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7586318光導波路、量子演算装置及び光導波路の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】光導波路、量子演算装置及び光導波路の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
G02B6/12 371
G02B6/12 361
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023526775
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022197
(87)【国際公開番号】W WO2022259484
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石黒 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】宮武 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河口 研一
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】土肥 義康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信太郎
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157740(JP,A)
【文献】特開2009-302576(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0348431(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0107352(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0219311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12- 6/14
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
H01S 5/00- 5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有し、複合欠陥を含むダイヤモンド層と、
前記第1面に接する第1クラッド層と、
前記第2面に接し、半導体からなる第2クラッド層と、
前記第2クラッド層にショットキー接触し、前記第2クラッド層を挟んで前記ダイヤモンド層に対向するよう設けられた金属層と、
を有し、前記第2クラッド層は、前記金属層側から前記ダイヤモンド層側に配向する自発分極を有することを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記第1クラッド層の屈折率及び前記第2クラッド層の屈折率は、前記ダイヤモンド層の屈折率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記第2クラッド層は、前記金属層側から前記ダイヤモンド層側に配向する自発分極を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記金属層は、平面視で少なくとも前記複合欠陥と重なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項5】
前記複合欠陥は、窒素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛又はホウ素と、空孔とから構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項6】
前記半導体は、窒化物半導体であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項7】
前記窒化物半導体のバンドギャップは、室温で3.4eV以上6.4eV以下であることを特徴とする請求項6に記載の光導波路。
【請求項8】
前記ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における短径が150nm以上250nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項9】
前記金属層は、Au、Cu又はAgを含み、
前記金属層の厚さは、10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項10】
前記第1クラッド層は、支持基板を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光導波路。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光導波路を含むことを特徴とする量子演算装置。
【請求項12】
第1面及び第2面を有し、複合欠陥を含むダイヤモンド層を形成する工程と、
前記第1面に接する第1クラッド層と、前記第2面に接し、半導体からなる第2クラッド層と、を形成する工程と、
前記第2クラッド層にショットキー接触し、前記第2クラッド層を挟んで前記ダイヤモンド層に対向するよう設けられる金属層を形成する工程と、
を有し、前記第2クラッド層は、前記金属層側から前記ダイヤモンド層側に配向する自発分極を有することを特徴とする光導波路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光導波路、量子演算装置及び光導波路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド層中の複合欠陥として色中心を用いた量子演算装置用の光導波路について検討が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8837544号明細書
【文献】特表2007-526639号公報
【文献】米国特許出願公開第2007/0277730号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
量子演算装置は数K程度の極低温で使用されるが、従来の光導波路では、極低温において複合欠陥の荷電状態が不安定になりやすい。
【0005】
本開示の目的は、複合欠陥の荷電状態の安定性を向上することができる光導波路、量子演算装置及び光導波路の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態によれば、第1面及び第2面を有し、複合欠陥を含むダイヤモンド層と、前記第1面に接する第1クラッド層と、前記第2面に接し、半導体からなる第2クラッド層と、前記第2クラッド層にショットキー接触し、前記第2クラッド層を挟んで前記ダイヤモンド層に対向するよう設けられた金属層と、を有し、前記第2クラッド層は、前記金属層側から前記ダイヤモンド層側に配向する自発分極を有する光導波路が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複合欠陥の荷電状態の安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る光導波路を示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る光導波路を示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る光導波路においてクラッド層がAlN層である場合のバンド構造を示す図である。
図4図4は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その1)である。
図5図5は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その2)である。
図6図6は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その3)である。
図7図7は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その4)である。
図8図8は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その5)である。
図9図9は、第1実施形態に係る光導波路の製造方法を示す断面図(その6)である。
図10図10は、第1実施形態に係る光導波路においてクラッド層がGaN層である場合のバンド構造を示す図である。
図11図11は、第1実施形態に係る光導波路においてクラッド層がBN層である場合のバンド構造を示す図である。
図12図12は、種々の厚さのAu層における光の波長と透過率との関係を示す図である。
図13図13は、種々の金属層における光の波長と透過率との関係を示す図である。
図14図14は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における0次の横モードでの伝搬光の強度の分布を示す図(その1)である。
図15図15は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における0次の横モードでの伝搬光の強度の分布を示す図(その2)である。
図16図16は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における0次の横モードでの伝搬光の強度の分布を示す図(その3)である。
図17図17は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における1次モードでの伝搬光の強度の分布を示す図である(その1)。
図18図18は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における1次モードでの伝搬光の強度の分布を示す図である(その2)。
図19図19は、ダイヤモンド層の長手方向に垂直な断面における1次モードでの伝搬光の強度の分布を示す図である(その3)。
図20図20は、第2実施形態に係る量子演算装置を示すブロックである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0010】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態は光導波路に関する。第1実施形態に係る光導波路は、例えば量子コンピュータ等の量子演算装置に用いられる。図1は、第1実施形態に係る光導波路を示す斜視図である。図2は、第1実施形態に係る光導波路を示す断面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、第1実施形態に係る光導波路1は、支持基板21と、ダイヤモンド層10と、クラッド層22と、金属層30とを有する。
【0012】
支持基板21は、例えばサファイア基板である。支持基板21の屈折率はダイヤモンド層10の屈折率よりも低い。サファイアの屈折率は1.76であり、ダイヤモンドの屈折率は2.419である。支持基板21が、例えばAlN基板、BN基板又はGaN基板等であってもよい。AlNの屈折率は2.1であり、BNの屈折率は2.17であり、GaNの屈折率は2.38である。支持基板21は第1クラッド層の一例である。
【0013】
ダイヤモンド層10は第1面11及び第2面12を有する。第1面11に支持基板21が接している。第2面12は第1面11とは反対側の面である。ダイヤモンド層10の厚さは、例えば250nm程度である。ダイヤモンド層10は、色中心13を含む。色中心13は、例えば窒素と空孔とから構成された窒素-空孔センター(NVセンター)である。色中心13が、ケイ素と空孔とから構成されたケイ素-空孔センター(SiVセンター)、ゲルマニウムと空孔とから構成されたゲルマニウム-空孔センター(GeVセンター)、スズと空孔とから構成されたスズ-空孔センター(SnVセンター)、鉛と空孔とから構成された鉛-空孔センター(PbVセンター)、又はホウ素と空孔とから構成されたホウ素-空孔センター(BVセンター)であってもよい。色中心13は複合欠陥の一例である。
【0014】
クラッド層22は、ダイヤモンド層10の第2面12に接している。クラッド層22が、ダイヤモンド層10の側面、すなわち第1面11と第2面12とをつなぐ面を覆っていてもよい。クラッド層22の厚さは、例えば100nm程度である。クラッド層22は厚さ方向に極性を有する。すなわち、クラッド層22は、厚さ方向に反転対称中心を有しない。クラッド層22は、例えば金属層30側からダイヤモンド層10側に配向する自発分極を有する。クラッド層22は、例えば窒化物半導体を含む。この窒化物半導体のバンドギャップは、好ましくは室温(300K)で3.4eV以上6.4eV以下である。クラッド層22は、例えばAlN層である。クラッド層22の屈折率はダイヤモンド層10の屈折率よりも低い。クラッド層22が、例えばBN層又はGaN層等であってもよい。クラッド層22の材料が、Al、B及びGaのうちの2種又は3種を含む混晶であってもよい。クラッド層22は第2クラッド層の一例である。
【0015】
金属層30は、クラッド層22にショットキー接触する。金属層30は、例えばクラッド層22を構成する窒化物半導体の電子親和力よりも仕事関数が大きい金属から構成される。金属層30の厚さは、例えば5nm程度である。金属層30は、例えばAu層である。金属層30が、Ag層又はCu層であってもよい。金属層30が、Al層であってもよい。
【0016】
ここで、第1実施形態に係る光導波路1の特性について説明する。図3は、第1実施形態に係る光導波路1においてクラッド層22がAlN層である場合のバンド構造を示す図である。図3は、1次元ポアソンシミュレーションの結果を示す。このシミュレーションにおいて、雰囲気温度は5Kであり、支持基板21はサファイア基板であり、ダイヤモンド層10の厚さは250nmであり、クラッド層22は、厚さが100nmのAlNであり、金属層30は、厚さが5nmのAu層である。また、複合欠陥はNVセンターである。図3中の横軸は、金属層30とクラッド層22との界面を基準とした深さ方向の位置を示し、縦軸は、電荷分布が形成する電子のポテンシャルエネルギを示す。
【0017】
図3に示すように、金属層30とクラッド層22とのショットキー接触により、バイアスがない状態、つまり0バイアスの状態において厚さ方向でクラッド層22のほぼ全体が空乏化する。このことは、クラッド層22を構成するAlNのバンドギャップが6.4eVと大きく、設定温度である5Kでは十分な熱電子を放出可能な欠陥準位が存在しないため、ショットキー接触により厚さ方向でクラッド層22のほぼ全体が空乏化することを示す。
【0018】
また、クラッド層22は厚さ方向に極性を有し、クラッド層22は、例えば金属層30側からダイヤモンド層10側に配向する自発分極を有する。従って、クラッド層22は、自身の自発分極に起因する分極電荷(σ)を含む。このため、クラッド層22とダイヤモンド層10との間の界面に、電荷中性条件を満たすために相当量の負電荷が誘起される必要があるが、ダイヤモンドのバンドギャップも5.4eVと大きく、5Kでは単独でクラッド層22の分極電荷(σ)を補償する熱電子が不足する。このため、ダイヤモンド層10の第2面12の近傍に負の固定電荷(σ)が誘起される。負の固定電荷の密度は、例えば1012/cmである。
【0019】
更に、クラッド層22とダイヤモンド層10との界面でのバンドオフセットが小さいため、ダイヤモンド層10のフェルミエネルギが厚さ方向のほぼ全体にわたって色中心13の活性化エネルギ(-2.58eV)より高い。このため、色中心13が負に帯電しやすい状態が形成される。
【0020】
このような第1実施形態によれば、5K程度の極低温においても、色中心13が負に帯電した状態を維持しやすい。つまり、第1実施形態によれば、色中心13の荷電状態の安定性を向上することができる。
【0021】
次に、第1実施形態に係る光導波路1の製造方法について説明する。図4図9は、第1実施形態に係る光導波路1の製造方法を示す断面図である。
【0022】
まず、図4に示すように、ダイヤモンド基板41を準備し、ダイヤモンド基板41の上にダイヤモンド層10を形成する。ダイヤモンド基板41としては、例えば窒素濃度が5ppb未満のIIa型ダイヤモンド基板を用いる。ダイヤモンド層10は、例えば化学気相成長(chemical vapor deposition:CVD)法により形成することができる。
【0023】
ダイヤモンド層10の形成途中で一時的に不純物原子を含むガスを原料ガスに添加することにより、所望の深さに色中心13を形成する。色中心13としてNVセンターを形成する場合、例えばNHガスを一時的に添加する。このようにして、in-situで色中心13を形成することができる。
【0024】
次いで、図5に示すように、例えば集束イオンビーム(focused ion beam:FIB)を用いてダイヤモンド層10を光導波路のコア層の形状に加工する。
【0025】
その後、図6に示すように、ダイヤモンド層10の上にクラッド層22を形成する。クラッド層22は、例えば有機金属気相成長(metal organic chemical vapor deposition:MOCVD)法により形成することができる。クラッド層22は、ダイヤモンド層10の第2面12を覆うように形成される。クラッド層22がダイヤモンド層10の側面を覆ってもよい。クラッド層22がダイヤモンド基板41の上にも形成されてよい。
【0026】
続いて、図7に示すように、クラッド層22の上面に転写基板42を貼り付ける。次いで、研削により、ダイヤモンド基板41を除去する。
【0027】
その後、図8に示すように、ダイヤモンド層10を支持基板21に接合する。ダイヤモンド層10の第1面11が支持基板21に接する。続いて、転写基板42を除去する。
【0028】
次いで、図9に示すように、クラッド層22の上に金属層30を形成する。金属層30の形成では、例えば、フォトリソグラフィ技術によって金属層30の形成予定領域に開口部を有するレジスト膜を形成し、このレジスト膜を成長マスクとして蒸着法によりAu層を形成し、このレジスト膜をその上のAu層と共に除去する。すなわち、蒸着及びリフトオフにより金属層30を形成することができる。
【0029】
このようにして、第1実施形態に係る光導波路1を製造することができる。
【0030】
なお、ダイヤモンド基板41にイオン注入等により色中心13を形成し、ダイヤモンド基板41を光導波路のコア層の形状に加工してダイヤモンド層10としてもよい。
【0031】
上記のように、クラッド層22はGaN層又はBN層であってもよい。図10は、第1実施形態に係る光導波路1においてクラッド層22がGaN層である場合のバンド構造を示す図である。図11は、第1実施形態に係る光導波路1においてクラッド層22がBN層である場合のバンド構造を示す図である。
【0032】
図10に示すように、クラッド層22がGaN層である場合も、バイアスがない状態でクラッド層22のほぼ全体が空乏化し、ダイヤモンド層10の第2面12の近傍に負の固定電荷が誘起され、色中心13が負に帯電しやすい状態が形成される。同様に、図11に示すように、クラッド層22がBN層である場合も、バイアスがない状態でクラッド層22のほぼ全体が空乏化し、ダイヤモンド層10の第2面12の近傍に負の固定電荷が誘起され、色中心13が負に帯電しやすい状態が形成される。
【0033】
光導波路1には、支持基板21を通じて光を照射してもよく、金属層30及びクラッド層22を通じて光を照射してもよく、ダイヤモンド層10に直接的に光を照射してもよい。ここで、Au層における光の波長と透過率との関係について説明する。図12は、種々の厚さのAu層における光の波長と透過率との関係を示す図である。図12中の横軸は、照射される光の波長を示し、縦軸は、透過率を示す。
【0034】
光導波路1を用いて伝搬する光の波長が520nm~740nmである場合、図12に示すように、Au層の厚さが10nm以下であれば、60%以上の透過率が得られる。従って、金属層30に用いられるAu層の厚さは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。例えば、Au層の厚さが5nmの場合、波長が650nmの光については80%程度の透過率が得られる。
【0035】
上記のように、金属層30はAg層、Cu層又はAl層であってもよい。ここで、金属層30の材料と透過率との関係について説明する。図13は、種々の金属層における光の波長と透過率との関係を示す図である。図13中の横軸は、照射される光の波長を示し、縦軸は、透過率を示す。なお、各金属層の厚さは5nmである。
【0036】
光導波路1を用いて伝搬する光の波長が520nm~740nmである場合、図13に示すように、Au層、Ag層又はCu層では、70%以上の透過率が得られる。一方、Al層では、透過率が40%以下である。従って、金属層30及びクラッド層22を通じてダイヤモンド層10に光を照射する場合には、金属層30は、Au層、Ag層又はCu層であることが好ましい。
【0037】
次に、第1実施形態に係る光導波路1における0次の横モードの伝搬特性のコア径依存性について説明する。図14図16は、ダイヤモンド層10の長手方向に垂直な断面における0次の横モードでの伝搬光の強度の分布を示す図である。図14は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが500nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図15は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが250nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図16は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが150nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図14図16中の横軸は、ダイヤモンド層10の中心を基準とした、第1面11に平行な方向(幅方向)における位置を示し、縦軸は、ダイヤモンド層10の中心を基準とした、第1面11に垂直な方向(厚さ方向)における位置を示す。この計算では、光として、ガウシアンの強度分布を持つ連続波であって、光導波路1の断面に対して垂直な方向に波数ベクトルを持つ進行波を想定している。
【0038】
図14図16に示すように、いずれの場合でも、コアとして機能するダイヤモンド層10内での単一モード伝搬が実現される。ただし、一辺の長さが150nm未満となると、支持基板21側への漏れ電磁場(エバネッセント場)が顕著となって伝搬ロスが生じるおそれがある。このため、ダイヤモンド層10の断面形状が正方形である場合、一辺の長さは150nm以上であることが好ましく、一般的には、短径が150nm以上であることが好ましい。
【0039】
次に、第1実施形態に係る光導波路1における高次モード(1次モード)の伝搬特性のコア径依存性について説明する。図17図19は、ダイヤモンド層10の長手方向に垂直な断面における1次モードでの伝搬光の強度の分布を示す図である。図17は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが250nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図18は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが200nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図19は、ダイヤモンド層10の断面形状が、一辺の長さが150nmの場合の伝搬光の強度の分布を示す。図17図19中の横軸は、ダイヤモンド層10の中心を基準とした、第1面11に平行な方向(幅方向)における位置を示し、縦軸は、ダイヤモンド層10の中心を基準とした、第1面11に垂直な方向(厚さ方向)における位置を示す。この計算では、光として、ガウシアンの強度分布を持つ連続波であって、光導波路1の断面に対して垂直な方向に波数ベクトルを持つ進行波を想定している。
【0040】
図17図19に示すように、一辺の長さが250nm超であると、高次モードによる導波路伝搬が無視できなくなるおそれがある。このため、ダイヤモンド層10の断面形状が正方形である場合、一辺の長さは250nm以下であることが好ましく、一般的には、短径が250nm以下であることが好ましい。
【0041】
以上から、ダイヤモンド層10の長手方向に垂直な断面における短径は、好ましくは150nm以上250nm以下であり、より好ましくは170nm以上230nm以下である。
【0042】
なお、金属層30は、クラッド層22の上面の全体を覆う必要はない。金属層30は、第2面12に垂直な方向からの平面視で、少なくとも色中心13と重なっていることが好ましい。
【0043】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に係る光導波路1を含む量子演算装置に関する。図20は、第2実施形態に係る量子演算装置を示すブロックである。
【0044】
図20に示すように、第2実施形態に係る量子演算装置2は、複数の光導波路1を有する。量子演算装置2は、演算部51と、Heクライオスタット52と、ビームスプリッタ53と、第1単一光子検出器54Aと、第2単一光子検出器54Bと、比較器55と、A/D(アナログ/デジタル)コンバータ56とを有する。量子演算装置2は、複数の制御系61と、複数の光導波路62とを有する。
【0045】
Heクライオスタット52は、複数の光導波路1を収容し、複数の光導波路1の温度を極低温に冷却する。制御系61は、量子ビットを構成する1つの色中心13ごとに設けられており、色中心13への磁場、電場、マイクロ波、レーザ光等を印加する。例えば、磁場及び電場は色中心13の固有エネルギの調整(状態読出用光子の周波数の調整)に用いられ、マイクロ波は色中心13の量子状態の制御に用いられ、レーザ光は状態読出(単一光子の発生)に用いられる。光導波路62は、各光導波路1に対し、任意の2経路がビームスプリッタ53で対向入射するように設置される。各光導波路62は色中心13からビームスプリッタ53までの光路長がほぼ等しくなるように構成される。
【0046】
ビームスプリッタ53は、入射した光を分岐し、それぞれ第1単一光子検出器54A、第2単一光子検出器54Bに出力する。第1単一光子検出器54A及び第2単一光子検出器54Bは、ビームスプリッタ53が出力した光から単一光子を検出する。比較器55は、第1単一光子検出器54Aにおける単一光子の検出信号と第2単一光子検出器54Bにおける単一光子の検出信号とを比較する。例えば、比較器55は、第1単一光子検出器54A、第2単一光子検出器54Bのどちらでどの順に検出されたかを特定する。演算部51は、比較器55からの出力を解析する。A/Dコンバータ56は、演算部51から出力されるアナログの制御信号をデジタル信号に変換し、各制御系61に出力する。
【0047】
量子演算装置2は光導波路1を含み、色中心13が量子ビットとして用いられる。このため、極低温においても色中心13の荷電状態が安定しており、解析結果に優れた信頼性を得ることができる。
【0048】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:光導波路
2:量子演算装置
10:ダイヤモンド層
13:色中心
21:支持基板
22:クラッド層
30:金属層
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