(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】導電材および電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241112BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241112BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241112BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241112BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0566
H01B1/04
(21)【出願番号】P 2022063967
(22)【出願日】2022-04-07
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル メンドザ ヘイディ ホデス
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084909(WO,A1)
【文献】特開2014-067629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の正極に使用される導電材であって、
基材と、
被膜と、
を含み、
前記被膜は、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆しており、
前記基材は、導電性炭素材料を含み、
前記被膜は、
酸化物ガラスを含み、
前記酸化物ガラスは、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含
み、
前記酸化物ガラスは、リン酸骨格およびホウ酸骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
導電材。
【請求項2】
前記ガラスネットワーク形成元素は、リン、ホウ素、ゲルマニウム、珪素およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の導電材。
【請求項3】
前記導電性炭素材料は、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェンフレーク、ハードカーボン、ソフトカーボン、および黒鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載の導電材。
【請求項4】
前記被膜は、1~20nmの厚さを有する、
請求項1に記載の導電材。
【請求項5】
20%以上の被覆率を有し、
前記被覆率は、X線光電子分光法により測定される、
請求項1に記載の導電材。
【請求項6】
前記導電性炭素材料は、0.1~1.8のR値を有し、
前記R値は、前記導電性炭素材料のラマンスペクトルにおける、Gバンドに対するDバンドの比を示す、
請求項1に記載の導電材。
【請求項7】
正極を含み、
前記正極は、正極活物質と、請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の導電材とを含む、
電池。
【請求項8】
満充電時の正極電位が、4.2~5.0V vs.Li/Li
+である、
請求項
7に記載の電池。
【請求項9】
前記正極は、硫化物固体電解質をさらに含む、
請求項
7に記載の電池。
【請求項10】
電解液をさらに含む、
請求項
7に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電材および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-172544号公報(特許文献1)は、気相法炭素繊維と金属酸化物層とを含む複合材料を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池の正極は、正極活物質を含む。正極活物質は、電子伝導性に乏しい傾向がある。正極活物質の電子伝導性を補うため、導電材が使用されている。一般に、導電材は導電性炭素材料を含む。
【0005】
電池の高容量化および高出力化を目的として、電池の高電圧化が進められている。高電圧仕様の電池においては、正極が高電位を有する。正極中の導電材が高電位にさらされることにより、導電材が劣化し得る。すなわち、導電材の電子伝導性が低下し得る。導電材の電子伝導性が低下することにより、長期使用に伴う抵抗増加率が高くなる可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、抵抗増加率の低減にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
1.導電材は、電池の正極に使用される。導電材は、基材と被膜とを含む。被膜は、基材の表面の少なくとも一部を被覆している。基材は、導電性炭素材料を含む。被膜は、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含む。
【0009】
本開示の新知見によると、特定組成を有する被膜が導電性炭素材料を被覆していることにより、高電位環境において、導電性炭素材料の劣化が軽減され得る。すなわち、長期使用に伴う抵抗増加率が低減され得る。
【0010】
本開示の被膜は、ガラスネットワーク形成元素(Z)と、酸素(O)とを含む。被膜中において、ZおよびOは、ネットワーク構造を有する酸化物ガラス(ZOx)を形成し得る。酸化物ガラスは適度な硬さを有し得る。そのため酸化物ガラス(被膜)と、導電性炭素材料(基材)との間の密着性が向上することが期待される。
【0011】
従来、例えば、ニオブ酸リチウム等の硬い金属酸化物により、導電性炭素材料を被覆することも提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし金属酸化物と、導電性炭素材料との間で硬さのギャップが大きいため、金属酸化物と導電性炭素材料との間の密着性が低下する可能性がある。高電位環境においては、密着性の低い部分で、導電性炭素材料の劣化が進行しやすいと考えられる。すなわち、硬い金属酸化物は、高電位環境において、抵抗増加率を低減できない可能性がある。
【0012】
2.上記「1.」に記載の導電材において、ガラスネットワーク形成元素(Z)は、例えば、リン(P)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)、珪素(Si)およびアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0013】
これらの元素は、ネットワーク構造を有する酸化物ガラスを形成し得る。
【0014】
3.上記「1.」または「2.」に記載の導電材において、被膜は、例えば、リン酸骨格およびホウ酸骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0015】
リン酸骨格、ホウ酸骨格を含む被膜は適度な硬さを有し得る。
【0016】
4.上記「1.」~「3.」のいずれか1項に記載の導電材において、導電性炭素材料は、例えば、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(CB)、グラフェンフレーク(GF)、ハードカーボン、ソフトカーボン、および黒鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0017】
導電性炭素材料は、繊維状であってもよいし、粒子状であってもよい。
【0018】
5.上記「1.」~「4.」のいずれか1項に記載の導電材において、被膜は、例えば、1~20nmの厚さを有していてもよい。
【0019】
被膜の厚さが1nm以上であることにより、抵抗増加率の低減が期待される。被膜の厚さが20nm以下であることにより、電子伝導性の向上が期待される。
【0020】
6.上記「1.」~「5.」のいずれか1項に記載の導電材において、導電材は、20%以上の被覆率を有していてもよい。被覆率は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)により測定される。
【0021】
被覆率が20%以上であることにより、抵抗増加率の低減が期待される。
【0022】
7.上記「1.」~「6.」のいずれか1項に記載の導電材において、導電性炭素材料は、例えば、0.1~1.8のR値を有していてもよい。R値は、導電性炭素材料のラマンスペクトルにおける、Gバンドに対するDバンドの比を示す。
【0023】
R値は、結晶性の指標である。導電性炭素材料が0.1~1.8のR値を有する時、酸化物ガラス(被膜)との密着性が向上することが期待される。
【0024】
8.電池は正極を含む。正極は、正極活物質と、上記「1.」~「7.」のいずれか1項に記載の導電材とを含む。
【0025】
電池は、長期使用に伴う抵抗増加率が低いことが期待される。
【0026】
9.上記「8.」に記載の電池は、例えば、満充電時の正極電位が4.2~5.0V vs.Li/Li+であってもよい。
【0027】
電池は、例えば、高電圧仕様であってもよい。上記「1.」の導電材は、高電位に対する耐性に優れることが期待される。
【0028】
10.上記「8.」または「9.」に記載の電池において、正極は、硫化物固体電解質をさらに含んでいてもよい。
【0029】
電池は、硫化物系全固体電池であってもよい。メカニズムの詳細は不明ながら、硫化物固体電解質が共存することにより、高電位環境において、導電性炭素材料の劣化が促進される傾向がある。上記「1.」に記載の導電材は、硫化物固体電解質の共存下においても、劣化し難いことが期待される。
【0030】
11.上記「8.」または「9.」に記載の電池は、電解液をさらに含んでいてもよい。
【0031】
電池は、液系電池であってもよい。上記「1.」に記載の導電材は、電解液の共存下においても、劣化し難いことが期待される。
【0032】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本実施形態における導電材を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における電池を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<用語およびその定義等>
「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0035】
「AおよびBの少なくとも一方」は、「AまたはB」ならびに「AおよびB」を含む。「AおよびBの少なくとも一方」は、「Aおよび/またはB」とも記され得る。
【0036】
「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0037】
単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0038】
例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0039】
全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0040】
幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0041】
化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0042】
「D50」は、体積基準の粒子径分布において、粒子径が小さい側からの頻度の累積が50%に到達する粒子径を示す。D50は、レーザ回折法により測定され得る。
【0043】
「ガラスネットワーク形成元素」は、ガラス形成能を有する元素を示す。「ガラス形成能」は、対象元素が酸素と結合することにより、ネットワーク構造を有する酸化物ガラスを形成し得ることを示す。
【0044】
「V vs.Li/Li+」は、リチウム(Li)が酸化還元反応を起こす電位を基準(ゼロ)とする電位を示す。
【0045】
「満充電」は、SOC(state of charge)が100%の状態を示す。SOCは、電池の満充電容量に対する、その時点の充電容量の百分率を示す。
【0046】
電流のレート(時間率)が記号「C」で表される場合がある。1Cのレートは、電池の定格容量を1時間で放電しきる。
【0047】
《被覆率/XPS測定》
被覆率は、次の手順で測定され得る。XPS装置が準備される。試料(導電材)がXPS装置にセットされる。120eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施される。測定データが解析ソフトフェアにより処理される。測定データが解析されることにより、C1s、O1sの各ピーク面積から、各元素の元素比率が求まる。ガラスネットワーク形成元素(Z)に由来するピーク面積から、Zの元素比率が求まる。例えば、P2p、B1s、Al2p等のピーク面積が測定され得る。
下記式(1)により被覆率が求まる。
θ=(Z+O)/(Z+O+C)×100…(1)
θは被覆率(%)を示す。Z、O、Cは各元素の元素比率を示す。被膜が複数種のZを含む場合、各元素比率の合計が、Zの元素比率とみなされる。例えば、被膜が、P、B、およびAlの3種を含む場合、式「Z=P+B+Al」によりZの元素比率が求まる。
【0048】
以下にXPS装置等が示される。ただし、これらは一例に過ぎず、同等品により代用されてもよい。
XPS装置:製品名「PHI X-tool」、アルバック・ファイ社製
解析ソフトウエア:製品名「MulTiPak」、アルバック・ファイ社製
【0049】
《R値/ラマン測定》
R値は次の手順で測定され得る。顕微ラマン分光装置が準備される。試料(導電性炭素材料)が顕微ラマン分光装置にセットされる。導電性炭素材料のラマンスペクトルが測定される。Dバンドは、1350±20cm-1のラマンシフトに現れるピークである。Dバンドは、構造の乱れに由来する。Gバンドは、1590±20cm-1のラマンシフトに現れるピークである。Gバンドは、黒鉛構造(六員環)に由来する。
下記式(2)によりR値が求まる。
R=ID/IG…(2)
Rは、R値を示す。IDは、Dバンドの強度(ピーク面積)を示す。IGは、Gバンドの強度を示す。
【0050】
以下にラマン測定の条件が示される。ただし装置は一例に過ぎず、同等品により代用されてもよい。また装置によって適正条件が異なる可能性もある。
顕微ラマン分光装置:製品名「DXR3xi イメージング顕微ラマン」、Thermo Fisher Scientific社製
レーザエネルギー:1.5mW
露光時間:50Hz
スキャン回数:50
【0051】
《膜厚測定》
被膜の厚さは、次の手順で測定され得る。導電材が樹脂材料に包埋されることにより、試料が準備される。イオンミリング装置により、試料に断面出し加工が施される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「Arblade(登録商標)5000」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。試料の断面がSEM(Scanning Electron Microscope)により観察される。例えば、日立ハイテクノロジーズ社製の製品名「SU8030」(またはこれと同等品)が使用されてもよい。10個の導電材について、それぞれ、20個の視野で被膜の厚さが測定される。合計で200箇所の厚さの算術平均が、被膜の厚さとみなされる。
【0052】
<導電材>
図1は、本実施形態における導電材を示す概念図である。導電材5は、電池の正極に使用される。導電材5は、電池の負極に使用されてもよい。電池および電極は後述される。導電材5は、基材1と被膜2とを含む。
【0053】
《基材》
基材1は、任意の形状を有し得る。基材1は、例えば、繊維状であってもよいし、粒子状であってもよい。基材1は、任意のサイズを有し得る。基材1が繊維状である時、繊維径は、例えば5~500nmであってもよい。繊維長は、例えば、直径の100倍以上であってもよい。基材1が粒子状である時、最大フェレ径は、例えば、1~1000nmであってもよい。
【0054】
基材1は、電子伝導性を有する。基材1は導電性炭素材料を含む。導電性炭素材料は、例えば、VGCF、CNT、CB、GF、ハードカーボン、ソフトカーボンおよび黒鉛からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。CBは、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびサーマルブラックからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0055】
導電性炭素材料は、例えば、0.1~1.8のR値を有していてもよい。導電性炭素材料が0.1~1.8のR値を有する時、酸化物ガラスとの密着性が向上することが期待される。導電性炭素材料は、例えば、0.1~1のR値を有していてもよいし、0.1~0.5のR値を有していてもよい。
【0056】
《被膜》
被膜2は、基材1の表面の少なくとも一部を被覆している。被膜2は、導電性炭素材料を保護し得る。被覆率は、例えば、20%以上であってもよい。被覆率が高い程、抵抗増加率の低減が期待される。被覆率は、例えば、40%以上であってもよいし、60%以上であってもよいし、80%以上であってもよいし、100%であってもよい。
【0057】
被膜2は、例えば、1~20nmの厚さを有していてもよい。被膜の厚さが1nm以上であることにより、抵抗増加率の低減が期待される。被膜の厚さが20nm以下であることにより、電子伝導性の向上が期待される。被膜の厚さは、例えば、5nm以上であってもよいし、10nm以上であってもよいし、15nm以上であってもよい。被膜の厚さは、例えば、15nm以下であってもよいし、10nm以下であってもよいし、5nm以下であってもよい。
【0058】
被膜2は、ガラスネットワーク形成元素と、酸素とを含む。ガラスネットワーク形成元素および酸素は、酸化物ガラスを形成していてもよい。ガラスネットワーク形成元素は、例えば、P、B、Ge、SiおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0059】
被膜2は、例えば、Liをさらに含んでいてもよい。被膜2は、例えば、下記式(3)により表される組成を有していてもよい。
LiyZOx…(3)
Zは、ガラスネットワーク形成元素を示す。Zは、例えば、P、B、およびAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。x、yは任意の数である。x、yは、例えば、XPSの元素比率から特定され得る。yは、例えば、3以下であってもよいし、2.5以下であってもよいし、1以下であってもよいし、0.5以下であってもよいし、0であってもよい。yが小さい程、被膜2が軟らかくなる傾向がある。
【0060】
被膜2は、例えば、リン酸骨格およびホウ酸骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。リン酸骨格、ホウ酸骨格を含む被膜2は、適度な硬さを有し得る。例えば、導電材5のTOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)において、PO2
-、PO3
-等のフラグメントが検出される時、被膜2がリン酸骨格を含むとみなされる。例えば、導電材5のTOF-SIMSにおいて、BO2
-、BO3
-等のフラグメントが検出される時、被膜2がホウ酸骨格を含むとみなされる。
【0061】
被膜は任意の方法で形成され得る。例えば、バレルスパッタリング法により被膜2が形成されてもよい。被膜2の組成は、例えば、スパッタリングターゲットの組成により調整され得る。スパッタリングターゲットは、例えば、Li3PO4、Al2O3、およびBPO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。被膜2の厚さは、例えば、スパッタ処理時間により調整され得る。
【0062】
<電池>
図2は、本実施形態における電池を示す概念図である。電池100は、発電要素50を含む。電池100は、外装体(不図示)を含んでいてもよい。外装体が発電要素50を収納していてもよい。外装体は、任意の形態を有し得る。外装体は、例えば、金属箔ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよいし、金属製のケース等であってもよい。発電要素50は、正極10、セパレータ30および負極20を含む。すなわち電池100は正極10を含む。
【0063】
《正極電位》
電池100は、例えば、高電圧仕様であってもよい。例えば、満充電時の正極電位が4.2~5.0V vs.Li/Li+であってもよい。正極電位が4.2V vs.Li/Li+以上である時、導電性炭素材料の劣化が進行しやすい傾向がある。本実施形態における導電材は、4.2V vs.Li/Li+以上の高電位環境においても、劣化し難いことが期待される。満充電時の正極電位は、例えば、4.3V vs.Li/Li+以上であってもよいし、4.4V vs.Li/Li+以上であってもよいし、4.5V vs.Li/Li+以上であってもよい。満充電時の正極電位は、例えば、4.9V vs.Li/Li+以下であってもよいし、4.8V vs.Li/Li+以下であってもよいし、4.7V vs.Li/Li+以下であってもよい。
【0064】
《電解液》
電池100は、例えば液系電池であってもよい。「液系電池」は、電解液を含む電池を示す。すなわち電池100は、電解液(液体電解質)を含んでいてもよい。本実施形態における導電材は、電解液の共存下においても、劣化し難いことが期待される。電解液は、任意の組成を有し得る。電解液は、例えば、カーボネート系溶媒と、Li塩とを含んでいてもよい。カーボネート系溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を含んでいてもよい。Li塩は、例えば、LiPF6等を含んでいてもよい。電解液は、任意の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0065】
《全固体電池》
電池100は、例えば全固体電池であってもよい。全固体電池は、固体電解質を含む。全固体電池は、例えば硫化物固体電解質を含んでいてもよい。メカニズムの詳細は不明ながら、硫化物固体電解質が共存することにより、高電位環境において、導電性炭素材料の劣化が促進される傾向がある。本実施形態の導電材は、硫化物固体電解質の共存下においても、劣化し難いことが期待される。以下、主に全固体電池の構成が記される。適宜、液系電池の構成も記される。
【0066】
〈正極〉
正極10は層状である。正極10は、例えば、正極活物質層と、正極集電体とを含んでいてもよい。例えば、正極集電体の表面に正極合材が塗着されることにより、正極活物質層が形成されていてもよい。正極集電体は、例えば、Al箔等を含んでいてもよい。正極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0067】
正極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層は、正極活物質と、導電材とを含む。正極活物質層は、硫化物固体電解質およびバインダをさらに含んでいてもよい。例えば、液系電池における正極活物質層は、硫化物固体電解質を含んでいなくてもよい。
【0068】
正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。正極活物質は、例えば、1~30μmのD50を有していてもよい。正極活物質は、任意の組成を有し得る。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。合計が1である限り、個々の成分量は任意である。Li(NiCoMn)O2は、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)O2は、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2等を含んでいてもよい。
【0069】
正極活物質は、例えば、バッファ層により被覆されていてもよい。バッファ層は、例えば、5~50nmの厚さを有していてもよい。バッファ層は、例えば、LiNbO3、Li3PO4等を含んでいてもよい。
【0070】
導電材の詳細は、前述のとおりである。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。
【0071】
硫化物固体電解質は、正極活物質層内にイオン伝導パスを形成し得る。硫化物固体電解質の配合量は、100体積部の正極活物質に対して、例えば、1~200体積部であってもよいし、50~150体積部であってもよいし、50~100体積部であってもよい。硫化物固体電解質は、硫黄(S)を含む。硫化物固体電解質は、例えば、Li、P、およびSを含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えば、O、Si等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばハロゲン等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばヨウ素(I)、臭素(Br)等をさらに含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、例えばガラスセラミックス型であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物固体電解質は、例えば、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、およびLi3PS4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0072】
例えば、「LiI-LiBr-Li3PS4」は、LiIとLiBrとLi3PS4とが任意のモル比で混合されることにより生成された硫化物固体電解質を示す。例えば、メカノケミカル法により硫化物固体電解質が生成されてもよい。「Li2S-P2S5」はLi3PS4を含む。Li3PS4は、例えばLi2SとP2S5とが「Li2S/P2S5=75/25(モル比)」で混合されることにより生成され得る。
【0073】
バインダは固体材料同士を結合し得る。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0074】
〈負極〉
負極20は層状である。負極20は、例えば、負極活物質層と、負極集電体とを含んでいてもよい。例えば、負極集電体の表面に負極合材が塗着されることにより、負極活物質層が形成されていてもよい。負極集電体は、例えば、銅(Cu)箔、ニッケル(Ni)箔等を含んでいてもよい。負極集電体は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0075】
負極活物質層は、例えば、10~200μmの厚さを有していてもよい。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、導電材、バインダ、硫化物固体電解質をさらに含んでいてもよい。負極活物質は、任意の成分を含み得る。負極活物質は、例えば、黒鉛、Si、SiOx(0<x<2)、およびLi4Ti5O12からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0076】
例えば、液系電池における負極活物質層は、硫化物固体電解質を含んでいなくてもよい。負極20と正極10との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。負極20と正極10との間で、導電材は同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0077】
〈セパレータ〉
セパレータ30は、正極10と負極20との間に介在している。セパレータ30は、正極10を負極20から分離している。セパレータ30は、硫化物固体電解質を含む。セパレータ30はバインダをさらに含んでいてもよい。全固体電池におけるセパレータ30は、例えば「固体電解質層」とも記され得る。セパレータ30と正極10との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。セパレータ30と負極20との間で、硫化物固体電解質は同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0078】
液系電池におけるセパレータ30は、例えば、ポリオレフィン製の多孔質フィルム等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0079】
<導電材の準備>
以下のように、No.1~3に係る導電材が準備された。以下「No.1」に係る導電材等が「No.1」と略記され得る。
【0080】
《No.1》
導電性炭素材料として、昭和電工社製の製品名「VGCF-H」が準備された。該導電性炭素材料は、繊維状である。該導電性炭素材料はVGCFを含む。No.1においては、該導電性炭素材料が導電材とされた。
【0081】
《No.2》
粉末バレルスパッタリング装置が準備された。10gの導電性炭素材料(上記「VGCF-H」)が反応容器内に配置された。反応容器内でワークが攪拌されながら、スパッタ処理が実施されることにより、導電材が製造された。スパッタ処理の条件は下記のとおりであった。
【0082】
スパッタリングターゲット:Li3PO4(豊島製作所社製)
スパッタ用電源:RF電源、出力 100W
スパッタ処理時間:90h
【0083】
No.2の導電材は、基材と被膜とを含むと考えられる。基材はVGCFを含むと考えられる。被膜は、LiyPOx(x、yは任意の数である)を含むと考えられる。
【0084】
《No.3》
スパッタ処理時間が180hに変更されることを除いては、No.2と同様に、導電材が製造された。
【0085】
<評価>
以下の手順で、評価セル(全固体電池)が製造された。
【0086】
《正極の作製》
下記材料が準備された。
正極活物質/バッファ層:LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2/リン酸化合物
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=0.8μm)
導電材:上記No.1~3の導電材のいずれか1つ。
バインダ:BR
分散媒:ヘプタン
正極集電体:Al箔
【0087】
正極活物質と、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、スラリーが準備された。正極活物質と硫化物固体電解質との混合比は「正極活物質/硫化物固体電解質=7/3(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して3質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して0.7質量部であった。超音波ホモジナイザー(製品名「UH-50」、SMT社製)により、スラリーが十分攪拌された。スラリーが正極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより正極原反が製造された。正極原反から、円盤状の正極が切り出された。正極の面積は1cm2であった。
【0088】
《負極の作製》
下記材料が準備された。
負極活物質:Li4Ti5O12(D50=1μm)
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=0.8μm)
導電材:VGCF
バインダ:BR
分散媒:ヘプタン
負極集電体:Cu箔
【0089】
攪拌装置〔フィルミックス(登録商標)、形式「30-L型」、プライミクス社製〕により、硫化物固体電解質と、導電材と、バインダと、分散媒とが混合されることにより、スラリーが準備された。攪拌速度(回転数)は2000rpmであり、攪拌時間は30分であった。30分攪拌後、負極活物質がスラリーに追加され、スラリーがさらに攪拌された。攪拌速度は15000rpmであり、攪拌時間は60分であった。
【0090】
負極活物質と硫化物固体電解質との混合比は「負極活物質/硫化物固体電解質=6/4(体積比)」であった。導電材の配合量は、100質量部の負極活物質に対して1質量部であった。バインダの配合量は、100質量部の負極活物質に対して2質量部であった。
【0091】
スラリーが負極集電体の表面に塗工されることにより、塗膜が形成された。ホットプレートにより、塗膜が100℃で30分間乾燥された。これにより負極原反が製造された。負極原反から、円盤状の負極が切り出された。負極の面積は1cm2であった。
【0092】
《セパレータの作製》
下記材料が準備された。
硫化物固体電解質:LiI-Li2S-P2S5(ガラスセラミックス型、D50=2.5μm)
【0093】
セラミックス製の筒状治具が準備された。中空断面(軸方向と垂直な断面)の面積は、1cm2であった。筒状治具内に硫化物固体電解質の粉末が充填された。粉末が平滑に均された。筒状治具内で硫化物固体電解質にプレス加工が施されることにより、セパレータ(固体電解質層)が形成された。プレス加工の圧力は、1tоn/cm2であった。
【0094】
《組立》
筒状治具内において、正極とセパレータと負極とが積層されることにより、積層体が形成された。セパレータは正極と負極との間に配置された。積層体にプレス加工が施されることにより、発電要素が形成された。プレス加工の圧力は、6tоn/cm2であった。発電要素を挟むように、2本のステンレス棒が筒状治具内に挿入された。発電要素に1tоnの荷重が加わるように、ステンレス棒が拘束された。ステンレス棒は端子機能を有し得る。以上より評価セルが製造された。
【0095】
《抵抗増加率の測定》
評価セルの初期容量が確認された。充放電条件は下記のとおりである。
充電:定電流-定電圧方式、レート=1/3C
放電:定電流方式、レート=1/3C
【0096】
初期容量の確認後、評価セルのSOCが40%に調整された。2Cのレートにより、評価セルが5秒間放電された。5秒経過時の電圧降下量から初期抵抗が求められた。
【0097】
初期抵抗の測定後、評価セルが60℃の恒温槽内で14日間保存された。保存中、正極電位が4.5V vs.Li/Li+を維持するように、評価セルにトリクル充電が施された。14日経過後、初期抵抗と同じ条件により耐久後抵抗が測定された。耐久後抵抗が初期抵抗で除されることにより抵抗増加率が求められた。抵抗増加率は百分率で表される。抵抗増加率は下記表1に示される。
【0098】
【0099】
<結果>
No.2、3は、No.1に比して、抵抗増加率が低減していた。No.1の導電材は被膜を含まない。No.2、3の導電材は被膜を含む。被膜は、ガラスネットワーク形成元素(P)と酸素とを含む。
【0100】
No.3は、No.2に比して、抵抗増加率が低減していた。No.3は、No.2に比して、高い被覆率を有すると考えられる。
【0101】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0102】
1 基材、2 被膜、5 導電材、10 正極、20 負極、30 セパレータ、50 発電要素、100 電池。