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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】失火判定装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20241112BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20241112BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20241112BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241112BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/445 ZHV
B60K6/40
B60W10/06 900
F02D45/00 368Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022022072
(22)【出願日】2022-02-16
(65)【公開番号】P2023119267
(43)【公開日】2023-08-28
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】日野下 美和
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐輝
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-234737(JP,A)
【文献】特開2013-194627(JP,A)
【文献】特開2021-025412(JP,A)
【文献】特開2012-215178(JP,A)
【文献】特開2010-133419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の気筒を有する内燃機関、ダンパ、モータジェネレータ及び遊星歯車機構を備えるとともに、前記遊星歯車機構のキャリアに前記ダンパを介して前記内燃機関が連結され、前記遊星歯車機構のサンギヤに前記モータジェネレータが連結されているハイブリッド車両に適用され、
前記内燃機関の失火判定を行う実行装置を備え、
前記内燃機関の出力トルクである機関トルクをTeとし、前記内燃機関の慣性モーメントをIeとし、前記内燃機関の回転角速度をωeとし、前記モータジェネレータの回転角速度をωgとし、前記遊星歯車機構における前記サンギヤの歯数に対するリングギヤの歯数の比をρとしたとき、
前記実行装置は、
以下の関係式を用いて前記機関トルクTeを算出し、
【数1】
複数の前記気筒のうち、第1気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeと、前記第1気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第2気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeとを基に、前記第1気筒の燃焼行程時と前記第2気筒の燃焼行程時とでの前記機関トルクの差分である第1差分を算出し、
複数の前記気筒のうち、前記第1気筒とは異なる気筒であって前記第2気筒よりも前に燃焼行程を向かえた第3気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeと、前記第3気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第4気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeとを基に、前記第3気筒の燃焼行程時と前記第4気筒の燃焼行程時とでの前記機関トルクの差分である第2差分を算出し、
前記第2差分と前記第1差分との差と判定用閾値とを比較することにより、前記第1気筒で失火が発生したか否かを判定する
失火判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両が備える内燃機関の失火判定を行う失火判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関、モータジェネレータ及び遊星歯車機構を備えるハイブリッド車両に適用される失火判定装置が開示されている。当該ハイブリッド車両では、遊星歯車機構のキャリアにダンパを介して内燃機関が連結されているとともに、遊星歯車機構のサンギヤにモータジェネレータが連結されている。
【0003】
上記の失火判定装置は、以下の関係式(式1)を用いて内燃機関の出力トルクである機関トルクTeを算出する。関係式(式1)において、「Ie」は内燃機関の慣性モーメントである。「ωe」は内燃機関の回転角速度である。「ωg」はモータジェネレータの回転角速度である。「ρ」は遊星歯車機構におけるサンギヤの歯数に対するリングギヤの歯数の比である。「Tg」はモータジェネレータによるトルク反力である。
【0004】
【数1】
【0005】
失火判定装置は、上記関係式(式1)を用いて算出した機関トルクTeと第1判定トルクとを比較することにより、内燃機関の失火判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-142327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、上記関係式(式1)からモータジェネレータによるトルク反力Tgを省略した関係式を用いて機関トルクを算出することも開示されている。このように算出された機関トルクを「第2機関トルクTe2」とする。この場合、失火判定装置は、第2機関トルクTe2と第2判定トルクとを比較することによって失火判定を行う。
【0008】
ところで、モータジェネレータの起動時などのようにモータジェネレータの出力トルクが急変した場合、第2機関トルクTe2には、モータジェネレータの出力トルクの変化の影響が大きく反映されてしまう。そのため、第2機関トルクTe2を用いて失火判定を行う場合、その精度が高いとは言いがたい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための失火判定装置は、3つ以上の気筒を有する内燃機関、モータジェネレータ及び遊星歯車機構を備えるとともに、前記遊星歯車機構のキャリアに前記内燃機関が連結され、前記遊星歯車機構のサンギヤに前記モータジェネレータが連結されているハイブリッド車両に適用され、前記内燃機関の失火判定を行う実行装置を備えている。前記内燃機関の出力トルクである機関トルクをTeとし、前記内燃機関の慣性モーメントをIeとし、前記内燃機関の回転角速度をωeとし、前記モータジェネレータの回転角速度をωgとし、前記遊星歯車機構における前記サンギヤの歯数に対するリングギヤの歯数の比をρとする。このとき、前記実行装置は、以下の関係式(式2)を用いて前記機関トルクTeを算出する。
【0010】
【数2】
【0011】
前記実行装置は、複数の前記気筒のうち、第1気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeと、前記第1気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第2気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeとを基に、前記第1気筒の燃焼行程時と前記第2気筒の燃焼行程時とでの前記機関トルクの差分である第1差分を算出し、複数の前記気筒のうち、前記第1気筒とは異なる気筒であって前記第2気筒よりも前に燃焼行程を向かえた第3気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeと、前記第3気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第4気筒の燃焼行程時の前記機関トルクTeとを基に、前記第3気筒の燃焼行程時と前記第4気筒の燃焼行程時とでの前記機関トルクの差分である第2差分を算出し、前記第2差分と前記第1差分との差と判定用閾値とを比較することにより、前記第1気筒で失火が発生したか否かを判定する。
【0012】
第1気筒の燃焼行程時の機関トルクと第3気筒の燃焼行程時の機関トルクとの差分を用いて、第1気筒で失火が発生したか否かを判定する場合を考える。モータジェネレータの出力トルクであるモータトルクが急変すると、第1気筒の燃焼行程時の機関トルクと第3気筒の燃焼行程時の機関トルクとの差分には、モータトルクの変動成分が含まれる。そのため、当該差分を用いて失火判定を行った場合、失火が発生したために差分が大きくなったのか、モータトルクが変動したために差分が大きくなったのかを判別できない。
【0013】
この点、上記の失火判定装置では、複数の気筒のうちの第1気筒で失火が発生したか否かを判定する場合には、第1差分と第2差分とが用いられる。第1差分及び第2差分は、燃焼行程が時系列で連続する2つの気筒の燃焼行程時の機関トルクの差分に応じた値となる。そのため、第1差分及び第2差分には、モータトルクの変化の影響が反映されにくい。さらに、第2差分と第1差分との差を取ることにより、第2差分に含まれるモータトルクの変動成分を、第1差分に含まれるモータトルクの変動成分で相殺できる。よって、モータトルクが変動していたとしても、第2差分と第1差分との差分は、第1気筒で失火が実際に発生した場合には比較的大きくなるものの、第1気筒で失火が実際に発生しなかった場合にはあまり大きくならない。そこで、上記の失火判定装置では、第2差分と第1差分との差と判定用閾値とを比較することによって、第1気筒で失火が発生したか否かが判定される。したがって、内燃機関の失火判定の精度の低下を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、失火判定装置として機能する制御装置が適用されるハイブリッド車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、内燃機関の失火判定を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、判定用差の算出処理を説明する図である。
図4図4は、機関トルクの推移の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、失火判定装置の一実施形態を図1図4に従って説明する。
図1には、本実施形態の失火判定装置が適用されるハイブリッド車両10が図示されている。以降では、ハイブリッド車両10を単に「車両10」とする。
【0016】
車両10は、内燃機関20とダンパ40と動力伝達装置50と制御装置100とを備えている。本実施形態では、制御装置100が「失火判定装置」として機能する。内燃機関20は、ダンパ40を介して動力伝達装置50に連結されている。ダンパ40は、内燃機関20の出力トルクの変動を減衰させて動力伝達装置50に伝達する。
【0017】
<内燃機関>
内燃機関20は、クランク軸21と、3つ以上の気筒22とを有している。図1に示す本例では、内燃機関20は4つの気筒22を有している。なお、本明細書では、4つの気筒22を総称して説明するときはこれらを「気筒22」とし、これらを区別して説明するときは気筒#1、気筒#2、気筒#3及び気筒#4とする。
【0018】
複数の気筒22内にはピストンがそれぞれ設けられている。これら複数のピストンはコネクティングロッドを介してクランク軸21に連結されている。複数のピストンが気筒22内で往復動することにより、クランク軸21が回転する。内燃機関20には、クランク軸21の回転角であるクランク角Scrを検出するクランク角センサ31が設けられている。
【0019】
内燃機関20は、内燃機関20の気筒数と同数の点火プラグ26を有している。点火プラグ26は気筒22毎に設けられている。点火プラグ26は、気筒22内において吸気と燃料とを含む混合気に点火を行って気筒22内で燃料を燃焼させる。なお、複数の点火プラグ26は、気筒#1、気筒#3、気筒#4、気筒#2の順に点火を行う。
【0020】
内燃機関20は、吸気通路23と、スロットルバルブ24と、内燃機関20の気筒数と同数の燃料噴射弁25とを有している。吸気通路23は、複数の気筒22内に吸気を導入するための通路である。スロットルバルブ24は、吸気通路23を流れる吸気の量を調節する。燃料噴射弁25は気筒22毎に設けられている。燃料噴射弁25は、吸気通路23を介して気筒22内に燃料を供給する。
【0021】
内燃機関20は排気通路27を有している。排気通路27は、複数の気筒22から排出された排気が流れる通路である。
内燃機関20は、複数の気筒22での、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程が、クランク軸21が720°CA回転することで一巡する4ストローク1サイクルの機関である。そして、クランク角Scrは、内燃機関20の1サイクルに対応して0~720°CAの範囲の値をとる。詳細には、気筒#1のピストンが上死点にあるときのクランク角Scrを0°CAとし、その後にクランク角Scrが720°CAまで増加していくものとする。
【0022】
<動力伝達装置>
動力伝達装置50は、入力軸51と遊星歯車機構52とを有している。入力軸51は、ダンパ40に連結されている。遊星歯車機構52は、外歯歯車であるサンギヤ52sと、内歯歯車であるリングギヤ52rと、複数のピニオンギヤ52pと、キャリア52cとを有している。リングギヤ52rは、サンギヤ52sと同軸に配置されている。複数のピニオンギヤ52pは、サンギヤ52sとリングギヤ52rとの間に介在しているとともに、サンギヤ52s及びリングギヤ52rの双方と噛み合っている。キャリア52cは、複数のピニオンギヤ52pを自転可能且つサンギヤ52sの周りを公転可能な状態で支持している。キャリア52cは、複数のピニオンギヤ52pの公転に従ってサンギヤ52sと同軸で回転する。キャリア52cは入力軸51に連結している。つまり、キャリア52cには、入力軸51及びダンパ40を介して内燃機関20が連結されている。
【0023】
動力伝達装置50は第1モータジェネレータ53を有している。第1モータジェネレータ53の回転子であるロータ53aがサンギヤ52sに連結されている。すなわち、ロータ53aは、遊星歯車機構52を介して入力軸51に連結されている。そのため、ロータ53aは入力軸51と連動して回転する。よって、第1モータジェネレータ53は、入力軸51を介してクランク軸21にトルクを付与できる。
【0024】
動力伝達装置50はギア機構54を有している。ギア機構54は、カウンタドライブギヤ54aと、カウンタドリブンギヤ54bと、リダクションギヤ54cとを有している。カウンタドライブギヤ54aはリングギヤ52rと一体回転する。カウンタドリブンギヤ54bはカウンタドライブギヤ54aに噛み合っている。リダクションギヤ54cはカウンタドリブンギヤ54bに噛み合っている。
【0025】
動力伝達装置50は第2モータジェネレータ55を有している。第2モータジェネレータ55の回転子であるロータ55aは、リダクションギヤ54cに連結している。
車両10は、ファイナルドライブギア71と、ファイナルドリブンギア72と、ディファレンシャル73と、複数の駆動輪74とを備えている。ファイナルドライブギア71は、カウンタドリブンギヤ54bと一体に回転する。ファイナルドリブンギア72は、ファイナルドライブギア71に噛み合っている。また、ファイナルドリブンギア72は、ディファレンシャル73を介して複数の駆動輪74に連結されている。ディファレンシャル73は、両駆動輪74に回転速度の差が生じることを許容する。
【0026】
<車両の電気構成>
車両10は、第1インバータ11と第2インバータ12とバッテリ13とを備えている。第1インバータ11は、第1モータジェネレータ53及びバッテリ13の双方に電気的に接続されている。第1インバータ11は、第1モータジェネレータ53及びバッテリ13の間で直流交流の電力変換を行う。第2インバータ12は、第2モータジェネレータ55及びバッテリ13の双方に電気的に接続されている。第2インバータ12は、第2モータジェネレータ55及びバッテリ13の間で直流交流の電力変換を行う。バッテリ13は、第1モータジェネレータ53及び第2モータジェネレータ55に電力を供給したり、第1モータジェネレータ53及び第2モータジェネレータ55から供給される電力を蓄えたりする。
【0027】
<制御装置>
制御装置100には各種のセンサの検出信号が入力される。こうしたセンサは、クランク角センサ31に加え、第1回転角センサ61と第2回転角センサ62とを含んでいる。第1回転角センサ61は、第1モータジェネレータ53のロータ53aの回転角である第1モータ回転角Smg1を検出する。第2回転角センサ62は、第2モータジェネレータ55のロータ55aの回転角である第2モータ回転角Smg2を検出する。
【0028】
制御装置100は、上記各種のセンサの検出信号に基づき、内燃機関20、第1モータジェネレータ53及び第2モータジェネレータ55を制御する。すなわち、制御装置100は、スロットルバルブ24及び複数の燃料噴射弁25を制御することにより、内燃機関20の運転を制御する。制御装置100は、第1インバータ11を制御することにより、第1モータジェネレータ53を駆動させる。制御装置100は、第2インバータ12を制御することにより、第2モータジェネレータ55を駆動させる。
【0029】
制御装置100は、実行装置としてのCPU102と、メモリ104とを有している。メモリ104にはCPU102によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。CPU102が制御プログラムを実行することにより、CPU102は、内燃機関20と第1モータジェネレータ53と第2モータジェネレータ55とを制御するための各種の制御量を算出する。
【0030】
<内燃機関の失火判定>
図2及び図3を参照し、内燃機関20の失火判定を制御装置100で行うための一連の処理の流れを説明する。例えば、図2に示す一連の処理は、内燃機関20が運転されている場合、クランク軸21が30°CA回転する毎に実行される。
【0031】
図2に示すように、ステップS11において、CPU102は、クランク軸21が30°CA回転するのに要する時間T30を取得する。例えば、CPU102は、時間T30を前回に算出した時点からクランク角Scrが30°CA変化するまでに要した時間を計測することによって時間T30を取得する。
【0032】
続いてステップS13において、CPU102は、ステップS11で取得した時間T30を基に、内燃機関20の出力トルクである機関トルクTeを算出する。この際、CPU102は、以下の関係式(式3)を用いて機関トルクTeを算出する。関係式(式3)において、「Ie」は内燃機関20の慣性モーメントである。「ωe」は内燃機関20の回転角速度である。「ωg」は第1モータジェネレータ53の回転角速度である。「ρ」は遊星歯車機構52におけるサンギヤ52sの歯数に対するリングギヤ52rの歯数の比である。例えば、CPU102は、時間T30の逆数から内燃機関20の回転角速度ωeを算出する。CPU102は、第1回転角センサ61によって検出される第1モータ回転角Smg1を基に、第1モータジェネレータ53の回転角速度ωgを算出する。
【0033】
【数3】
【0034】
次のステップS14において、CPU102は、失火判定の実行条件が成立したか否かを判定する。本実施形態では、実行条件は、工程が燃焼行程となる気筒22が変わったか否かを含んでいる。例えば、CPU102は、燃焼行程となる気筒が気筒#1から気筒#3に変わった場合、実行条件が成立したと判定する。この際、CPU102は、クランク角Scrに基づいて実行条件が成立したか否かを判定できる。そして、CPU102は、実行条件が成立したと判定した場合(S14:YES)、ステップS15の処理に移行する。一方、CPU102は、実行条件が成立していないと判定した場合(S14:NO)、一連の処理を一旦終了する。
【0035】
ステップS15において、CPU102は、複数の気筒22のうち、内部で燃焼が行われている気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒の燃焼行程中の機関トルクの平均値である平均機関トルクTeavを算出する。平均機関トルクTeavの算出対象となった気筒を「対象気筒」としたとき、例えば気筒#1内で燃焼が行われている場合、気筒#2が対象気筒に対応する。内燃機関20の気筒数は4つである。そのため、対象気筒は180°CA毎に切り替わる。すなわち、対象気筒は、気筒#2、気筒#1、気筒#3、気筒#4の順に切り替わる。
【0036】
そして、気筒#2が対象気筒である場合、CPU102は、気筒#2の工程が燃焼行程であった期間内、すなわち気筒#2で燃焼が行われていた期間に算出した複数の機関トルクTeの平均値を、平均機関トルクTeavとして算出する。気筒#1が対象気筒である場合、CPU102は、気筒#1の工程が燃焼工程であった期間内に算出した複数の機関トルクTeの平均値を、平均機関トルクTeavとして算出する。気筒#3が対象気筒である場合、CPU102は、気筒#3の工程が燃焼工程であった期間内に算出した複数の機関トルクTeの平均値を、平均機関トルクTeavとして算出する。気筒#4が対象気筒である場合、CPU102は、気筒#4の工程が燃焼工程であった期間内に算出した複数の機関トルクTeの平均値を、平均機関トルクTeavとして算出する。
【0037】
なお、以降の記載において、気筒#Nの工程が燃焼工程であった場合に算出した複数の機関トルクTeの平均値である平均機関トルクTeavを「気筒#Nの平均機関トルクTeav」という。なお、「N」は1から4の整数である。
【0038】
続いてステップS17において、CPU102は、燃焼行程が時系列で連続する2つの気筒22の燃焼行程時の機関トルクの差分として、燃焼行程が時系列で連続する2つの気筒22の平均機関トルクTeavの差分ΔTeを算出する。例えば対象気筒が気筒#1である場合、気筒#1の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒#2と気筒#1とが、燃焼行程が時系列で連続する2つの気筒22に相当する。そのため、CPU102は、気筒#1の平均機関トルクTeavと気筒#2の平均機関トルクTeavとの差分ΔTeを算出する。
【0039】
次のステップS19において、CPU102は、対象気筒で失火が発生したか否かを判断するための値である判定用差ΔTeJを算出する。
図3を参照し、判定用差ΔTeJの算出処理について説明する。ここでは、対象気筒を「第1気筒」とし、第1気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒を「第2気筒」とし、第2気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒を「第3気筒」とし、第3気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒を「第4気筒」とする。例えば対象気筒が気筒#1である場合、気筒#1が第1気筒に対応し、気筒#2が第2気筒に対応し、気筒#4が第3気筒に対応し、気筒#3が第4気筒に対応する。
【0040】
図3では、第1気筒の平均機関トルクTeavを「平均機関トルクTeav1」とし、第2気筒の平均機関トルクTeavを「平均機関トルクTeav2」とする。また、第3気筒の平均機関トルクTeavを「平均機関トルクTeav3」とし、第4気筒の平均機関トルクTeavを「平均機関トルクTeav4」とする。さらに、第1気筒と第2気筒との平均機関トルクTeavの差分ΔTeを「第1差分ΔTe1」とし、第3気筒と第4気筒との平均機関トルクTeavの差分ΔTeを「第2差分ΔTe2」とする。
【0041】
この場合、CPU102は、上記のステップS17では第1差分ΔTe1を算出している。また、CPU102は、図2に示す一連の処理の以前の実行時に第2差分ΔTe2を算出している。そして、CPU102は、第2差分ΔTe2から第1差分ΔTe1を引いた値を、判定用差ΔTeJとして算出する。
【0042】
図2に戻り、判定用差ΔTeJを算出すると、CPU102は、処理をステップS21に移行する。ステップS21において、CPU102は、算出した判定用差ΔTeJと判定用閾値ΔTeJthとを比較することにより、対象気筒(すなわち、第1気筒)で失火が発生したか否かを判定する。第1気筒で失火が発生した場合、第1差分ΔTe1は第2差分ΔTe2よりも大きいため、判定用差ΔTeJは負の値となるとともに、その絶対値(=|ΔTeJ|)は比較的大きい。そのため、CPU102は、判定用差ΔTeJが判定用閾値ΔTeJthよりも小さい場合、失火が発生したと判定する。
【0043】
なお、判定用閾値ΔTeJthは、機関負荷率KLに応じて可変させるとよい。この場合、機関負荷率KLが高いほど小さい値を判定用閾値ΔTeJthとして設定するとよい。
【0044】
ステップS21において失火が発生したと判定した場合(YES)、CPU102は処理をステップS23に移行する。ステップS23において、CPU102は、失火カウンタCntを1だけインクリメントする。その後、CPU102は一連の処理を一旦終了する。一方、ステップS21において失火が発生していないと判定した場合(NO)、CPU102は、失火カウンタCntを更新しないで一連の処理を一旦終了する。
【0045】
<本実施形態の作用及び効果>
図4には、実際の機関トルクが実質的に一定である状況下で、第1モータジェネレータ53の出力トルクであるモータトルクが大きく変化している場合の機関トルクTeの推移が示されている。図4に示すように、タイミングt1の機関トルクTeとタイミングt3の機関トルクTeとの差分X1は、タイミングt1の機関トルクTeとタイミングt2の機関トルクTeとの差分X2よりも大きくなる。タイミングt2は、タイミングt1とタイミングt3との間のタイミングである。
【0046】
例えば、タイミングt1を「第3気筒の工程が燃焼行程である期間内のタイミング」とし、タイミングt2を「第4気筒の工程が燃焼行程である期間内のタイミング」とし、タイミングt3を「第1気筒の工程が燃焼行程である期間内のタイミング」とする。そして、第1気筒の平均機関トルクTeav1と第3気筒の平均機関トルクTeav3との差分を算出し、当該差分を用いて失火判定を行う場合を考える。モータトルクが実質的に一定である場合、複数の気筒22の何れにおいても失火が発生していないと、0(零)若しくは0(零)に近い値が、当該差分として算出される。一方、第1気筒で失火が発生すると、失火が発生していない場合よりも大きい値が当該差分として算出される。
【0047】
しかし、モータトルクが変動している場合、第1気筒で燃焼が行われている場合のモータトルクと、第3気筒で燃焼が行われている場合のモータトルクとの乖離が大きいことがある。この場合、第1気筒の平均機関トルクTeav1と第3気筒の平均機関トルクTeav3との差分には、モータトルクの変動が大きく反映されてしまう。そのため、第1気筒で失火が発生したために当該差分が大きくなったのか、モータトルクが変動したために当該差分が大きくなったのかを判別できない。つまり、失火判定の精度が高いとは言いがたい。
【0048】
本実施形態では、複数の気筒22のうち第1気筒で失火が発生したか否かを判定する場合には、図3に示した第1差分ΔTe1と第2差分ΔTe2とが用いられる。第1差分ΔTe1は、第1気筒の平均機関トルクTeav1と、第1気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第2気筒の平均機関トルクTeav2との差分である。第2差分ΔTe2は、第3気筒の平均機関トルクTeav3と、第3気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた第4気筒の平均機関トルクTeav4との差分である。そのため、図3に示したように第1差分ΔTe1及び第2差分ΔTe2には、モータトルクの変化の影響が反映されにくい。本実施形態では第1差分ΔTe1から第2差分ΔTe2を引いた値である判定用差ΔTeJが算出される。第1差分ΔTe1及び第2差分ΔTe2にはモータトルクの変動成分がそれほど大きく含まれていない。第1差分ΔTe1及び第2差分ΔTe2にモータトルクの変動成分が含まれていたとしても、第1差分ΔTe1と第2差分ΔTe2との差をとることにより、第1差分ΔTe1に含まれるモータトルクの変動成分を、第2差分ΔTe2に含まれるモータトルクの変動成分で相殺できる。よって、判定用差ΔTeJには、モータトルクの変化の影響があまり反映されない。その結果、モータトルクが変動しているか否かに拘わらず、第1気筒で失火が発生していない場合の判定用差ΔTeJの絶対値はあまり大きくならない一方、第1気筒で失火が発生した場合の判定用差ΔTeJの絶対値は比較的大きくなる。
【0049】
そこで、こうした判定用差ΔTeJと判定用閾値ΔTeJthとの比較によって、第1気筒で失火が発生したか否かが判定される。例えば気筒#1が第1気筒である場合には気筒#1で失火が発生したか否かを判定できる。また例えば気筒#3が第1気筒である場合には気筒#3で失火が発生したか否かを判定できる。
【0050】
したがって、内燃機関20の失火判定において上記関係式(式3)を用いて算出した機関トルクTeを用いたとしても、失火判定の精度の低下を抑制できる。
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・上記実施形態では、第2差分ΔTe2と第1差分ΔTe1との差として、第2差分ΔTe2から第1差分ΔTe1を引いた値である判定用差ΔTeJを採用しているが、これに限らない。例えば、第2差分ΔTe2と第1差分ΔTe1との差として、第1差分ΔTe1から第2差分ΔTe2を引いた値である判定用差を採用してもよい。この場合、判定用差が判定用閾値以上である場合に、第1気筒で失火が発生したと判定するとよい。
【0052】
・上記実施形態では、差分ΔTeを算出するに際し、平均機関トルクTeavを用いているが、これに限らない。ある気筒の燃焼行程中に算出した複数の機関トルクTeのうちの1つと、ある気筒の1つ前に燃焼行程を向かえた気筒の燃焼行程中に算出した複数の機関トルクTeのうちの1つとの差分を、差分ΔTeとして算出するようにしてもよい。この際、ある気筒の燃焼行程中に算出した複数の機関トルクTeのうちの最大値を採用してもよいし、最小値を採用してもよい。
【0053】
・内燃機関は、3つ以上の気筒を有するものであれば、任意数の気筒を有するものであってもよい。例えば、内燃機関は、気筒数が6つとなる内燃機関であってもよいし、気筒数が3つとなる内燃機関であってもよい。
【0054】
・制御装置100は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置100は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置100は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置100は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0055】
10…ハイブリッド車両
20…内燃機関
22…気筒
40…ダンパ
52…遊星歯車機構
52c…キャリア
52r…リングギヤ
52s…サンギヤ
53…第1モータジェネレータ
100…制御装置
102…CPU
図1
図2
図3
図4