(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】光触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20241112BHJP
B01J 23/86 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J23/86 M
(21)【出願番号】P 2022016887
(22)【出願日】2022-02-07
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】新見 秀明
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-521551(JP,A)
【文献】Chemistry Letters,2016年, vol.45,p.967-969,DOI:10.1246/cl.160428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
C01G 23/00,23/047
C25B 1/55,3/21
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物にFeCr酸化物が担持されており、
前記チタン酸化物は、BaTi
4
O
9
を主成分として含み、
前記FeCr酸化物に含まれるFeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.60以上0.90以下であることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.70以上0.90以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光エネルギーを用いて水を分解し、水素を得るために用いられる光触媒の研究が進められている。より多くの水素を得るため、光触媒は、水の分解活性が高いことが好ましい。
【0003】
特許文献1には、水の分解活性を高めることを目的として、希土類元素、アルカリ土類金属元素、チタン属元素のうちのいずれかの元素を組み込んだチタン酸バリウム塩に、酸化ルテニウム、酸化イリジウムまたは酸化タンタルの単独酸化物または少なくとも2種類の上記酸化物の混合物を担持させた光触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の光触媒は、酸化ルテニウムや酸化イリジウムなどの希少金属を使用するものであるため、コストがかかるとともに、環境保全の観点から好ましくない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、希少金属を使用することなく、水の分解活性が高い光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒は、チタン酸化物にFeCr酸化物が担持されており、
前記FeCr酸化物に含まれるFeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.60以上0.90以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光触媒は、希少金属が含まれていないが活性が高い。したがって、水の分解により、多くの水素を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の光触媒の構造を模式的に示す図である。
【
図2】光触媒の活性を評価するために用いた装置の構成を模式的に示す図である。
【
図3】第1の実施形態における光触媒の助触媒であるFeCr酸化物に含まれるFeとCrの含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)と、混合ガス中の水素の含有割合との関係を示す図である。
【
図4】第2の実施形態における光触媒の助触媒であるFeCr酸化物に含まれるFeとCrの含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)と、混合ガス中の水素の含有割合との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の光触媒10の構造を模式的に示す図である。本発明による光触媒10は、チタン酸化物11にFeCr酸化物12が担持された構造を有し、酸化ルテニウムや酸化イリジウムなどの希少金属を含まない。FeCr酸化物12に含まれるFeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.60以上0.90以下である。
【0011】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0012】
<第1の実施形態>
第1の実施形態における光触媒10において、チタン酸化物11は、TiO2を主成分として含む。TiO2を主成分として含むとは、モル比で50%以上の成分がTiO2であることを意味し、TiO2以外の成分が含まれていてもよい。
【0013】
助触媒であるFeCr酸化物12は、FeとCrが主成分の酸化物である。
【0014】
(実施例1)
硝酸Fe水溶液および硝酸Cr水溶液を所望の組成比および量で配合した水溶液に、TiO2の原料粉を浸漬して攪拌した後、150℃に設定したホットプレートで加熱して乾燥物を得た。その後、乾燥物を、大気中500℃で熱処理することによって硝酸を揮発させてFeCr酸化物を結晶化させることにより、チタン酸化物であるTiO2に、助触媒であるFeCr酸化物を担持させた光触媒の粉体を作製した。なお、FeCr酸化物の担持量は、TiO2に対して1重量%とした。
【0015】
作製した光触媒の活性を、以下の方法により評価した。
【0016】
図2は、光触媒の活性を評価するために用いた装置の構成を模式的に示す図である。シャーレ21に、作製した光触媒の粉体0.3gと純水1gを混合して得られるスラリーを入れた。そして、そのシャーレ21を密封容器22内に入れた後、石英ガラスからなる蓋23をして密封した。なお、石英ガラスからなる蓋23は、紫外線を透過させる。
【0017】
続いて、1リットルのアルゴンガスを満たしたパック24から、送風ポンプ25を用いて、アルゴンガスを送出させて、1cc/分の量のアルゴンガスを循環させた。すなわち、パック24内のアルゴンガスを、密封容器22内を通過して、再びパック24内へと戻るように循環させた。なお、アルゴンガスは、水の分解により発生した水素が酸素等と反応することを抑制するために、密封容器22内に導入させた。
【0018】
続いて、石英ガラスからなる蓋23を介して、シャーレ21内のスラリーに紫外線を照射した。スラリーに紫外線を照射することによって水の分解が生じ、水素が発生する。この状態を1時間継続し、1時間後の混合ガス中の水素の含有割合をガスクロマトグラフィーにより求めた。混合ガス中の水素の含有割合は、アルゴンと水素の混合ガス中の水素の含有割合を意味する。
【0019】
なお、紫外線の照射源として、200Wの水銀キセノンランプを用いた。この水銀キセノンランプは、4cm□の範囲に均一に紫外線を照射することができるので、平面視で直径が3cmの円形のシャーレ21の全体に紫外線を照射することが可能である。
【0020】
ここでは、光触媒の助触媒であるFeCr酸化物に含まれるFeとCrの含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)を変更したときの水素の発生量を調べた。上記原子比Fe/(Fe+Cr)と、混合ガス中の水素の割合との関係を表1に示す。また、上記原子比Fe/(Fe+Cr)を横軸に、混合ガス中の水素の含有割合を縦軸にとったグラフを
図3に示す。
【0021】
【0022】
表1および
図3に示すように、FeCr酸化物に含まれるFeとCrの含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)が0.60以上0.90以下の場合に、混合ガス中の水素の割合は、0.005%以上となった。
【0023】
すなわち、チタン酸化物であるTiO2に、FeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)が0.60以上0.90以下であるFeCr酸化物を助触媒として担持させた第1の実施形態における光触媒10は、触媒活性が高く、水の分解により発生する水素の量が多い。
【0024】
また、表1および
図3に示すように、上記原子比Fe/(Fe+Cr)が0.70以上0.90以下の場合に、混合ガス中の水素の割合は、0.0078%以上とさらに高くなった。したがって、第1の実施形態における光触媒10において、上記原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.70以上0.90以下であることが好ましい。
【0025】
<第2の実施形態>
第2の実施形態における光触媒10も、チタン酸化物11にFeCr酸化物12が助触媒として担持された構造を有する。本実施形態において、チタン酸化物11は、BaTi4O9を主成分として含む。BaTi4O9を主成分として含むとは、モル比で50%以上の成分がBaTi4O9であることを意味し、BaTi4O9以外の成分が含まれていてもよい。また、チタン酸化物11に、BaTi4O9とは異なる組成比のチタン酸バリウムが含まれていてもよい。
【0026】
(実施例2)
BaCO3とTiO2の原料粉を、BaCO3:TiO2=1:4のモル比で配合し、水とジルコニアビーズとともにポットミルの中に入れて5時間混合して乾燥させた後、大気中1100℃で熱処理することによって、BaTi4O9の粉体を得た。
【0027】
続いて、硝酸Fe水溶液および硝酸Cr水溶液を所望の組成比および量で配合した水溶液に、BaTi4O9の粉体を浸漬して攪拌した後、150℃に設定したホットプレートで加熱して乾燥物を得た。その後、乾燥物を、大気中500℃で熱処理することによって硝酸を揮発させてFeCr酸化物を結晶化させることにより、チタン酸化物であるBaTi4O9に、助触媒であるFeCr酸化物を担持させた光触媒の粉体を作製した。なお、FeCr酸化物の担持量は、BaTi4O9に対して1重量%とした。
【0028】
作製した実施例2の光触媒の活性を、実施例1の光触媒の活性を評価した方法と同じ方法で評価した。実施例2の光触媒のFeCr酸化物に含まれるFeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)と、混合ガス中の水素の割合との関係を表2に示す。また、上記原子比Fe/(Fe+Cr)を横軸に、混合ガス中の水素の含有割合を縦軸にとったグラフを
図4に示す。
【0029】
【0030】
表2および
図4に示すように、FeCr酸化物に含まれるFeとCrの含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)が0.60以上0.90以下の場合に、混合ガス中の水素の割合は、0.021%以上となった。
【0031】
すなわち、チタン酸化物であるBaTi4O9に、FeとCrの合計含有量に対するFeの含有量の原子比Fe/(Fe+Cr)が0.60以上0.90以下であるFeCr酸化物を助触媒として担持させた第2の実施形態における光触媒10は、触媒活性が高く、水の分解により発生する水素の量が多い。
【0032】
また、表2および
図4に示すように、上記原子比が0.70以上0.90以下の場合に、混合ガス中の水素の割合は、0.031%以上とさらに高くなった。したがって、第2の実施形態における光触媒10において、上記原子比Fe/(Fe+Cr)は、0.70以上0.90以下であることが好ましい。
【0033】
上記原子比Fe/(Fe+Cr)を同一として、第1の実施形態における光触媒10と、第2の実施形態における光触媒10を比較すると、第2の実施形態における光触媒10の方が水の分解により発生する水素の量は多い。したがって、チタン酸化物11として、BaTi4O9を主成分として含むことが好ましい。
【0034】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。例えば、チタン酸化物11として、TiO2を主成分として含むもの、および、BaTi4O9を主成分として含むものを例に挙げたが、チタン酸化物11がそれらに限定されることはない。例えば、チタン酸化物11は、BaTi4O9とは異なる組成比のチタン酸バリウムを主成分として含むものであってもよいし、チタン酸ストロンチウムを主成分として含むものであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 光触媒
11 チタン酸化物
12 FeCr酸化物
21 シャーレ
22 密封容器
23 蓋
24 パック
25 送風ポンプ