(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】光学素子、転写箔、および、認証体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20241112BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20241112BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20241112BHJP
G07D 7/207 20160101ALI20241112BHJP
【FI】
G02B5/18
B42D25/324
B42D25/328
G07D7/207
(21)【出願番号】P 2023132223
(22)【出願日】2023-08-15
(62)【分割の表示】P 2019014299の分割
【原出願日】2019-01-30
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018053545
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 華子
(72)【発明者】
【氏名】杉原 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】小手川 智子
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 彰人
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-514672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0247714(US,A1)
【文献】特開2009-075169(JP,A)
【文献】特開2013-190629(JP,A)
【文献】米国特許第08619363(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B42D 25/324
B42D 25/328
G07D 7/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層と、前記第1層に接する第2層と、前記第2層に接する第3層とを備え、各層が光透過性を有し、前記第2層に対して前記第3層とは反対側に位置する光源から光が照射されている状態が、前記反対側から観察される光学素子であって、
前記第1層は、前記第2層に接する第1面の少なくとも一部にサブ波長格子を含む樹脂製の層であり、
前記第2層は、前記第1層の前記第1面に接する第2面が前記サブ波長格子に追従した凹凸状であり、前記第1層の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層であり、
前記第3層は、前記第2層よりも屈折率が低い樹脂製の層であり、
前記光学素子は、複数の反射面を含み、前記複数の反射面が並ぶ方向において互いに隣り合う前記反射面間の距離であるピッチが、前記サブ波長格子のピッチよりも大きいレリーフ面を含むレリーフ層を含み、
前記レリーフ層は、前記各層のいずれかであり、
前記サブ波長格子は、正反射方向を含む反射方向に前記サブ波長格子の格子周期に固有の色を呈する有色像を表示し、
前記レリーフ面は、前記正反射方向とは異なる方向を含む反射方向に白色の反射光による反射像を表示
するように、前記レリーフ面が含む各反射面が構成され、
前記光学素子は、前記有色像および前記反射像を表示しない第1状態、前記有色像を主として表示する第2状態、前記反射像を主として表示する第3状態を有し、
前記光学素子が広がる平面と、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、
前記光学素子は、前記観察角度に応じて各状態のいずれかを有し、
前記サブ波長格子は、第1方向に沿って繰り返されるパターン群を含み、前記パターン群は、第1格子パターン、第2格子パターン、および、第3格子パターンを含み、各パターン群において、前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンが、前記第1方向に沿って並び、
前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンは、前記第1方向に沿う断面構造において、1つの山部が2つの谷部によって挟まれた形状を有し、
前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンにおいて、格子周期が互いに異なり、前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンにおける前記格子周期の差が20nm以下であ
り、
前記第1面と対向する平面視において、前記サブ波長格子の位置と前記レリーフ面の位置とが互いに異なる
光学素子。
【請求項2】
第1層と、前記第1層に接する第2層と、前記第2層に接する第3層とを備え、各層が光透過性を有し、前記第2層に対して前記第3層とは反対側に位置する光源から光が照射されている状態が、前記反対側から観察される光学素子であって、
前記第1層は、前記第2層に接する第1面の少なくとも一部にサブ波長格子を含む樹脂製の層であり、
前記第2層は、前記第1層の前記第1面に接する第2面が前記サブ波長格子に追従した凹凸状であり、前記第1層の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層であり、
前記第3層は、前記第2層よりも屈折率が低い樹脂製の層であり、
前記光学素子は、前記第1面および前記第2面とは異なるレリーフ面であって、複数の反射面を含み、前記複数の反射面が並ぶ方向において互いに隣り合う前記反射面間の距離であるピッチが、前記サブ波長格子のピッチよりも大きい前記レリーフ面を含むレリーフ層をさらに備え、
前記サブ波長格子は、前記サブ波長格子の格子周期に固有の色を呈する有色像を正反射方向に表示し、
前記レリーフ面は、前記正反射方向とは異なる方向に白色の反射光による反射像を表示
するように、前記レリーフ面が含む各反射面が構成され、
前記光学素子は、前記有色像および前記反射像を表示しない第1状態、前記有色像を主として表示する第2状態、前記反射像を主として表示する第3状態を有し、
前記光学素子が広がる平面と、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、
前記光学素子は、前記観察角度に応じて各状態のいずれかを有し、
前記サブ波長格子は、第1方向に沿って繰り返されるパターン群を含み、
前記パターン群は、第1格子パターン、第2格子パターン、および、第3格子パターンを含み、各パターン群において、前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンが、前記第1方向に沿って並び、
前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンは、前記第1方向に沿う断面構造において、1つの山部が2つの谷部によって挟まれた形状を有し、
前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンにおいて、格子周期が互いに異なり、前記第1格子パターン、前記第2格子パターン、および、前記第3格子パターンにおける前記格子周期の差が20nm以下であ
り、
前記第1面と対向する平面視において、前記サブ波長格子の位置と前記レリーフ面の位置とが互いに異なる
光学素子。
【請求項3】
前記反射像が観察される前記観察角度の範囲が、前記有色像が観察される前記観察角度の範囲よりも大きい
請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記有色像と前記反射像とは、互いに相関性を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記反射像は、前記有色像よりも外側に位置し、かつ、前記有色像の輪郭に沿う形状を有する
請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記有色像および前記反射像のうちの一方が、所定の記号または所定の物体の形状を有し、
前記有色像および前記反射像のうちの他方が、当該形状を表す文字である
請求項4に記載の光学素子。
【請求項7】
前記有色像は、前記反射像とともに一組の物体を形成する形状を有する
請求項4に記載の光学素子。
【請求項8】
前記第2層が、前記レリーフ層であり、
前記第2層は、前記第2面とは反対側の面として前記レリーフ面を含む
請求項1に記載の光学素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の光学素子と、
前記光学素子を被転写体に接着させるための接着層と、を含む接着体を備える転写箔。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の光学素子を備える認証体。
【請求項11】
所定の情報を表示する表示層をさらに備える
請求項10に記載の認証体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、転写箔、および、認証体に関する。
【背景技術】
【0002】
商品券などの有価証券、紙幣、および、クレジットカードの偽造の防止、および、商品のブランドプロテクションを目的として、ホログラム、回折格子、および、多層干渉膜などを用いた光学素子がこれらの物品に付される。こうした光学素子の製造は容易でないため、光学素子は、光学素子が付された物品の偽造を防止する効果を有する。
【0003】
上述した光学素子として、光学素子の真贋を判定するときに、特別な検証器具を用いることなく目視のみによって判定が可能な光学素子が広く用いられている。なかでも、光学素子を観察する角度に応じて、光学素子が視認される色や、光学素子が表示する像が変化するものが広く用いられている。このうち、光学素子を観察する角度に応じて色が変化する光学素子には、上述した回折格子や多層干渉膜などを挙げることができる。
【0004】
回折格子および多層干渉膜は、これらの光学素子を観察する角度を変化させると、光学素子が観察者によって視認される色が連続的に変化する特徴を有する。このように複数の色が観察者によって観察されるため、真贋判定において光学素子が真正の光学素子であると判定する上で視認するべき色を明文化しにくい。また、光学素子の真贋を判定する上で、光学素子を観察する角度のなかで、適切な角度の範囲が観察者に分かりにくい。
【0005】
こうした問題を解決するために、所定の色に発色する光学素子として、サブ波長格子が用いられている。サブ波長格子において、微細な構造の周期が可視光の波長以下である。サブ波長格子は、サブ波長格子に入射した光のなかで、特定の波長の光のみを正反射方向に射出する特性を有する。そのため、サブ波長格子によれば、観察者は、正反射方向以外の方向からサブ波長格子を観察したときには所定の色を有した光を視認することができない。そのため、サブ波長格子によれば、回折格子や多層干渉膜とは異なり、サブ波長格子を観察するべき角度や、その角度において視認される色を規定することができる。それゆえに、サブ波長格子の真贋判定の方法を明文化することができる。こうしたサブ波長格子を用いた偽造防止用の光学素子には、例えば、特許文献1に記載の光学素子を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の光学素子では、第1の色が視認される第1の角度において光学素子を視認した後に、光学素子が広がる平面に対する法線を回転軸として、光学素子を回転させる。そして、第2の色が視認される第2の角度において光学素子を視認することによって、光学素子の真贋を判定する。
【0008】
ここで、光学素子を回転させるために観察者が行う手の動作は、光学素子を傾ける動作に比べて自然な動作ではない。そのため、観察者による判定作業の作業性が低くなりやすく、これによって、判定の効率も低くなりやすい。また、サブ波長格子は、上述したように、正反射方向にのみ所定の色を有した光を放出する。そのため、観察者が光学素子を手に取った瞬間、あるいは、観察者が光学素子を平面上に載置し、次いで光学素子を観察した瞬間に、観察者が、光学素子が呈する色を視認できる可能性は低い。それゆえに、観察者は、光学素子が呈する色が視認できる角度を見つけた後に、光学素子を回転させ、さらに、光学素子を回転させた後にも、光学素子が呈する色が視認できる角度を見つける必要がある。結果として、観察者が光学素子の真贋を判定するまでに時間を要するため、より容易に真贋を判定することが可能な光学素子が求められている。
【0009】
本発明は、真贋の判定を容易に行うことを可能とした光学素子、転写箔、および、認証体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための光学素子は、第1層と、前記第1層に接する第2層と、前記第2層に接する第3層とを備え、各層が光透過性を有し、前記第2層に対して前記第3層とは反対側に位置する光源から光が照射されている状態が、前記反対側から観察される光学素子であって、前記第1層は、前記第2層に接する第1面の少なくとも一部にサブ波長格子を含む樹脂製の層であり、前記第2層は、前記第1層の前記第1面に接する第2面が前記サブ波長格子に追従した凹凸状であり、前記第1層の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層であり、前記第3層は、前記第2層よりも屈折率が低い樹脂製の層であり、前記光学素子は、複数の反射面を含み、互いに隣り合う前記反射面間のピッチが、前記サブ波長格子のピッチよりも大きいレリーフ面を含むレリーフ層を含み、前記レリーフ層は、前記各層のいずれかであり、前記サブ波長格子は、正反射方向を含む反射方向に前記サブ波長格子の格子周期に固有の色を呈する有色像を表示し、前記レリーフ面は、前記正反射方向とは異なる方向を含む反射方向に白色の反射光による反射像を表示し、前記光学素子は、前記有色像および前記反射像を表示しない第1状態、前記有色像を主として表示する第2状態、前記反射像を主として表示する第3状態を有し、前記光学素子が広がる平面と、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、前記光学素子は、前記観察角度に応じて各状態のいずれかを有する。
【0011】
上記課題を解決するための光学素子は、第1層と、前記第1層に接する第2層と、前記第2層に接する第3層とを備え、各層が光透過性を有し、前記第2層に対して前記第3層とは反対側に位置する光源から光が照射されている状態が、前記反対側から観察される光学素子であって、前記第1層は、前記第2層に接する第1面の少なくとも一部にサブ波長格子を含む樹脂製の層であり、前記第2層は、前記第1層の前記第1面に接する第2面が前記サブ波長格子に追従した凹凸状であり、前記第1層の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層であり、前記第3層は、前記第2層よりも屈折率が低い樹脂製の層であり、前記光学素子は、前記第1面および前記第2面とは異なるレリーフ面であって、複数の反射面を含み、互いに隣り合う前記反射面間のピッチが、前記サブ波長格子のピッチよりも大きい前記レリーフ面を含むレリーフ層をさらに備え、前記サブ波長格子は、前記サブ波長格子の格子周期に固有の色を呈する有色像を正反射方向に表示し、前記レリーフ面は、前記正反射方向とは異なる方向に白色の反射光による反射像を表示し、前記光学素子は、前記有色像および前記反射像を表示しない第1状態、前記有色像を主として表示する第2状態、前記反射像を主として表示する第3状態を有し、前記光学素子が広がる平面と、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が観察角度であり、前記光学素子は、前記観察角度に応じて各状態のいずれかを有する。
【0012】
上記課題を解決するための転写箔は、上記光学素子と、前記光学素子を被転写体に接着させるための接着層と、を含む接着体を備える。
上記課題を解決するための認証体は、上記光学素子を備える。
【0013】
上記各構成によれば、光学素子は、白色の反射光によって形成される反射像、すなわち無彩色の像と、特定の波長を有した光によって形成される有色像、すなわち有彩色の像とを表示する。ここで、無彩色の像と有彩色の像との判別は、無彩色の第1像と無彩色の第2像とを判別したり、有彩色の第1像と有彩色の第2像とを判別したりする場合に比べて、2つの像の判別に個人差が生じにくい。それゆえに、光学素子では、2つの有彩色の像、または、2つの無彩色の像に基づいて、光学素子の真贋を判定させる場合と比べて、真贋の判定に個人差が生じにくく、また、真贋を判定する基準が明文化されやすい。これにより、光学素子によれば、真贋の判定をより容易に行うことが可能である。
【0014】
上記光学素子において、前記反射像が観察される前記観察角度の範囲が、前記有色像が観察される前記観察角度の範囲よりも大きくてもよい。上記構成によれば、有色像が観察される範囲の大きさと、反射像が観察される範囲の大きさとが同じである場合に比べて、光学素子を傾けたときにおいて光学素子が表示する像の変化における画一性が乱される。これにより、光学素子が表示する像による誘目性が高まる。
【0015】
上記光学素子において、前記有色層と前記反射像とは、互いに相関性を有してもよい。上記構成によれば、有色像と反射像とが互いに相関性を有しない場合に比べて、光学素子を観察した観察者に有色像と反射像との相関性を気付かせることによって、観察者の注意を引くことが可能である。
【0016】
上記光学素子において、前記反射像は、前記有色像よりも外側に位置し、かつ、前記有色像の輪郭に沿う形状を有してもよい。上記構成によれば、有色像の輪郭を有色像とは対照的な色彩を有した反射像によって縁取っているため、有色像の輪郭を際立たせることが可能である。これにより、有色像および反射像の誘目性を高めることができる。
【0017】
上記光学素子において、前記有色像および前記反射像のうちの一方が、所定の記号または所定の物体の形状を有し、前記有色像および前記反射像のうちの他方が、当該形状を表す文字でもよい。
【0018】
上記構成によれば、同一の意味を有した有色像と反射像とが、観察角度によって表示されたり表示されなかったりする。そのため、有色像および反射像が意味する内容の認知度、および、有色像および反射像の誘目性を高めることが可能である。
【0019】
上記光学素子において、前記有色像は、前記反射像とともに一組の物体を形成する形状を有してもよい。上記構成によれば、有色像および反射像の誘目性を高めることが可能である。
【0020】
上記光学素子において、前記第2層が、前記レリーフ層であり、前記第2層は、前記第2面とは反対側の面として前記レリーフ面を含んでもよい。
【0021】
上記構成によれば、第2層がサブ波長格子とレリーフ面とを含むため、第1層の屈折率と第2層との屈折率との差によりサブ波長格子での反射率を高め、かつ、第2層の屈折率と第3層の屈折率との差によりレリーフ面での反射率を高めることができる。
【0022】
上記認証体は、所定の情報を表示する表示層をさらに備えてもよい。上記構成によれば、認証体が表示層を備えるため、認証体は、光学素子が表示する有色像と反射像とに加えて、表示層による情報を表示することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、真贋の判定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態の光学素子の構造が概略的に図解された断面図。
【
図2】第1実施形態の光学素子の構造が拡大図とともに概略的に図解された平面図。
【
図3】
図2のI‐I線に沿う断面における構造が概略的に図解された断面図。
【
図4】第1実施形態の作用が概略的に図解されている。
【
図5】第1実施形態の作用が概略的に図解されている。
【
図6】第1実施形態の他の実例の構造が拡大図とともに概略的に図解された平面図。
【
図7】画素領域における方位角が概略的に図解されている。
【
図8】第1実施形態の別の他の実例における構造が拡大図とともに概略的に図解された平面図。
【
図9】
図8におけるII‐II線に沿う断面における構造と、III‐III線に沿う断面における構造とが概略的に図解された断面図。
【
図10】方位角とサブ波長格子から射出される光の波長との関係が概略的に図解されている。
【
図11】方位角とサブ波長格子から射出される光の波長との関係が概略的に図解されている。
【
図12】第2実施形態の光学素子における構造が拡大図とともに概略的に図解された断面図。
【
図13】第2実施形態の光学素子における他の実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図14】第2実施形態の光学素子における別の他の実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図15】第3実施形態の光学素子における構造が概略的に図解された断面図。
【
図16】第4実施形態の光学素子における第1実例の構造が概略的に図解された断面図。
【
図17】第4実施形態の光学素子における第2実例の構造が概略的に図解された断面図。
【
図18】第5実施形態の光学素子の第1実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図19】第5実施形態の光学素子の第1実例における作用が概略的に図解されている。
【
図20】第5実施形態の光学素子の第1実例における第1状態が概略的に図解された平面図。
【
図21】第5実施形態の光学素子の第1実例における第2状態が概略的に図解された平面図。
【
図22】第5実施形態の光学素子の第1実例における第3状態が概略的に図解された平面図。
【
図23】第5実施形態の光学素子の第1実例における第4状態が概略的に図解された平面図。
【
図24】第5実施形態の光学素子の第2実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図25】第5実施形態の光学素子における変形の構造を示す断面図。
【
図26】第5実施形態の光学素子における変形においてレリーフ面と対向する平面視における量子化位相差構造を示す平面図。
【
図27】
図25が示す量子化位相差構造の空間周波数成分におけるピークを示すグラフ。
【
図28】
図25が示す量子化位相差構造を模式的に示す断面図。
【
図29】第5実施形態の光学素子が表示する第1像および第2像の第1実例を示す平面図。
【
図30】第5実施形態の光学素子が表示する第1像および第2像の第2実例を示す平面図。
【
図31】第5実施形態の光学素子が表示する第1像および第2像の第3実例を示す平面図。
【
図32】第6実施形態の光学素子の第1実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図33】第6実施形態の光学素子の第2実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図34】第6実施形態の光学素子の第3実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図35】第6実施形態の光学素子の第4実例における構造が概略的に図解された断面図。
【
図36】第7実施形態の転写箔の構造が概略的に図解された断面図。
【
図37】第8実施形態の認証体における構造が概略的に図解された平面図。
【
図38】
図37のIV‐IV線に沿う断面における構造が概略的に図解された断面図。
【
図39】第9実施形態の認証体における構造が概略的に図解された断面図。
【
図40】第9実施形態の認証体の第1実例における作用が概略的に図解されている。
【
図41】第9実施形態の認証体の第1実例における作用が概略的に図解されている。
【
図42】第9実施形態の認証体の第1実例における作用が概略的に図解されている。
【
図43】第9実施形態の認証体の第1実例における作用が概略的に図解されている。
【
図44】第9実施形態の認証体の第2実例における作用が概略的に図解されている。
【
図45】第9実施形態の認証体の第2実例における作用が概略的に図解されている。
【
図46】第9実施形態の認証体の第2実例における作用が概略的に図解されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
図1から
図11を参照して、光学素子の第1実施形態を説明する。
図1が示すように、光学素子10は、第1層11と、第1層11に接する第2層12と、第2層12に接する第3層13とを備えている。各層は、光透過性を有している。光学素子10では、第2層12に対して第3層13とは反対側に位置する光源から光が照射されている状態が、第2層12に対して第3層13とは反対側から観察される。光学素子10において、第1層11のなかで、第2層12に接する面とは反対側の面が、観察者によって観察される観察面10Sである。
【0026】
第1層11は、第2層12に接する表面11Sの少なくとも一部にサブ波長格子11Gを含む樹脂製の層である。第2層12は、サブ波長格子11Gに追従した凹凸状を有している。第2層12は、第1層11の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層である。第3層13は、第2層12よりも屈折率が低い樹脂製の層である。サブ波長格子11Gは、1つの方向に沿って並ぶ複数の格子パターンGPによって構成される。格子パターンGPは、1つの方向に沿って複数の凸面と凹面とが1つずつ交互に並んでいるものとできる。各凸面と各凹面は、並んでいる方向と直交方向を長軸とする長細いものとできる。サブ波長格子11Gにおいて、格子パターンGPの周期は、可視波長未満とできる。実例として、格子パターンGPの周期は、680nm未満とできる。また、格子パターンGPの周期は、可視光の最短波長以下としてもよい。すなわち、格子パターンGPの周期は、400nm以下としてもよい。サブ波長格子11G(以下、サブマイクロ格子ともいう)は、入射した光を回折できる。サブマイクロ格子は、特定の波長の回折した光を、第2層12中に導ける。第2層12中に導かれた光は、導波光である。導波光は、入射した光の正反射方向に回折する。つまり、サブマイクロ格子は、入射した光を選択的に正反射方向に射出(emerge)する。
【0027】
第1層11の屈折率は、第3層13の屈折率と互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。第1層11の屈折率と第3層13の屈折率との差は、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。第1層11の屈折率と第2層12の屈折率との差、および、第3層13の屈折率と第2層12の屈折率との差は、それぞれ0.3以上とでき、さらには0.5以上とできる。
【0028】
第1層11の表面11Sのなかで、サブ波長格子11Gが位置する領域が凹凸面である。本実施形態では、表面11Sの全体が凹凸面であるが、表面11Sの一部のみが凹凸面であってもよい。
【0029】
図2は、観察面10Sと対向する平面視における光学素子10の構造を示している。なお、以下では、図示および説明の便宜上、観察面10Sと対向する平面視での構造を用いて、第1層11の表面11S、すなわち第1層11のなかで第2層12との界面を形成する面について説明する。また、
図2では、図示の便宜上、サブ波長格子11Gが備える格子パターンGPの延びる方向を直線によって示している。
【0030】
図2が示すように、凹凸面の一実例である表面11Sは、第1領域11S1と、表面11Sと対向する平面視において第1領域11S1を取り囲む第2領域11S2とを含んでいる。本実施形態では、表面11Sは、第1領域11S1と第2領域11S2とから構成されているが、第1領域11S1および第2領域11S2以外の領域を含んでもよい。
【0031】
第1領域11S1に属するサブ波長格子が、第1サブ波長格子11G1である。第2領域11S2に属するサブ波長格子が、第2サブ波長格子11G2である。第1サブ波長格子11G1の方位角と、第2サブ波長格子11G2の方位角とが互いに等しい。第1サブ波長格子11G1の格子周期と、第2サブ波長格子11G2の格子周期とが互いに異なる。サブ波長格子11Gにおける格子周期とは、上述した格子パターンGPの周期である。サブ波長格子11Gにおける方位角とは、第1層11が広がる平面において設定された基準線と、格子パターンGPとが形成する角度である。
【0032】
第1領域11S1および第2領域11S2において、複数の画素領域Pxが区画されている。各画素領域Pxの面積は、0.1mm2以下であることが好ましい。第1層11の表面11Sの全体において、複数の画素領域Pxが隙間なく並んでいる。本実施形態では、表面11Sと対向する平面視において、各画素領域Pxは正方形状を有しているが、画素領域Pxは、正三角形状および正六角形状などを有してもよい。また、各画素領域Pxは、多角形状であって、かつ、互いに異なる長さを有した辺を含む形状であってもよい。各画素領域Pxにおいて、一辺の長さは0.3mm以下であることが好ましい。なお、一辺の長さが0.08mm以下であることがより好ましい。この場合には、画素領域Pxの一辺の長さが人の目の分解能よりも小さい値であるため、各画素領域Pxが観察者によって視認されない。これにより、光学素子10が、高解像度の像を表示することが可能である。
【0033】
図3は、
図2におけるI‐I線に沿うサブ波長格子11Gの断面構造を示している。
図3では、図示の便宜上、第1サブ波長格子11G1の断面構造と、第2サブ波長格子11G2の断面構造とを、紙面の上下方向において並べて示している。なお、各サブ波長格子の断面構造は、1つの画素領域Pxに位置するサブ波長格子の断面構造を模式的に示している。また、
図3では、図示の便宜上、各サブ波長格子を、平坦面から離れる方向に突出する凸部を構成する面として示している。
【0034】
図3が示すように、第1サブ波長格子11G1の格子周期と、第2サブ波長格子11G2の格子周期とは互いに異なっている。第1サブ波長格子11G1における格子周期が第1周期d1であり、第2サブ波長格子11G2における格子周期が第2周期d2である。本実施形態では、第1周期d1が第2周期d2よりも小さいが、第1周期d1が第2周期d2よりも大きくてもよい。本実施形態では、各サブ波長格子は、1つの方向において繰り返す波状を有し、各波がサブ波長格子を構成する格子パターンGPである。互いに隣り合う2つの格子パターンGP間の距離が、各サブ波長格子の格子周期である。
【0035】
格子パターンGPが並ぶ方向に沿う断面において、第1サブ波長格子11G1が含む複数の格子パターンGPは、互いに同じ形状を有している。格子パターンGPが並ぶ方向に沿う断面において、第2サブ波長格子11G2が含む複数の格子パターンGPは、互いに同じ形状を有している。
【0036】
サブ波長格子において、サブ波長格子の格子周期に応じて、サブ波長格子から射出される光の波長が変わる。すなわち、サブ波長格子の格子周期に応じて、サブ波長格子を含む光学素子10が呈する色相、言い換えれば観察者が光学素子10の色相として視認する色が変わる。
【0037】
図4が示すように、光学素子10では、光学素子10の観察面10Sに垂直な平面上において、光源LSと観察者OBとが、観察面10Sの法線に対して対象となるように位置するとき、観察者OBは、光学素子10が射出するゼロ次回折光を視認することができる。言い換えれば、光学素子10は、光源LSから入射した入射光に対する正反射の方向に、サブ波長格子11Gの格子周期に応じた波長の光を射出することができる。
【0038】
上述したように、本実施形態において、サブ波長格子の格子周期は、可視光の最短波長以下、すなわち400nm以下に設定されている。しかしながら、ゼロ次回折光による特定の波長を有した光のみが特定の方向に射出されるための格子周期は、サブ波長格子の屈折率、および、サブ波長格子に入射する入射光の入射角などによって変わる。以下において、サブ波長格子がゼロ次回折光のみを射出するための条件、言い換えれば、サブ波長格子が1次回折光を射出しないための条件を説明する。
【0039】
反射型の回折格子において、以下の式(1)が成り立つことが知られている。
sinθ1+sinθ2 = mλ/nd … 式(1)
なお、式(1)において、θ1は回折格子に対する入射光の入射角であり、θ2は回折格子が射出する回折光の回折角であり、mは回折光の回折次数である。λは波長であり、nは回折格子の屈折率であり、dは回折格子の格子周期である。
【0040】
ここで、屈折率nが1であり、かつ、回折格子が配置された平面に対して垂直な光が入射したと仮定したときの1次回折光について考える。このとき、入射角θ1は0°であり、回折次数mは1である。そのため、これらの数値を式(1)に代入すると、以下の式(2)が導かれる。
【0041】
sinθ2 = λ/d … 式(2)
sinθ2は-1以上1以下であるため、式(2)における右辺(λ/d)が1よりも大きいとき、式(2)は成り立たない。言い換えれば、右辺(λ/d)が1よりも大きいとき、1次回折光は回折格子から射出されない。したがって、上述した前提のもとでは、回折格子の格子周期が波長よりも小さいときに、回折格子はゼロ次回折光のみを射出する。
【0042】
一方で、屈折率が1ではなく、かつ、入射角θ1が0°でない場合には、回折格子がゼロ次以外の次数の回折光を射出する場合もある。例えば、入射角θ1が30°であり、かつ、波長λが600nmであると仮定したときの1次回折光について考える。このとき、入射角θ1は30°であり、波長λは600nmであり、回折次数mは1である。そのため、これらの数値を式(1)に代入すると、以下の式(3)が導かれる。
【0043】
1/2 + sinθ2 =600/nd … 式(3)
sinθ2は-1以上1以下であるため、式(3)の左辺(1/2+sinθ2)は-0.5以上1.5以下であり、屈折率nと格子周期dとの積が0以上400以下を満たすとき、屈折率nと格子周期dとの組み合わせによって、回折格子が1次回折光を射出する。例えば、1次回折光が射出されるときの屈折率nと格子周期dとの組み合わせ(n,d)は、以下の通りである。
【0044】
(n,d) = (1,400)、(1.5,200)、(2,100)
このように、回折格子の屈折率nによっては、回折格子の格子周期dが波長λ以下であっても、1次回折光やより高次の回折光が射出されることがある。言い換えれば、回折格子の格子周期dと、回折格子の屈折率nとの調整によって、回折格子がゼロ次回折光を射出する一方で、ゼロ次回折光よりも高次の回折光を射出しないように回折格子を構成することが可能である。
【0045】
一方で、1次回折光の回折角θ2がゼロ次回折光の回折角θ2よりも大幅に大きくなるように設計することで、観察者に対する回折格子の相対位置が固定された状態において、ゼロ次回折光が観察者によって視認される一方で、1次回折光が観察者によって視認されないように、回折格子を構成することも可能である。これにより、回折格子を形成する材料の選択における自由度や、回折格子の格子周期における自由度を高めることはできる。
【0046】
図5が示すように、光源LSと観察者OBの視点とを固定した状態で、上述した平面と光学素子10とが、垂直以外の角度で交差するように光学素子10を傾ける。この場合には、光学素子10は、観察者OBの視線の方向にはゼロ次回折光を射出しないため、観察者は光学素子10が射出する特定の波長の光を視認することができない。言い換えれば、観察者は、光学素子10が呈する色を視認することができない。
【0047】
光学素子10では、第1サブ波長格子11G1および第2サブ波長格子11G2の両方において、各サブ波長格子に起因する色の発現と消失とが同時に起こる。そのため、光学素子10の全体において、特定の色を呈する状態と、特定の色を呈しない状態とが切り替わる。それゆえに、光学素子10の真贋判定では、光学素子10が、第1サブ波長格子11G1に由来する色を呈する第1領域11S1と、第2サブ波長格子11G2に由来する色を呈する第2領域11S2とを備えるか否かを、一度に把握することができる。結果として、光学素子10を回転させることによって、光学素子10が2つの色を呈する状態を有するか否かを判定する場合に比べて、光学素子10の真贋をより容易に判定することができる。
【0048】
図6は、本実施形態の光学素子10における他の実例である。
図6は、
図2と同様、観察面10Sと対向する平面視における光学素子10の構造を示している。
図6が示すように、複数の画素領域Pxは、表面11Sと対向する平面視において、各画素領域Pxの一部に位置する第1サブ波長格子11G1を備える画素領域Pxを含んでもよい。
図3を参照して先に説明した実例では、第1サブ波長格子11G1は、各画素領域Pxの全体に位置している。これに限らず、各画素領域Pxにおいて、その画素領域Pxの一部のみに第1サブ波長格子11G1が位置してもよい。各画素領域Pxにおいて、画素領域Pxの面積に対する第1サブ波長格子11G1の面積の比が面積率である。複数の画素領域Pxには、面積率が互いに異なる画素領域Pxが含まれてもよい。
【0049】
各画素領域Pxにおける面積率が高いほど、各画素領域Pxの輝度が高い。そのため、複数の画素領域Pxが、面積率が互いに異なる画素領域Pxを含むことによって、第1領域11S1が呈する色において、同一の色相において輝度による濃淡を形成することが可能である。これにより、第1領域11S1に擬似的な立体像を表示させることが可能でもある。この場合には、第1領域11S1が表示すべき立体像における輝度の高低、すなわち階調値に応じて、面積率を決定することができる。
【0050】
本実施形態では、光学素子10は、第1領域11S1の中央から第1領域11S1の外縁に向かう方向に沿って、画素領域Pxにおける面積率が小さくなる部分を含み、かつ、第1領域11S1の外縁における面積率が最も小さい。
【0051】
本実施形態の光学素子10は、
図7から
図11を参照して以下に説明する構成であってもよい。以下では、光学素子10における他の実例を説明する前に、上述したサブ波長格子における方位角をより詳しく説明する。
【0052】
図7が示すように、光学素子10の観察面10Sに沿う任意の方向が、X方向であり、X方向に直交する方向がY方向である。本実施形態では、X方向が方位角において基準となる方向であり、X方向と格子パターンが延びる方向とが形成する角度が方位角θである。そのため、第1画素領域Px1における方位角θは0°であり、第2画素領域Px2における方位角θは45°である。また、第3画素領域Px3における方位角θは90°であり、第4画素領域Px4における方位角θは135°である。
【0053】
図8は、
図2と同様、観察面10Sと対向する平面視における光学素子10の構造を示している。
図8が示すように、第1領域11S1は、第1要素S1Aと、第1要素S1Aと隣り合う第2要素S1Bとを含んでいる。各要素S1A,S1Bは、第1層11の表面11Sと対向する平面視において、第1領域11S1の輪郭に沿う形状を有している。本実施形態では、第1領域11S1は、第1要素S1Aと第2要素S1Bとから構成され、第1要素S1Aが第2要素S1Bよりも外側に位置している。第1要素S1Aの輪郭、および、第2要素S1Bの輪郭は、第1領域11S1の輪郭に相似な形状である。
【0054】
第1サブ波長格子11G1のなかで、第1要素S1Aに属するサブ波長格子が第1格子G1Aである。第1サブ波長格子11G1のなかで、第2要素S1Bに属するサブ波長格子が第2格子G1Bである。第1格子G1Aの格子周期と、第2格子G1Bの格子周期とが互いに等しい。一方で、第1格子G1Aの方位角θと第2格子G1Bの方位角θとは互いに異なり、かつ、第1格子G1Aの方位角θと第2格子G1Bの方位角θとの差が、90°以下である。本実施形態では、第1格子G1Aにおける方位角θが0°であり、第2格子G1Bにおける方位角θが45°である。そのため、第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとの差は、45°である。
【0055】
図9は、
図8におけるII‐II線に沿う第1格子G1Aの断面構造と、III‐III線に沿う第2格子G1Bの断面構造とを示している。
図9では、図示の便宜上、第1格子G1Aの断面構造と、第2格子G1Bの断面構造とを、紙面の上下方向において並べて示している。なお、各格子の断面構造は、1つの画素領域Pxに位置するサブ波長格子の断面構造を模式的に示している。また、
図9では、
図3と同様、図示の便宜上、各サブ波長格子を、平坦面から離れる方向に突出する凸部を構成する面として示している。
【0056】
図9が示すように、第1格子G1Aの格子周期と、第2格子G1Bの格子周期とは互いに等しい。すなわち、第1格子G1Aの格子周期は第1周期d1であり、第2格子G1Bの格子周期も第1周期d1である。なお、上述したように互いに隣り合う2つの格子パターンGP間の距離が、各格子の格子周期である。
【0057】
サブ波長格子において、サブ波長格子の格子周期、および、方位角θが互いに等しい2つのサブ波長格子間では、特定の観察点において、2つのサブ波長格子が呈する色は互いに同じである。一方で、サブ波長格子において、サブ波長格子の格子周期が互いに等しい一方で、方位角θが互いに異なる2つのサブ波長格子間では、特定の観察点において、2つのサブ波長格子が呈する色が互いに異なる。すなわち、特定の観察確度において、第1格子G1Aが呈する色と、第2格子G1Bが呈する色とは互いに異なる。
図10および
図11を参照して、第1格子G1Aが呈する色と、第2格子G1Bが呈する色とが互いに異なる理由を説明する。
【0058】
図10は、方位角θが0°であるサブ波長格子11Gの斜視構造を示している。一方で、
図11は、方位角θが90°であるサブ波長格子11Gの斜視構造を示している。サブ波長格子11Gへの入射光が含む偏光成分のうち、サブ波長格子11Gの入射面に対して電場が垂直に振動している偏光がs偏光である。これに対して、サブ波長格子11Gの入射面に対して電場が平行に振動している偏光がp偏光である。なお、入射面とは、サブ波長格子が広がる平面に対して垂直であり、かつ、入射光と反射光とを含む平面である。また、s偏光およびp偏光の各々は、サブ波長格子11Gの方位角θには依存しない。言い換えれば、
図10が示すサブ波長格子11Gに入射する入射光であっても、
図11が示すサブ波長格子11Gに入射する入射光であっても、s偏光およびp偏光を含む。
【0059】
ここで、回折格子のように溝を有する構造では、溝が延びる方向、すなわち方位角θと電場の振動方向との関係によって、光の波長と、その波長における回折効率との関係が変わる。回折格子に入射した光のなかで、電場の振動方向が回折格子の方位角θと平行な成分がTE波である。一方で、回折格子に入射した光のなかで、電場の振動方向が回折格子の方位角θと直交する成分がTM波である。
図10を参照して先に説明したように、方位角θが0°である回折格子では、電場の振動方向が回折格子の方位角θと平行な成分であるp偏光は、TE波と等しい。これに対して、
図11を参照して先に説明したように、方位角θが90°である回折格子では、電場の振動方向が回折格子の方位角θと直交する成分であるs偏光は、TM波と等しい。
【0060】
光が、回折格子と回折格子を取り囲む媒質との界面に入射するとき、入射面に対する入射光の偏光方向によって反射率が変わることが知られている。さらに、回折格子において、TE波とTM波との間では、入射光に含まれる各波長での回折効率が互いに異なることが知られている。そのため、s偏光およびp偏光の各々が、TE波およびTM波のいずれに対応するかによって、どのような波長分布を有した光がゼロ次回折光として回折格子から射出されるかが異なると言える。それゆえに、
図10が示すサブ波長格子11Gが呈する色と、
図11が示すサブ波長格子11Gが呈する色とは互いに異なる。
図10が示すサブ波長格子11Gが呈する色が第1色であり、
図11が示すサブ波長格子11Gが呈する色は第2色とできる。第2色は、第1色とは異なる色である。
【0061】
図8を参照して先に説明した光学素子10は、第1格子G1Aとして
図10が示すサブ波長格子11Gを備えることが可能であり、第2格子G1Bとして
図11が示すサブ波長格子11Gを備えることが可能である。この場合において、第1格子G1Aを含む第1要素S1Aが第1色を呈し、かつ、第2格子G1Bを含む第2要素S1Bが第2色を呈する状態が、光学素子10、観察者、および、光源の相対位置における初期位置である。光学素子10の放線を回転軸として光学素子10を初期位置から90°回転させると、第1格子G1Aにおいて、s偏光がTE波に対応し、かつ、p偏光がTM波に対応する。これに対して、第2格子G1Bにおいて、s偏光がTM波に対応し、かつ、p偏光がTE波に対応する。これにより、第1要素S1Aが第2色を呈し、かつ、第2要素S1Bが第1色を呈する。それゆえに、観察者は、光学素子10の回転によって、第1要素S1Aが呈する色と第2要素S1Bが呈する色とが反転したと認識する。
【0062】
このように、サブ波長格子11Gによれば、サブ波長格子11Gの格子線が延びる方向からサブ波長格子11Gに入射した光と、格子線の延びる方向と直交する方向から入射した光とで、光から見て光学素子10の屈折率が変わるために、異なる波長の光を射出する。
【0063】
上述したように、第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとは、90°以下であることが以下の理由から好ましい。光学素子10の観察面10Sと、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が、観察角度である。サブ波長格子が呈する色が視認される観察角度は、光源、観察者、および、光学素子10の相対的な位置の関係のみに影響される。そのため、第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとが互いに異なっても、第1格子G1Aが呈する色が視認される観察角度と、第2格子G1Bが呈する色とが視認される観察角度とは、互いに等しい。言い換えれば、各格子G1A,G1Bが呈する色が発現する観察角度と、各格子G1A,G1Bが呈する色が消失する観察角度とは、2つの格子間において互いに等しい。
【0064】
第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとの差が90°である場合、第1格子G1Aから射出されるゼロ次回折光の波長と、第2格子G1Bから射出されるゼロ次回折光の波長とは互いに異なる。これにより、第1格子G1Aが呈する第1色と、第2格子G1Bが呈する第2色とが互いに異なる。第1格子G1Aの方位角θと第2格子G1Bの方位角θとの差を、0°よりも大きくかつ90°未満の範囲に含まれる角度に設定した場合には、第1格子G1Aおよび第2格子G1Bの少なくとも一方が、第1色と第2色との中間色を呈する。第1格子G1Aが呈する色と、第2格子G1Bが呈する色とは、方位角θの差に応じて変わる。そのため、第1格子G1Aの方位角θと第2格子G1Bの方位角θとの差によって、1つの方向に沿って並ぶ画素領域Pxにおいて、各画素領域Pxが呈する色を徐々に変化させたり、互いに隣り合う画素領域Px間において、各画素領域Pxが呈する色を急激に変えたりすることができる。
【0065】
なお、サブ波長格子11Gにおいて、第1格子G1Aにおける方位角θと、第2格子G1Bにおける方位角θとの差が90°に設定されたときに、第1格子G1Aが射出する光の波長と、第2格子G1Bが射出する光の波長との差が最も大きくなる。これに対して、第1格子G1Aにおける方位角θと、第2格子G1Bにおける方位角θとの差を90°よりも大きくしても、第1格子G1Aが射出する光の波長と、第2格子G1Bが射出する光の波長との差は、大きくはならない。
【0066】
加えて、第1格子G1Aにおける方位角θと、第2格子G1Bにおける方位角θとの差が小さいほど、第1格子G1Aにおける形状の精度と、第2格子G1Bにおける形状の精度とに差が生じにくい。それゆえに、第1格子G1Aにおける方位角θと、第2格子G1Bにおける方位角θとの差の最大値は、90°であることが好ましい。
【0067】
以上説明したように、光学素子の第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)光学素子10の真贋判定では、光学素子10が、第1サブ波長格子11G1に由来する色を呈する第1領域11S1と、第2サブ波長格子11G2に由来する色を呈する第2領域11S2とを備えるか否かを、一度に把握することができる。結果として、光学素子10を回転させることによって、光学素子10が2つの色を呈する状態を有するか否かを判定する場合に比べて、光学素子10の真贋をより容易に判定することができる。
【0068】
(2)各画素領域Pxにおける面積率が高いほど、各画素領域Pxの輝度が高い。そのため、複数の画素領域Pxが、面積率が互いに異なる画素領域Pxを含むことによって、第1領域11S1が呈する色において、同一の色相において輝度による濃淡を形成することが可能である。
【0069】
(3)第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとが違いに異なるため、第1格子G1Aが呈する色と、第2格子G1Bが呈する色とが互いに異なる。
【0070】
[第1実施形態の変形]
なお、上述した第1実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[格子周期]
・第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとが互いに等しく、かつ、第1格子G1Aの格子周期と、第2格子G1Bの格子周期とが互いに異なってもよい。この場合には、以下に記載の効果を得ることができる。
【0071】
(4)第1格子G1Aの格子周期と、第2格子G1Bの格子周期とが互いに異なることによって、第1格子G1Aが呈する色と、第2格子G1Bが呈する色とが互いに異なる。
なお、第1格子G1Aと第2格子G1Bとの間において、方位角θを異ならせる場合に比べて、格子周期を異ならせることによって、第1格子G1Aが呈することが可能な色、および、第2格子G1Bが呈することが可能な色の種類を増やすことができる。これにより、光学素子10が呈する色の自由度が高まる。
【0072】
・第1格子G1Aの方位角θと、第2格子G1Bの方位角θとが互いに異なり、かつ、第1格子G1Aの格子周期と、第2格子G1Bの格子周期とが互いに異なってもよい。
【0073】
[第2実施形態]
図12から
図14を参照して、光学素子の第2実施形態を説明する。第2実施形態の光学素子は、第1実施形態の光学素子と比べて、サブ波長格子が備える格子パターンの形状が異なる。そのため以下では、こうした相違点について詳しく説明する一方で、第2実施形態の光学素子において第1実施形態の光学素子に対応する構成には、第1実施形態と同一の符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。なお、以下に参照する
図12から
図14では、図示の便宜上、サブ波長格子を平坦面から離れる方向に突出する凸部が並ぶ構造として示している。また、第2実施形態の光学素子では、観察者によって観察されるサブ波長格子の色が、ゼロ次回折光よりも高次の回折光に基づく場合もある。そのため以下では、サブ波長格子が発色する効果が最も高い効率で現れる角度をm次とし、m次における回折光をm次回折光とする。
【0074】
サブ波長格子11Gは、上述したように、複数の格子パターンを含んでいる。複数の格子パターンが繰り返される方向が第1方向D1であり、第1方向D1と直交する方向が第2方向D2である。各格子パターンにおいて、第1方向D1に沿い、かつ、第1層11が広がる平面に垂直な断面における形状が、断面形状である。各格子パターンは、断面形状が第2方向D2に沿って連なる形状を有している。複数の格子パターンは、断面形状が互いに異なる格子パターンを含んでいる。以下、本実施形態の光学素子について、より詳しく説明する。
【0075】
図12が示すように、第1実施形態の光学素子10と同様、光学素子20は、第1層11、第2層12、および、第3層13を備えている。光学素子20は、第1方向D1において、3つの部分を含んでいる。すなわち、光学素子20は、第1部分20A、第2部分20B、および、第3部分20Cを備えている。第1部分20A、第2部分20B、および、第3部分20Cは、格子パターンが繰り返される方向において、記載の順に並んでいる。
【0076】
サブ波長格子11Gにおいて、各部分に属する複数の格子パターンは、互いに同じ断面形状を有する。一方で、各部分間において、各部分に属する格子パターンの断面形状は、互いに異なっている。サブ波長格子11Gにおいて、第1部分20Aに属する部分が第1格子20AGであり、第2部分20Bに属する部分が第2格子20BGであり、第3部分20Cに属する部分が第3格子20CGである。
【0077】
第1格子20AGは、複数の第1格子パターンAGPを含んでいる。複数の第1格子パターンAGPは、第1方向D1に沿って繰り返されている。第1格子20AGの断面形状は、波状である。第1格子20AGの格子周期は、第1周期d1である。第1格子パターンAGPは、第1方向D1に沿う断面において、1つの山部が2つの谷部によって挟まれた形状を有している。第1格子パターンAGPは、一方の谷部と山部とを結ぶ斜面と、山部と他方の谷部とを結ぶ斜面とを有している。各斜面は、第1層11が広がる平面に対して傾きを有している。
【0078】
第1方向D1に沿う断面において、一方の斜面に対する接線と、複数の谷部を結ぶ直線とが形成する角度が第1接線角度θ1である。なお、複数の谷部を結ぶ直線は、第1層11の表面にほぼ平行な直線である。また、第1接線角度θ1は、第1層11が広がる平面と斜面とが形成する角度に等しい。
【0079】
第2格子20BGは、複数の第2格子パターンBGPを含んでいる。複数の第2格子パターンBGPは、第1方向D1に沿って繰り返されている。第2格子20BGの断面形状は、波状である。第2格子20BGの格子周期は、第2周期d2である。第2周期d2は、第1周期d1に等しい。第2格子パターンBGPは、第1格子パターンAGPと同様、第1方向D1に沿う断面において、1つの山部が2つの谷部によって挟まれた形状を有している。第2格子パターンBGPは、一方の谷部と山部とを結ぶ斜面と、山部と他方の谷部とを結ぶ斜面とを有している。各斜面は、第1層11が広がる平面に対して傾きを有している。
【0080】
第1方向D1に沿う断面において、一方の斜面に対する接線と、複数の谷部を結ぶ直線とが形成する角度が第2接線角度θ2である。第2接線角度θ2は、第1接線角度θ1とは異なる角度である。なお、第2接線角度θ2は、第1層11が広がる平面と斜面とが形成する角度に等しい。本実施形態において、第2接線角度θ2は、第1接線角度θ1よりも小さい。一方で、上述したように、第2格子20BGの第2周期d2は、第1格子20AGの第1格子周期d1に等しい。そのため、第1方向D1に沿う断面において、第2格子パターンBGPの断面形状と、第1格子パターンAGPの断面形状とは互いに異なっている。
【0081】
第3格子20CGは、複数の第3格子パターンCGPを含んでいる。複数の第3格子パターンCGPは、第1方向D1に沿って繰り返されている。第3格子20CGの断面形状は、波状である。第3格子20CGの格子周期は、第3周期d3である。第3周期d3は、第1周期d1および第2周期d2に等しい。第3格子パターンCGPは、第1格子パターンAGPと同様、第1方向D1に沿う断面において、1つの山部が2つの谷部によって挟まれた形状を有している。第3格子パターンCGPは、一方の谷部と山部とを結ぶ斜面と、山部と他方の谷部とを結ぶ斜面とを有している。各斜面は、第1層11が広がる平面に対して傾きを有している。
【0082】
第1方向D1に沿う断面において、一方の斜面に対する接線と、複数の谷部を結ぶ直線とが形成する角度が第3接線角度θ3である。第3接線角度θ3は、第1接線角度θ1とは異なる角度であり、かつ、第2接線角度θ2とも異なる角度である。なお、第3接線角度θ3は、第1層11が広がる平面と斜面とが形成する角度に等しい。本実施形態において、第3接線角度θ3は、第1接線角度θ1よりも小さく、かつ、第2接線角度θ2よりも小さい。一方で、上述したように、第3格子20CGの第3周期d3は、第1周期d1および第2周期d2に等しい。そのため、第1方向D1に沿う断面において、第3格子パターンCGPの断面形状は、第1格子パターンAGPの断面形状、および、第2格子パターンBGPの断面形状の両方と異なっている。
【0083】
すなわち、本実施形態では、各格子パターンにおける上述した断面形状は、第1層11が広がる平面に対して傾きを有した斜面を含んでいる。そして、複数の格子パターンは、第1層11に対する斜面の傾斜角が互いに異なる格子パターンを含んでいる。
【0084】
こうしたサブ波長格子11Gによれば、各斜面における接線角度θ1,θ2,θ3を変えることによって、光学素子20に入射した光が回折する角度を変えることができる。すなわち、第1格子20AG、第2格子20BG、および、第3格子20CGの間において、接線角度θ1,θ2,θ3を互いに異ならせることで、各格子20AG,20BG,20CGにおいてm次回折光が射出される角度を互いに異ならせることができる。これにより、サブ波長格子11Gの全体において接線角度が等しい場合と比べて、m次回折光が射出される角度の範囲を広げることができる。言い換えれば、観察者がm次回折光を観察することが可能な観察角度の範囲を広げることができる。なお、各格子20AG,20BG,20CGにおいて、断面形状が異なる一方で格子周期は等しいため、各格子20AG,20BG,20CGが呈する色はほぼ同じである。それゆえに、各格子20AG,20BG,20CGから射出されたm次回折光の集合は白色光を生成しない。
【0085】
第1方向D1において、各格子20AG,20BG,20CGの幅は300μm以下であることが好ましく、85μm以下であることがより好ましい。各格子20AG,20BG,20CGの幅が300μm以下であることによって、人の目の分解能では、各格子20AG,20BG,20CGを分離することができない。それゆえに、観察者は、各格子20AG,20BG,20CGが、互いに異なる角度で光を回折していると認識することはできない。
【0086】
なお、各格子20AG,20BG,20CGの幅は、以下の理由から85μm以下であることがより好ましい。一般に、視力が1.0である人が、観察対象から5m離れた位置から視覚1分で分離することが可能な間隔は、1.454mmであることが知られている。こうした事項は、ランドルト環を用いて説明されている。なお、1分は、1°の60分の1である。観察者が光学素子20から30cm離れた位置から光学素子20を観察すると仮定した場合、観察者の目によって分離することが可能な間隔、すなわち分解能Rは、以下の式(4)から導出することができる。
【0087】
R = 1454 × (30/500) (μm) … 式(4)
なお、式(4)の右辺において、第1項の単位がμmであり、第2項の単位がcmである。式(4)より、分解能Rは87.24μmである。そのため、各格子20AG,20BG,20CGの幅が85μm以下であれば、人の目の分解能では、各格子20AG,20BG,20CGを分解することができない確実性を高めることができる。
【0088】
各格子パターンAGP,BGP,CGPの断面形状が、互いに異なる接線角度を有した波形状であることは、m次回折光が射出される方向を、接線角度によって制御することが可能である点で好ましい。これに対して、格子パターンの断面形状が、光学素子20の表面に対して平行な面と、表面に対して直交する面とから構成される矩形状である場合、m次回折光、すなわちゼロ次回折光は、入射光に対する正反射の方向に射出される。例えば、光学素子20の表面に対する入射光の入射角度が45°である場合には、正反射光の射出角度も45°である。そのため、観察者は、観察角度が45°である方向から光学素子20を観察しなければ、光学素子20が射出する光を観察することができない。
【0089】
正反射光の射出角度で光学素子20を観察した場合には、光源から光学素子20に向けて射出された光の正反射光も観察者によって観察される。そのため、観察者が、サブ波長格子によって射出された光を視認しにくい場合がある。さらに、光学素子20に対する光源の相対位置によって、光学素子20を正反射の角度から観察することが難しい場合もある。この点で、m次回折光が射出される方向を、接線角度によって制御することが可能であることで、光学素子20がm次回折光を射出する角度の自由度が高くなる。そのため、上述した問題を解決することが可能にもなる。
【0090】
3つの格子パターンを含むサブ波長格子11Gは、以下の構造を有してもよい。
図13が示すように、サブ波長格子11Gは、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPを含んでいる。サブ波長格子11Gにおいて、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPが、1つのパターン群GPGを構成している。1つのパターン群GPGにおいて、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPが、第1方向D1に沿って記載の順に並んでいる。サブ波長格子11Gにおいて、複数のパターン群GPGが、第1方向D1に沿って繰り返されている。
【0091】
第1方向D1において、第1格子パターンAGPの格子周期が第1周期d1であり、第2格子パターンBGPの格子周期が第2周期d2であり、第3格子パターンCGPの格子周期が第3周期d3である。第1周期d1、第2周期d2、および、第3周期d3は、互いに等しい。
【0092】
第1方向D1において、パターン群GPGの周期Dは、20μm以上であることが好ましい。パターン群GPGの周期Dが大きいほど、より高次の回折光が同一の観察角度内に含まれる。言い換えれば、パターン群GPGの周期Dが大きいほど、同一の次数の回折光が含まれる観察角度の範囲が狭くなる。これにより、m次回折光の観察角度と他の回折光の観察角度との差を小さくすることで、観察者は、m次回折光と同時に複数の回折光を視認することができる。これにより、観察者が光学素子20から射出された光を視認することができる観察角度の範囲が広がる。
【0093】
例えば、上述したように、断面形状が矩形状の回折格子では、入射光と回折格子の放線とが形成する角度を角度αとし、かつ、回折光と回折格子の放線とが形成する角度を角度βとするとき、以下の式(5)が成り立つ。なお、角度αは入射角であり、角度βは回折角である。
【0094】
d(sinα+sinβ) = mλ … 式(5)
なお、式(5)において、dは回折格子の周期であり、mは回折次数であり、λは光の波長である。周期および波長の単位は、nmである。また、
図13に示されるサブ波長格子11Gでは、周期dが上述したパターン群GPGの周期Dに相当する。式(5)において、角度αを45°に設定し、波長λを500nmに設定するとき、周期dを5000nmに設定すると、以下のように回折次数mと角度βとが決まる。
(m,β) = (1,-37.4)、(2,-30.5)、(3,-24.0)…
【0095】
また、周期dを10000nmに変更すると、以下のように回折次数mと角度βとが決まる。
(m,β) = (1,-41.1)、(2,-37.4)、(3,-33.9)…
【0096】
また、周期dを20000nmに変更すると、以下のように回折次数mと角度βとが決まる。
(m,β) = (1,-43.0)、(2,-41.1)、(3,-39.2)…
【0097】
このように、周期dが大きくなるほど、回折次数の異なる回折光間において、角度βの差が小さくなる。
【0098】
ここで、人の目における瞳孔径が5mmであり、かつ、観察者が光学素子20を観察する距離を30cmであると仮定する。この場合、光学素子20におけるある点から射出される光のうち、約1°の観察角度内に含まれる光が、観察者の目に入る。すなわち、観察者は約1°の観察角度内の光を積算した結果を視認している。つまり、約1°の観察角度の範囲内に特定の波長を有した回折光が含まれていると、この観察角度の範囲内において回折効率が高くなる。また、観察者が、観察角度が変わるように光学素子20を傾けながら観察する場合、観察者が観察角度を2°以上変える間にわたって、光学素子20の呈する色が特定の色に保持されていることによって、観察者は光学素子20が呈する色を認識しやすい。そのため、光学素子20は、観察角度における2°の範囲内に次数の異なる回折光を少なくとも2つ射出するように構成されることが好ましい。この点で、光学素子20における周期Dは、20μm以上であることが好ましい。
【0099】
3つの格子パターンを含むサブ波長格子11Gは、以下の構造を有してもよい。
図14が示すように、サブ波長格子11Gは、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPを含んでいる。サブ波長格子11Gにおいて、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPが、1つのパターン群GPGを構成している。1つのパターン群GPGにおいて、第1格子パターンAGP、第2格子パターンBGP、および、第3格子パターンCGPは、第1方向D1に沿って記載の順に並んでいる。サブ波長格子11Gにおいて、複数のパターン群GPGが、第1方向D1に沿って繰り返されている。
【0100】
第1格子パターンAGPの格子周期が第1周期d1であり、第2格子パターンBGPの格子周期が第2周期d2であり、第3格子パターンCGPの格子周期が第3周期d3である。第1周期d1、第2周期d2、および、第3周期d3は、互いに異なる。第1方向D1において互いに隣り合う格子パターン間では、格子周期の差が20nm以下であることが好ましい。例えば、第1周期d1を300nmに設定し、第2周期d2を310nmに設定し、かつ、第3周期d3を290nmに設定することが可能である。
【0101】
格子パターン間において格子周期が互いに異なるため、格子パターン間において回折角が互いに異なる。格子パターン間において、格子周期の差が小さいほど、回折角の差が小さくなる。上述したように、第1方向D1において互いに隣り合う格子パターン間での格子周期の差が20nm以下であれば、各格子パターンから射出されるm次回折光の回折角が互いにほぼ等しくなる。これにより、観察者は、各格子パターンから射出されるm次回折光を分離することができない。そのため、観察者が光学素子20から射出される光を観察することが可能な観察角度を広げることができる。
【0102】
以上説明したように、光学素子の第2実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(5)複数の格子パターンにおいて、第1方向D1に沿う断面形状が互いに同一である場合と比べて、サブ波長格子11Gから射出される光を観察者が視認することが可能な観察角度を広げることができる。
【0103】
(6)複数の格子パターンにおいて、第1方向D1に沿う断面形状に含まれる斜面の傾斜角が互いに同一である場合と比べて、格子パターン間における傾斜角の差に応じて、サブ波長格子11Gから射出される光を観察者が視認することが可能な観察角度を広げることができる。
【0104】
[第2実施形態の変形]
なお、上述した第2実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[断面形状]
・サブ波長格子11Gは、上述した断面形状が互いに異なる4種以上の格子パターンを含んでもよい。また、複数種の格子パターンは、サブ波長格子11G内においてランダムに位置してもよい。
【0105】
・サブ波長格子11Gの断面形状は、上述した波状に限らない。サブ波長格子11Gが波形状以外の形状を有する場合であっても、サブ波長格子11Gが、断面形状が互いに異なる格子パターンを含んでいることによって、上述した(5)に準じた効果を得ることはできる。
【0106】
[第3実施形態]
図15を参照して、光学素子の第3実施形態を説明する。第3実施形態の光学素子は、第1実施形態の光学素子10と比べて、第1層がフィラーを含む点が異なっている。そのため、以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第3実施形態の光学素子において、第1実施形態の光学素子に対応する構成には、第1実施形態と同一の符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。
【0107】
図15が示すように、光学素子30が備える第1層11は、第1層11を形成する樹脂中に分散したフィラー31を含んでいる。フィラー31の平均粒径は、400nm以下である。第1層11に入射した光の少なくとも一部は、第1層11内に分散したフィラーによって散乱される。そのため、サブ波長格子11Gに入射する光には、互いに異なる入射角を有した光が含まれる。これにより、サブ波長格子11Gが含む各格子パターンGPは、その格子パターンGPに入射した光の入射角に応じた正反射の方向に光を反射する。格子パターンGPが反射した光は、フィラー31によって散乱されることなく、または、フィラー31によって散乱された後に、光学素子30の外部に射出される。そのため、第1層11がフィラーを含まない場合と比べて、光学素子30から射出される光の射出角の範囲が広がる。結果として、光学素子30が呈する色を観察者が観察することが可能な観察角度の範囲が広がる。
【0108】
上述したように、フィラー31の平均粒径は、400nm以下であることが好ましい。これにより、ミー散乱が生じることが抑えられるため、第1層11の透明性が少なからず高められる。フィラー31の形状は、球状に限らない。そのため、本実施形態では、各フィラー31において規定することが可能な複数の直径における平均値が、各フィラー31の平均粒径である。ここで、フィラー31などの散乱体の大きさと散乱現状との関係について、以下のことが知られている。散乱体の平均粒径が400nm以上700nm以下の範囲に含まれる場合には、散乱体によってミー散乱が生じる。ミー散乱では、可視域に含まれる光は、光の波長に関わらず同程度に散乱されるため、ミー散乱によって散乱された光は白色を有する光として視認される。なお、ミー散乱では、散乱体の粒径によって光の散乱角度が影響される。ミー散乱では、散乱体の粒径が大きいほど、光の進行方向における前方に対する散乱が強くなる。
【0109】
これに対して、散乱体が光の波長に対して1/10よりも小さい場合には、レイリー散乱が生じる。レイリー散乱では、光が散乱される方向は、散乱体の粒径に依存しない。レイリー散乱では、散乱体の粒径に関わらず、光の進行方向に対して8の字を描くような分布で、光が散乱される。また、レイリー散乱では、光の波長が短いほど、光の散乱が強くなる。
【0110】
本実施形態のように、散乱体であるフィラー31が分散した第1層11に透明性が必要とされる場合には、フィラー31の平均粒径は、少なくとも光の波長以下であり、かつ、フィラー31によってレイリー散乱が生じることが必要である。それゆえに、フィラー31の平均粒径は、400nm以下であることが好ましい。フィラー31の平均粒径をDとし、光の波長をλとするとき、散乱断面積αは以下の式(6)によって算出することができる。
【0111】
α =πD/λ … 式(6)
式(6)を用いることによって、フィラー31によって生じる散乱現象が、レイリー散乱であるか、あるいは、ミー散乱であるかを簡易的に判断することができる。散乱断面積αが0.4以下である場合には、主にレイリー散乱が生じる一方で、散乱断面積αが、0.4よりも大きく、かつ、3未満である場合には、主にミー散乱が生じることが知られている。それゆえに、フィラー31に入射する光が可視域の光であって、光の波長が400nmである場合には、フィラー31の平均粒径が50nm以下であれば、フィラー31によって主にレイリー散乱を生じさせることができる。これにより、第1層11における透明性が高い状態で、第1層11に入射した光をフィラー31によって散乱させることができる。
【0112】
以上説明したように、第3実施形態の光学素子によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(7)第1層11がフィラーを含まない場合と比べて、光学素子30から射出される光の射出角の範囲が広がる。そのため、光学素子30が呈する色を観察者が観察することが可能な観察角度の範囲が広がる。
【0113】
[第4実施形態]
図16および
図17を参照して、光学素子の第4実施形態を説明する。第4実施形態の光学素子は、第1実施形態の光学素子10と比べて、第3層13において、第2層12に接する面とは反対側の面の状態が異なっている。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第3実施形態の光学素子において第1実施形態の光学素子10と対応する構成には同一の符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。また、以下では、第4実施形態における第1実例と第2実例とを順に説明する。
【0114】
[第1実例]
図16が示すように、光学素子40において、第3層13は、熱可塑性を有した接着層である。第3層13は、第3層13の厚さ方向における中央よりも第2層12に接する面とは反対側の面寄りの部分に分散したフィラー41を含んでいる。第3層13において、第2層12に接する面が表面13Fであり、表面13Fとは反対側の面が裏面13Rである。第3層13において、フィラー41は、上述したように、第3層13の厚さ方向における中央よりも裏面13R寄りに位置することが好ましく、裏面13Rの近傍に位置することが好ましい。
【0115】
上述したように、第3層13は、熱可塑性を有した接着層である。第3層13を形成する材料には、熱可塑性を有した接着剤を用いることができる。第3層13が熱可塑性を有した接着層であるため、第3層13が被転写体に接する状態で光学素子40に熱および圧力を加えることにより、光学素子40を被転写体に転写することができる。このとき、第3層13に加えられた熱および圧力によって、第3層13の裏面13Rにフィラー41に起因する凹凸が生じ、これによって、第3層13の表面13Fにも凹凸が生じる。結果として、第1層11および第2層12のなかで、光学素子40の厚さ方向から見て、第3層13に形成された凹凸と重なる部分にも、凹凸が生じる。これにより、第1層11と第2層12との界面において、サブ波長格子11Gに対してフィラー41に起因する凹凸が付加される。被転写体の実例は、紙幣、パスポート、および、IDカードなどとできる。
【0116】
第1層11と第2層12との界面における凹凸は、フィラー41の大きさ、各層11,12,13の厚さ、および、光学素子40を転写するときの熱および圧力の条件によって、調節することができる。
【0117】
サブ波長格子11Gには、フィラー41に起因する凹凸が付加されるため、サブ波長格子11Gを構成する複数の格子パターンGPには、格子パターンGPに対する光の入射角が違いに異なる格子パターンGPが含まれる。そして、各格子パターンGPは、その格子パターンGPにおける光の入射角に応じた射出角で、m次回折光を反射する。各格子パターンがm次回折光を射出する射出角の範囲は、各格子パターンGPに付与された凹凸が有する曲率によって変わる。言い換えれば、観察者がサブ波長格子11Gが呈する色を観察することが可能な観察角度は、各格子パターンGPに付与された凹凸の曲率によって変わる。
【0118】
上述したように、光学素子40が呈する色は、観察角度における2°以上の範囲において保たれることが好ましい。一方で、光学素子40が呈する色を観察することができる観察角度の範囲が広すぎると、各観察角度において光学素子40が射出する光の強度が低くなる。そのため、光学素子40が呈する色を観察することができる観察角度の範囲は、2°以上10°以下であることが好ましく、2°以上5°以下であることがより好ましい。こうした観察角度の範囲に、全ての格子パターンGPが射出するm次回折光の射出角が含まれることが好ましい。
【0119】
そのため、フィラー41に起因する凹凸の曲率は、過度に大きくないことが好ましい。フィラー41に起因する凹凸の曲率が過度に大きくなることを抑える方法として、以下の2つの方法を挙げることができる。第1の方法では、フィラー41を第3層13において一様に分散させ、かつ、凹凸の曲率が過度に大きくならないように、転写における熱および圧力の条件を調節する。第2の方法では、フィラー41として、球状を有するフィラーではなく、扁平な形状を有するフィラーを用い、かつ、第3層13の厚さ方向において、フィラー41の直径が小さくなるように、第3層13にフィラー41を分散させる。
【0120】
[第2実例]
図17が示すように、光学素子40は、第3層13に接する第4層42をさらに備えている。第4層42は、第3層13に接する表面42Fを含んでいる。表面42Fは、凹凸を含んでいる。
【0121】
第4層42の表面42Fにおける凹凸は、種々の方法によって形成することができる。第3層13を被転写体である第4層42に転写するときに、熱および圧力によって変形した第3層13に追従するように、第4層42の表面42Fに凹凸を形成することができる。この場合には、第3層13には、熱可塑性を有した接着層を用いることができる。また、第4層42には、紙や樹脂フィルムを用いることができる。あるいは、第4層42に微粒子や繊維を分散させることによって、第4層42の表面42Fに凹凸を形成することができる。また、第4層42の表面42Fには、第4層42を成膜するときに生じる脱泡やむらによっても凹凸を生じさせることができる。第2実例においても、第1実例と同様、第4層42の表面42Fに起因する凹凸をサブ波長格子11Gに付加することができる。そのため、第2実例の光学素子40によっても、第1実例の光学素子40と同様の効果を得ることができる。
【0122】
なお、第4層42が被転写体であり、かつ、第4層42が微粒子を含む場合には、微粒子の平均粒径が、接着層である第3層13の厚さと同程度であることが好ましい。また、第4層42に対する転写において、熱および圧力の条件を調節することによって、サブ波長格子11Gに付与される凹凸が過度に大きくなることが抑えられる。
【0123】
また、繊維が分散した第4層42として、紙製の第4層42を用いることができる。この場合、第4層42を構成する繊維は、第4層42の表面42Fに平行に並んでいる。パルプ繊維は、直径が20μm以上50μm以下であり、かつ、長さが1mm以上5mm以下程度の大きさを有する。そのため、サブ波長格子11Gに付与される凹凸が過度に大きくなる場合がある。これに対して、セルロースナノファイバーは、直径が4nm以上100nm以下であり、かつ、長さが5μm以上程度の大きさを有する。そのため、サブ波長格子11Gに付与される凹凸が過度に大きくなることが抑えられる。なお、セルロースナノファイバーは、パルプ繊維を分解することによって得られる繊維である。
【0124】
以上説明したように、第4実施形態の光学素子によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(8)フィラー41に起因する凹凸がサブ波長格子11Gに付与されるため、複数の格子パターンGPが、格子パターンGPに対する光の入射角が互いに異なる格子パターンGPを含むことができる。これにより、格子パターンGPにおける射出角も異なるため、サブ波長格子11Gから射出される光が観察される観察角度を広げることができる。
【0125】
(9)第4層42の表面42Fに起因する凹凸がサブ波長格子11Gに付与されるため、複数の格子パターンGPが、格子パターンGPに対する光の入射角度が互いに異なる格子パターンGPを含むことができる。これにより、格子パターンGPにおける射出角も異なるため、サブ波長格子11Gから射出される光が観察される観察角度を広げることができる。
【0126】
[第5実施形態]
図18から
図24を参照して、光学素子の第5実施形態を説明する。第5実施形態の光学素子は、第1実施形態の光学素子と比べて、レリーフ面を備えるレリーフ層を備える点が異なっている。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第5実施形態の光学素子において第1実施形態の光学素子10と対応する構成には、第1実施形態の光学素子10と同じ符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。また以下では、第5実施形態の光学素子における2つの例を順に説明する。
【0127】
[第1実例]
[光学素子の構成]
図18を参照して、第1実例の光学素子における構成を説明する。
【0128】
図18が示すように、光学素子50は、上述した第1実施形態の光学素子10と同様、第1層11と、第1層11に接する第2層12と、第2層12に接する第3層13とを備えている。第1層11は、第2層12に接する裏面11Rの少なくとも一部にサブ波長格子11Gを含む樹脂製の層である。裏面11Rは、第1面の実例である。
図18では、図示の便宜上、裏面11Rの全体にサブ波長格子11Gが位置するような断面形状が示されているが、本実施形態の光学素子50では、裏面11Rの一部にサブ波長格子11Gが形成されている。
【0129】
第2層12は、第1層11の裏面11Rに接する表面12Fが、サブ波長格子11Gに追従した凹凸状である。表面12Fは、第2面の実例である。第2層12は、第1層11の屈折率よりも高い屈折率を有した誘電体製の層である。第3層13は、第2層12よりも屈折率が低い樹脂製の層である。
【0130】
光学素子50は、裏面11Rおよび表面12Fとは異なるレリーフ面13Reを含むレリーフ層を含んでいる。レリーフ面13Reは、複数の反射面を含み、互いに隣り合う反射面間のピッチが、サブ波長格子11Gのピッチよりも大きい。本実施形態では、レリーフ層は、上述した第3層13である。より詳しくは、第3層13のなかで、第2層12に接する面である表面13Fが、レリーフ面13Reである。
【0131】
なお、
図18では、図示の便宜上、表面13Fの全体にレリーフ面13Reが位置しているが、本実施形態の光学素子50では、表面13Fの一部にレリーフ面13Reが位置している。また、レリーフ面13Reは、光学素子50の厚さ方向から見て、表面13Fのなかでサブ波長格子11Gと重なる位置に形成されている。
【0132】
サブ波長格子11Gは、正反射方向を含む反射方向に、サブ波長格子11Gの格子周期に固有の色を呈する有色像を表示する。レリーフ面13Reは、正反射方向とは異なる方向を含む反射方向に白色の反射光による反射像を表示する。光学素子50は、有色像および反射像を表示しない第1状態、有色像を主として表示する第2状態、反射像を主として表示する第3状態、および、有色像および反射像を主として表示する第4状態を有する。光学素子50が広がる平面と、観察者の視線を含む平面とが形成する角度が観察角度である。光学素子50は、観察角度に応じて各状態のいずれかを有する。
【0133】
光学素子50は、さらに第4層51を備えている。第4層51は、反射層であってもよいし、屈折層であってもよい。第4層51が屈折層である場合、第4層51の屈折率は、第3層13の屈折率と異なっている。第4層51の屈折率が、第3層13の屈折率と異なることによって、第4層51は、レリーフ面13Reにおける反射率を高めることができる。互いに隣接する2つの層において、界面における反射率は、2つの層の間における屈折率の差によって決まる。そのため、第4層51の屈折率が第3層13の屈折率とは異なることによって、第4層51が反射層である場合と同様の効果が得られる。
【0134】
上述したように、光学素子50は、第2層12に対して第3層13とは反対側から観察される。そのため、第4層51は、光透過性を有してもよいし、光透過性を有しなくてもよい。第4層51は、単一の層から構成されてもよいし、複数の層から構成されてもよい。第4層51が屈折層であり、かつ、複数の層から構成される場合には、第4層51は、相対的に屈折率の低い層と、相対的に屈折率の高い層とを備えることができる。
【0135】
レリーフ面13Reは、上述したように複数の反射面を含んでいる。レリーフ面13Reは、散乱および反射の少なくとも一方によって、白色光によって形成される反射像を表示する。レリーフ面13Reは、上述したように複数の反射面を含み、複数の反射面は、レリーフ面13Re内において所定の規則で並んでもよいし、不規則に並んでもよい。レリーフ面13Reでは、各反射面の向きや角度によって、レリーフ面13Reが射出する光の射出方向を制御することができる。
【0136】
サブ波長格子11Gは、上述した正反射方向を含む射出方向の範囲に光を射出する。サブ波長格子11Gが射出する光のなかで、正反射方向に射出される光の強度が最も大きい。これに対して、レリーフ面13Reは、正反射方向とは異なる方向を含む射出方向の範囲に光を射出する。レリーフ面13Reが射出する光のなかで、正反射方向とは異なる方向に射出される光の強度が最も大きい。言い換えれば、レリーフ面13Reでは、レリーフ面13Reが射出する光のなかで、正反射方向とは異なる方向に射出される光の強度が最も大きくなるように、反射面の向きや角度が設定されている。
【0137】
レリーフ面13Reにおいて、反射面の周期は400nmよりも大きく1000nm以下であってもよいし、1000nmよりも大きくてもよい。レリーフ面13Reが回折光を射出することを抑える上では、反射面の周期は1000nmよりも大きいことが好ましい。レリーフ面13Reにおいて、反射面が延びる方向と直交する断面における形状は、鋸歯状でもよい。
【0138】
サブ波長格子11Gが表示する有色像とは、可視光の波長に含まれる特定の波長の光によって形成される像である。有色像には、実例として、赤色の像、緑色の像、および、青色の像などの有彩色の像が含まれる。サブ波長格子11Gが赤色の像を表示する場合、サブ波長格子11Gが射出する光には、実例として、620nm以上750nm以下の波長の光が含まれる。サブ波長格子11Gが緑色の像を表示する場合、サブ波長格子11Gが射出する光には、実例として、495nm以上570nm以下の波長の光が含まれる。サブ波長格子11Gが青色の像を表示する場合、サブ波長格子11Gが射出する光には、実例として、450nm以上495nm以下の波長の光が含まれる。なお、サブ波長格子11Gが有色像を表示するとは、サブ波長格子11Gが、有彩色を呈することと同義である。
【0139】
レリーフ面13Reが表示する反射像とは、レリーフ面13Reでの反射あるいは散乱によって生じる白色光によって形成される像である。言い換えれば、レリーフ面13Reが表示する反射像は無彩色の像であり、色相を有しない像である。レリーフ面13Reは、各位置から射出される白色光の強度が互いに異なるように構成されてもよい。これにより、レリーフ面13Reは、白色光の強度の差によって、言い換えれば明度の差によって、特定の画像を表示することができる。なお、レリーフ面13Reが反射像を表示するとは、レリーフ面13Reが、無彩色を呈することと同義である。
【0140】
[光学素子の作用]
図19から
図23を参照して、光学素子50の作用を説明する。
図19が示すように、光源LSが放出した入射光ILが光学素子50に入射する角度が入射角αであり、光学素子50が射出する射出光ELが射出される角度が射出角βである。観察者OBの視線方向を含む平面と、光学素子50が広がる平面とが形成する角度が、観察角度θOBである。上述した正反射方向とは、入射角αと同一の大きさを有した射出角βで、射出光ELが射出される方向である。光学素子50において、サブ波長格子11Gは、正反射方向を含む反射方向に有色像を表示する一方で、レリーフ面13Reは、正反射方向とは異なる方向を含む反射方向に白色光による反射像を表示する。光学素子50は、観察角度θOBに応じて、以下の4つの状態のいずれかを有する。
【0141】
なお、本実施形態では、サブ波長格子11Gが表示する有色像が月形状を有し、レリーフ面13Reが表示する反射像が星形状を有する実例を説明する。ただし、サブ波長格子11Gが表示する有色像の形状、および、レリーフ面13Reが表示する反射像の形状は、任意の形状とすることが可能である。また、サブ波長格子11Gが表示する像が第1像であり、レリーフ面13Reが表示する像が第2像である。
【0142】
図20は、光学素子50の第1状態を示している。
図20が示すように、光学素子50の第1状態では、光学素子50において、第1像P1および第2像P2の両方が消失する。第1状態において、第1像P1を形成するための光における輝度、および、第2像P2を形成するための光における輝度が、観察者OBによって第1像P1および第2像P2が識別されない程度に低い。言い換えれば、観察者OBが光学素子50を観察する観察角度θOBでは、サブ波長格子11Gが反射した光、および、レリーフ面13Reが反射した光の輝度は、いずれも光学素子50が貼られた媒体の反射光と比べて低いため、観察者OBによって第1像P1および第2像P2が識別されない。
【0143】
図21は、光学素子50の第2状態を示している。
図21が示すように、光学素子50の第2状態では、光学素子50において、第1像P1が出現し、第2像P2は消失する。第1像P1が出現するとは、第1像P1における光の輝度が、第2像P2における光の輝度よりも高い状態で、光学素子50が、第1像P1を表示することである。そのため、第2状態には、第1像P1が識別される一方で、第2像P2は識別されない状態が含まれる。また、第2状態には、光学素子50において第1像P1および第2像P2が出現し、かつ、第1像P1における光の輝度が、第2像P2における光の輝度よりも高い状態が含まれる。
【0144】
言い換えれば、観察者OBが光学素子50を観察する観察角度θOBでは、サブ波長格子11Gが反射した光を観察者が知覚しやすい一方で、レリーフ面13Reが反射した光を観察者が知覚しにくい。
【0145】
図22は、光学素子50の第3状態を示している。
図22が示すように、光学素子50の第3状態では、光学素子50において、第2像P2が出現する。第2像P2が出現するとは、第2像P2における光の輝度が、第1像P1における光の輝度よりも高く、光学素子50が、少なくとも第2像P2を表示することである。そのため、第3状態には、第2像P2が識別される一方で、第1像P1が識別されない状態が含まれる。また、第3状態には、光学素子50が第2像P2および第1像P1を表示し、かつ、第2像P2における光の輝度が、第1像P1における光の輝度よりも高い状態が含まれる。
【0146】
言い換えれば、観察者OBが光学素子50を観察する観察角度θOBでは、レリーフ面13Reが反射した光の輝度は観察者が像を識別できる程度であり、サブ波長格子11Gが反射した光の輝度は観察者が識別できる程度ではない。
【0147】
図23は、光学素子50の第4状態を示している。
図23が示すように、光学素子50の第4状態では、光学素子50において、第1像P1および第2像P2の両方が出現する。第1像P1および第2像P2の両方が出現するとは、光学素子50が第1像P1および第2像P2の両方が観察者に識別される。この状態では、第1像P1における光の輝度が、第2像P2における光の輝度とほぼ等しくてもよい。言い換えれば、観察者OBが光学素子50を観察する観察角度θOBでは、サブ波長格子11Gが反射した光と、レリーフ面13Reが反射した光の強度は、観察者OBが識別できる程度である。なお、光学素子50は第1状態から第3状態を有していればよい。光学素子50において、第4状態は必須ではない。
【0148】
このように、光学素子50は、白色の反射光によって形成される反射像、すなわち無彩色の像と、特定の波長を有した光によって形成される有色像、すなわち有彩色の像とを表示する。ここで、無彩色の像と有彩色の像との判別は、無彩色の第1像と無彩色の第2像とを判別したり、有彩色の第1像と有彩色の第2像とを判別したりする場合に比べて、2つの像の判別に個人差が生じにくい。それゆえに、光学素子50では、2つの有彩色の像、または、2つの無彩色の像に基づいて、光学素子50の真贋を判定させる場合と比べて、真贋の判定に個人差が生じにくく、また、真贋を判定する基準が明文化されやすい。
【0149】
また、光学素子50は、第1像P1が主として表示される第2状態と、第2像P2が主として表示される第3状態と、第1像P1と第2像P2との両方が表示されない第1状態とを含む。ここで、第2状態あるいは第3状態と第1状態とは、互いに対照的な状態であるため、第2状態あるいは第3状態と第1状態との判別に個人差が生じにくい。それゆえに、真贋の判定に個人差が生じにくく、また、真贋を判定する基準が明文化されやすい。
【0150】
[第2実例]
図24を参照して、光学素子50の第2実例を説明する。
図24が示すように、第2実例の光学素子50は、第1実例の光学素子50と同様、第1層11、第2層12、および、第3層13を備えている。一方で、第2実例の光学素子50では、第2層12がレリーフ層である。第2層12は、第2層12の表面12Fとは反対側の面、すなわち裏面12Rとしてレリーフ面12Reを含んでいる。なお、
図24では、裏面12Rの全体にレリーフ面12Reが位置しているが、レリーフ面12Reは、裏面12Rの全体に位置してもよいし、裏面12Rの一部のみに位置してもよい。
【0151】
第2実例の光学素子50では、第1層11の屈折率と第2層12の屈折率との差によって、サブ波長格子11Gにより反射された光による有色像を表示することができる。また、第2実例の光学素子50では、第2層12の屈折率と第3層13の屈折率との差によって、レリーフ面12Reにより反射された光による反射像を表示することができる。
【0152】
なお、第2実例の光学素子50において、第3層13における第2層12に接する面とは反対側の面は平坦面であってもよいし、第2層12のレリーフ面12Reにおける凹凸に追従する形状を有してもよい。
【0153】
以上説明したように、光学素子の第5実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(10)光学素子50が有色像と、白色光による反射像とを表示するため、2つの像の判別に個人差が生じにくい。それゆえに、光学素子50では、真贋の判定に個人差が生じにくく、また、真贋を判定する基準が明文化されやすい。
【0154】
(11)第2層12がサブ波長格子11Gとレリーフ面12Reとを含むため、第1層11の屈折率と第2層12との屈折率との差によりサブ波長格子11Gでの反射率を高め、かつ、第2層12の屈折率と第3層13の屈折率との差によりレリーフ面12Reでの反射率を高めることができる。
【0155】
[第5実施形態の変形]
なお、上述した第5実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[サブ波長格子]
・第1実施形態の光学素子10において、サブ波長格子11Gは、第1領域11S1と第2領域11S2とを含むが、光学素子50が備えるサブ波長格子11Gは、1つの領域のみから構成されてもよい。
【0156】
[レリーフ層]
・光学素子50において、第1層11がレリーフ層であってもよい。すなわち、第1層11のなかで、サブ波長格子11Gを含む面とは反対側の面が、レリーフ面を含んでもよい。こうした場合にも、上述した(10)に準じた効果を得ることができる。
【0157】
・第2実例の光学素子50において、第3層13のなかでレリーフ面12Reに接する面である表面は、レリーフ面12Reに追従する形状を有している。そのため、第3層13の表面もレリーフ面として機能することができる。
【0158】
[レリーフ面]
・
図25が示すように、光学素子50において、第1層11の裏面11Rが、サブ波長格子11Gとレリーフ面11Reとを含んでもよい。この場合には、サブ波長格子11Gとレリーフ面11Reとを1つの原板を用いて同時に形成することが可能であるため、サブ波長格子11Gの位置に対するレリーフ面11Reの位置の精度を高めることができる。
【0159】
・
図25が示すように、サブ波長格子11Gとレリーフ面11Reとが同一面に位置し、かつ、第1層11の裏面11Rと対向する方向から見て、第1像P1が表示される領域の一部と第2像P2が表示される領域の一部とを重ねることができる。この場合には、各領域の一部が重なる領域において、サブ波長格子11Gが位置する画素領域Pxであるサブ画素領域と、レリーフ面11Reが位置するレリーフ画素領域とを以下のように配置することができる。実例として、サブ画素領域とレリーフ画素領域との配置は、市松状、ストライブ状、ハニカム状、および、同心円状などであってよい。
【0160】
なお、第1層11の裏面11Rと対向する方向から見て、第1像P1が表示される領域の一部と第2像P2が表示される領域の一部とを重ねる場合には、以下のようにサブ画素領域とレリーフ画素領域とを配置することも可能である。すなわち、第1像P1を表示するための領域において、第1像P1が表示される領域の一部と第2像P2が表示される領域の一部とが重なる領域から、第1像P1の外縁に向かう方向に沿って、サブ画素領域が占める割合を大きくすることができる。また、第2像P2を表示するための領域において、第1像P1が表示される領域の一部と第2像P2が表示される領域の一部とが重なる領域から、第2像P2の外縁に向かう方向に沿って、レリーフ画素領域が占める割合を大きくすることができる。これにより、第1像P1が表示される領域の一部と第2像P2が表示される領域の一部とが重なる領域において、サブ画素領域およびレリーフ画素領域の各々が占める割合が他の領域に比べて小さいことによる輝度の低下が、第1像P1および第2像P2の各々におけるデザインとして把握される。
【0161】
・レリーフ面を備える層は、以下に説明する量子化位相差構造を備え、当該構造により白色光によって形成される反射層を表示してもよい。
図26から
図28を参照して、レリーフ面を備える層の構造を説明する。
【0162】
図26は、レリーフ面と対向する平面視における構造を示している。
図26が示すように、量子化位相差構造52において、サイズが一定である複数の量子化凸部52aと、サイズが一定である複数の量子化凹部52bとが整列している。
図26において、明るい部分が量子化凸部52aであり、暗い部分が量子化凹部52bである。量子化凸部52aと量子化凹部52bとは、一定の間隔で配置されている。量子化凸部52aには、量子化凹部52bまたは量子化凸部52aが一定の間隔で隣接している。また、量子化凹部52bには、量子化凸部52aまたは量子化凹部52bが一定の間隔で隣接している。実例として、量子化位相差構造52の量子化凸部52aと量子化凹部52bは、一つずつ交互に配置されたり、複数の量子化凸部52aと複数の量子化凹部52bとが交互に配置されたりする。
【0163】
量子化位相差構造52において、量子化凸部52aおよび量子化凹部52bの配列により、レリーフ面上に粗い周期の空間周波数成分と細かい周期の空間周波数成分とが重ね合わせられる。レリーフ面は、量子化位相差構造52を内包したセルとすることができる。レリーフ面の量子化位相差構造52において、量子化凸部52aが一方向に整列されたリブ状凸部と、要素構造としてサイズが一定の凹部である量子化凹部がリブ状凸部と並行して整列された溝状凹部とが、互いに隣接し、かつ、交互に配置されてよい。
【0164】
量子化凸部52aのサイズは、可視波長における中心波長の1/20以上、かつ、中心波長の半分以下とできる。量子化凹部52bのサイズは、可視波長における中心波長の1/20以上、かつ、中心波長の半分以下とできる。具体的には、量子化凸部52aのサイズは、25nm以上250nm以下とできる。量子化凹部52bのサイズは、25nm以上250nm以下とできる。量子化凸部52aは、レリーフ面と対向する平面視において、正方形とできる。
【0165】
量子化凹部52bは、レリーフ面と対向する平面視において、正方形とできる。レリーフ面と対向する平面視において、量子化凸部52aの角は、丸くできる。レリーフ面と対向する平面視において、量子化凹部52bの角は、丸くできる。
【0166】
量子化凸部52aおよび量子化凹部52bは、仮想グリットに整列してもよい。また、量子化凸部52aの高さは、基準高さと同じ高さ、または、基準高さの整数倍とできる。量子化凹部52bの深さは、基準深さと同じ深さ、または、基準深さの整数倍とできる。基準高さと基準深さは、同じ値であってよい。基準高さと基準深さとが同じ値である場合には、整数倍の値は、1倍以上4倍以下とできる。また、整数倍は、1倍以上8倍以下としてもよい。基準高さおよび基準深さは、10nm以上500nm以下とできる。
【0167】
図27は、
図26が示す1方向Dに沿って計算された空間周波数成分のピークを示している。レリーフ面内において予め決定された1方向Dに沿って空間周波数成分を計算する。レリーフ面によって再現されるホログラムの再生像が、5点の再生点群である場合には、再生点に対応する空間周波数成分F1からF5において、離散的な5点のピークが認められる。なお、
図27における横軸は空間周波数(1/mm)であり、縦軸は空間周波数成分の強度である。
【0168】
離散的な空間周波数成分が疎な場合、再生像は虹色の像であり、密な場合は白色像である。また、空間周波数成分の分布の粗密を調整することにより、ある観察角度における再生像が虹色の像であり、それ以外の観察角度における再生像が白色であることも可能である。
【0169】
図28は、量子化位相差構造52を模式的に示す断面図である。なお、
図28では、量子化位相差構造52が形成するレリーフ面を上面として示している。
量子化位相差構造52を備える層は、略平坦な形状を有する。量子化位相差構造52は、層において互いに対向する面における一方の面に位置している。量子化位相差構造52において、量子化凸部52aの頂面52cから量子化凹部52bの底面52dまでの長さLは、レリーフ面における位置によらず一定である。量子化凸部52aの頂面52cおよび量子化凹部52bの底面52dは、光学素子50が形成される際のキャリアが有する表面に対して略平行であってよい。こうした量子化位相差構造52を備える層では、長さLに応じて、量子化位相差構造52の反射光における色が変わる。また、量子化位相差構造52の凹凸方向、すなわち
図28における上下方向は、量子化凸部52aの頂面52cと量子化凹部52bの底面52dとによって形成されるリブ状凹部と溝状凹部の延在方向に対して垂直である。こうした構造によって、反射光の射出分布をブロードとし、かつ、光の色味を崩さずに、反射光の射出分布および反射光の色を制御することが可能である。なお、量子化位相差構造52では、量子化凸部52aの頂面52cおよび量子化凹部52bの底面52dの各々が、反射面として機能する。
【0170】
量子化凸部52aおよび量子化凹部52bは、レリーフ面と対向する平面視において、単位長さに対して整数倍の横幅と、単位長さに対して整数倍の縦幅を有する。単位長さは、可視波長における中心波長の1/20以上、かつ、中心波長の半分以下であってよい。単位長さは、25nm以上250nm以下であってよい。
【0171】
なお、量子化位相差構造52は、量子化位相差構造52を備える層において、互いに対向する一対の面の両方に位置してもよい。レリーフ面は、位相角記録領域を含む。位相角記録領域には、上述した量子化位相差構造52が形成される。
【0172】
光学素子50は、量子化位相差構造52上に、反射層を備えていてもよい。反射層は、透光性であってもよいし、隠蔽性であってもよい。反射層は、金属材料から形成されてもよい。金属材料は、Al、Ag、Sn、Cr、Ni、Cu、Au、および、これらの合金などとすることができる。金属材料から形成される反射層は、隠蔽性の反射層とできる。
【0173】
あるいは、反射層は、レリーフ構造形成層とは屈折率が異なる誘電体層としてもよい。あるいは、反射層は、互いに隣り合う層同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜としてもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ面と接触している層の屈折率は、レリーフ面を含む層の屈折率とは異なることが望ましい。
【0174】
誘電体層は、金属化合物、または、酸化ケイ素とであってよい。金属化合物は、金属酸化物、金属硫化物、および、フッ化金属などであってよい。誘電体層の形成材料は、TiO2、ZnO、Si2O3、SiO、Fe2O3、ZnS、CaF、および、MgFなどであってよい。誘電体層の反射層は、透光性とできる。
【0175】
反射層は、気相堆積法により形成することができる。気相堆積法としては、真空蒸着法およびスパッタリング法などを適用することができる。反射層の厚さは、10nm以上1000nm以下とすることができる。
【0176】
反射層は、インキを用いて形成されてもよい。反射層を形成するインキは、印刷方式に応じて、オフセットインキ、活版インキ、および、グラビアインキなどであってよい。また、反射層を形成するインキは、組成の違いに応じて、樹脂インキ、油性インキ、および、水性インキなどであってよい。また、反射層を形成するインキは、乾燥方式の違いに応じて、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、および、紫外線硬化型インキであってよい。
【0177】
また、反射層を形成するインキは、照明角度、または、観察角度に応じて色が変化する機能性インキであってもよい。機能性は、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキ、および、パールインキであってよい。
【0178】
[第1像および第2像]
・レリーフ面が表示する第2像が観察される観察角度の範囲は、サブ波長格子11Gが表示する第1像が観察される観察角度の範囲よりも大きくてもよい。この場合には、第1像が観察される観察角度の範囲の大きさと、第2像が観察される角度の範囲の大きさとが同じである場合に比べて、光学素子50を傾けたときにおいて光学素子50が表示する像の変化における画一性が乱される。これにより、光学素子50が表示する像が、観察者の目をより引きやすくなる。すなわち、光学素子50が表示する像による誘目性が高まる。
【0179】
・サブ波長格子11Gが表示する第1像と、レリーフ面が表示する第2像とは、互いに相関性を有してもよい。これにより、第1像と第2像とが互いに相関性を有しない場合に比べて、光学素子50を観察した観察者に第1像と第2像との相関性を気付かせることによって、観察者の注意を引くことが可能である。以下、
図29から
図31を参照して、第1像と第2像とが相関性を有する場合の第1像および第2像の実例をより詳しく説明する。なお、
図29から
図31では、説明の便宜上、第1像と第2像との両方が表示された状態が示されている。
【0180】
図29が示すように、第1像P1および第2像P2の第1実例では、第2像P2が第1像P1よりも外側に位置し、かつ、第1像P1の輪郭に沿う形状を有している。第1実例によれば、第1像P1の輪郭を第1像P1とは対照的な色彩を有した第2像P2によって縁取っているため、第1像P1の輪郭を際立たせることが可能である。これにより、第1像P1および第2像P2の誘目性を高めることができる。
【0181】
なお、第2像P2を形成するレリーフ面が、複数の画素領域Pxを含み、かつ、各画素領域Pxが、1つの方向に沿って延びる複数の反射面を備える場合には、レリーフ面は以下の構造であってもよい。すなわち、複数の画素領域Pxにおいて、反射面の方位角が、第1像P1の輪郭から第2像P2の輪郭に向かう方向に沿って変化してもよい。これにより、反射面の方位角に応じて、第2像P2内において輝度の濃淡を生じさせることが可能である。これにより、第1像P1および第2像P2による意匠性、および、誘目性を高めることができる。
【0182】
図30が示すように、第1像P1および第2像P2の第2実例では、第1像P1および第2像P2のうちの一方が、所定の記号または所定の物体の形状を有し、第1像P1および第2像P2のうちの他方が、当該形状を表す文字である。
図30が示す実例では、第1像P1が記号であるユーロ(EURO)の形状を有し、かつ、第2像P2が、形状を表す文字である。なお、第2像P2が所定の記号または所定の物体の形状を有する一方で、第1像P1が、当該形状を表す文字であってもよい。
【0183】
これにより、同一の意味を有した第1像P1と第2像P2とが、観察角度によって表示されたり表示されなかったりする。そのため、第1像P1および第2像P2が意味する内容の認知度、および、第1像P1および第2像P2の誘目性を高めることが可能である。
【0184】
図31が示すように、第1像P1および第2像P2の第3実例では、第1像P1が、第2像P2とともに一組の物体を形成する形状を有している。
図31が示す実例では、第1像P1および第2像P2の各々が、一組の足を形成する形状を有している。第1像P1が左足の形状を有し、第2像P2が右足の形状を有している。これにより、第1像P1および第2像P2の誘目性を高めることが可能である。なお、第1像P1および第2像P2は、互いに一組の物体を形成する形状を有していればよく、実例として、一組の手を形成する形状を有してもよい。
【0185】
なお、第1像P1および第2像P2は、互いに異なる物体の形状を有し、かつ、第1像P1および第2像P2の各々によって補完される1つの像を形成してもよい。すなわち、第1像P1および第2像P2は、1つのだまし絵を形成してもよい。これによっても、第1像P1および第2像P2の誘目性を高めることができる。
【0186】
[第6実施形態]
図32から
図35を参照して、光学素子の第6実施形態を説明する。第6実施形態の光学素子は、第5実施形態の光学素子50と比べて、第1層11、第2層12、および、第3層13以外の層がレリーフ層である点が異なる。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、第6実施形態の光学素子において、第5実施形態の光学素子50と対応する構成には、第5実施形態と同じ符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。また以下では、第6実施形態の光学素子として4つの実例を順に説明する。
【0187】
[第1実例]
図32を参照して、第1実例の光学素子を説明する。
図32が示すように、光学素子60は、第1層11、第2層12、および、第3層13を備えている。光学素子60は、レリーフ面61Reを含むレリーフ層61をさらに備えている。レリーフ面61Reは、上述した裏面11Rおよび表面12Fとは異なる面である。レリーフ面61Reは複数の反射面を含み、互いに隣り合う反射面間のピッチが、サブ波長格子11Gのピッチよりも大きい。レリーフ面61Reは、レリーフ層61の裏面61Rに含まれる。
【0188】
光学素子60は、反射層62と、接着層63とをさらに備えている。反射層62は、レリーフ面61Reに接し、かつ、レリーフ面61Reの凹凸に追従する形状を有している。接着層63は、反射層62に対してレリーフ層61とは反対側において反射層62に接している。光学素子60において、第3層13が接着層として機能している。これにより、第1層11および第2層12から構成される多層体が、第3層13によってレリーフ層61に貼り付けられている。そのため、光学素子60では、光学素子60の厚さ方向から見て、サブ波長格子11Gとレリーフ面61Reとが重なっている。
【0189】
接着層63は、反射層62においてレリーフ層61に接する面とは反対側の面の全体に位置してもよいし、一部に位置してもよい。
第1実例の光学素子60によれば、第1層11、第2層12、および、第3層13から構成される第1多層体と、レリーフ層61、反射層62、および、接着層63から構成される第2多層体とを個別に製造することができる。また、第1実例の光学素子60によれば、接着層63を用いて光学素子60を被接着体に貼り付けることができる。
【0190】
[第2実例]
図33を参照して、第2実例の光学素子を説明する。
図33が示すように、光学素子60は、上述した第1実例の光学素子60と同様、第1層11、第2層12、および、第3層13に加えて、レリーフ層61、反射層62、および、接着層63を備えている。第2実例の光学素子60は、さらに、第3層13とレリーフ層61との間に基材64を備えている。基材64において互いに隣り合う一対の面では、第3層13が一方の面に位置し、レリーフ層61が他方の面に位置している。基材64は光透過性を有している。基材64は、光学素子60の製造時に、基材64に対して形成される第1層11およびレリーフ層61の支持層として機能することができる。第2実例の光学素子60は、レリーフ層61に対して基材64側から観察される。
【0191】
[第3実例]
図34を参照して、第3実例の光学素子を説明する。
図34が示すように、光学素子60では、上述した第1実例の光学素子60と同様、第1層11、第2層12、および、第3層13に加えて、レリーフ層61、反射層62、および、接着層63を備えている。第3実例の光学素子60は、さらに、第1基材65と第2基材66とを備えている。第1基材65は、第3層13とレリーフ層61との間に位置している。第3層13は接着層として機能し、これにより、第1層11および第2層12から構成される多層体が第3層13によって第1基材65に接着されている。接着層63は、第2基材66に接着されている。第1基材65は、光透過性を有する。一方で、第2基材66は、光透過性を有してもよいし、光透過性を有しなくてもよい。
【0192】
第1層11、第2層12、および、第3層13から構成される第1多層体は、サブ波長格子11Gと対向する平面視において、第1基材65の一部に位置している。レリーフ層61、反射層62、および、接着層63を備える第2多層体は、レリーフ面61Reと対向する平面視において、第2基材66の一部に位置している。光学素子60の厚さ方向から見て、第1層11はレリーフ層61に重なっている。
【0193】
[第4実例]
図35を参照して、第4実例の光学素子を説明する。
図35が示すように、光学素子60は、第1実例の光学素子60と同様、第1層11、第2層12、および、第3層13に加えて、レリーフ層61、反射層62、および、接着層63を備えている。光学素子60は、さらに、第1基材65、および、第2基材66を備えている。第3層13は接着層として機能し、第3層13はレリーフ層61に接着している。接着層63は、第2基材66に接着している。
【0194】
上述した第1多層体は、サブ波長格子11Gと対応する平面視において、第1基材65の一部に位置している。第2多層体は、レリーフ面61Reと対向する平面視において、第2基材66の一部に位置している。光学素子60の厚さ方向から見て、第1層11はレリーフ層61に重なっている。
【0195】
光学素子60は、接着層63に対して反射層62側から観察される。そのため、第1基材65は、光透過性を有する。一方で、第2基材66は、光透過性を有してもよいし、光透過性を有しなくてもよい。
【0196】
なお、光学素子60の第1実例から第3実例において、各基材には、紙およびプラスチックフィルムなどを用いることができる。各基材には印刷が施されていてもよい。または、各基材は多層体であり、基材を構成する複数の層において、少なくとも一部の層に印刷が施されてもよい。
【0197】
以上説明したように、第6実施形態の光学素子によれば、上述した(10)に加えて、以下に記載の効果を得ることができる。
(12)第1層11、第2層12、および、第3層13以外の層がレリーフ面を備えるレリーフ層であるため、レリーフ層における設計の自由度が高まる。
【0198】
[第6実施形態の変形]
なお、上述した第6実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
【0199】
[基材]
・第1実例から第3実例の光学素子60において、サブ波長格子11Gと対向する平面視において、各基材は、第1多層体および第2多層体の少なくとも一方よりも小さくてもよい。
【0200】
・第1層11を含む第1多層体、および、レリーフ層61を含む第2多層体は、2つの基材の間に内包されてもよい。言い換えれば、第1多層体および第2多層体の各々は、2つの基材によって挟まれた状態で、ラミネートされてもよい。
【0201】
・各基材は、レーザー光線の照射によって発色するレーザー発色層であってもよい。そして、第1実例における基材64は、レーザー光線の照射によって基材64に記憶された情報を含んでもよい。
【0202】
また、第2実例の光学素子60において、第1基材65および第2基材66の少なくとも一方が、レーザー光線の照射によって記憶された情報を含むことができる。第1基材65が情報を含む場合には、光学素子60の厚さ方向から見て、レリーフ面61Reが表示する第2像と、第1基材65が含む情報とを重ねることによって、第2像の一部のみが視認される。これにより、光学素子60において、偽造に対する耐性が高まる。これに対して、第2基材66が情報を含む場合には、光学素子60の厚さ方向から見て、サブ波長格子11Gが表示する第1像の全体と、レリーフ面が表示する第2像の全体とが視認される。
【0203】
第3実例の光学素子60において、第1基材65が情報を含む場合には、光学素子60の厚さ方向から見て、サブ波長格子11Gが表示する第1像、および、レリーフ面61Reが表示する第2像と、第1基材65が含む情報とを重ねることによって、第1像の一部、および、第2像の一部のみが視認される。これにより、光学素子60において、偽造に対する耐性が高まる。これに対して、第2基材66が情報を含む場合には、光学素子60の厚さ方向から見て、サブ波長格子11Gが表示する第1像の全体と、レリーフ面が表示する第2像の全体とが視認される。
【0204】
[第7実施形態]
図36を参照して、光学素子を備える転写箔を説明する。第7実施形態では、転写箔が備える光学素子が、第5実施形態の光学素子50における第1実例である場合を、転写箔の一形態として説明する。
【0205】
図36が示すように、転写箔70は、光学素子50と、光学素子50を被転写体に接着させるための接着層71と、を含む接着体を備えている。転写箔70は、さらに、支持層72と剥離層73とを備えている。転写箔70において、支持層72、剥離層73、光学素子50、および、接着層71が、記載の順に積み重なっている。被転写体に転写された後の光学素子50は、剥離層73に対して光学素子50とは反対側から観察される。そのため、剥離層73は光透過性を有する。一方で、光学素子50が転写されるとき、剥離層73は支持層72から剥離されるため、支持層72は光透過性を有してもよいし、光透過性を有しなくてもよい。
【0206】
転写箔70は、サブ波長格子11Gとレリーフ面13Reとを含む。そのため、被転写体には、転写箔70の一部を転写するのみによって、第1像P1と第2像P2とを表示する光学素子50を転写することができる。光学素子50の転写には、ホットスタンプ方式を用いることができる。
【0207】
[第7実施形態の変形]
[転写箔]
・サブ波長格子11Gを含む第1転写箔と、レリーフ面13Reを含む第2転写箔とを準備し、2つの転写箔を用いて光学素子を形成することが可能である。この場合には、光学素子の厚さ方向から見て、第1転写箔が含むサブ波長格子11Gと、第2転写箔が含むレリーフ面13Reとが重なるように、被転写体に対して第1転写箔の一部と第2転写箔の一部とを転写すればよい。この場合には、光学素子を形成するときに、第1転写箔の一部が転写される位置と、第2転写箔の一部が転写される位置との位置合わせが必要である。そのため、光学素子において、偽造に対する耐性が高められる。
【0208】
[光学素子]
・転写箔は、上述した光学素子50に代えて、第1実施形態の光学素子10、第2実施形態の光学素子20、第3実施形態の光学素子30、および、第4実施形態の光学素子40を含んでもよい。また、転写箔は、上述した光学素子50に代えて、第5実施形態における第2実例の光学素子50、第6実施形態における第1実例および第2実例の光学素子60を含んでもよい。
【0209】
[第8実施形態]
図37および
図38を参照して、第8実施形態の認証体を説明する。以下では、認証体の実例として、IDカードを説明する。なお、IDカードは、第6実施形態の光学素子60における第3実例をIDカードの一部として含んでいる。
【0210】
[IDカードの構成]
図37が示すように、IDカード80は、IDカード80の表面80Fと対向する平面視において、2次元的に広がる板状を有している。IDカード80は、表面80Fを介して、第1画像81、第2画像82、および、第3画像83を表示する。また、IDカード80は、表面80Fを介して第1像P1および第2像P2を表示する。
【0211】
本実施形態では、第1画像81は、顔画像81aと背景画像81bとを含んでいる。顔画像81aは、IDカード80の所有者の顔を示す画像である。背景画像81bは、顔画像81aを内部に含み、顔画像81aの背景を構成している。第2画像82は、IDカード80の所有者に関する情報を含んでいる。第2画像82は、文字および数字によって表現される情報を含んでいる。第3画像83は、IDカード80に関する情報を含んでいる。第3画像83が含む情報は、IDカード80の名称である。なお、IDカード80は、表面80Fを介して第1像P1および第2像P2を表示することが可能であればよい。上述した画像は、IDカード80が表示することが可能な画像の実例である。
【0212】
図38は、
図37におけるIV‐IV線に沿うIDカード80の断面構造を示している。
図38が示すように、認証体の実例であるIDカード80は、光学素子60を備えている。IDカード80が備える光学素子60では、第1層11、第2層12、および、第3層13を備える第1多層体が、剥離層68をさらに備えている。剥離層68は、第1層11を覆っている。レリーフ層61、反射層62、および、接着層63を備える第2多層体は、剥離層69をさらに備えている。剥離層69は、レリーフ層61を覆っている。光学素子60において、第2多層体は、第1基材65によって覆われている。
【0213】
第2基材66の全体が、レーザー光線の照射前において、レーザー光線の照射によって発色する特性を有している。IDカード80が備える第2基材66は、レーザー光線の照射によって発色した部分である第1発色部66aと、第2発色部66bとを含んでいる。第1発色部66aは、顔画像81aを表示する部分であり、第2発色部66bは、第2画像82を表示する部分である。
【0214】
IDカード80は、白色層91、下部保護層92、および、上部保護層93を備えている。白色層91は、白色に着色された層であり、第2基材66に接している。白色層91のなかで、第2基材66に接する面の一部には、印刷94が施されている。IDカード80の厚さ方向から見て、印刷94は、第1発色部66aと重なる領域に位置している。印刷94は、背景画像81bを表示する。
【0215】
下部保護層92は、白色層91のなかで、第2基材66に接する面とは反対側の面に位置している。上部保護層93は、第1基材65を覆い、かつ、第1基材65との間に第1多層体を内包している。上部保護層93は、光透過性を有している。一方で、下部保護層92は、光透過性を有してもよいし、光透過性を有しなくてもよい。
【0216】
[第8実施形態の変形]
[認証体]
・認証体は、IDカードに限らず、パスポートなどの所有者を認証するために用いられる他の認証体として具体化されてもよい。
【0217】
[光学素子]
・認証体は、上述した光学素子60に代えて、第1実施形態の光学素子10、第2実施形態の光学素子20、第3実施形態の光学素子30、第4実施形態の光学素子40、および、第5実施形態の光学素子50を含んでもよい。また、認証体は、上述した光学素子60に代えて、第6実施形態の第1実例、第2実例、および、第4実例における光学素子60を備えてもよい。
【0218】
[第9実施形態]
図39から
図46を参照して、第9実施形態の認証体を説明する。以下では、認証体の実例としてIDカードの他の実例を説明する。
【0219】
[IDカードの構成]
図39を参照して、IDカードの構成を説明する。IDカードの実例として、第1実施形態の光学素子10を備えるIDカードについて説明するが、IDカードは、第1実施形態の光学素子10に限らず、第2実施形態から第6実施形態の各々における光学素子を備えてもよい。
【0220】
IDカード100は、第1層11、第2層12、および、第3層13に加えて、表示層101をさらに備えている。表示層101は、所定の情報を表示することができる。表示層101は、文字、数字、図形、および、QRコード(登録商標)などで所定の情報を表示することができる。IDカード100は、第1層11において第2層12に接する面とは反対側の面として、表面100Fを含んでいる。
【0221】
表示層101は、第3層13に接する表示面101F上に施された印刷によって、所定の情報を表示することができる。表示面101Fの印刷は、活版印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷で形成できる。印刷のインキには、機能性インキを用いることができる。機能性インキは、IDカード100に光を照射する光源の種類あるいは状態に応じて色が変わるインキ、および、観察者の観察角度に応じて色や光沢が変わるインキなどである。光源の種類あるいは状態に応じて色が変化するインキは、蓄光インキ、蛍光インキ、および、フォトクロミックインキとできる。観察角度に応じて色や光沢が変わるインキは、パールインキ、磁性インキ、および、カラーシフトインキとできる。
【0222】
蓄光インキは、太陽光や蛍光灯などから放出された光エネルギーを吸収し、かつ、蓄積し、暗闇において徐々に発光する機能を有している。フォロクロミックインキは、紫外線に反応して発色するインキである。フォトクロミックインキは、フォトクロミックインキに対する紫外線の照射量に応じて、レッド、ブルー、パープル、および、イエローなどの互いに異なる色を呈する機能を有している。パールインキは、パール顔料が添加されたインキである。パールインキの光沢は、観察角度に応じて変わる。パールインキは、パール顔料として偏光パールから形成されたパール顔料を含むことによって、観察角度に応じて色調も変わる。機能性インキによれば、表示面101Fに形成された印刷の色が変わるか否かを容易に確認することができる。そのため、IDカード100の真贋を、印刷の色に基づいて確実に判定することができる。
【0223】
なお、表示面101Fに印刷を施す方法には、インクジェット方式、サーマルプリンタ方式、および、レーザー方式などを用いてもよい。これらの方式によれば、表示面101Fに形成する情報をIDカード100ごとに設定することが可能である。そのため、複数のIDカード100に共通する柄などは、上述した印刷によって相対的に高い速度で印刷し、かつ、各IDカード100に固有の個人情報は、インクジェット方式、サーマルプリンタ方式、および、レーザー方式などを用いて印刷することが好ましい。
【0224】
なお、上述したように、IDカード100が備える光学素子は、第1実施形態の光学素子10に限らず、第5実施形態および第6実施形態の各々における光学素子であってもよい。すなわち、IDカード100は、サブ波長格子11Gが表示する第1像P1、レリーフ面が表示する第2像P2、および、表示層101が表示する第3像を表示することが可能であってもよい。こうしたIDカード100では、第1像P1の輝度、および、第2像P2の輝度が十分に高い場合には、第1像P1が表示される観察角度、および、第2像P2が表示される観察角度の各々では、第3像が視認されにくい。一方で、第1像P1および第2像P2の両方が表示されない観察角度では、第3像が視認される。それゆえに、観察者は、第3像を視認することができる。
【0225】
第1像P1および第2像P2の各々が視認される観察角度は、第1像P1および第2像P2の各々が発現する観察角度、すなわち、サブ波長格子11Gおよびレリーフ面の形状によって、任意に設定することが可能である。
【0226】
IDカード100において、第1層11、第2層12、および、第3層13から構成される多層体は、3つの層が積み重なる方向において、70%以上の透過率を有することが好ましい。これにより、IDカード100が表示する像が視認されやすい。例えば、道路運送車両の保安基準における第195条では、自動車の前面ガラスおよび側面ガラスの各々における透過率が70%以上であることが義務づけられている。こうした基準に鑑みても、人が情報を明瞭かつ確実に視認する上では、情報を表示するための光が透過する透過体の透過率が70%以上であることが好ましいと言える。
【0227】
透明な多層体の透過率は、分光光度計を用いて測定することができる。IDカード100が観察される環境では、光源が太陽光または蛍光灯であることが想定される。そのため、IDカード100に用いられる多層体の透過率として、500nmの波長における透過率を測定することが好ましい。多層体の透過率は、JIS K7375:2008「プラスチックの全光線透過率及び全光線反射率の求め方」に準拠する方法で測定することが好ましい。
【0228】
[IDカードの作用]
図40から
図46を参照して、IDカード100の作用を説明する。以下では、IDカード100の第1実例における作用と、IDカード100の第2実例における作用とを順に説明する。なお、IDカード100の第1実例は、サブ波長格子11Gとレリーフ面とを含む光学素子を備え、かつ、観察者の目視によってIDカード100の真贋が判定される構成である。これに対して、IDカード100の第2実例は、サブ波長格子11Gを含む一方で、レリーフ面を含まない光学素子を備え、かつ、検証器によってIDカード100の真贋が判定される構成である。
【0229】
[第1実例]
図40から
図43を参照して、IDカード100の第1実例における作用を説明する。
図40は、観察者OBが目視によってIDカード100の真贋を判定する方法を模式的に示している。
【0230】
図40が示すように、観察者OBは、IDカード100を手に持った状態でIDカード100を視認する。基準平面Ph0は、観察者OBがIDカード100の観察を開始するときにIDカード100が配置される平面である。基準平面Ph0は、IDカード100の真贋を判定するときのベース面である。観察者OBは、基準平面Ph0に配置したIDカード100を、第1平面Ph1、第2平面Ph2、および、第3平面Ph3の各々に沿うように傾ける。観察者OBは、IDカード100が各平面Ph1,Ph2,Ph3の各々に位置するときに、IDカード100を観察する。基準平面Ph0と第1平面Ph1とが形成する角度が第1角度θ1であり、基準平面Ph0と第2平面Ph2とが形成する角度が第2角度θ2であり、基準平面Ph0と第3平面Ph3とが形成する角度が第3角度θ3である。第1角度θ1は、第2角度θ2および第3角度θ3よりも大きく、かつ、第2角度θ2は、第3角度θ3よりも大きい。
【0231】
光源LSは、IDカード100に対して観察者OBとは反対側に位置している。言い換えれば、光源LSは、観察者OBの前方に位置している。光源LS、IDカード100、および、観察者OBは、IDカード100に入射した光源LSの光が、IDカード100において、観察者OBに向けて反射されるような相対位置で配置されている。IDカード100を観察するときには、点光源からの光が一方向からIDカード100に入射することが好ましい。しかしながら、実際には、IDカード100の観察時には、蛍光灯からの光や外光が、様々な方向からIDカード100に入射する。この場合であっても、IDカード100に入射した光に、IDカード100において観察者OBに向けて反射される光が含まれていれば、IDカード100から射出される光の輝度が低くなるものの、観察者OBは、IDカード100が表示する情報を視認することができる。
【0232】
図41から
図43は、それぞれIDカード100が表示する像を示している。
図41は、IDカード100が第1平面Ph1に配置されたときにIDカード100が示す像であり、
図42は、IDカード100が第2平面Ph2に配置されたときにIDカード100が示す像である。
図43は、IDカード100が第3平面Ph3に配置されたときにIDカード100が示す像である。なお、IDカード100は、第1像P1、第2像P2、および、第3像P3を表示することが可能に構成されている。
【0233】
図41が示すように、観察者OBがIDカード100を第1平面Ph1に配置したとき、IDカード100は、第3像P3のみを表示している。なお、第3像P3は、IDカード100の所有者に関する個人情報を含んでいる。第3像P3が含む所有者に関する個人情報は、所有者の顔写真、および、氏名、ID番号などである。観察者OBがIDカード100を第1平面Ph1に配置したときには、IDカード100は、第3像P3の全てを、表面100Fを介して外部に表示する。
【0234】
図42が示すように、観察者OBがIDカード100を第2平面Ph2に配置したとき、IDカード100は、第2像P2を表示する。IDカード100の表面100Fと対向する平面視において、第2像P2は第3像P3の一部に重なる。そのため、本実施形態では、第3像P3の一部は、第2像P2によって隠蔽される。なお、第2像P2の輝度は、第3像P3の一部を完全に隠蔽しない程度の輝度であってもよい。
【0235】
図43が示すように、観察者OBがIDカード100を第3平面Ph3に配置したとき、IDカード100は、第1像P1を表示する。一方で、IDカード100は、第2像P2を表示しない。IDカード100の表面100Fと対向する平面視において、第1像P1は第3像P3の一部に重なる。そのため、本実施形態では、第3像P3の一部は、第1像P1によって隠蔽される。なお、第1像P1の輝度は、第3像P3の一部を完全には隠蔽しない程度の輝度であってもよい。
【0236】
このように、観察者OBがIDカード100を基準平面Ph0に対して前方に傾けた場合に、IDカード100は、IDカード100の位置に応じて、第1像P1および第2像P2を表示する。言い換えれば、観察者OBが、観察空間において、IDカード100のなかで観察者OBが把持した部分の位置をほぼ固定した状態で、IDカード100の表面100Fを観察者OBに近づけた場合に、IDカード100の位置に応じて、IDカード100は、第1像P1および第2像P2を表示する。
【0237】
なお、観察者OBが、第2平面Ph2をベース面として、IDカード100を左右に傾けた場合にも、観察者OBは、IDカード100が表示する第1像P1および第2像P2を視認することは可能である。言い換えれば、観察者OBが、観察空間において、IDカード100の表面100Fと観察者OBとの間の距離をほぼ変えずに、IDカード100を傾けたときにも、観察者OBは、第1像P1および第2像P2を視認することは可能である。しかしながら、観察者OBは、第2像P2を容易に視認することができる一方で、観察者OBは、以下の理由から、限られた観察条件においてのみ第1像P1を観察することができる。
【0238】
上述したように、第1像P1は、IDカード100の表面に対する放線を含む平面に対して、光源LSと観察者OBとが対象な角度に位置する場合にのみ観察者OBによって視認される。そのため、第2平面Ph2を基準としてIDカード100を左右に傾けた場合には、第2平面Ph2が基準平面Ph0と形成する角度が第3角度θ3である必要がある。ここで、第2平面Ph2は、観察者OBが無意識にIDカード100を手に取ったときにIDカード100を配置する平面である。そのため、第2平面Ph2と基準平面Ph0とが形成する角度が第3角度θ3に一致する確率は低い。これに対して、観察者OBが基準平面Ph0に対してIDカード100を前後に傾けたときに、観察者OBが第3平面Ph3にIDカード100を配置する確率が高い。
【0239】
それゆえに、IDカード100を観察するときには、観察者OBの視線を含む平面に対して斜め上方に光源LSが位置する状態で、観察者OBがIDカード100を前後に傾けることが好ましい。これにより、観察者OBが、第1像P1および第2像P2の両方を観察する確率が高まる。そのため、観察者OBによるIDカード100の真贋の判定が、正確に行われやすい。
【0240】
[第2実例]
図44から
図46を参照して、IDカード100の第2実例における作用を説明する。
図44は、検証器VによってIDカード100の真贋を判定する方法を模式的に示している。
【0241】
図44が示すように、IDカード100の表面100Fに、光源LSからの光を入射角αで入射させ、かつ、射出角βで反射される反射光が検証器Vに入力されるように、IDカード100の真贋を判定するための環境を設定する。検証器Vは、画像を読み取ることが可能なカメラ、および、輝度の分布を読み取ることが可能なセンサーなどとできる。検証器Vは、第1像P1を画像、もしくは、輝度などの光学的な情報として処理することが可能な機器であればよい。
【0242】
図45は、真正のIDカード100が表示する像を示している。一方で、
図46は、偽のIDカード200が表示する像を示している。なお、
図45および
図46は、特定の観察条件において、各IDカード100,200が表示する像を示している。
【0243】
図45が示すように、真正のIDカード100は、第3像P3の一部としてQRコード(登録商標)P3aを示している。
これに対して、
図46が示すように、偽のIDカード200は、第3像P3の一部としてQRコードP3aを示すと同時に、第1像P1も表面200Fを介して表示している。ここで、検証器Vは、上述した観察条件において、IDカード100が表示するQRコードP3aを読み取った場合に、IDカード100が真正であると判定する。この場合には、IDカード100は、第3像P3の一部としてQRコードP3aを表示し、かつ、QRコードP3aが他の像とは重ならないため、検証器Vは、IDカード100を真正のIDカード100であると判定する。これに対して、IDカード200は、第3像P3の一部としてQRコードP3aを表示するものの、IDカード100の厚さ方向から見て、QRコードP3aに重なるように第1像P1を表示する。言い換えれば、検証器Vが読み取った情報には、QRコード以外の情報も含まれる。そのため、検証器Vは、IDカード200が偽物であると判定する。
【0244】
本実施形態では、IDカード100,200が表示するコードとしてQRコードP3aを示したが、IDカード100,200が表示するコードは検証器Vによる読み取りが可能な他のコードでもよい。他のコードは、バーコードとできる。なお、検証器Vによる判定には、第3像P3ではなく、第1像P1を用いてもよいし、第2像P2を用いてもよい。
【0245】
また、上述した実例では、検証器Vの位置が一カ所に固定されているが、検証器Vが可動式であり、かつ、検証器Vが、上述した射出角βに加えて、射出角βとは異なる角度である角度γでもIDカード100から射出された光を読み取ってもよい。この場合には、互いに異なる角度において得られた2つの情報を用いることによって、IDカード100の真贋を二段階で判定することができる。これにより、真贋判定の確度をより高めることができる。
【0246】
[光学素子の形成材料]
以下、光学素子の形成に用いることが可能な材料を説明する。以下では、光学素子のなかで、第1層11、第2層12、および、第3層13の各々を形成するための材料を説明する。
【0247】
[第1層および第3層]
第1層11および第3層13の各々の材料には、以下に挙げる各種の樹脂を用いることができる。各層を形成するための材料は、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、および、セルロース系樹脂などとできる。第1層および第3層の形成材料には、これらの樹脂のうちの1つのみを用いてもよいし、2つ以上を混合してもよい。第1層11および第3層13を形成するための材料は、硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、および、光安定化剤などの少なくとも1つを含んでもよい。
【0248】
第1層11および第3層13の各々を形成する方法は、熱エンボス法、キャスト法、および、フォトポリマー法とできる。フォトポリマー法では、プラスチックフィルムなどの平坦な基材と、金属製のスタンパとの間に、放射線硬化樹脂を流し込む。そして、放射線の照射によって放射線硬化樹脂を硬化させた後、硬化された樹脂膜を基材ごと金属製のスタンパから剥離する。フォトポリマー法では、熱可塑性樹脂を利用するプレス法やキャスト法に比べて、微細凹凸構造の転写精度が高く、耐熱性や耐薬品性にも優れている。
【0249】
[第2層]
第2層12の材料には、上述したように、光透過性を有した誘電体を用いることができる。誘電体には、金属、金属化合物、ケイ素化合物、または、これらの混合物を用いることができる。誘電体には、例えば、ZnS、ZnO、ZnSe、SiNx、SiOx、TixOx、Ta2O5、Cr2O3、ZrO2、Nb2O5、および、ITOなどを挙げることができる。
【0250】
第2層12を形成する方法は、物理気相成長法、および、化学気相成長法などとできる。物理気相成長法は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、および、イオンクラスタービーム法とできる。化学気相成長法は、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、および、光化学気相成長法とできる。真空蒸着法は生産性が向上しやすい。イオンプレーティング法は、良い膜質の反射層を得やすい。なお、物理気相成長法および化学気相成長法における成膜条件は、反射層の形成材料に応じて適宜選択されればよい。
【0251】
第2層12は、各種の印刷方式、キャスト方式、および、ダイコート方式などで形成することもできる。この場合には、上述した誘電体の少なくとも1つが分散した樹脂で、第2層12を形成することができる。
【0252】
[試験例]
[試験例1]
以下、試験例1を説明する。試験例1は、上述した第8実施形態の認証体に対応する試験例である。試験例1では、第1層11を含む第1転写箔と、レリーフ層61を含む第2転写箔とを準備した。そして、第1転写箔の一部を第1基材65に転写し、かつ、第2転写箔の一部を第2基材66に転写した。第2基材66としてレーザー光線の照射によって発色する基材を用いた。第1基材65と第2基材66とをラミネートすることによって、試験例1の認証体としてIDカードを得た。
【0253】
より詳しくは、第1転写箔を製造するときに、まず、厚さが38μmであるPETフィルム(ルミラー(登録商標)、東レ(株))を支持層として準備した。支持層が備える1つの面に、剥離層用インキを塗布し、剥離層用インキを乾燥させることによって、剥離層68を得た。剥離層68の厚さは1μmであった。次いで、剥離層68上に第1層用インキをグラビア印刷法によって塗工した後、第1層用インキを乾燥させた。乾燥後の第1層用インキの厚さは2μmであった。そして、乾燥後の第1層用インキに、サブ波長格子11Gを形成するための原版を押し当てることによって、サブ波長格子11Gを成形した。なお、成形時において、プレス圧力を2kgf/cm2に設定し、プレス温度を80℃に設定し、プレススピードを10m/minに設定した。
【0254】
成型と同時に、支持層に対して剥離層68とは反対側から、第1層用インキに紫外線を照射した。紫外線の照射には、高圧水銀灯を用い、かつ、高圧水銀灯の出力を300mJ/cm2に設定した。これにより、第1層用インキを硬化させることによって、第1層11を得た。そして、第1層11上に、50nmの厚さを有するTiO2膜を真空蒸着によって形成した。これにより、第2層12が得られた。次いで、接着層用インキを塗工し、接着層用インキを乾燥させることによって、2.5μm以上4μm以下の厚さを有し、接着層として機能する第3層13を得た。なお、乾燥時の温度を120℃に設定し、時間を45秒に設定した。なお、第2転写箔を形成するときには、レリーフ面61Reの成形に用いる原版をサブ波長格子11Gの成形に用いる原版と異ならせる以外は、第1転写箔と同じ方法を用いた。
【0255】
上述した剥離層用インキ、第1層用インキ、レリーフ層用インキ、第3層用インキ、および、接着層用インキとして、以下の組成を有するインキを用いた。
【0256】
[剥離層用インキ]
アクリル樹脂 70.0質量部
メチルエチルケトン 30.0質量部
【0257】
[第1層用インキ/レリーフ層用インキ]
紫外線硬化型アクリルアクリレート樹脂 70.0質量部
メチルエチルケトン 30.0質量部
【0258】
[第3層用インキ/接着層用インキ]
ウレタン樹脂 50.0質量部
シリカフィラー 10.0質量部
メチルエチルケトン 40.0質量部
【0259】
第1基材65として、100μmの厚さを有し、かつ、透明なポリカーボネート基材(LEXAN SD8B14、SABIC社製)(LEXANは登録商標)を準備した。第2基材66として、100μmの厚さを有し、かつ、レーザー光線の照射によって発色するポリカーボネート基材(LEXAN SD8B94、SABIC社製)を準備した。第1転写箔を第1基材65に転写した後、支持層を取り除いた。また、第2転写箔を第2基材66に転写した後、支持層を取り除いた。転写時には、電気式のホットスタンプ機を用い、かつ、転写箔に接する面の温度を120℃に設定し、圧力を1.05t/cm2に設定し、かつ、加圧する時間を1秒に設定した。
【0260】
次いで、白色層91として、400μmの厚さを有し、かつ、白色の樹脂フィルム(LEXAN SD8B24、SAVIC社製)を準備した。下部保護層92および上部保護層93として、100μmの厚さを有し、かつ、透明な樹脂フィルム(LEXAN SD8B14)を準備した。そして、下部保護層92、白色層91、第2基材66、第1基材65、および、上部保護層93を記載の順に積み重ねた状態で、これらの層をラミネートした。ラミネート時には、温度を200℃に設定し、圧力を80N/cm2に設定し、加熱および加圧をする時間を25分に設定した。そして、ラミネート後の多層体の一部をカード状に切り出した。
【0261】
レーザー印字機を用いて、多層体に1064nmの波長のレーザー光線を多層体に照射した。これにより、第2基材66に、第1発色部66aと第2発色部66bとを形成した。結果として、試験例1のIDカードを得た。
【0262】
[試験例2]
以下、試験例2を説明する。試験例2の転写箔は、上述した第7実施形態の転写箔に対応する試験例である。試験例1では、まず、試験例1と同じ支持層72を準備した。支持層が備える1つの面に、試験例1と同様の方法で、剥離層73を形成した。そして、試験例1と同様の方法で、剥離層73上に第1層11を形成し、かつ、第1層11上に第2層12を形成した。
【0263】
次いで、第1層用インキを用いて第1層11を形成したときと同様の方法で、第3層用インキを塗工し、かつ、第3層用インキを乾燥させた。そして、乾燥後の第3層用インキに、レリーフ面13Reを形成するための原版を押し当てることによって、レリーフ面13Reを成形した。なお、成形時における各種の条件を、サブ波長格子11Gを成形したときと同様の条件に設定した。
【0264】
続いて、第2層12を形成したときと同様の方法で、レリーフ面13Re上に第4層51を形成した。また、試験例1において第3層13を形成したときと同様の方法で、第4層51上に接着層71を形成した。これにより、試験例2の転写箔を得た。なお、試験例2において第3層13を形成するための第3層用インキには、試験例1における第1層用インキと同様の組成を有するインキを用いた。
【符号の説明】
【0265】
10,20,30,40,50,60…光学素子、10S…観察面、11…第1層、11G…サブ波長格子、11G1…第1サブ波長格子、11G2…第2サブ波長格子、11R,12R,13R,61R…裏面、11S,12F,13F,42F,80F,100F,200F…表面、11S1…第1領域、11S2…第2領域、12…第2層、12Re,13Re,61Re…レリーフ面、13…第3層、20A…第1部分、20AG…第1格子、20B…第2部分、20BG…第2格子、20C…第3部分、20CG…第3格子、31,41…フィラー、42,51…第4層、52…量子化位相差構造、52a…量子化凸部、52b…量子化凹部、52c…頂面、52d…底面、61…レリーフ層、62…反射層、63,71…接着層、64…基材、65…第1基材、66…第2基材、66a…第1発色部、66b…第2発色部、68,69,73…剥離層、70…転写箔、72…支持層、80,100,200…IDカード、81…第1画像、81a…顔画像、81b…背景画像、82…第2画像、83…第3画像、91…白色層、92…下部保護層、93…上部保護層、94…印刷、101…表示層、101F…表示面、V…検証器、GP…格子パターン、LS…光源、OB…観察者、P1…第1像、P2…第2像、P3…第3像、P3a…QRコード、Px…画素領域、AGP…第1格子パターン、BGP…第2格子パターン、CGP…第3格子パターン、G1A…第1格子、G1B…第2格子、GPG…パターン群、Ph0…基準平面、Ph1…第1平面、Ph2…第2平面、Ph3…第3平面、Px1…第1画素領域、Px2…第2画素領域、Px3…第3画素領域、Px4…第4画素領域、S1A…第1要素、S1B…第2要素。