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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20241112BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20241112BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
B60R11/02 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021567401
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047469
(87)【国際公開番号】W WO2021132089
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2019233992
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(72)【発明者】
【氏名】春山 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 千秋
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159572(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/123975(WO,A1)
【文献】特開2007-087792(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193708(WO,A1)
【文献】特開2018-072686(JP,A)
【文献】特開2019-015936(JP,A)
【文献】特開2016-206612(JP,A)
【文献】特開2020-109453(JP,A)
【文献】特開2018-45143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00,35/23
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を表す表示光を被投射部材である車両フロントガラスのうち運転席に対向する部分に照射することにより虚像を前記運転席に座る視認者に視認させる車両用のヘッドアップディスプレイ装置であって、
二次元平面上に配置された複数の光源と、
前記光源からの光を受けて前記表示光を出射する表示器と、
前記表示器からの前記表示光を前記被投射部材に導く反射鏡と、
視認者に対する前記表示光の照射位置を上下方向に移動させるために前記反射鏡の角度を調整する駆動部と、
前記複数の光源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記複数の光源が点灯することにより視認者に対して前記表示光を照射可能な表示光照射可能領域のうち一部に視認者のアイボックスに対応するアイボックス対応範囲を設定し、
視点情報を取得し、前記視点情報に含まれる前記アイボックス内に位置する視認者の視点に対応させて前記アイボックス対応範囲内に位置する視点領域を決定し、前記複数の光源のうち決定した前記視点領域に対応する単数又は複数の前記光源を点灯させ、
前記駆動部により調整された前記反射鏡の角度に基づき、前記表示光照射可能領域内における前記アイボックス対応範囲の位置を設定し、
前記制御部は、前記駆動部を介して前記反射鏡の角度を調整することにより、前記被投射部材に対する前記表示光の照射位置が前記被投射部材である車両フロントガラスの下側に移動するにつれて、前記表示光照射可能領域内における前記アイボックス対応範囲の位置を、車幅方向において、前記運転席に対して助手席から離れる車外側に設定する
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記駆動部を介して前記反射鏡の角度を調整することにより、前記被投射部材に対する前記表示光の照射位置が前記被投射部材である車両フロントガラスの下側に移動するにつれて、前記表示光照射可能領域内における前記アイボックス対応範囲の位置を上側に設定する、
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイ装置は、発光ダイオードと、発光ダイオードからの光を受けて表示光を出射する液晶表示パネルと、表示光をフロントガラスに向けて反射することにより虚像を視認させる凹面鏡と、フロントガラスへの表示光の照射位置を調整するために凹面鏡を回動させるステッピングモータ及び歯車と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-169399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、フロントガラスが自由曲面であるため、凹面鏡の回動に伴うフロントガラスに対する表示光の照射位置が変わると、表示光のフロントガラスへの入射角が変化し、これにより、視認者に対して表示光が照射される位置がずれることを発見した。このように、視認者に対して表示光が照射される位置がずれると、視認者の目に高輝度の表示光を照射することが困難となり、虚像の表示品位が低下することが本願発明者らにより発見されていた。
【0005】
本開示は、上記実状を鑑みてなされたものであり、表示品位の低下を抑制することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係るヘッドアップディスプレイ装置は、
情報を表す表示光を被投射部材である車両フロントガラスのうち運転席に対向する部分に照射することにより虚像を前記運転席に座る視認者に視認させる車両用のヘッドアップディスプレイ装置であって、
二次元平面上に配置された複数の光源と、
前記光源からの光を受けて前記表示光を出射する表示器と、
前記表示器からの前記表示光を前記被投射部材に導く反射鏡と、
視認者に対する前記表示光の照射位置を上下方向に移動させるために前記反射鏡の角度を調整する駆動部と、
前記複数の光源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記複数の光源が点灯することにより視認者に対して前記表示光を照射可能な表示光照射可能領域のうち一部に視認者のアイボックスに対応するアイボックス対応範囲を設定し、
視点情報を取得し、前記視点情報に含まれる前記アイボックス内に位置する視認者の視点に対応させて前記アイボックス対応範囲内に位置する視点領域を決定し、前記複数の光源のうち決定した前記視点領域に対応する単数又は複数の前記光源を点灯させ、
前記駆動部により調整された前記反射鏡の角度に基づき、前記表示光照射可能領域内における前記アイボックス対応範囲の位置を設定し、
前記制御部は、前記駆動部を介して前記反射鏡の角度を調整することにより、前記被投射部材に対する前記表示光の照射位置が前記被投射部材である車両フロントガラスの下側に移動するにつれて、前記表示光照射可能領域内における前記アイボックス対応範囲の位置を、車幅方向において、前記運転席に対して助手席から離れる車外側に設定する
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ヘッドアップディスプレイ装置において、表示品位の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置が搭載される車両の概略図である。
図2】本開示の一実施形態に係る視認者の右目に入射する光路を示す図である。
図3】本開示の一実施形態に係る視認者の左目に入射する光路を示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係る光源と表示光照射可能領域の構成領域の対応関係を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る制御部の光源点灯処理の手順を示すフローチャートである。
図6】本開示の一実施形態に係る基準光源とその近傍光源の照明強度を示す図である。
図7】本開示の一実施形態に係る反射鏡が第1角度にあるときの表示光の光路を示す図である。
図8】本開示の一実施形態に係る反射鏡が第2角度にあるときの表示光の光路を示す図である。
図9】本開示の一実施形態に係る反射鏡が第3角度にあるときの表示光の光路を示す図である。
図10】本開示の一実施形態に係る車両が左ハンドル車であって、反射鏡が第1角度にあるときの表示光照射可能領域に占めるアイボックス対応範囲の位置を示す図である。
図11】本開示の一実施形態に係る車両が左ハンドル車であって、反射鏡が第3角度にあるときの表示光照射可能領域に占めるアイボックス対応範囲の位置を示す図である。
図12】本開示の一実施形態に係る車両が左ハンドル車であって、反射鏡が第2角度にあるときの表示光照射可能領域に占めるアイボックス対応範囲の位置を示す図である。
図13】本開示の一実施形態に係る車両が右ハンドル車である場合の表示光照射可能領域に占めるアイボックス対応範囲の位置を示す図である。
図14】ウインドシールド及びヘッドアップディスプレイ装置を示す図である。
図15図14のF15-F15線の横断面図である。
図16図14のF16-F16線の横断面図である。
図17】ウインドシールド及びヘッドアップディスプレイ装置を示す図である。
図18図17のF18-F18線の縦断面図である。
図19図17のF19-F19線の縦断面図である。
図20】比較例に係る表示光がウインドシールドの下側に照射されている場合のアイボックスと高輝度範囲を示す図である。
図21】比較例に係る表示光がウインドシールドの上側に照射されている場合のアイボックスと高輝度範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係るヘッドアップディスプレイ装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明において、方向Tは上方向を示し、方向Bは下方向を示し、方向Rは右方向を示し、方向Lは左方向を示し、方向Fは車両前方を示し、方向Rrは車両後方を示す。左右方向は運転者から見た方向を示し、方向Vwで示す車幅方向に沿う方向である。
【0010】
図1に示すように、ヘッドアップディスプレイHUDは、車両のインストルメントパネルに搭載され、表示光DLを車両のウインドシールドWSに出射する。一例として、ヘッドアップディスプレイHUDは、ウインドシールドWS、例えば、フロントガラスのうち運転席に対向する部分に表示光DLを出射する。表示光DLは、例えば、車両の走行速度、各種車両警告、経路案内情報などの車両情報を表すものである。車両の視認者Vrは、アイボックスEBからウインドシールドWSを見ると、表示光DLの虚像ViをウインドシールドWSの前方に見ることができる。
【0011】
ヘッドアップディスプレイHUDは、表示器1と、反射鏡2と、制御部3と、反射鏡駆動部4と、を有する。
【0012】
表示器1は、制御部3に制御されて、車両情報を表す画像を表示し、この画像を表す表示光DLを出射する。
【0013】
反射鏡2は、ヘッドアップディスプレイHUDの筐体内で表示光DLを折り返し、ウインドシールドWSに向けて反射する。反射鏡2は、例えば、凹面鏡である。
【0014】
反射鏡駆動部4は、制御部3に制御され、回転軸AXを中心に反射鏡2を回動させる。回転軸AXは、車幅方向に沿い、図1では紙面垂直方向に沿う。反射鏡2は、回転軸AXを中心に回動することにより、視認者Vrに対する表示光DLの照射位置を上下方向(T方向及びB方向)に移動させることができる。
【0015】
図2及び図3に示すように、表示器1は、複数の光源11と、レンズ群12と、液晶パネル13と、を有する。レンズ群12は、第1フィールドレンズ12aと、第2フィールドレンズ12bと、を有する。レンズ群12は、複数の光源11のうち何れかの基準光源11Aから出射される照明光が液晶パネル13の全面を透過照明するように設計された前段光学部材(バックライト光学部材)である。また、レンズ群12は、液晶パネル13から出射される表示光DLが後段光学部材(反射鏡2及びウインドシールドWSから構成されるHUD光学部材)を経てアイボックスEB内の任意の位置にある視認者Vrの目に届くように設計されている。
【0016】
図4に示すように、複数の光源11は、二次元平面上に配列された縦5灯×横7灯の35灯のLED(Light Emitting Diode)光源で構成されている。この二次元平面は、複数の光源11が実装される基板の実装面である。各光源11(0,0)~11(6,4)は、表示光照射可能領域LAを構成する構成領域eb(0,0)~eb(6,4)に対応する。表示光照射可能領域LAは、視認者Vrに対して表示光DLが照射可能な最大範囲である。複数の光源11の全てが点灯されたときに、表示光照射可能領域LAの全域に表示光DLが照射される。構成領域eb(0,0)~eb(6,4)は、表示光照射可能領域LAが縦5×横7の格子状に分割されてなる。表示光照射可能領域LAにおいて、縦は上下方向(T方向及びB方向)に沿い、横は車幅方向(Vw方向)に沿う。
【0017】
図1に示すように、制御部3は、表示器1及び反射鏡駆動部4を制御する。制御部3は、一例として視認者Vrによる図示しない操作スイッチの操作に基づき、反射鏡駆動部4を通じて反射鏡2の角度αを視認者Vrの座高に応じて調整する。
【0018】
制御部3は、図7図8及び図9に示すように、視認者Vrの座高H1,H2,H3に応じて反射鏡2の角度αを調整する。反射鏡2の角度αは、車両前後方向(方向F及び方向Rr)に対する反射鏡2の反射面の中心点の接線方向の角度である。反射鏡2の角度αが大きくなるにつれて、表示光DLの照射位置は上方向に移動する。
【0019】
図7に示すように、視認者Vrが座高H1であるときには、反射鏡2は第1角度α1に設定されることにより、座高H1の視認者Vrに適した表示光DLの照射位置となる。図8に示すように、視認者Vrが座高H1よりも高い座高H2であるときには、反射鏡2は第1角度α1より大きい角度である第2角度α2に設定されることにより、座高H2の視認者Vrに適した表示光DLの照射位置となる。図9に示すように、視認者Vrが座高H2よりも高い座高H3であるときには、反射鏡2は第2角度α2より大きい角度である第3角度α3に設定されることにより、座高H3の視認者Vrに適した表示光DLの照射位置となる。
【0020】
制御部3は、反射鏡2の角度αに応じて、図10図13に示すように、表示光照射可能領域LAに占めるアイボックス対応範囲EAの位置を変化させたうえでアイボックス対応範囲EAを設定する。アイボックス対応範囲EAは、表示光照射可能領域LAの一部に設定され、視認者VrのアイボックスEBに対応する領域である。アイボックス対応範囲EAは、例えば、縦4×横6の構成領域により構成される。制御部3は、視点検出装置9からの視点情報Ieに基づきアイボックスEB内における視点VrR、VrLを取得する。また、制御部3は、取得したアイボックスEB内における視点VrR、VrLに対応するアイボックス対応範囲EA内における視点領域VAを決定する。また、制御部3は、複数の光源11のうち決定した視点領域VAに対応する単数又は複数の光源11を点灯させる。制御部3の処理内容については後で詳述する。
【0021】
(左ハンドル車でのアイボックス対応範囲EAの設定)
次に、車両が左ハンドル車であって、運転席の前方にヘッドアップディスプレイHUDが搭載される例におけるアイボックス対応範囲EAの設定について説明する。制御部3は、反射鏡2の角度αが第1角度α1、第2角度α2及び第3角度α3の何れに近いかを判定する。第1角度α1は第2角度α2よりも小さい角度であり、第2角度α2は第3角度α3よりも小さい角度である。
【0022】
左ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第1角度α1に最も近いと判定すると、図10に示すように、表示光照射可能領域LAの左上(左ハンドル車の場合、車幅方向における運転席から見て助手席から離れる車外側で、かつ上側)にアイボックス対応範囲EA1を設定する。このアイボックス対応範囲EA1は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち左上の縦4×横6の構成領域からなる。
【0023】
また、左ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第3角度α3に最も近いと判定すると、図11に示すように、表示光照射可能領域LAの右下(左ハンドル車の場合、車幅方向における運転席から見て助手席に近づく車内側で、かつ下側)にアイボックス対応範囲EA3を設定する。このアイボックス対応範囲EA3は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち右下の縦4×横6の構成領域からなる。
【0024】
さらに、左ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第2角度α2に最も近いと判定すると、図12に示すように、表示光照射可能領域LAの中央にアイボックス対応範囲EA2を設定する。このアイボックス対応範囲EA2は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち中央の縦4×横6の構成領域からなる。
以上のように、左ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが大きくなるにつれて、言い換えると、表示光DLのウインドシールドWSへの照射位置が上方向に移動するにつれて、表示光照射可能領域LAに占めるアイボックス対応範囲EAの位置を右下にスライドさせる。
【0025】
(右ハンドル車でのアイボックス対応範囲EAの設定)
次に、車両が右ハンドル車であって、運転席の前方にヘッドアップディスプレイHUDが搭載される例におけるアイボックス対応範囲EAの設定について説明する。
【0026】
右ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第1角度α1に最も近いと判定すると、図13の一点鎖線で示すように、表示光照射可能領域LAの右上(右ハンドル車の場合、車幅方向における運転席から見て助手席から離れる車外側で、かつ上側)にアイボックス対応範囲EA4を設定する。このアイボックス対応範囲EA4は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち右上の縦4×横6の構成領域からなる。
【0027】
また、右ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第3角度α3に最も近いと判定すると、図13の実線で示すように、表示光照射可能領域LAの左下(右ハンドル車の場合、車幅方向における運転席から見て助手席に近づく車内側で、かつ下側)にアイボックス対応範囲EA6を設定する。このアイボックス対応範囲EA6は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち左下の縦4×横6の構成領域からなる。
【0028】
さらに、右ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが第2角度α2に最も近いと判定すると、図13の二点鎖線で示すように、表示光照射可能領域LAの中央にアイボックス対応範囲EA5を設定する。このアイボックス対応範囲EA5は、全ての構成領域eb(0,0)~eb(6,4)のうち中央の縦4×横6の構成領域からなる。
以上のように、右ハンドル車の例では、制御部3は、反射鏡2の角度αが大きくなるにつれて、言い換えると、表示光DLのウインドシールドWSへの照射位置が上方向に移動するにつれて、表示光照射可能領域LAに占めるアイボックス対応範囲EAの位置を左下にスライドさせる。左ハンドル車と右ハンドル車では、表示光照射可能領域LAに占めるアイボックス対応範囲EAは左右反転されるように設定される。
【0029】
(フローチャート)
次に、図5のフローチャートに沿って制御部3により実行される光源点灯処理について説明する。この光源点灯処理は、ヘッドアップディスプレイHUDの電源がオンされたときに開始される。
【0030】
まず、制御部3は、視認者Vrによるスイッチ操作に基づき、反射鏡駆動部4を通じて反射鏡2の角度αを調整する(ステップS101)。これにより、表示光DLの照射位置が視認者Vrの座高に合わせて調整される。
【0031】
そして、制御部3は、上述したように、反射鏡2の角度αに基づき表示光照射可能領域LAに占めるアイボックス対応範囲EAの位置を設定する(ステップS102)。
【0032】
次に、制御部3は、視点検出装置9からの視点情報Ieに基づきアイボックスEB内における視認者Vrの視点VrR、VrLを判断する(ステップS103)。
【0033】
そして、制御部3は、アイボックスEBとアイボックス対応範囲EAを対応させて、アイボックスEB内における視点VrR、VrLに対応するアイボックス対応範囲EAの一部である視点領域VAを決定し、決定した視点領域VAに対応する光源11を点灯させ(ステップS104)、光源点灯処理を終了する。
上記ステップS103においてアイボックスEB内に2つの視点VrR、VrLが存在すると判断されたとき、2つの視点VrR、VrLに対応してアイボックス対応範囲EA内に2つの視点領域VAが決定される。アイボックスEB内における2つの視点VrR、VrLの位置とアイボックス対応範囲EA内における2つの視点領域VAの位置は対応している。より具体的には、例えば、視点VrR、VrLが位置するアイボックスEBとアイボックス対応範囲EAを互いに同じサイズとなるように拡大又は縮小させて重ね合わせたときに2つの視点領域VAそれぞれが視点VrR、VrLを含むように決定される。
【0034】
ここでは、一例として、視点VrRがアイボックスEBの中心に位置する場合について説明する。
この場合、制御部3は、左ハンドル車で、かつ反射鏡2が第1角度α1であれば、図10に示すアイボックス対応範囲EA1の中心に位置する構成領域eb(4,1)、eb(4,2)、eb(3,1)、eb(3,2)からなる視点領域VA1を決定する。そして、制御部3は、決定した視点領域VA1に対応する光源11(4,1)、11(4,2)、11(3,1)、11(3,2)を図2及び図3に示す基準光源11Aとして点灯する。
また、制御部3は、左ハンドル車で、かつ反射鏡2が第2角度α2であれば、図12に示すアイボックス対応範囲EA2の中心に位置する構成領域eb(3,2)からなる視点領域VA2を決定し、決定した視点領域VA2に対応する光源11(3,2)を図2及び図3に示す基準光源11Aとして点灯する。
また、制御部3は、左ハンドル車で、かつ反射鏡2が第3角度α3であれば、図11に示すアイボックス対応範囲EA3の中心に位置する構成領域eb(3,1)、eb(3,2)、eb(2,1)、eb(2,2)からなる視点領域VA3を決定する。そして、制御部3は、決定した視点領域VA3に対応する光源11(3,1)、11(3,2)、(2,1)、11(2,2)を図2及び図3に示す基準光源11Aとして点灯する。
この一例では、視点VrRがアイボックスEBの中心に位置していたが、これに限らず、視点VrRがアイボックスEBの中心以外に位置している場合、視点領域VA1,VA2,VA3がアイボックス対応範囲EA1,EA2,EA3の中心以外に位置する。
また、視点VrLに対応する視点領域VAについても、視点VrRと同様に視点領域VAが決定される。
以上のように、制御部3は、アイボックスEB内における視点VrR、VrLが同じ位置に存在しても、決定されるアイボックス対応範囲EA1,EA2,EA3毎に異なる視点領域VA1,VA2,VA3を決定し、決定した視点領域VA1,VA2,VA3に対応する光源11を基準光源11Aとして点灯させる。このように、複数の光源11のうち基準光源11Aを点灯させることにより、アイボックスEB内における視点VrR、VrLにおける表示光DLの輝度を高めることができる。また、複数の光源11のうち基準光源11A以外の光源が消灯されるため、光源11の発熱の抑制と省電力化を図ることができる。
【0035】
制御部3は、上記ステップS104において、視点VrR、VrLが存在する構成領域のみならず構成領域の周囲に対応する光源を点灯させてもよい。例えば、図6に示すように、視点VrR、VrLが存在する構成領域に対応する基準光源11Aの輝度(点灯強度)をaとし、基準光源11Aの左右の光源の輝度をbとし、基準光源11Aの上下の光源の輝度をcとし、基準光源11Aの斜めの光源の輝度をdとしたとき、а:b:c:d=1:0.8:0.6:0.4とすることが好ましい。このように、制御部3は、視点情報Ieを通じて検出した視点が位置する構成領域に対応する基準光源11A、または基準光源11A及び近傍光源のみを点灯させる。これにより、視認者Vrの微細な視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下する等の表示品位の低下を抑制することができる。図6の例では基準光源11Aの近傍として周囲の8つの光源を点灯させたが、これに限らず、上下左右の4つの光源としてもよい。点灯光源を少なくするほど省電力となり、光源が発する熱を抑制できる。なお、基準光源11Aは単数に限らず、複数であってもよい。
【0036】
(本実施形態と比較例の対比)
次に、本実施形態のヘッドアップディスプレイ装置HUDの効果について、比較例と対比しつつ説明する。この比較例は、本実施形態と異なり、反射鏡2の角度αに関わらずアイボックス対応範囲EAの位置が固定されている。
【0037】
図7図8及び図9に示すように、反射鏡2の角度αが変化すると、ウインドシールドWSにおける表示光DLが照射される上下方向の位置が変わる。ウインドシールドWSは、上下方向と車幅方向に沿って視認者Vrから見て凹むように湾曲した自由曲面を有する透明な板材により形成される。
ウインドシールドWSが自由曲面であることから、ウインドシールドWSへの表示光DLの照射位置の変化により表示光DLの入射角が変化し、視認者Vrに到達する表示光DLの位置が変化する。また、視認者Vrに到達する際の表示光DLの断面形状が歪むおそれがある。この結果、上記比較例では、図20に示すように、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置が上下方向(T方向及びB方向)及び車幅方向(Vw方向)にずれる。この場合には、視認者Vrの微細な視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下し、表示品位が低下するおそれがある。
【0038】
まず、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置が車幅方向にずれる原因について説明する。
図14図15及び図16に示すように、ウインドシールドWSは、下側に行くほど車幅方向(Vw方向)に沿う曲率半径が大きくなる形状で形成される。このため、図15に示す表示光DLがウインドシールドWSの下側に照射された場合における上方向から見た入射角β1は、図16に示す表示光DLがウインドシールドWSの上側に照射された場合における上方向から見た入射角β2よりも大きくなる。よって、表示光DLが入射角β1でウインドシールドWSに入射した場合には、表示光DLが入射角β2でウインドシールドWSに入射した場合よりも、表示光DLの反射光は運転席の視認者Vrから見て助手席に近づく車内側(図15及び図16の右側)に向かう。このため、比較例においては、表示光DLが入射角β1でウインドシールドWSに入射した場合には、図20に示すように、車幅方向においてアイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置が車内側(図20の右側)にずれるおそれがある。この場合、車幅方向における視認者Vrの微細な視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下し、表示品位が低下するおそれがある。一方で、表示光DLが入射角β2でウインドシールドWSに入射した場合には、図21に示すように、図20の場合と比べて、車幅方向においてアイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置がずれていない。
【0039】
本実施形態では、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの車幅方向への位置ずれを解消するために、表示光DLがウインドシールドWSの下側に照射される場合、すなわち、反射鏡2の角度αが小さい場合には、表示光照射可能領域LA内におけるアイボックス対応範囲EAの位置が運転席の視認者Vrから見て助手席から離れる車外側にずらされる。これにより、本実施形態では、比較例に比べて、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの車幅方向の位置ずれが解消される。
【0040】
次に、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置が上下方向にずれる原因について説明する。
図17図18及び図19に示すように、ウインドシールドWSは、下側に行くほど上下方向(T方向及びB方向)に沿う曲率半径が小さくなる形状で形成される。このウインドシールドWSの上側と下側の間での上下方向に沿う曲率半径の差は、上述したウインドシールドWSの上側と下側の間での車幅方向に沿う曲率半径の差に比べて小さい。図19に示す表示光DLがウインドシールドWSの下側に照射された場合における車幅方向から見た入射角θ1は、図18に示す表示光DLがウインドシールドWSの上側に照射された場合における車幅方向から見た入射角θ2よりも小さくなる。よって、表示光DLが入射角θ1でウインドシールドWSに入射した場合には、表示光DLが入射角θ2でウインドシールドWSに入射した場合よりも、表示光DLの反射光は下側に向かう。このため、比較例においては、表示光DLが入射角θ1でウインドシールドWSに入射した場合には、図20に示すように、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置が下側にずれるおそれがある。この場合、上下方向における視認者Vrの微細な視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下し、表示品位が低下するおそれがある。一方で、表示光DLが入射角θ2でウインドシールドWSに入射した場合には、図21に示すように、図20の場合と比べて、上下方向においてアイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置がずれていない。
【0041】
本実施形態では、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの上下方向への位置ずれを解消するために、表示光DLがウインドシールドWSの下側に照射される場合、すなわち、反射鏡2の角度αが小さい場合には、表示光照射可能領域LA内におけるアイボックス対応範囲EAの位置が上側にずらされる。これにより、本実施形態では、比較例に比べて、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの上下方向の位置ずれが解消される。
【0042】
以上、説明した一実施形態によれば、以下の技術的思想が開示されている。
(1)ヘッドアップディスプレイ装置HUDは、車両情報を表す表示光DLを被投射部材の一例であるウインドシールドWSに照射することにより虚像Viを視認者Vrに視認させる。ヘッドアップディスプレイ装置HUDは、二次元平面上に配置された複数の光源11と、光源11からの照明光を受けて表示光DLを出射する表示器1と、表示器1からの表示光DLをウインドシールドWSに導く反射鏡2と、視認者Vrに対する表示光DLの照射位置を上下方向に移動させるために反射鏡2の角度αを調整する反射鏡駆動部4と、複数の光源11を制御する制御部3と、を備える。制御部3は、複数の光源11の全てが点灯することにより視認者Vrに対して表示光DLを照射可能な表示光照射可能領域LAのうち一部に視認者VrのアイボックスEBに対応するアイボックス対応範囲EAを設定する。また、制御部3は、視点情報Ieを取得し、視点情報Ieに含まれるアイボックスEB内に位置する視認者Vrの視点に対応させてアイボックス対応範囲EA内に位置する視点領域VAを決定し、複数の光源11のうち決定した視点領域VAに対応する単数又は複数の光源11を点灯させる。また、制御部3は、反射鏡駆動部4により調整された反射鏡2の角度αに基づき、表示光照射可能領域LA内におけるアイボックス対応範囲EAの位置を設定する。
この構成によれば、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの位置ずれが解消される。よって、視認者Vrの微細な視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下することが抑制される。これにより、表示品位が低下することが抑制される。
【0043】
(2)制御部3は、反射鏡駆動部4を介して反射鏡2の角度αを調整することにより、ウインドシールドWSに対する表示光DLの照射位置がウインドシールドWSである車両フロントガラスの下側に移動するにつれて、表示光照射可能領域LA内におけるアイボックス対応範囲EAの位置を上側に設定する。
この構成によれば、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの上下方向の位置ずれが解消される。よって、視認者Vrの微細な上下方向への視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下することが抑制される。これにより、表示品位が低下することが抑制される。
【0044】
(3)ヘッドアップディスプレイ装置HUDは、ウインドシールドWSである車両フロントガラスのうち運転席に対向する部分に表示光DLを照射する。制御部3は、反射鏡駆動部4を介して反射鏡2の角度αを調整することにより、ウインドシールドWSに対する表示光DLの照射位置がウインドシールドWSである車両フロントガラスの下側に移動するにつれて、表示光照射可能領域LA内におけるアイボックス対応範囲EAの位置を視認者Vrが座る運転席に対して助手席から離れる車外側に設定する。
この構成によれば、アイボックスEBに対する高輝度範囲Hbの車幅方向の位置ずれが解消される。よって、視認者Vrの微細な車幅方向への視点移動により視認者Vrから見た虚像Viの輝度が低下することが抑制される。これにより、表示品位が低下することが抑制される。
【0045】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、変形の一例を説明する。
【0046】
(変形例)
上記実施形態においては、制御部3は、視認者Vrによる図示しない操作スイッチの操作に基づき、反射鏡駆動部4を通じて反射鏡2の角度αを調整していたが、これに限らず、視点検出装置9からの視点情報Ie等のその他の情報に基づき、視認者Vrの座高を推定し、推定した視認者Vrの座高に基づき反射鏡2の角度αを調整してもよい。
【0047】
上記実施形態における光源11の数は適宜変更可能である。光源11の数に応じて、表示光照射可能領域LAの大きさ、縦横比及び構成領域の数が変わる。制御部3は、反射鏡2の角度αに応じて徐々にアイボックス対応範囲EAをスライドさせてもよい。また、アイボックス対応範囲EA及び視点領域VAの大きさ及び縦横比も適宜変更可能である。
また、複数の光源11は、マトリックス状に配列されていたが、光源11の配置態様はこれに限らない。例えば、複数の光源は、X方向に沿って並ぶ第1列と、この第1列にY方向に隣り合いX方向に沿って並ぶ第2列とに沿って並べられ、第1列の光源と第2列の光源はX方向に異なる位置に設けられていてもよい。X方向及びY方向は、光源が配置される2次元平面に沿って互いに直交する方向に延びる。
【0048】
上記実施形態においては、1つの構成領域に対し1つの光源11を対応させていたが、これに限らず、1つの構成領域に対し複数の光源11を対応させてもよい。
【0049】
上記実施形態においては、制御部3は、光源11の各々に対し多様な点灯強度を設定していたが、これに限らず、一定の点灯強度を設定してもよい。
【0050】
視点情報Ieは、視認者Vrの両眼の視点VrR,VrLに限られない。例えば、制御部3は、視認者Vrの眉間の位置を外部の視点検出装置9から得て、この眉間の位置から視認者Vrの両眼の視点VrR,VrLを推定してもよい。
また、視点検出装置9はヘッドアップディスプレイHUDに内蔵されてもよい。
【0051】
上記実施形態においては、反射鏡2の数は1つであったが、反射鏡2と表示器1の間に反射鏡2とは別の反射鏡が設けられていてもよい。別の反射鏡は平面鏡及び凹面鏡の何れであってもよい。
【0052】
上記実施形態においては、制御部3は、反射鏡2の角度αの変化に伴うアイボックス対応範囲EAの移動量を上下方向及び車幅方向で互いに同一としていたが、互いに異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 表示器
2 反射鏡
3 制御部
4 反射鏡駆動部
9 視点検出装置
11,11(0,0)~11(6,4) 光源
11A 基準光源
12 レンズ群
12a 第1フィールドレンズ
12b 第2フィールドレンズ
13 液晶パネル
α 角度
α1 第1角度
α2 第2角度
α3 第3角度
β1,β2,θ1,θ2 入射角
H1,H2,H3 座高
EA,EA1~EA6 アイボックス対応範囲
EB アイボックス
LA 表示光照射可能領域
DL 表示光
VA,VA1~VA3 視点領域
AX 回転軸
Hb 高輝度範囲
Ie 視点情報
HUD ヘッドアップディスプレイ,ヘッドアップディスプレイ装置
WS ウインドシールド
Vi 虚像
eb(0,0)~eb(6,4) 構成領域
Vr 視認者
VrL,VrR 視点
図1
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