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  • -電力変換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241112BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023147291
(22)【出願日】2023-09-12
【審査請求日】2024-09-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 透典
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-44891(JP,A)
【文献】特開2013-74671(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230030(WO,A1)
【文献】特開2009-296708(JP,A)
【文献】特開2017-77121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体を備えた電力変換装置であって、
前記パワー半導体を冷却する冷却器と、
本体部の前記冷却器と対向する面に冷却面を有し、AC端子を有する前記パワー半導体と、
前記冷却器と前記パワー半導体との間に設けられ、前記AC端子に接続されるバスバーと、前記バスバーの両側の側縁から前記パワー半導体の方向へ立設した一対のシールドと、組立時に前記パワー半導体の前記本体部に重なる位置が切り抜かれた下側フレーム開口部と、を有する下側フレームと、
前記パワー半導体に対して前記冷却器の反対側に設けられ、組立時に前記シールドが貫通する位置に形成されたスリットと、組立時に前記パワー半導体の前記本体部および前記AC端子に重なる位置が切り抜かれた上側フレーム開口部と、前記上側フレーム開口部の側面から前記上側フレーム開口部の内側に向かって立設した板バネと、を有する上側フレームと、
前記上側フレームに対しての前記パワー半導体の反対側に配置され、電流センサが組立時に前記バスバーと重なる位置に搭載された基板と、
を備え、
前記パワー半導体は、前記上側フレームと前記下側フレームとの間に挟んだ状態で前記冷却器に固定されたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記下側フレームと前記冷却器との間に配置された絶縁板を有し、
前記パワー半導体は非絶縁タイプであることを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記バスバーと前記シールドは、前記下側フレームにインサート成型されたことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
複数相の交流電力を出力し、
各相の前記バスバーに対応する前記電流センサと前記シールドを備えたことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置では、スイッチング素子を含むパワー半導体を冷却器に接触させて冷却する技術が多用されている。
【0003】
また、電力変換装置では、パワー半導体の入力端子または出力端子に接続するバスバーの近傍に電流センサを配置して、バスバーに流れる出力電流検出値を検出することが多い。この電流センサで検出された出力電流検出値は制御や過電流保護に用いられる。
【0004】
パワー半導体と冷却器と電流センサを備える電力変換装置の先行技術として、特許文献1が開示されている。
【0005】
さらに、電流センサのノイズ誤動作防止対策として、電流センサとバスバーの近傍に金属のシールドを用いる技術が知られている。電流センサのシールドに関する先行技術として、特許文献2が開示されている。
【0006】
このシールドは、特に各相に電流センサとシールドを備える三相電力変換装置において、隣接する他相のバスバーに流れる電流に起因するノイズに対する電流センサ誤動作防止の効果を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-81308号公報
【文献】特開2022-138206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
パワー半導体が十分な冷却性能を得るためには、パワー半導体を冷却器へ圧力をかけて接触させる必要がある。
【0009】
また、シールド位置にずれがあると電流センサの検出精度に悪影響が生じる。よって、電力変換装置の組立時には、精度のよいシールドの位置決めが求められる。
【0010】
以上示したようなことから、電力変換装置において、パワー半導体の冷却能力を向上させ、かつ、シールドの位置決めの精度を向上させることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、パワー半導体を備えた電力変換装置であって、前記パワー半導体を冷却する冷却器と、本体部の前記冷却器と対向する面に冷却面を有し、AC端子を有する前記パワー半導体と、前記冷却器と前記パワー半導体との間に設けられ、前記AC端子に接続されるバスバーと、前記バスバーの両側の側縁から前記パワー半導体の方向へ立設した一対のシールドと、組立時に前記パワー半導体の前記本体部に重なる位置が切り抜かれた下側フレーム開口部と、を有する下側フレームと、前記パワー半導体に対して前記冷却器の反対側に設けられ、組立時に前記シールドが貫通する位置に形成されたスリットと、組立時に前記パワー半導体の前記本体部および前記AC端子に重なる位置が切り抜かれた上側フレーム開口部と、前記上側フレーム開口部の側面から前記上側フレーム開口部の内側に向かって立設した板バネと、を有する上側フレームと、前記上側フレームに対しての前記パワー半導体の反対側に配置され、電流センサが組立時に前記バスバーと重なる位置に搭載された基板と、を備え、前記パワー半導体は、前記上側フレームと前記下側フレームとの間に挟んだ状態で前記冷却器に固定されたことを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記下側フレームと前記冷却器との間に配置された絶縁板を有し、前記パワー半導体は非絶縁タイプであることを特徴とする。
【0013】
また、一態様として、前記バスバーと前記シールドは、前記下側フレームにインサート成型されたことを特徴とする。
【0014】
また、一態様として、複数相の交流電力を出力し、各相の前記バスバーに対応する前記電流センサと前記シールドを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力変換装置において、パワー半導体の冷却能力を向上させ、かつ、シールドの位置決めの精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態における電力変換装置を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明における電力変換装置の実施形態を図1に基づいて詳述する。
【0018】
[実施形態]
図1に本実施形態における電力変換装置に備えられたパワー半導体およびその周辺部品の構成を示す。電力変換装置は、複数相(図1では三相)の交流電力を出力することが可能な例えばインバータ等を示すものである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の電力変換装置は、下から順に、冷却器10と、絶縁板20と、下側フレーム30と、パワー半導体40と、上側フレーム50、が積層される。また、冷却器10に絶縁板20、下側フレーム30、パワー半導体40、上側フレーム50を取り付けるためのネジ60を備える。
【0020】
以下、各部について詳細に説明する。
【0021】
3つのパワー半導体40は、それぞれAC端子41と、P端子42と、N端子43と、を備える。AC端子41、P端子42、N端子43はパワー半導体40の本体部の側面から立設している。
【0022】
図1のパワー半導体40は、2つの半導体スイッチング素子を直列接続した内部構成となっている。2つの半導体スイッチング素子は、例えば、上アーム側IGBTと下アーム側IGBTが挙げられる。
【0023】
上アーム側IGBTのコレクタ端子とP端子42が接続される。下アーム側IGBTのエミッタ端子とN端子43が接続される。上アーム側IGBTのエミッタ端子と下アーム側IGBTのコレクタ端子とAC端子41が接続されている。
【0024】
また、パワー半導体40の本体部の裏面(冷却器10と対向する面)は冷却面となっている。本実施形態のパワー半導体40は非絶縁タイプであり、パワー半導体40の裏面に電極が露出して冷却面として作用する。この電極はパワー半導体40のP端子42またはN端子43またはAC端子41と同電位である。
【0025】
下側フレーム30は例えば樹脂から成る。下側フレーム30は冷却器10とパワー半導体40との間に配置される。下側フレーム30には、パワー半導体40の本体部に対応する位置(組立時に重なる位置)に下側フレーム開口部32が形成されている。また、下側フレーム30は、パワー半導体40のAC端子41と接続されるバスバー31と、パワー半導体40のP端子42と接続されるP側バスバー34と、パワー半導体40のN端子43と接続されるN側バスバー35と、を備える。
【0026】
バスバー31、P側バスバー34、N側バスバー35は、一端が下側フレーム開口部32の近傍に位置し他端が下側フレーム30の外周側方向に延出している。バスバー31、P側バスバー34、N側バスバー35の各他端側は、例えば電力変換装置の図外の負荷側部品(フィルタ等)や端子台等に接続される。
【0027】
また、バスバー31の側縁の両側(バスバー31の延設方向に対して直交する短手方向の両端の側縁)からは一対のシールド33がパワー半導体40の方向(図1の上側)に向かって立設している。このシールド33は、シールド効果(磁束安定化や、周辺部品からの磁界の抑制等の効果)を得ることが可能な態様であれば良く、その一例としては、強磁性材料等を適宜成形して成るものが挙げられる。
【0028】
シールド33、バスバー31、P側バスバー34、N側バスバー35はインサート成型により下側フレーム30に設けられる。また、下側フレーム30にはネジ孔36が複数形成される。
【0029】
上側フレーム50は例えば樹脂から成る。上側フレーム50は、パワー半導体40に対して下側フレーム430の反対側に配置される。
【0030】
上側フレーム50には、パワー半導体40の本体部に対応する位置(組立時に重なる位置)に上側フレーム開口部51が形成されている。また、上側フレーム開口部51の側面から上側フレーム50と水平方向、かつ、上側フレーム開口部51の内側に向かって板バネ52が立設している。また、本実施形態の上側フレーム開口部51はパワー半導体40のAC端子41、P端子42、N端子43に対応する位置(組立時に重なる位置)にも拡大して形成されている。
【0031】
また、上側フレーム50の外周側には、組立時に下側フレーム30のシールド33が上側フレーム50の厚さ方向に貫通する位置にスリット53が形成されている。また、上側フレーム50にはネジ孔54が形成されている。
【0032】
図1の上側フレーム50の上部(パワー半導体40の反対側)には図示省略の基板(例えば、ゲート駆動基板)が配置される。この基板内には電流センサ(例えばIC)が搭載される。電流センサは組立時に(図1の上下方向から見て)バスバー31と重なる位置に配置する。なお、基板にも上側フレーム50と同様に組立時に下側フレーム30のシールド33が貫通する位置にスリットが形成される。
【0033】
電流センサは、基板におけるバスバー31の電流が検出できる位置に実装されているものである。本実施形態の場合、組立時に対応するバスバー31に対し上側フレーム50、基板を挟んで対向(厚さ方向に対向)して位置するように、基板の冷却器10と反対側の面に実装されている。また、電流センサは組立時に一対のシールド33の間に位置する。この電流センサは、バスバー31の電流を検出できる態様であれば良い。
【0034】
冷却器10には、四隅にネジ孔11が形成されている。
【0035】
これら上側フレーム50、パワー半導体40、絶縁板20、冷却器10をネジ60で固定する。すなわち、下から順に冷却器10、絶縁板20、下側フレーム30、パワー半導体40、上側フレーム50、基板を積層し、ネジ60を上側フレーム50のネジ孔54、下側フレーム30のネジ孔36に貫通させた状態で冷却器10のネジ孔11に取り付ける。
【0036】
下側フレーム30に下側フレーム開口部32が形成されていることにより、組立時にパワー半導体40の本体部が下側フレーム30を貫通し、パワー半導体40の冷却面が絶縁板20を介して冷却器10に接する。また、上側フレーム50に上側フレーム開口部51、板バネ52が設けられることにより、組立時に上側フレーム50の板バネ52がパワー半導体40を冷却器10に圧力をかけて接触させる。
【0037】
また、パワー半導体40のAC端子41と下側フレーム30のバスバー31との接続は、AC端子41の丸穴とバスバー31のネジ孔(図示省略)を用いてのネジ接続とする。P端子42とP側バスバー34、N端子43とN側バスバー35も同様に接続される。
【0038】
また、シールド33はそれぞれ延出方向の先端部がそれぞれ上側フレーム50のスリット53、基板のスリットを介して、上側フレーム50、基板の厚さ方向に貫通している。
【0039】
図1に示すように、シールド33を上側フレーム50、基板を厚さ方向に貫通させた状態とすることにより、電流センサは、一対のシールド33の間、かつ、対応するバスバー31に対し上側フレーム50と基板を挟んで対向(厚さ方向に対向)して位置する。
【0040】
上側フレーム50にスリット53、基板にスリットが形成されていることにより組み立ての際、下側フレーム30のシールド33が上側フレーム50、基板に干渉しないため、組み立てが容易になる。
【0041】
下側フレーム30にはAC端子41と接続するバスバー31とシールド33がインサート成型されており、シールド33とバスバー31との位置関係の精度を向上させている。
【0042】
本発明によれば、パワー半導体40を冷却器10へ固定することができる。また、上側フレーム50の板バネ52によりパワー半導体40を冷却器10へ圧力をかけて接触させるためパワー半導体40の冷却能力が向上する。
【0043】
また、電流センサをシールド33で囲むことができるため、シールド効果(磁束安定化や周辺部品からの磁界の抑制等)を得ることができ、電流センサの検出精度を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態は電流センサおよびシールド33の両者を別体で有している構成であるため、モールド部材等が不要となり、電力変換装置内での当該両者それぞれの配置構成や支持構成の自由度が高くなり、周辺部品の配置構成や支持構成の自由度も高くなる。
【0045】
ゆえに、電力変換装置の構成の簡略化や小型化を図ることが容易になり、所望のシールド効果が得られ易くなる可能性がある。前記のような簡略化や小型化により、電力変換装置の組立性向上化(例えば組立工数や部品点数の抑制)、軽量化、低コスト化等も期待できる。
【0046】
シールド33の位置にずれがあると、電流センサの検出精度に悪影響を与える。そのため、電力変換装置の組み立て時には、精度のよいシールド33の位置決めが求められる。本実施形態では、下側フレーム30にバスバー31とシールド33がインサート成型されているため、シールド33の位置決めによる電流検出の精度が向上する。
【0047】
さらに、本実施形態は、パワー半導体40と冷却器10間の絶縁は絶縁板20のみであるため、パワー半導体40と冷却器10間の絶縁をコンパクトにすることができる。
【0048】
また、ネジ60を上側フレーム50のネジ孔54、下側フレーム30のネジ孔36に貫通させた状態で冷却器10のネジ孔11に取り付けるだけでパワー半導体40を冷却器10に圧力をかけて固定して冷却能力の向上させる共に、シールド33の精度の高い位置決めを行うことができるため、電力変換装置の組立て工数の削減に寄与する。
【0049】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0050】
例えば、実施形態ではパワー半導体40が裏面に電極を有する非絶縁タイプについて説明したが、パワー半導体40は裏面に冷却面を有していれば絶縁タイプでもよい。絶縁タイプの場合、裏面の金属は電極ではなく冷却面としてのみ作用する。また、パワー半導体40が絶縁タイプの場合は絶縁板20を省略してもよい。
【0051】
また、電力変換装置は、三相の交流電力を出力する各バスバー31の全てに対して電流センサ、シールドをそれぞれ設けた構成を説明しているが、これに限定されるものではない。例えば、複数相(例えば二相)の交流電力を出力する構成であれば良く、各バスバー31のうち少なくとも2個それぞれに電流センサ、シールドを設けた構成(すなわち、対応するバスバー31と電流センサ、シールドとの組み合わせが、少なくとも2個)であれば、本実施形態と同様の作用効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…冷却器
11…ネジ孔
20…絶縁板
30…下側フレーム
31…バスバー
32…下側フレーム開口部
33…シールド
34…P導体
35…N導体
36…ネジ孔
40…パワー半導体
41…AC端子
42…P端子
43…N端子
50…上側フレーム
51…上側フレーム開口部
52…板バネ
53…スリット
54…ネジ孔
60…ねじ
【要約】
【課題】電力変換装置において、パワー半導体の冷却能力を向上させ、かつ、シールドの位置決めの精度を向上させる。
【解決手段】下側フレーム30は、AC端子41に接続されるバスバー31と、バスバー31の両側の側縁から立設した一対のシールド33と、組立時にパワー半導体40の本体部に重なる位置が切り抜かれた下側フレーム開口部32と、を有する。上側フレーム50は、組立時にシールド33が貫通する位置に形成されたスリット53と、組立時にパワー半導体40の本体部およびAC端子41に重なる位置が切り抜かれた上側フレーム開口部51と、上側フレーム開口部51の側面から上側フレーム開口部51の内側に向かって立設した板バネ52と、を有する。基板には組立時にバスバー31と重なる位置に電流センサが搭載される。パワー半導体40は上側フレーム50と下側フレーム30との間に挟んだ状態で冷却器10に固定される。
【選択図】図1
図1