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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/34 20060101AFI20241112BHJP
   G10H 1/18 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G10H1/34
G10H1/18 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023522649
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2022020351
(87)【国際公開番号】W WO2022244721
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021084939
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小松 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】田之上 美智子
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-508399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0055879(US,A1)
【文献】特開2017-156496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、
楽器の演奏動作に応じて可動範囲内で前記固定部材に対して変位する可動部材と、
前記可動部材に設置され、磁性体又は導体を有する被検出回路と、
前記固定部材に配置されたコイルを有し、前記被検出回路と前記コイルとの距離に応じた電圧となる検出信号を出力する検出回路と、
前記検出信号の電圧と前記可動部材の位置との対応関係に基づいて、前記検出回路から出力された前記検出信号の電圧に応じた前記可動部材の位置を示す位置データを生成する生成部と、
前記可動部材の位置が前記可動範囲内の所定位置である場合の前記電圧の値と、前記被検出回路が無い状態における前記電圧の値に基づいて、前記対応関係を校正する校正部と、
を備える楽器。
【請求項2】
前記所定位置は、前記可動範囲内において前記被検出回路と前記コイルとの距離が最小となる位置である請求項1に記載の楽器。
【請求項3】
前記可動部材は、前記演奏動作に応じて可動範囲内で変位するK(Kは2以上の整数)個の可動部材のうちの一つであり、
前記被検出回路は、前記K個の可動部材と1対1に対応するK個の被検出回路のうち一つであり、
前記K個の被検出回路は1対1に対応する前記K個の可動部材に設置され、
前記検出回路は、前記K個の被検出回路と1対1に対応する前記K個の検出回路のうちの一つであり、
前記校正部は、前記K個の可動部材の各々の位置が前記可動範囲内の前記所定位置である状態において前記K個の検出回路から出力されるK個の検出信号の電圧に基づいて、前記K個の可動部材の各々について前記対応関係を校正する、
請求項1に記載の楽器。
【請求項4】
前記可動部材は、前記演奏動作に応じて可動範囲内で変位するK(Kは2以上の整数)個の可動部材のうちの一つであり、
前記被検出回路は、前記K個の可動部材と1対1に対応するK個の被検出回路のうち一つであり、
前記K個の被検出回路は1対1に対応する前記K個の可動部材に設置され、
前記検出回路は、前記K個の被検出回路と1対1に対応する前記K個の検出回路のうちの一つであり、
前記校正部は、前記K個の可動部材の各々の位置が前記可動範囲内の前記所定位置である状態において前記K個の検出回路から出力されるK個の検出信号について、前記電圧の平均値を算出し、算出された平均値に基づいて対応関係を校正する、
請求項1に記載の楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鍵盤楽器における鍵等の可動部材の変位を検出するための各種の技術が従来から提案されている。特許文献1には、固定部材に設置された励磁コイル及び位置検出コイルと、固定部材に対して移動する可動部材に設置された被励磁コイルとを利用して、可動部材の位置を検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2021-508399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成において、励磁コイル及び位置検出コイルは固定部材に配置され、被励磁コイルは可動部材に配置される。励磁コイル及び位置検出コイルと、被励磁コイルとの相対的な位置は、取付位置によってばらつく。位置検出コイルと被励磁コイルとの相対的な位置にばらつきがあると、可動部材の位置を正確に検出できないといった問題があった。
本開示は、コイル等の位置のばらつきを吸収することによって、可動部材の位置の検出精度を向上することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る楽器は、固定部材と、楽器の演奏動作に応じて可動範囲内で前記固定部材に対して変位する可動部材と、前記可動部材に設置され、磁性体又は導体を有する被検出回路と、前記固定部材に配置されたコイルを有し、前記被検出回路と前記コイルとの距離に応じた電圧となる検出信号を出力する検出回路と、前記検出信号の電圧と前記可動部材の位置との対応関係に基づいて、前記可動部材の位置を示す位置データを生成する生成部と、前記可動部材の位置が前記可動範囲内の所定位置である場合の前記電圧の値に基づいて、前記対応関係を校正する校正部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態における鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
図2】鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
図3】検出回路及び被検出回路の回路図である。
図4】駆動回路の構成を例示するブロック図である。
図5】信号変換部の平面図である。
図6図5におけるa線の断面図である。
図7】信号変換部に発生する磁界の説明図である。
図8】被検出回路における共振回路の具体的な構成を例示する回路図である。
図9】被検出回路の平面図である。
図10図9におけるb-b線の断面図である。
図11A】コイルLaの法線方向からの平面視において、コイルLaの中心軸C1とコイルLbの中心軸C2との間のズレ量Δrを説明するための説明図である。
図11B】距離Dと電圧Eとの関係を示す特性N0、N1、及びN2を示すグラフである。
図12】正規化特性Nを示すグラフである。
図13】制御装置31の機能を示す機能ブロック図である。
図14】電圧Eと正規化電圧Enとの関係を示すグラフである。
図15】制御装置31の校正モードにおける動作を示すフローチャートである。
図16】制御装置31の演奏モードにおける動作を示すフローチャートである。
図17】コイルLaとコイルLbとの距離Dが1mmである場合の、ズレ量Δrと電圧Eとの関係を示すグラフである。
図18】ズレ量Δrと電圧値E6との関係を示す曲線C6、ズレ量Δrと電圧値E1との関係を示す曲線C1とを示す。打弦機構の模式図である。
図19】距離Dに対する電圧Eの正規化した傾きを示すグラフである。
図20】鍵盤楽器100の鍵盤機構4Aに検出システム20を適用した構成の模式図である。
図21】鍵盤楽器100の打弦機構2Aに検出システム20を適用した構成の模式図である。
図22】鍵盤楽器100のペダル機構3Aに検出システム20を適用した構成の模式図である。
図23】鍵盤楽器100の鍵盤10Bに検出システム20を適用した構成の模式図である。
図24】変形例に係る距離Dと電圧Eとの関係を示す特性N0、N1、及びN2を示すグラフである。
図25】変形例に係る正規化特性Nを示すグラフである。
図26】変形例に係る電圧Eと正規化電圧Enとの関係を示すグラフである。
図27】鍵盤楽器100の打弦機構2Bに検出システム20を適用した構成の模式図である。
図28】、鍵盤楽器100のペダル機構3Bに検出システム20を適用した構成の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A:第1実施形態
図1は、本開示の第1実施形態に係る鍵盤楽器100の構成を例示するブロック図である。鍵盤楽器100は、鍵盤10Aと検出システム20と情報処理装置30と放音装置40とを具備する。鍵盤楽器100は、楽器の一例である。鍵盤10Aは、白鍵と黒鍵とを含むK個の鍵12で構成される。但し、Kは2以上の整数である。Kは、例えば「88」である。
【0008】
K個の鍵12の各々は可動範囲内で変位する。K個の鍵12の各々は、利用者による演奏動作に応じて変位する可動部材の一例である。検出システム20は、各鍵12の位置を検出する。情報処理装置30は、検出システム20による検出の結果に応じた音響信号Vを生成する。音響信号Vは、利用者が操作した鍵12に対応する音高の楽音を表す信号である。放音装置40は、音響信号Vが表す音響を放音する。例えばスピーカ又はヘッドホンが放音装置40として利用される。
【0009】
図2は、鍵盤10Aの任意の1個の鍵12に着目して鍵盤楽器100の具体的な構成を例示するブロック図である。鍵盤10Aの各鍵12は、支点部(バランスピン)13を支点として支持部材14に支持される。支持部材14は、鍵盤楽器100の各要素を支持する構造体(フレーム)である。支持部材14は、演奏動作に応じて変位しない。支持部材14は、固定部材の一例である。各鍵12の端部121は、利用者による押鍵及び離鍵により鉛直方向に変位する。以下の説明では、鍵12の端部121の位置を、鍵12の位置Zと称する。また、演奏動作による力が鍵12に作用しない初期的な状態を第1状態と称し、演奏動作あるいは校正のための静的荷重による力が鍵12に作用する状態を第2状態と称する。また、第1状態における鍵12の位置Zをレスト位置Zrと称する。また、第2状態において、鍵12を最も押し込んだ状態における鍵12の位置Zをエンド位置Zeと称する。各鍵12の可動範囲は、レスト位置Zrからエンド位置Zeまでの範囲である。第1状態は、鍵12が変位していない状態(non-displaced state)に相当し、第2状態は、鍵12が変位した状態(displaced state)に相当する。
【0010】
検出システム20は、K個の鍵12の各々について、鉛直方向における位置Zに応じたレベルの振幅信号Aを生成する。位置Zは、鍵12に荷重が作用しない第1状態における端部121の位置(レスト位置Zr)を基準とした当該端部121の変位量である。
【0011】
検出システム20は、K個の検出回路21、K個の被検出回路22、駆動回路23、及び振幅検出回路24を具備する。K個の検出回路21は、K個の鍵12と1対1に対応する。K個の被検出回路22は、K個の鍵12と1対1に対応する。すなわち、検出回路21と被検出回路22との組が、鍵12毎に設置される。各検出回路21は、支持部材14に設置される。各鍵12に対応する被検出回路22は、当該鍵12に設置される。具体的には、被検出回路22は、鍵12の底面(以下「設置面」という)122に設置される。駆動回路23及び振幅検出回路24は、K個の鍵12に共通に設置される。
【0012】
検出回路21はコイルLaを含む。被検出回路22はコイルLbを含む。コイルLaとコイルLbとは、鉛直方向に相互に間隔をあけて対向する。検出回路21と被検出回路22との距離(コイルLaとコイルLbとの距離)は、位置Zに応じて変化する。振幅検出回路24は、コイルLaとコイルLbとの距離に応じたレベルの振幅信号Aを生成する。
【0013】
図3は、任意の1個の鍵12に対応する検出回路21及び被検出回路22の電気的な構成を例示する回路図である。検出回路21は、共振回路211を具備する。共振回路211は、入力端子T1と出力端子T2と抵抗素子RとコイルLaと容量素子Ca1と容量素子Ca2とを含む。抵抗素子Rの一端が入力端子T1に接続され、抵抗素子Rの他端は、容量素子Ca1の一端とコイルLaの一端とに接続される。コイルLaの他端は、出力端子T2と容量素子Ca2の一端とに接続される。容量素子Ca1の他端と容量素子Ca2の他端とは接地(Gnd)される。
【0014】
被検出回路22は、共振回路221を具備する。共振回路221は、コイルLbと容量素子Cbとを含む。具体的には、コイルLbの一端と容量素子Cbの一端とが相互に接続され、コイルLbの他端と容量素子Cbの他端とが相互に接続される。共振回路211の共振周波数と共振回路221の共振周波数とは、同等の周波数に設定される。ただし、共振回路211の共振周波数と共振回路221の共振周波数とが相違してもよい。例えば、共振回路211の共振周波数は、共振回路221の共振周波数に所定の定数を乗算した周波数に設定される。
【0015】
図4は、駆動回路23の具体的な構成を例示するブロック図である。駆動回路23は、供給回路231と出力回路232とを具備する。供給回路231は、K個の検出回路21の各々の入力端子T1に基準信号Wを供給する。例えば、供給回路231は、K個の検出回路21の各々に時分割で基準信号Wを供給するデマルチプレクサである。基準信号Wは、周期的にレベルが変動する電圧信号である。例えば正弦波、矩形波、及び鋸歯状波等の任意の波形の周期信号が基準信号Wとして利用される。基準信号Wの1周期は、1個の検出回路21に基準信号Wが供給される期間の時間長よりも充分に短い。また、基準信号Wの周波数は、共振回路211及び共振回路221の共振周波数と略同等の周波数に設定される。
【0016】
基準信号Wは、入力端子T1と抵抗素子Rとを経由してコイルLaに供給される。基準信号Wの供給によりコイルLaに磁界が発生する。コイルLaに発生した磁界による電磁誘導で被検出回路22のコイルLbには誘導電流が発生する。すなわち、コイルLbの磁界の変化を相殺する方向の磁界がコイルLaに発生する。以下の説明では、コイルLaとコイルLbの距離を距離Dと称する。コイルLaに発生する磁界は、距離Dに応じて変化する。従って、検出信号sの振幅δは、距離Dに応じて変化する。検出回路21は、出力端子T2を介して、距離Dに応じた振幅δを有する検出信号sを出力する。検出信号sの振幅δは、距離Dが長いほど大きくなり、距離Dが短いほど小さくなる。距離Dが短いほどコイルLbで発生する磁界を打ち消すようにコイルLaに電流が流れるからである。本実施形態では、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に、コイルLaとコイルLbとが最も近接して、距離Dが最小となる。従って、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に、検出信号sの振幅δが最小になる。換言すれば、第1状態において検出信号sの振幅δが最小となるように検出回路21と被検出回路22とが配置される。
【0017】
図4の出力回路232は、複数の検出回路21の各々から順次に出力される検出信号sを時間軸上に配列することで検出信号Sを生成するマルチプレクサである。出力回路232は、K個の検出信号sを時分割多重することによって、検出信号Sを生成する。すなわち、検出信号Sは、各鍵12におけるコイルLaとコイルLbとの距離に応じた振幅δを有する電圧信号である。前述の通り、コイルLaとコイルLbとの距離は各鍵12の位置Zに相関するから、検出信号Sは、K個の鍵12の各々の位置Zに応じた信号と表現される。
【0018】
振幅検出回路24は、検出信号Sを整流した後に平滑化することによって、振幅信号Aを生成する。整流は、半波整流又は全波整流のいずれであってもよい。振幅信号Aは検出信号Sの振幅δに応じた電圧Eを有する。従って、振幅信号Aは、各検出信号sの振幅δに応じた電圧Eを示す信号が時分割多重された信号である。振幅検出回路24は、振幅信号Aを情報処理装置30に出力する。なお、検出システム20は、検出信号Sを情報処理装置30に出力してもよい。この場合、情報処理装置30は、検出信号Sに基づいて、各検出信号sの振幅δを検出すればよい。
【0019】
図5は、1個の鍵12に対応する検出回路21の具体的な構成を例示する平面図である。検出回路21を被検出回路22側(鉛直方向の上方)からみた平面図が図5には図示されている。図6は、図5におけるa線の断面図である。図5における縦方向は、K個の鍵12が配列する方向に相当する。図5における横方向は、鍵12の長手方向に相当する。
【0020】
検出回路21は、共振回路211が設置された基板51を具備する回路基板50である。基板51は、表面511と表面512とを含む絶縁性の板状部材である。表面511は、表面512の反対側の表面である。表面511は、基板51のうち被検出回路22に対向する上面である。表面512は、基板51のうち支持部材14に対向する下面である。
【0021】
基板51には、共振回路211を構成するための配線パターン52-1及び配線パターン52-2が形成される。配線パターン52-1は表面511に形成され、配線パターン52-2は表面512に形成される。配線パターン52-1及び配線パターン52-2の各々は、所定の平面形状に形成された導電膜である。具体的には、表面511の全域を被覆する導電膜のパターニングにより、配線パターン52-1が形成される。同様に、表面512の全域を被覆する導電膜のパターニングにより、配線パターン52-2が形成される。
【0022】
配線パターン52-1は、第1コイル部La1と第2コイル部La2と入力端子T1と出力端子T2と接地端子Tgとを含む。図3を参照して説明した通り、入力端子T1には基準信号Wが供給され、振幅信号Aが出力端子T2から出力される。接地端子Tgは接地される。
【0023】
第1コイル部La1及び第2コイル部La2の各々は、矩形の渦巻状に形成される。第1コイル部La1の渦巻の方向と第2コイル部La2の渦巻の方向とは共通する。例えば、第1コイル部La1及び第2コイル部La2は、中心から外側にかけて反時計回りに渦巻を描く。第1コイル部La1と第2コイル部La2とは相互に隣合う。具体的には、K個の鍵12が配列する方向(横方向)に直交する方向に沿って第1コイル部La1と第2コイル部La2とが配列する。
【0024】
配線パターン52-2は、接続部La3を含む。第1コイル部La1の中心は、導通孔H11を介して接続部La3の一端に導通する。第2コイル部La2の中心は、導通孔H12を介して接続部La3の他端に導通する。導通孔H11及び導通孔H12の各々は、基板51を貫通する貫通孔である。以上の通り、第1コイル部La1と第2コイル部La2とは、接続部La3を介して相互に導通する。第1コイル部La1と第2コイル部La2と接続部La3とにより図3のコイルLaが構成される。
【0025】
基板51の表面511には抵抗素子Rと容量素子Ca1と容量素子Ca2とが実装される。抵抗素子Rは、電子部品(チップ抵抗)として基板51に実装される。同様に、容量素子Ca1及び容量素子Ca2は、電子部品(チップコンデンサ)として基板51に実装される。
【0026】
電流の供給により第1コイル部La1及び第2コイル部La2の各々には磁界が発生する。図5から理解される通り、第1コイル部La1に流れる電流の方向と第2コイル部La2に流れる電流の方向とは逆方向である。従って、図7に例示される通り、第1コイル部La1と第2コイル部La2とには逆方向の磁界が発生する。すなわち、第1コイル部La1に第1方向の磁界が発生するときに、第2コイル部La2には、第1方向とは反対の第2方向の磁界が発生する。以上の構成によれば、第1コイル部La1及び第2コイル部La2の一方から他方に向かう磁界が形成されるから、相互に隣合う各鍵12の間にわたる磁界の拡散が低減される。すなわち、相互に隣合う2個のコイルLbの間における磁界の干渉が低減される。従って、K個の鍵12の各々の位置Zを高精度に反映した検出信号sを生成できる。
【0027】
図8は、被検出回路22における共振回路221の具体的な構成を例示する回路図である。図3に例示されたコイルLbは、実際には第1コイル部Lb1と第2コイル部Lb2とで構成される。第1コイル部Lb1及び第2コイル部Lb2は、配線651と配線652との間に直列に接続される。第1コイル部Lb1及び第2コイル部Lb2の各々は、相互に直列に接続された4個の部分64-1~64-4を含む。
【0028】
図3に例示された容量素子Cbは、実際には4個の容量素子Cb1~Cb4で構成される。4個の容量素子Cb1~Cb4は、配線651と配線652との間に並列に接続される。4個の容量素子Cb1~Cb4の各々は、相互に並列に接続された3個の容量部66-1~66-3で構成される。容量部66-1は、電極67-1と電極67-2とを含む。容量部66-2は、電極67-2と電極67-3とを含む。容量部66-3は、電極67-3と電極67-4とを含む。
【0029】
図9は、被検出回路22の具体的な構成を例示する平面図である。被検出回路22を検出回路21側(鉛直方向の下方)からみた平面図が図9には図示されている。また、図10は、図9におけるb-b線の断面図である。なお、以下の説明においては、相互に直交するX軸とY軸とを想定する。X-Y平面は、鍵12の設置面122に平行な平面である。K個の鍵12はX軸に沿って配列し、各鍵12はY軸に沿って長尺である。X-Y平面に垂直な方向に沿って観察することを以下では「平面視」と表記する。
【0030】
被検出回路22は、共振回路221が設置された基板61を具備する回路基板60である。基板61は、表面611と表面612とを含む絶縁性の板状部材である。表面611は、表面612の反対側の表面である。具体的には、表面611は、基板61のうち検出回路21に対向する表面である。表面612は、基板61のうち鍵12の設置面122に対向する表面である。第1実施形態の基板61は、Y軸の方向に長尺な矩形状に形成される。
【0031】
基板61は、Y軸に沿って配列する複数の領域(Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23)を含む。領域Q11及び領域Q21は、基板61のうちY軸の方向における中央の近傍の領域である。領域Q11は、基板61のうちY軸の方向における中点に対してY軸の負方向に位置し、領域Q21は当該中点に対してY軸の正方向に位置する。領域Q13は、基板61のうちY軸の負方向に位置する端部614を含む領域である。領域Q12は、領域Q11と領域Q13との間の領域である。同様に、領域Q23は、基板61のうちY軸の正方向に位置する端部615を含む領域であり、領域Q22は、領域Q21と領域Q23との間の領域である。
【0032】
第1コイル部Lb1は、領域Q11に形成される。容量素子Cb1及び容量素子Cb2は、領域Q13に形成される。容量素子Cb1と容量素子Cb2とは、領域Q13内において、平面視でX方向に相互に間隔をあけて配列する。以上の説明から理解される通り、容量素子Cb1及び容量素子Cb2は、平面視において第1コイル部Lb1と基板61の端部614との間に形成される。すなわち、容量素子Cb1及び容量素子Cb2は、領域Q12に相当する間隔をあけて第1コイル部Lb1からY軸の負方向に離間した位置に形成される。
【0033】
容量素子Cb1及び容量素子Cb2が第1コイル部Lb1に近接する構成では、第1コイル部Lb1に発生する磁界が容量素子Cb1又は容量素子Cb2に影響される。容量素子Cb1及び容量素子Cb2と第1コイル部Lb1との間に領域Q12が形成される第1実施形態の構成によれば、容量素子Cb1及び容量素子Cb2と第1コイル部Lb1との距離を確保し易い。従って、第1コイル部Lb1に発生する磁界に対する容量素子Cb1及び容量素子Cb2の影響を低減できる。
【0034】
第2コイル部Lb2は、領域Q21に形成される。容量素子Cb3及び容量素子Cb4は、領域Q23に形成される。容量素子Cb3と容量素子Cb4とは、領域Q23内において、平面視でX方向に相互に間隔をあけて配列する。以上の説明から理解される通り、容量素子Cb3及び容量素子Cb4は、領域Q12に相当する間隔をあけて第2コイル部Lb2からY軸の正方向に離間した位置に形成される。従って、容量素子Cb3及び容量素子Cb4と第2コイル部Lb2との距離を確保し易い。
【0035】
以上の例示から理解される通り、平面視において、容量素子Cb1及び容量素子Cb2の組と、容量素子Cb3及び容量素子Cb4の組との間に、コイルLb(第1コイル部Lb1及び第2コイル部Lb2)が位置する。以上の構成によれば、例えば第1コイル部Lb1と第2コイル部Lb2との間に容量素子Cbが形成される構成と比較して、コイルLbに発生する磁界に対する容量素子Cb(Cb1~Cb4)の影響を低減しながら、容量素子Cbの静電容量を確保し易いという利点がある。
【0036】
説明を図2に戻す。情報処理装置30は、駆動回路23から供給される振幅信号Aを解析することで各鍵12の位置Zを示す位置データを生成する。情報処理装置30は、制御装置31と記憶装置32とA/D変換器33と音源回路34とを具備するコンピュータシステムで実現される。なお、情報処理装置30は、単体の装置で実現されるほか、相互に別体で構成された複数の装置でも実現される。
【0037】
制御装置31は、鍵盤楽器100の各要素を制御する単数又は複数のプロセッサで構成される。具体的には、例えばCPU(Central Processing Unit)、SPU(Sound Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサにより、制御装置31が構成される。
【0038】
記憶装置32は、制御装置31が実行するプログラム321、及び対応関係データ322を記憶する単数又は複数のメモリである。対応関係データ322は、検出信号sの振幅δに応じた電圧Eと位置Zとの対応関係を示すデータである。対応関係データ322は、校正データ322aと変換データ322bとを含む。校正データ322aは、検出信号sの振幅δに応じた電圧Eから後述する正規化電圧Enを生成するために用いるデータである。変換データ322bは、正規化電圧Enと位置Zとの対応関係を示すデータである。
また、記憶装置32は、制御装置31の作業領域として機能する。記憶装置32は、例えば磁気記録媒体又は半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。なお、複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置32を構成してもよい。また、鍵盤楽器100に着脱可能な可搬型の記録媒体、又は、鍵盤楽器100が通信可能な外部記録媒体(例えばオンラインストレージ)を、記憶装置32として利用してもよい。
【0039】
A/D変換器33は、駆動回路23から供給される振幅信号Aをアナログからデジタルに変換する。制御装置31は、A/D変換器33による変換後の振幅信号Aを解析することでK個の鍵12の各々の位置Zを示す位置データを生成する。また、制御装置31は、各鍵12の位置Zに応じた楽音の発音を音源回路34に指示する。音源回路34は、制御装置31から指示された楽音を表す音響信号Vを生成する。具体的には、複数の音高のうち位置Zが変化した鍵12に対応する音高の楽音を表す音響信号Vが生成される。音響信号Vの音量は、例えば位置Zが変化する速度に応じて制御される。音響信号Vが音源回路34から放音装置40に供給されることで、利用者による演奏動作(各鍵12の押鍵又は離鍵)に応じた楽音が放音装置40から放音される。なお、記憶装置32に記憶されたプログラム321を実行することで制御装置31が音源回路34の機能を実現してもよい。
【0040】
振幅信号Aの電圧Eと、コイルLaとコイルLbとの距離Dとの関係について説明する。図11Aは、平面視において、コイルLaの中心軸C1とコイルLbの中心軸C2との間のズレ量Δrを説明するための説明図である。図11Aに示されるズレ量Δrは、Δr=(Δx+Δy1/2と表すことができる。但し、Δxは中心軸C1と中心軸C2とのX軸に沿った距離であり、Δyは中心軸C1と中心軸C2とのY軸に沿った距離である。
【0041】
図11Bは、距離Dと電圧Eとの関係を示す特性N0、N1、及びN2を示すグラフである。特性N0は、ズレ量Δrがゼロの場合、即ち、平面視において、コイルLaの中心軸C1とコイルLbの中心軸C2が一致する場合の距離Dと電圧Eとの関係を示す曲線である。また、特性N1は、ズレ量Δr=r1の場合の距離Dと電圧Eとの関係を示す曲線である。また、特性N2は、ズレ量Δr=r2の場合の距離Dと電圧Eとの関係を示す曲線である。但し,r2>r1である。
【0042】
即ち、ズレ量Δrが短いほど、距離Dがゼロの場合の電圧Eが小さくなる。これは、ズレ量Δrが短いほど、コイルLbの磁界がコイルLaの磁界に作用する程度が大きくなるからである。一方、距離Dが10mm以上の場合の電圧Eは、中心軸C1とコイルLbの中心軸C2との距離に殆ど左右されない。これは、距離Dが10mm以上の場合、コイルLbの磁界がコイルLaの磁界に殆ど作用しないからである。
【0043】
上述したようにコイルLaを有する検出回路21は支持部材14に設置され、コイルlbを有する被検出回路22は、鍵12の設置面122に設置される。一方、鍵12の可動範囲は、レスト位置Zrからエンド位置Zeまでである。本実施形態において、鍵12がエンド位置Zeである場合にコイルLaとコイルLbとは最も近接する。この場合の距離Deは3mmとなる。一方、鍵12がレスト位置Zrである場合にコイルLaとコイルLbとは最も離間する。この場合の距離Drは10mmとなる。
【0044】
ところで、支持部材14に配置された検出回路21の取付位置と、鍵12に配置された被検出回路22の取付位置とには、ばらつきがある。このため、特性N0、N1、及びN2といったように、鍵12ごとに距離Dと電圧Eとの関係はばらつく。さらに、検出回路21を構成する抵抗素子Rの抵抗値、コイルLaのインダクタンス値、容量素子Ca1の容量値、及び容量素子Ca2の容量値は、ばららく。また、これらの素子の値のばらつき、並びに、これらの素子の温度特性及び経年変化によっても、鍵12ごとに距離Dと電圧Eとの関係がばらつく。
【0045】
本実施形態では、各種のばらつきを吸収するために、図11Bに示される複数の特性を、図12に示される正規化特性Nに正規化し、正規化特性Nを用いて、電圧Eから距離Dを求める。正規化特性Nは、電圧Eを正規化した正規化電圧Enと距離Dとの関係を示す。正規化電圧Enは、式(1)によって与えられる。
En=(E-E0)/(Ei-E0)……(1)
但し、E0は、距離Dがゼロの状態における電圧Eの電圧値である。即ち、E0は、検出回路21と被検出回路22とが接する状態における電圧Eの電圧値である。Eiは、距離Dが無限大の状態の電圧Eの電圧値である。即ち、Eiは、被検出回路22が無い状態における電圧Eの値である。正規化電圧Enは、0以上1以下の範囲で変化する。
【0046】
ところで、K個の検出回路21を支持部材14に配置し、K個の鍵12を鍵盤楽器100に組み込む前の状態であれば、検出回路21と組になる被検出回路22が存在しない。従って、この状態において、電圧値Eiは測定可能である。一方、電圧値E0は、検出回路21と組になる被検出回路22が存在しなければ測定不能である。従って、電圧値E0は、被検出回路22が取り付けられたK個の鍵12を鍵盤楽器100に組み込んだ状態で測定する必要がある。しかし、鍵12はエンド位置Zeまでしか変位できないため、電圧値E0を測定することはできない。そこで、本実施形態は、エンド位置Zeにおける電圧Eのエンド電圧値Eeに基づいて電圧値E0を推定し、推定された電圧値E0を用いて、正規化電圧Enを算出する。
【0047】
電圧値E0に対応する鍵12の位置Zは、距離Dがゼロとなる鍵12の位置Zである。距離Dがゼロとなる鍵12の位置Zは基準位置の一例である。距離Dがゼロとなる鍵12の位置Zは、可動範囲内において距離Dが最小となるエンド位置ZeよりもコイルLaに近い鍵12の位置Zの一例である。エンド位置Zeは、鍵12(可動部材)の可動範囲内の所定位置の一例である。また、エンド位置Zeは、鍵12の可動範囲内において距離Dが最小となる鍵12の位置Zである。
【0048】
正規化特性Nは、距離Dに対する正規化電圧Enの関係を示す。鍵盤楽器100では、電圧Eを正規化することで正規化電圧Enを算出し、算出された正規化電圧Enに基づいて距離Dを特定する。このため、予め正規化特性Nの逆関数を算出しておく。正規化特性Nを示す関数は、以下に示す式(2)で与えられる。一方、逆関数は式(3)で与えられる。
En=F(D)…(2)
D=F-1(En)…(3)
【0049】
記憶装置32に記憶される変換データ322bは、式(3)に示される逆関数を示す。従って、変換データ322bを参照することによって、正規化電圧Enに対応する距離Dが求められる。
【0050】
鍵盤楽器100の動作モードは、校正モードと演奏モードに大別される。後述する設定部310は、鍵盤楽器100の動作モードを演奏モードと校正モードの間で切り替える。制御装置31は、校正モードにおいて、校正処理などを実行することで校正データ322aを生成する。また、制御装置31は、演奏モードにおいて、利用者の演奏動作に応じた振幅信号Aを検出し、検出された振幅信号Aに基づいて、音響信号Vを生成する。
【0051】
図13は、制御装置31の機能を示す機能ブロック図である。制御装置31は、記憶装置32からプログラム321を読み出し、読み出されたプログラムを実行することによって、設定部310、校正部311、生成部312、及び音源制御部313として機能する。
【0052】
設定部310は、利用者の操作に応じて、鍵盤楽器100の動作モードを校正モード又は演奏モードに設定する。例えば、鍵盤楽器100に設定ボタンが設けられている場合、設定部310は、設定ボタンから出力される操作信号に基づいて、鍵盤楽器100の動作モードを校正モード又は演奏モードに設定する。また、設定部310は、通常は演奏モードを選択し、K個の鍵12のうち、複数の鍵12が同時に押下されたことを検出した場合に、校正モードを選択してもよい。例えば、設定部310は、K個の鍵のうち左端の鍵12と右端の鍵12とが同時に押下された場合、校正モードを選択してもよい。
【0053】
校正部311は、校正モードにおいて動作する。校正部311は、振幅信号Aを解析することによって校正データ322aを生成し、生成した校正データ322aを記憶装置32に記憶する。生成部312は、演奏モードにおいて動作する。生成部312は、電圧Eに基づいて、鍵12の位置Zを示す位置データを生成する。生成部312は、補正部312a及び変換部312bを備える。補正部312aは、校正データ322aを用いて、電圧Eを補正することによって、正規化電圧Enを生成する。変換部312bは、演奏モードにおいて動作する。変換部312bは、変換データ322bを参照することによって、正規化電圧Enを距離Dに変換する。生成部312は、距離Dに基づいて位置データを生成する。音源制御部313は、音源回路34を制御する演奏データを位置データに基づいて生成する。
【0054】
上述したように、振幅信号Aには、K個の検出回路21と1対1に対応するK個の電圧Eが時分割多重されている。鍵12が第2状態であり、且つ鍵12が最も押下された状態では、鍵12の位置Zは、エンド位置Zeとなる。鍵12がエンド位置Zeに位置する場合の電圧Eをエンド電圧値Eeと称する。校正部311は、鍵12がエンド位置Zeに位置している第2状態において、振幅信号Aに基づいて、K個のエンド電圧値Eeの平均値である平均エンド電圧値Eeaを算出する。平均エンド電圧値Eeaは、以下の式(4)で与えられる。
Eea=(Ee1+Ee2+…+EeK)/K…(4)
但し、Ee1、Ee2、…EeKは、K個の鍵12に1対1に対応するエンド電圧値Eeである。
【0055】
校正部311は、平均エンド電圧値Eeaに基づいて、電圧値E0を推定する。図14に電圧Eと正規化電圧Enとの関係を示す。電圧値Eneは、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合の正規化電圧Enの値である。電圧値Eneは既知である。また、電圧値Eiも既知である。従って、式(1)に平均エンド電圧値Eeaを代入することによって、E0を算出できる。
式(1)に平均エンド電圧値Eeaと、電圧値Eneとを代入すると、式(5)となる。
Ene=(Eea-E0)/(Ei-E0)…(5)
式(5)を変形すると、式(6)が導かれる。
E0=(Eea-Ene*Ei)/(1-Ene)…(6)
校正部311は、式(6)を用いて、電圧値E0を推定する。
【0056】
平均エンド電圧値Eeaを用いて、電圧値E0を推定したのは、以下の理由による。
第1の理由は、エンド電圧値Eeは、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に治具等を要することなく測定できるからである。本実施形態では、演奏動作による力が鍵12に作用しない第1状態から鍵を押し下げるのに必要十分な静的荷重を鍵に付加することで、鍵12はエンド位置Zeに位置する。そして、鍵盤楽器100の電源を投入した状態で、設定部310によって校正モードが選択された状態において電圧値E0が推定される。
【0057】
第2の理由は、エンド位置Zeは、可動範囲内の他の位置と比較して、ばらつきが少ないからである。
【0058】
第3の理由は、エンド位置Zeにおける距離Deは平均3mmであり、距離Deに対する正規化電圧Enの電圧値はEneである。鍵12ごとに実際の電圧値Eneはばらつく。しかし、K個の鍵12を鍵盤楽器100に組み込んだ状態で、鍵12ごとに距離Deを測定することはできず、距離Deの平均値が3mmであることが既知である。従って、鍵12ごとに、電圧値E0を推定する必要性が乏しい。また、エンド電圧値Eeごとに電圧値E0を推定する必要がないので、制御装置31の処理負荷を軽減できる。
【0059】
校正部311は、推定された電圧値E0を用いて、校正データ322aを生成する。校正データ322aは、電圧Eと正規化電圧Enとの関係を表すデータである。電圧Eと正規化電圧Enとは、図14に示されるように線形の関係にある。従って、電圧Eと正規化電圧Enとは、以下に示す式(7)の関係がある。
En=p*E+q…(7)
但し、p、qは定数である。定数qは式(8)で表され、定数pは式(9)で表される。
p=1/(Ei-E0)…(8)
q=-E0/(Ei-E0)…(9)
【0060】
校正部311は、推定した電圧値E0と、予め測定した電圧値Eiとに基づいて、定数qと定数pの組を校正データ322aとして生成する。なお、校正部311は、検出回路21ごとに定数pと定数qの組を生成してもよいし、K個の検出回路21に共通の定数pと定数qの組を生成してもよい。校正部311は、検出回路21ごとに定数pと定数qの組を生成する場合、検出回路21ごとに測定された電圧値EiとK個の検出回路21に共通の電圧値E0に基づいて、検出回路21ごとに定数pと定数qの組を生成する。一方、校正部311は、K個の検出回路21に共通の定数pと定数qの組を生成する場合、検出回路21ごとに測定された電圧値Eiの平均電圧とK個の検出回路21に共通の電圧値E0に基づいて、定数pと定数qとの組を生成する。
【0061】
補正部312aは、校正データ322aを用いて、電圧Eを補正することによって、正規化電圧Enを生成する。変換部312bは、変換データ322bを用いて、正規化電圧Enから距離Dを生成する。生成部312は、生成された距離Dから鍵12の位置を示す位置データを生成する。
【0062】
次に、制御装置31の動作を校正モードと演奏モードに分けて説明する。図15は、校正モードにおける制御装置31の動作を示すフローチャートである。鍵盤楽器100の電源が投入された状態で、設定部310によって校正モードが選択されている状態において、図15の動作が実行される。制御装置31は、校正モードにおいて、校正部311として機能する。
【0063】
まず、制御装置31は、変数kを「1」に設定する(S11)。
次に、制御装置31は、鍵12のエンド位置Zeにおけるエンド電圧値Eeを取得する(S12)。上述したように鍵12は、第2状態においてエンド位置Zeに位置する。従って、鍵12をエンド位置Zeに位置させるために、事前に治具などを配置する等の特段の作業は不要である。制御装置31は、k番目の鍵12に対応する振幅信号Aの電圧Eをレスト電圧値Erとして取得する。
【0064】
次に、制御装置31は、変数kが「K」と一致するか否かを判定する(S13)。判定結果が否定である場合、制御装置31は、変数kを「1」インクリメントして(S14)、処理をステップS12に戻す。ステップS13の判定結果が肯定である場合、制御装置31は、上述した式(4)に従って、平均レスト電圧値Eraを算出する(S15)。
【0065】
次に、制御装置31は、平均エンド電圧値Eea、電圧値Ei、及び距離Deに対応する正規化電圧Enの電圧値Eneに基づいて、電圧値E0を推定する(S16)。この後、制御装置31は、電圧値Eiと推定された電圧値E0とを用いて、校正データ322aを生成し、生成した校正データ322aを記憶装置32に記憶する(S17)。
【0066】
図16は、演奏モードにおける制御装置31の動作を示すフローチャートである。設定部310が演奏モードを選択している状態において、図16の動作が実行される。K個の鍵12の各々について図16の動作が順次または並列に実行される。
まず、制御装置31は、振幅信号Aに基づいて検出信号sの振幅δに応じた電圧Eを取得する(S21)。
【0067】
次に、制御装置31は、校正データ322aを用いて、電圧Eから正規化電圧Enを算出する(S22)。具体的には、制御装置31は、校正データ322aの示す定数p及びqの組と、電圧Eとを式(7)に代入して、正規化電圧Enを算出する。ステップS22において、制御装置31は補正部312aとして機能する。
【0068】
次に、制御装置31は、変換データ322bを用いて、正規化電圧Enから距離Dを生成する(S23)。変換データ322bは、正規化電圧Enと距離Dとを対応付けるデータである。具体的には、制御装置31は、変換データ322bを参照することによって、ステップS22で生成された正規化電圧Enに対応する距離Dを生成する。生成された正規化電圧Enが変換データ322bに記録されていない場合、制御装置31は、内挿補間によって距離Dを算出してもよい。
【0069】
次に、制御装置31は、距離Dから鍵12の位置Zを示す位置データを生成する(S24)。次に、制御装置31は、位置データから演奏データを生成する(S25)。生成された演奏データは、音源回路34に供給される。この後、制御装置31は、演奏モードであるか否かを判定する(S26)。ステップS26の判定結果が肯定である場合、制御装置31は、処理をステップS21に戻す。ステップS26の判定結果が否定である場合、制御装置31は、演奏モードを終了する。
【0070】
以上の説明の通り、第1実施形態に係る鍵盤楽器100において、生成部312は、検出信号sの振幅δに応じた電圧Eと鍵12の位置Zとの対応関係に関する対応関係データ322との対応関係に基づいて、検出信号sの振幅に応じた鍵12の位置Zを示す位置データを生成する。また、校正部311は、鍵12の位置が鍵12の可動範囲内の所定位置である場合の検出信号sの振幅に応じた電圧Eに基づいて、対応関係データ322を校正する。所定位置は、可動範囲に含まれるので、検出回路21と被検出回路22とを、鍵盤楽器100に組み込んだ状態で、対応関係データ322を校正することができる。
【0071】
また、第1実施形態では、可動範囲内の所定位置として、エンド位置Zeを採用した。可動範囲内において距離Dが最小となるエンド位置Ze及び距離Dが最大となるレスト位置Zrは、鍵12の位置決めが容易である。さらに、図11Bに示されるように、エンド位置Zeにおいては、レスト位置Zrと比較してズレ量Δrに対する電圧Eの変化が大きい。従って、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合の検出信号sの振幅に応じたエンド電圧値Eeに基づいて、対応関係データ322を校正することによって、校正の精度が向上する。
【0072】
また、校正部311は、エンド位置Zeに対応するエンド電圧値Eeに基づいて、距離Dがゼロとなる鍵12の位置Zに対応する電圧値E0を推定し、推定された電圧値E0に基づいて対応関係データ322を校正する。距離Dがゼロとなる鍵12の位置Z(基準位置の一例)は、可動範囲内において距離Dが最小となる鍵12のエンド位置ZeよりもコイルLaに近い。図11Bに示されるように、エンド位置ZeよりもコイルLaに近い位置に鍵12が位置する方が、ズレ量Δrに対する電圧Eの感度が大きい。従って、推定された電圧値E0に基づいて対応関係データ322を校正することによって、校正の精度が向上する。
【0073】
また、校正部311は、K個の鍵12の各々の位置Zが可動範囲内のエンド位置Zeである場合に、K個の検出回路21から出力されるK個の検出信号sについて、振幅に応じた電圧Eの平均値である平均エンド電圧値Eeaを算出し、算出された平均エンド電圧値Eeaに基づいて対応関係データ322を校正する。エンド電圧値Eeごとに電圧値E0を推定する必要がないので、制御装置31の処理負荷を軽減できる。
【0074】
B:第2実施形態
上述した第1実施形態の鍵盤楽器100は、エンド位置Zeに対応する正規化電圧Enの電圧値Eneと平均エンド電圧値Eeaとに基づいて、各検出回路21に共通の電圧値E0を推定した。これに対して、第2実施形態の鍵盤楽器100は、検出回路21ごとに距離Dが6mmの場合の電圧Eの電圧値E6に基づいて、距離Dが1mmの場合の電圧Eの電圧値E1を推定する点で、第1実施形態の鍵盤楽器100と相違する。第2実施形態の鍵盤楽器100は、校正部311における電圧値E0の推定を除いて、第1実施形態の鍵盤楽器100と同様である。以下、相違点を中心に、第2実施形態の鍵盤楽器100を説明する。
【0075】
図17は、コイルLaとコイルLbとの距離Dが1mmである場合の、ズレ量Δrと電圧Eとの関係を示すグラフである。ズレ量Δrは、図11Aを参照して説明したように、平面視においてコイルLaの中心軸C1とコイルLbの中心軸C2との間の距離を示す。図17に示されるように、距離Dが1mmである場合の電圧Eは、ズレ量Δrに依存している。従って、ズレ量Δrを特定できれば、距離Dが1mmの場合の電圧Eを推定することができる。以下の説明では、距離Dが1mmの場合の電圧Eの電圧値を「E1」と称する。
【0076】
電圧値E1は、電圧値E0と近似できる程度に近い。但し、電圧値E1は、距離Dが1mmの場合の電圧Eであるため、実測することはできない。従って、制御装置31は、電圧値E1を推定する必要がある。
【0077】
次に、電圧値E1の推定方法について説明する。図18に、ズレ量Δrと電圧値E6との関係を示す曲線G6、および、ズレ量Δrと電圧値E1との関係を示す曲線G1を示す。図18に示される黒丸は、ズレ量Δrを変化させた場合に計測される電圧値E6をプロットした点である。また、白三角は、ズレ量Δrを変化させた場合に計測される電圧値E1をプロットした点である。
【0078】
ここで、曲線G6は、以下に示す2次の近似式(8)で与えられる。
E6=h2*Δr+h1*Δr+h0…(8)
但し、h2、h1、及びh0は定数である。
【0079】
電圧値E6を計測することができれば、計測された電圧値E6を近似式(8)に代入することによって、ズレ量Δrを算出できる。ズレ量Δrは、式(9)によって与えられる。
Δr=[-h1+{h1-4(h0-E6)*h2}1/2]/(2*h2)…(9)
なお、近似式(9)に対応するルックアップテーブルを記憶装置32に記憶し、ルックアップテーブルを参照することによって、ズレ量Δrを生成してもよい。
【0080】
また、曲線G1は、以下に示す近似式(10)で与えられる。
E1=m4*Δr+m3*Δr+m2*Δr+m1*Δr+m0…(10)
但し、m4、m3、m2、m1及びm0は定数である。
電圧値E1は、以下の様に推定される。第1に、距離Dが6mmの状態で電圧値E6が計測される。第2に、式(9)に電圧値E6を代入することによってズレ量Δrが算出される。第3に近似式(10)にズレ量Δrを代入することによって電圧値E1が推定される。なお、近似式(10)に対応するルックアップテーブルを記憶装置32に記憶し、ルックアップテーブルを参照することによって、電圧値E1を生成してもよい。
【0081】
次に、第2実施形態の校正部311について説明する。なお、生成部312は、校正データ322a及び変換データ322bを用いることにより位置データを生成する点で、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。校正部311は、K個の鍵12についてコイルLaとコイルLbとの距離Dを6mmに保った状態で、K個の検出信号sの振幅δに応じた電圧Eの電圧値E6を取得する。校正モードでは、例えば、厚さ6mmの平板や治具が回路基板50と回路基板60との間に配置される。この状態で作業者がK個の鍵12の各々を順次に押下することにより、検出回路21ごとに電圧値E6が取得される。
【0082】
校正部311は、式(6)に電圧値E6を代入することによって、ズレ量Δrを算出する。校正部311は、ズレ量Δrを式(10)に代入することによって、電圧値E1を推定する。
ここで、正規化電圧Enは、式(11)によって与えられる。
En=(E-E1)/(Ei-E1)
En=E/(Ei-E1)-E1/(Ei-E1)
En=p*E+q…(11)
但し、p=1/(Ei-E1)、q=-E1/(Ei-E1)
【0083】
校正部311は、検出回路21ごとに、定数pと定数qの組を校正データ322aとして生成し、生成した校正データ322aを記憶装置32に記憶する。即ち、校正部311は、K個の鍵12と1対1に対応するK個の検出信号sの振幅に基づいて、K個の鍵12の各々について対応関係データ322を校正する。
【0084】
上述した例では、距離Dが6mmとなる位置に鍵12を変位させて、電圧値E6を計測したが、本開示はこれに限定されない。鍵12を可動範囲内の所定位置に変位させて電圧Eの電圧値を計測してもよい。
【0085】
図19は、距離Dに対する電圧Eの傾きを示すグラフである。傾きは、0以上1以下の数値に正規化されている。図19に示されるように、電圧Eの傾きは距離Dが5mmの場合に最大となる。電圧Eの傾きが大きいほど、距離Dに対する電圧Eの感度が大きい。従って、所定位置は、可動範囲のうち距離Dに対する電圧Eの傾き(変化率)が最大値から-20%までの数値となる範囲に含まれることが好ましい。さらに、所定位置は、距離Dに対する電圧Eの傾きが最大となる鍵12の位置であることがより好ましい。
【0086】
以上、説明した通り、第2実施形態に係る鍵盤楽器100において、校正部311は、K個の鍵12の各々の位置が可動範囲内の所定位置である状態においてK個の検出回路21から出力されるK個の検出信号sの振幅に応じた電圧Eに基づいて、K個の鍵12の各々について対応関係データを校正する。従って、検出回路21と被検出回路22との取付誤差を鍵12ごとに校正できる。
【0087】
C:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0088】
(1)前述の各形態においては、被検出回路22は導体で構成されるコイルLbを備えたが、本開示はこれに限定さない。要は、検出回路21によって発生される磁界に作用するのであれば、被検出回路22はどのように構成されてもよい。例えば、被検出回路22は、磁性体で構成されてもよい。また、被検出回路22は、板状の導体であってもよい。
【0089】
(2)前述の各形態においては、鍵盤楽器100の鍵12の変位を検出する構成を例示したが、検出システム20により変位が検出される可動部材は鍵12に限定されない。可動部材の具体的な態様を以下に例示する。
【0090】
[態様A]
前述の各形態では、鍵12の下面に被検出回路22が配置され、他方、検出回路21が被検出回路22と対向するように配置されたが、本開示はこれに限定されない。図20は、鍵盤楽器100の鍵盤機構4Aに検出システム20を適用した構成の模式図である。
【0091】
鍵盤機構4Aは、鍵12、接続部180、ハンマアセンブリ200およびフレーム500を含む。フレーム500は、筐体90に固定されている。接続部180は、フレーム500に対して回動可能に鍵12を接続する。接続部180は、板状可撓性部材181、支持部183および棒状可撓性部材185を備える。板状可撓性部材181は、鍵12の後端から延在している。支持部183は、板状可撓性部材181の後端から延在している。棒状可撓性部材185が、支持部183及びフレーム500よって支持されている。すなわち、鍵12とフレーム500との間に、棒状可撓性部材185が配置されている。棒状可撓性部材185が弾性的に湾曲することによって、鍵12がフレーム500に対して回動できる。
【0092】
また、鍵12には、押圧部120が接続されている。押圧部120は、鍵12が回動する場合に、ハンマアセンブリ200を押圧により回動させる。ハンマアセンブリ200は、鍵12の下方側の空間に配置され、フレーム500に対して回動可能に取り付けられている。ハンマアセンブリ200は、錘部230およびハンマ本体部250を備える。ハンマ本体部250には、フレーム500の回動軸520の軸受となる軸支持部220が配置されている。軸支持部220とフレーム500の回動軸520とは少なくとも3点で摺動可能に接触する。
【0093】
錘部230は、金属製の錘を含み、ハンマ本体部250の後端部(回動軸よりも奥側)に接続されている。通常時(押鍵していないとき)には、錘部230が下側ストッパ410に載置された状態になる。これによって、鍵12はレスト位置で安定する。押鍵されると、錘部230が上方に移動し、上側ストッパ430に衝突する。これによって鍵12の最大押鍵量となるエンド位置が規定される。
【0094】
以上の構成において、検出システム20は、鍵12の変位を検出する。具体的には、被検出回路22が鍵12のうちフレーム500の内部に位置する部分の上面に設置される。他方、検出回路21はフレーム500の内周面に設けられた台座550の下面に設置される。鍵盤機構4Aにおいては、上述した各形態と同様に、鍵12がレスト位置Zrに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も近接する。また、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も離間する。台座550は、演奏動作に応じて変位しない。台座550は、固定部材の一例である。鍵12は、演奏動作に応じて可動範囲内で変位する可動部材の一例である。なお、図20に点線で示されるように検出回路21を筐体90に設けられた台座560に配置し、被検出回路22をハンマ本体部250の下面に配置してもよい。また、この態様において第1実施形態と同様の校正を実行する場合には、鍵12がレスト位置Zrにある状態で、鍵12ごとに電圧Eを計測し、計測結果の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。また、鍵のストローク中の位置ではなく、ハンマ本体部250のストローク中の位置で校正するようにしてもよい。
【0095】
[態様B]
図21は、鍵盤楽器100の打弦機構2Aに検出システム20(ハンマセンサ)を適用した構成の模式図である。打弦機構2Aは、鍵盤10Aの各鍵12の変位に連動して弦13を打撃するアクション機構である。具体的には、打弦機構2Aは、回動により打弦可能なハンマ240と、鍵12の変位に連動してハンマ240を回動させる伝達機構70(例えばウィペン,ジャック又はレペティションレバー等)とを、鍵12ごとに具備する。ハンマ240は支持ピン242を回転軸として回動する。ハンマ240の回動によって、ハンマヘッド241が弦13を打弦する。以上の構成において、検出システム20は、ハンマ240の変位を検出する。具体的には、被検出回路22がハンマシャンク244に設置される。他方、検出回路21は支持部材14に設置される。打弦機構2Aは、鍵12がレスト位置Zrに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も離間する。また、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も近接する。従って、本検出システム20(ハンマセンサ)の校正を行う際には、第1実施形態と同様の校正をするのであれば、鍵12がエンド位置Zeにある状態で、鍵12ごとに検出システム20の出力電圧Eを計測し、計測結果の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。
【0096】
なお、上述の構成では、鍵12とハンマ240が連動するため、校正するための位置を鍵12のストローク中の位置で規定するようにしたが、ハンマ240の位置で規定してもよい。この場合、例えば、弦13とハンマ240の先端が接する位置をエンド位置Zeとし、ハンマシャンク244がハンマレールに当たっている状態である位置をレスト位置Zrとして、弦13とハンマ240の先端が接する位置における出力値を計測し、計測結果の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。
【0097】
[態様C]
図22は、鍵盤楽器100のペダル機構3Aに検出システム20を適用した構成の模式図である。ペダル機構3Aは、利用者が足で操作するペダル921と、ペダル921を支持するフレーム920と、鉛直方向の上方にペダル921を付勢する弾性体922とを具備する。ペダル921は、支点925を中心に回動する。以上の構成において、検出システム20はペダル921の変位を検出する。具体的には、検出回路21は、ペダル921より下方に位置するフレーム920に配置される。他方、被検出回路22はペダル921の下面に配置される。ペダル機構3Aは、ペダル921に利用者が力を作用させない第1状態において、検出回路21と被検出回路22とが最も離間する。また、利用者がペダル921を最大限踏み込んだ状態において、検出回路21と被検出回路22とが最も近接する。
【0098】
ペダル921は、演奏動作に応じて可動範囲内で変位する可動部材の一例である。フレーム920は、演奏動作に応じて変位しない。フレーム920は、固定部材の一例である。なお、ペダル機構3Aが利用される楽器は鍵盤楽器100に限定されない。例えば打楽器等の任意の楽器にも同様の構成のペダル機構3Aが利用される。また、この例では、ペダル921に被検出回路22が配置されたが、ペダル921に連結された部材に被検出回路22を配置し、検出回路21を被検出回路22に対向するように固定部材に配置してもよい。また、この態様における校正においては、第1実施形態と同様の校正を実行する場合には、ペダル921を最大限踏み込んだ状態において電圧Eを計測し、計測結果に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。また、ペダル921が複数ある場合には、ペダル921ごとの出力値の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。
【0099】
なお、図22においては鍵盤楽器100のペダル機構3Aを例示したが、電気弦楽器(例えば電気ギター)等の電気楽器に使用されるペダル機構にも図21と同様の構成が採用される。電気楽器に使用されるペダル機構は、例えばディストーション又はコンプレッサー等の各種の音響効果の調整のために利用者が操作するエフェクトペダルである。
【0100】
(3)前述の各形態では、鍵12がレスト位置Zrに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も離間し、鍵12がエンド位置Zeの場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も近接した。本開示は、これに限定されず、鍵12がレスト位置Zrに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も近接し、鍵12がエンド位置Zeの場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も離間してもよい。例えば、鍵盤10Aの替わりに図23に示される鍵盤10Bを採用してもよい。鍵盤10Bでは、被検出回路22は、鍵12の裏面であって、支持部材14よりも端部121に遠い位置に配置される。他方、検出回路21は、被検出回路22と対向するように支持部材14に配置される。
【0101】
この態様では、距離Dと鍵12の位置Zとの関係が、第1実施形態における関係とは逆転する。即ち、鍵12の可動範囲内において、距離Dが最小となる鍵12の位置Zは、エンド位置Zeとなる。このため、第1実施形態と同様の校正を実行する場合には、鍵12がレスト位置Zrにある状態で、鍵12ごとに電圧Eを計測し、計測結果の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。なお、図11Bに示される距離Dと電圧Eとの関係は、図24に示されるグラフとなる。図12に示される位置Zと正規化電圧の関係は図25に示されるグラフとなる。図14に示される電圧Eと正規化電圧の関係は図26に示されるグラフとなる。
【0102】
また、以下の一部の変形例について、鍵12あるいは鍵12と連動する部材(例えば、ハンマ等)がレスト位置に位置する場合に検出回路21と被検出回路22とが最も近接し、鍵12がエンド位置Zeの場合に検出回路21と被検出回路22とが最も離間するものは、本変形例の校正動作に従うものとする。以下、距離Dと可動部材の位置が逆転した具体的な態様を以下に例示する。
【0103】
[態様D]
図27は、鍵盤楽器100の打弦機構2Bに検出システム20を適用した構成の模式図である。打弦機構2Bは、鍵盤10の各鍵12の変位に連動して弦13を打撃するアクション機構である。具体的には、打弦機構2Bは、回動により打弦可能なハンマ240と、鍵12の変位に連動してハンマ240を回動させる伝達機構(例えばウィペン,ジャック又はレペティションレバー等)とを、鍵12ごとに具備する。ハンマ240は支持ピン242を回転軸として回動する。ハンマ240の回動によって、ハンマヘッド241が弦13を打弦する。以上の構成において、検出システム20は、ハンマ240の変位を検出する。具体的には、被検出回路22が、例えばハンマシャンク244に設置される。他方、検出回路21は支持部材14に設置される。打弦機構2Bは、鍵12がレスト位置Zrに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も近接する。また、鍵12がエンド位置Zeに位置する場合に、検出回路21と被検出回路22とが最も離間する。支持部材14は、例えば、打弦機構2Bを支持する構造体である。ハンマ240は、演奏動作に応じて可動範囲内で変位する可動部材の一例である。支持部材14は、演奏動作に応じて変位しない。支持部材14は、固定部材の一例である。また、打弦機構2Bは、鍵12ごとに設けられている。このため、鍵盤楽器100は、K個の鍵12に1対1に対応するK個のハンマ240を備える。従って、本検出システム20(ハンマセンサ)の校正を行う際には、第1実施形態と同様の校正をするのであれば、鍵12がエンド位置Zeにある第1状態で、ハンマ240ごとに検出システム20の出力電圧Eを計測し、計測結果の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。
【0104】
[態様E]
図28は、鍵盤楽器100のペダル機構3Bに検出システム20を適用した構成の模式図である。ペダル機構3Bは、検出回路21及び被検出回路22の配置を除き、図22に示されるペダル機構3Aと同様に構成される。
ペダル機構3Bにおいて、被検出回路22がペダル921の上面に配置される。他方、検出回路21は、被検出回路22に対向するようにペダル921の上方に設けられたフレーム920に設置される。ペダル機構3Bは、ペダル921に利用者が力を作用させない第1状態において、検出回路21と被検出回路22とが最も近接する。また、利用者がペダル921を最大限踏み込んだ状態において、検出回路21と被検出回路22とが最も離間する。
【0105】
また、この態様における校正においては、第1実施形態と同様の校正を実行する場合には、ペダル921に利用者が力を作用させない第1状態において電圧Eを計測し、計測結果に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。また、ペダル921が複数ある場合には、ペダル921ごとの出力値の平均値に基づいて、電圧値E0を推定すればよい。
【0106】
また、前述の各形態においては鍵盤楽器100の各鍵12を検出する構成を例示したが、検出システム20による検出の対象は以上の例示に限定されない。例えば木管楽器(例えばクラリネット又はサクソフォン)や金管楽器(例えばトランペット又はトロンボーン)等の管楽器の演奏時に利用者が操作する操作子を、検出システム20により検出してもよい。
【0107】
以上の例示から理解される通り、検出システム20による検出の対象は、演奏動作に応じて変位する可動部材として包括的に表現される。可動部材は、利用者が直接的に操作する鍵12又はペダル921等の演奏操作子のほか、演奏操作子に対する操作に連動して変位するハンマ240等の構造体を含む。ただし、本開示における可動部材は、演奏動作に応じて変位する部材に限定されない。すなわち、可動部材は、変位を発生させる契機に関わらず、変位可能な部材として包括的に表現される。
【0108】
(4)前述の実施形態においては、検出回路21から出力される検出信号sのばらつきを校正する例として例示したが、変換部312bにより出力される信号を検出信号sから得るまでの他の特性を校正するために用いてもよい。例えば、距離Dから位置データを生成する生成特性を校正するために用いてもよい。
【0109】
(5)前述の各形態においては、鍵盤楽器100が音源回路34を具備する構成を例示したが、例えば鍵盤楽器100が打弦機構2A又は2B等の発音機構を具備する構成においては、音源回路34を省略してもよい。検出システム20は、鍵盤楽器100の演奏内容を記録するために利用される。
【0110】
以上の説明から理解される通り、本開示は、音源回路34又は発音機構に対して演奏動作に応じた操作信号を出力することで楽音を制御する装置(操作装置)としても特定される。前述の各形態の例示のように音源回路34又は発音機構を具備する楽器(鍵盤楽器100)のほか、音源回路34又は発音機構を具備しない機器(例えばMIDIコントローラ又は前述のペダル機構3A)が、操作装置の概念には包含される。すなわち、本開示における演奏操作装置は、演奏者(操作者)が演奏のために操作する装置として包括的に表現される。
【0111】
D:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0112】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る楽器は、固定部材と、演奏動作に応じて可動範囲内で前記固定部材に対して変位する可動部材と、前記可動部材に設置され、磁性体又は導体を有する被検出回路と、前記固定部材に配置されたコイルを有し、前記被検出回路と前記コイルとの距離に応じた電圧となる検出信号を出力する検出回路と、検出信号の電圧と可動部材の位置との対応関係に基づいて、前記検出回路から出力された前記検出信号の電圧に応じた前記可動部材の位置を示す位置データを生成する生成部と、前記可動部材の位置が前記可動範囲内の所定位置である場合の前記電圧の値に基づいて、前記対応関係を校正する校正部と、を備える。この態様によれば、可動部材を楽器に組み込んだ後に、校正を実行できるといった効果がある。
【0113】
本開示のひとつの態様(態様2)に係る楽器において、前記所定位置は、前記可動範囲内において前記被検出回路と前記コイルとの距離が最小となる位置であることが好ましい。可動範囲内において距離が最小となる可動部材の位置、及び可動範囲内において距離が最大となる可動部材の位置は、可動部材の位置決めが容易である。さらに、可動範囲内において距離が最小となる可動部材の位置は、検出回路と非検出回路との相対的な位置のズレに対して、検出信号の振幅の感度が高い。従って、距離が最小となるように可動部材が位置する場合の検出信号の振幅に応じた電圧に基づいて、対応関係を校正することによって、校正の精度が向上する。
【0114】
本開示のひとつの態様(態様3)に係る楽器において、前記所定位置は、前記可動範囲内において前記被検出回路と前記コイルとの距離に対する前記電圧の傾きが最大値から-20%までの数値となる範囲に含まれる。電圧の傾きが大きいほど、距離に対する電圧の感度が大きい。従って、所定位置は、可動範囲のうち距離に対する電圧Eの傾き(変化率)が最大値から-20%までの数値となる範囲に含まれる場合、所定位置が当該範囲に含まれない場合と比較して、校正の精度が向上する。
【0115】
本開示のひとつの態様(態様4)に係る楽器において、前記校正部は、前記可動部材が前記所定位置に位置する場合の前記電圧の値に基づいて、前記可動部材が基準位置にある場合における前記電圧の値を推定し、推定された電圧に基づいて前記対応関係を校正し、前記基準位置は、前記可動範囲内において前記被検出回路と前記コイルとの距離が最小となる前記可動部材の位置よりも前記コイルに近い、ことが好ましい。距離が最小となる可動部材の位置よりもコイルに近い方が、検出回路と非検出回路との相対的な位置のズレに対して、検出信号の振幅の感度が高い。従って、推定された電圧に基づいて対応関係を校正することによって、校正の精度が向上する。
【0116】
本開示のひとつの態様(態様5)に係る楽器において、前記可動部材は、前記演奏動作に応じて可動範囲内で変位するK(Kは2以上の整数)個の可動部材のうちの一つであり、前記被検出回路は、前記K個の可動部材と1対1に対応するK個の被検出回路のうち一つであり、前記K個の被検出回路は1対1に対応する前記K個の可動部材に設置され、前記検出回路は、前記K個の被検出回路と1対1に対応する前記K個の検出回路のうちの一つであり、前記校正部は、前記K個の可動部材の各々の位置が前記可動範囲内の前記所定位置である状態において前記K個の検出回路から出力されるK個の検出信号の電圧に基づいて、前記K個の可動部材の各々について前記対応関係を校正することが好ましい。この態様によれば、可動部材ごとに対応関係を校正するので、楽器全体として、校正の精度が向上する。
【0117】
本開示のひとつの態様(態様6)に係る楽器において、前記可動部材は、演奏動作に応じて可動範囲内で変位するK(Kは2以上の整数)個の可動部材のうちの一つであり、前記被検出回路は、前記K個の可動部材と1対1に対応するK個の被検出回路のうち一つであり、前記K個の被検出回路は1対1に対応する前記K個の可動部材に設置され、前記検出回路は、前記K個の被検出回路と1対1に対応する前記K個の検出回路のうちの一つであり、前記校正部は、前記K個の可動部材の各々の位置が前記可動範囲内の前記所定位置である状態において前記K個の検出回路から出力されるK個の検出信号について、前記電圧の平均値を算出し、算出された平均値に基づいて対応関係を校正する。この態様によれば、個別に対応関係を校正する必要がないので、処理負荷が軽減される。
【0118】
本開示のひとつの態様(態様7)に係る楽器において、前記校正部は、前記平均値に基づいて、前記可動部材が基準位置にある場合における前記検出信号の電圧を推定し、推定された前記検出信号の電圧に基づいて前記対応関係を校正し、前記基準位置は、前記可動範囲内において前記被検出回路と前記コイルとの距離が最小となる位置よりも前記コイルに近い前記可動部材の位置であることが好ましい。
【0119】
本開示のひとつの態様(態様8)に係る楽器において、前記K個の可動部材は、K個の鍵であることが好ましい。この態様によれば、K個の鍵の取付位置に関するばらつきを校正できる。
【0120】
本開示のひとつの態様(態様8)に係る楽器において、K個の鍵と、前記K個の鍵に1対1に対応するK個のハンマとを備え、前記K個の可動部材は、前記K個のハンマであることが好ましい。この態様によれば、K個のハンマの取付位置に関するばらつきを校正できる。
【符号の説明】
【0121】
100…鍵盤楽器、10…鍵盤、12…鍵、121…端部、122…設置面、14…支持部材、20…検出システム、21…検出回路、211…共振回路、22…被検出回路、221…共振回路、23…駆動回路、30…情報処理装置、31…制御装置、32…記憶装置、34…音源回路、40…放音装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28