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特許7586086めっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物、及びめっき成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】めっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物、及びめっき成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20241112BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241112BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C23C18/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021546557
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031722
(87)【国際公開番号】W WO2021054050
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019168377
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 万希
(72)【発明者】
【氏名】玉津島 誠
(72)【発明者】
【氏名】山田 潤
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-521822(JP,A)
【文献】特開平08-081627(JP,A)
【文献】特開平03-197558(JP,A)
【文献】特開2014-214247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08K 3/013
C23C 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、非繊維状無機フィラー(B)を10~200質量部を含む半芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の窒素原子数(N)に対する炭素原子数(C)の比(C/N比)が7.3以上であり、
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、及び炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であり、
前記炭素数6~12のジアミンが、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種であり、
前記非繊維状無機フィラー(B)がカオリン、珪藻土から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするめっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度が5~200eq/ton、末端アミノ基濃度が0~100eq/tonである、請求項1に記載のめっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、及びアミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂である請求項1またはのいずれかに記載のめっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のめっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物にめっきを施しためっき成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良めっき性、低吸水性、耐ハンダリフロー性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂はその優れた特性と溶融成形の容易さを活かして、衣料用、産業資材用繊維、エンジニアリングプラスチックなどに使用されてきた。近年では各分野での技術発展と共に、ポリアミド樹脂の用途はさらに拡大しており、エンジン周辺の自動車部品からスマートフォンに代表される電気電子部品に至る様々な用途で使用されている。
【0003】
各種の技術発展に伴い、電気電子機器やOA機器においては高性能化が進んでおり、自動車分野においてもモーターを駆動源に使用するなど、各種構成部品から発生する電磁波が周辺部品あるいは人体に与える影響を抑制することが求められている。
【0004】
これらの問題に対応すべく、各種機器の構成部品に電磁波シールド性を付与する検討がなされており、電磁波シールド性に優れた金属や、導電性フィラーを配合した樹脂を用いることが行われている。これらの方法でも電磁波シールドの達成は可能ではあるものの、自動車の燃費改善や製品の軽量化、樹脂加工性といった点に課題を抱えている。
【0005】
一方で、機器の構成部品に電磁波シールド性を付与する方法として、樹脂成形品表面に金属蒸着や金属めっきを施す方法が知られている。部品そのものを金属で構成するよりも軽量化が容易であり、かつ十分な電磁波シールド性を付与できることから、各種分野で用いられている。
【0006】
樹脂に対する金属蒸着や金属めっき技術は、種々の開発が行われている。特許文献1には、ポリアミドと無機充填剤と変性スチレン・オレフィン系共重合体からなる金属めっきとの密着特性に優れたポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかしながら、当該文献に記載のポリアミド樹脂組成物は融点が280℃よりも低いため、基板部品の製造に用いられるハンダリフロー工程に耐えることが困難である。
【0007】
特許文献2には、ポリアミド樹脂とスチレン系樹脂とフィラーとを含む金属蒸着用樹脂組成物が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の金属蒸着用樹脂組成物は、金属蒸着技術により形成された金属膜との良密着性を記載したものであり、本発明の金属めっき技術とは金属膜の形成プロセスが本質的に異なる。また、実施例に記載の金属蒸着用樹脂組成物はいずれも融点が280℃より低く、ハンダリフロー工程に耐えることが困難である。
【0008】
特許文献3には、テレフタル酸と炭素数4~25のアルキレン基を有するジアミン成分からなる半芳香族ポリアミドと、無機フィラーを含むめっき層形成用樹脂組成物が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の樹脂組成物では、実施例においてガラス繊維を使用した場合のみが記載されており、めっき密着性も十分に担保出来ていない。
【0009】
特許文献4には、テレフタル酸と1,9-ノナンジアミンからなるポリアミド樹脂と充填剤からなるポリアミド樹脂組成物から得られた成形体表面に金属層を有する成形体が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の樹脂組成物はポリアミド樹脂が限定されたものである。
【0010】
特許文献5には、ポリアミド10T、ポリアミド9T、ポリアミド6T、ポリアミド4T、またはポリフタルアミドのいずれかから選定された半芳香族ポリアミド樹脂に充填剤を混合した樹脂組成物を用いた無電解めっき層の形成方法が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の技術は、樹脂組成物を用いてめっきを施す基体を成形する際に金型温度を180~240℃に設定する必要があり、設備面での制約を有している。
【0011】
上述のように、樹脂に対する金属蒸着や金属めっきに関して種々の発明がなされているものの、各種の課題や制約を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特公平8-11782号公報
【文献】特開2006-131821号公報
【文献】特許第3009707号公報
【文献】特許第3400133号公報
【文献】特許第6190154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は良めっき性、低吸水性、耐ハンダリフロー性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。さらには、めっき成形品のより高度なめっき性、外観が近年求められてきており、そのためにはめっきを施す前の成形品段階での成形性も重要であり、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物はこの課題も解決できるものである。
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために、半芳香族ポリアミド樹脂の組成に加え、充填剤の種類、配合量を鋭意検討した結果、良めっき性、低吸水性、耐ハンダリフロー性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
(1) 半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、非繊維状無機フィラー(B)を10~200質量部を含む半芳香族ポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の窒素原子数(N)に対する炭素原子数(C)の比(C/N比)が7.3以上である、めっき成形品用半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(2) 前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%を含む半芳香族ポリアミド樹脂である、(1)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(3) 前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度が5~200eq/ton、末端アミノ基濃度が0~100eq/tonである、(1)または(2)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(4) 前記非繊維状無機フィラー(B)が、カオリン、ワラストナイト、ガラスビーズ、珪藻土、及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一つである、(1)~(3)のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(5) (1)~(4)のいずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物にめっきを施しためっき成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良めっき性、低吸水性、耐ハンダリフロー性を有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物、及びこの半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いためっき成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物に関して説明する。
【0018】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、特に限定はされず、分子中に酸アミド結合(―CONH―)を有し、かつ芳香族環(ベンゼン環)を有する半芳香族ポリアミドである。
半芳香族ポリアミドの一例としては、6T系ポリアミド(例えば、テレフタル酸/イソフタル酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T/6I、テレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T/66、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T/6I/66、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/2-メチル-1、5-ペンタメチレンジアミンからなるポリアミド6T/M-5T、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ε-カプロラクタムからなるポリアミド6T/6、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/テトラメチレンジアミンからなるポリアミド6T/4T)、9T系ポリアミド(テレフタル酸/1,9-ノナンジアミン/2-メチル-1,8-オクタンンジアミン)、10T系ポリアミド(テレフタル酸/1,10-デカンジアミン)、12T系ポリアミド(テレフタル酸/1,12-ドデカンジアミン)、セバシン酸/パラキシレンジアミンからなるポリアミドなどが挙げられる。
【0019】
本明細書に記載のC/N比とは、半芳香族ポリアミド(A)中の繰り返し構造単位中における窒素原子数(N)に対する炭素原子数(C)の比(以下、C/N比と記載)を意味する。C/N比は、ポリアミド中のアミド基濃度を表しており、C/N比が大きいほど、アミド基濃度が小さいことを意味する。一般にアミド基には水分子や配位しやすいことから、C/N比はポリアミド樹脂の吸水性の指標となる。ポリアミド樹脂の吸水性が高い場合、すなわちC/N比が小さい場合、ハンダリフローなどの後加工工程において、成形体中の水分が急激に加熱され、その体積が膨張することで表面の膨れ(ブリスター)が問題となることが多い。また、吸水に伴う製品の寸法変化により組み付け時の不具合や強度低下を引き起こす。したがって、工業的により安定した製品を製造する上でC/N比は重要である。
【0020】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、C/N比が7.3以上である必要がある。また、7.5以上であることが好ましい。C/N比の上限は特に限定されないが、10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.5以下がさらに好ましく、8.2以下が特に好ましい。
【0021】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)としては、C/N比が7.3以上という観点から、以下の半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%を含む半芳香族ポリアミドであることが好ましい。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、及び炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましく、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~98モル%、及び炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を2~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であることがさらに好ましく、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を55~98モル%、及び炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を2~45モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であることが特に好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合が50モル%を下回る場合、ハンダリフローなどの後加工工程において、成形体中の水分が急激に加熱され、その体積が膨張することで表面の膨れ(ブリスター)が問題となることが多い。また、吸水に伴う製品の寸法変化により組み付け時の不具合や強度低下を引き起こす。
【0022】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する炭素数6~12のジアミン成分としては、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、複数用いても良い。
【0023】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する炭素数10以上のアミノカルボン酸または炭素数10以上のラクタムとしては、炭素数11~18のアミノカルボン酸またはラクタムが好ましい。中でも、11-アミノウンデカン酸、ウンデカンラクタム、12-アミノドデカン酸、12-ラウリルラクタムが好ましい。C/N比が7.3以上の観点から、共重合成分としては、炭素数11~18のアミノカルボン酸もしくは炭素数11~18のラクタムのうちの一種もしくは複数種を共重合していることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、構成単位中50モル%以下で他の成分を共重合することができる。共重合可能なジアミン成分としては、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、1,18-オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタン、ビス-(4,4’-アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等が挙げられる。
【0025】
共重合可能な酸成分としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカン二酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,18-オクタデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
また、共重合可能な成分として、ε-カプロラクタムなどが挙げられる。
【0026】
本発明で用いられる芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、及びアミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~98モル%、及びアミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を2~50モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を55~80モル%、及びアミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を20~45モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることがさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を60~70モル%、及びアミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を30~40モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることが特に好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合が50モル%を下回る場合、ハンダリフローなどの後加工工程において、成形体中の水分が急激に加熱され、その体積が膨張することで表面の膨れ(ブリスター)が問題となることが多い。また、吸水に伴う製品の寸法変化により組み付け時の不具合や強度低下を引き起こす。
【0027】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を製造する際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ化合物を添加することが好ましい。
【0028】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は0.4~4.0であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
【0029】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度、末端アミノ基濃度としては、それぞれ5~200eq/ton、0~100eq/tonであることが好ましい。
末端カルボキシル基濃度が5eq/ton未満だと、フィラーとの密着性が不十分で、ポリアミド樹脂との相溶性が悪くなり、フィラーの分散性が悪くなる。フィラーの分散性が悪くなると、エッチング工程後、十分に凹凸が発現せず、金属めっきの浮きが発生する可能性がある。また、末端カルボキシル基濃度、末端アミノ基濃度がそれぞれ200eq/ton、100eq/tonを超えると、成形加工時にゲル化や劣化が促進される可能性があるため、上記の範囲内の末端カルボキシル基濃度、末端アミノ基濃度が適している。
【0030】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。
【0031】
末端封止剤を添加する時期としては、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸またはモノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキシルカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0032】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができ、例えば、原料モノマーを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込みからポリマー作製までを連続的な工程で進めても良いし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進める、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いても良い。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。
【0033】
非繊維状無機フィラー(B)は、繊維状無機フィラーでない無機フィラーであれば、特に制限なく使用可能であるが、非繊維状無機フィラー(B)の平均アスペクト比は100以下が好ましく、50以下がより好ましい。非繊維状無機フィラー(B)は、平均粒径が50μm以下のものが好ましく、30μm以下のものがより好ましく、10μm以下のものがさらに好ましい。また、前記非繊維状無機フィラー(B)の配合量は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、10~200質量部であり、好ましくは、20~160質量部であり、より好ましくは、40~160質量部である。配合量が10質量部未満の場合、金属めっきの密着強度が低くなり、補強効果が少なくなるので、好ましくない。一方、配合量が200質量部を超えると、加工性、成形品の表面平滑性が低下するので、好ましくない。本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物においては、配合量がそのまま、半芳香族ポリアミド樹脂組成物中の含有量となる。
【0034】
本発明で用いられる非繊維状無機フィラー(B)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の金属めっき密着性、強度、寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、非繊維状無機フィラーから選択される少なくとも1種を使用する。非繊維状無機フィラー(B)としては、例えばケイ酸アルミニウム塩(カオリン、ゼオライト)、ケイ酸カルシウム塩(ワラストナイト)、ケイ酸マグネシウム塩(タルク)、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素(珪藻土)、ガラスビーズ、ガラスバルーンなどが挙げられる。本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、良好な金属めっき密着性を有しているが、特に優れためっき密着性の観点から、非繊維状無機フィラー(B)は、カオリン、珪藻土、ワラストナイト、ガラスビーズ、及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種が好ましく、カオリン、珪藻土、及びワラストナイトから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、カオリン、及び珪藻土から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。カオリンは、成形時の外観にも優れ、めっき工程で使用するエッチング液にも溶解しないため、凹凸を発現しやすく、めっき密着性に優れている。珪藻土に関しても同様で、さらにフィラー自体に凹凸が多く見られているため、よりめっき密着性を担保しやすい。これらは1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。
【0035】
非繊維状無機フィラー(B)は半芳香族ポリアミド樹脂(A)との親和性を向上させるため、有機処理やカップリング剤処理したものが好ましい。または、溶融コンパウンド時にカップリング剤と併用することが好ましく、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれを使用しても良いが、その中でも、特にアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。
【0036】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の表面に金属めっきを施す方法の一例としては、半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて成形した成形品表面にエッチング液を接触させ、エッチング(表面粗化)を行い、成形品表面に凹凸構造を形成した後、表面に金属めっきを施す方法が挙げられる。エッチングにより形成される凹凸が機械的接合効果を発現することで優れためっき接着性を得られると推測する。
【0037】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)に前記の通り非繊維状無機フィラー(B)を所定の配合量で配合することで、エッチング後の成形体表面に凹凸を形成し、機械的接合効果により金属めっき密着性を向上させることができるものである。
【0038】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で従来のポリアミド樹脂組成物に使用される各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、強化剤、安定剤、離型剤、摺動性改良材、着色剤、可塑剤、結晶核剤、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。これら成分の半芳香族ポリアミド樹脂組成物中の可能な配合量は、下記に説明する通りであるが、これら成分の合計は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物中、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0039】
強化剤としては、繊維状無機フィラーが挙げられ、具体的には、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、針状ワラストナイト、繊維状ワラストナイトなどがあげられる。これらの強化剤は、一種のみの単独使用でも良いが、数種を組み合わせて用いても良い。強化剤の添加量は、最適な量を選択すればよいが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、最大5質量部添加することが可能である。5質量部を超えると、金属めっき外観や成形性に問題が出てくるため、好ましくない。より好ましくは、繊維状無機フィラーを配合しないことである。
【0040】
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
【0041】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコーン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。離型剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
【0042】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドをポリマーブレンドしても良い。半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドの添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。
【0043】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物には、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂を添加しても良い。ポリアミド以外のポリマーとしては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、エチレン-ブチレン共重合体(EBR)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体(SEBS)が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、溶融混練により、溶融状態でブレンドすることも可能であるが、熱可塑性樹脂を繊維状、粒子状にし、本発明のポリアミド樹脂組成物に分散しても良い。熱可塑性樹脂の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。
【0044】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物に、芳香族ポリアミド樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を添加する場合にはポリアミドと反応可能な反応性基が共重合されていることが好ましく、反応性基としてはポリアミド樹脂の末端基であるアミノ基、カルボキシル基及び主鎖アミド基と反応しうる基である。具体的にはカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、それらの中でも酸無水物基が最も反応性に優れている。
【0045】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、上述の各構成成分を従来公知の方法で配合することにより製造されることができる。例えば、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重縮合反応時に各成分を添加したり、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とその他の成分をドライブレンドしたり、または、二軸スクリュー型の押出機を用いて各構成成分を溶融混練する方法を挙げることができる。
【0046】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、射出成形等の公知の成形方法により、成形品とすることができる。本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて、成形品を製造する際、射出成形における金型温度は180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることがさらに好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。金型温度の上記上限を超える場合、成形品が金型に残る等の成形不良を引き起こす可能性がある。金型温度の下限は特に制限はないが、樹脂の流動性や成形体の外観、実使用環境における寸法変化抑制の観点から50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが特に好ましい。
【0047】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、これを用いて得られた成形品の表面に金属めっきを施した金属めっき成形品として用いることができる。当該金属めっき成形品は従来の金属めっき成形品に比べて、金属めっき密着性、低吸水性、耐ハンダリフロー性に優れる。
【0048】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いた金属めっき成形品を製造する方法としては、特に制限されず、公知の技術で製造することができる。一例としては、クロム酸、過マンガン酸、塩酸等を使用した化学エッチング処理により表面を粗化した後、粗化表面を利用して、中和、触媒付与、活性化、無電解メッキ、酸活性、電気めっき等の工程を順に行うキャタリスト・アクセラレータ法や、このキャタリスト・アクセラレータ法における無電解めっき工程を省いたダイレクトめっき法等により金属めっきを施す方法、紫外線や特定の波長を有するレーザー光により表面を改質した後、改質表面を利用して、触媒付与、活性化、無電解めっき、酸活性、電気めっき等の工程を順に行うキャタリスト・アクセラレータ法や、このキャタリスト・アクセラレータ法における無電解メッキ工程を省いたダイレクトめっき法等により金属めっきを施す方法が挙げられる。なお、エッチングおよび金属めっきはめっき用成形体の表面全体またはその一部に行うことができる。
【0049】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いた金属めっき成形品の金属めっきの厚さは、最適な厚さを選択すればよいが、0.5~200μmが好ましく、1~150μmがより好ましい。
【0050】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いた金属めっき成形品は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物中に配合された非繊維状無機フィラーにより優れた金属密着性を有する。
【0051】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いた金属めっき成形品の金属めっきピール強度は、下記実施例の項目で説明される方法で測定される。金属めっきピール強度は、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の良めっき性に関する項目であり、金属めっきピール強度は4.0N/cm以上である必要がある。また、4.5N/cm以上であることが好ましく、5.0N/cm以上であることがより好ましく、5.5N/cm以上であることがさらに好ましく、5.7N/cm以上であることが特に好ましい。金属めっきピール強度が上記下限を下回る場合、半芳香族ポリアミド樹脂組成物と金属めっきとの密着性が低く、金属めっきの浮きや剥がれが生じる可能性がある。
【0052】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いた金属めっき成形品は、良好な金属めっき密着性を活かし、自動車部品、電気電子部品、OA機器部品、電磁波シールド部品等の種々の用途に使用することができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0054】
(1)末端アミノ基濃度(AEG)、末端カルボキシル基濃度(CEG)
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を、重クロロホルム(CDCl)/ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)=1/1(体積比)の溶媒に溶解し、重蟻酸を滴下後、H-NMRにて各末端基濃度を測定した。
【0055】
(2)相対粘度(RV)
半芳香族ポリアミド樹脂0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて20℃で測定した。
【0056】
(3)融点(Tm)
半芳香族ポリアミド樹脂5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC-Q100を用いて、350℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、融解熱の最大ピーク温度を結晶融点として求めた。
【0057】
(4)金属めっきピール強度
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。得られた試験片をイソプロピルアルコールにて拭いた後、50g/lのOPC-250クリーナー(奥野製薬社製)を用いて60℃で3分間脱脂処理を行った。その後、クロム酸400g/lと濃硫酸200ml/lとトップシャット(奥野製薬社製)0.3g/lからなる、70℃のクロム酸溶液に試験片を5分間浸漬し、表面処理を行った。表面処理を行った試験片を38%塩酸の5%水溶液にて室温で3分間酸洗浄を施した後、45℃に調整したB-200ニュートライザー(奥野製薬社製)200ml/lからなる処理液に5分間浸漬した。次に、25℃に調製した錫-パラジウム錯塩水溶液(A30キャタリスト、奥野製薬社製)と塩酸と水(体積比=1:1:5)からなる処理液に4分間浸漬した(キャタリスティング)。その後、50℃に調製した38%塩酸の10%水溶液に4分間浸漬した後(アクセラレーティング)、40℃に調製したTMP化学ニッケルA液、B液(奥野製薬社製)および水(体積比=1:1:4)からなる無電解ニッケルめっき液に10分間浸漬し、試験片表面に約1μmのニッケルめっき層を形成し、さらに電解銅めっきを施し、銅めっき層を形成した。得られた金属めっき試験片から縦100mm、横10mm、厚み2mmの短冊試験片を切り出し、ピール強度評価用試験片とした。作製したピール強度評価用試験片を用いて、JIS H8630 90度ピール強度試験方法に準拠し、金属めっきピール強度を測定した。
【0058】
(5)金属めっき外観
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。得られた試験片をイソプロピルアルコールにて拭いた後、50g/lのOPC-250クリーナー(奥野製薬社製)を用いて60℃で3分間脱脂処理を行った。その後、クロム酸400g/lと濃硫酸200ml/lとトップシャット(奥野製薬社製)0.3g/lからなる、70℃のクロム酸溶液に試験片を5分間浸漬し、表面処理を行った。表面処理を行った試験片を38%塩酸の5%水溶液にて室温で3分間酸洗浄を施した後、45℃に調整したB-200ニュートライザー(奥野製薬社製)200ml/lからなる処理液に5分間浸漬した。次に、25℃に調製した錫-パラジウム錯塩水溶液(A30キャタリスト、奥野製薬社製)と塩酸と水(体積比=1:1:5)からなる処理液に4分間浸漬した(キャタリスティング)。その後、50℃に調製した38%塩酸の10%水溶液に4分間浸漬した後(アクセラレーティング)、40℃に調製したTMP化学ニッケルA液、B液(奥野製薬社製)および水(体積比=1:1:4)からなる無電解ニッケルめっき液に10分間浸漬し、試験片表面に約1μmのニッケルめっき層を形成し、さらに電解銅めっきを施し、銅めっき層を形成した。得られた金属めっき試験片の外観を観察し、金属めっきの浮きの有無により外観を評価した。
○:金属めっきの浮きなし
×:金属めっきの浮きあり
【0059】
(6)耐ハンダリフロー性
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、長さ127mm、幅12.6mm、厚み0.8mmtのUL燃焼試験用テストピースを射出成形し、試験片を作製した。試験片は85℃、85%RH(相対湿度)の雰囲気中に72時間放置した。試験片はエアリフロー炉中(エイテック製 AIS-20-82C)、室温から150℃まで60秒かけて昇温させ予備加熱を行った後、190℃まで0.5℃/分の昇温速度でプレヒートを実施した。その後、100℃/分の速度で所定の設定温度まで昇温し、所定の温度で10秒間保持した後、冷却を行った。設定温度は240℃から5℃おきに増加させ、表面の膨れや変形が発生しなかった最高の設定温度をリフロー耐熱温度とし、ハンダ耐熱性の指標として用いた。
○:リフロー耐熱温度が260℃以上
×:リフロー耐熱温度が260℃未満
【0060】
(7)成形性
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。得られた試験片の外観を目視で観察し、次の基準により評価した。
○:成形品表面にフィラー浮きが見られない。
×:成形品表面にフィラー浮きが見られる。
【0061】
本実施例は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)として、以下の方法で合成されたものや市販品を使用して行われたものである。各半芳香族ポリアミド樹脂(A)の物性を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
<合成例1;半芳香族ポリアミド樹脂(A1)>
1,6-ヘキサメチレンジアミン8.55kg、テレフタル酸12.25kg、11-アミノウンデカン酸8.00kg、触媒として次亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸140gおよびイオン交換水16.20kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでNで加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。
その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を335℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A1)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が65.1モル%、11-アミノウンデカン酸からなる構成単位が34.9モル%で構成され、相対粘度2.1、融点314℃、AEG30eq/ton、CEG140eq/tonであった。ポリアミド樹脂の構成モノマー比率は、AEG及びCEG測定と同様、H-NMRにより確認した。
【0064】
<合成例2;半芳香族ポリアミド樹脂(A4)>
アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン=25.1/19.9質量%、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン32.4/22.6質量%、安息香酸0.01倍モル、イオン交換水60質量%および次亜リン酸ナトリウム0.05質量%をスクリューと槽の間隔が槽の半径1~3%のところで液面以下の側面の95%を占める0.10mのバッチ式加圧重合槽に仕込み、窒素置換を充分行った後、160℃に昇温し、撹拌下圧力3.0kg/cm-Gで濃度85重量%まで濃縮した。引き続いて撹拌下4時間かけて最高到達温度300℃に昇温、最高重合圧力を35kg/cm-Gとした。吐出はイオン交換水を定量ポンプにより、3l/hrの割合で供給し、水蒸気圧を35kg/cm-Gに保持しながら、0.5時間かけて行った。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A4)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が55.1モル%、1、6-ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からなる構成単位が44.9モル%で構成され、相対粘度2.3、融点305℃、AEG25eq/ton、CEG150eq/tonであった。
【0065】
<合成例3;半芳香族ポリアミド樹脂(A6)>
1,6-ヘキサメチレンジアミン9.21kg、末端封鎖剤として酢酸286gに変更し、合成例1同様に真空乾燥まで行い、低次縮合物を得た。次いで、ブレンダ―(容量0.1m)を用いて、230℃、真空度0.07KPaの環境で8時間反応させ、半芳香族ポリアミド樹脂を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A6)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が66.6モル%、11-アミノウンデカン酸からなる構成単位が33.4モル%で構成され、相対粘度2.5、融点314℃、AEG40eq/ton、CEG0eq/tonであった。
【0066】
本実施例は、以下に例示するように作製された半芳香族ポリアミド樹脂組成物を使用して行われたものである。
【0067】
表2及び表3に記載の成分と質量割合(質量部)で、コペリオン(株)製二軸押出機STS-35を用いて各ポリアミド原料の融点+20℃で溶融混練し、実施例1~10、比較例1~7の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得た。半芳香族ポリアミド樹脂組成物の作製に当たり使用した原料は以下の通りである。他添加剤として用いた離型剤と安定剤は、1:5の質量割合で用いた。
【0068】
半芳香族ポリアミド樹脂(A1):上記の合成例1に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A2):PA10T(KINGFA社製 Vicnyl(R)、Tm=310℃)
半芳香族ポリアミド樹脂(A3):PA6T/6I(EMS社製、Grivory(R) G21、非晶性)
半芳香族ポリアミド樹脂(A4):上記の合成例2に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A5):PA6T/6(BASF社製 Ultramide(R) KR4351、Tm=295℃)
半芳香族ポリアミド樹脂(A6):上記の合成例3に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
【0069】
非繊維状無機フィラー(B1):焼成カオリン(BASF社製、Translink(R) 445、表面処理あり、平均粒径1.4μm)
非繊維状無機フィラー(B2):焼成カオリン(BASF社製、Translink(R) 77、表面処理あり、平均粒径0.8μm)
非繊維状無機フィラー(B3):珪藻土(EP Minerals社製、Celatom(R) MW-25、表面処理なし、平均粒径11μm)
非繊維状無機フィラー(B4):ワラストナイト(キンセイマテック社製、KTK(R)、表面処理あり、平均粒径0.5~8.0μm)
非繊維状無機フィラー(B5):ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ社製、GB-
731A、表面処理あり、平均粒径32μm)
非繊維状無機フィラー(B6):ゼオライト(新東北化学工業社製、ゼオフィル(R) CP50、表面処理なし、平均粒径5μm)
繊維状無機フィラー(B7):ガラスフィラー(日本電気硝子社製、T-275H、表面処理あり)
繊維状無機フィラー(B8):繊維状ワラストナイト(NYCO社製、NYGLOS(R) 8、表面処理あり)
【0070】
離型剤:ステアリン酸マグネシウム
安定剤:ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (Chiba Speciality Chemicals社製 Irganox1010)
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
<実施例1~10、比較例1~7>(実施例6~8は参考例である)
表2から明らかなように、実施例1~10は優れた金属めっきピール強度、金属めっき外観、成形性を発現するとともに、耐リフローハンダ性も有しており、優れた特性を有することがわかる。さらに実施例1~10は、近年求められている、より高度なめっき性、外観の指標となる成形性も優れている。一方で、比較例1では、非繊維状無機フィラー(B)を配合していないため、金属めっきピール強度、金属めっき外観に劣り、不十分である。比較例2では、実施例1~8とは異なる半芳香族ポリアミドを用いており、金属めっきピール強度、金属めっき外観、成形性には優れるものの、耐リフローハンダ性には劣る。比較例3では、実施例1~8とは異なる半芳香族ポリアミドを用いており、金属めっき外観、成形性には優れるものの、金属めっきピール強度、耐リフローハンダ性には劣る。比較例4では、実施例1~8とは異なる半芳香族ポリアミドに繊維状フィラーを添加することで、金属めっき外観には優れるものの、金属めっきピール強度、耐リフローハンダ性、成形性には劣る。比較例5では、実施例1~8とは異なる半芳香族ポリアミドを用いており、金属めっきピール強度、金属めっき外観には優れるものの、耐リフローハンダ性、成形性には劣る。比較例6、7では、繊維状無機フィラーを使用しているため、金属めっきピール強度、金属めっき外観、耐リフローハンダ性は良好なものの、成形性に劣り、不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂の組成に加え、特定の無機フィラーを配合することで良好な金属めっき密着性、めっき外観を発現するとともに、耐ハンダリフロー性をも満足することができ、金属めっきを必要とする成形品を工業的に有利に製造することができる。