(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】光学フィルタ及びその製造方法、並びに殺菌装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20241112BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
(21)【出願番号】P 2022543984
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2021030344
(87)【国際公開番号】W WO2022039216
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2024-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2020139174
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020205684
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021100430
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 努
(72)【発明者】
【氏名】佐原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】中室 友良
(72)【発明者】
【氏名】伊村 正明
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-068885(JP,A)
【文献】特開2003-139945(JP,A)
【文献】特開平02-192189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
前記透明基材上に設けられており、酸化ハフニウムを含む、誘電体多層膜と、
を備え、
入射角0°において波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が、50%以上であり、
入射角0°において波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が、5%以下であ
り、
前記誘電体多層膜が、立方晶系酸化ハフニウム結晶を含む、光学フィルタ。
【請求項2】
X線回折測定において、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークよりも大きい、請求項
1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有し、
前記高屈折率膜が、前記酸化ハフニウムを含む膜である、請求項1
又は2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記低屈折率膜が、酸化ケイ素を含む膜である、請求項
3に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記誘電体多層膜の最外層が、前記酸化ハフニウムを含む膜である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記最外層の厚みが、1nm以上、10nm以下である、請求項
5に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
入射角30°における波長222nmの分光透過率T
30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T
0との比(T
30/T
0)が、0.5以上である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有し、
前記高屈折率膜の総厚みt
Hと、前記低屈折率膜の総厚みt
Lとの比(t
H/t
L)が、0.2以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記高屈折率膜の総厚みt
Hと、前記低屈折率膜の総厚みt
Lとの比(t
H/t
L)が、0.5以上である、請求項
8に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
入射角0°において、
波長220nm~225nmの分光透過率の最小値が、50%以上であり、
波長237nm~280nmの分光透過率の最大値が、10%以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
入射角40°において、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値が、20%以下である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
透明基材と、前記透明基材上に設けられており、酸化ハフニウムを含む、誘電体多層膜と、を備え、入射角0°において波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が、50%以上であり、入射角0°において波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が、5%以下である、光学フィルタの製造方法であって、
スパッタリング法により、透明基材上に酸化ハフニウムを含む誘電体多層膜を成膜し、膜付き透明基材を得る工程と、
前記膜付き透明基材を500℃以上の温度で加熱処理する工程と、
を備える、光学フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記膜付き透明基材における加熱処理の温度が、800℃以下である、請求項
12に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項14】
処理対象微生物を不活化処理するための殺菌装置であって、
放出光の波長が、波長190nm~230nmの波長域に存在する、光源と、
請求項1~
11のいずれか1項に記載の光学フィルタと、
を備える、殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法、並びに該光学フィルタを用いた殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタが、種々の用途で広く用いられている。このような光学フィルタとしては、誘電体膜を用いたバンドパスフィルタが知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、波長250nm以下の特定の紫外光に対して透過率が最大となるように形成されたバンドパスフィルタが開示されている。特許文献1のバンドパスフィルタでは、誘電体膜からなるキャビティ層の上下が金属薄膜により被覆されている。特許文献1では、上記金属薄膜が、バンドパスフィルタにおける可視域の波長の光の透過率が10%以下となる膜厚であることが記載されている。また、上記キャビティ層が、誘電体膜からなる層であり、誘電体としては、二酸化ケイ素、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム等が用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、皮膚等についた細菌やウイルスの殺菌処理などの紫外線による殺菌処理においては、波長220nm~225nmの紫外線を発光するエキシマランプなどが用いられている。しかしながら、エキシマランプにおいては、人体に有害な波長240nm~320nmの紫外線もわずかに発光するという問題がある。
【0006】
特許文献1のようなバンドパスフィルタを用いた場合においても、このような波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を十分に抑制することが困難であった。特に、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制しようとすると、一方で波長220nm~225nmにおける紫外線を十分に透過させ難くなることから、人体に有害な紫外線の透過の抑制と、殺菌処理に有用な紫外線の高効率な透過とを高いレベルで両立することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線を効果的に透過させることができる、光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法、並びに該光学フィルタを用いた殺菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学フィルタは、透明基材と、前記透明基材上に設けられており、酸化ハフニウムを含む、誘電体多層膜と、を備え、入射角0°において波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が、50%以上であり、入射角0°において波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が、5%以下であることを特徴としている。
【0009】
本発明においては、前記誘電体多層膜が、立方晶系酸化ハフニウム結晶を含むことが好ましい。
【0010】
本発明においては、X線回折測定において、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークよりも大きいことが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有し、前記高屈折率膜が、前記酸化ハフニウムを含む膜であることが好ましい。前記低屈折率膜が、酸化ケイ素を含む膜であることがより好ましい。
【0012】
本発明においては、前記誘電体多層膜の最外層が、前記酸化ハフニウムを含む膜であることが好ましい。前記最外層の厚みが、1nm以上、10nm以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、入射角30°における波長222nmの分光透過率T30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0との比(T30/T0)が、0.5以上であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記誘電体多層膜が、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有し、前記高屈折率膜の総厚みtHと、前記低屈折率膜の総厚みtLとの比(tH/tL)が、0.2以上であることが好ましい。前記高屈折率膜の総厚みtHと、前記低屈折率膜の総厚みtLとの比(tH/tL)が、0.5以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明においては、入射角0°において、波長220nm~225nmの分光透過率の最小値が、50%以上であり、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値が、10%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、入射角40°において、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値が、20%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る光学フィルタの製造方法は、本発明に従って構成される光学フィルタの製造方法であって、スパッタリング法により、透明基材上に酸化ハフニウムを含む誘電体多層膜を成膜し、膜付き透明基材を得る工程と、前記膜付き透明基材を500℃以上の温度で加熱処理する工程と、を備えることを特徴としている。
【0018】
本発明においては、前記膜付き透明基材における加熱処理の温度が、800℃以下であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る殺菌装置は、処理対象微生物を不活化処理するための殺菌装置であって、放出光の波長が、波長190nm~230nmの波長域に存在する、光源と、本発明に従って構成される光学フィルタとを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線を効果的に透過させることができる、光学フィルタ及び該光学フィルタの製造方法、並びに該光学フィルタを用いた殺菌装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、実施例2及び比較例1で得られた光学フィルタのX線回折スペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例2及び比較例1で得られた光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、実施例5で得られた光学フィルタのフッ酸浸漬前後における透過スペクトルを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例8で得られた光学フィルタのフッ酸浸漬前後における透過スペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る殺菌装置を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施例18で得られた光学フィルタの各入射角における透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0023】
[第1の実施形態]
(光学フィルタ)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
図1に示すように、光学フィルタ1は、透明基材2と、誘電体多層膜3とを備える。透明基材2上に、誘電体多層膜3が設けられている。
【0024】
本実施形態において、透明基材2は、矩形板状の形状を有する。もっとも、透明基材2は、例えば、円板状等の形状を有していてもよく、その形状は特に限定されない。
【0025】
透明基材2の厚みは、特に限定されず、光透過率などに応じて適宜設定することができる。透明基材2の厚みは、例えば、0.1mm~30mm程度とすることができる。
【0026】
透明基材2は、光学フィルタ1の使用波長域で透明な基材であることが好ましい。より具体的には、透明基材2は、波長220nm~225nmにおける紫外波長域の平均光透過率が80%以上であることが好ましい。
【0027】
透明基材2の材料としては、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。ガラスとしては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。石英ガラスは、合成石英ガラスであってもよく、溶融石英ガラスであってもよい。ホウケイ酸ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55%~75%、Al2O3 1%~10%、B2O3 10%~30%、CaO 0%~5%、BaO 0%~5%、Li2O+Na2O+K2O 1.0%~15%を含有することが好ましく、さらには、TiO2 0%~0.001%、Fe2O3 0%~0.001%、F 0.5%~2.0%を含有することがより好ましい。
【0028】
透明基材2は、対向している第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。透明基材2の第1の主面2a上には、フィルタ部としての誘電体多層膜3が設けられている。
【0029】
誘電体多層膜3は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜4と相対的に屈折率が低い低屈折率膜5とを有する、多層膜である。本実施形態では、透明基材2の第1の主面2a上に、高屈折率膜4及び低屈折率膜5がこの順に交互に積層されることにより、多層膜が構成されている。
【0030】
高屈折率膜4は、酸化ハフニウムにより構成されており、酸化ハフニウムを主成分とする膜である。なお、本明細書において、主成分とする膜とは、膜中にその材料が50質量%以上含まれている膜のことをいうものとする。当然ながら、その材料を100質量%含む膜であってもよい。
【0031】
本実施形態において、低屈折率膜5は、酸化ケイ素により構成されており、酸化ケイ素を主成分とする膜である。もっとも、低屈折率膜5は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、フッ化マグネシウム、又は窒化ケイ素等を主成分とする膜であってもよい。これらの低屈折率膜5の材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0032】
高屈折率膜4の1層当たりの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0033】
低屈折率膜5の1層当たりの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下である。
【0034】
誘電体多層膜3全体の厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは1000nm以上、より好ましくは1500nm以上、好ましくは3000nm以下、より好ましくは2000nm以下である。
【0035】
また、誘電体多層膜3を構成する膜の層数は、好ましくは20層以上、より好ましくは30層以上、好ましくは100層以下、より好ましくは80層以下である。
【0036】
本実施形態の光学フィルタ1は、このような誘電体多層膜3を備えることにより、光の干渉で特定の波長域の光を選択的に透過させるように設計されたバンドパスフィルタである。具体的には、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が50%以上となり、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が5%以下となるように設計されたバンドパスフィルタである。
【0037】
なお、本明細書において、分光透過率は、例えば、分光透過率計(日立ハイテクサイエンス社製、品番「UH4150」)を用いて光学フィルタ1全体の分光透過率を測定することにより求めることができる。測定条件としては、例えば、光学フィルタ1の主面1a側から測定し、入射角度を0°とし、測定波長を190nm~400nmとして測定することができる。
【0038】
このように、本実施形態の光学フィルタ1の特徴は、透明基材2上に酸化ハフニウムを含む、誘電体多層膜3が設けられており、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が50%以上であり、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が5%以下であることにある。なお、この場合、後述する入射角θは、0°であるものとする。
【0039】
これにより、光学フィルタ1では、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線を効果的に透過させることができる。
【0040】
このように、光学フィルタ1では、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制できるので、人体に有害な紫外線の透過を抑制することができる。また、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性に優れるので、皮膚の殺菌処理などの殺菌処理に有用な紫外線を効果的に透過させることができる。
【0041】
従って、本実施形態の光学フィルタ1によれば、例えば、エキシマランプ等の紫外線照射装置を用いた場合に、人体に有害な紫外線の透過を抑制しつつ、殺菌処理に有用な紫外線を効果的に透過させることができる。
【0042】
本発明においては、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。この場合、皮膚の殺菌処理などの殺菌処理に有用な紫外線をより一層効果的に透過させることができる。なお、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値の上限値は、特に限定されないが、例えば、95%とすることができる。なお、この場合、後述する入射角θは、0°であるものとする。
【0043】
本発明においては、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。この場合、人体に有害な紫外線の透過をより一層効果的に抑制させることができる。なお、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.2%とすることができる。なお、この場合、後述する入射角θは、0°であるものとする。
【0044】
本実施形態の光学フィルタ1では、入射角30°における波長222nmの分光透過率T
30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T
0との比(T
30/T
0)が、0.5以上であることが好ましい。なお、入射角は、光学フィルタ1の主面1aに沿う方向に直交する誘電体多層膜3の積層方向(厚み方向)を法線方向としたときに、法線方向に対して傾斜した角度を意味するものとする(例えば、
図1のθ)。従って、法線方向に沿う方向が、入射角0°となる。
【0045】
この場合、分光透過率は、例えば、分光透過率計(日立ハイテクサイエンス社製、品番「UH4150」)を用いて光学フィルタ1全体の分光透過率を測定することにより求めることができる。測定条件としては、例えば、光学フィルタ1の主面1a側から測定し、測定波長を190nm~400nmとして測定することができる。
【0046】
本実施形態の光学フィルタ1では、入射角30°における波長222nmの分光透過率T30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0との比(T30/T0)が上記下限値以上であるので、光源からの放出光の入射角を大きくした場合においても、殺菌処理に有用な紫外線をより一層効率よく透過させることができる。そのため、光源からの放出光の有効照射面積をより一層大きくすることができる。
【0047】
本発明において、入射角30°における波長222nmの分光透過率T30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0との比(T30/T0)は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上であり、好ましくは1.0以下である。比(T30/T0)が上記範囲内である場合、光源からの放出光の入射角を大きくした場合においても、殺菌処理に有用な紫外線をより一層効率よく透過させることができる。
【0048】
本発明において、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。この場合、殺菌処理に有用な紫外線をより一層効率よく透過させることができる。なお、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0の上限値は、高いほど好ましいが、例えば、95%とすることができる。
【0049】
入射角30°における波長222nmの分光透過率T30は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。この場合、光源からの放出光の有効照射面積をより一層大きくすることができる。なお、入射角30°における波長222nmの分光透過率T30の上限値は、高いほど好ましいが、例えば、93%とすることができる。
【0050】
また、入射角40°における波長222nmの分光透過率は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは30%以上である。この場合、光源からの放出光の有効照射面積をより一層大きくすることができる。なお、入射角40°における波長222nmの分光透過率の上限値は、高いほど好ましいが、例えば、55%とすることができる。
【0051】
本発明においては、入射角0°において、波長220nm~225nmの分光透過率の最小値が、50%以上であり、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値が、10%以下であることが好ましい。この場合、殺菌処理に有用な紫外線の高効率な透過と、人体に有害な紫外線の透過の抑制とをより一層高いレベルで両立することができる。
【0052】
入射角0°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下である。この場合、人体に有害な紫外線の透過をより一層抑制することができる。なお、入射角0°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値の下限値は、低いほど好ましいが、例えば、0.01%とすることができる。
【0053】
入射角30°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下、最も好ましくは3%以下である。この場合、光源からの放出光の有効照射面積をより一層大きくすることができる。なお、入射角30°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値の下限値は、低いほど好ましいが、例えば、0.01%とすることができる。
【0054】
また、入射角40°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下、最も好ましくは5%以下である。この場合、光源からの放出光の有効照射面積をより一層大きくすることができる。なお、入射角40°における波長237nm~280nmの分光透過率の最大値の下限値は、低いほど好ましいが、例えば、0.01%とすることができる。
【0055】
なお、各入射角における波長222nmの分光透過率や、各入射角における波長237nm~280nmの分光透過率は、例えば、誘電体多層膜3の膜構成により調整することができる。
【0056】
本発明において、高屈折率膜4の総厚みtHは、好ましくは250nm以上、より好ましくは300nm以上、さらに好ましくは400nm以上、特に好ましくは500nm以上であり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは700nm以下、特に好ましくは600nm以下である。高屈折率膜4の総厚みtHが、上記下限値以上である場合、入射角を大きくした場合においても、波長222nmにおける高い分光透過率をより効果的に維持することができる。また、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。一方、高屈折率膜4の総厚みtHが、上記上限値以下である場合、波長222nmの分光透過率をより一層大きくすることができる。
【0057】
なお、高屈折率膜4の1層当たりの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0058】
本発明において、低屈折率膜5の総厚みtLは、好ましくは500nm以上、より好ましくは600nm以上、さらに好ましくは700nm以上、特に好ましくは800nm以上であり、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1700nm以下、さらに好ましくは1500nm以下、特に好ましくは1400nm以下である。低屈折率膜5の総厚みtLが、上記下限値以上である場合、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。一方、低屈折率膜5の総厚みtLが、上記上限値以下である場合、波長222nmの分光透過率をより一層大きくすることができる。
【0059】
なお、低屈折率膜5の1層当たりの厚みは、特に限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下である。
【0060】
本発明において、高屈折率膜4の総厚みtHと、低屈折率膜5の総厚みtLとの比(tH/tL)が、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.5以上、最も好ましくは0.6以上であり、好ましくは1以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.75以下である。比(tH/tL)が、上記下限値以上である場合、入射角を大きくした場合においても、波長222nmにおける高い分光透過率をより一層効果的に維持することができる。また、比(tH/tL)が、上記上限値以下である場合、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。
【0061】
誘電体多層膜3の総厚みとしては、特に限定されないが、好ましくは800nm以上、より好ましくは1000nm以上、さらに好ましくは1100nm以上、特に好ましくは1200nm以上であり、好ましくは2500nm以下、より好ましくは2200nm以下、さらに好ましくは2000nm以下、特に好ましくは1900nm以下である。誘電体多層膜3の総厚みが上記下限値以上である場合、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。一方、誘電体多層膜3の総厚みが上記上限値以下である場合、波長222nmの分光透過率をより一層大きくすることができる。
【0062】
また、誘電体多層膜3を構成する膜の層数は、好ましくは20層以上、より好ましくは25層以上、さらに好ましくは30層以上、特に好ましくは35層以上であり、好ましくは100層以下、より好ましくは80層以下、さらに好ましくは60層以下、特に好ましくは45層以下である。誘電体多層膜3を構成する膜の層数が上記下限値以上である場合、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。また、誘電体多層膜3を構成する膜の層数が上記上限値以下である場合、波長222nmの分光透過率をより一層大きくすることができる。
【0063】
本発明においては、誘電体多層膜3が、酸化ハフニウム結晶を含む。より具体的には、誘電体多層膜3を構成する高屈折率膜4が、酸化ハフニウム結晶を含んでいることが好ましく、立方晶系酸化ハフニウム結晶を含んでいることがより好ましい。この場合、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0064】
なお、本明細書において、立方晶系酸化ハフニウム結晶を含んでいるか否かは、X線回折測定において、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが観察されるか否かにより確認することができる。
【0065】
また、本明細書において、X線回折測定は、広角X線回折法によって測定することができる。X線回折装置としては、例えば、株式会社リガク社製、品番「SmartLab」を用いることができる。また、線源としては、CuKα線を用いることができる。なお、X線回折測定においても、光学フィルタ1全体を第1の主面2a側から測定に供するものとする。
【0066】
本発明においては、X線回折測定において、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークよりも大きいことが好ましい。この場合、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0067】
本発明においては、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Icと、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Imとの比Ic/Imが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、さらにより好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上、特に好ましくは2.5以上、最も好ましくは3以上である。比Ic/Imが上記下限値以上である場合、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。なお、比Ic/Imの上限値は、特に限定されないが、例えば、10000とすることができる。
【0068】
なお、本発明においては、透明基材2の第2の主面2b上に、反射防止膜が設けられていてもよい。この場合、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0069】
反射防止膜としては、特に限定されず、例えば、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有する、多層膜を用いることができる。多層膜は、高屈折率膜及び低屈折率膜がこの順に交互に設けられることにより構成されていてもよい。上記高屈折率膜としては、例えば、酸化ハフニウムを主成分とする膜を用いることができる。上記低屈折率膜としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は窒化ケイ素等を主成分とする膜が挙げられる。また、上記多層膜を構成する膜の層数は、例えば、4層以上、100層以下とすることができる。
【0070】
なお、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、透明基材2の第2の主面2b上には、反射防止膜以外の膜が積層されていてもよい。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、透明基材2の第1の主面2a上にも、誘電体多層膜3以外の膜が設けられていてもよい。この場合、透明基材2と、誘電体多層膜3との間に膜が設けられていてもよいし、誘電体多層膜3の上に膜が設けられていてもよい。
【0071】
以下、光学フィルタ1の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0072】
(光学フィルタの製造方法)
膜付き透明基材形成工程;
まず、透明基材2を用意する。次に、透明基材2の第1の主面2a上に誘電体多層膜3を形成する。誘電体多層膜3は、透明基材2の第1の主面2a上に、高屈折率膜4及び低屈折率膜5をこの順に交互に積層することにより形成することができる。高屈折率膜4及び低屈折率膜5は、それぞれ、スパッタリング法により形成することができる。
【0073】
高屈折率膜4を成膜するときの基板の温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは270℃以下である。この場合、得られる光学フィルタ1において、波長240nm~320nmの光をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmの範囲の紫外線をより一層効果的に透過させることができる。なお、高屈折率膜4を成膜するときの基板の温度の下限値は、例えば、20℃とすることができる。
【0074】
高屈折率膜4の成膜は、例えば、高屈折率膜4を構成する材料のターゲットを用い、キャリアガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を50sccm~500sccmとし、印加電力を0.5kW~40kWとして行うことができる。
【0075】
低屈折率膜5の成膜は、例えば、低屈折率膜5を構成する材料のターゲットを用い、キャリアガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を50sccm~500sccmとし、印加電力を0.5kW~40kWとして行うことができる。
【0076】
熱処理工程;
次に、得られた膜付き透明基材を例えば450℃以上の温度で加熱処理する。それによって、光学フィルタ1を得ることができる。特に、膜付き透明基材を450℃以上の温度で加熱する場合、立方晶系酸化ハフニウム結晶の含有量を相対的により大きくすることができる。そのため、得られる光学フィルタ1において、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0077】
膜付き透明基材における加熱処理の温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上、好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下である。加熱処理の温度が上記範囲内にある場合、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0078】
膜付き透明基材における加熱処理の時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、120分以下とすることができる。
【0079】
なお、本発明においては、加熱処理前の膜付き透明基材のX線回折測定において、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークの強度が小さいことが好ましい。単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークの強度が、微結晶レベルであることが好ましく、ピーク強度の高さはアモルファスのハローのピーク強度の高さの3倍以内であることがより好ましい。この場合、加熱処理によって、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Icと、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Imとの比Ic/Imをより一層大きくすることができる。そのため、得られる光学フィルタ1において、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層高めることができる。
【0080】
本発明において、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過率及び波長220nm~225nmにおける紫外線の透過率は、例えば、誘電体多層膜3を構成する膜の総数、膜厚、及び材料や、膜付き透明基材の加熱処理温度により調整することができる。特に、膜付き透明基材の加熱処理温度により、得られる光学フィルタ1において、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線の透過性をより一層効果的に高めることができる。
【0081】
また、各入射角における波長222nmの分光透過率及び波長237nm~280nmの分光透過率についても、例えば、誘電体多層膜3を構成する膜の総数、膜厚、及び材料に加え、膜付き透明基材の加熱処理温度によっても調整することができる。特に、膜付き透明基材の加熱処理温度により、得られる光学フィルタ1において、波長222nmの分光透過率をより一層大きくしつつ、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくすることができる。
【0082】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
図4に示すように、光学フィルタ21では、誘電体多層膜23の最外層26が、酸化ハフニウムにより構成されている、高屈折率膜4である。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0083】
光学フィルタ21においても、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が50%以上であり、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が5%以下である。そのため、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過を抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線を効果的に透過させることができる。
【0084】
ところで、波長220nm~225nmの範囲の紫外線を発光するエキシマランプ等を用いた場合、照射される光により装置部材が劣化し、酸性のガスが発生する場合がある。このガスにより光学フィルタの膜が浸食され、それによって光学特性が変化し、要求特性を満たせない場合がある。
【0085】
これに対して、光学フィルタ21のように、最外層26が酸化ハフニウムにより構成されている場合、酸性のガスによる浸食をより一層抑制することができ、光学特性の変化をより一層抑制することができる。
【0086】
また、最外層26の厚みは、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下である。最外層26の厚みが上記下限値以上である場合、酸性のガスによる浸食をより一層抑制することができ、光学特性の変化をより一層抑制することができる。一方、最外層26の厚みが上記上限値以下である場合、波長240nm~320nmにおける紫外線の透過をより一層抑制しつつ、波長220nm~225nmにおける紫外線をより一層効果的に透過させることができる。
【0087】
[殺菌装置]
図7は、本発明の一実施形態に係る殺菌装置を示す模式図である。
図7に示すように、殺菌装置31は、筐体32と、光源33と、光学フィルタ1とを備える。筐体32の内部には、放出光の波長が、波長190nm~230nmの波長域に存在する、光源33が配置されている。光源33及び光学フィルタ1は、対向するように設けられている。このとき、誘電体多層膜3は、光源33側に設けられていることが好ましい。殺菌装置31では、光源33から発せられた放出光が、光学フィルタ1を介して、殺菌対象物34に照射される。
【0088】
光源33としては、例えば、エキシマランプを用いることができる。エキシマランプとしては、波長220nm~225nmの範囲の紫外線を発光するエキシマランプを用いることが好ましい。このようなエキシマランプとしては、例えば、KrClエキシマランプを用いることができる。エキシマランプは、KrBrエキシマランプであってもよい。
【0089】
本実施形態の殺菌装置31では、上述した光学フィルタ1を用いているので、殺菌処理に有用な紫外線を効率よく透過させることができる。そのため、殺菌対象物34に効率良く紫外線殺菌を施すことができる。なお、紫外線殺菌では、細菌などの殺菌対象生物の細胞内におけるDNAに紫外線を作用させて選択的に不活化させることができる。また、紫外線殺菌では、ウイルスに紫外線を作用させて選択的に不活化させることもできる。なかでも、殺菌装置31は、処理対象微生物を不活化処理するために用いられることがより好ましい。
【0090】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0091】
(製造例1)
まず、透明基材として合成石英ガラス基板(USTRON社製)を用意した。次に、用意した透明基材の一方側主面上に、スパッタリングにより誘電体多層膜を成膜した。具体的には、まず、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスを用い、ハフニウムのターゲットをスパッタリングし、透明基材の一方側主面上に酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。次に、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、HfO2膜の上に酸化ケイ素膜(SiO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量を100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。この操作を繰り返すことにより、透明基材の一方側主面上に、HfO2膜とSiO2膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計38層の膜を有する誘電体多層膜を形成し、膜付き透明基材を得た。なお、成膜の間、基板温度は、室温(20℃)とした。
【0092】
(製造例2)
成膜の間、基板温度を270℃としたこと以外は、製造例1と同様にして膜付き透明基材を得た。
【0093】
(製造例3)
透明基材として溶融石英ガラス基板(USTRON社製)を用いたこと及び各層の膜厚を下記の表1に示すように成膜したこと以外は、製造例1と同様にして膜付き透明基材を得た。
【0094】
(製造例4)
透明基材としてホウケイ酸ガラス基板(日本電気硝子社製、品番「BU-41」)を用いたこと及び各層の膜厚を下記の表1に示すように成膜したこと以外は、製造例1と同様にして膜付き透明基材を得た。
【0095】
製造例1~4で作製した膜付き透明基材における各層の厚みは、下記の表1に示す通りである。
【0096】
【0097】
(製造例5)
まず、透明基材として合成石英ガラス基板(USTRON社製)を用意した。次に、用意した透明基材の一方側主面上に、スパッタリングにより誘電体多層膜を成膜した。具体的には、まず、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスを用い、ハフニウムのターゲットをスパッタリングし、透明基材の一方側主面上に酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。次に、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、HfO2膜の上に酸化ケイ素膜(SiO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量を100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。この操作を繰り返すことにより、透明基材の一方側主面上に、HfO2膜とSiO2膜とが、1層ずつ交互に積層され、最外層がHfO2膜となるように、合計39層の膜を有する誘電体多層膜を形成し、膜付き透明基材を得た。なお、成膜の間、基板温度は、室温(20℃)とした。
【0098】
製造例5で作製した膜付き透明基材における各層の厚みは、下記の表2に示す通りである。
【0099】
【0100】
(製造例6)
透明基材として溶融石英ガラス基板(USTRON社製)を用いたこと及び各層の膜厚を上記の表1に示すように成膜したこと以外は、製造例1と同様にして膜付き透明基材を得た。
【0101】
(実施例1~17及び比較例1~4)
実施例1では、製造例1で得られた膜付き透明基材を、大気雰囲気下、500℃の温度で60分間加熱処理することにより、光学フィルタを得た。実施例2~17においても同様に、各製造例で得られた膜付き透明基材を、大気雰囲気下で、下記の表3に示す温度及び時間で加熱処理することにより、光学フィルタを得た。また、下記の表3に示すように、比較例1~4では、各製造例で得られた膜付き透明基材の加熱処理を行わずに、そのまま光学フィルタとして用いた。
【0102】
[評価]
(X線回折測定)
実施例1~7,9~17及び比較例1~4の光学フィルタについて、広角X線回折法によりX線回折測定を行った。X線回折装置としては、株式会社リガク社製、品番「SmartLab」を用いた。線源としてはCuKα線(波長1.5418Å)を用い、スキャン軸:2θ/ω、測定範囲:10°~65°、走査速度:2°/分、管電流:200mA、管電圧:45kVの条件で測定を行った。得られた光学フィルタにおけるX線回折スペクトルの一例を
図2に示す。
【0103】
図2は、実施例2及び比較例1で得られた光学フィルタのX線回折スペクトルを示す図である。
図2に示すように、実施例2のX線回折スペクトルでは、2θ=30.7°付近に立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが観察され、2θ=28.4°付近に単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークが観察された。一方、比較例1では、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが観察されなかった。
【0104】
同様にして、実施例1,3~7,9~17及び比較例2~4の光学フィルタについても、X線回折測定を行い、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Icと、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Imと、比Ic/Imとを求めた。結果を下記の表3に示す。
【0105】
(分光透過率)
実施例1~17及び比較例1~4の光学フィルタについて、分光透過率計(日立ハイテクサイエンス社製、品番「UH4150」)を用いて、分光透過率を測定した。具体的には、入射角度(入射角)を0°とし、測定波長を190nm~400nmとした。得られた光学フィルタにおける透過スペクトルの一例を
図3に示した。
【0106】
図3は、実施例2及び比較例1で得られた光学フィルタの透過スペクトルを示す図である。
図3に示すように、実施例2では、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値が高められていることを確認することができる。他方、比較例1では、波長220nm~225nmにおける分光透過率の最小値を十分に高めることができなかった。また、実施例2及び比較例1では、いずれも240nm~320nmにおける分光透過率の最大値が低められていることがわかる。
【0107】
同様にして、実施例1,3~17及び比較例2~4の光学フィルタについても、波長220nm~225nm及び波長240nm~320nmにおける分光透過率を測定した。なお、上述のように入射角は0°とした。
【0108】
結果を下記の表3に示す。
【0109】
【0110】
表3から明らかなように、実施例1~17の光学フィルタでは、波長域240nm~320nmの紫外線の透過を抑制しつつ、波長220nm~225nmの紫外線を効果的に透過させることができた。他方、比較例1~4の光学フィルタでは、波長220nm~225nmの紫外線を十分に透過させることができなかった。
【0111】
(浸食試験)
実施例5及び実施例8で得られた光学フィルタを、0.5重量%のフッ酸(HF)に浸漬させ、浸食試験を行った。浸食前後における透過スペクトルの一例を
図5及び
図6に示した。
【0112】
図5は、実施例5で得られた光学フィルタのフッ酸浸漬前後における透過スペクトルを示す図である。
図6は、実施例8で得られた光学フィルタのフッ酸浸漬前後における透過スペクトルを示す図である。なお、
図5及び
図6では、フッ酸への浸漬時間は240秒とした。
【0113】
図5及び
図6より、最外層がHfO
2膜である実施例8では、最外層がSiO
2膜である実施例5と比較して、波長220nm~225nmにおける透過率変化を抑制できていることがわかる。
【0114】
また、下記の表4に、実施例5及び実施例8で得られた光学フィルタについて、各浸漬時間における浸食量と波長220nm~225nmにおける透過率変化の関係を示す。
【0115】
【0116】
表4より、最外層がHfO2膜である実施例8では、最外層がSiO2膜である実施例5と比較して、浸食量を低減することができ、波長220nm~225nmにおける透過率変化を抑制できていることがわかる。
【0117】
(実施例18)
まず、透明基材として合成石英ガラス基板(USTRON社製)を用意した。次に、用意した透明基材の一方側主面上に、スパッタリングにより誘電体多層膜を成膜した。具体的には、まず、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、ハフニウムのターゲットをスパッタリングし、透明基材の一方側主面上に酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。次に、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、HfO2膜の上に酸化ケイ素膜(SiO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量を100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。この操作を繰り返すことにより、透明基材の一方側主面上に、HfO2膜とSiO2膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計38層の膜を有する誘電体多層膜を形成し、膜付き透明基材を得た。なお、成膜の間、基板温度は、室温(20℃)とした。次に、膜付き透明基材を、大気雰囲気下、500℃の温度で60分間加熱処理することにより、光学フィルタを得た。
【0118】
(実施例19)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと以外は、実施例18と同様にして光学フィルタを作製した。
【0119】
(実施例20)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと、及び得られた膜付き透明基材を、大気雰囲気下、550℃の温度で60分間加熱処理したこと以外は、実施例18と同様にして光学フィルタを作製した。
【0120】
(実施例21)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと、及び得られた膜付き透明基材を、大気雰囲気下、600℃の温度で60分間加熱処理したこと以外は、実施例18と同様にして光学フィルタを作製した。
【0121】
(実施例22)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと、及び得られた膜付き透明基材を、大気雰囲気下、450℃の温度で60分間加熱処理したこと以外は、実施例18と同様にして光学フィルタを作製した。
【0122】
(実施例23)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと、及び酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した時のターゲット印加電力(成膜電力)を3.5kWとしたこと以外は、実施例22と同様にして光学フィルタを作製した。
【0123】
(実施例24)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと、及び酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した時のターゲット印加電力(成膜電力)を3kWとしたこと以外は、実施例22と同様にして光学フィルタを作製した。
【0124】
(実施例25)
膜付き透明基材を作製するに際し、各層の厚み及び膜の積層数を下記の表5に示すように変更したこと以外は、実施例23と同様にして光学フィルタを得た。
【0125】
【0126】
(比較例5)
実施例18と同様にして用意した透明基材の一方側主面上に、スパッタリングにより誘電体多層膜を成膜した。具体的には、まず、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、アルミニウムのターゲットをスパッタリングし、透明基材の一方側主面上に酸化アルミニウム膜(Al2O3膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を100ccmとし、酸素ガスの流量を20ccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。次に、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、Al2O3膜の上に酸化ケイ素膜(SiO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。この操作を繰り返すことにより、透明基材の一方側主面上に、Al2O3膜とSiO2膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計230層の膜を有し、総厚みが10μmの誘電体多層膜を形成し、膜付き透明基材(光学フィルタ)を得た。なお、成膜の間、基板温度は、室温(20℃)とした。
【0127】
(比較例6)
実施例18と同様にして用意した透明基材の一方側主面上に、スパッタリングにより誘電体多層膜を成膜した。具体的には、まず、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、ハフニウムのターゲットをスパッタリングし、透明基材の一方側主面上に酸化ハフニウム膜(HfO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量をそれぞれ100ccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を3kWとした。次に、キャリアガスとしてアルゴンガスと酸素ガスとを用い、シリコンのターゲットをスパッタリングし、HfO2膜の上に酸化ケイ素膜(SiO2膜)を成膜した。なお、この際、アルゴンガス及び酸素ガスの流量を100sccmとし、ターゲット印加電力(成膜電力)を4kWとした。この操作を繰り返すことにより、透明基材の一方側主面上に、HfO2膜とSiO2膜とが、1層ずつ交互に積層された、合計33層の膜を有し、総厚みが1700nmの誘電体多層膜を形成し、膜付き透明基材を得た。なお、成膜の間、基板温度は、室温(20℃)とした。次に、膜付き透明基材を、大気雰囲気下、425℃の温度で60分間加熱処理することにより、光学フィルタを得た。
【0128】
[評価]
(X線回折測定)
実施例18~25及び比較例5~6の光学フィルタについて、広角X線回折法によりX線回折測定を行った。X線回折装置としては、株式会社リガク製、品番「SmartLab」を用いた。線源としてはCuKα線(波長1.5418Å)を用い、スキャン軸:2θ/ω、測定範囲:10°~65°、走査速度:2°/分、管電流:200mA、管電圧:45kVの条件で測定を行った。
【0129】
得られたX線回折スペクトルにおいて、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークが、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークよりも大きいものを〇とし、小さいものを×として評価した。
【0130】
また、得られたX線回折スペクトルを用いて、立方晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Icと、単斜晶系酸化ハフニウム結晶に由来する(-1 1 1)結晶面による回折ピークのピーク面積強度Imと、比Ic/Imとを求めた。
【0131】
(分光透過率)
実施例18~25及び比較例5~6の光学フィルタについて、分光透過率計(日立ハイテクサイエンス社製、品番「UH4150」)を用いて、分光透過率を測定した。具体的には、入射角(AOI)を0°、25°、30°、40°、又は50°とし、測定波長を190nm~400nmとした。得られた光学フィルタにおける透過スペクトルの一例を
図8に示した。
【0132】
図8は、実施例18で得られた光学フィルタの各入射角における透過スペクトルを示す図である。
図8に示すように、実施例18では、入射角を大きくした場合においても、波長222nmにおける高い分光透過率をより効果的に維持することができ、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくできていることがわかる。
【0133】
同様にして、実施例18~25及び比較例5~6の光学フィルタについても、各入射角における波長222nmの分光透過率及び波長237nm~280nmの分光透過率(最大透過率)を測定した。
【0134】
結果を下記の表6に示す。なお、下記の表6においては、入射角30°における波長222nmの分光透過率T30と、入射角0°における波長222nmの分光透過率T0との比(T30/T0)を併せて示している。下記の表6においては、波長220nm~225nmにおける最小透過率も併せて示している。高屈折率膜の総厚みtH(HfO2厚み)と、低屈折率膜の総厚みtL(SiO2厚み)、膜厚比(tH/tL)を併せて示している。
【0135】
【0136】
表6から明らかなように、実施例18~25の光学フィルタでは、比較例5~6と比較して、入射角を大きくした場合においても、波長222nmにおける高い分光透過率をより効果的に維持することができ、波長237nm~280nmの分光透過率の最大値をより一層小さくできていることがわかる。
【0137】
なお、実施例18~25の光学フィルタでは、実施例1と同様の方法により、波長240nm~320nmにおける分光透過率の最大値を測定したところ、5%以下であった。また、比較例5及び比較例6では、それぞれ17.8%、21.5%であった。
【符号の説明】
【0138】
1,21…光学フィルタ
1a…主面
2…透明基材
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3,23…誘電体多層膜
4…高屈折率膜
5…低屈折率膜
26…最外層
31…殺菌装置
32…筐体
33…光源
34…殺菌対象物