(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】圧力容器
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F17C1/06
(21)【出願番号】P 2021168705
(22)【出願日】2021-10-14
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 翔太
(72)【発明者】
【氏名】澤井 統
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-219389(JP,A)
【文献】特開2004-197812(JP,A)
【文献】特開2016-161110(JP,A)
【文献】米国特許第5819978(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/210128(US,A1)
【文献】国際公開第2020/264585(WO,A1)
【文献】特開2020-76490(JP,A)
【文献】特開2022-190560(JP,A)
【文献】特開2023-27963(JP,A)
【文献】特開2024-19920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00-1/16
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを収容する空間を形成するライナと、該ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂層とを備えた圧力容器であって、
前記圧力容器の軸方向の端部に設けられた円筒状のネック部の少なくとも一部において前記ライナに埋設された管状部材を備え、
前記管状部材は、前記ライナの前記外表面から突出して前記繊維強化樹脂層に埋め込まれた突出部を有することを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記突出部は、前記ネック部の先端側に位置する前記管状部材の前記軸方向の端部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記突出部は、前記管状部材の全周にわたって設けられ、前記ネック部の先端に近づくほど直径が拡大されていることを特徴とする請求項2に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記管状部材は、周方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔を有し、
前記ライナは、前記管状部材の前記複数の貫通孔に充填された複数の係止部を有することを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項5】
前記複数の貫通孔および前記複数の係止部は、前記管状部材の前記軸方向における両端部に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の圧力容器。
【請求項6】
前記圧力容器は、前記軸方向における中間部に設けられて前記ネック部よりも直径が拡大された円筒状の胴部と、該胴部と前記ネック部との間に設けられて前記軸方向の端部へ向けて直径が漸次縮小されたショルダ部とを有し、
前記管状部材は、前記ネック部において前記ライナに埋設された直管部と、前記ショルダ部において前記ライナに埋設されて前記直管部から前記軸方向に離れるほど直径が拡大された拡径部とを有することを特徴とする請求項5に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から水素タンクに関する発明が知られている。下記特許文献1に記載された水素タンクは、ライナ部と、繊維強化樹脂層と、樹脂層とを備えている(同文献、要約等)。ライナ部は、容器本体を構成し、内部に水素を貯槽可能である。繊維強化樹脂層は、ライナ部の外周側に配置され、強化繊維と熱硬化性樹脂によって構成されている。樹脂層は、繊維強化樹脂層の外周側に配置され、表面に繊維強化樹脂層まで達する複数の貫通孔が形成されるとともに、熱硬化性樹脂によって構成されている。
【0003】
また、下記特許文献2に記載された圧力容器は、ライナと、補強層と、口金と、を備えている(同文献、要約等)。ライナは、内部に気体が充填される。補強層は、繊維強化樹脂を用いてライナの外表面に接した状態で形成され、ライナを外側から覆う。口金は、ライナに取付けられている。口金は、補強層を構成する繊維強化樹脂の内部の繊維に沿ってのびる係止爪を有している。口金は、係止爪が補強層を構成する繊維強化樹脂を変形させた状態でライナに取付けられている。
【0004】
上記従来の水素タンクや圧力容器の繊維強化樹脂層(補強層)は、たとえば、レジン・トランスファー・モールデング(Resin Transfer Molding:RTM)法によって形成されている(特許文献1、第0014段落等)。より具体的には、繊維強化樹脂層は、RTM法により、次のような手順で成形される。まず、ライナの外側に繊維を巻回して繊維層を形成する。次に、外側に繊維層が形成されたライナを金型内に収容し、金型内に未硬化の硬化性樹脂を注入する。その後、ライナの外側の繊維層に含浸した未硬化の硬化性樹脂を硬化させ、ライナの外側に繊維強化樹脂層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-118288号公報
【文献】特開2020-112189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RTM法による繊維強化樹脂層の成形時には、金型内に注入される未硬化の硬化性樹脂の圧力によるライナおよび繊維層の変形を防止するために、ライナに内圧を付与する場合がある。この場合、金型内に注入される樹脂の圧力とライナの内圧との差圧により、円筒状のライナの直径が拡大して、繊維層を構成する繊維がライナの軸方向における端部から中央部へ引き込まれるおそれがある。このように、ライナの外側の繊維層を構成する繊維が、ライナの軸方向の端部から中央部へ引き込まれると、ライナの外側に張力を付与して巻回した繊維が弛緩して、水素タンクや圧力容器の耐圧性が低下するおそれがある。
【0007】
本開示は、RTM法による繊維強化樹脂層の成形時にライナに巻回された繊維が弛緩するのを防止して、耐圧性を向上させることが可能な圧力容器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る圧力容器は、ガスを収容する空間を形成するライナと、該ライナの外表面を覆う繊維強化樹脂層とを備えた圧力容器であって、前記圧力容器の軸方向の端部に設けられた円筒状のネック部の少なくとも一部において前記ライナに埋設された管状部材を備え、前記管状部材は、前記ライナの前記外表面から突出して前記繊維強化樹脂層に埋め込まれた突出部を有することを特徴とする。
【0009】
上記態様の圧力容器において、前記突出部は、前記ネック部の先端側に位置する前記管状部材の前記軸方向の端部に設けられていてもよい。
【0010】
上記態様の圧力容器において、前記突出部は、前記管状部材の全周にわたって設けられ、前記ネック部の先端に近づくほど直径が拡大されていてもよい。
【0011】
上記態様の圧力容器において、前記管状部材は、周方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔を有し、前記ライナは、前記管状部材の前記複数の貫通孔に充填された複数の係止部を有してもよい。
【0012】
上記態様の圧力容器において、前記複数の貫通孔および前記複数の係止部は、前記管状部材の前記軸方向における両端部に設けられていてもよい。
【0013】
上記態様において、前記圧力容器は、前記軸方向における中間部に設けられて前記ネック部よりも直径が拡大された円筒状の胴部と、該胴部と前記ネック部との間に設けられて前記軸方向の端部へ向けて直径が漸次縮小されたショルダ部とを有し、前記管状部材は、前記ネック部において前記ライナに埋設された直管部と、前記ショルダ部において前記ライナに埋設されて前記直管部から前記軸方向に離れるほど直径が拡大された拡径部とを有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の上記態様によれば、RTM法による繊維強化樹脂層の成形時にライナに巻回された繊維が弛緩するのを防止して、耐圧性を向上させることが可能な圧力容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示に係る圧力容器の一実施形態を示す断面図。
【
図2】
図1に示す圧力容器のネック部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示に係る圧力容器の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、本開示に係る圧力容器の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の圧力容器100は、たとえば、燃料電池自動車や水素自動車に搭載され、高圧の水素ガスが充填されるタンクである。圧力容器100は、たとえば、容器本体110と、バルブ120と、シール部材130と、管状部材140と、口金150とを備えている。
【0018】
容器本体110は、ガスを収容する空間を形成するライナ111と、そのライナ111の外表面を覆う繊維強化樹脂層112とを備えている。また、容器本体110は、たとえば、ネック部113と、ショルダ部114と、胴部115と、底部116と、開口部117とを有している。すなわち、圧力容器100は、たとえば、ライナ111と繊維強化樹脂層112とを備え、ネック部113と、ショルダ部114と、胴部115と、底部116と、開口部117を有している。
【0019】
ライナ111は、たとえば、ガスバリア性を有する合成樹脂製の内容器である。ライナ111の素材としては、たとえば、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル、エポキシなどを使用することができる。繊維強化樹脂層112は、ガスを収容するライナ111の外表面を覆うことで、容器本体110の強度を確保する補強層として機能する。
【0020】
繊維強化樹脂層112は、たとえば、レジン・トランスファー・モールデング(Resin Transfer Molding:RTM)法によって形成されている。より具体的には、繊維強化樹脂層112は、RTM法により、たとえば、次のような手順で成形される。まず、ライナ111の外側に繊維束を巻回して繊維層を形成する。次に、外側に繊維層が形成されたライナ111を金型内に収容し、ライナ111に内圧を付与した状態で金型内に未硬化の硬化性樹脂を注入する。その後、ライナ111の外側の繊維層に含浸した未硬化の硬化性樹脂を硬化させ、ライナ111の外側に繊維強化樹脂層112を形成する。
【0021】
ここで、ライナ111の外側に巻回されて繊維強化樹脂層112を構成する繊維束は、たとえば、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、または炭素繊維などの強化繊維の束であり、たとえば、1mmから10mm程度の幅の帯状の繊維束である。金型に注入されてライナ111の外側の繊維層に含浸され、繊維強化樹脂層112を構成する硬化性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、または、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。また、硬化性樹脂として、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、または、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0022】
圧力容器100のネック部113は、圧力容器100の中心軸Aに平行な軸方向Daの端部に設けられた、容器本体110の円筒状の部分である。圧力容器100は、たとえば、ネック部113において直径が最小になっている。ネック部113は、先端に開口部117を有し、先端部の外周面に円筒状の口金150が固定されている。この口金150の外周面に設けられた雄ネジに、バルブ120の取付部123の内周面に設けられた雌ネジを螺合させることで、圧力容器100の容器本体110の開口部117にバルブ120が固定されている。
【0023】
圧力容器100の胴部115は、圧力容器100の中心軸Aに平行な軸方向Daにおける中間部に設けられてネック部113よりも直径が拡大された、容器本体110の円筒状の部分である。圧力容器100のショルダ部114は、胴部115とネック部113との間に設けられ、開口部117を有する圧力容器100の軸方向Daの端部へ向けて直径が漸次縮小された、容器本体110のドーム状の部分である。圧力容器100の底部116は、圧力容器100の軸方向Daにおいて、ネック部113と反対側の胴部115の端部に設けられた、容器本体110のドーム状の部分である。
【0024】
バルブ120は、たとえば、金属製の部材であり、挿入部121と、ガス通路122と、取付部123とを有している。挿入部121は、開口部117からネック部113に挿入される円筒状の部分である。挿入部121の外周面には、たとえば、シール部材130が配置される環状の凹溝が周方向に設けられている。ガス通路122は、挿入部121に設けられ、ライナ111の内側のガスを収容する空間を、圧力容器100の外部のマニホルドなどに連通する。
【0025】
バルブ120の取付部123は、ネック部113の先端部の周囲に取り付けられる有底円筒状の凹形状を有している。容器本体110のネック部113の先端にバルブ120を取り付けるには、取付部123の内周面に設けられた雌ネジを、口金150の外周面に設けられた雄ネジに螺合させる。これにより、取付部123の底部の中央部から圧力容器100の軸方向Daに延びる挿入部121が、開口部117からネック部113の内側に挿入され、容器本体110のネック部113の先端に口金150を介してバルブ120が固定される。
【0026】
シール部材130は、たとえば、弾性を有する樹脂製のOリングであり、バルブ120の挿入部121の外周面と、ネック部113のライナ111の内周面との間で圧縮され、ライナ111の内側のガスを収容するための空間を気密に封止する。シール部材130は、たとえば、前述のように、バルブ120の挿入部121の外周面に形成された凹溝に配置されている。
【0027】
管状部材140は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daの端部に設けられた円筒状のネック部113の少なくとも一部において、ライナ111に埋設された金属製の部材である。管状部材140は、たとえば、圧力容器100の内圧上昇時に、ネック部113の直径が拡大するのを防止して、ライナ111とシール部材130との間のシール性を確保する。本実施形態の圧力容器100の特徴部分である管状部材140については、
図2を参照して詳述する。
【0028】
図2は、
図1に示す圧力容器100のネック部113の拡大断面図である。管状部材140は、前述のように、圧力容器100の中心軸Aに平行な軸方向Daの端部に設けられた円筒状のネック部113の少なくとも一部において、ライナ111に埋設されている。管状部材140は、ライナ111の外表面から突出して繊維強化樹脂層112に埋め込まれた突出部141を有している。
【0029】
突出部141は、たとえば、圧力容器100の中心軸Aに平行な軸方向Daにおける管状部材140の両端部のうち、圧力容器100の軸方向Daの端部であるネック部113の先端側に位置する管状部材140の軸方向Daの端部に設けられている。なお、突出部141は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daにおいて、管状部材140の両端部の間の中間部や、開口部117を有するネック部113の先端と反対側の管状部材140の端部に設けられていてもよい。
【0030】
突出部141は、たとえば、管状部材140の全周にわたって周方向に連続的に設けられ、圧力容器100の軸方向Daの一端であるネック部113の先端に近づくほど直径が拡大されている。より具体的には、突出部141は、たとえば、圧力容器100の中心軸Aに平行な軸方向Daに対して所定の角度θで傾斜する突出方向において、軸方向Daの端部であるネック部113の先端へ向けて、径方向外側へ突出している。
【0031】
ここで、突出部141の軸方向Daに対する角度θは、たとえば、90度以下であり、より具体的には、45度以下である。なお、突出部141は、たとえば、管状部材140の周方向に部分的に設けられていてもよい。管状部材140は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daの両端に近づくほど拡径された円筒形状を有している。
【0032】
より具体的には、管状部材140は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daにおいて、ネック部113の先端側から、突出部141と、直管部142と、拡径部143とを有している。突出部141は、前述のように、たとえば、ネック部113の先端に近づくほど直径が拡大されている。なお、ライナ111の外表面から突出する突出部141の突出高さHは、たとえば、管状部材140の厚さの0.5倍から2倍程度の範囲である。
【0033】
直管部142は、圧力容器100のネック部113においてライナ111に埋設された直管状の部分である。すなわち、直管部142の直径は、圧力容器100の軸方向Daの位置によって変化せず一定であり、直管部142の外周面および内周面は、軸方向Daにおおむね平行である。
【0034】
拡径部143は、圧力容器100のショルダ部114においてライナ111に埋設され、直管部142から圧力容器100の軸方向Daに離れるほど直径が拡大されている。圧力容器100の軸方向Daにおける拡径部143の両端部のうち、直管部142と反対側の拡径部143の端部は、直管部142に接続された端部よりも直径が拡大されているが、ライナ111の外表面に露出することなく、その外表面から所定の深さDでライナ111に埋設されている。
【0035】
管状部材140は、たとえば、周方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔144を有している。各々の貫通孔144は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daにおいて、管状部材140の両端部に設けられている。より具体的には、複数の貫通孔144は、たとえば、突出部141と直管部142との間で、管状部材140の周方向に間隔をあけて設けられている。
【0036】
また、各々の貫通孔144は、たとえば、圧力容器100の軸方向Daにおいて、ネック部113の先端とは反対側の管状部材140の後端部であって、拡径部143の直管部142と反対側の端部に、管状部材140の周方向に間隔をあけて設けられている。各々の貫通孔144は、たとえば、円形の丸孔であってもよく、圧力容器100の軸方向Daまたは管状部材140の周方向に延びる長円形の長孔であってもよい。
【0037】
また、ライナ111は、管状部材140の複数の貫通孔144に充填された複数の係止部111aを有している。たとえば、複数の貫通孔144が、圧力容器100の軸方向Daにおける管状部材140の両端部に設けられていることで、複数の係止部111aも軸方向Daにおける管状部材140の両端部に設けられている。ライナ111の各々の係止部111aは、圧力容器100の軸方向Daにおけるライナ111と管状部材140との相対的な移動を防止するとともに、ライナ111と管状部材140とがネック部113の径方向に剥離するのを防止する。
【0038】
以下、本実施形態の圧力容器100の作用を説明する。
【0039】
前述のように、圧力容器100の繊維強化樹脂層112は、たとえば、RTM法によって成形される。RTM法による繊維強化樹脂層112の成形時には、金型内に注入される未硬化の硬化性樹脂の圧力によるライナ111およびライナ111の周囲の強化繊維層の変形を防止するために、ライナ111に内圧を付与する場合がある。この場合、金型内に注入される樹脂の圧力とライナ111の内圧との差圧により、円筒状のライナ111および強化繊維層の直径が拡大する。
【0040】
金型内への樹脂の注入時にライナ111および強化繊維層の直径が拡大すると、ライナ111の周囲に巻回されて強化繊維層を構成する繊維が、ライナ111の軸方向Daすなわち圧力容器100の軸方向Daにおける端部から中央部へ引き込まれるおそれがある。このように、ライナ111の外側の強化繊維層を構成する繊維が、ライナ111の軸方向Daの端部から中央部へ引き込まれると、ライナ111の外側に張力を付与して巻回した繊維が弛緩して、圧力容器100の耐圧性が低下するおそれがある。
【0041】
これに対し、本実施形態の圧力容器100は、ガスを収容する空間を形成するライナ111と、そのライナ111の外表面を覆う繊維強化樹脂層112とを備えつつ、以下のような構成を有している。圧力容器100は、圧力容器100の軸方向Daの端部に設けられた円筒状のネック部113の少なくとも一部においてライナ111に埋設された管状部材140を備えている。この管状部材140は、ライナ111の外表面から突出して繊維強化樹脂層112に埋め込まれた突出部141を有する。
【0042】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、圧力容器100の製造時に、ライナ111の周囲に繊維強化樹脂層112を構成する繊維を巻回する巻回工程において、繊維を管状部材140の突出部141に引っ掛けることができる。これにより、ライナ111の軸方向Daの端部において、巻回工程でライナ111の外側に形成された強化繊維層に対し、ライナ111の外表面から突出した管状部材140の突出部141が食い込んだ状態になる。
【0043】
その結果、突出部141によって、ライナ111の周囲の強化繊維層を構成する繊維が、ライナ111の軸方向Daの端部から中央部へ向けて移動することが防止される。これにより、RTM法による繊維強化樹脂層112の成形時に、ライナ111の外側の強化繊維層に樹脂を含浸させる含浸工程でライナ111の直径が拡大しても、ライナ111の周囲に張力を付与されて巻回された繊維が弛緩するのを防止できる。以上のように、本実施形態の圧力容器100によれば、RTM法による繊維強化樹脂層112の成形時にライナ111に巻回された繊維が弛緩するのを防止して、耐圧性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態の圧力容器100において、管状部材140の突出部141は、圧力容器100のネック部113の先端側に位置する管状部材140の軸方向Daの端部に設けられている。
【0045】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、より圧力容器100の軸方向Daの端部に近い位置で繊維強化樹脂層112を構成する繊維を、管状部材140の突出部141によって固定することができる。その結果、前述の含浸工程において、ライナ111の周囲の強化繊維層を構成する繊維が、ライナ111の軸方向Daの端部から中央部へ向けて移動することが、突出部141によって、より効果的に防止される。
【0046】
また、本実施形態の圧力容器100において、管状部材140の突出部141は、管状部材140の全周にわたって設けられ、圧力容器100のネック部113の先端に近づくほど直径が拡大されている。
【0047】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、管状部材140に突出部141を容易に形成することができる。また、圧力容器100の軸方向Daにおける突出部141の強度を向上させることができ、管状部材140の薄型化および軽量化が可能になる。さらに、ライナ111の外表面から突出する突出部141の突出高さHを容易に制御することができる。加えて、ライナ111から露出する突出部141の表面積を増加させることができ、圧力容器100の軸方向Daにおいて、繊維強化樹脂層112を構成する繊維の移動を、より効果的に防止することができる。
【0048】
また、本実施形態の圧力容器100において、管状部材140は、周方向に間隔をあけて設けられた複数の貫通孔144を有している。さらに、ライナ111は、管状部材140の複数の貫通孔144に充填された複数の係止部111aを有している。
【0049】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、ライナ111の複数の係止部111aを、管状部材140の複数の貫通孔144に係合させ、ライナ111と管状部材140とをより強固に一体化させることができる。これにより、ライナ111に埋設された管状部材140が、ライナ111から剥離または脱落することが防止される。その結果、圧力容器100の製造時に、巻回工程でライナ111の外側に巻回された繊維が、含浸工程でライナ111の軸方向Daの端部から中央部へ移動することを、突出部141によって、より確実に防止することができる。
【0050】
また、本実施形態の圧力容器100において、管状部材140の複数の貫通孔144およびライナ111の複数の係止部111aは、管状部材140の軸方向Daにおける両端部に設けられている。
【0051】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、複数の貫通孔144および複数の係止部111aが、管状部材140の他の部分に設けられている場合と比較して、ライナ111と管状部材140をより強固に一体化させることができる。これにより、管状部材140がライナ111から剥離または脱落することがより確実に防止され、圧力容器100の製造時にライナ111の外側に巻回された繊維が軸方向Daの端部から中央部へ移動することを、突出部141によってより確実に防止できる。
【0052】
また、本実施形態の圧力容器100は、軸方向Daにおける中間部に設けられてネック部113よりも直径が拡大された円筒状の胴部115と、その胴部115とネック部113との間に設けられて軸方向Daの端部へ向けて直径が漸次縮小されたショルダ部114とを有している。そして、管状部材140は、ネック部113においてライナ111に埋設された直管部142と、ショルダ部114においてライナ111に埋設されて直管部142から軸方向Daに離れるほど直径が拡大された拡径部143とを有している。
【0053】
このような構成により、本実施形態の圧力容器100によれば、管状部材140の直管部142から拡径部143へかけての形状を、圧力容器100のネック部113からショルダ部114へかけての形状に合わせることができる。これにより、管状部材140を、圧力容器100のネック部113からショルダ部114にかけてライナ111に埋設することができ、突出部141に作用する軸方向Daの力に対するライナ111と管状部材140の強度を向上させることができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、RTM法による繊維強化樹脂層112の成形時にライナ111に巻回された繊維が弛緩するのを防止して、耐圧性を向上させることが可能な圧力容器100を提供することができる。
【0055】
以上、図面を用いて本開示に係る圧力容器の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
100 圧力容器
111 ライナ
111a 係止部
112 繊維強化樹脂層
113 ネック部
114 ショルダ部
115 胴部
140 管状部材
141 突出部
142 直管部
143 拡径部
144 貫通孔
Da 軸方向