IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特許7586118粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法
<>
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図1
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図2
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図3
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図4
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図5
  • 特許-粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 39/02 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
C10B39/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022040703
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023135465
(43)【公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】荒川 信司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】楠本 久夫
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特公昭58-002993(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0062630(KR,A)
【文献】実公昭62-034984(JP,Y1)
【文献】実開昭53-110950(JP,U)
【文献】中国実用新案第202214327(CN,U)
【文献】実開平01-018138(JP,U)
【文献】特開昭50-034301(JP,A)
【文献】特開昭59-100205(JP,A)
【文献】特開平09-113167(JP,A)
【文献】実開昭62-044808(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体の内部に充填された状態で前記管体の内部を前記管体の延在方向へ移動する粉粒体と前記管体の外部との熱交換を行う粉粒体の熱交換装置であって、
前記管体の内壁面に設けられた、前記管体の内部に向かって突出する内面突起、及び前記管体の内部に設けられた、前記管体の延在方向に垂直な断面の断面積が前記粉粒体の進行方向に向かって拡大する部分を有する管内部材のうちのいずれか一方、または、前記内面突起及び前記管内部材の両方を備えていることを特徴とする粉粒体の熱交換装置。
【請求項2】
前記内面突起は、前記管体の延在方向に垂直な断面において、前記内面突起が設けられている部分の前記管体の周方向における合計長さが前記管体の内壁面の周長の1/2以上であることを特徴とする請求項1に記載の粉粒体の熱交換装置。
【請求項3】
前記管内部材は、前記管体の延在方向に垂直な断面における断面積が前記粉粒体の進行方向に向かって拡大する錐体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉粒体の熱交換装置。
【請求項4】
前記粉粒体がコークス乾式消火設備の除塵器から回収されるコークス粉であり、該コークス粉を冷却するための流体が流通する流路を前記管体の外面に接して有することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の粉粒体の熱交換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の粉粒体の熱交換装置を有するコークス乾式消火設備を用いて、コークス炉で製造された赤熱状態のコークスを冷却する赤熱コークス冷却工程を含むことを特徴とするコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体の内部に充填された状態で管体の内部を移動する粉粒体と管体の外部との熱交換を行う粉粒体の熱交換装置、及びコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉粒体、すなわち、粉状または粒状の固体を搬送する場合に、粉粒体を管体の内部に充填させた状態で移動させることがある。また、この際に、管体の内部の粉粒体と管体の外部との間で熱交換を行うことがある。
特に、製鉄設備では、粉粒体を扱うプロセスは多く、高温の粉粒体を冷却することが必要になる場合も少なくない。
例えば、製鉄原料として用いられるコークスは粉粒体であり、コークス炉で製造されたコークスは高温であるため、これを冷却することが必要である。コークス乾式消火設備は、高温の赤熱コークスを窒素を主成分とする不活性ガスを用いて冷却する設備である。
【0003】
一般的なコークス乾式消火設備について説明すると、コークス炉で製造された赤熱状態のコークスは、コークスバケットに入れられ、コークスバケットは、巻上機によりコークス乾式消火設備の冷却塔の上部に運搬される。そして、コークスは、コークスバケットから冷却塔の上部に投入され、冷却塔内を下降しながら、冷却塔の下部から吹込まれる低温の不活性ガスと熱交換を行い、冷却されたコークスは、切り出し装置から約200℃で排出される。一方、赤熱コークスと熱交換して高温となった不活性ガスは、冷却塔から排出されて円環煙道を経て水平煙道を通ってボイラーへ導かれ、ボイラーチューブで水蒸気を発生させ、冷却された不活性ガスは、再び冷却塔に導かれ循環利用される。
【0004】
ここで、冷却塔から排出される不活性ガス中には、多量のコークス粉や粒(以下、コークス粉と総称する)が含まれており、ボイラーチューブを保護するため、ボイラーの上流側に設置された除塵器で不活性ガス中のコークス粉を分離除去する。分離されたコークス粉は、除塵器の下部に接続された高温コークス粉冷却装置において内部を下方に移動する間に熱交換されて冷却され、コークス排出装置から排出される。なお、高温コークス粉冷却装置内では、コークス粉は充填層として移動する。
【0005】
このような高温コークス粉冷却装置として、従来、例えば、特許文献1及び2に示すものが知られている。
特許文献1に示すコークス等の高温粉じん処理装置は、除塵機の下部に接続され、ダストをダストホッパに導くダスト排出管と、ダスト排出管の外部に設けられた外筒とを備えた2重管構造を備え、外筒とダスト排出管との間に冷却水を通すことにより、ダスト排出管内を下降するダストを外部から間接冷却するようにしている。
【0006】
また、特許文献2に示すコークス消火設備のダスト冷却装置は、ダスト管と、ダスト管の外側に配置された第1冷却管と、ダスト管の内側に配置された第2冷却管とを備えた3重管構造を備え、第1冷却管とダスト管との間及び第2冷却管内に冷却水を通すことにより、ダスト管と第2冷却管との間を流れるダストを冷却するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭58-2993号公報
【文献】実公昭62-34984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、コークス乾式消火設備の大型化に伴ってダスト量が増加し、特許文献1に示すコークス等の高温粉じん処理装置のような2重管構造ではダストの冷却を十分に行えない場合があるという課題があった。
一方、特許文献2に示すコークス消火設備のダスト冷却装置のような3重管構造の場合には、コークス乾式消火設備の大型化に伴ってダスト量が増加した場合でも十分な冷却を行うことができる。しかしながら、3重管構造の場合、設備構造が複雑化するという課題があった。
【0009】
従って、本発明はこれら従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡単な設備構造で、管体の内部を移動する粉粒体の量が多い場合でも効果的に管体の外部との熱交換を行い、効果的に粉粒体を冷却することができる粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の特許文献1に示すような2重管構造の冷却装置で粉粒体の十分な冷却が行えない理由は、コークス粉の熱伝導率の低さにあると考えられる。コークスの熱伝導率は、単体で常温では約3W/m・K程度であるが、コークス粉は空気を含有するため、粉体の充填層としての見掛け熱伝導率は0.8W/m・K程度になる。コークス冷却装置の外側から冷却する従来の2重管構造では、管内部までコークス粉を十分に冷却するためには時間がかかってしまう。また、液体と気体とを比較して粉体は流動性が低く、冷却装置の管内で外周部と内部のコークス粉が攪拌されないことも冷却に時間がかかる要因の一つとして考えられる。さらに、コークス乾式消火設備は設備高さの制約があるため、コークス粉を冷却排出する管の長さを延長して伝熱面積を増加させることも難しい。また、排出管の数を増加させることも考えられるが、設備構造が複雑化するとう問題がある。
【0011】
本発明は、粉粒体が流通する管体の内部に、粉粒体の撹拌を促す部材を設置することで、効果的に管体の内部の粉粒体と管体の外部との熱交換を行わせることを特徴とする。
即ち、本発明の一態様に係る粉粒体の熱交換装置は、管体の内部に充填された状態で前記管体の内部を前記管体の延在方向へ移動する粉粒体と前記管体の外部との熱交換を行う粉粒体の熱交換装置であって、前記管体の内壁面に設けられた、前記管体の内部に向かって突出する内面突起、及び前記管体の内部に設けられた、前記管体の延在方向に垂直な断面の断面積が前記粉粒体の進行方向に向かって拡大する部分を有する管内部材のうちのいずれか一方、または、前記内面突起及び前記管内部材の両方を備えていることを要旨とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係るコークスの製造方法は、前述の粉粒体の熱交換装置を有するコークス乾式消火設備を用いて、コークス炉で製造された赤熱状態のコークスを冷却する赤熱コークス冷却工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粉粒体の熱交換装置及びコークスの製造方法によれば、粉粒体が管体の内部に充填された状態で管体の内部を管体の延在方向へ移動する際に、管体の内周面に設けられた内面突起や管体の内部に設けられた管内部材によって、管体の径方向への移動が促進され、粉粒体の管体内での攪拌が強化される。これにより、管体内の径方向での伝熱が促進され、簡単な設備構造で、管体の内部を移動する粉粒体の量が多い場合でも効果的に管体の外部との熱交換を行い、効果的に粉粒体を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る粉粒体の熱交換装置としての高温コークス粉冷却装置が適用されるコークス乾式消火設備の概略構成図である。
図2図1における高温コークス粉冷却装置の模式図である。
図3】高温コークス粉冷却装置における内面突起及び管内部材の模式図である。
図4図3における40-40線に沿う断面図である。
図5図3における50-50線に沿う断面図である。
図6】比較例の高温コークス粉冷却装置におけるコークス粉の温度分布と実施例1の高温コークス粉冷却装置におけるコークス粉の温度分布とを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
図1には、本発明の一実施形態に係る粉粒体の熱交換装置としての高温コークス粉冷却装置が適用されるコークス乾式消火設備の概略構成が示されている。
図1に示すコークス乾式消火設備1は、コークス炉(図示せず)で製造された赤熱状態のコークスCを冷却するものである。
コークス炉で製造された赤熱状態のコークスCは、コークス乾式消火設備1のコークスバケット3に入れられ、コークスバケット3は、巻上機2によりコークス乾式消火設備1の冷却塔4の上部に運搬される。そして、コークスCは、コークスバケット3から冷却塔4の上部に投入され、冷却塔4内を下降しながら、冷却塔4の下部から吹込まれる低温の不活性ガスと熱交換を行い、冷却されたコークスCは、切り出し装置5から約200℃で排出される。
【0017】
一方、赤熱状態のコークスCと熱交換して高温となった不活性ガスは、冷却塔4から排出されて円環煙道6を経て水平煙道7を通ってボイラー9へ導かれ、ボイラーチューブ9aで水蒸気を発生させ、冷却された不活性ガスは、再び冷却塔4に導かれ循環利用される。
ここで、冷却塔4から排出される不活性ガス中には、多量のコークス粉や粒(以下、コークス粉Pと総称する)が含まれており、ボイラーチューブ9aを保護するため、ボイラー9の上流側の水平煙道7に設置された除塵器8で不活性ガス中のコークス粉P(図2参照)を分離除去する。分離されたコークス粉Pは、除塵器8の下部のホッパ部8a(図2参照)に接続された高温コークス粉冷却装置10において内部を下方に移動する間に熱交換されて冷却され、コークス排出装置11から排出される。
【0018】
除塵器8で捕集されたコークス粉Pは、捕集直後の温度が800~900℃と高温であるため、発火防止のため通常400℃まで冷却する必要がある。このコークス粉Pは、比較的細粒で粒度が揃っており、含有水分量も低いため、製鉄所内でリサイクル使用されたり、バグ式集塵機のろ布のプレコート材として使用されることもある。
【0019】
高温コークス粉冷却装置10について、図2乃至図5を参照して詳細に説明する。図2は、高温コークス粉冷却装置10の模式図である。
高温コークス粉冷却装置10は、本発明の一実施形態に係る粉粒体の熱交換装置であり、コークス乾式消火設備1の除塵器8から回収される粉粒体としてのコークス粉Pと熱交換して冷却する。高温コークス粉冷却装置10は、図2に示すように、コークス粉Pが流通する管体としてのコークス排出管21と、コークス排出管21の径方向外側に設置されたコークス冷却管22とを備えている。
コークス排出管21は、上下方向(図2における上下方向)に延在する円筒状の外周面21c及び内周面21dを有する管体で構成され、その上端21aが除塵器8の下部のホッパ部8aに接続され、下端21bがコークス排出装置11に接続されている。
【0020】
また、コークス冷却管22も、上下方向に延在する円筒状の外周面22c及び内周面22dを有する管体で構成され、その上端22aが除塵器8の下部のホッパ部8aに接続され、下端21bがコークス排出装置11に接続されている。コークス冷却管22の下方側には、開閉弁27を有する入側配管26が接続され、コークス冷却管22の上方側には、開閉弁29を有する出側配管28が接続されている。入側配管26からコークス冷却管22の内周面22dとコークス排出管21の外周面21cとの間に流入した冷却用の流体(例えば、水)は、矢印Bで示す上方へ流れ、出側配管28から流出する。つまり、コークス冷却管22により、コークス粉Pを冷却するための流体が流通する流路(コークス冷却管22の内周面22dとコークス排出管21の外周面21cとの間)がコークス排出管21の外面に接して形成される。
【0021】
除塵器8で捕集されたコークス粉Pは、管体としてのコークス排出管21の内部に充填された状態でコークス排出管21の内部をコークス排出管21の延在方向(図2における矢印Aで示す方向、上から下への方向)へ移動し、コークス排出管21の下端21bからコークス排出装置11を経て外部に排出される。この際に、コークス粉Pは、コークス冷却管22の内周面22dとコークス排出管21の外周面21cとの間を流通する冷却用の流体(管体の外部)と熱交換することにより冷却されて、コークス排出管21の下端21bからコークス排出装置11を経て外部に排出される。
【0022】
高温コークス粉冷却装置10は、コークス排出管21と、コークス排出管21の径方向外側に設置されたコークス冷却管22とを備えたコークス粉Pを外側から冷却する2重管構造を有するが、前述したように、このままでは、コークス排出管21の内部までコークス粉Pを十分に冷却するためには時間がかかってしまう等の問題がある。
そこで、高温コークス粉冷却装置10においては、図2及び図3に示すように、コークス排出管21の内周面(内壁面)21dに内面突起23を設けるとともに、コークス排出管21の内部に管内部材24を設けている。
【0023】
内面突起23は、コークス排出管21の内周面(内壁面)21dにコークス排出管21の内部に突出するように設けられており、コークス排出管21の内部の径方向外周側をコークス排出管21の延在方向(矢印Aで示す方向、上から下への方向)に移動するコークス粉Pを径方向中心側に導く機能を有する。内面突起23は、図2及び図3に示すように、コークス粉Pの進行方向である上部から下部に向かってコークス排出管21の内周面21dからの突出量が大きくなるような形状とし、コークス粉Pの流れに対する抵抗を軽減してある。しかし、内面突起23の形状はこれに限定されず、コークス排出管21の内周面21dにコークス排出管21の内部に突出するように設けられていればよく、コークス粉Pがコークス排出管21内で閉塞しない形状であればよい。
【0024】
内面突起23は、図4に示すように、コークス排出管21の延在方向に垂直な断面において、内面突起23が設けられている部分のコークス排出管21の周方向における合計長さl3がコークス排出管21の内周面21dの周長の1/2以上としてあり、コークス排出管21の内周面21dの全長にわたって連続した突起としてもよい。これにより、コークス排出管21の内部の径方向外周側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを効果的に径方向中心側に導くことができる。但し、内面突起23が設けられている部分のコークス排出管21の周方向における合計長さl3がコークス排出管21の内周面21dの周長の1/2以上とする必要は必ずしもない。また、内面突起23は、コークス排出管21の内周面21dに沿って連続して設けられている必要もない。
【0025】
ここで、コークス粉Pがコークス排出管21内で閉塞しないようにするためには、コークス排出管21内を流通するコークス粉Pの最大直径を予め推定しておき、コークス排出管21の内面突起23を設けた部分においてコークス排出管21の径方向で最も狭くなる部分の寸法が、コークス粉Pの推定される最大直径の1.2倍以上、好ましくは2倍以上となるようにすればよい。平均的な操業を行うコークス乾式消火設備1では、除塵器8で回収されるコークス粉Pの粒径は通常0.5~1mm以下であるが、冷却塔4の操業状況によっては粒径が30mm程度のコークスCが吹き上げられて飛来することがあるため、コークス排出管21の径方向で最も狭くなる部分の寸法が36mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上とすることが好ましい。本実施形態の場合、図3に示すように、コークス排出管21の径方向で最も狭くなる内面突起23の底面23aによって形成される隙間の寸法d1が、コークス粉Pの推定される最大直径の1.2倍以上、好ましくは2倍以上、つまり36mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上となるように内面突起23の底面23aの内周面21dからの突出量h1を設定する。
【0026】
コークス排出管21の内径(内周面21dの径)は、大きいほどコークス粉Pが詰まりにくくなるが、熱交換が遅くなるため、平均的な操業を行うコークス乾式消火設備1の高温コークス粉冷却装置10では、コークス排出管21の内径は150~350mm程度、好ましくは250~350mm程度とすることが好ましい。
内面突起23の、コークス排出管21の延在方向(上下方向)の設置位置としては、コークス排出管21の内部の径方向の温度偏差が大きくなる部位に設置することが好ましい。一般に、除塵器8から排出された直後の、高温コークス粉冷却装置10の上部では、管内位置による温度偏差が小さい。このため、高温コークス粉冷却装置10、つまり、図3に示すように、コークス排出管21の下端21bからコークス排出管21の全長Lの3/4の長さに相当する位置よりも下部の位置(コークス排出管21の下端21bから長さl1の位置)に内面突起23の底面23aが位置するように設置することが好ましい。また、コークス排出管21の延在方向の異なる位置で、コークス排出管21内の温度分布を調査し、管中央部と管内周囲部との温度偏差の大きな位置に内面突起23を設置することも有効である。
【0027】
また、管内部材24は、コークス排出管21の内部に、図5に示すように、コークス排出管21の延在方向(上下方向)に垂直な断面の断面積aがコークス粉Pの進行方向(上から下への方向)に向かって拡大する部分を有し、コークス排出管21の内部の径方向中心側をコークス排出管21の延在方向(矢印Aで示す方向、上から下への方向)に移動するコークス粉Pを径方向外周側に導く機能を有する。管内部材24は、具体的には、図2に示すように、コークス排出管21の延在方向(上下方向)に垂直な断面の断面積aがコークス粉Pの進行方向(上から下への方向)に向かって拡大する錐体で形成される。これにより、コークス排出管21の内部の径方向中心側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを効果的に径方向外周側に導くことができる。但し、管内部材24の形状はこれに限定されず、コークス排出管21の延在方向に垂直な断面の断面積aがコークス粉Pの進行方向に向かって拡大する部分を有すればよく、コークス粉Pがコークス排出管21内で閉塞しない形状であればよい。
【0028】
管内部材24は、図2及び図3に示すように、コークス排出管21の内周面21dにコークス排出管21の径方向に横断するように固定された支持部材25の径方向中心に設けられた支持部25aに、その底面24aが支持されるように設置されている。管内部材24を設置する径方向の位置は、このように支持部材25の径方向中心(コークス排出管21の径方向中心)に限定されるものではなく、管内部材24とコークス排出管21の内周面21dとの間の距離の最大値が最小値の2倍以内となる位置に設置されることが好ましい。本実施形態の場合、図3に示すように、管内部材24は、管内部材24の底面24aとコークス排出管21の内周面21dとの隙間の寸法d2の最大値が最小値の2倍以内に設置されている。
【0029】
また、内面突起23のところで説明したのと同様に、コークス粉Pがコークス排出管21内で閉塞しないようにするためには、コークス排出管21内を流通するコークス粉Pの最大直径を予め推定しておき、コークス排出管21の管内部材24を設けた部分においてコークス排出管21の径方向で最も狭くなる部分の寸法が、コークス粉Pの推定される最大直径の1.2倍以上、好ましくは2倍以上となるようにすればよい。そして、前述したように、平均的な操業を行うコークス乾式消火設備1では、除塵器8で回収されるコークス粉Pの粒径は通常0.5~1mm以下であるが、冷却塔4の操業状況によっては粒径が30mm程度のコークスCが吹き上げられて飛来することがあるため、コークス排出管21の径方向で最も狭くなる部分の寸法が36mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上とすることが好ましい。本実施形態の場合、図3に示すように、コークス排出管21の径方向で最も狭くなる管内部材24の底面24aによって形成される隙間の寸法d2が、コークス粉Pの推定される最大直径の1.2倍以上、好ましくは2倍以上、つまり36mm以上、好ましくは50mm以上、より好ましくは60mm以上となるように管内部材24の底面24aの直径d3を設定する。
【0030】
また、管内部材24の、コークス排出管21の延在方向(上下方向)の設置位置としては、内面突起23と同様に、コークス排出管21の内部の径方向の温度偏差が大きくなる部位に設置することが好ましい。一般に、前述したように、除塵器8から排出された直後の、高温コークス粉冷却装置10の上部では、管内位置による温度偏差が小さい。このため、高温コークス粉冷却装置10、つまり、図3に示すように、コークス排出管21の下端21bからコークス排出管21の全長Lの3/4の長さに相当する位置よりも下部の位置(コークス排出管21の下端21bから長さl2の位置)に管内部材24の底面24aが位置するように設置することが好ましい。また、コークス排出管21の延在方向の異なる位置で、コークス排出管21内の温度分布を調査し、管中央部と管内周囲部との温度偏差の大きな位置に管内部材24を設置することも有効である。本実施形態においては、内面突起23の底面23aが位置するコークス排出管21の下端21bから長さl1の位置は、管内部材24の底面24aが位置するコークス排出管21の下端21bから長さl2の位置よりも上方となっている。
【0031】
なお、設備補修や定期修理のためにコークス排出管21を除塵器8から取り外す必要がある場合がある。その際には、コークス排出管21内のコークス粉Pをすべて事前に排出することが好ましい。そのため、内面突起23や管内部材24の上部にコークス粉Pが堆積しないように、内面突起23や管内部材24がコークス粉Pと接触する部分の角度はコークス粉Pの安息角以上とすることが好ましい。図3に示すように、内面突起23の傾斜面(外面)の、水平面に対する角度α、及び管内部材24の傾斜面(外面)の、水平面に対する角度αのそれぞれが、コークス粉Pの安息角以上とすることが好ましい。コークス粉Pの場合、安息角は粒径の増加に伴い上昇するが、概ね45°程度が上限となるため、前述の角度αは45°以上好ましくは60°程度以上とすることが好ましい。
【0032】
このように、本実施形態に係る粉粒体の熱交換装置としての高温コークス粉冷却装置10によれば、管体としてのコークス排出管21の内周面(内壁面)21dに設けられた、コークス排出管21の内部に向かって突出する内面突起23、及びコークス排出管21の内部に設けられた、コークス排出管21の延在方向に垂直な断面の断面積aがコークス粉Pの進行方向に向かって拡大する部分を有する管内部材24の両方を備えている。
【0033】
これにより、コークス粉Pがコークス排出管21の内部に充填された状態でコークス排出管21の内部をコークス排出管21の延在方向へ移動する際に、コークス排出管21の内周面(内壁面)21dに設けられた内面突起23によって、コークス排出管21の内部の径方向外周側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを径方向中心側に導き、また、コークス排出管21の内部に設けられた管内部材24によって、コークス排出管21の内部の径方向中心側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを径方向外周側に導く。このため、コークス排出管21内の径方向での伝熱が促進され、簡単な設備構造で、コークス排出管21の内部を移動するコークス粉Pの量が多い場合でも効果的にコークス粉Pとコークス排出管21の外部との熱交換を行い、効果的にコークス粉Pを冷却することができる。
【0034】
また、内面突起23は、コークス排出管21の延在方向に垂直な断面において、内面突起23が設けられている部分のコークス排出管21の周方向における合計長さl3がコークス排出管21の内周面21dの周長の1/2以上である。これにより、コークス排出管21の内部の径方向外周側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを効果的に径方向中心側に導くことができる。
また、管内部材24は、コークス排出管21体の延在方向に垂直な断面における断面積aがコークス粉Pの進行方向に向かって拡大する錐体である。これにより、コークス排出管21の内部の径方向中心側をコークス排出管21の延在方向に移動するコークス粉Pを効果的に径方向外周側に導くことができる。
【0035】
また、高温コークス粉冷却装置10は、コークス粉Pを冷却するための流体が流通する流路をコークス排出管21の外面に接して有する。これにより、コークス粉Pがコークス排出管21の内部に充填された状態でコークス排出管21の内部をコークス排出管21の延在方向へ移動する際に、コークス排出管21の外面に接する流路を冷却用の流体が流通することで、コークス粉Pの冷却効率を向上させることができる。
また、コークスの製造に際しては、高温コークス粉冷却装置10を有するコークス乾式消火設備1を用いて、コークス炉で製造された赤熱状態のコークスCを冷却する。つまり、コークスの製造方法によれば、高温コークス粉冷却装置10を有するコークス乾式消火設備1を用いて、コークス炉で製造された赤熱状態のコークスCを冷却する赤熱コークス冷却工程を含む。これにより、赤熱状態のコークスCと熱交換して高温となった不活性ガス中に含まれるコークス粉Pを除塵器8で分離除去し、その分離除去したコークス粉Pを効果的に高温コークス粉冷却装置10において外部と熱交換を行って冷却することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、前述した実施形態の説明では、コークス乾式消火設備1の除塵器8から回収される粉粒体としてのコークス粉Pと熱交換し、冷却する高温コークス粉冷却装置10を本発明の一実施形態に係る粉粒体の熱交換装置として説明したが、粉粒体としてはコークス粉P以外の粉粒体、例えば、一般的な集塵機で捕集される粉体であってもよく、コークス粉P以外の粉粒体の熱交換装置としてもよい。
【0037】
また、高温コークス粉冷却装置10は、管体としてのコークス排出管21の形状を円筒状としてあるが、コークス排出管21の形状は管形状であれば円筒状に限定されず、例えば、多角形筒状であってもよい。
また、高温コークス粉冷却装置10は、内面突起23及び管内部材24の両方を備えているが、内面突起23及び管内部材24のいずれか一方を備えていてもよい。
また、高温コークス粉冷却装置10が、内面突起23及び管内部材24のいずれか一方を備えている場合や、本実施形態のように内面突起23及び管内部材24の両方を備えている場合のそれぞれにおいて、内面突起23の数、管内部材24の数は1つに限定されず、複数でもよい。
また、コークス冷却管22は、コークス排出管21の内部のコークス粉Pの冷却が空冷によって十分に行われる場合には必ずしも設置しなくてもよい。
【実施例
【0038】
赤熱状態のコークスの処理量が90t/日の、図1に概略を示すコークス乾式消火設備1を用いて本発明の効果を確認した。
(実施例1)
実施例1では、高温コークス粉冷却装置10の冷却部(コークス排出管21)の全長L(図2参照)は6m、内径250mmのコークス排出管21の径方向外側にコークス冷却管22を設置した2重管構造とし、コークス排出管21とコークス冷却管22との間に冷却水を流通させた。
そして、コークス排出管21の内周面21dには、内面突起23を全周にわたって設置した。内面突起23は、図2及び図3に示すように、コークス粉Pの進行方向である上部から下部に向かってコークス排出管21の内周面21dからの突出量が大きくなるような形状とし、底面23aでの突出量h1を50mmとした。内面突起23の上下方向の設置位置は、内面突起23の底面23aがコークス排出管21の下端21bから長さl1=3mの位置に位置するように設置した。内面突起23の傾斜面(外面)の、水平面(底面23a)に対する角度αは60°とした。
【0039】
また、コークス排出管21の内部には、管内部材24を設置した。管内部材24は、図2及び図3に示すように、底面24aの直径d3が125mmの円錐状とし、管内部材24の傾斜面(外面)の、水平面(底面24a)に対する角度αは60°とした。管内部材24の上下方向の設置位置は、管内部材24の底面24aがコークス排出管21の下端21bから長さl2=1.5mの位置に位置するように設置した。
【0040】
ここで、内面突起23及び管内部材24は鋼製とした。内面突起23及び管内部材24の設置は、設置位置においてフランジ接続可能なコークス排出管21を準備し、内部に予め内面突起23及び管内部材24を溶接により設置した短管をコークス排出管21のフランジ接続位置に挿入してフランジ固定して設置した。
この高温コークス粉冷却装置10を用いて、除塵器8から回収されたコークス粉Pを冷却し、高温コークス粉冷却装置10の下部においてコークス排出管21の内部のコークス粉Pの径方向の温度分布を調査した。
【0041】
(比較例)
比較例では、実施例1の高温コークス粉冷却装置10に対し、内面突起23及び管内部材24を有さない高温コークス粉冷却装置を用いて、除塵器8から回収されたコークス粉Pを冷却し、高温コークス粉冷却装置10の下部においてコークス排出管21の内部のコークス粉Pの径方向の温度分布を調査し、実施例1と調査結果を比較した。
なお、実施例1及び比較例において、コークス炉の操業は一定かつ標準的の条件で行ってコークスCを製造しており、コークス乾式消火設備1に投入されるコークスCの温度及びコークス乾式消火設備1のコークス処理量はほぼ同一であった。また、実施例1及び比較例において、高温コークス粉冷却装置における冷却水の温度及び流量は同じとした。
【0042】
実施例と比較例1の温度分布の調査結果を図6に示す。
実施例及び比較例1の両方において、コークス排出管21の内部のコークス粉Pの径方向の温度分布は、コークス排出管21の径方向中心部が高温の略釣鐘型を示し、当該径方向中心部の温度が下がりにくいことが示された。
そして、コークス排出管21の内部に内面突起23及び管内部材24を有さない比較例1では、コークス排出管21の径方向中心部のコークス粉Pの温度は280℃、コークス排出管21の内周面(内壁面)21d近傍の温度は41℃となり、径方向中心部と周囲部との温度偏差Tσ=239℃となった。
一方、コークス排出管21の内部に内面突起23及び管内部材24を有する実施例1では、コークス排出管21の径方向中心部のコークス粉Pの温度は200℃、コークス排出管21の内周面(内壁面)21d近傍の温度は59℃となり、径方向中心部と周囲部との温度偏差Tσ=141℃となった。
【0043】
この結果より、本発明によりコークス排出管21内の径方向の温度偏差は小さくなり、効果的に熱交換が行われていることが明らかとなった。これは、コークス粉Pの攪拌効果を有する内面突起23や管内部材24があることによって、コークス排出管21の径方向中心部と周囲部のコークス粉Pの攪拌が促進されるため、実施例1では温度偏差Tσが小さくなり、最大コークス温度が低下したと考えられる。また、実施例1では、コークス排出管21の内周面(内壁面)21d近傍の円周部のコークス粉Pと冷却水の温度差ΔTが大きくなるため、コークス粉Pと冷却水の熱交換量が大きくなり、冷却効率が向上するという効果も認められた。
【0044】
(実施例2)
実施例2として、実施例1の内面突起23及び管内部材24の設置をする代わりに、コークス排出管21の下端21bから長さ3m及びコークス排出管21の下端21bから長さ1.5mの位置のそれぞれに、どちらも実施例1と同じ内面突起23を設置した。そして、実施例1の場合と同様に、コークス乾式消火設備1の操業を行い、高温コークス粉冷却装置10の下部においてコークス排出管21の内部のコークス粉Pの径方向の温度分布を調査した。
【0045】
(実施例3)
実施例3として、実施例1の内面突起23及び管内部材24の設置をする代わりに、コークス排出管21の下端21bから長さ3m及びコークス排出管21の下端21bから長さ1.5mの位置のそれぞれに、どちらも実施例1と同じ管内部材24を設置した。そして、実施例1の場合と同様に、コークス乾式消火設備1の操業を行い、高温コークス粉冷却装置10の下部においてコークス排出管21の内部のコークス粉Pの径方向の温度分布を調査した。
【0046】
内面突起23のみをコークス排出管21の内周面(内壁面)21dに設置した実施例2において、コークス排出管21の径方向中心部のコークス粉Pの温度とコークス排出管21の内周面(内壁面)21d近傍の温度との温度偏差Tσ=175℃であった。
また、管内部材24のみをコークス排出管21の内部に設置した実施例3において、コークス排出管21の径方向中心部のコークス粉Pの温度とコークス排出管21の内周面(内壁面)21d近傍の温度との温度偏差Tσ=160℃であった。
【0047】
実施例2及び実施例3とも、比較例よりも前述の温度偏差Tσが小さくなり、本発明の効果を確認することができた。即ち、コークス排出管21の内部に内面突起23及び管内部材24のうちのいずれか一方を設置した場合でも、熱交換を促進する効果があることが確認できた。
なお、実施例1~3の中では、実施例1に示すコークス排出管21の内部に内面突起23及び管内部材24の両方を設置する場合が最も熱交換が良好に進み、前述の温度偏差Tσが小さくなるという結果となった。これは、内面突起23によるコークス粉Pの攪拌と、管内部材24のコークス粉Pの攪拌とでは攪拌の形態が異なるため、両者を併用することで熱交換の効果が大きくなったものと推察される。
【符号の説明】
【0048】
1 コークス乾式消火設備
2 巻上機
3 コークスバケット
4 冷却塔
5 切り出し装置
6 円環煙道
7 水平煙道
8 除塵器
8a ホッパ部
9 ボイラー
9a ボイラーチューブ
10 高温コークス粉冷却装置(粉粒体の熱交換装置)
11 コークス排出装置
21 コークス排出管(管体)
21a 上端
21b 下端
21c 外周面
21d 内周面(内壁面)
22 コークス冷却管
22a 上端
22b 下端
22c 外周面
22d 内周面
23 内面突起
23a 底面
24 管内部材
24a 底面
25 支持部材
25a 支持部
26 入側配管
27 開閉弁
28 出側配管
29 開閉弁
C コークス
P コークス粉(粉粒体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6