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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】回復方法及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20241112BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/54
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022033400
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023128795
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-048121(JP,A)
【文献】特開2018-026497(JP,A)
【文献】特開2014-143185(JP,A)
【文献】特開2020-080333(JP,A)
【文献】特開2018-092748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/54
H01M 10/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンをキャリアイオンとする蓄電デバイスの容量を回復させる回復方法であって、
正極活物質としてオリビン型化合物を含む前記蓄電デバイスに対して、還元状態の芳香族炭化水素化合物と前記キャリアイオンと同種の金属イオンとを含む溶液である回復剤をその溶液温度が常温より高い所定の温度範囲で注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧よりは低い所定電圧を保持し、前記蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程、
を含む回復方法。
【請求項2】
前記回復工程では、36℃以上45℃以下の前記温度範囲の前記回復剤を注入する、請求項1に記載の回復方法。
【請求項3】
前記回復工程では、3.6V以上4.1V未満の範囲の前記所定電圧で定電圧印加する、請求項1又は2に記載の回復方法。
【請求項4】
前記回復工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物として式(1)の化合物の還元体及び式(2)の化合物の還元体のうちの1以上を含む前記回復剤を用いる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の回復方法。
【化1】
【請求項5】
前記回復工程では、前記還元状態の芳香族炭化水素化合物と前記キャリアイオンと同種の金属イオンと有機溶媒とを含むアレーニド溶液と、前記蓄電デバイスで用いられる電池用溶媒と支持塩とを含む電解液と、を混合した前記回復剤を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の回復方法。
【請求項6】
前記回復工程では、ジメトキシエタン(DME)及びテトラヒドロフラン(THF)のいずれか1以上である前記有機溶媒と、イミド系アニオンを含む前記支持塩と、を含む前記回復剤を用いる、請求項5に記載の回復方法。
【請求項7】
前記回復工程では、前記アレーニド溶液と前記電解液とを混合した直後に前記蓄電デバイスへ前記回復剤を投入する、請求項5又は6に記載の回復方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の回復方法により、金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した前記蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、回復方法及び蓄電デバイスの製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、長期保存や充放電サイクルによって容量が劣化した非水電解液二次電池などの蓄電デバイスの容量を回復させる方法として、正極及び負極の他に第三極を設け、第三極と正極とを外部短絡させ、第三極から正極にキャリアイオンを供給する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、蓄電デバイスとしては、正極活物質としてオリビン型のリチウムリン酸鉄を用いたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-076358号公報
【文献】特開2009-104794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、第三極を組み入れることにより、電池の構造が複雑になるなどの問題があった。このため、第三極を用いなくても容量を回復させることが求められていた。また、特許文献2のようなオリビン型の正極活物質に対して、劣化した容量を回復することができる新規な回復方法が望まれていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、オリビン型の活物質を含む蓄電デバイスの容量回復を実行する新規な回復方法及び蓄電デバイスの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、蓄電デバイスのキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む回復剤の溶液を、所定の温度範囲、所定の電圧範囲で蓄電デバイスに投入すると、劣化した容量を回復することができることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスの回復方法は、
金属イオンをキャリアイオンとする蓄電デバイスの容量を回復させる回復方法であって、
正極活物質としてオリビン型化合物を含む前記蓄電デバイスに対して、還元状態の芳香族炭化水素化合物と前記キャリアイオンと同種の金属イオンとを含む溶液である回復剤をその溶液温度が常温より高い所定の温度範囲で注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧よりは低い所定電圧を保持し、前記蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程、
を含むものである。
【0008】
また、本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、
上述した回復方法により、金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した前記蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この回復方法及び蓄電デバイスの製造方法では、オリビン型化合物の正極活物質を含む蓄電デバイスの容量回復を実行する新規なものを提供できる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む回復剤は、蓄電デバイスに注入するだけで正極に直接作用して、正極に電子と金属イオンを供給する回復反応を生じる。この回復反応の駆動力は正極と回復剤との電位差であると考えられる。回復剤を注入するだけで定電圧印加を行わない場合には、正極に電子と金属イオンが供給されるのに伴い正極の電位が低下して正極と回復剤との電位差が小さくなる。一方、回復剤を注入するとともに定電圧印加によって所定電圧を維持する場合には、正極に電子と金属イオンが供給されても正極の電位が高い状態に保たれ、正極と回復剤との電位差が高い状態に保たれる。それにより、回復反応の駆動力が高い状態に保たれるため、より多くの金属イオンを電池内に供給できる。また、この回復処理において、回復剤の温度をより高い状態で用い、より高い電圧で回復処理を行うため、オリビン型化合物の正極活物質に対して十分容量を回復することができ、負極などへの影響がより少ないものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】蓄電デバイス20の一例を示す模式図。
図2】回復反応のスキームの一例を示す説明図。
図3】回復剤注入後の正極と回復剤との電位差△Erecの変化を概念的に示す説明図。
図4】実験例1~7の回復処理前後の充放電曲線。
図5】実験例1~7の回復処理後の容量変化の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で開示する回復方法は、蓄電デバイスの容量を回復させる回復方法であって、回復剤を用いて蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程、を含む。蓄電デバイスは、金属イオンをキャリアイオンとするものであれば特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの第1族イオンや、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどの第2族イオンをキャリアイオンとするものとしてもよい。また、蓄電デバイスは、非水電解液二次電池としてもよく、リチウムイオン二次電池などのイオン二次電池や、リチウム金属二次電池などの金属二次電池などとしてもよい。以下では、一例として、蓄電デバイスがリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0012】
(蓄電デバイス)
蓄電デバイスは、正極と、負極と、非水電解液とを備えている。正極は、リチウムイオンを吸蔵、放出しうる正極活物質を有するものとしてもよい。負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有するものとしてもよい。非水電解液は、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するものとしてもよい。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この正極活物質は、オリビン型化合物であるものとしてもよく、例えば、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。このリン酸鉄リチウムは、マンガンなどの添加元素を添加したものとしてもよい。正極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で3.5V以上としてもよく、4.0V以上としてもよい。
【0014】
正極において、導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系のカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリビニルアルコールなどの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極合材の目付量は、特に限定されるものではないが、例えば、5mg/cm2超過としてもよく、6mg/cm2以上としてもよく、7mg/cm2以上としてもよい。正極合材の目付量は、例えば、20mg/cm2以下としてもよい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0015】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極活物質は、酸化還元電位が、Li金属基準で1.0V以下のものとしてもよく、0.5V以下のものとしてもよく、0.3V以下のものとしてもよい。負極合材の目付量は、例えば、3mg/cm2超過としてもよく、4mg/cm2以上としてもよい。負極合材の目付量は、例えば、15mg/cm2以下としてもよい。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0016】
非水電解液は、支持塩と有機溶媒とを含むものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4などの無機塩や、LiN(FSO22、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22などの有機塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度は、0.1~2.0Mであることが好ましく、0.8~1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。非水電解液は、例えば、被膜形成剤や難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0017】
蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極22と負極23との間の空間に非水電解液27が満たされている。
【0019】
(回復剤)
回復剤は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、蓄電デバイスのキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含む溶液である。回復剤は、予め調製された回復剤でもよいし、回復剤を調製する調製工程で調製してもよい。回復剤において、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとは、解離していてもよいし、会合していてもよい。回復剤は、還元状態の芳香族炭化水素化合物と、蓄電デバイスのキャリアイオンと同種の金属イオンと、を含むアレーニド溶液の他に、電解液を含むものとしてもよい。回復剤は、電解液を含まず、アレーニド溶液のままとしてもよい。アレーニド溶液は、更に有機溶媒を含むものとしてもよい。
【0020】
回復剤において、芳香族炭化水素化合物は、ポリアセン又はポリフェニルであることが好ましい。ポリアセンは複数のベンゼン環が縮合した構造を有する化合物であり、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等が挙げられる。ポリフェニルは複数のフェニル基が単結合により連結した構造を有する化合物であり、ビフェニル、オルトターフェニル、メタターフェニル、パラターフェニル、パラクアテルフェニル、パラキンキフェニル等が挙げられる。ポリアセンやポリフェニルは、芳香環上に置換基を有していてもよいし、芳香環内にヘテロ原子を含んでいてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基等が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄などが挙げられる。芳香環内にヘテロ原子を含むポリアセンとしては、キノリン、クロメン、アクリジンなどが挙げられる。芳香環内にヘテロ原子を含むポリフェニルとしては、ビピリジンなどが挙げられる。芳香族炭化水素化合物は、上述したもののうち、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、オルトターフェニル、パラターフェニルのうち1以上であることが好ましく、ナフタレン及びビフェニルのうちの1以上であることがより好ましい。芳香族炭化水素化合物は、例えば、式(1)及び式(2)のうちの1以上としてもよい。還元状態の芳香族炭化水素化合物は、例えば上述の芳香族炭化水素化合物が還元された状態のもの(還元体とも称する)であり、例えばラジカルアニオンである。還元状態の芳香族炭化水素化合物は、例えば、式(1)の化合物の還元体及び式(2)の化合物の還元体のうちの1以上としてもよい。
【0021】
【化1】
【0022】
回復剤において、金属イオンは、蓄電デバイスのキャリアイオンと同種であればよいが、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンなどのアルカリ金属イオンのうち1以上であることが好ましい。
【0023】
回復剤は、式(3)及び式(4)のうちの1以上の化合物を含むものとしてもよい。式(3)及び式(4)の化合物において、ラジカルアニオンの部分が上述の還元状態の芳香族炭化水素化合物であり、金属カチオンの部分が上述の金属イオンである。
【0024】
【化2】
【0025】
回復剤は、有機溶媒を含むものとしてもよい。有機溶媒としては、エーテル骨格を有する溶媒が好ましく、環状エーテルでも鎖状エーテルでもよい。回復剤は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、ジオキソラン(DOL)、ジオキサン(DOX)のうち1以上の溶媒を含むものとしてもよい。回復剤は、テトラヒドロフラン及びジメトキシエタンのうちの1以上の溶媒を含むことが好ましく、回復処理後の充放電特性の低下を抑制する観点からは、ジメトキシエタンがより好ましい。
【0026】
回復剤は、溶媒中に、芳香族炭化水素化合物と、イオン状態ではなく金属状態の金属とを投入して得られたものとしてもよい。例えば、式(5)及び式(6)のうちの1以上により得られたものとしてもよい。より具体的には、式(7)~(9)のように、THF溶媒中で、ナフタレン、ジフェニル、ターフェニルとLi金属とを反応させたものとしてもよい。また、式(7)~(9)に準じて、DME溶媒中で、ナフタレン、ジフェニル、ターフェニルとLi金属とを反応させたものとしてもよい。こうすれば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む回復剤を容易に調製できる。回復剤は、溶媒に芳香族炭化水素化合物を投入して得られた前駆体に、金属を投入して調製してもよい。回復剤は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で調製してもよい。回復剤は、露点が-20℃以下や、-40℃以下、-60℃以下などの低露点環境下で調製してもよい。回復剤は、溶媒と芳香族炭化水素化合物と金属とを撹拌して調製してもよく、その際、スターラーなどを用いてもよい。
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
上記説明した還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンと有機溶媒とを含む溶液を、アレーニド溶液とも称する。このアレーニド溶液は、そのまま原液で回復剤として使用してもよいし、電解液を混合してその還元力を調整した回復剤として使用してもよい。アレーニド溶液において、還元状態の芳香族炭化水素化合物及び金属イオンの濃度は、各々、0.05mol/L以上1.1mol/L以下としてもよく、0.1mol/L以上1.1mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以上1.0mol/L以下としてもよい。また、この濃度は、溶解度以下としてもよい。また、回復剤に含まれる還元状体の芳香族炭化水素化合物のモル数MA(mol)と金属イオンのモル数MB(mol)との比MA/MBは、1/1とすることが好ましいが、1.1/1.0~1.0/1.1としてもよいし、1.2/1.0~1.0/1.2としてもよい。
【0030】
回復剤がアレーニド溶液のほかに電解液を含む場合、電解液は、例えば、蓄電デバイスの非水系電解液で例示した非水電解液としてもよく、非水系電解液で例示した電池用溶媒と、非水系電解液で例示した支持塩と、を含むものとしてもよい。電解液に含まれる電池用溶媒は、アレーニド溶液の有機溶媒と異なるものであればよいが、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステルのうちの1以上が好ましく、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1以上がより好ましい。電池用溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートのうちの1以上としてもよい。電解液の支持塩は、アレーニド溶液の溶質と異なるものであればよいが、LiPF6などの無機塩としてもよいし、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)や、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)や、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などのイミド系アニオンを含むものなどが挙げられ、イミド系アニオンを含むものがより好ましい。電解液は、被膜形成剤や難燃剤等の添加剤を含んでもよい。電解液の組成は、回復対象の蓄電デバイスの非水系電解液と同じでもよいし、異なっていてもよい。回復剤が電解液を含む場合、電解液の含有量は、30体積%以上70体積%以下としてもよく、30体積%以上60体積%以下としてもよく、30体積%以上50体積%以下としてもよい。電解液を含む回復剤を調製する際には、アレーニド溶液と電解液とを混合すればよく、混合後、直ちに回復処理に用いることがより好ましい。アレーニド溶液と電解液とを混合した直後は、その溶液温度が、例えば、36℃以上45℃以下の範囲などに上昇し、蓄電デバイスの容量回復に好ましい。
【0031】
回復剤は、酸化還元電位が負極の酸化還元電位よりも高く正極の酸化還元電位よりも低いものとしてもよい。回復剤の酸化還元電位は、例えばLi金属基準で0.5V以上2.5V以下としてもよいし、1.0V以上2.0V以下としてもよいし、1.2V以上1.9V以下としてもよい。
【0032】
(回復工程)
この工程では、蓄電デバイスに対して、回復剤の溶液温度が常温より高い所定の温度範囲でこの回復剤を注入するとともに、定電圧印加により満充電電圧より低い所定電圧を維持して、蓄電デバイスの容量を回復させる処理を行う。回復対象となる蓄電デバイスは、容量劣化した状態の電池(劣化電池とも称する)であり、例えば、蓄電デバイスの定格容量に対して容量劣化した状態の電池としてもよい。回復対象となる蓄電デバイスは、未使用品でも使用済み品でもよい。未使用品でも、長期保存などによって容量劣化することがある。
【0033】
回復剤の投入時の溶液温度は、常温(20℃など)より高い所定の温度範囲であるが、例えば、36℃以上45℃以下の温度範囲が好ましい。溶液温度が36℃以上では、回復剤に含まれる物質の析出やゲル化などをより抑制することができ、45℃以下では回復剤の変質をより抑制することができ、好ましい。また、回復剤がアレーニド溶液と電解液との混合液である場合は、アレーニド溶液と電解液との混合直後に蓄電デバイスに投入することが好ましい。これらの溶液の混合時には、温度上昇を伴い、蒸気温度範囲になるためである。混合直後とは、溶液温度が常温に低下する前であればよく、例えば、混合後5分以内や3分以内、2分以内などが挙げられる。
【0034】
回復工程において、定電圧保持の所定電圧は、満充電電圧よりは低い電圧であればよいが、正極の電位が回復剤の電位よりも高くなるような電圧であることが好ましい。満充電電圧は蓄電デバイス(劣化前電池)に設定された充電上限電圧としてもよい。所定電圧は、回復対象電池の構成等に応じて適宜定めればよいが、例えば、3.6V以上4.1V未満としてもよく、3.8V以上や、3.9V以上としてもよいし、4.0V以下としてもよい。定電圧保持する電圧が3.6V以上4.1V未満の範囲では、容量回復を十分に行うことができる。
【0035】
この工程では、回復剤を注入するのに先立って、蓄電デバイスを上述の所定電圧にする電圧調整を行ってもよい。その場合、例えば、定電流充電(CC充電)や定電流定電圧充電(CCCV充電)で充電して、蓄電デバイスの電圧調整を行ってもよい。この電圧調整を行わなくてもよいが、回復対象の蓄電デバイスの電圧は上述の所定電圧であることが好ましい。
【0036】
この工程では、回復剤を注入する際には、蓄電デバイスを開封して回復剤を注入し開封部を塞いでもよいし、蓄電デバイスに注射などで回復剤を注入し穿孔を塞いでもよい。回復剤を注入する際には、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で注入してもよい。回復剤は、少なくとも正極と接触するように注入すればよいが、非水電解液と混合させてもよい。回復剤の注入量は、蓄電デバイスの構成や、劣化度合いなどに応じて適宜定めることができる。回復剤の注入量は、例えば、蓄電デバイスに含まれる非水電解液の体積[mL]に対して、1%以上100%以下としてもよく、10%以上75%以下としてもよく、25%以上50%以下としてもよい。定電圧印加は、回復剤の注入前や回復剤の注入中から継続してもよいし、回復剤の注入後、正極への金属イオンの供給に伴う蓄電デバイスの電圧低下が無視できる程度に小さいうち(例えば5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは1分以内)に開始してもよい。定電圧印加時間は、蓄電デバイスの構成や、劣化度合い、回復剤の注入量などに応じて適宜定めることができる。例えば、回復剤の注入量は一定とし、蓄電デバイスの構成や劣化度合いに応じて定電圧印加時間を調整してもよい。定電圧印加時間は、例えば、1時間以上48時間以下としてもよく、6時間以上36時間以下としてもよく、12時間以上24時間以下としてもよい。なお、回復剤の注入完了前から定電圧印加する場合には、回復剤の注入が完了してからの定電圧印加時間を定電圧印加時間とする。
【0037】
この工程で、回復剤を注入すると、例えば、図2に示すような回復反応が生じると考えられる。図2は、回復反応のスキームの一例を示す説明図であり、正極活物質がリン酸鉄リチウムのようなオリビン型化合物である場合のスキームを示す説明図である。図3は、回復剤注入後の正極と回復剤との電位差△Erecの変化を概念的に示す説明図であり、図3Aが回復剤注入後開回路状態で放置した場合の推定図であり、図3Bが回復剤注入とともに定電圧印加により所定電圧を維持した場合の推定図である。図2では、金属イオンをLi+、ラジカルアニオンをAre・-、オリビン型化合物をLin-yMePO4として説明する。図2に示すように、回復剤では、芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオンと金属イオンとを含む化合物が、電子を供与する還元剤として機能するため、劣化した正極に作用させることで、還元剤から正極へ電子と金属イオンが供与され、容量を回復させることができる。ここで、仮に、回復剤を注入するだけで、定電圧印加を行わず開回路状態で放置した場合には、図3Aに示すように、回復反応の進行とともに正極電位が低下するため、反応の駆動力となる正極と回復剤との電位差△Erecが、回復反応の進行とともに△Erec.1>△Erec.2>△Erec.3と減少すると考えられる。このため、回復剤の効果は徐々に減衰すると考えられる。一方、回復剤を注入するとともに、定電圧印加により所定電圧を維持した場合には、図3Bに示すように、電池電圧を一定にすることにより正極電位の低下が抑制されるため、反応の駆動力となる正極と回復剤との電位差△Erecが、回復反応が進行しても△Erec.1≒△Erec.2≒△Erec.3と略一定に保たれると考えられる。このとき回復剤から正極に供与された電子は定電圧印加によって直ちに負極に送られ、それにともない正極に供給された金属イオンも負極に移動するため、正極では高い電位を保ったまま金属イオンや電子を受け入れる空の軌道が存在する。これにより、抵抗の比較的高い電極を用いた場合でも、電池容量を回復させながら(電池内の金属イオン量を増加させながら)も反応駆動力が高い状態を保つことができると考えられる。そのため、回復剤を有効に利用でき、回復後の電池の容量がより向上すると考えられる。また、定電圧印加によって芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオンの活性が適度に抑えられたり、回復剤が有効に利用されることで芳香族炭化水素化合物のラジカルアニオンの残留が抑制されたりして、回復後の充放電特性の低下がより抑制されるものと考えられる。このように、蓄電デバイスの容量が回復し、容量が回復した蓄電デバイス(回復電池とも称する)が得られる。
【0038】
以上詳述した蓄電デバイスの回復方法では、所定の回復剤を注入することで、蓄電デバイスの容量を回復させることができる。この回復方法では、回復剤を注入するとともに定電圧印加によって所定電圧を維持することで、回復後の電池の容量をより向上させることができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、還元状態の芳香族炭化水素化合物と金属イオンとを含む回復剤は、蓄電デバイスに注入するだけで正極に直接作用して、正極に電子と金属イオンを供給する回復反応を生じる。この回復反応の駆動力は正極と回復剤との電位差であると考えられる。回復剤を注入するだけで定電圧印加を行わない場合には、正極に電子と金属イオンが供給されるのに伴い正極の電位が低下して正極と回復剤との電位差が小さくなる。一方、回復剤を注入するとともに定電圧印加によって所定電圧を維持する場合には、正極に電子と金属イオンが供給されても正極の電位が高い状態に保たれ、正極と回復剤との電位差が高い状態に保たれる。それにより、回復反応の駆動力が高い状態に保たれるため、より多くの金属イオンを電池内に供給できる。更に、この回復処理において、回復剤の温度を常温より高い状態で用いて回復処理を行うため、回復剤のゲル化による流動性低下や、支持塩など含有成分の析出などをより抑制することができるため、回復剤の分散性をより高めることによってより高い回復効果を得ることができるものと推察される。更にまた、この回復処理において、より高い電圧で回復処理を行うため、オリビン型化合物の正極活物質に対して十分容量を回復することができ、負極などへの影響がより少ないものと推察される。
【0039】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0040】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイスの回復方法について説明したが、この蓄電デバイスの回復方法では、容量劣化した蓄電デバイスを用い、容量が回復した新たな非水電解二次電池を製造することができる。このため、この回復方法は、蓄電デバイスの製造方法であるものとしてもよい。この製造方法は、上述の蓄電デバイスの回復方法における回復工程を実行して蓄電デバイスを製造してもよい。蓄電デバイスの製造方法は、金属イオンをキャリアイオンとする容量劣化した蓄電デバイスを準備する準備工程と、上述した蓄電デバイスの回復方法で蓄電デバイスの容量を回復させる回復工程と、を含むものとしてもよい。準備工程で準備する蓄電デバイスは、上述した実施形態で説明した劣化電池と同様とすることができる。
【実施例
【0041】
以下には、本開示の蓄電デバイスの回復方法でリチウムイオン電池の回復を行った例を実施例として説明する。なお、実験例4~7が実施例に相当し、実験例1~3が比較例に相当する。本開示は以下の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0042】
[実験例1]
(蓄電デバイス(劣化前電池))
正極には、正極活物質としてのLiFePO4(LFP、合成品)を92質量%、導電材としてのアセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、目付量7mg/cm2となるようにアルミ集電箔の片面に形成したものを用いた。負極には、負極活物質としての黒鉛(OMAC1.5s、大阪ガスケミカル製)を98質量%、結着材としてのカルボキシメチルセルロース(ダイセル製)を1質量%、結着材としてのスチレンブタジエンゴム(JSR製)を1質量%の割合で含む負極合材を、目付量4mg/cm2となるように銅集電箔の片面に形成したものを用いた。電解液には、エチレンカーボネートを30体積%、ジメチルカーボネートを40体積%、エチルメチルカーボネートを30体積%の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.1Mの濃度となるように溶解させたものを用いた。正極と負極の間に、1mLの電解液を含侵させたポリプロピレンセパレータを挟み、ラミネートセルを作製した。これを劣化前電池とした。セルの電極面積は正極、負極ともに10cm2とした。劣化前電池の抵抗をデジタルマルチメータにて測定したところ、セル抵抗は10Ωcm2であった。この蓄電デバイスにおいて、電池構成に応じて定められる放電下限電圧は3.0Vであり充電上限電圧は4.1Vであった。
【0043】
(劣化電池)
作製したラミネートセルにおいて、電圧範囲3.0Vから3.65Vでのセルの電気容量(12mAh)の50%に相当する容量(SOC=50%,6mAh)まで充電を行うことで、正極からLiを引き抜いて、模擬的に容量を減少させた状態の正極を得た(劣化正極とも称する)。その後セルを解体し、劣化正極を取り出したのち、この劣化正極を正極として用いた以外は劣化前電池の作製と同様にして、ラミネートセルを作製した。これを劣化電池とした。
【0044】
(回復剤)
不活性雰囲気下において、ジメトキシエタン(DME)溶媒に対して1.0mol/Lになるようにナフタレンを溶解させ、その後、1.0mol/Lに相当するリチウム金属を加えて撹拌し、上記式(7)に示す反応により、アレーニド溶液である濃緑色のラジカルアニオン液体組成物(リチウムナフタレニド/DME)を調製した。その後、アレーニド溶液と上記電解液を体積比で5:5となるように混合して、回復剤を調製した。なお、電解液に含まれる支持塩は、LiPF6のほか、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を用いた。また、アレーニド溶液の溶媒として、DMEの代わりにテトラヒドロフラン(THF)を用いた以外は上述と同様の処理を行い、ラジカルアニオン液体組成物(リチウムナフタレニド/THF)を調製した。
【0045】
(劣化電池の回復)
上記作製した劣化電池を表1に示すセル電圧に調整し、上記で作製した回復剤を0.5mLピペットにて投入し、表1に占めるセル電圧において定電圧保持あるいは開回路条件下で回復処理を24時間行った。投入前容量に対して、投入、処理後容量から処理前後の容量増加量を計算した。また、回復処理後、上記の3.0Vから3.65Vの電圧範囲において、1.2mAにて充放電試験を行い、放電容量を測定し、投入前の容量に対する容量変化(回復容量:mAh)を求めた。
【0046】
[実験例1~3]
上記の試験において、アレーニド溶液の溶媒をDMEとし、回復剤に含まれる電解液の支持塩をLiPF6とし、アレーニド溶液と電解液とを混合放置して回復剤温度を25℃とし、電圧3.6Vで定電圧保持したものを実験例1とした。また、回復剤に含まれる電解液の支持塩をLiFSIとし、回復剤投入後に開回路で回復処理した以外は実験例1と同様としたものを実験例2とした。また、回復剤に含まれる電解液の支持塩をLiFSIとした以外は実験例1と同様としたものを実験例3とした。
【0047】
[実験例4~7]
上記の試験において、アレーニド溶液の溶媒をDMEとし、回復剤に含まれる電解液の支持塩をLiFSIとし、アレーニド溶液と電解液とを混合直後に回復剤温度を40℃でセルへ投入し、電圧3.6Vで定電圧保持したものを実験例4とした。また、電圧4.0Vで定電圧保持した以外は実験例4と同様としたものを実験例5とした。また、回復剤に含まれる電解液の支持塩をLiPF6とした以外は実験例4と同様としたものを実験例6とした。また、アレーニド溶液の溶媒をTHFとした以外は実験例4と同様としたものを実験例7とした。
【0048】
[結果と考察]
実験例1~7のアレーニド溶液の組成、回復剤に加える電解液の支持塩、その混合比、劣化セルへの回復剤の投入時期及び投入時の回復剤の溶液温度、回復処理の電圧条件、電圧処理条件及び回復処理後の容量変化を表1にまとめた。図4は、実験例1~7の回復処理前後の充放電曲線であり、図4A~4Gがそれぞれ実験例1~7である。図5は、実験例1~7の回復処理後の容量変化の測定結果である。
【0049】
表1、図4,5に示すように、実験例1~3における、回復剤の温度が低い、3.6Vのセル電圧での回復処理では、定電圧保持においても開回路保持においても、容量は回復せず、減少するものもあった。これは、3.6Vの回復条件では投入した回復剤の溶液の未反応物が残存し、負極部材を劣化させたためであると推察された。一方、回復剤の温度がより高い実験例4では、回復幅は小さいが容量回復できることがわかった。また、実験例5、6における、4.0Vでの定電圧処理によれば、より高い回復容量が得られることが分かった。これは、回復処理での定電圧保持のセル電圧を4.0Vとより高い電圧で保持することにより、投入したリチウムナフタレニドがLFP正極へ電子およびLi+を供給するのと同時に、未反応のリチウムナフタレニドを分解することで、容量回復とその後の副反応を防ぐことができたためであると推察された。また、実験例5,6の結果より、回復剤の溶液温度がより高ければ、容量回復効果に対する電解液の支持塩の種別の影響が少ないこともわかった。また、実験例7の結果より、アレーニド溶液の溶媒は、DMEやTHFでも、良好な回復容量が得られることがわかった。なお、回復剤は。その溶液温度が36℃未満において析出物が生じ、その流動性が低下することが確認された。
【0050】
実験例1~3に示すように、層状岩塩型のLiNi0.8Co0.15Al0.052(NCA)やLiNi1/3Co1/3Mn1/32(NCM)などと同様の処理条件での回復処理では、オリビン型のLiFePO4を正極活物質とする蓄電デバイスにおいては、十分な回復効果が得られなかった。一方、実験例4~7に示すように、LiFePO4を正極活物質とする蓄電デバイスにおいては、回復剤の溶液温度を36℃以上、更には40℃以上とし、回復剤の投入時から比較的高い3.6V~4.0Vの電圧で定電圧保持する回復処理を行えば、その容量回復を十分実行することができることが明らかとなった。また、回復剤に混合する電解液は、蓄電デバイスに用いられているのと同種の電池用溶媒を含み、イミド系のアニオンを含む支持塩を有するものが、より好ましいものと推察された。この点について、層状岩塩型の正極活物質では、抵抗が低いことから、回復剤の状態に係わらず回復効果が得られるものと推察される。一方、オリビン型の正極活物質では、層状岩塩型の正極活物質に比して抵抗が高いことから、回復剤の状態に影響を受け、層状岩塩型の正極活物質と同様の処理では回復効果が得られにくいことが一因として考えられた。
【0051】
【表1】
【符号の説明】
【0052】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 非水電解液。
図1
図2
図3
図4
図5