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7586138車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てる方法、装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てる方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20241112BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20241112BHJP
   G06Q 50/40 20240101ALI20241112BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G05D1/00
G06Q50/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022081063
(22)【出願日】2022-05-17
(65)【公開番号】P2023169753
(43)【公開日】2023-11-30
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 博充
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健文
(72)【発明者】
【氏名】原田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏充
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-064218(JP,A)
【文献】特開2021-015565(JP,A)
【文献】特開2021-026696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0062267(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G05D 1/00 - 1/87
G06Q 10/00 - 10/30
G06Q 30/00 - 30/08
G06Q 50/00 - 50/20
G06Q 50/26 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対する遠隔作業をコンピュータにより遠隔作業者に割り当てる方法であって、
依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することと、
前記依頼された遠隔作業が前記第1種の作業である場合、空き遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、
前記依頼された遠隔作業が前記第2種の作業である場合、既に前記第2種の作業に従事している従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、を含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることは、複数人の従業中遠隔作業者のそれぞれが従事している前記第2種の作業の内容と前記依頼された遠隔作業の内容とに基づいて、前記複数人の従業中遠隔作業者の中から前記依頼された遠隔作業を割り当てる従業中遠隔作業者を選択することを含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることは、上限数未満の数の前記第2種の作業に従事中の従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることを含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記依頼された遠隔作業が前記第2種の作業であり、前記上限数未満の数の前記第2種の作業に従事している従業中遠隔作業者がいない場合、空き遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てること、をさらに含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記依頼された遠隔作業が前記第1種の作業であり、空き遠隔作業者いない場合、複数人の従業中遠隔作業者のうちの一部の従業中遠隔作業者が従事している前記第2種の作業を残りの従業中遠隔作業者に割り当て直すことと、
前記第2種の作業の割り当て直しにより空いた遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、をさらに含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項6】
車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てる装置であって、
少なくとも1つのプロセッサと、
実行可能な複数のインストラクションを記憶したプログラムメモリと、を備え、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することと、
前記依頼された遠隔作業が前記第1種の作業である場合、空き遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、
前記依頼された遠隔作業が前記第2種の作業である場合、既に前記第2種の作業に従事している従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする、装置。
【請求項7】
車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てるプログラムであって、
依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することと、
前記依頼された遠隔作業が前記第1種の作業である場合、空き遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、
前記依頼された遠隔作業が前記第2種の作業である場合、既に前記第2種の作業に従事している従業中遠隔作業者に前記依頼された遠隔作業を割り当てることと、をコンピュータに実行させるように構成されている
ことを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てる方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に対して遠隔地からの作業、例えば、運転、指示、支援、或いは監視を提供する技術が知られている。特許文献1には、1人の遠隔作業者が複数台の車両を担当することを前提にした技術(以下、従来技術という)が開示されている。従来技術では、遠隔作業者が担当する複数台の車両の中の1台に対して遠隔操縦が必要になった場合、他の車両に対して遠隔操縦を回避するための自律走行が命令される。
【0003】
1台の車両に対する遠隔操縦が短時間で終了する作業であれば、特に支障は生じないかもしれない。しかし、遠隔作業者が長時間従事しなければならない作業であった場合、上記従来技術では不都合が生じる。なぜなら、遠隔作業者が1台の車両の遠隔操縦に長時間従事していると、その間に他の車両において何らかの遠隔作業が必要とされる事態が発生するかもしれないからである。遠隔操縦中に他の車両に対する遠隔作業の依頼を受けたとしても、遠隔作業者はその依頼を処理することはできない。よって、多くの車両に対する遠隔作業を遅滞なく処理するためには、その数に見合っただけの多くの遠隔作業者を揃えねばならない。モビリティサービスを安価に提供する上では、遠隔作業者の必要人数を抑えることによって人件費を削減することは重要な課題である。
【0004】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特許文献1の他にも特許文献2及び特許文献3を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-144732号公報
【文献】特開2018-142265号公報
【文献】特開2019-185279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものである。本開示は、車両に対する遠隔作業をできるだけ少ない人数の遠隔作業者で処理できるようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は車両に対する遠隔作業をコンピュータにより遠隔作業者に割り当てる方法を提供する。
【0008】
本開示の方法は、以下のステップを含む。第1のステップは、依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することを含む。第2のステップは、依頼された遠隔作業が第1種の作業である場合、依頼された遠隔作業を空き遠隔作業者に割り当てることである。そして、第3のステップは、依頼された遠隔作業が第2種の作業である場合、既に第2種の作業に従事している遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることである。
【0009】
本開示の方法によれば、第1種の作業に該当する遠隔作業と第2種の作業に該当する遠隔作業とは別々の遠隔作業者に割り当てられる。特に、第2種の作業に該当する遠隔作業は、既に第2種の作業に従事している作業者に対して優先的に割り当てられる。これにより、遠隔作業者一人あたりの単位時間あたりの平均処理作業数を増加させ、必要とされる遠隔作業者の数を減らすことができる。
【0010】
第2種の作業には内容の異なる複数種類の遠隔作業が含まれる。そして、遠隔作業者が第2種の作業に該当する複数の遠隔作業を処理する場合、遠隔作業者の負荷は各遠隔作業の内容に依存する。ゆえに、上記第3のステップの既に第2種の作業に従事している遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることは、複数の遠隔作業者のそれぞれが従事している第2種の作業の内容と依頼された遠隔作業の内容とに基づいて、既に第2種の作業に従事している複数の遠隔作業者の中から依頼された遠隔作業を割り当てる遠隔作業者を選択することを含んでもよい。
【0011】
第2種の作業に該当する遠隔作業であれば遠隔作業者は同時に複数の遠隔作業を処理できるにしても、一人の遠隔作業者が処理できる遠隔作業の数には限度がある。ゆえに、上記第3のステップの既に第2種の作業に従事している遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることは、上限数未満の数の第2種の作業に従事中の遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることを含んでもよい。ただし、依頼された遠隔作業が第2種の作業であり、上限数未満の数の第2種の作業に従事している遠隔作業者がいない場合、空き遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当ててもよい。
【0012】
なお、全ての遠隔作業者に遠隔作業が割り当てられ、空き遠隔作業者いなくなる場合が想定される。そのような状況で依頼された遠隔作業が第1種の作業である場合、既に第2種の作業に従事している複数の遠隔作業者のうちの一部の遠隔作業者が従事している第2種の作業を残りの遠隔作業者に割り当て直してもよい。そして、第2種の作業の割り当て直しにより空いた遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てるようにしてもよい。
【0013】
本開示は車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てる装置を提供する。
【0014】
本開示の装置は、少なくとも1つのプロセッサと、実行可能な複数のインストラクションを記憶したプログラムメモリとを備える。その複数のインストラクションは少なくとも1つのプロセッサに以下の処理を実行させるように構成されている。第1の処理は、依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することである。第2の処理は、依頼された遠隔作業が第1種の作業である場合、空き遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることである。そして、第3の処理は、依頼された遠隔作業が第2種の作業である場合、既に第2種の作業に従事している遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることである。
【0015】
本開示は車両に対する遠隔作業を遠隔作業者に割り当てるプログラムを提供する。
【0016】
本開示のプログラムはコンピュータに以下の処理を実行させるように構成されている。第1の処理は、依頼された遠隔作業を、1人の遠隔作業者に対して同時に1つ作業のみ割り当て可能な第1種の作業と、1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な第2種の作業とに分類することである。第2の処理は、依頼された遠隔作業が第1種の作業である場合、空き遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることである。そして、第3の処理は、依頼された遠隔作業が第2種の作業である場合、既に第2種の作業に従事している遠隔作業者に依頼された遠隔作業を割り当てることである。なお、本開示のプログラムはコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録してもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した通り、本開示の方法、装置、及びプログラムによれば、遠隔作業者一人あたりの単位時間あたりの平均処理作業数を増加させることで、車両に対する遠隔作業をできるだけ少ない人数の遠隔作業者で処理できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法の基本ルールについて説明する図である。
図2】本開示の実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法の基本ルールについて説明する図である。
図3】本開示の実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法の基本ルールについて説明する図である。
図4】本開示の実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法の例外ルールについて説明する図である。
図5】本開示の実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法の例外ルールについて説明する図である。
図6】本開示の実施形態に係る遠隔作業割り当て装置の構成の一例を示すブロック図である。
図7】本開示の実施形態に係る遠隔作業割り当て装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図8図6のように構成された遠隔作業割り当て装置により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0020】
1.遠隔作業の割り当て方法
1-1.概要
車両に対する遠隔作業を実施する最大の目的は人件費の削減である。従来は1台の車両に必ず1人の運転手が乗車していることがモビリティサービスの提供の前提であった。しかし、自動運転技術や遠隔通信技術を用いて一人の遠隔作業者が複数台の車両を管理できるのであれば、人件費の削減が達成され、安価なモビリティサービスの提供につながる。
【0021】
しかし、一人の遠隔作業者は同時に1台までしか遠隔作業を行えない可能性も考えられる。例えば、自動運転レベルがレベル4以下の自動運転車は、その性能や機能によっては遠隔作業者による指示や支援、或いは代理運転を必要とされる。そのような自動運転車を用いて安全且つ安心なモビリティサービスを提供するためには、遠隔作業者が同時に遠隔作業を行う車両は1台のみであるべきと考えられる。ゆえに、レベル4以下の自動運転を用いたモビリティサービスを提供する上では、相応の人数の遠隔作業者が必要とされる。
【0022】
一方で、車両に対する遠隔作業には、例えば無人運転車両の車内監視のような監視業務も含まれる。車内トラブルを未然に防ぐための監視業務の場合、必ずしも1人の遠隔作業者が同時に1台の遠隔監視しかできないわけではない。トラブルが発生していない平時においては、遠隔作業者は同時に複数台の監視を行うことができる。つまり、遠隔作業には、自動運転車に対する遠隔支援のように1人の遠隔作業者に対して同時に1つの作業しか割り当てることができない遠隔作業と、遠隔監視のように1人の遠隔作業者に対して同時に複数の作業を割り当て可能な遠隔作業とが含まれる。本出願においては、前者の遠隔作業は第1種の作業、或いは1対1作業と称され、後者の遠隔作業は第2種の作業、或いは1対N作業(Nは任意の自然数を意味する)と称される。
【0023】
本実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法では、上記2種類の遠隔作業が判別され、遠隔作業の種類に応じて遠隔作業者の割り当て方が異ならされる。具体的には、新たに依頼された遠隔作業が1対1作業である場合、その遠隔作業は空いている遠隔作業者に割り当てられる。しかし、新たに依頼された遠隔作業が1対N作業である場合、その遠隔作業は既に別の1対N作業に従事している遠隔作業者に対して優先的に割り当てられる。これにより、1人の遠隔作業者が1台の車両を担当することによる安全且つ安心なモビリティサービスを提供しながら、1人の遠隔作業者が複数台の車両を管理することによる人件費の削減が可能となる。
【0024】
以下は典型的な遠隔作業の例である。
【0025】
(A)遠隔運転
遠隔運転は、遠隔作業者がステアリング、ペダル、シフトレバー、ウィンカー等の操作を遠隔地にある運転席を模したコクピットから行う作業である。
【0026】
(B)遠隔指示
遠隔指示は、車載センサの情報に基づいて遠隔作業者が遠隔地から車両に対して指示を出す作業である。例えば、遠隔作業者が車両から送信されるカメラ画像を見て「道なりに直進しろ」と指示を出すと、車両は交通ルールを守りながら自律的に道に沿って走行する。また、自動運転システムが逆光により信号機を認識できてない場合、遠隔作業者がそのカメラ画像を見て点灯しているランプの色を判別し、自動運転システムが有する信号機の認識情報をアップデートする。
【0027】
(C)遠隔支援
遠隔支援は、車載センサの情報に基づいて遠隔作業者が遠隔地から車両に対して支援を行う作業である。例えば、自車両と対向車線から来た車両とがほぼ同時に信号のない交差点に到着し、お互いに右折を行う場合、いずれの車両から発進すべきか自律判断することが難しい場合がある。そのような時、遠隔作業者は、車載カメラ画像から「対向車両の運転手が発進しそうだ」「対向車両の運転手が先に行けと身振りで合図しているから発進してもよい」などの経験や知識に基づいた判断を行い、その判断に従って車両に対して運転行動を通知する。
【0028】
(D)遠隔監視
遠隔監視は、遠隔作業者が車載カメラを見て、異常がないか、トラブルがないか、危険がないかを監視し、必要に応じて注意喚起、或いは警察又は消防への連絡などの対応をする作業である。
【0029】
(E)遠隔通話
遠隔通話は、遠隔作業者が車載されたインターホンなどの通信装置、或いは通話装置を用いて利用者と応答する作業である。例えば、バスの行き先、料金などの質問に関して答えることが想定される。
【0030】
上記の5種類の遠隔作業のうち遠隔運転、遠隔指示及び遠隔支援に関しては、作業を安全に遂行するために1人の遠隔作業者は同時に1つの作業のみに従事すべきと考えられる。ゆえに、遠隔運転、遠隔指示及び遠隔支援は1対1作業(第1種の作業)に分類される。一方で、遠隔監視に関しては、緊急性が低く現時点で異常がない場合には、1人の遠隔作業者は同時に複数の監視作業を行っても支障はないと考えられる。ゆえに、遠隔監視は1対N作業(第2種の作業)に分類される。遠隔通話に関しては、遠隔監視と同様に緊急性が低い場合があるものの、同時に2つの応対をすることは困難である。ゆえに、遠隔通話は1対N作業となる場合もあれば、1対1作業になる場合もある。
【0031】
なお、本実施形態に係る遠隔作業の割り当て方法が適用される車両は自動運転車両には限定されない。遠隔作業を要する車両であれば、手動運転車両でもよいし、個人所有車両でもよいし、MaaS車両でもよい。遠隔監視の対象となる車両には、例えば手動運転バスと自動運転バスが含まれる。
【0032】
1-2.具体例
以下、遠隔作業の割り当て方法の具体例について図1乃至図5を用いて説明する。詳しくは、図1乃至図3は遠隔作業の割り当て方法の基本ルールを説明するための図であり、図4及び図5は遠隔作業の割り当て方法の例外ルールを説明するための図である。
【0033】
図1には、複数台の車両4に対する遠隔作業を複数人の遠隔作業者2で処理している例が示されている。車両4は遠隔作業を要する車両であればその種類には限定はない。車両4には、1対1作業のみを依頼する車両、1対N作業のみを依頼する車両、1対1作業と1対N作業の両方を依頼する車両が含まれる。個々の車両を区別する場合には、例えば車両4A,4B,4C,4D,4E,4F,4Gのように各車両を識別する識別子が用いられる。
【0034】
遠隔作業者2は、遠隔地に配置されたコクピットから遠隔作業を行う。個々の遠隔作業者を区別する場合には、例えば遠隔作業者2A,2B,2C,2D,2Eのように各遠隔作業者を識別する識別子が用いられる。コクピットと車両4とは無線通信システムを含む通信ネットワークで接続される。コクピットは、遠隔運転、遠隔指示、遠隔支援、遠隔監視、及び遠隔通話のどの遠隔作業にも対応できるように造られている。
【0035】
遠隔作業の割り当ては遠隔作業割り当て装置10によって行われる。遠隔作業割り当て装置10の機能及びハードウェア構成については追って説明する。図1では、車両4と遠隔作業者2とが遠隔作業割り当て装置10を通る矢印線で接続されている。各矢印線は、遠隔作業割り当て装置10によって決定された遠隔作業の割り当てを示している。1対1作業に属する遠隔作業は黒い矢印線で示され、1対N作業に属する遠隔作業は白い矢印線で示されている。
【0036】
図1に示す例では、車両4Aに対する1対1作業は遠隔作業者2Aによって処理され、車両4Bに対する1対1作業は遠隔作業者2Bによって処理されている。車両4Cに対する1対N作業と、車両4Dに対する1対N作業とは遠隔作業者2Dによって同時に処理されている。また、車両4Eに対する1対N作業と、車両4Fに対する1対N作業と、車両4Gに対する1対N作業とは遠隔作業者2Eによって同時に処理されている。遠隔作業者2Cは空いている遠隔作業者である。
【0037】
図2に示す例では、新たに車両4Hに対する1対1作業が依頼されている。遠隔作業割り当て装置10は、遠隔作業の割り当て方法の基本ルールに従い、車両4Hに対する1対1作業を空いている遠隔作業者2Cに割り当てる。一方、図3に示す例では、新たに車両4Hに対する1対N作業が依頼されている。遠隔作業割り当て装置10は、遠隔作業の割り当て方法の基本ルールに従い、空いている遠隔作業者2Cではなく、既に1対N作業に従事している遠隔作業者2Dに新たに依頼された1対N作業を割り当てる。これにより遠隔作業者2Cを空いたままにしておくことができる。なお、本開示では、1対1作業ではなく、1対N作業に従事している遠隔作業者を従業中遠隔作業者と呼んでいる。
【0038】
図4に示す例では、車両4Hから1対N作業が依頼された後、新たに車両4Jから1対N作業が依頼されている。遠隔作業の割り当て方法の基本ルールによれば、車両4Jに対する1対N作業は、既に1対N作業に従事している遠隔作業者に割り当てられる。しかし、遠隔作業者2Dと遠隔作業者2Eには、既にそれぞれ3つの1対N作業が割り当てられている。この具体例では、1人の遠隔作業者2が同時に処理できる1対N作業の上限数を3つとする。ゆえに、車両4Jに対する1対N作業は、遠隔作業者2Dにも遠隔作業者2Eにも割り当てることはできない。この場合、遠隔作業割り当て装置10は、遠隔作業の割り当て方法の例外ルールに従い、空いている遠隔作業者2Cに新たに依頼された1対N作業を割り当てる。
【0039】
なお、上記の3つという上限数はあくまでも一例である。上限数を決定する1つの方法は、遠隔作業の習熟度に応じて遠隔作業者ごとに決定することである。例えば、遠隔カメラによる監視作業である場合、その経験が浅い遠隔作業者の場合は上限数を小さくし(例えば2)、経験を積んだ遠隔作業者の場合は上限数を大きくしてもよい(例えば5)。
【0040】
また、上限数を作業可能ポイントとみなし、作業可能ポイントまでは同時に複数の作業を行えるものとみなす方法が考えられる。例えば、遠隔監視の作業ポイントが1である場合、作業可能ポイントが5の遠隔作業者は5つまで遠隔監視に従事可能である。しかし、遠隔通話の作業ポイントを3とすると、作業ポイントが5の遠隔作業者の現在の作業ポイントが2である場合、その遠隔作業者には遠隔通話を割り当てることはできない。つまり、各遠隔作業者が既に従事している1対N作業の内容と、新たに依頼された1対N作業の内容とに基づいて、新たに依頼された1対N作業を割り当てる遠隔作業者が決定されることになる。
【0041】
作業ポイントは遠隔作業の種類毎に固定的に割り振られていてもよいし、或いは状況に応じて動的に変更されてもよい。例えば遠隔監視の場合、カメラ映像中に写っている乗客の数が5人以下であれば、簡単な作業であるとみなして作業ポイントを小さな値(例えば1)としてもよい。乗客の数が5人よりも多い場合、複雑な状況になったのでより注意を払わなければならないとみなして作業ポイントを大きな値(例えば2)としてもよい。
【0042】
図5に示す例では、車両4Jから1対N作業が依頼された後、新たに車両4Kから1対1作業が依頼されている。遠隔作業の割り当て方法の基本ルールによれば、車両4Kに対する1対1作業は、空いている遠隔作業者に割り当てられる。しかし、車両4Jに対する1対N作業が遠隔作業者2Cに割り当てられた時点で全ての遠隔作業者2が埋まり、空いている遠隔作業者はいなくなっている。
【0043】
1対1作業は1対N作業に比較して交通流に与える影響が大きい遠隔作業であるので、遠隔作業割り当て装置10は、遠隔作業の割り当て方法の例外ルールに従い、1対N作業の割り当て数が上限数を超えることを許容し、強制的に遠隔作業者の空きを作り出す。図5に示す例では、遠隔作業者2Cが従事している1対N作業が遠隔作業者2Dに割り当て直される。そして、空いた遠隔作業者2Cに車両4Kに対する1対1作業が割り当てられる。なお、1対N作業の割り当て直しにより空きにされる遠隔作業者は、遠隔作業者2Dでもよいし遠隔作業者2Eでもよい。
【0044】
以上のような方法で遠隔作業の割り当てを行うことによって、1対N作業を少数の遠隔作業者で実施するような遠隔作業者の最適配置が実現可能となる。その結果、少ない人件費で多くの車両4を管理することが可能となり、コストを抑えたモビリティサービスの提供が実現される。
【0045】
2.遠隔作業割り当て装置
2-1.遠隔作業割り当て装置の構成
図6は遠隔作業割り当て装置10の構成の一例を示すブロック図である。遠隔作業割り当て装置10は、遠隔作業依頼取得部11、作業種別判定部12、割り当て判定部13、及び遠隔作業者情報データベース15を備える。
【0046】
遠隔作業依頼取得部11は、車両4に対する遠隔作業の依頼を取得するように構成されている。遠隔作業の依頼元と依頼事項は、遠隔作業の種類によって異なる。
【0047】
(A)遠隔運転
遠隔作業の依頼元は車両4である。依頼事項は車両4を遠隔運転することである。例えば、運転手の居眠りや酒気帯び運転を車両4に備え付けられたドライバモニタが検出し、遠隔運転を遠隔作業者に依頼する。遠隔作業者は安全な場所まで車両4を移動させるなどの状況に応じた作業を行う。
【0048】
(B)遠隔指示、及び(C)遠隔支援
遠隔作業の依頼元は車両4の自動運転システムである。依頼事項は周辺状況を判断することと、運転行動について指示すること或いは運転行動を支援することである。例えば、自動運転レベルがレベル4以下の車両では、自律判断を下せない複雑な状況に陥る、逆光で信号の色が認識できなくなるなど、車両4の環境条件が自律走行できる条件から外れてしまう場合がある。そのような場合、車載カメラの様子を遠隔作業者に伝え、発進可否の判断と指示或いは支援を仰ぐことが行われる。車両4は遠隔作業者からの指示或いは支援に従って走行する。
【0049】
(D)遠隔監視
遠隔作業の依頼元は車両4又は車両4を監視するサーバである。依頼事項は車載カメラによる目視確認である。例えば、車載カメラによって異常(走行中に人が立ち上がる、予定時刻を過ぎても車両4が出発しないなど)が検出されたとき、車両4は事業者に対して異常がおきていることを通知する。或いは、サーバが一定時間間隔で車両状態を確認するため、一定時間が経過するたびに遠隔作業者に対して車載カメラによる目視確認を依頼する。
【0050】
(E)遠隔通話
遠隔作業の依頼元は車両4又はMaaS事業者のインフラ設備である。依頼事項は利用者への応対である。例えば、MaaS車両やバス停などのインフラ設備に備え付けられたインターホンを通じて呼び出しがあった場合、遠隔作業者はその問い合わせに対応する。
【0051】
遠隔作業の依頼には、遠隔作業を提供する車両を特定するための情報が付加されていてもよい。車両を特定するための情報には、例えば、車両管理ID、位置情報、車両状態(速度、自動運転か手動運転か、ドライバ状態)などの情報が含まれる。
【0052】
作業種別判定部12は、依頼された遠隔作業が1対1作業か1対N作業であるかを判定するように構成されている。判定方法の1つの例は、遠隔運転、遠隔指示、遠隔支援、遠隔監視、及び遠隔通話のそれぞれが1対1作業と1対N作業のどちらに該当するかを予め定めておくことである。例えば、遠隔監視は1対N作業であり、それ以外の遠隔作業は1対1作業であると定めておいてもよい。
【0053】
判定方法の別の例は、緊急性に応じて1対1作業と1対N作業のどちらであるか動的に判定することである。例えば、周辺に他者がいる場合に比べて、周辺に他者が皆無の場合は緊急性が低い。そこで前者を1対1作業、後者を1対N作業と判定してもよい。また、インターホンが押されたがカメラには人の顔が写っていない場合、誤操作と判断できる。この場合の緊急性は低いので1対N作業と判定してもよい。逆光で信号の色が確認できないが、他の車両の動きから赤信号だと判断できる場合がある。この場合も緊急性は低いので1対N作業と判定してもよい。
【0054】
遠隔作業者情報データベース(DB)15は、遠隔作業者2に関する情報を収めているデータベースである。遠隔作業者情報データベース15は、遠隔作業者2のそれぞれについて、遠隔作業に従事しているかどうか、遠隔作業に従事しているのであれば1対1作業と1対N作業のどちらに従事しているかが分かるように構成されている。また、遠隔作業者情報データベース15は、遠隔作業者2のそれぞれについて、1対N作業に従事しているのであればその作業数と各作業の内容が分かるようにも構成されている。
【0055】
割り当て判定部13は、作業種別判定部12で判定された遠隔作業の種別と、遠隔作業者情報データベース15に登録されている遠隔作業者情報とに基づいて、依頼された遠隔作業を割り当てる遠隔作業者2を決定するように構成されている。遠隔作業の割り当て方法の基本ルールによれば、依頼された遠隔作業が1対1作業である場合は、空いている遠隔作業者が割り当て先として決定される。依頼された遠隔作業が1対N作業である場合は、既に1対N作業に従事している遠隔作業者に対して優先的に割り当てが行われる。ただし、遠隔作業者が従事している1対N作業の数が同時作業の上限数に達している場合には、空いている遠隔作業者に対して新たな1対N作業の割り当てが行われる。
【0056】
遠隔作業依頼取得部11、作業種別判定部12、割り当て判定部13、及び遠隔作業者情報データベース15は、1つのコンピュータの機能或いは複数のコンピュータからなるシステムの機能として実現することができる。例えば、遠隔作業割り当て装置10がコンピュータである場合、それらの機能は図7に示すハードウェア構成によって実現することができる。図7は遠隔作業割り当て装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0057】
遠隔作業割り当て装置10は、例えば、移動体通信システムを含む通信ネットワーク20を介して車両4及び遠隔作業者2と接続されている。遠隔作業割り当て装置10は、少なくとも1つのプロセッサ101(以下、単にプロセッサ101と表記する)と、プログラムメモリ102と、データストレージ103とを備える。プロセッサ101はプログラムメモリ102及びデータストレージ103に結合されている。プログラムメモリ102は実行可能な複数のインストラクション104を記憶する非一時的な記憶媒体である。データストレージ103は例えばフラッシュメモリやSSDやHDDであって、前述の遠隔作業者情報データベース15が構築されている。複数のインストラクション104は、遠隔作業割り当て装置10を遠隔作業依頼取得部11、作業種別判定部12、割り当て判定部13、及び遠隔作業者情報データベース15として機能させるインストラクションを含む。
【0058】
2-2.遠隔作業割り当て装置による処理
次に、上記のように構成された遠隔作業割り当て装置10により実行される処理について図8を用いて説明する。図8は遠隔作業割り当て装置10により実行される処理の一例を示すフローチャートである。ただし、以下のフローチャートは遠隔作業の割り当て方法の基本ルールを示し、例外ルールについては省略されている。
【0059】
ステップS101では、遠隔作業依頼取得部11により遠隔作業の依頼が取得される。遠隔作業の依頼元と依頼事項は遠隔作業の種類によって異なっている。遠隔作業の種類には、遠隔運転、遠隔指示、遠隔支援、遠隔監視、及び遠隔通話が含まれる。
【0060】
ステップS102では、依頼された遠隔作業の種別についての判定が作業種別判定部12により行われる。作業種別判定部12により、依頼された遠隔作業が1対1作業と1対N作業のどちらであるかが判定される。
【0061】
続いてステップS103では、作業種別判定部12による判定結果が割り当て判定部13によって確認される。依頼された遠隔作業が1対1作業である場合、割り当て判定部13はステップS104の処理を行う。依頼された遠隔作業が1対N作業である場合、割り当て判定部13はステップS105の処理を行う。
【0062】
ステップS104では、割り当て判定部13によって遠隔作業者情報データベース15が検索され、遠隔作業に従事していない遠隔作業者に関する情報が検索結果として得られる。割り当て判定部13は、遠隔作業に従事していない遠隔作業者に対して依頼された1対1作業を割り当てる。
【0063】
ステップS105では、割り当て判定部13によって遠隔作業者情報データベース15が検索され、既に1対N作業に従事している遠隔作業者に関する情報が検索結果として得られる。割り当て判定部13は、既に1対N作業に従事している遠隔作業者に対して依頼された1対N作業を割り当てる。
【0064】
3.他の実施形態
図1乃至図5においては、1台の車両が依頼する作業は“1つの1対1作業”あるいは“1つの1対N作業”として描画されている。しかし、これは本開示の方法及び装置の実施形態の一例にすぎない。つまり、1台の車両から“複数の1対1作業”あるいは“複数の1対N作業”が依頼されてもよいし、“1対1作業”と“1対N作業”とが同時刻に依頼されてもよい。例えば、遠隔指示のもと走行している車両の内部から、乗客からの問い合わせがあった場合を想定すると、同時刻に2つの1対1作業が依頼されていることになる。また、例えば、ある1台の車両のドア付近の遠隔監視と、車室内の遠隔監視とが同時刻に依頼された場合を想定すると、それは同時刻に2つの1対N作業が依頼されていることになる。
【符号の説明】
【0065】
2 遠隔作業者
4 車両
10 遠隔作業割り当て装置
15 遠隔作業者情報データベース
20 通信ネットワーク
101 プロセッサ
102 プログラムメモリ
104インストラクション
103 データストレージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8