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特許7586281ポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物およびポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241112BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241112BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20241112BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241112BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241112BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241112BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
C08K5/3445
B32B27/34
B32B27/18 Z
B05D7/24 302X
B05D3/02 Z
B05D7/24 303E
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023500928
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2022006442
(87)【国際公開番号】W WO2022176956
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2021025747
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021039787
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021110718
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】根本 雄基
(72)【発明者】
【氏名】小濱 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太一
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/030019(WO,A1)
【文献】特開昭60-015426(JP,A)
【文献】特開昭61-267030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73
C08L 79
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、
前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル超から2モル以下の範囲の量で含有される少なくとも1種のイミダゾール化合物、および
溶媒
を含有し、化学イミド化剤を含有しない熱イミド化用のポリイミド前駆体組成物。
【化1】

(一般式I中、Xは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Yは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基であり、但し、Xの70モル%以上が、式(1-1):
【化2】
で表される構造であり、Yの70モル%以上が、式(D-1)および/または(D-2):
【化3】
で表される構造である。)
【請求項2】
前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
の90モル%以上が、前記式(1-1)で表される構造であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
このポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムが、515℃以上の5%重量減少温度を示すことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
このポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムが、20ppm/K以下の線熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項6】
このポリイミド前駆体組成物から得られる厚さ10μmのポリイミドフィルムが、1.0%未満のヘーズ値を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項7】
密閉状態にて23℃で10日間保存したとき、流動性を維持していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムと、
基材と
を有することを特徴とするポリイミドフィルム/基材積層体。
【請求項10】
前記基材が、ガラス基板である請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
(a)請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、および
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムを積層する工程
を有するポリイミドフィルム/基材積層体の製造方法。
【請求項12】
前記基材が、ガラス基板である請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
(a)請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムが積層されたポリイミドフィルム/基材積層体を製造する工程、
(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および
(d)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程
を有するフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記基材が、ガラス基板である請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブルデバイスの基板等の電子デバイス用途に好適に使用されるポリイミド前駆体組成物および耐熱分解性が向上したポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、電気・電子デバイス分野、半導体分野などの分野で広く使用されてきた。一方、近年、高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。特に表示装置分野で、ガラス基板の代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討や、曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が盛んに行われている。
【0003】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイでは、各ピクセルを駆動するためのTFT等の半導体素子が形成される。このため、基板には耐熱性や寸法安定性が要求される。ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、ディスプレイ用途の基板として有望である。
【0004】
ポリイミドは、一般に黄褐色に着色しているため、バックライトを備えた液晶ディスプレイなどの透過型デバイスでの使用には制限があったが、近年になって、機械的特性、熱的特性に加えて光透過性に優れたポリイミドフィルムが開発されており、ディスプレイ用途の基板としてさらに期待が高まっている(特許文献1~3参照)。
【0005】
特許文献4~8には、単結合で結合した2つのノルボルナン環(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環)構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含むモノマー成分から得られたポリイミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/011590号公報
【文献】国際公開第2013/179727号公報
【文献】国際公開第2014/038715号公報
【文献】国際公開2017/030019号公報
【文献】国際公開2019/163703号公報
【文献】特開2018-44180号公報
【文献】国際公開2018/051888号公報
【文献】特開2019-137828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TFT(thin film transistor)としては、アモルファスシリコンTFT(a-Si TFT)、低温ポリシリコンTFT(LTPS TFT)、高温ポリシリコンTFT、酸化物TFTなどが知られている。比較的低温で成膜可能とされるアモルファスシリコンTFTでも、300℃~400℃の成膜温度が必要である。特に、電荷移動度の大きい半導体層の形成には高温成膜が有利である。しかしながら、ポリイミドフィルムの耐熱分解性が不十分な場合、例えばTFT形成工程において、ポリイミドの分解等に伴うアウトガスにより、ポリイミドフィルムとバリア膜との間に膨れが生じたり、製造装置を汚染したりすることがある。フレキシブル電子デバイス用基板としては、高温で安定な材料、即ちプロセス温度において耐熱分解性に優れ、ガス発生が極めて小さいフィルムが好ましい。プロセスマージンの観点からも、熱分解(開始)温度が高いフィルムが好ましい。
【0008】
また、フレキシブル電子デバイスの製造工程では、加熱と冷却(放冷)が繰り返されることから、フレキシブル電子デバイス用基板としては、線熱膨張係数(CTE)が十分に小さい熱的特性に優れたポリイミドフィルムが好ましい。
【0009】
前記特許文献4~8には、光透過性と耐熱性が優れたポリイミドを提供することが目的であると記載されている。光透過性、機械的特性を満足できる範囲で有しながら、十分に小さい線熱膨張係数と耐熱分解性を同時に高いレベルで満たすポリイミドフィルムは開示されていない。例えば、特許文献6では耐熱性をガラス転移温度(Tg)により評価しているが、耐熱分解性に優れたポリイミドフィルムの開示はない。従って、例えばフレキシブル電子デバイス用基板として最適な、耐熱分解性に優れたポリイミドフィルムの実現が強く求められている。
本発明者の集中的な研究の結果、単結合で結合した2つのノルボルナン環を有するテトラカルボン酸二無水物を含む適切なテトラカルボン酸成分と適切なジアミン成分の組み合わせとして、耐熱性の高いポリイミドを与える組成を見いだした。しかし、これらから製造したフィルムのヘーズ値が大きくフィルムに濁りが観察されるため、ディスプレイ用途等の光学用基板としての用途には不向きであることが判った。
さらに、本発明者の研究の結果、耐熱性の高いポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液は、保存安定性が悪く、保存中に流動性が低下する問題があることが判った。
【0010】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたものであり、線熱膨張係数が十分に小さく、かつ光透過性および機械的特性に優れ、加えて、特に耐熱分解性に優れたポリイミドフィルムを製造できる前駆体組成物、およびこの前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
さらに本発明の一態様は、好ましくは上記の特性に加えて、ヘーズ値が小さく濁りの少ないポリイミドフィルムを製造することが可能なポリイミド前駆体組成物およびこの前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
さらに本発明の一態様は、好ましくは上記の特性を有するポリイミドフィルムを製造することが可能であることに加えて、保存安定性に優れたポリイミド前駆体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願の主要な開示事項をまとめると、以下のとおりである。
1. 繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、
前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル超から2モル以下の範囲の量で含有される少なくとも1種のイミダゾール化合物、および
溶媒
を含有することを特徴とするポリイミド前駆体組成物。
【0012】
【化1】

(一般式I中、Xは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Yは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基であり、但し、Xの70モル%以上が、式(1-1):
【0013】
【化2】
で表される構造であり、Yの70モル%以上が、式(D-1)および/または(D-2):
【0014】
【化3】
で表される構造である。)
【0015】
2. 前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0016】
3. Xの90モル%以上が、前記式(1-1)で表される構造であることを特徴とする上記項1または2に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0017】
4. このポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムが、515℃以上の5%重量減少温度を示すことを特徴とする上記項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0018】
5. このポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムが、20ppm/K以下の線熱膨張係数を有することを特徴とする上記項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0019】
6. このポリイミド前駆体組成物から得られる厚さ10μmのポリイミドフィルムが、1.0%未満のヘーズ値を有することを特徴とする上記項1~5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0020】
7. 密閉状態にて23℃で10日間保存したとき、流動性を維持していることを特徴とする上記項1~6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0021】
8. 上記項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【0022】
9. 上記項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムと、
基材と
を有することを特徴とするポリイミドフィルム/基材積層体。
【0023】
10. 前記基材が、ガラス基板である上記項9に記載の積層体。
【0024】
11. (a)上記項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、および
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムを積層する工程
を有するポリイミドフィルム/基材積層体の製造方法。
【0025】
12. 前記基材が、ガラス基板である上記項11に記載の製造方法。
【0026】
13. (a)上記項1~7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムが積層されたポリイミドフィルム/基材積層体を製造する工程、
(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および
(d)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程
を有するフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【0027】
14. 前記基材が、ガラス基板である上記項13に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、線熱膨張係数が十分に小さく、光透過率、機械的特性および耐熱分解性に優れたポリイミドフィルムを製造することが可能なポリイミド前駆体組成物およびこの前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムを提供することができる。
さらに本発明の一態様によれば、好ましくは上記の特性に加えて、ヘーズ値が小さく濁りの少ないポリイミドフィルムを製造することが可能なポリイミド前駆体組成物およびこの前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムを提供することができる。
さらに本発明の一態様によれば、好ましくは上記の特性を有するポリイミドフィルムを製造することが可能であることに加えて、保存安定性に優れたポリイミド前駆体組成物を提供することができる。
【0029】
さらに本発明の一態様によれば、前記ポリイミド前駆体組成物を使用して得られるポリイミドフィルム、およびポリイミドフィルム/基材積層体を提供することができる。さらに本発明の異なる一態様によれば、前記ポリイミド前駆体組成物を使用するフレキシブル電子デバイスの製造方法、およびフレキシブル電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本出願において、「フレキシブル(電子)デバイス」とは、デバイス自身がフレキシブルであることを意味し、通常、基板上で半導体層(素子としてトランジスタ、ダイオード等)が形成されてデバイスが完成する。「フレキシブル(電子)デバイス」は、従来のFPC(フレキシブルプリント配線板)上にICチップ等の「硬い」半導体素子が搭載された例えばCOF(Chip On Film)等のデバイスと区別される。但し、本願の「フレキシブル(電子)デバイス」を動作または制御するために、ICチップ等の「硬い」半導体素子をフレキシブル基板上に搭載したり、電気的に接続したりして、融合して使用することは何ら問題がない。好適に使用されるフレキシブル(電子)デバイスとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、および電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池、およびCMOS等の受光デバイスを挙げることができる。
【0031】
以下に、本発明のポリイミド前駆体組成物について説明し、その後、フレキシブル電子デバイスの製造方法について説明する。
【0032】
<<ポリイミド前駆体組成物>>
ポリイミドフィルムを形成するためのポリイミド前駆体組成物は、ポリイミド前駆体、イミダゾール化合物および溶媒を含有する。ポリイミド前駆体およびイミダゾール化合物はどちらも溶媒に溶解している。
【0033】
ポリイミド前駆体は、下記一般式(I):
【0034】
【化4】
(一般式I中、Xは4価の脂肪族基または芳香族基であり、Yは2価の脂肪族基または芳香族基であり、RおよびRは互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基である。)
で表される繰り返し単位を有する。特に好ましくは、RおよびRが水素原子であるポリアミック酸である。XおよびYが脂肪族基である場合、脂肪族基は好ましくは脂環構造を有する基である。
【0035】
ポリイミド前駆体中の全繰り返し単位中、Xは、好ましくは70モル%以上が、以下の式(1-1)で示される構造、即ち2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸二無水物(以下、必要によりBNBDAと略す。)に由来する構造である。
【0036】
【化5】
【0037】
ポリイミド前駆体中の全繰り返し単位中、Yは、好ましくは70モル%以上が、以下の式(D-1)および/または(D-2)で示される構造、即ち、4,4’-ジアミノベンズアニリド(必要によりDABANと略す)に由来する構造である。
【0038】
【化6】
【0039】
このようなポリイミド前駆体を含有する組成物を使用することで、線熱膨張係数が十分に小さく、かつ光透過性および機械的特性に優れ、加えて、特に耐熱分解性に優れたポリイミドフィルムを製造することができる。
【0040】
ポリイミド前駆体について、一般式(I)中のXおよびYを与えるモノマー(テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、その他成分)により説明し、続いて製造方法を説明する。
【0041】
本明細書において、テトラカルボン酸成分は、ポリイミドを製造する原料として使用されるテトラカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物、その他テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等のテトラカルボン酸誘導体を含む。特に限定されるわけではないが、製造上、テトラカルボン酸二無水物を使用することが簡便であり、以下の説明ではテトラカルボン酸成分としてテトラカルボン酸二無水物を用いた例を説明する。また、ジアミン成分は、ポリイミドを製造する原料として使用される、アミノ基(-NH)を2個有するジアミン化合物である。
【0042】
また、本明細書において、ポリイミドフィルムは、(キャリア)基材上に形成されて積層体の中に存在するもの、および基材を剥離した後のフィルムの両方を意味する。また、ポリイミドフィルムを構成している材料、即ちポリイミド前駆体組成物を加熱処理して(イミド化して)得られた材料を、「ポリイミド材料」という場合がある。
【0043】
<Xおよびテトラカルボン酸成分>
前述のとおり、ポリイミド前駆体中の全繰り返し単位中、Xは、好ましくは70モル%以上が式(1-1)で示される構造であり、より好ましくは80モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上、最も好ましくは95モル%以上(100モル%も非常に好ましい)が式(1-1)で示される構造である。Xとして式(1-1)の構造を与えるテトラカルボン酸二無水物は2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸二無水物(BNBDA)である。
【0044】
本発明において、Xとして、式(1-1)で示される構造以外の4価の脂肪族基または芳香族基(「その他のX」と略称する)を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。即ち、テトラカルボン酸成分は、BNBDAに加えてその他のテトラカルボン酸誘導体を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。その他のテトラカルボン酸誘導体の量は、テトラカルボン酸成分100モル%に対して、30モル%以下(好ましくは30モル%未満)、より好ましくは20モル%以下(好ましくは20モル%未満)、さらにより好ましくは10モル%以下(好ましくは10モル%未満)(0モル%も好ましい)である。
【0045】
「その他のX」が芳香族環を有する4価の基である場合、炭素数が6~40の芳香族環を有する4価の基が好ましい。
【0046】
芳香族環を有する4価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0047】
【化7】
(式中、Zは直接結合、または、下記の2価の基:
【0048】
【化8】
のいずれかである。ただし、式中のZは、2価の有機基、Z3、はでそれぞれ独立にアミド結合、エステル結合、カルボニル結合であり、Zは芳香環を含む有機基である。)
【0049】
としては、具体的には、炭素数2~24の脂肪族炭化水素基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0050】
としては、具体的には、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0051】
芳香族環を有する4価の基としては、得られるポリイミドフィルムの高耐熱性と高光透過性を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0052】
【化9】
(式中、Zは直接結合、または、へキサフルオロイソプロピリデン結合である。)
【0053】
ここで、得られるポリイミドフィルムの高耐熱性、高光透過性、低線熱膨張係数を両立できるので、Zは直接結合であることがより好ましい。
【0054】
加えて好ましい基として、上記式(9)において、Zが下式(3A):
【0055】
【化10】
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z11およびZ12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z11およびZ12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3A1):
【0056】
【化11】
(Z13およびZ14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ14がフルオレニル基に結合した場合、Z13が-COO-、-OCO-または-O-でZ14が単結合の構造が好ましく;R91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはメチルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表される構造が好ましい。
【0057】
が芳香族環を有する4価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’-オキシジフタル酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、ビスカルボキシフェニルジメチルシラン、ビスジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド、スルホニルジフタル酸や、これらのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。Xがフッ素原子を含有する芳香族環を有する4価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンや、これのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。さらに、好ましい化合物として、(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチル-4,1-フェニレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0058】
「その他のX」が脂環構造を有する4価の基である場合、炭素数が4~40の脂環構造を有する4価の基が好ましく、少なくとも一つの脂肪族4~12員環、より好ましくは脂肪族4員環または脂肪族6員環を有することがより好ましい。好ましい脂肪族4員環または脂肪族6員環を有する4価の基としては、下記のものが挙げられる。
【0059】
【化12】
(式中、R31~R38は、それぞれ独立に直接結合、または、2価の有機基である。R41~R47、およびR71~R73は、それぞれ独立に式:-CH-、-CH=CH-、-CHCH-、-O-、-S-で表される基よりなる群から選択される1種を示す。R48は芳香環もしくは脂環構造を含む有機基である。)
【0060】
31、R32、R33、R34、R35、R36、R37、R38としては、具体的には、直接結合、または、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基、または、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合が挙げられる。
【0061】
48として芳香環を含む有機基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0062】
【化13】
(式中、Wは直接結合、または、2価の有機基であり、n11~n13は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R51、R52、R53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である。)
【0063】
としては、具体的には、直接結合、下記の式(5)で表される2価の基、下記の式(6)で表される2価の基が挙げられる。
【0064】
【化14】
(式(6)中のR61~R68は、それぞれ独立に直接結合または前記式(5)で表される2価の基のいずれかを表す。)
【0065】
脂環構造を有する4価の基としては、得られるポリイミドの高耐熱性、高光透過性、低線熱膨張係数を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0066】
【化15】
【0067】
が脂環構造を有する4価の基である式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-オキシビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-スルホニルビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(テトラフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、オクタヒドロペンタレン-1,3,4,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸、9-オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2c,3c,6c,7c-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4-エタノ-5,8-メタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、テトラデカヒドロ-1,4:5,8:9,10-トリメタノアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸や、これらのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
<Yおよびジアミン成分>
前述のとおり、ポリイミド前駆体中の全繰り返し単位中、Yは、好ましくは70モル%以上が式(D-1)および/または(D-2)で示される構造であり、より好ましくは80モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上(100モル%も好ましい)が、式(D-1)および/または(D-2)で示される構造である。Yとして式(D-1)、式(D-2)の構造を与えるジアミン化合物は、4,4’-ジアミノベンズアニリド(略称:DABAN)である。
【0069】
本発明において、Yとして、式(D-1)および(D-2)で示される構造以外の2価の脂肪族基または芳香族基(「その他のY」と略称する)を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。即ち、ジアミン成分は、DABANに加えてその他のジアミン化合物を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。その他のジアミン化合物の量は、ジアミン成分100モル%に対して、30モル%以下(好ましくは30モル%未満)、より好ましくは20モル%以下(好ましくは20モル%未満)、さらにより好ましくは10モル%以下(好ましくは10モル%未満)(0モル%も好ましい)である。
【0070】
本発明の好ましい一態様において、Yにおける式(D-1)および/または(D-2)の構造の割合が、100モル%未満である。この場合、その他のYとして、式(G-1):
【0071】
【化16】
(式中、mは0~3を表し、n1およびn2はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、BおよびBはそれぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基または炭素数1~6のフルオロアルキル基よりなる群から選択される1種を表し、Xはそれぞれ独立に、直接結合、または式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種を表す。但し、前記式(D-1)および(D-2)は除く。)
で表される構造を含むことが好ましい。
【0072】
mは好ましくは0、1または2、n1およびn2は好ましくは0または1、BおよびBは、好ましくはメチル基またはトリフルオロメチル基である。例えば、m=0でn1=0の構造、m=1でXが直接結合または-COO-、-OCO-で、n1=n2=0または1の構造、m=2でXが直接結合または-COO-、-OCO-である構造などがあげられる。特に好ましい構造は、m=1で、Xが直接結合であるものである。
【0073】
式(G-1)の構造は、好ましくはYの0モル%超30モル%以下、さらに好ましくは5モル%超30モル%以下の割合で含まれる。式(G-1)の構造を含むことで、破断強度などの機械的特性および光学特性を改善することができる。式(G-1)の構造としては、式(B-1)および/または(B-2):
【0074】
【化17】
で表される構造が挙げられる。
また、Yとして式(D-1)、式(D-2)および式(G-1)以外の「その他のY」を10モル%以下(0モル%も好ましい)の割合で含有してもよい。
【0075】
式(G―1)以外の「その他のY」が芳香族環を有する2価の基である場合、炭素数が6~40、更に好ましくは炭素数が6~20の芳香族環を有する2価の基が好ましい。
【0076】
芳香族環を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。但し、式(G-1)に包含されるものは除かれる。
【0077】
【化18】
(式中、Wは直接結合、または、2価の有機基であり、n11~n13は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R51、R52、R53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である。)
【0078】
としては、具体的には、直接結合、下記の式(5)で表される2価の基、下記の式(6)で表される2価の基が挙げられる。
【0079】
【化19】
【0080】
【化20】
(式(6)中のR61~R68は、それぞれ独立に直接結合または前記式(5)で表される2価の基のいずれかを表す。)
【0081】
ここで、得られるポリイミドの高耐熱性、高光透過性、低線熱膨張係数を両立できるので、Wは、直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種であることが特に好ましい。また、Wが、R61~R68が直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種である前記式(6)で表される2価の基のいずれかであることも特に好ましい。但し、-NHCO-または-CONH-が選択されるときは、式(D-1)または式(D-2)と異なるように、「その他のY」が選択される。
【0082】
加えて好ましい基として、上記式(4)において、Wが下式(3B):
【0083】
【化21】
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z11およびZ12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z11およびZ12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3B1):
【0084】
【化22】
(Z13およびZ14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ14がフルオレニル基に結合した場合、Z13が-COO-、-OCO-または-O-でZ14が単結合の構造が好ましく;R91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはフェニルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表される構造が好ましい。
【0085】
別の好ましい基として、上記式(4)において、Wがフェニレン基である化合物、即ちターフェニルジアミン化合物が挙げられ、特にすべてパラ結合である化合物が好ましい。
【0086】
別の好ましい基として、上記式(4)において、Wが式(6)の最初のフェニル環1個の構造において、R61およびR62が2,2-プロピリデン基である化合物が挙げられる。
【0087】
さらに別の好ましい基として、上記式(4)において、Wが次の式(3B2):
【0088】
【化23】
で表される化合物が挙げられる。
【0089】
が芳香族環を有する2価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、p-メチレンビス(フェニレンジアミン)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス((アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、オクタフルオロベンジジン、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-エチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アニリノ-1,3,5-トリアジンが挙げられる。Yがフッ素原子を含有する芳香族環を有する2価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。加えて好ましいジアミン化合物として、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン、4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0090】
「その他のY」が脂環構造を有する2価の基である場合、炭素数が4~40の脂環構造を有する2価の基が好ましく、少なくとも一つの脂肪族4~12員環、より好ましくは脂肪族6員環を有することが更に好ましい。
【0091】
脂環構造を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0092】
【化24】
(式中、V、Vは、それぞれ独立に直接結合、または、2価の有機基であり、n21~n26は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R81~R86は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基であり、R91、R92、R93は、それぞれ独立に 式:-CH-、-CH=CH-、-CHCH-、-O-、-S-で表される基よりなる群から選択される1種である。)
【0093】
、Vとしては、具体的には、直接結合および前記の式(5)で表される2価の基が挙げられる。
【0094】
脂環構造を有する2価の基としては、得られるポリイミドの高耐熱性、低線熱膨張係数を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0095】
【化25】
脂環構造を有する2価の基としては、中でも、下記のものが好ましい。
【0096】
【化26】
【0097】
が脂環構造を有する2価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、1,4-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,3-ジアミノシクロブタン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0098】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分として、脂環式以外の脂肪族テトラカルボン酸類(特に二無水物)および/または脂肪族ジアミン類のいずれも使用することができるが、その含有量は、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分の合計100モル%に対して、好ましくは30モル%未満、より好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満(0%を含む)であることが好ましい。
【0099】
「その他のY」として、式(4)で表される構造、具体的化合物としては、p-フェニレンジアミン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノジフェニルエーテル等のジアミン化合物を含有させることにより、得られるポリイミドフィルムの光透過性、その他の物性を改善できる場合がある。また、「その他のY」として、式(3B)で表される構造、具体的化合物としては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等のジアミン化合物を含有させることにより、Tgの向上や膜厚方向の位相差(リターデーション)を低下させることができる場合がある。
【0100】
ポリイミド前駆体は、上記テトラカルボン酸成分とジアミン成分から製造することができる。本発明に用いられるポリイミド前駆体(前記式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含むポリイミド前駆体)は、R及びRが取る化学構造によって、
1)ポリアミド酸(R及びRが水素)、
2)ポリアミド酸エステル(R及びRの少なくとも一部がアルキル基)、
3)4)ポリアミド酸シリルエステル(R及びRの少なくとも一部がアルキルシリル基)、
に分類することができる。そして、ポリイミド前駆体は、この分類ごとに、以下の製造方法により容易に製造することができる。ただし、本発明で使用されるポリイミド前駆体の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0101】
1)ポリアミック酸
ポリイミド前駆体は、溶媒中でテトラカルボン酸成分としてのテトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを略等モル、好ましくはテトラカルボン酸成分に対するジアミン成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05の割合で、例えば120℃以下の比較的低温度でイミド化を抑制しながら反応することによって、ポリイミド前駆体溶液として好適に得ることができる。
【0102】
限定するものではないが、より具体的には、有機溶剤または水にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。上記製造方法でのジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序は、ポリイミド前駆体の分子量が上がりやすいため、好ましい。また、上記製造方法のジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序を逆にすることも可能であり、析出物が低減することから、好ましい。溶媒として水を使用する場合は、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール類、あるいはトリエチルアミン等の塩基を、生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上の量で、添加することが好ましい。
【0103】
2)ポリアミック酸エステル
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールと反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを-20~120℃、好ましくは-5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。
【0104】
この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加えて再沈殿などの精製を行うこともできる。
【0105】
3)ポリアミック酸シリルエステル(間接法)
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る。必要に応じて、蒸留等により、シリル化されたジアミンの精製を行う。そして、脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0106】
4)ポリアミック酸シリルエステル(直接法)
1)の方法で得られたポリアミック酸溶液とシリル化剤を混合し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0107】
3)の方法、及び4)の方法で用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたポリアミック酸、もしくは、得られたポリイミドを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0108】
また、3)の方法のジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0109】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒は、水や、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましく、原料モノマー成分と生成するポリイミド前駆体が溶解すれば、どんな種類の溶媒であっても問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。溶媒として、水や、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。なお、溶媒は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0110】
ポリイミド前駆体の製造では、特に限定されないが、ポリイミド前駆体の固形分濃度(ポリイミド換算質量濃度)が例えば5~45質量%となるような濃度でモノマーおよび溶媒を仕込んで反応を行う。
【0111】
ポリイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されないが、30℃での濃度0.5g/dLのN-メチル-2-ピロリドン溶液における対数粘度が0.2dL/g以上、より好ましくは0.3dL/g以上、特に好ましくは0.4dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.2dL/g以上では、ポリイミド前駆体の分子量が高く、得られるポリイミドの機械強度や耐熱性に優れる。
【0112】
<イミダゾール化合物>
ポリイミド前駆体組成物は、少なくとも1種類のイミダゾール化合物を含有する。イミダゾール化合物は、イミダゾール骨格を有する化合物であれば特に限定されず、例えば1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールなどが挙げられる。ポリイミド前駆体組成物の保存安定性の観点では、2-フェニルイミダゾールおよびベンゾイミダゾールが好ましい。イミダゾール化合物は、複数の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0113】
ポリイミド前駆体組成物中のイミダゾール化合物の含有量は、添加効果とポリイミド前駆体組成物の安定性のバランスを考慮して適宜選ぶことができる。イミダゾール化合物の量は、好ましくは、ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル超から2モル以下である。イミダゾール化合物の添加は、光透過率、線熱膨張係数および/または機械的特性の改善に効果があり、一方、イミダゾール化合物の含有量が多すぎると、ポリイミド前駆体組成物の保存安定性が悪くなる場合がある。
【0114】
イミダゾール化合物の含有量は、いずれも繰り返し単位1モルに対して、より好ましくは0.02モル以上、さらにより好ましくは0.025モル以上、さらにより好ましくは0.05モル以上であり、またより好ましくは1.5モル以下、さらにより好ましくは1.2モル以下、さらにより好ましくは1.0以下、さらにより好ましくは0.8モル以下、最も好ましくは0.6以下である。
【0115】
また、本発明者による集中的な研究の中で、繰り返し単位が一般式(I)で表されるポリイミド前駆体を含みイミダゾール化合物を含まない溶液からフィルムを形成したところ、ヘーズ値が大きくフィルムに濁りが観察されるため、ディスプレイ用途等の光学用基板としての用途には不向きであることが判った。イミダゾール化合物を含有する本発明のポリイミド前駆体組成物からフィルムを製造したところ、ヘーズ値が小さく透明性(濁りがない)に優れており、フレキシブル電子デバイスの中でも特にディスプレイ用途等の光学電子デバイス基板に適している。
【0116】
この観点において、本出願は、繰り返し単位が前記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体および溶媒を含有するポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミドフィルムのヘーズ値改善方法であって、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル超から2モル以下の量の少なくとも1種のイミダゾール化合物を含有させることによる、ヘーズ値改善方法も開示している。
【0117】
さらに、本発明者による集中的な研究の中で得られた知見として、繰り返し単位が一般式(I)で表されるポリイミド前駆体の溶液(イミダゾール化合物を含まない)は、保存安定性が悪く、保存中に流動性が低下することが判った。これに対して、イミダゾール化合物を添加した本発明のポリイミド前駆体組成物は、保存安定性に優れるため、輸送、流通および在庫保管の観点で特に有利である。イミダゾール化合物を含まない場合に保存安定性が低下しやすい組成として、ポリイミド換算質量濃度(固形分濃度)が大きい場合が挙げられる。この効果は、特に溶液の固形分濃度が10質量%以上、好ましくは15質量%以上の溶液に適用した場合に明確に確認できる。また、この効果が特に有効な組成は、一般式(I)のX中、式(1-1)の割合が大きい組成、および/またはY中、式(D-1)および/または(D-2)の割合が大きい組成である。特に、X中の式(1-1)の割合が80%以上、好ましくは90%以上、およびY中の式(D-1)および/または(D-2)の割合が80%以上、好ましくは90%以上である組成に対して、大きな効果が見られる。
【0118】
この観点において、本出願は、繰り返し単位が前記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体および溶媒を含有し、保存安定性に劣るポリイミド前駆体溶液の保存安定性の改善方法であって、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル超から2モル以下の量の少なくとも1種のイミダゾール化合物を含有させることによる、保存安定性の改善方法も開示している。
【0119】
<ポリイミド前駆体組成物の配合>
本発明で使用されるポリイミド前駆体組成物は、少なくとも1種のポリイミド前駆体と、少なくとも1種の上記のイミダゾール化合物と、溶媒を含む。
【0120】
溶媒としては、ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒として説明した前述のものを使用することができる。通常は、ポリイミド前駆体を調製する際に使用した溶媒をそのままで、即ちポリイミド前駆体溶液のままで使用することができるが、必要により希釈または濃縮して使用してもよい。イミダゾール化合物は、ポリイミド前駆体組成物中に溶解して存在している。ポリイミド前駆体の濃度は、特に限定されないが、ポリイミド換算質量濃度(固形分濃度)で通常5~45質量%である。ここで、ポリイミド換算質量とは、繰り返し単位の全てが完全にイミド化されたとしたときの質量である。
【0121】
本発明のポリイミド前駆体組成物の粘度(回転粘度)は、特に限定されないが、E型回転粘度計を用い、温度25℃、せん断速度20sec-1で測定した回転粘度が、0.01~1000Pa・secが好ましく、0.1~100Pa・secがより好ましい。また、必要に応じて、チキソ性を付与することもできる。上記範囲の粘度では、コーティングや製膜を行う際、ハンドリングしやすく、また、はじきが抑制され、レベリング性に優れるため、良好な被膜が得られる。
【0122】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー(シリカ等の無機粒子など)、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)などを含有することができる。
【0123】
ポリイミド前駆体組成物の調製は、前述のとおりの方法で得られたポリイミド前駆体溶液に、イミダゾール化合物またはイミダゾール化合物の溶液を加えて混合することで調製することができる。イミダゾール化合物の存在下でテトラカルボン酸成分とジアミン成分を反応させてもよい。
【0124】
<<ポリイミド前駆体組成物の用途およびフィルム物性>>
本発明のポリイミド前駆体組成物を使用してポリイミドおよびポリイミドフィルムを製造することができる。製造方法は特に限定されず、公知のイミド化の方法いずれも好適に適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミドフィルムと他の基材との積層体、コーティング膜、粉末、ビーズ、成型体、発泡体などを好適に挙げることができる。
【0125】
用途にもよるが、ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、例えば250μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。
【0126】
本発明のポリイミドフィルムは、光透過性、機械的特性、熱的特性および耐熱性に優れている。ここで「耐熱性」としては、相変化(ガラス転移温度や溶融温度などが指標となる)に関するものと、熱分解(重量減少が指標となる)に関するものがある。両者は異なる現象であるため、直接的な関係はない。本発明のポリイミドおよびポリイミドフィルムは、ガラス転移温度(Tg)と耐熱分解性の両方において優れており、特に耐熱分解性において従来のポリイミドに比べて優れている。
【0127】
ポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)の耐熱分解性の評価は、フレキシブル電子デバイス等の製造工程に要求される特性に基づいて設定することができる。例えば、ポリイミドフィルムの5%重量減少温度で評価することができる。5%重量減少温度は、好ましくは515℃以上、より好ましくは517℃以上、さらにより好ましくは520℃以上である。5%重量減少温度が「好ましい範囲」にある場合は、耐熱分解性が明確に向上した材料として、「さらにより好ましい範囲」にある場合は、耐熱分解性向上が非常に向上した材料として、「さらにより好ましい範囲」にある場合は、耐熱分解性向上が格段に向上した材料として認識される。5%重量減少温度が2,3℃向上するだけでも、プロセスマージンが向上するので、フレキシブル電子デバイスの安定した製造に有利である。
【0128】
また、アウトガスによる汚染などを特に問題にするときは、ポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)の耐熱分解性の評価を、ポリイミドフィルムの0.5%重量減少温度等のより厳格な基準で評価することも好ましい。
0.5%重量減少温度は、好ましくは482℃以上、より好ましくは484℃以上、さらにより好ましくは489℃以上である。
【0129】
ポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)の耐熱分解性の評価は、一定の高温に一定時間保持したときの重量減少率で評価することもできる。例えば不活性雰囲気下、400℃~420℃の範囲から選ばれる適切な温度に、2~6時間から選ばれる適切な時間保持して、重量減少率を求めることで評価できる。
【0130】
本発明のポリイミドフィルムは極めて低い線熱膨張係数を有する。本発明の一実施形態において、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの150℃から250℃までの線熱膨張係数(CTE)は、好ましくは20ppm/K以下、より好ましくは20ppm未満、さらにより好ましくは15ppm/K以下、さらにより好ましくは11ppm/K以下、最も好ましくは10ppm/K以下である。
【0131】
本発明の一実施形態においては、ポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは390℃以上、より好ましくは400℃以上、さらにより好ましくは410℃以上、さらにより好ましくは415℃以上、さらにより好ましくは420℃以上、さらにより好ましくは425℃以上、さらにより好ましくは430℃以上、さらにより好ましくは435℃以上、最も好ましくは440℃以上である。
【0132】
本発明の一実施形態において、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの400nm光透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは73%以上、より好ましくは75%以上、さらにより好ましくは80%以上である。また、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの黄色度(YI)は、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.0以下、さらにより好ましくは4.0以下、さらにより好ましくは3.2以下、さらにより好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.7以下である。通常、0以上が好ましい。
【0133】
本発明の一実施形態において、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムのヘーズ値は、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%以下、さらにより好ましくは0.7%以下である。例えばヘーズ値が1%を超えると目視でも白濁を認識できる程度になり、光学用途には不向きになる。
【0134】
ここで、光学的性質について説明する。400nm光透過率は、フィルムの黄色の程度と透明性を推測・評価する指標として使用できる。例えばユーピレックス-S(ユーピレックスは宇部興産の登録商標)、カプトン(登録商標)等の全芳香族ポリイミドフィルムは一般に黄褐色に着色している。これは、可視光領域のうち、波長380nm~500nm(紫から青色の光)を吸収するからである。本願のように無色、透明性の高いポリイミドフィルムを目的とする場合、400nm光透過率が大きいほど好ましい。
【0135】
黄色度(YI)は、透過した波長(透過率)から変換された表色系(例えばX,Y,Zの3刺激値)から計算され、理想上の白色は黄色度0であり、白色から黄方向の色相ズレはプラス、青方向の色相ズレはマイナスの値である。従って、ポリイミドフィルムとしては黄色度の値が0に近い程好ましい。尚、黄色度は3刺激値の相対的な関係を示す指標であるため、例えば、400nm光透過率が小さくても他の可視光領域の透過率も同様に小さければ黄色度は大きくならないので、フィルムの透明性を示す値ではない。
【0136】
ヘーズ(曇価)は、フィルムの「曇り、濁り」の程度を評価する指標であり、フィルムを透過した全透過光に対する透過散乱光の割合(透過散乱光/全透過光×100)を示すものである。受光器は標準視感曲線に合わせたものが使用される。フィルムのヘーズ値は小さいほど好ましく、ヘーズ値が1%を超えると目視でも白濁を認識できる程度となる。
【0137】
全光透過率(または全光線透過率)は、本願では、全可視光領域(380nm~780nm)の平均透過率を表す。一方、ヘーズ測定において、フィルム(試料)を透過した平行成分と拡散成分すべてを含めた光線の透過率(割合)も「全光線透過率」と呼ばれるので混同されることがある。ヘーズ測定は、D65光源(平均昼光)を用い、標準分光視感曲線V(λ)(等色関数y(λ)に等しい)に合わせた受光器を用いるので、555nm付近をピークとする領域の重み付けが大きく、波長400nm付近の透過率は「全光線透過率」にほとんど寄与しない。従って、ヘーズメータで測定した「全光線透過率」は、本願の全光透過率(または全光線透過率)と異なって、可視光領域全体の透過率を示すもので無い点に注意が必要である。
【0138】
さらに本発明の一実施形態において、ポリイミドフィルムの破断伸度は、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、好ましくは4%以上、より好ましくは7%以上である。
【0139】
また、本発明の異なる好ましい一実施形態においては、ポリイミドフィルムの破断強度は好ましくは150MPa以上、より好ましくは170MPa以上、さらにより好ましくは180MPa以上、さらにより好ましくは200MPa以上、さらにより好ましくは210MPa以上である。破断強度は、例えば5~100μm程度の膜厚のフィルムから得られる値を用いることができる。
【0140】
ポリイミドフィルムについての以上の好ましい特性は、同時に満たされることが特に好ましい。
【0141】
ポリイミドフィルムは公知の方法で製造することができる。代表的な方法は基材上にポリイミド前駆体組成物を流延塗布し、その後、基材上で加熱イミド化してポリイミドフィルムを得る方法である。この方法については、ポリイミドフィルム/基材積層体の製造に関連して後述する。また、基材上にポリイミド前駆体組成物を流延塗布し加熱乾燥して自己支持性フィルムを製造後、自己支持性フィルムを基材から剥がし、例えばテンターでフィルムを保持してフィルムの両面から脱ガス可能な状態で加熱イミド化してポリイミドフィルムを得ることもできる。
【0142】
<<ポリイミドフィルム/基材積層体、およびフレキシブル電子デバイスの製造>>
本発明のポリイミド前駆体組成物を用いて、ポリイミドフィルム/基材積層体を製造することができる。ポリイミドフィルム/基材積層体は、(a)ポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムが積層された積層体(ポリイミドフィルム/基材積層体)を製造する工程により製造することができる。本発明のフレキシブル電子デバイスの製造方法は、前記工程(a)および工程(b)で製造されたポリイミドフィルム/基材積層体を使用し、さらなる工程、即ち(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および(d)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程を有する。
【0143】
まず、工程(a)において、ポリイミド前駆体組成物を基材上に流延し、加熱処理によりイミド化および脱溶媒することによってポリイミドフィルムを形成し、基材とポリイミドフィルムとの積層体(ポリイミドフィルム/基材積層体)を得る。
【0144】
基材としては、耐熱性の材料が使用され、例えばセラミック材料(ガラス、アルミナ等)、金属材料(鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等)、半導体材料(シリコン、化合物半導体等)等の板状またはシート状基材、または耐熱プラスチック材料(ポリイミド等)等のフィルムまたはシート状基材が使用される。一般に、平面且つ平滑な板状が好ましく、一般に、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス等のガラス基板;シリコン、GaAs、InP、GaN等の半導体(化合物半導体を含む)基板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属基板が使用される。
【0145】
基材としては特にガラス基板が好ましい。ガラス基板は、平面、平滑且つ大面積のものが開発されており容易に入手できる。ガラス基板等の板状基材の厚さは限定されないが、取り扱い易さの観点から、例えば20μm~4mm、好ましくは100μm~2mmである。また板状基材の大きさは、特に限定されないが、1辺(長方形のときは長辺)が、例えば100mm程度~4000mm程度、好ましくは200mm程度~3000mm程度、より好ましくは300mm程度~2500mm程度である。
【0146】
これらのガラス基板等の基材は、表面に無機薄膜(例えば、酸化ケイ素膜)や樹脂薄膜が形成されたものであってもよい。
【0147】
ポリイミド前駆体組成物の基材上への流延方法は特に限定されないが、例えばスリットコート法、ダイコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法、ノズルコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、電着法などの従来公知の方法が挙げられる。
【0148】
工程(b)において、基材上でポリイミド前駆体組成物を加熱処理し、ポリイミドフィルムに転換し、ポリイミドフィルム/基材積層体を得る。加熱処理条件は、特に限定されないが、例えば50℃~150℃の温度範囲で乾燥した後、最高加熱温度として例えば150℃~600℃であり、好ましくは200℃~550℃、より好ましくは250℃~500℃で処理することが好ましい。
【0149】
ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。厚さが1μm未満である場合、ポリイミドフィルムが十分な機械的強度を保持できず、例えばフレキシブル電子デバイス基板として使用するとき、応力に耐えきれず破壊されることがある。また、ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。ポリイミドフィルムの厚さが厚くなると、フレキシブルデバイスの薄型化が困難となってしまうことがある。フレキシブルデバイスとして十分な耐性を保持しながら、より薄膜化するには、ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは2~50μmである。
【0150】
本発明においてポリイミドフィルム/基材積層体は反りが小さいことが好ましい。測定の詳細は、特許第6798633号公報に記載されている。一実施形態において、ポリイミドフィルムの特性を、ポリイミドフィルム/シリコン基板(ウェハ)積層体におけるポリイミドフィルムとシリコン基板間の残留応力で評価した場合、残留応力は好ましくは27MPa未満である。但し、ポリイミドフィルムは、乾燥状態で23℃に置かれているものとする。
【0151】
ポリイミドフィルム/基材積層体中のポリイミドフィルムは、表面に樹脂膜や無機膜などの第2の層を有していてもよい。即ち、基材上にポリイミドフィルムを形成した後、第2の層を積層して、フレキシブル電子デバイス基板を形成してもよい。少なくとも無機膜を有することが好ましく、特に水蒸気や酸素(空気)等のバリア層として機能するものが好ましい。水蒸気バリア層としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)等の金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物からなる群より選択される無機物を含む無機膜が挙げられる。一般に、これらの薄膜の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法と、プラズマCVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD法)などの化学蒸着法(化学気相成長法)などが知られている。この第2の層は、複数層とすることもできる。
【0152】
第2の層が複数層である場合には樹脂膜と無機膜を複合することも可能であり、例えば、ポリイミドフィルム/基材積層体中のポリイミドフィルム上にバリア層/ポリイミド層/バリア層の3層構造を形成する例などが挙げられる。
【0153】
工程(c)では、工程(b)で得られたポリイミド/基材積層体を使用して、ポリイミドフィルム(ポリイミドフィルム表面に無機膜などの第2の層を積層したものを含む)上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する。これらの層は、ポリイミドフィルム(第2の層を積層したものを含む)上に直接形成してもよいし、デバイスに必要な他の層を積層した上に、つまり間接的に形成してもよい。
【0154】
導電体層および/または半導体層は、目的とする電子デバイスが必要とする素子および回路に合わせて適切な導電体層および(無機、有機)半導体層が選択される。本発明の工程(c)において、導電体層および半導体層の少なくとも1つを形成する場合、無機膜を形成したポリイミドフィルム上に導電体層および半導体層の少なくとも1つを形成することも好ましい。
【0155】
導電体層および半導体層は、ポリイミドフィルム上の全面に形成されたもの、ポリイミドフィルム上の一部分に形成されたものの両方を包含する。本発明は、工程(c)の後にただちに工程(d)に移行しても良いし、工程(c)において導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成した後、さらにデバイス構造を形成してから、工程(d)に移行してもよい。
【0156】
フレキシブルデバイスとしてTFT液晶ディスプレイデバイスを製造する場合には、例えば必要により無機膜を全面に形成したポリイミドフィルムの上に、例えば金属配線、アモルファスシリコンやポリシリコンによるTFT、透明画素電極を形成する。TFTは、例えば、ゲート金属層、アモルファスシリコン膜などの半導体層、ゲート絶縁層、画素電極に接続する配線等を含む。この上に、さらに液晶ディスプレイに必要な構造を、公知の方法によって形成することも出来る。また、ポリイミドフィルムの上に、透明電極とカラーフィルターを形成してもよい。
【0157】
有機ELディスプレイを製造する場合には、例えば必要により無機膜を全面に形成したポリイミドフィルムの上に、例えば透明電極、発光層、正孔輸送層、電子輸送層等に加えて必要によりTFTを形成することができる。
【0158】
本発明において好ましいポリイミドフィルムは耐熱性、靱性等各種特性に優れるので、デバイスに必要な回路、素子、およびその他の構造を形成する手法は特に制限されない。
【0159】
次に工程(d)おいて、基材とポリイミドフィルムとを剥離する。剥離方法は、外力を加えることによって物理的に剥離するメカニカル剥離法でもよいし、基材面からレーザ光を照射して剥離する所謂レーザ剥離法でもよい。
【0160】
基材を剥離した後のポリイミドフィルムを基板とする(半)製品に、さらにデバイスに必要な構造または部品を形成または組み込んでデバイスを完成する。
【0161】
尚、フレキシブル電子デバイスの異なる製造方法として、上記工程(b)によりポリイミドフィルム/基材積層体を製造後、ポリイミドフィルムを剥離し、上記工程(c)のように、ポリイミドフィルム上に導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層および必要な構造を形成して、ポリイミドフィルムを基板とする(半)製品を製造することもできる。
【実施例
【0162】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0163】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0164】
<ポリイミドフィルムの評価>
[400nm光透過率、全光透過率]
紫外可視分光光度計/V-650DS(日本分光製)を用いて、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。また、全光透過率は、380nm~780nmの透過率の平均である。
[黄色度(YI)]
紫外可視分光光度計/V-650DS(日本分光製)を用いて、ASTEM E313の規格に準拠して、ポリイミドフィルムのYIを測定した。光源はD65、視野角は2°とした。
【0165】
[弾性率、破断伸度、破断強度]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムをIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間長30mm、引張速度2mm/分で、初期の弾性率、破断伸度、破断強度を測定した。
【0166】
[線熱膨張係数(CTE)、ガラス転移温度(Tg)]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、TMA/SS6100 (エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/分で500℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、150℃から250℃までの線熱膨張係数を求めた。また、変曲点からガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0167】
[5%重量減少温度、0.5%重量減少温度]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、TAインスツルメント社製 熱量計測定装置(Q5000IR)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、150℃の重量を100%として5%重量減少温度および0.5%重量減少温度を求めた。
【0168】
[ヘーズ(Haze)]
濁度計/NDH2000(日本電色工業製)を用いて、JIS K7136の規格に準拠して、膜厚約10μm、5cm角サイズのポリイミドフィルムのヘーズを測定した。
【0169】
[ポリイミド前駆体組成物、ポリイミド前駆体溶液の流動性、保存安定性]
50mLのサンプル瓶に約20mLのポリイミド前駆体組成物を入れ、窒素置換を行い、密閉状態にした。23℃で保存し、10日後、30日後に流動性を確認した。
○ 密閉容器を90°以上傾けた場合に溶液が動く状態にあるものを○
× 密閉容器を90°以上傾けた場合に溶液が動かない状態にあるものを×
と評価した。
【0170】
<原材料>
以下の各例で使用した原材料の略称、純度等は、次のとおりである。
【0171】
[ジアミン成分]
DABAN: 4,4’-ジアミノベンズアニリド
PPD: p-フェニレンジアミン
BAPB: 4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル
TFMB: 2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
m-TD: m-トリジン
4,4-ODA: 4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
【0172】
[テトラカルボン酸成分]
BNBDA: 2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸二無水物
CpODA: ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸二無水物
PMDA-H: シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
【0173】
[イミダゾール化合物]
2-Pz:2-フェニルイミダゾール
1,2-DMz:1,2-ジメチルイミダゾール
z:イミダゾール
Bz:ベンゾイミダゾール
2-Mz:2-メチルイミダゾール
【0174】
[溶媒]
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
【0175】
表1-1にテトラカルボン酸成分とジアミン成分、表1-2にイミダゾール化合物の構造式を記す。
【0176】
【表1-1】
【0177】
【表1-2】
【0178】
<実施例1>
[ポリイミド前駆体組成物の調製]
窒素ガスで置換した反応容器中にDABAN 2.27g(0.010モル)を入れ、N-メチル-2-ピロリドンを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が16質量%となる量の32.11gを加え、50℃で1時間攪拌した。この溶液にBNBDA 3.34g(0.010モル)を徐々に加えた。70℃で4時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0179】
イミダゾール化合物として2-フェニルイミダゾールを、4倍質量のN-メチル-2-ピロリドンに溶解して2-フェニルイミダゾールの固形分濃度が20質量%の均一な溶液を得た。ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対してイミダゾール化合物の量が0.5モルとなるように、イミダゾール化合物の溶液と、上で合成したポリイミド前駆体溶液を混合し、室温で3時間攪拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体組成物を得た。
【0180】
[ポリイミドフィルムの製造]
ガラス基板として、6インチのコーニング社製のEagle-XG(登録商標)(500μm厚)を使用した。ガラス基板上にポリイミド前駆体組成物をスピンコーターにより塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)で、そのままガラス基板上で室温から440℃まで加熱して熱的にイミド化を行い、ポリイミドフィルム/基材積層体を得た。積層体を40℃の水(例えば温度20℃~100℃の範囲)につけてガラス基板からポリイミドフィルムを剥離し、乾燥後、ポリイミドフィルムの特性を評価した。ポリイミドフィルムの膜厚は約10μmである。評価結果を表2に示す。
【0181】
<実施例2~26>
実施例1において、テトラカルボン酸成分、ジアミン成分およびイミダゾール化合物を、表2~表4に示す化合物および量(モル比)に変更し、アミック酸濃度を表に示すとおりに調整した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体組成物を得た。その後、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを製造してフィルム物性を評価した。
【0182】
<比較例1~16>
比較例についても、テトラカルボン酸成分、ジアミン成分およびイミダゾール化合物を、表5、6に示す化合物および量(モル比)に変更し、アミック酸濃度を表に示すとおりに調整した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体組成物を得た。その後、実施例1と同様にフィルム物性を評価した。添加物の欄が空欄の比較例はイミダゾール化合物の添加がないことを示す。
【0183】
<実施例、比較例のフィルム物性の結果>
比較例1、2、5~14は、イミダゾール化合物を添加していない前駆体組成物である。イミダゾールを添加した対応する実施例の組成物は、これらの比較例と比較して、ヘーズ値、400nm光透過率および線熱膨張係数が改善されていた。
【0184】
比較例3(CpODA/DABAN+イミダゾール化合物)は、テトラカルボン酸成分をCpODAに変更した以外、実施例1等と同様の組成である。比較例3で得られたポリイミドフィルムは透明性等の光学特性に加えて耐熱性にも優れているが、本発明の実施例で得られたポリイミドフィルムは比較例3と同等の光学特性を有しながら、比較例3を上回る0.5%重量減少温度および5%重量減少温度を有している。従って、本発明から得られたポリイミドフィルムが極めて優れた耐熱分解性を有していることが確かめられた。また、比較例16から得られたポリイミドフィルムはヘーズ値が0.3%と小さいことから、CpODA/DABANの組成では、イミダゾール化合物の添加の有無に関係無く(比較例3および比較例16)、ヘーズの問題がないことが示された。従って、ヘーズの問題はBNBDA/DABANを主成分とする組成に特有の問題であることが確認された。
【0185】
比較例4は、実施例16において、テトラカルボン酸成分中のPMDA-Hの量を増やし、BNBDAの量をテトラカルボン酸成分の60%まで減らした比較例である。耐熱性の低下が観察される。
【0186】
<ポリイミド前駆体組成物の保存安定性>
実施例および比較例のポリイミド前駆体組成物の流動性、保存安定性試験を行った。実施例のポリイミド前駆体組成物は、10日後、30日後のどちらでも流動性を維持しており保存安定性に優れていた。一方、イミダゾールを添加しなかった比較例のポリイミド前駆体溶液は、表7に示すとおり、保存中に流動性が低下して保存安定性が悪かった。また、比較例15のように、イミダゾール化合物の添加量が多すぎても保存安定性が低下する。また、比較例3、16はテトラカルボン酸成分としてCpODAを使用したポリイミド前駆体組成物であるが、イミダゾール化合物を添加しなくても保存安定性が良好であった。従って、保存安定性はBNBDAを使用する場合の特有の問題であることが示される。
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
【表4】
【0190】
【表5】
【0191】
【表6】
【0192】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明は、フレキシブル電子デバイス、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、および電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池およびCMOS等の受光デバイスの製造に好適に適用することができる。