(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】蛍光導光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/055 20140101AFI20241112BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20241112BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20241112BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01L31/04 622
C09K11/08 Z
G02B5/20
G02B6/00 Z
(21)【出願番号】P 2022094020
(22)【出願日】2022-06-09
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106330084(CN,A)
【文献】特開2019-169491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0111360(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0060897(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0171773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H10K 30/00-99/00
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の面と、第二の面と、前記第一及び第二の面の周縁を接続する縁面とにより画定された蛍光導光板にして、その内部に太陽光の少なくとも一部の成分を吸収して蛍光を放出する量子ドットが分散され且つ外部と屈折率が異なる材料から形成された板状構造を有し、前記第一の面から太陽光が入射すると、前記量子ドットから放出される前記蛍光が前記縁面に集光されて出射する蛍光導光板を製造する方法であって、
有機溶媒中に凝集防止剤にて被覆された量子ドットと樹脂材料とが分散されている量子ドット-樹脂溶液を準備する第一の工程と、
前記量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に伸展して前記有機溶媒を蒸発させ、前記樹脂材料を硬化させて前記量子ドットが分散された厚みが1mmより薄い樹脂薄膜を形成する第二の工程と、
複数枚の前記樹脂薄膜が積層されて前記板状構造が形成されるように複数枚の前記樹脂薄膜を積層する第三の工程と
を含む方法。
【請求項2】
請求項
1の方法であって、前記第二の工程に於いて、透明又は透光性のフィルム材上に前記量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に塗工して前記樹脂薄膜を形成し、前記第三の工程に於いて、前記樹脂薄膜が形成されている前記フィルム材を積層することにより前記板状構造を形成する方法。
【請求項3】
請求項
2の方法であって、前記第二の工程に於いて形成された前記樹脂薄膜上に透明又は透光性のフィルム材を積層し、その積層された前記フィルム材上に前記量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に塗工して前記樹脂薄膜を形成することを繰返すことにより前記樹脂薄膜を積層して前記板状構造を形成する方法。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかの方法であって、更に、前記板状構造の形成後に、前記板状構造を更に乾燥する第四の工程を含む方法。
【請求項5】
請求項2の方法であって、前記透明又は透光性のフィルム材の厚みが0.1mmである方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、積層された複数枚の前記樹脂薄膜から成る積層体の上面と下面に透明又は透光性のフィルム材が積層される方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、前記第二の工程と第三の工程とが不活性ガス雰囲気下にて実行される方法。
【請求項8】
請求項
1の方法であって、前記板状構造に於いて、前記第一の面から前記第二の面へ向かって層毎に屈折率が高くされる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を集光して光電池セルへ照射するよう構成された光電変換装置に利用可能な蛍光導光板とその製造方法に係り、より詳細には、板内に分散される蛍光物質として量子ドットが採用されている蛍光導光板とその製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電システムに於いて、太陽電池セルなどの光電池セル当たりの発電量を増大し、或いは、システムに於ける発電効率を向上しつつ、利用する光電池セルの数を少なくして、システムのコスト若しくは寸法の低減を図るために、そのままでは強度の低い太陽光を集光して光電池セルへ照射するための構成が種々提案されている。例えば、特許文献1に於いては、発光体であるマジックサイズクラスタ(magic-sized clusters)が、板状の透明な導光素子に埋め込まれるか、透明な導光素子の表面上の薄膜に埋め込まれた構成の発光変換器の側面に太陽電池を取り付けた太陽光発電機が開示されている。かかる太陽光発電機に於いては、導光素子に太陽光が照射されると、太陽光が発光体によって吸収され、その発光体から光が全方向に再放出され、その再放出された光の大部分が、導光素子の板内の内部反射により、導光素子の側面に案内されて、その取り付けられた太陽電池にて、太陽光エネルギーが電気エネルギーに変換されることとなる。このような構成によれば、導光素子表面の広い領域に照射された太陽光のエネルギーが導光素子側面の小さな領域へ集められ、その側面を覆う面積の小さい太陽電池により回収できるので、経済的に有利となる。また、本願出願人による特許文献2に於いては、太陽光を集光して光電池セルに照射し、光電池セルにて太陽光発電を実行する光電変換装置として、太陽光を吸収して蛍光を放出する蛍光物質が分散され且つ外部と屈折率が異なる材料から形成された板状構造を有し、その一方の面から太陽光が入射すると、蛍光物質から放出される蛍光が縁面に集光されて出射する蛍光導光板と、蛍光導光板の面上に載置されて太陽光の照射を受けて発電する第一の光電池セルと、蛍光導光板と第一の光電池セルとの上に重畳され、外表面から入射した光が第一の光電池セルへ集光されるよう構成されたレンズ層と、蛍光導光板の縁面から出射した蛍光の照射を受けて発電する第二の光電池セルとを含む構成が開示されている。かかる光電変換装置では、レンズ層によりその上面に照射される太陽光を第一の光電池セルの受光面へ集光すると共に、第一の光電池セルの受光面から外れた光を蛍光導光板にて蛍光物質で吸収して蛍光に変換し、その蛍光を蛍光導光板の縁面に配置された第二の光電池セルへ集光し、これにより、太陽光の向きが変化しても、できるだけ多くの太陽光エネルギーが回収されるようになっている。なお、特許文献2の光電変換装置の蛍光導光板と同様の構成は、本願出願人による特許文献3の太陽光励起レーザー装置に於いても利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-131249
【文献】特開2020-062642
【文献】特開2017-168662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の如き太陽光の集光に用いられる蛍光導光板に於ける蛍光物質に関して、量子ドットは、吸収波長が広く、発光波長が狭く、また、量子効率が高いので、波長帯域の広い太陽光を蛍光に変換するための蛍光物質として有利に用いられる。そのような量子ドットを分散した蛍光導光板を形成する場合、典型的には、トルエンなどの有機溶媒中に量子ドットの分散された溶液中に透明な若しくは透光性の樹脂材料を混合し、しかる後に、有機溶媒を蒸発させながら、樹脂材料を硬化し、これにより、量子ドットが分散された板状部材が形成される。
【0005】
この点に関し、本発明の発明者等の研究によれば、量子ドットと樹脂材料とを含む有機溶液(量子ドット-樹脂溶液)を、そのまま、蛍光導光板として用いられる程度の厚み(例えば、約3mm以上)の板状構造となるように硬化させたときには、板状構造の受光面に照射した光強度に対する板状構造の縁面にて得られる光強度の割合(以下、「照射光強度当たりの発光強度」と称する。)が、板状構造と同じ寸法の容器中の溶液の状態の場合に比して、大幅に、例えば、14分の1程度まで、低下してしまうことが見出された。これは、硬化後の樹脂の板状部材の厚みが蛍光導光板として用いられる程度の厚みである場合、量子ドット-樹脂溶液から有機溶剤を蒸発させ樹脂材料の硬化が完了するまでに或る程度の時間(通常、24時間程度)がかかり、その間に量子ドットの周囲を被覆している凝集防止剤(オレイン酸などの脂肪酸など)が剥がれ、量子ドットが凝集してしまい、量子ドットの吸収光率又は発光効率が低下してしまうこと(量子ドットの劣化)などのためと考えられる。そこで、本発明の発明者等が量子ドット-樹脂溶液から蛍光導光板を作成する工程について研究したところ、量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に伸展させて速やかに硬化し、かかる薄膜を積層して板状構造にすることにより形成された蛍光導光板に於いては、照射光強度当たりの発光強度が、量子ドット-樹脂溶液をそのまま蛍光導光板の厚みに硬化させたものよりも大幅に、例えば、10倍から12倍までに、増大することが見出された。これは、量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に硬化させる場合には、樹脂がより短期間にて硬化するので、量子ドットの凝集が抑制又は回避できるためなどの理由が考えられる。本発明に於いては、この知見が利用される。
【0006】
かくして、本発明の主な課題は、量子ドットを蛍光物質として用いた蛍光導光板に於いて、照射光強度当たりの発光強度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、上記の課題は、第一の面と、第二の面と、前記第一及び第二の面の周縁を接続する縁面とにより画定された蛍光導光板にして、その内部に太陽光の少なくとも一部の成分を吸収して蛍光を放出する量子ドットが分散され且つ外部と屈折率が異なる材料から形成された板状構造を有し、前記第一の面から太陽光が入射すると、前記量子ドットから放出される前記蛍光が前記縁面に集光されて出射する蛍光導光板であって、
前記板状構造が前記量子ドットの分散されている樹脂薄膜が複数枚積層されて板状構造と成っている蛍光導光板
によって達成される。
【0008】
上記の構成に於いて、「蛍光導光板」とは、基本的には、板状構造の広い面(第一の面)から光が入射すると、その光によって板の内部に分散された蛍光物質が励起されて蛍光を発し、その蛍光が板状構造の縁面へ導かれて集光されて出射するよう構成された板状部材である。蛍光物質の放出する蛍光は、蛍光物質から放射方向に発せられるところ、板状構造を成す蛍光導光板の屈折率がその外部の屈折率と異なるときには、板状構造の広い面(第一の面、第二の面)と外部との界面に於いて、蛍光の一部は透過してしまうが、残りの蛍光は反射され(蛍光導光板の屈折率が外部の屈折率よりも高いときには、全反射によって相当量の蛍光が反射される。)、結果的に、光の殆どが板状構造の縁面へ集光され、そこから出射されることとなる。かかる蛍光導光板に於いて、特に、本発明に於いては、板状構造の内部に分散される「蛍光物質」には、量子ドットが用いられる。
【0009】
そして、本発明の蛍光導光板の場合には、上記の如く、板状構造が、量子ドットの分散されている樹脂薄膜が複数枚積層された状態にて構成される。既に触れた如く、量子ドット-樹脂溶液を、そのまま、蛍光導光板に於ける量子ドットの分散されている板状構造に硬化させた場合には、量子ドットの劣化が発生したところ、量子ドット-樹脂溶液を薄く伸ばすなどして形成した量子ドットの分散されている樹脂薄膜を積層した状態の板状構造の場合には、照射光強度当たりの量子ドットの発光強度が、大幅に、例えば、10倍から12倍程度まで、増大されることが見出された。そこで、本発明の蛍光導光板に於いては、上記の如く、量子ドットの分散されている樹脂薄膜が複数枚積層された状態の板状構造を採用し、蛍光導光板に於ける照射光強度当たりの発光強度の増大が図られる。なお、量子ドットとしては、例えば、CdSe、CdTe、PbS、ペロブスカイト量子ドット(CsPbX3、X =Cl、Br、Iなど)など、任意のものが利用可能である。樹脂薄膜の母材樹脂としては、硬化すると適当な剛性を有する任意の透明又は透光性の固体樹脂であってよく、例えば、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、ポリメチルメタクリレート樹脂などのフッ素樹脂であってよいが、これに限定されない。
【0010】
実施の態様に於いて、上記の本発明の蛍光導光板に於ける樹脂薄膜を積層した状態の板状構造は、複数枚の樹脂薄膜と複数枚の透明又は透光性のフィルム材とが交互に積層された板状構造となっていてよい。一枚の樹脂薄膜は、厚みが1mmより薄く、典型的には、0.数mm程度であってよく、そのような薄膜のみを取り扱う場合、薄膜が破れるなどの、煩わしさや困難さがあるので、板状構造を透明又は透光性のフィルム材と樹脂薄膜とを交互に積層された状態とすることにより、板状構造の取り扱いをより容易にすることが可能となる。透明又は透光性のフィルム材としては、ポリエステルフィルムなど、任意の透明又は透光性のフィルムであってよい。
【0011】
上記の本発明の蛍光導光板の板状構造を構成する樹脂薄膜は、既に触れた如く、有機溶媒中に量子ドットと樹脂材料とが分散されている量子ドット-樹脂溶液を薄く伸ばして乾燥・硬化させるなどの任意の手法にて形成されてよい。従って、本発明の課題は、本発明のもう一つの態様によれば、第一の面と、第二の面と、前記第一及び第二の面の周縁を接続する縁面とにより画定された蛍光導光板にして、その内部に太陽光の少なくとも一部の成分を吸収して蛍光を放出する量子ドットが分散され且つ外部と屈折率が異なる材料から形成された板状構造を有し、前記第一の面から太陽光が入射すると、前記量子ドットから放出される前記蛍光が前記縁面に集光されて出射する蛍光導光板を製造する方法であって、
有機溶媒中に凝集防止剤にて被覆された量子ドットと樹脂材料とが分散されている量子ドット-樹脂溶液を準備する第一の工程と、
前記量子ドット-樹脂溶液から前記量子ドットが分散された樹脂薄膜を形成する第二の工程と、
前記樹脂薄膜を複数枚積層して前記板状構造を形成する第三の工程と
を含む方法によって達成される。
【0012】
上記の構成に於いて、「有機溶媒」は、トルエンなどの量子ドットの分散に利用可能な任意の有機溶媒であってよい。なお、量子ドットは、溶液中で凝集すると、吸収特性や発光特性が変化したり、劣化が生じ得るので、量子ドットが有機溶媒中に分散される際には凝集防止剤が添加される。凝集防止剤としては、通常、例えば、オレイン酸などの炭化水素鎖を有する脂肪酸が用いられるので、本発明に於いても、同様の凝集防止剤が量子ドット-樹脂溶液に添加される。量子ドットは、凝集防止剤の存在下の溶液中では、凝集防止剤にて被覆された状態となっており、これにより、量子ドットの凝集が防止されていると考えられている(この場合、量子ドットの発光強度の低下が見られない。)。
【0013】
本発明の方法に於いては、上記の如く、量子ドット-樹脂溶液から量子ドットが分散された樹脂薄膜を形成され、かかる樹脂薄膜が複数枚積層されることで板状構造が形成されることとなる。そして、かかる本発明の構成によれば、既に触れた如く、量子ドット-樹脂溶液を板状構造となるようにそのまま硬化させて得られたものに比して、照射光強度当たりの発光強度を大幅に改善することが可能となる。
【0014】
本発明の実施の態様に於いて、量子ドットの分散されている樹脂薄膜は、より具体的には、量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に伸展して有機溶媒を蒸発させ、樹脂材料を硬化させて形成されてよい。従って、板状構造に積層される樹脂薄膜は、そのように形成された薄膜であってよい。かかる構成の場合、形成中及び形成後の薄膜の状態を検出することは困難であり非実際的であるところ、量子ドット-樹脂溶液から有機溶媒が速やかに蒸発し、量子ドットが凝集しないうちに樹脂が硬化し、これにより、量子ドットの劣化が抑制されるものと考えられる。
【0015】
また、上記の如く、量子ドットの分散されている樹脂薄膜を量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に伸展して有機溶媒を蒸発させ、樹脂材料を硬化させて形成する場合、形成される樹脂薄膜の厚みは、1mmより薄く、典型的には、0.数mm程度であるので、樹脂薄膜の形成工程に於いては、上記の如き透明又は透光性のフィルム材上に量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に塗工して、そこに於いて乾燥・硬化させて、樹脂薄膜を形成し、これにより、樹脂薄膜が形成されているフィルム材を積層することにより板状構造を形成するようになっていてよい。実施の態様に於いて、より具体的には、透明又は透光性のフィルム材上に量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に塗工して樹脂薄膜を形成し、その形成された樹脂薄膜上に更に透明又は透光性のフィルム材を積層し、その積層されたフィルム材上に量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に塗工して樹脂薄膜を形成するという操作を繰返すことにより、樹脂薄膜を積層して板状構造が形成されてよく、かかる構成により、複数枚の樹脂薄膜が積層された状態の板状構造が良好に且つ容易に形成することが可能となる。
【0016】
上記の本発明の方法に於いて、樹脂薄膜を積層して形成された板状構造から有機溶媒のトレースをより確実に除去するために、板状構造の形成後に、板状構造を更に乾燥する第四の工程が実行されてよい。
【0017】
また、樹脂薄膜を積層して形成された板状構造を保護する目的で、積層された複数枚の樹脂薄膜から成る積層体の上面と下面に透明又は透光性のフィルム材が積層されていてよい。
【0018】
更に、実験によれば、樹脂薄膜の形成と積層の工程を、大気中で行う場合よりも、不活性ガス雰囲気下にて実行した場合の方が、完成した蛍光導光板に於ける照射光強度当たりの発光強度が改善されることが見出された。これは、大気中の酸素により量子ドット又は凝集防止剤を劣化させるためであると考えられる。従って、上記の方法に於いて、樹脂薄膜の形成と積層の工程は、好ましくは、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下にて実行されることが好ましい。また、空気中の酸素が樹脂薄膜にできるだけ接触しないようにするために、樹脂薄膜が形成され或いは樹脂薄膜に積層されるフィルム材は、非酸素透過性のフィルムであることが好ましい。
【0019】
ところで、蛍光導光板に於いては、量子ドットから放出された蛍光は、できるだけ第一の面及び第二の面に於いて反射され、縁面に集光されることが好ましい。従って、励起光の入射しない第二の面には、光を透過させずに反射する反射ミラー層が積層又は適用されてよい。一方、第一の面に於いて、外側から量子ドットを励起する光が入射する必要がある。そこで、板状構造が、第一の面から前記第二の面へ向かって層毎に屈折率が高くなるように構成されていてよい。かかる構成によれば、板状構造の内部から第一の面へ向かう光線の全反射が発生しやすくなるので、量子ドットから放出された蛍光のうち、第一の面から外へ透過する光量をできるだけ低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
かくして、上記の本発明によれば、蛍光物質として量子ドットが分散された樹脂から成る板状構造を有する蛍光導光板に於いて、照射光強度当たりの発光強度の増大が図られることとなる。そして、かかる蛍光導光板の縁面に太陽電池セルを取り付ける場合には、より高い発電効率が得られることとなる。本発明による蛍光導光板は、種々の用途に用いられてよく、例えば、特許文献2に於ける太陽光発電のための光電変換装置や特許文献3に記載の太陽光励起レーザー装置に於いて、太陽光を蛍光に変換して集光するための部材として有利に用いられる。
【0021】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による蛍光導光板の態様の一つの模式的な斜視図であり、
図1(B)は、本実施形態による蛍光導光板のもう一つの態様の模式的な斜視図である。
図1(C)は、本実施形態による蛍光導光板の更にもう一つの態様の模式的な断面図である。
【
図2】
図2(A)~(D)は、本実施形態による、量子ドット-樹脂溶液から樹脂薄膜を形成し、樹脂薄膜を積層して、蛍光導光板の板状構造を形成する工程を模式的に表わした図である。(A)は、フィルム材上に量子ドット-樹脂溶液を載置した状態であり、(B)は、フィルム材上にて量子ドット-樹脂溶液を薄膜状に伸展する状態であり、(C)は、薄膜状の量子ドット-樹脂溶液から溶媒を蒸発させ、樹脂を硬化させる状態であり、(D)は、硬化した樹脂薄膜上に次のフィルム材を積層した状態である。
【
図3】
図3は、本実施形態による蛍光導光板を光電変換装置として応用した場合の模式的な断面図である。
【
図4】
図4(A)~(C)は、蛍光導光板の縁面に太陽電池セルを取り付けた状態で、蛍光導光板に光を照射した場合に、太陽電池セルに於いて得られる電流Iと電力Pとをグラフの形式にて表わした図である。(A)は、量子ドット-樹脂溶液を、蛍光導光板の厚みとなるようにそのまま硬化して形成された板状構造であり、(B)は、本実施形態の教示に従い、量子ドット-樹脂溶液から形成された樹脂薄膜を積層して形成された板状構造であって、樹脂薄膜に於ける量子ドット濃度が(A)の場合と同じである場合であり、(C)は、本実施形態の教示に従い、量子ドット-樹脂溶液から形成された樹脂薄膜を積層して形成された板状構造であって、板状構造に於ける量子ドットの総量が(A)の場合と同じである場合である。
【
図5】
図5(A)は、蛍光導光板の縁面に太陽電池セルを取り付けた状態の模式的な斜視図である。
図5(B)は、蛍光導光板に太陽光が照射された場合に量子ドットの蛍光が蛍光導光板に集光される機構を説明する模式的な蛍光導光板の一部の断面図である。
【
図6】
図6(A)は、蛍光導光板の厚みとなるように量子ドット-樹脂溶液をそのまま硬化する工程に於いて、型に量子ドット-樹脂溶液を入れた状態の模式的な断面図であり、
図6(B)は、(A)の型内にて量子ドット-樹脂溶液が硬化して得られた蛍光導光板の板状構造の模式的な断面図である。
図6(C)は、量子ドット-樹脂溶液に於ける量子ドットの予想される状態を模式的に表わした図であり、
図6(D)は、量子ドット-樹脂溶液を或る程度の厚みのある状態でそのまま硬化して得られた板状構造の内部での量子ドットの予想される状態を模式的に表わした図である。
【符号の説明】
【0023】
1…蛍光導光板
2…板状構造
2m…樹脂薄膜
2f…フィルム材
2S…量子ドット-樹脂溶液
2a…蛍光導光板の板状構造の受光面(上面、第一の面)
2b…蛍光導光板の板状構造の裏側面(下面、第二の面)
2e…蛍光導光板の板状構造の縁面
3、3a…光電池セル
4…レンズ層
4a…レンズ部分
4b…接続部分
6…量子ドット
6a…量子ドットの凝集体
7…凝集防止剤
7a…接着層(第二の接着層)
8…反射ミラー(蛍光導光板の下面)
10…型枠
100…光電変換装置
SL…太陽光
FL…蛍光
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
蛍光導光板の基本構成
図5(A)、(B)を参照して、本実施形態の対象である蛍光導光板1は、基本的には、内部に蛍光物質が分散された板状構造2の部材である。具体的には、図示の如く、蛍光導光板1の板状構造2は、太陽光などの光SLを受容する受光面2a(表側面、第一の面)、その裏側面2b(第二の面)、受光面2aと裏側面2bとを接続する縁面2eとにより画定され、内部に蛍光物質6が分散された、外部の空間よりも光の屈折率が高い材料にて形成される。蛍光物質6としては、例えば、任意の蛍光色素などであってよいところ、吸収波長が広く、発光波長が狭く、また、量子効率が高い量子ドットがより有利に用いられる。また、板状構造2の母材は、透明若しくは透光性を有する屈折率が空気よりも高い任意の材料であってよく、例えば、フッ素樹脂(屈折率1.33)、高屈折ポリメタクリル酸メチル樹脂(屈折率1.60)、ポリカーボネート樹脂(屈折率1.59)、ポリエステル樹脂(屈折率1.60)アクリル樹脂(1.49~1.53)、シリコン樹脂(1.43)、石英ガラス(1.54~1.55)などが用いられる。そして、図示の如く、受光面2aから光SLが進入すると、内部の蛍光物質6が励起されて蛍光FLを全方向に放出するところ、板状構造2の屈折率が外部の空間よりも高いため、受光面2aと裏側面2bとに於いて蛍光FLの全反射が発生し、これにより、蛍光FLは、受光面2aと裏側面2bに対する入射角が臨界角より小さい光線の一部を除き、受光面2aと裏側面2bとにて反射を繰り返し、縁面2eへ到達することとなる。かかる構成によれば、受光面2aの広い面積にて受容した光を、蛍光物質6にて蛍光に変換した後、面積のより小さい縁面2cに集めることができ、縁面2cへのエネルギーの濃縮が可能となる。従って、図示の如き蛍光導光板1によれば、太陽光など、エネルギー密度の薄い状態で到達する光の密度を高く変換することができ、例えば、図示の如く、板状構造2の縁面2eに光電池セル3を配置して、光エネルギーを電気エネルギーに変換するようにすれば、より小さい寸法の光電池セルだけで、光エネルギーを回収することが可能となる。
【0025】
蛍光導光板の板状構造の典型的な形成方法
上記に説明された蛍光導光板の形成に於いては、典型的には、
図6(A)、(B)に模式的に描かれている如く、板状構造2の厚みに相当する深さのある型10に、トルエンなどの有機溶媒中に蛍光物質が分散され樹脂材料が溶解している樹脂溶液2Sを注ぎ入れ、型10内にて樹脂溶液2S中の有機溶媒を蒸発させ、樹脂材料を硬化させて(H)、板状構造2の形状に固化させて、板状構造2が形成されている。
【0026】
この点に関し、本発明の発明者等の研究によれば、特に、蛍光物質として、量子ドットを採用した場合、固化された後の板状構造2に於いて、照射光強度当たりの発光強度(板状構造の受光面に照射した光強度に対する板状構造の縁面にて得られる光強度の割合)が樹脂溶液2Sの状態の場合よりも大幅に低下することが観察された。これは、量子ドットの劣化、即ち、照射光の強度当たりに量子ドットから放出される蛍光強度が低下することに起因すると考えられ、かかる量子ドットの劣化の一つの原因としては、量子ドットの凝集が考えられる。より詳細には、通常、量子ドットの分散溶液に於いては、量子ドットの凝集を避けるために、
図6(C)に模式的に描かれている如く、オレイン酸などの炭化水素鎖を有する脂肪酸が、凝集防止剤7として、添加される。かかる凝集防止剤7は、その化学的物性から、個々の量子ドットの周囲を被覆し、これにより、量子ドットの凝集を防ぐと考えられている。しかしながら、上記の如く、量子ドットの分散された樹脂溶液(量子ドット-樹脂溶液)2Sが硬化するときには、有機溶媒が或る程度の時間をかけて徐々に蒸発していくこととなるため、有機溶媒の割合がゆっくりと低減する過程で、量子ドット6が移動可能な状態のまま、凝集防止剤7が量子ドット6の周囲から脱離してしまい、これにより、量子ドット6が、凝集体6aを形成することが考えられる。そして、このような量子ドットの凝集が生ずると、蛍光導光板1の受光面2aにて受容した光エネルギーに対して発生される蛍光量が低下することとなり、縁面2eへ伝達する光エネルギーが低下してしまうこととなる。従って、上記のような量子ドット-樹脂溶液の硬化時の量子ドットの凝集を回避できる構成があると、有利である。
【0027】
本実施形態による蛍光導光板の板状構造の改良
上記の如き量子ドットの凝集による量子ドットの劣化を回避する方法について、本発明の発明者等が、種々、研究したところ、量子ドット-樹脂溶液を初めから板状構造2の厚みとなるように硬化させるのではなく、量子ドット-樹脂溶液を板状構造2の厚みより薄い樹脂薄膜となるように硬化させ、
図1(A)の如く、かかる樹脂薄膜2mを複数枚積層して板状構造2を形成すると、量子ドットの劣化の程度が大幅に緩和されることが見出された。これは、量子ドット-樹脂溶液から形成される樹脂薄膜の場合には、個々の薄膜の硬化に要する時間が、
図6(A)の如く、或る程度の深さのある型内にて量子ドット-樹脂溶液を硬化させる場合よりも相当に短いために、(薄膜内での量子ドットの状態を検出することは、困難であり、実際的ではないと考えられるところ、)量子ドットが凝集する前に、樹脂が硬化して、量子ドットが固定され、個々の量子ドットが分散された状態が維持されるためであると考えられる。
【0028】
上記の本実施形態の蛍光導光板の板状構造に於いて、具体的には、量子ドットとしては、太陽光の波長帯域の光を吸収することができ、有機溶媒中乃至樹脂中に於いて化学的に安定な任意の量子ドットが採用されてよく、例えば、CdSe、CdTe、PbS、ペロブスカイト量子ドット(CsPbX3、X =Cl、Br、Iなど)などが利用されてよい。樹脂薄膜の母材樹脂としては、硬化すると適当な剛性を有する任意の透明又は透光性の固体樹脂であってよく、例えば、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂(ETFE)、ポリメチルメタクリレート樹脂などのフッ素樹脂であってよいが、これに限定されない。なお、既に述べた如く、板状構造内からの蛍光ができるだけ受光面2aと裏側面2bにて反射するように、樹脂は、屈折率が外部(空気)よりもできるだけ高いものが好ましい。樹脂薄膜の厚みは、1mmより薄い任意の厚みであってよく、具体的には、0.数mmであってよく、典型的には、略0.3mm程度などであってよい。板状構造の厚みは、用途に応じて、任意に設定されてよい。
【0029】
なお、樹脂薄膜を積層して板状構造2を形成する際に、
図1(B)に描かれているように、樹脂薄膜2mは、透明又は透光性のフィルム材2f上に載置又は貼着した状態で積層されてよい。即ち、板状構造2に於いて、樹脂薄膜2mとフィルム材2fとが交互に積層されていてよい。フィルム材2fとしては、ポリエステルフィルムなど、任意の透明又は透光性のフィルム材が用いられてよい。フィルム材2fの厚みは、例えば、0.1mmなどであってよいが、これに限定されない。樹脂薄膜2mをフィルム材2f上に載置又は貼着した状態で取り扱うことにより、積層操作が容易となり、樹脂薄膜2mを積層作業中に破断してしまうといったおそれが低減され、板状構造2の構造的な安定性が改善することにもなる。また、板状構造2の最外面(受光面と裏側面)には、樹脂薄膜2mを保護するために、フィルム材2fが積層されることが好ましい。更に、量子ドットを空気中の酸素から保護するために(量子ドットは、酸素によっても劣化することが観察されている。)、フィルム材2fは、酸素に対して非透過性を呈するものであることが好ましい。そして、既に述べた如く、板状構造内からの蛍光ができるだけ受光面2aと裏側面2bにて反射するように、フィルム材は、屈折率が外部(空気)よりもできるだけ高いものが好ましい。
【0030】
また、更に有利な態様として、樹脂薄膜とフィルム材との積層体からなる板状構造に於いて、
図1(C)に示されている如く、受光面2aから裏側面2bへ向けて、層毎に、屈折率が増大するように、材料が選択されていてよい。かかる構成によれば、量子ドットからの蛍光が、受光面側から透過しにくくなり、より確実に、縁面へ蛍光を集光できることとなる。裏側面2bには、光を透過させない反射層が積層され、裏側面2bからの蛍光の漏れを防止できるようになっていてよい。
【0031】
本実施形態による蛍光導光板の板状構造の形成方法
本実施形態に於ける樹脂薄膜の積層による板状構造の形成は、任意の手法により達成されてよい。例えば、本実施形態による蛍光導光板の板状構造の形成方法の一つの態様に於いては、
図2を参照して、フィルム材2f上に於ける樹脂薄膜2mの形成と、樹脂薄膜2m上へのフィルム材2fの積層とが繰返されてよい。この態様の場合、具体的には、まず、フィルム材2f上に量子ドット-樹脂溶液2Sが垂下され(
図2(A))、アプリケータRなどを用いて、フィルム材2f上に薄膜状に伸展される(
図2(B))。ここに於いて、量子ドット-樹脂溶液2Sとしては、既に述べた如く、トルエンなどのこの分野で通常使用される揮発性の有機溶媒中に、量子ドットと凝集防止剤とが分散され、更に、硬化して樹脂となる樹脂材料が溶解されたものが調製される。量子ドット、凝集防止剤、樹脂材料のそれぞれの濃度は、適合により調整されてよい。本実施形態に於いては、量子ドット-樹脂溶液2Sは、薄膜状に伸展されるので、アプリケータRにより、伸展可能な粘度となるように調整されてよい。量子ドットの濃度は、高過ぎると、照射光強度当たりの量子ドットの発光強度が低下するので、実験等を通じて、照射光強度当たりの発光強度が最適となる濃度に調整されてよい。薄膜状に伸展した際の溶液の厚みは、1mmより薄い任意の厚みであってよく、具体的には、0.数mmであってよい。
【0032】
フィルム材2f上に量子ドット-樹脂溶液2Sが伸展されると、静置され、この間に有機溶媒が蒸発し(v)、樹脂材料が硬化して、薄膜が固化される(
図2(C))。この場合、溶液は、厚みが薄いので、有機溶媒は、速やかに、例えば、1分程度で、概ね蒸発し、樹脂材料が硬化し、固化した薄膜が形成される。その後、固化した薄膜2m上に新たなフィルム材2fが積層され(
図2(D))、上記の
図2(A)からの処理が繰返されることとなる。そして、
図2(A)~(D)の処理サイクルは、樹脂薄膜とフィルム材との積層体の全体の厚みが、板状構造に要求される厚みになるまで、反復されてよい。
【0033】
しかる後、図示していないが、樹脂薄膜とフィルム材との積層体は、更に、樹脂薄膜中の有機溶媒のトレースを除去するべく、乾燥状態に静置されてよい。そして、乾燥後、縁面を整えるべく、周囲が任意の手法にて裁断される。その後、縁面に光電池セルなどが取り付けられてよい。
【0034】
なお、溶液中の量子ドットは、酸素に触れると、劣化されやすいため(原因としては、凝集防止剤の酸化などが考えられる。)、上記の一連の工程は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で実行されることが好ましい。後に説明される発電効率の実験によれば、上記の工程を不活性ガスの雰囲気下で実行すると、発電効率が増大することが見出されている。
【0035】
応用例
既に述べた如く、本実施形態の蛍光導光板1は、例えば、
図3に例示されている如き光電変換装置100に有利に用いられる。
図3を参照して、光電変換装置100に於いては、板状構造2から成る蛍光導光板1と、その上面2a上に載置された光電池セル3aと、上面2a及び光電池セル3aに重畳されるレンズ層4と、板状構造2の縁面2e上に配置された光電池セル3とを含む。なお、図示の如く、光電池セル3、3aにてそれぞれ発電された電力は、電力線(図示せず)により外部に取り出されるようになっていてよい。
【0036】
かかる構成に於いて、蛍光導光板1は、太陽光を吸収して発電する光電池セル3aの配置される基板として用いられると同時に、光電池セル3aに照射されなかった光を受容して、既に述べた如く、その内部に分散された量子ドットにより蛍光に変換して、縁面2eに集光する機能を果たす。なお、蛍光導光板1の下面2bには、光を透過させず、反射する反射ミラー8が適用されていてよく、これにより、下面2bからの光の透過が阻止され、より多くの光が縁面2eへ到達できることとなる。
【0037】
蛍光導光板1の上面2a上に載置される光電池セル3aは、太陽光の光成分を吸収して発電する任意の形式の太陽電池セル又は光電変換素子であってよい。既に触れた如く、太陽光の波長帯域は広範囲であり、また、図示の例に於いては、後に説明されるように、太陽光SLをレンズ4aにて集光して光電池セル3aへ照射するので、吸収可能な波長帯域が広く、比較的高い光強度が照射されたときにも発電効率の高い光電池セルが有利に用いられる。具体的には、光電池セル3aとしては、III-V族多接合型太陽電池が選択されてよい。なお、その他の形式の光電池、例えば、CIS太陽電池、結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、ペロブスカイト太陽電池も、光電池セル3aとして採用されてよい。
【0038】
レンズ層4は、光電池セル3aの各々に対して太陽光を集光して照射するように形成されたレンズ部分4aと、かかるレンズ部分4aを接続する接続部分4bとを有する層状構造であってよい。レンズ層4は、透明若しくは透光性を有する屈折率が空気よりも高い材料にて形成されてよく、その材料としては、具体的には、シリコン樹脂(屈折率1.43)、低屈折ポリメタクリル酸メチル(屈折率1.40)、ソーダガラス(屈折率1.51)が採用されてよい。なお、蛍光導光板1へ進入した光及び蛍光導光板1にて放出された蛍光が板状構造2内に閉じ込められるように、レンズ層4の材料には、好ましくは、その屈折率が板状構造2の屈折率よりも低いものが選択されてよい。また、レンズ層4に於いて、レンズ部分4aは、その外表面(蛍光導光板2に対向又は近接した面とは反対側の面、図に於いて上面)に到来する光を光電池セル3a上へ集光するように形成される。レンズ部分4aの形状は、球面レンズであってもよいが、好適には、太陽光からの平行光として到来する直射光だけではなく、雲や空気で散乱された太陽光、或いは、建物などで反射又は散乱された太陽光も含めたレンズ表面上にて種々の入射角にて入射する光成分をできるだけ多く光電池セル3aへ集光できるように調整された非球面-非対称レンズであってもよい。
【0039】
蛍光導光板1の縁面2eに於いて、その面から出射する蛍光(及び太陽光)を吸収して発電する光電池セル3としては、主として、蛍光の波長帯域の光成分を吸収する任意の形式の太陽電池セル又は光電変換素子が採用されてよく、例えば、CIS太陽電池、結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、ペロブスカイト太陽電池が選択されてよい(これらよりも高価なIII-V族多接合型太陽電池が用いられてもよい。)。
【0040】
なお、上記の装置は、移動体の屋根など、その設置場所の物体の形状に合わせて、或る程度、変形できることが好ましい。そこで、蛍光導光板とレンズ層とは、可撓性材料にて形成され、装置全体で湾曲可能となっていてもよい。
【0041】
作動に於いて、レンズ層4の上方から太陽光が照射されると、まず、レンズ部分4aに入射した光がレンズ作用により光電池セル3aへ集光され、光電池セル3aは、その光を受けて発電することとなる。そこに於いて、典型的には、レンズ部分4aの形状は、その光軸(レンズ部分4aの中心部分の面に対して垂直の方向)に沿って入射してくる光線(太陽光)、即ち、入射角が略0°の光線が、光電池セル3aの受光面(図に於いて上面)へ向かって屈折するように形成される。しかしながら、レンズ部分4aへ入射する光線の入射角θが増大するほど、レンズ部分4aを通る光のうちで光電池セル3aの受光面から外れる量が多くなり、また、図から理解される如く、レンズ層4に於いて、隣接するレンズ部分4aの間の接続部分4bが在る場合には、それらの部分へ入射した光も光電池セル3aには当たらず、発電に利用されないこととなる。そこで、図示の装置では、そのような光電池セル3aの受光面から外れてしまった光を蛍光導光板1にて受容し、その太陽光によって板内に分散された量子ドットが光電池セル3aから外れた励起されて蛍光を放出し、放出された蛍光が縁面2eまで伝播し、縁面2eへ集光されて出射し、そこに配置された光電池セル3により電力として回収されることとなる。
【0042】
かくして、上記の如き構成によれば、レンズ層4により集光される光線の一部が、光電池セル3aから外れても、そのエネルギーは、蛍光導光板1を介して光電池セル3に於いて電力として取り出すことが可能となっているので、レンズ層4に入射する太陽光の入射角に対するロバスト性が向上されているということができる。更に、レンズ層4の隣接するレンズ部分4aの間の接続部分4bがある場合には、それらの部分に進入した太陽光のエネルギーも電力に変換されるので、エネルギー変換効率が更に向上される。
【0043】
実験例
上記の本実施形態による作用効果は、以下の実験により確認した。なお、以下の実験例は、本実施形態の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【0044】
実験に於いては、端的に述べれば、有機溶媒中に量子ドットと樹脂材料とを分散した量子ドット-樹脂溶液を調製し、或る程度の深さの有る型に量子ドット-樹脂溶液を注ぎ入れてそのまま板状構造となるよう硬化させてなる板状試料(従前例)と、透明なフィルム材上にて量子ドット-樹脂溶液から樹脂薄膜を形成したものを積層して板状構造と成るよう形成した板状試料(本実施例)とを準備した。そして、照射光強度当たりの発光強度を評価するために、それぞれの準備された板状試料の縁面に光電池セルを取り付け、ソーラーシミュレータを用いて、擬似太陽光を各板状試料に照射して、発電電力を計測し、発電効率を算出して、比較した。なお、比較のため、量子ドット-樹脂溶液の状態でも、同様に発電効率を算出した。
【0045】
板状試料の調製に関して、より詳細には、従前例については、まず、10000ppmにて量子ドットPbSがトルエン中に分散された量子ドット溶液2.13mlと、トルエン10mlと、36gのフッ素樹脂(ルミフロン(登録商標)910LM)と、12gのヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート(デュラネート(登録商標))とを混合して、10分間攪拌して、量子ドット-樹脂溶液を調製した。調製された量子ドット-樹脂溶液は、深さ4mmの四角形の型へ注ぎ入れ、室温にて、24時間、乾燥状態に静置して硬化させた。なお、硬化すると、トルエンが蒸発するために、形成された板状部材の厚みは、約3mmとなった。その後、形成された板状部材は、型から取り出し、4つの側面をペンシルカッターにてカットして、縁面を形成し、縁面に、瞬間接着剤(α,α-シアノアクリル酸エステル)を用いて、汎用の光電池セル(結晶シリコン太陽電池)を接着した。
【0046】
本実施例については、第一の実施例として、従前例と同じ量子ドット-樹脂溶液を調製し、厚さが約0.1mmの透明でガス非透過性のポリエステルフィルム材(ルミラー(登録商標)フィルムT60)上に量子ドット-樹脂溶液を滴下し、125μmのアプリケータにより、量子ドット-樹脂溶液を塗工し、1分間、室温にて静置して、樹脂薄膜を形成した。そして、形成された樹脂薄膜上にポリエステルフィルム材を更に積層し、上記の量子ドット-樹脂溶液の滴下と塗工及び乾燥による樹脂薄膜の形成を、積層体の厚みが3mmになるまで繰返した。なお、最上面には、更に、上記のフィルム材を積層した。その後、硬化した樹脂中のトルエンのトレースを除去するために、室温にて、30分間、静置し、従前例の場合と同様に、4つの側面をペンシルカッターにてカットして、縁面を形成し、縁面全体に、瞬間接着剤を用いて、汎用の光電池セルを接着して、板状試料を作成した。なお、上記の一連の操作は、全て、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。この状態に於いて、板状部材の上下は、フィルム材で覆われ、縁面は、瞬間接着剤と光電池セルに覆われているので、板状部材を空気中に出しても樹脂が空気に接触しないこととなる。この第一の実施例の場合、樹脂中の量子ドット濃度が、従前例の場合と同じとなる。
【0047】
また、第二の実施例として、従前例と同じ量子ドット-樹脂溶液に於いて、量子ドット溶液を4.26mlとし、トルエンを8mlとした量子ドット-樹脂溶液を同様に調製し、調製された量子ドット-樹脂溶液を用いて、第一の実施例の場合と同様に樹脂薄膜の形成と積層及び光電池セルの接着を行って、板状試料を作成した。この第二の実施例の場合、樹脂中の量子ドットの総量が、従前例の場合と同じとなる。
【0048】
量子ドット-樹脂溶液の状態の発電量を測定する場合には、ガラス製の周囲に光電池セルを接着した型(深さ3mm)に従前例と同じ量子ドット-樹脂溶液を注ぎ入れて、測定用の試料とした。
【0049】
板状試料に於ける照射光強度当たりの発光強度の評価に於いては、各板状試料にソーラーシミュレータにより、100mW/cm2のAM1.5スペクトルの擬似太陽光を照射し、板状試料の4つの縁面に取り付けられた光電池セルの発電電力(mW)を測定し、その測定値から、発電効率を下記の式により算出した。
発電効率(%)=Pt[mW]/(100[mW/cm2]×A[cm2]) …(1)
ここに於いて、Ptは、光電池セルの合計発電電力であり、Aは、板状試料の受光面の面積である。発電効率(%)は、板状構造の受光面に照射した光強度に対する板状構造の縁面にて得られる光強度の割合(照射光強度当たりの発光強度)に対応する。
【0050】
結果に於いて、まず、
図4(A)~(C)の各板状試料に取り付けられた光電池セルに於ける発電電圧に対する発電電力P、発電電流Iの特性を参照すると、従来例(A)に比して、本実施形態の第一の実施例(B)と第二の実施例(C)とは、いずれも、発電電力及び発電電流が、大幅に増大していることが理解される。各板状試料に於ける発電効率の最大値は、従来例が0.5%であったのに対し、従来例と量子ドット濃度が同じである第一の実施例では、発電効率の最大値は、5%であり、従来例と量子ドット総量が同じである第二の実施例では、発電効率の最大値は、6%であった。これは、本実施例の場合には、照射光強度当たりの発光強度が、従前例の10倍~12倍に改善したことに相当する。また、量子ドット-樹脂溶液の状態では、発電効率の最大値は、7%であったので、従来例に比して、本実施形態の場合には、量子ドットの劣化が大幅に抑制されていることが理解される。これらの結果から、蛍光導光板に於いて、板状構造が、本実施形態の教示に従って、量子ドット-樹脂溶液から形成された樹脂薄膜を積層して構成されることにより、照射光強度当たりの発光強度が量子ドット-樹脂溶液の状態により近い状態に維持できることが示された。
【0051】
かくして、上記の如く、本実施形態による板状構造が量子ドットの分散されている樹脂薄膜が複数枚積層されて板状構造と成っている蛍光導光板に於いては、量子ドット-樹脂溶液をそのまま板状構造の厚みに硬化した場合に生ずる量子ドットの劣化を殆ど起こさずに、照射光強度当たりの発光強度がより高い状態に保持できることとなる。本実施形態の蛍光導光板は、太陽光の光電変換装置や太陽光励起レーザー装置に於いて、有利に用いられることが期待される。
【0052】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。