(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】オイルストレーナ
(51)【国際特許分類】
F01M 11/03 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F01M11/03 H
(21)【出願番号】P 2021176531
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山内 誠隆
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-275903(JP,A)
【文献】特開2018-035751(JP,A)
【文献】特開2018-053833(JP,A)
【文献】特開2018-115569(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128420(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00-13/06
F16L 17/00-19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流端及び下流端に開口を有する筒状のストレーナ本体と、
前記ストレーナ本体の前記下流端に接続されており、前記ストレーナ本体と共にオイルの流路を区画している継手と、を備えており、
前記継手は、前記ストレーナ本体に接続された金属製の筒体と、前記筒体の外周面に圧入された金属製のリングと、シールリングを取り付けるための取付溝と、を備えており、
前記筒体における前記ストレーナ本体とは反対側の端は、外側へと張り出したフランジになっており、
前記リングは、前記フランジに対して前記ストレーナ本体側に離れた箇所に位置しており、
前記取付溝は、前記フランジと前記リングと前記筒体の外周面とによって区画されている
オイルストレーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルストレーナに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オイルパン内のオイルをオイルポンプへと導くためオイルストレーナが開示されている。特許文献1のオイルストレーナは、ストレーナ本体と、エレメントとを備えている。ストレーナ本体は、全体として筒状になっている。すなわち、ストレーナ本体は、下流側の端及び上流側の端に開口を有している。また、ストレーナ本体の下流側の端を含む一部は、継手になっている。継手の内周面は、シールリングを収容するための窪みを有している。エレメントは、ストレーナ本体の内部に位置している。エレメントは網状である。エレメントは、オイル内に含まれる異物を濾し取る。ストレーナ本体の材質は、合成樹脂である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなオイルストレーナにおいて、当該オイルストレーナの強度を確保するために、オイルストレーナの材質を金属にしたいことがある。しかし、金属は、合成樹脂に比べて細かな加工が難しい。特に、筒状の部材に対して、軸方向の途中の位置で、全周に亘るような形状を加工するのは、金属の加工方向として一般的なプレス加工では困難である。そのため、金属製のオイルストレーナの継手部分に、シールリングを取り付けるための取付溝を形成する場合、高コストな方法を採用せざるをえない。したがって、金属製のオイルストレーナの成形コストを抑えることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、上流端及び下流端に開口を有する筒状のストレーナ本体と、前記ストレーナ本体の前記下流端に接続されており、前記ストレーナ本体と共にオイルの流路を区画している継手と、を備えており、前記継手は、前記ストレーナ本体に接続された金属製の筒体と、前記筒体の外周面に圧入された金属製のリングと、シールリングを取り付けるための取付溝と、を備えており、前記筒体における前記ストレーナ本体とは反対側の端は、外側へと張り出したフランジになっており、前記リングは、前記フランジに対して前記ストレーナ本体側に離れた箇所に位置しており、前記取付溝は、前記フランジと前記リングと前記筒体の外周面とによって区画されている、オイルストレーナである。
【0006】
上記構成において、筒体のフランジは、プレス加工及び鋳造などによって簡便に成形できる。そして、筒体に対してリングを圧入で固定することも、特殊な装置を使用することなく実現可能である。したがって、金属製の継手であっても最小限のコストでシールリングの取付溝を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、オイルストレーナの分解斜視図である。
【
図3】
図3は、オイルストレーナの部分断面図である。
【
図4】
図4は、継手の成形方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、ストレーナ本体の成形方法、及びストレーナ本体と継手との接続方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<オイルストレーナの全体構成>
以下、オイルパンに貯留されているオイルをオイルポンプに導くオイルストレーナの一実施形態を説明する。
図1に示すように、オイルストレーナ10は、ストレーナ本体20と、エレメント30と、継手40と、ステー50と、を備えている。
【0009】
図2に示すように、ストレーナ本体20は、全体として楕円筒形状になっている。ストレーナ本体20は、ロアーピース21と、アッパーピース25と、を備えている。
図1に示すように、ロアーピース21は、楕円筒形状を、当該楕円筒の中心軸に沿って2つに分割したような形状をしている。換言すると、ロアーピース21は、楕円筒の中心軸に直交する方向、すなわち
図1において下方向に凸となるように湾曲した形状をしている。ロアーピース21は、流入口22を有している。流入口22は、ロアーピース21の底面で開口している。流入口22は、ロアーピース21における、楕円筒の中心軸に沿う第1方向の端に位置している。流入口22は、平面視で円形状である。なお、流入口22は、ストレーナ本体20の上流端の開口である。ロアーピース21の材質は、鉄系の金属である。なお、ここでいう鉄系の金属とは、鉄を主成分とする合金のことであり、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、その他特殊鋼を含む。
【0010】
アッパーピース25は、楕円筒形状を、当該楕円筒の中心軸に沿って2つに分割したような形状をしている。換言すると、アッパーピース25は、ロアーピース21とは反対方向、すなわち
図1において上方向に凸となるように湾曲した形状をしている。アッパーピース25は、流出口26を有している。流出口26は、アッパーピース25の底面、すなわち
図1において上側の面において開口している。上述の第1方向とは反対方向を第2方向としたとき、流出口26は、アッパーピース25における第2方向の端に位置している。つまり、流出口26は、ストレーナ本体20における流入口22とは反対側の端に位置している。流出口26は、平面視で円形状である。なお、流出口26は、ストレーナ本体20の下流端の開口である。アッパーピース25の材質は、ロアーピース21の材質と同じ鉄系の金属である。
【0011】
図2に示すように、アッパーピース25は、ロアーピース21と接合している。具体的には、アッパーピース25の凹面は、ロアーピース21の凹面と向かい合っている。そして、
図3に示すように、アッパーピース25の周縁が、ロアーピース21の周縁にかしめ及びろう付けで接合されている。アッパーピース25の凹面とロアーピース21の凹面とによって、ストレーナ本体20の内部空間が区画されている。
【0012】
図1に示すように、エレメント30は、ストレーナ本体20の内部空間に位置している。エレメント30は、金属製の網である。エレメント30の外縁形状は、ロアーピース21の周縁の形状に対応している。すなわち、エレメント30の形状は、ロアーピース21を、アッパーピース25側から平面視したときの形状に対応している。なお、
図1では、エレメント30の網目構造の図示を省略している。
【0013】
図3に示すように、エレメント30の外縁は、ロアーピース21とアッパーピース25との間に挟まっている。つまり、ロアーピース21とアッパーピース25とは、間にエレメント30の外縁を介在しつつかしめで接合されている。
【0014】
図1に示すように、継手40は、全体として円筒形状になっている。
図3に示すように、継手40の一端は、アッパーピース25における流出口26にかしめ及びろう付けで接合されている。したがって、継手40の内部空間は、ストレーナ本体20の内部空間に繋がっている。つまり、継手40は、ストレーナ本体20と共にオイルの流路を区画している。
【0015】
なお、図示は省略するが、継手40におけるストレーナ本体20とは反対側の端には、他の配管が接続される。そして、オイルストレーナ10の内部空間を流通したオイルは、他の配管を介してオイルポンプに供給される。なお、継手40のより詳細な構造については後述する。
【0016】
図1に示すように、ステー50は、略四角形板状である。また、ステー50は、当該ステー50の途中の位置で折り曲げたような形状になっている。
図2に示すように、ステー50の一端は、アッパーピース25の外面に接合している。図示は省略するが、ステー50の他端は、他の部材、例えば内燃機関のクランクケース、シリンダブロック、オイルパンなどに接合される。
【0017】
<継手の構造>
図1に示すように、継手40は、筒体41と、リング45と、を備えている。
図3に示すように、筒体41は、さらに円筒部分42とフランジ43に大別できる。円筒部分42は、略円筒状になっている。円筒部分42の管長、すなわち円筒の中心軸に沿う方向での寸法は、20mm程度である。また、円筒部分42の壁厚、すなわち内径と外径との差は1mm程度である。フランジ43は、円筒部分42におけるストレーナ本体20とは反対側の端から外側へと張り出している。つまり、筒体41の一方の端は、フランジ43になっている。フランジ43は、円筒部分42の全周に亘っている。筒体41の材質は、ロアーピース21と同じ鉄系の金属である。
【0018】
リング45の内径は、筒体41における円筒部分42の外径と同一である。リング45は、円筒部分42の外周面に圧入されている。リング45は、フランジ43に対して、ストレーナ本体20側に離れた箇所に位置している。リング45とフランジ43との間の距離は、例えば数mm程度である。筒体41に対するリング45の引き抜き荷重は50N以上である。つまり、筒体41の中心軸線に沿う方向の荷重がリング45に作用しても、その荷重が50N未満であれば、リング45は筒体41に対して相対移動しない。リング45の材質は、筒体41と同じ鉄系の金属である。
【0019】
継手40は、取付溝46を備えている。取付溝46は、リング45とフランジ43と円筒部分42の外周面によって区画されている。なお、取付溝46は、シールリングSを取り付けるためのものである。シールリングSの材質は、ゴム、エラストマー、又は合成樹脂である。すなわち、シールリングSは、弾性変形可能である。シールリングSは、円筒部分42の外周面に密着している。継手40に対して他の配管を接続した状態では、シールリングSは、他の配管の内周面に密着する。つまり、シールリングSは、オイルストレーナ10と他の配管との接続箇所をシールしている。
【0020】
<オイルストレーナの製造方法>
オイルストレーナ10の製造方法を、当該オイルストレーナ10の作用と共に説明する。
【0021】
オイルストレーナ10を製造するにあたっては、先ず継手40を成形する。
図4に示すように、成形前の段階では、筒体41は、小径部分41A及び大径部分41Bを備えている。小径部分41Aは、筒体41の一端を含む部分である。小径部分41Aの外径は、アッパーピース25の流出口26の径と略同一である。大径部分41Bは、筒体41における小径部分41A以外の部分である。大径部分41Bの内径及び外径は、小径部分41Aの内径及び外径よりも大きくなっている。したがって、小径部分41Aと大径部分41Bとの間には、段差41Cが生じている。
【0022】
上記の筒体41のうち、大径部分41Bにおける小径部分41Aとは反対側の端を、プレス加工することにより、フランジ43を成形する。このとき、例えば、大径部分41Bの外周面を金型等で支持しつつ、大径部分41Bにおける小径部分41Aとは反対側の端を治具で外側に折り曲げることで、フランジ43が成形される。
【0023】
次に、筒体41における大径部分41Bの外周面にリング45を圧入する。このとき、リング45がフランジ43に接触しないように、フランジ43に対して数mm程度手前でリング45の移動を止める。これにより、フランジ43、リング45、及び筒体41の外周面によって、取付溝46が区画される。
【0024】
次に、
図5に示すように、継手40に、アッパーピース25を固定する。具体的には、筒体41の小径部分41Aを、アッパーピース25の流出口26に挿入する。このとき、アッパーピース25における流出口26の周囲を、筒体41の段差41Cに突き当てる。この状態で、小径部分41Aの端を、プレス加工する。このプレス加工では、小径部分41Aの端を外側に折り曲げ、段差41Cと小径部分41Aの端とでアッパーピース25を挟み込むようにプレスする。これにより、継手40がアッパーピース25にかしめで固定される。さらに、筒体41の段差41Cの周縁にろう付けをする。
【0025】
次に、アッパーピース25に、エレメント30及びロアーピース21を固定する。先ず、ロアーピース21の周縁上にエレメント30を重ね合わせる。その状態で、ロアーピース21の周縁を、アッパーピース25の周縁に突き当てる。そして、アッパーピース25の周縁をプレス加工する。このプレス加工では、アッパーピース25の周縁を内側へと折り曲げて、二つ折りされたような状態にする。そして、二つ折り状態のアッパーピース25の周縁で、ロアーピース21の周縁及びエレメント30の周縁を挟み込むようにプレスする。これにより、ロアーピース21及びエレメント30が、アッパーピース25にかしめで固定される。さらに、アッパーピース25とロアーピース21との境界部分にろう付けをして、オイルストレーナ10が完成する。
【0026】
なお、シールリングSは弾性変形可能であるため、筒体41にフランジ43を形成した後であれば、どの段階でも継手40に取り付け可能である。例えば、フランジ43を形成した後、リング45を圧入する前に、シールリングSを筒体41に取り付けることができる。また、オイルストレーナ10が完成した後に、シールリングSを取り付けることもできる。
【0027】
<実施形態の効果>
本実施形態の効果について説明する。
(1)上記実施形態では、筒体41のフランジ43は、プレス加工で成形している。そして、筒体41に対してリング45を圧入で固定している。これらプレス加工及び圧入にあたっては特殊な装置は不要であり、低コストな加工方法である。したがって、金属製の継手40であっても最小限のコストでシールリングSの取付溝46を形成できる。
【0028】
(2)上記実施形態では、筒体41の材質とリング45の材質が同じである。つまり、筒体41及びリング45の熱膨張係数も同じである。したがって、筒体41及びリング45の熱膨張量の差によって、筒体41及びリング45が破損したり、リング45が筒体41から脱落したりすることは防げる。
【0029】
(3)上記実施形態では、継手40だけでなくストレーナ本体20も金属製である。したがって、オイルストレーナ10全体として、高い強度を実現できる。
(4)上記実施形態では、筒体41に対するリング45の引き抜き荷重は50N以上である。この引き抜き荷重であれば、継手40に対して他の配管を着脱する際に、リング45が筒体41に対して相対移動する可能性は低い。
【0030】
<変更例>
上記の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0031】
・ストレーナ本体20は、ロアーピース21及びアッパーピース25という2つの部材で構成されていなくてもよい。ストレーナ本体20は、3つ以上の部材が接合されたものであってもよいし、一体的な1つの部材として成形されたものであってもよい。
【0032】
・ストレーナ本体20の形状は問わない。ストレーナ本体20の内部をオイルが流通できるのであれば、例えばオイルパン等の形状に合わせて適宜変更すればよい。
・ストレーナ本体20の材質は、金属に限らず、合成樹脂等であってもよい。
【0033】
・ストレーナ本体20の内部にエレメント30を配置するのに代えて、又は加えて、継手40内にエレメント30を配置してもよい。さらに、エレメント30を省略してもよい。
【0034】
・継手40の寸法は、上記実施形態の例に限らない。例えば、継手40の管長は20mm未満でもよいし、20mmを超えていてもよい。同様に、継手40の壁厚は1mm未満でもよいし1mmを超えていてもよい。ただし、例えば、継手40の管長が30mm以下であると、継手40にプレス加工のみで取付溝46を成形するのは困難である。したがって、継手40の管長が30mm以下の場合、上記実施形態のリング45に関する構成を採用すると、特に好適である。
【0035】
・継手40の形状は円筒形状に限らない。継手40の形状は、筒状であれば、楕円筒形状、多角形筒形状であってもよい。なお、継手40の形状に合わせて、シールリングSの形状も変更すればよい。
【0036】
・ステー50の形状は問わない。オイルストレーナ10を支持する部材の形状及び位置などによって適宜変更すればよい。また、ステー50を複数設けたり、ステー50を省略したりすることも可能である。
【0037】
・リング45の材質は、金属であれば、筒体41の材質と同じでなくてもよい。また、リング45及び筒体41の材質は、鉄系以外の金属、例えば銅、銅合金、アルミニウム合金などであってもよい。
【0038】
・リング45の引き抜き荷重は、適宜変更できる。継手40に接続される他の配管の構造等に応じてリング45の引き抜き荷重を調整すればよい。
・継手40及びストレーナ本体20が、一体的な1つの部材として成形されていてもよい。この場合でも、継手40がストレーナ本体20に連続していれば、継手40は、ストレーナ本体20に接続しているといえる。
【0039】
・筒体41におけるフランジ43の加工方法は、プレス加工に限らない。フランジ43は、筒体41の端の部分であるため、例えば鋳造等であっても簡便にフランジ43を成形できる。
【0040】
・継手40及びストレーナ本体20の固定方法は、かしめに限らない。例えば、両者を溶接で固定することも可能である。同様に、ロアーピース21及びアッパーピース25の固定方法もかしめに限らない。
【0041】
・継手40の製造方法において、フランジ43の成形及びリング45の圧入の順番は変更できる。つまり、リング45を筒体41に圧入した後に、筒体41の端にフランジ43を成形してもよい。この場合、フランジ43が成形される箇所を見越して、リング45の圧入位置を決めればよい。
【符号の説明】
【0042】
10…オイルストレーナ
20…ストレーナ本体
40…継手
41…筒体
43…フランジ
45…リング
46…取付溝
S…シールリング