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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/06 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F02B23/06 T
F02B23/06 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023036226
(22)【出願日】2023-03-09
(65)【公開番号】P2024127222
(43)【公開日】2024-09-20
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】向山 智之
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-085827(JP,U)
【文献】特開平05-033656(JP,A)
【文献】特開昭59-218328(JP,A)
【文献】特開2017-193997(JP,A)
【文献】特開平09-317472(JP,A)
【文献】特開2009-144527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/00 ~ 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに取り付けられ前記シリンダボアを塞ぐシリンダヘッドと、
前記シリンダボア内において往復移動可能に設けられたピストンと、
シリンダボアの軸方向に対して所定の角度に傾斜した噴霧中心軸に沿う方向に燃料を噴射する燃料噴射ノズルと、
前記シリンダヘッドの内面に形成され前記燃料の進行方向を変化させるガイド突起であって、前記内面から最も突出した頂部が前記噴霧中心軸に接しない高さとなるように設けられたガイド突起と、
を備え、
前記ガイド突起の断面形状は、前記燃料噴射ノズルから遠い側に設けられ、前記燃料の進行方向に沿って延びる延長部を有する、
ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記ガイド突起の断面形状は、角部を有することなく湾曲した輪郭を有する、
請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記ガイド突起は、
前記シリンダヘッドの前記内面の正面視において、前記燃料噴射ノズルを囲むリング形状である、
請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに取り付けられ前記シリンダボアを塞ぐシリンダヘッドと、
前記シリンダボア内において往復移動可能に設けられたピストンと、
シリンダボアの軸方向に対して所定の角度に傾斜した噴霧中心軸に沿う方向に燃料を噴射する燃料噴射ノズルと、
前記シリンダヘッドの内面に形成され前記燃料の進行方向を変化させるガイド突起であって、前記内面から最も突出した頂部が前記噴霧中心軸に接しない高さとなるように設けられたガイド突起と、
を備え、
前記ガイド突起は、
前記シリンダヘッドの前記内面の正面視において前記燃料噴射ノズルを囲むリング状部分と、
前記リング状部分から前記リング状部分の半径方向外側に向かって延びる複数の延出部と、
を有し、
前記延出部の断面形状は、
前記リング状部分の周方向に沿う切断線における断面視において、前記噴霧中心軸が通過する水平方向の基準面と前記ガイド突起の上面との間の距離が、前記噴霧中心軸から前記周方向に離れるにつれて徐々に増加する円弧形状である
ィーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、燃料噴射ノズルから噴射された燃料を、ピストン側に向ける突起がシリンダヘッドの壁面に形成された構成が開示さている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平7-23537号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の構成では、燃料を燃焼室内に十分に拡散させることができず、燃焼の促進及び後燃えの低減の点で改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、燃焼の促進及び後燃えの低減を図ることができるディーゼルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態のディーゼルエンジンは、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックに取り付けられ前記シリンダボアを塞ぐシリンダヘッドと、前記シリンダボア内において往復移動可能に設けられたピストンと、シリンダボアの軸方向に対して所定の角度に傾斜した噴霧中心軸に沿う方向に燃料を噴射する燃料噴射ノズルと、前記シリンダヘッドの内面に形成され前記燃料の進行方向を変化させるガイド突起であって、前記内面から最も突出した頂部が前記噴霧中心軸に接しない高さとなるように設けられたガイド突起と、を備える。
【0007】
前記ガイド突起の断面形状は、角部を有することなく湾曲した輪郭を有していてもよい。
【0008】
前記ガイド突起の断面形状は、前記燃料噴射ノズルから遠い側に設けられ、前記燃料の進行方向に沿って延びる延長部を有していてもよい。
【0009】
前記ガイド突起は、前記シリンダヘッドの前記内面の正面視において、前記燃料噴射ノズルを囲むリング形状であってもよい。
【0010】
前記ガイド突起の断面形状は、前記リング形状の周方向に沿う切断線における断面視において、前記噴霧中心軸が通過する水平方向の基準面と前記ガイド突起の上面との間の距離が、前記噴霧中心軸から前記周方向に離れるにつれて徐々に増加する形状であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼の促進及び後燃えの低減を図ることができるディーゼルエンジンを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態のディーゼルエンジンを示す断面図である。
図2】燃料噴射ノズル及びガイド突起の周辺を拡大して示す断面図である。
図3】シリンダヘッドの内面の正面視におけるガイド突起の形状を示す図である。
図4】ディーゼルエンジンの熱発生率のグラフである。
図5】ディーゼルエンジンの熱発生率の他のグラフである。
図6】ガイド突起の変形例を示す図である。
図7】ガイド突起の他の変形例を示す図である。
図8】延出部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態のディーゼルエンジンを示す断面図である。本明細書において、「半径方向」とは、シリンダ軸CLを基準とした半径方向のことをいう。方向を示す語句に関し、「上」は、ピストンの上死点側のことをいう。「下」は、ピストンの下死点側のことをいう。以下では「上」、「下」などの方向を示す語句が使用されるが、これは、本発明を限定する意図で使用されるものではない。
【0014】
ディーゼルエンジンS100は、シリンダ内において高圧かつ高温に圧縮された空気中に噴射された燃料が爆発することでエネルギーを発生させる機関である。ディーゼルエンジンS100は、複数のシリンダを有していてよいが、図1では、1つのシリンダ及びその周辺構造のみが示されている。
【0015】
(エンジンの基本構造)
ディーゼルエンジンS100は、主要な構成要素として、シリンダブロック10と、シリンダヘッド20と、ピストン30と、燃料噴射ノズル40と、ガイド突起50とを備えている。
【0016】
シリンダブロック10には、円筒状のシリンダボア11が形成されている。図1では、シリンダボア11の中心軸がシリンダ軸CLとして描かれている。本発明においてシリンダボア11の軸方向とはシリンダ軸CLに沿う方向である。
【0017】
シリンダヘッド20は、シリンダブロック10に取り付けられシリンダボア11を塞ぐ。具体的には、シリンダボア11は、シリンダヘッド20の内面21によって塞がれている。
【0018】
ピストン30は、円柱状の部材である。ピストン30は、シリンダボア11の内部をシリンダ軸CLに沿って往復移動可能に設けられている。ピストン30は、クランクシャフトに対して動力を伝達可能に連結されている。ピストン30の上部には、燃焼室の一部を形成する凹部31が設けられている。凹部31はキャビティとも呼ばれる部分である。
【0019】
図2は燃料噴射ノズル及びガイド突起の周辺を拡大して示す断面図である。燃料噴射ノズル40は、シリンダ内に燃料を噴射する部材である。燃料噴射ノズル40は燃料を半径方向に放射状に噴射するように、複数の噴孔を有している。
【0020】
燃料噴射ノズル40は、1つの噴孔から噴霧中心軸Axに沿う方向に燃料を噴射する。噴霧中心軸Axは、シリンダ軸CLに対して所定の角度に傾斜している。図2では所定の角度が符号β/2で示されている。角度β(図1参照)は燃料噴射ノズル40の噴射角である。
【0021】
図3は、シリンダヘッドの内面の正面視におけるガイド突起の形状を示す図である。燃料噴射ノズル40は、一例として、図3に示すように噴霧中心軸Axに沿って複数の方向に燃料を噴射する。燃料を噴射する方向は特定の数に限定されるものではなく、任意に設定可能である。
【0022】
(ガイド突起)
続いて、本実施形態の構成において、噴霧された燃料をシリンダ内で拡散させるためのガイド突起50について説明する。ガイド突起50は、図3に示すように、燃料噴射ノズル40を囲むリング形状に形成されている。ガイド突起50は、一例として燃料噴射ノズル40の中心を中心とする円環形状である。
【0023】
ガイド突起50は、図2に示すように、シリンダヘッド20の内面21に形成されている。ガイド突起50は、内面21から突出している。ガイド突起50の断面形状は、この例では半円形である。ガイド突起50の断面形状は、角部を有することなく湾曲した輪郭を有するものであれば、半円形に限定されず、半楕円形又は任意の流線形状であってもよい。角部を有しないない形状であることは、ガイド突起50の表面に沿う流れが剥離しにくい点で好ましい。ガイド突起50の断面形状は、中心線RLを基準として対称形状であってもよいし、非対称形状であってもよい。
【0024】
ガイド突起50は、内面21から最も突出した頂部が噴霧中心軸Axに接しない高さとなるように設けられている。ガイド突起50が噴霧中心軸Axに接する程度の高さの場合、燃料噴射ノズル40から噴射された燃料がガイド突起50にぶつかりシリンダ内に良好に拡がらないため、上記のような高さであることが好ましい。
【0025】
このように設けられたガイド突起50は、コアンダ効果により、燃料噴射ノズル40から噴射された燃料の進行方向を変化させる。具体的には、燃料噴射ノズル40から噴霧中心軸Axの向きに噴射された燃料は、半径方向外側へと移動する。湾曲した輪郭を有したガイド突起50の付近を通過する噴流は、矢印aに示すように、コアンダ効果により、ガイド突起50の表面へ引き寄せられるように進行方向が変化する。その結果、図2中の破線で示す、ガイド突起50が存在しない場合の噴射範囲と比較して、燃料がより広い範囲に拡がる。このように燃料が燃焼室内に良好に拡がることで、後述するように燃焼の促進及び後燃えの低減を図ることができる。
【0026】
図4は、ディーゼルエンジンの熱発生率(ROHR:Rate of Heat Release)のグラフである。横軸はクランク角であり、縦軸は熱発生率である。また、実線が本発明の構造のデータであり、破線が従来構造のデータである。本発明の構造はガイド突起50を有しており、従来構造はガイド突起50を有していない。この熱発生率のグラフは、シリンダ内においてどの程度熱が発生するかを示している。
【0027】
図4において、クランク角が0度に比較的近い位置(ピストンの上死点側)では実線が破線より上に位置しており、このことから、本発明の構造の方が従来構造よりも燃焼が促進されていることが理解される。一方、クランク角が20度付近では、破線が実線より上に位置している。これは、本発明の構造の方が従来構造よりも後半の燃焼(後燃え)が抑えられていることを示している。後燃えは動力に変換されにくく、したがって、後燃えが生じる辺りのクランク角よりもピストンの上死点側において、燃料が効率的に燃焼することが好ましい。
【0028】
以上のように構成されたディーゼルエンジンS100では、頂部が噴霧中心軸Axに接しない高さに形成されたガイド突起50が設けられていることにより、コアンダ効果により、燃料噴射ノズル40から噴射された燃料の進行方向が変化する。その結果、燃料がより広い範囲に拡がり、図4のように燃焼の促進及び後燃えの低減を実現できる。
【0029】
図5は、ディーゼルエンジンの熱発生率(ROHR:Rate of Heat Release)の他のグラフである。ここでは、実線が本発明の構造のデータであり、破線が比較例のデータである。比較例は、ガイド突起50の頂部が噴霧中心軸Axに接する高さに設けられた例である。図5に示されているように、比較例では、燃焼が大幅に悪化し、ディーゼルエンジンのエネルギー発生効率が低下することが理解される。
【0030】
<変形例1>
図6は、ガイド突起の変形例を示す図である。上述した実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、説明は省略する。ガイド突起50Aの断面形状は、中心線RLを基準として燃料噴射ノズル40に近い側の内側部分51と、遠い側の外側部分52とを含んでいる。外側部分52は、燃料の進行方向に沿って延びるように形成された延長部である。内側部分51は、一例として中心角が90°の扇形である。外側部分52は、内側部分51の頂部から内面21に向かってなだらかに傾斜している。
【0031】
このようなガイド突起50Aが形成されている場合、燃料噴射ノズル40から噴射された燃料が、コアンダ効果によって矢印aに示すように外側部分52に沿うように流れ、より効果的に燃料を拡散させることができる。
【0032】
<変形例2>
ガイド突起は、図3に示したようなリング状ではなく、コアンダ効果によって燃料を周方向にも拡散可能な形状に設けられていてもよい。図7は、ガイド突起の他の変形例を示す図である。ガイド突起50Bは、リング状部分53と、延出部54とを有している。
【0033】
図8は、延出部の断面図である。図8は、具体的には、ガイド突起のリング形状の周方向に沿う切断線A-A切断線における断面図である。図8に示すように、ガイド突起の断面形状は、噴霧中心軸Axが通過する水平方向の基準面Lとガイド突起50B(具体的には、ガイド突起50Bの延出部54)の上面との間の距離が、噴霧中心軸Axから周方向に離れるにつれて徐々に増加する形状に設けられている。延出部54の上面の輪郭形状は、一例として円弧状である。
【0034】
このように、ガイド突起50Bの一部が、断面視において、周方向にもなだらかに湾曲した形状を有している場合、燃料噴射ノズル40から噴霧中心軸Axの向きに噴射された燃料が、矢印aに示すように、延出部54の形状によるコアンダ効果により、周方向に拡がり易くなる。したがって、燃料をより効果的に拡散させることができる。
【0035】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0036】
10 シリンダブロック
11 シリンダボア
20 シリンダヘッド
21 内面
30 ピストン
31 凹部
40 燃料噴射ノズル
50 ガイド突起
50A ガイド突起
50B ガイド突起
51 内側部分
52 外側部分
53 リング状部分
54 延出部
Ax 噴霧中心軸
CL シリンダ軸
L 基準面
RL 中心線
S100 ディーゼルエンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8