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特許7586284量子ドットの製造方法、及び、量子ドット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】量子ドットの製造方法、及び、量子ドット
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/04 20060101AFI20241112BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20241112BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20241112BHJP
   C09K 11/56 20060101ALI20241112BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20241112BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241112BHJP
【FI】
C01B19/04 C ZNM
C09K11/08 A
C09K11/08 G
C09K11/88
C09K11/56
B82Y20/00
B82Y40/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023502528
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007812
(87)【国際公開番号】W WO2022181752
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021030560
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 幹大
(72)【発明者】
【氏名】高三潴 由香
(72)【発明者】
【氏名】松澤 宏則
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0047563(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0013377(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107880878(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/04
C09K 11/08
C09K 11/88
C09K 11/56
B82Y 20/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアを生成する工程、
前記コアの表面にシェルを被覆する工程、を含み、
前記シェルを被覆する工程は、
シェル原料に、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を配合し、
少なくとも、Znと、Seを含むコアの表面に、ZnSを被覆する
こと特徴とする量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記シェルを被覆する工程を、少なくも前半と後半とに分け、
前半では、前記酸性化合物を配合し、前記ハロゲン化亜鉛化合物を配合しないシェル原料を用い、後半では、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物の双方を配合したシェル原料を用いて、前記シェルを複数回にわたって被覆することを特徴とする請求項に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記酸性化合物として、塩化水素、臭化水素、或いは、トリフルオロ酢酸のうち少なくともいずれか1種を用いることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の量子ドットの製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化亜鉛化合物として、塩化亜鉛、或いは、臭化亜鉛のうち少なくともいずれか1種を用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の量子ドットの製造方法。
【請求項5】
コアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、を有する量子ドットであって、
ハロゲン元素が含有され、
外部量子効率が、7%以上であり、
少なくとも、Znと、Seを含むコアと、前記コアの表面に被覆されるZnSと、前記コアと前記ZnSとの間に介在するZnSeSと、を含む
ことを特徴とする量子ドット。
【請求項6】
コアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、を有する量子ドットであって、
ハロゲン元素が含有され、
蛍光量子収率が、70%以上であり、
少なくとも、Znと、Seを含むコアと、前記コアの表面に被覆されるZnSと、前記コアと前記ZnSとの間に介在するZnSeSと、を含む
ことを特徴とする量子ドット。
【請求項7】
前記ハロゲン元素は、エネルギー分散型X線分析による元素分析にて検出され、前記ハロゲン元素の含有量は、0.01atom%~5atom%である、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の量子ドット。
【請求項8】
前記ハロゲン元素は、塩素、又は臭素である、
ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の量子ドット。
【請求項9】
Cuを含有する、
ことを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の量子ドット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウムを含まないコアシェル構造の量子ドットの製造方法、及び、量子ドットに関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットは、蛍光を発し、そのサイズがナノオーダーのサイズであることから蛍光ナノ粒子、その組成が半導体材料由来であることから半導体ナノ粒子、またはその構造が特定の結晶構造を有することからナノクリスタル(Nanocrystal)とも呼ばれる。
【0003】
量子ドットの性能を表すものとして、蛍光量子収率(Quantum Yield:QY)や、外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)が挙げられる。
【0004】
量子ドットを用いたディスプレイの用途として、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)を発光原理として採用する場合、バックライトに青色LEDを用いて励起光とし、量子ドットを用いて緑色光や、赤色光に変換する方法が採用されている。一方で、例えばエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を発光原理として採用する場合、或いは、他の方法で3原色すべてを量子ドットで発光させる場合などは、青色蛍光の量子ドットが必要となる。
【0005】
青色の量子ドットとしては、カドミウム(Cd)を用いたセレン化カドミウム(CdSe)系の量子ドットが代表的なものとして挙げられる。しかしながら、Cdは、国際的に規制されており、CdSeの量子ドットを用いた材料の実用化には高い障壁があった。
【0006】
一方、Cdを使用しない量子ドットの開発も検討されている。例えば、CuInSや、AgInSなどのカルコパイライト系量子ドット、インジウムホスフィド(InP)系量子ドットなどの開発が進んでいる(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、現行で開発されているものは、一般的に蛍光半値幅が広く、青色蛍光の量子ドットとしては適さない。
【0007】
また、下記の非特許文献1には、有機亜鉛化合物と比較的反応性の高いと考えられるジフェニルホスフィンセレニドを用いた直接的なZnSeの合成方法について詳細に記載されているが、青色蛍光の量子ドットとしては適さない。
【0008】
また、下記の非特許文献2においても、水系でのZnSe合成方法が報告されている。反応は低温で進行するものの、蛍光半値幅が30nm以上でやや広く、蛍光波長は430nmに満たないため、これを用いて従来の青色LEDの代替品として用いて高色域化を達成するには、不適である。
【0009】
他にも、下記の非特許文献3ではセレン化銅(CuSe)等の前駆体を形成した後、銅を亜鉛(Zn)でカチオン交換することで、ZnSe系の量子ドットを合成する方法が報告されている。しかし、前駆体であるセレン化銅の粒子が15nmと大きい上に、銅と亜鉛をカチオン交換する際の反応条件が最適ではないため、カチオン交換後のZnSe系の量子ドットに銅が残留していることがわかる。本発明の検討結果から銅が残留しているZnSe系量子ドットは発光することができないことがわかっている。或いは、発光しても銅が残留している場合は欠陥由来の発光となり、発光スペクトルの半値幅が30nm以上の発光となる。この銅残留には、前駆体であるセレン化銅の粒子サイズも影響し、粒子が大きい場合はカチオン交換後も銅が残留しやすく、XRDでZnSeと確認できても、僅かな銅の残留が要因で発光しない場合が多い。よって、非特許文献3は、この前駆体の粒子サイズ制御とカチオン交換法の最適化ができていないため銅が残留している例として挙げられる。そのため、青色蛍光については報告されていない。このようにカチオン交換法による報告例は多いが上記のような理由から強く発光する報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2007/060889号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Organic Electronics 15 (2014) 126-131
【文献】Materials Science and Engineering C 64 (2016) 167-172
【文献】J. Am. Chem. Soc.(2015)137 29 9315-9323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、外部量子効率は、下記の(式1)で算出される。
外部量子収率(EQE)=キャリアバランス×発光性励起子の生成効率×発光量子効率(蛍光量子収率(QY))×光の取り出し効率 (式1)
【0013】
ここで、光の取り出し効率は、一般に0.2~0.3であるため、キャリアバランス、発光性励起子の生成効率、及び、蛍光量子収率が、共に1(100%)であるとすると、理論的な外部量子収率は20~30%となる。したがって、高いEQEを得るためには、QYが高い量子ドットが必要となる。
【0014】
また、量子ドット同士の距離が近すぎると、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)が生じる。この結果、EQEが低下する。そこで、コアの周りにシェルを被覆したコアシェル構造とすることで、コア同士の距離を物理的に離すことができ、FRETを低減することができる。
【0015】
しかしながら、従来において、コアの全周にわたって略均一な厚みを有するシェルを被覆でき、且つ高いQYを有する量子ドットを量産可能レベルで製造するには至っていない。例えば、シェル厚を厚くすると、粒子形状が悪化し、それに伴いQYも低下することがわかった。
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、EQEを高めることが可能な量子ドットの製造方法、及び量子ドットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の量子ドットの製造方法は、コアを生成する工程、前記コアの表面にシェルを被覆する工程、を含み、前記シェルを被覆する工程は、シェル原料に、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を配合し、少なくとも、Znと、Seを含むコアの表面に、ZnSを被覆すること特徴とする
【0017】
本発明では、前記シェルを被覆する工程を、少なくも前半と後半とに分け、前半では、前記酸性化合物を配合し、前記ハロゲン化亜鉛化合物を配合しないシェル原料を用い、後半では、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物の双方を配合したシェル原料を用いて、前記シェルを複数回にわたって被覆することが好ましい。
【0018】
本発明では、前記酸性化合物として、塩化水素、臭化水素、或いは、トリフルオロ酢酸のうち少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。
本発明では、前記ハロゲン化亜鉛化合物として、塩化亜鉛、或いは、臭化亜鉛のうち少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。
本発明では、前記コアは、ZnSe、或いは、ZnSeTeからなることが好ましい。
【0019】
本発明の量子ドットは、コアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、を有する量子ドットであって、ハロゲン元素が含有され、外部量子効率が、7%以上であり、少なくとも、Znと、Seを含むコアと、前記コアの表面に被覆されるZnSと、前記コアと前記ZnSとの間に介在するZnSeSと、を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の量子ドットは、コアと、前記コアの表面を被覆するシェルと、を有する量子ドットであって、ハロゲン元素が含有され、蛍光量子収率が、70%以上であり、少なくとも、Znと、Seを含むコアと、前記コアの表面に被覆されるZnSと、前記コアと前記ZnSとの間に介在するZnSeSと、を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明では、前記ハロゲン元素は、エネルギー分散型X線分析による元素分析にて検出され、前記ハロゲン元素の含有量は、0.01atom%~5atom%である、ことが好ましい。また、前記ハロゲン元素は、塩素、又は臭素である、ことが好ましい。また、Cuを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の量子ドットの製造方法によれば、粒子形状が良好な量子ドットを合成でき、QYの向上を図ることができ、ひいては、高いEQEを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1A及び図1Bは、本発明の実施形態における量子ドットの模式図である。
図2】本発明の実施形態の量子ドットを用いたLED装置の模式図である。
図3】本発明の実施形態におけるLED装置を用いた表示装置の縦断面図である。
図4】本発明の実施形態における量子ドットの製造工程を説明するためのフローチャート図である。
図5】実施例1の蛍光(Photoluminescence:PL)スペクトルである。
図6】実施例1の吸収(Absorption)スペクトルである。
図7】実施例1のX線回折(Xray Diffraction:XRDスペクトルである。
図8】実施例1~実施例7の各量子ドットの測定結果を示す表である。
図9図9Aは、比較例1におけるTEM-EDXの分析結果の写真であり、図9Bは、実施例1におけるTEM-EDXの分析結果の写真である。
図10図10Aは、図9Aの部分模式図であり、図10Bは、図9Bの部分模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態(以下、「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
図1A図1Bは、本実施形態における量子ドットの模式図である。図1A及び図1Bに示す量子ドット5は、カドミウム(Cd)を含まないナノクリスタルである。「ナノクリスタル」とは、数nm~数十nm程度の粒径を有するナノ粒子を指す。本実施の形態では、多数の量子ドット5を、略均一の粒径にて生成することができる。
【0026】
本実施形態では、量子ドット5は、コア5aと、コア5aの表面を被覆するシェル5bとのコアシェル構造である。コア5aは、少なくとも、亜鉛(Zn)とセレン(Se)を含むナノクリスタルであることが好ましい。また、コア5aは、テルル(Te)や硫黄(S)を含むこともできる。ただし、コア5aは、カドミウム(Cd)やインジウム(In)を含まないことが好ましい。
【0027】
また、コア5aの表面に被覆されたシェル5bも、コア5aと同様に、カドミウム(Cd)やインジウム(In)を含まないことが好ましい。本実施形態では、シェル5bは、亜鉛(Zn)を多く含んでいる。具体的には、シェル5bは、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化セレン化亜鉛(ZnSeS)からなることが好ましい。このうち、ZnSが好ましい。なお、シェル5bは、コア5aの表面に固溶化した状態であってもよい。本実施形態では、コアシェル構造とすることで、蛍光半値幅が狭いまま、蛍光量子収率(QY)の更なる上昇を期待することができる。
【0028】
本実施形態の量子ドット5は、コア5aの表面全体に、ZnS等のシェル5bを所定厚にて被覆することができる。また、コア5aとシェル5bとの間に、中間層が介在していてもよい。例えば、この中間層は、シェルの1層目であり、すなわち、シェル5bが2層以上の構造であってもよい。一例として、ZnSeS/ZnSからなる積層構造のシェル5bを提示することができる。
【0029】
量子ドット5は、図1Aに示すように、断面が円形状であっても、図1Bに示すように、断面が多角形状であってもよい。多角形状の場合、例えば、略矩形状や略三角形であることが好適である。本実施形態では、量子ドット5のコア5aは、少なくともZnとSeとを含むことが好ましいが、これにより、量子ドット5を構成するコア5aは、結晶成長により多面体(例えば、略立方体)に形成されやすい。すなわち、本実施形態では、量子ドット5が不定形でなく、粒子形状が揃った良好な形状にて形成できる。本実施形態では、シェル5bを、コア5aの全周に略一定厚で形成できる。限定するものではないが、シェル5bの厚みを0.5m~3m程度で形成でき、好ましくは、1m以上2.5m以下で形成できる。これは後述する製造方法で説明するように、シェル原料に酸性化合物を配合したことによる。また、本実施形態では、シェル原料にハロゲン化案化合物を配合するが、これにより、QYの向上を図ることができる。
【0030】
図1A及び図1Bに示すように、量子ドット5の表面には、多数の有機配位子11が配位していることが好ましい。これにより、量子ドット5同士の凝集を抑制でき、目的とする光学特性が発現する。更に、アミン又はチオール系の配位子を加えることで、量子ドット発光特性の安定性を大きく改善することが可能である。反応に用いることのできる配位子は特に限定されないが、例えば、以下の配位子が、代表的なものとして挙げられる。
(1) 脂肪族1級アミン系
オレイルアミン:C1835NH、ステアリル(オクタデシル)アミン:C1837NH、ドデシル(ラウリル)アミン:C1225NH、デシルアミン:C1021NH、オクチルアミン:C17NH
(2) 脂肪酸系
オレイン酸:C1733COOH、ステアリン酸:C1735COOH、パルミチン酸:C1531COOH、ミリスチン酸:C1327COOH、ラウリル酸:C1123COOH、デカン酸:C19COOH、オクタン酸:C15COOH
(3) チオール系
オクタデカンチオール:C1837SH、ヘキサデカンチオール:C1633SH、テトラデカンチオール:C1429SH、ドデカンチオール:C1225SH、デカンチオール:C1021SH、オクタンチオール:C17SH
(4) ホスフィン系
トリオクチルホスフィン:(C17P、トリフェニルホスフィン:(CP、トリブチルホスフィン:(C
(5)ホスフィンオキシド系
トリオクチルホスフィンオキシド:(C17P=O、トリフェニルホスフィンオキシド:(CP=O、トリブチルホスフィンオキシド:(CP=O
(6)アルコール系
オレイルアルコール:C1836
【0031】
また有機配位子と混在して無機配位子が配位していることが好ましい。これにより量子ドット表面欠陥を、より抑制することができ、より高い光学特性を発現させることができる。配位子は特に限定はされないが、F、Cl、Br、I等のハロゲンが代表的な例である。
【0032】
本実施形態における量子ドット5は、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:EDX)による元素分析の結果、Zn、Se、及び、Sの他に、ハロゲン元素も検出される。ハロゲン元素は、塩素(Cl)、或いは、臭素(Br)であることが好ましい。
【0033】
ハロゲン元素の含有量を限定するものではないが、Zn、Se、及び、Sに比べて十分に少なく、ハロゲン元素の含有量は、0.01atom%~5atom%程度である。ハロゲン元素の含有量は、0.5atom%以上2atom%以下程度であることが好ましい。「atom%」は、量子ドット5を構成する全原子の数量を100としたときの割合である。ハロゲン元素量は、EDX分析にて測定することができる。
【0034】
本実施形態の量子ドット5を用いた量子ドット発光ダイオード(QLED)において、外部量子効率(EQE)を効果的に向上させることができる。本実施形態では、EQEを7%以上にできる。好ましくは、EQEを9%以上にでき、より好ましくは、EQEを9.5%以上にでき、更に好ましくは、EQEを10%以上にでき、更により好ましくは、EQEを10.5%以上にできる。EQEは、LED測定装置を用いて評価でき、最大値で求められる。
【0035】
また、EQEは、上記の(式1)で示したように、QYを高めることで、向上させることができる。したがって、高いEQEを得るために、量子ドット5のQYを高めることが好ましい。本実施形態では、QYを70%以上にでき、好ましくは、75%以上にでき、より好ましくは80%以上にでき、更に好ましくは85%以上にでき、更により好ましくは90%以上でき、最も好ましくは95%以上にできる。
【0036】
本実施形態の量子ドット5は、蛍光半値幅が20nm以下であることが好ましい。「蛍光半値幅」とは、蛍光スペクトルにおける蛍光強度のピーク値の半分の強度での蛍光波長の広がりを示す半値全幅(Full Width at Half Maximum)を指す。また、蛍光半値幅は、15nm以下であることがより好ましい。このように、本実施形態では蛍光半値幅を狭くすることができるため、高色域化の向上を図ることができる。
【0037】
本実施形態では、後述するように、量子ドット5を合成する反応系として、銅カルコゲニドを前駆体として合成した後に、前駆体に対して金属交換反応を行う。このような間接的な合成反応に基づいて量子ドット5を製造することで、蛍光半値幅を狭くすることができる。
【0038】
また、本実施形態では、量子ドット5の蛍光寿命を、50ns以下にすることができる。或いは、本実施形態では、蛍光寿命を、40ns以下、30ns以下、更には20ns以下に調整することもできる。このように、本実施形態では、蛍光寿命を短くすることができるが、50ns程度まで延ばすこともでき、使用用途により、蛍光寿命の調整が可能である。
【0039】
本実施形態では、蛍光波長を、410nm以上470nm以下程度にまで自由に制御することができる。本実施形態における量子ドット5は、具体的には、ZnSeをベースとする固溶体である。本実施形態では、量子ドット5の粒径及び、量子ドット5の組成を調整することによって、蛍光波長を制御することが可能である。本実施形態では、好ましくは、蛍光波長を、430nm以上とすることができ、より好ましくは、440nm以上とすることができる。
このように、本実施形態の量子ドット5では、蛍光波長を青色に制御することが可能である。
【0040】
続いて、本実施形態の量子ドット5の製造方法について説明する。本実施形態における量子ドット5の製造方法では、コアを生成する工程、コアの表面にシェルを被覆する工程、を含み、シェルを被覆する工程は、シェル原料に、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を配合すること特徴とする。
【0041】
<コアの合成方法>
コアの合成方法について説明する。まず、本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物とから銅カルコゲニド前駆体を合成する。具体的には、銅カルコゲニド前駆体は、CuSe、CuSeS、CuSeTe、CuSeTeSであることが好ましい。
【0042】
ここで、本実施形態では、Cu原料を、特に限定はしないが、例えば、下記の有機銅試薬や無機銅試薬を用いることができる。すなわち、酢酸塩として、酢酸銅(I):Cu(OAc)、酢酸銅(II):Cu(OAc)、脂肪酸塩として、ステアリン酸銅:Cu(OC(=O)C1735、オレイン酸銅:Cu(OC(=O)C1733、ミリスチン酸銅:Cu(OC(=O)C1327、ドデカン酸銅:Cu(OC(=O)C1123、銅アセチルアセトネート:Cu(acac)、ハロゲン化物として1価、又は2価の両方の化合物が使用可能であり、塩化銅(I):CuCl、塩化銅(II):CuCl、臭化銅(I):CuBr、臭化銅(II):CuBr、ヨウ化銅(I):CuI、ヨウ化銅(II):CuIなどを用いることができる。
【0043】
本実施形態では、Se原料は、有機セレン化合物(有機カルコゲニド)を原料として用いる。特に化合物の構造を限定するものではないが、例えば、トリオクチルホスフィンにSeを溶解させたトリオクチルホスフィンセレニド:(C17P=Se、或いは、トリブチルホスフィンにSeを溶解させたトリブチルホスフィンセレニド:(CP=Se等を用いることができる。又は、オクタデセンのような長鎖の炭化水素である高沸点溶媒にSeを高温で溶解させた溶液(Se-ODE)や、又はオレイルアミンとドデカンチオールの混合物に溶解させた溶液(Se-DDT/OLAm)などを用いることができる。
【0044】
本実施形態では、Teは、有機テルル化合物(有機カルコゲン化合物)を原料として用いる。特に化合物の構造を限定するものではないが、例えば、トリオクチルホスフィンにTeを溶解させたトリオクチルホスフィンテルリド:(C17P=Te、或いは、トリブチルホスフィンにTeを溶解させたトリブチルホスフィンテルリド:(CP=Te等を用いることができる。また、ジフェニルジテルリド:(CTeなどのジアルキルジテルリド:RTeを用いることも可能である。
【0045】
本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物とを混合し溶解させる。溶媒としては、高沸点の飽和炭化水素又は、不飽和炭化水素として、オクタデセンを用いることができる。これ以外にも芳香族系の高沸点溶媒として、t-ブチルベンゼン:t-butylbenzene、高沸点のエステル系の溶媒として、ブチルブチレート:CCOOC、ベンジルブチレート:CCHCOOCなどを用いることが可能であるが、脂肪族アミン系又は、脂肪酸系の化合物や脂肪族リン系の化合物又は、これらの混合物を溶媒として用いることも可能である。
【0046】
このとき、反応温度を、140℃以上で250℃以下の範囲に設定し、銅カルコゲニド前駆体を合成する。なお、反応温度は、より低温の、140℃以上で220℃以下であることが好ましく、更に低温の、140℃以上で200℃以下であることがより好ましい。
【0047】
また、本実施形態では、反応法に特に限定はないが、蛍光半値幅の狭い量子ドットを得るために、粒径の揃ったCuSe、CuSeS、CuSeTe、CuSeTeSを合成することが重要である。
【0048】
次に、ZnSe、ZnSeS、ZnSeTe、又はZnSeTeSの原料として、有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物を用意する。有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物は、空気中でも安定で取り扱い容易な原料である。有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物の構造を特に限定するものではないが、金属交換反応を効率よく行うためには、イオン性の高い亜鉛化合物を使用するのが好ましい。例えば、以下に示す有機亜鉛化合物及び無機亜鉛化合物を用いることができる。すなわち、酢酸塩として酢酸亜鉛:Zn(OAc)、硝酸亜鉛:Zn(NO、脂肪酸塩として、ステアリン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C1735、オレイン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C1733、パルミチン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C1531、ミリスチン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C1327、ドデカン酸亜鉛:Zn(OC(=O)C1123、亜鉛アセチルアセトネート:Zn(acac)、ハロゲン化物として、塩化亜鉛:ZnCl、臭化亜鉛:ZnBr、ヨウ化亜鉛:ZnI、カルバミン酸亜鉛としてジエチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(C、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(CH、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛:Zn(SC(=S)N(C等を用いることができる。
【0049】
続いて、上記の有機亜鉛化合物や無機亜鉛化合物を、銅カルコゲニド前駆体が合成された反応溶液に添加する。これにより、銅カルコゲニドのCuと、Znとの金属交換反応が生じる。金属交換反応は、150℃以上300以下で生じさせることが好ましい。また、金属交換反応を、より低温の、150℃以上280℃以下、更に好ましくは、150℃以上250℃以下で生じさせることがより好ましい。
【0050】
本実施形態では、CuとZnの金属交換反応は、定量的に進行し、ナノクリスタルには、前駆体のCuが含有されないことが好ましい。前駆体のCuがナノクリスタルに残留すると、Cuがドーパントとして働き、別の発光機構で発光して蛍光半値幅が広がってしまうためである。このCuの残存量は、Znに対して100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が理想的である。
【0051】
本実施形態では、カチオン交換法で合成されたZnSe系量子ドットは、直接法で合成されたZnSe系量子ドットよりもCu残量が高くなる傾向があるが、Znに対してCuが1~10ppm程度含まれていても良好な発光特性を得ることができる。なお、Cu残量により、カチオン交換法で合成された量子ドットであるとの判断を行うことが可能である。すなわち、カチオン交換法で合成することで、銅カルコゲニド前駆体で粒径制御でき、本来反応しにくい合成法が可能となるため、Cu残量は、カチオン交換法を用いたかどうかの判断を行う上でメリットがある。
【0052】
また、本実施形態では、金属交換を行う際に、銅カルコゲニド前駆体の金属を配位又はキレートなどにより反応溶液中に遊離させる補助的な役割をもつ化合物が必要である。
【0053】
上述の役割を有する化合物としては、Cuと錯形成可能なリガンドが挙げられる。例えば、リン系リガンド、アミン系リガンド、硫黄系リガンドが好ましく、その中でも、その効率の高さからリン系リガンドが更に好ましい。
【0054】
これにより、CuとZnとの金属交換が適切に行われ、ZnとSeをベースとする蛍光半値幅の狭い量子ドットを製造することができる。本実施の形態では、上記のカチオン交換法により、直接合成法に比べて、量子ドットを量産することができる。
【0055】
すなわち、直接合成法では、Zn原料の反応性を高めるために、例えば、ジエチル亜鉛(EtZn)などの有機亜鉛化合物を使用する。しかしながら、ジエチル亜鉛は反応性が高く、空気中で発火するため不活性ガス気流下で取り扱わなければならないなど、原料の取り扱いや保管が難しく、それを用いた反応も発熱、発火等の危険を伴うため、量産には不向きである。また同様に、Se原料の反応性を高めるために、例えば、水素化セレン(HSe)を用いた反応なども毒性、安全性の観点から量産には適さない。
【0056】
また、上記のような反応性の高いZn原料やSe原料を用いた反応系では、ZnSeは生成するものの、粒子生成が制御されておらず、結果として生じたZnSeの蛍光半値幅が広くなる。
【0057】
これに対し、本実施形態では、有機銅化合物、或いは、無機銅化合物と、有機カルコゲン化合物から、銅カルコゲニド前駆体を合成し、銅カルコゲニド前駆体を用いて金属交換することによって量子ドットを合成する。このように、本実施形態では、まず、銅カルコゲニド前駆体の合成を経て量子ドットを合成しており、直接合成していない。このような間接的な合成により、反応性が高過ぎて取り扱いが危険な試薬を使う必要はなく、蛍光半値幅の狭いZnSe系量子ドットを安全かつ安定的に合成することが可能である。
【0058】
また、本実施形態では、銅カルコゲニド前駆体を単離・精製することなく、ワンポットで、CuとZnの金属交換を行い、所望の組成及び粒径を有する量子ドットを得ることが可能である。一方、銅カルコゲニド前駆体を一度、単離・精製してから使用してもよい。
また、本実施形態では、合成した量子ドットは、洗浄、単離精製、被覆処理やリガンド交換などの各種処理を行わずとも蛍光特性を発現する。
【0059】
<シェルの合成方法>
シェルの合成方法を、図4に示すフローチャート図を用いて説明する。本実施形態では、例えば、ZnSeコアを合成した後、ZnSeコアの表面に、例えば、ZnSeSを被覆する。ZnSeSの被覆は、例えば、ZnSeコアが分散した溶液に、Se―TOP溶液、S-TOP溶液、及びオレイン酸亜鉛の混合液を添加し、所定温度で、撹拌しつつ加熱する。この操作を複数回繰り返すことで、ZnSeの表面にZnSeSを被覆することができる。
【0060】
本実施形態では、ZnSe/ZnSeSを洗浄後、例えば、オクタデセン(ODE)に分散させ、更に、トリオクチルホスフィン(TOP)、及びオレイン酸を加えて、所定の熱処理条件(例えば、320℃×10分)で撹拌し加熱を行う。
【0061】
次に、本実施形態では、ZnSシェルを被覆する。本実施形態では、ZnSシェルを被覆する工程を、少なくとも前半と後半とに分けて行うことが好ましい。まず、ZnSシェルを被覆する前半工程では、ZnSe/ZnSeSが分散した溶液に、酸性化合物を配合したシェル源混合液(シェル原料)を加える。具体的には、オレイン酸亜鉛(Zn(OLAc))溶液、ドデカンチオール(DDT)及びTOPを添加し、更に、酸性酸化物を加える。本実施形態では、この酸性酸化物を含むシェル源混合液を添加し、所定の加熱条件で撹拌しつつ加熱する。所定の加熱条件とは、例えば、加熱温度が320℃で、加熱時間が10分である。本実施形態では、シェル源混合液の添加・加熱の操作を複数回、繰り返し行う。図4には、繰り返し操作回数として10回と記載したが、「10回」は一例であり、回数を限定するものではない。ただし、繰り返し回数を、5回~15回程度の範囲内で規定することが好ましい。その後、室温まで冷却を行う。
【0062】
本実施形態では、前半のシェル被覆工程では、シェル源混合液に酸性化合物を添加するが、後半のシェル被覆工程で配合するハロゲン化亜鉛化合物を添加しない。前半のシェル被覆工程のシェル源混合液にハロゲン化亜鉛化合物を添加すると、QYが低下することがわかっている。そのため、前半のシェル被覆工程では、シェル源混合液に、ハロゲン化亜鉛化合物を添加しない。
【0063】
次に、本実施形態では、後半のシェル被覆工程を施す。後半のシェル被覆工程では、ZnSE/ZnSeS/ZnSが分散した溶液に、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を含むシェル源混合液を添加する。このシェル源混合液には、例えば、オレイン酸亜鉛(Zn(OLAc))溶液、ドデカンチオール(DDT)、及びTOPとともに、ハロゲン化亜鉛化合物と酸性化合物を添加する。このように、後半のシェル被覆工程では、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を含むシェル源混合液を添加し、所定の加熱条件で撹拌しつつ加熱する。所定の加熱条件とは、例えば、加熱温度が320℃で、加熱時間が10分である。本実施形態では、シェル源混合液の添加・加熱の操作を複数回、繰り返し行う。図4には、繰り返し操作回数として10回と記載されているが、「10回」は一例であり、回数を限定するものではない。ただし、繰り返し回数を、5回~15回程度の範囲内で規定することが好ましい。
【0064】
その後、室温まで冷却し、洗浄し、更に、ODEの添加により分散させる。このシェル源混合液の添加からODE分散に至る工程を、所定のシェル厚になるまで繰り返し行う。
このように、後半のシェル被覆工程では、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を含むシェル源混合液を添加することに特徴がある。
【0065】
本実施形態では、EQEの向上を図るものであるが、そのためには、QYの向上、更には、粒子形状の適正化を図る必要がある。QYを高くできれば、(式1)で示した通り、EQEを向上させることができる。
【0066】
粒子形状の適正化に関しては、以下の通り説明される。すなわち、量子ドットのコア同士の距離が近いとフェルスター共鳴エネルギー(FRET)が生じることで、EQEの低下を招く。このため、コアの周囲にシェルを被覆したコアシェル構造とすることで、コア同士を物理的に離すことができ、FRETを低減できると考えられる。しかしながら、シェル厚を厚くすると、粒子形状が悪化し、これに伴いQYも低下した。また、従来では、シェルをコアの表面全体に所定厚にて被覆できず欠陥が生じたり、或いはシェル厚が局所的に厚くなり、粒子形状が悪化する問題があった。これにより、FRETの低減を適切に図ることができず、EQEを効果的に低減できなかった。
【0067】
そこで、本実施形態では、ハロゲン化亜鉛化合物をコアに少量ずつ添加することで、QYの向上を図ることができる。特に、ハロゲン化亜鉛化合物は、前半のシェル被覆工程に添加せず、後半のシェル被覆工程にのみ添加することで、効果的に、QYの向上を図ることができる。また、シェル源混合液を添加し続けると、粒子形状が悪化するために、酸性化合物をシェル源混合液に添加することで、局所的に厚みが大きいシェルの箇所がエッチングされることで形状が整えられていき、断面が多角形状となる良好な粒子形状に揃えることができる。
【0068】
本実施形態では、ハロゲン化亜鉛化合物をオレイン酸亜鉛に対して、0.5mol%~3mol%程度添加することが好適であり、1mol%~2mol%程度添加することがより好ましい。
【0069】
本実施形態では、酸性化合物として、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)、よう化水素(HI)、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)、酢酸(AA)、硫酸(HSO)、りん酸(HPO)等から少なくとも1種を選択することができる。このうち、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)、及びトリフルオロ酢酸(TFA)のうち少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。高いQYを得ることができるとともに、量子ドットの粒子形状を良好にできる。本実施形態では、例えば、酸化水素-酢酸エチル溶液を、シェル源混合液に添加することができる。
【0070】
本実施形態では、ハロゲン化亜鉛化合物として、塩化亜鉛(ZnCl)、或いは、臭化亜鉛(ZnBr)、ふっ化亜鉛(ZnF)、よう化亜鉛(ZnI)のうち少なくともいずれか1種を用いることが好ましい。本実施形態では、例えば、塩化亜鉛-TOP・オレイン酸溶液を、シェル源混合液に添加することができる。
また、本実施形態では、コアシェル構造に用いるS原料としては、特に限定するものではないが、以下の原料が代表的なものとして挙げられる。
【0071】
すなわち、チオール類として、オクタデカンチオール:C1837SH、ヘキサンデカンチオール:C1633SH、テトラデカンチオール:C1429SH、ドデカンチオール:C1225SH、デカンチオール:C1021SH、オクタンチオール:C17SH、ベンゼンチオール:CSH、又は、トリオクチルホスフィンのような長鎖のホスフィン系炭化水素である高沸点溶媒に硫黄を溶解させた溶液(S-TOP)、更には、オクタデセンのような長鎖の炭化水素である高沸点溶媒に硫黄を溶解させた溶液(S-ODE)や、又は、オレイルアミンとドデカンチオールの混合物に溶解させた溶液(S-DDT/OLAm)などを用いることができる。
【0072】
使用するS原料によって、反応性が異なり、その結果、シェル5b(例えば、ZnS)の被覆厚を異ならせることができる。チオール系は、その分解速度に比例しており、S-TOP又はS-ODEはその安定性に比例して反応性が変化する。これより、S原料の使い分けによっても、シェル5bの被覆厚の制御が可能となり、最終的な蛍光量子収率も制御することができる。
【0073】
また、本実施形態では、シェル5bの被覆時に用いる溶媒は、アミン系の溶媒が少ないほど、シェル5bの被覆が容易になり、良好な発光特性を得ることができる。更に、アミン系溶媒、カルボン酸系又はホスフィン系溶媒の比率によって、シェル5bの被覆後の発光特性が異なる。
【0074】
更に、本実施の形態の製造方法により合成した量子ドット5は、メタノール、エタノール、又はアセトン等の極性溶媒を加えることで凝集し、量子ドット5と未反応原料を分離して回収することができる。この回収した量子ドット5に再度トルエン、又はヘキサン等を加えることで再び分散する。この再分散した溶液に配位子となる溶媒を加えることで、更に発光特性を向上させることや発光特性の安定性を向上させることができる。この配位子を加えることでの発光特性の変化は、シェル5bの被覆操作の有無で大きく異なり、本実施の形態では、シェル5bの被覆を行った量子ドット5は、チオール系の配位子を加えることで、特に蛍光安定性を向上させることができる。
【0075】
図1A及び図1Bに示す量子ドット5の用途を、特に限定するものでないが、例えば、青色蛍光を発する本実施形態の量子ドット5を、波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等に適用することができる。
【0076】
本実施形態の量子ドット5を波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等の一部に適用し、例えば、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)を発光原理として採用する場合、光源からのUV照射により、青色蛍光を発することを可能とする。或いは、エレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を発光原理として採用する場合、或いは、他の方法で3原色すべてを量子ドットで発光させる場合、本実施形態の量子ドット5を用いた青色蛍光を発する発光素子とすることができる。本実施形態では、緑色蛍光を発する量子ドット、赤色蛍光を発する量子ドットとともに、青色蛍光を発する本実施形態の量子ドット5を含む発光素子(フルカラーLED)とすることで、白色を発光させることが可能になる。
【0077】
図2は、本実施形態の量子ドットを用いたLED装置の模式図である。本実施形態のLED装置1は、図2に示すように、底面2aと底面2aの周囲を囲む側壁2bを有する収納ケース2と、収納ケース2の底面2aに配置されたLEDチップ(発光素子)3と、収納ケース2内に充填され、LEDチップ3の上面側を封止する蛍光層4を有して構成される。ここで上面側とは、収納ケース2からLEDチップ3の発した光が放出される方向であって、LEDチップ3に対して、底面2aの反対の方向を示す。
【0078】
LEDチップ3は、図示しないベース配線基板上に配置され、ベース配線基板は、収納ケース2の底面部を構成していてもよい。ベース基板としては、例えば、ガラスエポキシ樹脂等の基材に配線パターンが形成された構成を提示できる。
LEDチップ3は、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子であり、P型半導体層とN型半導体層とがPN接合された基本構成を備える。
図2に示すように、蛍光層4は、多数の量子ドット5が分散された樹脂6により形成されている。
【0079】
また本実施の形態における量子ドット5を分散した樹脂組成物には、量子ドット5と量子ドット5とは別の蛍光物質を含んでいてもよい。蛍光物質としては、サイアロン系やKSF(KSiF:Mn4+)赤色蛍光体などがあるが材質を特に限定するものでない。
【0080】
蛍光層4を構成する樹脂6は、特に限定するものでないが、ポリプロピレン(Polypropylene:PP)、ポリスチレン(Polystyrene:PS)、アクリル樹脂(Acrylic resin)、メタクリル樹脂(Methacrylate)、MS樹脂、ポリ塩化ビニル(Polyvinyl chloride:PVC)、ポリカーボネート(Polycarbonate:PC)、ポリエチレンテレテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリエチレンナフタレート(Polyethylene naphthalate:PEN)、ポリメチルペンテン(Polymethylpentene)、液晶ポリマー、エポキシ樹脂(Epoxy resin)、シリコーン樹脂(Silicone resin)、又は、これらの混合物等を使用することができる。
【0081】
本実施形態の量子ドットを用いたLED装置は、表示装置に適用することができる。図3は、図2に示すLED装置を用いた表示装置の縦断面図である。図3に示すように、表示装置50は、複数のLED装置20と、各LED装置20に対向する液晶ディスプレイ等の表示部54を有して構成される。各LED装置20は、表示部54の裏面側に配置される。各LED装置20は、図2に示すLED装置1と同様に多数の量子ドット5を拡散した樹脂によりLEDチップが封止された構造を備える。
【0082】
図3に示すように、複数のLED装置20は、支持体52に支持されている。各LED装置20は、所定の間隔を空けて配列されている。各LED装置20と支持体52とで表示部54に対するバックライト55を構成している。支持体52はシート状や板状、あるいはケース状である等、特に形状や材質を限定するものでない。図3に示すように、バックライト55と表示部54との間には、光拡散板53等が介在していてもよい。
【0083】
本実施の形態における量子ドット5を、図2に示すLED装置や、図3に示す表示装置等に適用することで、装置の発光特性を効果的に向上させることが可能となる。特に、QLED素子に本実施形態の量子ドットを適用した際のEQEを向上させることができる。本実施形態では、7%以上のEQEを得ることができ、好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは10.5%以上のEQEを得ることができる。
【0084】
また、本実施形態の量子ドット5を樹脂中に分散させた樹脂組成物を、シート状、フィルム状に形成することもできる。このようなシートやフィルムを、例えば、バックライト装置に組み込むことができる。
【0085】
また、本実施の形態では、複数の量子ドットを樹脂中に分散した波長変換部材を成形体で形成することができる。例えば、量子ドットが樹脂に分散されてなる成形体は、収納空間を有する容器に圧入等により収納される。このとき、成形体の屈折率は、容器の屈折率より小さいことが好ましい。これにより、成形体に進入した光の一部が、容器の内壁で全反射する。したがって、容器の側方から外部に漏れる光の梁を減らすことができる。このように、本実施の形態における量子ドットを、波長変換部材、照明部材、バックライト装置、及び、表示装置等に適用することで、発光特性を効果的に向上させることが可能となる。
【実施例
【0086】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0087】
本発明では、Cdを含まない青色蛍光の量子ドットを合成するにあたり以下の原料を用いた。また合成した量子ドットを評価するにあたり以下の測定機器を用いた。
<原料>
無水酢酸銅:和光純薬株式会社製
オクタデセン:出光興産株式会社製
オレイルアミン:花王株式会社製 ファーミン
オレイン酸:花王株式会社製 ルナックO-V
ドデカンチオール(DDT):花王株式会社製 チオカルコール20
トリオクチルホスフィン(TOP):北興化学株式会社製
無水酢酸亜鉛:キシダ化学株式会社製
セレン(4N:99.99%):新興化学株式会社製
硫黄:キシダ化学株式会社製
塩化水素:国産化学株式会社製
塩化亜鉛:関東化学株式会社製
臭化水素:東京化成工業株式会社製
臭化亜鉛:キシダ化学株式会社製
<測定機器>
蛍光分光計:日本分光株式会社製 F-2700
紫外-可視光分光光度計:日立株式会社製 V-770
蛍光量子収率測定装置:大塚電子株式会社製 QE-1100
X線回折装置(XRD):Bruker社製 D2 PHASER
走査線電子顕微鏡(SEM):日立株式会社製 SU9000
蛍光寿命測定装置:浜松ホトニクス製 C11367
LED測定装置:スペクトラ・コープ社製
透過型電子顕微鏡(TEM):日本電子株式会社製 JEM-ARM200-CF
XEDS検出器:日本電子株式会社製 JED2300T
【0088】
[実施例1]
<ZnSeコアの合成方法>
300mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc) 728mgと、オレイルアミン:OLAm 19.2mLと、オクタデセン:ODE 31mLを入れた。そして、不活性ガス(N)雰囲気下で、165℃で20分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0089】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.7M)4.56mLを添加し、165℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSe)を、室温まで冷却した。
【0090】
その後、CuSe反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc) 7376mgとトリオクチルホスフィン:TOP 40mLと、オレイルアミン:OLAm 1.6mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、200℃で1時間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0091】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 96mlを加えて分散させた。
【0092】
その後、ZnSe-ODE溶液 96mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc) 7376mgと、トリオクチルホスフィン:TOP 40mLと、オレイルアミン:OLAm 4mLと、オレイン酸:OLAc 24mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、290℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約446.5nm、蛍光半値幅が約14nmである光学特性が得られた。
【0093】
<ZnSeコアへのシェルの被覆方法>
ZnSe反応液 40mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。
【0094】
分散したZnSe-ODE溶液 35mLに、オレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0095】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.5mLと、S-TOP溶液(1M) 0.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)5mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った。
【0096】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。そして、先程同様にオレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0097】
この溶液に、DDT 0.4mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.6mLと、塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)0.12mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)10mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0098】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。そして、先程同様にオレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0099】
この溶液に、DDT 0.4mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.6mLと、塩化水素‐酢酸エチル溶液(4M)0.12mLと、塩化亜鉛-TOP・オレイン酸溶液(0.8M) 0.1mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)10mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0100】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。そして、先程同様にオレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0101】
この溶液に、DDT 0.4mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.6mLと、塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)0.2mLと、塩化亜鉛‐TOP・オレイン酸溶液(0.8M) 0.1mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)10mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、図5に示すように、蛍光波長が約442nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。得られた分散溶液を、紫外可視分光計で測定した。その結果、図6の紫外可視吸収スペクトルが得られた。図7は、実施例1のX線回折(Xray Diffraction:XRDスペクトルである。図7の結果より、Zn、Se、Sからなる立方晶の結晶ピークを確認できた。
【0102】
<測定結果>
ヘキサン分散したZnSe/ZnSeS/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約96%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、16nsであった。元素分析(EDX)の結果、Zn:42atom%、Se:11atom%、S:41atom%、Cl:1atom%であった。TEMで得た画像を解析した結果、シェルの厚みは2.0nmであった。
また、実施例1で得た量子ドットを適用して、以下の積層構造を有する発光素子を製造した。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/QD層/LiZnO/Al
本素子を、LED測定装置を用いて評価した結果、外部量子効率(EQE)の最大値は、18.6%であった。
【0103】
[実施例2]
実施例1で用いた塩化亜鉛-TOP・オレイン酸溶液を、臭化亜鉛-TOP・オレイン酸溶液に変更した以外は、実施例1と同じ条件で合成した。
[実施例3]
実施例2で用いた塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)(実施例1の記載を参照)を、臭化水素-酢酸溶液に変更した以外は、実施例2と同じ条件で合成した。
[実施例4]
実施例1で用いた塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)を、トリフルオロ酢酸に変更した以外は、実施例1と同じ条件で合成した。
[実施例5]
実施例2で用いた塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)(実施例1の記載を参照)を、トリフルオロ酢酸に変更した以外は、実施例2と同じ条件で合成した。
【0104】
図8は、実施例1~実施例5の測定結果をまとめた表である。また、実施例1~実施例5にて得られた各量子ドットのTEM写真も掲載した。
図8に示すように、実施例1~実施例5では、いずれも、EQEを7%以上にできた。特に、実施例1では、EQEを18.6%まで向上させることができた。
また、いずれの実施例においても、QYを70%以上にできた。特に、実施例2では、QYを、98%まで向上させることができた。
【0105】
また、各実施例では、蛍光半値幅を20nm以下にできた。更に、いずれの実施例も蛍光波長を、410nm~470nmの範囲に収めることができ、青色蛍光を示した。
また各実施例のシェル厚みは、約2nm~2.5nmの範囲であった。なお、シェル厚みは、TEM-EDXの分析結果の写真から推定可能である。
【0106】
図8の各実施例のSEM写真に示すように、量子ドットの粒子形状は、略矩形状(略立方体)であり良好であることがわかった。すなわち、ZnSeコアが略矩形状に結晶化し、その全周にわたって所定厚のシェルが被覆されたことにより、略矩形状の粒子形状を維持できたと考えられる。これは、シェル源混合液に、酸性化合物を配合したことで、粒子形状の悪化した箇所がエッチングされる効果が作用したためと考えられる。
【0107】
[実施例6]
実施例1で用いた合成工程うち、<ZnSeコアの合成方法>は同じとし、<ZnSeコアへのシェルの被覆方法>の一部を変更して、量子ドットを合成した。以下、実施例6の<ZnSeコアへのシェルの被覆方法>について記載する。
【0108】
<ZnSeコアへのシェルの被覆方法>
ZnSe反応液 40mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。
【0109】
分散したZnSe-ODE溶液 35mLに、オレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0110】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.5mLと、S-TOP溶液(1M) 0.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)5mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った。
【0111】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。そして、先程同様にオレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0112】
この溶液に、DDT 0.6mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.4mLと、塩化水素-酢酸エチル溶液(4M)0.24mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.48M)10mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0113】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 35mlを加えて分散させた。そして、先程同様にオレイン酸:OLAc 2mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0114】
この溶液に、DDT 0.6mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.4mLと、塩化水素‐酢酸エチル溶液(4M)0.24mLと、塩化亜鉛-TOP・オレイン酸溶液(0.8M) 0.1mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.48M)10mLの混合液を0.9mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0115】
<実施例6の測定結果>
ヘキサン分散したZnSe/ZnSeS/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約90%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、20nsであった。TEMで得た画像を解析した結果、シェルの厚みは2.7nmであった。
【0116】
[実施例7]
実施例1の<ZnSeコアの合成方法>及び<ZnSeコアへのシェルの被覆方法>をそのまま用いるが、最後に、塩化亜鉛―TOP塩化亜鉛‐TOP・オレイン酸溶液(0.8M) 2.0mL加え、20分間攪拌しつつ加熱した。
<実施例7の測定結果>
ヘキサン分散したZnSe/ZnSeS/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約84%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、25nsであった。元素分析(EDX)の結果、Zn:32atom%、Se:12atom%、S:50atom%、Cl:6atom%であった。TEMで得た画像を解析した結果、シェルの厚みは2.0nmであった。
【0117】
実施例6は、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)をより効果的に防ぐため、実施例1よりシェルを厚くした。具体的には、実施例1のシェル厚が2nmであるに対して、実施例6では、シェル厚を2.7nmまで厚くした。また、実施例6では、実施例1に対して、蛍光量子収率(QY)の低下を極力抑えることができた。
【0118】
実施例7では、量子ドットの表面に、リガンドがついていないZnを低減することを目的として塩素含有量を増加させた。すなわち、実施例1のCl含有量が1atom%に対して、実施例7のCl含有量は6atom%であった。
[比較例1]
比較例1は、シェル源混合液に、酸性化合物及びハロゲン化亜鉛化合物を混合せず、シェルを被覆した例である。具体的には、以下の工程によりシェルを被覆した。
【0119】
100mL反応容器に、無水酢酸銅:Cu(OAc) 182mgと、オレイルアミン:OLAm 4.8mLと、オクタデセン:ODE 7.75mLを入れた。そして、不活性ガス(N)雰囲気下で、165℃で5分間、攪拌しながら加熱し、原料を溶解させた。
【0120】
この溶液に、Se-DDT/OLAm溶液(0.7M)1.14mLを添加し、165℃で30分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(CuSe)を、室温まで冷却した。
【0121】
その後、CuSe反応液に、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc) 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 0.4mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、180℃で45分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0122】
室温まで冷却した反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 12mlを加えて分散させた。
【0123】
その後、ZnSe-ODE溶液 12mlに、無水酢酸亜鉛:Zn(OAc) 1844mgとトリオクチルホスフィン:TOP 10mLと、オレイルアミン:OLAm 1mLと、オレイン酸:OLAc 6mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、280℃で20分間、攪拌しつつ加熱した。得られた反応溶液(ZnSe)を、室温まで冷却した。
【0124】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約447.5nm、蛍光半値幅が約14nmである光学特性が得られた。
【0125】
得られたZnSe反応液 20mlにエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた。
【0126】
分散したZnSe-ODE溶液 17.5mLに、オレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0127】
この溶液に、Se-TOP溶液(1M)0.5mLと、DDT 0.125mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 0.375mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)5mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し4回行った。
【0128】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させ、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。
【0129】
この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し10回行った。
【0130】
その後、得られた反応液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にオクタデセン:ODE 17.5mlを加えて分散させた(洗浄工程)。
【0131】
次に、先程同様にオレイン酸:OLAc 1mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 2mLを入れ、不活性ガス(N)雰囲気下にて、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この溶液に、DDT 0.5mLと、トリオクチルホスフィン:TOP 1.5mLと、オレイン酸亜鉛:Zn(OLAc)溶液(0.4M)10mLの混合液を0.5mL添加し、320℃で10分間、攪拌しつつ加熱した。この操作を繰り返し6回行った。その後、320℃で30分間攪拌しつつ加熱した(シェル被覆工程)。
【0132】
以降、この反応溶液は、上記(洗浄工程)及び(シェル被覆工程)の操作を3回繰り返して、最終的に目的物である反応溶液(ZnSe/ZnS)を得て、室温まで冷却した。
【0133】
得られた反応溶液を、蛍光分光計で測定した。その結果、蛍光波長が約443nm、蛍光半値幅が約15nmである光学特性が得られた。
得られた反応溶液にエタノールを加え沈殿を発生させ、遠心分離を施して沈殿を回収し、その沈殿にヘキサンを加えて分散させた。
【0134】
ヘキサン分散したZnSe/ZnSeS/ZnSを量子効率測定システムで測定した。その結果、蛍光量子収率が約60%であった。また、蛍光寿命を測定した結果、14nsであった。
また、比較例1で得た量子ドットを適用して、以下の積層構造を有する発光素子を製造した。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/QD層/ZnO/Al
本素子を、LED測定装置を用いて評価した結果、外部量子効率(EQE)の最大値は、4.0%であった。
以下、実施例1と比較例1を対比する。表1は、実施例1と比較例1の測定結果を示す表である。
【0135】
【表1】
【0136】
比較例1は、実施例1に比べて、EQEが低いことがわかった。図9Aは、比較例1におけるTEM-EDXの分析結果の写真であり、図9Bは、実施例1におけるTEM-EDXの分析結果の写真である。図10Aは、図9Aの部分模式図であり、図10Bは、図9Bの部分模式図である。
【0137】
図9A図9Bに示すように、TEM-EDXの分析結果の写真は、3色(赤、青、緑)で示されるが、中心部分は、主に赤と青が混ざって略紫色になっており、一方、外側は、主に、赤と緑が混ざって略黄色になっていることがわかった。赤は、Znを示し、青は、Seを示し、緑は、Sを示すため、中心部分には、主にZnとSeが存在し、外側には、主にZnとSが存在することがわかった。したがって、図9A図9Bに示すTEM-EDXの分析結果の写真から、コアは、ZnSeであり、シェルは、ZnSであると推測できる。そして、TEM-EDXの分析結果の写真から略黄色の部分の厚みを測定することで、シェル厚を推定することができる。
【0138】
図9A及び図10Aから、比較例1では、コアの周囲に被覆されるシェルが略一定厚でなく所々、途切れていたり、局所的にシェルが成長している部分が見受けられた。したがって、比較例1の粒子形状は悪化しており、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)が生じやすく、EQEが低下した。また、比較例1は、実施例1ほど高いQYを得られなかった。
【0139】
これに対し、実施例1では、図9B及び図10Bに示すように、シェルがコアの全周をきれいに被覆し、シェルは略一定厚であり、量子ドットの粒子形状は略矩形状であった。このように、実施例1の粒子形状は比較例1に比べて良好であり、また、比較例1よりも十分に高いQYを得ることができた。これにより、実施例1では、比較例1に比べて十分高いEQEを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明によれば、青色蛍光を発する量子ドットを安定して得ることができる。そして本発明の量子ドットを、LEDやバックライト装置、表示装置等に適用することで、各装置において優れた発光特性を得ることができる。
【0141】
本出願は、2021年2月26日出願の特願2021-030560に基づく。この内容は全てここに含めておく。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10