IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハイブリッド車 図1
  • 特許-ハイブリッド車 図2
  • 特許-ハイブリッド車 図3
  • 特許-ハイブリッド車 図4
  • 特許-ハイブリッド車 図5
  • 特許-ハイブリッド車 図6
  • 特許-ハイブリッド車 図7
  • 特許-ハイブリッド車 図8
  • 特許-ハイブリッド車 図9
  • 特許-ハイブリッド車 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ハイブリッド車
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20241112BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241112BHJP
   B60K 6/50 20071001ALI20241112BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241112BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241112BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20241112BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20241112BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60K6/50
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60W20/10
F16H61/02
B60L50/16
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021210157
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023094705
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088576(WO,A1)
【文献】特開2018-079877(JP,A)
【文献】国際公開第2018/078803(WO,A1)
【文献】特開2012-097811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F16H 61/02
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにクラッチを介して接続されたモータと、
前記モータに接続されたポンプインペラとタービンランナとを有するトルクコンバータと、
前記タービンランナに接続された入力軸と駆動輪に接続された出力軸とを有する変速機と、
前記モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードのときには、要求トルクに基づく目標トルクが前記モータの最大トルク以下の範囲内で前記トルクコンバータに入力されるように前記モータを制御し、前記電動走行モードで始動条件が成立すると、前記クラッチのスリップ係合および前記モータのアシスト制御による前記エンジンのクランキングを伴って前記エンジンを始動する始動処理を実行する制御装置と、
を備えるハイブリッド車であって、
前記制御装置は、前記電動走行モードのときには、前記モータの回転数と前記タービンランナの回転数と前記要求トルクとに基づいて、前記アシスト制御を終了するときの前記モータの回転数の予測値である終了時予測回転数を演算し、
更に、前記制御装置は、前記電動走行モードで前記アシスト制御の開始前および実行中は、前記要求トルクを上限トルクで上限ガードして得られるガード後要求トルクに基づいて前記目標トルクを設定し、
更に、前記制御装置は、前回に前記要求トルクが前記終了時予測回転数に基づくベース上限トルク以下で且つ今回に前記要求トルクが前記ベース上限トルクよりも大きくなった以降は、横軸を時間、縦軸をトルクとしたときの、前回の前記要求トルクと今回の前記要求トルクとを結ぶ第1直線と、前回の前記ベース上限トルクと今回の前記ベース上限トルクとを結ぶ第2直線と、の交点のトルクで前記上限トルクを保持する、
ハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車としては、エンジンに第1クラッチを介してモータを接続すると共にモータに第2クラッチおよび無段変速機を介して駆動輪を接続したハイブリッド車において、制御装置は、モータを駆動源とする電気自動車モードのときに、エンジンの始動判定が出されると、モータを用いてエンジンのクランキング始動を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車では、制御装置は、電気自動車モードのときに、車両の加速度と無段変速機の変速比とタイヤ径と始動時間とに基づいてクランキング始動中の予測モータ回転上昇量を求め、求めた予測回転上昇量を現在のモータ回転数に加えて目標モータ回転数を求め、目標モータ回転数で実現できるトルクが要求トルク以下になると、エンジンの始動判定を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/078803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたハイブリッド車では、制御装置の演算周期などにより、アクセル操作量が急峻に増加して要求トルクが急峻に増加するときなどに、エンジンの始動判定を行なって始動処理(クランキング始動)を実行している最中に要求トルクが比較的大きくなる場合がある。この場合、始動処理中に、モータの最大トルクの制限により、モータから走行用のトルクとクランキング用のトルクとの和のトルクを十分に出力することができずに、走行用のトルクが低下する可能性がある。
【0005】
本発明のハイブリッド車は、エンジンの始動処理中に走行用のトルクが低下するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車は、
エンジンと、
前記エンジンにクラッチを介して接続されたモータと、
前記モータに接続されたポンプインペラとタービンランナとを有するトルクコンバータと、
前記タービンランナに接続された入力軸と駆動輪に接続された出力軸とを有する変速機と、
前記モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードのときには、要求トルクに基づく目標トルクが前記モータの最大トルク以下の範囲内で前記トルクコンバータに入力されるように前記モータを制御し、前記電動走行モードで始動条件が成立すると、前記クラッチのスリップ係合および前記モータのアシスト制御による前記エンジンのクランキングを伴って前記エンジンを始動する始動処理を実行する制御装置と、
を備えるハイブリッド車であって、
前記制御装置は、前記電動走行モードのときには、前記モータの回転数と前記タービンランナの回転数と前記要求トルクとに基づいて、前記アシスト制御を終了するときの前記モータの回転数の予測値である終了時予測回転数を演算し、
更に、前記制御装置は、前記電動走行モードで前記アシスト制御の開始前および実行中は、前記要求トルクを上限トルクで上限ガードして得られるガード後要求トルクに基づいて前記目標トルクを設定し、
更に、前記制御装置は、前回に前記要求トルクが前記終了時予測回転数に基づくベース上限トルク以下で且つ今回に前記要求トルクが前記ベース上限トルクよりも大きくなった以降は、横軸を時間、縦軸をトルクとしたときの、前回の前記要求トルクと今回の前記要求トルクとを結ぶ第1直線と、前回の前記ベース上限トルクと今回の前記ベース上限トルクとを結ぶ第2直線と、の交点のトルクで前記上限トルクを保持する、
ことを要旨とする。
【0008】
本発明のハイブリッド車では、制御装置は、モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードのときには、要求トルクに基づく目標トルクがモータの最大トルク以下の範囲内でトルクコンバータに入力されるようにモータを制御し、電動走行モードで始動条件が成立すると、クラッチのスリップ係合およびモータのアシスト制御によるエンジンのクランキングを伴ってエンジンを始動する始動処理を実行する。この場合に、制御装置は、電動走行モードのときには、モータの回転数とタービンランナの回転数と要求トルクとに基づいて、アシスト制御を終了するときのモータの回転数の予測値である終了時予測回転数を演算する。更に、制御装置は、電動走行モードでアシスト制御の開始前および実行中は、要求トルクを上限トルクで上限ガードして得られるガード後要求トルクに基づいて目標トルクを設定する。更に、制御装置は、前回に要求トルクが終了時予測回転数に基づくベース上限トルク以下で且つ今回に要求トルクがベース上限トルクよりも大きくなった以降は、横軸を時間、縦軸をトルクとしたときの、前回の要求トルクと今回の要求トルクとを結ぶ第1直線と、前回のベース上限トルクと今回のベース上限トルクとを結ぶ第2直線と、の交点のトルクで上限トルクを保持する。これにより、今回の要求トルク(要求トルクがベース上限トルクよりも大きくなったときの要求トルク)で上限トルクを保持する場合に比して、上限トルクが小さいから、エンジンの始動処理として、モータから目標トルクとアシスト制御のアシストトルクとの和のトルクを出力しようとするときに、この和のトルクがモータの最大トルクよりも大きくなる即ちモータからこの和のトルクを出力できなくなるのを抑制することができる。この結果、始動処理中、特にアシスト制御中に、走行用のトルクが低下するのを抑制することができる。また、電動走行モードで、始動処理を実行していないときに、走行のトルクが大きくなり過ぎるのを抑制し、始動処理中、特にアシスト制御中に、モータからのトルクが不足して加速ショックを生じるのを抑制することもできる。ここで、前記ベース上限トルクは、前記終了時予測回転数に対応する前記最大トルクである終了時予測最大トルクよりも前記アシスト制御のアシストトルクだけ小さい第1トルク、または、前記第1トルクよりもマージンだけ小さい第2トルクであるものとしてもよい。
【0009】
本発明のハイブリッド車において、前記制御装置は、前記交点のトルクを前記上限トルクに設定した以降において、現在の前記上限トルクよりも前記ベース上限トルクが大きいときには、前記ベース上限トルクを前記上限トルクに設定するものとしてもよい。こうすれば、ベース上限トルクが大きくなったときに、それに伴って上限トルクを大きくすることができる。
【0010】
本発明のハイブリッド車において、前記制御装置は、前記要求トルクが前記ベース上限トルク以下のときには、前記ベース上限トルクを前記上限トルクに設定するものとしてもよい。
【0011】
本発明のハイブリッド車において、前記始動条件は、前記要求トルクがトルク閾値以上である始動用トルク条件を含み、前記トルク閾値は、前記終了時予測回転数に対応する前記最大トルクである終了時予測最大トルクに基づく値であるものとしてもよい。
【0012】
本発明のハイブリッド車において、前記制御装置は、前記タービンランナの回転数変化率に基づいて前記終了時予測回転数を演算するものとしてもよい。こうすれば、終了時予測回転数をより適切に演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】バッテリ36の出力制限Woutが或る値のときのモータ30の回転数Nmと最大トルクTmmaxとの関係の一例を示す説明図である。
図3】HVECU70により実行される始動判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図4】HVECU70により実行される上限トルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】HVECU70により実行される終了時予測回転数演算ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図6】始動遅延時間推定用マップの一例を示す説明図である。
図7】実施例のエンジン22を始動する際の様子の一例を示すタイムチャートである。
図8】第1比較例のエンジン22を始動する際の様子の一例を示すタイムチャートである。
図9】HVECU70により実行される上限トルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図10】エンジン22を始動する際の上限トルクTimaxなどの様子の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド車20は、図示するように、エンジン22と、モータ30と、インバータ32と、バッテリ36と、クラッチK0と、トルクコンバータ40と、自動変速機42と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、燃料タンクからのガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン22のクランクシャフト23は、クラッチK0を介してモータ30の回転軸31(回転子)に接続されている。エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により運転制御されている。
【0017】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト23の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する図示しない水温センサからのエンジン22の冷却水温Twを挙げることができる。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、スロットルバルブへの制御信号や、燃料噴射弁への制御信号、点火プラグへの制御信号を挙げることができる。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算している。
【0018】
モータ30は、同期発電電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを有する。このモータ30の回転子が固定された回転軸31は、クラッチK0を介してエンジン22のクランクシャフト23に接続されていると共にトルクコンバータ40に接続されている。インバータ32は、モータ30の駆動に用いられると共に電力ライン37に接続されている。モータ30は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)34によってインバータ32の複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0019】
モータECU34は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。モータECU34には、モータ30を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。モータECU34に入力される信号としては、例えば、モータ30の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmや、モータ30の各相の相電流を検出する電流センサからのモータ30の各相の相電流Iu,Ivを挙げることができる。モータECU34からは、インバータ32への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU34は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU34は、回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmに基づいて、モータ30の電気角θeや角速度ωm、回転数Nmを演算している。
【0020】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、インバータ32と共に電力ライン37に接続されている。
【0021】
クラッチK0は、例えば油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されており、HVECU70によって制御され、エンジン22のクランクシャフト23とモータ30の回転軸31との接続および接続の解除を行なう。
【0022】
トルクコンバータ40は、一般的な流体伝動装置として構成されており、モータ30の回転軸31の動力を自動変速機42の入力軸43にトルクを増幅して伝達したり、トルクを増幅することなくそのまま伝達したりする。このトルクコンバータ40は、モータ30の回転軸31に接続された入力側のポンプインペラ40pと、自動変速機42の入力軸43に接続された出力側のタービンランナ40tと、タービンランナ40tからポンプインペラ40pへの作動油の流れを整流するステータと、ステータの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチと、ポンプインペラ40pとタービンランナ40tとの連結および連結の解除を行なう油圧駆動のロックアップクラッチ40cとを有する。
【0023】
自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されており、入力軸43と、駆動輪49にデファレンシャルギヤ48を介して連結された出力軸44と、複数の遊星歯車と、油圧駆動の複数の摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキ)とを有する。自動変速機42は、複数の摩擦係合要素の係脱により、第1速から第6速までの前進段や後進段を形成して、入力軸43と出力軸44との間で動力を伝達する。
【0024】
クラッチK0やロックアップクラッチ40c、自動変速機42には、図示しない油圧制御装置により、機械式オイルポンプや電動オイルポンプからの作動油の油圧が調圧されて供給される。油圧制御装置は、複数の油路が形成されたバルブボディや、複数のレギュレータバルブ、複数のリニアソレノイドバルブなどを有する。この油圧制御装置は、HVECU70により制御される。
【0025】
HVECU70は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからのバッテリ36の電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ib、バッテリ36に取り付けられた温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbを挙げることができる。自動変速機42の入力軸43に取り付けられた回転数センサ43aからの入力軸43の回転数Nin(タービンランナ40tの回転数Nt)や、自動変速機42の出力軸44に取り付けられた回転数センサ44aからの出力軸44の回転数Noutも挙げることができる。イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPも挙げることができる。アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ87からの車速V、加速度センサ88からの加速度αも挙げることができる。
【0026】
HVECU70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。HVECU70から出力される信号としては、例えば、油圧制御装置(クラッチK0や、トルクコンバータ40のロックアップクラッチ40c、自動変速機42)への制御信号も挙げることができる。HVECU70は、エンジンECU24やモータECU34と通信ポートを介して接続されている。
【0027】
HVECU70は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibに基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbとに基づいてバッテリ36の許容出力電力としての出力制限Woutを演算したりしている。
【0028】
こうして構成された実施例のハイブリッド車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御により、ハイブリッド走行モード(HV走行モード)や電動走行モード(EV走行モード)で走行するように、エンジン22とクラッチK0とモータ30とトルクコンバータ40(ロックアップクラッチ40c)と自動変速機42とを制御する。ここで、HV走行モードは、クラッチK0を係合状態としてエンジン22やモータ30からの動力を用いて走行するモードであり、EV走行モードは、クラッチK0を解放状態としてモータ30からの動力だけを用いて走行するモードである。
【0029】
HV走行モードやEV走行モードにおける自動変速機42の制御では、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機42の目標変速段M*を設定し、自動変速機42の変速段Mと目標変速段M*とが一致するときには、変速段Mが保持されるように自動変速機42を制御し、変速段Mと目標変速段M*とが異なるときには、変速段Mが目標変速段M*に一致するように自動変速機42を制御する。また、HV走行モードやEV走行モードにおけるロックアップクラッチ40cの制御では、モータ30の回転数Nmなどに基づいてロックアップクラッチ40cを制御する。
【0030】
HV走行モードにおけるエンジン22およびモータ30の制御では、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて、自動変速機42の出力軸44に要求される要求トルクTorqを設定する。なお、アクセル開度Accが値0で且つ極低車速では、クリープトルクを要求トルクTorqに設定する。続いて、モータ30の回転数Nmを自動変速機42の出力軸44の回転数Noutで除してトルクコンバータ40および自動変速機42の回転数比Gtを演算し、要求トルクTorqを回転数比Gtで除して、トルクコンバータ40の入力側(モータ30の回転軸31)に要求される要求トルクTirqを演算する。そして、要求トルクTirqになまし処理を施して目標トルクTitgを設定し、設定した目標トルクTitgがモータ30の最大トルクTmmaxの範囲内でトルクコンバータ40に入力されるようにエンジン22の目標トルクTe*やモータ30のトルク指令Tm*を設定し、エンジン22の目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共にモータ30のトルク指令Tm*をモータECU34に送信する。具体的には、モータ30のトルク指令Tm*は、モータ30の最大トルクTmmax以下の範囲内で設定される。最大トルクTmmaxは、実施例では、モータ30の定格最大トルクTmrtと、バッテリ36の出力制限Woutをモータ30の回転数Nmで除して得られるバッテリ起因最大トルクTmbtと、のうちの小さい方が用いられる。図2は、バッテリ36の出力制限Woutが或る値のときのモータ30の回転数Nmと最大トルクTmmaxとの関係の一例を示す説明図である。エンジンECU24は、目標トルクTe*を受信すると、エンジン22が目標トルクTe*で運転されるようにエンジン22の運転制御(吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御など)を行なう。モータECU34は、トルク指令Tm*を受信すると、モータ30がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ32の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。このHV走行モードでは、エンジン22の停止条件が成立すると、エンジン22の停止処理を実行し、エンジン22の停止が完了すると、EV走行モードに移行する。
【0031】
EV走行モードにおけるモータ30の制御では、HVECU70は、最初に、HV走行モードと同様にトルクコンバータ40の入力側の要求トルクTirqを設定し、設定した要求トルクTirqに基づいて目標トルクTitgを設定する。この場合の目標トルクTitgの設定方法については後述する。続いて、目標トルクTitgがモータ30の最大トルクTmmaxの範囲内でトルクコンバータ40に入力されるようにモータ30のトルク指令Tm*を設定してモータECU34に送信する。モータECU34によるインバータ32の制御については上述した。このEV走行モードでは、エンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22の始動処理を実行し、エンジン22の始動が完了すると、HV走行モードに移行する。
【0032】
エンジン22の始動処理では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御によって、クラッチK0のスリップ係合(半係合)およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22をクランキングし、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに十分に接近して(両者の回転数差分が所定値以下に至って)クラッチK0を完全係合した以降に、エンジン22の燃料噴射や点火を開始すると共にモータ30のアシスト制御を終了し、エンジン22が完爆すると、エンジン22の始動が完了したと判定する。ここで、アシスト制御では、目標トルクTitgとアシスト制御のアシストトルクTmasとの和のトルク(Titg+Tmas)を最大トルクTmmaxで上限ガードしてモータ30のトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*を用いてモータ30(インバータ32)を制御する。アシストトルクTmasは、実験や解析、機械学習などにより定められる。
【0033】
実施例では、EV走行モードのときにおいて、エンジン22の始動条件が成立していないときや、始動条件が成立していて且つアシスト制御の開始前および実行中であるときには、要求トルクTirqを上限トルクTimaxで上限ガードしてガード後要求トルクTirqgdを設定し、設定したガード後要求トルクTirqgdに上述のなまし処理を施して目標トルクTitgを設定する。上限トルクTimaxの設定方法については後述する。一方、アシスト制御を終了しているときには、HV走行モードと同様に、要求トルクTirqになまし処理を施して目標トルクTitgを設定する。
【0034】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド車20の動作、特に、エンジン22の始動条件が成立しているか否かを判定する動作や、トルクコンバータ40の入力側の上限トルクTimaxを設定する動作について説明する。図3は、HVECU70により実行される始動判定ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図4は、HVECU70により実行される上限トルク設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。以下、順に説明する。
【0035】
図3の始動判定ルーチンについて説明する。このルーチンは、EV走行モードのときに繰り返し実行される。このルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、トルクコンバータ40の入力側(モータ30の回転軸31)の要求トルクTirqや、モータ30の終了時予測回転数Nmasなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、要求トルクTirqは、EV走行モードの制御に関する部分で説明した方法により設定された値が入力される。モータ30の終了時予測回転数Nmasは、エンジン22の始動条件が直ちに成立すると仮定した場合の、アシスト制御を終了するとき(タイミング)のモータ30の回転数の予測値であり、HVECU70によって実行される図5の終了時予測回転数演算ルーチンにより演算された値が入力される。以下、図3の始動判定ルーチン説明を中断し、図5の終了時予測回転数演算ルーチンについて説明する。
【0036】
図5の終了時予測回転数演算ルーチンは、HVECU70により、EV走行モードのときに、図3の始動判定ルーチンと並行して繰り返し実行される。このルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、モータ30の角速度ωmや回転数Nm、タービンランナ40tの回転数Nt、トルクコンバータ40の入力側(モータ30の回転軸31)の要求トルクTirqや目標トルクTitgなどのデータを入力する(ステップS300)。ここで、モータ30の角速度ωmや回転数Nmは、回転位置センサ30aからのモータ30の回転位置θmに基づいて演算された値がモータECU34から通信により入力される。タービンランナ40tの回転数Ntは、回転数センサ43aにより検出された値が入力される。要求トルクTirqや目標トルクTitgは、EV走行モードの制御に関する部分で説明した方法により設定された値が入力される。
【0037】
こうしてデータを入力すると、変数iに値0を設定し(ステップS310)、モータ30の角速度ωmや回転数Nm、タービンランナ40tの回転数Nt、目標トルクTitgを、モータ30の予測角速度ωmes[i]や予測回転数Nmes[i]、タービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]、予測目標トルクTitges[i]に設定する(ステップS320)。ここで、予測角速度ωmes[i]や予測回転数Nmes[i]、予測回転数Ntes[i]、予測目標トルクTitges[i]は、変数iが値0のときには、後述のループ演算処理で用いる初期値を意味し、変数iが自然数のときには、ループ演算処理における、所定時間Δtと変数iとの積の時間(Δt・i)が経過したときの予測値(将来値)を意味する。所定時間Δtは、例えば、数十msec程度を用いることができる。なお、ステップS310の処理において、予測目標トルクTitges[i]には、目標トルクTitgに代えて、前回の要求トルク(前回Tirq)や、モータ30の電気角θeや各相の相電流Iu,Ivに基づいて推定されるモータ30のトルクを設定するものとしてもよい。
【0038】
続いて、エンジン22の始動処理におけるアシスト制御の実行時間tasを所定時間Δtで除してループ予定回数Nlpを演算し(ステップS340)、変数iがループ予定回数Nlp以上に至るまで、ループ演算処理を実行する(ステップS350~S410)。ここで、アシスト制御の実行時間tasは、実験や解析、機械学習などにより定められ、例えば、数百msec程度を用いることができる。
【0039】
ループ演算処理では、最初に、変数iを値1だけカウントアップして更新し(ステップS350)、式(1)に示すように、要求トルクTirqと(i-1)回目の予測目標トルクTitges[i-1]となまし定数Ksとを用いて、i回目の予測目標トルクTitges[i]を演算する(ステップS360)。この予測目標トルクTitges[i]は、要求トルクTirqに基づく目標トルクTitgの予測値(将来値)を略模擬したものとして考えることができる。
【0040】
Titges[i]=(Tirq-Titges[i-1])/Ks+Titges[i-1] (1)
【0041】
続いて、式(2)に示すように、(i-1)回目のモータ30の予測回転数Nmes[i-1]と(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]とタービンランナ40tの容量係数Ctとを用いて、i回目のトルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]を演算する(ステップS370)。ここで、トルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]は、EV走行モードのときに、自動変速機42側からトルクコンバータ40の入力側(モータ30の回転軸31)に作用する反力トルクの予測値である。
【0042】
Ttc[i]=Ct・(Ntes[i-1]/Nmes[i-1])・Nmes[i-1]2 (2)
【0043】
そして、式(3)に示すように、(i-1)回目のモータ30の予測角速度ωmes[i-1]とi回目の予測目標トルクTitges[i]とi回目のトルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]とロックアップクラッチ40cのトルクTlupとモータ30のイナーシャImとトルクコンバータ40のイナーシャItcと所定時間Δtとを用いて、i回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]を演算する(ステップS380)。実施例では、EV走行モードでの走行中には、ロックアップクラッチ40cを解放するものとし、式(3)において、ロックアップクラッチ40cのトルクTlupとして値0を用いるものとした。モータ30のイナーシャImおよびトルクコンバータ40のイナーシャItcは、実験や解析により定めた値を用いることができる。
【0044】
ωmes[i]=ωmes[i-1]+[(Titges[i]-Ttc[i]-Tlup)/(Im+Itc)]・Δt (3)
【0045】
こうしてi回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]を演算すると、式(4)により、i回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]をi回目のモータ30の予測回転数Nmes[i]に換算する(ステップS390)。続いて、変数iがループ予定回数Nlp以上であるか否かを判定する(ステップS400)。この処理は、ループ演算処理(ステップS350~S410)を継続するか終了するかを判定する処理である。
【0046】
Nmes[i]=ωmes[i]・30/π (4)
【0047】
ステップS400で変数iがループ予定回数Nlp未満であると判定したときには、ループ演算処理を継続すると判断し、式(5)に示すように、(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]とタービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtと所定時間Δtとを用いて、タービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算して(ステップS410)、ステップS350に戻る。ここで、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtは、タービンランナ40tの回転数の単位時間当たりの予測変化量であり、例えば、加速度センサ88からの加速度αや自動変速機42の変速段Mなどに基づく値を用いることができる。
【0048】
Ntes[i]=Ntes[i-1]+dNt/dt・Δt (5)
【0049】
こうしてステップS350~S410の処理を繰り返し実行して、ステップS400で変数iがループ予定回数Nlp以上であると判定すると、ループ演算処理を終了すると判断し、そのときのモータ30の予測回転数Nmes[i]をモータ30の終了時予測回転数Nmasに設定して(ステップS420)、本ルーチンを終了する。このようにして、モータ30の終了時予測回転数Nmas、即ち、モータ30によるアシスト制御を終了するときのモータ30の予測回転数をより適切に演算することができる。発明者らは、このことを解析などにより確認した。
【0050】
図3の始動判定ルーチンの説明に戻る。ステップS100の処理でデータを入力すると、入力したモータ30の終了時予測回転数Nmasに基づいて、モータ30の終了時予測最大トルクTmmaxasを設定する(ステップS110)。ここで、モータ30の終了時予測最大トルクTmmaxasは、アシスト制御を終了するときのモータ30の最大トルクTmmaxの予測値である。実施例では、上述の図2のマップの横軸を回転数Nmから終了時予測回転数Nmasに置き換えると共に縦軸を最大トルクTmmaxから終了時予測最大トルクTmmaxasに置き換えたマップに、終了時予測回転数Nmasを適用して終了時予測最大トルクTmmaxasを設定するものとした。
【0051】
続いて、設定したモータ30の終了時予測最大トルクTmmaxasからモータ30のアシストトルクTmasとマージンΔTmとを減じたトルクを、上限トルクTimaxのベース値であるベース上限トルクTimaxbsに設定し(ステップS120)、設定したベース上限トルクTimaxbsをトルク閾値Tstに設定する(ステップS130)。ここで、マージンΔTmは、実験や解析、機械学習により定められる。なお、マージンΔTmを用いない(値0とする)ものとしてもよい。
【0052】
こうしてトルク閾値Tstを設定すると、エンジン22の始動条件が成立しているか否かを判定する(ステップS140,S142)。実施例では、要求トルクTirqがトルク閾値Tstよりも大きい始動用トルク条件が成立しているか否かを判定すると共に(ステップS140)、始動用別条件が成立しているか否かを判定する(ステップS142)。始動用別条件としては、例えば、バッテリ36の蓄電割合SOCが蓄電割合閾値Sref未満である条件や、図示しない空調装置による暖房要求が行なわれている条件などを挙げることができる。
【0053】
ステップS140で要求トルクTirqがトルク閾値Tst以下であり即ち始動用トルク条件が成立していないと判定し、且つ、ステップS142で始動用別条件が成立していないと判定したときには、エンジン22の始動条件が成立していないと判定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。この場合、EV走行モードを継続する。
【0054】
ステップS140で要求トルクTirqがトルク閾値Tstよりも大きいとき即ち始動用トルク条件が成立していると判定したときや、ステップS142で始動用別条件が成立していると判定したときには、エンジン22の始動条件が成立していると判定して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。この場合、エンジン22の始動処理を実行し、エンジン22の始動が完了すると、HV走行モードに移行する。
【0055】
次に、図4の上限トルク設定ルーチンについて説明する。このルーチンは、EV走行モードで、エンジン22の始動条件が成立していないときや、始動条件が成立していて且つアシスト制御を開始前および実行中であるときに、図3の始動判定ルーチンなどと並行して繰り返し実行される。このルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、前回および今回の要求トルク(前回Tirq),(今回Tirq)や、前回および今回のベース上限トルク(前回Timaxbs),(今回Timaxbs)などのデータを入力する(ステップS200)。ここで、前回および今回の要求トルク(前回Tirq),(今回Tirq)は、EV走行モードの制御に関する部分で説明した設定方法により前回および今回に設定された値が入力される。前回および今回のベース上限トルク(前回Timaxbs),(今回Timaxbs)は、図3の始動判定ルーチンにより前回および今回に設定された値が入力される。
【0056】
こうしてデータを入力すると、入力した今回の要求トルク(今回Tirq)を今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)と比較する(ステップS210)。上述したように、図3の始動判定ルーチンのステップS130の処理で、今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)を今回のトルク閾値(今回Tst)に設定するから、ステップS210の処理は、図3の始動判定ルーチンのステップS140の処理(始動用トルク条件が成立しているか否かを判定する処理)と同様の処理であると考えることができる。
【0057】
ステップS210で今回の要求トルク(今回Tirq)が今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)以下のときには、始動用トルク条件が成立していないと判定し、今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)を上限トルクTimaxに設定して(ステップS220)、本ルーチンを終了する。この場合の上限トルクTimaxは、トルク閾値Tstに等しくなる。
【0058】
ステップS210で今回の要求トルク(今回Tirq)が今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)よりも大きいときには、前回の要求トルク(前回Tirq)を前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)と比較する(ステップS230)。この処理は、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きくなった直後である(始動用トルク条件の成立が開始した直後である)か否かを判定する処理である。
【0059】
ステップS230で前回の要求トルク(前回Tirq)が前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)以下のときには、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きくなった直後である(始動用トルク条件の成立が開始した直後である)と判定する。そして、前回および今回の要求トルク(前回Tirq),(今回Tirq)と前回および今回のベース上限トルク(前回Timaxbs),(今回Timaxbs)とを用いて上限トルクTimaxを設定して(ステップS240)、本ルーチンを終了する。図6は、この場合の上限トルクTimaxの設定の様子の一例を示す説明図である。図示するように、この場合、横軸を時間、縦軸を要求トルクTirqやベース上限トルクTimaxbsとしたときの、前回の要求トルク(前回Tirq)と今回の要求トルク(今回Tirq)とを結ぶ直線L1と、前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)と今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)とを結ぶ直線L2と、の交点のトルク(図中、点A参照)を上限トルクTimaxに設定する。具体的には、前回および今回の要求トルク(前回Tirq),(今回Tirq)と前回および今回のベース上限トルク(前回Timaxbs),(今回Timaxbs)とを用いて式(6)により上限トルクTimaxを演算することができる。
【0060】
【数1】
【0061】
ステップS230で前回の要求トルク(前回Tirq)が前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)よりも大きいときには、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きくなった直後でない(始動用トルク条件の成立が継続している)と判定し、上限トルクTimaxを前回値で保持して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。
【0062】
このようにして上限トルクTimaxを設定することにより、始動用トルク条件の成立に起因して始動条件の成立が開始して始動処理を実行しているときや、始動用別条件の成立に起因して始動条件の成立が開始して始動処理を実行している最中に始動用トルク条件の成立が開始したときには、図6に示したような直線L1と直線L2との交点のトルクで上限トルクTimaxを保持し、その上限トルクTimax以下の範囲内で目標トルクTitgを設定することになる。これにより、始動処理中に目標トルクTitgが過度に大きくなる(アシスト制御中に目標トルクTitgとアシストトルクTmasとの和のトルク(Titg+Tmas)が過度に大きくなるのを抑制することができる。
【0063】
図7図8は、それぞれ、実施例、第1比較例のエンジン22を始動する際の様子の一例を示すタイムチャートである。図7および図8では、アクセル開度Acc、エンジン22の回転数Ne、モータ30の回転数Nm、モータ30の終了時予測回転数Nmas、モータ30の最大トルクTmmax、トルクコンバータ40の入力側の要求トルクTirq、ベース上限トルクTimaxbs(=Tst)、上限トルクTimax、トルクコンバータ40の入力側の目標トルクTitg、モータ30のトルク指令Tm*、トルクコンバータ40の入力トルクTiについて図示した。第1比較例では、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きくなった直後に、ステップS190の処理に代えて、そのときの要求トルクTirqを上限トルクTimaxに設定するものとした。
【0064】
第1比較例の場合、図8に示すように、アクセル開度Accが増加して要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxbs(=Tst)よりも大きくなると(時刻t22)、始動用トルク条件の成立に起因して始動条件の成立が開始して始動処理を実行すると共に、上限トルクTimaxを、ベース上限トルクTimaxbsからそのとき(時刻t22)の要求トルクTirq(図8の点A参照)に切り替える。この場合、上限トルクTimaxが比較的大きいために、ガード後要求トルクTirqgd(図示省略)が比較的大きくなり、目標トルクTitgが比較的大きくなる。特に、アクセル開度Accが急峻に増加して要求トルクTirqが急峻に増加する場合、上限トルクTimaxひいては目標トルクTitgが大きくなりやすい。このため、アシスト制御中に、目標トルクTitgとアシストトルクTmasとの和のトルク(Titg+Tmas)が最大トルクTmmaxよりも大きくなってモータ30のトルク指令Tm*がトルク(Titg+Tmas)よりも小さくなり、トルクコンバータ40の入力トルクTi(=Tm*-Tmas)が目標トルクTitgに対して低下し(時刻t23~t24)、駆動輪49に出力されるトルク(走行用のトルク)が低下する場合がある。これにより、運転者に違和感を与える可能性がある。その後に、モータ30のアシスト制御を終了すると(時刻t24)、上限トルクTimaxを用いなくなるから、目標トルクTitgが増加する。このとき、モータ30のトルク指令Tm*が低下するものの、エンジン22のトルクTe(図示省略)によりトルクコンバータ40の入力トルクTiが増加する。
【0065】
なお、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxbsよりも大きくなったときに(時刻t22)、上限トルクTimaxをベース上限トルクTimaxbs(=Tst)から、そのとき(時刻t22)のベース上限トルクTimaxbs(図8の点B参照)に切り替える第2比較例や、その直前(時刻t21)の要求トルクTirq(図8の点C参照)に切り替える第3比較例も考えられる。これらの場合、上限トルクTimaxが比較的小さいために、ガード後要求トルクTirqgd(図示省略)が比較的小さくなり、目標トルクTitgが比較的小さい値に制限され、トルクコンバータ40の入力トルクTiひいては駆動輪49に出力されるトルク(走行用のトルク)が比較的小さい値に制限され、もたつき感を運転者に感じさせる可能性がある。
【0066】
実施例の場合、図7に示すように、アクセル開度Accが増加して要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxbs(=Tst)よりも大きくなると(時刻t12)、始動用トルク条件の成立に起因して始動条件の成立が開始して始動処理を実行すると共に、上限トルクTimaxを、ベース上限トルクTimaxbsから、前回(時刻t11)の要求トルク(前回Tirq)と今回(時刻t12)の要求トルク(今回Tirq)とを結ぶ直線L1と、前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)と今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)とを結ぶ直線L2と、の交点のトルク(図7の点A参照)に切り替える(図6および式(6)参照)。この場合、第1比較例に比して、上限トルクTimaxが小さくなるから、ガード後要求トルクTirqgd(図示省略)が小さくなり、目標トルクTitgが小さくなる。このため、アシスト制御中に、目標トルクTitgとアシストトルクTmasとの和のトルク(Titg+Tmas)が最大トルクTmmaxよりも大きくなる、即ち、モータ30のトルク指令Tm*がトルク(Titg+Tmas)よりも小さくなるのを抑制することができる。これにより、トルクコンバータ40の入力トルクTi(=Tm-Tmas)が目標トルクTitgに対して低下するのを抑制し、駆動輪49に出力されるトルク(走行用のトルク)が低下するのを抑制することができる。この結果、運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。その後に、モータ30のアシスト制御を終了すると(時刻t13)、上限トルクTimaxを用いなくなるから、目標トルクTitgが増加する。このとき、モータ30のトルク指令Tm*が低下するものの、エンジン22のトルクTe(図示省略)によりトルクコンバータ40の入力トルクTiが増加する。
【0067】
また、実施例の場合、第2比較例や第3比較例に比して、上限トルクTimaxが大きくなるから、ガード後要求トルクTirqgd(図示省略)が大きくなり、目標トルクTitgが大きくなり、トルクコンバータ40の入力トルクTiひいては駆動輪49に出力されるトルク(走行用のトルク)を大きくすることができる。これにより、もたつき感を運転者に感じさせるのを抑制することができる。
【0068】
以上説明した実施例のハイブリッド車20では、HVECU70は、EV走行モードで、エンジン22の始動条件が成立しているときには、モータ30のクラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御によるエンジン22のクランキングを伴ってエンジン22を始動する始動処理を実行する。この場合に、HVECU70は、EV走行モードで、始動条件が成立していないときや、始動条件が成立していて且つアシスト制御の開始前および実行中であるときには、要求トルクTirqを上限トルクTimaxで上限ガードして得られるガード後要求トルクTirqgdになまし処理を施して目標トルクTitgを設定する。さらに、HVECU70は、前回の要求トルク(前回Tirq)が前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)以下で且つ今回の要求トルク(今回Tirq)が今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)よりも大きくなった以降は、横軸を時間、縦軸を要求トルクTirqやベース上限トルクTimaxbsとしたときの、前回の要求トルク(前回Tirq)と今回の要求トルク(今回Tirq)とを結ぶ直線L1と、前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)と今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)とを結ぶ直線L2と、の交点のトルクで上限トルクTimaxを保持する。これにより、今回の要求トルク(今回Tirq)で上限トルクTimaxを保持する場合に比して、上限トルクTimaxが小さくなるから、始動処理中、特にアシスト制御中に、トルクコンバータ40の入力トルクTiが目標トルクTitgに対して低下するのを抑制し、ひいては、駆動輪49に出力されるトルク(走行用のトルク)が低下するのを抑制することができる。また、EV走行モードで、始動処理を実行していないときに、駆動輪49に出力されるトルクが大きくなり過ぎるのを抑制し、始動処理中、特にアシスト制御中に、モータ30からのトルクが不足して加速ショックを生じるのを抑制することもできる。
【0069】
実施例のハイブリッド車20では、HVECU70は、図4の上限トルク設定ルーチンにより上限トルクTimaxを設定するものとした。しかし、これに代えて、HVECU70は、図9の上限トルク設定ルーチンにより上限トルクTimaxを設定するものとしてもよい。図9の上限トルク設定ルーチンは、ステップS250の処理がステップS252の処理に置き換えられた点で、図4の上限トルク設定ルーチンとは異なる。したがって、図9の上限トルク設定ルーチンのうち、図4の上限トルク設定ルーチンと同一の処理については、同一のステップ番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0070】
図9の上限トルク設定ルーチンでは、HVECU70は、ステップS230で前回の要求トルク(前回Tirq)が前回のベース上限トルク(前回Timaxbs)よりも大きいときには、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きくなった直後でない、即ち、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxよりも大きい状態が継続していると判定し、前回の上限トルク(前回Timax)と今回のベース上限トルク(今回Timaxbs)とのうちの大きい方を上限トルクTimaxに設定して(ステップS250)、本ルーチンを終了する。これにより、モータ30の最大トルクTmmaxが大きくなってベース上限トルクTimaxbsが大きくなったときに、それに伴って上限トルクTimaxを大きくすることができる。
【0071】
図10は、この変形例の場合におけるエンジン22を始動する際の上限トルクTimaxなどの様子の一例を示すタイムチャートである。図10では、エンジン22の回転数Ne、モータ30の回転数Nm、モータ30の終了時予測回転数Nmas、モータ30の最大トルクTmmax、トルクコンバータ40の入力側の要求トルクTirq、ベース上限トルクTimaxbs(=Tst)、上限トルクTimaxについて図示した。図10の例では、要求トルクTirqがベース上限トルクTimaxbs(=Tst)よりも大きくなると(時刻t31)、上限トルクTimaxを、ベース上限トルクTimaxbsから実施例と同様のトルク(図6および式(6)参照)に切り替えて保持する。その後に、モータ30の終了時予測回転数Nmasの低下に基づく最大トルクTmmaxの増加に伴ってベース上限トルクTimaxbsが増加して、ベース上限トルクTimaxが現在の上限トルクTimaxよりも大きくなると(時刻t32)、その継続の間に亘って(時刻t32~t33)、ベース上限トルクTimaxbsを上限トルクTimaxに設定する。これにより、上限トルクTimaxを増加させることができる。その後に、ベース上限トルクTimaxbsが現在の上限トルクTimaxよりも小さくなると(時刻t33)、上限トルクTimaxを保持する。そして、アシスト制御を終了すると(時刻t34)、上限トルクTimaxの設定を終了する。
【0072】
実施例のハイブリッド車20では、EV走行モードでの走行中には、ロックアップクラッチ40cを解放するものとし、図5の終了時予測回転数演算ルーチンのステップS380の処理、具体的には、式(3)において、ロックアップクラッチ40cのトルクTlupとして値0を用いるものとした。しかし、ロックアップクラッチ40cをスリップ係合しているときには、ロックアップクラッチ40cに供給される油圧に基づいて推定されるトルクを用いるものとしてもよい。
【0073】
実施例のハイブリッド車20では、図5の終了時予測回転数演算ルーチンのステップS410の処理、具体的には、式(5)において、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtを用いてi回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算するものとした。しかし、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtを用いずにi回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算する、即ち、(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]をi回目の予測回転数Ntes[i]に設定するものとしてもよい。
【0074】
実施例のハイブリッド車20では、エンジン22の始動処理として、クラッチK0のスリップ係合(半係合)およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22をクランキングし、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに十分に接近して(両者の回転数差分が所定値以下に至って)クラッチK0を完全係合した以降に、エンジン22の燃料噴射や点火を開始すると共にモータ30のアシスト制御を終了するものとした。しかし、始動処理として、クラッチK0のスリップ係合(半係合)およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22をクランキングし、最初にまたは2番目に圧縮上死点を迎える気筒で最初の燃料噴射や点火を行ない、その後にモータ30のアシスト制御を終了すると共にクラッチK0を一旦解放し、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに十分に接近するとクラッチK0を係合するものとしてもよい。
【0075】
実施例のハイブリッド車20では、クラッチK0は、油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されるものとしたが、電磁クラッチなどの乾式クラッチとして構成されるものとしてもよい。
【0076】
実施例のハイブリッド車20では、自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されるものとしたが、4段変速や5段変速、8段変速、10段変速などの自動変速機として構成されるものとしてもよい。
【0077】
実施例のハイブリッド車20では、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とを備えるものとしたが、これらのうちの少なくとも2つが一体に構成されるものとしてもよい。
【0078】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータ30が「モータ」に相当し、クラッチK0が「クラッチ」に相当し、トルクコンバータ40が「トルクコンバータ」に相当し、自動変速機42が「変速機」に相当し、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とが「制御装置」に相当する。
【0079】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0080】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、ハイブリッド車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0082】
20 ハイブリッド車、22 エンジン、23 クランクシャフト、23a クランクポジションセンサ、24 エンジンECU、30 モータ、30a 回転位置センサ、31 回転軸、32 インバータ、34 モータECU、36 バッテリ、36a 電圧センサ、36b 電流センサ、36c 温度センサ、37 電力ライン、40 トルクコンバータ、40c ロックアップクラッチ、40p ポンプインペラ、40t タービンランナ、42 自動変速機、43 入力軸、43a 回転数センサ、44 出力軸、44a 回転数センサ、48 デファレンシャルギヤ、49 駆動輪、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、87 車速センサ、88 加速度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10