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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20241112BHJP
   G10L 25/51 20130101ALI20241112BHJP
   G10L 25/30 20130101ALI20241112BHJP
【FI】
G01M17/007 H
G10L25/51
G10L25/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022080738
(22)【出願日】2022-05-17
(65)【公開番号】P2023169558
(43)【公開日】2023-11-30
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】樗澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】向川 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】銭花 理香子
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-061072(JP,A)
【文献】特開2019-085059(JP,A)
【文献】特開2009-294147(JP,A)
【文献】特開2021-152500(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0335064(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102019219371(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00-17/10
G01H 1/00-17/00
G06N 3/084
G10L 25/30
G10L 25/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の車両である対象車両から発せられる音を収録した音データを用いて前記対象車両を評価する車両評価システムであり、処理回路と、記憶装置と、備え、
前記記憶装置に、評価の基準になる状態の基準車両を既定時間に亘る測定用操作パターンで操作しながら収録した訓練用音データと、前記測定用操作パターンにおける操作情報の推移を示す操作データと、を含む訓練用データを用いて前記訓練用音データから前記操作データを生成するように教師有り学習によって訓練した学習済みモデルのデータが記憶されており、
前記処理回路は、前記対象車両を前記測定用操作パターンで操作しながら収録した評価用音データを含む評価用データを前記学習済みモデルに入力して生成した前記操作情報のデータである生成データを出力する生成処理と、前記教師有り学習の際に前記訓練用データに含まれていた前記操作データと前記生成データとを比較して前記操作データと前記生成データとのずれの大きさに応じて前記対象車両を評価する評価処理と、を実行する
車両評価システム。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、前記音データを周波数解析したスペクトログラムの画像データを含む評価用データから前記操作データを生成する
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、前記既定時間分のデータから切り出したデータの特徴量を説明変数とし、切り出したデータに対応する時点の前記操作情報を目的変数とするニューラルネットワークである
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項4】
前記評価処理は、切り出し開始時刻を変更しながら繰り返し切り出したデータのそれぞれについて出力した前記ずれの前記既定時間分の総和を評価指標値として算出する
請求項3に記載の車両評価システム。
【請求項5】
前記評価処理は、前記評価指標値の大きさに応じて区分された複数の評価ランクの中から、前記評価指標値の大きさに応じた評価ランクを選択して出力する
請求項4に記載の車両評価システム。
【請求項6】
前記操作データに、アクセル開度のデータ及びブレーキ油圧のデータが含まれている
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項7】
前記訓練用データ及び前記評価用データに、前記音データに加えて、外気温のデータが含まれている
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項8】
前記訓練用データ及び前記評価用データに、前記音データに加えて、変速比のデータが含まれている
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項9】
前記対象車両を前記測定用操作パターンで操作する車両コントローラを備えている
請求項1に記載の車両評価システム。
【請求項10】
前記車両コントローラが前記車両の運転操作を実現するアクチュエータを備えている
請求項9に記載の車両評価システム。
【請求項11】
前記車両コントローラが前記音データを収録するマイクを備えている
請求項9に記載の車両評価システム。
【請求項12】
前記処理回路及び前記記憶装置を備えたデータセンタと、
通信ネットワークを通じて前記データセンタに接続された前記車両コントローラと、を含む
請求項9に記載の車両評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両を評価する車両評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
検査対象が発する音を録音した音データを解析して異常の検知を行う検査装置が知られている。機械学習によって訓練した学習済みモデルを用いて、こうした音データを用いた異常検知を行うことも検討されている。しかし、異常が発生することは稀である。そのため、機械学習に用いる異常音の音データを取得することが困難である。
【0003】
特許文献1には、正常音の音データである正常音データを用いて擬似的な異常音の音データである疑似異常音データを生成することが開示されている。そして、特許文献1には、正常音データと、疑似異常音データとを用いて機械学習を行うことが開示されている。特許文献1に開示されている方法によれば、異常音の取得が困難な状況であっても擬似異常音データを用いて機械学習を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/026829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の状態を評価する車両評価システムとして、車両から発せられている音を録音した音データを解析して車両を評価する評価システムが考えられる。しかし、車両の発する音は、車両の運転状態に応じて変化する。また、車両の状態を評価するためには、明らかに故障していて異音が発生している状態を音データから判別するだけではなく、車両の程度の違いを音データから判別して評価を行う必要がある。そのため、車両を評価するのに適した車両評価システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するための車両評価システムは、評価対象の車両である対象車両から発せられる音を収録した音データを用いて前記対象車両を評価する。この車両評価システムは、処理回路と、記憶装置とを備えている。そして、前記記憶装置に、評価の基準になる状態の基準車両を既定時間に亘る測定用操作パターンで操作しながら収録した訓練用音データと、前記測定用操作パターンにおける操作情報の推移を示す操作データと、を含む訓練用データを用いて前記訓練用音データから前記操作データを生成するように教師有り学習によって訓練した学習済みモデルのデータが記憶されている。また、処理回路は、前記対象車両を前記測定用操作パターンで操作しながら収録した評価用音データを含む評価用データを前記学習済みモデルに入力して生成した前記操作情報のデータである生成データを出力する生成処理と、前記教師有り学習の際に前記訓練用データに含まれていた前記操作データと前記生成データとを比較して前記操作データと前記生成データとのずれの大きさに応じて前記対象車両を評価する評価処理と、を実行する。
【0007】
上記の車両評価システムの記憶装置には、音データから操作情報のデータを生成する学習済みモデルのデータが記憶されている。したがって、この車両評価システムは、学習済みモデルを用いて音データから操作データを生成することができる。しかし、この学習済みモデルは、基準車両から発せられる音から操作データを生成するように最適化されている。そのため、基準車両とは異なる状態の車両から発せられた音データを入力した場合には、操作データを正しく生成することができない。すなわち、対象車両の状態が基準車両の状態から乖離していると、操作データと生成データとにずれが生じる。
【0008】
そこで、上記の車両評価システムは、測定用操作パターンにしたがって対象車両を操作したときに対象車両から発せられる音に基づいて生成した生成データと操作データとのずれの大きさに応じて対象車両を評価する評価処理を実行する。生成データと操作データとのずれの大きさには、対象車両と基準車両との状態の違いが現れる。したがって、車両評価システムは、車両の程度の違いを音データから判別して評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、車両評価システムの一実施形態を示す模式図である。
図2図2は、車両制御ユニットの構成を示す模式図である。
図3図3は、測定用操作パターンを示すタイムチャートである。
図4図4は、メルスペクトログラムである。
図5図5は、学習済みモデルの構造を説明する説明図である。
図6図6は、データ取得処理のフローチャートである。
図7図7は、データ整形処理のフローチャートである。
図8図8は、訓練処理のフローチャートである。
図9図9は、生成処理及び評価処理にかかるフローチャートである。
図10図10は、車両評価システムの変更例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両評価の一実施形態について、図1図9を参照して説明する。
<車両評価システムの構成>
図1は、一実施形態にかかる車両評価システムの構成を示している。図1に示すように、この車両評価システムは、データセンタ100と、車両コントローラ300とを含んでいる。データセンタ100は、通信ネットワーク200を介して、車両コントローラ300と通信可能に接続されている。
【0011】
<データセンタ100の構成>
図1に示すように、データセンタ100は、プログラムが記憶されている記憶装置120と、記憶装置120に記憶されているプログラムを実行して各種の処理を実行する処理回路110とを備えている。また、データセンタ100は、通信装置130を備えている。通信装置130は、ネットワークアダプタなどのハードウェア、各種の通信用のソフトウェア、又はこれらの組合せとして実装されている。そして、通信装置130は、通信ネットワーク200を介した有線又は無線の通信を実現できるように構成されている。
【0012】
なお、データセンタ100は、複数のコンピュータを用いて構成され得る。例えば、データセンタ100は、複数のサーバ装置によって構成され得る。
<車両コントローラ300の構成>
車両コントローラ300は、例えば、パーソナルコンピュータである。車両コントローラ300は、プログラムが記憶されている記憶装置320と、記憶装置320に記憶されているプログラムを実行して各種の処理を実行する処理回路310とを備えている。また、車両コントローラ300は、通信装置330を備えている。通信装置330は、ネットワークアダプタなどのハードウェア、各種の通信用のソフトウェア、又はこれらの組合せとして実装されている。そして、通信装置330は、通信ネットワーク200を介した有線又は無線の通信を実現できるように構成されている。
【0013】
この実施形態では、車両コントローラ300は、通信ネットワーク200を介した無線通信によってデータセンタ100に接続されている。また、車両コントローラ300は、情報を表示する表示装置340を備えている。なお、車両コントローラ300は、スマートフォンやタブレット端末であってもよい。また、車両コントローラ300は、マイクロフォン350を備えている。
【0014】
マイクロフォン350は、評価対象の車両である対象車両10から発せられる音を収録するためのものである。この車両評価システムを用いて対象車両10を評価する際には、マイクロフォン350を対象車両10に対して所定の位置に設置する。また、車両コントローラ300を、対象車両10の車両制御ユニット20に接続する。そして、車両コントローラ300から車両制御ユニット20に指令を出力して対象車両10を既定の測定用操作パターンで操作しながらマイクロフォン350で音を収録する。
【0015】
<車両制御ユニット20の構成>
図1に示すように、車両制御ユニット20は、プログラムが記憶されている記憶装置22と、記憶装置22に記憶されているプログラムを実行して各種の制御を実行する処理回路21と、を備えている。車両制御ユニット20は、対象車両10の各部を制御する。
【0016】
車両制御ユニット20には、対象車両10の状態などを検出する各種のセンサが接続されている。例えば、車両制御ユニット20には、対象車両10の速度である車速SPDを検出する車速センサ35が接続されている。車両制御ユニット20は、車速センサ35で検出した車速SPDの情報を取得する。例えば、車両制御ユニット20には、クランクポジションセンサ34が接続されている。クランクポジションセンサ34は、対象車両10に搭載されている内燃機関の出力軸であるクランクシャフトの回転位相の変化に応じたクランク角信号を出力する。車両制御ユニット20は、クランクポジションセンサ34から入力されるクランクシャフトの回転角の検出信号に基づいてクランクシャフトの回転速度である機関回転速度NEを算出する。例えば、車両制御ユニット20には、エアフロメータ33が接続されている。エアフロメータ33は、対象車両10に搭載されている内燃機関の吸気通路を通じて気筒内に吸入される空気の温度である吸気温THAと、吸入される空気の質量である吸入空気量Gaを検出する。車両制御ユニット20は、エアフロメータ33で検出した吸気温THAと吸入空気量Gaの情報を取得する。例えば、車両制御ユニット20には、水温センサ36が接続されている。水温センサ36は、冷却水の温度である水温THWを検出する。車両制御ユニット20は、水温センサ36で検出した水温THWを取得する。例えば、車両制御ユニット20には、空燃比センサ37が接続されている。空燃比センサ37は内燃機関の排気管に設置されている。空燃比センサ37は、排気の空燃比を検出する。車両制御ユニット20は、空燃比センサ37で検出した空燃比を取得する。例えば、車両制御ユニット20には、スロットル開度センサ31が接続されている。スロットル開度センサ31は、内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度であるスロットル開度を検出する。車両制御ユニット20は、スロットル開度センサ31で検出したスロットル開度を取得する。例えば、車両制御ユニット20には、ブレーキ油圧センサ32が接続されている。ブレーキ油圧センサ32は、ブレーキ油圧を検出する。車両制御ユニット20は、ブレーキ油圧センサ32で検出したブレーキ油圧を取得する。
【0017】
また、車両制御ユニット20は、対象車両10に搭載されている変速機を制御する変速機制御ユニット30と接続されている。車両制御ユニット20は、変速機制御ユニット30から変速比や、変速機の油温などの情報を取得する。
【0018】
車両コントローラ300を対象車両10の車両制御ユニット20に接続すると、車両コントローラ300からの指令によって対象車両10を操作することができるようになる。また、車両コントローラ300を対象車両10の車両制御ユニット20に接続すると、車両コントローラ300は、車両制御ユニット20を通じて対象車両10の情報を取得することができるようになる。
【0019】
<車両評価システムによる評価の流れ>
上述したように、この車両評価システムでは、対象車両10を評価する際に、車両コントローラ300を対象車両10の車両制御ユニット20に接続する。そして、車両コントローラ300からの指令によって対象車両10を既定の測定用操作パターンで操作しながらマイクロフォン350で音を収録する。車両コントローラ300は、収録した音のデータを含むデータをデータセンタ100に送信する。そして、データセンタ100は、受信したデータを用いて対象車両10を評価する評価処理を実行する。
【0020】
<測定用操作パターンについて>
図3は、この車両評価システムにおける測定用操作パターンを示すタイムチャートである。図3に示すように、この車両評価システムの測定用操作パターンは、時刻t0から時刻t10までの既定時間に亘ってスロットル開度とブレーキ油圧を操作するものになっている。なお、測定用操作パターンにおける操作は、フィードバック制御ではなく、指令にしたがってそのまま操作するフィードフォワード制御である。
【0021】
具体的には、この測定用操作パターンが開始された時刻t0においては、図3の(a)に示すように、スロットル開度は0である。そして、図3の(b)に示すように、ブレーキ油圧はbp2である。なお、bp2は0よりも大きい値である。そして、時刻t1になると、車両コントローラ300は、車両制御ユニット20を通じてブレーキ油圧を0にするように対象車両10を操作する。次に、時刻t2になると、車両コントローラ300は、車両制御ユニット20を通じてスロットル開度をth2にするように対象車両10を操作する。なお、th2は0よりも大きい値である。
【0022】
図3に示すように、時刻t3になると、車両コントローラ300は、車両制御ユニット20を通じてスロットル開度をth1にするように対象車両10を操作する。なお、th1は、th2よりも小さく0よりも大きい値である。時刻t4になると、車両コントローラ300は、車両制御ユニット20を通じてスロットル開度を0にするように対象車両10を操作する。そして、車両コントローラ300は、時刻t5から時刻t6までの間に一定の傾きでブレーキ油圧を増大させるように車両制御ユニット20を通じてブレーキ油圧を操作する。車両コントローラ300は、ブレーキ油圧をbp1まで増大させる。なお、bp1は、0よりも大きくbp2よりも小さい値である。時刻t6においてブレーキ油圧の増大を停止させて時刻t6以降はブレーキ油圧をbp1に保持する。そして、時刻t10において測定用操作パターンが終了する。
【0023】
<評価用データについて>
車両コントローラ300は、こうして測定用操作パターンで対象車両10を操作しながらマイクロフォン350で収録した音のデータを評価用音データとして記憶装置320に記録する。また、測定用操作パターンで対象車両10を操作しているときの外気温の情報として、エアフロメータ33で検出した吸気温THAを記憶装置320に記憶する。そして、車両コントローラ300は、こうして収集した評価用音データと外気温のデータとを既定時間分の1つのデータセットとして記憶装置320に記憶する。
【0024】
車両コントローラ300は、記憶装置320に記憶した既定時間分のデータセットを、既定時間よりも短い時間幅のウィンドウTwの範囲のデータ毎に切り出して、評価用データに整形する。なお、車両コントローラ300は、評価用データを整形するデータ整形処理にあたり、評価用音データを周波数解析したメルスペクトログラムに変換して画像データにして取り扱う。
【0025】
図4に示すように、メルスペクトログラムは、縦軸が周波数であるが、縦軸の周波数はメル尺度で示されている。そして、横軸は時間軸である。メルスペクトログラムでは、強度は色で表されている。強度が低い部分ほど暗い青系の色になり、強度が高い部分ほど明るい赤系の色になる。例えば、強度が低い方から高い方に向かって青、緑、黄色、橙、赤の順に色分けされている。既定時間分の1つのデータセットに含まれる音データは、図4に示すように、時刻t0から時刻t10までの既定時間分の1つのメルスペクトログラムになる。
【0026】
データの切り出しは、図3及び図4に示すように、既定時間よりも短い時間幅のウィンドウTwの範囲のデータを取り出すことである。
データ整形処理では、時刻t0に対応する時点からスタートして、切り出しが完了する度に、一定のストライドt_stでウィンドウTwを時刻t10側にずらして再びデータの切り出し行う。そして、時刻t10の時点を含むデータを切り出すまでデータの切り出しを繰り返す。そして、同じ時刻に切り出したデータを1つのリストにまとめる。なお、ストライドt_stは、ウィンドウTwよりも短い時間幅に相当する長さになっている。データ整形処理の詳細については、図7を参照して後述する。
【0027】
車両コントローラ300は、整形した評価用データをデータセンタ100に送信する。そして、データセンタ100は、複数のリストに整形された評価用データを、教師有り学習によって訓練した学習済みモデルに入力して評価処理を行う。
【0028】
<学習済みモデルについて>
データセンタ100の記憶装置120には、対象車両10の評価に用いる学習済みモデルのデータが記憶されている。
【0029】
データセンタ100では、評価用音データを画像データにして取り扱うため、画像分類モデルであるResNet-18を一部に用いたモデルを用いる。なお、ResNet-18は、ImageNetデータセットで学習させた事前学習済みの画像分類モデルである。ResNet-18は、100万枚を超える画像データで訓練されており、入力された画像を1000個のカテゴリに分類することができる。データセンタ100の記憶装置120に記憶されている学習済みモデルは、事前学習済みのResNet-18を転移学習したモデルである。
【0030】
図5は、記憶装置120に記憶されている学習済みモデルの構成を説明する説明図である。図5に示すように、この学習済みモデルは、ResNet-18の分類用の出力層をニューラルネットワークMLPに置き換えて、このニューラルネットワークMLPを教師有り学習により訓練したモデルである。
【0031】
ニューラルネットワークMLPの入力層Linは、ResNet-18からの出力が入力される第1入力層Lin1と、第2入力層Lin2とからなっている。これにより、この車両評価システムは、評価用データに含まれる評価用音データ以外のデータも対象車両10の評価に反映させることができる。例えば、第2入力層Lin2として、外気温のデータを入力するノードを備えている。なお、第2入力層Lin2におけるノードの数を入力するデータの数に応じて増やすことによって、評価用データにさらに他のデータを用いることもできるようになる。
【0032】
この車両評価システムでは、対象車両10を測定用操作パターンで操作しながら取得した評価用データを学習済みモデルに入力して、測定用操作パターンにおける対象車両10の操作情報の推移を示す操作データを生成データとして生成する生成処理を実行する。図3を参照して説明したように、測定用操作パターンにおける操作情報は、スロットル開度とブレーキ油圧である。そのため、ニューラルネットワークMLPの出力層Loutは、スロットル開度を出力するノードと、ブレーキ油圧を出力するノードとからなっている。なお、ニューラルネットワークMLPの出力層Loutのノードの数を出力するデータの数に応じて増やすことによって、評価に用いる操作情報の種類及び数を増やすことができる。
【0033】
このように、この車両評価システムで用いる学習済みモデルは、ResNet-18の分類用の出力層をニューラルネットワークMLPに置き換えて、スロットル開度とブレーキ油圧を出力する回帰モデルに転移学習したモデルになっている。
【0034】
<モデルの訓練について>
次に、図5に示したモデルを訓練して学習済みモデルを得るための訓練処理について説明する。モデルの学習は、評価の基準になる基準車両を用いて予め収集した大量の測定データを用いた教師有り学習によって行う。この例では、基準車両として、製造後に一定の慣らし運転を完了させた上で、十分な整備点検を行い、異常がないことを確認した車両を用いる。すなわち、基準車両はほとんど劣化していない極めて程度の良い状態の車両である。
【0035】
<データ取得処理について>
測定データを取得するデータ取得処理は、車両コントローラ300と同様に、車両制御ユニット20に接続して車両を操作することのできるコンピュータによって実行する。
【0036】
図6は、測定データを取得するデータ取得処理の流れを示すフローチャートである。図6に示すように、コンピュータは、データ取得処理を開始すると、まずステップS100の処理において、測定用操作を開始してデータの測定を開始する。そして、コンピュータは測定用操作パターンで基準車両を操作しながらマイクロフォン350で音データを収録するとともに、外気温のデータを取得する。なお、モデルを訓練するために、基準車両が発する音を収録したこの音データは訓練用音データである。
【0037】
ステップS110の処理では、コンピュータは測定用操作パターンでの測定用操作が完了したか否かを判定する。測定用操作パターンでの測定用操作が完了していないと判定した場合(ステップS110:NO)には、コンピュータはステップS110の処理を繰り返す。
【0038】
一方で、コンピュータは、ステップS110の処理において、測定用操作パターンでの測定用操作が完了したと判定した場合(S110:YES)には、処理をステップS120へと進める。そして、ステップS120の処理において、コンピュータは、データの測定を終了させる。
【0039】
こうして測定を終了させると、コンピュータは、ステップS130の処理において、一連の測定用操作パターンでの測定用操作を行いながら取得した測定データと測定用操作パターンにおける操作情報のデータを1つのデータセットとして記憶装置に記録する。
【0040】
すなわち、コンピュータは、測定用パターンにおける、スロットル開度のデータ及びブレーキ油圧の推移のデータと、音データと、外気温のデータと、を1つのデータセットとして記憶装置に記録する。そして、コンピュータは、このデータ取得処理を一旦終了させる。
【0041】
こうして1つのデータセットの取得が完了する。教師有り学習に用いる訓練用データの収集は、このデータ取得処理を何度も行い、基準車両を測定用操作パターンで操作しながら収録した測定データのデータセットを大量に収集することによって行う。
【0042】
こうして収集した測定データのデータセットは、図7に示すデータ整形処理を通じてモデルに入力するデータに整形される。
<データ整形処理について>
データ整形処理は上述したように、1つのデータセットを、ウィンドウTwをずらしながら切り出して複数のリストに整形する処理である。
【0043】
このデータ整形処理は、コンピュータで行われる。このデータ整形処理を行うコンピュータは、データ取得処理を実行するコンピュータと同じものであってもよいし、別のコンピュータであってもよい。例えば、データセンタ100のような処理能力の高いコンピュータを用いてもよい。なお、データ整形処理を実行するコンピュータの記憶装置には、データ取得処理を繰り返し実行して収集した大量のデータセットが記憶されている。
【0044】
データ整形処理を開始すると、コンピュータは、まずステップS200の処理において、測定データのデータセットを1つ読み込む。次にコンピュータは、ステップS210の処理において、ステップS200の処理で読み込んだデータセットにおける音データをメルスペクトログラムに変換する。そして、コンピュータは処理をステップS220へと進める。ステップS210の処理において、コンピュータは、データセットにおける音データ以外のデータを標準化する。
【0045】
次に、ステップS230の処理において、コンピュータはデータの切り出し開始時刻tを0に設定する。そして、ステップS240の処理において、コンピュータはデータの切り出しを行う。すなわち、ウィンドウTwの始点を切り出し開始時刻tにあわせて、ウィンドウTwに収まっている範囲のデータを切り出す。具体的には、図4に示すように、メルスペクトログラムからウィンドウTwの範囲の画像を切り出す。また、図3に示すように、外気温のデータと、スロットル開度のデータと、ブレーキ油圧のデータからウィンドウTwの範囲のデータを切り出す。
【0046】
ステップS250の処理において、コンピュータは、ステップS240の処理を通じて切り出した外気温のデータと、スロットル開度のデータと、ブレーキ油圧の各データの代表値を算出する。例えば、ウィンドウTwのデータにおける平均値をこのウィンドウTwにおける代表値として算出する。平均値ではなく、最大値や最小値などを代表値として算出してもよい。こうして、切り出したデータにおける外気温の代表値と、スロットル開度の代表値と、ブレーキ油圧の代表値を算出すると、コンピュータは、処理をステップS260へと進める。
【0047】
ステップS260の処理において、コンピュータはウィンドウTwをストライドt_stの分ずらせるか否かを判定する。データの切り出しは、測定用操作パターンの間に取得したデータセットに対して、ウィンドウTwをストライドt_stの分ずらして切り出すことを繰り返して行う。ウィンドウTwがデータセットの終端に達し、データセットに含まれるデータを全て切り出した状態になると、ウィンドウTwをストライドt_stの分ずらせなくなる。コンピュータは、このようにウィンドウTwをストライドt_stの分ずらせなくなったときにステップS260の処理において否定判定を行う。
【0048】
ステップS260の処理において、ウィンドウTwをストライドt_stの分ずらせると判定した場合(ステップS260:YES)には、コンピュータは、処理をステップS270へと進める。ステップS270の処理において、コンピュータは、切り出した画像のデータと、各代表値のセットを1つのリストに格納する。なお、リストに格納する際に、コンピュータは、画像のデータをResNet-18への入力に適した224×224のサイズにリサイズする。そして、コンピュータは、切り出し開始時刻tを更新する。具体的には、切り出し開始時刻tにストライドt_stを加えた和を、新たな切り出し開始時刻tとすることによって、切り出し開始時刻tを更新する。これにより、ウィンドウTwがストライドt_stの分ずらされることになる。
【0049】
そして、コンピュータは、ウィンドウTwをストライドt_stの分ずらして再びステップS240~ステップS260の処理を実行する。すなわち、コンピュータは、ウィンドウTwをストライドt_stの分ずらせなくなるまでステップS240~ステップS280の処理を繰り返す。
【0050】
そして、コンピュータは、ステップS260の処理においてウィンドウTwをずらせなくなったと判定した場合(ステップS260:NO)には、処理をステップS290へと進める。ステップS290の処理は、ステップS270の処理と同様の処理である。ステップS290の処理において、データをリストに格納すると、コンピュータは、処理をステップS300へと進める。
【0051】
ステップS300の処理において、コンピュータは、ステップS200の処理において整形するために用意した全てのデータセットを処理したかを判定する。ステップS300の処理において、全てのデータセットの処理が完了していないと判定した場合(ステップS300:NO)には、コンピュータは処理をステップS200に戻す。そして、コンピュータは、処理していないデータセットを1つ読み込み、ステップS210以降の処理を実行する。
【0052】
ステップS300の処理において全てのデータセットを処理したと判定した場合(ステップS300:YES)には、コンピュータはこの一連のデータ整形処理を終了させる。こうしてコンピュータは用意した測定用データのデータセットを、それぞれ複数のリストの形に整形する。こうしてデータ整形処理を通じて、それぞれが複数のリストの集合のかたちに整形された大量のデータセットを用いてモデルを訓練する訓練処理を行う。
【0053】
<訓練処理について>
この訓練処理は、コンピュータで行われる。この訓練処理を行うコンピュータは、データセンタ100のような処理能力の高いコンピュータを用いることが好ましい。なお、訓練処理を実行するコンピュータの記憶装置には、データ整形処理を通じて整形された大量のデータセットが訓練用データとして記憶されている。なお、記憶装置に記憶されている学習用データの量は、予め行う検証の結果に基づき、十分な精度の学習済みモデルを得られる量に設定されている。
【0054】
訓練処理を開始すると、コンピュータはまずステップS400の処理において、記憶装置に記憶されている訓練用データを読み込む。そして、コンピュータは、次のステップS410の処理において、読み込んだ訓練用データから1つのデータセットを読み込む。
【0055】
次に、コンピュータは、ステップS420の処理において、データセットから1つのリストを読み込む。そして、コンピュータは、リストのデータを、図5を参照して説明したモデルに入力してスロットル開度とブレーキ油圧とを算出する。なお、訓練処理を開始したときには、モデルのパラメータは初期状態になっている。すなわち、ResNet-18の部分については学習済みの状態であるが、ニューラルネットワークMLPの部分の重み及びバイアスは初期値になっている。この訓練処理では、ニューラルネットワークMLPの部分の重み及びバイアスを更新する。
【0056】
具体的には、ステップS430の処理において、リストに含まれる224×224のサイズにリサイズされた画像データDwを、図5に示すようにResNet-18に入力する。そして、ニューラルネットワークMLPの第2入力層Lin2に外気温のデータの代表値を入力する。ResNet-18を通じて画像データDwの特徴量が抽出されニューラルネットワークMLPの第1入力層Lin1に入力される。そして、ニューラルネットワークMLPの出力層Loutからスロットル開度とブレーキ油圧の値が出力される。こうしてスロットル開度及びブレーキ油圧を算出すると、コンピュータは、ステップS440の処理において、スロットル開度の値及びブレーキ油圧の値を記録する。
【0057】
次に、コンピュータは、ステップS450の処理において、データセットに含まれる全てのリストを処理したかを判定する。ステップS450の処理において、全てのリストの処理が完了していないと判定した場合(ステップS450:NO)には、コンピュータは処理をステップS420に戻す。そして、コンピュータは、処理していないリストを1つ読み込み、ステップS430以降の処理を実行する。
【0058】
ステップS450の処理において全てのリストを処理したと判定した場合(ステップS450:YES)には、コンピュータは処理をステップS460へと進める。こうしてコンピュータは読み込んだデータセットに含まれるリストのそれぞれについてスロットル開度の値及びブレーキ油圧の値を算出する。そして、算出した値を記録して、図3に示したタイムチャートのように、測定用操作パターンにおけるスロットル開度とブレーキ油圧の推移を示すデータを生成する。
【0059】
ステップS460の処理において、コンピュータは、評価指標値を算出する。評価指標値は、ステップS430の処理を通じて算出した値と、データセットに含まれている測定用操作パターンにおけるスロットル開度とブレーキ油圧のデータとのずれの大きさを示す値である。データセットに含まれている測定用操作パターンにおけるスロットル開度とブレーキ油圧のデータは、正解の値である。
【0060】
ここでは、コンピュータは、ステップS430の処理を通じて算出した値と、正解の値とのずれの大きさを算出する。例えば、コンピュータは、S430の処理を通じて算出したスロットル開度と正解のスロットル開度との二乗和誤差と、S430の処理を通じて算出したブレーキ油圧と正解のブレーキ油圧との二乗和誤差と、を算出する。そして、コンピュータは、既定時間の測定用操作パターンにおけるこれらの総和を評価指標値として算出する。こうして評価指標値を算出すると、コンピュータは、処理をステップS470に進める。
【0061】
ステップS470の処理において、コンピュータは、学習を行う。具体的には、コンピュータは、誤差逆伝搬法により、評価指標値の値が小さくなるようにニューラルネットワークMLPにおける重みとバイアスを調整する。
【0062】
そして、コンピュータは、ステップS480の処理において、読み込んだ訓練用データに含まれる全てのデータセットを処理したかを判定する。ステップS480の処理において、全てのデータセットの処理が完了していないと判定した場合(ステップS480:NO)には、コンピュータは処理をステップS410に戻す。そして、コンピュータは、処理していないデータセットを1つ読み込み、ステップS420以降の処理を実行する。コンピュータは、こうして全てのデータセットについての処理が完了するまで、学習を繰り返してモデルを訓練する。こうして、コンピュータは、教師有り学習によって、訓練用データから測定用操作パターンにおける操作情報の推移を示すデータである操作データを生成することができるようにモデルを訓練する。
【0063】
ステップS480の処理において全てのデータセットを処理したと判定した場合(ステップS480:YES)には、コンピュータは処理をステップS490へと進める。ステップS490の処理では、コンピュータは、全てのデータセットを用いた学習が完了したモデルのパラメータを記憶装置に記録する。そして、コンピュータはこの一連の訓練処理を終了させる。こうして訓練処理を通じて学習済みモデルのデータが得られる。
【0064】
データセンタ100の記憶装置120には、こうして訓練処理を通じて訓練された学習済みモデルのデータが記憶されている。
次に、車両評価システムを用いて対象車両10を評価する場合の、データ取得処理、データ整形処理、評価処理について説明する。
【0065】
<車両コントローラ300によるデータ取得処理>
車両評価システムを用いて車両を評価する際には、上述したように、評価対象の車両である対象車両10に、車両コントローラ300を接続する。また、対象車両10にマイクロフォン350を設置する。そして、車両コントローラ300からの指令によって対象車両10を既定の測定用操作パターンで操作しながらマイクロフォン350で音を収録する。また、車両コントローラ300は、同時に外気温のデータを取得する。具体的には、車両コントローラ300は、図6を参照して説明したデータ取得処理を実行して評価用データとして1つのデータセットを取得する。評価用データに含まれる音データが評価用音データである。
【0066】
<車両コントローラ300によるデータ整形処理>
車両コントローラ300は、データ整形処理を実行して評価用データを整形する。具体的には、図7を参照して説明したデータ整形処理を実行して評価用データを複数のリストに整形する。データ取得処理において取得した評価用データは1つのみであるため、このときのデータ整形処理では1つのデータセットのみを読み込んで整形することになる。このデータ整形処理を通じて、評価用データは画像データDwと外気温の代表値のデータの複数のリストのかたちに整形される。
【0067】
データ整形処理を実行して評価用データを整形すると、車両コントローラ300は、整形した評価用データをデータセンタ100に送信する。
<データセンタ100による評価処理>
評価用データを受信すると、データセンタ100は、評価用データを記憶装置120に記憶する。そして、データセンタ100は、図9に示すルーチンを実行して対象車両10を評価する評価処理を実行する。図9に示すルーチンは、データセンタ100の処理回路110によって実行される。
【0068】
図9に示すように、このルーチンを開始すると、データセンタ100は、ステップS500の処理において記憶装置120に記憶した評価用データを読み込む。そして、ステップS510~ステップS540の処理を通じて、記憶装置120に記憶されている学習済みモデルを用いてスロットル開度とブレーキ油圧の算出を繰り返す。
【0069】
具体的には、データセンタ100は、ステップS510の処理において、評価用データから1つのリストを読み込む。そして、データセンタ100は、ステップS520の処理において、訓練処理におけるステップS430の処理と同様に、リストのデータを学習済みモデルに入力してスロットル開度とブレーキ油圧とを算出する。こうしてスロットル開度及びブレーキ油圧を算出すると、データセンタ100は、ステップS530の処理において、スロットル開度の値及びブレーキ油圧の値を記録する。
【0070】
次に、データセンタ100は、ステップS540の処理において、データセットに含まれる全てのリストを処理したかを判定する。ステップS540の処理において、全てのリストの処理が完了していないと判定した場合(ステップS540:NO)には、データセンタ100は処理をステップS510に戻す。そして、データセンタ100は、処理していないリストを1つ読み込み、ステップS520以降の処理を実行する。ステップS540の処理において全てのリストを処理したと判定した場合(ステップS540:YES)には、データセンタ100は処理をステップS550へと進める。
【0071】
こうしてデータセンタ100は読み込んだ評価用データに含まれるリストのそれぞれについてスロットル開度の値及びブレーキ油圧の値を算出する。そして、算出した値を記録して、測定用操作パターンにおけるスロットル開度とブレーキ油圧の推移を示す生成データを生成する。このステップS510~ステップS540の一連の処理は、評価用データを学習済みモデルに入力して生成データを出力する生成処理である。
【0072】
ステップS550の処理において、データセンタ100は、訓練処理におけるステップS460の処理と同様に評価指標値を算出する。学習済みモデルは、基準車両から発せられる音から操作データ復元した生成データを生成するように最適化されている。そのため、基準車両とは異なる状態の対象車両10から発せられた評価用音データを入力した場合には、操作データを正しく復元することができない。すなわち、対象車両10の状態が基準車両の状態から乖離していると、正解のデータとしてデータセットに記憶されている操作データと、生成データとにずれが生じる。評価指標値は、このずれの大きさを示している。すなわち、評価指標値が大きいほど、対象車両10の状態が基準車両の状態から乖離していることを示している。上述したように基準車両は、ほとんど劣化していない極めて程度の良い状態の車両である。そのため、この評価システムでは、評価指標値が小さいほど、対象車両10の状態が基準車両の状態に近いとみなして高い評価をする。こうして評価指標値を算出すると、データセンタ100は、処理をステップS560に進める。
【0073】
ステップS560の処理において、データセンタ100は、評価指標値に基づいて評価ランクを判定する。データセンタ100は、Sランク、Aランク、Bランク、Cランクの4段階の評価ランクの中から評価指標値の大きさに応じた評価ランクを選択することによって評価ランクを判定する。Sランクが4つの評価ランクの中で最も評価の高い水準の車両であることを示す評価ランクである。そして、Cランクが4つの評価ランクの中で最も評価の低い水準の車両であることを示す評価ランクである。Sランク、Aランク、Bランク、Cランクの順に評価が低くなっていてCランクが最も評価が低い評価ランクである。
【0074】
データセンタ100は、評価指標値が第1閾値以下である場合に、評価ランクとしてSランクを選択する。データセンタ100は、評価指標値が第1閾値よりも大きく且つ第2閾値以下である場合に、評価ランクとしてAランクを選択する。第2閾値は第1閾値よりも大きい値である。データセンタ100は、評価指標値が第2閾値よりも大きく且つ第3閾値以下である場合に、評価ランクとしてBランクを選択する。第3閾値は第2閾値よりも大きい値である。データセンタ100は、評価指標値が第3閾値以上である場合に、評価ランクとしてCランクを選択する。
【0075】
第1閾値、第2閾値、第3閾値の大きさは、例えば、中古車市場における車両の評価と価格との相関などを参考に予め設定すればよい。また、車両の耐久試験やシミュレーションの結果に基づいて設定してもよい。ステップS560の処理を通じて対象車両10の評価ランクを判定すると、データセンタ100は処理をステップS570へと進める。
【0076】
ステップS550の処理及びステップS560の処理は、操作データと生成データとを比較して操作データと生成データとのずれの大きさに応じて対象車両10を評価する評価処理である。
【0077】
ステップS570の処理において、データセンタ100は、評価ランクを車両コントローラ300に送信して評価ランクを出力する。こうして評価ランクを出力すると、データセンタ100は、このルーチンを終了させる。
【0078】
評価ランクを受信した車両コントローラ300は、受信した評価ランクを対象車両10の評価ランクとして表示装置340に表示する。
<本実施形態の作用>
この車両評価システムは、対象車両10を評価するために、車両コントローラ300によって対象車両10を既定の測定用操作パターンで操作する。そして、既定の測定用操作パターンで操作しながら評価用データを取得する。車両コントローラ300は、取得した評価用データをデータセンタ100に送信する。
【0079】
データセンタ100は、学習済みモデルを用いて生成処理を実行して評価用データから操作データを復元した生成データを生成する。学習済みモデルは、既定時間分のデータから切り出したデータの特徴量を説明変数とし、切り出したデータに対応する時点の操作情報を目的変数とするニューラルネットワークになっている。そして、データセンタ100は、生成データに基づいて評価処理を実行する。
【0080】
データセンタ100は、評価処理において、データセンタ100は、切り出し開始時刻tを変更しながら繰り返し切り出したデータのそれぞれについて出力したずれの既定時間分の総和を評価指標値として算出する。データセンタ100は評価指標値に基づいて対象車両10の評価ランクを判定する。そして、データセンタ100から車両コントローラ300に評価ランクが送信される。
【0081】
評価ランクを受信した車両コントローラ300の表示装置340に評価ランクが表示される。
<本実施形態の効果>
(1)生成データと操作データとのずれの大きさには、対象車両10と基準車両との状態の違いが現れる。したがって、車両評価システムは、車両の程度の違いを音データから判別して評価を行うことができる。
【0082】
(2)既定の評価用測定パターンで操作したときに取得した音データに基づいて評価を行うことによって、評価に用いる音データを収集する際の対象車両10の運転状態を統一している。そのため、上記の車両評価システムによれば、運転状態の相違による音データのばらつきの影響を抑制できる。
【0083】
(3)学習済みモデルは、音データを周波数解析したスペクトログラムの画像データを含む評価用データから操作データを生成する。すなわち、上記の車両評価システムは、音データを周波数分析した画像データを用いている。そのため、車両評価システムによれば、音データに含まれる特徴を効率よく抽出して評価処理を行うことができる。
【0084】
(4)上記の車両評価システムは、既定時間分のデータを複数の区間に区切って分析している。そして、その結果を統合して評価指標値を算出している。そのため、上記の車両評価システムによれば、既定時間分のデータをまとめて分析する場合と比較して、学習済みモデルが小さくて済む。
【0085】
(5)上記の車両評価システムは、評価結果を予め設定した評価ランクに当てはめて出力する。そのため、この評価システムによれば、対象車両10の程度の良し悪しの、中古車市場における相対的な水準が把握しやすくなる。
【0086】
(6)音データは、車両の状態が同一であっても測定環境の違いによる影響を受ける可能性がある。上記の車両評価システムは、訓練用データ及び評価用データに、外気温のデータを含めている。そのため、車両評価システムは、外気温の違いによる影響を反映させたかたちで評価を行うことができる。
【0087】
(7)訓練用データを取得する際の測定用操作パターンでの運転操作、そして、評価用データを取得する際の測定用操作パターンでの運転操作は、作業者が車両を操作して行うこともできる。しかし、作業者による運転操作にばらつきがあると、運転操作のばらつきによる影響が評価結果に及んでしまう。これに対して、上記の車両評価システムは、車両コントローラ300によって対象車両10を操作する。そのため、作業者による運転操作のばらつきに起因する影響を排除して、対象車両10を評価することができる。
【0088】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0089】
・対象車両10を評価する際のデータ整形処理を車両コントローラ300で実行する例を示したが、データ整形処理をデータセンタ100で実行するようにしてもよい。
・音データをメルスペクトログラムに変換したデータを用いる例を示したが、測定用データ及び評価用データとして用いるデータはメルスペクトログラムでなくてもよい。例えば、音データをウェーブレット変換したスペクトログラムを用いてもよい。また、音データを短時間フーリエ変換したスペクトログラムを用いてもよい。
【0090】
・音データを画像データに変換することも必須ではない。例えば、音データそのものから特徴量を抽出して測定用データ及び評価用データとして用いてもよい。その場合、評価処理に用いるモデルは、画像データを扱うResNet-18を用いる必要はなくなる。例えば、ニューラルネットワークを用いればよい。
【0091】
・また、ResNet-18を転移学習したモデルを例示したが、モデルの構造はこうした構造に限定されない。学習済みモデルは、評価用データに基づいて生成データを出力できるようになっていればよい。
【0092】
・評価処理として、評価指標値に基づいて評価ランクを判定する例を示したが、評価処理は、こうした態様に限らない。例えば、評価指標値を値が大きいほど評価の低さを示す値としてそのまま出力して表示装置340に表示させるようにしてもよい。
【0093】
・上記の車両評価システムでは、極めて程度の良い車両を基準車両として、対象車両10を評価する例を示した。必ずしも程度の良い車両を基準車両にする必要はない。例えば、極めて程度の悪い、評価の低い車両を基準車両にすることもできる。上記の評価処理における評価指標値は、基準車両との対象車両10と状態の乖離の度合いを示す値である。そのため、極めて評価の低い老朽化した車両を基準車両にした場合には、評価指標値が小さいほど、評価が低いことを示すことになる。こうした評価指標値を用いて対象車両10を評価することもできる。
【0094】
・操作データに他の操作情報を含めてもよい。例えば、変速比の情報を含めてもよい。また、ステアリングの舵角の情報を含めてもよい。また、車両の空調装置の稼働状況の情報を含めてもよい。また、ワイパー、パワーウィンドウなどの車両の電装部品の操作情報を含めてもよい。
【0095】
・また、訓練用データ及び評価用データにこれら電装部品の操作情報を含めてもよい。
・訓練用データ及び評価用データに、音データに加えて、変速機制御ユニット30から取得した変速比のデータを含めてもよい。音データは、変速比を変更することによっても変化する。このように、訓練用データ及び評価用データに、変速比のデータを加えることによって変速比の違いによる影響を反映させたかたちで評価を行うことができるようになる。
【0096】
・訓練用データ及び評価用データに、水温センサ36で検出した水温THWのデータを含めてもよい。訓練用データ及び評価用データに、空燃比センサ37で検出した空燃比のデータを含めてもよい。
【0097】
・車両評価システムとして、データセンタ100と車両コントローラ300とを備えている例を示したが、車両評価システムの構成は、こうした構成に限らない。例えば、車両評価システムを生成処理及び評価処理を行うデータセンタ100のみで構成してもよい。この場合は、車両評価システムは、受信した評価用データを用いて生成処理及び評価処理を行い、評価結果を出力するシステムになる。すなわち、この場合は、車両評価システムは、対象車両10を操作する機能を有していない。
【0098】
・また、例えば、車両コントローラ300の記憶装置320に学習済みモデルのデータを記憶して車両コントローラ300のみで車両評価システムを構成することもできる。この場合、車両コントローラ300において生成処理及び評価処理を実行する。
【0099】
・また、車両コントローラ300を対象車両10の車両制御ユニット20に接続して対象車両10を操作する例を示したが、対象車両10を操作する方法はこうした方法には限らない。例えば、図10に示すように、車両コントローラ300が対象車両10を物理的に操作するアクチュエータ360を設けてもよい。こうした構成の場合、アクチュエータ360によってアクセルペダルやブレーキペダルを操作することによって対象車両10を測定用操作パターンで操作することができる。なお、アクチュエータ360は操作対象を操作することができるものであればよく、ロボットなどであってもよい。
【0100】
・また、車両コントローラ300がマイクロフォン350を備えている例を示したが、車両コントローラ300自体がマイクロフォン350を備えていなくてもよい。測定用操作パターンでの操作を行いながら収録した音データを外部の機器から取得してデータ整形処理や生成処理、評価処理を行うこともできる。
【0101】
・複数のマイクロフォン350を用いて収録した複数の音データを用いて生成処理及び評価処理を行うようにしてもよい。
・測定用操作パターンでの操作を、作業者が実施するようにしてもよい。
【0102】
・4段階の評価ランクで評価する例を示した。評価ランクの数は4つでなくてもよい。例えば、評価ランクの数をより多くしてもよい。また、逆に、評価ランクの数を少なくしてもよい。例えば、程度の良い車両か、程度の悪い車両かの2段階の評価を行うようにしてもよい。
【0103】
・上記の実施形態では、車両評価システムが対象車両10そのものを評価する例を示した。これに対して車両評価システムは、対象車両10における特定のユニットを評価することによって対象車両10の評価を行うものであってもよい。例えば、対象車両10に搭載されている変速機から発せられた音を収録した音データを用いて変速機を評価する車両評価システムであってもよい。
【0104】
・上記実施形態では、車両評価システムは、処理回路110と記憶装置120とを備えて、ソフトウェア処理を実行する。しかしながら、これは例示に過ぎない。例えば、車両評価システムは、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(例えばASICなど)を備えてもよい。すなわち、車両評価システムは、以下の(A)~(C)のいずれかの構成であればよい。(A)車両評価システムは、プログラムに従って全ての処理を実行する実行装置と、プログラムを記憶する記憶装置とを備える。すなわち、車両評価システムは、ソフトウェア実行装置を備える。(B)車両評価システムは、プログラムに従って処理の一部を実行する実行装置と、記憶装置とを備える。さらに、車両評価システムは、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。(c)車両評価システムは、全ての処理を実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、ソフトウェア実行装置、及び/又は、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1つ又は複数のソフトウェア実行装置および1つ又は複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路(processing circuitry)によって実行され得る。プログラムを格納する記憶装置すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0105】
上記実施形態及び変更例は、以下の付記に記載する構成を含む。
[付記1]評価対象の車両である対象車両から発せられる音を収録した音データを用いて前記対象車両を評価する車両評価システムであり、処理回路と、記憶装置とを備え、前記記憶装置に、評価の基準になる状態の基準車両を既定時間に亘る測定用操作パターンで操作しながら収録した訓練用音データと、前記測定用操作パターンにおける操作情報の推移を示す操作データと、を含む訓練用データを用いて前記訓練用音データから前記操作データを生成するように教師有り学習によって訓練した学習済みモデルのデータが記憶されており、前記処理回路は、前記対象車両を前記測定用操作パターンで操作しながら収録した評価用音データを含む評価用データを前記学習済みモデルに入力して生成した前記操作情報のデータである生成データを出力する生成処理と、前記操作データと前記生成データとを比較して前記操作データと前記生成データとのずれの大きさに応じて前記対象車両を評価する評価処理と、を実行する車両評価システム。
【0106】
[付記2]前記学習済みモデルは、前記音データを周波数解析したスペクトログラムの画像データを含む評価用データから前記操作データを生成する[付記1]に記載の車両評価システム。
【0107】
[付記3]前記学習済みモデルは、前記既定時間分のデータから切り出したデータの特徴量を説明変数とし、切り出したデータに対応する時点の前記操作情報を目的変数とするニューラルネットワークである[付記1]又は[付記2]に記載の車両評価システム。
【0108】
[付記4]前記評価処理は、切り出し開始時刻を変更しながら繰り返し切り出したデータのそれぞれについて出力した前記ずれの前記既定時間分の総和を評価指標値として算出する[付記3]に記載の車両評価システム。
【0109】
[付記5]前記評価処理は、前記評価指標値の大きさに応じて区分された複数の評価ランクの中から、前記評価指標値の大きさに応じた評価ランクを選択して出力する[付記4]に記載の車両評価システム。
【0110】
[付記6]前記操作データに、アクセル開度のデータ及びブレーキ油圧のデータが含まれている[付記1]~[付記5]のいずれか一つに記載の車両評価システム。
[付記7]前記訓練用データ及び前記評価用データに、前記音データに加えて、外気温のデータが含まれている[付記1]~[付記6]のいずれか一つに記載の車両評価システム。
【0111】
[付記8]前記訓練用データ及び前記評価用データに、前記音データに加えて、変速比のデータが含まれている[付記1]~[付記7]のいずれか一つに記載の車両評価システム。
【0112】
[付記9]前記対象車両を前記測定用操作パターンで操作する車両コントローラを備えている[付記1]~[付記8]のいずれか一つの車両評価システム。
[付記10]前記車両コントローラが前記車両の運転操作を実現するアクチュエータを備えている[付記9]に記載の車両評価システム。
【0113】
[付記11]前記車両コントローラが前記音データを収録するマイクを備えている[付記9]又は[付記10]に記載の車両評価システム。
[付記12]前記処理回路及び前記記憶装置を備えたデータセンタと、通信ネットワークを通じて前記データセンタに接続された前記車両コントローラと、を含む[付記9]~[付記11]のいずれか一つに記載の車両評価システム。
【符号の説明】
【0114】
10…対象車両
20…車両制御ユニット
21…処理回路
22…記憶装置
30…変速機制御ユニット
31…スロットル開度センサ
32…ブレーキ油圧センサ
33…エアフロメータ
34…クランクポジションセンサ
35…車速センサ
36…水温センサ
37…空燃比センサ
100…データセンタ
110…処理回路
120…記憶装置
130…通信装置
200…通信ネットワーク
300…車両コントローラ
310…処理回路
320…記憶装置
330…通信装置
340…表示装置
350…マイクロフォン
360…アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10