(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20241112BHJP
F16B 5/08 20060101ALI20241112BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20241112BHJP
F16B 7/18 20060101ALI20241112BHJP
B62D 31/02 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
F16B5/02 U
F16B5/08 A
F16B11/00 D
F16B7/18 C
B62D31/02 Z
(21)【出願番号】P 2022054934
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】是石 智正
(72)【発明者】
【氏名】竹田 英生
(72)【発明者】
【氏名】竹添 日登志
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-238657(JP,A)
【文献】特開2007-002857(JP,A)
【文献】特開2002-059770(JP,A)
【文献】特開2008-279951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/02
F16B 5/08
F16B 11/00
F16B 7/18
B62D 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトが挿入される筒形状のカラーと、
前記カラーが挿入される挿入開口が穿孔された第一管壁と、前記第一管壁に対向するとともに前記挿入開口と同軸であって開口径が前記カラーの外径未満の対向開口が穿孔された第二管壁と、を備える角管と、
前記第二管壁に当接され前記挿入開口及び前記対向開口と軸合わせされる締結開口が穿孔された平板部を備える被締結部材と、
を備える締結構造であって、
前記挿入開口側の前記カラーの軸方向端面に固定され、前記カラーと同軸の開口が形成され、前記角管の前記挿入開口を覆うパッチ板と、
前記パッチ板と前記角管を接合する溶接部と、
を備える、締結構造。
【請求項2】
請求項1に記載の締結構造であって、
前記パッチ板と前記カラーの外周面とは隅肉溶接され、
前記角管の前記挿入開口の開口径は、前記パッチ板と前記カラーの前記外周面との前記隅肉溶接によるリング状のビードの外径よりも大きく形成される、
締結構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の締結構造であって、
前記パッチ板は、前記角管の前記第一管壁と前記第二管壁とを繋ぐ側壁に沿って延設される側板部を備え、
前記溶接部は、前記パッチ板の前記側板部と前記角管の前記側壁を接合する、
締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、複数部材を締結部材で締結させる締結構造が開示される。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1,2に開示されるように、管材に他材を締結させる場合に、管材内にカラーが挿入される場合がある。例えば管材が角管である場合に、角管の一側面と対向側面とに同軸に締結孔が穿孔される。また他材にも締結孔が穿孔される。これらの締結孔は、角管に他材を締結させる際に軸合わせされる。
【0003】
例えば角管の一方の締結孔の開口径はカラーの外径よりも大きく形成され、この締結孔からカラーが角管内に挿入される。角管の他方の締結孔の開口径はカラーの外径未満に形成される。カラーは溶接等により角管に固定される。
【0004】
さらに角管及び他材の締結孔、ならびにカラーにボルトの軸部が挿入され、ボルト頭部と対向配置されたナットにボルト軸部が螺合される。カラーを設けることで角管において締結時の座面の陥没が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-279951号公報
【文献】特開2002-59770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、管材にカラーを固定させるに当たり、例えば
図8に示されるように、カラー110の先端部112を管材100から突出させ、その先端部112と管材100の側面102とが、溶接部120に例示されるように隅肉溶接される。
【0007】
しかしながらこの場合、カラー110の先端部112が管材100から飛び出す外観が構成されることで、飛び出しの無い場合と比較して当該外観の意匠性(見栄え)が低下するおそれがある。
【0008】
そこで本明細書では、管材からのカラーの飛び出しを抑制して、管材の外観意匠性を向上可能な、締結構造が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、締結構造が開示される。当該締結構造は、カラー、角管、被締結部材、パッチ板、及び溶接部を備える。カラーは筒形状であってボルトが挿入される。角管は第一管壁及び第二管壁を備える。第一管壁にはカラーが挿入される挿入開口が穿孔される。第二管壁は第一管壁に対向するとともに挿入開口と同軸であって開口径がカラーの外径未満の対向開口が穿孔される。被締結部材は平板部を備える。平板部は、第二管壁に当接され挿入開口及び対向開口と軸合わせされる締結開口が穿孔される。パッチ板は、挿入開口側のカラーの軸方向端面に固定され、カラーと同軸の開口が形成され、角管の挿入開口を覆う。溶接部は、パッチ板と角管を接合する。
【0010】
上記構成によれば、パッチ板を介して、カラーが角管に固定される。カラーを角管に固定させるに当たって、カラーを角管から突出させずに済むことから、角管の外観意匠性が向上可能となる。
【0011】
また上記構成において、パッチ板とカラーの外周面とは隅肉溶接されてよい。この場合、角管の挿入開口の開口径は、パッチ板とカラーの外周面との隅肉溶接によるリング状のビードの外径よりも大きく形成される。
【0012】
挿入開口の開口径がビードの外径未満である場合、ビードを挿入開口外に配置させる必要があり、その分パッチ板が角管から突出される。上記構成のように、挿入開口の開口径がビードの外径よりも大きく形成されることで、挿入開口内にビードを収容可能となる。
【0013】
また上記構成において、パッチ板は、角管の第一管壁と第二管壁とを繋ぐ側壁に沿って延設される側板部を備えてよい。この場合、溶接部は、パッチ板の側板部と角管の側壁を接合する。
【0014】
上記構成によれば、カラーの軸方向寸法に対して定められた公差と、角管の第一管壁及び第二管壁間の距離に対して定められた公差に基づく寸法変動が、パッチ板の側板部と角管の側壁との相対移動で吸収可能となり、確実にパッチ板が角管に溶接可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示される締結構造によれば、管材からのカラーの飛び出しが抑制されることで、管材の外観意匠性が向上可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る車室内構造を備える締結構造を含む車室の骨格構造を例示する斜視図である。
【
図4】
図2の骨格構造に
図3の締結補強部材を組付けたときの例を示す斜視図である。
【
図5】
図4の骨格構造ならびに締結補強部材を締結固定したときの例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施形態に係る締結構造が図面を用いて説明される。以下で説明する形状、材料、個数、及び数値は、説明のための例示であって、締結構造の仕様に応じて適宜変更することができる。また以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号が付される。
【0018】
本実施形態に係る締結構造は、例えば車室内に設置される。これを踏まえ、
図1-
図8では、各構成の位置や方向を表すために、FR軸、RW軸、及びUP軸からなる直交座標系が用いられる。FR軸は車両前方を正方向とする車両前後方向軸である。RW軸は車両右側を正方向とする車幅方向軸である。UP軸は上方を正方向とする車両上下方向軸である。
【0019】
<全体構成>
図1を参照して、本実施形態に係る締結構造は、例えば車室の運転席領域と客席領域とを区画する隔壁の骨格構造に設けられる。例えばこのような車室を備える車両は、バス等の乗合車両である。
【0020】
例えば隔壁骨格10には、その前面に運転席60が取り付けられる。また隔壁骨格10の後面には、図示しない客席用の座席が取り付けられる。例えば隔壁骨格10は、トリムとも呼ばれる内装パネル材(図示せず)で覆われ、乗客の目には触れない状態で車室に据え付けられる。
【0021】
後述されるように、本実施形態に係る締結構造70は、角管である支柱20、被締結部材である梁50、締結補強部材85、ボルト71及びナット75(
図6参照)を備える。締結補強部材85は、パッチ板80及びカラー90を備える。
【0022】
<隔壁骨格の構造>
図1を参照して、隔壁骨格10は、上下方向に延設される支柱20,30と車幅方向に延設される梁40,50とが組合わせられた井桁状構造を備える。例えば支柱20はフランジ65を介して車体床下の骨格部材(図示せず)に締結される。また支柱30はハッチング断面に示されるように上方部分の図示が省略されているが、車体天井裏の骨格部材(図示せず)に締結される。
【0023】
支柱20,30はいずれも角管(角パイプ)から構成される。後述されるように車室床に下端が固定される一対の支柱20,20には、本実施形態に係る締結補強部材85を介して梁50が締結される。
図2を参照して、支柱20は、後壁である第一管壁21、前壁である第二管壁22、及び両者の車幅方向端部同士を接続して前後方向に延設される一対の側壁23,23を備える。
【0024】
なお以下では、
図2-
図7を用いて主に車幅方向左側の支柱20周辺の締結構造が例示される。しかしながら、車両の構造対称性に基づき、車幅方向右側の支柱20周辺にも
図2-
図7と同様の構造が設けられる。
【0025】
支柱20の第一管壁21にはその厚さ方向に貫通するように挿入開口25が穿孔される。後述されるように挿入開口25にカラー90(
図6参照)が挿入される。また第一管壁21に対向する第二管壁22には、その厚さ方向に貫通するように対向開口26が穿孔される。対向開口26は挿入開口25と同軸となるように穿孔される。
【0026】
図6を参照して、挿入開口25の開口径D1は、カラー90の外径D3を超過するように定められる。例えば挿入開口25の開口径D1は、カラー90とパッチ板80とを隅肉溶接することで形成されたリング状のビード92の外径D2よりも大きくなるように定められる。このような開口径とすることで、ビード92を挿入開口25内に収容可能となり、ビード92が挿入開口25外に飛び出される場合と比較して、カラー90及びパッチ板80の、第一管壁21からの飛び出しが抑制可能となる。
【0027】
対向開口26の開口径D4は、カラー90の外径D3未満となるように定められる。このような開口径とすることで、カラー90の軸方向端部は第二管壁22に当接される。また対向開口26の開口径D4は、ボルト71の軸部74の軸径D5を超過するように定められる。
【0028】
図2を参照して、例えば支柱20の後面壁である第一管壁21に梁40が取り付けられる。梁40は例えば断面Π字状のチャンネル材であって、その開口が前方に向けられる。梁40は、ともに水平方向に延設される上板部41及び下板部42と、両板の後端同士を繋いで鉛直方向に延設される後板部43を備える。
【0029】
例えば隔壁骨格10の車両前後寸法の低減(薄板化)を図るために、梁40の上板部41及び下板部42には、支柱20に取り付けられる箇所に切欠き44が形成される。この切欠き44に支柱20が嵌め込まれた後に、
図4の溶接部45に例示されるように、梁40の上板部41と、支柱20の側壁23,23及び第一管壁21とが隅肉溶接される。これにより梁40が支柱20に固定される。
【0030】
図1、
図2を参照して、支柱20に対する被締結部材である梁50は、例えば運転席60を隔壁骨格10に支持させるために設けられる。例えば運転席60の下方に設けられるシート支持部材61の後端が梁50に締結される。
【0031】
梁50は梁40と同様に断面Π字状の、3枚の平板部を備えるチャンネル材である。梁50はその開口が下方に向けられる。
図2を参照して、梁50は、鉛直方向に延設される前板部51及び後板部52と、両板の上端同士を繋いて水平方向に延設される上板部53を備える。
【0032】
例えば梁50は支柱20の前面に取り付けられる。つまり組付けに当たり支柱20の第二管壁22に梁50の後板部52が当接される。後板部52にはその厚さ方向に貫通して締結開口54が穿孔される。この締結開口54は支柱20の対向開口26と軸合わせされる。締結開口54の開口径は例えば支柱の対向開口26と同径である。
【0033】
<締結補強部材>
図3には、締結補強部材85が例示される。なおこの図では、例えば
図5の締結補強部材85と比較して、縮尺が2倍となっている。締結補強部材85は、カラー90及びパッチ板80を備える。
【0034】
カラー90はボルト71が挿入される筒形状の部材であって、例えば円筒形状となっている。
図6を参照して、カラー90の軸方向寸法L1は、例えば支柱の前後方向寸法(第一管壁21と第二管壁22との離隔幅)に第一管壁21の板厚を加え、さらに所定のマージン(例えば第一管壁21の板厚の半値)を加えた値が基準値となる。この基準値に対して公差が設定され、最小値及び最大値が定められる。このような軸方向寸法L1とすることで、カラー90の、ナット側軸方向端面90Bが第二管壁22に当接したときに、パッチ板80が第一管壁21に当接可能となる。
【0035】
パッチ板80は、カラー90を支柱20に固定するための介在手段としての機能を備える。パッチ板80は支柱20の第一管壁21と当接し挿入開口25を覆う主板部81を備える。主板部81は、カラー90の、挿入開口25側の軸方向端面90Aに固定される。主板部81の車幅方向寸法は、例えば支柱20の第一管壁21の車幅方向寸法と等しくなるように定められる。
【0036】
またパッチ板80は、主板部81の車幅方向両端から、車両前方に延設される鉛直板である一対の側板部82,82を備える。
図6を参照して、側板部82,82は支柱20の側壁23,23と当接され、当該側壁23,23に沿って延設される。さらに側板部82,82の前端と側壁23,23には、隅肉溶接による溶接部84が形成される。
【0037】
このように、支柱20とパッチ板80が溶接部84により接合される。さらにパッチ板80とカラー90がビード92により接合される。つまりパッチ板80を介してカラー90が支柱20に固定される。
【0038】
側板部82,82の延設寸法(車両前後方向寸法)は、カラー90の軸方向寸法L1に対して定められた公差と、支柱20の第一管壁21及び第二管壁22間の距離に対して定められた公差の和以上となるように定められる。
【0039】
例えば
図6を参照して、カラー90の軸方向寸法L1が公差の最大値を取り、支柱20の第一管壁21及び第二管壁22間の距離が公差の最小値を取る場合、カラー90の支柱20からの飛び出し量が最大となり、パッチ板80の主板部81は支柱20の第一管壁21から離隔される。
【0040】
このような場合であっても、上記のような寸法設定に基づき、側板部82は支柱20の側壁23と当接しているため、側板部82と側壁23との接合(溶接)が可能となる。つまり支柱20及びカラー90の、公差内の寸法変動は、側板部82と側壁23との、当接状態を維持した相対移動により吸収される。
【0041】
なお溶接部84を確保するために、側板部82,82の延設寸法は、支柱20の側壁23,23の車両前後方向寸法未満となるように定められる。
【0042】
図6を参照して、パッチ板80の主板部81には、カラー90の内腔91と同軸の開口83がその厚さ方向に貫通するように穿孔される。開口83の開口径は、カラー90の内腔径未満かつボルト71の軸部74の軸径以上となるように定められる。なおボルト71は例えば頭部72と軸部74との間にフランジ73が設けられたフランジボルトであってよい。
【0043】
カラー90の内腔91とパッチ板80の開口83は軸合わせされ、カラー90の、挿入開口25側の軸方向端面90Aとパッチ板80の主板部81が突き合わせられる。その後、カラー90の外周面とパッチ板80の主板部81とが隅肉溶接され、これによりリング状のビード92が形成される。このビード92により、カラー90とパッチ板80とが接合される。
【0044】
<締結プロセス>
以下に、ボルト71、ナット75、及び締結補強部材85を用いて梁50を支柱20に締結させるプロセスが例示される。まず
図2を参照して、梁50の後板部52が支柱20の第二管壁22に当接される。この当接にあたり、後板部52の締結開口54が第二管壁22の対向開口26に軸合わせされる。
【0045】
次に
図5-
図7に例示されるように、締結補強部材85のカラー90が支柱20の挿入開口25から支柱20内に挿入される。カラー90の軸方向端面90Bが支柱20の第二管壁22に当接する、または支柱20の第一管壁21にパッチ板80の主板部81が当接すると、パッチ板80の一対の側板部82,82と支柱20の一対の側壁23,23とが隅肉溶接され、それにより溶接部84が形成される。
【0046】
次にパッチ板80の開口83からボルト71の軸部74が挿入される。軸部74は支柱20の挿入開口25,カラー90の内腔91、支柱20の対向開口26及び梁50の締結開口54を通り梁50の後板部52の内面(前板部51との対向面)に設けられたナット75に螺入される。ナット75は例えば後板部52に接合されたウェルドナットである。
【0047】
ボルト71がナット75に螺入されることで、梁50が支柱20に締結される。この締結に当たり、支柱20内にカラー90が挿入されることで、座面を構成する支柱20の第一管壁21及び第二管壁22の陥没が抑制される。
【0048】
また、支柱20からのカラー90の突出がパッチ板80により抑制されるため、そのような突出に伴う支柱20の外観意匠性の低下が抑制される。なお、支柱20を含む隔壁骨格10全体が内装パネルによって被覆される場合であっても、支柱20からのカラー90の突出量が抑制されることで、カラー90が支柱20から突出する場合と比較して、内装パネルの車両前後寸法を低減可能となる。
【符号の説明】
【0049】
10 隔壁骨格、20 支柱(角管)、21 第一管壁、22 第二管壁、23 側壁、25 挿入開口、26 対向開口、50 梁(被締結部材)、51 前板部、52 後板部(平板部)、53 上板部、54 締結開口、70 締結構造、71 ボルト、75 ナット、80 パッチ板、81 主板部、82 側板部、83 開口、84 溶接部、85 締結補強部材、90 カラー、91 内腔、92 ビード。