(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/19 20160101AFI20241112BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20241112BHJP
F16H 61/688 20060101ALI20241112BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20241112BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241112BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20241112BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20241112BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241112BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241112BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20241112BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241112BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W20/19
F16H61/02
F16H61/688
F16H63/50
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60L50/16
B60L15/20 K
(21)【出願番号】P 2022008241
(22)【出願日】2022-01-21
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-160404(JP,A)
【文献】特開2019-135110(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179672(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/095970(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F16H 61/02
F16H 61/688
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動機を含む動力源と、前記電動機が動力伝達可能に連結された伝達軸と、前記エンジンと前記伝達軸との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記伝達軸に入力された前記動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する自動変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達すると共に前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように、前記クラッチを制御して前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるクラッチ制御部と、
前記エンジンの始動に際して、前記クランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように前記電動機を制御すると共に、前記クラッチの係合状態への切替えに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御するものであり、前記伝達軸上におけるトルクである伝達軸トルクの要求値の増大が有る場合には、前記クランキングの完了後に、前記伝達軸トルクの要求値を実現するように前記動力源の出力トルクを所定の変化率で漸増する動力源制御部と、
を含んでおり、
前記動力源制御部は、前記エンジンの始動に際して、前記伝達軸トルクの要求値の増大に伴う前記自動変速機のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、前記パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において、前記パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中以外に比べて前記所定の変化率を大きくすることを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間に設けられたクラッチと、エンジン及び電動機を含む動力源からの動力を伝達する自動変速機と、を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン及び電動機を含む動力源と、前記電動機が動力伝達可能に連結された伝達軸と、前記エンジンと前記伝達軸との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記伝達軸に入力された前記動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する自動変速機と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、エンジンを始動する際に、クラッチのトルク容量を発生させると共に、電動機から始動用のモータトルクを出力することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、クラッチの解放状態且つエンジンの停止状態で電動機のみを動力源に用いた電動走行(=BEV走行)中は、エンジン始動に備えて、駆動トルクとして用いられる電動機の出力トルクを、電動機の最大出力トルクに対してクランキングトルク分を除いたトルクの範囲に制限する場合がある。この場合、エンジンのクランキング完了後は、電動機の出力トルクの制限を徐々に解除すると共に、駆動トルクの要求値の増大が有るときには、エンジンの出力トルクを駆動トルクとして用いることができるようになってから、駆動トルクの要求値を実現するように動力源の出力トルクを所定の変化率で漸増することが考えられる。一方で、BEV走行中のエンジン始動に際して、アクセル踏み増しによる駆動トルクの要求値の増大が有るときには、自動変速機のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合がある。この場合、動力源の出力トルクを漸増するときの所定の変化率の設定によって、例えば車両の加速度が大きくなり過ぎることによる違和感の抑制を重視した値に所定の変化率が設定されていることによって、動力源の出力トルクの立ち上がりが遅くなってしまうと、パワーオンダウンシフトの進行特にはイナーシャ相中の進行が遅れて、加速応答性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される際に、加速応答性を向上することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジン及び電動機を含む動力源と、前記電動機が動力伝達可能に連結された伝達軸と、前記エンジンと前記伝達軸との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、前記伝達軸に入力された前記動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する自動変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に際して、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達すると共に前記クラッチの入力回転速度と出力回転速度との同期を完了させるように、前記クラッチを制御して前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるクラッチ制御部と、(c)前記エンジンの始動に際して、前記クランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように前記電動機を制御すると共に、前記クラッチの係合状態への切替えに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御するものであり、前記伝達軸上におけるトルクである伝達軸トルクの要求値の増大が有る場合には、前記クランキングの完了後に、前記伝達軸トルクの要求値を実現するように前記動力源の出力トルクを所定の変化率で漸増する動力源制御部と、を含んでおり、(d)前記動力源制御部は、前記エンジンの始動に際して、前記伝達軸トルクの要求値の増大に伴う前記自動変速機のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、前記パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において、前記パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中以外に比べて前記所定の変化率を大きくすることにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、エンジンの始動に際して、伝達軸トルクの要求値の増大に伴う自動変速機のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中以外に比べて、伝達軸トルクの要求値を実現するように動力源の出力トルクを漸増するときの所定の変化率が大きくされるので、自動変速機への入力トルクが速やかに立ち上げられ、パワーオンダウンシフトの進行が促進される。よって、エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される際に、加速応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】エンジン始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図3】エンジン始動の際に要求システム軸トルクの増大が有る場合に、動力源トルクを漸増するときの所定の変化率の一例について説明する図である。
【
図4】所定の変化率を設定する際に用いられるレートマップの一例を示す図である。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される際に加速応答性を向上する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【
図6】
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0011】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0012】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0013】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。電動機連結軸36は、電動機MGが動力伝達可能に連結された伝達軸である。K0クラッチ20は、エンジン12と電動機連結軸36との間の動力伝達経路に設けられたクラッチである。
【0014】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0015】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0016】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば複数の油圧式の係合装置例えば公知の摩擦係合装置を含んでいる。係合装置CBは、各々、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0017】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置の制御状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0018】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置であって、湿式タイプ又は乾式タイプのクラッチである。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0019】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0020】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。自動変速機24は、電動機連結軸36に入力された動力源SPの出力トルクである動力源トルクTspを駆動輪14へ伝達する。動力源トルクTspは、エンジントルクTeとMGトルクTmとの合計のトルクである。
【0021】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0022】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、クラッチ制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0023】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0024】
電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ充電量SOC[%]を算出する。バッテリ充電量SOCは、バッテリ54の充電量であって、バッテリ54の充電状態を示す値つまり充電状態値である。電子制御装置90は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ充電量SOCに基づいてバッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]を算出する。バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限つまり充電制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限つまり放電制限を示している。
【0025】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0026】
各油圧制御指令信号Sについて、K0油圧制御指令信号Sk0を例示して説明する。電子制御装置90は、K0油圧PRk0の指令値として、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為のK0クラッチ20の指示圧であるK0クラッチ指示圧Spk0を算出する。指示圧とは、係合装置に供給される作動油OILに対して電子制御装置90から指示される目標油圧であって、この指示圧に応じて係合装置に供給される実際の油圧である実油圧が変化する。電子制御装置90は、K0クラッチ指示圧Spk0を、油圧制御回路56に備えられたK0ソレノイドSLk0を駆動する為のK0指示電流値Sik0に変換する。K0ソレノイドSLk0は、K0油圧PRk0を出力するK0クラッチ20用のソレノイドバルブである。K0指示電流値Sik0は、電子制御装置90に備えられた、K0ソレノイドSLk0を駆動する駆動回路であるソレノイド用ドライバに対する指示電流である。K0油圧制御指令信号Sk0は、K0指示電流値Sik0に基づいて、ソレノイド用ドライバがK0ソレノイドSLk0を駆動する為の駆動電流又は駆動電圧である。つまり、K0クラッチ指示圧Spk0は、K0油圧制御指令信号Sk0に変換されて油圧制御回路56へ出力される。本実施例では、便宜上、K0クラッチ指示圧Spk0とK0油圧制御指令信号Sk0とを同意に取り扱う。
【0027】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、及び変速機制御手段すなわち変速機制御部96を備えている。
【0028】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0029】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0030】
動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat等を考慮して、要求駆動トルクTrdemを実現する為の要求システム軸トルクTsysdemを算出する。要求システム軸トルクTsysdemは、システム軸トルクTsysの要求値である。システム軸トルクTsysは、電動機連結軸36上におけるトルクすなわち伝達軸トルクである。システム軸トルクTsysは、動力源トルクTspのうちの、自動変速機24を介して駆動輪14へ伝達されるトルク、すなわち駆動トルクTrとして用いられるトルクである。動力源制御部92は、要求システム軸トルクTsysdemを実現するように、エンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0031】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードとしてモータ駆動モードつまりBEV駆動モードを成立させる。BEV駆動モードは、K0クラッチ20の解放状態において、エンジン12の運転が停止させられた状態で電動機MGのみを動力源SPに用いて走行するモータ走行つまり電動走行(=BEV走行)が可能な電動駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求システム軸トルクTsysdemを賄えない場合には、駆動モードとしてエンジン駆動モードつまりHEV駆動モードを成立させる。HEV駆動モードは、K0クラッチ20の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源SPに用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、駆動モードとしてHEV駆動モードを成立させる。
【0032】
変速機制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じてつまりその変速判断の結果に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速機制御部96は、自動変速機24の変速制御では、例えば係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放状態への切替えと、係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合状態への切替えと、によって自動変速機24の変速を行う。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0033】
動力源制御部92は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン12の始動要求であるエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、動力源制御部92は、BEV駆動モード時に、要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0034】
クラッチ制御部94は、動力源制御部92によりエンジン始動要求が有ると判定された場合には、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定のトルクである。
【0035】
動力源制御部92は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、電動機制御部92bは、K0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせてつまりK0クラッチ20によるエンジン12のクランキングに連動して、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。このように、動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20によるクランキングに連動して、K0クラッチ20を介して伝達されるクランキングトルクTcrを電動機MGが出力するように、すなわちMGトルクTmをクランキングトルクTcr分増加するように、電動機MGを制御する。又、エンジン制御部92aは、エンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。このように、動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、K0クラッチ20の係合状態への切替えに連動してエンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する。
【0036】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクが生じる。この反力トルクは、BEV走行時には、エンジン始動中のエンジン12等のイナーシャによる駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際にクランキングトルクTcrに向けて増加させられるMGトルクTmは、この反力トルクを打ち消す為のMGトルクTmであって、この反力トルクを補償するMGトルクTm分すなわち反力補償用のMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方法等に基づいて予め定められた例えば一定のトルクである。
【0037】
つまり、BEV走行中のエンジン12の始動制御では、駆動トルクTrとして用いられるMGトルクTm分に加えて、クランキングトルクTcrとして用いられるMGトルクTm分が電動機MGから出力させられる。その為、BEV走行中には、エンジン12の始動制御において駆動トルクTrの落ち込みを生じさせないように、エンジン12の始動に備えてクランキングトルクTcr分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクすなわち最大MGトルクTmmaxに対して、クランキングトルクTcr分を減じたトルク範囲となる。BEV走行中のシステム軸トルクTsysつまりMGトルクTmは、最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcrを減じたトルクにて上限が制限される。最大MGトルクTmmaxは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって決められる及び/又は電動機MGの定格によって決められる、MGトルクTmの最大値である。
【0038】
図2は、エンジン12の始動制御つまりエンジン始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図2において、t1a時点は、例えばBEV走行中に、運転者によるアクセルペダルの踏み増し操作に伴ってエンジン始動要求が有ると判定されたことにより、エンジン始動制御が開始された時点を示している。エンジン始動制御の開始後、K0クラッチ20のパック詰め制御すなわちK0パック詰め制御が実行される(t1a時点-t2a時点参照)。パック詰め制御は、摩擦係合装置を、摩擦係合装置の摩擦プレート等におけるパッククリアランスが詰められた、パック詰めが完了した状態すなわちパック詰め完了状態とする制御である。摩擦係合装置のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態から摩擦係合装置へ供給する油圧を増大させれば摩擦係合装置がトルク容量を持ち始める状態である。K0パック詰め制御では、先ず、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させる為に、一時的に高いK0クラッチ指示圧Spk0を出力するクイックアプライが実行され(a部参照)、次いで、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一定圧で待機するパック詰め用定圧待機が実行される(b部参照)。破線に示すK0クラッチ指示圧Spk0では、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0が出力されている。実線に示すK0クラッチ指示圧Spk0では、パック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0に、クランキングトルクTcrに相当するK0油圧PRk0分を加えた合計のK0油圧PRk0が出力されている。破線に示すK0クラッチ指示圧Spk0と実線に示すK0クラッチ指示圧Spk0とでは、K0パック詰め制御の期間は本来は異なるが、
図2では便宜上同じ長さとしている。K0パック詰め制御の終了後、エンジン12をクランキングする為に、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達するK0クラッチ20によるクランキングすなわちK0クランキングが実行される(t2a時点-t3a時点参照)。K0クランキング時において、エンジン回転速度Neが引き上げられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。
【0039】
K0クランキングの終了後、K0クラッチ20の係合状態への切替えを待機する為に、K0トルクTk0をクランキングトルクTcrよりも低下させて所定トルクTk0fに維持するクランキング後定圧待機が実行される(t3a時点-t4a時点参照)。クランキング後定圧待機時のK0クラッチ指示圧Spk0は、例えばK0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持するK0油圧PRk0と同程度又はそれよりも大きく、エンジン12の完爆の外乱とならないK0トルクTk0を実現する為のK0クラッチ指示圧Spk0である。クランキング後定圧待機の実行中、エンジン回転速度Neは、K0トルクTk0によってではなく、専らエンジン12の燃焼トルクによって上昇させられる。クランキング後定圧待機の実行中に、エンジン12の爆発による自立回転が安定した状態となると、すなわちエンジン12が完爆した状態となると、エンジン12と電動機MGとの回転同期制御、つまりエンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるK0クラッチ20による同期制御すなわちK0同期制御が実行される(t4a時点-t5a時点参照)。エンジン回転速度Neは、エンジン連結軸34の回転速度であって、K0クラッチ20の入力回転速度と同値である。MG回転速度Nmは、電動機連結軸36の回転速度であって、K0クラッチ20の出力回転速度と同値である。つまり、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させることとは、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを同期させることと同意である。K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度との同期すなわちK0同期が完了した後、つまりK0クラッチ20の係合状態への切替えすなわちK0係合が完了した後、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するK0完全係合制御が実行され(t5a時点以降参照)、その後、エンジントルクTeがエンジン制御指令信号Seに従って安定して出力されるようになった時点でエンジン始動制御が完了させられる(t6a時点参照)。尚、本実施例では、エンジン12の始動タイプとして、エンジン12の自立回転でエンジン回転速度Neを上昇させる始動タイプが採用されているが、K0クランキングやK0同期制御の実行によってエンジン回転速度NeをMG回転速度Nmと同期させるまで引き上げるようにK0クラッチ指示圧Spk0を出力し、K0同期近傍まで又はK0同期までエンジン回転速度Neを引き上げた後にエンジン12の点火を開始する始動タイプが採用されても良い。
【0040】
図2を参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に際して、クランキングトルクTcrを伝達すると共にK0同期を完了させるように、K0クラッチ20を制御してK0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える。
【0041】
ここで、BEV走行中には、MGトルクTmは最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcrを減じたトルクにて上限が制限されるが、エンジン12のクランキング完了後は、クランキングトルクTcr分を担保しておく必要がない。その為、動力源制御部92は、エンジン12のクランキング完了後は、MGトルクTmの上限の制限を、最大MGトルクTmmaxに向けて徐々に解除する。加えて、エンジン始動によってエンジントルクTeも出力可能となる。その為、動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、要求システム軸トルクTsysdemの増大が有る場合には、エンジン12のクランキングの完了後に、要求システム軸トルクTsysdemを実現するように動力源トルクTspを所定の変化率(=レート)RTfで漸増する。
【0042】
図3は、エンジン始動の際に要求システム軸トルクTsysdemの増大が有る場合に、動力源トルクTspを漸増するときの所定の変化率RTfの一例について説明する図である。
図3において、t1b時点は、BEV走行中にエンジン12の始動制御が開始された時点を示している。BEV走行中におけるMGトルクTmは、最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcr分を減じたトルクつまりシステム軸トルク上限ガードTsysulにて制限される。システム軸トルクTsysの実際値を制御するときの目標値である制限後システム軸トルクTsystgtは、二点鎖線に示すように、システム軸トルク上限ガードTsysulに対して車両挙動が滑らかになるように一次遅れ処理等のなまし処理が施されたトルク値とされる(t1b時点-t2b時点参照)。クランキング完了後は、クランキングトルクTcr分を駆動トルクTrに回すことができるので、システム軸トルク上限ガードTsysulは、最大MGトルクTmmaxに向けて所定の変化率RTfにて漸増させられる(t2b時点-t3b時点におけるA部参照)。又、K0クラッチ20の完全係合後は、エンジントルクTeを駆動トルクTrに用いることができるので、システム軸トルク上限ガードTsysulは、要求システム軸トルクTsysdemに向けて所定の変化率RTfにて漸増させられる(t3b時点-t5b時点におけるB部参照)。本実施例では、A部における所定の変化率RTfをレートAと称し、B部における所定の変化率RTfをレートBと称する。レートAは、専らMGトルクTmによる所定の変化率RTfである。レートBは、エンジントルクTeが出力可能となってからの所定の変化率RTfつまりMGトルクTmとエンジントルクTeとの双方を駆動トルクTrつまりシステム軸トルクTsysとして用いることができるようになってからの所定の変化率RTfである。動力源トルクTspを増大させる際、動力源トルクTspが急増すると加速度が大きくなり過ぎて運転者に違和感を生じさせるおそれがある。従って、レートA及びレートBは、各々、例えば車両10の加速度が大きくなり過ぎることによる違和感を抑制する為の動力源トルクTspの変化率に予め定められている。本実施例では、加速度の急変を抑制して違和感を抑制する為の動力源トルクTspの変化率を、通常レートと称する。
図3における通常レートは、レートAとレートBとで同値とされているが、通常レートは、レートAとレートBとで異なる値が設定されても良い。クランキング完了後における制限後システム軸トルクTsystgtは、レートA及びレートBとされても良いし、又は、レートA及びレートBの各々に対して一次遅れ処理等のなまし処理が施された値とされても良い。エンジン12の始動制御は、例えば制限後システム軸トルクTsystgtが要求システム軸トルクTsysdemに到達した時点にて終了させられる(t5b時点参照)。
【0043】
ところで、BEV走行中のエンジン始動に際して、アクセル踏み増しによる要求駆動トルクTrdemの増大つまり要求システム軸トルクTsysdemの増大が有るときには、パワーオン状態での自動変速機24のダウンシフトであるパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合がある。パワーオン状態での自動変速機24の変速は、例えばアクセル開度θaccの増大によって判断された変速やアクセルオンが維持された状態での車速Vの上昇によって判断された変速である。エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される場合、動力源トルクTspの立ち上がりが遅いと、パワーオンダウンシフトの過渡中におけるイナーシャ相中の進行が遅れて、加速応答性が低下するおそれがある。
【0044】
そこで、動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、要求システム軸トルクTsysdemの増大に伴う自動変速機24のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中以外に比べて所定の変化率RTf特にはレートBを大きくする。所定の変化率RTfを大きくするということとは、動力源トルクTspを漸増するときの所定の変化率RTfつまり傾きを正側に大きくするということであって、正値である所定の変化率RTfの値を大きくするということである。これにより、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において自動変速機24の入力トルクが比較的大きくされてタービン回転速度Ntが速やかに上昇させられ、ダウンシフトの進行が促進されて加速応答性を向上させることができる。本実施例では、加速応答性を向上する為の動力源トルクTspの変化率を、パワーオンダウンシフト用レートと称する。
【0045】
エンジントルクTeは、エンジン12における吸入空気の応答遅れ等によって、K0クラッチ20の完全係合後に直ぐには急峻に立ち上がらない可能性がある。
図3におけるC部の斜線領域は、エンジントルクTeの応答遅れ等によって動力源トルクTspをシステム軸トルクTsysとして用いることができない領域である。パワーオンダウンシフト用レートは、このC部の斜線領域を回避するように大きくされる(
図3のD部参照)。パワーオンダウンシフト用レートが設定されるときのレートBの起点(
図3のE部参照)は、例えばK0クラッチ20の完全係合時点から所定時間TMf(
図3のF部参照)経過した時点である(
図3のt4b時点参照)。所定時間TMfは、例えば
図3におけるC部の斜線領域を回避する為の予め定められた遅延時間である。このように、レートBは、エンジントルクTeの応答後には急峻に立ち上げることができるので、
図3のD部に示すように、パワーオンダウンシフト用レートが設定される。但し、パワーオンダウンシフトが重ならない場合には、駆動トルクTrが急変すると違和感となる為、レートBは、
図3のB部に示すように、通常レートが設定される。
【0046】
図4は、レートBを設定する際に用いられるレートマップMAPrの一例を示す図である。
図4のレートマップMAPrは、例えばアクセル開度θacc及びシステム軸トルク上限ガードTsysulのレートを変数とする二次元座標上に、通常レート(破線参照)とパワーオンダウンシフト用レート(実線参照)とが各々予め定められた所定の関係である。又、
図4のレートマップMAPrは、例えばn速ギヤ段用であり、自動変速機24の変速前のギヤ段毎に異なるマップが予め定められている。
図4において、通常レートとパワーオンダウンシフト用レートとは各々、アクセル開度θaccが大きい程、大きな値が設定されている。動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、自動変速機24のパワーオンダウンシフトが重なって実行されない場合には、レートマップMAPrにおける通常レートにアクセル開度θaccを適用することでレートBを設定する。一方で、動力源制御部92は、エンジン12の始動に際して、自動変速機24のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、レートマップMAPrにおける通常レートにアクセル開度θaccを適用することでレートB1を算出すると共に、レートマップMAPrにおけるパワーオンダウンシフト用レートにアクセル開度θaccを適用することでレートB2を算出する。そして、動力源制御部92は、レートB1及びレートB2のうちの大きい方の値を選択し、その選択した値をレートBとして設定する。
【0047】
具体的には、動力源制御部92は、エンジン12の始動制御の実行中であるか否かを判定する。動力源制御部92は、エンジン12の始動制御の実行中であると判定した場合には、システム軸トルク上限ガードTsysulをレートBで立ち上げている状態、つまりMGトルクTmとエンジントルクTeとの双方をシステム軸トルクTsysとして使用可能な状態であるか否かを判定する。
【0048】
変速機制御部96は、動力源制御部92によりシステム軸トルク上限ガードTsysulをレートBで立ち上げている状態であると判定された場合には、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中であるか否かを判定する。尚、変速機制御部96は、動力源制御部92によりエンジン12の始動制御の実行中であると判定された場合には、例えばK0同期制御の完了後つまりK0クラッチ20の完全係合後に、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相を開始する。
【0049】
動力源制御部92は、変速機制御部96によりパワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中であると判定された場合には、レートBをパワーオンダウンシフト用レートに切り替える。一方で、動力源制御部92は、変速機制御部96によりパワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中でないと判定された場合には、レートBを通常レートとする、例えばレートBがパワーオンダウンシフト用レートであればレートBを通常レートに戻す。
【0050】
動力源制御部92は、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中には、レートBをパワーオンダウンシフト用レートに一律に切り替えても良いが、パワーオンダウンシフトの前後におけるタービン回転速度Ntの変化量つまりタービン回転速度差ΔNt(=No×ダウンシフト後のγat-Nt)が所定回転速度差ΔNtf以上である場合に限定してレートBをパワーオンダウンシフト用レートに切り替えても良い。所定回転速度差ΔNtfは、例えば加速応答性を向上させる為にタービン回転速度Ntが速やかに上昇させる必要があることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0051】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される際に加速応答性を向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
図6は、
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0052】
図5において、先ず、動力源制御部92の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン12の始動制御の実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は動力源制御部92の機能に対応するS20において、システム軸トルク上限ガードTsysulをレートBで立ち上げている状態つまりレートBで作動中であるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は変速機制御部96の機能に対応するS30において、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中であるか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は変速機制御部96の機能に対応するS40において、パワーオンダウンシフトの前後におけるタービン回転速度差ΔNtが所定回転速度差ΔNtf以上であるか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は動力源制御部92の機能に対応するS50において、レートBの値がパワーオンダウンシフト用レートに切り替えられる。一方で、上記S10の判断が否定される場合は、又は、上記S20の判断が否定される場合は、又は、上記S30の判断が否定される場合は、又は、上記S40の判断が否定される場合は、動力源制御部92の機能に対応するS60において、レートBの値が通常レートとされる。
【0053】
図6は、パワーオンダウンシフトの前後におけるタービン回転速度差ΔNtが所定回転速度差ΔNtf以上であることを条件の一つとしてレートBの値がパワーオンダウンシフト用レートに切り替えられる場合の一例を示す図である。
図6において、t1c時点は、BEV走行中にエンジン12の始動制御が開始された時点を示している。始動制御の開始後、アクセルペダルの踏み増し操作に伴うn速ギヤ段からn-1速ギヤ段へのパワーオンダウンシフトが判断され、K0クラッチ20の完全係合後にそのパワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相が開始させられる(t2c時点参照)。タービン回転速度Ntがダウンシフト後の同期回転速度(=No×ダウンシフト後のγat)に到達すると、イナーシャ相が終了させられる(t4c時点参照)。K0クラッチ20の完全係合後には、システム軸トルク上限ガードTsysulがレートBで立ち上げられ(不図示)、制限後システム軸トルクTsystgtもレートBとされている。破線L1は、パワーオンダウンシフトの前後におけるタービン回転速度差ΔNtが所定回転速度差ΔNtf未満である場合に、又は、パワーオンダウンシフトのイナーシャ相中でない場合に、又は、パワーオンダウンシフトでない場合に、レートBが通常レートに設定された、比較例を示している。太実線L2は、パワーオンダウンシフトの前後におけるタービン回転速度差ΔNtが所定回転速度差ΔNtf以上である場合に、イナーシャ相中におけるレートBが通常レートよりも大きいパワーオンダウンシフト用レートに切り替えられた、本実施例を示している。比較例及び本実施例において、各々、制限後システム軸トルクTsystgtが要求システム軸トルクTsysdemに到達した時点でエンジン12の始動制御が終了させられる(t3c時点、t5c時点参照)。
【0054】
上述のように、本実施例によれば、エンジン12の始動に際して、要求システム軸トルクTsysdemの増大に伴う自動変速機24のパワーオンダウンシフトが重なって実行される場合には、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中において、パワーオンダウンシフトにおけるイナーシャ相中以外に比べて所定の変化率RTf特にはレートBが大きくされるので、自動変速機24への入力トルクが速やかに立ち上げられ、パワーオンダウンシフトの進行が促進される。よって、エンジン始動とパワーオンダウンシフトとが重なって実行される際に、加速応答性を向上することができる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0056】
例えば、前述の実施例において、
図5のフローチャートにおけるS40は必ずしも必要ではないなど、
図5のフローチャートは適宜変更され得る。
【0057】
また、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0058】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。要は、エンジン及び電動機を含む動力源と、電動機が動力伝達可能に連結された伝達軸と、エンジンと伝達軸との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、伝達軸に入力された動力源の出力トルクを駆動輪へ伝達する自動変速機と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。
【0059】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
24:自動変速機
36:電動機連結軸(伝達軸)
90:電子制御装置(制御装置)
92:動力源制御部
94:クラッチ制御部
MG:電動機
SP:動力源