IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -電気機器の樹脂カバー取付構造 図1
  • -電気機器の樹脂カバー取付構造 図2
  • -電気機器の樹脂カバー取付構造 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電気機器の樹脂カバー取付構造
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/03 20060101AFI20241112BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20241112BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H05K5/03 H
F16J15/10 C
F16J15/10 T
H05K7/20 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021202309
(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公開番号】P2023087823
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆一
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178505(JP,A)
【文献】特開2011-222845(JP,A)
【文献】特開2019-216171(JP,A)
【文献】特開2008-008210(JP,A)
【文献】特開2020-145374(JP,A)
【文献】国際公開第2014/041936(WO,A1)
【文献】特開平09-045851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/03
F16J 15/10
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の発熱部品を収容し、前記発熱部品を冷却するヒートシンクと複数のネジで締結される樹脂カバーの取付構造であって、
前記発熱部品を覆うカバー天井部と、該カバー天井部の外周縁に形成された断面L字状の取付部とを備え、
前記取付部は、前記ネジの軸部が挿通される長孔状の取付孔が形成されたフランジ部を備え、
前記フランジ部と前記ヒートシンクとの間がパッキンによりシールされ、
前記フランジ部は、内周側の肉厚が薄く外周側の肉厚が厚くなるテーパ状に形成されている
ことを特徴とする電気機器の樹脂カバー取付構造。
【請求項2】
前記フランジ部の上面は、内周側から外周側に向かって上り勾配の傾斜面に形成され、
前記取付孔は、前記上面の勾配角度に応じた傾斜角度が施されていることを特徴とする請求項1記載の電気機器の樹脂カバー取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の発熱部品を収容する樹脂カバーの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインバータやスイッチング電源等の電気製品(電気機器)では、電気部品が樹脂カバーに収容され、さらに図1に示すように、スイッチング素子等の電気部品(発熱部品)1を樹脂カバー2とネジ3とで接続したアルミヒートシンク4に接合させて冷却する構造が用いられている。
【0003】
このとき樹脂カバー2の外周縁にはL字状に折曲形成された取付部2aが形成されている。この取付部2aのフランジ部2bには、ネジ3の軸部が挿通される図示省略の取付孔が形成されている。この取付孔を通じて前記軸部が前記ヒートシンク4のネジ孔に締結されている。
【0004】
ところが、フランジ部2bは周囲の温度変化に応じた熱膨張などにより圧縮・収縮するため、前記取付孔の周辺で割れや変形が生じるおそれがある。この点を防止する技術として、特許文献1の取付構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平02-93185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の取付構造は、前記取付孔を熱変形(膨張・収縮)し易い方向にスライド可能な長孔に形成することにより、樹脂部品(フランジ部2bに相当)の熱変形を長孔で吸収している。
【0007】
しかしながら、フランジ部2bの肉厚が大きい場合には、図1中の矢印Pに示す平面方向だけでなく、矢印Q方向に示す肉厚方向への伸縮(圧縮・収縮など)が発生する。また、図1中のフランジ部2bは、リング状のパッキン5にシールされた防水構造が施されている。
【0008】
この防水構造では、フランジ部2bの固定の際にパッキン5を一定の圧力で締め付ける必要があるため、温度変化などによる肉厚方向の伸縮が問題となる。すなわち、低温時には伸縮したフランジ部2bによってパッキン5の抑え力が低下する一方、高温時にはネジ3が膨張したフランジ部2bに食い込んで変形するおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、使用温度環境が広い電気機器の樹脂カバーの取付構造において、温度変化による樹脂カバーの肉厚方向の伸縮による影響を抑制することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、電気機器の発熱部品を収容し、前記発熱部品を冷却するヒートシンクと複数のネジで締結される樹脂カバーの取付構造であって、
前記発熱部品を覆うカバー天井部と、該カバー天井部の外周縁に形成された断面L字状の取付部とを備え、
前記取付部は、前記ネジの軸部が挿通される長孔状の取付孔が形成されたフランジ部を備え、
前記フランジ部と前記ヒートシンクとの間がパッキンによりシールされ、
前記フランジ部は、内周側の肉厚が薄く外周側の肉厚が厚くなるテーパ状に形成されていることを特徴としている。
【0011】
(2)本発明の一態様は、前記フランジ部の上面を内周側から外周側に向かって上り勾配の傾斜面に形成し、前記取付孔を前記上面の勾配角度に応じた傾斜角度を施したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用温度環境が広い電気機器の樹脂カバーの取付構造において、温度変化による樹脂カバーの肉厚方向の伸縮による影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の樹脂カバーの外周縁を示す部分断面図。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂カバーの部分図。
図3】同 樹脂カバーの外周縁を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図2および図3に基づき本発明の実施形態に係る電気機器の樹脂カバー取付構造を説明する。ここでは図1と同じ構成は、同一の符号を用いて説明する。
【0015】
図2中の10は、本実施形態に係る樹脂カバーを示している。この樹脂カバー10は、従来の樹脂カバー2と同様にインバータやスイッチング電源等の電気部品(発熱部品)1を収容している。ここでは発熱部品1を樹脂カバー2内にてアルミヒートシンク4に接合させて冷却する構成を採用している。
【0016】
具体的には樹脂カバー10は、図2および図3に示すように、前記発熱部品1を覆うカバー天井部12aと、カバー天井部12aの外周縁に断面L字状に折曲形成された取付部12bとを有している。この取付部12bは、前記外周縁に立設された脚部12cと、該脚部12cの先端から外周方向に延設されたフランジ部12dとを備えている。そして、カバー天井部12aと取付部12bによって形成された樹脂カバー10の内部空間に、発熱部品1が収容される。
【0017】
フランジ部12dには、前記ヒートシンク4にネジ止めするための複数の取付孔が所定間隔をおいて形成されている(図2参照)。また、図3に示すように、フランジ部12dの下面(前記ヒートシンク4との対向面)には凹溝13が周設されているとともに、凹溝13内にはリング状に形成された防水用のパッキン5が装着されている。
【0018】
この装着状態のまま取付孔12eに挿通されたネジ3の軸部を前記ヒートシンク4のネジ孔(図示省略)に締結することにより、フランジ部12dが前記ヒートシンク4に固定される。ここではフランジ部12dによりパッキン5を一定圧力で押圧することで両者4,12d間をシールする防水構造となっている。
【0019】
取付孔12eは、特許文献1と同様に楕円形状の長孔に形成され、熱変形のし易い方向、即ち図2中のカバー天井部12aの中心から放射状の平面方向に沿って長軸を配置した構造が採用され、前記熱変形のし易い平面方向にスライド可能となっている。
【0020】
また、フランジ部12dは、内周側(P1側)の肉厚が薄く外周側(P2側)の肉厚が厚くなるテーパ構造に形成されている。したがって、フランジ部12dの上面12fは、内周側から外周側に向かって上り勾配の傾斜面(テーパ面)に形成されている。
【0021】
ただし、図2中では、前記テーパ構造を分かり易くするため、前記勾配の角度を大きく表現しているが、実際には樹脂の線膨張係数と使用温度範囲並びに樹脂カバー10のサイズ・取付孔12e部分(周囲)の肉厚に応じた熱変形(圧縮・伸縮)の程度などによって前記テーパ構造の形状を定める。
【0022】
例えば樹脂の線膨張係数は「9×10-5/℃」とし、使用温度範囲「-40℃~80℃」、樹脂カバー10の取付孔12e間の最長距離「300mm」、取付孔12e部分の肉厚「6mm」とした場合は、以下のようにする。
【0023】
・温度変化範囲:80℃-(-40℃)=120℃
・平面方向(図3中の矢印P方向)の圧縮・伸縮の寸法:9×10-5×120℃×300mm=3.24mm
・肉厚方向(同矢印Q方向)の圧縮・伸縮の寸法:9×10-5×120℃×6mm=0.0648mm
・長孔(取付孔12e)の長軸方向の長さ:標準孔サイズ+(3.24/2)以上
・長孔(取付孔12e)の最も外周側(P2側)部分の肉厚-長孔の最も内周側(P1側)部分の肉厚=0.0648mm以上
このときネジ3の締結による頭部の締付係合を容易にするため、前記ネジ孔にはフランジ部12dのテーパ面12fと同じ傾斜角度が施されている。この樹脂カバー10の取付構造によれば、以下の効果を得ることができる。
【0024】
(1)すなわち、発熱部品1の熱などにより周囲の温度が上昇・下降した場合、フランジ部12dが矢印Pに示す平面方向に熱変形しようとする。このときフランジ部12dの取付孔12eは、特許文献1と同様に平面方向にスライド可能な長孔に形成されているため、同方向の熱変形を吸収することができる。
【0025】
(2)また、フランジ部12dの肉厚が大きいと、併せて矢印Qに示す肉厚方向への熱変形も発生する。例えばフランジ部12dが高温となって膨張した際には、取付孔12e中のネジ3の固定部分が内側(P1側)に寄る。
【0026】
このときフランジ部12dの内周側の肉厚は外周側に比べて線膨張係数に応じて予め薄肉状となっているため、膨張分と相殺して肉厚の変化が生じない。そのため、ネジ3によるフランジ部12dを抑える力は変化しなく、パッキン5の圧縮力は一定をキープする。
【0027】
一方、フランジ部12dが低温となって収縮した際には、取付孔12e中のネジ3の固定部分が外側(P2側)に寄る。このときフランジ部12dの外周側の肉厚は、内周側と比べて線膨張係数に応じて予め厚くなっているため、収縮分と相殺して肉厚が変化しない。そのため、ネジ3によるフランジ部12dを抑える力は変化しなく、パッキン5の圧縮力は一定をキープする。
【0028】
このように樹脂カバー10の構造によれば、電気機器の想定された温度変化範囲(常用温度)において、フランジ部12dのネジ固定部分について肉厚が変化しないため、パッキン5を抑える力が変化しなく、どの温度でも一定の防水効果を維持することが可能となる。
【0029】
また、フランジ部12dにネジ3の頭部が食い込むなどの変形が発生するおそれも回避することができる。その結果、温度変化に応じた樹脂カバー10の平面方向の伸縮によるネジ固定部分への影響のみならず、肉厚方向の伸縮による影響も防止することが可能となる。
【0030】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…電気部品(発熱部品)
3…ネジ
4…アルミヒートシンク
5…パッキン
10…樹脂カバー
12a…カバー天井部
12b…取付部
12c…脚部
12d…フランジ部
12e…取付孔
12f…フランジ部の上面
13…凹溝
図1
図2
図3