップS130、S140及びS160が実行されることなく、ステップS120及びS150が実行されてもよい。
【符号の説明】
【0121】
10…衝突回避支援装置、12…車両、20…衝突回避支援ECU、30…ブレーキECU、40…エンジンECU、60…障害物検出装置、70…走行状態センサ、80…操作状態センサ、90…警報装置、92…牽引センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10