(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】劣化推定装置、方法、プログラム、ソーラーシステム、及び車両
(51)【国際特許分類】
G01R 31/00 20060101AFI20241112BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20241112BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01R31/00
B60R16/02 650J
B60R16/04 U
(21)【出願番号】P 2022022353
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山形 彰宏
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159766(JP,A)
【文献】特開2009-292249(JP,A)
【文献】特開2010-100141(JP,A)
【文献】特開2014-93851(JP,A)
【文献】特開2019-100971(JP,A)
【文献】特開2011-247785(JP,A)
【文献】実開昭62-181416(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
B60R 16/00-16/06
B60H 1/00-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車載部品が備える劣化推定装置であって、
前記車両に搭載されるソーラーパネルの発電電力に基づいた前記車載部品の温度変化に関する情報を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記車載部品の温度変化に関する情報に基づいて前記車載部品の劣化を推定する推定部と、を備
え、
前記車載部品の温度変化に関する情報は、前記ソーラーパネルの発電電力から推定された前記車両に照射される日射量に基づき、前記車両に照射される日射量から推定された前記車載部品が搭載される前記車両の位置の温度に基づく、
劣化推定装置。
【請求項2】
前記車載部品の温度変化に関する情報は、前記車載部品が搭載される前記車両の位置の温度から導出される前記車載部品の温度の変化幅及び変化回数である、
請求項
1に記載の劣化推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記車載部品の温度の変化幅及び変化回数に加え、さらに前記車両の外気温、前記車載部品の周囲に搭載される部品からの排熱、及び前記車載部品の自己発熱の少なくとも1つに基づいて、前記車載部品の劣化を推定する、
請求項
2に記載の劣化推定装置。
【請求項4】
前記推定部が推定した劣化の状態が所定の状態になった場合に通知を行う通知部をさらに備える、
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の劣化推定装置。
【請求項5】
ソーラーパネル、前記ソーラーパネルの発電電力を制御する第1の車載部品、及び前記第1の車載部品から温度変化に関する情報を受信する第2の車載部品を備える、車両に搭載されるソーラーシステムであって、
前記第1の車載部品は、
前記ソーラーパネルの発電電力を測定する測定部と、
前記測定部が測定した前記ソーラーパネルの発電電力に基づいて、前記第2の車載部品の温度変化を推定する第1の推定部と、
前記第1の推定部が推定した前記第2の車載部品の温度変化に関する情報を、前記第2の車載部品に送信する第1の通信部と、を備え、
前記第2の車載部品は、
前記第2の車載部品の温度変化に関する情報を、前記第1の車載部品から受信する第2の通信部と、
前記第2の通信部が受信した前記第2の車載部品の温度変化に関する情報に基づいて、前記第2の車載部品の劣化を推定する第2の推定部と、を備える、
ソーラーシステム。
【請求項6】
前記第1の推定部は、
前記ソーラーパネルの発電電力から前記車両に照射される日射量を推定し、
前記車両に照射される日射量から前記第2の車載部品が搭載される前記車両の位置の温度を推定し、
前記第2の車載部品が搭載される前記車両の位置の温度から前記第2の車載部品の温度の変化幅及び変化回数を導出する、
請求項
5に記載のソーラーシステム。
【請求項7】
請求項
5又は6に記載のソーラーシステムを搭載した、車両。
【請求項8】
車両に搭載される車載部品のコンピューターが実行する方法であって、
前記車両に搭載されるソーラーパネルの発電電力に基づいた前記車載部品の温度変化に関する情報を取得するステップと、
前記取得した前記車載部品の温度変化に関する情報に基づいて前記車載部品の劣化を推定するステップと、を含
み、
前記車載部品の温度変化に関する情報は、前記ソーラーパネルの発電電力から推定された前記車両に照射される日射量に基づき、前記車両に照射される日射量から推定された前記車載部品が搭載される前記車両の位置の温度に基づく、
方法。
【請求項9】
車両に搭載される車載部品のコンピューターに実行させるプログラムであって、
前記車両に搭載されるソーラーパネルの発電電力に基づいた前記車載部品の温度変化に関する情報を取得するステップと、
前記取得した前記車載部品の温度変化に関する情報に基づいて前記車載部品の劣化を推定するステップと、を含
み、
前記車載部品の温度変化に関する情報は、前記ソーラーパネルの発電電力から推定された前記車両に照射される日射量に基づき、前記車両に照射される日射量から推定された前記車載部品が搭載される前記車両の位置の温度に基づく、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される、ソーラーパネルの発電電力を用いて車載部品の劣化を推定する劣化推定装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、外気温のデータと日射強度のデータとを用いて電池温度の推移を推定することによって高い精度で電池の劣化量を推定することが可能な電池の劣化推定装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された電池の劣化推定装置では、消費エネルギーを削減するといった観点から、10分間隔で劣化推定装置を起動させて電池の劣化状態の判定に必要なデータを取得している。しかしながら、電池や電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)などの車載部品の劣化をより高精度に推定するためには、劣化状態の判定に必要なデータ(日射データなど)を数多く正確に取得することが望まれる。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、劣化状態の判定に必要なデータを数多く正確に取得して車載部品の劣化をより高精度に推定することが可能な、劣化推定装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載される車載部品が備える劣化推定装置であって、車両に搭載されるソーラーパネルの発電電力に基づいた車載部品の温度変化に関する情報を取得する取得部と、取得部が取得した車載部品の温度変化に関する情報に基づいて車載部品の劣化を推定する推定部と、を備える、劣化推定装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示の劣化推定装置などによれば、ソーラーパネルの発電電力に基づいて劣化状態の判定に必要なデータを数多く正確に取得することができ、ECUなどの車載部品の劣化をより高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るソーラーシステムの概略構成を示すブロック図
【
図2A】ソーラーシステムが実行するターゲットECUの劣化推定処理のフローチャート
【
図2B】ソーラーシステムが実行するターゲットECUの劣化推定処理のフローチャート
【
図7】ターゲットECUの温度変化幅と変化回数と対応表の一例
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示によるソーラーシステムは、ソーラーパネルの発電電力に基づいて、ソーラーECUが、対象となる車載部品の1つであるターゲットECUの温度変化を推定する。そして、ターゲットECUは、ソーラーECUから取得する温度変化に関する情報に基づいて自らの劣化を推定する。このように、ソーラーECUが取得したソーラーパネルの発電電力に基づいて劣化状態の判定に必要なデータを数多く正確に取得することができるので、ターゲットECUは、そのデータに基づいて自らの劣化をより高精度に推定することができる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係るソーラーシステム1の概略構成例を示すブロック図である。
図1に例示したソーラーシステム1は、ソーラーパネル10と、ソーラーECU20と、高圧電池30と、補機電池40と、ターゲットECU50と、を備える。ソーラーECU20とターゲットECU50とは、CAN(Controller Area Network)などの通信用バス70を介して、通信可能に接続される。通信用バス70を介してソーラーECU20に接続されるターゲットECU50の数は、2つ以上であってもよい。このソーラーシステム1は、車両などに搭載することができる。
【0011】
ソーラーパネル10は、太陽光の照射を受けて発電する発電装置であり、典型的には太陽電池セルの集合体である太陽電池モジュールである。このソーラーパネル10は、例えば車両のルーフなどに設置することができる。ソーラーパネル10は、ソーラーECU20に接続されており、ソーラーパネル10で発電された電力がソーラーECU20に出力される。ソーラーパネル10によって発電される電力は、パネルが受ける日射量(日射強度)などに依存する。
【0012】
ソーラーECU20は、車両に搭載される車載部品であって、ソーラーパネル10で発電された電力を用いた高圧電池30及び/又は補機電池40への充電を制御する電子制御装置(第1のECU)である。このソーラーECU20は、ソーラーパネル10の発電電力に基づいてターゲットECU50の温度変化を推定することができる。ソーラーECU20は、ソーラーコンバータ21と、高圧コンバータ22と、補機コンバータ23と、制御部24と、電力測定部25と、温度推定部26と、記憶部27と、通信部28と、を備える。
【0013】
ソーラーコンバータ21は、ソーラーパネル10で発電された電力を、高圧コンバータ22及び/又は補機コンバータ23に供給するためのDCDCコンバータである。ソーラーコンバータ21は、制御部24からの指示に基づいて、電力供給の際、入力電圧であるソーラーパネル10の発電電圧を所定の電圧に変換(昇圧/降圧)して、高圧コンバータ22及び補機コンバータ23に出力することができる。
【0014】
高圧コンバータ22は、ソーラーコンバータ21が出力する電力を、高圧電池30に供給するためのDCDCコンバータである。高圧コンバータ22は、制御部24からの指示に基づいて、電力供給の際、入力電圧であるソーラーコンバータ21の出力電圧を所定の電圧に変換(昇圧)して、高圧電池30に出力することができる。
【0015】
補機コンバータ23は、ソーラーコンバータ21が出力する電力を、補機電池40に供給するためのDCDCコンバータである。補機コンバータ23は、制御部24からの指示に基づいて、電力供給の際、入力電圧であるソーラーコンバータ21の出力電圧を所定の電圧に変換(降圧)して、補機電池40に出力することができる。
【0016】
制御部24は、ソーラーコンバータ21、高圧コンバータ22、及び補機コンバータ23に電力変換の指示を行って、ソーラーパネル10で発電された電力の高圧電池30及び/又は補機電池40への充電を制御する。
【0017】
電力測定部25は、ソーラーパネル10で発電された電力を測定する。具体的には、電力測定部25は、発電電力に応じてソーラーパネル10からソーラーコンバータ21へ出力される電圧、すなわちソーラーコンバータ21の入力電圧と、発電電力に応じてソーラーパネル10からソーラーコンバータ21に流れる電流、すなわちソーラーコンバータ21の入力電流と、をそれぞれ検出し、これらの入力電圧及び入力電流の値からソーラーパネル10が発電する電力を求める。
【0018】
温度推定部26は、電力測定部25が測定したソーラーパネル10の発電電力に基づいて、ターゲットECU50の温度変化を推定するための構成(第1の推定部)である。この温度推定部26は、ソーラーパネル10の発電電力から車両に照射される日射量を推定する第1の処理、車両に照射される日射量からターゲットECU50が搭載される車両の位置の温度を推定する第2の処理、及びターゲットECU50が搭載される車両の位置の温度からターゲットECU50の温度の変化幅及び変化回数を導出する第3の処理を行う。これらの処理については、後述する。なお、複数のターゲットECU50がソーラーECU20に接続されている場合には、各ターゲットECU50について上記各処理が行われる。
【0019】
記憶部27は、例えばRAM(Random access memory)などの記憶手段であり、電力測定部25が測定した電力や、温度推定部26の各処理によって得られたターゲットECU50の温度変化に関する情報を、記録することができる。
【0020】
通信部28は、温度推定部26が推定した(又は記憶部27に記憶された)ターゲットECU50の温度変化に関する情報を、通信用バス70を介してターゲットECU50に送信するための構成(第1の通信部)である。複数のターゲットECU50がソーラーECU20に接続されている場合、通信部28は、ターゲットECU50ごとに推定された温度変化に関する情報を、該当するターゲットECU50に向けて送信する。
【0021】
ターゲットECU50は、車両に搭載される車載部品であって、車両に関する予め定められた制御を行う電子制御装置(第2のECU)である。このターゲットECU50は、ソーラーECU20から取得する温度変化に関する情報に基づいて、自身の劣化を推定することができる。このターゲットECU50は、通信部51と、劣化推定部52と、通知部53と、を備える。
【0022】
通信部51は、ターゲットECU50の温度変化に関する情報を、ソーラーECU20(の通信部28)から通信用バス70を介して受信するための構成(第2の通信部)である。この通信部51は、ターゲットECU50の温度変化に関する情報を取得する取得部として機能する。
【0023】
劣化推定部52は、通信部51が受信したターゲットECU50の温度変化に関する情報に基づいて、ターゲットECU50の劣化を推定することができる劣化推定装置(第2の推定部)である。劣化推定部52が行うターゲットECU50の劣化の推定については、後述する。
【0024】
通知部53は、劣化推定部52が推定したターゲットECU50の劣化の状態が所定の状態になっている場合に、ダイアグなどの通知を行う。ターゲットECU50の劣化の状態や通知の判断基準となる所定の状態については、後述する。
【0025】
高圧電池30は、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの、充放電可能に構成された二次電池である。この高圧電池30は、高圧コンバータ22が出力する電力によって充電可能に高圧コンバータ22と接続されている。車両に搭載される高圧電池30としては、スタータモーターや電動モーターなどの、車両を駆動させるための主機的な機器(図示せず)の動作に必要な電力を供給することができる、いわゆる駆動用電池を例示できる。
【0026】
補機電池40は、例えばリチウムイオン電池や鉛蓄電池などの、充放電可能に構成された二次電池である。この補機電池40は、補機コンバータ23が出力する電力によって充電可能に補機コンバータ23と接続されている。車両に搭載される補機電池40は、ヘッドランプや室内灯などの灯火類、ヒーターやクーラーなどの空調類、及び自動運転や先進運転支援の装置などの、車両を駆動させるため以外の補機的な機器(図示せず)の動作に必要な電力を供給することができる電池である。
【0027】
なお、ソーラーECU20及びターゲットECU50の一部又は全部は、典型的にはプロセッサ、メモリ、及び入出力インタフェースなどを含んだマイコンなどによって構成され得る。この構成においては、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが読み出して実行することによって、上述した様々な機能の制御を実施することができる。
【0028】
[制御]
次に、
図2A及び
図2Bをさらに参照して、本実施形態に係るソーラーシステム1による制御を説明する。
図2A及び
図2Bは、ソーラーシステム1において実行されるターゲットECU50の劣化推定処理を説明するフローチャートである。
図2Aの処理と
図2Bの処理とは、結合子Xで結ばれる。
【0029】
この
図2A及び
図2Bに示したターゲットECU50の劣化推定処理は、車両への日射が継続して発生すると予想されるタイミングで開始される。このタイミングの一例としては、日の出の時刻が挙げられる。
【0030】
なお、車両によっては、車両のイグニッションがオフされた状態(IGCT-OFF状態)において、各電池の消耗を抑えるためにソーラーECU20の一部の機能を停止させるスリープモードと、ソーラーECU20の全ての機能を作動させるウェイクアップモードとを、周期的に繰り返す制御を行う場合がある。このような制御が行われる車両の場合には、車両への日射が発生すると予想されるタイミング以降で、かつ、ソーラーECU20がウェイクアップモードになるごとに、ターゲットECU50の劣化推定処理が開始される。
【0031】
(ステップS201)
ソーラーECU20の電力測定部25は、ソーラーパネル10の発電電力(ソーラーコンバータ21の入力電力)が第1の閾値以上であるか否かを判断する。この判断は、ソーラーパネル10が発電可能な日射を受けているか否かを確認するために実施される。本実施形態では、ソーラーECU20が温度推定処理を行うための電力は、高圧電池30や補機電池40から供給されることなく、ソーラーパネル10の発電電力のみで賄うように制御する。よって、この第1の閾値は、ソーラーECU20が温度推定処理を実行するために必要な消費電力以上に設定される。
【0032】
電力測定部25によってソーラーパネル10の発電電力が第1の閾値以上であると判断された場合は(ステップS201、はい)、ステップS202に処理が進む。一方、電力測定部25によってソーラーパネル10の発電電力が第1の閾値未満であると判断された場合は(ステップS201、いいえ)、ステップS203に処理が進む。
【0033】
(ステップS202)
ソーラーECU20の電力測定部25は、測定したソーラーパネル10の発電電力(ソーラーコンバータ21の入力電力)を、記憶部27などに記憶(記録)する。電力測定部25によってソーラーパネル10の発電電力が記憶されると、ステップS203に処理が進む。
【0034】
(ステップS203)
ソーラーECU20の電力測定部25は、ソーラーパネル10の発電電力(ソーラーコンバータ21の入力電力)の記憶(記録)を終了するか否かを判断する。具体的には、電力測定部25は、車両への日射が継続してなくなると予想されるタイミングを判断する。このタイミングの一例としては、日没の時刻が挙げられる。タイミングは、車両などから与えられる時刻情報に基づいて判断してもよいし、日没後のソーラーパネル10の予想発電電力に基づいて判断してもよい。
【0035】
電力測定部25によってソーラーパネル10の発電電力の記憶を終了すると判断された場合は(ステップS203、はい)、ステップS204に処理が進む。一方、電力測定部25によってソーラーパネル10の発電電力の記憶をまだ終了しないと判断された場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS201に処理が進む。
【0036】
上述したステップS201からステップS203までの処理を繰り返して実行することによって、測定開始から測定終了までのソーラーパネル10の発電電力の推移を取得(記憶)することができる。
図3に、電力測定部25によって取得(記憶)された、日の出時刻7時から日没時刻18時までの間におけるソーラーパネル10の発電電力P(t)[Wh]の推移の一例を示す。
【0037】
(ステップS204)
ソーラーECU20の温度推定部26は、電力測定部25が取得したソーラーパネル10の発電電力の推移に基づいて、車両が受ける日射量の変化を推定する。この車両が受ける推定日射量R(t)は、ソーラーパネル10の曲面率rと、ソーラーコンバータ21の効率ηとを用いて、ソーラーパネル10の発電電力P(t)から、次式[1]によって求められる。
R(t)=P(t)×r×η … [1]
【0038】
図4に、温度推定部26によって推定された、日の出時刻7時から日没時刻18時までの間における車両が受ける推定日射量R(t)[W/m
2]の推移の一例を示す。温度推定部26によって車両が受ける推定日射量の変化が推定されると、ステップS205に処理が進む。
【0039】
(ステップS205)
ソーラーECU20の温度推定部26は、車両が受ける推定日射量の変化に基づいて、ターゲットECU50の温度変化を推定する。このターゲットECU50の温度変化ΔT(t)は、ターゲットECU50が搭載される車両の位置について予め設定された温度分布関数Lと、車両の種類に応じて予め設定された気密係数aと、日射を温度に変換するための係数cとを用いて、車両が受ける推定日射量R(t)から、次式[2]によって求められる。
ΔT(t)=R(t)×L×a×c … [2]
【0040】
ターゲットECU50が搭載される車両の位置については、例えば、エンジンルーム前方エリア、エンジンルーム後方上部エリア、エンジンルーム後方下部エリア、ダッシュボードエリア、前輪エリア、及び後輪エリアなど、複数のエリアが予め規定されている。そして、これら複数のエリアについて、温度分布関数Lがそれぞれ設定されている。ターゲットECU50が複数ある場合には、各ターゲットECU50が搭載されている車両の位置に対応するエリアの温度分布関数Lをそれぞれ用いて、その位置において車両が受ける推定日射量R(t)が求められる。
【0041】
図5に、温度推定部26によって推定された、日の出時刻7時から日没時刻18時までの間におけるターゲットECU50の温度変化ΔT(t)[℃]の一例を示す。温度推定部26によってターゲットECU50の温度変化が推定されると、ステップS206に処理が進む。
【0042】
(ステップS206)
ソーラーECU20の温度推定部26は、ターゲットECU50の温度変化に基づいて、その温度の変化幅と変化回数とを導出する。温度の変化幅とは、
図6に示すように、例えば、ターゲットECU50の温度変化における極大値から極小値までの温度幅とすることができる。なお、極小値から極大値までの温度幅を温度の変化幅としてもよい。また、変化回数とは、各極大値と各極小値との組によって抽出された複数の温度幅について、所定の範囲に区分したときのそれぞれの回数である。
【0043】
図7に、温度推定部26によって導出された、ターゲットECU50の温度変化幅と変化回数との対応表の一例を示す。
図7では、ターゲットECU50の温度変化幅を温度の範囲によって4つに区分(ΔT1~ΔT4)して、それぞれの区分についてその区分に該当する温度変化幅の数である変化回数と、その区分に該当する温度変化幅の平均値である平均温度と、を導出している。なお、区分数はあくまで一例であり、
図7に限られるものではない。
【0044】
そして、温度推定部26は、導出したターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数を、記憶部27などに記憶する。この際、温度推定部26は、今回導出したターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数を、これまでに導出したターゲットECU50の過去の温度変化幅及び変化回数に積算して記憶する。温度推定部26によってターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数が導出されて記憶されると、ステップS207に処理が進む。
【0045】
(ステップS207)
ソーラーECU20の通信部28は、車両のイグニッションがオンされた(IGCT-ON)か否かを判断する。通信部28によって車両のイグニッションがオンされたと判断された場合は(ステップS207、はい)、ステップS208に処理が進む。一方、通信部28によって車両のイグニッションがオンされていないと判断された場合は(ステップS207、いいえ)、ステップS207の判断を繰り返し行う。
【0046】
(ステップS208)
ソーラーECU20の通信部28は、ターゲットECU50ごとに、温度推定部26がそのターゲットECU50について導出した(記憶部27に記憶された)温度変化幅と変化回数とを、そのターゲットECU50の温度変化に関する情報として、通信用バス70を介して送信する。一方、ターゲットECU50の通信部51は、通信用バス70を介して自己宛ての温度変化に関する情報を受信する。通信部28と通信部51との間でターゲットECU50の温度変化に関する情報が送受信されると、ステップS209に処理が進む。
【0047】
(ステップS209)
ターゲットECU50の劣化推定部52は、通信部51がソーラーECU20から受信した温度変化に関する情報に含まれる温度変化幅と変化回数とに基づいて、ターゲットECU50が受ける温度変化に関するストレスの積算量である冷熱ストレス量を演算する。冷熱ストレス量は、ターゲットECU50の劣化の状態を数値化したものである。この冷熱ストレス量Nは、所定の加速係数AFを用いて、温度変化幅の各区分ΔT1~ΔT4における各平均温度T1~T4及び各変化回数M1~M4から、次式[3]によって求められる。
N=Σ(Tx×Mx)×AF {x=1~4} … [3]
【0048】
劣化推定部52によって、温度変化幅と変化回数とに基づくターゲットECU50の劣化の状態を示すターゲットECU50が受ける冷熱ストレス量が演算されると、ステップS210に処理が進む。
【0049】
(ステップS210)
ターゲットECU50の劣化推定部52は、演算したターゲットECU50が受ける冷熱ストレス量が第2の閾値を超えたか否かを判断する。すなわち、劣化推定部52は、ターゲットECU50の劣化の状態が所定の状態になったか否かを判断する。所定の状態に対応する第2の閾値は、換言するとストレスを許容する範囲の上限値であり、対象となるターゲットECU50の寿命(はんだ接合寿命など)に関わる温度変化の要因から求められる耐久ストレス量などに基づいて任意に設定することができる。
【0050】
劣化推定部52によってターゲットECU50が受ける冷熱ストレス量が第2の閾値を超えたと判断された場合は(ステップS210、はい)、ステップS211に処理が進む。一方、劣化推定部52によってターゲットECU50が受ける冷熱ストレス量が第2の閾値を超えていないと判断された場合は(ステップS210、いいえ)、本劣化推定処理が終了する。
【0051】
なお、寿命に関わる温度変化には、ソーラーECU20が推定した車両が受ける日射量による温度変化の他にも、車両の外気温による温度変化や、ターゲットECU50の周囲に搭載される部品からの排熱による温度変化や、ターゲットECU50の自己発熱による温度変化、などが挙げられる。よって、劣化推定部52は、車両が受ける日射量による温度変化に加えて、さらに車両の外気温による温度変化、ターゲットECU50の周囲に搭載される部品からの排熱による温度変化、及びターゲットECU50の自己発熱による温度変化の少なくとも1つに基づいて、ターゲットECU50が受ける冷熱ストレス量を演算して、ターゲットECU50の劣化を推定してもよい。どの温度変化が劣化に対して支配的なのかについては、ターゲットECU50の車両の搭載位置などから判断することができる。
【0052】
(ステップS211)
ターゲットECU50の通知部53は、ターゲットECU50が劣化したことを通知する。この通知は、例えば、ダイアグデータとして、車両のユーザーやメンテナンスの作業者などに通知される。この通知によって、例えば、車両設計時の想定よりも早く多くの熱負荷がターゲットECU50にかかった場合など、寿命が近づいたターゲットECU50の交換などを促すことができる。通知部53によって、ターゲットECU50が劣化したことが通知されると、本劣化推定処理が終了する。
【0053】
なお、上記実施形態の劣化推定処理では、温度推定部26によってターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数が導出されて記憶された(ステップS206)後に、車両のイグニッションがオン(IGCT-ON)を判断している(ステップS207)。しかしながら、ターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数が導出されるまでのどの処理(ステップS201~S205)の途中であっても、車両のIGCT-ONが判断された時点で記憶部27に記憶されているターゲットECU50の温度変化幅及び変化回数を含む温度変化に関する情報を、ソーラーECU20とターゲットECU50との間で送受信するようにしてもよい。
【0054】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係るソーラーシステム1によれば、ソーラーパネル10で発電された電力に基づいて、ソーラーECU20が、車載部品の1つであるターゲットECU50が受ける温度の変化を推定する。そして、ターゲットECU50の劣化推定部52(劣化推定装置)は、ソーラーECU20から取得する推定された温度の変化に関する情報に基づいて、ターゲットECU50の劣化を推定する。
【0055】
このように、ソーラーECU20は、ソーラーパネル10の発電電力に基づいて劣化状態の判定に必要なデータを数多く正確に取得することができるので、ターゲットECU50は、その取得されたデータに基づいて自らの劣化をより高精度に推定することが可能となる。よって、本実施形態に係るソーラーシステム1は、想定できない市場のユースケースによる車両の各エリアにおける温度変化に起因するストレスを把握することができるので、ストレスを受けるターゲットECU50などの車載部品の寿命や故障などを予知し易くなる。
【0056】
また、本実施形態に係るソーラーシステム1では、ターゲットECU50の温度変化を推定するための動作に必要なソーラーECU20の消費電力を、ソーラーパネル10の発電電力で賄っている。これによって、車両の停車中などにおける暗電流の増加による補機電池40の電力消費を抑制することができ、補機電池40が劣化してしまうといった事態を回避することができる。
【0057】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、劣化推定装置、劣化推定装置が行う方法、その方法のプログラム、そのプログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的記憶媒体、劣化推定装置を備えたソーラーシステム、ソーラーシステムを搭載した車両などとして捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示は、ソーラーパネルで発電された電力を利用してECUなどの車載部品の劣化を推定する場合などに利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 ソーラーシステム
10 ソーラーパネル
20 ソーラーECU
21 ソーラーコンバータ
22 高圧コンバータ
23 補機コンバータ
24 制御部
25 電力測定部
26 温度推定部(第1の推定部)
27 記憶部
28 通信部(第1の通信部)
30 高圧電池
40 補機電池
50 ターゲットECU
51 通信部(第2の通信部)
52 劣化推定部(第2の推定部)
53 通知部
70 通信用バス