(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/18 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B60R21/18
(21)【出願番号】P 2022020885
(22)【出願日】2022-02-14
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】折▲高▼ 早苗
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-066425(JP,A)
【文献】特開昭46-000855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0256847(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0096535(US,A1)
【文献】特開2011-084200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0264804(US,A1)
【文献】特開2009-166610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後で並設されるシートを有した車両において、前側シートに搭載されるとともに、該前側シートに着座した乗員を保護する構成とされて、
該乗員の前方を覆うように膨張可能な袋状とされるとともに、折り畳まれた状態で、前記乗員の腰の周囲に巻き掛けられる保持ベルト部によって保持される構成のエアバッグと、
略円柱状として、軸方向を左右方向に略沿わせるようにして前記前側シートにおける背もたれ部の後面下部側の領域に配設されるとともに、前記エアバッグに膨張用ガスを供給可能に前記エアバッグに連結されるインフレーターと、
を備える構成の乗員保護装置であって、
前記インフレーターが、前記前側シートの後側に配設される後側シートに着座した後側乗員の脚部との干渉を防止可能に、少なくとも後方側を、カバーによって覆われていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記カバーが、前記インフレーターに取り付けられる構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記カバーが、前記インフレーターの下方も覆い可能に、構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記カバーが、前記インフレーターを前記シート側に取り付けるための取付ブラケットの後方側も覆い可能に、構成されていることを特徴とする請求項3に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記カバーが、
前記インフレーターの少なくとも後方を覆う略板状のカバー本体と、
該カバー本体と前記インフレーターとの間に配置されて、前記カバー本体への衝撃力の作用時に、前記インフレーターの後方を覆う前記カバー本体の形態を維持させつつ、塑性変形可能な変形予定部と、
を備える構成とされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記カバーが、前記変形予定部を利用して前記インフレーターに取り付けられる構成であることを特徴とする請求項5に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員を保護する構成の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、乗員の腰の周囲において折り畳まれて収納されているエアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターを、乗員の着座しているシートにおける背もたれ部の後面下部側の領域(具体的には、座部の後端側下方となる位置)に、配置させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の乗員保護装置では、インフレーターが、露出した状態でシート側に取り付けられる構成であった。そのため、前後で並設されるシートを有した車両において前側シートに搭載させる場合、車両への前方からの衝撃力の作用時に、この前側シートに着座している乗員は、膨張したエアバッグによって、前方移動を抑制されて保護されるものの、インフレーターが、前側シートの後側に配設される後側シートに着座した後側乗員の脚部と接触する場合があり、このようなインフレーターと後側乗員との接触を抑制する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、搭載される前側シートの後側に配設される後側シートに着座している後側乗員と、インフレーターと、の接触を抑制可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、前後で並設されるシートを有した車両において、前側シートに搭載されるとともに、前側シートに着座した乗員を保護する構成とされて、
乗員の前方を覆うように膨張可能な袋状とされるとともに、折り畳まれた状態で、乗員の腰の周囲に巻き掛けられる保持ベルト部によって保持される構成のエアバッグと、
略円柱状として、軸方向を左右方向に略沿わせるようにして前側シートにおける背もたれ部の後面下部側の領域に配設されるとともに、エアバッグに膨張用ガスを供給可能にエアバッグに連結されるインフレーターと、
を備える構成の乗員保護装置であって、
インフレーターが、前側シートの後側に配設される後側シートに着座した後側乗員の脚部との干渉を防止可能に、少なくとも後方側を、カバーによって覆われていることを特徴とする。
【0007】
本発明の乗員保護装置では、前側シートにおいて、背もたれ部の後面下部側の領域に配設されるインフレーターが、少なくとも後方側を、カバーによって覆われる構成である。そのため、前側シートの後方に配置される後側シートに乗員(後側乗員)が着座した状態で、車両に、前方からの衝撃力が作用することとなっても、インフレーターが、後側乗員の脚部と直接接触することを、的確に抑制することができる。
【0008】
したがって、本発明の乗員保護装置では、搭載される前側シートの後側に配設される後側シートに着座している後側乗員と、インフレーターと、の接触を抑制することができる。
【0009】
また、上記構成の乗員保護装置において、カバーを、インフレーターに取り付ける構成とすれば、カバーを取付ブラケットに取り付けるための取付手段や取付作業が不要となって、簡便な構成とすることができ、製造工数及びコストを低減できて、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の乗員保護装置において、カバーを、インフレーターの下方も覆い可能な構成とすれば、インフレーターの下面側の領域も、後側乗員の脚部と接触することを防止できることから、後側乗員の脚部とインフレーターとの接触を、一層的確に抑制することが可能となって、好ましい。
【0011】
さらにまた、上記構成の乗員保護装置において、カバーを、インフレーターをシート側に取り付けるための取付ブラケットの後方側も、覆うような構成とすれば、後側乗員の脚部が、取付ブラケットと接触することも、抑制することができて、好ましい。
【0012】
さらにまた、上記構成の乗員保護装置において、カバーを、
インフレーターの少なくとも後方を覆う略板状のカバー本体と、
カバー本体とインフレーターとの間に配置されて、カバー本体への衝撃力の作用時に、インフレーターの後方を覆う前記カバー本体の形態を維持させつつ、塑性変形可能な変形予定部と、
を備える構成とすることが、好ましい。
【0013】
乗員保護装置をこのような構成とすれば、カバー本体に後側乗員の脚部が接触した際に、この接触によって生ずる衝撃力を、カバー本体とインフレーターとの間に配置される変形予定部を塑性変形させることにより、エネルギー吸収させることができ、また、この変形予定部の塑性変形時に、カバー本体は形態を維持されることから、カバー本体によって脚部を的確に受け止めることができる。また、上記構成の乗員保護装置では、仮に、後側乗員の脚部が、カバー本体に接触しつつ、さらにインフレーター側に向かって進入することとなっても、間に配置される変形予定部の塑性変形により、エネルギー吸収していることから、脚部がインフレーターによってダメージを受けることを抑制できる。
【0014】
そして、乗員保護装置をこのような構成とする場合、カバーを、変形予定部を利用してインフレーターに取り付ける構成とすることが、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載させたシートの斜視図である。
【
図3】
図1のシートの正面図であり、シートベルトが装着された状態を示す。
【
図4】
図1のシートにおける座部の下端側の領域を示す部分拡大背面図であり、インフレーター取付前の状態を示す。
【
図5】
図1のシートにおける座部の下端側の領域を示す部分拡大背面図である。
【
図6】実施形態の乗員保護装置において、インフレーターの配置部位付近を示す部分拡大横断面図である。
【
図7】実施形態の乗員保護装置において、インフレーターの部位付近を示す部分拡大縦断面図であり、
図6のVII-VII部位に対応する。
【
図8】実施形態の乗員保護装置において、インフレーターの部位付近を示す部分拡大縦断面図であり、
図6のVIII-VIII部位に対応する。
【
図9】実施形態の乗員保護装置において、インフレーターに取り付けられるカバーの概略斜視図である。
【
図10】実施形態の乗員保護装置において使用されるエアバッグを、単体で膨張させた状態を示す概略斜視図である。
【
図12】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの正面図である。
【
図13】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の乗員保護装置Sは、
図1~3に示すように、車両のシート1に搭載されている。車両は、詳細な図示を省略するが、前後で並設されるシートを有する構成とされており、実施形態の乗員保護装置Sは、前側に配置される助手席(前側シート)であるシート1に、搭載されている。乗員保護装置Sは、エアバッグ50を保持する保持ベルト部を構成するシートベルト7と、エアバッグ50と、エアバッグ50に膨張用ガスを供給するインフレーター20と、エアバッグ50とインフレーター20とを接続させる接続パイプ30と、インフレーター20の後方側を覆うカバー35と、を備える構成とされている。
【0017】
シート1は、背もたれ部2と座部3とを備えている。シート1は、座部3の左右両端側から下方に延びるロアアーム5(
図3,4参照)と、図示しないスライドレールと、によって、車両のフロア(フロアパネル4)に対して前後にスライド可能に、車両のボディ側に取り付けられている。詳細には、シート1は、座部3の下方の領域の左右の側方を、カバー(図符号省略)によって略隙間なく覆われる構成であるものの、座部3の後面側において、フロアパネル4との間に隙間を有するように、ボディ側に取り付けられている(
図2,4,5参照)。シート1における座部3の後端3a側には、下方に延びるようにして、インフレーター20を取り付けるための取付ブラケット6が、配設されている。取付ブラケット6は、図示しない所定箇所においてロアアーム5に取り付けられるもので、上下方向に略沿うととともに、左右に幅広の長尺の板状として、インフレーター20の配設部位である座部3の左半分程度の領域に、配設されている(
図4,7,8参照)。取付ブラケット6には、インフレーター取付用のブラケット24におけるボルト24bを挿通させて、周縁に固着されているナット6bに締結可能な取付孔6aが、左右方向側(インフレーター20の軸方向側)で離隔した2箇所に、形成されている(
図4,6参照)。
【0018】
シートベルト7は、実施形態の場合、シート1に搭載されるもので、シート1に着座した乗員MPを保護するためのベルト本体8と、ベルト本体8に取り付けられるタングプレート12と、タングプレート12を連結させるためのバックル13と、を備える構成とされている。ベルト本体8は、背もたれ部2内に配置される図示しないリトラクタの巻取軸に一端を係止され、他端側を、シート1における座部3の後端3a左方に配置されるアンカ部材14(
図1,2参照)に係止されている。詳細には、ベルト本体8は、背もたれ部2の上端左縁側から外部に露出されるように配置されるもので、実施形態の場合、乗員MPの非着座状態においては、
図1,2に示すように、エアバッグ50を保持させている保持ベルト部としてのラップベルト10を、背もたれ部2の前面に露出させるように、構成されている。詳細には、ラップベルト10は、乗員MPの非着座状態において、
図1に示すように、背もたれ部2の左縁2a側において、上下方向に略沿うようにして、背もたれ部2の前面に露出されている。ベルト本体8は、ラップベルト10と、背もたれ部2内に収納されるショルダーベルト9と、を有し、乗員着座時においてタングプレート12をバックル13に連結させた状態で、アンカ部材14とバックル13との間において左右方向に略沿うように配置されるラップベルト10によって乗員MPの下半身MD(腰部MW)を拘束し、背もたれ部2の上端左縁側から延びつつバックル13にかけて斜めに配置されるショルダーベルト9によって乗員MPの上半身MU(肩MSから胸部MBにかけて)を拘束する構成とされている(
図3参照)。そして、実施形態の場合、乗員着座時に、シート1に着座した乗員MPの腰部MWの前方に配置されるラップベルト10と、後述するカバー65と、が、折り畳まれたエアバッグ25を収納させて保持する保持ベルト部を、構成している。シートベルト7において、背もたれ部2内に配置されている図示しないリトラクタは、プリテンショナー機構を有している。
【0019】
インフレーター20は、シート1における背もたれ部2の後面下部側の領域に配設されるもので、実施形態の場合、シート1における座部3の後端3a側における下部側となる位置に、配設されている。インフレーター20は、外形形状を略円柱状として、軸方向を左右方向に略沿わせて配置されるもので、外周側に配置されるブラケット24を用いて、ロアアーム5から延びる取付ブラケット6に、取り付けられている。インフレーター20は、軸方向の一端側(実施形態の場合、左端20a側)に、膨張用ガスを吐出可能なガス吐出部21を、有する構成とされており、このガス吐出部21を配置させた左端20a側を、シート1の座部3における左端3b側に略一致させるようにして、座部3の下部側における左半分程度の領域に、配置されている(
図5参照)。インフレーター20における軸方向の他端側(右端20b側)には、リード線22aを結線させたコネクタ22が、接続されることとなる。インフレーター20を取付ブラケット6に取り付けるためのブラケット24は、外形形状を略円環状としてインフレーター20を保持可能な保持環部24aと、保持環部24aから突出するボルト24bと、を備える構成とされている。保持環部24aは、縮径させるようにかしめられることにより、インフレーター20を保持する構成である。ブラケット24は、インフレーター20の軸方向に沿って離れた2箇所に配置されるもので、それぞれ、保持環部24aによってインフレーター20を保持させて、保持環部24aから突出しているボルト24bを、取付ブラケット6に形成されている取付孔6aに挿通させてナット6b止めすることにより、インフレーター20を、取付ブラケット6に取り付けている(
図6参照)。実施形態の場合、インフレーター20は、エアバッグ50の膨張に伴うシートベルト7のベルト本体8の引き出しを規制するために、作動開始を、シートベルト7のプリテンショナー機構よりも遅らせるように、設定されている。
【0020】
エアバッグ50とインフレーター20とを接続させる接続パイプ30は、インフレーター20におけるガス吐出部21を覆うように、インフレーター20の左端20a側から延びて、先端30a側をシート1における座部3の左方に位置させるように、屈曲して構成されるもので(
図2,5参照)、先端30aを、クランプ31を利用して、エアバッグ50における後述する導管部60と接続される構成とされている(
図2,5参照)。
【0021】
インフレーター20の後方を覆うカバー35は、シート1の後側に配設される図示しない後側シートに着座している後側乗員RPの脚部RFとの干渉を防止するために、インフレーター20の後方を覆うように配設されるもので、実施形態の場合、合成樹脂製とされている。具体的には、カバー35は、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等の軟質合成樹脂製とされている。カバー35は、
図5~9に示すように、カバー本体36と、カバー本体36とインフレーター20との間に配置される変形予定部42(エネルギー吸収用変形予定部)と、を備えている。
【0022】
カバー本体36は、実施形態の場合、インフレーター20の後方から下方にかけてを覆うとともに、インフレーター20の右方も覆い可能に、構成されている。詳細には、カバー本体36は、インフレーター20の後方を覆う後壁部37と、後壁部37の下端側から前方に延びる下壁部38と、後壁部37の右端側から前方に延びる右壁部39と、を備える構成とされている。後壁部37は、外形形状を左右に幅広の略長方形板状として、インフレーター20の後方側を、左端20a側に配置される接続パイプ30の元部30b側も含めて略全面にわたって覆い可能な大きさに、設定されている(
図5,6参照)。後壁部37は、インフレーター20よりも上下に延びて、インフレーター20の後方を、真後だけでなく、上下に広く覆うように、構成されている。下壁部38は、インフレーター20と、インフレーター20の下方に配置されるフロアパネル4との間の隙間に進入するように、後壁部37の下端から前方に延びるように配設されるもので、先端38aを、取付ブラケット6の下端近傍に位置させるようにして、インフレーター20の後下方の領域と、取付ブラケット6と、を覆うように構成されている(
図7,8参照)。右壁部39は、インフレーター20の右方を覆い可能に、後壁部37の右端から前方に延びるように形成されている(
図6参照)。
【0023】
変形予定部42は、後壁部37の前方に配置されてインフレーター20の外周側を部分的に覆うように断面略円弧状に湾曲して形成される取付部43と、取付部43と後壁部37とを連結するように前後方向に略沿って配置される連結壁部44と、を有している。連結壁部44は、
図7に示すように、上下で離隔した2箇所に、形成されている。取付部43は、前端側を開口させるように、断面略C字形状とされるもので、前方側からインフレーター20を挿入させることにより、インフレーター20の外周側に保持されて、カバー35をインフレーター20に取付可能とされている。この変形予定部42においては、後壁部37(カバー本体36)への衝撃力Tの作用時(脚部RFの接触時)には、
図7の二点鎖線に示すように、インフレーター20の後方を覆うカバー本体36(具体的には、後壁部37)の形態を維持させつつ、後壁部37と取付部43とを連結している2つの連結壁部44,44が、曲げ塑性変形されて、衝撃力を吸収することとなる。この変形予定部42は、インフレーター20の軸方向側で分離して、軸方向に沿って複数箇所に配置される構成であり、実施形態の場合、ブラケット24と軸方向側でずれるようにして、3箇所に、配置されている(
図6,9参照)。
【0024】
エアバッグ50は、シートベルト7のラップベルト10を保持ベルト部として、ラップベルト10に保持されつつ、長尺状に折り畳まれて、周囲をカバー65に覆われるもので、具体的には、シートベルト7の装着時におけるラップベルト10の上面側に重ねられるようにして、周囲をカバー65に覆われて、ラップベルト10の領域に配置されている(
図3参照)。換言すれば、エアバッグ50は、ラップベルト10とカバー65との間の隙間に、折り畳まれて収納される構成である。また、
図1に示すような非装着状態においては、エアバッグ50は、背もたれ部2の前面に露出しているラップベルト10の背面側(背もたれ部2側)に、配置されている。カバー65は、可撓性を有したシート体から構成されて、エアバッグ50の展開膨張時に所定箇所を破断されて、エアバッグ50における後述するバッグ本体51を突出可能に、構成されている。
【0025】
エアバッグ50は、
図10,11に示すように、乗員MPを保護可能に膨張するバッグ本体51と、インフレーター20と接続されてバッグ本体51に膨張用ガスを流入させる導管部60と、バッグ本体51をラップベルト10に保持させるための取付部62と、を備えている。
【0026】
バッグ本体51は、膨張完了時の外形形状を、軸方向を左右方向に略沿わせた略三角柱状として構成されるもので、左右の側方から見た状態での膨張完了形状を、前側に斜辺を有するような略直角三角形状とし、前後方向側から見た状態での膨張完了形状を、上下に幅広とした略長方形状とするように、構成されている(
図12,13参照)。バッグ本体51は、
図10,11に示すように、膨張完了時に乗員MP側(後側)に配置される後壁部53と、後壁部53と前後方向側で対向して配置される前壁部52と、膨張完了時の下端側に配置される下壁部54と、膨張完了時に左右方向側で対向して配置される左壁部55,右壁部56と、を有している。このバッグ本体51は、膨張完了時に、後壁部53による上半身MUの受止時に、下壁部38を、乗員MPの大腿部MTと当接させて、大腿部MTに支持させることにより、乗員MPを受け止める構成とされている(
図13参照)。このバッグ本体51は、下壁部54における後端54a側の下面側に、導管部60を配置させ、この導管部60を介して、インフレーター20からの膨張用ガスを内部に流入させる構成である。下壁部54における後端54a側の領域には、導管部60と連通される連通孔58が、円形に開口して、実施形態の場合、左右方向側で2個並設されている。そして、バッグ本体51は、この連通孔58の周縁の部位で、導管部60と連結されている。
【0027】
導管部60は、バッグ本体51から左方に延びるように構成されるもので、先端60a側を開口させた略筒形状として、インフレーター20から延びる接続パイプ30と接続されている。導管部60は、エアバッグ50の膨張完了時に、ラップベルト10に略沿うように左右方向に略沿って配置される構成である(
図12,13参照)。この導管部60は、先端60a側を、上述したごとく、クランプ31を用いて、インフレーター20から延びる接続パイプ30に接続される構成である。バッグ本体51をラップベルト10に取り付ける取付部62は、
図10,11に示すように、導管部60の下面側に縫着されている。取付部62は、ラップベルト10を挿通可能に、両端側を開口させた略筒状とされている。そして、この取付部62にラップベルト10を挿通させることにより、エアバッグ50は、ラップベルト10に連結されて、ラップベルト10に保持される構成である。
【0028】
実施形態の乗員保護装置Sでは、車両に搭載されたシート1にシートベルト7を装着しつつ乗員MPが着座した状態で、インフレーター20が作動すれば、インフレーター20から吐出される膨張用ガスが、接続パイプ30と導管部60とを経て、バッグ本体51内に流入することとなり、エアバッグ50におけるバッグ本体51が、カバー65を破断させるようにして、保持ベルト部としてのラップベルト10から前上方に突出しつつ、
図12,13に示すように、膨張を完了させることとなる。
【0029】
そして、実施形態の乗員保護装置Sでは、シート1において、背もたれ部2の後面下部側の領域(具体的には、座部3の後端3aにおける下部側)に配設されるインフレーター20が、少なくとも後方側を、カバー35によって覆われる構成である。そのため、シート1の後方に配置される図示しない後側シートに乗員(後側乗員RP)が着座した状態で、車両に、前方からの衝撃力が作用することとなっても、インフレーター20が、後側乗員RPの脚部RFと直接接触することを、的確に抑制することができる。
【0030】
したがって、実施形態の乗員保護装置Sでは、搭載されるシート1の後側に配設される後側シートに着座している後側乗員RPと、インフレーター20と、の接触を抑制することができる。
【0031】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35が、インフレーター20に取り付けられる構成であることから、カバーを取付ブラケットに取り付けるための取付手段や取付作業が不要となって、簡便な構成とすることができ、製造工数及びコストを低減できる。特に、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35をインフレーター20に取り付ける取付部43は、断面略C字形状として、弾性変形して、インフレーター20の外周側に嵌め込むような構成とされていることから、カバー35を、取付ブラケット6に取り付けられているインフレーター20の後方側から、単に、前方移動させれば、取付部43をインフレーター20に取り付けることができ、カバー35のインフレーター20への取付作業も容易である。
【0032】
さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35が、インフレーター20の下方も覆い可能な構成とされていることから、仮に後側乗員RPの脚部RF(つま先)が、インフレーター20と車両のフロアパネル4との間に進入しようとしても、インフレーター20の下面側の領域が、後側乗員RPの脚部RFと接触することを防止できる。そのため、後側乗員RPの脚部RFとインフレーターとの接触を、一層的確に抑制することができる。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー本体36は、インフレーター20の右方を覆う右壁部39も有していることから、後側乗員RPの脚部RF(つま先)が、インフレーター20におけるコネクタ22付近の領域と接触することも、的確に防止することができる。
【0033】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35が、インフレーター20をシート1側に取り付けるための取付ブラケット6の後方側も、覆うように構成されていることから、後側乗員RPの脚部RFが、取付ブラケット6と接触することも、抑制することができる。
【0034】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35が、カバー本体36と、カバー本体36とインフレーター20との間に配置されてカバー本体36への衝撃力の作用時に塑性変形可能な変形予定部42と、を備えている。変形予定部42は、インフレーター20の後方を覆うカバー本体36の形態を維持させつつ、塑性変形(座屈塑性変形)可能な構成とされている。そのため、カバー本体36に後側乗員RPの脚部RFが接触した際に、この接触によって生ずる衝撃力Tを、カバー本体36とインフレーター20との間に配置される変形予定部42(詳細には、変形予定部42における連結壁部44,44)を塑性変形させることにより(
図7の二点鎖線参照)、エネルギー吸収させることができ、また、この変形予定部42の塑性変形時に、カバー本体36は形態を維持されることから、カバー本体36によって脚部RFを的確に受け止めることができる。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、仮に、後側乗員RPの脚部RFが、カバー本体36に接触しつつ、さらにインフレーター20側に向かって進入することとなっても、間に配置される変形予定部42の塑性変形により、エネルギー吸収していることから、脚部RFがインフレーター20によってダメージを受けることを抑制できる。
【0035】
さらにまた、実施形態の乗員保護装置Sでは、カバー35は、変形予定部42を利用してインフレーター20に取り付けられる構成である。具体的には、実施形態の乗員保護装置Sでは、変形予定部42は、インフレーター20に取り付けられる取付部43と、取付部43とカバー本体36の後壁部37とを連結するように前後方向に略沿って配設される2つの連結壁部44,44と、を有する構成とされて、連結壁部44,44を塑性変形させることによりエネルギー吸収する構成である。すなわち、実施形態の乗員保護装置Sでは、変形予定部42の前端側に配置される取付部43の部位でインフレーター20を取り付け、変形予定部42におけるインフレーター20とカバー本体36との間の部位(連結壁部44)を曲げ塑性変形させることにより、取付部43によるインフレーター20への取付状態を維持された状態で、エネルギー吸収する構成であることから、カバー本体36への衝撃力の作用時に、変形予定部42を、インフレーター20とカバー本体36との間の領域(連結壁部44)で、確実に塑性変形させることができる。なお、このような点を考慮しなければ、カバー部を、変形予定部(エネルギー吸収用変形予定部)とは別に、インフレーターに取り付けられる取付部を有するような構成としてもよい。
【0036】
実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ50を保持させる保持ベルト部として、シートベルト7のラップベルト10を利用しているが、エアバッグを保持させる保持ベルト部は、ラップベルトに限定されるものではなく、例えば、シートベルトとは別体のベルトを、シートに着座した乗員の腰部の前方に配置させ、このベルトに、エアバッグを保持させる構成としてもよい。また、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト7のラップベルト10にエアバッグ50を保持させる構成であるものの、インフレーター20が、シートベルト7のプリテンショナー機構の作動よりも遅れて作動することから、シートベルト7により乗員MPのシート1に対する着座状態を安定して維持させた状態で、エアバッグ50を膨張させることができ、エアバッグ50とシートベルトとにより、乗員MPを安定して保護することができる。
【0037】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト7とインフレーター20とが、シート1に搭載される構成とされている。そのため、シート1を前後で大きくスライドさせたり回転させたりして、車両に対して移動させた状態で使用する場合にも、シート1に着座した乗員MPを、エアバッグ50によって的確に保護することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…シート(前側シート)、2…背もたれ部、3…座部、6…取付ブラケット、7…シートベルト、20…インフレーター、24…ブラケット、35…カバー、36…カバー本体、37…後壁部、38…下壁部、42…変形予定部、43…取付部、44…連結壁部、50…エアバッグ、MP…乗員、RP…後側乗員、RF…脚部、S…乗員保護装置。