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特許7586310鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
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  • 特許-鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/18 20060101AFI20241112BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20241112BHJP
   C25D 21/14 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C25D21/18 F
C23C28/02
C25D21/14 F
C25D21/18 E
C25D21/18 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023522758
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2022048363
(87)【国際公開番号】W WO2023176096
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2022043996
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】武田 玄太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】牧水 洋一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-038830(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0034979(KR,A)
【文献】特開昭51-109228(JP,A)
【文献】特開昭55-065399(JP,A)
【文献】特開平04-056796(JP,A)
【文献】特開昭63-125700(JP,A)
【文献】特表2015-504976(JP,A)
【文献】特開平8-253899(JP,A)
【文献】特開平6-41796(JP,A)
【文献】特開昭58-110691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 21/18
C25D 21/14
C23C 2/02
C23C 28/02
C02F 1/00-1/78
C02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系電気めっき用の電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を循環調整する鉄系電気めっき液の循環方法であって、
前記電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を、少なくとも還元槽、縦型遠心分離型の固液分離装置の順に通過処理させた後、前記電気めっきセルに投入するものであり 、
前記還元槽では、前記還元槽に移送される鉄系電気めっき液中のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じた還元用の鉄源を投入し、
鉄系電気めっき液を前記縦型遠心分離型の固液分離装置にて処理した後に最終調整槽を通過させ、該最終調整槽では、鉄系電気めっき液中のFe 3+ (Fe3価イオン)濃度を 4.0g/L以下に調整することを特徴とする特徴とする鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項2】
前記還元槽では、該還元槽内の鉄系電気めっき液のPHが2.3以下を維持するように硫酸を投入することを特徴とする請求項1に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項3】
前記還元槽内は窒素ガスが封入されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項4】
前記縦型遠心分離型の固液分離装置は、原液の固体と液体とを比重差によって遠心分離するよう互いに差動回転するスクリュー外筒と、該スクリュー外筒内に配されたスクリューとを備え、前記原液を前記スクリューから前記スクリュー外筒内に導出するように当該スクリューの回転軸を筒状に形成するとともに、前記回転軸の側面に拡散開口部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項5】
前記最終調整槽では、鉄系電気めっき液のPHを2.0~2.3に調整することを特徴 とする請求項に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項6】
前記最終調整槽では、鉄系電気めっき液の液温を40~55℃に調整することを特徴とする請求項に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項7】
前記最終調整槽では、鉄系電気めっき液の液温を40~55℃に調整することを特徴とする請求項5に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項8】
鉄系電気めっき用の電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を循環調整する鉄系電気めっき液の循環方法であって、
前記電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を、少なくとも還元槽、縦型遠心分離型の固液分離装置の順に通過処理させた後、前記電気めっきセルに投入するものであり 、
前記還元槽では、前記還元槽に移送される鉄系電気めっき液中のFe 3+ (Fe3価イオン)濃度に応じた還元用の鉄源を投入し、
鉄系電気めっき液を前記縦型遠心分離型の固液分離装置にて処理した後に最終調整槽を通過させ、該最終調整槽では、鉄系電気めっき液中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が 2.0g/L以下、鉄系電気めっき液のPHが2.0~2.3、鉄系電気めっき液の液温が40~55℃となるように、硫酸および純水で調整することを特徴とする鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項9】
前記還元槽では、該還元槽内の鉄系電気めっき液のPHが2.3以下を維持するように硫酸を投入することを特徴とする請求項8に記載の鉄系電気めっき液の循環方法
【請求項10】
前記還元槽内は窒素ガスが封入されていることを特徴とする請求項8に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項11】
前記縦型遠心分離型の固液分離装置は、原液の固体と液体とを比重差によって遠心分離するよう互いに差動回転するスクリュー外筒と、該スクリュー外筒内に配されたスクリューとを備え、前記原液を前記スクリューから前記スクリュー外筒内に導出するように当該スクリューの回転軸を筒状に形成するとともに、前記回転軸の側面に拡散開口部を形成したことを特徴とする請求項8に記載の鉄系電気めっき液の循環方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のうちいずれか一項に記載の鉄系電気めっき液の循環方法によって循環調整することにより鉄系電気めっき液を製造することを特徴とする鉄系電気めっき液の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の鉄系電気めっき液の製造方法によって製造された鉄系電気めっき液を用いて鋼板に鉄系電気めっき処理を行う工程を含むことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を循環調整する鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び鉄系電気めっき処理を行う工程を含む合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において、構造物の軽量化等に利用可能な高張力鋼板(ハイテン鋼材)の需要が高まっている。ハイテン鋼材としては、例えば、鋼中にSiを含有することにより穴広げ性の良好な鋼板や、また、SiやAl、Mnを含有することにより残留γが形成しやすく延性の良好な鋼板を得られることがわかっている。
【0003】
しかし、SiやMnを多量に(特に0.2質量%以上)含有する高張力鋼板を母材として合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、以下の問題がある。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中で600~900℃程度の温度で母材の鋼板を加熱焼鈍した後に、該鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行い、さらに亜鉛めっきを加熱合金化することによって、製造される。ここで、鋼中のSi、Mnは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気又は非酸化性雰囲気中でも選択酸化されて、鋼板の表面に濃化し、酸化物を形成する。この酸化物は、めっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて、不めっきを生じさせる。そのため、鋼中Si、Mn濃度の増加と共に、濡れ性が急激に低下して不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性に劣るという問題がある。さらに、鋼中のSi、Mnが選択酸化されて鋼板の表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延が生じ、生産性を著しく阻害するという問題もある。
【0004】
このような問題に対して、例えば、特許文献1には、素地鋼板上に0.2~2g/mのFeめっきを施し、その後直火型加熱炉(DFF)および輻射加熱炉(RTF)を所定の条件に調整することで、鋼中に含まれている難メッキ性元素であるSi、Mn又はAlが表面拡散されて酸化物を形成することを抑制する高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。Si、Mn又はAlが表面拡散されて酸化物を形成することを抑制することにより、不めっき現象を防止し、優れためっき表面品質及びめっき密着性を確保し、高い強度を確保することができ、さらに製造コストも安価にできる。しかし、鉄系めっき液では、めっき皮膜電析に消費されるFe2+と電析反応はしないFe3+が存在し、Fe3+が多いめっき液ではめっき電解効率の低下、スラッジ(微細な固形物)発生による配管詰まりトラブルや鋼板へのスラッジ付着、スラッジ除去メンテに起因する連続運転制約発生の問題があることが分かっている。
【0005】
この問題に対しては、特許文献2には、Fe3+還元、めっき液へのイオン補給および溶解のため鉄粉を供給するにあたり、槽内攪拌機構によって効率よくFe3+を還元する方法が開示されている。
特許文献3には、鉄チップ溶解槽内の円筒状鉄チップ充填層の径と高さとの関係を規定したり、鉄チップ溶解槽入側のめっき液中のFe3+濃度を5g/L以上、鉄チップ溶解中の鉄チップと圧入するめっき液との相対流速を3m/min以上とすることで効率よくFe3+を還元する鉄系合金電気めっきにおける鉄イオン供給方法が開示されている。
特許文献4には、攪拌槽に充填されている鉄粉の表面積Smと攪拌槽へのめっき液循環量Qm/hrの比H(=S/Q)を1≦H≦5とすることでFe3+還元を高効率で実行する鉄系電気めっき液中の3価Feイオンの高効率還元方法が開示されている。
【0006】
特許文献5には、電気めっき液中に発生するスラッジを効率よく除去するため、スラッジ沈殿槽において、めっき液循環槽から一部抜き出されて液送されたスラッジを含むめっき液に凝集沈殿剤を添加し、攪拌混合することでスラッジを沈降させ、スラッジを分離回収する連続電気めっき装置のスラッジ分離処理装置が開示されている。
特許文献6には、電気めっき用とは明示されていないものの、汎用的な遠心分離装置として、気密性を増し、コンパクトで連続運転に対応した横型遠心分離装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/100615号
【文献】特開平3-2399号公報
【文献】特開平3-243798号公報
【文献】特開平6-306697号公報
【文献】特開2012-188715号公報
【文献】国際公開第2009/072209号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来の特許文献2、特許文献3に示す鉄系合金電気めっきにおける鉄イオン供給方法、特許文献4に示す鉄系電気めっき液中の3価Feイオンの高効率還元方法、特許文献5に示す連続電気めっき装置のスラッジ分離処理装置、及び特許文献6に示す横型遠心分離装置にあっては、以下の問題点があった。
【0009】
即ち、特許文献2、特許文献3に示す鉄系合金電気めっきにおける鉄イオン供給方法、及び特許文献4に示す鉄系電気めっき液中の3価Feイオンの高効率還元方法では、高効率なFe3+の還元方法が開示されているが、これらの方法では、投入すべき鉄粉もしくは鉄チップの量が不明である。このため、めっき液中に存在するFe3+に対して鉄源が少なければたとえFe3+の還元効率がよくてもFe3+が残存するため、めっき電解効率が低下したり、Fe3+がスラッジに変化することで操業に悪影響を及ぼす。一方、めっき液中に存在するFe3+に対して鉄源が多すぎると、余剰な鉄源によって配管の損傷増加が発生したり、還元反応に伴うめっき液のPH上昇によるスラッジ増加が促進され、やはり操業に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0010】
また、特許文献5に示す連続電気めっき装置のスラッジ分離処理装置は、スラッジ沈殿槽において、スラッジを含むめっき液に凝集沈殿剤を添加し、攪拌混合することでスラッジを沈降させ、スラッジを分離回収する、いわゆる沈殿法である。しかし、特許文献5に示す連続電気めっき装置のスラッジ分離処理装置では、処理流量が少ないために鉄系電気めっき液の連続生産に対応する巨大な設備が必要になることから、コストや設置スペースに問題があった。
更に、特許文献6に示す横型遠心分離装置の場合、連続運転は可能であるものの、鉄系電気めっき液に含まれる微細なスラッジは除去しきれず、スラッジの分離率は70%程度までしか実現できない問題があった。
【0011】
従って、本発明はこの従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、巨大な設備を要することなく、高電解効率でかつスラッジ混入のない、安定して省電力可能な鉄系電気めっき液とすることができる、鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄系電気めっき液の循環方法は、鉄系電気めっき用の電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を循環調整する鉄系電気めっき液の循環方法であって、前記電気めっきセルで使用された鉄系電気めっき液を、少なくとも還元槽、縦型遠心分離型の固液分離装置の順に通過処理させた後、前記電気めっきセルに投入するものであり、前記還元槽では、前記還元槽に移送される鉄系電気めっき液中のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じた還元用の鉄源を投入することを要旨とする。
【0013】
また、本発明の別の態様に係る鉄系電気めっき液の製造方法は、前述の鉄系電気めっき液の循環方法によって循環調整することにより鉄系電気めっき液を製造することを要旨とする。
更に、本発明の別の態様に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、前述の鉄系電気めっき液の製造方法によって製造された鉄系電気めっき液を用いて鋼板に鉄系電気めっき処理を行う工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、巨大な設備を要することなく、高電解効率でかつスラッジ混入のない、安定して省電力可能な鉄系電気めっき液とすることができる、鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び鋼板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法が適用される電気めっき設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法が適用される電気めっき設備の概略構成が示されている。
図1に示す電気めっき設備1は、被めっき材となる鋼板Sに鉄系電気めっき処理をする鉄系電気めっき用の電気めっきセル10を備えている。電気めっきセル10は、水平型めっきセルであり、鋼板Sを通電ロール14によって水平方向に走行させ、鋼板Sと一対のアノード電極12との間のギャップに処理槽11内の鉄系電気めっき液Pを供給し、カソードである鋼板Sのめっき面と一対のアノード電極12との間で通電して鋼板Sの両面に対して鉄系電気めっき処理を行う。図1において、符号13は、めっき液ノズルヘッダーである。本実施形態では、電気めっきセル10は、水平型めっきセルであるが、縦型めっきセルやラジアルセル等いずれの形式でも構わない。また、電気めっきセル10は、それらの処理設備を複数個接続してもよいし、処理設備間に中間的な槽があってもよい。
ここで、「鉄系電気めっき液」とは、めっき液含有金属イオン中のFeイオン濃度が60%以上である電気めっき液で定義される。
【0018】
また、電気めっき設備1は、鉄系電気めっき液Pを電気めっきセル10に供給するめっき液循環槽20を備えている。電気めっきセル10の処理槽11とめっき液循環槽20は、鉄系電気めっき液Pを循環させるため、処理槽11から鉄系電気めっき液Pをめっき液循環槽20へ移送する配管15で接続されている。また、電気めっきセル10の一方のめっき液ノズルヘッダー13とめっき液循環槽20とは、めっき液循環槽20から鉄系電気めっき液Pを一方のめっき液ノズルヘッダー13へポンプ25で供給する配管24及び配管24から分岐した配管26で接続されている。また、電気めっきセル10の他方のめっき液ノズルヘッダー13とめっき液循環槽20とは、めっき液循環槽20から鉄系電気めっき液Pを他方のめっき液ノズルヘッダー13へポンプ25で供給する配管24及び配管24から分岐した配管27で接続されている。めっき液循環槽20内には、鉄系電気めっき液Pが空気に触れず無酸化状態とするために窒素ガス(Nガス)を封入することが望ましい。
【0019】
また、電気めっき設備1は、めっき液循環槽20からの鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)を還元する還元槽30を備えている。めっき液循環槽20と還元槽30は、処理槽11からめっき液循環槽20に移送された鉄系電気めっき液Pを還元槽30へポンプ22で供給する配管21で接続されている。この配管21には、鉄系電気めっき液Pを還元槽30へ供給する前に鉄系電気めっき液P中に含有されるFe3+(Fe3価イオン)濃度を測定するFe3+計23が設置されている。Fe3+計は、Fe3+(Fe3価イオン)濃度が測定できるいずれも方式でも構わないが、例えば吸光光度計を用いればよい。
【0020】
そして、還元槽30では、Fe3+計で測定された鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じた還元用の鉄源(鉄粉もしくは鉄チップ)が投入される。投入する鉄源は還元効率によって適宜調整すればよいが、概ねFe3+(Fe3価イオン)濃度の1.1~1.3倍とするのが望ましい。また、還元槽30には、還元槽30内の鉄系電気めっき液Pを攪拌する攪拌機31が設置されている。また、還元槽30には、還元槽30内の鉄系電気めっき液PのPHを測定するPH計32が設置されている。還元中の鉄系電気めっき液PのPHは、鉄源投入によって上昇しスラッジ増加の可能性があるので、常に2.3以下を維持するように硫酸を投入する。還元中の鉄系電気めっき液PのPHの下限は限定されないが、後述する最終調整槽50でのPHの再調整工程の削減や薬液調整量の低減の観点からは、PH1.0以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがさらに好ましい。また、還元槽30内には、鉄系電気めっき液Pが空気に触れず無酸化状態とするために窒素ガス(Nガス)を封入する。
【0021】
また、電気めっき設備1は、鉄系電気めっき液P中のスラッジを鉄系電気めっき液Pから分離する縦型遠心分離型の固液分離装置40を備えている。還元槽30と固液分離装置40は、還元槽30で還元された鉄系電気めっき液Pを固液分離装置40へポンプ34で供給する配管33で接続されている。固液分離装置40は、スクリュー43を縦方向(図1における上下方向)に延びるように配置した縦型遠心分離型であり、原液として鉄系電気めっき液P中の固体(スラッジ)と液体とを比重差によって遠心分離するよう互いに差動回転するスクリュー外筒42と、スクリュー外筒42内に配されたスクリュー43とを、遠心分離筒41内に備えている。そして、原液としての鉄系電気めっき液Pをスクリュー43からスクリュー外筒42内に導出するように当該スクリュー43の回転軸44を筒状に形成するとともに、その回転軸44の側面に拡散開口部48を形成している。スクリュー外筒42及びスクリュー43は、遠心分離筒41内に装備されている。そして、遠心分離筒41内のスクリュー43の回転軸44には、配管33からの原液としての鉄系電気めっき液Pを拡散開口部48に供給する原液供給口45が形成されている。また、遠心分離筒41の側面には、分離水排出口46が設けられるとともに、遠心分離筒41の底面には、固体(スラッジ)を排出するための固体排出口47が設けられている。この縦型遠心分離型の固液分離装置40として、例えば、特開2007-38068号公報に記載された固液分離装置を用いることができる。
【0022】
このような縦型遠心分離型の固液分離装置40を用いると、鉄系電気めっき液Pに含まれる0.5~100μmの広範な粒子径を含むスラッジであっても回収率90%以上でスラッジを分離回収可能となる。ただし、この固液分離装置40であっても、遠心力を高くすると5μm以下の微細なスラッジは分離されずに清浄液側に随伴して分離効率が低下するので、遠心力は1000~1800Gとし、スクリュー43とスクリュー外筒42の差速は1.0~2.0rpmとすることが望ましい。遠心力1000G以下では遠心力不足で分離効果が小さく分離性能が低下する。スクリュー43とスクリュー外筒42の差速が1.0rpm以下ではスクリュー43による掻き落とし時間が少なく、分離効率が低下する。差速が2.0rpm超では、スクリュー43による掻き落とし時間は長くなるものの、清浄液への微粒子混合が増加するので結果として分離効率が低下するので望ましくない。
そして、固液分離装置40の下方には、固体排出口47から排出される固体(スラッジ)を受容する固体受容槽49が備えられている。
【0023】
また、電気めっき設備1は、固液分離装置40で固体(スラッジ)が分離された鉄系電気めっき液Pを効率的な鉄系電気めっきに適しためっき液状態に調整する最終調整槽50を備えていることが好ましい。固液分離装置40の分離水排出口46と最終調整槽50は、固液分離装置40で固体(スラッジ)が分離された鉄系電気めっき液Pを最終調整槽50へ供給する配管55で接続されていることが好ましい。最終調整槽50には、鉄系電気めっき液P中に含有されるFe3+(Fe3価イオン)濃度を測定するFe3+計52が設置されている。また、最終調整槽50には、最終調整槽50内の鉄系電気めっき液PのPHを測定するPH計51が設置されている。
【0024】
最終調整槽50では、固液分離装置40で固体(スラッジ)が分離された鉄系電気めっき液Pを効率的な鉄系電気めっきに適しためっき液状態に調整する。具体的には、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が4.0g/L以下、最終調整槽50内の鉄系電気めっき液PのPHが2.0~2.3、鉄系電気めっき液Pの液温が40~55℃となるように、純水、希硫酸、ヒーターで調整する。鉄系電気めっき液Pをこの液状態にすることで、電気めっき効率70%以上が達成され、省電力生産を達成できる。さらに望ましくは、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が2.0g/L以下、最終調整槽50内の鉄系電気めっき液PのPHが2.2~2.3、鉄系電気めっき液Pの液温が40~45℃となるように調整すると、電気めっき効率80%以上の達成が可能となる。
そして、最終調整槽50とめっき液循環槽20は、最終調整槽50で最終調整された鉄系電気めっき液Pをめっき液循環槽20へポンプ54で供給する配管53で接続されていることが好ましい。
【0025】
次に、電気めっき設備1における鉄系電気めっき液の液循環方法について説明する。
鉄系電気めっき液Pとしては、主に硫酸鉄と硫酸ナトリウムの混合溶液が用いられる。初期はほぼFe2+(Fe2価イオン)が存在するが、電気めっきセル10内の不溶性アノード面ではアノード酸化現象:
Fe2+→Fe3++e
が不可避的に発生する。また、鉄系電気めっき液Pが空気と攪拌されることで空気酸化現象:
2Fe2++1/2O+HO→2Fe3++2OH-
も発生し、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が増加する。この鉄系電気めっき液Pを改質せずに使用すると、Fe3+(Fe3価イオン)過多となってめっき電解効率が低下する。また、Fe3+(Fe3価イオン)が増大しかつ鉄系電気めっき液PのPHが2.4以上になると、
3Fe3++7/2SO 2-+2OH+1/2NaSO+4H
→ NaFe(SO(OH)(ナトロジャロサイト)+2HSO
という反応が促進され、ナトロジャロサイトと呼ばれる微細なスラッジが生成する。このスラッジは放置すると粗大化して配管の閉塞や鋼板への付着による外観不良の原因となるため、微細なうちに除去することが求められる。したがって、このような反応が進展する前に鉄系電気めっき液Pを還元しなければならないのは、背景技術で説明した通りである。
【0026】
そこで、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法では、先ず、電気めっきセル10で使用され、電気めっきセル10から排出された鉄系電気めっき液Pをめっき液循環槽20に配管15を介して移送する。
次いで、めっき液循環槽20内の、電気めっきセル10から排出された鉄系電気めっき液Pに近い位置に設置された配管21からポンプ22によって鉄系電気めっき液Pを吸いだし、還元槽30に移送する。
ここで、鉄系電気めっき液Pを還元槽30へ供給する前に、配管21に設置されたFe3+計23により、鉄系電気めっき液P中に含有されるFe3+(Fe3価イオン)濃度を測定しておく。
【0027】
次いで、還元槽30内に鉄系電気めっき液Pが投入された後、事前に測定されたFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じて、還元用の鉄源(鉄粉もしくは鉄チップ)を投入する。投入する鉄源は還元効率によって適宜調整すればよいが、前述したように、概ねFe3+(Fe3価イオン)濃度の1.1~1.3倍とするのが望ましい。例えば、Fe3+(Fe3価イオン)濃度が4.0g/Lであった場合、鉄源は4.4~5.2g/L投入することが望ましい。還元槽30内の鉄系電気めっき液Pは常に攪拌機31で攪拌され、同時に鉄系電気めっき液PのPHがPH計32で常時測定され、モニタリングされる。還元中の鉄系電気めっき液PのPHは、前述したように、鉄源投入によって上昇しスラッジ増加の可能性があるので、常に2.3以下を維持するように硫酸を還元槽30内に投入する。ここで、還元中の鉄系電気めっき液PのPHの下限については限定されないが、前述したように、後述する最終調整槽50でのPHの再調整工程の削減や薬液調整量の低減の観点からは、PH1.0以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがさらに好ましい。また、還元槽30内には、鉄系電気めっき液Pが空気に触れず無酸化状態とするために窒素ガス(Nガス)を封入する。
【0028】
次いで、還元槽30で還元された鉄系電気めっき液Pを配管33を介してポンプ34で固液分離装置40へ移送する。本実施形態で用いられる固液分離装置40は、前述した構成を有する縦型遠心分離型の固液分離装置である。鉄系電気めっき液Pは、配管33からスクリュー43の回転軸44に形成された原液供給口45に投入され、拡散開口部48に供給される。そして、鉄系電気めっき液Pは、拡散開口部48からスクリュー外筒42内に導入され、そこで比重の差により固体(スラッジ)と液体とに遠心分離される。その後、液体は分離水排出口46から配管55を介して最終調整槽50に移送される。一方、固体(スラッジ)は、固体排出口47から固体受容槽49に排出される。
【0029】
ここで、固液分離装置40は縦型遠心分離型の固液分離装置であるから、前述したように、鉄系電気めっき液Pに含まれる0.5~100μmの広範な粒子径を含むスラッジであっても回収率90%以上でスラッジを分離回収可能となる。ただし、この固液分離装置40であっても、遠心力を高くすると5μm以下の微細なスラッジは分離されずに清浄液側に随伴して分離効率が低下するので、前述したように、遠心力は1000~1800Gとし、スクリュー43とスクリュー外筒42の差速は1.0~2.0rpmとすることが望ましい。遠心力1000G以下では遠心力不足で分離効果が小さく分離性能が低下する。スクリュー43とスクリュー外筒42の差速が1.0rpm以下ではスクリュー43による掻き落とし時間が少なく、分離効率が低下する。差速が2.0rpm超では、スクリュー43による掻き落とし時間は長くなるものの、清浄液への微粒子混合が増加するので結果として分離効率が低下するので望ましくない。なお、固液分離装置40は、定期的な装置内洗浄を必要としないため24時間連続運転にも対応可能であり、スラッジ起因の生産調整や中断が不要である。
【0030】
次いで、鉄系電気めっき液Pが移送された最終調整槽50では、固液分離装置40で固体(スラッジ)が分離された鉄系電気めっき液Pを効率的な鉄系電気めっきに適しためっき液状態に調整する。具体的には、前述したように、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が4.0g/L以下、最終調整槽50内の鉄系電気めっき液PのPHが2.0~2.3、鉄系電気めっき液Pの液温が40~55℃となるように、純水、希硫酸、ヒーターで調整することが好ましい。鉄系電気めっき液Pをこの液状態にすることで、電気めっき効率70%以上が達成され、省電力生産を達成できる。さらに望ましくは、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が2.0g/L以下、最終調整槽50内の鉄系電気めっき液PのPHが2.2~2.3、鉄系電気めっき液Pの液温が40~45℃となるように調整すると、電気めっき効率80%以上が達成が可能となる。
【0031】
そして、最終調整槽50で最終調整された鉄系電気めっき液Pを、配管53を介してポンプ54でめっき液循環槽20に移送する。
最後に、めっき液循環槽20に移送された鉄系電気めっき液Pを、配管24及び配管26を介してポンプ25で電気めっきセル10の一方のめっき液ノズルヘッダー13に供給し、配管24及び配管27を介してポンプ25で電気めっきセル10の他方のめっき液ノズルヘッダー13に供給して鉄系電気めっき液Pの循環は終了する。
そして、鉄系電気めっき液の製造方法では、この鉄系電気めっき液の循環方法によって循環調整することにより鉄系電気めっき液Pが製造される。
【0032】
なお、電気めっきセル10では、鋼板Sに対してこのように循環調整された鉄系電気めっき液Pを用いて鉄系電気めっき処理を行う。その後、後工程において鉄系電気めっき処理が施された鋼板Sを加熱焼鈍し、加熱焼鈍された鋼板Sに溶融亜鉛めっき処理を行い、更に亜鉛めっきを加熱合金化することによって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
つまり、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、前述の鉄系電気めっき液の製造方法によって製造された鉄系電気めっき液を用いて鋼板Sに対して電気めっき処理を行う工程を含む。その後、後工程において鉄系電気めっき処理が施された鋼板Sを加熱焼鈍し、加熱焼鈍された鋼板Sに溶融亜鉛めっき処理を行い、更に亜鉛めっきを加熱合金化することによって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0033】
このように、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、電気めっきセル10で使用された鉄系電気めっき液Pを、少なくとも還元槽30、縦型遠心分離型の固液分離装置40、及び最終調整槽50の順に通過処理させた後、電気めっき液に投入する。そして、還元槽30では、還元槽30に移送される鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じた還元用の鉄源を投入する。
これにより、巨大な設備を要することなく、高電解効率でかつスラッジ混入のない、安定して省電力可能な鉄系電気めっき液とすることができる。
【0034】
また、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、還元槽30では、還元槽30内の鉄系電気めっき液PのPHが2.3以下を維持するように硫酸を投入する。これにより、鉄源投入によって鉄系電気めっき液PのPHが上昇してスラッジが増加する可能性を回避することができる。
また、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、還元槽30内は窒素ガスが封入されている。これにより、還元槽30内の鉄系電気めっき液Pが空気に触れず無酸化状態とすることができる。
【0035】
また、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、縦型遠心分離型の固液分離装置40は、原液の固体と液体とを比重差によって遠心分離するよう互いに差動回転するスクリュー外筒42と、スクリュー外筒42内に配されたスクリュー43とを備えている。そして、原液をスクリュー43からスクリュー外筒42内に導出するように当該スクリュー43の回転軸44を筒状に形成するとともに、回転軸44の側面に拡散開口部48を形成してある。これにより、固液分離装置40に移送された鉄系電気めっき液Pは、スクリュー43の回転軸44から拡散開口部48に供給され、拡散開口部48からスクリュー外筒42内に導入される。そして、スクリュー外筒42内において、比重の差により固体(スラッジ)と液体とに遠心分離される。このため、鉄系電気めっき液Pに含まれる0.5~100μmの広範な粒子径を含むスラッジであっても回収率90%以上でスラッジを分離回収することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法、鉄系電気めっき液の製造方法、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によれば、最終調整槽50では、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度が2.0g/L以下、鉄系電気めっき液PのPHが2.0~2.3、鉄系電気めっき液Pの液温が40~55℃となるように、硫酸および純水で調整する。これにより、鉄系電気めっき液Pをこの液状態にすることで、電気めっき効率70%以上が達成され、省電力生産を達成できる。
また、本実施形態に係る鉄系電気めっき液の循環方法によって循環調整された鉄系電気めっき液Pを用いて鉄系電気めっき処理を行い、製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき外観は、スラッジ痕がなく、美麗となる、という効果が得られる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、還元槽30において、還元槽30内の鉄系電気めっき液PのPHが2.0~2.3を維持するように硫酸を投入する必要は必ずしもない。
また、還元槽30内は窒素ガスが封入されている必要は必ずしもない。
また、最終調整槽50では、鉄系電気めっき液P中のFe3+(Fe3価イオン)濃度を2.0g/L以下に調整する必要は必ずしもない。
【0038】
また、最終調整槽50では、鉄系電気めっき液PのPHを2.0~2.3に調整する必要は必ずしもない。
さらに、最終調整槽50では、鉄系電気めっき液Pの液温を40~55℃に調整する必要は必ずしもない。
また、電気めっきセル10で使用された鉄系電気めっき液Pを、めっき液循環槽20、還元槽30、縦型遠心分離型の固液分離装置40、及び最終調整槽50の順に通過処理させた後、電気めっきセル10に投入するようにしてあるが、めっき液循環槽20を必ずしも通過させる必要はない。
【実施例
【0039】
本発明の効果を検証すべく、比較例1~3及び実施例1~5について、電力原単位(kWh/T)、電解効率(%)、製品の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観について調査した。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に対して鉄系電気めっき処理を行い、その後、後工程において鉄系電気めっき処理が施された鋼板を加熱焼鈍し、加熱焼鈍された鋼板に溶融亜鉛めっき処理を行い、更に亜鉛めっきを加熱合金化することによって製造される。
【0040】
実施例1~5においては、図1に示す構成を備える電気めっき設備1と同様の電気めっき設備を使用した。
比較例1~3については、電気めっきセル、めっき液循環槽、及び最終調整槽は実施例1~5と同じとし、還元槽は特許文献4で用いたもの(還元槽に充填されている鉄粉の表面積Smと還元槽へのめっき液循環量Qm/hrの比H(=S/Q)を1≦H≦5とするもの)とした。また、比較例1においては、固液分離装置として特許文献5で用いた沈降式のスラッジ沈殿槽と同様のものを使用した。また、比較例2及び3においては、固液分離装置として特許文献6で用いた横型遠心分離装置と同様のものを使用した。
【0041】
実施例1~5及び比較例1~3における電気めっきセルは、1セル内の電極の長手方向長は2m、鋼板と電極との距離は片面30mmで、それを2セル接続させた。鉄系電気めっき液(めっき浴)は硫酸浴とし、その成分は鉄成分が55~65g/L、ナトリウム成分が5~7g/Lとした。
電力原単位(kWh/T)、電解効率(%)、製品の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観についての調査結果を表1に示す。表1における「めっき後外観」は、製品の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
比較例1~3では、還元槽において、還元槽に投入する前のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じて鉄源を投入しなかった。このため、Fe3+(Fe3価イオン)濃度を十分に下げることができず(比較例1~3の最終調整槽では、還元槽においてFe3+(Fe3価イオン)濃度を十分に下げることができなかったため、Fe3+(Fe3価イオン)濃度が5.5g/L以上となった)、電解効率(%)が54%以下で低かった。また、電力原単位(kWh/T)も112kWh/T以上で高かった。また、スラッジも、固液分離装置として沈降式あるいは横型遠心分離装置を用いたため、除去しきれず、製品の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観についてはスラッジ痕が残ってしまった。
【0044】
一方、実施例1~5については、還元槽において、還元槽に投入する前のFe3+(Fe3価イオン)濃度に応じて鉄源を投入した。このため、Fe3+(Fe3価イオン)濃度を十分に下げることができ(実施例1~5の最終調整槽では、還元槽においてFe3+(Fe3価イオン)濃度を十分に下げることができたため、Fe3+(Fe3価イオン)濃度が3.8g/L以下となった)、電解効率(%)が71%以上と高かった。また、電力原単位(kWh/T)も66kWh/T以下で低かった。また、スラッジも、固液分離装置として縦型遠心分離型を用いたため、十分に除去でき、製品の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観については美麗であった。
【0045】
なお、表1における製品のめっき後の外観について、製品表面(表面積10m)を観察し、スラッジ痕が50個以上発見された場合を「スラッジ痕多発」、スラッジ痕が10個以上50個未満発見された場合を「スラッジ痕少」、10個未満発見された場合を「美麗」とした。
【符号の説明】
【0046】
1 電気めっき設備
10 電気めっきセル
11 処理槽
12 アノード電極
13 めっき液ノズルヘッダー
14 通電ロール
15 配管
20 めっき液循環槽
21 配管
22 ポンプ
23 Fe3+
24 配管
25 ポンプ
26 配管
27 配管
30 還元槽
31 攪拌機
32 PH計
33 配管
34 ポンプ
40 固液分離装置
41 遠心分離筒
42 スクリュー外筒
43 スクリュー
44 回転軸
45 原液供給口
46 分離水排出口
47 固体排出口
48 拡散開口部
49 固体受容槽
50 最終調整槽
51 PH計
52 Fe3+
53 配管
54 ポンプ
55 配管
P 鉄系電気めっき液
図1