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特許7586338走査型プローブ顕微鏡、情報処理方法、およびプログラム
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  • 特許-走査型プローブ顕微鏡、情報処理方法、およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01Q 30/04 20100101AFI20241112BHJP
   G01Q 60/24 20100101ALI20241112BHJP
【FI】
G01Q30/04
G01Q60/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023551045
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022013771
(87)【国際公開番号】W WO2023053527
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2021158204
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】森口 志穂
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/183652(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/092712(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110426335(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
G01N 15/00 - 15/1492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針を備えたカンチレバーを粒子を含む試料に沿って走査することにより得られた観察信号を出力する観察装置と、
情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、
前記観察信号を取得し、
前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成し、
観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数し、
計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了し、
生成された観察画像に対して解処理を実行する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記情報処理装置は、
前記閾値をユーザから受付け、
ユーザから受付けた前記閾値を記憶部に設定する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記情報処理装置は、前記観察信号の取得を終了したことに応答して、観察を終了させるための終了信号を前記観察装置に送信する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記情報処理装置により制御される表示装置をさらに備え、
前記情報処理装置は、
生成された観察画像を前記表示装置に表示し、
前記表示装置が表示している観察画像のうちユーザに選択された観察画像に対して解処理を実行する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
探針を備えたカンチレバーを粒子を含む試料に沿って走査することにより得られた観察信号を出力する観察装置と通信可能な情報処理装置による情報処理方法であって、
前記観察信号を取得するステップと、
前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成するステップと、
観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数するステップと、
計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了するステップと、
生成された観察画像に対して解処理を実行するステップとを備える、情報処理方法。
【請求項6】
探針を備えたカンチレバーを粒子を含む試料に沿って走査することにより得られた観察信号を出力する観察装置と通信可能なコンピュータに、
前記観察信号を取得するステップと、
前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成するステップと、
観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数するステップと、
計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了するステップと、
生成された観察画像に対して解処理を実行するステップとを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-275159号公報(特許文献1)には、カンチレバーの先端に探針を設ける観察装置と、情報処理装置と、表示装置とを備える走査型プローブ顕微鏡が開示される。観察装置は、試料に対して探針を接近させるとともに、探針をX軸方向およびY軸方向に走査させることにより試料表面の情報を生成し、該情報を情報処理装置に送信する。情報処理装置は、この情報に基づいて画像データを生成し、該画像データに対応する観察画像(試料表面の観察画像)を表示装置に表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-275159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の観察装置が、粒子を含む試料を観察することにより画像データを生成し、該画像データに基づいて、粒子画像を含む観察画像を表示するとともに、該画像データに対して粒子解析を行う場合がある。探針の走査範囲は、試料の移動装置(スキャナ)の動作可能範囲によって制限されているため、試料の観察範囲がこの走査範囲を超える場合には、該観察範囲をN(Nは2以上の整数)個の領域に分けて試料Sの観察が行なわれる場合がある。この構成においては、観察装置が1つの領域の観察を終了する度に、観察装置が当該領域に対応する観察信号を情報処理装置に出力する。そして、情報処理装置は、該観察信号を取得する度に該観察信号に対応する画像データを生成することにより、分割された領域に対応するN個の画像データを生成し、該N個の画像データに対して粒子解析を実行する。この場合、情報処理装置が粒子解析に必要なデータ数以上に画像データを取得している可能性があり、粒子解析が完了するまでの時間が多大になるという問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、解析精度を維持しながら、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従う走査型プローブ顕微鏡は、粒子を含む試料を観察することにより得られた観察信号を出力する観察装置と、情報処理装置とを備える。情報処理装置は、観察信号を取得し、観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成し、観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数し、計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、観察信号の取得を終了する。そして、情報処理装置は、生成された観察画像に対して粒子解析を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、分割された観察領域毎に計数された粒子の画像の合計数が設定された閾値より大きくなった場合に観察信号の取得を終了し、該観察信号に基づいて生成された観察画像に対して粒子解析が実行される。したがって、本開示の技術によれば、粒子解析の精度を維持しながら、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示す図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】情報処理装置の機能ブロック図の一例である。
図4】粒子画像の上限値の設定画面の一例である。
図5】情報処理装置で実行されるフローチャートの一例である。
図6】観察画像の一覧画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分に同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0010】
[走査型プローブ顕微鏡の構成]
図1は、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示す図である。実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、プローブ(探針)と試料Sの表面との間に働く原子間力(引力または斥力)を利用して試料Sを観察する原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)である。
【0011】
図1を参照して、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、主たる構成要素として、観察装置80と、情報処理装置20と、表示装置26と、入力装置28とを備える。観察装置80は、主たる構成要素として、光学系1と、カンチレバー2と、スキャナ10と、試料保持部12と、駆動部16とを備える。
【0012】
スキャナ10は円筒形状を有し、試料Sと探針3との相対的な位置関係を変化させるための移動装置である。試料Sが、スキャナ10上に載置された試料保持部12の上に保持される。スキャナ10は、試料Sを互いに直交するX、Yの2軸方向に走査するXYスキャナと、試料SをX軸およびY軸に対して直交するZ軸方向に微動させるZスキャナとを有する。XYスキャナおよびZスキャナは、駆動部16から印加される電圧によって変形する圧電素子により構成されており、該圧電素子に印加される電圧に従って、スキャナ10は、3次元方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に走査する。これにより、スキャナ10に載置された試料Sと探針3との間の相対的な位置関係を変化させることができる。
【0013】
カンチレバー2は、試料Sと対向する表面と、表面と反対側の背面とを有しており、ホルダ4によって支持されている。カンチレバー2は、自由端である先端部の表面に探針3を有する。探針3は試料Sに対向して配置される。探針3と試料Sとの間に働く原子間力によって、カンチレバー2がZ軸方向に変位する。
【0014】
カンチレバー2の上方には、カンチレバー2のZ軸方向の変位を検出するための光学系1が設けられている。光学系1は、試料Sの観察時に、レーザ光をカンチレバー2の背面に照射し、カンチレバー2の背面で反射されたレーザ光を検出する。光学系1は、レーザ光源6と、ビームスプリッタ5と、反射鏡7と、光検出器8とを有する。
【0015】
レーザ光源6は、レーザ光を発射するレーザ発振器を有する。光検出器8は、入射されるレーザ光を検出するフォトダイオードを有する。レーザ光源6から発射されたレーザ光LAは、ビームスプリッタ5で反射され、カンチレバー2の背面に照射される。
【0016】
カンチレバー2の背面は鏡面となっており、該背面は光学系1から照射されたレーザ光を反射することができる。カンチレバー2の背面で反射されたレーザ光は、さらに反射鏡7によって反射されて光検出器8に入射する。光検出器8にてレーザ光を検出することにより、カンチレバー2の変位を検出することができる。
【0017】
具体的には、光検出器8は、カンチレバー2の変位方向(Z軸方向)に複数(通常2つ)に分割された受光面を有する。あるいは、光検出器8は、Z軸方向およびY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー2がZ軸方向に変位すると、これら複数の受光面に照射される光量の割合が変化する。光検出器8は、その複数の受光光量に応じた検出信号を情報処理装置20に出力する。検出信号は、本開示の「観察信号」に対応する。
【0018】
情報処理装置20は、光学系1、駆動部16、表示装置26,および入力装置28と通信可能に接続される。情報処理装置20は、所定の観察領域にわたって光検出器8から出力される検出信号に基づいて画像データを生成する。走査型プローブ顕微鏡100によって、粒子を含む試料Sを観察する場合、粒子が球形状と仮定すると、カンチレバー2のZ軸方向の変位量(撓み量)は粒子の径を示すことになる。
【0019】
情報処理装置20は、生成された画像データに基づいて、表示装置26に観察画像を表示する。観察画像は、試料Sの表面を示す画像である。また、情報処理装置20は、スキャナ10を3次元方向に駆動するように、駆動部16を制御する。
【0020】
XYスキャナにおけるX軸方向およびY軸方向の走査範囲は、圧電素子の動作可能範囲によって制限される。したがって、試料Sの観察範囲がこの走査範囲を超える場合には、走査型プローブ顕微鏡100は、該観察範囲をN(Nは2以上の整数)個の領域に分けて試料Sを観察する。走査型プローブ顕微鏡100が、N個の領域分けて試料Sを観察する場合には、観察装置80は、各領域の観察の各々によって得られるN個の領域に対応する検出信号を情報処理装置20に出力する。情報処理装置20は、N個の領域の各々についての検出信号に基づいて、N個の画像データを生成する。情報処理装置20は、N個の画像データに対応する観察画像を、液晶パネルなどにより構成される表示装置26に一覧表示する。以下では、観察画像に含まれる各粒子の画像を「粒子画像(後述の図6の粒子画像271参照)」という。
【0021】
入力装置28は、ユーザの入力操作を受け付ける。入力装置28は、ユーザの操作内容に応じた信号を情報処理装置20へ出力する。入力装置28は、表示装置26上に設けられたタッチパネルであってもよいし、専用の操作ボタン、マウスまたはキーボードなどの物理操作キーであってもよい。
【0022】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。情報処理装置20は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)160と、ROM(Read Only Memory)162と、RAM(Random Access Memory)164と、HDD(Hard Disk Drive)166と、通信I/F(Interface)168と、表示I/F170と、入力I/F172とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。なお、情報処理装置20のハードウェア構成のうち少なくとも一部分は、観察装置80の内部にあってもよい。あるいは、情報処理装置20は、走査型プローブ顕微鏡100とは別体として構成し、走査型プローブ顕微鏡100との間で双方向に通信を行なうように構成してもよい。
【0023】
通信I/F168は、観察装置80と通信するためのインターフェースである。表示I/F170は、表示装置26と通信するためのインターフェースである。入力I/F170は、入力装置28と通信するためのインターフェースである。
【0024】
ROM162は、CPU160にて実行されるプログラムを格納する。RAM164は、CPU160におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F168を経由して入力されたデータを一時的に格納することができる。RAM164は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能できる。HDD166は、不揮発性の記憶装置である。また、HDD166に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0025】
また、ROM162に格納されているプログラムは、記録媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプログラムプロダクトとして提供されてもよい。情報処理装置20は、記録媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。情報処理装置20は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(たとえば、ROM162)に記憶する。CPU160は、該記憶されたプログラムを実行することにより上述の表示処理を実行する。
【0026】
記録媒体は、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、CD-ROM(compact disc read-only memory)、FD(Flexible Disk)、ハードディスクに限られず、磁気テープ、カセットテープ、光ディスク(MO(Magnetic Optical Disc)/MD(Mini Disc)/DVD(Digital Versatile Disc))、光カード、マスクROM、EPROM(Electronically Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュROMなどの半導体メモリなどの固定的にプログラムを担持する媒体としてもよい。また、記録媒体は、プログラムなどをコンピュータが読取可能な非一時的な媒体である。
【0027】
[情報処理装置の処理]
図3は、情報処理装置20の機能ブロック図の一例である。情報処理装置20は、第1入力部302と、生成部304と、処理部306と、第2入力部310と、記憶部312とを含む。
【0028】
第1入力部302は、光検出器8からの検出信号の入力を受け、該検出信号を生成部304に出力する。生成部304は、検出信号に基づいて画像データを生成し、該画像データを処理部306に出力する。処理部306は、画像データに基づいて、表示装置26に観察画像を表示する。また、走査型プローブ顕微鏡100が、N回に分けて試料Sを観察する場合には、処理部306は、分割されたN個の観察領域の各々に対応するN個の観察画像の一覧を表示装置26に表示する。なお、観察範囲の分割数Nはユーザにより設定されてもよいし、情報処理装置20により自動で設定されてもよい。
【0029】
処理部306は、試料Sの画像データに対して所定の解析処理を実行する。所定の解析処理は、粒子解析を含む。粒子解析は、たとえば、観察画像に含まれる粒子画像を計数する処理(以下、「計数処理」とも称する)を含む。また、粒子解析は、たとえば、試料Sの全ての観察画像に含まれる粒子の粒子径と、該粒子径を有する粒子の粒子画像の数との関係を示すヒストグラムのデータを生成する処理を含む。粒子解析は、上記以外の他の処理を含んでもよい。ユーザは、情報処理装置20に実行させる粒子解析を選択することができる。
【0030】
ユーザは、表示装置26に表示されたN個の観察画像のうち、解析処理の対象となる観察画像を選択することができる。ユーザは、表示装置26に表示された観察画像の一覧を見ながら、解析処理の対象となる観察画像を入力装置28を用いて選択する。第2入力部310は、ユーザにより入力装置28から入力された入力情報を受ける。この入力情報は、ユーザにより選択された観察画像を示す情報である。入力情報は、記憶部312に一旦記憶される。処理部306は、入力情報により示される観察画像(つまり、ユーザにより選択された観察画像)の画像データに対して解析処理を実行する。このような構成により、ユーザはユーザ自身が選択した観察画像に対する解析処理を情報処理装置20に実行させることができる。
【0031】
ところで、試料Sについて単位面積当たりの粒子数が、該試料Sの仕様等の観点から、ある程度定まっている場合がある。この場合には、ユーザは、粒子解析に必要な粒子画像のおおよその数(以下、「必要数」とも称する。)を推定できる。このような試料Sは、たとえば、研磨剤である。以下では、走査型プローブ顕微鏡100が研磨剤を観察した場合を説明する。
【0032】
従来の走査型プローブ顕微鏡では、情報処理装置が該必要数を超える画像データを生成した後であっても、生成された画像データに含まれる粒子画像の数が粒子解析に必要となる数に到達した後でも、予め取得予定の観察領域(すなわち、N個の観察領域)のすべてに対する観察が完了するまで観察が継続されていた。粒子解析は、走査型プローブ顕微鏡におけるすべての観察が完了してから実行されるため、情報処理装置は、粒子解析に必要なデータ数以上に画像データを取得している可能性があり、結果として粒子解析が完了するまでの時間が多大となるという問題が生じる場合があった。
【0033】
このような課題に対応して、ユーザが、情報処理装置により生成される画像データの上限値を設定する構成が考えられる。しかしながら、この構成では、情報処理装置が該必要数を超える粒子画像を生成した後であっても、ユーザにより設定された画像データの上限値に到達するまで、情報処理装置は検出信号を取得し続ける。また、生成された画像データに対応する観察画像に極端に少ない粒子画像が含まれている場合などには、情報処理装置により生成された画像データの数が上限値に到達したときにおいて、粒子解析に必要な粒子画像の数が収集されていないにも関わらず、情報処理装置は検出信号の取得処理を終了してしまう。その結果、情報処理装置は、粒子解析を精度よく行うことができないという問題が生じ得る。
【0034】
そこで、本実施の形態の走査型プローブ顕微鏡100においては、ユーザが、粒子解析に必要な粒子画像の数の上限値を設定可能となるように構成されている。そして、情報処理装置20は、生成した画像データの各々に対応する観察画像に含まれる粒子画像の数の合計値が上限値よりも大きくなった場合に検出信号の取得を終了する。これにより、解析精度を担保できる粒子画像数を取得することができ、さらに必要以上の数の粒子画像を取得することが抑制されて粒子解析が速やかに開始されるため、解析精度を維持しつつ粒子解析が完了するまでの時間を短縮することができる。
【0035】
図4は、ユーザが、粒子画像の合計数の上限値を設定するための設定画面の一例である。図4の設定画面は、ユーザが入力装置28に対して、設定画面を表示させるための所定操作を実行したときに、表示装置26の表示領域26Aに表示される。
【0036】
図4を参照して、設定画面は、入力領域234と決定ボタン236とを含む。また、ユーザは、入力装置28を用いて、入力領域234に、粒子画像の合計数の上限値を入力する。上限値が入力された後に、ユーザにより決定ボタン236が操作されると、第2入力部310は、この上限値の入力を受けるとともに、受け付けた上限値を記憶部312に記憶させる。このように、ユーザによって所望の上限値を設定できる。図4の例では、上限値として7000が設定された例が示されている。
【0037】
[情報処理装置のフローチャート]
図5は、情報処理装置20のフローチャートの一例である。図5の処理は、たとえば、走査型プローブ顕微鏡100に対して所定の開始操作がユーザにより実行されたときに開始される。図5を参照して、ステップS2において、情報処理装置20は、観察装置80の光検出器8から1つの観察領域に対応する検出信号を取得したか否かを判断する。情報処理装置20は、検出信号を取得するまで、ステップS2の処理を繰り返す。ステップS4において、情報処理装置20の生成部304は、取得された検出信号に基づいて画像データを生成する。
【0038】
次に、ステップS6において、処理部306は、生成された画像データに対応する観察画像に含まれる粒子画像を計数する。そして、処理部306は、計数された粒子画像数ΔMを、粒子画像数の合計値Mに加算することにより、合計値Mを更新する(M=M+ΔM)。更新された合計値Mは、記憶部312に記憶される。
【0039】
次に、ステップS8において、情報処理装置20の処理部306は、粒子画像の合計数Mが、ユーザによって設定された上限値より大きいか否かを判断する。処理部306は、粒子画像の合計数Mが上限値以下である場合には(ステップS8でNO)、処理はステップS2に戻される。その後、ステップS2~ステップS6の処理が繰り返し実行されることにより合計値Mは増加し更新される。
【0040】
ステップS8において、粒子画像の合計数Mが、上限値を上回った場合には(ステップS8でYES)、処理はステップS10に進められる。ステップS10において、情報処理装置20は、観察装置80から出力される検出信号の取得を終了する。また、ステップS10において、情報処理装置20は、観察装置80の観察処理を終了させるための終了信号を、観察装置80に送信する。終了信号を受信すると、観察装置80は観察処理を終了する。
【0041】
次に、ステップS12において、処理部306は、生成された観察画像を表示装置26に表示する。図6は、図5のステップS12により表示される一覧画面の一例である。図6の例での一覧画面では、8個の観察画像270が表示されている。観察画像270の各々には、1以上の粒子画像271が含まれる。8個の観察画像270の各々に対応づけて、チェックボックス272と、粒子画像数の表示領域274とが表示される。その他、選択ボタン262と、解除ボタン264と、粒径算出ボタン266と、終了ボタン276とが表示される。
【0042】
表示領域274には、該表示領域274に対応する該観察画像に含まれる粒子画像の数が表示される。図6の例では、粒子画像の数が2000である1個の観察画像と、粒子画像の数が800である7個の観察画像とが表示されている。
【0043】
ユーザは、チェックボックス272をクリックすることにより、該チェックボックス272内のチェック280の表示および非表示を切換えることができる。
【0044】
粒径算出ボタン266が操作されると、図5のステップS14において、処理部306は、チェック280が表示された観察画像に対応する画像データに対して解析処理(図6の例では、粒子径の算出)を実行する。一方、処理部306は、チェック280が表示されていない観察画像に対応する画像データに対しては解析処理を実行しない。
【0045】
また、選択ボタン262が操作されると、全てのチェックボックス272にチェック280が一括で表示される。また、解除ボタン264が操作されると、適切な観察画像についての全てのチェックボックス272に表示されていたチェック280が一括で非表示となる。このように、チェック280を一括で表示または非表示にすることができることから、ユーザの利便性を向上させることができる。また、終了ボタン276が操作されると、一覧画面は他の画面(たとえば、ホーム画面)に遷移される。
【0046】
図5のステップS8、ステップS10などに示すように、走査型プローブ顕微鏡100は、粒子画像の合計数が上限値より大きくなった場合に、検出信号の取得を終了する。処理部306は、該取得した検出信号に基づいて生成された画像データに対して粒子解析を実行する。したがって、本実施の形態の走査型プローブ顕微鏡100では、たとえば、すべての観察領域の観察を実行する場合と比較して、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる。また、走査型プローブ顕微鏡100では、粒子画像の合計数が上限値より大きいことがら、粒子解析に必要な数の粒子画像が収集されていることから、粒子解析の精度を担保することができる。
【0047】
図5のステップS10に示すように、情報処理装置20は、検出信号の取得を終了したときには、終了信号を観察装置80に送信する。観察装置80は、終了信号を受信すると、観察処理を終了する。したがって、情報処理装置20は、不必要な観察処理を観察装置80に実行させることを防止できる。
【0048】
また、図6に示すように、表示装置26は、ユーザにより選択可能となるように観察画像の一覧を表示する。したがって、ユーザが所望した観察画像の画像データに対して粒子解析を実行することができるので、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0049】
[その他の実施形態]
(1) 上述の実施の形態では、粒子画像の数の上限値が設定される構成を説明した。しかしながら、粒子画像の数の下限値が設定される構成が採用されてもよい。この構成では、図5のステップS8の上限値が「下限値」に代替される。なお、上述の上限値または下限値が、本開示の「閾値」に対応する。
【0050】
(2) 上述の実施の形態では、ユーザが閾値(上限値または下限値)を設定する構成を説明した(図4など参照)。しかしながら、情報処理装置20の処理部306が、自動で閾値を設定するようにしてもよい。たとえば、複数の試料Sの各々に試料ID(identification)が付されており、当該試料IDごとに予め閾値が対応付けて記憶されているような場合には、ユーザが入力装置28を用いて試料IDを入力することによって、情報処理装置20は、該入力された試料IDに対応する閾値を自動的に設定する。このような構成によれば、ユーザによる閾値の設定の負担を軽減できる。
【0051】
(3) 上述の実施の形態では、情報処理装置20は、表示装置26に観察画像の一覧を表示し、ユーザに粒子解析の対象となる観察画像を選択させる構成を説明した。しかしながら、情報処理装置20は、観察画像の一覧を表示せずに、生成した画像データに対する解析処理を実行するようにしてもよい。
【0052】
(4) 上述の実施の形態では、本実施の形態の思想が走査型プローブ顕微鏡に採用された構成を説明した。しかしながら、本実施の形態の思想は、走査型プローブ顕微鏡以外の顕微鏡(たとえば、走査型共焦点レーザー顕微鏡)に採用されてもよい。
【0053】
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1項)一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、粒子を含む試料を観察することにより得られた観察信号を出力する観察装置と、情報処理装置とを備え、前記情報処理装置は、前記観察信号を取得し、前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成し、観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数し、計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了し、生成された観察画像に対して粒子解析を実行する。
【0055】
第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、分割された観察領域毎に計数された粒子の画像の合計数が設定された閾値より大きくなった場合に観察信号の取得を終了し、該観察信号に基づいて生成された観察画像に対して粒子解析が実行される。したがって、本開示の技術によれば、粒子解析の精度を維持しながら、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる。
【0056】
(第2項)第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、前記情報処理装置は、前記閾値をユーザから受付け、ユーザから受付けた前記閾値を記憶部に設定する。
【0057】
第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、ユーザは、閾値を設定することができる。したがって、ユーザが所望した閾値が反映された粒子解析を、情報処理装置に実行させることができる。
【0058】
(第3項)第1項または第2項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、前記情報処理装置は、前記観察信号の取得を終了したことに応答して、観察を終了させるための終了信号を前記観察装置に送信する。
【0059】
第3項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、不必要な観察処理を観察装置に実行させることを防止できる。
【0060】
(第4項)前記情報処理装置により制御される表示装置をさらに備え、前記情報処理装置は、生成された観察画像を前記表示装置に表示し、前記表示装置が表示している観察画像のうちユーザに選択された観察画像に対して前記粒子解析を実行する。
【0061】
第4項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、不必要な観察処理を観察装置に実行させることを防止できる。ユーザ所望した観察画像に対して粒子解析を実行することから、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0062】
(第5項)一態様に係る制御方法は、粒子を含む試料を観察することにより得られた観察信号を出力する観察装置と通信可能な情報処理装置を制御する制御方法であって、前記観察信号を取得するステップと、前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成するステップと、観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数するステップと、計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了するステップと、生成された観察画像に対して粒子解析を実行するステップとを備える。
【0063】
第5項に記載の制御方法によれば、分割された観察領域毎に計数された粒子の画像の合計数が設定された閾値より大きくなった場合に観察信号の取得を終了し、該観察信号に基づいて生成された観察画像に対して粒子解析が実行される。したがって、本開示の技術によれば、粒子解析の精度を維持しながら、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる。
【0064】
(第6項)一態様に係るプログラムは、粒子を含む試料を観察することにより得られた観察信号を出力する観察装置と通信可能なコンピュータに、前記観察信号を取得するステップと、前記観察装置の1の観察領域に対応する観察信号を取得する度に該観察信号に基づいて観察画像を生成するステップと、観察画像を生成する度に該観察画像に含まれる粒子の画像の数を計数するステップと、計数された粒子の画像の合計数が予め定められた閾値より大きくなった場合に、前記観察信号の取得を終了するステップと、生成された観察画像に対して粒子解析を実行するステップとを実行させる。
【0065】
第6項に記載のプログラムによれば、分割された観察領域毎に計数された粒子の画像の合計数が設定された閾値より大きくなった場合に観察信号の取得を終了し、該観察信号に基づいて生成された観察画像に対して粒子解析が実行される。したがって、本開示の技術によれば、粒子解析の精度を維持しながら、粒子解析が完了するまでの時間を短縮できる。
【0066】
今回開示された各実施の形態は、技術的に矛盾しない範囲で適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本実施の形態の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 光学系 2 カンチレバー、3 探針、4 ホルダ、5 ビームスプリッタ、6 レーザ光源、7 反射鏡、8 光検出器、10 スキャナ、12 試料保持部、16 駆動部、20 情報処理装置、26 表示装置、28 入力装置、80 観察装置、100 走査型プローブ顕微鏡、162 ROM、164 RAM、234 入力領域、236 決定ボタン、262 選択ボタン、264 解除ボタン、266 粒径算出ボタン、270 観察画像、271 粒子画像、272 チェックボックス、276 終了ボタン、280 チェック、302 第1入力部、304 生成部、306 処理部、310 第2入力部、312 記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6