(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電極体製造方法および電極体製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20241112BHJP
F26B 3/28 20060101ALI20241112BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20241112BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20241112BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241112BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20241112BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
F26B3/28
B05C9/14
B05C13/02
B05D7/00 K
B05D3/06 Z
B05D3/12 A
(21)【出願番号】P 2022080805
(22)【出願日】2022-05-17
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰生
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/122601(WO,A1)
【文献】特開2012-202600(JP,A)
【文献】特開2012-097917(JP,A)
【文献】特表2015-515736(JP,A)
【文献】特開2006-138499(JP,A)
【文献】特開2017-133774(JP,A)
【文献】特開2005-342658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
F26B 3/28
B05C 9/14
B05C 13/02
B05D 7/00
B05D 3/06
B05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電極材料が塗工された電極体を搬送部により搬送する搬送工程と、
前記搬送部によって前記電極体を搬送しながら前記電極材料を乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記乾燥工程は、
前記搬送部の搬送方向における少なくとも1つの第1位置に前記電極体が搬送された際に、前記電極材料にレーザを照射することにより前記電極材料を乾燥させる照射工程と、
前記搬送方向において前記第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられる蒸気回収部により、前記電極材料に前記レーザが照射されたことに起因して発生した蒸気を回収する回収工程とを含む、電極体製造方法。
【請求項2】
前記回収工程は、前記電極材料に前記レーザが照射されている最中に、前記電極材料から発生する前記蒸気を前記蒸気回収部により回収することを含む、請求項1に記載の電極体製造方法。
【請求項3】
前記照射工程は、前記搬送方向において互いに離間した複数の前記第1位置の各々において、前記電極材料に前記レーザを照射する工程であり、
前記回収工程は、前記搬送方向において互いに隣り合う前記第1位置同士の間に位置する複数の前記第2位置の各々に配置される前記蒸気回収部により、前記蒸気を回収する工程である、請求項1または2に記載の電極体製造方法。
【請求項4】
前記電極材料は、前記搬送方向における一方側の端部近傍の第1部分と、前記搬送方向における他方側の端部近傍の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間の第3部分とを含み、
前記照射工程は、前記第1部分および前記第2部分の少なくとも一方が前記レーザの照射領域内に位置しているとともに前記第3部分が前記照射領域外に位置している際の前記レーザのエネルギーを、前記第3部分が前記照射領域内に位置している際の前記レーザのエネルギーよりも小さくする工程である、請求項1または2に記載の電極体製造方法。
【請求項5】
前記照射工程は、前記搬送方向と直交する前記搬送部の幅方向において前記レーザの照射領域と前記電極材料の配置領域とを一致させた状態で、前記レーザを前記電極材料に照射する工程である、請求項1または2に記載の電極体製造方法。
【請求項6】
前記照射工程は、前記照射領域の前記幅方向における両端部近傍に対応する前記レーザのエネルギーを、前記照射領域の前記幅方向における中央部に対応する前記レーザのエネルギーよりも小さくした状態で、前記レーザを前記電極材料に照射する工程である、請求項5に記載の電極体製造方法。
【請求項7】
前記照射工程は、前記レーザにより前記電極材料を150度以上に加熱する工程である、請求項1または2に記載の電極体製造方法。
【請求項8】
前記電極体は、箔部と、前記箔部の表面において所定の方向に沿って並んで配置される複数の前記電極材料とを含み、
前記搬送工程は、前記複数の電極材料が前記搬送方向に沿って並んで搬送されるように前記電極体を搬送する工程であり、
前記照射工程は、前記電極材料同士の間の前記箔部の部分が前記レーザの照射領域を通過する際に、前記レーザのエネルギーを0にする工程である、請求項1または2に記載の電極体製造方法。
【請求項9】
少なくとも1つの電極材料が塗工された電極体を搬送する搬送部と、
前記搬送部の搬送方向における少なくとも1つの第1位置に前記電極体が搬送された際に、前記電極材料にレーザを照射することにより前記電極材料を乾燥させるレーザ照射部と、
前記搬送方向において前記第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられ、前記電極材料に前記レーザが照射されたことに起因して発生した蒸気を回収する蒸気回収部と、を備える、電極体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極体製造方法および電極体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-353514号公報(特許文献1)には、巻出し部により繰り出される終電体シートの片面に表面塗工装置により電極活物質のペースト材料が塗工される塗工ラインが開示されている。上記塗工ラインでは、ペースト材料が乾燥室により乾燥される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、塗工されたペースト材料をより効率的に乾燥させるために、ペースト材料をレーザ加熱により乾燥させることが考慮されていない。レーザによってペースト材料を乾燥させる場合、ペースト材料から蒸発した蒸気がレーザ照射を妨げるため、レーザ照射による乾燥の効率が低下する場合がある。したがって、レーザによってペースト材料(電極材料)を乾燥させる場合に、乾燥効率が低下するのを抑制することが望まれている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、レーザによって電極材料を乾燥させる場合に、乾燥効率が低下するのを抑制することが可能な電極体製造方法および電極体製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の局面に係る電極体製造方法は、少なくとも1つの電極材料が塗工された電極体を搬送部により搬送する搬送工程と、搬送部によって電極体を搬送しながら電極材料を乾燥させる乾燥工程と、を備え、乾燥工程は、搬送部の搬送方向における少なくとも1つの第1位置に電極体が搬送された際に、電極材料にレーザを照射することにより電極材料を乾燥させる照射工程と、搬送方向において第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられる蒸気回収部により、電極材料にレーザが照射されたことに起因して発生した蒸気を回収する回収工程とを含む。
【0007】
本開示の第1の局面に係る電極体製造方法では、上記のように、搬送方向において第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられる蒸気回収部により、電極材料にレーザが照射されたことに起因して発生した蒸気が回収される。これにより、第1位置において発生した蒸気が第2位置の蒸気回収部により回収されるので、第1位置における蒸気の量を低減することができる。その結果、蒸気によりレーザが遮られるのを抑制することができるので、レーザによる乾燥効率が低下するのを抑制することができる。
【0008】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、回収工程は、電極材料にレーザが照射されている最中に、電極材料から発生する蒸気を蒸気回収部により回収することを含む。このように構成すれば、レーザ照射中において電極材料の周囲の蒸気を回収することができるので、レーザが電極材料に照射されるのが蒸気により遮られるのを容易に抑制することができる。
【0009】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、照射工程は、搬送方向において互いに離間した複数の第1位置の各々において、電極材料にレーザを照射する工程である。回収工程は、搬送方向において互いに隣り合う第1位置同士の間に位置する複数の第2位置の各々に配置される蒸気回収部により、蒸気を回収する工程である。このように構成すれば、複数の第1位置の各々において発生した蒸気を蒸気回収部により回収することができる。その結果、複数の第1位置の各々において、レーザによる乾燥効率が低下するのを抑制することができる。
【0010】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、電極材料は、搬送方向における一方側の端部近傍の第1部分と、搬送方向における他方側の端部近傍の第2部分と、第1部分と第2部分との間の第3部分とを含み、照射工程は、第1部分および第2部分の少なくとも一方がレーザの照射領域内に位置しているとともに第3部分が照射領域外に位置している際のレーザのエネルギーを、第3部分が照射領域内に位置している際のレーザのエネルギーよりも小さくする工程である。ここで、液状の電極材料が表面に塗布された場合、電極材料の端部近傍(縁部近傍)の厚みは端部近傍以外の部分の厚みよりも小さくなる。したがって、上記のようにレーザのエネルギーを調整することにより、厚みが比較的小さい端部近傍がレーザにより過剰に乾燥されるのを抑制することができる。なお、端部近傍とは、端部そのものと端部の付近の部分との両方を含む領域のことを意味する。
【0011】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、照射工程は、搬送方向と直交する搬送部の幅方向においてレーザの照射領域と電極材料の配置領域とを一致させた状態で、レーザを電極材料に照射する工程である。このように構成すれば、レーザが電極材料以外の部分に照射されるのを抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、照射工程は、上記照射領域の幅方向における両端部近傍に対応するレーザのエネルギーを、上記照射領域の幅方向における中央部に対応するレーザのエネルギーよりも小さくした状態で、レーザを電極材料に照射する工程である。このように構成すれば、厚みが比較的小さい両端部がレーザにより過剰に乾燥されるのを抑制することができる。なお、両端部近傍とは、両端部そのものと両端部の付近の部分との両方を含む領域のことを意味する。
【0013】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、照射工程は、レーザにより電極材料を150度以上に加熱する工程である。ここで、電極材料を150度以上に加熱した場合、電極材料中のフッ素成分(接着成分)が、電極材料と箔部(電極材料が接着される部材)との接着面側から電極材料の表面側に移動する傾向がある。そこで、レーザにより150度まで急峻に(短時間で)加熱することにより、加熱時間が短縮されるので、上記フッ素成分の移動を抑制することができる。
【0014】
上記第1の局面に係る電極体製造方法において、好ましくは、電極体は、箔部と、箔部の表面において所定の方向に沿って並んで配置される複数の電極材料とを含み、搬送工程は、複数の電極材料が搬送方向に沿って並んで搬送されるように電極体を搬送する工程であり、照射工程は、電極材料同士の間の箔部の部分がレーザの照射領域を通過する際に、レーザのエネルギーを0にする工程である。このように構成すれば、箔部に照射されるレーザのエネルギーを0にすることによって、レーザのエネルギーが消費されるのを抑制することができる。
【0015】
本開示の第2の局面に係る電極体製造装置は、少なくとも1つの電極材料が塗工された電極体を搬送する搬送部と、搬送部の搬送方向における少なくとも1つの第1位置に電極体が搬送された際に、電極材料にレーザを照射することにより電極材料を乾燥させるレーザ照射部と、搬送方向において第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられ、電極材料にレーザが照射されたことに起因して発生した蒸気を回収する蒸気回収部と、を備える。
【0016】
本開示の第2の局面に係る電極体製造装置では、上記のように、搬送方向において第1位置と隣り合う少なくとも1つの第2位置に設けられる蒸気回収部により、電極材料にレーザが照射されたことに起因して発生した蒸気が回収される。これにより、第1位置において発生した蒸気が第2位置の蒸気回収部により回収されるので、第1位置における蒸気の量を低減することができる。その結果、蒸気によりレーザが遮られるのを抑制することができるので、レーザによる乾燥効率が低下するのを抑制することが可能な電極体製造装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、レーザによって電極材料を乾燥させる場合に、乾燥効率が低下するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態による電極体製造装置の構成を示す図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った断面図とレーザのエネルギーの空間分布とを示す図である。
【
図4】レーザの照射領域とレーザのエネルギーの空間分布とを示す図である。
【
図5】一実施形態による電極体製造方法を示すフロー図である。
【
図6】電極材料におけるレーザの照射領域とレーザのエネルギーとの関係を示す図である。
【
図7】レーザ照射による電極材料の表面の温度変化を示す図である。
【
図8】レーザ照射後の電極材料のフッ素成分の分布を示す図である。
【
図9】レーザ照射後の電極材料の剥離強度と乾燥炉によって乾燥後の剥離強度(比較例)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中、同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
本願明細書では、X方向およびY方向を、それぞれ、本開示の「搬送方向」および「幅方向」の一例とする。また、Z方向は、X方向およびY方向の各々に直交する方向である。なお、後述のレーザ照射部40は、Z2方向にレーザを照射する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る電極体製造装置100の構成を示す図である。電極体製造装置100では、電極材料1(正極材料または負極材料)(
図2参照)が金属箔2(アルミ箔または銅箔)(
図2参照)に塗工されることにより、電極体10(
図2参照)が製造される。電極材料1は、金属箔2の表面2aにおいて所定の方向(
図2では左右方向)に沿って複数並んで配置されている。なお、電極体10は、たとえば車載のリチウムイオン電池に用いられる。また、金属箔2は、本開示の「箔部」の一例である。
【0022】
(電極体製造装置)
図1に示すように、電極体製造装置100は、塗工部20と、搬送部30と、複数のレーザ照射部40と、複数の蒸気吸引部50とを備える。
図1に示す例では、搬送部30は、電極体10をX2側に搬送している。搬送部30は、電極体10を一定の速度で搬送する。なお、蒸気吸引部50は、本開示の「蒸気回収部」の一例である。
【0023】
塗工部20は、液状の電極材料1を吐出可能に構成されている。塗工部20は、金属箔2の表面2aに液状の電極材料1を塗工(塗布)する。
【0024】
搬送部30は、第1ロール部31と、第2ロール部32と、巻取り部33と、ベルト部34とを含む。ベルト部34は、第1ロール部31および第2ロール部32によって張力が付与されている。また、ベルト部34は、巻取り部33によって巻き取られている。これにより、ベルト部34に載置された電極体10(金属箔2)は、巻取り部33側に移動される。
【0025】
第1ロール部31は、搬送部30の上流側に設けられている。また、第2ロール部32は、第1ロール部31よりも搬送部30の下流側に設けられている。なお、塗工部20は、第1ロール部31を通過中の金属箔2に電極材料1を塗工する。
【0026】
複数のレーザ照射部40は、搬送部30(ベルト部34)が延びる方向に沿って、互いに間隔を隔てて配置されている。複数のレーザ照射部40は、互いに等間隔で配置されていてよい。
【0027】
複数のレーザ照射部40の各々は、ベルト部34に向けてレーザを照射可能に設けられている。複数のレーザ照射部40の各々は、X方向における位置P1に電極体10(電極材料1)が搬送された際に、電極材料1にレーザを照射する。したがって、電極材料1には、レーザが繰り返し照射される。これにより、液状の電極材料1がレーザの熱によって乾燥される。なお、位置P1は、複数のレーザ照射部40の各々のレーザが照射される照射領域Rの位置に対応する。
【0028】
複数の蒸気吸引部50の各々は、X方向において位置P1と隣り合う位置P2に設けられている。複数の蒸気吸引部50のうち最も上流側の蒸気吸引部50は、最も上流側の位置P1に対して上流側(X1側)に設けられている。複数の蒸気吸引部50のうち最も下流側の蒸気吸引部50は、最も下流側の位置P1に対して下流側(X2側)に設けられている。上記の2つの蒸気吸引部50以外の複数の蒸気吸引部50は、互いに隣り合う位置P1同士(レーザ照射部40同士)の間において1つずつ配置されている。
【0029】
複数の蒸気吸引部50の各々は、隣りの位置P1において電極材料1にレーザが照射されたことに起因して発生した蒸気V(
図2参照)を吸引する。なお、蒸気Vは、水蒸気やその他のガスが含有された気体である。なお、位置P1と位置P2との間の距離は、蒸気吸引部50により蒸気Vの吸引が可能な(吸引力が及ぶ)程度の距離である。
【0030】
複数の蒸気吸引部50の各々は、蒸気Vの吸引口51と、蒸気Vの流通管52とを含む。流通管52では、吸引口51から導入された蒸気Vが流通する。吸引口51のX方向における幅W1は、搬送部30側(Z2側)に向かって徐々に大きくなる。具体的には、吸引口51は、搬送部30側に向かって広がるすり鉢形状を有している。言い換えると、吸引口51は、搬送部30とは反対側(Z1側)に向かって窄まる形状を有する。これにより、隣りの位置P1において発生した蒸気Vが吸引口51から吸引されやすくなる。なお、吸引口51と搬送部30(ベルト部34)とはZ方向に所定の距離Dだけ離間している。
【0031】
また、
図3に示すように、Y方向において、レーザの照射領域Rは、電極材料1の配置領域と一致している。言い換えると、レーザの照射領域RにおけるY1側の端部R1のY方向における位置は、電極材料1のY1側の端部1aのY方向における位置と一致している。また、レーザの照射領域RにおけるY2側の端部R2のY方向における位置は、電極材料1のY2側の端部1bのY方向における位置と一致している。したがって、レーザの照射領域RのY方向における幅W2は、電極材料1のY方向における幅W3と等しい。
【0032】
また、Y方向において、電極材料1のZ方向の厚みtは均一でない。具体的には、電極材料1の両端部(1a、1b)近傍の厚みtは、Y方向における電極材料1の中央部1cの厚みtよりも小さい。具体的には、Y方向に沿った断面視(
図3の断面視)において、電極材料1の断面は中央が平らな山型形状を有している。
【0033】
ここで、レーザの照射領域RのY方向における両端部(R1、R2)近傍に対応するレーザのエネルギーは、照射領域RのY方向における中央部R3に対応するレーザのエネルギーよりも小さい。具体的には、
図3に示すようにY方向の位置とレーザのエネルギー量との関係を表すグラフにおいて、レーザのエネルギーの波形は、電極材料1のY方向に沿った断面形状に対応するように中央が平らな山型の波形となる。
【0034】
また、
図4に示すように、レーザの照射領域RのX方向における両端部(R4、R5)近傍に対応するレーザのエネルギーは、照射領域RのX方向における中央部R6に対応するレーザのエネルギーよりも小さい。具体的には、
図4に示すようにX方向の位置とレーザのエネルギー量との関係を表すグラフにおいて、レーザのエネルギーの波形は、X方向に沿った電極材料1の断面形状(図示せず)に対応するように山型の波形となる。また、レーザのエネルギーの波形は、三角形や方型などの波形でもよい。
【0035】
なお、レーザの照射領域RのX方向における幅W4は、照射領域RのY方向における幅W2(
図3参照)よりも小さい。また、照射領域Rは、移動せずに固定されている。また、電極材料1のX方向における幅W5(
図2参照)は、電極材料1のY方向における幅W3(
図2参照)よりも大きい。
【0036】
(電極体製造方法)
次に、
図5~
図7を参照して、電極体製造装置100を用いた電極体10の製造方法について説明する。
【0037】
まず、
図5に示すステップS10では、金属箔2を搬送部30(ベルト部34)に配置し、搬送部30により金属箔2搬送する(搬送を開始する)。
【0038】
次に、ステップS20では、搬送部30により搬送されている金属箔2の表面2aに、複数の電極材料1が塗工部20(
図1参照)により塗工される。この際、複数の電極材料1は、互いに間隔を隔てて表面2aに配置される。これにより、金属箔2の表面2aにおいて複数の電極材料1がX方向に沿って並んで搬送される。
【0039】
次に、ステップS30では、電極体10を搬送部30により搬送しながら、電極材料1を乾燥させる。具体的には、ステップS30では、複数の位置P1の各々に電極体10(電極材料1)が搬送された際に電極材料1にレーザを照射することにより電極材料1を乾燥させる乾燥工程(ステップS31)が行われる。また、ステップS30では、さらに、X方向において位置P1と隣り合う複数の位置P2に設けられる蒸気吸引部50により蒸気Vを吸引する吸引工程(ステップS32)が行われる。なお,吸引工程は、本開示の「回収工程」の一例である。
【0040】
吸引工程(S32)では、電極材料1にレーザが照射されている最中に、電極材料1から発生する蒸気Vが蒸気吸引部50により吸引される。すなわち、照射工程(S31)が行われる期間と、吸引工程(S32)が行われる期間とは、互いにオーバラップしている。なお、蒸気吸引部50による蒸気Vの吸引は、間欠的に行われているのではなく、継続的に行われている。
【0041】
また、
図6に示すように、照射工程(S31)では、レーザ照射部40は、レーザを間欠的に照射している。具体的には、電極材料1同士の間の金属箔2の部分2bがレーザの照射領域R(
図2参照)を通過する際に、レーザのエネルギーが0にされる。そして、レーザの照射領域Rを電極材料1が通過する際にのみレーザが出力される(レーザのエネルギーが0よりも大きくされる)。
【0042】
ここで、電極材料1は、X1側の端部1dの近傍の第1部分1eを含む。また、電極材料1は、X2側の端部1fの近傍の第2部分1gを含む。また、電極材料1は、第1部分1eと第2部分1gとの間の第3部分1hを含む。第3部分1hは、第1部分1eおよび第2部分1gの各々とX方向に隣接する部分である。なお、第1部分1eのX方向における幅W4は、第2部分1gのX方向における幅W5と等しい。第3部分1hのX方向における幅W6は、幅W4および幅W5よりも(たとえば10倍以上)大きい。
【0043】
照射工程(S31)では、第1部分1eまたは第2部分1gがレーザの照射領域R内に位置しているとともに第3部分1hが照射領域R外に位置している際のレーザのエネルギーが、第3部分1hが照射領域R内に位置している際のレーザのエネルギーよりも小さくされる。
【0044】
具体的には、第1部分1eまたは第2部分1gがレーザの照射領域R内に位置しているとともに第3部分1hが照射領域R外に位置している際、レーザのエネルギーは0にされる。なお、この際、レーザのエネルギーを0よりも大きい値にしてもよい。
【0045】
また、第3部分1hが照射領域R内に位置している際、レーザのエネルギーは0よりも大きくされる。詳細には、第3部分1hのうち第2部分1g側の一部である部分1iが照射領域Rを通過している際、レーザのエネルギーが0からEまで増加される。また、第3部分1hのうち第1部分1e側の一部である部分1jが照射領域Rを通過している際、レーザのエネルギーがEから0まで低減される。第3部分1hのうち部分1iと部分1jとの間の部分1kが照射領域Rを通過している際、レーザのエネルギーはEに固定される。
図6に示す例では、レーザのエネルギーは、リニア(1次関数的)に増加(低減)されているが、2次関数的に増加(低減)されてもよい。
【0046】
なお、部分1iのX方向における幅W7は、部分1jのX方向における幅W8と等しい。したがって、レーザのエネルギーの増加に要する時間と、レーザのエネルギーの低減に要する時間とは、互いに等しい。
【0047】
また、照射工程(S31)では、
図7に示すように、レーザにより電極材料1が150℃以上に加熱される。具体的には、電極材料1の表面の温度は、レーザの照射開始から数秒程度で、150℃以上(たとえば155℃程度)となる。なお、電極材料1の表面の温度は、細かい周期(たとえば0.1秒周期程度)で上昇と下降とを繰り返しながら、上記数秒間で徐々に上昇する。なお、電極材料1の表面の温度が細かく上昇と下降とを繰り返すのは、蒸気吸引部50による蒸気Vの吸引によって冷却されるのとレーザ照射により加熱されるのとが交互に繰り返されることに起因する。
【0048】
(評価結果)
図8は、電極材料1の表面(電極材料1と金属箔2との接着面とは反対側)のフッ素成分の分布(
図8の左側)と、電極材料1と金属箔2との接着面のフッ素成分の分布(
図8の右側)とを示す図である。
図8では、ハッチング部分がフッ素成分が存在する領域を示す。この
図8に示されるように、フッ素成分の分布が電極材料1の部分ごとに大きな差がない(均一である)ことが確認された。したがって、電極材料1と金属箔2との接着面側のフッ素成分の量が過度に低下することに起因して電極材料1と金属箔2との接着性が過度に低下するのが抑制されていることが確認された。また、電極材料1の表面側にフッ素成分が過度に偏斥されるのが抑制されているので、上記表面と上記表面に積層される層との間の電気的な抵抗が過度に大きくなるのが抑制されていることが確認された。
【0049】
図9は、レーザの走査速度ごと(0.2m/s、0.3m/s、および、0.5m/s)の電極材料1の剥離強度と、乾燥炉により電極材料1を乾燥させた場合の剥離強度(比較例)とを示す図である。なお、走査速度は、上記実施形態における搬送部30の搬送速度に対応する。いずれの走査速度の剥離強度も、乾燥炉による剥離強度よりも大きいことが確認された。また、レーザの走査速度が最も大きい0.5m/sの場合の剥離強度が最も大きいことが確認された。なお、剥離強度とは、金属箔2に対する電極材料1の接着強度を意味する。
【0050】
以上のように、本実施形態においては、乾燥工程(S30)は、位置P1に電極体10(電極材料1)が搬送された際に、電極材料1にレーザを照射することにより電極材料1を乾燥させる照射工程(S31)と、位置P2に設けられる蒸気吸引部50により蒸気Vを吸引する吸引工程(S32)とを含む。これにより、位置P1において発生した蒸気Vが位置P2側に吸引されるので、位置P1に蒸気Vが滞留するのを抑制することができる。その結果、レーザが電極材料1に照射されるのが蒸気Vによって妨げられるのを抑制することができる。
【0051】
また、電極材料1の乾燥(昇温)にレーザを使用している場合、ヒータ等を使用する場合と異なり、器具(この場合、レーザ照射部40)自体の温度が上昇することがない。これにより、器具の冷却のための機構(たとえば水冷機構または空冷機構)を設ける必要がないので、装置(設備)の構成を簡略化することができるとともに部品点数を低減することができる。
【0052】
また、赤外線ヒータを用いて電極材料1を乾燥させる場合、赤外線ヒータからパイロセンサにより測定される波長を有する赤外線が出力されるため、電極材料1の温度測定が不可能である。これに対し、レーザを用いた場合、上記のような赤外線の出力がないので、電極材料1の温度測定が可能である。これにより、測定温度に基づいたフィードバック制御が可能であるので、電極材料1の温度を精度良く調整することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、複数の位置P1においてレーザを電極材料1に照射し、複数の位置P2に蒸気吸引部50が設けられる例を示したが、本開示はこれに限られない。1つの位置P1においてレーザが照射され、上記1つの位置P1と隣り合う1つの位置P2に蒸気吸引部50が設けられていてもよい。
【0054】
なお、上記実施形態に記載されている構成、および、上記の各種変形例は、任意に組み合わされて実施されてもよい。
【0055】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 電極材料,1d、1f 端部(電極材料の端部),1e 第1部分,1g 第2部分,1h 第3部分,2 金属箔(箔部),2a 表面(金属箔の表面),2b 部分(金属箔の部分),10 電極体,30 搬送部,40 レーザ照射部,50 蒸気吸引部(蒸気回収部),100 電極体製造装置,P1 位置(第1位置),P2 位置(第2位置),R 照射領域,R1、R2 端部(照射領域の端部),R3 中央部(照射領域の中央部),V 蒸気,X 方向(搬送方向),Y 方向(幅方向)。