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特許7586307処理方法、処理システム、処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】処理方法、処理システム、処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20241112BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20241112BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/04
G08G1/16 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023522588
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2022018844
(87)【国際公開番号】W WO2022244605
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2021086370
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】治田 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 禎洋
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119216(JP,A)
【文献】特開2016-183647(JP,A)
【文献】特開2010-260473(JP,A)
【文献】特開2009-096349(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向レーン(Lo)が並列するホストレーン(Lh)においてホスト移動体(2)が走行の障害となる障害ゾーン(Zh)を前記対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、前記ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行するために、プロセッサ(12)により実行される処理方法であって、
前記対向レーンを走行するターゲット移動体(3)を監視することと、
前記対向レーンを走行する前記ターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、前記対向レーンにおいて前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じて前記ホスト移動体に与える運転制御として、前記対向レーンへの逸脱制御と前記ホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択することと、
前記対向レーンへの逸脱制御を前記ホスト移動体に与えるための障害回避パス(Ph)を、前記ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、含み、
前記運転制御を与えることは、
前記重複走行状況として、前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間(SDo)が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープ(Eo)を設定するとともに、前記対向レーンでの走行を停止した前記ターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープを設定することと、
前記制約を外した安全エンベロープ外を前記障害回避パス上の前記ホスト移動体が経由すると予測される場合に、前記対向レーンにおける前記ターゲット移動体の走行停止に応答して、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む処理方法。
【請求項2】
前記運転制御を与えることは、
想定される最大加速度に基づき将来走行を予測した前記ターゲット移動体と、前記ホスト移動体との前記重複走行状況を推定することを、含む請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記重複走行状況を予測することは、
想定される最大加速度及び上限速度に基づき将来走行を予測した前記ターゲット移動体と、前記ホスト移動体との前記重複走行状況を推定することを、含む請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記運転制御を与えることは、
前記重複走行状況として、前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が非重複と推定される場合に、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することを、含む請求項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記運転制御を与えることは、
前記重複走行状況として、前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間(SDo)が推定される場合に、前記対向レーンにおける前記ターゲット移動体の走行継続に応答して、前記ホストレーンでの待機制御を選択することを、含む請求項又はに記載の処理方法。
【請求項6】
前記運転制御を与えることは、
前記安全エンベロープ内を前記障害回避パス上の前記ホスト移動体が経由すると予測される場合に、前記対向レーンにおける前記ターゲット移動体の走行停止に応答して、前記ホストレーンでの待機制御を選択することを、含む請求項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記運転制御を与えることは、
前記ホストレーンでの待機制御の選択後、前記ターゲット移動体による前記重複区間の通過に応答して、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することを、含む請求項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記対向レーンを走行する前記ターゲット移動体が非検知と判断される場合に、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を前記ホスト移動体に与えることを、さらに含む請求項に記載の処理方法。
【請求項9】
プロセッサ(12)を有し、対向レーン(Lo)が並列するホストレーン(Lh)においてホスト移動体(2)が走行の障害となる障害ゾーン(Zh)を前記対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、前記ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行する処理システムであって、
前記プロセッサは、
前記対向レーンを走行するターゲット移動体(3)を監視することと、
前記対向レーンを走行する前記ターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、前記対向レーンにおいて前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じて前記ホスト移動体に与える運転制御として、前記対向レーンへの逸脱制御と前記ホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択することと、
前記対向レーンへの逸脱制御を前記ホスト移動体に与えるための障害回避パス(Ph)を、前記ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、実行するように構成され、
前記運転制御を与えることは、
前記重複走行状況として、前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間(SDo)が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープ(Eo)を設定するとともに、前記対向レーンでの走行を停止した前記ターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープ(Eo)を設定することと、
前記制約を外した安全エンベロープ外を前記障害回避パス上の前記ホスト移動体が経由すると予測される場合に、前記対向レーンにおける前記ターゲット移動体の走行停止に応答して、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む処理システム。
【請求項10】
記憶媒体(10)に記憶され、対向レーン(Lo)が並列するホストレーン(Lh)においてホスト移動体(2)が走行の障害となる障害ゾーン(Zh)を前記対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、前記ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行するために、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む処理プログラムであって、
前記命令は、
前記対向レーンを走行するターゲット移動体(3)を監視させることと、
前記対向レーンを走行する前記ターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、前記対向レーンにおいて前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じて前記ホスト移動体に与える運転制御として、前記対向レーンへの逸脱制御と前記ホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択させることと、
前記対向レーンへの逸脱制御を前記ホスト移動体に与えるための障害回避パス(Ph)を、前記ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、含み、
前記運転制御を与えることは、
前記重複走行状況として、前記ホスト移動体及び前記ターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間(SDo)が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープ(Eo)を設定するとともに、前記対向レーンでの走行を停止した前記ターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープ(Eo)を設定することと、
前記制約を外した安全エンベロープ外を前記障害回避パス上の前記ホスト移動体が経由すると予測される場合に、前記対向レーンにおける前記ターゲット移動体の走行停止に応答して、前記対向レーンへの前記障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2021年5月21日に日本に出願された特許出願第2021-86370号を基礎としており、基礎の出願の内容を、全体的に、参照により援用している。
【技術分野】
【0002】
本開示は、移動体の運転に関連する処理を遂行するための、処理技術に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1に開示される技術は、ホスト車両のナビゲーション動作に関する運転制御を、ホスト車両の内外環境に関する検知情報に応じて計画している。そこで、運転ポリシに従う安全モデルと検知情報とに基づき潜在的な事故責任があると判断される場合には、運転制御に対して制約が与えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6708793号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、特許文献1の開示技術では、ホストレーンにおいてホスト車両が走行の障害となる障害ゾーンを対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、対向レーンを走行中のターゲット車両とは優先度判断に齟齬の生じるおそれがあった。
【0006】
本開示の課題は、障害回避シーンに適した対応を促進する処理方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、障害回避シーンに適した対応を促進する処理システムを、提供することにある。本開示のまたさらに別の課題は、障害回避シーンに適した対応を促進する処理プログラムを、提供することにある。
【0007】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。
【0008】
本開示の第一態様は、
対向レーンが並列するホストレーンにおいてホスト移動体が走行の障害となる障害ゾーンを対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行するために、プロセッサにより実行される処理方法であって、
対向レーンを走行するターゲット移動体を監視することと、
対向レーンを走行するターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、対向レーンにおいてホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じてホスト移動体に与える運転制御として、対向レーンへの逸脱制御とホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択することと、
対向レーンへの逸脱制御をホスト移動体に与えるための障害回避パスを、ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、含み、
運転制御を与えることは、
重複走行状況として、ホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープを設定するとともに、対向レーンでの走行を停止したターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープを設定することと、
制約を外した安全エンベロープ外を障害回避パス上のホスト移動体が経由すると予測される場合に、対向レーンにおけるターゲット移動体の走行停止に応答して、対向レーンへの障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む。
【0009】
本開示の第二態様は、
プロセッサを有し、対向レーンが並列するホストレーンにおいてホスト移動体が走行の障害となる障害ゾーンを対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行する処理システムであって、
プロセッサは、
対向レーンを走行するターゲット移動体を監視することと、
対向レーンを走行するターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、対向レーンにおいてホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じてホスト移動体に与える運転制御として、対向レーンへの逸脱制御とホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択することと、
対向レーンへの逸脱制御をホスト移動体に与えるための障害回避パスを、ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、実行するように構成され、
運転制御を与えることは、
重複走行状況として、ホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープを設定するとともに、対向レーンでの走行を停止したターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープを設定することと、
制約を外した安全エンベロープ外を障害回避パス上のホスト移動体が経由すると予測される場合に、対向レーンにおけるターゲット移動体の走行停止に応答して、対向レーンへの障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む。
本開示の第三態様は、
記憶媒体に記憶され、対向レーンが並列するホストレーンにおいてホスト移動体が走行の障害となる障害ゾーンを対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、ホスト移動体の運転に関連する処理を遂行するために、プロセッサに実行させる命令を含む処理プログラムであって、
命令は、
対向レーンを走行するターゲット移動体を監視させることと、
対向レーンを走行するターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、対向レーンにおいてホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じてホスト移動体に与える運転制御として、対向レーンへの逸脱制御とホストレーンでの待機制御とのうち一方を、選択させることと、
対向レーンへの逸脱制御をホスト移動体に与えるための障害回避パスを、ホスト移動体の横方向に想定される加速度を制限するように計画することとを、含み、
運転制御を与えることは、
重複走行状況として、ホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複区間が推定される場合に、ターゲット移動体が想定される最大加速度で走行するという制約により安全エンベロープを設定するとともに、対向レーンでの走行を停止したターゲット移動体に対して、当該制約を外した安全エンベロープを設定することと、
制約を外した安全エンベロープ外を障害回避パス上のホスト移動体が経由すると予測される場合に、対向レーンにおけるターゲット移動体の走行停止に応答して、対向レーンへの障害回避パスに沿った逸脱制御を選択することとを、含む。
【0010】
これら第一~第三態様によると、対向レーンが並列するホストレーンにおいてホスト移動体が走行の障害となる障害ゾーンを対向レーンへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、ホスト移動体の運転に関連する処理が遂行される。このような運転関連処理では、対向レーンを走行するターゲット移動体が検知されたと判断される場合に、対向レーンにおいてホスト移動体及びターゲット移動体の将来走行が重複する重複走行状況に応じて、ホスト移動体に与える運転制御が選択される。これによれば、障害ゾーンを回避する対向レーンへの逸脱制御と、当該回避を遅らせるホストレーンでの待機制御とを、重複走行状況に合わせて優先付けすることができる。故に、障害回避シーンに適した対応を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態による処理システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態の適用されるホスト車両の走行環境を示す模式図である。
図3】一実施形態による処理システムの機能構成を示すブロック図である。
図4】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図5】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図6】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図7】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図8】一実施形態による障害回避パスの計画を説明するための特性表である。
図9】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図10】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図11】一実施形態による運転制御を説明するためのグラフである。
図12】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図13】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図14】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図15】一実施形態の適用される障害回避シーンを示す模式図である。
図16】一実施形態による処理方法を示すフローチャートである。
図17】一実施形態による処理方法を示すフローチャートである。
図18】一実施形態による計画サブルーチンを示すフローチャートである。
図19】変形例による運転制御を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0013】
図1に示される一実施形態の処理システム1は、ホスト移動体の運転に関連する処理(以下、運転関連処理と表記)を、遂行する。処理システム1が運転関連処理の対象とするホスト移動体及びターゲット移動体は、それぞれ図2に示されるホスト車両2及びターゲット車両3である。ホスト車両2を中心とする視点において、ホスト車両2は自車両(ego-vehicle)であるともいえる。ホスト車両2を中心とする視点において、ターゲット車両3は他道路ユーザであるともいえる。
【0014】
図1,2に示されるホスト車両2においては、自動運転が実行される。自動運転は、動的運転タスク(Dynamic Driving Task:以下、DDTと表記)における乗員の手動介入度に応じて、レベル分けされる。自動運転は、条件付運転自動化、高度運転自動化、又は完全運転自動化といった、作動時のシステムが全てのDDTを実行する自律走行制御により、実現されてもよい。自動運転は、運転支援、又は部分運転自動化といった、乗員としてのドライバが一部若しくは全てのDDTを実行する高度運転支援制御において、実現されてもよい。自動運転は、それら自律走行制御と高度運転支援制御とのいずれか一方、組み合わせ、又は切り替えにより実現されてもよい。
【0015】
図1に示されるようにホスト車両2には、センサ系5、通信系6、及地図DB(Data Base)7、及び情報提示系4が搭載される。センサ系5は、処理システム1により利用可能なセンサデータを、ホスト車両2における外界及び内界の検出により取得する。そのためにセンサ系5は、外界センサ50及び内界センサ52を含んで構成される。
【0016】
外界センサ50は、ホスト車両2の外界に存在する物標を、検出する。物標検出タイプの外界センサ50は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーザレーダ、ミリ波レーダ、及び超音波ソナー等のうち、少なくとも一種類である。内界センサ52は、ホスト車両2の内界において車両運動に関する特定の物理量(以下、運動物理量と表記)、及び乗員の状態を、検出する。内界センサ52は、例えば速度センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、アクチュエータセンサ、ドライバーステータスモニター(登録商標)、生体センサ、着座センサ、及び車内機器センサ等のうち、少なくとも一種類である。
【0017】
通信系6は、処理システム1により利用可能な通信データを、無線通信により取得する。通信系6は、ホスト車両2の外界に存在するGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星から、測位信号を受信してもよい。測位タイプの通信系6は、例えばGNSS受信機等である。通信系6は、ホスト車両2の外界に存在するV2Xシステムとの間において、通信信号を送受信してもよい。V2Xタイプの通信系6は、例えばDSRC(Dedicated Short Range Communications)通信機、及びセルラV2X(C-V2X)通信機等のうち、少なくとも一種類である。通信系6は、ホスト車両2の内界に存在する端末との間において、通信信号を送受信してもよい。端末通信タイプの通信系6は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)機器、Wi-Fi(登録商標)機器、及び赤外線通信機器等のうち、少なくとも一種類である。
【0018】
図DB7は、処理システム1により利用可能な地図データを、記憶する。地図DB7は、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)を含んで構成される。地図DB7は、自己位置を含んだホスト車両2の自己状態量を推定するロケータの、DBであってもよい。地図DBは、ホスト車両2の走行経路をナビゲートするナビゲーションユニットの、DBであってもよい。地図DB7は、複数種類のDBの組み合わせにより、構築されてもよい。
【0019】
図DB7は、例えばV2Xタイプの通信系6を介した外部センタとの通信等により、最新の地図データを取得して記憶する。地図データは、ホスト車両2の走行環境を表すデータとして、二次元又は三次元にデータ化されている。三次元の地図データとしては、高精度地図のデジタルデータが採用されてもよい。地図データは、例えば道路構造の位置座標、形状、及び路面状態等のうち、少なくとも一種類を表した道路データを含んでいてもよい。地図データは、例えば道路に付属する道路標識、道路表示、及び区画線の、位置座標並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した標示データを含んでいてもよい。地図データは、例えば道路に面する建造物及び信号機の、位置座標並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した構造物データを含んでいてもよい。
【0020】
情報提示系4は、ホスト車両2のドライバを含む乗員へ向けた報知情報を提示する。情報提示系4は、視覚提示ユニット、聴覚提示ユニット、及び皮膚感覚提示ユニットを含んで構成される。視覚提示ユニットは、乗員の視覚を刺激することより、報知情報を提示する。視覚提示ユニットは、例えばHUD(Head-up Display)、MFD(Multi Function Display)、コンビネーションメータ、ナビゲーションユニット、及び発光ユニット等のうち、少なくとも一種類である。聴覚提示ユニットは、乗員の聴覚を刺激することにより、報知情報を提示する。聴覚提示ユニットは、例えばスピーカ、ブザー、及びバイブレーションユニット等のうち、少なくとも一種類である。皮膚感覚提示ユニットは、乗員の皮膚感覚を刺激することにより、報知情報を提示する。皮膚感覚提示ユニットは、例えばステアリングホイールのバイブレーションユニット、運転席のバイブレーションユニット、ステアリングホイールの反力ユニット、アクセルペダルの反力ユニット、ブレーキペダルの反力ユニット、及び空調ユニット等のうち、少なくとも一種類である。
【0021】
図2に示されるように処理システム1では、車線の区切られた車線構造LSが、想定される。車線構造LSは、車線の延伸する方向を縦方向として、ホスト車両2及びターゲット車両3の運動を規制する。車線構造LSは、車線の幅方向又は並ぶ方向を横方向として、ホスト車両2及びターゲット車両3の運動を規制する。ここで図2に想定される車線構造LSは、ホスト車両2の走行するホストレーンLhと、ホスト車両2とは対向して反対方向にターゲット車両3の走行する対向レーンLoとが、並列する対向構造LSOである。特に本実施形態により想定される対向構造LSOでは、ホストレーンLhにおいてホスト車両2が将来走行の障害となる障害ゾーンZh(図2の右上がり斜めハッチング参照)を、対向レーンLoへの一時的な逸脱によって回避することが、可能となっている。
【0022】
処理システム1では、運転ポリシ(driving policy)とその安全性に従って記述された安全モデルが、用いられる。ここで運転ポリシとは、意図された機能の安全性(Safety Of The Intended Functionality:以下、SOTIFと表記)を保証する車両レベル安全戦略を踏まえて、規定される。
【0023】
処理システム1では、車線構造LSにおけるホスト車両2及びターゲット車両3間の運転ポリシが、例えば次の(A)~(E)等に規定される。尚、ホスト車両2を基準とする前方とは、例えばホスト車両2の現在舵角における旋回円上の進行方向、ホスト車両2における車軸と直交する車両重心を通る直線の進行方向、又はホスト車両2におけるセンサ系5のうちフロントカメラモジュールからFOE(Focus of Expansion)の軸線上における進行方向等を、意味する。
(A) 車両は、前方を走行している車両に、後方から追突しない。
(B) 車両は、他の車両間に強引な割り込みをしない。
(C) 車両は、自己が優先の場合でも、状況に応じて他の車両と譲り合う。
(D) 車両は、見通しの悪い場所では、慎重に運転する。
(E) 車両は、自責他責に関わらず、自己で事故を防止可能な状況であれば、そのために合理的行動を取る。
【0024】
処理システム1では、車両レベル安全戦略の実装となる運転ポリシに従うことにより、且つSOTIFをモデリングすることにより、安全モデルが記述される。安全モデルは、安全関連モデル(safety-related models)そのもの、及び安全関連モデルのうちの一部を構成するモデルのうち、少なくとも一種類であってもよい。安全モデルは、不合理な状況には至らない道路ユーザの行動、即ち適切な応答(proper response)として取るべき適正な合理的行動を、想定する。ここで、車線構造LSにおけるホスト車両2及びターゲット車両3間での不合理な状況とは、正面衝突、追突、及び側面衝突である。正面衝突における合理的行動は、逆走している車両がブレーキを掛けること等を、含む。追突における合理的行動は、前方を走行している車両が一定以上の急ブレーキを掛けないこと、及びそれを前提として後方を走行している車両が追突を回避すること等を、含む。側面衝突における合理的行動は、並走する車両同士が互いの離間方向へ操舵すること等を、含む。
【0025】
処理システム1では、ホスト車両2の経路及び軌道を含む将来走行パスの計画に、安全モデルが使用されてもよい。また、こうした計画に従う運転制御による結果を安全モデルへ逆伝播させる機械学習アルゴリズムにより、安全モデルがトレーニングされてもよい。トレーニングされる安全モデルとしては、例えばDNN(Deep Neural Network)といったニュラーラルネットワークによるディープラーニング、及び強化学習等のうち、少なくとも一種類の学習モデルが使用されるとよい。
【0026】
処理システム1では、合理的行動を取らなかった移動体が事故責任を負うとする、事故責任規則に則って安全モデルが設計されてもよい。車線構造LSでの運転ポリシに従う事故責任規則下、ホスト車両2及びターゲット車両3間のリスクを監視するために用いられる安全モデルは、不合理なリスク又は道路ユーザの誤用に起因する潜在的な事故責任を、合理的行動によって回避するように、設計されるとよい。こうした安全モデルとしては、例えば特許文献1に開示されるような責任敏感型安全性モデル(RSS(Responsibility Sensitive Safety) model)等が、挙げられる。
【0027】
処理システム1では、ホスト車両2においてSOTIFを保証する、例えば車両レベル安全戦略等を踏まえた安全エンベロープ(safety envelope)が、運転ポリシに従って設定される。安全エンベロープの設定では、運転ポリシに従うと仮定したホスト車両2及びターゲット車両3間での安全モデルに基づくことにより、少なくとも一種類の運動物理量に関するプロファイルから、安全距離が想定される。
【0028】
ここで車線構造LSでの安全距離は、予測されるターゲット車両3等の物体の運動に対して、ホスト車両2の周囲に物理ベースのマージンを確保した境界を、画定する。そこで車線構造LSにおける安全エンベロープの設定では、ホスト車両2の縦方向において追突及び正面衝突のリスクを回避する安全距離と、ホスト車両2の横方向において側面衝突のリスクを回避する安全距離とが、想定されるとよい。また、車線構造LSでの安全距離は、ホスト車両2の運動に対して、予測されるターゲット車両3等の物体の周囲に物理ベースのマージンを確保した境界を、画定する。そこで車線構造LSにおける安全エンベロープの設定では、ターゲット車両3等の物体の縦方向において追突及び正面衝突のリスクを回避する安全距離と、当該物体の横方向において側面衝突のリスクを回避する安全距離とが、想定されるとよい。
【0029】
処理システム1では、ホスト車両2及びターゲット車両3間の現実距離に対して、安全モデルに基づく安全距離が走行シーン毎に照らし合わされることによって、安全エンベロープの違反の有無が判定される。その結果が安全エンベロープの違反ありとの判定となる場合には、合理的且つ予測可能な仮定(reasonably foreseeable assumptions)に基づき車両2,3間での状態遷移毎に取るべき合理的行動として、ホスト車両2の運転制御に対する制約が設定されるとよい。
【0030】
図1に示されるように処理システム1は、例えばLAN(Local Area Network)、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち、少なくとも一種類を介してセンサ系5、通信系6、地図DB7、及び情報提示系4に接続される。処理システム1は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成される。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の運転制御を統合する、統合ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の運転制御におけるDDTを判断する、判断ECUであってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の運転制御を監視する、監視ECUであってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の運転制御を評価する、評価ECUであってもよい。
【0031】
処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の自己位置を含む自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2の運動アクチュエータを制御する、アクチュエータECUであってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、ホスト車両2における情報提示を制御する、HCU(HMI(Human Machine Interface) Control Unit)であってもよい。処理システム1を構成する専用コンピュータは、例えば通信系6を介して通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構築する、少なくとも一つの外部コンピュータであってもよい。
【0032】
処理システム1を構成する専用コンピュータは、メモリ10及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ有している。メモリ10は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも一種類をコアとして含む。
【0033】
プロセッサ12は、ソフトウェアとしてメモリ10に記憶された処理プログラムに含まれる複数の命令を、実行する。これにより処理システム1は、ホスト車両2の運転制御処理を遂行するための機能ブロックを、複数構築する。このように処理システム1では、ホスト車両2の運転制御処理を遂行するためにメモリ10に記憶された処理プログラムが複数の命令をプロセッサ12に実行させることによって、複数の機能ブロックが構築される。処理システム1により構築される複数の機能ブロックには、図3に示されるように検知ブロック100、計画ブロック110、及び制御ブロック120が含まれる。
【0034】
検知ブロック100は、対向構造LSOのうちホストレーンLhにおいてホスト車両2の将来走行に障害となる障害ゾーンZhの有無を、監視する。これは、図4に示されるようなホストレーンLhから対向レーンLoへの一時的な逸脱によってホスト車両2が障害ゾーンZhを回避した後にホストレーンLhへと戻る、障害回避シーンへの遷移を判断する処理ともいえる。検知ブロック100による障害ゾーンZhの監視は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。
【0035】
検知ブロック100による障害ゾーンZhの監視では、例えば障害物、工事、清掃、又は事故処理等によってホストレーンLhだけではホスト車両2が走行不可となるゾーンに、障害ゾーンZhが定義される。ここで図5に示されるように、例えば障害物等の物体z(図5の右下がり斜めハッチング参照)がホストレーンLhに存在する場合、当該物体及びホスト車両2のそれぞれ縦横両方向に想定される安全距離を確保する安全エンベロープの範囲が、矩形の障害ゾーンZhとして認識される。このとき安全エンベロープは、物体とホスト車両2との間の運転ポリシに従う安全モデルに基づき、当該物体側に想定される縦方向での許容最大加速度を制約として、設定される。
【0036】
検知ブロック100は、障害回避シーンへの遷移判断の場合に、対向構造LSOのうち対向レーンLoを走行するターゲット車両3の有無を、監視する。これは、障害回避シーンのホスト車両2と間において安全モデルの想定が必要なターゲット車両3を、検知する処理ともいえる。
【0037】
検知ブロック100によるターゲット車両3の走行監視は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。このとき検知ブロック100は、図4,5に示されるようにターゲット車両3の走行監視をする監視区間SMoを、対向レーンLoに設定する。監視区間SMoとしては、ホストレーンLhにおける障害ゾーンZhとその両側区間に対して、対向レーンLoにおいて並列する区間が想定される。ここで、監視区間SMoを決める障害ゾーンZhの両側区間は、ホスト車両2から視て障害ゾーンZhを前後に挟む両側に互いに同じ又は異なる設定距離ずつの、区間となる。
【0038】
図3に示される計画ブロック110は、ホストレーンLhから対向レーンLoへの一時的な逸脱により障害ゾーンZhを回避させる逸脱制御をホスト車両2に与えるために、図6に二点鎖線で示されるような障害回避パスPhを計画する。計画ブロック110による障害回避パスPhの計画は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。制御ブロック120による障害回避パスPhの計画では、安全モデルが使用されることにより、当該計画に必要な計画用パラメータが複数設定される。
【0039】
具体的に計画ブロック110は、障害ゾーンZhの回避に必要な対向レーンLoへの横方向変位を完了させる位置を、図7に示される横変位完了位置Xeとして設定する。このとき横変位完了位置Xeは、障害ゾーンZhにおいてホスト車両2側輪郭と対向レーンLo側輪郭とがなす角部に対して対頂角となる箇所に、ホスト車両2の対向レーンLoとは反対側前方角部が到達する場合の、ホスト車両2の前方中心位置に設定される。
【0040】
計画ブロック110は、検知ブロック100による障害回避シーンへの遷移判断タイミング(以下、遷移判断タイミングという)におけるホスト車両2の初期位置X0から、横変位完了位置Xeまでの横方向変位量を、図7に示される必要横移動量Mlとして設定する。このとき必要移動量Mlは、ホスト車両2の対向レーンLoとは反対側輪郭と、障害ゾーンZhの対向レーンLo側輪郭との、最大離間距離に設定される。
【0041】
計画ブロック110は、横変位完了位置Xeまでのホスト車両2の操舵に必要な縦方向距離を、図7に示される必要操舵距離Nsとして設定する。このとき必要操舵距離Nsは、安全モデルによりホスト車両2の横方向に想定される加速度として、横加速度(即ち、横G)が設定閾値を超えないように、遷移判断タイミングでのホスト車両2の速度及び必要移動量Mlに合わせて設定される。こうした必要操舵距離Nsは、図8に示されるような速度及び必要移動量Mlに対するテーブルデータ、又は速度及び必要移動量Mlに対する相関関数等を使用して、設定されるとよい。
【0042】
計画ブロック110は、ホストレーンLhにおいて対向レーンLoへの横方向変位を開始する位置を、図7に示される横変位開始位置Xsとして設定する。このとき横変位開始位置Xsは、障害ゾーンZhのホスト車両2側輪郭から遷移判断タイミングでのホスト車両2の前方中心位置側へ必要操舵距離Nsを縦方向において空けた位置に、設定される。
【0043】
以上、横加速度を設定閾値以下に制限する必要操舵距離Nsを含んだ、複数の計画用パラメータに基づくことにより計画ブロック110は、図9に示されるように横変位開始位置Xsから横変位完了位置Xeを経由する障害回避パスPhを、作成する。
【0044】
図3に示される制御ブロック120は、遷移回避シーンにおいて対向レーンLoを走行するターゲット車両3が検知ブロック100により検知されたと判断される場合に、ホスト車両2に与える運転制御を選択する。制御ブロック120によりホスト車両2に与えられる運転制御としては、対向レーンLoへの逸脱制御とホストレーンLhでの待機制御とのうち一方が、制御サイクル毎に選択される。
【0045】
具体的に制御ブロック120は、計画ブロック110により計画されたホスト車両2の少なくとも一部分が、図10に示されるようにホストレーンLhから逸脱する逸脱区間SOoを、対向レーンLoに設定する。制御ブロック120による逸脱区間SOoの設定は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。
【0046】
制御ブロック120は、対向レーンLoに設定した逸脱区間SOoにおいて、図10,11に示されるようにホスト車両2及びターゲット車両3の各々の将来走行が互いに重複する重複走行状況を、推定する。制御ブロック120による重複走行状況の予測は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。このとき制御ブロック120は、重複走行状況の推定対象となる逸脱区間SOoでの各車両2,3の将来走行状態を、それぞれ個別に予測する。
【0047】
ホスト車両2の将来走行状態として制御ブロック120は、図10に示される逸脱区間SOoにおいて障害回避パスPhに従う運転制御状態を予測する。制御ブロック120によるホスト車両2に関しての運転制御状態の予測は、検知ブロック100によるターゲット車両3の検知判断タイミング(以下、単に検知判断タイミングという)での、ホスト車両2の走行位置、速度、及び加速度のうち少なくとも一種類に基づく。このとき図11の如く本実施形態では、ホスト車両2の加速度を零値に制御することにより、ホスト車両2の速度を検知判断タイミングから実質一定に保持する運転制御状態が、予測される。
【0048】
ターゲット車両3の将来走行状態として制御ブロック120は、図10に示される逸脱区間SOoにおいてターゲット車両3に予測される対向走行パスPo、及び当該パスPoに従う運転制御状態を予測する。制御ブロック120によるターゲット車両3に関しての対向走行パスPoの予測は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づく。
【0049】
制御ブロック120によるターゲット車両3に関しての運転制御状態の予測は、検知タイミングにおけるターゲット車両3の走行位置、速度、及び加速度のうち少なくとも一種類に基づく。このとき図11の如く本実施形態では、例えば法定制限速度等に想定される許容上限速度にターゲット車両3の速度が到達するまで、安全モデルより想定される縦方向の許容最大加速度にターゲット車両3の加速度を制御する運転制御状態が、予測される。さらに図11の如く本実施形態では、ターゲット車両3の速度が許容上限速度に到達してからは、ターゲット車両3の加速度を零値に制御することにより、ターゲット車両3の速度を実質一定に保持する運転制御状態が、予測される。
【0050】
制御ブロック120は、逸脱区間SOoのうち、運転制御状態を予測した車両2,3の将来走行が図11の如く重複する重複区間SDoの有無を、重複走行状況として推定する。そこで、重複区間SDoの発生が推定される場合に制御ブロック120は、対向レーンLoのうち監視区間SMoにおけるターゲット車両3の制御サイクル毎での運動状態に合わせて、ホスト車両2へ与える運動制御を選択する。
【0051】
重複区間SDoが推定される場合の制御ブロック120は、監視区間SMoにおいて走行を停止したターゲット車両3に対しては、図12,13に示すような安全エンベロープEoを運転制御選択のために設定する。このときターゲット車両3の走行停止は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づき、認識される。
【0052】
走行停止の認識されたターゲット車両3に対する安全エンベロープEoの設定において制御ブロック120は、ターゲット車両3及びホスト車両2のそれぞれ縦横両方向に想定される安全距離を確保する範囲を、当該安全エンベロープEoとして認識する。このとき安全エンベロープEoは、ターゲット車両3とホスト車両2との間の運転ポリシに従う安全モデルに基づき、当該ターゲット車両3側に想定される縦方向での許容最大加速度の制約を外して、設定される。
【0053】
走行停止状態のターゲット車両3に対して安全エンベロープEoを設定した制御ブロック120は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPh上のホスト車両2と、当該安全エンベロープEoとの重畳の有無を予測する。これは、安全エンベロープEo内を障害回避パスPh上のホスト車両2が経由するか否かを、判断する処理ともいえる。
【0054】
そこで、図12の如く障害回避パスPh上のホスト車両2が安全エンベロープEo外を経由する非重畳ケースが予測される場合に制御ブロック120は、監視区間SMoにおけるターゲット車両3の走行停止に応答して、対向レーンLoへの逸脱制御を選択する。このとき逸脱制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿って、ホスト車両2を走行させる。
【0055】
一方、図13の如く障害回避パスPh上のホスト車両2が安全エンベロープEo内を経由する重畳ケースが予測される場合に制御ブロック120は、監視区間SMoにおけるターゲット車両3の走行停止に応答して、ホストレーンLhでの待機制御を選択する。このとき待機制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPh上において、ホスト車両2の走行を停止させる。但し、待機制御では、逸脱区間SOoの手前位置までであれば、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿う走行後に、図14に示されるようにホスト車両2を停止させてもよい。
【0056】
車両2,3のいずれも走行を停止する重畳ケースでの待機制御中には、優先権譲渡の通知がホスト車両2から通信系6を介してターゲット車両3へ送信される。そこで重畳ケースでの待機制御は、優先権譲渡の通知に応答して走行を再開したターゲット車両3が対向レーンLoのうち重複区間SDoを通過するまで、継続される。このとき、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づき、認識される。そこで、重畳ケースでの待機制御の選択後、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過に応答して制御ブロック120は、対向レーンLoへの逸脱制御を選択する。このとき逸脱制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿って、ホスト車両2を走行させる。
【0057】
重複区間SDoが推定される場合であっても、監視区間SMoにおけるターゲット車両3の走行継続に応答して制御ブロック120は、ホストレーンLhでの待機制御を選択する。このときターゲット車両3の走行継続は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づき、認識される。そこで待機制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPh上において、図15に示されるようにホスト車両2の走行を停止させる。但し、待機制御では、逸脱区間SOoの手前位置までであれば、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿う走行後に、ホスト車両2を停止させてもよい。
【0058】
ターゲット車両3の走行継続に応答した待機制御は、対向レーンLoのうち重複区間SDoをターゲット車両3が通過するまで、継続される。このとき、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過は、センサ系5、通信系6、及び地図DB7のうち少なくとも一種類による取得データに基づき、認識される。そこで、ターゲット車両3の走行継続に応答した待機制御の選択後、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過に応答して制御ブロック120は、対向レーンLoへの逸脱制御を選択する。このとき逸脱制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿って、ホスト車両2を走行させる。
【0059】
ターゲット車両3の走行継続に応答した待機制御中には、監視区間SMoにおいてターゲット車両3も走行を停止するケースが想定され得る。この想定ケースにおいて制御ブロック120は、上述した走行停止状態のターゲット車両3に対する場合に準ずる処理により、運転制御を選択することとなる。
【0060】
制御ブロック120により推定される重複走行状況には、重複区間SDoが発生しない状況、即ち各車両2,3の将来走行が非重複と推定される状況も、含まれる。そこで制御ブロック120は、重複走行状況として各車両2,3の将来走行が非重複と推定される場合には、対向レーンLoへの逸脱制御を選択する。このとき逸脱制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿って、ホスト車両2を走行させる。
【0061】
制御ブロック120は、遷移回避シーンにおいて対向レーンLoを走行するターゲット車両3が検知ブロック100により非検知と判断される場合には、対向レーンLoへの逸脱制御をホスト車両2に与える。このとき逸脱制御は、計画ブロック110により計画された障害回避パスPhに沿って、ホスト車両2を走行させる。
【0062】
ここまで説明した各ブロック100,110,120の共同により、図16~18に示されるように処理システム1が運転関連処理を遂行する処理方法のフローは、ホスト車両2の起動中に繰り返し実行される。尚、以下の説明において処理方法の各「S」は、処理プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味する。
【0063】
図16に示されるフローでは、S101において検知ブロック100は、ホストレーンLhにおける障害ゾーンZhの有無を判定する。その結果、否定判定が下される場合には、フローの今回実行が終了する。一方、肯定判定が下される場合には、フローがS102へ移行する。
【0064】
S102において計画ブロック110は、障害回避パスPhを計画する計画サブルーチンを実行する。図18に示される計画サブルーチンでは、S201において計画ブロック110は、横変位完了位置Xeを設定する。S202において計画ブロック110は、必要横移動量Mlを設定する。S203において計画ブロック110は、必要操舵距離Nsを設定する。S204において計画ブロック110は、横変位開始位置Xsを設定する。S205において計画ブロック110は、横変位開始位置Xsから横変位完了位置Xeを経由する障害回避パスPhを、作成する。
【0065】
図16に示されるフローのS103において検知ブロック100は、対向レーンLoを走行するターゲット車両3の有無を判定する。その結果、否定判断が下される場合には、フローがS104へ移行する。S104において制御ブロック120は、S102により計画された障害回避パスPhに沿って障害ゾーンZhを回避する、対向レーンLoへの逸脱制御をホスト車両2に与える。
【0066】
S103において肯定判定が下される場合には、フローがS105へ移行する。S105において制御ブロック120は、ホスト車両2のホストレーンLhからの逸脱区間SOoを、対向レーンLoに設定する。S106において制御ブロック120は、ホスト車両2の将来走行状態として、S105により設定の逸脱区間SOoにおいて障害回避パスPhに従う運転制御状態を予測する。S107において制御ブロック120は、ターゲット車両3の将来走行状態として、S105により設定の逸脱区間SOoにおいてターゲット車両3に予測される対向走行パスPo、及び当該パスPoに従う運転制御状態を予測する。
【0067】
図17に示されるフローのS108において制御ブロック120は、逸脱区間SOoのうち、S106,S107により運転制御状態を予測した車両2,3の将来走行が重複する重複区間SDoの有無を、それら車両2,3の重複走行状況として判定する。その結果、否定判定が下された場合には、フローがS109へ移行する。S109において制御ブロック120は、ホスト車両2に与える運転制御として、S102により計画された障害回避パスPhに沿って障害ゾーンZhを回避する、対向レーンLoへの逸脱制御を選択する。
【0068】
S108において肯定判定が下される場合には、フローがS110へ移行する。S110において制御ブロック120は、対向レーンLoの監視区間SMoにおいてターゲット車両3が走行を停止したか否かを判定する。その結果、ターゲット車両3の走行停止に応答して肯定判定が下された場合には、フローがS111へ移行する。S111において制御ブロック120は、走行停止したターゲット車両3に対して安全エンベロープEoを設定する。S112において制御ブロック120は、S111により設定した安全エンベロープEoと、S102により計画された障害回避パスPh上のホスト車両2との、重畳の有無を判定する。その結果、障害回避パスPh上のホスト車両2が安全エンベロープEo外を経由すると予測されることにより、否定判定が下される場合には、フローが上述のS109へ移行する。
【0069】
一方、障害回避パスPh上のホスト車両2が安全エンベロープEo内を経由すると予測されることにより、S112において肯定判定が下される場合には、フローがS114へ移行する。S114において制御ブロック120は、ホスト車両2に与える運転制御として、S102により計画された障害回避パスPh上に停止する、ホストレーンLhでの待機制御を選択する。S115において制御ブロック120は、待機制御の選択後に走行を再開したターゲット車両3が重複区間SDoを通過したか否かを、判定する。その結果、S115において否定判定が下された場合には、フローがS114へ戻る。この後、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過に応答して、S115において肯定判定が下された場合には、フローが上述のS109へ移行する。
【0070】
さて、上述のS110においてターゲット車両3の走行継続に応答して否定判定が下された場合には、フローがS117へ移行する。S117において制御ブロック120は、ホスト車両2に与える運転制御として、S102により計画された障害回避パスPh上に停止する、ホストレーンLhでの待機制御を選択する。S118において制御ブロック120は、待機制御の選択後に走行を継続するターゲット車両3が重複区間SDoを通過したか否かを、判定する。
【0071】
S118において否定判定が下された場合には、フローがS119へ移行する。S119において制御ブロック120は、監視区間SMoにおいてターゲット車両3が走行を停止したか否かを、判定する。その結果、肯定判定が下された場合には、フローが上述のS111へ移行する。一方、否定判定が下された場合には、フローがS117へ戻る。この後、ターゲット車両3による重複区間SDoの通過に応答して、S118において肯定判定が下された場合には、フローが上述のS109へ移行する。
【0072】
以上説明した本実施形態によると、対向レーンLoが並列するホストレーンLhにおいてホスト車両2が走行の障害となる障害ゾーンZhを対向レーンLoへの逸脱により回避する障害回避シーンにおいて、ホスト車両2の運転に関連する処理が遂行される。このような運転関連処理では、対向レーンLoを走行するターゲット車両3が検知されたと判断される場合に、対向レーンLoにおいてホスト車両2及びターゲット車両3の将来走行が重複する重複走行状況に応じて、ホスト車両2に与える運転制御が選択される。これによれば、障害ゾーンZhを回避する対向レーンLoへの逸脱制御と、当該回避を遅らせるホストレーンLhでの待機制御とを、重複走行状況に合わせて優先付けすることができる。故に、障害回避シーンに適した対応を促進することが可能となる。
【0073】
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0074】
変形例において処理システム1を構成する専用コンピュータは、デジタル回路、及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして含んでいてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0075】
変形例の計画ブロック110及びS203では、横加速度の制限なしに必要操舵距離Nsが設定されてもよい。変形例の制御ブロック120及びS107では、図19に示されるように許容上限速度の制約なしに、許容最大加速度に基づきターゲット車両3に関する運転制御状態が予測されてもよい。変形例の制御ブロック120及びS107では、許容上限速度及び許容最大加速度の制約なしに、ターゲット車両3に関する運転制御状態が予測されてもよい。変形例の制御ブロック120及びS111では、ターゲット車両3に想定される許容最大加速度を制約として、安全エンベロープEoが設定されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
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