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特許7586305ゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09H 3/02 20060101AFI20241112BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 61/22 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C09H3/02
B01D61/14 500
B01D61/22
B01D63/02
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/34
B01D69/08
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023521629
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013447
(87)【国際公開番号】W WO2023191018
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022057099
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小崎 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲太郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 智子
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-209975(JP,A)
【文献】特開昭60-226897(JP,A)
【文献】特開平09-121819(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110052171(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1442441(CN,A)
【文献】特開平03-004751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267746(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111362360(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
A23J 1/00 - 7/00
C08H 1/00 - 99/00
C09H 1/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
限外濾過膜を備える限外濾過膜モジュールによってゼラチン溶液を濃縮し、濾過液を得る膜濃縮工程と、
前記膜濃縮工程の後に、前記ゼラチン溶液を熱によってさらに濃縮する熱濃縮工程を有し、
前記膜濃縮工程は、前記ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5以上であるとき、前記ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比(v/v)が0.020以上0.15以下となるように運転を開始
前記ゼラチン溶液の粘度μ および前記濾過液の粘度μ は、それぞれ下記に示す方法で測定される、
ゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
粘度の測定方法:前記膜濃縮工程の実運転時と同じ温度、せん断速度において管内径D 、管長L の細管に流速v で前記ゼラチン溶液または前記濾過液を通液させた際の、管入口圧力P と管出口圧力P より、下記式(7)を用いて粘度μを測定する。
【数1】
【請求項2】
前記膜濃縮工程によって濃縮する前記ゼラチン溶液の粘度μが2.0mPa・s以上である、
請求項1に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項3】
前記膜濃縮工程において、前記ゼラチン溶液の粘度μと前記ゼラチン溶液の流速vがv<-0.135μ+3.0の関係を満たすように運転を行う、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項4】
前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュールの単位体積当たりの膜面積が800m/m以上3700m/m以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項5】
前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量Vと前記限外濾過膜モジュール1本あたりの有効膜面積Aの比(V/A)が0.5m/h以上3.5m/h以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、複数の限外濾過膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された限外濾過膜モジュール全てで1本とみなす。
【請求項6】
前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量Vと前記限外濾過膜モジュール1本あたりの体積Vとの比(V/V)が600/h以上4000/h以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、複数の限外濾過膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された限外濾過膜モジュール全てで1本とみなす。
【請求項7】
前記限外濾過膜の重量平均分子量40000のデキストランの阻止率Rが40%以上80%以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項8】
前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγが10mJ/m以上40mJ/m以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項9】
前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγのファンデルワールス成分γLWが10mJ/m以上40mJ/m以下であり、
前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγの電子供与成分γ―が25mJ/m以上40mJ/m以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項10】
前記限外濾過膜の表面電位Ψが-20mV以上-5mV以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、表面電位Ψは室温かつpH7の緩衝溶液中で測定する。
【請求項11】
前記限外濾過膜が、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項12】
前記限外濾過膜のゼラチン溶液と接する側の面において、単位表面積あたり表面孔数を、表面孔径の平均値で除した値Xが5~100個/μm/nmである、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項13】
前記限外濾過膜は、ゼラチン溶液と接する側の面に楕円形の開口部を有し、
前記開口部の長径d1と短径d2との比(d1/d2)の平均値が1.1以上1.4以下であり、
前記比(d1/d2)の標準偏差が0.3以下であり、
前記短径の平均d2aveが5nm以上15nm以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項14】
前記限外濾過膜モジュールにおいて、前記ゼラチン溶液の流れ方向における有効膜長が0.50m以上2.00m以下である、
請求項1または2に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項15】
前記限外濾過膜モジュールは、前記限外濾過膜として中空糸膜を備える外圧式膜モジュールである、
請求項1に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項16】
前記外圧式膜モジュールにおける膜充填率が20%以上50%以下である、
請求項15に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項17】
前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本(4.90N/本)以上である、
請求項15または16に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【請求項18】
前記中空糸膜の内径が300μm以上1000μm以下である、
請求項15または16に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼラチン製品の原材料である乾燥ゼラチンの製造法はドラム乾燥法や噴霧乾燥法に代表されるホットドライと比較的低温で風乾させるコールドドライが知られており、従来から乾燥効率向上のためドライプロセス前にゼラチン溶液を所定の濃度へ濃縮する操作が行われている。
【0003】
従来から濃縮技術として薄膜式減圧濃縮法などの熱濃縮技術が広く用いられており、その他の濃縮技術として、限外濾過膜によりゼラチン溶液中の水分を濾過しゼラチン成分を濃縮する膜濃縮技術が特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開平11-140420号公報
【文献】日本国特開2014-100110号公報
【文献】日本国特表2021-516685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の熱濃縮技術は蒸発にかかるエネルギーが膨大であり、比較的消費エネルギーの低い膜濃縮技術も知られているが、十分な乾燥効率向上効果が得られる所定の濃度まで高濃縮することが困難であった。
【0006】
本発明は、上記現状を鑑みて、省エネルギーなゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らは、複数の濃縮工程を適切に組み合わせることで相乗効果が得られ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法を提供する。
[1]限外濾過膜を備える限外濾過膜モジュールによってゼラチン溶液を濃縮する膜濃縮工程と、
前記膜濃縮工程の後に、前記ゼラチン溶液を熱によってさらに濃縮する熱濃縮工程を有し、
前記膜濃縮工程は、前記ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5以上、前記ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比(v/v)が0.020以上0.15以下となるように運転を開始する、
ゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[2]前記膜濃縮工程によって濃縮する前記ゼラチン溶液の粘度μが2.0mPa・s以上である、
[1]に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[3]前記膜濃縮工程において、前記ゼラチン溶液の粘度μと前記ゼラチン溶液の流速vがv<-0.135μ+3.0の関係を満たすように運転を行う、
[1]または[2]に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[4]前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュールの単位体積当たりの膜面積が800m/m以上3700m/m以下である、
[1]~[3]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[5]前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量Vと前記限外濾過膜モジュール1本あたりの有効膜面積Aの比(V/A)が0.5m/h以上3.5m/h以下である、
[1]~[4]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、複数の限外濾過膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された限外濾過膜モジュール全てで1本とみなす。
[6]前記膜濃縮工程において、前記限外濾過膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量Vと前記限外濾過膜モジュール1本あたりの体積Vとの比(V/V)が600/h以上4000/h以下である、
[1]~[5]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、複数の限外濾過膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された限外濾過膜モジュール全てで1本とみなす。
[7]前記限外濾過膜の重量平均分子量40000のデキストランの阻止率Rが40%以上80%以下である、
[1]~[6]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[8]前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγが10mJ/m以上40mJ/m以下である、
[1]~[7]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[9]前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγのファンデルワールス成分γLWが10mJ/m以上40mJ/m以下であり、
前記限外濾過膜の表面自由エネルギーγの電子供与成分γ―が25mJ/m以上40mJ/m以下である、
[1]~[8]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[10]前記限外濾過膜の表面電位Ψが-20mV以上-5mV以下である、
[1]~[9]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
但し、表面電位Ψは室温かつpH7の緩衝溶液中で測定する。
[11]前記限外濾過膜が、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる、
[1]~[10]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[12]前記限外濾過膜のゼラチン溶液と接する側の面において、単位表面積あたり表面孔数を、表面孔径の平均値で除した値Xが5~100個/μm/nmである、
[1]~[11]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[13]前記限外濾過膜は、ゼラチン溶液と接する側の面に楕円形の開口部を有し、
前記開口部の長径d1と短径d2との比(d1/d2)の平均値が1.1以上1.4以下であり、
前記比(d1/d2)の標準偏差が0.3以下であり、
前記短径の平均d2aveが5nm以上15nm以下である、
[1]~[12]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[14]前記限外濾過膜モジュールにおいて、前記ゼラチン溶液の流れ方向における、有効膜長が0.50m以上2.00m以下である、
[1]~[13]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[15]前記限外濾過膜モジュールは、前記限外濾過膜として中空糸膜を備える外圧式膜モジュールである、
[1]~[14]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[16]前記外圧式膜モジュールにおける膜充填率が20%以上50%以下である、
[15]に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[17]前記中空糸膜の破断時荷重が500gf/本以上である、
[15]または[16]に記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
[18]前記中空糸膜の内径が300μm以上1000μm以下である、
[15]~[17]のいずれか1つに記載のゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、省エネルギーにゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかるゼラチンの製造方法の一例(工程概略図)である。
図2図2は、本発明の一実施形態にかかる限外濾過膜モジュールの概略断面図である。
図3図3は、本発明の限外濾過膜モジュールが適用される運転装置の一形態を示す、概略フロー図である。
図4図4は、ゼラチン溶液の粘度の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法の一例(工程概略図)である。
【0013】
図1に示される通り、本発明の一実施形態に係るゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法では、例えば、ゼラチン溶液を製造するため、原料の粉砕・脱脂・脱灰、前処理(酸処理またはアルカリ処理)、抽出が行われる。得られたゼラチン溶液に対して、膜濃縮工程と熱濃縮工程をこの順に行うことを含む濃縮工程を実施することで、ゼラチン濃縮溶液を得る。また、ゼラチン濃縮溶液に対して、例えば、後処理(殺菌・成形)及び乾燥を実施することで、ゼラチンが得られる。
なお、本実施形態に係る製造方法は、膜濃縮工程と熱濃縮工程をこの順に行うことのみ必須であり、その他の工程は任意に実施される工程である。
以下、上記の各工程について詳細に説明する。
【0014】
<ゼラチン溶液の製造方法>
本実施形態に係る膜濃縮工程で処理されるゼラチン溶液の製造方法は特に限定されないが、例えば、原料の脱脂、脱灰をした後、水洗し、酸処理またはアルカリ処理といった前処理を施し、再度水洗いをした後、ゼラチンを抽出することによってゼラチン溶液が得られる。
【0015】
ゼラチンの原料として、コラーゲンを含む組織を有する、牛骨および豚骨などの骨原料、牛皮および豚皮などの皮原料、サメなどの魚原料などが一般的に挙げられる。特に原料として牛骨、豚骨などの骨原料を用いる場合は、原料の粉砕を行うことが好ましい。
【0016】
ゼラチンの抽出は回分式に実施してもよく、抽出回数は特に限定はされない。具体的には1~8回程度でよいが、一般的には3~7回が好ましい。
【0017】
本実施形態に係るゼラチン溶液のゼラチン濃度は特に限定はされないが、前記抽出時に1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。1質量%以上10質量%未満であれば抽出時に必要以上にゼラチンが分解することを抑制でき、さらに、抽出されたゼラチンのゼリー強度を十分に確保できる。
【0018】
<ゼラチン溶液の濃縮工程>
本実施形態に係るゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法は、限外濾過膜を有する限外濾過膜モジュールによってゼラチン溶液を濃縮する膜濃縮工程と、前記膜濃縮工程の後に、ゼラチン溶液を熱によってさらに濃縮する熱濃縮工程を有する。
【0019】
膜濃縮工程においてゼラチン溶液中の低分子成分が除去されると、ゼラチン溶液のモル濃度が低下するため溶質による沸点上昇が抑制され、熱濃縮工程における蒸発にかかるエネルギーが削減される。そのため、省エネルギーにゼラチン溶液を濃縮できる。したがって、本実施形態は、膜濃縮工程の後に熱濃縮工程を実施する。
【0020】
また、上述の理由から、熱濃縮工程の後に膜濃縮工程を実施することや、膜濃縮工程の後にアルコール沈殿工程など熱濃縮工程以外の濃縮・脱水工程のみを実施することでは、本発明に係る効果は得られない。一方で、膜濃縮工程および熱濃縮工程の両工程間にその他の濃縮・脱水工程を追加してもよい。さらに、濃縮工程の前後にイオン交換工程を設けて、ゼラチン溶液の脱塩を行い、ゼラチン溶液中の塩濃度を所定の範囲に制御してもよい。イオン交換工程による脱塩は、イオン交換工程の負荷を下げることを目的として、図1に示すように、低分子イオン成分が除去される膜濃縮工程の後に設けることが好ましく採用される。
【0021】
(1)ゼラチン溶液の膜濃縮
本実施形態に係る膜濃縮工程は、限外濾過膜を備える限外濾過膜モジュールによってゼラチン溶液を濃縮する工程である。膜濃縮工程により、ゼラチン溶液中の低分子成分の除去を行う。
【0022】
(1.1)限外濾過膜
【0023】
前記限外濾過膜モジュールに用いる限外濾過膜の分画性能としてはゼラチン溶液中のゼラチンの少なくとも一部を阻止できれば特に限定されないが、重量平均分子量40000のデキストランの阻止率Rが40%以上、80%以下であることが好ましい。限外濾過膜の阻止率Rが40%以上であれば、膜を透過するゼラチンが多くなりすぎず濃縮効率が向上する。また、阻止率Rが80%以下であれば、透水性能も十分に得られる。阻止率Rは、より好ましくは45%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。
ここで、阻止率Rはデキストラン水溶液の膜透過前後の屈折率の比によって求められる。具体的には、市販の重量平均分子量4万Daのデキストランが1000ppm、25℃となるように調製したデキストラン水溶液を用いて、膜に対してクロスフロー線速度1.0m/sec、膜間差圧10kPaでろ過し、下記式で算出することができる。
R={(原液の屈折率)-(透過液の屈折率)}/{(原液の屈折率)-(純水の屈折率)}
ここで、クロスフロー線速度は、ろ過原液のろ過方向と垂直な方向の流量を、該流れの流路の断面積で除した値である。また、膜間差圧とは、膜を隔てたろ過原液側の圧力と、透過液側の圧力の差である。
【0024】
また、限外濾過膜の表面自由エネルギーγが10mJ/m以上40mJ/m以下であることが好ましい。限外濾過膜の表面自由エネルギーγが上記範囲内であると、比較的水にぬれにくい表面となるため、ゼラチン溶液中の溶質成分の水和構造が限外濾過膜表面の近傍で乱れにくくなり、限外濾過膜表面付着時に脱離しやすくなる。
【0025】
また、限外濾過膜は、前記表面自由エネルギーγのファンデルワールス成分γLWが10mJ/m以上40mJ/m以下であり、かつ、前記表面自由エネルギーγの電子供与成分γ―が25mJ/m以上40mJ/m以下であることが好ましい。表面自由エネルギーγのファンデルワールス成分γLWと電子供与成分γ―が前記範囲にあることで、ゼラチン溶液中の溶質成分と限外濾過膜表面の間で生じる引力が小さくなり、限外濾過膜表面への付着を抑制できる。
ここで、表面自由エネルギーγ、ファンデルワールス成分γLWおよび電子供与成分γ―は表面自由エネルギーの各成分が既知の溶媒を用いた接触角測定によって求められる。具体的には、三態系サンプル台に、測定膜面側が下となるように、膜サンプルを三態系マグネットで固定し、蒸留水を入れた三態系セルに入れる。次いで、表面に約22μLの気泡を発生させ、接触角計(例えば、DropMaster DM500、協和界面科学株式会社)で、静的接触角を測定する。測定は3回以上行い、その平均値を測定値とする。また、三態系サンプル台に、測定膜面側が上となるように、サンプルを三態系マグネットで固定し、蒸留水を入れた三態系セルに入れ、表面に約22μLのジヨードメタン、またはホルムアミドを滴下し、接触角計を用いて、静的接触角を測定する。
上記接触角計に内蔵の各溶媒の表面自由エネルギー成分データと計算式を用いることによって、膜の表面自由エネルギー成分が求められる。
【0026】
また、本実施形態において、限外濾過膜の表面電位Ψが-20mV以上-5mV以下であることが好ましい。表面電位Ψが前記範囲にあることで、ゼラチン溶液中の溶質成分と限外濾過膜表面の間で生じる斥力が大きくなり、限外濾過膜表面への付着を抑制できる。
なお、表面電位Ψは、室温かつpH7の緩衝溶液中で測定した値とする。
【0027】
限外濾過膜の原料は特に限定されないが、例として熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート等のポリエステル類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリビニルアセタール類、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリスルホン類、セルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル類、ポリカーボネート類等の単独成分、これらから選ばれる2種以上のポリマーアロイやブレンド物、又は上記ポリマーを形成するモノマーの共重合体等が挙げられるが、上記の例に限定されるものではない。
これらの中でも、耐熱性、耐薬品性等に優れた樹脂成分としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、もしくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂が挙げられる。この中でも特に、溶媒との相溶性が高く、均一な製造原液を容易に作製できる、ポリフッ化ビニリデン樹脂が好ましい。すなわち、限外濾過膜はポリフッ化ビニリデン樹脂を含む熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
【0028】
ポリフッ化ビニリデン樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデン共重合体のうちの少なくとも1つを含有する樹脂を意味する。ポリフッ化ビニリデン樹脂は、複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有してもよい。
【0029】
ポリフッ化ビニリデン樹脂の重量平均分子量は、要求される限外濾過膜の強度と透水性能とによって適宜選択すればよいが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下するおそれがある。このため、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましい。なお、重量平均分子量は定法で測定される値でよく、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で測定される値である。
【0030】
フッ化ビニリデン共重合体とは、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーであり、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。このような共重合体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。
【0031】
前記限外濾過膜のゼラチン溶液と接する側の面において、表面孔径および孔数については特に限定されないが、単位表面積あたりの表面孔数(個/μm)を表面孔径(nm)で除した値Xが5~100個/μm/nmであることが好ましい。
限外濾過膜は、後述の通り相分離法により得ることが好ましいが、相分離法では一般に表面孔径と孔数はトレードオフの関係にある。しかしながら、限外濾過膜は孔径が小さいことで原液中の粗大な汚れ成分や除去対象物が多孔質膜内に侵入することを防ぐことができ、また、孔数が多いことで、原液が限外ろ過膜を透過する流路の数を十分に確保し、また汚れ成分を分散できる。すなわち、表面孔径が小さいことと、表面孔数が多いことを両立することにより、耐汚れ性を向上できる。したがって、表面孔数と表面孔径がともに良好となる正の相関関係を満たし、両者を勘案したX値を耐汚れ性の指標とすることが好ましい。また、表面孔数は表面孔径に対して負の相関にあるため、表面孔数のみを指標とするよりも、表面孔径で除したX値を指標にすることが好ましい。
したがって、本実施形態の限外濾過膜は、単位表面積あたりの表面孔数を表面孔径の平均値で除した値Xが5個/μm/nm以上100個/μm/nm以下であることが好ましく、5個/μm/nm以上50個/μm/nm以下であることがより好ましく、5個/μm/nm以上20個/μm/nm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
また、前記限外濾過膜は、ゼラチン溶液と接する側の面に略楕円形の開口部を有し、前記開口部の長径d1と短径d2の比(d1/d2)の平均値が1.1以上1.4以下であり、前記比(d1/d2)の標準偏差が0.3以下であり、前記短径の平均d2aveが5nm以上15nm以下であることが好ましい。d1/d2およびd2aveが上記範囲内にあることで、ゼラチンを効果的に阻止しつつ高い透水性を示す表面となる。
なお、本明細書において「略楕円形」とは、限外濾過膜の軸方向に垂直な断面が扁平形状をしていることを意味し、幾何学的な楕円に限られない。
【0033】
本実施形態において、限外濾過膜の形状は特に限定されないが、装置設置面積当たりの膜面積が比較的大きい中空糸状、すなわち、中空糸膜であることが好ましく採用される。なお、本明細書において、「膜面積」とは、分離に使用される箇所の限外濾過膜の表面積のことを意味する。
【0034】
限外濾過膜が中空糸膜である場合、中空糸膜の破断時荷重が500gf/本(4.90N/本)以上であることが好ましい。外圧式クロスフロー濾過では、一例として図2に示すように、限外濾過膜モジュール10の原液導入口2から原液すなわちゼラチン溶液を限外濾過膜モジュール10に導入した後、原液導出口4から導出するが、原液導出口4から導出される際にゼラチン溶液の流れが90°転回することとなる。そのため、原液導出口4付近では限外濾過膜(中空糸膜)5に対して限外濾過膜5の長さ方向に垂直なせん断力が付与される。限外濾過膜5の破断時荷重が500gf/本(4.90N/本)以上あることで、クロスフロー濾過運転により生じる流れにより生じるせん断に対し、糸切れや膜損傷などを抑制できる。
【0035】
破断時荷重とは、引っ張り試験機などにより中空糸膜を軸方向に伸張させていき、破断した時点で付与していた荷重(gf)である。このときの測定温度は、実際の運転時の原液温度である。中空糸膜の破断時荷重は、より好ましくは600gf/本(5.88N/本)以上であり、さらに好ましくは700gf/本(6.86N/本)以上である。
【0036】
破断時荷重の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、雰囲気温度を制御できる引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値を求めることで測定することができる。
【0037】
さらに、限外濾過膜が中空糸膜である場合、中空糸膜の内径が300μm以上1000μm以下であることが好ましい。中空糸膜の内径が300μm以上であれば、中空部を透過液または原液が通過する際の通液抵抗を低減できる。また、内径が1000μm以下であれば一定体積のモジュールに充填した時の有効膜面積Aが十分に確保できる。ここで、モジュールの有効膜面積Aとはゼラチン溶液原水に接触する膜表面の面積である。中空糸膜の内径は、850μm以下がより好ましく、750μm以下がさらに好ましい。
【0038】
また、限外濾過膜の構造としては、全体的に孔径が一様な対称膜や、膜の厚み方向で孔径が変化する非対称膜、強度を保持するための支持膜と対象物質の分離を行うための機能層を有する複合膜などが存在する。
【0039】
(1.2)限外濾過膜の製造方法
限外濾過膜の製造方法は特に限定されないが、例としてフッ化ビニリデン樹脂から中空糸膜である限外濾過膜を得るための方法を説明する。
フッ化ビニリデン樹脂から限外濾過膜を製造する方法としては、熱誘起相分離法、非溶媒誘起相分離法、溶融抽出法、延伸開孔法等が挙げられるが、このうち熱誘起相分離法あるいは非溶媒誘起相分離法を利用することが好ましい。
【0040】
熱誘起相分離とは、高温で溶解した樹脂溶液を冷却することにより固化せしめる相分離であり、非溶媒誘起相分離とは、樹脂溶液を非溶媒に接触させることにより固化せしめる相分離であり、ともに相分離速度を制御することで膜の開口径を、ゼラチン溶液の膜濃縮工程に適したサイズに制御することができる。
【0041】
熱誘起相分離法あるいは非溶媒誘起相分離法を利用し得られたフッ化ビニリデン樹脂からなる限外濾過膜上に、その他の層を同時または順に形成させ複合限外濾過膜としてもよい。同時に形成させる方法としては、例えば、多重管式口金を用いて、複数の樹脂溶液を複合成型する方法などがある。また、順に形成させる方法としては、例えば上記工程の後に得られた限外濾過膜に、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布した後、ノズルやスリットコータで掻き取り形成させる方法、あるいはその他の層を形成する樹脂溶液をスプレーコーティングする方法などがある。この中でも、その他の層を形成する樹脂溶液を塗布し、その後掻き取り成形し固化させる方法が簡便であり好ましい。
【0042】
上記方法での複合限外濾過膜の製造において、前記その他の層を形成する樹脂の成分や構造は特に限定されないが、限外濾過膜表面の改質や緻密化を目的とした場合には、三次元網目状構造が好ましく用いられる。
【0043】
三次元網目状構造を形成させるためには、非溶媒誘起相分離法を利用することができる。非溶媒誘起相分離法を利用する場合、樹脂溶液の溶媒としては、樹脂の良溶媒および貧溶媒が使用でき、良溶媒が好ましく用いられる。良溶媒として、例えばフッ化ビニリデン樹脂の良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。ここで良溶媒とは、60℃未満の低温でもフッ化ビニリデン樹脂を5質量%以上溶解させることが可能な溶媒である。
【0044】
ここで貧溶媒としては、シクロヘキサノン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等およびそれらの混合溶媒が挙げられる。貧溶媒とは、フッ化ビニリデン樹脂を60℃未満の低温では、5質量%以上溶解させることができないが、60℃以上かつフッ化ビニリデン樹脂の融点以下の高温領域で5質量%以上溶解させることができる溶媒である。
【0045】
また、樹脂溶液を接触させる非溶媒は、フッ化ビニリデン樹脂の融点または溶媒の沸点まで、フッ化ビニリデン樹脂を溶解も膨潤もさせない溶媒と定義する。ここでフッ化ビニリデン樹脂の非溶媒としては、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0046】
(1.3)限外濾過膜モジュール
本実施形態に係る膜濃縮工程は、限外濾過膜を有する限外濾過膜モジュール(以下、「膜モジュール」と称することがある)を用いて行われ、特に、限外濾過膜として中空糸膜を備える外圧式膜モジュール(以下、「外圧式膜モジュール」と称することがある)を用いることが好ましい。
【0047】
ゼラチン溶液の様な濁度や粘度が高い原液を、内圧式膜モジュールを用いて、後述のクロスフロー濾過による膜濃縮工程を行う場合、内圧式膜モジュールは原液の流路サイズが外圧式膜モジュールと比較して小さいことから、流路の閉塞や、原液の流れによる圧力損失が大きくなることがある。その対策として中空糸膜の内径を太くする必要が生じ、結果として、膜モジュールの膜面積が小さくなり、膜モジュールの濾過液流量が低下することがある。したがって、本実施形態に係る膜濃縮工程では、外圧式膜モジュールを用いることが好ましい。
ここで、「外圧式」とは、中空糸膜である限外濾過膜の外側に原液を供給し、限外濾過膜の外側から内側(中空部側)に向かって濾過を行う方式である。
【0048】
膜モジュールの運転方法は、最終的に回収される濃縮液のゼラチン濃度が導入された原液のゼラチン濃度より大きくなれば特に限定されないが、非濾過液を原液タンクに戻す還流操作や膜モジュールの原液導入流路に戻す循環操作をすることで、濃縮液が繰返し膜モジュールに接触する運転方法(クロスフロー濾過運転)が好ましい。
【0049】
前記還流操作や循環操作により膜モジュール内部に膜透過流と垂直な流れ、つまりクロスフローを生じさせることで、膜面近傍でゼラチン成分の濃度勾配が生じ、水分が膜を透過しやすくなる。加えて、クロスフローが膜面に堆積するゼラチン成分の一部をかきとる場合もあり、同様に水分が膜を透過しやすくなる。クロスフローの効果に対して濾過圧が過大であると膜面に堆積したゼラチン成分の層が圧密化し透過流束はそれ以上速くなることはない。このような透過流束の上限を限界フラックスと呼ぶ。しかし、ゼラチン溶液が濃縮されるにつれて、前記濃度勾配が緩やかになるためクロスフローの効果が低下し、水分が膜を透過しにくくなり、限界フラックスは低下する。これにより、処理速度が低下し、濃縮に必要なエネルギーが増加し、経済的でなくなる。
【0050】
上述の理由から、前記膜濃縮工程では、得られるゼラチン溶液のゼラチン濃度が10質量%以上20質量%以下となるように濃縮することが好ましい。ゼラチン濃度が10質量%以上20質量%以下となるように濃縮することで、処理速度が向上し、濃縮時間およびその使用エネルギーを削減できる。
【0051】
(1.4)限外濾過膜モジュール構造
本実施形態にかかる限外濾過膜モジュールの具体的な構成を、限外濾過膜として中空糸膜を備える外圧式膜モジュールを例に、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態にかかる膜モジュールの概略断面図である。以下、本明細書において、「上」、「下」等の方向は、図面に示す状態に基づいており、便宜的なものであって、図2において、濾過液導出口3側を上方向、原液導入口2側を下方向として説明する。
【0052】
図2に示す膜モジュール10は、原液導入口2と、濾過液導出口3と、原液導出口4と、を有する容器1に、限外濾過膜5が充填されている。限外濾過膜5は、その両端部が第1ポッティング部8、第2ポッティング部9に包埋されている。
【0053】
第1ポッティング部8は、限外濾過膜同士をポッティング剤で固定するいわゆる固定端としてもよいし、ポッティング剤で固定されない自由端としてもよい。自由端とは、限外濾過膜同士がポッティング剤で固定されておらず、自由に可動できる状態である。なお、図2に示す膜モジュール10においては、限外濾過膜5の原液導入側端部は封止されている。限外濾過膜5の原液導入口側端部を封止する方法としては、ポッティング剤を限外濾過膜5の中空部に注入して封止する方法や、端部を熱で溶着して封止する方法などが適用できる。
【0054】
第2ポッティング部9は容器1に固定されているが、原液と濾過液を液密に分離できるのであれば、第2ポッティング部9と容器1を接着固定したり、いわゆるカートリッジタイプのように限外濾過膜を着脱できる構造としてもよい。カートリッジタイプの場合には、第2ポッティング部9と容器1を、Oリングなどを介して接続してもよい。
【0055】
また、第1ポッティング部8は原液導入口2から導入された原液を通液するための複数の貫通孔を備えている。一方、第2ポッティング部9に包埋された限外濾過膜5の上端部は開口された状態で包埋されている。開口された状態とは、限外濾過膜5の内部を流れる液が開口した端部から導出される状態のことである。
【0056】
原液導入口2、濾過液導出口3及び原液導出口4は、容器1と配管(不図示)を接続する円筒形のノズルであり、同じく円筒形の容器1に開口した状態で固定されている。原液導入口2は容器1の下端部に接続し、濾過液導出口3は上端部に接続される。原液導出口4は容器1の側面に接続され、第2ポッティング部9付近に備えられる。これらの素材は樹脂製、金属製いずれも使用することができる。
【0057】
容器1に充填される限外濾過膜5は、液体の分離機能を備える、中空の糸状の膜(中空糸膜)である。限外濾過膜5は、容器1の軸方向と、限外濾過膜5の軸方向が平行になるように充填される。軸方向とは、容器1の長さ方向及び限外濾過膜5の長さ方向のことである。
【0058】
複数の限外濾過膜が接着剤により固定された第1ポッティング部8と第2ポッティング部9とは、束ねられた限外濾過膜同士の間隙が、いわゆる接着剤である、ポッティング樹脂を主成分とするポッティング剤で充填された部位をいう。ポッティング部は、限外濾過膜束の端部に形成されることが好ましい。
【0059】
以上の構造を備えた膜モジュールにおいては、容器1の内部は、限外濾過膜5と第2ポッティング部9によって、原液側空間6と、濾過液側空間7に分離されており、原液側空間6は限外濾過膜5の外表面が接する空間、濾過液側空間7は限外濾過膜5の内表面が接する空間となっている。
【0060】
図2に示す膜モジュールは外圧式膜モジュールであるため、原液導入口2及び原液導出口4は原液側空間6に、濾過液導出口3は濾過液側空間7に接続している。
【0061】
濃縮によりゼラチン溶液の粘度が上昇するとクロスフローによる原液流路の通液圧力損失が大きくなり、ポンプでの吐出量が低下または運転動力コストが増大する。外圧式膜モジュールにおいては、限外濾過膜の充填密度を減らすことで、クロスフロー流路断面積を増やして前記圧力損失を抑えることが可能である。
【0062】
したがって、膜モジュールが外圧式膜モジュールである場合は、限外濾過膜の膜充填率としては20%以上50%以下であることが好ましい。膜充填率が20%以上であることで十分な膜面積が得られる。膜充填率はより好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。膜充填率が50%以下であることで十分なクロスフロー流路断面積が得られる。膜充填率はより好ましくは45%以下である。
【0063】
なお、ここで限外濾過膜の膜充填率とは、第1ポッティング部8と第2ポッティング部9の間における膜モジュールの容器1の軸方向に垂直な断面(図2の左右方向に平行かつ紙面に垂直な面、以下「横断面」ともいう。)で、限外濾過膜が占める面積の割合のことである。容器1内側の限外濾過膜存在区画の横断面の断面積をS1、限外濾過膜の横断面の合計断面積をS2としたとき、限外濾過膜の膜充填率Mは下記式(1)で表すことができる。
【0064】
【数1】
【0065】
ここで限外濾過膜存在区画とは、限外濾過膜が存在する一定の区画を表す。
【0066】
ここで限外濾過膜の横断面の合計断面積S2は限外濾過膜の外径Rと限外濾過膜存在区画内の限外濾過膜の本数Nを用いて下記式(2)で表すことができる。但し、πは円周率である。限外濾過膜存在区画内の限外濾過膜10本について、それぞれ最も長い方向と短い方向の2方向ずつ外径を測定する。この合計20箇所の測定値の平均値を限外濾過膜の外径Rとする。この外径Rを使用し、限外濾過膜の横断面が真円と仮定して式(2)により限外濾過膜の横断面の合計断面積S2を算出する。なお、限外濾過膜存在区画内に存在する限外濾過膜が10本未満の場合は、限外濾過膜存在区画内に存在する全ての限外濾過膜について外径を測定し、平均値を算出すればよい。
【0067】
【数2】
【0068】
本実施形態においては、原液すなわちゼラチン溶液の流れ方向における、限外濾過膜の長さである有効膜長Lが0.50m≦L≦2.00mであることが好ましい。L≧0.50mであれば、膜モジュールの膜面積が大きくなるため、必要な膜モジュール本数を減らすことができる。L≦2.00mであれば、原液側空間における圧力損失の過剰な増大を抑制できるため、膜モジュールの原液導入圧力が小さくなり、供給ポンプ14の負荷を低くできる。すなわち、有効膜長Lをこの範囲とすることで、原液側空間の圧力損失増大を抑制しつつ、必要な膜面積を確保することができる。有効膜長Lは0.70m≦L≦1.50mがより好ましく、0.80m≦L≦1.20mであることがさらに好ましい。
【0069】
さらに、前記膜モジュールの単位体積当たりの膜面積が800m/m以上3700m/m以下であることが好ましい。単位体積当たりの膜面積が800m/m以上であると濃縮にかかる時間を短くでき、より省エネルギーに濃縮を行える。また、単位体積当たりの膜面積が3700m/m以下であれば、原液側空間が小さくなることによる圧力損失の増大を抑制できる。膜モジュールの単位体積当たりの膜面積は、900/m以上3000m/m以下がより好ましく、1000/m以上2500m/m以下がさらに好ましい。
【0070】
(1-5)限外濾過膜モジュールの運転方法
本実施形態にかかる膜モジュールの具体的な運転方法について、限外濾過膜として中空糸膜を備える外圧式膜モジュールの運転方法を例に、図2を参照しながら説明する。
【0071】
膜モジュールの運転方法としては全量濾過運転とクロスフロー濾過運転などの運転方法が挙げられるが、前述の理由からクロスフロー濾過運転が好ましく採用される。しかしながら、クロスフロー濾過運転では原液の流れにより、原液側空間に高い圧力損失が生じる。そのため、限外濾過膜の原液導入側端部には高い原液側圧力がかかるため、当該箇所の負荷は高くなる。一方、濾過液側空間についても濾過液の流れにより同様に圧力損失が生じる。
【0072】
クロスフロー濾過運転条件の場合には一般的に、原液の流れと比較して濾過液の流れは遅くなるため、濾過液側空間に生じる圧力損失は小さい。しかし、外圧式膜モジュールの場合には原液側空間6の流路と比較して濾過液側空間7の流路が小さいことから、濾過液側空間7にも比較的高い圧力損失が生じる。その結果、限外濾過膜5の原液導入口側端部では、原液側圧力と濾過液側圧力がともに高くなることで、外圧式膜モジュールでは膜間差圧が大きくなることを抑制できる。
【0073】
しかしながら、原液と濾過液の粘度が異なる場合、特に原液中の増粘成分が限外濾過膜により原液側空間に保持され、濾過液の粘度が原液よりも小さくなる場合には、濾過液側空間の圧力損失が原液側空間の圧力損失と比較して小さくなる。その結果、外圧式膜モジュールの場合においても、限外濾過膜の原液導入口側端部において、原液側圧力が高く、濾過液側圧力が小さくなり、当該箇所の膜間差圧が大きくなる傾向にある。そのため、外圧式内圧式を問わず、限外濾過膜の原液導入口側端部では濾過液導出口側端部と比較して過剰な液量を濾過していることになり、原液に含まれる濁質成分による限外濾過膜の閉塞、いわゆるファウリングが促進する要因となる。ファウリングが促進すると、濾過速度が低下するため、濾過に係る時間が増大し、また濾過に係るエネルギーも増大する。
【0074】
ファウリングの進行を抑制するため、本発明の一実施形態に係る膜濃縮工程では、原液すなわち、ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)がμ/μ≧1.5であるとき、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比が0.020≦v/v≦0.15となるように運転を開始する。ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5以上であるとき、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vを上記の範囲内に制御することで、限外濾過膜の軸方向の膜間差圧差を抑制できる。
なお、膜濃縮工程における総濾過時間を100%としたときの開始時を含む50%以上の時間区間で前記範囲内に制御することが好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、全時間区間で前記範囲内に制御することが最も好ましい。
【0075】
ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)が1.5以上となると、濾過液空間の圧力損失がゼラチン溶液側空間の圧力損失と比較して小さくなるが、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比を0.020≦v/v≦0.15に制御することで、必要な濾過液流量を確保して濾過コストを抑えつつ、ゼラチン溶液側と濾過液側の圧力損失を均質化でき、ファウリングの進行を抑制できるため濾過性が向上し、より省エネルギーにゼラチン溶液を濃縮することができる。
【0076】
/vが0.020以上であれば、ゼラチン溶液側の圧力損失が小さい、もしくは濾過液の圧力損失が大きくなるため、膜間差圧差が減少し、濾過性が向上する。さらに、ゼラチン溶液の循環流量に対して濾過液流量が大きいことから、必要な膜本数を減らすことができ濾過コストの減少につながる。また、v/vが0.15以下であれば、濾過液流量に対してゼラチン溶液の循環流量が大きくなるため、膜間差圧差は大きくなるが、クロスフロー濾過運転によって生じるゼラチン溶液の流れによる限外濾過膜表面への濁質成分の蓄積予防効果が大きくなるため、濾過性が向上する。ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は、好ましくは0.030以上である。
上記の通り、本発明の一実施形態に係る膜濃縮工程では、ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)をμ/μ≧1.5、かつ、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比を0.020≦v/v≦0.15となるように運転を開始してもよい。
【0077】
ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの測定方法について、図2および図3をもとに外圧式膜モジュールについて説明するが、内圧式膜モジュールについても原液側/濾過液側と限外濾過膜の内/外の関係を読み替えることにより測定可能である。
【0078】
ゼラチン溶液の流速vは濃縮液流量計31で測定される濃縮液流量Qを、膜モジュール10の原液側空間6の流路面積Sで割ることで算出する。原液側空間6の流路面積Sは、容器1の断面積から容器1に挿入される限外濾過膜5の総断面積を差し引いた値であり、容器1の内径をD、限外濾過膜5の外径をD、限外濾過膜5の本数をNとすると、下記式(3)にて計算される。
【0079】
【数3】
【0080】
濾過液の流速vは、濾過液流量計32で測定される濾過液流量Qを、濾過液側空間7の流路面積Sで割ることで算出される。濾過液側空間7の流路面積Sは限外濾過膜5の内径をDとすると、下記式(4)にて計算される。
【0081】
【数4】
【0082】
ゼラチン溶液の流速vについては、濃縮液流量Qの代わりに、原液導入口2と供給ポンプ14の間に供給液流量計を設け、測定される供給液流量Qを使用してもよい。この場合もゼラチン溶液の流速vは同様に計算される。
【0083】
ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μは、温度によりその値が大きく変化するため、原液温度計51にて測定されるゼラチン溶液温度における粘度を測定することが好ましい。さらに、ゼラチン溶液や濾過液の流れによるせん断で粘度が変化する場合もあるため、運転中の流れによるせん断速度γを付与した際の粘度を測定することが好ましい。
【0084】
せん断速度γは、流速vと流路直径Dから下記式(5)にて簡易的に計算される。濾過液側空間7の流路直径Dは、限外濾過膜5が中空糸膜である場合、その内径Dとなる。一方、原液側空間6の流路直径Dは形状が複雑であることから、下記式(6)にて計算される相当直径を流路直径Dとする。
【0085】
【数5】
【0086】
【数6】
【0087】
粘度の測定方法については、細管式粘度計を用い、実運転と同じ温度、せん断速度において測定された粘度を本実施形態における粘度とする。すなわち、管内径D、管長Lの細管に流速vで流体を通液させた際の、管入口圧力Pと管出口圧力Pより、下記式(7)を用いて粘度μを測定する手法である。上記式(5)を用い、実運転時のせん断速度と、細管式粘度計におけるせん断速度が同じになるように細管内の流速vを設定し、粘度を測定する。
【0088】
【数7】
【0089】
細管式粘度計については、細管の温調ならびに管入口、管出口の圧力が測定できるものであれば特に限定されず、市販、自作の装置いずれも使用できる。
【0090】
ゼラチン溶液の流速vは0.30m/s≦v≦1.80m/sであることが好ましい。v≧0.30m/sであれば、クロスフロー濾過運転により生じるゼラチン溶液の流れの作用によって限外濾過膜表面への濁質成分の蓄積抑制効果が大きくなり、ファウリングの進行を抑制できる。v≦1.80m/sであれば、ゼラチン溶液の流れの作用による限外濾過膜表面への濁質蓄積の抑制効果は低くなるが、一方で原液側空間6の圧力損失が小さくなり、限外濾過膜5の原液導入口側端部に高い原液側圧力がかかることを抑制できる。その結果、当該箇所の負荷が小さくでき、結果としてファウリングの進行を抑制できる。ゼラチン溶液の流速vは0.50m/s≦v≦1.50m/sであることがより好ましく、0.70m/s≦v≦1.30m/sであることがさらに好ましい。
【0091】
上記の通り、外圧式膜モジュール用いてゼラチン溶液をクロスフロー濾過運転する期間の全てにおいて、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比を0.020≦v/v≦0.15となるよう制御するのが最も好ましいが、運転開始時にこの範囲内に制御すればよい。運転開始時とは、例えば、新品の限外濾過膜モジュールにゼラチン溶液を導入して始めて濾過を開始するタイミングや、濾過して閉塞した限外濾過膜モジュールを薬液洗浄し、透水性を回復させた後に、改めてゼラチン溶液を導入して濾過を開始するタイミングである。
【0092】
クロスフロー濾過運転を継続するに従い、ファウリングが進行することで限外濾過膜5の軸方向の膜間差圧差が緩和されていく。ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比を、運転開始から上記範囲外で運転した場合、限外濾過膜表面の閉塞が早くなり緩和の速度も速くなる。そのため、ファウリングを抑制するためにも、運転開始時にゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの流速比を制御することが好ましい。
【0093】
さらに、本実施形態の限外濾過膜モジュールは、ゼラチン溶液の流速vとゼラチン溶液の粘度μがv<-0.135μ+3.0の関係を満たすように運転することが好ましい。ゼラチン溶液の流速vは上記式(3)にて算出される値であり、単位はm/sである。ゼラチン溶液の粘度μは実際に運転される温度における粘度であり、単位はmPa・sである。
【0094】
ゼラチン溶液の流速vがv<-0.135μ+3.0の関係を満たすことにより、原液導出口4付近にてゼラチン溶液の流れにより限外濾過膜5に対して付与されるせん断力が小さくなり、糸切れや膜損傷の発生を抑制できる。ゼラチン溶液の流速vは、v<-0.135μ+2.5の関係を満たすことがより好ましく、さらに好ましくはv<-0.135μ+2.3である。
【0095】
また、本実施形態において、膜濃縮工程によって濃縮するゼラチン溶液の粘度μは、2.0mPa・s以上であることが好ましい。ゼラチン溶液の粘度が2.0mPa・s以上であることにより、比較的高濃度から膜濃縮工程を開始でき、膜濃縮の負荷が低下する。ゼラチン溶液の粘度μは、より好ましくは2.2mPa・s以上、さらに好ましくは2.5mPa・s以上である。また、クロスフロー濾過運転に必要なエネルギーの観点から、ゼラチン溶液の粘度μが100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、20mPa・s以下がさらに好ましい。
【0096】
さらに、前記膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量vと前記膜モジュール1本あたりの有効膜面積Aとの比(v/A)が0.5m/h以上3.5m/h以下であることが好ましい。但し、複数の膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された膜モジュール全てで1本とみなす。
/Aが0.5m/h以上であれば、膜モジュール通液中の急激な濃縮を抑制できるため、膜モジュールの出口側でのクロスフローの効果が十分に得られる。また、v/Aが3.5m/h以下であれば、濃縮液の収量に対するゼラチン溶液の送液エネルギーが小さくできるため、経済的である。v/Aは、3.0m/h以下であることがより好ましく、2.5m/h以下であることがさらに好ましい。
【0097】
加えて、前記膜モジュール1本あたりのゼラチン溶液の流量vと前記膜モジュール1本あたりの体積Vとの比(v/V)が600/h以上4000/h以下であることが好ましい。但し、複数の膜モジュールを直列に配置する場合は、直列に配置された膜モジュール全てで1本とみなす。
/Vが600/h以上であれば、膜モジュール中での滞留量が大きくなることによる放熱を抑制でき、保温のためのエネルギーを小さくできる。また、v/Vが4000/h以下であれば、装置サイズに対して必要なゼラチン溶液の送液ポンプを小さくでき設置面積あたりの濃縮液収量を大きくできる。v/Vは、1000/h以上3000/h以下であることがより好ましく、1500/h以上2500/h以下であることがさらに好ましい。
【0098】
(2)ゼラチン溶液の熱濃縮
本実施形態に係る熱濃縮工程は、前記膜濃縮工程の後にゼラチン溶液を熱によって水分を蒸発させ、さらに濃縮する工程である。熱濃縮の方法は特に限定されないが、ゼラチンの熱分解を抑制するために、減圧下での低温蒸発プロセスおよび伝熱面との液深による沸点上昇が小さい薄膜上昇式蒸発プロセスが好ましく採用される。
【0099】
ゼラチンの熱分解を抑制する方法としては、例えばゼラチン溶液の表面温度を60℃以下として熱濃縮するプロセスが挙げられる。熱濃縮する際に、ゼラチン溶液の表面温度を60℃以下とすることで、ゼラチンの変性が抑制できる。また、蒸発速度の観点から、ゼラチン溶液の表面温度は、40℃以上で熱濃縮することが好ましく、より好ましく50℃以上である。
【0100】
また、減圧下で熱濃縮を行う場合、その減圧度は、ゼラチン溶液の濃縮温度によって適宜決定されるが、沸点の観点から、大気圧(0.10MPa)以下が好ましく、0.02MPa以下がより好ましい。
【0101】
ここで、Tを純水の沸点、TBPRを沸点上昇としたとき、ゼラチン溶液の沸点TはT=T+TBPRで表される。ゼラチン溶液の沸点上昇は液深および溶質濃度の影響を受ける。例えば、純水の沸点が60℃になる気圧は約20kPaである。伝熱面が液面に対してhだけ離れていると、伝熱面での気圧は水圧p=ρghだけ液面より高いため、液深が1mのとき約10kPa高くなり、気圧を20kPaとして蒸発操作を実施した場合の伝熱面での沸点は70℃程度となる。ただし、ρは純水の密度、gは重力加速度である。
更に例として、溶質として食塩が25質量%溶解していると、約5℃沸点上昇が生じ、上述の例において食塩水の沸点は75℃程度となる。
【0102】
上述の例のように、ゼラチン溶液を低温で熱濃縮するためには、減圧と薄膜化の操作を組合せることが重要であり、熱濃縮工程前の溶液として溶質の質量モル濃度を低減すること、特に質量モル濃度に大きく影響する低分子成分を除去することが重要である。本実施形態では、熱濃縮工程前に膜濃縮工程を実施することで、ゼラチン溶液中の低分子成分が除去できるため、低温での熱濃縮が可能となり、省エネルギー化が実現できる。
【0103】
熱濃縮工程では、得られるゼラチン溶液のゼラチン濃度が20質量%以上50質量%以下となるように濃縮することが好ましい。ゼラチン濃度は、より好ましくは30質量%以上45質量%以下である。ゼラチン濃度が20質量%以上であると、後段の乾燥工程において十分な乾燥効率の向上効果が得られる。また、ゼラチン濃度が50質量%以下であると、粘度上昇による薄膜化不良の発生を抑制し、更に、溶質濃度による沸点上昇が小さくゼラチンの熱分解が抑制される液温で処理できる。
【0104】
<後処理・乾燥>
本発明の一実施形態に係るゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法では、上記で得られた濃縮後のゼラチン溶液すなわちゼラチン濃縮溶液に対して、従来公知の方法により、殺菌、成形といった後処理や、乾燥を順次実施してもよい。
【0105】
殺菌の方法は特に限定はされないが、例えば、高温加熱により行うことができる。成形の方法は、特に限定はされないが、例えば、一定の容器に流し込みゲル化させる方法や、インクジェットヘッドから吐出し三次元的に積層させる方法がある。乾燥の方法は、特に限定はされないが、例えば、凍結乾燥や、ゼラチンのゲルを得た後、通風乾燥する方法、減圧乾燥する方法などが挙げられる。
【実施例
【0106】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0107】
<ゼラチン溶液の調製>
抽出後のゼラチン溶液として、市販の食用ゼラチンおよび食塩を各5質量%の濃度で60℃の純水に溶解させた。得られた未濃縮ゼラチン溶液を60℃に保ち、24時間以内に濃縮工程に供した。
【0108】
<ゼラチン濃度の測定>
Thermo Fisher Scientific製マイクロプレートリーダーMultiskan Sky TCを用いて波長292nmにおける吸光度からゼラチン溶液中のタンパク質濃度を測定した。
【0109】
さらに、高速液体クロマトグラフ分析を、以下の条件で分子量分布を測定し、得られた溶出曲線から分子量1,000以上に相当するピーク面積に対する分子量100,000以上に相当するピーク面積割合を算出し、前記タンパク質濃度に乗算することでゼラチン濃度を算出した。
【0110】
(条件)
カラム:shodex Asahipak GS620-7G 2本直列
検出器:紫外線吸収検出器(波長230nm)
溶離液:0.05Mリン酸二水素カリウム/0.05Mリン酸水素二ナトリウム水溶液
流速:1.0mL/分
カラム温度:50℃
検液濃度:0.2%(2%水溶液を溶離液で10倍に希釈)
検液注入量:100μL
【0111】
<ゼラチン溶液の粘度測定>
前記未濃縮ゼラチン溶液の粘度を、図4に示す装置を用いて粘度を測定した。恒温水槽15内に原液タンク12、細管16を設置し、ゼラチン溶液を細管16に送液ならびに返送できるようフッ素チューブで接続した。細管16には内径が2.0mm、管長Lが1.0mのフッ素チューブを用いた。細管の両端に管入口圧力計45と管出口圧力計46を接続した。恒温水槽15内に水をはり、原液を実運転時と同等の温度に温調した。
【0112】
その後、実運転で使用する限外濾過膜モジュールの流路直径Dと流速vよりせん断速度を求め、実モジュールのせん断速度γと同等のせん断速度となるよう細管に送液するゼラチン溶液の流速vを設定した。設定した流速vでゼラチン溶液を供給ポンプ14により送液し、測定される管入口圧力Pならびに管出口圧力Pから、上記式(7)を用いて粘度を算出した。
前記未濃縮ゼラチン溶液の60℃における粘度は2.2mPa・sであった。
【0113】
<破断時荷重の測定>
破断時荷重は引っ張り試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、東洋ボールドウィン株式会社製)を用い、測定長さ50mmの試料を、25℃の雰囲気中で引っ張り速度50mm/分で、試料を変えて5回以上試験し、平均値を算出した。
【0114】
<限界フラックス測定>
限界フラックスの測定は次のようにして行った。下記で作製した限外濾過膜を使用して、濾過フラックスを変化させながらクロスフロー濾過を行い、各濾過フラックス時の膜間差圧を測定した。膜間差圧が急激に上昇した点を限界フラックス(m/day)とした。
【0115】
<沸点上昇の測定>
ゼラチン溶液の沸点はJIS K 0066:1992に基づいて大気圧条件で測定した。純水の沸点100℃との差分を沸点上昇(℃)とした。
【0116】
<限外濾過膜の作製>
[参考例1]
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマー38質量%とγ-ブチロラクトン62質量%を150℃で溶解した。このフッ化ビニリデンホモポリマー溶液を二重管式口金の外側の管から吐出し、同時にγ-ブチロラクトン85質量%の水溶液を二重管式口金の内側の管から吐出し、γ-ブチロラクトン85質量%の水溶液からなる温度9℃の浴中で固化させた後、水洗いして85℃の水中で1.5倍に延伸し、支持膜を得た。なお、支持膜は、中空糸状の限外濾過膜である。
【0117】
[参考例2]
参考例1で得られた支持膜に機能層を形成して複合限外濾過膜を得た。機能層の形成として、まず、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを12質量%、セルロースアセテートを7.2質量%、N-メチル-2-ピロリドンを80.8質量%として95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。得られた高分子溶液を参考例1で得られた球状構造からなる支持膜表面に均一に塗布し、すぐに、室温の水100%からなる凝固浴中で凝固させることで、支持膜上に機能層を形成させ、中空糸膜である複合限外濾過膜を作製した。得られた限外濾過膜は、破断時荷重が1010gf/本であった。また、得られた膜の重量平均分子量40000のデキストランの阻止率Rは45%であった。
【0118】
<限外濾過膜モジュールの作製>
[参考例3]
参考例2で得られた限外濾過膜を複数本約40cmの長さに切断し、ポリエチレンフィルムで巻いて限外濾過膜束とした。この限外濾過膜束を円筒型のポリカーボネート製モジュールケースに挿入し、両末端をエポキシポッティング剤で固めた。端部を切断して、両末端が開口した膜モジュール(モジュール体積1.7×10-5)を得た。限外濾過膜の本数は、膜面積が0.02mとなるよう適宜設定した。限外濾過膜の膜充填率は、40%であり、軸方向における有効膜長は0.3mであった。なお、円筒型のモジュールケースには両端部付近の2箇所にポートを設け、限外濾過膜の外表面を流体が灌流できるようにし、一方の末端には液の出入り口を有するエンドキャップを装着し、もう一方の末端には液を封止するエンドキャップを装着した。
【0119】
[参考例4]
限外濾過膜の本数は、膜面積が0.005mとなるよう適宜設定したこと以外は、参考例3と同様に膜モジュールを作製した。限外濾過膜の膜充填率は、10%であり、有効膜長は0.3mであった。
【0120】
[参考例5]
限外濾過膜の本数は、膜面積が0.03mとなるよう適宜設定したこと以外は、参考例3と同様に膜モジュールを作製した。限外濾過膜の膜充填率は、60%であり、有効膜長は0.3mであった。
【0121】
[参考例6]
参考例2で得られた限外濾過膜を長さ1.2mにカットし、30質量%グリセリン水溶液に1時間浸漬後、風乾した。その後シリコーン接着剤(東レ・ダウコーニング社製、SH850A/B、2剤を質量比が50:50となるように混合したもの)で限外濾過膜の濾過液導出口側端部を目止めした。
その後、図2に示すように容器1(内径97.6mm、長さ1100mm)に前述の限外濾過膜を、目止めした濾過液導出口側端部が濾過液導出口3側にくるように充填した。容器1の側面の濾過液導出口3側には原液導出口4が備えられている。
続いて、容器1の原液導入口2側に第1ポッティング部形成治具を、濾過液導出口3側に第2ポッティング部形成治具を取り付けた。第1ポッティング部形成治具には、原液を原液側空間6に導入するための貫通孔を開口させるため、直径7mm、長さ100mmのピンを、限外濾過膜の軸方向と同方向に挿入した。
ポッティング剤として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ハンツマン社製、LST868-R14)と脂肪族アミン系硬化剤(ハンツマン社製、LST868-H14)を質量比が100:30となるように混合し、合計800g(片端当たり400g)をポッティング剤投入器に入れた。
続いて遠心成型機を回転させ、ポッティング剤を容器1の両端の第1ポッティング部形成治具および第2ポッティング部形成治具に充填して第1ポッティング部8および第2ポッティング部9を成形し、ポッティング剤を硬化させた。遠心成型機内の温度は35℃、回転数は300rpm、遠心時間は5時間とした。
硬化後、第1ポッティング部形成治具、第2ポッティング部形成治具及びピンを抜き取り、室温で24時間硬化させた後、第2ポッティング部9の端部をチップソー式回転刃でカットし、限外濾過膜の濾過液導出口側端面を開口させた。
続いて容器1に原液導入口2を備えた下部キャップと、濾過液導出口3を備えた上部キャップを取り付け、限外濾過膜モジュールとした(モジュール体積2.1×10-2)。このとき、限外濾過膜の軸方向における有効膜長は1.0m、限外濾過膜の充填率は40%、膜面積は9.2mであった。
【0122】
<ゼラチン溶液の濃縮>
以下の条件でゼラチン溶液に対して膜濃縮工程または熱濃縮工程の少なくとも一方を行った。参考例3~5により得られた膜モジュールの運転装置の耐圧上限は0.2MPaであり、参考例6により得られた膜モジュールの運転装置の耐圧上限は0.4MPaである。実施例1~6および比較例1~5について各濃縮工程後のゼラチン濃度と膜濃縮工程の終了時における限界フラックスおよび最終的に得られたゼラチン濃縮溶液の沸点上昇を表1に記載する。
【0123】
[実施例1]
参考例3により得られた膜モジュール内に純水を充填し1時間以上放置した後、限外濾過膜の外側の純水を排出した。60℃に維持した未濃縮ゼラチン溶液1Lを用意し、500mLを容器Aへ移液した。ゼラチン溶液を容器Aからポンプを介して、限外濾過膜の外表面を1m/secの流速で流れるように灌流して容器Aに戻すと同時に、限外濾過膜によって濾過された濾過液が前記容器Aとは異なる容器Bで採取するよう回路を組んだ。
【0124】
膜濃縮工程として、容器Aの液量が200mLになるまで膜濾過運転を行った。運転フラックスは常に限界フラックスとした。液量200mLにおける限界フラックスは0.60m/dayであり、容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は11質量%であった。また、膜濾過運転開始時の限界フラックスは2.20m/dayであり、ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8であり、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの比(v/v)は0.09と算出された。膜濾過運転に要した時間は25分間であった。
容器Aのゼラチン溶液120mLを500mLナス型フラスコに移液し、ロータリーエバポレーターを用いて凝縮液が80mL回収されるまで、60℃で減圧熱濃縮を行った。ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は33質量%であり、沸点上昇は1℃であった。
【0125】
[実施例2]
容器Aの液量が150mLになるまで膜濾過運転を行い、濃縮液が75mL回収されるまで、60℃で減圧熱濃縮を行った以外は実施例1と同様にした。
容器Aの液量150mLにおける限界フラックスは0.24m/dayであり、容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は15質量%であった。濾過運転に要した時間は35分間であった。
ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は40質量%であり、沸点上昇は1℃であった。
【0126】
[実施例3]
参考例6により得られた膜モジュール内に純水を充填し1時間以上放置した後、限外濾過膜の外側の純水を排出した。60℃に維持した未濃縮ゼラチン溶液300Lを用意し、230Lを容器Aへ移液した。ゼラチン溶液を容器Aからポンプを介して、限外濾過膜の外表面を1m/secの流速で流れるように灌流して容器Aに戻すと同時に、限外濾過膜によって濾過された濾過液が前記容器Aとは異なる容器Bで採取するよう回路を組んだ。運転フラックスは常に限界フラックスとした。
膜濃縮工程として、容器Aの液量が92Lになるまで膜濾過運転を行った。液量92Lにおける限界フラックスは0.30m/dayであった。また、膜濾過運転開始時の限界フラックスは0.80m/dayであり、ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8であり、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの比(v/v)は0.11と算出された。容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は11質量%であった。膜濾過運転に要した時間は25分間であった。
容器Aのゼラチン溶液120mLを500mLナス型フラスコに移液し、ロータリーエバポレーターを用いて凝縮液が80mL回収されるまで、60℃で減圧熱濃縮を行った。ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は33質量%であり、沸点上昇は1℃であった。
【0127】
[実施例4]
参考例4により得られた膜モジュールを用いて膜濾過運転を行った以外は、実施例1と同様にした。膜濾過運転開始時のゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vとの流速比(v/v)が0.09であった。また、各濃縮工程後のゼラチン濃度、限界フラックス、沸点上昇は実施例1と同数値であり、膜濾過運転に要した時間は100分間であった。
【0128】
[実施例5]
参考例5により得られた膜モジュールを用いて膜濾過運転を行った以外は、実施例1と同様にした。膜濾過運転開始時のゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vとの流速比(v/v)が0.09であった。また、各濃縮工程後のゼラチン濃度、限界フラックス、沸点上昇は実施例1と同数値であり、膜濾過運転に要した時間は17分間であった。
【0129】
[実施例6]
参考例2において凝固浴を50℃に加温した以外は参考例2と同様に限外濾過膜を得た。得られた限外濾過膜の重量平均分子量40000のデキストランの阻止率Rは35%であり、破断時荷重は500gf/本であった。続いて、上記で得られた限外濾過膜を用い、参考例3と同様の手順で限外濾過膜モジュールを作製した。
この限外濾過膜モジュールを用いて、容器Aの液量が150mLになるまで膜濾過運転した以外は実施例1と同様にゼラチン溶液の濃縮を行った。膜濾過運転開始時のゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は2.0、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vとの流速比(v/v)が0.09であった。各濃縮工程後のゼラチン濃度は実施例1と同数値であり、膜濾過運転に要した時間は100分間であった。膜濃縮終了時の限界フラックスは0.40m/dayであり、沸点上昇は0℃であった。
【0130】
[比較例1]
未濃縮ゼラチン溶液150mLを500mLナス型フラスコに移液し、ロータリーエバポレーターを用いて凝縮液が130mL回収されるまで、60℃で減圧熱濃縮を行った。
ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は33質量%であり、沸点上昇は7℃であった。
【0131】
[比較例2]
容器Aの液量が75mLになるまで実施例1と同様に膜濾過運転のみを行った。容器Aの液量75mLにおける限界フラックスは0.03m/dayであり、容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は31質量%、沸点上昇は1℃であった。膜濾過運転に要した時間は120分間であった。
【0132】
[比較例3]
未濃縮ゼラチン溶液120mLを500mLナス型フラスコに移液し、ロータリーエバポレーターを用いて凝縮液が60mL回収されるまで、60℃で減圧熱濃縮を行った。同様の試験を5回繰返し、ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液を容器Aに合計300mL移液した。容器Aの液量が100mLになるまで実施例1と同様に膜濾過運転を行った。膜濾過運転に要した時間は105分間であった。液量100mLにおける限界フラックスは0.03m/dayであり、容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は33質量%、沸点上昇は2℃であった。
【0133】
[比較例4]
限外濾過膜の外表面を5m/secの流速で流れるように灌流した以外は、実施例1と同様にした。膜濾過運転開始時のゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vとの流速比(v/v)が0.02未満であった。容器Aの液量が300mLとなった時点で、ゼラチン溶液の増粘により灌流に要する圧力が増加したことが原因で、モジュールの運転装置の耐圧上限の0.2MPaを超えたため停止した。
【0134】
[比較例5]
限外濾過膜の外表面を0.5m/secの流速で流れるように灌流した以外は、実施例1と同様にした。運転開始直後から限界フラックスの低下が顕著に生じた。液量200mLにおける限界フラックスは0.05m/dayであり、容器Aに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は11質量%であった。また、膜濾過運転開始時の限界フラックスは2.00m/dayであり、ゼラチン溶液の粘度μと濾過液の粘度μの比(μ/μ)は3.8であり、ゼラチン溶液の流速vと濾過液の流速vの比(v/v)は0.16と算出された。膜濾過運転に要した時間は125分間であった。
ナス型フラスコに回収されたゼラチン溶液のゼラチン濃度は33質量%であり、沸点上昇は1℃であった。
【0135】
【表1】
【0136】
表1によれば、膜濃縮工程後に熱濃縮工程を行った例である実施例1~6は、比較例と比して、膜濃縮工程終了時の限界フラックスが高く、かつ沸点上昇が小さかった。
一方、膜濃縮工程を実施しなかった比較例1では、沸点上昇が大きかった。熱濃縮工程を実施しなかった比較例2では、膜濃縮工程終了時の限界フラックスが低かった。熱濃縮工程後に膜濃縮工程を実施した比較例3では、膜濃縮工程終了時の限界フラックスが低く、かつ沸点上昇が大きかった。膜濃縮運転開始におけるv/vが0.02未満である比較例4では、モジュール耐圧上限以下での安定な運転が困難であった。膜濃縮運転開始におけるv/vが0.15超であった比較例5では、膜閉塞による限界フラックス低下が顕著であり、膜濾過運転に要する時間が長かった。
以上の結果から、本発明の一実施態様に係るゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液の製造方法は、省エネルギーにゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液を製造することができることが分かった。
【0137】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に制限されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。本出願は、2022年3月30日に出願の日本特許出願(特願2022-057099)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の製造方法によれば、省エネルギーにゼラチンまたはゼラチン濃縮溶液を製造できる。
【符号の説明】
【0139】
1:容器
2:原液導入口
3:濾過液導出口
4:原液導出口
5:限外濾過膜
6:原液側空間
7:濾過液側空間
8:第1ポッティング部
9:第2ポッティング部
10:限外濾過膜モジュール
12:原液タンク
13:濾過液タンク
14:供給ポンプ
15:恒温水槽
16:細管
21:濃縮液弁
22:濾過液弁
31:濃縮液流量計
32:濾過液流量計
41:原液導入圧力計
42:原液導出圧力計
43:濾過液導出圧力計
45:管入口圧力計
46:管出口圧力計
51:原液温度計
図1
図2
図3
図4