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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/30 20060101AFI20241112BHJP
   B01J 8/26 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C01B3/30
B01J8/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023508809
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022006987
(87)【国際公開番号】W WO2022202037
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021051543
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査/メタンの熱分解による水素製造技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮浦 拓人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆政
(72)【発明者】
【氏名】坪井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】劉 玉平
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-354405(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0033373(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108328573(CN,A)
【文献】特表2014-520740(JP,A)
【文献】特開2003-238973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
B01J 8/00-8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、ニッケル、銅、および、アルミニウムのうちのいずれか1または複数を含む触媒の移動層が形成される第1収容槽と、前記第1収容槽内に設けられ、熱媒体が通過する伝熱管と、を有する第1加熱炉と、
燃料を燃焼させて燃焼排ガスを生成するバーナと、前記燃焼排ガスにより、前記第1加熱炉から排出された前記触媒の流動層が形成される第2収容槽と、を有する第2加熱炉と、
炭化水素を含む原料ガスにより、前記第2加熱炉から排出された前記触媒の流動層が形成される第3収容槽を有する熱分解炉と、
を備える水素製造装置。
【請求項2】
前記熱分解炉の前記第3収容槽から排出された前記触媒と、前記熱媒体とを熱交換させる熱媒体熱交換器を備え、
前記熱媒体熱交換器によって熱交換された前記熱媒体は、前記第1加熱炉の前記伝熱管を通過する請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記第2加熱炉の前記バーナは、前記原料ガスを前記燃料とする請求項1または2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記熱分解炉の前記第3収容槽から送出された混合ガスから水素を分離する水素分離部を備え、
前記第2加熱炉の前記バーナは、前記水素分離部によって分離された前記水素を前記燃料とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記第2加熱炉の前記第2収容槽には、前記熱分解炉から排出された前記触媒が導かれ、
前記第2加熱炉の前記バーナは、理論空気比以下の空気で前記燃料を燃焼させる請求項1から4のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記第2加熱炉の前記第2収容槽から送出された前記燃焼排ガス、および、前記熱分解炉の前記第3収容槽から送出された混合ガスのいずれか一方または両方のガスと、前記原料ガスとを熱交換させる原料熱交換器を備え、
前記熱分解炉の前記第3収容槽は、前記原料熱交換器によって熱交換された前記原料ガスによって前記触媒の流動層を形成する請求項1から5のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造装置に関する。本出願は2021年3月25日に提出された日本特許出願第2021-051543号に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0002】
水素を製造する技術として、メタン等の炭化水素を水蒸気改質する技術が知られている。しかし、炭化水素の水蒸気改質は、水素の製造過程で二酸化炭素が生じてしまう。そこで、炭化水素を熱分解して、炭素を固体として生成することで、二酸化炭素を排出することなく水素を製造することが考えられる。
【0003】
炭化水素を熱分解する技術として、反応炉と、原料ガス供給源と、反応炉の外部に設けられる加熱部とを備える装置が開示されている(例えば、特許文献1)、反応炉は、触媒を収容する。原料ガス供給源は、反応炉に炭化水素を供給する。加熱部は、反応炉の周囲に設けられ、反応炉内を加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5862559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化水素の熱分解反応は、触媒を用いることによって800℃以上で効率よく進行する。しかし、炭化水素の熱分解反応は吸熱反応であるため、外部から熱を供給する必要がある。このため、上記特許文献1のような反応炉を外部から加熱する技術において、反応炉の内部を800℃以上にするためには、反応炉の炉壁を1000℃以上に加熱する必要がある。そうすると、1000℃以上の耐熱性を有する材料で反応炉を構成しなければならず、反応炉に要するコストが高くなってしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本開示は、このような課題に鑑み、炭化水素を低コストで熱分解させることが可能な水素製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る水素製造装置は、鉄、ニッケル、銅、および、アルミニウムのうちのいずれか1または複数を含む触媒の移動層が形成される第1収容槽と、第1収容槽内に設けられ、熱媒体が通過する伝熱管と、を有する第1加熱炉と、燃料を燃焼させて燃焼排ガスを生成するバーナと、燃焼排ガスにより、第1加熱炉から排出された触媒の流動層が形成される第2収容槽と、を有する第2加熱炉と、炭化水素を含む原料ガスにより、第2加熱炉から排出された触媒の流動層が形成される第3収容槽を有する熱分解炉と、を備える。
【0008】
また、上記水素製造装置は、熱分解炉の第3収容槽から排出された触媒と、熱媒体とを熱交換させる熱媒体熱交換器を備え、熱媒体熱交換器によって熱交換された熱媒体は、第1加熱炉の伝熱管を通過してもよい。
【0009】
また、第2加熱炉のバーナは、原料ガスを燃料としてもよい。
【0010】
また、上記水素製造装置は、熱分解炉の第3収容槽から送出された混合ガスから水素を分離する水素分離部を備え、第2加熱炉のバーナは、水素分離部によって分離された水素を燃料としてもよい。
【0011】
また、第2加熱炉の第2収容槽には、熱分解炉から排出された触媒が導かれ、第2加熱炉のバーナは、理論空気比以下の空気で燃料を燃焼させてもよい。
【0012】
また、上記水素製造装置は、第2加熱炉の第2収容槽から送出された燃焼排ガス、および、熱分解炉の第3収容槽から送出された混合ガスのいずれか一方または両方のガスと、原料ガスとを熱交換させる原料熱交換器を備え、熱分解炉の第3収容槽は、原料熱交換器によって熱交換された原料ガスによって触媒の流動層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、炭化水素を低コストで熱分解させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る水素製造装置を説明する図である。
図2図2は、第1加熱炉および第2加熱炉を説明する図である。
図3図3は、熱分解炉および熱媒体熱交換器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
[水素製造装置100]
図1は、本実施形態に係る水素製造装置100を説明する図である。なお、図1中、実線の矢印は、固体(固形物)の流れを示す。図1中、一点鎖線の矢印は、固気混合物の流れを示す。図1中、破線の矢印は、気体の流れを示す。
【0017】
図1に示すように、水素製造装置100は、第1加熱炉110と、第2加熱炉120と、第1サイクロン130と、第1原料熱交換器132(原料熱交換器)と、空気熱交換器134と、熱分解炉140と、第2サイクロン150と、第2原料熱交換器152(原料熱交換器)と、水素分離部154と、熱媒体熱交換器160と、第3サイクロン170とを含む。
【0018】
第1加熱炉110は、常温(例えば、25℃)の触媒CATを、例えば400℃程度に加熱する。触媒CATは、下記式(1)で示す熱分解反応を促進する触媒である。
CH →C + 2H …式(1)
触媒CATは、鉄、ニッケル、銅、および、アルミニウムのうちのいずれか1または複数で構成される。本実施形態において、触媒CATは、天然鉱物であり、例えば、鉄鉱石である。なお、触媒CATは、銅、および、アルミニウムのうちのいずれか1または複数を含んでいれば、天然鉱物でなくてもよい。触媒CATの粒径は、例えば、50μm以上1000μm以下であり、好ましくは、100μm以上300μm以下である。
【0019】
第2加熱炉120は、第1加熱炉110によって加熱された触媒CAT(400℃程度)をさらに加熱して、例えば900℃程度とする。第1サイクロン130は、触媒CATと燃焼排ガスEXとの固気混合物SG1を固気分離する。固気混合物SG1は、第2加熱炉120において生じたものである。第1原料熱交換器132は、第1サイクロン130によって分離された燃焼排ガスEXと、後述する原料ガスGGとを熱交換する。空気熱交換器134は、第1サイクロン130によって分離された燃焼排ガスEXと、空気とを熱交換する。
【0020】
熱分解炉140は、第2加熱炉120によって加熱された触媒CAT(900℃程度)と、原料ガスGGとを接触させ、上記式(1)の熱分解反応を進行させる。原料ガスGGは、少なくとも炭化水素(例えば、メタン)を含む。原料ガスGGは、例えば、液化天然ガス(LNG)である。
【0021】
第2サイクロン150は、固体炭素が付着した触媒(以下、「付着触媒CCAT」という場合がある)と、水素(H)および原料ガスGGとの固気混合物SG2を固気分離する。固気混合物SG2は、熱分解炉140において生じたものである。第2原料熱交換器152は、第2サイクロン150によって分離された混合ガスMG(水素および原料ガスGG)と、原料ガスGGとを熱交換する。水素分離部154は、混合ガスMGを、水素と原料ガスとに分離する。
【0022】
熱媒体熱交換器160は、熱分解炉140から排出された付着触媒CCATと、熱媒体とを熱交換する。第3サイクロン170は、付着触媒CCATと空気との固気混合物SG3を固気分離する。固気混合物SG3は、熱媒体熱交換器160から排出されたものである。
【0023】
以下、第1加熱炉110、第2加熱炉120、熱分解炉140、および、熱媒体熱交換器160について詳述する。
【0024】
[第1加熱炉110、第2加熱炉120]
図2は、本実施形態に係る第1加熱炉110および第2加熱炉120を説明する図である。なお、図2中、実線の矢印は固体(固形物)の流れを示す。図2中、一点鎖線の矢印は、固気混合物の流れを示す。図2中、破線の矢印は、気体の流れを示す。
【0025】
図2に示すように、第1加熱炉110は、第1収容槽112と、伝熱管114とを含む。第1収容槽112は、触媒CATの移動層が形成される容器である。第1収容槽112の上部には、導入口112aが形成される。第1収容槽112の下部には、排出口112bが形成される。触媒CATは、導入口112aを通じて、第1収容槽112内に導かれる。第1収容槽112内の触媒CATは、排出口112bを通じて、第1収容槽112から排出される。したがって、触媒CATは、第1収容槽112内を上部から下部へ自重で移動する。これにより、第1収容槽112内において触媒CATの移動層が形成される。なお、移動層は、重力によって固体粒子を降下させる状態をいう。
【0026】
伝熱管114は、第1収容槽112内に設けられる。伝熱管114は、熱媒体が通過する管である。本実施形態において、熱媒体は、水蒸気STである。また、伝熱管114には、後述する熱媒体熱交換器160によって生成された水蒸気STが導かれる。伝熱管114内における水蒸気STの通過過程において、伝熱管114を構成する隔壁を介して、水蒸気STと触媒CATとの間で熱交換が行われる。これにより、触媒CATは、400℃程度まで加熱される。
【0027】
第1加熱炉110によって加熱された触媒CATは、排出口112bに接続された配管116を通じて、第2加熱炉120に導かれる。配管116は、第1収容槽112の排出口112bと、第2収容槽210の導入口212aとを接続する。
【0028】
[第2加熱炉120]
第2加熱炉120は、例えば、気泡流動層(バブリング流動層)炉である。なお、流動層は、上向きに流体を噴出させることによって、固体粒子を流体中に懸濁浮遊させた状態をいう。流動層において、固体粒子に働く流体の力と重力とがつりあい、流動層は、全体が均一な流体のような挙動を示す。第2加熱炉120は、第1加熱炉110から導かれた触媒CATを燃焼排ガスEXによって流動化する。
【0029】
図2に示すように、第2加熱炉120は、第2収容槽210と、燃焼排ガス供給部220とを含む。
【0030】
第2収容槽210は、第1加熱炉110から排出された触媒CATの流動層Rが形成される容器である。第2収容槽210の一方の側壁には、導入口212aが設けられる。第2収容槽210の他方の側壁には、排出口212bが設けられる。また、第2収容槽210の上面には、排出口212cが設けられる。導入口212aには、上記配管116が接続される。排出口212bには、配管202が接続される。配管202は、第2収容槽210の排出口212bと、後述する熱分解炉140の第3収容槽310の導入口312aとを接続する。排出口212cには、配管204が接続される。配管204は、排出口212cと、第1サイクロン130とを接続する。また、第2収容槽210の底面は、通気可能な分散板214で構成される。
【0031】
燃焼排ガス供給部220は、第2収容槽210の下部から燃焼排ガスEXを供給する。本実施形態において、燃焼排ガス供給部220は、コンプレッサ222と、コンプレッサ224と、バーナ226と、風箱228とを含む。
【0032】
コンプレッサ222は、燃料ガスFG(例えば、メタン)をバーナ226に供給する。コンプレッサ222の吸入側は、燃料供給管222aを通じて、燃料ガスFGの供給源に接続される。コンプレッサ222の吐出側は、燃料送出管222bを通じて、バーナ226に接続される。なお、燃料ガスFGは、原料ガスGGであってもよい。
【0033】
コンプレッサ224は、空気をバーナ226に供給する。コンプレッサ224の吸入側は、空気供給管224aを通じて、空気の供給源に接続される。コンプレッサ224の吐出側は、空気送出管224bを通じて、バーナ226に接続される。
【0034】
バーナ226は、燃料ガスFGを燃焼させて燃焼排ガスEXを生成する。バーナ226によって生成された燃焼排ガスEX(例えば、900℃超)は、風箱228に供給される。
【0035】
風箱228は、第2収容槽210の下方に設けられる。風箱228の上部は、分散板214で構成されている。換言すれば、分散板214は、第2収容槽210と風箱228とを区画する。バーナ226から風箱228に供給された燃焼排ガスEXは、第2収容槽210の底面(分散板214)から当該第2収容槽210内に供給される。
【0036】
したがって、導入口212aを通じて第1加熱炉110から導入された触媒CATは、燃焼排ガスEXによって流動化し、第2収容槽210内において流動層R(気泡流動層)が形成される。また、第2収容槽210内において、触媒CATと、燃焼排ガスEXとが接触することにより、触媒CATと燃焼排ガスEXとで熱交換が為される。これにより、第2加熱炉120は、触媒CATを例えば900℃程度まで加熱する。
【0037】
こうして、加熱された触媒CATは、排出口212b、配管202を通じて、熱分解炉140に導かれる。
【0038】
また、触媒CATを加熱した後の燃焼排ガスEXは、一部の触媒CATとともに、排出口212c、配管204を通じて、第1サイクロン130に導かれる。上記したように、第1サイクロン130は、触媒CATと燃焼排ガスEXとを含む固気混合物SG1を固気分離する。第1サイクロン130によって分離された触媒CATは、第1加熱炉110に返送される。
【0039】
第1原料熱交換器132は、第1サイクロン130によって分離された燃焼排ガスEXと、原料ガスGGとを熱交換させる。第1原料熱交換器132は、第2原料熱交換器152によって熱交換された原料ガスGGと、燃焼排ガスEXとを熱交換する。これにより、原料ガスGGは加熱され、燃焼排ガスEXは徐熱される。第1原料熱交換器132によって加熱された原料ガスGGは、後述する熱分解炉140に供給される。一方、徐熱された燃焼排ガスEXは、空気熱交換器134に導かれる。
【0040】
空気熱交換器134は、第1原料熱交換器132によって熱交換された後の燃焼排ガスEXと、空気とを熱交換する。これにより、空気は加熱され、燃焼排ガスEXは徐熱される。加熱された空気は、燃料ガスFGとしてバーナ226に供給される。また、徐熱された燃焼排ガスEXは、バーナ226に供給される。
【0041】
[熱分解炉140]
図3は、本実施形態に係る熱分解炉140および熱媒体熱交換器160を説明する図である。なお、図3中、実線の矢印は固体(固形物)および液体の流れを示す。図3中、一点鎖線の矢印は、固気混合物の流れを示す。図3中、破線の矢印は、気体の流れを示す。
【0042】
熱分解炉140は、例えば、気泡流動層(バブリング流動層)炉である。熱分解炉140は、第2加熱炉120から導かれた触媒CATを原料ガスGGによって流動化する。図3に示すように、熱分解炉140は、第3収容槽310と、原料ガス供給部320とを含む。
【0043】
第3収容槽310は、第2加熱炉120から排出された触媒CATの流動層Rを形成される容器である。
【0044】
第3収容槽310の一方の側壁には、導入口312aが設けられる。第3収容槽310の他方の側壁には、排出口312bが設けられる。また、第3収容槽310の上面には、排出口312cが設けられる。導入口312aには、上記配管202が接続される。排出口312bには、配管302が接続される。配管302は、第3収容槽310の排出口312bと、後述する熱媒体熱交換器160の第4収容槽410の導入口412aとを接続する。排出口312cには、配管304が接続される。配管304は、排出口312cと、第2サイクロン150とを接続する。また、第3収容槽310の底面は、通気可能な分散板314で構成される。
【0045】
原料ガス供給部320は、第3収容槽310の下部から原料ガスGGを供給する。本実施形態において、原料ガス供給部320は、コンプレッサ322と、風箱324とを含む。
【0046】
コンプレッサ322は、原料ガスGGを風箱324に供給する。本実施形態において、コンプレッサ322は、第2原料熱交換器152および第1原料熱交換器132によって熱交換された原料ガスGGを風箱324に供給する。コンプレッサ322の吸入側は、原料ガス供給管322aを通じて、原料ガスGGの供給源に接続される。コンプレッサ322の吐出側は、原料ガス送出管322bを通じて、風箱324に接続される。
【0047】
なお、第2原料熱交換器152は、原料ガス供給管322aを通過する原料ガスGGと、混合ガスMGとを熱交換する。原料ガス供給管322aを通過する原料ガスGGは、供給源から原料ガス供給管322aに供給されたものである。また、第1原料熱交換器132は、原料ガス供給管322aを通過する原料ガスGGと、燃焼排ガスEXとを熱交換する。原料ガス供給管322aを通過する原料ガスGGは、第2原料熱交換器152によって熱交換された後の原料ガスGGである。
【0048】
風箱324は、第3収容槽310の下方に設けられる。風箱324の上部は、分散板314で構成されている。換言すれば、分散板314は、第3収容槽310と風箱324とを区画する。コンプレッサ322から風箱324に供給された原料ガスGGは、第3収容槽310の底面(分散板314)から第3収容槽310内に供給される。
【0049】
したがって、導入口312aを通じて第2加熱炉120から導入された高温(例えば、900℃程度)の触媒CATは、原料ガスGGによって流動化し、第3収容槽310内において流動層R(気泡流動層)が形成される。また、熱分解炉140は、流動層R(触媒CAT)が有する熱で、原料ガスGGを熱分解する。つまり、第3収容槽310内において、上記式(1)に示す熱分解反応が進行する。
【0050】
こうして、熱分解炉140において、水素および未反応の原料ガスGGを含む混合ガスMGと、付着触媒CCATとを含む固気混合物SG2が生成される。熱分解炉140で生成された固気混合物SG2は、排出口312c、配管304を通じて、第2サイクロン150に導かれる。上記したように、第2サイクロン150は、固気混合物SG2を固気分離する。第2サイクロン150によって分離された付着触媒CCATは、後段の固体炭素利用設備に送出される。固体炭素利用設備は、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、または、黒鉛を利用する設備、建築材として固体炭素を利用する設備、道路の舗装材として固体炭素を利用する設備、固体炭素を貯留する設備である。
【0051】
第2原料熱交換器152は、第2サイクロン150によって分離された混合ガスMGと、原料ガスGGとを熱交換させる。第2原料熱交換器152は、供給源から供給される原料ガスGGと、混合ガスMGとを熱交換する。これにより、原料ガスGGが加熱され、混合ガスMGが徐熱される。第2原料熱交換器152によって加熱された原料ガスGGは、第1原料熱交換器132によってさらに加熱された後、熱分解炉140に供給される。一方、徐熱された混合ガスMGは、水素分離部154に導かれる。
【0052】
水素分離部154は、混合ガスMGガスから水素を分離する。水素分離部154は、例えば、圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)を利用した装置、または、深冷分離装置である。水素分離部154によって分離された水素は、後段の水素利用設備に送出される。また、水素分離部154によって水素が取り除かれることで生成される未反応の原料ガスGGは、原料ガス供給管322aを通過する原料ガスGG(例えば、第2原料熱交換器152によって熱交換される前の原料ガスGG)に合流される。
【0053】
[熱媒体熱交換器160]
熱媒体熱交換器160は、熱分解炉140から導かれた付着触媒CCATの熱を回収する。図3に示すように、本実施形態に係る熱媒体熱交換器160は、第4収容槽410と、空気供給部420と、伝熱管430と、ポンプ432とを含む。
【0054】
第4収容槽410は、熱分解炉140から排出された付着触媒CCATの流動層Rを形成される容器である。
【0055】
第4収容槽410の一方の側壁には、導入口412aが設けられる。また、第4収容槽410の上面には、排出口412bが設けられる。導入口412aには、上記配管302が接続される。排出口412bには、配管404が接続される。配管404は、排出口412bと、第3サイクロン170とを接続する。また、第4収容槽410の底面は、通気可能な分散板414で構成される。
【0056】
空気供給部420は、第4収容槽410の下部から空気を供給する。本実施形態において、空気供給部420は、コンプレッサ422と、風箱424とを含む。
【0057】
コンプレッサ422は、空気を風箱424に供給する。コンプレッサ422の吸入側は、空気供給管422aを通じて、空気の供給源に接続される。コンプレッサ422の吐出側は、空気送出管422bを通じて、風箱424に接続される。
【0058】
風箱424は、第4収容槽410の下方に設けられる。風箱424の上部は、分散板414で構成されている。換言すれば、分散板414は、第4収容槽410と風箱424とを区画する。コンプレッサ422から風箱424に供給された空気は、第4収容槽410の底面(分散板414)から第4収容槽410内に供給される。
【0059】
したがって、導入口412aを通じて熱分解炉140から導入された高温(例えば、500℃程度)の付着触媒CCATは、空気によって流動化し、第4収容槽410内において流動層R(気泡流動層)が形成される。
【0060】
伝熱管430は、第4収容槽410内に設けられる。伝熱管430は、熱媒体(水および水蒸気ST)が通過する管である。ポンプ432は、伝熱管430に水を供給する。伝熱管430内における水の通過過程において、伝熱管430を構成する隔壁を介して、水と付着触媒CCATとの間で熱交換が行われる。これにより、水は、260℃程度まで加熱されて水蒸気STとなる。こうして、第4収容槽410(伝熱管430)において生成された水蒸気STは、第1加熱炉110の伝熱管114に導かれ、伝熱管114を通過する。
【0061】
また、固気混合物SG3は、配管404を通じて、第3サイクロン170に導かれる。固気混合物SG3は、第4収容槽410において付着触媒CCATを流動化させた空気および付着触媒CCATを含む。上記したように、第3サイクロン170は、固気混合物SG3を固気分離する。第3サイクロン170によって分離された空気は、外部に廃棄される。また、第3サイクロン170によって分離された付着触媒CCATは、後段の固体炭素利用設備に送出される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る水素製造装置100は、第1加熱炉110、第2加熱炉120、および、熱分解炉140を備える。このため、水素製造装置100は、第1加熱炉110および第2加熱炉120によって加熱された触媒CATの熱でメタン(炭化水素)を熱分解することができる。
【0063】
また、水素製造装置100では、加熱された触媒CATが熱分解炉140(第3収容槽310内)に導入される。このため、第3収容槽310の内部は、触媒CATによって実質的に均一に加熱される。したがって、水素製造装置100は、熱分解炉140を外部から加熱する必要がない。これにより、水素製造装置100は、1000℃以上の耐熱性を有する材質で熱分解炉140の炉壁を構成する必要がなくなる。このため、水素製造装置100は、熱分解炉140の製造コストを低減することができる。したがって、水素製造装置100は、メタン(炭化水素)を低コストで熱分解させることが可能となる。換言すれば、水素製造装置100は、低コストで水素を製造することができる。
【0064】
また、熱分解炉内を外部から加熱する従来技術は、熱分解炉の内部温度を均一にすることが難しく、熱分解炉の大型化が困難である。これに対し、水素製造装置100は、熱分解炉内を外部から加熱する従来技術と比較して、第3収容槽310内の温度を均一化することができる。これにより、水素製造装置100は、第3収容槽310内において、触媒CATの温度が局所的に低下してしまう事態を回避することが可能となる。したがって、水素製造装置100は、効率よくメタン(炭化水素)を熱分解することができる。また、水素製造装置100は、第3収容槽310の内部の温度を均一化できるため、第3収容槽310を大型化することも可能である。これにより、水素製造装置100は、大量の水素を安価に製造することができる。
【0065】
また、上記したように、熱分解炉140は、原料ガスGGを熱分解して、水素および固体炭素を生成する。したがって、水素製造装置100は、原料ガスGG由来の二酸化炭素を排出することなく水素を製造することができる。
【0066】
また、上記したように、水素製造装置100は、熱分解炉140において使用済みの付着触媒CCATの熱を回収する熱媒体熱交換器160を備える。そして、第1加熱炉110は、熱媒体熱交換器160で回収された熱で触媒CATを加熱する。このため、水素製造装置100は、触媒CATを所望の温度(例えば、900℃)に加熱するために、第2加熱炉120において必要な燃料の量を削減することが可能となる。したがって、水素製造装置100は、低コストで触媒CATを加熱することができる。
【0067】
また、上記したように、水素製造装置100は、第1原料熱交換器132および第2原料熱交換器152を備える。そして、原料ガス供給部320は、第1原料熱交換器132および第2原料熱交換器152によって加熱された原料ガスGGを熱分解炉140(第3収容槽310)に供給する。つまり、水素製造装置100は、熱分解炉140に供給する原料ガスGGを予熱することができる。このため、水素製造装置100は、熱分解炉140の温度の低下を抑制することができる。したがって、水素製造装置100は、第2加熱炉120における触媒CATの加熱量(燃料の量)を低減することが可能となる。また、水素製造装置100は、熱分解炉140内の温度の不均一化を抑制することができる。したがって、水素製造装置100は、効率よくメタン(炭化水素)を熱分解することが可能となる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
例えば、上述した実施形態において、水素製造装置100が熱媒体熱交換器160を備える場合を例に挙げた。しかし、熱媒体熱交換器160は、必須の構成ではない。例えば、熱分解炉140から排出された付着触媒CCATは、そのまま後段の固体炭素利用設備に送出されてもよいし、大気中に放置されてもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、水素分離部154によって分離された水素が、後段の水素利用設備に送出される場合を例に挙げた。しかし、水素分離部154によって分離された水素は、第2加熱炉120のバーナ226に供給されてもよい。この場合、第2加熱炉120のバーナ226は、水素分離部154によって分離された水素を燃料とする。これにより、第2加熱炉120が生成する燃焼排ガスに二酸化炭素が含まれなくなる。したがって、水素製造装置100は、触媒CATの加熱において二酸化炭素の発生を防止することが可能となる。このため、水素製造装置100は、二酸化炭素フリーの水素を製造することができる。なお、バーナ226は、水素分離部154によって分離された水素とメタン(例えば、原料ガスGG)とを燃料としてもよい。
【0071】
また、上記実施形態において、水素製造装置100が、第1原料熱交換器132および第2原料熱交換器152を備える場合を例に挙げた。しかし、第1原料熱交換器132および第2原料熱交換器152のいずれか一方または両方を省略することもできる。
【0072】
また、上記実施形態において、使用された付着触媒CCATがすべて後段の固体炭素利用設備に送出される場合を例に挙げた。しかし、付着触媒CCATを再度、第1加熱炉110に供給して、付着触媒CCATを循環させて(再利用して)もよい。また、熱分解炉140から導かれた付着触媒CCATは、熱媒体熱交換器160を経由せずに、第2加熱炉120の第2収容槽210に直接導かれてもよい(再循環されてもよい)。この場合、バーナ226は、理論空気比以下の空気で燃料を燃焼させてもよい。これにより、第2加熱炉120の第2収容槽210に供給される燃焼排ガスEXに酸素が含まれなくなる。したがって、第2加熱炉120において、付着触媒CCATから二酸化炭素が発生してしまう事態を回避することが可能となる。このため、水素製造装置100は、原料ガスGG由来の二酸化炭素を排出することなく水素を製造することができる。
【0073】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0074】
100:水素製造装置 110:第1加熱炉 112:第1収容槽 114:伝熱管 120:第2加熱炉 132:第1原料熱交換器(原料熱交換器) 140:熱分解炉 152:第2原料熱交換器(原料熱交換器) 154:水素分離部 160:熱媒体熱交換器 210:第2収容槽 226:バーナ 310:第3収容槽
図1
図2
図3