(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両制御装置、システム、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 56/00 20090101AFI20241112BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20241112BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20241112BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20241112BHJP
G16Y 40/30 20200101ALI20241112BHJP
【FI】
H04W56/00
H04W4/44
G08G1/09 H
G16Y10/40
G16Y40/30
(21)【出願番号】P 2021174555
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正貴
(72)【発明者】
【氏名】栗山 奏
(72)【発明者】
【氏名】角谷 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】牧 宏生
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 航介
【審査官】小松崎 里沙
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-026696(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087879(WO,A1)
【文献】特開2015-109509(JP,A)
【文献】特開2017-034635(JP,A)
【文献】特開2020-167551(JP,A)
【文献】特開2022-039801(JP,A)
【文献】特開2016-024613(JP,A)
【文献】特開2018-106676(JP,A)
【文献】特開2022-159908(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112758134(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4、6
CT WG1、4
G16Y10/00-40/60
G08G 1/00-99/00
H04M 3/00
3/16- 3/20
3/38- 3/58
7/00- 7/16
11/00-11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両と通信を行う車両制御装置であって、
前記複数の車両との間でデータの送受信を行う通信部と、
前記通信部によって送受信された前記データに基づいて、前記複数の車両のうち遠隔制御の対象となる被制御車両と前記車両制御装置との間の通信遅延時間を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記通信遅延時間に基づいて、遠隔制御のために前記被制御車両に送信する制御信号を
、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻に同期させた制御内容によって生成する生成部と、を備え
、
前記通信部は、
前記被制御車両の遠隔制御を実行させる場合、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻よりも前記通信遅延時間だけ遡った時刻に、前記制御信号を前記被制御車両に送信し、
2つの前記被制御車両の遠隔制御を同時に実行させる場合、前記通信遅延時間が短い前記被制御車両に対しては2つの前記通信遅延時間の時間差分だけ制御の実行開始を待機させる指示を加えて、2つの前記制御信号を2つの前記被制御車両に向けて同じ時刻に送信する、車両制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記通信部が受信する前記データから、前記複数の車両の位置に関する情報と、前記複数の車両の位置それぞれにおける通信品質に関する情報と、を収集し、前記情報に基づいて、進行が推定される未来の位置における前記被制御車両と前記車両制御装置との間の通信遅延時間を予測する、請求項
1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記通信部は、さらに前記複数の車両以外の1つ以上の情報端末との間でデータの送受信を行い、
前記取得部は、前記通信部が受信する前記データから、前記1つ以上の情報端末の位置に関する情報と、前記1つ以上の情報端末の位置それぞれにおける通信品質に関する情報と、を収集する、請求項
2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記通信部が受信する前記データから、前記複数の車両の位置に関する情報と、前記複数の車両それぞれの速度及び向きに関するトラジェクトリ情報と、を収集し、前記トラジェクトリ情報に基づいて、前記被制御車両が進行する前記未来の位置を推定する、請求項
2又は3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記通信遅延時間を用いて、仮想空間上に現実空間と時刻同期したデジタルツインを形成する、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
複数の車両と、前記複数の車両と通信を行う車両制御装置と、を備えるシステムであって、
前記車両制御装置は、
前記複数の車両との間でデータの送受信を行う通信部と、
前記通信部によって送受信された前記データに基づいて、前記複数の車両のうち遠隔制御の対象となる被制御車両と前記車両制御装置との間の通信遅延時間を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記通信遅延時間に基づいて、遠隔制御のために前記被制御車両に送信する制御信号を
、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻に同期させた制御内容によって生成する生成部と、を備え
、
前記車両制御装置の前記通信部は、
前記被制御車両の遠隔制御を実行させる場合、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻よりも前記通信遅延時間だけ遡った時刻に、前記制御信号を前記被制御車両に送信し、
2つの前記被制御車両の遠隔制御を同時に実行させる場合、前記通信遅延時間が短い前記被制御車両に対しては2つの前記通信遅延時間の時間差分だけ制御の実行開始を待機させる指示を加えて、2つの前記制御信号を2つの前記被制御車両に向けて同じ時刻に送信する、システム。
【請求項7】
プロセッサとメモリとを備え、複数の車両と通信を行う車両制御装置のコンピューターが実行する方法であって、
前記複数の車両との間でデータの送受信を行うステップと、
前記送受信されたデータに基づいて、前記複数の車両のうち遠隔制御の対象となる被制御車両と前記車両制御装置との間の通信遅延時間を取得するステップと、
前記通信遅延時間に基づいて、遠隔制御のために前記被制御車両に送信する制御信号を
、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻に同期させた制御内容によって生成するステップと
、
前記被制御車両の遠隔制御を実行させる場合、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻よりも前記通信遅延時間だけ遡った時刻に、前記制御信号を前記被制御車両に送信するステップと、
2つの前記被制御車両の遠隔制御を同時に実行させる場合、前記通信遅延時間が短い前記被制御車両に対しては2つの前記通信遅延時間の時間差分だけ制御の実行開始を待機させる指示を加えて、2つの前記制御信号を2つの前記被制御車両に向けて同じ時刻に送信するステップと、を含む、方法。
【請求項8】
プロセッサとメモリとを備え、複数の車両と通信を行う車両制御装置のコンピューターに実行させるプログラムであって、
前記複数の車両との間でデータの送受信を行うステップと、
前記送受信されたデータに基づいて、前記複数の車両のうち遠隔制御の対象となる被制御車両と前記車両制御装置との間の通信遅延時間を取得するステップと、
前記通信遅延時間に基づいて、遠隔制御のために前記被制御車両に送信する制御信号を
、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻に同期させた制御内容によって生成するステップと
、
前記被制御車両の遠隔制御を実行させる場合、前記被制御車両が前記制御信号を受信すると予想される時刻よりも前記通信遅延時間だけ遡った時刻に、前記制御信号を前記被制御車両に送信するステップと、
2つの前記被制御車両の遠隔制御を同時に実行させる場合、前記通信遅延時間が短い前記被制御車両に対しては2つの前記通信遅延時間の時間差分だけ制御の実行開始を待機させる指示を加えて、2つの前記制御信号を2つの前記被制御車両に向けて同じ時刻に送信するステップと、を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両と通信を行って車両を遠隔制御する制御装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、道路網を自動運転する複数の自律車両と通信可能にネットワークを介して接続された自律車両サービスプラットフォームが、開示されている。この自律車両サービスプラットフォームは、複数の自律車両を遠隔制御して、自律車両を用いた様々なサービスをユーザーに提供する。
【0003】
また、特許文献2に、複数の車両からネットワークを介して収集するデータに基づいてクラウド上に形成するデジタルツインを用いて車両の走行に伴うリスクを評価するシステムが、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-505059号公報
【文献】特開2020-013557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ネットワークを介して車両とクラウド上に設けられる制御装置とが接続されるシステムにおいては、車両とクラウドとの間に通信遅延が発生する。このため、制御装置による車両の制御に際しては、車両とクラウドとの間に発生する通信遅延の影響を低減させることが望まれる。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、クラウド上に設けられる制御装置を用いて車両を遠隔制御する際において、車両とクラウドとの間で発生する通信遅延の影響を低減させることができる車両制御装置などを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、複数の車両と通信を行う車両制御装置であって、複数の車両との間でデータの送受信を行う通信部と、通信部によって送受信されたデータに基づいて、複数の車両のうち遠隔制御の対象となる被制御車両と車両制御装置との間の通信遅延時間を取得する取得部と、取得部によって取得された通信遅延時間に基づいて、遠隔制御のために被制御車両に送信する制御信号を生成する生成部と、を備える、車両制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
上記本開示の車両制御装置などによれば、クラウド上に設けられる制御装置を用いて車両を遠隔制御する際において、車両とクラウドとの間で発生する通信遅延の影響を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る車両制御装置を含むネットワークシステムの概略構成図
【
図4】本車両制御装置が実行するデータ補正制御の処理フローチャート
【
図5】本車両制御装置が実行する通信遅延時間予測の処理フローチャート
【
図6】本車両制御装置が実行する制御信号生成の処理フローチャート
【
図7A】従来の装置が実行する制御信号の送信を説明する図
【
図7B】本車両制御装置が実行する時刻同期させた制御信号の送信例を説明する図
【
図7C】本車両制御装置が実行する時刻同期させた他の制御信号の送信例を説明する図
【
図8】外部装置を利用した本車両制御装置の機能ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の車両制御装置は、制御対象である車両を遠隔制御する際、道路マップに対応させた過去の統計的な通信品質データを記憶したデータベースを用いて、遠隔制御を実施する未来の車両位置における通信遅延時間を予測し、この予測した通信遅延時間とデジタルツインとに基づいて、クラウド上で形成する仮想空間と現実空間との時刻同期性を確保した車両に好適な制御信号を生成して送信する。これにより、車両とクラウドとの間で発生する通信遅延の影響を低減させる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両制御装置100を含むデジタルツインシステム10の全体構成例を示すブロック図である。
図1に例示するデジタルツインシステム10は、車両制御装置100と、複数の車両を含む通信機器群200と、を含んで構成され、車両制御装置100によって通信機器群200に含まれる少なくとも1つの車両を遠隔制御することができる車両用システムである。車両制御装置100と通信機器群200とは、例えばインターネットなどの通信回線500を介して、相互に通信可能に接続されている。
【0012】
(1)通信機器群
デジタルツインシステム10を構成する通信機器群200には、制御対象車両210、情報提供車両220、及び情報端末230が含まれる。制御対象車両210は、車両制御装置100が収集した数多くのデータを活用した遠隔制御が、車両制御装置100によって実行される被制御車両である。この制御対象車両210は、後述する車両状態に関するデータを少なくとも車両制御装置100に提供する。情報提供車両220は、遠隔制御の対象とはならない、後述する通信品質に関わるデータを車両制御装置100に提供するのみの車両である。情報端末230は、例えばスマートフォンやタブレット端末などであり、情報提供車両220と同様に通信品質に関わるデータを車両制御装置100に提供する通信機器である。
【0013】
情報提供車両220や情報端末230が車両制御装置100に提供する通信品質(又は電波品質)に関わるデータに含まれる情報としては、その情報を測定又は検出或いは取得したときの時刻(タイムスタンプ)及び車両の位置を特定するGPS(global positioning system)の緯度/経度などを含む「時刻/位置情報」や、通信回線500を提供するサービス事業者の名称及び無線基地局を特定できる情報であるセルID(Identification)などを含む「通信情報」や、実行速度(上下平均/ピークのスループット)、通信遅延時間、パケットロス、及び電波強度RSSIなどを含む「通信品質情報」を、例示できる。時刻/位置情報は、情報提供車両220や情報端末230が実装する時計機能やGPS受信機能などを用いることによって、取得が可能である。通信情報は、情報提供車両220や情報端末230が実装する通信機能などを用いることによって、取得が可能である。通信品質情報は、一例として、情報提供車両220や情報端末230が予め実装している情報計測ツールやインストールしている情報計測アプリケーションソフトなどを実行させ、車両制御装置100(の計測サーバーなど)に対して所定のテスト信号を所定の周期で送信した結果から、演算することが可能である。なお、制御対象車両210については、上記手法だけではなく、処理負荷低減のため、通信到達性やネットワークの往復時間を測定する基本的なソフトウェアによるping値や実際の制御信号を用いた通信回線500を経由したデータ送受信によって得られる応答速度などに基づいて、高精度の通信品質情報を提供することができる。
【0014】
制御対象車両210が車両制御装置100に提供する車両状態に関するデータに含まれる情報としては、上述した時刻/位置情報に加えて、車両の走行軌道に関する情報である車両の速度(時系列履歴)及び車両の向き(現在状態)を少なくとも含む「トラジェクトリ情報」を、例示できる。トラジェクトリ情報には、さらに、ナビゲーション(設定ルート)の情報、方向指示器の作動情報(現在状態)、アクセル開度量/ブレーキ制動量の情報(時系列履歴)、加速度/減速度の情報(時系列履歴)、シフトレンジ(D/B/R)の情報(現在状態)、ステアリング舵角の情報(時系列履歴)、走行車線の情報(現在状態)、対向車線の信号機の情報(現在状態)、交通渋滞の情報(現在状態)などを含む道路情報、が含まれていてもよい。このトラジェクトリ情報は、制御対象車両210が搭載するセンサ機器などを制御する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を介して取得することが可能である。
【0015】
なお、情報提供車両220や情報端末230から提供される通信品質に関わるデータのみによって車両制御装置100における通信遅延時間予測(後述する)が可能であれば、制御対象車両210は、車両制御装置100に対して通信品質に関わるデータの提供を行わなくてもよい。また、情報提供車両220や情報端末230は、通信遅延時間予測を高精度かつ高効率で実現する目的でシステムに参加する通信機器であるため、デジタルツインシステム10に必須の構成でなくても構わない。ただし、通信遅延時間を高精度かつ高効率に予測するためには、数多くの制御対象車両210、情報提供車両220、及び情報端末230から通信品質に関わるデータが提供されることが望ましい。
【0016】
(2)車両制御装置
車両制御装置100は、通信回線500を介して制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230が搭載する通信機器(図示せず)と通信可能に構成される。そして、この車両制御装置100は、制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230から通信品質に関わるデータや車両状態に関するデータを受信(収集)したり、制御対象車両210に対して所定の制御信号を送信したりすることによって、制御対象車両210の遠隔制御を好適に実行することができる。この車両制御装置100は、例えばクラウド上(例えば、クラウドサーバー)に構成される。
【0017】
図2は、
図1における車両制御装置100の概略構成を示すブロック図である。
図2で示すように、車両制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、RAM(Random Access Memory)102と、記憶装置103と、通信装置104と、を備える。記憶装置103は、ハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)などの読み書き可能な記憶媒体を備えた装置であり、通信品質を測定するためのプログラム、収集した通信品質に関わるデータ、デジタルツイン160(後述する)を生成するためのデータ、通信遅延を予測するためのプログラムなどを記憶する。車両制御装置100において、CPU101は、記憶装置103から読み出したプログラムを、RAM102を作業領域として用いて実行することにより、通信遅延時間予測に関する所定の処理を実行する。通信装置104は、通信回線500を介して制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230と通信を行うための機器である。
【0018】
図3は、
図2に示した車両制御装置100の機能ブロック図である。
図3で示す車両制御装置100は、通信部110と、収集部120と、推定/予測部130と、生成部140と、通信品質マップデータベース(DB)150と、デジタルツイン160と、を備える。通信品質マップデータベース150及びデジタルツイン160は、
図2に示した記憶装置103によって実現される。通信部110、収集部120、推定/予測部130、及び生成部140は、
図2に示したCPU101がRAM102を用いて記憶装置103に記憶されるプログラムを実行することによって実現される。
【0019】
通信部110は、制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230との間で通信を行って、所定のデータ(車両状態に関するデータ、通信品質に関わるデータなど)の受信や、所定のテスト信号(通信品質確認用の信号など)の送受信や、所定の制御信号(遠隔制御のための信号など)の送信など、を実施する。
【0020】
収集部120は、通信部110を介して制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230から随時提供される車両状態に関するデータ及び通信品質に関わるデータを収集する。そして、収集部120は、車両状態に関するデータをデジタルツイン160の生成のために活用し、通信品質に関わるデータを通信品質マップデータベース150の形成のために活用する。
【0021】
推定/予測部130は、制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230から提供される車両状態に関するデータと、デジタルツイン160が記憶するデータと、を用いて、制御対象車両210が所定の時間後に次に進行する未来の位置(将来の位置)を推定する。より具体的には、推定/予測部130は、通信部110を介して制御対象車両210から受信する走行情報(車速、進行方向、ナビゲーションの設定ルートなど)に基づいて、制御対象車両210の未来の位置を推定する。この推定した制御対象車両210の未来の位置は、デジタルツイン160の生成に利用される。
【0022】
また、推定/予測部130は、通信品質マップデータベース150が記憶する通信品質に関わるデータを用いて、制御対象車両210が次に進行すると推定される未来の位置における通信遅延時間(又は通信遅延量)を予測する。より具体的には、推定/予測部130は、通信部110を介して制御対象車両210から提供される進路情報(測定時刻、GPS緯度/経度、通信回線サービス事業者名など)に基づいて、通信品質マップデータベース150から得られる通信品質(実行速度、通信遅延時間、パケットロス/電波強度RSSIなど)から、制御対象車両210の未来の位置における通信遅延時間を予測する。実行速度には、情報の受け取りが完了するまでの時間の算出に必要な単位時間あたりに受け取れる情報量である上下平均/ピークのスループットが含まれる。情報が届かない可能性を示すパケットロス/電波強度RSSIは、情報の再送時間を考慮する場合に利用される。
【0023】
このように、収集部120及び推定/予測部130は、制御対象車両210が進行する未来の位置を推定し、この推定した未来の位置における制御対象車両210と車両制御装置100との間に発生する通信遅延時間を取得することができる取得部、として機能することができる。
【0024】
生成部140は、推定/予測部130で予測された制御対象車両210の未来の位置における通信遅延時間に基づいて、制御対象車両210に送信する車両の遠隔制御に関する制御信号を生成する。この通信遅延時間に基づいた制御信号の生成手法については、後述する。
【0025】
通信品質マップデータベース150は、通信部110を介して制御対象車両210や情報提供車両220、及び情報端末230から提供される通信品質に関わるデータを、複数記憶する記憶部である。この通信品質マップデータベース150は、推定/予測部130において車両が進行すると推定される未来の位置における通信遅延時間の予測に必要な過去の通信品質データを、道路の地図情報に対応させたマップ形式で統計的に記憶する。通信品質マップデータベース150が記憶する通信品質に関わるデータに含まれる情報としては、データ測定時刻、GPS緯度/経度、通信回線サービス事業者名、無線基地局のセルID、実行速度(上下平均/ピークのスループット)、通信遅延時間、パケットロス、及び電波強度RSSIなどを、例示できる。
【0026】
デジタルツイン160は、制御対象車両210について収集された現在及び過去の車両状態に関するデータ(車両位置、走行時刻など)がリアルタイムで更新されて格納されることによって、現実世界と時刻同期した仮想世界をクラウドコンピューター上に再現するための記憶機能部である。また、デジタルツイン160は、要求に基づいて制御対象車両210に関する未来の予測データを現在及び過去のデータ及び情報から生成することができる。デジタルツイン160が記憶するデータに含まれる情報としては、車両情報(VINなど)、他車交通(自転車、歩行者などを含む)に関する情報、地図情報、時刻情報、位置情報(GPS緯度/経度)、及び走行軌道であるトラジェクトリ情報(車速など)などを、例示できる。
【0027】
なお、
図8に示すように、車両制御装置100以外の装置、例えば外部装置300が、通信品質マップデータベース150と同等の通信品質情報を持った通信品質マップデータベース(DB)350を保有しているシステム構成としてもよい。このシステム構成の場合、車両制御装置100は、情報提供車両220や情報端末230から通信品質に関わるデータの提供を直接受けずに、外部装置300が保有する通信品質マップデータベース350を参照することによって、通信品質マップデータベース150を取得(機能実現)してもよい。この外部装置300としては、通信事業者や情報提供サービス会社などを例示できる。
【0028】
[制御]
次に、
図4乃至
図6をさらに参照して、本実施形態に係る車両制御装置100が実行する処理を説明する。車両制御装置100が実行する処理として、データ補正制御、通信遅延時間予測、及び制御信号生成の各処理がある。
【0029】
(1)データ補正制御
図4は、車両制御装置100が実行するデータ補正制御の処理手順を説明するフローチャートである。この
図4に例示するデータ補正制御は、デジタルツイン160のデータを補正するための処理であり、制御対象車両210から車両状態に関するデータが受信されるごとに実行される。
【0030】
(ステップS401)
車両制御装置100は、制御対象車両210から車両状態に関するデータを受信したか否かを判断する。この制御対象車両210から受信する車両状態に関するデータには、データの送信時(又はデータの作成時)における、車両の位置に関する情報、時刻の情報(タイムスタンプ)、及び車両の走行軌道に関する情報(トラジェクトリ情報)が、含まれる。トラジェクトリ情報には、車両の速度及び車両の向きが少なくとも含まれる。このトラジェクトリ情報には、さらに、ナビゲーションの情報、方向指示器の情報、アクセル開度量/ブレーキ制動量の情報、加減速度の情報、シフトレンジ(D/B/R)の情報、ステアリング舵角の情報、道路情報、走行車線、対向車線の信号機の情報、渋滞情報など、を含んでもよい。
【0031】
このステップS401において、制御対象車両210から車両状態に関するデータを受信した場合に(S401、はい)、ステップS402に処理が進む。
【0032】
(ステップS402)
車両制御装置100は、制御対象車両210と車両制御装置100との間の通信において実際に発生している遅延時間(実通信遅延時間)を算出する。この実通信遅延時間は、制御対象車両210から受信した車両状態に関するデータに含まれる時刻の情報(タイムスタンプ)と、このデータを車両制御装置100が受信したときの時刻との差分、によって算出することができる。
【0033】
このステップS402において、実通信遅延時間が算出されると、ステップS403に処理が進む。
【0034】
(ステップS403)
車両制御装置100は、制御対象車両210が車両状態に関するデータを送信した時刻(又はデータを作成した時刻)の制御対象車両210の車両位置における車速の発生確率を導出する。この車両位置における車速の発生確率は、制御対象車両210から受信する車両状態に関するデータに含まれる又はデジタルツイン160が保有する道路情報、渋滞情報、及び過去の車速の情報などに基づいて、導出することが可能である。この車両位置における車速の発生確率は、例えばマップ形式でデータベース化される。
【0035】
このステップS403において、データ送信時刻の制御対象車両210の車両位置における車速の発生確率が導出されると、ステップS404に処理が進む。
【0036】
(ステップS404)
車両制御装置100は、車両状態に関するデータを車両制御装置100が受信した時刻に推定される制御対象車両210の位置の発生確率を導出する。より具体的には、車両制御装置100は、車両制御装置100と制御対象車両210との間に発生する実通信遅延時間と、データ送信時刻の制御対象車両210の車両位置における車速の発生確率と、制御対象車両210から受信した車両状態に関するデータに含まれるトラジェクトリ情報とに基づいて、制御対象車両210から送信されたこのデータを車両制御装置100が実通信遅延時間の経過後に受信したときの時刻に制御対象車両210が移動していると推定される車両位置の発生確率を導出する。この車両位置の発生確率は、例えば次のようにして導出することができる。
【0037】
a:車両の走行速度が速い(かつ減速する傾向がない)場合
この場合には、車両が右左折や後退する可能性が低く直進するであろうと予想できるため、車両の前方位置の発生確率が高く導出される。
b:車両の方向指示器が左折状態で作動している場合
この場合には、車両が左折するであろうと予想できるため、車両の左方向位置の発生確率が高く導出される。
c:車両が複数車線の道路の右折レーンを(減速しながら)走行している場合
この場合には、車両が右折するであろうと予想できるため、車両の右方向位置の発生確率が高く導出される。
d:車両のシフトレンジがリバース(R)になっている場合
この場合には、車両が後退するであろうと予想できるため、車両の後方位置の発生確率が高く導出される。
【0038】
なお、車両制御装置100は、次に制御対象車両210から新たなデータを受信するまでの間は、今のデータを車両制御装置100が受信したときの時刻から任意の時間(例えば1秒)ごとに制御対象車両210の車両位置の発生確率を導出してもよい。この任意の時間は、予定している制御信号の用途、車両位置に対する精度の要求などにより最適な値に定められる。
【0039】
このステップS404において、データ受信時刻に推定される制御対象車両210の車両位置の発生確率が導出されると、ステップS405に処理が進む。
【0040】
(ステップS405)
車両制御装置100は、導出した制御対象車両210の車両位置の発生確率に基づいて、デジタルツイン160を生成(更新)する。これにより、データの通信遅延や送信周期に対する補正が行われたデジタルツイン160を得ることができる。
【0041】
なお、上述した例のように、車両制御装置100が車両状態に関するデータを受信した時刻から任意の時間(例えば1秒)ごとに制御対象車両210の車両位置の発生確率を導出する場合には、現時刻に同期してデジタルツイン160が発生確率の導出に対応した時間ごとに生成される。
【0042】
このステップS405において、デジタルツイン160が生成されると、ステップS401に処理が進み、本データ補正制御が繰り返される。
【0043】
(2)通信遅延時間予測
図5は、車両制御装置100が実行する通信遅延時間予測の処理手順を説明するフローチャートである。この
図5に例示する通信遅延時間予測は、制御対象車両210の未来の位置における通信遅延時間を予測するための処理であり、通信遅延時間の予測が必要な所定のタイミングで実行される。
【0044】
(ステップS501)
車両制御装置100は、通信遅延時間の予測が必要になったか否かを判断する。この判断は、一例として、制御対象車両210から遠隔制御に関する明示的な要求があった場合や、制御対象車両210から通信品質確認用のテスト信号の応答を受信した場合などに、行われる。
【0045】
このステップS501において、通信遅延時間の予測が必要になった場合に(S501、はい)、ステップS502に処理が進む。
【0046】
(ステップS502)
車両制御装置100は、制御対象車両210の未来の位置における通信品質を取得する。より具体的には、車両制御装置100は、制御対象車両210から提供される進路情報(測定時刻、GPS緯度/経度、通信回線サービス事業者名など)に基づいて、制御対象車両210の未来の位置に関して最も期待できる通信品質の情報を、通信品質マップデータベース150から取得(抽出)する。最も期待できる通信品質情報であるか否かは、例えば、厳しい情報である、高確率の情報である、直近の実績の情報である、などの条件に基づいて、判断することができる。
【0047】
このステップS502において、制御対象車両210の未来の位置における通信品質が取得されると、ステップS503に処理が進む。
【0048】
(ステップS503)
車両制御装置100は、上記ステップS502で取得した通信品質の情報に基づいて、制御対象車両210の未来の位置における通信で発生すると予測される遅延時間(予測通信遅延時間)を算出する。一例として、通信品質が良い場合には、比較的短い時間が予測通信遅延時間として算出され、通信品質が悪い場合には、比較的長い時間が予測通信遅延時間として算出される。
【0049】
このステップS503において、制御対象車両210の未来の位置における予測通信遅延時間が算出されると、ステップS501に処理が進み、本通信遅延時間予測が繰り返される。
【0050】
(3)制御信号生成
図6は、車両制御装置100が実行する制御信号生成の処理手順を説明するフローチャートである。この
図6に例示する制御信号生成は、制御対象車両210の未来の位置における遠隔制御に関する制御信号を生成するための処理であり、制御信号の生成が必要な所定のタイミングで実行される。
【0051】
(ステップS601)
車両制御装置100は、制御対象車両210の制御信号の生成が必要になったか否かを判断する。この判断は、一例として、制御対象車両210から遠隔制御に関する明示的な要求があった場合や、車両制御装置100において制御対象車両210の遠隔制御が必要な状況を検出した場合などに、行われる。
【0052】
このステップS601において、制御信号の生成が必要になった場合に(S601、はい)、ステップS602に処理が進む。
【0053】
(ステップS602)
車両制御装置100は、制御対象車両210の未来の位置における通信で発生する予測通信遅延時間を取得する。この予測通信遅延時間は、上述した通信遅延時間予測におけるステップS503の処理で算出された値である。
【0054】
このステップS602において、制御対象車両210の未来の位置における通信で発生する予測通信遅延時間が取得されると、ステップS603に処理が進む。
【0055】
(ステップS603)
車両制御装置100は、未来の位置にいる制御対象車両210に対する制御信号、換言すれば未来の位置において制御対象車両210が受信すると予想される時刻に同期させた制御内容による制御信号、を生成して送信する。より具体的には、未来の位置に進行してきた制御対象車両210を現実空間の実時刻で遠隔制御するために必要な制御信号を仮想空間上の同期した時刻で生成する。そして、この生成した制御信号を、上記ステップS602で取得した予測通信遅延時間に基づいて、仮想空間の時刻の制御と現実空間の時刻の制御とが同期するタイミングで制御対象車両210に送信する。
【0056】
例えば、南方向に直進する車両Xが、東方向に直進する車両Yと40秒後(時刻T)に交差点で衝突する危険がある場面を考える。このような場面では、車両Xの遠隔制御として、車両Xの速度を減速させて車両Yを先に交差点を通過させる方法がある。ここで、車両Xの交差点付近エリアの予測通信遅延時間が10秒であったとする。この場合、時刻Tの20秒前の制御信号として「10秒後に交差点を通過」という動作を車両Xに向けて送信したとしても、現実空間の実時刻から10秒遅れて制御信号を車両Xが受信するため、実際には「20秒後(=指示10秒+遅延10秒)に交差点を通過」という動作となって、車両Xと車両Yとの衝突を回避することができない。
【0057】
そこで、本実施形態の手法では、仮想空間上で制御内容を考えたときの時刻が現実空間で車両が制御信号を受信した時刻と同期するように、予測通信遅延時間の分だけ時刻を遡って(前倒しして)制御信号を車両Xに送信する。具体的に上述した場面においては、予測通信遅延時間が10秒であることを考慮して、時刻Tの20秒前に「20秒後に交差点を通過」の指示を車両Xに送信するという制御信号ではなく、10秒だけ遡った(前倒しした)時刻Tの30秒前に「20秒後に交差点を通過」の指示を車両Xに送信するという制御信号を生成する。
【0058】
このステップS603において、未来の位置にいる制御対象車両210に対する制御信号が生成されて送信されると、ステップS601に処理が進み、本制御信号生成が繰り返される。
【0059】
図7A、
図7B、及び
図7Cをさらに用いて、車両制御装置100が実行する時刻同期させた制御信号の送信を説明する。
図7Aは、従来の装置による制御信号の送信状態を示す図である。
図7B及び
図7Cは、本実施形態の車両制御装置100による制御信号の送信状態の一例をそれぞれ示す図である。
【0060】
図7Aで示すように、通信遅延時間を考慮しない従来の装置による処理では、仮想空間の時刻Tの時点において決定された制御内容が、現実空間では時刻Tから通信遅延時間だけ遅れた時刻に車両に届く。このため、例えば、制御信号Aと制御信号Bとを同時に実行させることを仮想空間で想定(制御計画決定)したとしても、現実空間では双方の制御がずれることとなる。
【0061】
これに対し、
図7Bで例示した本実施形態に係る車両制御装置100による処理では、それぞれの予測通信遅延時間の分だけ制御信号A及び制御信号Bの送信タイミング(送信時刻)を早めている。この処理によって、仮想空間で想定したとおり現実空間でも制御信号Aと制御信号Bとを同時に実行させることができる。
【0062】
また、
図7Cで例示した本実施形態に係る車両制御装置100による処理のように、制御信号Aと制御信号Bとを同じ送信タイミング(送信時刻)で一旦送信し、予測通信遅延時間の短い制御信号Aについては、制御信号Aの予測通信遅延時間と制御信号Bの予測通信遅延時間との時間差の分だけ制御の実行開始を待たせてもよい(キュー処理)。
【0063】
<作用・効果など>
以上のように、本開示の一実施形態に係る車両制御装置100によれば、通信機器群200(制御対象車両210、情報提供車両220、情報端末230)との間で送受信した通信品質に関するデータに基づいて、道路マップに対応させた過去の統計的な通信品質データを記憶部(通信品質マップデータベース150)に記憶する。この通信品質データによって、車両制御装置100は、制御対象車両210に対して遠隔制御を指示する際に、遠隔制御を実施する未来の車両位置における通信遅延時間を予測することができ、この予測した通信遅延時間に基づきデジタルツイン160を用いて遠隔制御の実施に好適な制御信号を生成して送信することができる。
【0064】
この処理によって、予測通信遅延時間に基づいて補正し、かつ、デジタルツイン160を用いてクラウド上で形成する仮想空間上の時刻を現実空間の実時刻に同期させた(時刻同期性を確保した)制御信号によって、制御対象車両210に対して遠隔制御を指示することができる。従って、車両とクラウドとの間で発生する通信遅延の影響を低減させることができる。
【0065】
以上、本開示の一実施形態を説明したが、本開示は、車両制御装置、プロセッサとメモリとを備えた車両制御装置が実行する方法、この方法を実行するための制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的記憶媒体、及び車両制御装置と車両とを備えたシステムとして捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、クラウド上に設けられる車両制御装置を用いて車両を遠隔制御する際において、車両とクラウドとの間で発生する通信遅延の影響を低減させたい場合などに有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 デジタルツインシステム
100 車両制御装置
101 CPU
102 RAM
103 記憶装置
104 通信装置
110 通信部
120 収集部
130 推定/予測部
140 生成部
150、350 通信品質マップデータベース
160 デジタルツイン
200 通信機器群
210 制御対象車両
220 情報提供車両
230 情報端末
300 外部装置
500 通信回線