(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】調節システム
(51)【国際特許分類】
F01M 1/16 20060101AFI20241112BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F01M1/16 G
F01M1/08 B
F01M1/16 F
(21)【出願番号】P 2023133192
(22)【出願日】2023-08-18
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】関口 亮
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-048159(JP,A)
【文献】特開2014-159760(JP,A)
【文献】特開2015-086768(JP,A)
【文献】特開2016-048034(JP,A)
【文献】特開2018-159309(JP,A)
【文献】特開2019-019795(JP,A)
【文献】特開2019-157835(JP,A)
【文献】特開2020-041499(JP,A)
【文献】特開2021-055607(JP,A)
【文献】特開2021-148070(JP,A)
【文献】特開2023-012838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/08
F01M 1/16
F01P 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンのシリンダに収容されるピストンに向けて潤滑油を噴射する噴射部と、
前記噴射部に前記潤滑油を供給するポンプと、
前記噴射部と前記ポンプとを接続する管路に設けられる流量調節弁と、
前記流量調節弁を制御して前記ポンプから前記噴射部に供給される前記潤滑油の供給量を調節し、前記ポンプを制御して前記ポンプの前記潤滑油の吐出量を制御する流量制御部と、
を有し、
前記流量制御部は、
前記車両が減速
中であり、かつ前記ピストンの温度が所定範囲内の場合、前記供給量が0より大きく、かつ前記車両の加速中の前記供給量より小さくなるように前記流量調節弁を制御し、前記ポンプの前記潤滑油の吐出量が減少するように前記ポンプを制御
し、
前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲外の場合、前記潤滑油の前記供給量を減少させない、
調節システム。
【請求項2】
前記流量制御部は、前記車両の制動装置が非作動状態であり、前記エンジンの燃焼室への燃料噴射が停止されており、前記エンジンの駆動力が伝達される動力伝達部材と前記エンジンと間の動力の伝達を断接するクラッチが接続状態であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に前記潤滑油の前記供給量を減少させる、
請求項
1に記載の調節システム。
【請求項3】
前記流量制御部は、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に、前記制動装置が作動状態であるか、前記燃焼室への燃料噴射が行われていれば、前記潤滑油の前記供給量を減少させない、
請求項
2に記載の調節システム。
【請求項4】
前記流量制御部は、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に、前記クラッチが切断状態であれば、前記潤滑油の供給を停止させる、
請求項
2に記載の調節システム。
【請求項5】
前記流量制御部は、前記ピストンの温度が前記所定範囲内である場合、前記ピストンの温度が低いほど前記供給量を減少させる、
請求項
1から
4のいずれか一項に記載の調節システム。
【請求項6】
前記流量制御部は、前記車両の減速中に減少させた前記供給量に応じて前記ポンプの前記吐出量を減少させる、
請求項1に記載の調節システム。
【請求項7】
前記流量制御部は、減少させる前記供給量に応じて単位時間あたりに前記噴射部から前記潤滑油を噴射させる回数を減少させる、
請求項1に記載の調節システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンに噴射する潤滑油の量を調節する調節システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダに収容されたピストンに、ポンプから供給された潤滑油を噴射するオイルジェットが知られている。特許文献1には、車両の減速時にオイルジェットへの潤滑油の供給を遮断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルジェットへの潤滑油の供給を遮断すれば、オイルポンプが稼働していてもオイルポンプからの潤滑油はオイルジェットに供給されなくなる。しかし、潤滑油が噴射されないのにオイルポンプが潤滑油を吐出し続けると、潤滑油を供給する管路内の潤滑油の圧力が高くなるので、潤滑油を管路に吐出するのに必要な圧力が大きくなる。そのため、オイルポンプを動作させるのに必要な力(負荷)が増大してしまう。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両の減速時のオイルポンプの負荷を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、車両のエンジンのシリンダに収容されるピストンに向けて潤滑油を噴射する噴射部と、前記噴射部に前記潤滑油を供給するポンプと、前記噴射部と前記ポンプとを接続する管路に設けられる流量調節弁と、前記流量調節弁を制御して前記ポンプから前記噴射部に供給される前記潤滑油の供給量を調節し、前記ポンプを制御して前記ポンプの前記潤滑油の吐出量を制御する流量制御部と、を有し、前記流量制御部は、前記車両が減速している場合、前記供給量が0より大きく、かつ前記車両の加速中の前記供給量より小さくなるように前記流量調節弁を制御し、前記ポンプの前記潤滑油の吐出量が減少するように前記ポンプを制御する、調節システムを提供する。
【0007】
前記流量制御部は、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が所定範囲内の場合に前記潤滑油の前記供給量を減少させ、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲外の場合に前記潤滑油の前記供給量を減少させなくてもよい。
【0008】
前記流量制御部は、前記車両の制動装置が非作動状態であり、前記エンジンの燃焼室への燃料噴射が停止されており、前記エンジンの駆動力が伝達される動力伝達部材と前記エンジンと間の動力の伝達を断接するクラッチが接続状態であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に前記潤滑油の前記供給量を減少させてもよい。
【0009】
前記流量制御部は、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に、前記制動装置が作動状態であるか、前記燃焼室への燃料噴射が行われていれば、前記潤滑油の前記供給量を減少させなくてもよい。
【0010】
前記流量制御部は、前記車両が減速中であり、かつ前記ピストンの温度が前記所定範囲内の場合に、前記クラッチが切断状態であれば、前記潤滑油の供給を停止させてもよい。
【0011】
前記流量制御部は、前記ピストンの温度が前記所定範囲内である場合、前記ピストンの温度が低いほど前記供給量を減少させてもよい。
【0012】
前記流量制御部は、前記車両の減速中に減少させた前記供給量に応じて前記ポンプの前記吐出量を減少させてもよい。
【0013】
前記流量制御部は、減少させる前記供給量に応じて単位時間あたりに前記噴射部から前記潤滑油を噴射させる回数を減少させてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両の減速時のオイルポンプの負荷を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】調節システムの構成を説明するための図である。
【
図2】流量制御装置の構成を説明するための図である。
【
図3】供給量を決定する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】供給決定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[調節システムSの構成]
図1及び
図2を用いて調節システムSの構成を説明する。
図1は、調節システムSの構成を説明するための図である。
図2は、流量制御装置8の構成を説明するための図である。調節システムSは、車両に搭載されている。調節システムSは、エンジン1、ポンプ4、管路5、流量調節弁6、流量制御装置8、シリンダ12、ピストン13及び噴射部14を有する。
【0017】
エンジン1は、燃料と吸気(空気)との混合気を燃焼、膨張させて、動力を発生させる内燃機関である。エンジン1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであるが、ガソリンエンジンでもよい。エンジン1の出力軸21は、後述するポンプ4及び発電機31に接続されている。
【0018】
エンジン1のシリンダ12は、エンジン1のエンジンブロック11に設けられている。ピストン13は、シリンダ12に収容されている。ピストン13は、エンジン1の燃焼室で混合気が燃焼することにより上下方向に移動する。ピストン13が上下方向に移動することで、クランクシャフト2が回転する。そして、クランクシャフト2が回転すると、クランクシャフト2に連結する出力軸21が回転する。
【0019】
噴射部14は、シリンダ12に隣接するように設けられている。また、潤滑油Aを噴射する噴射口は、シリンダ12の壁を貫くように設けられている。噴射口は、ピストン13の底面に向けて潤滑油Aを噴射するように設けられている。噴射部14は、ピストン13の底面に向けて潤滑油Aを噴射する。例えば、噴射部14は、ピストン13が下死点に至る際に潤滑油Aをピストン13の底面に向けて噴射する。噴射部14は、単位時間あたりにピストン13に向けて噴射する潤滑油Aの量を変更可能である。例えば、噴射部14は、単位時間当たりの噴射回数を変更することで噴射する潤滑油Aの量を変更する。また、噴射部14は、単位時間当たりの噴射回数を変更せずに、1回に噴射する潤滑油Aの量を変更することで噴射する潤滑油Aの量を変更してもよい。
【0020】
ポンプ4は、コネクティングロッド、変速機や操舵装置等の被潤滑部9及び噴射部14に潤滑油Aを供給するポンプである。ポンプ4は、エンジン1の出力軸21に連結されており、出力軸21が回転することにより動作して、潤滑油Aを供給する。ポンプ4は、潤滑油Aを吸い込んだ空間を圧縮し、圧縮作用により潤滑油Aを吐出する容積型ポンプであり、潤滑油Aの吐出量を変更可能である。具体例を挙げると、ポンプ4は、ポンプ4の筐体に内接するベーン(羽根)をもち、ベーン間に吸い込んだ潤滑油Aを吸込み側から吐出し側に送り出す可変容量ベーンポンプであるが、これに限定するものではない。
【0021】
管路5は、噴射部14とポンプ4を接続する管路である。管路5は、ポンプ4から吐き出された潤滑油Aを噴射部14に供給する。また、管路5は、ポンプ4と、コネクティングロッド及び被潤滑部9とを接続する。管路5は、ポンプ4が吐き出した潤滑油Aを、コネクティングロッド及び被潤滑部9に供給可能である。
【0022】
流量調節弁6は、管路5に設けられている。流量調節弁6は、流量制御装置8の制御により、ポンプ4から噴射部14に供給される潤滑油Aの供給量を調節する。流量制御装置8の詳細は後述する。ポンプ4から噴射部14に供給される潤滑油Aの供給量は、流量調節弁6の開度が小さいほど減少し、流量調節弁6が全閉の場合には噴射部14への潤滑油Aの供給量は0になる。
【0023】
温度センサ7は、シリンダ12に設けられている。例えば、温度センサ7は、ピストン13の底面の温度を測定可能にシリンダ12内に設けられている。一例を挙げると、温度センサ7は、赤外線センサであるが、これに限定するものではない。
【0024】
発電機31は、エンジン1の出力軸21に接続されている。発電機31は、エンジン1の出力軸21が回転することにより動作して発電する。発電機31は、出力軸21の回転力が大きいほど多量の電力を発電する。発電機31が発電可能な電力の最大値は、発電機31の仕様などにより定まっている。
【0025】
蓄電池32は、発電機31が発電した電力を蓄える二次電池である。蓄電池32は、例えば鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル・水素蓄電池であるが、これに限定するものではない。蓄電池32は、蓄えた電力を車両に搭載された装置に供給可能である。
【0026】
流量制御装置8は、記憶部81及び制御部82を有する。記憶部81は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部81は、制御部82が実行するプログラムを記憶する。
【0027】
制御部82は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部82は、記憶部81に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部821及び流量制御部822としての機能を実現する。
【0028】
取得部821は、ピストン13の温度を取得する。具体的には、取得部821は、温度センサ7が検出したピストン13の底面の温度を取得する。取得部821は、取得したピストン13の温度を流量制御部822に通知する。
【0029】
流量制御部822は、噴射部14に潤滑油Aを噴射させる噴射量を制御する。例えば、流量制御部822は、車両が減速中の場合、噴射部14に潤滑油Aを噴射させる噴射量を減少させる。具体的には、流量制御部822は、単位時間あたりに噴射部14から潤滑油Aを噴射させる回数を減少させることで噴射量を減少させる。また、流量制御部822は、噴射部14が1度に噴射する潤滑油Aの量を減少させることで、潤滑油Aの噴射量を減少させてもよい。これにより、流量制御部822は、車両の加速中よりもピストン13の温度が上昇し難い車両の減速中に、加速中と同量の潤滑油Aを噴射させてしまい、ピストン13の温度が下がりすぎてしまうことを抑制できる。
【0030】
上記のとおり、流量制御部822が噴射部14に単位時間当たりの噴射量を減少させた際に、噴射部14に供給される潤滑油Aの量が減少していない場合、噴射部14や管路5内の潤滑油Aの圧力が高くなる。潤滑油Aの圧力が高くなると、潤滑油Aの粘度が上昇して噴射部14から噴射されなくなるおそれや、高い粘度になった潤滑油Aが抵抗になるためピストン13とシリンダ12が摺動する際の負荷が大きくなり、適切に摺動しなくなるおそれがある。
【0031】
そこで、流量制御部822は、流量調節弁6を制御してポンプ4から噴射部14に供給される潤滑油Aの供給量を調節する。具体的には、流量制御部822は、車両の減速中に噴射部14の噴射量を減少させる際には、流量調節弁6を制御して、噴射部14に供給する潤滑油Aの供給量を減少させる。ただし、噴射部14への供給量を0にしてしまうと噴射部14が潤滑油Aを噴射できなくなるので、流量制御部822は、噴射部14への潤滑油Aの供給量を、0より大きく、かつ加速中の噴射部14への潤滑油Aの供給量よりも小さくなるように流量調節弁6を制御する。具体的には、流量制御部822は、減速中の流量調節弁6の開度を、0よりも大きく、かつ加速中の流量調節弁6の開度よりも小さくすることにより、噴射部14への潤滑油Aの供給量を、0より大きく、かつ加速中の供給量よりも小さくする。
【0032】
このようにすることで、流量制御部822は、噴射部14や管路5内の潤滑油Aの圧力の上昇を抑制できるので、潤滑油Aの粘度の上昇を抑制できる。その結果、流量制御部822は、噴射部14から潤滑油Aが噴射されなくなったり、ピストン13とシリンダ12が適切に摺動しなくなったりすることを抑制できる。
【0033】
噴射部14への供給量を減らした際に、ポンプ4の吐出量が変わらない場合、ポンプ4が各被潤滑部に潤滑油Aを供給するための管路内の潤滑油Aの圧力が上昇する。そのため、ポンプ4が潤滑油Aを吐き出すのに必要な圧力が上昇する。言い換えると、ポンプ4内の潤滑油Aの攪拌抵抗が増大する。ポンプ4の攪拌抵抗が増大すると、ポンプ4の負荷が増大するので、負荷が増大したポンプ4を動作させるためにエンジン1の回転力が浪費されてしまう。
【0034】
そこで、流量制御部822は、ポンプ4を制御してポンプ4の潤滑油Aの吐出量を制御する。例えば、流量制御部822は、車両の減速中に噴射部14への供給量を減少させた際には、ポンプ4の吐出量が減少するようにポンプ4を制御する。具体的には、流量制御部822は、車両の減速中に減少させた供給量に応じてポンプ4の吐出量を減少させる。より具体的には、流量制御部822は、減少させた供給量と同じ量だけ吐出量を減少させる。一例を挙げると、流量制御部822は、噴射部14への供給量を毎分100ミリリットル減少させた場合、ポンプ4の吐出量を毎分100ミリリットル減少させる。これにより、ポンプ4が潤滑油Aを吐き出すのに必要な圧力の上昇が抑制されるので、流量制御部822は、車両の減速中にポンプ4の吐出量を減少させない場合よりも、車両の減速時のポンプ4の負荷を低減できる。
【0035】
このように、流量制御部822は、車両の減速中のポンプ4の負荷を低減できる。これにより、エンジン1の回転力を発電機31の発電に優先して利用できるので、発電機31が発電可能な電力量が増加する。
【0036】
(ピストン13の温度に応じて供給量を減少させる処理)
ところで、車両の減速中のピストン13の温度は、加速中のピストン13の温度と同程度になる場合がある。この場合に、噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させると、ピストン13の温度が上がりすぎて、シリンダ12やピストン13が熱により損傷するおそれがある。そこで、流量制御部822は、ピストン13の温度が所定の温度上限値よりも高い場合、噴射部14への潤滑油Aの供給量を加速中の供給量と同じにする。これにより、流量制御部822は、シリンダ12やピストン13が熱により損傷するおそれを低減できる。
【0037】
車両の減速中には燃焼室での混合気の燃焼が抑制されるためピストン13の冷却が不要なほど低くなる場合がある。このような場合に潤滑油Aを供給し続けると、粘度の低下した潤滑油Aが生成する膜が厚くなりすぎてピストン13が摺動し難くなることがある。流量制御部822は、ピストン13の温度が、所定の温度下限値未満の場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。これにより、流量制御部822は、ピストン13が摺動し難くなることを抑制できる。
【0038】
上記の点を考慮して、流量制御部822は、ピストン13の温度が温度下限値以上かつ温度上限値以下の所定範囲内の場合に、噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させる。流量制御部822は、ピストン13の温度が所定範囲内の場合、ピストン13の温度が低いほど噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させてもよい。具体的には、流量制御部822は、ピストン13の温度が低いほど流量調節弁6の開度を小さくすることで噴射部14への潤滑油Aの供給量を小さくする。この場合、流量制御部822は、減少させる供給量に応じて噴射部14の噴射回数を減少させる。具体的には、流量制御部822は、減少させる供給量が多いほど噴射部14の噴射回数を減少させる。これにより、流量制御部822は、ピストン13の温度に応じた量の潤滑油Aを噴射部14に噴射させることが可能になる。
【0039】
流量制御部822は、ピストン13の温度が所定範囲外の場合に潤滑油Aの供給量を減少させない。具体的には、流量制御部822は、ピストン13の温度が所定範囲の上限値(温度上限値)よりも高い場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給量を加速中の供給量と同じにする。流量制御部822は、ピストン13の温度が所定範囲の下限値(温度下限値)未満の場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。これにより、流量制御部822は、シリンダ12やピストン13が熱により損傷するおそれを低減したり、ピストン13が摺動し難くなることを抑制したりできる。
【0040】
(他の装置の動作状態に応じて供給量を減少させる処理)
流量制御部822は、車両が減速中であり、かつ車両の制動装置(ブレーキ)が非作動状態である場合に、噴射部14への潤滑油Aの供給量を加速中の供給量よりも小さくする。この場合、流量制御部822は、制動装置を操作するブレーキペダルが操作されていない場合、制動装置が非動作状態であると判定し、ブレーキペダルが操作されている場合、制動装置が動作状態であると判定する。そして、流量制御部822は、車両の制動装置が非作動状態であり、かつエンジン1の燃焼室への燃料噴射が停止されている状態で車両が減速中の場合、噴射部14への潤滑油Aの供給量を加速中の供給量よりも小さくする。これにより、流量制御部822は、車両の制動装置が非作動状態であり、かつ燃焼室への燃料噴射が停止されている状態で減速する慣性走行中の場合には、ポンプ4の負荷を低減することでエンジン1の負荷を小さくできる。その結果、車両は、より長い距離を慣性走行可能になる。
【0041】
流量制御部822は、車両の制動装置が作動して減速中である場合、噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させない。具体的には、流量制御部822は、車両が減速中であり、かつピストン13の温度が所定範囲内であっても、制動装置が作動状態である場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給量を車両の加速中の噴射部14への供給量と同じにする。これにより、流量制御部822は、ポンプ4の負荷を増大させてエンジン1の負荷を大きくできるので、車両を減速させやすくなる。
【0042】
流量制御部822は、車両が減速中であっても、燃焼室への燃料噴射が行われている場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させない。具体的には、流量制御部822は、車両が減速中であり、かつピストン13の温度が所定範囲内であっても、燃焼室に燃料噴射が行われている場合には、噴射部14への潤滑油Aの供給量を車両の加速中の噴射部14への供給量と同じにする。これにより、流量制御部822は、燃焼室への燃料噴射が行われていてピストン13を冷却する必要がある際には、冷却に必要な量の潤滑油Aを噴射部14に供給できる。
【0043】
流量制御部822は、エンジン1の駆動力が伝達される動力伝達部材とエンジン1と間の動力の伝達を断接するクラッチの接続状態に応じて供給量を変更してもよい。具体的には、流量制御部822は、車両の制動装置が非作動状態であり、燃焼室への燃料噴射が停止されており、かつクラッチが接続状態で車両の減速中に、噴射部14への潤滑油Aの供給量を加速中の供給量よりも小さくする。これにより、流量制御部822は、所謂エンジンブレーキで減速中にポンプ4の負荷を低減できる。その結果、流量制御部822は、エンジンブレーキで減速中の回生エネルギーで発電機31を発電させることが可能になる。
【0044】
流量制御部822は、クラッチが切断状態である場合、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。例えば、流量制御部822は、クラッチが切断状態である場合に流量調節弁6を全閉にすることで噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。具体的には、流量制御部822は、車両の制動装置が非作動状態であり、燃焼室への燃料噴射が停止されており、かつクラッチが切断状態で車両が減速中の場合、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。このように、流量制御部822は、ピストン13を潤滑する必要がない場合には噴射部14にピストン13へ潤滑油Aを噴射させないので、ピストン13に過剰な量の潤滑油Aが供給されることを抑制できる。
【0045】
[供給量を決定する処理]
図3は、供給量を決定する処理の一例を示すフローチャートである。供給量を決定する処理は、車両が走行している間、所定間隔で実行される。所定間隔は、例えば100ミリ秒であるが、これに限定するものではない。また、ピストン13のピストン温度は取得されているものとする。
【0046】
まず、流量制御部822は、車両の制動装置が非作動状態であるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、流量制御部822は、車両のブレーキペダルが操作されていない場合、制動装置が非作動状態であると判定する。流量制御部822は、制動装置が非作動状態である場合(ステップS1でYes)、エンジン1の燃焼室への燃料噴射が停止しているか否かを判定する(ステップS2)。
【0047】
流量制御部822は、クラッチが接続状態であるか否かを判定する(ステップS3)。流量制御部822は、クラッチが接続状態である場合(ステップS3でYes)。ピストン13のピストン温度が所定範囲内であるか否かを判定する(ステップS4)。流量制御部822は、ピストン温度が所定範囲内である場合(ステップS4でYes)、噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させる(ステップS5)。具体的には、流量制御部822は、ピストン温度が低いほど流量調節弁6の開度を減少させて、車両の加速中の噴射部14への潤滑油Aの供給量よりも、車両の減速中の噴射部14への潤滑油Aの供給量を減少させる。
【0048】
流量制御部822は、ピストン温度が所定範囲外である場合(ステップS4でNo)、噴射部14の供給決定処理を実行する(ステップS6)。
図4は、供給決定処理の一例を示すフローチャートである。流量制御部822は、ピストン温度が所定範囲の下限値以上であるか否かを判定する(ステップS61)。流量制御部822は、ピストン温度が所定範囲の下限値未満である場合(ステップS61でNo)、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させることを決定する(ステップS66)。
【0049】
流量制御部822は、ピストン温度が所定範囲の下限値以上である場合(ステップS61でYes)、発電機31の発電量が最大値未満か否かを判定する(ステップS62)。具体的には、流量制御部822は、減速中にエンジン1が生み出す回生力で発電可能な電力が、発電機31が発電可能な電力の最大値未満であるか否かを判定する。
【0050】
流量制御部822は、発電機31の発電量が最大値未満である場合(ステップS62でYes)、車両に搭載されたバッテリの残容量が所定値未満か否かを判定する(ステップS63)。流量制御部822は、バッテリの残容量が所定値以上である場合(ステップS63でNo)、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止することを決定する(ステップS66)。
【0051】
流量制御部822は、発電機31の発電量が最大値以上である場合(ステップS62でNo)、又はバッテリの残容量が所定値未満である場合(ステップS63でYes)、潤滑油Aの潤滑油温度が温度上限値よりも大きいか否かを判定する(ステップS64)。流量制御部822は、潤滑油Aの潤滑油温度が温度上限値以下の場合(ステップS64でNo)、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止することを決定する(ステップS66)。流量制御部822は、潤滑油Aの潤滑油温度が温度上限値よりも高い場合(ステップS64でYes)、加速中と同量の潤滑油Aを噴射部14に供給すると決定する(ステップS65)。流量制御部822は、噴射部14への供給量を加速中と同量にするか、噴射部14への供給を停止するかを決定すると、供給決定処理を終了する。
【0052】
流量制御部822は、供給決定処理(ステップS6)が終了したら、噴射部14へ潤滑油Aを供給するか否かを判定する(ステップS7)。流量制御部822は、供給決定処理(ステップS6)において加速中と同量の潤滑油Aを噴射部14に供給すると決定した場合(ステップS7でYes)、加速中と同量の潤滑油Aを噴射部14へ供給する(ステップS8)。具体的には、流量制御部822は、流量調節弁6の開度を加速中の流量調節弁6の開度と同じにすることで加速中と同量の潤滑油Aを噴射部14へ供給する。
【0053】
流量制御部822は、供給決定処理(ステップS6)において潤滑油Aを噴射部14に供給しないと決定した場合(ステップS7でNo)、噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる(ステップS9)。具体的には、流量制御部822は、流量調節弁6を全閉にして噴射部14への潤滑油Aの供給量を0にすることで噴射部14への潤滑油Aの供給を停止させる。
【0054】
[調節システムSの効果]
以上説明したとおり、調節システムSは、ピストン13に向けて潤滑油Aを噴射する噴射部14と、潤滑油Aの吐出量を変更可能であり、かつ噴射部14に潤滑油Aを供給するポンプ4と、噴射部14とポンプ4とを接続する管路5と、管路5に設けられて、ポンプ4から噴射部14に供給される潤滑油Aの供給量を調節する流量調節弁6と、流量調節弁6を制御する流量制御部822とを有する。そして、調節システムSの流量制御部822は、車両の減速中の噴射部14への潤滑油Aの供給量を、0より大きく、かつ車両の加速中の供給量より小さくするとともに、ポンプ4の吐出量を減少させる。
【0055】
このように、調節システムSは、噴射部14への供給量を減らした際にポンプ4の吐出量を減少させる。そのため、ポンプ4が潤滑油Aを吐き出すのに必要な圧力の上昇が抑制されて、ポンプ4内の潤滑油Aの攪拌抵抗の増大が抑制される。つまり、調節システムSは、車両の減速中にポンプ4の吐出量を減少させない場合よりも、車両の減速時のポンプ4の負荷を低減できる。ポンプ4の負荷を低減することにより、調節システムSは、低減させた負荷の分だけエンジン1の回転力を、ポンプ4と異なる他の装置が優先して利用できるようになる。例えば、低減させた負荷の分のエンジン1の回転力を発電機31が優先して利用した際には、より多くの電力を発電させることが可能になる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0057】
S 調節システム
1 エンジン
2 クランクシャフト
4 ポンプ
5 管路
6 流量調節弁
7 温度センサ
8 流量制御装置
9 被潤滑部
11 エンジンブロック
12 シリンダ
13 ピストン
14 噴射部
21 出力軸
31 発電機
32 蓄電池
81 記憶部
82 制御部
821 取得部
822 流量制御部
【要約】
【課題】車両の減速時のオイルポンプの負荷を低減する。
【解決手段】調節システムSは、車両のエンジン1のシリンダ12に収容されるピストン13に向けて潤滑油Aを噴射する噴射部14と、噴射部14に潤滑油Aを供給するポンプ4と、噴射部14とポンプ4とを接続する管路5に設けられる流量調節弁6と、流量調節弁6を制御してポンプ4から噴射部14に供給される潤滑油Aの供給量を調節し、ポンプ4を制御してポンプ4の潤滑油Aの吐出量を制御する流量制御部と、を有し、流量制御部は、車両が減速している場合、供給量が0より大きく、かつ車両の加速中の供給量より小さくなるように流量調節弁6を制御し、ポンプ4の潤滑油Aの吐出量が減少するようにポンプ4を制御する。
【選択図】
図1