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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20241112BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20241112BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241112BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 652F
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
H01L29/78 658F
H01L29/78 655A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021537274
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029300
(87)【国際公開番号】W WO2021024916
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019144751
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 光亮
(72)【発明者】
【氏名】日吉 透
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/127821(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148130(WO,A1)
【文献】特開2016-164906(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0351668(US,A1)
【文献】特開2016-213421(JP,A)
【文献】特開2018-093135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、
を有し、
前記炭化珪素基板は、
第1の導電型を有する第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に設けられ前記第2の半導体層によって前記第1の半導体層と分離され前記第1の導電型を有する第3の半導体層と、
を有し、
前記主面に第1の方向に沿って延びるトレンチが設けられており、
前記トレンチは、
前記第1の半導体層からなる底面と、
前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第1の側壁面と、
前記第1の方向と垂直な第2の方向において前記第1の側壁面から離間し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第2の側壁面と、
前記第1の方向に沿って延びる前記トレンチの端部を形成し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なり、前記第1の側壁面と前記第2の側壁面とに連なる第3の側壁面と、
を有し、
前記ゲート絶縁膜は、
前記底面上に位置する底領域と、
前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁領域と、
前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁領域と、
前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁領域と、
前記第3の半導体層の上面上に位置して前記第3の側壁領域につながる頂領域と、
を有し、
前記底領域の厚さ、前記第3の側壁領域の厚さおよび前記頂領域の厚さのいずれもが、前記第1の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さおよび前記第2の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さのいずれよりも大きく、
前記第3の側壁領域および前記頂領域は、
前記炭化珪素基板を直接覆う第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上に設けられた第2の絶縁膜と、
を有し、
前記第1の絶縁膜は第1の炭素原子濃度を有し、前記第2の絶縁膜は第2の炭素原子濃度を有し、前記第2の炭素原子濃度は前記第1の炭素原子濃度よりも小さく、
前記第1の側壁面は、前記第1の半導体層からなる第1の側面と、第2の半導体層からなる第2の側面と、第3の半導体層からなる第3の側面とを有し、
前記第2の側壁面は、前記第1の半導体層からなる第4の側面と、第2の半導体層からなる第5の側面と、第3の半導体層からなる第6の側面とを有し、
前記第1の絶縁膜および前記第2の絶縁膜は、前記底領域、前記第1の側壁領域および前記第2の側壁領域にも設けられており、
前記第1の絶縁膜は、
前記底面上に位置する第1の底部と、
前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁部と、
前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁部と、
前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁部と、
前記第3の半導体層の前記上面上に位置する第1の頂部と、
を有し、
前記第1の側壁部は前記第1の側面上に位置する第1の領域と、前記第2の側面上に位置する第2の領域と、前記第3の側面上に位置する第3の領域とを有し、
前記第2の側壁部は前記第4の側面上に位置する第4の領域と、前記第5の側面上に位置する第5の領域と、前記第6の側面上に位置する第6の領域とを有し、
前記第2の絶縁膜は、
前記第1の底部上に位置する第2の底部と、
前記第1の側壁部上に位置する第4の側壁部と、
前記第2の側壁部上に位置する第5の側壁部と、
前記第3の側壁部上に位置する第6の側壁部と、
前記第1の頂部上に位置する第2の頂部と、
を有し、
前記第4の側壁部は、
前記第2の底部につながった第1の下方端と、
前記第1および第2の領域のいずれかの上に位置し前記第3の領域から離れた第1の上方端と、
を有し、
前記第5の側壁部は、
前記第2の底部につながった第2の下方端と、
前記第4および第5の領域のいずれかの上に位置し前記第6の領域から離れた第2の上方端と、
を有し、
前記第6の側壁部は、
前記第2の底部につながった第3の下方端と、
前記第2の頂部につながった第3の上方端と、
を有する炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第2の絶縁膜の厚さは100nm以上300nm以下である請求項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
主面を有する炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、
を有し、
前記炭化珪素基板は、
第1の導電型を有する第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に設けられ前記第2の半導体層によって前記第1の半導体層と分離され前記第1の導電型を有する第3の半導体層と、
を有し、
前記主面に第1の方向に沿って延びるトレンチが設けられており、
前記トレンチは、
前記第1の半導体層からなる底面と、
前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第1の側壁面と、
前記第1の方向と垂直な第2の方向において前記第1の側壁面から離間し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第2の側壁面と、
前記第1の方向に沿って延びる前記トレンチの端部を形成し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なり、前記第1の側壁面と前記第2の側壁面とに連なる第3の側壁面と、
を有し、
前記ゲート絶縁膜は、
前記底面上に位置する底領域と、
前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁領域と、
前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁領域と、
前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁領域と、
前記第3の半導体層の上面上に位置して前記第3の側壁領域につながる頂領域と、
を有し、
前記底領域の厚さ、前記第3の側壁領域の厚さおよび前記頂領域の厚さのいずれもが、前記第1の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さおよび前記第2の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さのいずれよりも大きく、
前記第3の側壁領域および前記頂領域は、
前記炭化珪素基板を直接覆う第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上に設けられた第2の絶縁膜と、
を有し、
前記第1の絶縁膜は第1の炭素原子濃度を有し、前記第2の絶縁膜は第2の炭素原子濃度を有し、前記第2の炭素原子濃度は前記第1の炭素原子濃度よりも小さく、
前記第2の絶縁膜の厚さは100nm以上300nm以下である炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第2の絶縁膜は前記第1の絶縁膜より厚い請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記第1の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第1の交線と、前記第2の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第2の交線とが互いに平行である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記第3の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第3の交線は円弧状である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素半導体装置に関する。
【0002】
本出願は、2019年8月6日出願の日本出願2019-144751号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
炭化珪素半導体装置の一つとして、ゲートトレンチの底部に厚い絶縁膜が設けられたトレンチゲート型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が開示されている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/148130号
【発明の概要】
【0005】
本実施形態の一観点によれば、炭化珪素半導体装置は、主面を有する炭化珪素基板と、前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、を有する。前記炭化珪素基板は、第1の導電型を有する第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に設けられ前記第2の半導体層によって前記第1の半導体層と分離され前記第1の導電型を有する第3の半導体層と、を有する。前記主面に第1の方向に沿って延びるトレンチが設けられており、前記トレンチは、前記第1の半導体層からなる底面と、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第1の側壁面と、前記第1の方向と垂直な第2の方向において前記第1の側壁面から離間し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第2の側壁面と、前記第1の方向に沿って延びる前記トレンチの端部を形成し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なり、前記第1の側壁面と前記第2の側壁面とに連なる第3の側壁面と、を有する。前記ゲート絶縁膜は、前記底面上に位置する底領域と、前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁領域と、前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁領域と、前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁領域と、前記第3の半導体層の上面上に位置して前記第3の側壁領域につながる頂領域と、を有する。前記底領域の厚さ、前記第3の側壁領域の厚さおよび前記頂領域の厚さのいずれもが、前記第1の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さおよび前記第2の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さのいずれよりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図(その1)である。
図2図2は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図(その2)である。
図3図3は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置におけるゲート絶縁膜の構成を示す斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置におけるゲート絶縁膜の構成を示す平面図である。
図5図5は、図1の一部を拡大して示す断面図(その1)である。
図6図6は、図1の一部を拡大して示す断面図(その2)である。
図7A図7Aは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その1)である。
図7B図7Bは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その2)である。
図7C図7Cは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その3)である。
図7D図7Dは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その4)である。
図7E図7Eは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その5)である。
図7F図7Fは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その6)である。
図7G図7Gは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その7)である。
図7H図7Hは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その8)である。
図7I図7Iは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その9)である。
図7J図7Jは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その10)である。
図7K図7Kは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その11)である。
図7L図7Lは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その12)である。
図7M図7Mは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その13)である。
図8A図8Aは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その14)である。
図8B図8Bは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その15)である。
図8C図8Cは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その16)である。
図8D図8Dは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その17)である。
図8E図8Eは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その18)である。
図8F図8Fは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その19)である。
図8G図8Gは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その20)である。
図8H図8Hは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その21)である。
図8I図8Iは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その22)である。
図8J図8Jは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その23)である。
図8K図8Kは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その24)である。
図8L図8Lは、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示す断面図(その25)である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載の炭化珪素半導体装置によれば、所期の目的は達成される。しかしながら、特許文献1に記載の炭化珪素半導体装置によっても近年の更なる絶縁破壊耐性の向上の要請に十分に応えることは困難である。
【0008】
そこで、本開示は、絶縁破壊耐性を向上することができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、絶縁破壊耐性を向上することができる。
【0010】

[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。本明細書中の結晶学的記載においては、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”-”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0011】
〔1〕 本開示の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、主面を有する炭化珪素基板と、前記炭化珪素基板上のゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上のゲート電極と、を有し、前記炭化珪素基板は、第1の導電型を有する第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層と、前記第2の半導体層上に設けられ前記第2の半導体層によって前記第1の半導体層と分離され前記第1の導電型を有する第3の半導体層と、を有し、前記主面に第1の方向に延びるトレンチが設けられており、前記トレンチは、前記第1の半導体層からなる底面と、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第1の側壁面と、前記第1の方向と垂直な第2の方向において前記第1の側壁面から離間し、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なる第2の側壁面と、前記第3の半導体層および前記第2の半導体層を貫通して前記底面に連なり、前記第1の側壁面と前記第2の側壁面とに連なる第3の側壁面と、を有し、前記ゲート絶縁膜は、前記底面上に位置する底領域と、前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁領域と、前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁領域と、前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁領域と、前記第3の半導体層の上面上に位置して前記第3の側壁領域につながる頂領域と、を有し、前記底領域の厚さ、前記第3の側壁領域の厚さおよび前記頂領域の厚さのいずれもが、前記第1の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さおよび前記第2の側壁領域の前記第2の半導体層上での最小の厚さのいずれよりも大きい。
【0012】
第1の側壁面および第2の側壁面の近傍において第2の半導体層の一部がチャネルとして機能する。トレンチ内にゲート電極が設けられている場合、トレンチの底の角部に電界が集中しやすいが、この炭化珪素半導体装置では、ゲート絶縁膜の底領域の厚さが、第1の側壁領域および第2の側壁領域の第2の半導体層上での最小の厚さ、すなわち第2の半導体層のチャネルとして機能する部分上のゲート絶縁膜の厚さよりも大きい。従って、トレンチの底の角部に電界が集中しても、優れた耐圧を得ることができる。トレンチ内にゲート電極が設けられている場合、トレンチの上縁の角部にも電界が集中しやすいが、この炭化珪素半導体装置では、ゲート絶縁膜の第3の側壁領域の厚さおよび頂領域の厚さが、第2の半導体層のチャネルとして機能する部分上のゲート絶縁膜の厚さよりも大きい。従って、トレンチの上縁の角部に電界が集中しても、優れた耐圧を得ることができる。このため、絶縁破壊耐性を向上することができる。
【0013】
〔2〕 〔1〕において、前記第3の側壁領域および前記頂領域は、前記炭化珪素基板を直接覆う第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜上に設けられた第2の絶縁膜と、を有し、前記第1の絶縁膜は第1の炭素原子濃度を有し、第2の絶縁膜は第2の炭素原子濃度を有し、前記第2の炭素原子濃度は前記第1の炭素原子濃度よりも小さくてもよい。炭素原子濃度が低い第2の絶縁膜を含むことで、より優れた絶縁破壊耐圧を得ることができる。
【0014】
〔3〕 〔2〕において、前記第2の絶縁膜は前記第1の絶縁膜より厚くてもよい。第2の絶縁膜が厚いことで、更に優れた絶縁破壊耐圧を得ることができる。
【0015】
〔4〕 〔2〕または〔3〕において、前記第1の側壁面は、前記第1の半導体層からなる第1の側面と、第2の半導体層からなる第2の側面と、第3の半導体層からなる第3の側面とを有し、前記第2の側壁面は、前記第1の半導体層からなる第4の側面と、第2の半導体層からなる第5の側面と、第3の半導体層からなる第6の側面とを有し、前記第1の絶縁膜および前記第2の絶縁膜は、前記底領域、前記第1の側壁領域および前記第2の側壁領域にも設けられており、前記第1の絶縁膜は、前記底面上に位置する第1の底部と、前記第1の側壁面上に位置する第1の側壁部と、前記第2の側壁面上に位置する第2の側壁部と、前記第3の側壁面上に位置する第3の側壁部と、前記第3の半導体層の前記上面上に位置する第1の頂部と、を有し、前記第1の側壁部は前記第1~第3の側面のそれぞれの上に位置する第1~第3の領域を有し、前記第2の側壁部は前記第4~第6の側面のそれぞれの上に位置する第4~第6の領域を有し、前記第2の絶縁膜は、前記第1の底部上に位置する第2の底部と、前記第1の側壁部上に位置する第4の側壁部と、前記第2の側壁部上に位置する第5の側壁部と、前記第3の側壁部上に位置する第6の側壁部と、前記第1の頂部上に位置する第2の頂部と、を有し、前記第4の側壁部は、前記第2の底部につながった第1の下方端と、前記第1および第2の領域のいずれかの上に位置し前記第3の領域から離れた第1の上方端と、を有し、前記第5の側壁部は、前記第2の底部につながった第2の下方端と、前記第4および第5の領域のいずれかの上に位置し前記第6の領域から離れた第2の上方端と、を有し、前記第6の側壁部は、前記第2の底部につながった第3の下方端と、前記第2の頂部につながった第3の上方端と、を有してもよい。
【0016】
ゲート絶縁膜は、第2の絶縁膜が設けられた部分で第2の絶縁膜が設けられていない部分よりも厚くなっている。そして、主に第2の底部と、第4の側壁部と、第5の側壁部とにより、トレンチの底の角部で優れた絶縁破壊耐性が得られ、主に第6の側壁部と、第2の頂部とにより、トレンチの上縁の角部で優れた絶縁破壊耐性が得られる。
【0017】
〔5〕 〔1〕~〔4〕において、前記第2の絶縁膜の厚さは100nm以上300nm以下であってもよい。第2の絶縁膜の厚さが100nm以上であることで、より優れた絶縁破壊耐性を得ることができる。第2の絶縁膜の厚さが300nm超であると、コストが過剰になるおそれがある。
【0018】
〔6〕 〔1〕~〔5〕において、前記第1の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第1の交線と、前記第2の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第2の交線とが互いに平行であってもよい。第1の交線と第2の交線とが互いに平行であることで、第1の側壁面および前記第2の側壁面の双方に優れた移動度が得られる面を用いやすい。
【0019】
〔7〕 〔1〕~〔6〕において、前記第3の側壁面と前記第3の半導体層の前記上面との第3の交線は円弧状であってもよい。第3の交線が円弧状であるとトレンチの上縁の角部に電界が集中しやすいが、電界が集中しても優れた絶縁破壊耐性を得ることができる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態は、いわゆる縦型のMOSFET(炭化珪素半導体装置)に関する。図1および図2は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。図3は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置におけるゲート絶縁膜の構成を示す斜視図である。図4は、実施形態に係る炭化珪素半導体装置におけるゲート絶縁膜の構成を示す平面図である。図5および図6は、図1の一部を拡大して示す断面図である。図1は、図2図3および図4中のI-I線に沿った断面を示す。図2は、図1図3および図4中のII-II線に沿った断面を示す。図5は、主に第1の絶縁膜の構成要素を示し、図6は、主に第2の絶縁膜の構成要素とゲート絶縁膜の寸法とを示す。
【0021】
図1および図2に示すように、実施形態に係る縦型のMOSFET501は、エピタキシャル基板100と、ゲート絶縁膜200と、ゲート電極230と、層間絶縁膜203と、ソース電極221と、ドレイン電極211と、ソース配線222と、保護電極212とを有する。
【0022】
エピタキシャル基板100は、炭化珪素から作られており、単結晶基板110およびその上に設けられたエピタキシャル層を有する。エピタキシャル基板100はエピタキシャル層側に主面111を有する。主面111は、たとえば(000-1)面または(000-1)面に対して8°未満のオフ角で傾斜した面である。オフ角は、6°以下であってもよいし、4°以下であってもよい。オフ角は、2°以上であってもよい。単結晶基板110およびエピタキシャル層は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素である。単結晶基板110は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含みn型の導電型を有する。
【0023】
エピタキシャル層は、n層121と、p型ボディ層122と、n領域123と、コンタクト領域124とを有する。n層121は、ドナーが添加されていることでn型を有する。n層121へのドナーの添加は、イオン注入によってではなく、n層121のエピタキシャル成長時の不純物添加によって行われていることが好ましい。n層121のドナー濃度は、単結晶基板110のドナー濃度よりも低いことが好ましい。n層121のドナー濃度は、好ましくは1×1015cm-3以上5×1016cm-3以下であり、たとえば8×1015cm-3である。p型ボディ層122は、n層121上に設けられており、アクセプタが添加されていることでp型(第2の導電型)を有する。p型ボディ層122のアクセプタ濃度は、たとえば1×1018cm-3である。n領域123はn型を有する。n領域123は、p型ボディ層122上に設けられており、p型ボディ層122によってn層121と分離されている。コンタクト領域124はp型を有する。コンタクト領域124は、p型ボディ層122につながるようにp型ボディ層122の一部の上に形成されている。エピタキシャル基板100は炭化珪素基板の一例である。n層121は第1の半導体層の一例である。p型ボディ層122は第2の半導体層の一例である。n領域123は第3の半導体層の一例である。
【0024】
図1図4に示すように、エピタキシャル基板100の主面111に複数のトレンチTRが設けられている。トレンチTRは、たとえば主面111に平行な第1の方向に延びており、複数のトレンチTRが、主面111および第1の方向に直交する第2の方向に並んでいる。トレンチTRは、n層121からなる底面BTを有する。トレンチTRは、n領域123およびp型ボディ層122を貫通して底面BTに連なる第1の側壁面11を有する。トレンチTRは、主面111に平行な方向で第1の側壁面11から離間し、n領域123およびp型ボディ層122を貫通して底面BTに連なる第2の側壁面12を有する。トレンチTRは、n領域123およびp型ボディ層122を貫通して底面BTに連なり、第1の側壁面11と第2の側壁面12とに連なる第3の側壁面13を有する。第1の側壁面11および第2の側壁面12はp型ボディ層122上においてチャネル面CH(図3)を含む。底面BTは、主面111とほぼ平行な平坦面である。具体的には、第1の側壁面11、第2の側壁面12および第3の側壁面13は主面111に対して傾斜している。これによりトレンチTRは開口側に向かって拡がっている。第1の側壁面11および第2の側壁面12は、好ましくは、特にp型ボディ層122上において、所定の面方位の結晶面、たとえば面方位(0-33-8)の結晶面(特殊面)を有する。面方位(0-33-8)の結晶面は、優れた移動度が得られる結晶面である。
【0025】
たとえば、第1の側壁面11とn領域123の上面123Aとの第1の交線CL1と、第2の側壁面12と上面123Aとの第2の交線CL3とが互いに平行であってもよい。第1の交線CL1と第2の交線CL2とが互いに平行であると、第1の側壁面11および第2の側壁面12の双方に優れた移動度が得られる面、たとえば上記の特殊面を用いやすい。また、第3の側壁面13と上面123Aとの第3の交線CL3が円弧状であってもよい。第3の交線CL3が円弧状であると、トレンチTRを形成しやすい。
【0026】
図5に示すように、第1の側壁面11は、n層121、p型ボディ層122およびn領域123のそれぞれからなる第1~第3の側面SW1~SW3を有する。第2の側壁面12は、n層121、p型ボディ層122およびn領域123のそれぞれからなる第4~第6の側面SW4~SW6を有する。図2に示すように、第3の側壁面13は、n層121、p型ボディ層122およびn領域123のそれぞれからなる第7~第9の側面SW7~SW9を有する。
【0027】
ゲート絶縁膜200はトレンチTR上に設けられている。ゲート絶縁膜200はトレンチTR内においてエピタキシャル基板100とゲート電極230とを隔てている。
【0028】
図1および図2に示すように、ゲート絶縁膜200は、底面BT上に位置する底領域300Bと、第1の側壁面11上に位置する第1の側壁領域301と、第2の側壁面12上に位置する第2の側壁領域302と、第3の側壁面13上に位置する第3の側壁領域303と、n領域123の上面123A上に位置して第3の側壁領域303につながる頂領域300Tと、を有する。
【0029】
ゲート絶縁膜200は、第1~第3の側壁面11~13および底面BTの各々を直接覆う第1の絶縁膜201と、第1の絶縁膜201上に設けられた第2の絶縁膜202とを有する。第1および第2の絶縁膜201,202のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有する。第2の炭素原子濃度は第1の炭素原子濃度よりも小さくてもよい。第1の炭素原子濃度は1×1015cm-3より大きくてもよい。第2の炭素原子濃度は、1×1015cm-3より小さくてもよく、実質的に濃度がゼロであってもよい。
【0030】
図1および図2に示すように、第1の絶縁膜201は、底面BTと第1の側壁面11とがなす角部CRB1上に位置する部分と、底面BTと第2の側壁面12とがなす角部CRB2上に位置する部分と、底面BTと第3の側壁面13とがなす角部CRB3上に位置する部分と、第3の側壁面13と上面123A面とがなす角部CRT上に位置する部分とを有する。具体的には、第1の絶縁膜201は、図2および図5に示すように、底面BT上に位置する第1の底部310Bと、第1の側壁面11上に位置する第1の側壁部311と、第2の側壁面12上に位置する第2の側壁部312と、第3の側壁面13上に位置する第3の側壁部313と、上面123A上に位置する第1の頂部310Tとを有する。
【0031】
図5に示すように、第1の側壁部311は、第1~第3の側面SW1~SW3のそれぞれの上に位置する第1~第3の領域411~413を有する。第2の側壁部312は、第4~第6の側面SW4~SW6のそれぞれの上に位置する第4~第6の領域414~416を有する。図2に示すように、第3の側壁部313は、第7~第9の側面SW7~SW9のそれぞれの上に位置する第7~第9の領域417~419を有する。第1の絶縁膜201は、酸化膜であることが好ましく、エピタキシャル基板100のトレンチTRの表面を熱酸化することによって得られたものあることがより好ましい。
【0032】
図1および図2に示すように、第2の絶縁膜202は、第1の絶縁膜201を介して、角部CRB1上に位置する部分と、角部CRB2上に位置する部分と、角部CRB3上に位置する部分と、角部CRT上に位置する部分とを有する。具体的には、第2の絶縁膜202は、図2および図6に示すように、第1の底部310B上に位置する第2の底部320Bと、第1の側壁部311上に位置する第4の側壁部324と、第2の側壁部312上に位置する第5の側壁部325と、第3の側壁部313上に位置する第6の側壁部326と、第1の頂部310T上に位置する第2の頂部320Tとを有する。
【0033】
図6に示すように、第4の側壁部324は、第2の底部320Bにつながった第1の一方端E41と、第1および第2の領域411,412(図5参照)のいずれかの上に位置し第3の領域413から離れた第1の他方端E42とを有する。第5の側壁部325は、第2の底部320Bにつながった第2の一方端E51と、第1および第2の領域411,412(図5参照)のいずれかの上に位置し第3の領域413から離れた第2の他方端E52とを有する。第1の他方端E42および第2の他方端E52が第1の領域411と第2の領域412との境界上に位置してもよい。図2に示すように、第6の側壁部326は、第2の底部320Bにつながった第3の一方端E61と、第2の頂部320Tにつながった第3の他方端E62とを有する。第2の絶縁膜202は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られていてもよい。第2の絶縁膜202は、シリコンを含み炭素を含まない膜の熱酸化膜であってもよく、たとえば二酸化珪素(SiO)から作られている。
【0034】
ゲート絶縁膜200の底領域300Bに、第1の絶縁膜201の第1の底部310Bと、第2の絶縁膜202の第2の底部320Bとが含まれる。ゲート絶縁膜200の第1の側壁領域301に、第1の絶縁膜201の第1の側壁部311と、第2の絶縁膜202の第4の側壁部324とが含まれる。ゲート絶縁膜200の第2の側壁領域302に、第1の絶縁膜201の第2の側壁部312と、第2の絶縁膜202の第5の側壁部325とが含まれる。ゲート絶縁膜200の第3の側壁領域303に、第1の絶縁膜201の第3の側壁部313と、第2の絶縁膜202の第6の側壁部326とが含まれる。ゲート絶縁膜200の頂領域300Tに、第1の絶縁膜201の第1の頂部310Tと、第2の絶縁膜202の第2の頂部320Tとが含まれる。
【0035】
底領域300Bは厚さdを有する。第1の側壁領域301および第2の側壁領域302は、第1の絶縁膜201を有しかつ第2の絶縁膜202を有しない部分、すなわち第1の絶縁膜201のみからなる部分を有し、この部分は厚さdを有する。第1の側壁領域301および第2の側壁領域302は、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202を有する部分を含み、この部分は厚さdを有する。厚さdの部分は、n層121上のみに位置してもよく、更にp型ボディ層122の一部の上に位置してもよい。厚さdは、第1の側壁領域301のp型ボディ層122上での最小の厚さおよび第2の側壁領域302のp型ボディ層122上での最小の厚さである。よって、第1の側壁領域301のp型ボディ層122上での最小の厚さdと、第2の側壁領域302のp型ボディ層122上での最小の厚さdがそれぞれ存在することになるが、両者は同一である場合が多い。第3の側壁領域303は、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202を有し、この部分は厚さdを有する。頂領域300Tは、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202を有し、この部分は厚さdを有する。少なくとも、厚さdが厚さdより大きく、厚さdが厚さdより大きく、厚さdがdより大きい。厚さdが厚さdと等しくてもよく、厚さdが厚さdおよび厚さdと等しくてもよい。好ましくは、厚さdは厚さd以上である。好ましくは、厚さdは厚さdの1.5倍より大きい。好ましくは、厚さdは厚さdの5倍より小さい。なお、厚さdが2つ存在する場合には、厚さd、d又はdが厚さdよりも大きいというのは、厚さd、d又はdがいずれの厚さdよりも厚いことを意味する。
【0036】
ゲート電極230はトレンチTR内に設けられている。具体的にはゲート電極230はゲート絶縁膜200を介してトレンチTR上に設けられている。ゲート電極230は、少なくとも第1の絶縁膜201の第2の領域412と第5の領域415とに接している。ゲート電極230の上面は、ゲート絶縁膜200の頂領域300Tの上面とほぼ同じ高さになっている。層間絶縁膜203は、ゲート絶縁膜200のうちn領域123の上面上にまで延在する部分とゲート電極230とを覆うように設けられている。
【0037】
ソース電極221は、層間絶縁膜203を貫通してn領域123およびコンタクト領域124の各々に接している。ソース配線222はソース電極221に接するようにソース電極221および層間絶縁膜203上に設けられている。ドレイン電極211は、エピタキシャル基板100の、トレンチTRが設けられた面と反対の面の上に設けられている。保護電極212はドレイン電極211を被覆している。
【0038】
次に、実施形態に係るMOSFET501の製造方法について説明する。図7A図7Mおよび図8A図8Lは、実施形態に係るMOSFET501の製造方法を示す断面図である。図7A図7Mは、図1に示す断面の変化を示し、図8A図8Lは、図2に示す断面の変化を示す。
【0039】
まず、図7Aおよび図8Aに示すように、単結晶基板110上にn層121がエピタキシャル成長により形成される。このエピタキシャル成長は、たとえば原料ガスとしてシラン(SiH)とプロパン(C)との混合ガスを用い、キャリアガスとしてたとえば水素ガス(H)を用いた化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により行うことができる。また、このときドナーとしてたとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。次に、n-層121上のp型ボディ層122と、p型ボディ層122上のn領域123とが形成される。具体的には、n-層121の上面にイオン注入が行われる。p型ボディ層122を形成するためのイオン注入においては、たとえばアルミニウム(Al)などのアクセプタがイオン注入される。またn領域123を形成するためのイオン注入においては、たとえばリン(P)などのドナーがイオン注入される。これにより、n-層121と、p型ボディ層122と、n領域123とを有するエピタキシャル基板100が形成される。なおイオン注入に代わり、不純物の添加をともなうにエピタキシャル成長が用いられてもよい。次に、イオン注入によってコンタクト領域124が形成される。次に、イオン注入により添加された不純物を活性化するための活性化熱処理が行われる。この熱処理の温度は、好ましくは1500℃以上1900℃以下であり、たとえば1700℃程度である。熱処理の時間は、たとえば30分程度である。熱処理の雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、たとえばAr雰囲気である。以上のようにエピタキシャル基板100が準備される。
【0040】
次に、図7Bおよび図8Bに示すように、エピタキシャル基板100上に、n領域123を部分的に露出する開口部を有するマスク401が形成される。開口部はトレンチTR(図1)の位置に対応して形成される。マスク401としては、たとえば、熱酸化によって形成されたシリコン酸化膜を用いることができる。
【0041】
次に、図7Cおよび図8Cに示すように、マスク401の開口部において、n領域123と、p型ボディ層122と、n層121の一部とがエッチングにより除去される。エッチングの方法としては、たとえば反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)、特に誘導結合プラズマ(Inductive Coupled Plasma:ICP)RIEを用いることができる。具体的には、たとえば反応ガスとしてSFまたはSFとOとの混合ガスを用いたICP-RIEを用いることができる。このようなエッチングにより、トレンチTR(図1図6)が形成されるべき領域に、側壁が単結晶基板110の主表面に対してほぼ垂直な内面SVを有する凹部TQを形成することができる。
【0042】
次に、マスク401を用いてエピタキシャル基板100がエッチングされる。具体的には、エピタキシャル基板100に対して、凹部TQの内面SVにおいて熱エッチングが行われる。熱エッチングは、たとえば、少なくとも1種類以上のハロゲン原子を有する反応性ガスを含む雰囲気中で、エピタキシャル基板100を加熱することによって行い得る。少なくとも1種類以上のハロゲン原子は、塩素(Cl)原子およびフッ素(F)原子の少なくともいずれかを含む。この雰囲気は、たとえば、Cl、BCL、SF、またはCFである。たとえば、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスを反応ガスとして用い、熱処理温度を、たとえば700℃以上1000℃以下として、熱エッチングが行われる。なお、反応ガスは、塩素ガスと酸素ガスとに加えてキャリアガスを含んでいてもよい。キャリアガスとしては、たとえば窒素(N)ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。そして、上述のように熱処理温度を700℃以上1000℃以下とした場合、SiCのエッチング速度はたとえば約70μm/時になる。また、この場合に、酸化珪素から作られたマスク401は、SiCに対する選択比が極めて大きいので、SiCのエッチング中に実質的にエッチングされない。
【0043】
図7Dおよび図8Dに示すように、上記の熱エッチングによりエピタキシャル基板100に、第1~第3の側壁面11~13と、底面BTとを有するトレンチTRが形成される。トレンチTRの形成の際、エピタキシャル基板100は、矢印SEで示すようにマスク401の開口部からサイドエッチングされるようにエッチングされる。またこの熱エッチングの際、第1の側壁面11と第2の側壁面12との上、特にそのp型ボディ層122からなる部分の上に、特殊面が自己形成される。
【0044】
次に、図7Eおよび図8Eに示すように、底面BT、第1~第3の側壁面11~13および上面123Aの各々を直接覆う第1の絶縁膜201が形成される。言い換えれば、第1の絶縁膜201は、底面BT上に直接位置する部分と、第1~第3の側壁面11~13上に直接位置する部分と、上面123A上に直接位置する部分とを有する。第1の絶縁膜201の形成は、底面BT、第1~第3の側壁面11~13および上面123Aの熱酸化によって行ない得る。
【0045】
次に、図7Fおよび図8Fに示すように、第1の絶縁膜201上にシリコン膜209が形成される。シリコン膜209の形成は、たとえば化学気相成長(CVD)法により行ない得る。
【0046】
次に、図7Gおよび図8Gに示すように、第3の側壁面13および上面123Aの第2の絶縁膜202(図1図6)が形成されるべき領域内のシリコン膜209上に、第1のレジスト層402Aが形成される。第1のレジスト層402Aは、第1の側壁面11および第2の側壁面12の上に第1の絶縁膜201を介して形成されたシリコン膜209が露出するように形成される。第1のレジスト層402Aの形成はレジスト液の塗布、露光および現像によって行ない得る。なお、図7Gに示す断面に第1のレジスト層402Aは設けられないが、第1の側壁面11および第2の側壁面12と第1のレジスト層402Aとの位置関係を明確にするために、第1のレジスト層402A(ハッチングなし)を図7Gに示してある。
【0047】
次に、図7Hおよび図8Hに示すように、第1の絶縁膜201およびシリコン膜209を介してトレンチTRを埋めるように、シリコン膜209と第1のレジスト層402Aとの上に第2のレジスト層402Bが形成される。第2のレジスト層402Bの形成はレジスト液の塗布によって行ない得る。
【0048】
次に、第2のレジスト層402B、第1のレジスト層402Aおよびシリコン膜209の一部がエッチングされる。このエッチングは、エッチングマスクを用いることなく行なわれ得る。すなわち、いわゆるエッチバックによって行なわれ得る。
【0049】
上記のエッチングにより、第1の側壁面11と第2の側壁面12との間では、図7Iに示すように、トレンチTRの一部のみを埋めるように底面BT上に第2のレジスト層402Bおよびシリコン膜209が残存する。また、上記のエッチングにより、第3の側壁面13および上面123Aの第2の絶縁膜202(図1図6)が形成されるべき領域内では、図8Iに示すように、第3の側壁面13および上面123A上に第1のレジスト層402Aおよびシリコン膜209が残存する。シリコン膜209は、第1の底部310B上に位置する第2の底部220Bと、第1の側壁部311上に位置する第4の側壁部224と、第2の側壁部312上に位置する第5の側壁部225と、第3の側壁部313上に位置する第6の側壁部226と、第1の頂部310T上に位置する第2の頂部220Tと、を有する。第4の側壁部224は、第2の底部220Bにつながった第1の一方端E41と、第1の領域411と第2の領域412との境界上に位置し第3の領域413から離れた第1の他方端E42とを有する。第5の側壁部225は、第2の底部220Bにつながった第2の一方端E51と、第1の領域411と第2の領域412との境界上に位置し第3の領域413から離れた第2の他方端E52とを有する。第6の側壁部226は、第2の底部220Bにつながった第3の一方端E61と、第2の頂部220Tにつながった第3の他方端E62とを有する。
【0050】
次に、図7J及び図8Jに示すように、第2のレジスト層402Bと第1のレジスト層402Aとが除去される。
【0051】
次に、図7Kに示すように、第1の絶縁膜201のうちシリコン膜209によって覆われておらず露出した部分がエッチングにより除去される。第3の側壁部313及び第1の頂部310Tはシリコン膜209によって覆われているため、そのまま残存する(図8J参照)。
【0052】
次に、図7Lおよび図8Kに示すように、第1の絶縁膜201およびシリコン膜209が設けられたトレンチTRが熱酸化される。これにより、シリコン膜209と、トレンチTRの第1~第3の側壁面11~13のうち露出された部分とが熱酸化される。シリコン膜209は、たとえば800℃以上1150℃以下で熱酸化される。この熱酸化によりシリコン膜209から第2の絶縁膜202が形成される。第1および第2の絶縁膜201,202はゲート絶縁膜200を構成する。
【0053】
好ましくは、シリコン膜209は、たとえば950℃以上1100℃以下で熱酸化される。シリコン膜209を950℃より低い温度で酸化した場合、シリコン膜209が酸化されて形成された二酸化珪素膜の粘性流動による応力緩和が働かないため、粒界付近のシリコンが表面側に移動し、シリコン膜209の表面で結晶粒が成長して突起を生成すると考えられる。そこで、シリコン膜209を950℃以上で酸化することにより、上記突起の生成を抑制することができるので、第2の絶縁膜202の表面荒れを効果的に抑制することができる。一方、シリコン膜209を1100℃より高い温度で酸化すると、二酸化珪素からなる第1の絶縁膜201とシリコン膜209とが化学反応を起こし酸化珪素を形成するため第2の絶縁膜202の形状を維持することが困難となる。そこで、シリコン膜209を1100℃以下で酸化することにより、酸化珪素の蒸気圧の上昇を抑制することで、第2の絶縁膜202の形状を効果的に維持することができる。
【0054】
第2の絶縁膜202を形成する際に、第4の側壁部224と第5の側壁部225とが十分な温度で加熱されることで、第1の他方端E41および第2の他方端E51の角が丸まり、ゲート絶縁膜200の厚さの変化が緩やかになる。この加熱の温度は、1300℃以上1400℃以下が好ましい。この加熱を酸化雰囲気中で行なうことで、第1の絶縁膜201の膜厚をより厚くし得る。
【0055】
次に、図7M及び図8Lに示すように、トレンチTR上にゲート絶縁膜200を介してゲート電極230が形成される。ゲート電極230の形成方法は、たとえば、導体またはドープトポリシリコンの成膜と化学機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)とによって行い得る。
【0056】
次に、再び図1図2図5および図6を参照して、ゲート電極230の露出面を覆うようにゲート電極230およびゲート絶縁膜200上に層間絶縁膜203が形成される。層間絶縁膜203およびゲート絶縁膜200に開口部が形成されるようにエッチングが行われる。この開口部により、主面111においてn領域123およびコンタクト領域124の各々が露出される。次に、主面111においてn領域123およびコンタクト領域124の各々に接するソース電極221が形成される。ソース配線222、ドレイン電極211および保護電極212が形成される。これにより、MOSFET501が得られる。
【0057】
本実施形態によれば、図1に示すように、第1の側壁面11および第2の側壁面12の近傍においてp型ボディ層122の一部がチャネルとして機能する。トレンチTR内にゲート電極230が設けられているため、角部CRB1およびCRB2に電界が集中しやすいが、図6に示すように、MOSFET501では、厚さdが厚さdよりも大きい。従って、角部CRB1およびCRB2に電界が集中しても、優れた耐圧を得ることができる。また、図2に示すように、第3の側壁面13と上面123A面とがなす角部CRTにも電界が集中しやすいが、MOSFET501では、第3の側壁領域303の厚さdおよび頂領域300Tの厚さdが厚さdよりも大きい。従って、角部CRTに電界が集中しても、優れた耐圧を得ることができる。このため、MOSFET501によれば、絶縁破壊耐性を向上することができる。
【0058】
第1および第2の絶縁膜201,202のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有し、第2の炭素原子濃度は第1の炭素原子濃度よりも小さいことが好ましい。これにより、第2の絶縁膜202は低い炭素原子濃度によって、高い絶縁破壊耐性を有する。よってMOSFET501は大きい耐圧を有する。なお、第1の絶縁膜201は、たとえば炭化珪素からなるトレンチTRの底面BTおよび第1~第3の側壁面11~13を熱酸化することにより形成されるため、炭化珪素に由来する炭素を多く含む。一方、第2の絶縁膜202は、たとえばシリコン膜209を酸化することにより形成されため、第2の絶縁膜202の炭素原子濃度は、第1の絶縁膜201の炭素原子濃度よりも小さくなる。
【0059】
第1の炭素原子濃度は1×1015cm-3より大きく、第2の炭素原子濃度は1×1015cm-3より小さいことが好ましい。これにより、第2の絶縁膜202の炭素原子濃度が十分に低くされる。よってMOSFET501の耐圧をより大きくすることができる。
【0060】
第2の絶縁膜202は第1の絶縁膜201より厚いことが好ましい。これにより、より優れた絶縁破壊耐性を得ることができる。第1の絶縁膜201の厚さは30nm以上80nm以下であってもよい。第2の絶縁膜202の厚さは100nm以上300nm以下であってもよい。第2の絶縁膜202の厚さが100nm以上であることで、より優れた絶縁破壊耐性を得ることができる。第2の絶縁膜202の厚さが300nm超であると、コストが過剰になるおそれがある。より好ましくは第2の絶縁膜202の厚さは150nm以上250nm以下である。
【0061】
第2の絶縁膜202は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られていることが好ましい。これによりMOSFET501の耐圧をより大きくすることができる。
【0062】
第2の絶縁膜202は、シリコンを含み炭素を含まない膜の熱酸化膜であることが好ましい。これによりMOSFET501の耐圧をより大きくすることができる。
【0063】
本開示に係る炭化珪素半導体装置はMOSFETに限定されず、たとえば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)であってもよい。
【0064】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
11:第1の側壁面
12:第2の側壁面
13:第3の側壁面
100:エピタキシャル基板
110:単結晶基板
111:主面
121:n
122:p型ボディ層
123:n領域
123A:上面
124:コンタクト領域
200:ゲート絶縁膜
201:第1の絶縁膜
202:第2の絶縁膜
203:層間絶縁膜
209:シリコン膜
211:ドレイン電極
212:保護電極
220B:第2の底部
220T:第2の頂部
221:ソース電極
222:ソース配線
224:第4の側壁部
225:第5の側壁部
226:第6の側壁部
230:ゲート電極
300B:底領域
300T:頂領域
301:第1の側壁領域
302:第2の側壁領域
303:第3の側壁領域
310B:第1の底部
310T:第1の頂部
311:第1の側壁部
312:第2の側壁部
313:第3の側壁部
320B:第2の底部
320T:第2の頂部
324:第4の側壁部
325:第5の側壁部
326:第6の側壁部
401:マスク
402A:第1のレジスト層
402B:第2のレジスト層
411:第1の領域
412:第2の領域
413:第3の領域
414:第4の領域
415:第5の領域
416:第6の領域
417:第7の領域
418:第8の領域
419:第9の領域
501:MOSFET
BT:底面
CH:チャネル面
CL1:第1の交線
CL2:第2の交線
CL3:第3の交線
CRB1、CRB2、CRB3、CRT:角部
E41:第1の一方端
E42:第1の他方端
E51:第2の一方端
E52:第2の他方端
E61:第3の一方端
E62:第3の他方端
SE:矢印
SV;内面
SW1:第1の側面
SW2:第2の側面
SW3:第3の側面
SW4:第4の側面
SW5:第5の側面
SW6:第6の側面
SW7:第7の側面
SW8:第8の側面
SW9:第9の側面
TQ:凹部
TR:トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
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