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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241112BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20241112BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20241112BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60L15/20 K
F16H61/04
F16H61/68
F16H63/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022032041
(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2023128013
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉地 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中野 真人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】坂井 高章
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0197628(US,A1)
【文献】特開2015-087001(JP,A)
【文献】特開2017-223211(JP,A)
【文献】特開2020-085073(JP,A)
【文献】特開2020-104637(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107757607(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60W 10/00 - 60/00
F16H 59/00 - 61/12
F16H 61/16 - 61/24
F16H 61/66 - 61/70
F16H 63/40 - 61/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両であって、
モータと、
クラッチと、
入力軸と出力軸を有し、前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されており、前記出力軸が駆動輪に動力を伝達し、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する変速機と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサと、
前記モータを制御する制御回路、
を有し、
前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能であり、
前記制御回路が、
前記シフトチェンジが実行されるときに、前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、
前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに、前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、
を実行し、
前記学習処理では、前記制御回路が、前記クラッチをオフする第1タイミングにおける前記モータの回転数である第1回転数と、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動後のタイミングである第2タイミングにおける前記モータの回転数である第2回転数を検出し、
前記制御処理では、前記制御回路が、前記第1回転数と前記第2回転数に基づいて、前記第1タイミングから前記クラッチをオンする第3タイミングまでの期間に前記モータの回転数を変化させ、
前記制御回路が、
前記制御処理における前記シフトチェンジがアップシフトであるときに、前記第1タイミングから前記第3タイミングまでの期間内に前記モータの回転数を低下させ、
前記制御処理における前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに、前記第1タイミングから前記第3タイミングまでの期間内に前記モータの回転数を上昇させ、
前記制御回路が、前記制御処理における前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに、前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクが基準値以上の場合には、前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクが基準値未満の場合よりも、前記モータの回転数を速く上昇させる
動車両。
【請求項2】
電動車両であって、
モータと、
クラッチと、
入力軸と出力軸を有し、前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されており、前記出力軸が駆動輪に動力を伝達し、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する変速機と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサと、
前記モータを制御する制御回路、
を有し、
前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能であり、
前記制御回路が、
前記シフトチェンジが実行されるときに、前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、
前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに、前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、
を実行し、
前記学習処理では、前記制御回路が、前記クラッチをオフする第1タイミングにおける前記モータの回転数である第1回転数と、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動後のタイミングである第2タイミングにおける前記モータの回転数である第2回転数を検出し、
前記制御処理では、前記制御回路が、前記第1回転数と前記第2回転数に基づいて、前記第1タイミングから前記クラッチをオンする第3タイミングまでの期間に前記モータの回転数を変化させ、
前記制御回路が、
前記制御処理では、前記第3タイミングから前記第2タイミングまで前記モータの目標回転数を一定値に維持する回転数制御を実施し、前記第3タイミング後に前記回転数センサによって検出される前記モータの回転数が基準値以上の勾配で変化したときは前記回転数制御を中止する
動車両。
【請求項3】
電動車両であって、
モータと、
クラッチと、
入力軸と出力軸を有し、前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されており、前記出力軸が駆動輪に動力を伝達し、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する変速機と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサと、
前記モータを制御する制御回路、
を有し、
前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能であり、
前記制御回路が、
前記シフトチェンジが実行されるときに、前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、
前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに、前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、
を実行し、
前記学習処理では、前記制御回路が、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動波形を検出し、
前記制御処理では、前記制御回路が、前記学習処理で検出された前記振動波形に基づいて、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動を抑制するように前記モータを制御する、
動車両。
【請求項4】
電動車両であって、
モータと、
クラッチと、
入力軸と出力軸を有し、前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されており、前記出力軸が駆動輪に動力を伝達し、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する変速機と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサと、
前記モータを制御する制御回路、
を有し、
前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能であり、
前記制御回路が、
前記シフトチェンジが実行されるときに、前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、
前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに、前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、
を実行し、
前記制御回路が、前記回転数変化を、前記シフトチェンジで変更される前記ギア段の組み合わせごとに記憶領域に記憶し、
前記制御処理では、前記制御回路が、前記シフトチェンジで変更される前記ギア段の前記組み合わせを推定し、推定された前記組み合わせに対応する前記回転数変化を前記記憶領域から読み出し、読み出した前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する、
動車両。
【請求項5】
前記制御回路が、
前記電動車両の始動時の前記ギア段を第1速と推定し、
前記シフトチェンジがアップシフトであるときに、前記ギア段が1段上がったと推定し、
前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに、前記ギア段が1段下がったと推定する、
請求項4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記制御回路が、前記クラッチをオフする前の前記モータの回転数の変化勾配に基づいて、前記シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定する、請求項1、4、5のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項7】
前記制御回路が、前記クラッチをオフする前の前記モータの回転数の変化勾配と前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクに基づいて、前記シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定する、請求項1、4、5、6のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項8】
電動車両であって、
モータと、
クラッチと、
入力軸と出力軸を有し、前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されており、前記出力軸が駆動輪に動力を伝達し、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する変速機と、
前記モータの回転数を検出する回転数センサと、
前記モータを制御する制御回路、
を有し、
前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能であり、
前記制御回路が、
前記シフトチェンジが実行されるときに、前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、
前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに、前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、
を実行し、
前記制御回路が、前記回転数センサによって検出される前記モータの回転数の変化量と前記モータの駆動トルクの比に基づいて、前記クラッチがオンしているかオフしているかを判定する
動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、電動車両とその製造方法に関する。
【0002】
特許文献1に開示の電動車両は、モータと、クラッチと、変速機を有している。変速機の入力軸がクラッチを介してモータに接続されている。変速機の出力軸は駆動輪に動力を伝達する。変速機は、入力軸から出力軸に動力を伝達するギア段を変更する。また、電動車両は、シフトチェンジ時のモータの回転数を制御する制御回路を有している。制御回路は、シフトチェンジ中に、モータの回転数を制御することによって変速ショックを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2013/061359号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、シフトチェンジにおけるモータの適切な回転数が目標回転数として定められており、制御回路はシフトチェンジ中にモータの回転数を目標回転数に制御することによって変速ショックを抑制する。このため、適切な回転数が未知の場合には、特許文献1の技術を利用することができない。例えば、さまざまなガソリン車両(例えば、中古のガソリン車両)のエンジンをモータに交換することによって、電動車両を製造する場合がある。この場合、元のガソリン車両の構造によって変速ショックを抑制できる適切な回転数が異なり、制御回路に目標回転数を設定することが困難である。本明細書では、適切な回転数が未知の場合に変速ショックを抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する電動車両は、モータと、クラッチと、変速機と、回転数センサと、制御回路を有する。前記変速機は、入力軸と出力軸を有する。前記入力軸が前記クラッチを介して前記モータに接続されている。前記出力軸が駆動輪に動力を伝達する。前記変速機は、前記入力軸から前記出力軸に動力を伝達するギア段を変更する。前記回転数センサは、前記モータの回転数を検出する。前記制御回路は、前記モータを制御する。前記電動車両は、前記クラッチをオフした後に前記ギア段を変更し、前記ギア段を変更した後に前記クラッチをオンするシフトチェンジを実行可能である。前記制御回路が、前記シフトチェンジが実行されるときに前記回転数センサによって前記モータの回転数変化を検出する学習処理と、前記学習処理の後に前記シフトチェンジが実行されるときに前記学習処理で検出された前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御する制御処理、を実行する。
【0006】
この電動車両では、制御回路が、シフトチェンジが実行されるときに回転数センサによってモータの回転数変化を検出する学習処理を実行する。シフトチェンジにおけるモータの回転数変化を検出することで、変速ショックを抑制できるモータの回転数を算出することが可能となる。制御回路は、学習処理の後にシフトチェンジが実行されるときに、学習処理で検出された回転数変化に基づいてモータの回転数を制御する。したがって、制御回路は、モータの回転数を適切に制御して変速ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電動車両の駆動系を示すブロック図。
図2】電動車両の製造に使用されるガソリン車両の駆動系を示すブロック図。
図3】ECU52が記憶している変速特性と捻じれ特性を示す表。
図4】シフトチェンジ時にECUが実行する処理の前半を示すフローチャート。
図5】シフトチェンジ時にECUが実行する処理の後半を示すフローチャート。
図6】未学習の場合のダウンシフトにおけるモータの回転数を示すグラフ。
図7】未学習の場合のアップシフトにおけるモータの回転数を示すグラフ。
図8】学習済の場合のダウンシフトにおけるモータの回転数を示すグラフ。
図9】学習済の場合のアップシフトにおけるモータの回転数を示すグラフ。
図10】制振制御における振動の予測値とトルク指令値を示すグラフ。
図11】ブリッピング時のモータの回転数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記学習処理では、前記制御回路が、前記クラッチをオフする第1タイミングにおける前記モータの回転数である第1回転数と、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動後のタイミングである第2タイミングにおける前記モータの回転数である第2回転数を検出してもよい。また、前記制御処理では、前記制御回路が、前記第1回転数と前記第2回転数に基づいて、前記第1タイミングから前記クラッチをオンする第3タイミングまでの期間に前記モータの回転数を変化させてもよい。
【0009】
この構成によれば、クラッチをオンするタイミングにおいて、モータの回転数と変速機の入力軸の回転数の差を小さくすることができる。したがって、好適に変速ショックを抑制できる。
【0010】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記制御処理における前記シフトチェンジがアップシフトであるときに、前記第1タイミングから前記第3タイミングまでの期間内に前記モータの回転数を低下させてもよい。また、前記制御回路が、前記制御処理における前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに、前記第1タイミングから前記第3タイミングまでの期間内に前記モータの回転数を上昇させてもよい。
【0011】
この構成によれば、好適に変速ショックを抑制できる。
【0012】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記制御処理における前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに、前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクが基準値以上の場合には、前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクが基準値未満の場合よりも、前記モータの回転数を速く上昇させてもよい。
【0013】
この構成によれば、要求トルクが基準値以上の場合に、短時間でモータの回転数を適正値まで上昇させることができ、短時間で変速ショックが少ないダウンシフトを行うことができる。
【0014】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記制御処理では、前記第3タイミングから前記第2タイミングまで前記モータの目標回転数を一定値に維持する回転数制御を実施し、前記第3タイミング後に前記回転数センサによって検出される前記モータの回転数が基準値以上の勾配で変化したときは前記回転数制御を中止してもよい。
【0015】
この構成によれば、回転数制御中にモータの回転数が変速機の入力軸の回転数に対して適合していない場合に、回転数制御を中止することができる。
【0016】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記学習処理では、前記制御回路が、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動波形を検出してもよい。前記制御処理では、前記制御回路が、前記学習処理で検出された前記振動波形に基づいて、前記クラッチをオンした後に生じる前記モータの回転数の振動を抑制するように前記モータを制御してもよい。
【0017】
この構成によれば、クラッチをオンした後に、モータの回転数の振動を抑制することができる。
【0018】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記回転数変化を、前記シフトチェンジで変更される前記ギア段の組み合わせごとに記憶領域に記憶してもよい。前記制御処理では、前記制御回路が、前記シフトチェンジで変更される前記ギア段の前記組み合わせを推定し、推定された前記組み合わせに対応する前記回転数変化を前記記憶領域から読み出し、読み出した前記回転数変化に基づいて前記モータの回転数を制御してもよい。
【0019】
この構成によれば、シフトチェンジ時のギア段の組み合わせに応じて適切にモータの回転数を制御できる。
【0020】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記電動車両の始動時の前記ギア段を第1速と推定し、前記シフトチェンジがアップシフトであるときに前記ギア段が1段上がったと推定し、前記シフトチェンジがダウンシフトであるときに前記ギア段が1段下がったと推定してもよい。
【0021】
この構成によれば、ギア段を検出するセンサを用いることなく、ギア段を推定することができる。
【0022】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記クラッチをオフする前の前記モータの回転数の変化勾配に基づいて、前記シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定してもよい。
【0023】
この構成によれば、ギア段を検出するセンサを用いることなく、シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるか検出することができる。
【0024】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記クラッチをオフする前の前記モータの回転数の変化勾配と前記クラッチをオフした後の前記モータに対する要求トルクに基づいて、前記シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定してもよい。
【0025】
この構成によれば、ギア段を検出するセンサを用いることなく、シフトチェンジがアップシフトであるかダウンシフトであるか検出することができる。
【0026】
本明細書が開示する一例の電動車両では、前記制御回路が、前記回転数センサによって検出される前記モータの回転数の変化量と前記モータの駆動トルクの比に基づいて、前記クラッチがオンしているかオフしているかを判定してもよい。
【0027】
この構成によれば、クラッチの状態を検出するセンサを用いることなく、クラッチがオンしているかオフしているかを検出できる。
【0028】
本明細書は、上記の電動車両の製造方法を提案する。この製造方法は、前記クラッチを介して前記変速機の前記入力軸に接続されているエンジンを備える車両を準備する工程と、前記車両の前記エンジンを前記モータに交換する工程、を有する。
【0029】
この製造方法で製造された電動車両では、変速ショックが生じ難い回転数が、元の車両の駆動系の特性によって異なる。この製造方法によって製造された車両に上記の学習処理と制御処理を実行する制御回路を搭載することで、変速ショックを抑制できる。
【0030】
図1は、実施形態の電動車両の駆動系を示している。図1の電動車両は、モータ10によって駆動輪40を駆動させて走行する。図1の電動車両は、図2のガソリン車両を利用して製造された車両である。図2のガソリン車両は、エンジン110と、クラッチ20と、変速機30を有している。図2のガソリン車両では、エンジン110からクラッチ20と変速機30を介して駆動輪40へ動力が伝達される。図1の電動車両は、図2のガソリン車両のエンジン110をモータ10に交換することによって製造されたものである。したがって、図1の電動車両では、モータ10からクラッチ20と変速機30を介して駆動輪40へ動力が伝達される。
【0031】
モータ10は、出力軸10aを有している。変速機30は、入力軸30aと出力軸30bを有している。モータ10の出力軸10aは、クラッチ20を介して変速機30の入力軸30aに接続されている。クラッチ20がオンするとモータ10の出力軸10aから変速機30の入力軸30aに動力が伝わる状態となり、クラッチ20がオフするとモータ10の出力軸10aから変速機30の入力軸30aに動力が伝わらない状態となる。クラッチ20は、ドライバによって操作される。変速機30は、複数のギア段を有している。入力軸30aからギア段を介して出力軸30bへ動力が伝えられる。変速機30は、入力軸30aから出力軸30bへ動力を伝えるギア段を変更することで、入力軸30aの出力軸30bに対する回転比率(すなわち、変速比)を変更する。ドライバがシフトレバーを操作することで、変速機30のギア段が変更される。すなわち、変速機30は、いわゆるマニュアルトランスミッションである。変速機30の出力軸30bは、図示しないピニオンギア、リングギア、ドライブシャフト等を介して駆動輪40に接続されている。
【0032】
図1の電動車両は、モータ10を制御する制御回路50と、モータ10の回転数(単位:rpm)を検出する回転数センサ60を有している。制御回路50は、ECU(Electric Control Unit)52とインバータ54を有している。インバータ54は、モータ10に交流電力を供給する。すなわち、モータ10は、交流電力によって動作する交流モータである。ECU52は、インバータ54を制御することによって、インバータ54からモータ10に供給される交流電力の周波数と振幅を制御する。これによって、モータ10の回転数と駆動トルクが制御される。回転数センサ60は、モータ10の出力軸10aの回転数を検出する。
【0033】
電動車両の製造に利用されるガソリン車両の規格はさまざまであるので、元のガソリン車両が有しているセンサ(例えば、クラッチ20の状態を検出するセンサ、変速機30のギア段を検出するセンサ、変速機30の出力軸30bの回転数を検出するセンサなど)の検出値をECU52に入力することができない。したがって、ECU52は、回転数センサ60で検出されるモータ10の回転数に基づいて、駆動系の状態を検出する。また、電動車両の製造に利用されるガソリン車両の駆動系(すなわち、クラッチ20、変速機30等)のシフトチェンジ時の特性はさまざまである。したがって、図1の電動車両では、ECU52が駆動系のシフトチェンジ時の特性を学習し、学習結果に応じてシフトチェンジ時にモータ10の回転数を制御する。以下に、シフトチェンジ時にECU52が実行する処理について説明する。
【0034】
ECU52は、電動車両の起動時のギア段を、第1速と推定する。また、後に詳述するが、ECU52は、シフトチェンジ時にアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定する。アップシフトと判定した場合には、ECU52は、ギア段が1段上がったと推定する。ダウンシフトと判定した場合には、ECU52は、ギア段が1段下がったと推定する。したがって、ECU52は、電動車両の走行中に常に現在のギア段を特定している。
【0035】
ECU52は、記憶領域を有している。ECU52は、記憶領域に駆動系の変速特性と捻じれ特性を記憶している。変速特性は、シフトチェンジ時に変速機30の入力軸30aの回転数がどの程度変化するかを表す指標である。例えば、ECU52は、図3に示すように、シフトチェンジ時に変更するギア段の組み合わせごとに変速特性を記憶している。変速特性の詳細については、後述する。捻じれ特性は、シフトチェンジ時に生じるモータ10の回転数の振動を表す特性である。例えば、ECU52は、図3に示すように、シフトチェンジ時に変更するギア段の組み合わせごとに捻じれ特性を記憶している。捻じれ特性の詳細については、後述する。なお、記憶領域に記憶される変速特性と捻じれ特性は、ECU52が学習処理を実行することで取得される。したがって、ECU52が未学習の場合には、ECU52の記憶領域に変速特性と捻じれ特性として空の値(すなわち、NULL値)が記憶されている。
【0036】
図4、5は、シフトチェンジ時にECU52が実行する処理を示している。ステップS2では、ECU52は、クラッチ20がオフしているか否かを判定する。ECU52は、電動車両の走行中にステップS2を繰り返し実行する。ステップS2では、ECU52は、モータ10に対するトルク指令値と回転数センサ60で検出されるモータ10の回転数の変化量の比に基づいて、クラッチ20がオフしているか否かを検出する。すなわち、クラッチ20がオフしている状態では、モータ10が駆動輪40から切り離されているので、モータ10の回転数が変化し易い。このため、トルク指令値が同一であっても、クラッチ20がオフしている場合には、クラッチ20がオンしている場合よりも、モータ10の回転数の変化量がはるかに大きくなる。ステップS2では、ECU52は、モータ10の回転数の変化量をトルク指令値で除算した値が基準値以上の場合にクラッチ20がオフしたと判定する。
【0037】
ドライバは、クラッチ20をオフした後に、変速機30のギア段を変更する。ギア段を変更すると、変速機30の入力軸30aの回転数が変化する。すなわち、シフトダウンの場合には、変速機30の入力軸30aの回転数が上昇する。シフトアップの場合には、変速機30の入力軸30aの回転数が低下する。ドライバは、ギア段の変更後に、クラッチ20をオンする。モータ10の回転数(すなわち、モータ10の出力軸10aの回転数)と変速機30の入力軸30aの回転数の差が大きい状態でクラッチ20をオンすると、大きい変速ショックが生じる。したがって、ECU52は、クラッチ20がオフしてからクラッチ20がオンするまでの期間に、モータ10の回転数と変速機30の入力軸30aの回転数の差を小さくする処理を行うことができる。また、ECU52は、クラッチ20がオンした後に、振動を抑制する制振制御を行うことができる。ECU52が実行する処理は、ECU52が変速特性及び捻じれ特性を学習済であるか否かによって変化する。
【0038】
まず、ECU52が変速特性及び捻じれ特性を未学習である場合について説明する。図6、7は、ECU52が変速特性及び捻じれ特性を未学習である場合におけるシフトチェンジ時のモータ10の回転数の変化を示している。図6、7において、タイミングt1は、ステップS2でクラッチ20がオフしたと判定されたタイミングである。
【0039】
クラッチ20がオフしたと判定すると、ECU52は、ステップS4を実行する。ステップS4では、ECU52は、クラッチ20がオフしたタイミングt1におけるモータ10の回転数(以下、回転数r1という)を回転数センサ60によって検出する。ECU52は、回転数r1を記憶する。
【0040】
次に、ECU52は、ステップS6~S12で、シフトチェンジがアップシフトかダウンシフトかを判定する。
【0041】
ステップS6では、ECU52は、電動車両が減速中か否かを判定する。ここでは、ECU52は、クラッチ20がオフしたときのモータ10の回転数の変化率dr/dtに基づいて判定を行う。すなわち、ECU52は、変化率dr/dtが負の値であるときは、電動車両が減速中であるので、ステップS6でYESと判定する。例えば、図6では、タイミングt1においてモータ10の回転数が減少しているので、ステップS6でYESと判定される。また、ECU52は、変化率dr/dtが正の値またはゼロであるときは、電動車両が加速中または等速であるので、ステップS6でNOと判定する。例えば、図7では、タイミングt1においてモータ10の回転数が増加しているので、ステップS6でNOと判定される。
【0042】
ステップS6でYESと判定した場合には、ECU52は、ステップS12でシフトチェンジがダウンシフトであると判定する。
【0043】
ステップS6でNOと判定した場合には、ECU52は、ステップS8でECU52に入力される要求トルクが基準値以上であるか否かを判定する。ECU52に入力される要求トルクは、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み量によって変化する。通常のシフトチェンジでは、ドライバはアクセルペダルを踏み込まないので、要求トルクは低い値である。しかしながら、ブリッピングと呼ばれる技術では、ドライバはシフトチェンジと並行してアクセルペダルを踏み込む。この場合、シフトチェンジ中に要求トルクが基準値以上に高くなる。ステップS8では、ECU52は、要求トルクが基準値以上であるか否かを判定することで、ドライバがブリッピングを行っているか否かを判定する。ステップS8でYESと判定した場合(すなわち、ドライバがブリッピングを行っている場合)には、ECU52は、ステップS12でシフトチェンジがダウンシフトであると判定する。また、ステップS8でNOと判定した場合(すなわち、ドライバがブリッピングを行っていない場合)には、ECU52は、ステップS10でシフトチェンジがアップシフトであると判定する。
【0044】
以上の通り、ECU52は、電動車両が減速中の場合には、ブリッピングが行われているか否かにかかわらずシフトチェンジがダウンシフトであると判定する。また、ECU52は、電動車両が加速中または等速の場合であってブリッピングが行われている場合には、シフトチェンジがダウンシフトであると判定する。また、ECU52は、電動車両が加速中または等速の場合であってブリッピングが行われていない場合には、シフトチェンジがアップシフトであると判定する。
【0045】
ステップS12でシフトチェンジがダウンシフトであると判定した場合には、ECU52は、ステップS16でトルクアップ制御を開始する。すなわち、ECU52は、モータ10に対するトルク指令値を上昇させ、モータ10の回転数を上昇させる。例えば、図6では、クラッチ20がオフしたタイミングt1以降に、ECU52がトルク指令値を上昇させるので、モータ10の回転数が上昇している。また、ブリッピングが行われている場合には、ECU52はトルク指令値をより高い値まで上昇させ、モータ10の回転数をより速く上昇させる。トルクアップ制御は、後述するステップS22またはステップS24まで継続される。
【0046】
また、ステップS10でシフトチェンジがアップシフトであると判定した場合には、ECU52は、ステップS14でトルクダウン制御を開始する。すなわち、ECU52は、モータ10に対するトルク指令値を低下させ、モータ10の回転数を低下させる。例えば、図7では、クラッチ20がオフしたタイミングt1以降に、ECU52がトルク指令値を低下させるので、モータ10の回転数が低下している。トルクダウン制御は、ステップS22またはステップS24まで継続される。
【0047】
ステップS14またはステップS16を実行すると、ECU52は、ステップS18でシフトチェンジ後のギア段を特定する。上述したように、シフトチェンジ前において、ECU52はギア段を特定している。アップシフトの場合には、ECU52は、シフトチェンジ前のギア段に対して1つ上のギア段を、シフトチェンジ後のギア段として特定する。ダウンシフトの場合には、ECU52は、シフトチェンジ前のギア段に対して1つ下のギア段を、シフトチェンジ後のギア段として特定する。このように、ステップS18では、実行中のシフトチェンジで変更されるギア段の組み合わせが特定される。以下では、シフトチェンジで変更されるギア段の組み合わせを、シフトチェンジの種類という場合がある。
【0048】
次に、ECU52は、ステップS20を実行する。ステップS20では、ECU52は、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する変速特性が学習済であるか否かを判定する。すなわち、ECU52は、図3に例示する変速特性のデータセットにアクセスし、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する変速特性を学習済であるか否かを判定する。ECU52は、対象の変速特性を学習済の場合にはステップS20でYESと判定し、対象の変速特性を未学習の場合にはステップS20でNOと判定する。図6、7の例では、ECU52は変速特性を未学習であるので、ECU52はステップS20でNOと判定する。この場合、ECU52はステップS24を実行する。ステップS24では、ECU52は、モータ10の回転数をモニタし、モータ10の回転数が予め決められた量だけ変化した段階でトルクアップ制御またはトルクダウン制御を終了する。例えば、図6では、モータ10の回転数が予め決められた量Δrxだけ上昇したタイミングt2で、ECU52がトルクアップ制御を終了する。また、例えば、図7では、モータ10の回転数が予め決められた量Δrxだけ低下したタイミングt2で、ECU52がトルクダウン制御を終了する。ECU52は、トルクアップ制御またはトルクダウン制御が終了した後は、モータ10の回転数を一定に維持するようにモータ10を制御する。
【0049】
図6、7において、回転数r2は、トルクアップ制御またはトルクダウン制御の実施後のモータ10の回転数を示している。また、回転数rhは、ギア段を変更した後の変速機30の入力軸30aの実際の回転数を示している。上述したように、ECU52は、変速特性を未学習の場合には、モータ10の回転数を予め決められた量Δrxだけ変化させる。このため、回転数r2を回転数rhに対して正確に合わせることができない。
【0050】
ECU52は、シフトチェンジ中に、ステップS2と同様にして、モータ10の回転数変化量とトルク指令値の比をモニタしている。ドライバがクラッチ20をオンすると、モータ10の回転数の変化量をトルク指令値で除算した値が基準値未満の値まで低下する。すると、ECU52は、ステップS26でクラッチ20がオンしたと判定する。例えば、図6、7では、タイミングt3でクラッチ20がオンする。
【0051】
クラッチ20のオンを検出すると、ECU52は、ステップS28を実行する。ステップS28では、ECU52は、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する捻じれ特性を学習済みか否かを判定する。すなわち、ECU52は、図3に例示する捻じれ特性のデータセットにアクセスし、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する捻じれ特性を学習済であるか否かを判定する。ECU52は、対象の捻じれ特性を未学習の場合には、ステップS28でNOと判定してステップS30、S32をスキップする。すなわち、ECU52は、対象の捻じれ特性を未学習の場合には、ステップS32の制振制御を実行しない。
【0052】
以上に説明したように、ECU52が変速特性を未学習の状態では、ギア段の変更後の変速機30の入力軸30aの回転数rhに対して、モータ10の回転数r2を正確に合わせることができない。また、ECU52が捻じれ特性を未学習の状態では、クラッチ20がオンした後に制振制御が実行されない。したがって、クラッチ20がオンした直後に、大きい変速ショックが生じる。例えば、図6、7では、クラッチ20がオンしたタイミングt3の直後の期間T1において、モータ10の回転数が大きく振動する。また、振動が生じている期間T1の前後で、モータ10の回転数が大きく変化する。例えば、図6では、タイミングt3においてクラッチ20がオンすると、モータ10の出力軸10aが変速機30の入力軸30aの回転に引きずられることによって、モータ10の回転数が入力軸30aの回転数rhと略一致する回転数r3まで上昇する。また、図7では、タイミングt3においてクラッチ20がオンすると、モータ10の出力軸10aが変速機30の入力軸30aの回転に引きずられることによって、モータ10の回転数が入力軸30aの回転数rhと略一致する回転数r3まで低下する。このように、ECU52が変速特性と捻じれ特性を未学習の状態では、クラッチ20がオンした後にモータ10の回転数が大きく変動し、電動車量に大きい変速ショックが生じる。
【0053】
ECU52は、クラッチ20がオンした後に、モータ10の回転数をモニタする。ECU52は、モータ10の回転数の振動が収まったタイミングt4において、ステップS34、S36を実行する。
【0054】
ステップS34では、ECU52は、期間T1の間に発生したモータ10の回転数の振動波形を、捻じれ特性として記憶する。ここでは、ECU52は、検出された振動波形を、ステップS18で特定されたシフトチェンジの種類に対応する捻じれ特性として記憶する。
【0055】
ステップS36では、ECU52は、タイミングt4におけるモータ10の回転数r3を検出する。次に、ECU52は、ステップS38において、回転数r3を回転数r1で除算することによって、シフトチェンジの前後におけるモータ10の回転数の変化率r3/r1を算出する。シフトチェンジ前のモータ10の回転数r1は、シフトチェンジ前の変速機30の入力軸30aの回転数と等しい。また、シフトチェンジ後のモータ10の回転数r3は、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数と等しい。したがって、変化率r3/r1は、シフトチェンジにおける変速機30の入力軸30aの回転数の変化率に等しい。ECU52は、変化率r3/r1を変速特性として記憶する。ECU52は、ステップS38で算出した変化率r3/r1を、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する変速特性として記憶する。
【0056】
なお、シフトチェンジ前のギア段が変速比Aを有している場合、シフトチェンジ開始時の変速機30の出力軸30bの回転数rsは、rs=r1/Aの関係を満たす。また、シフトチェンジの前後で出力軸30bの回転数rsはほとんど変化しない。また、シフトチェンジ後のギア段が変速比Bを有している場合、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数rhは、rh=B・rs=(B/A)・r1(以下、数式1という)の関係を満たす。また、シフトチェンジ後のモータ10の回転数r3は、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数rhと等しいので、r3=rh(以下、数式2という)の関係を満たす。上記数式1、2から、r3/r1=B/A(以下、数式3という)の関係が得られる。すなわち、変化率r3/r1は、シフトチェンジ前後におけるギア段の変速比A、Bの比と略等しい。変化率r3/r1に対してシフトチェンジ前のモータ10の回転数を乗算すると、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数rhの予測値を算出できる。このように、変速特性は、シフトチェンジ後の入力軸30aの回転数rhを予測することが可能な値である。
【0057】
なお、本実施形態では、変速特性が変化率r3/r1であるが、変速特性として他の値を採用してもよい。例えば、変速特性が、シフトチェンジの種類と、シフトチェンジ開始時のモータ10の回転数に基づいてシフトチェンジ後の入力軸30aの回転数rhの予測値を算出可能な関数、データベース等であってもよい。また、シフトチェンジごとに変速特性を学習する場合には、変速特性は、シフトチェンジ開始時のモータ10の回転数に基づいてシフトチェンジ後の入力軸30aの回転数rhの予測値を算出可能な関数、データベース等であってもよい。
【0058】
以上に説明したように、ECU52は、変速特性と捻じれ特性を未学習の場合には、変速特性と捻じれ特性を学習する。
【0059】
次に、変速特性と捻じれ特性を学習済の場合のシフトチェンジについて説明する。図8、9は、変速特性と捻じれ特性を学習済の場合のシフトチェンジにおけるモータ10の回転数の変化を例示している。
【0060】
変速特性と捻じれ特性を学習済の場合でも、未学習の場合と同様にして、ECU52はステップS2~S18を実行する。したがって、図8、9においては、図6、7と同様に、タイミングt1においてクラッチ20のオフが検出され、タイミングt1におけるモータ10の回転数(以下、回転数r11という)が検出され、タイミングt1以降にトルクダウン制御またはトルクアップ制御が行われる。
【0061】
変速特性を学習済の場合、ECU52は、ステップS20でYESと判定する。すると、ECU52は、ステップS22を実行する。ステップS22では、ECU52は、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する変速特性を記憶領域から読み出す。そして、読み出した変速特性と、ステップS4で検出したモータ10の回転数r11から、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数の予測値rtを算出する。例えば、変速特性が変化率r3/r1である場合には、ECU52は、rt=(r3/r1)・r11の数式により予測値rtを算出する。次に、ECU52は、予測値rtをモータ10の回転数の制御目標値に設定する。したがって、図8、9に示すように、ECU52は、モータ10の回転数が制御目標値rtと一致するまで、トルクアップ制御またはトルクダウン制御を実行する。タイミングt5でモータ10の回転数が制御目標値rtと一致した後は、ECU52は、モータ10の回転数が制御目標値rtと一致するように、モータ10の回転数を制御する。したがって、タイミングt5の直後は、モータ10の回転数が制御目標値rtと略一致する。モータ10の制御目標値rtは、シフトチェンジが完了するタイミング(すなわち、図8、9のタイミングt7)まで維持される。
【0062】
その後、ステップS26で、ECU52がクラッチ20のオンを検出する。図8、9では、タイミングt6でクラッチ20がオンする。クラッチ20がオンすると、その後に、モータ10の回転数が振動する。上述したように、クラッチ20がオンする前に、モータ10の回転数が、シフトチェンジ後の変速機30の入力軸30aの回転数rhと略一致する制御目標値rtに制御されている。したがって、図8、9では、クラッチ20がオンした後に生じるモータ10の回転数の振動が小さく、また、振動の前後における回転数の変動が小さい。このように、変速特性を学習済の場合には、クラッチ20がオンする前にモータ10の回転数が回転数rhと略一致する値に制御されるので、変速ショックが小さい。
【0063】
また、ECU52は、ステップS26でクラッチ20のオンを検出すると、ステップS28~S32において必要に応じて制振制御を実行する。
【0064】
ECU52は、ステップS18で特定したシフトチェンジの種類に対応する捻じれ特性を学習済の場合には、ステップS28でYESと判定してステップS30を実行する。ステップS30では、ECU52は、対象の捻じれ特性の振幅(すなわち、学習処理において検出された回転数の振動波形の振幅)が基準値未満の場合には、ステップS30でNOと判定し、制振制御を実行しない。ECU52は、対象の捻じれ特性の振幅が基準値以上の場合には、ステップS30でYESと判断し、ステップS32で制振制御を実行する。
【0065】
図10は、モータ10の回転数の振動の予測値と、制振制御におけるモータ10のトルク指令値tsを示している。ECU52は、制振制御の開始時であるタイミングt6x(図8、9のタイミングt6と略一致するタイミング)において、記憶領域から対象の捻じれ特性を読み出し、タイミングt6x以後に生じる振動の予測値を算出する。クラッチ20をオンした後に生じる振動の周波数は、駆動系の構造(例えば、駆動系の共振周波数等)によって決まる。したがって、ECU52は、捻じれ特性(すなわち、学習処理で検出した振動波形)からタイミングt6x以後に生じる振動を予測することができる。ECU52は、タイミングt6x以後に生じる振動の予測値を算出すると、その予測値を微分等することによって、振動によってモータ10の回転軸に加わるトルクの予測値を算出する。次に、ECU52は、算出したトルクの予測値を打ち消すように、トルク指令値tsを算出する。ECU52は、タイミングt6x以後に、算出したトルク指令値tsのグラフに従ってモータ10のトルクを制御する。その結果、クラッチ20がオンした後に生じるモータ10の回転数の振動が抑制される。このように、制振制御が実行されることで、モータ10の回転数の振動がさらに抑制される。
【0066】
その後、ECU52は、ステップS34~S38を実行する。なお、捻じれ特性を学習済みの場合には、ステップS34(すなわち、捻じれ特性の学習処理)をスキップしてもよいし、ステップS34を実行してもよい。捻じれ特性を学習済みの場合にステップS34を実行することで、より精度の高い制振制御を実行できる場合がある。また、変速特性を学習済みの場合には、ステップS36、S38(すなわち、変速特性の学習処理)をスキップしてもよいし、ステップS36、S38を実行してもよい。変速特性を学習済みの場合にステップS36、S38を実行することで、より高精度にモータ10の回転数を変速機30の入力軸30aの回転数に合わせることができる場合がある。
【0067】
なお、ECU52は、クラッチ20がオンした後に要求トルクが基準値以上である場合(すなわち、ブリッピングが行われている場合)には、ブリッピングが行われていない場合よりも、トルクアップ制御におけるトルク値を高くする。変速特性を学習済みの状態でブリッピングが行われると、図11に示すように、ブリッピングを検出したタイミングtb以降にECU52がモータ10に対するトルク指令値をより高くする。その結果、タイミングtb以降に、モータ10の回転数がより速く上昇する。したがって、モータ10の回転数をより短時間で制御目標値rtに制御することができる。このため、ブリッピングが行われている場合には、より短時間で変速ショックが小さいシフトチェンジを実行できる。
【0068】
また、上述したように、ECU52は、シフトチェンジごとにギア段が1段ずつ変更されたと推定する。しかしながら、ドライバが段飛ばしでギア段を変更する場合がある。例えば、ドライバが、第2速から第4速へアップシフトしたり、第4速から第2速へダウンシフトする場合がある。この場合、制御目標値rtが実際の入力軸30aの回転数rhとは大きく異なる値となり、クラッチ20がオンしたタイミングt6の直後にモータ10の回転数が大きく上昇または低下する場合がある。この場合に、ECU52がモータ10の回転数の目標値を制御目標値rtに維持していると、モータ10の挙動が異常となる場合がある。したがって、クラッチ20がオンしたタイミングt6の直後にモータ10の回転数が所定の基準値以上の勾配で変化(すなわち、上昇または低下)した場合には、ECU52は、モータ10の回転数を制御目標値rtに維持しようとする制御を中止してもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、シフトチェンジの種類ごとに捻じれ特性を学習したが、シフトチェンジの種類が変わっても捻じれ特性がほとんど変わらない場合には、1つの捻じれ特性を学習するようにしてもよい。この場合、全てのシフトチェンジの種類に対して、共通の捻じれ特性に基づく制振制御を実行することができる。
【0070】
上記のステップS36、S38は、第1回転数と第2回転数を検出する学習処理の一例である。上記のステップS22は、第1回転数と第2回転数に基づいてモータの回転数を変化させる制御処理の一例である。上記のステップS34は、振動波形を検出する学習処理の一例である。上記のステップS32は、振動波形に基づいてモータの回転数の振動を抑制するようにモータを制御する制御処理の一例である。上記のタイミングt1は、第1タイミングの一例である。上記のタイミングt4は、第2タイミングの一例である。上記のタイミングt6は、第3タイミングの一例である。
【0071】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0072】
10 :モータ
10a :出力軸
20 :クラッチ
30 :変速機
30a :入力軸
30b :出力軸
40 :駆動輪
50 :制御回路
52 :ECU
54 :インバータ
60 :回転数センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11