(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ろ過膜システムの制御方法および制御装置、ろ過膜システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241112BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241112BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20241112BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D71/02
C02F1/52 Z
C02F1/44 A
(21)【出願番号】P 2023080734
(22)【出願日】2023-05-16
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】野口 寛
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 輝武
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-248028(JP,A)
【文献】特開2022-006582(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187378(WO,A1)
【文献】特開2010-227836(JP,A)
【文献】特開2002-136969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00-71/82
C02F 1/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、前記凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ前記原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、を備えるろ過膜システムの制御方法であって、
前記ろ過膜は、前記凝集処理水中でプラスに帯電するアルミナ系のセラミック膜であり、
前記ろ過膜による前記ろ過処理の前処理として、前記凝集物のゼータ電位が前記ろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、前記凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する制御工程を有
し、
前記制御工程では、前記凝集物のゼータ電位が-7mV以上で、かつ前記ゼータ電位がマイナス側の領域に収まるように、前記凝集剤および前記pH調整剤の少なくとも一方の注入率が制御される
制御方法。
【請求項2】
前記凝集処理水のpH値と前記凝集物のゼータ電位との対応関係を取得する準備工程をさらに有し、
前記制御工程では、
前記凝集処理水のpH値を監視し、
前記対応関係に基づいて、監視される前記凝集処理水のpH値が前記目標範囲に対応するpH値の範囲に収まるように、前記凝集剤および前記pH調整剤の少なくとも一方の注入率が制御される
請求項1に記載のろ過膜システムの制御方法。
【請求項3】
前記制御工程では、
前記原水に所定の比率で前記pH調整剤が注入され、
前記凝集物のゼータ電位が前記ろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、前記凝集剤の注入率が制御される
請求項1または請求項2に記載のろ過膜システムの制御方法。
【請求項4】
前記制御工程では、
前記原水に所定の比率で前記凝集剤が注入され、
前記凝集物のゼータ電位が前記ろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、前記pH調整剤の注入率が制御される
請求項1または請求項2に記載のろ過膜システムの制御方法。
【請求項5】
前記ろ過膜システムは、前記ろ過膜の前段に前記凝集物を固液分離する沈殿槽をさらに備え、
前記ろ過膜は、固液分離後の前記凝集処理水をろ過処理する
請求項1または請求項2に記載のろ過膜システムの制御方法。
【請求項6】
原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、前記凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ前記原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、を備えるろ過膜システムの制御装置であって、
前記ろ過膜は、前記凝集処理水中でプラスに帯電するアルミナ系のセラミック膜であり、
前記ろ過膜による前記ろ過処理の前段で、前記凝集物のゼータ電位が前記ろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、前記凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を調整する制御部を有
し、
前記制御部は、前記凝集物のゼータ電位が-7mV以上で、かつ前記ゼータ電位がマイナス側の領域に収まるように、前記凝集剤および前記pH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する
制御装置。
【請求項7】
前記凝集処理水のpH値と前記凝集物のゼータ電位との対応関係のデータを保持する記憶部をさらに有し、
前記制御部は、
前記凝集処理水のpH値を取得し、
前記対応関係に基づいて、前記凝集処理水のpH値が前記目標範囲に対応するpH値の範囲に収まるように、前記凝集剤および前記pH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する
請求項
6に記載の制御装置。
【請求項8】
原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、
前記凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ前記原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、
請求項
6または請求項
7に記載の制御装置と、
を備えるろ過膜システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過膜システムの制御方法および制御装置、ろ過膜システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、浄水プロセス用の膜ろ過技術として、膜ろ過の前段で凝集処理を行う凝集・膜ろ過法が知られている(例えば、特許文献1参照)。凝集・膜ろ過法では、原水に凝集剤を注入し、原水と凝集剤を混和し、原水中の濁質やコロイド、溶解物質などが凝集剤と反応して凝集物を形成した後、凝集物を含有する水を膜ろ過してろ過水を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
凝集・膜ろ過法では、運転時間の経過により、膜ろ過工程に流入した凝集物がろ過膜の表面や細孔に付着し、堆積した凝集物でろ過膜が閉塞して水の透過性能が著しく低下する事象(ファウリング)が発生しうる。ファウリングを抑制して安定した膜ろ過を実現する観点からは、ろ過膜に凝集物が付着しにくい状態でろ過膜システムの運転を行えることが好ましい。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、ろ過膜に凝集物が付着しにくい状態での膜ろ過を可能とし、ファウリングを抑制できるろ過膜システムの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様は、原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、を備えるろ過膜システムの制御方法である。ろ過膜は、凝集処理水中でプラスに帯電するアルミナ系のセラミック膜である。当該制御方法は、ろ過膜によるろ過処理の前処理として、凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する制御工程を有する。制御工程では、凝集物のゼータ電位が-7mV以上で、かつゼータ電位がマイナス側の領域に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率が制御される。
【0007】
上記の制御方法は、凝集処理水のpH値と凝集物のゼータ電位との対応関係を取得する準備工程をさらに有していてもよい。また、上記の制御工程では、凝集処理水のpH値を監視し、対応関係に基づいて、監視される凝集処理水のpH値が目標範囲に対応するpH値の範囲に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率が制御されてもよい。
【0009】
上記の制御工程では、原水に所定の比率でpH調整剤が注入され、凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、凝集剤の注入率が制御されてもよい。
【0010】
上記の制御工程では、原水に所定の比率で凝集剤が注入され、凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、pH調整剤の注入率が制御されてもよい。
【0011】
上記の制御方法に係るろ過膜システムは、ろ過膜の前段に凝集物を固液分離する沈殿槽をさらに備えていてもよい。また、ろ過膜は、固液分離後の凝集処理水をろ過処理してもよい。
【0012】
他の態様は、原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、を備えるろ過膜システムの制御装置である。ろ過膜は、凝集処理水中でプラスに帯電するアルミナ系のセラミック膜である。制御装置は、ろ過膜によるろ過処理の前段で、凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を調整する制御部を有する。制御部は、凝集物のゼータ電位が-7mV以上で、かつゼータ電位がマイナス側の領域に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する。
【0013】
上記の制御装置は、凝集処理水のpH値と凝集物のゼータ電位との対応関係のデータを保持する記憶部をさらに有していてもよい。また、制御部は、凝集処理水のpH値を取得し、対応関係に基づいて、凝集処理水のpH値が目標範囲に対応するpH値の範囲に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御してもよい。
【0014】
さらに他の態様のろ過膜システムは、原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、上記の制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
一態様によれば、ろ過膜に凝集物が付着しにくい状態での膜ろ過を可能とし、ファウリングを抑制できるろ過膜システムの制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。
【
図2】第2実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。
【
図3】第3実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。
【
図4】第4実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。
【
図5】(a)は第1実施形態のろ過膜システムの制御方法の一例を示す流れ図であり、(b)は第3実施形態のろ過膜システムの制御方法の一例を示す流れ図であり、(c)は第4実施形態のろ過膜システムの制御方法の一例を示す流れ図である。
【
図6】第1実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
【
図7】第1実施例において、凝集剤が注入された凝集処理水のpHを変えたときの凝集物のゼータ電位とろ過膜の膜間差圧の上昇速度を示す図である。
【
図8】第2実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
【
図9】第3実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態は、凝集処理と膜ろ過処理を組み合わせたろ過膜システムにおいて、膜ろ過処理の前段の凝集処理で、凝集剤注入で生成される凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように凝集剤注入率を制御する。第1実施形態では、膜ろ過工程に流入する凝集剤が注入された原水(凝集処理水)に含まれる残留凝集物のゼータ電位を膜の材料に応じた適切な範囲とすることで、ろ過膜表面や細孔への残留凝集物の付着性が低下する。これにより、ろ過膜の閉塞によるファウリングが抑制され、安定した膜ろ過を実現できる。
【0019】
図1は、第1実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。第1実施形態のろ過膜システム1は、凝集剤注入部2と、滞留槽4と、沈殿槽5と、膜ろ過槽6と、制御装置10とを備える。
【0020】
濁質やコロイド、溶存物質を含む原水は、原水配管7を介してろ過膜システム1に供給される。原水配管7の下流側は、滞留槽4に接続されている。一例として、原水は、河川水、地下水、湖沼水などの水道原水であってもよく、生活排水、雨水、工場廃水などの廃水であってもよい。
【0021】
凝集剤注入部2は、滞留槽4の前段の原水配管7に接続されており、原水配管7を流れる原水に凝集剤を注入する。凝集剤注入部2よりも下流側では、原水と凝集剤が混合されることで、原水に含まれる濁質やコロイド、溶存物質が凝集剤と反応する。これにより、原水中に凝集物(フロック)が生成される。
【0022】
凝集剤としては、例えば、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、ポリシリカ鉄、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、高塩基度ポリ塩化アルミニウム、またはこれらの混合物が挙げられる。上記の凝集剤には、ポリマーなどの凝集補助剤が添加されていてもよい。なお、本実施形態では、凝集剤として塩化第二鉄を適用する場合について説明する。
【0023】
滞留槽4は、凝集物を含む凝集処理水を一時的に滞留させるための水槽である。滞留槽4は、配管7aを介して後段の沈殿槽5と接続されている。また、滞留槽4には、凝集処理水のpHを測定するpH計8が設けられている。なお、pH計8の位置は、滞留槽4に限定されず、例えば凝集剤注入部2よりも下流側の原水配管7中にpH計8が設けられていてもよい。
【0024】
沈殿槽5は、滞留槽4から流入する凝集処理水を静置させて固形成分と上澄み液に固液分離する。この上澄み液は配管7bを介して後段の膜ろ過槽6に供される。なお、沈殿槽5内で濃縮された固形成分は系外の汚泥処理施設(不図示)に移送される。
【0025】
膜ろ過槽6は、沈殿槽5で一次処理された凝集処理水をろ過処理するろ過膜9を有する。膜ろ過槽6では、凝集処理水に残留する凝集物がろ過膜9でろ過され、凝集物が分離除去されたろ過水が生成される。
【0026】
上記のろ過膜9としては、一例として、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素やコージライトおよびこれらの混合物などを主成分としたセラミック膜、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの有機膜、およびセラミック膜と有機膜のハイブリッド膜などを適用できる。なお、本実施形態では、ろ過膜9として、アルミナを主成分とするセラミック膜が適用される場合について説明する。
【0027】
ここで、ろ過膜9に適用されるセラミック膜や有機膜の材料は、水中でそれぞれプラスまたはマイナスの電荷を有している。例えば、アルミナを主成分とするセラミック膜は、中性付近の水中やpH5~8の水中では膜表面がプラスに帯電している。また、PVDFなどの有機膜の場合、膜表面は水中で通常マイナスに帯電している。
【0028】
例えば、アルミナを主成分とするセラミック膜に対して、凝集処理水に含まれる凝集物が強くマイナスに帯電していると、プラスに帯電している膜の表面に凝集物が吸着しやすくなり、ろ過膜9の閉塞が生じやすくなる。凝集物によるろ過膜9の閉塞が著しくなると、膜間差圧が高くなって膜ろ過障害を引き起こす。
【0029】
膜の材料が水中でプラスに帯電している場合、凝集処理水に含まれる凝集物がプラスに帯電していれば、膜の表面への凝集物の吸着性は低下し、ろ過膜9の閉塞の進行が緩やかになる。また、上記の場合において、凝集処理水に含まれる凝集物がマイナスに帯電していてもその帯電量が少なくなればプラスに帯電している膜の表面への吸着性は低下する。
凝集物の帯電量の強弱はゼータ電位により示される。凝集物のゼータ電位の絶対値が大きいほど凝集物の帯電量は多くなり、逆に凝集物のゼータ電位の絶対値が小さいほど凝集物の帯電量は少なくなる。
【0030】
なお、PVDFなどの有機膜の場合、上記のように膜表面は水中で通常マイナスに帯電している。膜の材料が水中でマイナスに帯電している場合、凝集処理水に含まれる凝集物をマイナスに帯電させるか、凝集物の帯電量を少なくする(つまり凝集物のゼータ電位の絶対値を小さくする)ようにすれば、膜の表面に凝集物が吸着しにくくなる。
【0031】
特に限定するものではないが、膜の表面に凝集物を吸着しにくくする観点からは、アルミナを主成分とするセラミック膜の場合、凝集物のゼータ電位を-10mVよりプラス側(より好ましくは-7mV以上)に調整することが好ましい。
【0032】
また、アルミナを主成分とするセラミック膜の場合、膜の表面に凝集物を吸着しにくくする一方で凝集剤の注入量を抑制する観点からは、凝集物のゼータ電位を目標範囲のマイナス側の領域に収めるように調整することが好ましい。一例として、アルミナを主成分とするセラミック膜の場合、凝集物のゼータ電位を-7mV以上で、かつ-7mV近傍の領域(例えば、-7mV以上-3mV以下の範囲)に収めるように調整することがより好ましい。
【0033】
制御装置10は、凝集処理で生成される凝集物のゼータ電位が膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、凝集剤注入部2の凝集剤注入率を制御する。
制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)10a、メモリ10b、記憶装置10cを有するコンピュータであり、pH計8および凝集剤注入部2に接続されている。なお、CPU10aおよびメモリ10bは、制御部の一例であり、メモリ10b、記憶装置10cは、記憶部の一例である。
【0034】
CPU10aは、記憶装置10cに記憶されたプログラムを実行し、制御装置10に接続される各要素を制御する。メモリ10bは、CPU10aのメインメモリやワークエリア等として機能する。記憶装置10cは、例えばハードディスクやソリッドステートドライブなどで構成され、プログラムや当該プログラムの実行に必要な各種データを記憶する。なお、制御装置10は、ハードウェア回路で構成されていてもよい。
【0035】
ここで、原水における凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係は、原水の種類や、その時々の原水の状態に応じて相違する。そのため、本実施形態の記憶装置10cまたはメモリ10bには、処理対象の原水に関し、凝集剤注入率を変化させたときの凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係を示すデータが予め保持されている。処理対象の原水に関して上記の対応関係が既知であることで、凝集物のゼータ電位が膜の材料に応じた目標範囲(例えば、凝集物のゼータ電位が-10mVよりプラス側)を示すときのpH値を調整目標のpH値として設定できる。上記の対応関係のデータは、ろ過膜システム1の運転開始前に設定されているが、運転開始後に適宜更新されてもよい。
【0036】
上記の対応関係のデータは、凝集剤の注入率を相違させた凝集処理水の標本を複数準備し、標本ごとに凝集物のゼータ電位と凝集処理水のpH値をそれぞれ測定することで、オペレータにより生成される。各標本でのゼータ電位の測定では、例えば電気泳動法により、標本に含まれる所定寸法以下の凝集物の粒子のゼータ電位を測定し、これらの平均値で凝集物のゼータ電位を決定してもよい。また、各標本のpH値は、一般的なpH測定方法で求めることができる。
【0037】
本実施形態の制御装置10は、一例として以下の動作を行う。まず、制御装置10は、現在の凝集処理水のpH値をpH計8から取得して監視する。現在のpH値は、凝集処理水の凝集物のゼータ電位と相関を有している。
【0038】
そして、制御装置10は、pH計8で計測されるpH値が、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように、凝集剤注入部2に対して凝集剤注入率の変更を指示する。これにより、凝集剤注入部2の凝集剤注入率が、凝集剤注入後の原水のpH値に応じてフィードバック制御される。
【0039】
例えば、現在のpH値から推定される凝集物のゼータ電位の絶対値が大きい場合、制御装置10は、pH値を低下させて凝集物のゼータ電位の絶対値が小さくなるように凝集剤注入率を増加させる。一方、凝集剤注入量が過剰となることでpH値が調整目標の範囲に収まっていない場合、制御装置10は、pH値が調整目標の範囲内となる条件下で凝集剤注入率を低下させる。
なお、凝集剤注入率の変更量はプログラムに基づき制御装置10が自動的に設定してもよく、オペレータの入力に基づいて設定されてもよい。
【0040】
図5(a)は、第1実施形態のろ過膜システム1の制御方法の一例を示す流れ図である。
準備工程(S1)では、原水を採取して、凝集剤の注入率を変化させた凝集処理水の標本を複数準備し、これら標本ごとに凝集物のゼータ電位および凝集処理水のpH値が測定される。これにより、処理対象の原水に関し、凝集剤注入率を変化させたときの凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係のデータが生成される。生成された対応関係のデータは、制御装置10の記憶装置10cまたはメモリ10bに記憶され、CPU10aによって読み出される。
【0041】
凝集剤注入工程(S2)では、凝集剤注入部2は、設定された凝集剤注入率で原水配管7の原水に凝集剤を注入する。これにより、凝集処理水には凝集物が生成される。また、凝集剤注入後の凝集処理水は、滞留槽4および沈殿槽5を経て膜ろ過槽6に流入し、ろ過膜9でろ過処理される。
【0042】
一方、pH測定工程(S3)では、pH計8は、凝集剤注入後の凝集処理水のpH値を測定する。
注入率調整工程(S4)では、制御装置10は、準備工程(S1)で取得した上記の対応関係のデータと、pH測定工程(S3)で測定されたpH値に基づいて、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように凝集剤注入率を調整する。その後、S2に戻って上記の処理が繰り返される。なお、凝集剤注入工程(S2)、pH測定工程(S3)、注入率調整工程(S4)は、制御工程の一例である。
【0043】
以上のように、第1実施形態の凝集剤注入部2では凝集物のゼータ電位の絶対値が小さくなるように原水に凝集剤が注入され、凝集剤注入部2よりも下流側において凝集物の帯電量が少なくなる。その結果として、凝集処理水中に残留する凝集物などが膜ろ過槽6に流入しても、ろ過膜9の表面への凝集物の吸着性が低いため、ろ過膜9の閉塞は生じにくくなる。
【0044】
また、本実施形態では、凝集剤注入後の凝集処理水のpH値をpH計8で測定して監視し、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように凝集剤注入率を調整する。凝集物のゼータ電位は連続的に監視することは困難であるが、本実施形態では、pH値を用いて凝集剤の注入率を制御することで、連続的に監視することが困難な凝集物のゼータ電位を適切に制御できる。
【0045】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態のろ過膜システム1Aの構成例を示す図である。なお、以下の実施形態の説明において、第1実施形態と共通する要素には同じ符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0046】
第2実施形態のろ過膜システム1Aは、第1実施形態の変形例であり、第1実施形態のろ過膜システム1から滞留槽4および沈殿槽5を省いた構成に相当する。第2実施形態では、原水配管7の下流側は、膜ろ過槽6に接続されており、凝集剤注入部2は、膜ろ過槽6の前段の原水配管7に接続されている。また、膜ろ過槽6には、凝集処理水のpHを測定するpH計8が設けられている。なお、pH計8の位置は、膜ろ過槽6に限定されず、例えば凝集剤注入部2よりも下流側の原水配管7中にpH計8が設けられていてもよい。
【0047】
第2実施形態の制御装置10は、第1実施形態と同様に、pH計8で計測されるpH値が、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように、凝集剤注入部2に対して凝集剤注入率の変更を指示する。第2実施形態の構成においても、上記の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態のろ過膜システム1Bの構成例を示す図である。第3実施形態のろ過膜システム1Bは、原水に対してpH調整剤の注入と凝集剤の注入を併用する構成例である。
【0049】
第3実施形態のろ過膜システム1Bは、pH調整剤注入部3と、凝集剤注入部2と、滞留槽4と、沈殿槽5と、膜ろ過槽6と、制御装置10とを備える。第3実施形態の原水配管7の下流側は滞留槽4に接続されている。また、原水配管7には、pH調整剤注入部3および凝集剤注入部2がそれぞれ接続されている。第3実施形態において、凝集剤注入部2、滞留槽4、沈殿槽5および膜ろ過槽6の各構成は、第1実施形態と同様である。
【0050】
pH調整剤注入部3は、凝集剤注入部2の前段に配置され、原水配管7を流れる原水に所定の比率でpH調整剤を注入する。pH調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸などの酸、または苛性ソーダ、石灰などのアルカリが挙げられる。但し、pH調整剤の酸やアルカリの種類は上記に限定されない。
【0051】
一例として、膜の材料が水中でプラスに帯電している場合、pH調整剤で原水のpHを酸性よりに調整することで、凝集工程で生成する凝集物のゼータ電位をプラス側に調整できる。したがって、原水のpHの調整によっても、膜の表面への凝集物の吸着性を低下させることができる。
【0052】
第3実施形態の制御装置10の構成および動作は、第1実施形態と同様である。但し、第3実施形態において、処理対象の原水に関し、凝集剤注入率を変化させたときの凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係を示すデータは、pH調整剤が所定の比率で注入されるとともに凝集剤の注入量を相違させた凝集処理水の標本を複数準備し、標本ごとに凝集物のゼータ電位と凝集処理水のpH値をそれぞれ測定することで生成される。
【0053】
図5(b)は、第3実施形態のろ過膜システム1Bの制御方法の一例を示す流れ図である。
準備工程(S11)では、原水を採取して、pH調整剤が所定の比率で注入されるとともに凝集剤の注入率を変化させた凝集処理水の標本を複数準備し、これら標本ごとに凝集物のゼータ電位および凝集処理水のpH値が測定される。これにより、処理対象の原水に関し、凝集剤注入率を変化させたときの凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係のデータが生成される。生成された対応関係のデータは、制御装置10の記憶装置10cまたはメモリ10bに記憶され、CPU10aによって読み出される。
【0054】
pH調整剤注入工程(S12)では、pH調整剤注入部3は、所定の比率で原水配管7の原水にpH調整剤を注入する。凝集剤注入工程(S13)では、凝集剤注入部2は、設定された凝集剤注入率で原水配管7の原水に凝集剤を注入する。これにより、原水中に含まれる濁質やコロイド、溶存物質と凝集剤が反応し、凝集処理水には凝集物が生成される。また、凝集剤注入後の凝集処理水は、滞留槽4および沈殿槽5を経て膜ろ過槽6に流入し、ろ過膜9でろ過処理される。
【0055】
一方、pH測定工程(S14)では、pH計8は、凝集剤注入後の凝集処理水のpH値を測定する。
注入率調整工程(S15)では、制御装置10は、準備工程(S11)で取得した上記の対応関係のデータと、pH測定工程(S14)で測定されたpH値に基づいて、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように凝集剤注入率を調整する。その後、S13に戻って上記の処理が繰り返される。なお、pH調整剤注入工程(S12)、凝集剤注入工程(S13)、pH測定工程(S14)、注入率調整工程(S15)は、制御工程の一例である。
【0056】
以上のように、第3実施形態では、凝集剤とpH調整剤を併用し、凝集剤注入部2では凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるように凝集剤注入率が調整される。第3実施形態でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3実施形態では、凝集剤とpH調整剤を併用することで、第1実施形態のように凝集剤を単独で使用する場合よりも凝集剤の使用量を抑制できる利点がある。
【0057】
なお、第3実施形態では、所定の比率でpH調整剤を注入した後に、凝集剤注入部2が凝集剤を注入する例を説明したが、凝集剤注入部2が凝集剤を注入した後に、pH注入部3が所定の比率でpH調整剤を注入するようにしてもよい。
【0058】
(第4実施形態)
図4は、第4実施形態のろ過膜システムの構成例を示す図である。第4実施形態のろ過膜システム1Cは、第3実施形態と同様に、原水に対してpH調整剤の注入と凝集剤の注入を併用する構成例である。第4実施形態では、凝集剤の注入を所定の比率に固定し、pH調整剤の注入率を調整する点で第3実施形態と相違する。
【0059】
第4実施形態のろ過膜システム1Cは、凝集剤注入部2と、pH調整剤注入部3と、滞留槽4と、沈殿槽5と、膜ろ過槽6と、制御装置10とを備える。第4実施形態の原水配管7の下流側は滞留槽4に接続されている。また、原水配管7には、pH調整剤注入部3および凝集剤注入部2がそれぞれ接続されている。第4実施形態において、滞留槽4、沈殿槽5および膜ろ過槽6の各構成は、第1実施形態と同様である。
【0060】
凝集剤注入部2は、原水配管7を流れる原水に所定の比率で凝集剤を注入する。pH調整剤注入部3は、凝集剤注入部2の後段に配置され、原水配管7を流れる原水(凝集処理水)にpH調整剤を注入する。また、第4実施形態の制御装置10は、凝集処理で生成される凝集物のゼータ電位が目標範囲に収まるように、pH調整剤注入部3のpH調整剤の注入率を制御する。
【0061】
図5(c)は、第4実施形態のろ過膜システム1Cの制御方法の一例を示す流れ図である。
準備工程(S21)では、原水を採取して、凝集剤が所定の比率で注入されるとともにpH調整剤の注入率を変化させた凝集処理水の標本を複数準備し、これら標本ごとに凝集物のゼータ電位および凝集処理水のpH値が測定される。これにより、処理対象の原水に関し、pH調整剤を変化させたときの凝集物のゼータ電位とpH値の対応関係のデータが生成される。生成された対応関係のデータは、制御装置10の記憶装置10cまたはメモリ10bに記憶され、CPU10aによって読み出される。
【0062】
凝集剤注入工程(S22)では、凝集剤注入部2は、所定の比率で原水配管7の原水に凝集剤を注入する。これにより、凝集処理水には凝集物が生成される。pH調整剤注入工程(S23)では、pH調整剤注入部3は、設定されたpH調整剤注入率で原水配管7の凝集処理水にpH調整剤を注入する。また、凝集剤およびpH調整剤を注入した後の凝集処理水は、滞留槽4および沈殿槽5を経て膜ろ過槽6に流入し、ろ過膜9でろ過処理される。
【0063】
一方、pH測定工程(S24)では、pH計8は、凝集剤およびpH調整剤の注入後の凝集処理水のpH値を測定する。
注入率調整工程(S25)では、制御装置10は、準備工程(S21)で取得した上記の対応関係のデータと、pH測定工程(S24)で測定されたpH値に基づいて、凝集物のゼータ電位が適切な範囲を示す調整目標のpH値の範囲に収まるようにpH調整剤注入率を調整する。その後、S23に戻って上記の処理が繰り返される。なお、凝集剤注入工程(S22)、pH調整剤注入工程(S23)、pH測定工程(S24)、注入率調整工程(S25)は、制御工程の一例である。
【0064】
以上のように、第4実施形態では、凝集剤とpH調整剤を併用し、pH調整剤の注入量を制御することで、凝集物のゼータ電位の絶対値が小さくなるように凝集処理水のpH値が調整される。かかる第4実施形態においても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
なお、第4実施形態では、所定の比率で凝集剤を注入した後に、pH調整剤注入部3がpH調整剤を注入する例を説明したが、pH調整剤注入部3がpH調整剤を注入した後に、凝集剤注入部2が所定の比率で凝集剤を注入するようにしてもよい。
【0066】
(第1実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。
第1実施例では、河川水を原水とし、凝集剤に塩化第二鉄を適用した場合において、凝集剤注入率を変化させて凝集処理水の上澄み水に含まれる凝集物のゼータ電位と凝集処理水のpHをそれぞれ測定した。ゼータ電位の測定には、電気泳動法によるゼータ電位測定装置(Malvern, Zetasizer, Nano ZS)を使用した。
【0067】
図6は、第1実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
図6の横軸は凝集剤注入率を示し、
図6の左側の縦軸はゼータ電位を示し、
図6の右側の縦軸は凝集処理水のpHを示している。また、
図6の実線のグラフは、凝集剤注入率に対するゼータ電位の変化を示し、
図6の破線のグラフは、凝集剤注入率に対する凝集処理水のpHの変化を示している。
【0068】
通常、河川水中に含まれる凝集物はマイナスに帯電している。
図6に示す第1実施例の場合でも、凝集剤(塩化第二鉄)の注入率がゼロの場合には凝集物のゼータ電位は-22mVとなり、凝集物がマイナスに帯電していた。第1実施例では、塩化第二鉄の注入量の増加とともに凝集物のゼータ電位はゼロ付近に上昇し、最終的にはゼータ電位はプラスに転じた。つまり、
図6からは、塩化第二鉄の注入率の増加とともにゼータ電位の絶対値は小さくなり、凝集物表面の帯電量が小さくなっていることが分かる。
【0069】
また、第1実施例で原水として用いた河川水のpHは8.0であったが、塩化第二鉄の注入率の増加とともにpHは低下し、注入率が60mg/LのときにpH5.0まで低下した。第1実施例において、塩化第二鉄の注入率が24mg/LのときにpHは6.5となり、当該条件での凝集物のゼータ電位は-7mg/Lとなった(後述する
図7の実施例1)。塩化第二鉄の注入率が28mg/LのときにpHは6.2となり、当該条件での凝集物のゼータ電位は-5mVとなった(後述する
図7の実施例2)。さらに、塩化第二鉄の注入率が34mg/LのときにpHは6.0となり、当該条件での凝集物のゼータ電位は-3mVとなった(後述する
図7の実施例3)。
図6のグラフからは、pHを監視することで凝集物のゼータ電位が所定の値になるように凝集剤注入率を制御できることが分かる。
【0070】
また、第1実施例では、膜ろ過工程での膜濾過の安定性を評価するために、膜ろ過中の膜間差圧の上昇速度を測定した。第1実施例の膜ろ過工程には、複数のセラミック平膜を組み込んだ膜モジュールを適用した。膜モジュールは、各セラミック平膜からのろ過水を集水管で集める構造とした。膜モジュールを膜分離槽に浸漬し、配管を通じて集水管にろ過ポンプを接続し、ろ過ポンプで吸引して膜ろ過水を得た。ろ過配管中に設置した圧力計の値から膜間差圧を計算し、その経時変化から膜間差圧の上昇速度を得た。
【0071】
図7は、第1実施例において、凝集剤が注入された凝集処理水のpHを変えたときの凝集物のゼータ電位とろ過膜の膜間差圧の上昇速度を示す図である。
図7において、pH設定値が6.8~7.4に設定された場合(
図7の比較例1~3)、凝集物のゼータ電位は-15~-10mVの範囲となる。これら比較例1~3の場合、膜間差圧の上昇速度は20~30kPa/dとなり、膜閉塞が速い速度で進行したことが分かる。
【0072】
これに対し、
図7において、pH設定値が6.0~6.5に設定された場合(
図7の実施例1~3)、塩化第二鉄の注入率は24~34mg/Lで、このときの凝集物のゼータ電位は-3~-7mVの範囲となり、膜間差圧の上昇速度は1.2~2.0kPa/dとなる。実施例1~3の場合、膜間差圧速度を比較例1~3の10分の1以下まで低減できている。
【0073】
以上のように、第1実施例によれば、凝集剤の注入によって、凝集物のゼータ電位が所定の範囲になるように凝集処理水のpHを制御することで、膜閉塞を著しく抑制でき、安定した膜ろ過が実現できることが分かる。
【0074】
(第2実施例)
第2実施例は、上記の第3実施形態と同様に、pH調整剤によるpHの調整と凝集剤の注入を併用する例である。第2実施例では、河川水を原水とし、pH調整剤に硫酸、凝集剤に塩化第二鉄をそれぞれ適用した場合において、凝集剤注入率を変化させて凝集処理水の上澄み水に含まれる凝集物のゼータ電位と凝集処理水のpHをそれぞれ測定した。もとの河川水のpHは8.0であったが、第2実施例では、硫酸を前注入することで凝集剤を注入する前の原水のpHを7.0に調整した。
【0075】
図8は、第2実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
図8の見方は、
図6と同様である。
【0076】
第2実施例のように硫酸を前注入した場合、塩化第二鉄の注入率が14~23mg/Lで、凝集物のゼータ電位を-7~-3mVに調整できることがわかる。なお、上記の範囲での膜間差圧の上昇速度は1.2~2.0kPa/dとなり、上記の
図7の実施例1~3と同様に安定した膜ろ過が実現できた。
【0077】
第2実施例と上記の第1実施例を比較すると、凝集剤注入のほかにpHの調整を行わない第1実施例では塩化第二鉄の注入率が24~34mg/Lであったが、第2実施例では塩化第二鉄の注入率が14~23mg/Lであった。つまり、第2実施例のように凝集剤の注入とpH調整剤によるpHの調整を併用することで、凝集剤の注入率を低く抑えつつ、安定した膜ろ過が実現できることが分かる。
【0078】
(第3実施例)
第3実施例では、河川水を原水とし、凝集剤として塩化第二鉄の代わりに硫酸アルミニウムを適用した場合において、凝集剤注入率を変化させて、凝集処理水の上澄み水に含まれる凝集物のゼータ電位と凝集処理水のpHをそれぞれ測定した。
【0079】
図9は、第3実施例の凝集処理水における、凝集剤注入率、凝集物のゼータ電位、凝集処理水のpHを示すグラフである。
図9の見方は、
図6と同様である。
【0080】
凝集剤に塩化第二鉄を適用した第1実施例の場合、凝集剤注入率が24~34mg/LのときにpHは6.0~6.5となり、当該条件での凝集物のゼータ電位は-3~-7mVとなった。一方、
図9に示すように、凝集剤に硫酸アルミニウムを適用した第3実施例の場合、凝集剤注入率が80~120mg/LのときにpHは6.0~6.5となり、当該条件での凝集物のゼータ電位は-3~-7mVとなった。なお、上記の範囲での膜間差圧の上昇速度は1.2~2.0kPa/dとなり、上記の
図7の実施例1~3と同様に安定した膜ろ過が実現できた。
【0081】
第3実施例によれば、第1実施例と異なる凝集剤を適用した場合においても、第1実施例と同様の効果を得られることが分かる。
【0082】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0083】
上記の実施形態では、制御装置10が凝集剤またはpH調整剤のいずれか一方の注入率を変化させる例を説明した。しかし、制御装置10は、凝集剤の注入率とpH調整剤の注入率の両方を変化させる制御を行ってもよい。
【0084】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B,1C…ろ過膜システム、2…凝集剤注入部、3…pH調整剤注入部、4…滞留槽、5…沈殿槽、6…膜ろ過槽、7…原水配管、7a,7b…配管、8…pH計、9…ろ過膜、10…制御装置、10a…CPU、10b…メモリ、10c…記憶装置
【要約】
【課題】ろ過膜に凝集物が付着しにくい状態での膜ろ過を可能とし、ファウリングを抑制できるろ過膜システムの制御方法を提供する。
【解決手段】原水に凝集剤を注入する凝集剤注入部と、凝集剤の注入で形成された凝集物を含んだ原水の凝集処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過膜と、を備えるろ過膜システムの制御方法であって、ろ過膜によるろ過処理の前処理として、凝集物のゼータ電位がろ過膜の材料に応じた目標範囲に収まるように、凝集剤およびpH調整剤の少なくとも一方の注入率を制御する制御工程を有する。
【選択図】
図1